初恋
その日のメイクに、
いつもより時間がかかったのは、
言うまでもない?
ついでに言うと、
自然と勝負パンツまで…
ってオイ!
笑
とにかく、
待ってた。
そう。
彼が来店するのを。
指名が入る度、
心臓がバクバクして、
席に案内される度、
その鼓動は消えてゆく。
激しい落胆と共に。
時計はもう、
0時を回った。
彼の姿は…
まだ何処にも無い。
常連の田辺チャンは、
そんなアタシをちゃんと観察している。
「どうしたの海チャン、
元気無いね~?」
こんな時、
いつもならきっと、
「そうなのよ~、
今日は全然現金が無くてさ~」
なんてつまんないシャレでも、
かましただろうに。
「え?そんなコトないよ~」
…なんだその返し。
鋭い常連なら、
きっとこう言ったハズだ。
苦笑
らしくない…。
完全に、
いつもの自分を見失ってるアタシ。
田辺チャンが鈍い客で、
助かったぜ。
笑
こんな自分に、
自分でも腹が立つ。
ムリにでも、
テンション上げなきゃ…
よし!
「シャンパン呑みたい!!」
始まったぞ。
いつものワガママ。
笑
そう。
アタシはいつでも勝手。
誰が相手でも、
物怖じなんてしない。
したいトキ、
したいコトをする。
言いたいトキ、
言いたいコトを言う。
男はいくら待たせても、
決してアタシは待たない。
アタシは、
そういう女。
そんなアタシが、
みんな大好き。
「しょうがないなぁ~」
オイオイ…
そんな嬉しそうな顔して、
一体何がしょうがないのか。
アタシに言われるがまま、
田辺チャンは、
ボーイに青リンゴをコールする。
しょうがないのは、
オマエだよ、
田辺チャン。
笑
グラスを差し出し、
「注いで!」
と、一言。
全く、
どっちが客だか、
わかりゃしない。
笑
田辺チャンが満たしたシャンパングラスは、
ものの数秒で空になる。
「入ってない~!!」
駄々をこねるアタシ。
子供か。
笑
「海チャン、ペース早いよ~」
「何~?説教か~?
フン!田辺チャンキライ~!」
ソッポ向くアタシ。
「ゴメンゴメンゴメン!
心配しただけだよ~、
ゴメンゴメンゴメン!」
何回謝ってんだ。
笑
「機嫌直して~、ね?ね?」
田辺チャンは、
困ったような嬉しそうな顔で、
またアタシのグラスを満たす。
そう。
男は、
そんな生き物。
別に、
バカにしてる訳じゃない。
歳は若くても、
アタシは16からこの世界にいる。
若いヒトからおじいちゃん、
お金持ちからそうでないヒト。
接した男は星の数…
なんて、
カッコ良すぎ?
笑
まあ、
男を見過ぎた。
早い話。
良い部分、
悪い部分、
表の顔、
裏の顔…
嫌なガキ?
バカねぇ~、
キャバ嬢なんて大体そんなもんだって。
笑
2度目の一気で、
一気に酔いが回り、
同時についつい本音も出る。
「あ~も~!!!!」
突然の叫びに、
驚く田辺チャン。
ゴメンね。
アナタにはわからないわ。
可哀想な田辺チャン。
ホント、
ゴメン。
笑
時は経ち、
テーブルには空になった瓶が3本。
店内には、
ラストソングが響き始める。
「海チャン、この後…」
「帰る!!」
誰が最後まで言わすかい!
笑
誤解しないでね。
アフターは基本断らないわ。
いつものアタシなら、
ね…
田辺チャンの、
寂しげな背中を見送り、
アタシは、
カナの元へ駆け寄った。
「ね、付き合ってよ!」
「はぁ?今日も?」
「いいじゃん~、
早く着替えてよ~」
「今日はダ~メ!」
「はぁ?何で?
あ!
男かオマエ!!」
「そう!
毎日毎日アンタにばっかりかまってらんないの!」
あっけなく、
フラれるアタシ。
「あっそ!
いいもん別に!バーカ!」
「うるせ酔っぱらい!
早く帰れ!」
「バカナ!!!!」
捨てゼリフを吐き、
中指を立てて、
笑
1人、
店を後にする。
「バーカ!
カナのバーカ!」
雪の歩道を、
ブツクサ言いながら、
右へ左へ、
ヨタヨタヨタヨタ。
完全な、
酔っぱらいだ。
笑
チラつく雪が今日はとても、
寂しげに感じるのは何故だろう。
仕方ない…
真っ直ぐ帰るか…
タクシーを拾う為、
手を挙げようとしたその時、
「待ちなよ!」
ああ…
あの時のカナの姿は、
神に見えたね。
笑
「まったくもう、
世話の焼ける!」
アハ。
ま~た文句言ってる。
笑
2コ上のカナは、
なんだかんだいつもアタシに、
優しかった。
「カナ~」
猫なで声で、
カナの腕に寄り添うと、
「離れろ酔っぱらい!」
そう怒鳴るが、
悪態をつきながらも、
決して振りほどこうとはしない。
そんなカナが、
大好きだ。
結局アタシは、
いつものバーに着くまでの間、
ずっとカナと、
腕を組んで歩いた。
カップルか。
笑
「で、何?
好きなの?」
やりおるな、コイツ。
まだ何も話してないのに、
のっけから右ストレートかよ。
笑
おかげでアタシは、
口をつけたばっかりのギムレットを、
勢いよく吹き出すハメに。
ドリフか。
苦笑
「汚ね!!」
カナが叫ぶ。
「ゲホッ!!あ~あ!
ってか、
カナが悪いんじゃん!
まだ何も言ってないのに、何なのいきなり!!」
そんなアタシを鼻で笑い、
マイタイを一口呑んで言った。
「話してんじゃん、昨日!」
え?
昨日…ですか?
「どうせ覚えてないんでしょ。
ベロベロだったからね~アンタ!
あ、今日もか!アハハハハ!」
…まったく、
ムカつく女だ。
笑
「言ってた?
好きだって?
アタシが?」
矢継ぎ早の質問ラッシュにも、
全く動じるコトなく、
バージニアに火を付け、
一呼吸置いてカナは言った。
「言ってないよ」
「は?」
「だから~、
言ってないって、
好きだとかは!」
???
「じゃあ何でそんなコト…」
「わかるよ!!!!」
アタシの言葉を遮って、
カナは強く、
言い放った。
「アンタね~、
何年付き合ってると思ってんの?
今まであんなに楽しそうに男の話、てか客の話?
したことある?」
…
突いてくるな~コイツ。
返す言葉が、
全くナイ。
「もっと知りたい~、
だの、
もっと話したい~、
だの、
ず~っと言ってたよ!
ミニにタコが出来る位ね!アハハハハ!」
…
自分ウケしてやがる。
まさかの田代まさし…
苦笑
つまんねえギャグまで、
織り込みながら更に続ける。
「そんだけ興味が湧いたってコトは、
好きなんじゃん?
今日だって、その話したかったから、
アタシに声かけたんでしょ!?
違う?」
何もかも、
お見通しってワケか。
まったく…
勝てねぇや、
コイツには。
「お代わり!」
空になったグラスを、
マスターへ差し出し、
マルメンに火を。
髪をかきあげ、
深く吸い込んだ煙を吐き出して、
「わかんない」
一言、
アタシは言った。
「だってまだ一度しか逢ってナイんだよ?
しかもたったの1時間!」
「関係ないじゃん、そんなの!
あのヒトともっと話したい、
あのヒトのコトもっと知りたい。
それって恋じゃん。
今日だって、
逢いたかったんでしょ?」
…。
図星過ぎて、
腹が立つ。
オマエ、
ホントは占い師だろ。
笑
「アンタ今まで自分から、
男を好きになったコトある?」
アタシは首を振る。
上下ではなく、
左右に。
正直言って可愛いアタシは、
笑
いつも告白される方。
自分から告白したことなど、
一度もナイ。
ましてやそれが、
一目惚れなんて、
お米の名前くらいにしか、
思っていなかった。
笑
「今まで感じたコトが無い気持ちだから、
自分で上手く受け入れられないんじゃない?」
カナ…
オマエ、
何者?
笑
2杯目のギムレットを空にして、
アタシは素直に言った。
「今日ね、昼間電話したの。
昨日言えなかった向日葵のお礼、
しようと思って。
でもその話する前にキャッチ入ってさ、
切られちゃった…」
「ふ~ん…」
「でもさ、
切られる前に、
聞かれたの。
今日店かって。
行くからなんて、言われてないのに、
逢えるかもって、
期待しちゃった。
バカみたいでしょ?
仕事中もずっと、
いつ来るか、
いつ来るかって、
そればっか気になって…」
「けど来なくて~、
寂しくなって~、
結局アタシかい!」
ニヤニヤしながら、
カナが口を挟む。
この野郎…
最後まで言わせろよ…
バカナめ。
笑
「教えてあげよう!
海!」
残っていたマイタイを一気して、
アタシの肩に手を回すカナ。
「それは恋。
てか、
そういうのが、
恋と言うのだよ」
…偉そうに。
まるで生徒と先生だ。
笑
「マスター!」
空になったグラスを手に、
カナが大声で呼ぶ。
「海と同じの、
2つちょうだい!」
そして半分程残っている、
アタシのグラスを指差し言った。
「ホラ!!早く開けなよ!!」
「あ、はい…」
カナの勢いに押され、
思わず敬語が出る。
笑
言われるがまま、
残ったギムレットを飲み干すと、
「はい!」
間髪入れず、
カナが代わりを差し出し言った。
「乾杯しよか。
23歳。
初めて芽生えた、
海の恋心に!」
また、
ニヤニヤしてる。
何だろう。
もの凄く、
恥ずかしい。
何だろう。
よくわかんないけど、
なんか腹立つ。
でも…
それ以上に、
なんか嬉しい…
何だろう。
この気持ち。
何だろう。
この感じ。
そっか…
きっとこれが…
恋なんだ…
「上手く言えないケドさ、
応援するよ。海」
カナの顔からいつの間にか、
緩みが消えてる。
…
「ありがとう」
素直に出た、
感謝の気持ち。
嬉しいけど、
少しだけ、
照れくさい。
「乾杯!」
そう言ってカナはグラスを、
アタシの前に差し出した。
…
「乾杯。」
なんだかアタシのグラスまで、
照れくさそうに見える。
キン!!
合わせた2つのグラスから、
甲高い、
けれど静かな、
音がした。
あの時、
アタシ達が奏でたあの音は、
6年の歳月が流れた今もまだ、
アタシの耳に、
確かに残っている。
ハッキリと。




