第三十五話 外伝・呪いの衣
バウマン 30歳 元ナラヤ宗教警察・隊長。
チグサ 16歳 この世界に転移して来た普通の女子高生。
転移特典で得た「反射」の呪文を使う。
マイラ 16歳 ダルーガ教と対立する、フーラ教徒が住むヤルケノ村の少女。
ボルク 23歳 マイラの兄 ヤルケノ村・防備隊長
その男の名をバウマンと言う。
若くしてダルーガの神学校を優秀な成績で出た彼は、ナラヤの治安防衛隊に就職。
宗教警察隊の隊長になった。
ナラヤは東部方面の重要な拠点であるため、この町の宗教警察で働くことは将来中央の要職に就くための布石となる。
バウマンは順調に出世し三十歳で隊長になった。
野心家の彼の思い通り、人生すべてがうまくいっていた。
そうあの日までは……。
その日、ナラヤで最もにぎわう市場通りに、奇妙な女が現れた。
まともな人間であれば、そんな場所に裸に近い格好で立てはしない。
白い衣装で手も足も根元に近い部分までさらしていた。
乳吞児ならともかく、婚姻前の若い女がそんな衣装を着るなど道徳的に許されない。
バウマンたちは街中で騒ぎになっているのを聞きつけ、駆け付けたのだった。
異国の女……。少しタウリンの人間にも似ていた。
確かにタウリンの踊り子は、そのような姿で踊ることはあるようだが、それは屋内だ。
であれば、悪魔に魂を売った魔女かもしれない。
ボホーラ法ではすぐに捕まえて罰し、魂を洗浄した後、ダルーガの信徒で何番目かの嫁を求める者に送り届けることになっている。
バウマンは慎重に仲間の隊員と共に近付き、穏便に懲戒棒で制圧して、オークの衣をかぶせようとした。
だが、その時恐るべきことが起こった。
女が強力な呪術を発動し、バウマンが手にしていたオークの衣……。拘束具でもあるオークの衣を彼自身が被ってしまったのだ。
しかも、そのオークの衣を脱げなくなってしまった。
元々、女を拘束する目的で作られているオークの衣は自分からは脱げない。
しかし、脱げなくても困らないようにはできている。
目の部分は薄い繊維で、作られていて周りを見ることができるし、口の部分は覆いを上げると食事も取れる。下の部分はボタンを外すと用が足せるようにもなっているのだ。
とはいえ、バウマンは宗教警察の黒袴を掃いていたので、そこは自ら袴を破る必要が有った。それでこのふた月、なんとか生きて来たのだ。
だが、こんな格好では仕事が務まるはずもない。
呪いの衣が脱げないと分かった時点で、仕事は解雇となった。
寮は追い出され、貧民救済所で食事をもらい、そこで寝泊りをした。
彼はもちろん毎日神に祈った。
声を限りに「ダルーガ・スネッペン!」と唱え、道端をゴロゴロと転がった。
だがオークの衣は脱げなかった。
そのうち、誰からも「臭い」「近寄るな」と言われ、石をぶつけられる始末。
こんな状態が続くなら、いっそ死んでしまおうと思ったが、ダルーガ教は自殺を禁じていた。
ならばと遠征軍の下働きとして同じオークの衣を被った女とともに食料を運び、汚物を掃除し、あわよくば敵の矢に当たって死ねればと思っていたが生き残った。
遠征軍は破れ、宗教警察も解散となり、治安は乱れ頼りの貧民救済所も閉鎖された。
生きることも死ぬこともできないバウマンは、ついにあの『恥乱の魔女』に許しを請うことにした。
たとえそれでダルーガ教を破門されることになっても、かっての同胞から石を投げられることになっても構わないと思った。
そうやってヤルケノ村にたどり着き、門の前にいる防備隊に、頭を下げたのだった。
「どうか、あの方に取り次いでいただきたい」と……。
次回、バウマンはどうやってオークの衣の呪いを解いてもらうのでしょうか……。




