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第二十六話 敗戦の狼煙

チグサ 16歳 この世界に転移して来た普通の女子高生。

       転移特典で得た「反転」の呪文を使う。

マイラ 16歳 ダルーガ教と対立する、フーラ教徒が住むヤルケノ村の少女。

ボルク 23歳 マイラの兄 ヤルケノ村・防備隊長


ズバルト  56歳 聖都ゴンゴザ大教会の特別矯正官。最高指導者。

ガルビエス 37歳 ズバルト直属の矯正官補佐。呪術を使う。

         『冷徹な死刑執行人』の異名を持つ。

バシュラム 41歳 東方辺境部連隊長。ズバルトを恐れる野心家。

         ガルビエスには対抗心を持つ。

 ヤルケノ村の名の由来は、その背後にそびえるヤルケノ岳から来ている。


 標高は約千二百メートル。


 決して高山ではないが、槍と盾を持ち、鎖帷子を着た兵士にとっては、越えられない壁に等しかった。


 本来、ガルビエスは兵の疲弊を何より嫌う。


 だからこのルートは避けたかった。


 だが、ガンガゼの報告によって、ヤルケノ村の正面からの攻撃が危険と判断せざるを得なかった。


 夜を徹して険しい山道を越え、明け方にようやく前方に小さくヤルケノ村が見え始めた頃。


(今頃は先発隊のバシュラムが門をこじ開けている頃だが……やつめ、うまくやっているのか?)


 ガルビエスがそう考えた瞬間だった。


 ドォォォォォン!!


 山肌が震えた。空気が揺れ、鳥が一斉に飛び立つ。


「……何だ?」


 麓の村の方角から、信じられないほど巨大な爆音が響き渡った。


 ヤルケノ村の前で、地面がめくれ上がったような土煙が上がっている。


「爆発だと? いや、これは……」


 ガルビエスの眉がわずかに動いた。


 その顔に、初めて狼狽の色が浮かぶ。


 状況はどうなっているんだ?


 ヤルケノに近い辺りには土砂が埋もれているだけで、立っている兵は見えない。


 その後ろでは大混乱が起きているようだった。


 隊列は形を成しておらず、後方の部隊が雪崩のように逃げ出していた。


「負けたようだな……バシュラムはどこにいる?」


 よく見るとバシュラムの旗と少数の部隊がナラヤ方面へ向かって逃走中だった。


 大きなロバに乗った人間も見える。


 おそらくあれがバシュラムだろう。



 

 しばらくするとナラヤに近い高台から黒い狼煙が上がった。


 これは敗戦を報じるものだった。


 これでは、バシュラムが生き残ったとしても、再び軍を指揮するのは不可能だろう。


「どこまでも愚かなやつだ」

 ガルビエスは低くつぶやいた。


 功を焦っての度重なる失態……。もはやバシュラムの居場所は軍に無いだろう。


 だが……、


 その胸の奥に、ガルビエス自身も気づかぬわずかな不安が芽生えていた。


(……あれは、本当に火薬だけの威力なのか? もしかして『恥乱の魔女』の呪術が加わったものではないのか? そうであればこの戦いは、想定していたより難しいものになる……)


 兵士たちの中からも恐怖心が広がったのか、一度は引っ込めた鏡を額に結わえ付ける者が続出した。


 震える手で鏡を結び、互いの顔を見ては怯えたようにうなずき合っている。


『そんなものは役に立たない』とはガルビエスも言えない雰囲気だった。


(まあ、好きにするさ)

 ガルビエスは苦笑いした。




 昼間際。山道を降りると湿地帯の中に小道が続いていた。


 ここは大きな隊列を組んで進めない。

 

 兵たちは誰に言われるわけでもなく自然と二人一組が背中合わせになって、横歩きで小道を進む。総勢七百五十名もの遠征軍が、アリの様に長い行列になって進む姿はある意味不気味だった。


 湿地帯を抜けきると、あまり広くない草原に出た。


 ここに全軍が整列することは不可能で、ガルビエスは突撃隊二百名をここに並ばせた。


 ドラも太鼓もない。投石機も山道は運べなかった。


 ガルビエスもロバが無く、部下が背負ってきた組み立て式の指令台の上から檄を飛ばさなければならなかった。


「いいか、目の前にある城壁がヤルケノ村だ。ここに『恥乱の魔女』が潜伏している。我らの目的は軍隊とも呼べぬ田舎の暴力組織・ヤルケノ防備隊を蹴散らし、踏みつぶし、『恥乱の魔女』を捕らえて聖都に引きずっていくことだ!」


 ガルビエスは兵士らの表情を見まわした。


 だがどの兵士も先ほどの爆発に度肝を抜かれ、士気の低下が見て取れる。


 ガルビエスは彼らを安堵させるべくさらに言葉を続ける必要があった。


「忘れるな『恥乱の魔女』は女だ。そしてこの俺はどんな女でも生気を吸い取る能力がある。諸君らはこれと戦わず、ヤルケノの防備隊のみを潰していくだけで良い。魔女は俺に任せろ。魔女を見つけたものは直ちに俺に連絡するのだ。たちどころに魔女を無力化し、俺の足先をなめさせてやる」


 そう言ってニヤリと笑って見せた。


「もう一度言うぞ。魔女は俺に任せろ! 諸君はただ前へ進めばよい!」


「オオオオ~~!」


 ようやく『鏡砕隊』に士気が戻った。


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