第十五話 迫りくる危機
チグサ 16歳 この世界に転移して来た普通の女子高生。
転移特典で得た「反射」の呪文を使う。
マイラ 16歳 ダルーガ教と対立する、フーラ教徒が住むヤルケノ村の少女。
ボルク 23歳 マイラの兄 ヤルケノ村・防備隊長
ズバルト 56歳 聖都ゴンゴザ大教会の特別矯正官。最高指導者。
ガルビエス 37歳 ズバルト直属の矯正官補佐。呪術を使う。
『冷徹な死刑執行人』の異名を持つ。
バシュラム 41歳 東方辺境部連隊長。ズバルトを恐れる野心家。
ガルビエスには対抗心を持つ。
先日、私の歓迎会を開いてくれた村長宅の集会所に、この日、深刻な顔ぶれが集まっていた。
議題は「なぜ急に観光客がこの村に来なくなったのか」だった。
三日前から、土産物屋もホヤ焼き食堂も、免罪符売りの屋台でさえ閑古鳥が鳴いている。
「食料品は在庫が残ると廃棄処分になってしまうんです」
ホヤ焼き食堂の店主が肩を落とす。
「うちだって同じです! 追加で仕入れたムームーの代金、どうすりゃいいんですか」
土産物屋の店主も声を荒げた。
しかし、村長は彼らの訴えを聞きながらも、どこか上の空だった。
やがて村長がボルクに目配せすると、彼は静かに立ち上がり、一同を見渡した。
「観光客が来なくなった理由ですが……ダルーガの聖都ゴンゴサから、この村に向けて、遠征軍が派遣されたという情報が入っています」
集会所が一瞬でざわついた。
「その遠征軍を率いているのは……ガルビエスとのことだ」
村長の声が震えていた。
「ガルビエス! あの戒律の守護者・冷徹のガルビエスか」
ホヤ焼きの店主が驚きのあまり目を丸くした。
もはや、商売のことなどどうでもよくなったのだろう。
ボルクが続ける。
「遠征軍は途中のモブリンでフーラの反乱軍を鎮圧。二千人以上いた反乱軍は、八百名足らずの救済隊に完敗したそうです」
集会所の空気が凍りついた。
「聖都からの遠征軍はそれほど強いのか?」
村会議員の太った男が聞いた。
「今回の遠征軍は、地方を守る救済隊とは体格も練度も違います。各地から遠別されたエリート部隊で、しかもそれを率いるのが、知略に富み呪詛も使えるという、妖将ガルビエス。副官には残虐さにおいて並ぶ者無しと言われる、猛将バシュラム。普通の軍隊で歯が立つ相手ではありません」
「うむむむむ……」
誰もが頭を抱えた。
「それで、遠征軍の目的はやはりこのヤルケノ村なのか? つまりナラヤの救済隊を撃退したと言うことで、その復讐に?」
「いえ、聞くところによると彼らはズバルト教王が直々に鏡砕隊と名付けた軍団で、その目的はただ一つ――『白衣の天使』の捕縛だと言われています」
集会所の誰もが私の顔を見た。
(ちょっと、ヤバいんですけど……)
「そ、それならチグサ様をやつらに引き渡し、このあいだ貰った二千枚の銀貨にホヤ焼きも添えて差出し詫びれば……」
売れ残りのホヤを抱える店主が都合のいいことを言った。
「あんた何言ってんの!」
マイラが机を叩いて立ち上がった。
集会所の空気がビリッと震える。
「ホヤ焼きを考えたの誰だと思ってんの? チグサだよ!」
(いや、そこじゃないと思うんだけど……、)
「それに、チグサを渡したって、ガラバエフは止まらないよ! 魔女を匿った村として、絶対に潰される!」
「あっちょっといいかね。ガラバエフじゃなくてガルビエスだ」
「兄さんは黙ってて!」
ボルクがビクッとした。
「だって考えても見て。この前の戦いだってチグサがいなけりゃ絶対勝てなかったっしょ。それにまた村の女の子たちを差し出す生活に戻るの? 嫌でしょ? だったらチグサと一緒に戦うしかないじゃん」
集会所を沈黙が覆った。誰も反論できない。
村長がゆっくりと立ち上がった。
「……そうだな。もはや退く道はない。乾坤一擲の戦いをし、フーラの意地を見せる時だ!」
集会所に、静かな決意が満ちていった。
次回はまたダルーガ側から中継いたします。




