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第5話 エルが…しゃべった…!

──数時間後。


オヴェリアはホーリング伯爵邸のダイニングルームで、緊張しながら席についていた。


向かいにはエルが座っており、二人の間にある長テーブルには数々の料理が並んでいる。


ビーフシチュー、オムライス、ミートパイ、揚げたポテト、柔らかい白パン、糖蜜のかかったアップルパイ……などなど。


二人で食べるにしては多すぎる料理の数々を目の前にして、エルはやや驚いた表情をしている。


「ど、どうかしら? ミーナに、子供の好きな料理を聞いてみたのだけど……」


そう言って、ドキドキしながらエルの表情を伺う。


(エルのお世話をしている使用人に聞いたら、エルは出された食事は食べるけれど、あまり喜んでいないし食べる量も少ないと言っていたのよね)


ホーリング家の食事を取り仕切るシェフは、腕はいいのだが、高齢なこともあって薄味であっさりとした料理ばかり作る傾向がある。


オヴェリアはそういった料理に慣れているのだが、エルはそれでなくても慣れない環境の上に食事も趣味に合わないのでは、あまり食べないのも無理はない気がしたのだ。


(だから、ミーナから聞いた『子供が大好きな料理』をたくさん出してみたけれど。……喜んでくれるかしら?)


オヴェリアは息を詰めてエルの様子を見守っていたが、エルは特に表情を変えることなく、静かに食事を始めた。


その様子を見て、オヴェリアは少しだけ落胆した。


(……色々用意してはみたけれど、どれもエルの好物ではなかったのかもしれないわね)


そう思いながら、オヴェリアも料理に手を付ける。


普段よりはっきりとした味付けの料理は、それはそれで美味しかったが、エルが喜んでくれないのならあまり意味はない。


(けれど、テーブルマナーは完璧だわ。エルが元いた家は、上流家庭だったのかもしれない……)


エルは、子供とは思えない程しっかりとした手つきで食事をしていた。


(帰る家があるのなら、身元が分かり次第帰してあげなければならないけれど。でも、虐待されていたかもしれない家に帰すわけにも……)


エルが元居た場所でどんな扱いを受けていたかは、やはり本人に聞かなければはっきりとはしないだろう。


けれど今のところ、エルは身元を教えてくれるどころか、言葉ひとつ発していなかった。


(好みに合う食事を出せば、喜んで貰えて少し打ち解けられるかも……なんて、甘かったわね)


オヴェリアが、エルに気付かれないようにこっそりと溜息をついた時、


「……あ」


エルが、小さな声を上げた。


「…………!! エ、エルどうしたの!? あ、それは……!」


オヴェリアはエルが初めて声を発したことに内心大喜びしていたが、それと同時に彼がその時口にしていた料理がオムライスであることに気付いた。


(そのオムライスだけは、ミーナに指導してもらって私が作ったのだけど……。も、もしかして不味かった!?)


オヴェリアが緊張しながら見守っていると、


「……おいしい」


エルが小さな声でそうつぶやいた。


オヴェリアは嬉しさのあまり身を乗り出して、


「お、美味しい!? ……よかった! たくさん食べてね!」


オヴェリアが勢い込んでそう言うと、エルは一瞬驚いたような顔をした後、少し恥ずかしそうな表情になって、また黙り込んでしまった。


「あ、ごめんなさい! 食べているところをじっと見られたら嫌よね。もう見ないから、気にしないで食べてね」


オヴェリアはそう言って、目線を自分の食べている料理の皿に戻しながら、心の中でそっと喜びをかみしめた。


(初めて声を聞けたわ……! もしかしたらケガや精神的なショックで話せないのかもしれないと思っていたけれど、大丈夫だったのね。……それに、とても素敵な声だったわ)


オヴェリアは自分の分の料理を食べ進めながら、エルのことをまた少し知ることができた喜びをかみしめていた。


(……もしかして、ほんの少し打ち解けられたのではないかしら? 今なら……!)


オヴェリアは深呼吸して気持ちを落ち着けてから、もう一度エルに話しかけた。


「ね、ねえエル? 体調はどうかしら? もし悪くなければ、明日付き合って欲しいところがあるのだけど……!」




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