第4話 美しい着せ替え人形
──エルがホーリング邸で暮らし始めてから、数日後の朝。
「お嬢様、こちらはいかがでしょう?」
仕立屋が差し出したのは、上質な絹地を使った美しい子供服だ。
柔らかい絹地を紺色に染め上げ、襟や袖口には銀の糸で細かい刺繍が施されている。
「な、なんてことなの!? まるでエルのために仕立てられたような服だわ……!」
オヴェリアは服を手に取り、仕立屋の横に無表情で立っているエルの体にあてた。
「……もの凄く似合うわ! いえ、エルに似合わない服なんて無いのだけれど。それにしてもこれは似合い過ぎてる……!」
濃紺の絹地がエルの白い肌を引き立てているし、銀の刺繍はエルの銀の髪と同じ色で、互いの美しさを引き立て合っている。
仕立屋は抜け目なくそろばんをはじきながら、
「こちら布地も糸も最上級の品ですので、お値段はこのくらいになってしまいますが……」
そう言いながら、オヴェリアをちらりと見る。
「……いただくわ!」
オヴェリアがそう言うと、先ほどから厳しい顔でこちらを見ていたミーナが、ついに怒り出した。
「お嬢様、いくら何でも高すぎます! それにもう10着近く買っているんですよ!?」
「いいじゃない、私のドレスの予算で買うんだもの! 私は普段全くドレスや装飾品を買わないから、その分がずっと溜まっていたでしょう? 今日こそ、その予算を使うの!」
オヴェリアはそう宣言してから、改めて仕立屋の方へ向き直った。
「……ということで、他にもエルに似合いそうなものがあれば見せてくださる?」
「もちろんでございます!」
仕立屋はにんまりと笑いながら、持ってきた商品の中から次々と高価そうな服を引き出していく。
「ダメです! これ以上はダメ!」
「あと一枚だけ! それで最後にするから!」
なんとか止めようとするミーナと、もう一枚だけと食い下がるオヴェリアの攻防が続く。
購入した服の帰属先であるエルは、相変わらず無表情のままだったが……。
そんなふうにして、ミーナが何とか仕立屋を帰すまでに、オヴェリアはさらに数着の服を追加購入したのだった。
***
「……ああ、良いお買い物をしたわ」
ホーリング邸の庭の一角にあるガゼボで、オヴェリアは紅茶を飲みながら満足そうに溜息をついた。
そんなオヴェリアを見ながら、ミーナは苦々しい顔をしている。
「お嬢様ってば、結局あんなに買って……。大体、子供なんてすぐに大きくなって服のサイズも変わるのに、もったいないですよ」
確かに、子供の成長は早い。
4人兄弟の長子であるミーナは、弟妹たちの成長を見てきただけに余計にそう思うのだろう。
「……そう言えば、ミーナから見てエルは何歳くらいだと思う?」
「そうですねぇ。私の下の弟と同じくらいの身長ですから、10歳前後じゃないでしょうか?」
質問に答えた後、ミーナは眉根を寄せて続けた。
「でも、今日エルが服を試着するときに少し見えたのですけど、あの子は痩せすぎていますね……。その上お嬢様の魔法でも消えない古傷の跡が、体中にありましたし」
「……そうね。元居た場所では、もしかしたら酷い扱いを受けていたのかもしれないわ」
考えたくもないが、エルは虐待を受けていたのかもしれない。
想像して、オヴェリアは唇を噛みしめた。
ミーナも険しい表情で続ける。
「さすがに、あの年頃の子があんなに痩せているのは可哀そうです。うちの弟妹達なんて食べ盛りで、食べても食べても食べ足りないくらいなのに」
「……そうよね」
成長期の子供ならば、食べ盛りだろうに……。
エルがこれまでろくに食事すら取れず、さらに体中に傷を負うような環境にいたのだとしたら、幼い身でどんなに辛かっただろうか。
オヴェリアはまた眉根を寄せて考え込んでいたが、ふと思いついて、思わず椅子から立ち上がった。
「わ、お嬢様、どうされました!?」
「ミーナ、私いいことを思い付いたわ! ちょっとミーナに教えて欲しいことがあるのだけど……!」




