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第26話 あなたに捧げる、私の命


「……レオンハルト様、放してください」



オヴェリアが感情を排した声でそう言うと、レオンハルトはオヴェリアの耳元に口を寄せて、



「……君を愛している。幼い頃から、一日たりとも忘れたことはなかった。婚約破棄は父から強制されて、俺にはどうしようもなかった」



今更どうだっていいことを言い訳がましく話し始めたレオンハルトに、オヴェリアはもう一度告げた。



「放して」


「聞いてくれ! 何度も父に懇願したんだ、君と結婚させて欲しいと。だが父は……俺がそこまで執着するなら、手を回して君を他の男と結婚させると言い出した!」



初めて聞く話だったが……今更どうだっていい。が、レオンハルトは話し続けた。



「君は俺のものだ! そんな事になるくらいなら……君に死んでほしかった。君が他の男に汚されるくらいなら、殺してしまおうと思った。それで、陛下からの命令を受けた」



レオンハルトは、オヴェリアを抱き寄せる手に力を込めて、



「……だから、今ここで、君が死ぬのが嬉しい。君の遺体は俺が、アシュフォード領に連れて行くよ」



おぞ気の立つような声音でそう言って、笑いながらオヴェリアを見つめる。その目は、暗い狂気を孕んでいた。



「……放しなさい」



もう一度そう言うと、やっと手を放した。




オヴェリアが王太子の方へ進もうとした時、またエルが叫んだ。



「オヴェリア様、やめ──!」


「──エル、命令です。しばらくそこで大人しくしていて。そうして全部終わったら……私の身体を家に連れて帰って」



エルが、声にならないうめきを上げる。


オヴェリアは最後にエルに微笑んでから、王太子の方へ進んだ。



ベッドの横に立ち、王太子の身体を見る。


豪奢な夜着に包まれたそれは、やはり真っ黒で……とても治癒できそうには見えない。



けれど──。


オヴェリアは手をかざし、治癒魔法をかけた。


一度目の魔法が終わっても、王太子の身体に変化はない。



二度、三度──。


重ねてかけた魔法にも、反応はない。



(ああ、本当に私に治せるのかしら──)



だが、もし治せなければ……エルは助からないだろう。


もう一度、もう一度と魔法をかけ続ける。



「……っ、ぁ……」



王太子の身体から、微かな声が漏れた。国王が目を見開き、



「ああ! ディラン、わかるか!? 意識が戻ったのか!?」



国王が王太子の名を呼ぶが、王太子はまだ意味のある言葉は発しなかった。



「……すごいぞ、ここ数週間は声も出せなくなっていたのに……! さあ魔女、続けよ!」



国王に促され、オヴェリアはもう一度魔法をかけた。


──今度は黒く変色していた腕の一部が、肌色を取り戻し始めた。



「ああ、腕が元に──」



国王がそう言いかけた時、



「──ち、ちう──」



王太子の喉から、微かな声が漏れた。



「──ああ! ディラン、ディラン! わかるか!?」



そう言いながら、息子の体に触れる。


その身体はさっきのように崩れずに、形を保っている。




オヴェリアは、もう一度魔法をかけた。


一度の魔法ごとに、少しずつ王太子の身体が元の形を取り戻していく。


欠けていた顔も、おおよそ元の形を取り戻した時──。



「──っ! っぐ──」



オヴェリアの口から、血がこぼれた。


先ほどから意識も、少しずつ揺らいでいる。



ふらついて座り込んだオヴェリアに、国王が怒鳴る。



「何をしている! やっとここまで戻ったのだ。そなたが死ぬ前に、王太子を完治させよ!」



オヴェリアは何とか立ち上がって、もう一度魔法をかけた。


王太子の目が、元の形を取り戻した。


その目がオヴェリアの姿を捉えた時、唇が歪む。



「──魔、女……!」



汚らわしいと言いたげな声音で、まだひび割れている唇を動かして、そう言った。



オヴェリアはもう一度魔法をかける。


王太子の身体は、もうほとんど元の形を取り戻していたが、オヴェリアは頭が割れるように痛んで、意識もかすれてきていた。



立っていることができなくなって、膝をついてベッドに縋りながらもう一度魔法をかけると、また口から血がこぼれた。



「……そろそろ最後かもしれんな。子供を殺されたくないのなら、出し惜しみをするな。そなたの命を全て──捧げよ」



国王の声に、オヴェリアは頷いた。



(最後に、もう一度だけ……)



オヴェリアは最後の力を振り絞って、エルの方を振り向いた。



その青い瞳と目が合って──。



(ああ、エル。愛している。──私の命は、あなたに捧げるわ)



オヴェリアが、最後の魔法を発動した。



「駄目だ!! ──オヴェリア──!!!」




エルの叫び声を遠くに聞きながら、オヴェリアが意識を手放そうとした時。


エルの身体から青い光が生じて、それがオヴェリアを包み込んだ。




──そのまま、時が止まった。


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