表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/30

第25話 私が死んでも

「──魔女よ、穢れた魔法を使うことを許す。その力で、王太子を救え」



国王が低い声でそう言った。



「……王太子殿下、を……?」



ベッドに横たわっている黒い固まりが……王太子なのだろうか?


天蓋が開かれたベッドからは、少しずつ嫌なにおいが染み出している。



(……屍臭だわ……)



先ほどから、ベッドに横たわった身体は少しも動かない。


ただれた皮膚は真っ黒に変色しているし、顔は元の形もわからない程に崩れている。



「……これは我が国の王族にのみ現れる、名前も付いていない病だ。数世代に1人発病するかどうかという珍しい病だが、よりによって王太子が発病した」



そう言いながら、国王は王太子の体に触れる。触れた部分の皮膚が崩れ、嫌な臭気が強まった。



「死んでいるように見えるだろう? 数か月前に発病してあっという間この状態になり、医者も手の施しようがなかった。……が、まだ心臓は動いている。まだ、間に合うはずだ」



国王はそう言って、オヴェリアの方へ向き直る。



「アシュフォード騎士団長の報告によれば、そなたの治癒魔法は、致命傷であっても治せるそうだな」



そう言われて、オヴェリアはずっと心に抱いていた疑念にやっと答えを与えられた気がした。



(レオン様は、私の治癒魔法について調べるために送られた……密偵だったのね)



オヴェリアの魔法が本当に傷や病気を治せるのか確かめ、王太子の病を癒せると判断したら、王都へ連れて来る。


そのために送り込まれたのだろう。



そこまではわかるが──。



「……なぜ、エルまで巻き込んだのです」



治癒魔法で王太子の病を治させたいのなら、オヴェリア一人を連れて来ればいいだけだ。


そもそもこんな回りくどいことをせずとも、「病人がいるから王都まで来て治せ」と言われれば、オヴェリアはためらわずに来ただろう。



オヴェリアの問いかけに、レオンハルトがほんの小さな声で応じた。



「……君の命と、引き換えになるからだ……」



言葉の意味が分からずにいるオヴェリアに、国王が続けた。



「そなたの魔法は、命を消費するのだろう? 王太子がかかっているのは、死の病だ。死そのもの……と言ってもいい。王太子を完治させれば、そなたは死ぬだろう」



オヴェリアは息を呑んだ。



「だが、穢れた魔法を使う『滅亡の魔女』の命と、この国の王太子の命……どちらが重いかは自明だろう?」



当然のこと、という口調で国王は言った。



(……ああ、そういうこと……)



オヴェリアが自分の命を惜しんで治癒魔法を使うことを拒否したら、エルを人質にとって脅すつもりだったのだろう。



(お父様を人質に取るより、平民を人質にした方が、後の処理が簡単だものね……)



「魔女よ──そなたの穢れた魔法が役立つ時が来たのだ。その力で、王太子を救って見せろ」



国王の言葉に、俯いていたオヴェリアはゆっくりと顔を上げて、



「……お約束ください。王太子殿下が回復されたら、エルを逃がすと」


「──っ! オヴェリア様、駄目だ! 俺のことは──」



エルが叫ぶと同時に、マリウスがもう一度エルの腕を捻じり上げながら、その口を床に押し付けて塞いだ。



「やめてください!! 彼を傷つけるなら、決して治癒魔法は使いません!」



オヴェリアはそう言ってから、もう一度国王に向かって、



「お約束ください。彼は何の力も持たない平民です。彼が何か言ったところで、誰も耳を貸さないでしょう。どうか……!」


「約束しよう。そなたの命に免じて、その子供を解放する」



そう言われて、オヴェリアはほっと息を吐く。



(……ああ、良かった。エルの命と引き換えなら、少しも惜しくない……)



オヴェリアがまだ自分の肩を掴んでいるレオンハルトの手を押しのけ、王太子の方へ進もうとすると、レオンハルトがその身体を抱き寄せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ