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第22話 嬉しいな、夢が叶った!

「……なっ、エ、エル……!?」



ミーナと共に王都の宿にいるはずのエルがなぜか王宮にいて、オヴェリアは驚きで二の句が継げなかった。



その上エルは、オヴェリアが見たことの無い服を着ている。


黒地に銀の刺繍の入った仕立ての良い礼服は、まるでエルのために作られたかのように似合っていて……。



礼服の威力と、エルが同年代の平均より背が高いのもあって、実年齢よりかなり大人っぽく見えていた。



(さすが私のエル! こういう服装もすごく似合うわ! ……って、それどころじゃない!)



オヴェリアが驚いた顔でエルを見ていると、その顔を見たエルも驚いた様子で、



「オヴェリア様が俺をここへ呼んだのではないのですか? さっき宿に男が来て、オヴェリア様が呼んでいるから、急いで王宮へ行くようにと言われたのですが……」



互いに驚いている2人の横で、レオンハルトが声を殺して笑っているので、オヴェリアはハッとして彼を振り返った。



「もしかして、レオン様の仕業ですか!?」



レオンハルトはそれには答えず、いたずらっぽく笑いながらエルを見て、



「俺の昔の礼服だが、結構似合っているじゃないか! オヴェリア、どう思う?」


「そ、それはもちろん似合っていますけれど。それに、大人っぽく見えて素敵ですし……って、そうじゃなくて! どうやってエルをここに……!?」



王宮に入るためには、厳格な審査を受けなければならないはずだ。


身元の不確かな者が、他の招待客に紛れて入ってくるようなことは、出来るはずがない。



「……王宮の警備を担当しているのは、近衛騎士団だよ?」



レオンハルトはそう言って、またニヤリと笑う。



(レオン様の職権をもってすれば、エルひとりくらい紛れ込ませるのは訳もないという事ね……)



がっくりと肩を落とすオヴェリアを面白そうに眺めてから、レオンハルトはエルに話しかけた。



「じゃ、俺は少しここを離れるから、俺の代わりにオヴェリアを頼んだぞ」



そう言ってエルの肩を叩くと、あっという間に会場から出て行ってしまった。


オヴェリアはその背中を呆然と見送って、絶望しながら呟いた。



「ああ、一体どうしてこんなことに……!」



それでなくても『魔女』として目立ってしまっているのに、そこに美しすぎるエルを投入したことで、今や会場中の視線がこちらに集まってしまっている。



「……あの男性、魔女と知り合いなのかしら?」


「美しいのに、女の趣味が悪いわ!」


「魔女に関わると穢れるって、教えて差し上げようかしら」



今度は、女性たちの聞えよがしな悪口が聞こえて来る。


が、エルが声のした方に鋭い視線を向けると、女性たちは息を呑んで口をつぐんだ。



オヴェリアは、まだ鋭い視線と共に殺気を放っているエルを見ながら、



(……私と一緒に居たら、エルまで嫌な目に遭うかもしれない。レオン様の気遣いはありがたいけれど、エルには帰ってもらうべきだわ)



そう思い、口を開く。



「エル、折角来てもらったのに悪いけれど、私は大丈夫だから先に宿へ──」


「──オヴェリア様、音楽が変わりましたよ」



ちょうどその時、大広間に流れている音楽が変わった。



「ダンスが始まったみたいですね。オヴェリア様、俺と一曲踊ってください」



そう言って、手を差し出してくる。



「えっ……いえ、だめよ! エルは早くここから──」



断ろうとするオヴェリアの手を、エルが強引に掴んで勝手に歩き出す。



「ま、待って! だからエルは早く帰って──」


「──オヴェリア様、一曲だけ。そうしたらちゃんとご命令に従いますから」



そう言いながらダンスフロアの真ん中までオヴェリアを引っ張って来たエルは、彼女の方を振り返って、胸に手を当てて礼をした。


そうして、再びオヴェリアに手を差し出してくる。



「ちょっと待って、でも、そんな──」



戸惑うオヴェリアを、エルが強い視線で見つめて、



「お願いします。あなたと踊るのが夢だったんだ」



そう言いながらその青い瞳で見つめられると、エル可愛さに、オヴェリアは逆らえなくなってしまった。



仕方なくその手を取ると、エルは急に嬉しそうな笑顔になって、オヴェリアの腰に腕を回してくる。


そうしてそのまま、音楽に乗ってダンスを始めた。



「ああ、一体どうしてこんな事になったの……」



思っても見ない展開に、オヴェリアはまだ混乱していた。



「俺は嬉しいですけど。あの男も、たまには役に立つじゃないですか」



そう言って笑うエルを見て、オヴェリアはため息をついた。



(……それにしても、エルはいつの間にこんなにダンスが上手くなったのかしら?)



先ほどからエルは、驚くほど優雅なダンスを披露している。


めったにダンスをする機会の無いオヴェリアより、よほど上手だった。



エルは一般教養やマナー、剣術などについてはホーリング家で雇った講師について学んでいるが、ダンスを習ったことはないはずなのに。



「エル、あなたどうしてこんなにダンスが上手なの?」


「……子供の頃に、習ったことがあるんですよ」



短く答えるエルに、オヴェリアはそれ以上は聞かなかった。



(元の家にいた頃に習ったのなら……やはりエルの生家は、貴族家なのかもしれないわ)



平民であれば、子供の内からダンスを習わせるような家はほとんどない。



ここまでしっかりとしたダンスを踊れるような教育を受けていたのだとすれば、それは貴族家……しかも高位貴族の家門なのではないだろうか。



オヴェリアがそこまで考えた時、エルがぽつりと呟いた



「……ああ、嬉しいな。夢が叶いました」



そう言って笑いかけて来るエルに、オヴェリアも釣られて少し笑ってから、



「大げさよ。……それより、ダンスが終わったらすぐに会場から出て。誰かに絡まれても無視してね。私と踊ったことで、何か言われるかもしれないけれど──」



そう言いながら、オヴェリアは少しだけ首を巡らせて、周囲を確認する。



(やはり、皆こちらを見ているわ……)



ダンスフロアにいる貴族たちがこちらへ投げかけて来る視線は、やはり刺々しいものばかりで──。


エルとの思いがけないダンスを楽しみ始めていたオヴェリアの胸は、また締め付けられた。



視線を下げ、俯くオヴェリアの耳元で、エルが囁く。



「オヴェリア様、こっちを見て」



そう言われて少しだけ顔を上げると、エルが青い瞳を和ませてこちらを見つめている。



「俺のことだけを見てください。あなたのことは絶対に、俺が守りますから」



そう言われて……オヴェリアの胸に、温かいものが広がる。



(そうだわ……。ここにいる他の全員が私のことを憎んでいるとしても、エルだけは違う。エルだけは、私のことを蔑まず、信頼してくれている……)



オヴェリアは顔を上げて、



「もう、エルったら生意気ね。……でも、ありがとう」



そう言うと、エルは心から嬉しそうに微笑むのだった。


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