第21話 パーティーが始まってしまった…帰りたい…
(ああ、ついに来てしまったわね……)
夜会当日、王宮の正門付近──。
オヴェリアは、レオンハルトにエスコートされて馬車から降りながら、緊張の面持ちで王宮を眺めた。
この中に国中の貴族の子弟たちと、さらに王族までいるのだと思うと、既に胃が痛い……。
が、折角レオンハルトがエスコートしてくれているのに暗い顔をしていては申し訳ないと、無理やり笑顔を作って彼の方を見る。
「……レオン様。ここまで連れてきてくださって、本当にありがとうございました」
そう言って、顔の筋肉を総動員してなんとかもう一度微笑むと、レオンハルトは嬉しそうに笑った。
「こちらこそ、君をエスコート出来て光栄だよ。ほら、皆君の方を見ている。オヴェリアの美貌に、目が引き寄せられてしまうんだね」
そうして、オヴェリアの手を取って自分の腕に掴まらせながら、
「オヴェリアは元々美しいけど、そんな風に着飾ると本当に輝くようだ」
そう言ってまた、誇らしげに笑った。
確かに先ほどから、周囲にいる貴族たちの視線を、痛いほど感じてはいるが……。
「……いえ、皆様がこちらを見ているのは、私が『魔女』だと気付いているからかと……」
折角褒めて貰ったが、周囲からの視線が突き刺さるのは、金の髪と瞳のせいで彼女が『滅亡の魔女』であると気付かれているからに違いないのだ。
オヴェリアが俯きながらそう言うと、レオンハルトは苦笑した。
「普段、外の人間に会わないから気付かないんだね。……君は本当に美しいよ。王都でも、君のような美人にはまずお目にかかれない」
──褒めてくれるのはありがたいが、さすがにそれは言い過ぎではないだろうか。
(……でも、きっとレオン様なりに、私を勇気づけようとしてくださっているのね)
オヴェリアはレオンハルトの気遣いに感謝しつつ、彼の腕に掴まって王宮の入口へと進んだのだった。
***
夜会が始まっても、オヴェリアは相変わらず周囲からの刺すような視線を感じていた。
「あれが、滅亡の魔女……!」
「本当に金色なんだな! ……あんな色、見たことがない」
「よく王宮に顔を出せたものよね、禍々しい魔女のくせに!」
そこここからオヴェリアを罵倒する言葉が聞こえてくるが、直接文句を言ってくる者がいないのは、隣にレオンハルトがいるからだろう。
皆さすがに、名門アシュフォード侯爵家出身で、さらに近衛騎士団長でもある彼を敵には回したくないらしい。
(レオン様がいてくださって、本当に助かったわ。ご迷惑をかけているのは心苦しいけれど……)
そう思いながら隣に立つレオンハルトを見上げると、彼はオヴェリアを安心させるように微笑んでくれる。
オヴェリアが改めて胸の内で感謝した時、不意に後ろから声をかけられた。
「団長! すみません、警備のことで少しご相談が……」
そう言いながら近づいて来たのは、礼服を着た他の出席者とは違い、近衛騎士団の制服を着た男性だった。
彼もおそらく貴族家の子弟なのだろうが、今日は夜会に参加するのではなく、警備の任に就いているようだ。
「ああ、マリウスか。どうした?」
レオンハルトが応じると、彼は何やら困ったような表情で話し始める。
「実は、先ほど奥でトラブルが──」
男性はそこで声を潜めたので、オヴェリアには話が聞こえなくなった。
(……お仕事の話なら、私は聞かない方がいいわよね)
こういう状況なら、本当は少しレオンハルトから離れるべきだと思うのだが……。
彼と離れてひとりになるのが怖くて、オヴェリアはほんの1、2歩だけ距離を取ると、なるべく話を聞かないようにしながらシャンパンを飲んでいた。
しばらくすると、話が終わったのかレオンハルトが歩み寄って来て、
「オヴェリア、すまない。警備上の問題が出たようで、俺はしばらくここを離れないといけなくなってしまった」
申し訳なさそうな顔でそう言うレオンハルトを見ながら、オヴェリアは息を呑んだ。
(……レオン様が行ってしまえば、夜会はさらに針の筵だわ……)
──けれど、仕事ならば仕方がない。
オヴェリアはまた無理に微笑んで、
「……お仕事なら仕方ありませんわ! 私はなるべく隅の方で、じっとしていますから」
そう言うと、レオンハルトはもう一度すまなそうに謝ってから、
「だが、君を一人にしておくのはやはり不安だ。皆酒が入っているし、美しい女性を見て良からぬことを考える男もいるだろう」
(心配なのは、そこではないのだけれど……)
オヴェリアは反論するのも面倒で、微かに微笑むだけにしておいた。
そんなオヴェリアを見つめながら、レオンハルトは急に得意げな表情になって続けた。
「そんなわけで、万が一に備えて俺の代理を手配しておいたんだ。そろそろ到着するはずなんだが……」
レオンハルトがそう言ったとき、急に会場が騒めいた。
「あの方は、どこの家門の方なの!?」
「見たことの無い男性だけれど──なんて美しい方かしら!」
特に女性の声が多く聞こえて来る。
オヴェリアはその騒めきを聞くともなく聞き流していたが、続いて聞こえてきた言葉に、思わず耳をそばだてた。
「銀髪に青い瞳……! 素敵だわ!」
「ずいぶん若そうに見えるけれど、おいくつかしら?」
銀髪に青い瞳……。
そして、若く美しい男性と言えば──。
オヴェリアが慌てて振り返った瞬間、その目に見慣れた男性が飛び込んできた。
「……なっ、エ、エル……!?」
ミーナと共に王都の宿で待っているはずのエルが、何故かそこにいた。




