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第18話 キスしたい、怒られるだろうけど。

「──な、ちょ、エル! ちょっとあのっ……近いわ!」



良く出来た人形のように整ったエルの顔が目の前にあって、オヴェリアはさすがに動揺して顔をそむけた。



「……オヴェリア様、俺は14になりました」


「し、知っているわ」


「身長も、初めて会った時より頭一つ分は伸びましたよ。もう、あなたの身長を追い越した」


「それも知ってるわよ! ね、ちょっとだけ離れて……」



そう言いながらずりずりと移動しようとするオヴェリアの肩を、エルが掴んでベッドに押し付ける。



「……あの男があなたにこんな風に触れるかもしれないと思うと、気が狂いそうになる」



あの男……つまりレオンハルトが、オヴェリアにこんなことをするはずがない。


けれどオヴェリアはついさっきまで、エルがこんなことをするとも、夢にも思っていなかったのだ。



「……わかったわ。エルの言いたいことは、わかったから」



要するに、婚前交渉が行われるのではないかと心配してくれているのだろう。


貴族の令嬢であれば、例え婚約者とであっても、婚前交渉を行えば名誉に関わる。


ましてや『元』婚約者とそういった関係になれば……それでなくても地の底にあるオヴェリアの評判がどうなってしまうかは、容易に予想がつく。



──危機感を持て、と言いたいのだろう。




「っわかったから! もう──お願いよ」


「わかっているとは思えないのですが……」



そう言いながらまだオヴェリアの肩を掴んでいたエルは、ふと、その肩が小刻みに震えていることに気付いた。



(えっ……可愛い)



普段自分のことを全く男として意識してくれないオヴェリアが、多少なりとも自分に怯えているように見えて、エルは不謹慎にも喜びを感じていた。


抵抗もできず、震えながら身を縮ませている姿は……やけにエルの劣情を煽る。



(キスしたい……。怒られるだろうけど)



けれど、どんなに怒ったとしても、オヴェリアは最終的には必ず許してくれることを、エルは知っている。



エルがそっとオヴェリアの肩から手を放し、その手を頬に添えると、彼女はまた大きく肩を震わせた。


柔らかい頬の感触を堪能しながら、もう一度オヴェリアの顔を見ると──ぼんやりとした月明かりで見ても、その顔はいつもより青白い。



今日、自分のせいで何度も治癒魔法を使って倒れた……。


その影響がまだ明らかに残っている顔色を見て、エルは唇を噛んでオヴェリアから離れた。



「…………俺が出て行ったら、扉に鍵をかけてください」



そう言うと、エルはオヴェリアに背を向け、足早に部屋の外へ出た。


扉を閉じて背中を預けながら、天を仰いで息を吐く。



「……あの男から守るためにここにいたのに、自分が傷つけようとしたら意味がないだろう……」



それでも、右手に残る感触を思い出すと、もう一度部屋の中へ戻って彼女に触れたくなってくる。



(俺が一番、彼女にとって危険だな……)



エルはもう一度大きく息を吐いて、自嘲気味に笑った。


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