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第13話 初恋の王子様?

「──レオン……ハルト様!」



オヴェリアが慌てて応接室に駆け付けると、レオンハルトは飲んでいた紅茶のティーカップを置いて、微笑んで立ち上がった。



「オヴェリア、随分久しぶりだ! 大きく……いや、本当に美しくなったね」



レオンハルトはそう言いながら、緑の瞳を和ませてオヴェリアに近付いて来る。



レオンハルト・アシュフォードは、アシュフォード侯爵家の長子で、さらにグランドール王国の近衛騎士団長を務める有望な青年だ。


そして、オヴェリアの幼馴染で……実は『元婚約者』でもある。



二人が幼い頃、身分や年齢のバランスが良いからと、アシュフォード侯爵とホーリング伯爵が、「成人したら婚姻を結ばせよう」と決めていた時期があったのだ。


親同士が勝手に決めた婚約ではあったが、引き合わせられた二人は意外にもすぐに打ち解けた。


5つ年上のレオンハルトが幼いオヴェリアを世話するような関係ではあったが、レオンハルトがオヴェリアにダンスを教えたり、共に社交に出かけたりと仲睦まじく過ごしていたのだ。



オヴェリアは、初めて会う前からレオンハルトが婚約者だと教えられていた。


面識も無い男性と結婚すると言われても、最初は実感が湧かなかったものの……。


実際に会ってみると、優しく頼りがいのあるレオンハルトに、あっという間に恋に落ちたのだった。



(その頃は、無礼にも『レオン』なんて愛称を呼び捨てにしていたのよね。子供だったとはいえ、思い出すと恥ずかしいわ……)



けれどそんな二人の交流も、オヴェリアが治癒魔法を使えることがわかった途端、あっという間に終わりを迎えてしまったのだ……。




オヴェリアが10歳のある日──。


良く晴れた日の午後、オヴェリアはレオンハルトから乗馬を教わっていた。


恐る恐る馬に跨るオヴェリアをレオンハルトは優しく見つめ、馬の横について手綱を握り、ゆっくりと歩かせていた。



──が、馬が急に癇癪を起し、オヴェリアを乗せたまま暴走し始めて、何とか馬を止めようとしたレオンハルトの体に馬の蹄が当たり、大怪我を負ってしまった。


自分のせいで怪我を負い、血を流すレオンハルトを見て、オヴェリアは無意識のうちに生まれて初めて魔法を発動させ……。


──レオンハルトの怪我は、あっという間に消え去ったのだった。



レオンハルトは驚愕しながらも、オヴェリアが魔法を使ったことについて、その場にいた者たちに口止めをしたけれど……。


秘密というのは、それが隠しておきたいものであればある程、あっという間に広まってしまう。



オヴェリアの魔法についても、あっという間に噂が広まり、人々が彼女を『滅亡の魔女』と呼び始めるまでにそう時間はかからなかった。



そうなるとアシュフォード侯爵としても、息子を『魔女』と婚約させておくわけにはいかない。



オヴェリアの治癒魔法が覚醒してから、およそ2年後──。


アシュフォード侯爵からホーリング伯爵へ、「息子は騎士団に入団するので、しばらくご息女と会わせられない」という手紙が送られたのを最後に、二人が会う機会はなくなって……。


……事実上、婚約は破棄されたのだった。



幼かったオヴェリアは、そのことで随分傷付いたけれど……今では仕方のないことだったのだと受け入れて、レオンハルトとのことは幼い頃の良い思い出となっている。



──オヴェリアは、10年ぶりに見るレオンハルトの姿を眺めつつ長々と浸っていた回想から、意識を引き戻した。



(今となっては良い思い出だけれどね……。それよりレオンハルト様は、どうして突然うちに来たのかしら?)



そう思い、口を開く。



「……あの、レオンハルト様は騎士団のお仕事で王都にいらっしゃるとばかり思っておりました。何故こんな辺境の地へいらしたのですか?」



レオンハルトはオヴェリアの質問には答えず、



「レオンハルト様だなんて、他人行儀だね。……昔のように、レオンと呼んでくれないか?」



そう言って、いたずらっぽく微笑んだ。



オヴェリアは幼い頃の自分の振る舞いを恥じて、頬を赤らめながら返事をする。



「……子供の頃の無礼な振る舞いはお忘れください。年上の、その上侯爵家の方にとんだ非礼を働いておりました。ところでレオンハルト様は──」


「レオン」


「えっ……あの、レオンハ──」


「レオン」


「……う……レ、レオン……様」



レオンハルトが微笑みながら圧をかけて来るので、オヴェリアは仕方なく、彼の言う通り昔の愛称で呼びかけた。


せめてもの抵抗で、「様」をつけてはいたが。



「……ま、とりあえずはそれでいいか」



レオンハルトはそう言って、仕方ないなというように軽く笑ってから続けた。



「突然訪ねて来て申し訳ない。実は急に長期休暇が取れたから、久しぶりにオヴェリアに会いたくなってね。もう何年も顔を見ていなかったし」


「以前お会いしたのが、私が12歳の頃ですから……ちょうど10年ぶりですね。けれど、せっかく休暇が取れたのなら御実家にお帰りにならなくて良かったのですか?」



オヴェリアが心配そうに言うと、レオンハルトはまた笑って、



「アシュフォード領は王都からそう遠くないから、たまに顔を出しているよ。今回は、少し王都から離れて羽を伸ばしたかったんだ。……けど、やはり迷惑だったかな?」



その言葉に、オヴェリアは慌てて首を振った。



「まあ、そんなことありませんわ! 何もない場所ですけれど、静かですし自然だけは豊かですから、ゆっくりお身体を休めていただけると思います」



慌てるオヴェリアを見て、レオンハルトはまた目元を和ませた。



「……ありがとう。では、しばらくお世話になってもいいかな? 離れていた間のことも、色々聞かせて欲しいんだ」



そう言って、レオンハルトはオヴェリアの髪を撫で、そのまま頬に触れた。



(こ、子供の頃は婚約していたのもあって気にしていなかったけれど、大人になった今こんな風に触れられると、なんだか……)



距離が近すぎる気がして、落ち着かない。


オヴェリアは顔を伏せ、やんわりと身体を引いてレオンハルトの手を逃れてから、



「え、ええ、もちろん。私もぜひ色々なお話を聞かせていただきたいですわ。──ミーナ、客間の準備を……」



オヴェリアがそう呼びかけると、扉の外に控えていたミーナが、涙で目を潤ませながら入って来た。



「ミーナ? ど、どうしたの?」



オヴェリアがそう問いかけると、ミーナは涙を拭きながら、



「……なんでもございません! 客間でございますね。すぐにご用意致します」



ミーナは拭ったそばからまた涙を溢れさせながら、応接室から出て行った。


オヴェリアはポカンとしてその背中を見送っていたが、ふと思いついた。



(もしや、レオン様が訪ねて来てくださったから、婚約が復活するかもと思って喜んでいるのかしら……? アシュフォード侯爵家の方が『魔女』なんかを娶るわけがないのに)



オヴェリアは呆れながらミーナを見送っていたが、あの様子では他の使用人にまで妄想を広めかねないと気付いて慌てて立ち上がり、自分も扉の方へ向かった。



「……ミーナを手伝ってまいりますわ! 少しこちらでお待ちくださいませ」



そう言って、「ミーナの暴走を止めないと、屋敷中の者たちががっかりすることになる……!」と焦りながら部屋を出て行った。





その後ろ姿を見送りながら、レオンハルトが小さな声で呟いた。



「……触れても、何も起こらなかったな。早急に……しなければ……間に合わなくなる」


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