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第11話 あなたに忠誠を誓います

オヴェリアが目を覚ますと、最初に視界に飛び込んできたのは青い顔をしたミーナだった。



「──お、お嬢様! お嬢様が目を覚まされた!! 誰か、先生を呼んで来て!」



ミーナが部屋の外へ向かって大声でそう叫ぶと、誰かがバタバタと走っていく音が聞こえた。


おそらく使用人の誰かが、医師を呼びに行ってくれたのだろう。



「お嬢様! お嬢様!! わかりますか!? ミーナですよ!!」


「……ミーナ、ったら……わからな、はず……」



オヴェリアは、「わからないはずないでしょう?」と言って笑うつもりだったが、途中から体の痛みで声が出せなくなってしまった。


何故だか体中が痛んで……特に胸が、焼けるように熱い。



「お嬢様、無理しないでください! 話さないで! 今、医師がきますから!」



ミーナはそう言ってオヴェリアの手を握りしめ、瞳から大粒の涙をこぼしている。



「……だから、一人で森へ行くのはお止めくださいと言ったのに! 森で密猟者と出くわして、切りつけられるなんて……!」



そう言いながらしゃくりあげるミーナを、オヴェリアはぼんやりと見つめていた。



(……密猟者? そうだったのね。森で出会った男がいきなりエルに斬りかかったから、何とかあの子を庇おうとしたことは覚えているけれど……)



熱のせいか、頭がぼんやりしている。



「エルが何とか密猟者を追い払って、お嬢様を屋敷まで運んで来たのです! ……あの子も怪我をしていたけれど──」


「──っエ、ルは、だいじょ、う……!?」



エルが怪我をしたという言葉に慌てて聞き返そうとしたが、やはりうまく声が出ない。



「──動かないでください! エルは大丈夫です、お嬢様に比べたら随分軽傷ですから! ……お嬢様は3日間眠っていらっしゃいました。一時はもう、駄目かと……」



ミーナはそう言いながら、また泣き始めた。



「お嬢様の魔法は、自分の怪我や病気は治せないのですから。……いつもいつも人のことばかり心配していないで、もっと御自分を大切にしてください!!」



泣きながら怒るミーナの手を握り返して、オヴェリアは安堵の息を吐いた。



(エルが無事でよかった……。それにしても、私はまたエルに助けて貰ってしまったのね)



幼い子供であるエルを守るどころか、何度も助けられている自分を恥じていると、部屋の外からまたバタバタと足音が聞こえてきて、乱暴に扉が開かれた。


呼ばれてきた医師かな……と思いながら目線だけ動かして扉の方を見ると、そこにいたのは息を切らしたエルだった。


エルの手には、薄桃色の花が握られている。



「……エ、ル……」



オヴェリアが何とか声を振り絞って呼びかけると、エルは信じられないという表情をしながら、ゆっくりと近づいて来た。



「……お嬢様、エルは私と交代で寝ずの番をしてくれたんですよ。それにこうやって、毎日お嬢様のために花を摘んできて、部屋を飾って……」



ミーナが涙声で、そう教えてくれる。



(エルが、そんなに私を心配してくれたの……?)



そう思いながらエルの顔を見ていると、ミーナは涙を拭いて立ち上がり、扉の方へ向かいながら言った。



「なかなか医師が来ないので、私が行って呼んでまいります! ……エル、私の代わりにお嬢様に付いていてくれるわね?」



エルが頷くと、ミーナはバタバタと部屋から出て行った。


エルはミーナに言われた通りベッドの傍へ来て、膝をついてオヴェリアの顔を覗き込んだ。



「……エル……怪我、は……?」



オヴェリアが問いかけると、エルは首を横に振った。



「……どうして、自分の命を危険にさらしてまで、俺を助けようとしたのですか?」



エルが、苦しそうな、怒りを抑え込むような表情でそう聞いて来る。



「たまたま拾った、どこの誰とも知れない俺なんかを、どうして──」



オヴェリアはふっと笑って、



「……エル、が……大せ、つだか、ら。……わた、しの……命、より」



──正直に言えば、オヴェリアは自分の命に、それほどの価値を感じていなかった。



『魔女』と呼ばれ、自領の領民に……それどころかグランドールの国民全てに恐れられ、忌み嫌われる存在。


オヴェリアを庇護するために、父がどんなに苦労しているのか、貴族社会で肩身の狭い思いをしているのか……わかっている。



そこにいるだけで愛する人々に迷惑をかけ、多くの人々を恐怖に陥れている。



(……私の命など、もっと大切なもののためなら、いつ失ってもいい)



そんなことを言えば、父や、ミーナや、屋敷の皆が悲しむとわかっているから口にはしないけれど……。


オヴェリアにとって、自分の命で大切な人を守れるのなら、安いものだった。



オヴェリアの答えに、エルはただ黙ってこちらを見つめているが……その顔にどんな表情が浮かんでいるのか、目が霞んで良く見えなかった。



(……もう少しエルと話したいけれど、なんだかまた、頭がぼんやりして来たわ……)



怪我からくる熱のせいなのか、オヴェリアの意識はまた薄らぎつつあった。



そうして眠りの淵に落ちて行くオヴェリアの耳元で、エルがささやく。



「……あなたは二度も俺を救ってくれた。生まれた時から忌み子と厭われ、誰からも顧みられなかった俺を、あなただけが……」



穏やかなエルの声に安心しながら、オヴェリアは意識を手放した。


オヴェリアの瞼が閉じるのを確認してから、エルは続ける。



「あなたの存在が兄上に知れれば、あいつはあなたを手に入れようと戦争を始めるでしょう。手に入れてからも、殺戮を繰り返す。そうなる前にあなたを殺すべきだと思ったが……」



そう言って、エルはオヴェリアの手を取った。



「……俺には、あなたを殺せない。あなたを殺す代わりに、俺は兄上から……あなたを傷つける全てのものから、必ず守ります」



エルは跪いて、意識を失ったオヴェリアの手の甲に口付けを落としながら、誓いを立てた。




「聖女オヴェリア……。クロノス帝国第二皇子リュシオン・ディオ・クロノスは、あなたに忠誠を誓います」


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