第1話 10年後の君へ
「──リア様……オヴェリア!」
誰かの声がする。
……懐かしい、胸の奥が暖かくなる声。
(エルの声……?)
オヴェリアがゆっくりと目を開けると、目の前に男性の顔があった。
男性は心配そうな、泣き出しそうな顔でこちらを見つめている。
「オヴェリア様! やっと目を覚ました……!」
20代半ばくらいに見える、銀髪に青い瞳をした男性は、驚くほど整った……まるで神が作った人形のような顔立ちをしている。
男性は必死で話しかけて来るが、オヴェリアはその男性に見覚えがなかった。
(一瞬エルの声かと思ったし、顔も少しエルに似ているけれど……知らない人だわ)
オヴェリアは首を巡らせて、自分が今どこにいるか確認してみた。
そこは日当たりの良い広い部屋で、彼女は天蓋付きの豪奢なベッドの上で、
なぜか見知らぬ男性に抱きかかえられているようだった。
(ここはどこ? こんな豪華な部屋は、うちの屋敷にはないはずだけれど)
まだ頭がぼうっとしていたが、オヴェリアは何とか口を開いて男性に問いかけた。
「あの、あなたは誰……?」
オヴェリアが問いかけると、男性はくしゃりと泣き笑いのような顔になった。
そっとオヴェリアの手を取り、手の甲に口付けしてから答える。
「俺のことを忘れてしまったのですか? あなたの忠実なしもべ、エルです」
「……エル? そんなはずないわ」
突拍子もないことを言われて、オヴェリアは少し笑ってしまう。
男性は偶然にもエルと同じ銀髪と青い瞳を持っているし、その美しさもやはりエルを彷彿とさせるが……
それでも、この男性がエルのはずがない。
「だってエルは、まだ14歳の子どもだもの」
最近背が伸びてきたとはいえ、まだまだ少年らしさを残したエルと目の前の男性が、同一人物であるはずがない。
男性は22歳のオヴェリアよりも、少し年上に見えるのだから。
戸惑うオヴェリアを見て、男性は嬉しそうに笑った。
「ええ、あなたのために急いで大人になりました。おかげで、あなたの年齢を追い越してしまった」
オヴェリアには男性が何を言っているのか、よくわからない。
「ええと、どういう意味──」
オヴェリアがそう言いかけた瞬間、男性は不意にオヴェリアとの距離を詰め……。
その唇がオヴェリアの唇に一瞬重なった。
「…………! っな、なにするの!?」
オヴェリアは慌てて顔を背け男性から離れようとしたが、それより先に強い力で引き寄せられ、再び胸の中に抱き寄せられてしまう。
「オヴェリア……ずっと声が聴きたかった。俺が止めてしまったあなたの“時”がまた動き出して、その唇が再び俺の名前を呼んでくれるのを。……もう二度と、離さない」




