9
ぺかー
10分ぐらい過ぎた頃、マゼランお祖父ちゃんが銀色のトレイに鹿肉を乗せて持って来た。
周りにハーブ系の緑色した葉っぱがしんなりした様子で、縁取られてる。
「ふぉーーー!!!」
『おおぉぉぉーーー⋯』
その茶色の固まりの色つやの良いこと!
銀のトレイを乗せる場所を、エリザベスお祖母ちゃんがサッと空ける。
ウチではフォークもスプーンも木製しか無いけど、マゼランお祖父ちゃんが大きくてお洒落な銀のナイフとフォークで、スルスルと細めに切っていく。
すると中はピンク色の綺麗なお肉が見えて皆から歓声が挙がった。
私は吠えた。
食べる前から、コレ絶対美味いヤツ!と確信した。
ギフトもウンウン言うてる。
とても白くて綺麗な取り皿をエリザベスお祖母ちゃんが準備すると、そこに小さな欠片を乗せた後に、大きな1枚のお肉と緑色の野菜を乗せて、タレをお洒落な感じでかけたらお客様のお姉さんの眼の前に置かれた。
ギルバートさん用のとお姉さん用のかな。
それから全員に美しいローストビーフっぽい鹿肉が配られ、お姉さんやエリザベスお祖母ちゃん以外の皆が、直接肉にフォークで刺して齧り付く。
私もやった。
「おぉ〜溶けたのぅ。」
「おおぅ⋯スゲェ、噛まんでも食える。」
マドルスお祖父ちゃんが信じられんと言わんばかりに呟き、ジギタス叔父さんが目を白黒させて舌を鳴らす。
「スゴいな、調理法でここまで変わるのか⋯」
「いやぁん〜美味しいぃ〜」
タルクス叔父さんも信じられんと言わんばかりに感動しており、お母さんが何かエロくなってた。
「ギルバート!」
「⋯はぁ〜」
早く!早く!と、お嬢さんが言外で催促するので、ギルバートさんは心底嫌そうになってる。
多分毒味をして少し時間を置きたいんだけど、お嬢さんの圧がな。
ちなみに欠片を食べたギルバートさんは、フ⋯と小さく口元が綻んでたので美味しかったんだと思う。
お嬢さんは食べ慣れてるだろうに、ジーーーっと真顔でギルバートさんを見つめてた。
怖いって!
カルマンさんはエールを入れたジョッキを手に、お父さんと並んで座ってた。
3人ともテーブルから少し離れた場所で椅子を並べて座ってるので、太腿にお皿を乗せてる。
そう3人。
実はギルタス叔父さんもそこに混ざってる。
もうカルマンさんは真ん中に座って、仕事が終わった感じになってるよ。
樽を囲んで立て続けにエールを空けてるから、ワンコエールになってて、お父さんが付きっきりで面倒見てた。
ジギタス叔父さんは肉を食べた後は、カルマンさんと肩を組みながら、ガッパガッパと負けじとエールを飲んでる。
お父さんが健気でもう、何も言えねぇ。
「んふぅーー!婆ちゃん!」
「うんまいのぉ~。こりゃたまげた。歯がいらんよ?」
この感動を伝えたい!と、婆ちゃんを呼べば、何で?と言わんばかりにマリア婆ちゃんがキョトンとしながらフォークを見つめてるのが可愛い。
「ウフフフ。素晴らしわね!
王都に店を出せるんじゃ無いかしら。」
「光栄ですわ。ねぇ貴方。」
「う⋯うむ。」
いや、マジで私もそう思う。
お嬢さんの圧に負けたギルバートさんが、ムスッとしながらも肉を口に入れたらフッと小さく笑うのが面白い。
エリザベスお祖母ちゃんはマゼランお祖父ちゃんを待ってるみたいだけど、皆んながクレクレ君になってるから、延々と肉をきり続けてる。
でもかなりホッとした様子で、大きな身体が一回り縮んでた。
ご苦労さまです。
「貴方が言うだけは有るわね。」
「『センス』が良いですよね。
えーとお洒落なんです。
味もそうだけど、色合いとか食感とか。」
「センスが何かは分からないけれど、言わんとする事は分かるわ。繊細で美しいわ。」
「そうそう。そんな感じです。絵みたいな⋯歌うたいのお兄さんみたいな?え~と⋯」
「芸術的と言いたいのかしら?」
「げーじゅつ⋯そう!
芸術!!」
「大抵そういった料理は、物によったら余り味が良く無いものだけれど⋯これは合格ね。
この木の香りもとても良いの。王都では味わえない新しい感覚だわ。」
「良い所の調理場って魔導具でやってそうですもんね。お祖父ちゃんも店ではそうだと思うんですけど。」
「これが薪の香りなのね。
嫌味がないから幾らでも食べられるわ。」
「その代わり火加減が難しそうな⋯お祖父ちゃんスゴい!」
「フン⋯薪の方が慣れとるんだ俺は。」
ロートル舐めんなと言わんばかりに、縮んでたのが戻って来た。顔が不機嫌なのに雰囲気が照れてるのが面白い。
「とても美味しいわ。」
「フン。」
エリザベスお祖母ちゃんが、蕩けそうな色気を出して微笑むと、ほんのりと耳を赤くしながらマゼランお祖父ちゃんが、私ん時よりも強く鼻息で返事する。
ラブラブやんけ。
あれ絶対にふひょーって喜んでる嬉しいフンだ。
私ん時は、よせやいあたりめーだろの、フンだったのに。
「あれ?ワイン?」
「これはもうコレよ。
貴方達も如何かしら?」
気が付いたらお嬢さんが高そうなワインボトルをギルバートさんに開けさせてて。
「え?俺もえぇんですか。」
「えぇ、どうぞ。分かち合いましょう。」
「⋯どうも。」
エリザベス夫婦の他に、マドルスお祖父ちゃんやタルクス叔父さんが申し訳無さそうにお裾分けに喜んでる。
エリザベスお祖母ちゃん達は金属製のマイコップを出してて、ウチん所は木のコップで飲んでるが、お姉さんとギルバートさんは透明なお洒落ワイングラスで飲んでた。
お父さん可哀想に飲みそびれてるやん。
あそこは3人でワンコエールしてるから、構わないんだろうか。
ジーニスは無事睡眠したらしく、籠に戻されてた。
お母さんは羨ましそうにワインも見たけど、授乳してるからか、欲しがらずにジュースをチビチビ飲んでる。
少しぐらい良いと思うけど、コッチでは農家の女性の飲酒は、あんまり褒められない雰囲気なんだよ。
多分労働がキツイからかな?
お酒は男が飲むもんみたいな風潮になってる。
ちなみにジュースはオレンジっぽい柑橘系で、甘味より酸味が強い。
サッパリしてるんだけど、私はあんまり好きじゃないのよね。
でも他に飲むものが無いから仕方が無いのだ。
「あーぁ⋯お酒が入っちゃったから、教会のこと途中で終わっちゃったなぁ〜」
「まぁ充分伝わってると思うわよ。」
「んー。明日になっても覚えててくれるかなぁ⋯後ろの3人が明らかに飲み過ぎてるよね。」
「そぉね。まぁ忘れてたら貴方がまた教えてあげればいいじゃない。」
「はぁ〜⋯私だけじゃ、多分聞いてくれないよ。ジギタス叔父さんが。」
「婆ちゃんはよー分からんが、教会の人はエエ人だよぉ?」
「それが問題なんだよ。
教会の人は良かれと思って頑張るから、大変なんだよ。
今日此処にいる人達は、私がお姉さんと仲良しなの分かってくれたと思うの。
でもお姉さんが貴族だから、この場所に居ない家族が「あの子は保護をもとめてるが、家族が貴族に脅されてるから逃げられない」って、教会に言いに行くとするでしょう。
もうそれだけで私を教会が保護する理由になっちゃうんだよ。
私も此処にいる人達も誰もそんな事願ってないのに、貴族で脅されてて言えないって、言われてたら「そうじゃない!」って言っても信じてくれなさそうで⋯。教会の人は良かれと思って私を家族から引き離そうとしそうなんだよね。」
「そんなこと、言うやつはいねぇよ?」
「多分居ると思うよ。
この場合戦士になったお祖母ちゃんの息子を使って、私が金になる知識を持ってるのを貴族が利用しているが、家族も全員が脅されてる。
こっそり助けを求めてるので、君を探してたんだ。
君の家族を助ける為には教会に言わなければいけないって、言われたら騙されそうじゃ無い?
確認に行こうと思っても、見つかったら君も捕まるぞって言われたら、此処に来ることも出来ないでしょう。」
「そんなしょーもないこと、するやつおるんね?」
「うん。だってその人は教会を利用する悪いヤツか、教会の悪い関係者をなんだよ。
その人にしたら、貴族に利用させるよりも、教会で保護して世界の人達の役に立てようと思ってたら、形としては誘拐なんだけど悪い事をしてる自覚は無いんだよね。
だって私が色々したらお金が稼げるから、貧乏な国なら平民が助かると思えば、良い事をしてる気分になるんじゃない?」
「教会の人はそんなことせんよぉ?」
「マリア婆ちゃんはここの教会の人と仲は良いと思うけど、教会ってここだけじゃ無くて世界中に有るんだよ。
ここの教会の人がそんな事しなくても、他の全然知らない教会の人なら分からないでしょ?」
「返せ言うたらええ。」
「そしたら探してるけど見つからないって言われたらどうする?」
「どうするって⋯」
「教会はよその国にも有るから、お姉さんが私を助けに来ない様に外国に連れ出されたら、ここの村人じゃ太刀打ちできないんだよ。」
「むむ⋯そんなもんかねぇ?」
「これが盗賊とかならまだ国の人も動けるけど、お姉さんや騎士さんが教会に押し入ったら悪い貴族が来た!って喧嘩になると思うの。
だから国の貴族だって簡単に手が出せなくなるんだよ。」
「むぅぅ。」
「誘拐だってコッチは分かってるけど、向こうがそれはウチじゃ無い。教会は関わってませんて言ったら終わりだよね。
調べられないんだもん。
だから教会は怖いんだよ。
ウチのお父さんが私を探しに駆け込んでも、事情の知らない村の人達は、貴族に騙されて可怪しくなったと思うだけじゃないかな?
私は小さいから、荷物に詰め込まれて運ばれたら、見つけるのも難しいと思うの。」
「その子の言う通りなのよ。
実際に教会に駆け込む犯罪者は多いのよ。明らかな野党なら、教会も直ぐに気がつくけれど、女性の詐欺師だったり、盗みを働いた子供だと此方は手が出せ無くなるの。
女性と子供は保護対象になるのだから。
子供はまだ許せても、女性の方は他国の密偵だとかなりマズいのよ。この子の様に重要な存在を他国に知られれば、この村には住めなくなるわ。
それにこの子の家族と偽って、抱いて駆け込む事も出来るわよね。」
「特に平民は7歳になるまで戸籍に記録されない。リリアナはまだ2歳だ。国がこの国の民だと主張することも出来ない。
これが貴族であれば、まだ違うのだがな。」
「わお!そんな規則も有るんだ。それは知らなかった。
え?平民て7歳までウェスタリアの民じゃ無いの?」
「死亡率の問題よ。
特に貧民の子供は亡くなりやすいわ。貴方が言うから調べたら、登録するのも教会で行うからそうなるのですって。
7歳になって教会に行って、そのまま戻らなくても「帰りました」と言われれば終わりなのよ。立ち入る事の出来ない聖域扱いだもの。」
ギルバートさんとお嬢さんの説明に、マリア婆ちゃんは頭を横に振る。
「そんな事せんと思いたいよぉ。そんな人達じゃ無かよぉ。」
「本来普通に生活してる分には、教会は善良でとても有用な存在なの。でも一度牙を向けばこれ程厄介な組織は無いと知って警戒して貰えれば良いわ。
それにもう手は打ってるの。
私達が直接手を出せなくても、リリアナの行方さえ分かれば、父親や親族が立ち会えばどうにかするわ。
ただ⋯その後、ここの一家は針のむしろになるわね。
だから悩むの。出来ればリリアナは貴族の養子になる事を勧めたいわ。此処で暮らしてるのは貴族家から預けられている事にすれば、まだ貴方達も守れると思うのだけれど⋯それには貴方達から信頼されなければ難しいのも理解していてよ。」
「そーなるよねー。
でも何処の貴族の家になるの?」
「1番は南部地方の統括をしているダンジェロ侯爵家ね。
ミシリャンゼを直轄しているのはまた別の貴族家なのだけれど、子爵家だから貴族としては弱いのよ。ちなみに師匠はその子爵家の親族よ。」
「なるほど。おとーさーん!
大事な話してるから戻ってきて。」
何だ何だと3人揃ってゾロゾロ来た。
カルマンさんは顔色は変わって無いが、父も叔父も真っ赤になってる。
「ほふぇー!どーしたんでぇ。」
「叔父さんは呼んでない。」
「かー!つれねぇこと言うじゃねーよ!誰に似たんだおめーはよー!」
「エリザベスお祖母ちゃんと、マリア婆ちゃんの良い所取り!」
「おー⋯そぉかぁ。
そーかもなー⋯」
ベロンベロンになって威勢が良かったのに、スンとした。
まだ理性は残ってるようだ。
エリザベスお祖母ちゃんの「私、その人と似てないわよ?」と言わんばかりのモナリザの様な微笑みが怖い。
でも満更では無さそうだ。
「それで?」
「貴族の養子になってもいいかな?」
「な、何?!」
「表向きって話。
戸籍だけ貴族の所に入れて、此処に居るのは良いらしいよ。」
「それは⋯」
「椅子を持って来て話そうよ。」
ジギタス叔父さんも椅子を持って来たけど、いつの間にかマドルスお祖父ちゃんが来たので、叔父さんが置いた椅子に普通に座った。
ジギタス叔父さんがアレ?て、顔をしてキョロキョロしたけど、タルクス叔父さんが持って来た椅子に勝手に座った。
まあタルクス叔父さんはそのつもりだったらしく、空いてるお祖父ちゃんの椅子を取りに行った。
「どう言う事だ。詳しく聞かせて欲しい。」
「平民だと7歳まで戸籍が無いのは知ってるよね?」
「それは⋯」
「外国に誘拐されたら、ウェスタリアの民だって言えないらしいよ。」
「⋯⋯」
「気が進まないのは分かるの。でも最悪連れ出された時を考えると、貴族の戸籍は有用なのよ。ただそれは貴族の協力が必要になるので、当主の了解を得る必要が有るのが問題ね。
私が戸籍を準備出来ればそれが1番安心なのだけれど⋯独身で養子縁組は出来ないのよ。
カルマンが私と結婚してくれるなら良いのだけれど⋯」
「無理だろう。婚約だから許されたが、仮としても婚姻は不可能だ。」
「何故かしら?貴方姉とは婚姻関係を結んでたわよね?」
「それは再婚だったからだ。
ギルバートもいたから子供を作る必要も無かった。
だがサラディーン、君は駄目だ。初婚なのも有るがまだ若すぎる。嫁ぐ。あるいは入婿としても、領主家の者で無ければ許されないだろう。」
「面倒だわ。」
「ギルバートであれば可能だろうが⋯」
「他の意味で不可能だ。
逆に迷惑になる。」
「え?ギルバートさん結婚してるの?!」
「そうでは無いが、まぁ⋯忘れてくれ。協力出来ず申し訳無い。」
「そして俺も残念ながら外国籍なので相応しいとは言えん。
しかも平民だ。すまんな。」
「いえ⋯貴族っぽいと思ってたので驚きました。」
「理由があるのだ。確かに俺はこの国の出身で本来は平民では無いのだが⋯しかし⋯これはう~む少し保留で頼む。
もし兄に相談が許されるのであれば、養子縁組は可能かも知れん。」
「カルマンさんのお兄さんとですか?」
「いや⋯まぁ。うむ。
似たようなものだが、詳しく説明は出来ん。すまんな。可能な限り協力出来るよう善処する。」
「しかし、果たしてそれで本当に良いのか⋯」
「親御殿。リリアナは才能が偉大過ぎる。
故意に失わせるには惜しいと言う事もあるが、それを留めるのは本人に息をするなと言うのと同じなのだ。
何度周りから指摘されても変われなかった、君の兄君と同じと思うべきか。
残念だが秀でた才能は人の目を引いて目立つ。育てば遅かれ早かれ離別は覚悟する必要があるだろう。
だが上手く行けばそれを引き伸ばせるだろうし、離別しても戻る事は可能だ。
むしろここの家族が無事に日常を続けられ無ければ、ほとぼりが覚めても戻る事は難しいだろう。」
「帰る家が無いなら村に戻る必要も無いもんね。」
「そう言う事だ。」
「⋯これは何時までに返事をすれば良い。」
「まだ今の所は大丈夫よ。
でも早めの方が良いわね。
何処と縁を結ぶかは、此方も良い候補を探してみるわ。」
「⋯嫁に出るのが早すぎるだろう⋯」
「ふぇ?!」
「中身は私と同じ年齢なのでしょう?適齢期ではなくて?」
「すみませんお姉さん。農村では行き遅れの⋯あ、ナンデモナイデス。」
殺気!マジもんの殺気来た!
適齢期を弄るのやっば!
でもフッと私達の周りの人達の空気が弛緩した。
我が身を犠牲に私、頑張った。
「まあもう大体リリアナが話してくれたし、皆さんはもう理解していると思うのだけれど。
リリアナが見つけた世界の秘密と言うのは、「太陽は魔力を消す」「月は魔力を増やす」と言う自然の働きを立証。えーと本当にありますよ、と説明する理論なの。
うーん、言葉が難しいかしら?
言葉を聞くだけではサッパリ分からないでしょうね。
でも昔にあったリリアナの母親の身に起きた事や、今苦しんでるカルマンの息子の様に、この理論を使えば解決する問題が山ほど出てくるのよ。
だから私はリリアナに公表する事を願ったの。
本来これらの理論は国立魔法学院で在学中に行うか、卒業して錬成師見習いになってから行うものなの。
間違っても平民の、しかも何の教育も受けてない幼児がする事では無いのだけれど⋯」
「いやぁ~ごめんなさい。
ついお姉さんとお話してたらポロリと。」
『はぁ~⋯』
全員から注目されて、テヘヘと笑って誤魔化す。
呆れた様な視線が痛いぉ。
「実際には錬成に関わる全ての者達の誰もがこの理論を肌で感じていたのよ。
でもどうしても、日の光が魔力を消すとまで行き着けなかったの。水を熱したら最後は消えてしまうけれど、あれは水が湯気となって空気になるの。
形を変えてる事になるから、消滅してる訳では無いのよ。
でも日の光を当てて減って行く魔力が何処に行くのか行方が掴めずに、ずっと探し続けて研究されて来たの。
それがまさか湯気にもならずに消滅していただなんて、多分世界中の錬成師がひっくり返るわよ。
笑っちゃうでしょう?」
「しかしリリアナ。どうやって見つけたんだ?」
「んー、見て来た事をまんまお姉さんに伝えていただけなんだけど、例えば竈門があるでしょ?木を燃やしたら火がつくよね?そこから炭になってもまだ火がつく。でも灰になったら火をつけてももう燃えない。
木の中の燃える素材を使い切って無くなってしまったからだと考えたの。
それが全てのもとなの。
何故消えるのか。
マルセロお兄ちゃんを噛んだヤラマウトの母親は、魔力が薄いこの土地で生きられなかった。
だとすれば逆に魔力が薄い所でなければ、生きられない人間や他の生き物が、生きられる様にする働きの為じゃないだろうか。
日に当てられてドンドン魔力が消えて最後には消滅すると普通に考えたの。
燃える魔力が何処に行ったとは考え無かったんだよね。
そこで日の光が魔力を消すなら、この世界から魔力が無くなるでしょ?なら今度は増やすのが何かと思えば⋯」
「月、というわけか。」
「まぁ普通に考えればそれしかないのぉ。」
神妙な顔をするお父さんの横で、腕を組んだマドルスお祖父ちゃんがウーンと唸る。
「リリアナが凄いのが、その理論を証明する為に、今まで研究していた者の研究を使って証明する事を提案した事なの。
この子は本来そんな他人の研究を使わずとも、カルマンの息子の事や栽培した魔力草の様に簡単に証明出来てしまう実力があるのによ。
でも莫大な資金を使い、長年研究していた日の光の先を追い続けていた大勢の研究者が、リリアナの提案で無駄な研究をしていたと言われず、偉大な理論の証明として使われる事で報われたの。
62人。今の所生存している研究者達の人数がそれよ。
途中で研究を諦めた者やまだ、探しきれ無い者もいるかも知れないけれど。
これから魔力過多症の研究している者も巻き込めば、更に増えて行くわね。」
「問題は公表したら、誰?!てなる所なんだよね。」
「そこで私の名前を出されても、私も困るのよ。この情報の価値は大きいけれど、私だとこんな発想は逆立ちしたって出せない。もし名を語って名誉を受けても直ぐに潰れてしまうわ。何故なら見ている視線が違うから。魔力草の栽培にしてもそうなの。
例えこの理論を知っていたとしても、魔力草の栽培で活用出来る者が果たしてどれぐらいいるのか。
説明が難しいのだけれど、リリアナで無ければ見つけられない発見が他にも沢山あるのよ。」
『う〜ん⋯』
「つまり私を木だと例えると、黄金の果実を作る存在って事なの。」
『はぁ?!』
「貴方達に見て貰いたいものが有るの。一度テーブルの上を片付けて場所を作って頂けるかしら。」
そしてサクサクと食事が終わって空いた皿を重ね、場所を作った所にドンドンと高級な革袋が乗せられて行く。
『こ⋯これは⋯』
お母さんやマリア婆ちゃん以外の人達は、ある程度金銭の価値が分かるので、ドーンと置かれた黒魔石以外の硬貨を見て震え始めた。
「な⋯何だコレ⋯」
「ウェスタリアで使用されてる全てのお金よ。貴方達は白金貨以上の事に馴染みが無いと聞いたから、話の説明をする為に持ってきたの。」
「持ってきたって⋯うえぇぇぇ?!」
言葉が出なかった人達の中で、度胸があったジギタス叔父さんがお嬢さんに質問した後で驚愕する。
「まぁ一応貨幣の説明をするわね。」
革袋の口を開き、中が見える状態で銅貨から順番に貨幣の名前を呼んで行く。
「そしてこれが「黒魔石」よ。余りに貴重で貨幣以外に利用価値があるせいで、貨幣代わりに使われているけれど、価値が高く成りすぎて神赤金ですら追いつかないの。
だから新しい貨幣を作るべきか提案が出ている程の代物よ。」
『⋯⋯』
この人何者?!と、言わんばかりに小刻みに震えながら、お母さんとマリア婆ちゃん以外の人達がお嬢さんを凝視する。
「では見本を見ながら説明しましょう。貴方達には人間の娘に見えるリリアナは、私の様に錬成に携わる者達には「黒魔石」に見えて仕舞うの。」
『黒魔石⋯』
「何故そうなるかは、魔力草で説明しましょう。
これまで魔力を栽培しようと思えば、この白金板40枚を設備で使用して、維持費に毎月白金貨1枚消費しなければ作れなかったの。」
そう説明しながら、必要な貨幣を指差して行く。
「でもリリアナが見つけた魔力草で使われた金額は⋯このコップ1つ分のお金なの。
ごめんなさい、聞いていたのだけれど幾らだったか忘れてしまったわ。」
お姉さんがテヘとお茶目な感じで笑ったが、他の人達はそれ所じゃ無い。
「ウソだろ?!コップ1つなんて銀貨1枚も使わねぇじゃねぇか!」
ジギタス叔父さんも細かい値段は知らんかったらしい。
昔から有るもの使ってるから、買うとしても奥さんだろうしね。
でも銅貨で済むぐらいの認識はあった様だ。
「ウソでは無い⋯俺は知ってる。見ていたからだ。
リリアナは確かにこのコップを1つ使って1本の魔力草を作っていた⋯」
「とは言っても数を作ろうと思えばコップ1つじゃ作れないし、設備を整えようと思えばそんなもんじゃ済まないよ。
じゃあ幾らかかるかは、実際にやってみないと分からないし、まだ研究の途中だから効率の良さを求めるから、今の時点では言えないんだけど⋯」
私がそう説明するとお嬢さんはフルフルと頭を横に振る。
「今の時点でこの国の錬成師が魔力草を作ろうと思えば、白金板が必要な方法しか知らないのよ。でも魔力草など価値の低い素材を作るよりももっと価値の高い素材になる植物を育てているの。
つまり魔力草は実際には育てるのが不可能だったの。
それを農民が資金を使わずに育てられる技術を見つけただけで脅威なの。
この説明で伝わって貰えれば良いのだけれど⋯重ねて言うならば魔力草10本で銀貨10枚で買い取ると、リリアナと約束しているわ。」
「ぎ⋯銀貨10枚って⋯」
ジギタス叔父さんがゴクリと唾を飲み込んだ。
「今のまだ何の研究もしてない状態での事しか言えないけど、ある程度発芽して成長した魔力草を1本使って、毎日コップ1杯の魔法でお水を使って10日。更に13日はコップ2杯のお水を使えば種が作れるの。
この倉庫で見つけた時は、コレぐらいの高さの魔力草だったんだけど、売るだけなら種になるまで育てても売れるから、予想で言えば種からコレぐらいまでの高さまで成長させるには、コップ1杯しかお水は使わないし、20日以内に作れると思うの。
そこでお祖父ちゃん。
お父さんでも良いけど、税で納める以外のウチの収入って幾らだろう。」
「⋯麦だけで言えば銀貨50枚ぐらいだ。芋はもっと少ない。銀貨20枚にもならんな⋯」
と、真剣な表情でお父さんが呟くのを聞いて、マドルスお祖父ちゃんがこう言う事かと吐息を漏らす。
「麦は半年かかるし、芋は3カ月ぐらいかな?
1年で銀貨70枚。つまり魔力草を10本7回お姉さんに売れば同じの金額になるね。
魔力のお水は1日にコップに何回出せる?」
「計った事は無いが⋯、俺なら全力を出せば100杯は行く。」
「日陰が必要だから毎日100杯出せても置けないし、まぁ35杯分出して貰って、40日有れば1年の稼ぎと同じになるね。」
「そんなに買い取って貰えねぇだろ?!な?な?」
「いいえ。私なら1日に1000本持って来られても余裕で受け入れられるわ。」
『うわぁぁぁ~』
ジギタス叔父さんが救いを求める様に、お嬢さんにぎこちなく聞けば、そんな事はなくってよと言わんばかりに平気な顔をして返事を返すと。
全員が思い思いに叫びながら、頭を抱え込んだ。
「最高で一年分の収入がどれぐらいになるかはまだ全然分からないの。種から育てられて無いし、そもそも私の家の中で35本なんて置けないから倉庫やお祖父ちゃんの家も魔力草だらけになっちゃうんだよね。
日に当てられないから、お日様が入る所には置けないんだよ。」
「つまり栽培用の建物が必要だと言う事だな。」
「家じゃ無くて良いから柱の屋根だけで日の当たらない場所を作る必要があるね。
でもそんなものを畑に作ったら、なんだアレ?って、周りの人達から聞かれるし。
月の光に当てるには運んで外に出さないといけないから、お父さん1人ならあんまり数は育てられないかな。」
「だが35本なら⋯嫌。40本か。仕入れを思えば40本なら余裕で作れる。むしろ100本でも労力はかなり減る。日の出前と日没後だけの働きで済む。」
「つまりアレか?幾らだ?」
「20日で銀板1枚かな。」
「やっべぇぇ?!
何だそれ?!
は?何だそれ?!」
「でもこれはあくまでも例え話だからね?雨が振ったりすれば枯れる⋯とは思えないか。
割りと1日ぐらいなら耐えてたね、魔力草。
2日雨が続くと不安だけど、魔力のお水を2回に増やせば対応出来るし、この辺は毎日雨が続いて降る日なんてあんまりないもんね。
ウーン甘く見積もっても、そんなもんなのかなぁ⋯」
上を見ながら穴が無いか考えてたら、お姉さんがフ⋯と苦笑する。
「私が言いたいのは、これだけ価値のある提案をほんの1月で形にしてしまった事なの。
世界の秘密を見つけた事もそうだけど、これまで育てた事の無い魔力草を、たった1回育てただけで種を取れるまで育てられる事も脅威なのよ。
普通なら何度も失敗して試行錯誤する事だわ。
しかも恐ろしいのが、植物を育てるのに土を使わないのよ。」
『はぁ?!』
お父さんとお母さん以外は信じられないと言わんばかりに、私を見つめる。
「邪魔だったんだよ。使って育てても良いけど手間が増えるし重くなるから。」
「俺には何を言ってるのかサッパリ分からんよ。」
マドルスお祖父ちゃんが、そう寂しそうに呟いた。
「お、俺は親父みたいに頭は良くねぇよ。でも言葉は分かるんだ。
それなのに何を言ってんのか分かんねぇんだよ。
土を使わないって何なんだよ。
要るだろ普通。
植物は土から生えてんだろ?!
訳が分かんねぇよ!
でもコイツがスゲェことやりやがったのは分かんだよ。
土が邪魔だなんて、一生かけても俺は思わねぇよそんなもんよぉ⋯。」
愕然としながら段々と泣きそうな顔でジギタス叔父さんはお父さんを見る。
「俺は失敗すると思った。
だが熱心に伝えて来るので、まぁ失敗しても経験だと思って諦めてやらせた。
だが成功したのを見て俺も震えた。
眼の前に有るものが、見えているのに信じられなかった。
恐ろしくもなった。
まるで足元に当たり前にあった地面が崩れるのを感じたみたいに、俺の中にあった確かなものが壊れるのを感じた。
種が取れる頃にはもう諦めて、そんな事も有るだと受け入れるしか無かった。
最後に草が枯れているのを見て嘆く娘に、俺は間違って無かったとホッとしたんだが。
種が落ちてるのを見つけて、成功させてるじゃないかと。
でもこんなに凄い事をしたクセに、ちょっと地面を見れば分かる。
こんな簡単な事に気が付かずに、失敗したと、この世の終わりだと言わんばかりに大袈裟に泣いてるコイツが可怪しくて⋯、グフ⋯ハハ!
可怪しくて笑いが止まらなかったよ。」
お父さんは最後には思い出して、クフクフと笑いながら皆にバラすから恥ずかしかった。
「そぉねぇ。お母さんも笑っちゃったわ。暗かったから見落としちゃうのも分かるんだけど、それでも見えてたものねぇ〜」
「何それ。私も見たかったわ、その光景。
土を使わない植物の育成だなんて、これも世界がひっくり返るぐらい凄い発見なのよ。
この方が太陽の秘密に気が付いた話よりも、農民には身近だからどれだけ凄いかわかり易いわよね。
最初に味わった私の、世界中の錬成師の衝撃を、少しでも分かって貰えてとても嬉しいわ。
それなのに地面に落ちてる種を見つけられないだなんて、私達とは真逆な事をする。
本当に分からない子よね。」
「ハハ!全くだ!」
『アハハハ!!!』
全員で笑い倒さなくたって良いじゃん。
ギルバートさんまで笑ってるって何なの?
カルマンさんももう立ち直ったの?!
酷くない?!
私の失敗ってそんなに笑えるもんなの?!
「枯れてるのを見て失敗したと思って、周りを良く見て無かったんだよ。
でも多分皆が経験や知識をつんで、思い込んでる事に気が付かないのと同じなんだろうね。
だから私も凄いのは今だけだと思うよ。」
「往生際が悪いわね。
確かにそれも有るでしょう。
何も無いまっさらな貴方が、この世界の常識を知れば失われる気付きも有るかも分からないわ。
貴方の言う様に、そんな存在が成人と似た様な考える力を持ってるからこそ、見つけられた事も有るでしょう。
でもね。残念だけど知識を増やせば増やすほど、他の者が気付けずに見過ごしてしまうものを見つけられる才能も貴方は持ってるのよ。」
お嬢さんはそう言って、ツンと私のオデコを指先で押す。
あが!っと上を向いて口を開いた間抜けな顔で、また何人かが笑っている。
マリア婆ちゃんとか婆ちゃんとか婆ちゃんが、あひゃあひゃした。
「この子は世界中から見れば、ウェスタリアの黒魔石なの。
私は今それを何とかミシリャンゼの黒魔石に出来ないかと、師匠と奮闘して誤魔化してる最中なのよ。
だからこの子には多くの発見を、なるべくしないで貰いたいと私は考えていたのだけれど⋯カルマンの姿を見れば、それも間違いだと思えば苦しいわね。
この子を本当に心から守りたいのよ。
でも何も知らない。
考える力も足らない身勝手で無礼な者達が、この子の為の様な顔をして、自分だけの価値観でこの子が大切にしているものを踏みにじるのが、私には見えてしまうの。」
「貴族には貴族の。
教会は教会の。
平民には平民での立場でしか考えられないから、見えないもの、知らないもの、大切なものが皆違うのが困るんだよね。
だから私は自分を隠すしか無いし、貴族の養子だとウソをつくのも1つの方法だと思う。
それも全部皆の協力が無いと出来ない事だし、たとえ協力して貰えても難しいことだと思うから、私は死ぬべきだとギフトが言うの。
その方が世界も皆んなも平和だから。」
「アンタぁ、またそがなこと言うんか!婆ちゃんは許さんよ。死ぬるんは婆ちゃんが死んでからにせぇ!」
「いや死にたく無いよ。
だからワガママを言って皆を困らせてるんじゃん。」
「ワガママなんぞ!ワガママだなんぞっ⋯そんな馬鹿な話があるもんか!」
そう言って泣きながら私を包む柔らかい場所に、私もつられて泣きそうになる。
だけど泣いてたらお喋り出来ないから、グッと我慢した。
「うん。それは皆んなも同じなのは分かってるよ。
麦だって魔物だって生きたいけど、私達はそれを食べないと生きられないから。
ワガママってそう言う事だと私は考えてるの。
だから私はリリアナとして生きていたいから、人が麦や肉を食べて生きる様に、マリア婆ちゃんやお母さんやお父さん達家族全員が必要なんだよ。
食べられる麦や魔物からしたら迷惑だし、私の家族からしたら迷惑だけど、私はリリアナとして産まれて来た事が、誇らしくて嬉しくて幸せなんだよ。
だから私はギフトが言う狩人よりも、家族の騎士になろうと思うの。
リリアナとして生きて行くワガママを通したいから、周りの人達に私には家族が必要な事を分かって貰おうと思うんだよ。」
お父さんはギュッと眉間にシワを寄せた。ギルバートさんやカルマンさんも眼差しが鋭くなってる。
「リリアナ。お前の考える狩人と騎士とは何だ。」
「狩人とは強大な敵から引く事が出来る者。騎士とは守る者の為に死んでも許される者の事。」
「何?!」
「引くと言うのはリリアナで有る事を諦めて、直ぐに家族から離れる事。
騎士と言うのは私の命をかけて世界に認めさせる事。
私が黒魔石と呼ばれる元となった知識が欲しいのなら、家族に手を出す事は黒魔石を叩き壊す事になると、世界中に知らせてあげるの。
騎士を知ってる人達にはそれだけでその意味に気が付くし、知らない人達には「放っておけばそのウチ自然と知識を手に入れられたのに、それをしちゃうと貴方が黒魔石を壊すのよ。世界から恨まれて大変ね。」って笑って教えてあげるの。」
「リリアナ⋯」
「私はワガママに生きる覚悟を決めたの。
誓約なんてしたって簡単に消せちゃうから、これは私が自分の魂に誓う誓約だよ。
たとえ皆の記憶を奪われたとしても、私は産まれた時から私だから直ぐに気がつくよ。
自分の年齢との記憶と知識の乖離に気が付けば、きっと異常が分かるし。
親切な顔しても誤魔化されない自信も有るの。
そんな簡単な存在じゃ無いから、私は黒魔石なんだよ。
向こうが何を求めていて、私に異常が起こったのか直ぐに気が付ければ、私は逃げ出す事を考えるし、それが無理で『ムカつく』⋯腹が立つ相手なら何としても言う事を聞かないし、転がして逃げ出してやるわ。
私が蓄えた知識まで奪うと思えないもん。
だって向こうが欲しいのは、その知識なんだから。
痛めつけたいなら、すれば良いのよ。
私は自分が弱い事を知ってるから、助かるぅ!て、笑って死ねるよ。まぁどうせ殺せやしないだろうけどね。
知識を求めてきたら無視してやるの。お喋りなんてしてあげないのも良いし、人によって子供のフリして遊んであげても良いよ。
お父さんやお姉さんが間に合ったらそれで良いし、もし家族が眼の前に連れてこられたら、これを言って脅してやるの。
「やりたければお好きにどうぞ?その代わり貴方は黒魔石を壊す勇気があるの?分からないなら分かる人に聞いてみたら?」って笑いながらね。
私なら交渉も説得も出来ると思わない?ねぇお父さん。」
『⋯⋯』
「まぁそうなるでしょうね。
所詮は敵う訳が無いのよ。
ただの地べたを這いずるしか無い無能な人間ではね。
それでも無用な争いは避けたいし、苦労も不愉快な思いもしたく無いと思うから、皆で協力しましょうってお話なの。
リリアナが心から幸せだと思って暮らして行くには、私達が幸せで無ければいけないから、きっと面白くて楽しい生活が送れる気がするのよ。」
お嬢さんが調子を合わせてクスクスと笑いながら言ってくれたから、お父さん達は何だそりゃと気が抜けた様に肩の力が抜けた。
「だって私、今が最高に楽しいんですもの。
ポロポロと凄い発見を聞かされて、当たり前だった世界が壊れて行くし。
もう聞く度に冷静で居られなくて、礼節が吹き飛んで信じられないぐらいお行儀が悪くなってしまうの。
それでも嫌じゃないのよ。
怖いぐらいに惹かれて、楽しくなるの。
どんな困難が訪れても、この子がどうやって切り抜けるのか。それを全て知りたくて堪らないぐらいよ。
だって植物から土を奪ってしまう様な子なんですもの。」
『あー⋯』
何か分からんが分かった!って、皆が何かを諦めた。
「それにね?私本当は今夜この子の言う、凄腕の狩人を見るのを楽しみにしてたの。」
タルクス叔父さんがビクッとして、ふわぁ?!まさか俺の事?!て様子で強張ったけれど。
「それなのに何なの?
狩人失格みたいな扱いをされてるのに、7級を弓で一撃って⋯ウフフフ!凄腕の落ちこぼれ狩人がいただなんて⋯信じられないわ。
ギルバートの顔ったら⋯アハハハ!」
タルクス叔父さんがホッとしてる近くでギルタス叔父さんが、照れながら頭をガシガシと掻いてる。
ギルバートさんはムッとしたけれど、直ぐに苦笑して。
「その話は本当に驚かされました。
国立魔法学院の騎士科で学問と武術を修了し、卒業すれば騎士見習いになれるのですが。
7級を単独でそれを行えば、主を見つけて仕えずとも王の騎士と認められるのですよ。」
「あ、学問がある時点で、ジギタス叔父さんには入学も無理だと思う。」
「うるっせぇわ!」
唾を飛ばすギルタス叔父さんに、皆が楽しそうに笑い出した。
「てめぇ、絶対に俺の事バカにしてんだろ。」
「まーたひがんで誤解してるよ。叔父さん。バカと天才って裏表らしいよ。葉っぱの表が天才で裏がバカなの。
だから叔父さんはバカじゃ、無くて天才なんだよ。」
「お、おお?そうか?」
「はぁ~、ギルタス。
お前はまた騙されとるぞ。
少しは言われた事を考えろ。
つまり1つの葉の裏と表と言えば、同じ存在と言う事では無いのかのぅ。」
「うん???」
「説明した所でお前には一生分からんか。」
照れてるギルタス叔父さんに、マドルスお祖父ちゃんがヤレヤレと呆れ返った。
そのせいでお祖父ちゃんの解説を理解した人は笑ってるし、理解して無くてもつられて笑ってる人もいる。
理解出来ずに難しい顔してるのは、ジギタス叔父さんの他にはマゼランお祖父ちゃんだけだった。
まぁマゼランお祖父ちゃんも天才だから、同類なんだよ。
向こうは料理しか見えない料理バカと言うべきかな。
幼かったお母さんの苦労が目に浮かぶ様だ。
「私⋯こんなに農民が楽しいだなんて知らなかったわ。
何なのこの一家。
宮廷料理人が唸る様な料理を出してくる料理人がいるし、凄腕なのに落ちこぼれてる伝説級の狩人も居て、更に黒魔石の父親も相当よ?
魔法水をコップに100回出せるなら、魔法師を目指せるのではなくて?」
「やっぱり多いんだ。」
「うむ。ギルタスが畑を継ぐ事は、好き嫌いを別にして難しかった大きな原因はそれなんじゃ。最初からそうでは無かったが、成長するにつれてモズグスはメキメキと水を出せる様に増えて行ってのぅ。」
「水しか出せんぞ。
他は普通だ。
そんな者ではとうてい魔法師などなれんだろう。」
「そんな事は無いわよ。
水は火や風より有用だもの。
戦争が有れば火や風の価値も上がるでしょうけれど、魔法師の技術を学べば何処だって就職が出来るわよ。貴方は黒魔石の実父なだけあって賢いもの。
興味があるなら娘と国立魔法学院に行きなさい。
年に金貨30枚は確実に稼げるわよ。」
『はぁ?!』
「貴族家の魔法師になれば、それは最低の金額よ。水の少ない土地で働けば、もっと高いのでは無いかしら?」
「おー、そりゃ駄目だよ。
お父さんが居なくなっちゃうと、ギルタス叔父さんだけじゃ畑も鳥も維持出来ないよ。」
「頼む!行くなよモズグス!
跡継ぎはお前なんだから、絶対に行かせないからな?!」
「魔法師になって戻って来れば良いのでは?」
「おー。お父さん頭良い!」
「なるほどのぉ。」
「その間は畑をどーすんだよ!」
「オマエと孫でやればエエじゃろが。」
「ヒィ!死ぬ!絶対に死ぬ!」
「7級を倒せるんだから大丈夫だよ。」
「おうさの。死ぬ気で働け。
多分オマエなら死なんわい。」
「ぐは⋯」
吐血しそうになってるジギタス叔父さんに、タルクス叔父さんがこっそりと背中を向けて声もなく爆笑してる。
普段のストレスが垣間見えた気がしてそっと流す。
「でもそぉかぁ。金貨と小金貨が倍になるから、金貨60枚と、小金貨20枚必要なんだね。」
「そんなもの。貴方が養子になれば簡単に手に入れられるわよ。そうで無くても私が出すわ。だって面白いじゃない。
最高年齢の魔法師修学生と、最低年齢の錬成修学生よ。
学院が上に下にと大騒ぎになるわね。
特に血筋と魔力量だけが自慢の魔法師は見物だわ。
農民に負ける自分を知れば絶望しか無いもの。
しかも相手は黒魔石の実父よ。手が出せ無くて、歯ぎしりしながら涙目で耐えるしかないのだもの。こんな愉快な話はなくてよ。
錬成修学生の方も大変ね。
歴代でも類を見ない低年齢よ。自分の存在が吹き飛ぶ衝撃で卒倒する者が続出しそうよ。」
「それはきっとお姉さんには面白いだろうけど、学院からしたら大迷惑って言うんじゃ無いかな?」
「まさか!
真実が痛いと思うのは、若いウチだから耐えられるし。
何よりも盲目な自分が叩き壊されるのよ。胡座をかいてたのが必死になるなら、それは人生を思えば魔法師の若い子供達からすれば宝物になるわよ。
貴方の父親なら子供達の嫉妬ぐらい上手に躱すのではなくて?」
「あれ?
子供達って何歳ぐらいの人が通うの?そして私は?」
「学科に寄って入学に必要な点数が違うのよ。魔法師なら早くても10歳から入学出来るわ。
問題は錬成師なの。
希望者が多くて、普通は最低でも15歳を過ぎなければ点数が稼げ無いぐらい難しいのよ。
だから魔法師の修学生は年齢が低いし、錬成師の修学生は高齢化してしまうの。
初期学年でも20代の錬成修学生なんてザラにいるわよ。
逆に魔法師の方は年齢が高くても12歳ぐらいではないかしら。
10歳以下は魔力量が足らない者が多くて、逆にそれが足切りになるのよ。
錬成修学生は殆どが魔法師ね。魔法師を修了してから編入の試験を受けるの。
勿論修了したてで受かるのは少数よ。働きながら勉強して入学するのが、当たり前の世界なのが錬成修学生なの。」
「ちなみにお姉さんは。」
「10で魔法師になって、13の時には錬成修学生として入学したわよ。」
「歴代最年少だったのでは?」
「いいえ。10歳で端から錬成修学生として入学した父が最年少ね。」
「サラディーン様。」
「ウフフフ。平気よ。だって黒魔石ならそのうち私の父にも会うに決まってるわ。」
何か今スゲェ予言が来た。
私以外で分かったらしいエリザベスお祖母ちゃんが倒れそうになってる。
つまりきっと有名人なんだ。
その最年少で錬成修学生になった、お嬢さんのお父さん。
ニンマリしてるからきっとヤバい人な予感がする。
理由は分からないけど、お嬢さんは恐らく上の方の貴族のお姫様。そして10歳で魔法師として入学した時は、さぞかし鼻持ちならないご学友から嫉妬されまくったんだろう。
だから、今こんなに良い笑顔で父の入学を唆してる。
「今思ったんだけど⋯適齢期のお嬢さん達が、性別関係無く同じ所にいられるの?」
「⋯さすが黒魔石ね。
基本的には建物も性別で離れてるわよ。でも合同で無ければ使えない施設があるの。
そんな時は時間をずらして使用するなどの工夫はするけれど、全く顔も見ない訳では無いわね。」
「ならお父さんと一緒に入学しても意味なくない?」
「貴方自分の年齢を考えなさい。寮ですら父親と同室に決まってるでしょう。」
「逆にそう言う⋯でも授業は?」
「一緒に受ければ良いのよ。
どうせ貴方に必要なのは、レシピを覚えるぐらいでしょう。
学問なんて父親の教室で本を飲めば済むのではなくて?」
「イヤイヤ、さすがにそんな。」
「賭けても良いわね。暗記するだけなら話を聞かなくても、貴方なら直ぐに理解出来るわよ。あぁ⋯でも刺繍なんかの技術の必要な授業だけは難しいかも知れないわね。」
「え?!刺繍があるの?!」
「ええ錬成の強化をする為の物品は自分で作らなくてはならないのよ。あとは魔力量の問題ね。貴方の父親を見れば高そうだとは思うけれど⋯貴方はまだ使った事が無いのよね?
貴族でも、基本的には5歳からしか訓練させないもの。
でもこれって危険性が理解出来ないから訓練させられないんであって、貴方には適応しない規則なのでは無いのではないかしら?
考えなしに魔力を倒れるまで使い過ぎたり、部屋の中で炎を出したりなんてやらないでしょう?」
「あ、そう言う。」
「もちろん成長で増えて行くものだから、安定しない間は難しい事も多いでしょうけれど、逆に幼く頃から訓練すれば、成人した時にとても上手に魔法が使える様になれるのよ。」
「ほほう。」
良い話を聞いた。
私の瞳がキラリと光る。
おらワクワクすっぞ。
他人がやるのを見るのと自分がやるのとでは大違いだ。
「貴方、父親が水を出す所を見ているのよね?
それなら自分の指先からも水を出す様に念じてみなさい。
具体的にどうなるか考えると上手く行くわよ。」
「ひゃふぅ!」
喜びの余りに早速自分の人差し指を立てて指先を見つめたけれど、そのまま出したら足元や服が濡れてしまう。
コップに入れても良いけど、コントロールが悪ければ溢れるかも知れない。
丁度私の前にはギルバートさんが居るから迷惑になる。
なのでコップに注ぐ流れる水では無くて、アニメとかで見るウォーターボールをイメージした。
「わあ!」
『?!』
すると身体の奥から何かがスルリと指先から抜けて、小さな人差し指の上にドッチボールぐらいの量の水があっという間に育ってしまった。
顔に当たるのは嫌だったので捨てようと思ったが、父達が私を囲んでいたので横に捨てる事も出来ない。
だから父達の上を通して、倉庫の壁を狙う事にしたが、水の量が多いので跳ねたら父達が濡れてしまう。
なのでポーンと父達の頭の上を飛ばしてから、細かい霧雨になるイメージをする。
アレだよ。消臭スプレーでミストになる感じ。
「ふぅ⋯やったあ!
出来たよ!
始めて魔法を使ったよ!」
嬉しくて歓喜にグネグネと身を捩ってたら、お姉さんが口角の両端を少し持ち上げたまま、固まってるのが見えた。
父達もボールを追う猫みたいに上を向いてから、壁を見た姿勢のまま止まって動かない。
「すっごーい!リリアナ。
貴方魔法を上手に使うのね。」
マリア婆ちゃんが目をパチクリさせてた後ろで、お母さんが両指の先を合わせてキラキラと笑っている。
「えへへ!ちょっと難しかった。思ってたよりも水が沢山出ちゃって焦ったから、グネグネしてて丸く出来なかったし、上手く細かく出来て良かったよ。」
『ふわ?!』
照れてモジモジしてたら、周りから一斉に変な声が出た。
「リリアナ。貴方一体何をどう考えてあぁなったの?!」
もう頭が痛いんですけどぉ。
と、言わんばかりにお姉さんが呆れた様子で、半ば投げやりに聞いてくる。
「目の前にギルバートさんが居るからそのまま水を出したら足元が濡れて迷惑でしょう?
でもコップに入れようとして、溢れても困るし。
丸い『ボール』⋯えぇとお月さまを作ってみようと思ったけど、私が思ってたよりも大きくなっちゃったの。
このままじゃ顔が濡れちゃうと思って捨てたかったけど、横にはお父さん達が居て、だから上を通して壁を狙ったけど、水の量が多いからそのまま当てたら跳ねて迷惑だよね?
だから跳ねない様に細かくして捨てたの。」
「あー⋯、あの一瞬のウチにそこまで考えたの。
貴方、本当に考える力が強いのね。」
とうとうお嬢さんがコメカミを、両手でマッサージしながら吐息を零す様に呟いた。
「そうか。普通の子供なら出す事しか考え無いから下に水が流れる。
だがそうだとしても⋯思考が早すぎる。」
「まぁ未熟な所はあるわね。
丸くしようとしても確かに丸くはなって居なかったわ。
でも普通はそうなる前に崩れるのよ。
しかも飛ばす事も難しいし、細かくなんて出来ないものなのに、何処までも考えてシッカリとした思考が持てるのね。
驚きだわ。」
「イヤイヤイヤ!
その前に有るだろ!
普通は水を出せって言われても出せるもんじゃねぇだろ?!
何回も見本を見て、唸りながら捻り出すもんじゃねぇのかよ?!」
「あら?私は出すだけなら簡単だったわよ。」
「私も特に苦労は無かった。」
「ウーン⋯俺もそんなには⋯」
お姉さんとギルバートさんとお父さんはそぉ?と言わんばかりに気まずそうにしている。
「お、俺がオカシイのか?!」
「イヤ、俺も似た様な感じではあった。何度も見本を見て出した覚えが有るし。他の者も大抵は同じだった気がする。」
ジギタス叔父さんが泣きそうにへにょんとなってると、タルクス叔父さんが肩をポンと叩いた。
「う~む⋯お前たちと違ってモズグスは家の手伝いを喜んでやっとったからのぅ。特に畑の水やりは遊びながらやっとったから、馴染みがあったのかも知れんなぁ。」
「リリアナはお父さんがコップに水を注ぐ時はいつもじ~っと見てるものね?お月さまがどうかは分からないけれど、そのせいなのかしら?」
「そういや竈門もじ~っとしゃがんで見とったのぉ。
背負われてる時に、鍋の中を覗き込んどったのもよぉ覚えとるよぉ。」
マドルスお祖父ちゃんがお父さんと叔父さん達の違いを示せば、お母さんがコロコロと笑いながら私の事を思い出し、マリア婆ちゃんもノホホンとそれに同意する。
「湯気か。それで細かく出来たのか?
けれど失敗して霧雨の様になったのか。」
ギルバートさんがジーッと私を見つめながら推測するので、敢えて否定せずにへらりと笑って誤魔化した。
ミストスプレーなんざ無いからな。霧雨もこの辺じゃ先ず見ないし。無いわけじゃないよ。
霧は雨が降った後は良くあるからね。
でもまぁうん。そうハズレてる訳じゃ無いからそれで良いのだ。
「体調はどうだ?」
「ウーン体調?
うーん⋯ちょっと疲れたかも?走るよりはマシだけど、ここから家まで歩いたぐらい?」
「なら大丈夫そうだな。
しかし後もう一度同じ量を出せば気分が悪くなりそうだな。」
「まぁ2歳ならそんなものかしら。錬成修学生では少し足らないわね。魔法薬を飲みながらなら、ある程度の基礎は習得出来そうな気はするけれど。」
「いや、基準がおかしいぞ。
錬成修学生は基本的に成人しているからな?
サラディーンとて13は越えていたんだろう?
2歳でコレなら充分だろう。」
「錬成修学生としては、よ。
私だって普通の2歳とは比べてないわ。そもそも普通の2歳には魔法を教えないもの。」
「こんなに簡単なら教えなくても使えるんじゃ無いの?」
私が小首をかしげれば、全員から否定された。
何度も見本が必要になるし、そもそも集中力がある程度必要なので、5歳ぐらいまで成長しないと出そうと思っても出せないのだそうだ。
やれと言われて真剣になるから出るんであって、軽い気持ちでは難しいんだとか?
でも無い話では無く。
簡単に出せる者も居るらしく、そんな時は危険なので叱られて、出せなくなるらしい。
もしくは強制的に魔法を使わせない道具を金持ちは買える。
そもそも普通の平民では、魔力が少ないから出せてもショボいとか。
そう言えば練習してるカタリナやロベルトを見て、ショボいなの思って魔法が魅力的に感じ無かったのを思い出した。
「あれ?私って魔力が多いの?」
「父親の事を思えば納得も行くが、アレがあるからな。」
「あー、アレか。お母さんがヤバかったぐらいだもんね。」
「もうアレについて触れてはいけないわ。それこそ大問題になるわよ。特に貴方。私達は誓約をかけてるの。貴方もそうなさいな。伝説さん。」
「は?俺が?何だって???」
「貴方。1番この中で危なそうなんですもの。色々とね。」
「ジギタス叔父さんはした方が良いと私も思う。孫が欲しがったら、また取りにいっちゃいそうだから、しても無駄っぽいけど。」
「そんな年では無理だろうが、娘に話しそうではあるな。」
「やめろと注意するつもりで、ポロポロと言うだろうなぁ。」
「普通ならアレは手に入れ難いはず無のに、ここの狩人は恐ろしいわね。」
と、言う事で全員の意見が一致したので、ジギタス叔父さんは訳が分からないまま復唱して誓約させられてた。
理解しないと駄目なんじゃ?と、思ったけど。
言葉を繰り返せば良いと理解したから大丈夫だったらしい。
あかんやん誓約。
だから駆け込み寺として教会が有るんだろうし、無料になっても叱られそうではある。
大変だな教会。
ちょっとそこだけは心から尊敬する。
基本的にいい人の集まりなんだろう。
だから余計にヤバかったりするんだが。
信念の有るいい人は、多分頑固者だと思うからだ。
人の為に生きる事を苦にしないから、戦争が辛くても正義を果たす為に耐えてしまうんだろうなぁ。
厄介で恐ろしくて切なくて可哀想で、そこが尊い。
だから平民は教会の関係者が大好きなんだろうね。
自分には真似の出来ない苦労を背負ってくれる、お助けマンな人の集まりだから。
信念があって嫌な事でも耐えられるから、指揮者の正しいと感じる指示が1つあれば、それで思考を停止させて同じ方向を全員が走ってしまう。
武力の無い平民が持てる、最大の武器がそれだからだ。
アレだよ。
夜に窓ガラスを割って、バイクを盗んで走り出しちゃうヤツ。
それまで真面目だからストレスを溜め込んでるだけあって、キレるとヤバい。
そんな思春期の子供。
もしくは正しいと自分が思うコトを、グイグイしてくる真面目な学級委員長。
私はそれを思い、距離を取ろうと密かに拝んだ。
ふいに何となく、何か不便だと勘づいた叔父さんが教会に行って、理由をウチの家族に聞いて調べられて、正当性が認めてもらえずに、全方向から叱られてる光景が浮かんで、ペカーと光った叔父さんからソッと目を反らした。
叔父さん涙目。




