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初めてのチョメチョメ


日が落ちてすっかり空が真っ暗に代わり、青白い月と沢山の星が見える様になった頃。

薄い金色の髪をなびかせた美しい女性が、白銀の鎧を着た2人の騎士を連れて我が家へやって来る前のことから始めよう。


料理の続きをする為に母方の祖父マゼランが、父方の祖父マドルスの家に来たことで、私の母アローリエを含めた私達家族は、号泣していたエリザベスの復活を悟った。


「お父さん、お母さんは大丈夫?」

「あぁ。」

「ねぇ、何であんなに泣いてたの?」

「⋯さぁな。」

「うーん⋯私気になるから、お母さんの所に行くわね。

御義母さん、ウチの父が来たから一度家に帰ります。」

「はいよぉ。暗くなっとるから、気をつけなよ。」

「はい。」


祖母エリザベスが気になったのはウソでは無いとは思うけど、多分逃げたなと思われる母は、そそくさとジーニスを抱いて私達の家に戻って行く。

それを私も!ぼくも!と、カタリナとマルセロが追いかけて行った。

私は祖父マゼランの代わりに竈門から戻って来た祖母マリアが、ふぅとひと息入れて椅子に座ると、椅子から降りてトコトコと歩いて近付いた。


「なんだい?」

「お祖母ちゃんに聞きたい事が有るの。」

「そうかい。そうかい。なんだね?ばぁが知ってる事なら良いがね。」

「うん。ウチで子供を産んだ母親に飲ませてる回復薬って初級の回復薬なの?」

「うーん、種類があったかね?

それはよう分からんけど、ウチでは薬屋さんで買った薬を昔から使ってるよ。」

「そっか。ありがとう。

あとね?お祖母ちゃんが叔父さんを産んだ時、家の事は誰がしたの?」

「そりゃアンタの大婆さんだよ。」

「何日ぐらい休んでた?」

「そうねー。厳しい人じゃったから、3日ぐらいだね。」

「それじゃお祖母ちゃんはとっても大変だったでしょ。」

「そいでも昔からそうして来たからって言われりゃ、嫁では逆らえんよ。」

「それで身体を壊したりはしなかったの?」

「子を孕んでも流れることもあったし、しんどくても休む事は許されんし。だから最近になりゃ、あちこちガタがきとるよ。

でも息子達も皆独り立ちしたし、そんなもんじゃ無いかねぇ。」

「それじゃあウチの御母さんがロベルト兄ちゃんやマルセロ兄ちゃんを産んだ時はお祖母ちゃんがウチの家の事もしてたの?」

「そりゃそうさ。

でもあの子はとっても働き者でね?遠慮なんかせんでええよって言っても、薬を飲んだら元気になったからって、次の日にはピンピンして、自分で頑張っとったよ。

本当にええんかばぁも心配しとったけど、あの子は強い子だからねぇ。だけどアンタが産まれる時はそりゃもう大変でね。

そんときばかりはばぁも許さんかったよ。ちゃーんとしっかり7日は休ませたさ。

それがどうしたね?」

「今夜その時の話も出るから、私はお祖母ちゃんにも来て欲しかったんだけど、今話を聞けたから、お祖母ちゃんは好きにして良いよ。」

「ひょっとして奥様が泣いとった言うんは、そん時の話のせいかい?」

「関係はあると思う。

でも泣いてた理由はちょっと違うかな。」

「そうかね⋯うーん⋯ばぁも行ったほうが良いんかねぇ?」

「私がお母さんのお腹の中にいた時にあった本当の話を皆にしようと思うの。

そのせいでお祖母ちゃんにはとても苦しい思いをさせるかも知れないから、すごく悩んでるんだ。

私はお祖母ちゃんが大好きだから、悲しむ事も苦しむ姿も見たくないんだよ。

それでも必要だと思うから、しようと思ってる。

お祖母ちゃんは聞きたく無かったら、来なくて良いよ。」

「なんかよう分からんけども、行ったほうが良さそうだねぇ。」

「そうしてくれたら、私はとても助かるけれど、お祖母ちゃんには辛くて大変だと思う。

お祖母ちゃんに何かあったらどうしようって、考えたらとても怖いよ。」

「ウフフ。アンタは良く見える子だから不安なんだろうね。

ばぁはもういつお迎えが来ても仕方のない年だから、心配せんで良いよ。もしお迎えが来たとしても、そりゃアンタのせいじゃない。神様が決めたことさ。」

「⋯うん。お祖母ちゃん、ごめんね。」


料理をしている祖父も話を聞いていたけど、何も言わずに作業を続けていた。


「お祖父ちゃん。大事なお願いがあるの。

多分お父さんのお兄さんが腕の良い狩人だから、きっと良いお肉を持って来てくれると思うの。それを料理して欲しいんだけど、皆に温かくて美味しく食べて貰いたいから、完成する前で一度止めて、食べる直ぐ前に温められるように出来るかな?

もし無理なら冷めてても美味しい状態でいられる料理を作って欲しいの。」

「はぁ〜。言われんでもそうする。」

「うん。凄腕の料理人のお祖父ちゃんなら、いつもはそうしてると思うんだけど、今回はお祖父ちゃんにも話を聞いて貰いたいから、ずっと此処で料理をして貰う訳には行かないんだよ。」

「⋯ふむ。」

「だから話し合いの途中でお祖父ちゃんに、その料理を持って来て貰いたいから、あんまり時間をかけないように食べられるようにして欲しいんだけど⋯」

「分かった。」

「やった!凄腕の料理人だね!ありがとう、お祖父ちゃん!」

「ふん。おべっかなんぞいらん。」

「それとね。私は悪い子にならないといけないから、お祖父ちゃんも、苦しめて泣かせてしまうかも知れないの。

だけどお祖父ちゃんは強そうだから耐えてくれると思うんだ。

でもエリザベスお祖父ちゃんは難しそうだから、お祖父ちゃんはずっとお祖母ちゃんの側で支えてあげて欲しいの。

お祖母ちゃんを苦しめたい訳でも無いんだけど、どうしてもそうなっちゃうから⋯」

「⋯悪いと思うならやめればいいだろ。それともベスに恨みでもあるのか?」


お祖父ちゃんはドン!と、まな板代わりのカウンターに包丁を振り下ろした。


「ううん。恨みなんて何も無いよ。こんな事を言われても、私が何を言ってるのか何も分からないでしょう?

それを説明するにはどうしてもそうなるの。

皆に分かる様に本当にあった事を全部言えば、今日集まる人達の全部が辛い思いをしたり、苦しむと思うの。


皆が本当に良い人達なのを私は知ってるから。


分かってるのにそうするのは悪い子だって言うのもちゃんと分かってるけど、それをしないと今日来る貴族の話が分からなくて、皆が間違った行動をするのも分かってるからなの。

そのせいで、私の大好きな人達が死んでしまう事になるのが、私には分かってるから、どうしても私は悪い子にならなくちゃいけないんだよ。」


こちらをギロリと睨見つける鋭い眼光を、私は静かに見つめ返す。

土間との高さの差のお陰で、背の高い祖父マゼランを見上げるのに真上を向かなくても、その眼差しを見つめる事が出来た。


「死人が出るのか。」

「私の話が分からなければそうなるよ。それも私達だけじゃなくて、滅びる国が有るかも知れないぐらい、大きな話なの。」

「妄想では無いのか?」

「私はそれが分かる子供だから、今夜貴族が来るんだよ、お祖父ちゃん。」

「⋯信じられん。」

「普通はそうだと思う。

私だって信じたくないよ。

私は自分が変だとはわかってたけど、まだ小さいからこんな事になるなんて考えても無かったの。」


しょんぼりと俯く私に、マゼラン祖父マゼランは大きなため息を吐き出した。


「俺は頭が悪い。

難しい話は分からんぞ。」

「それを分かるようにする為に、私は悪い子になるの。」

「んんんー⋯」


ついには頭をガシガシと掻き毟ると、「教会を頼れば良いのではないか?」と言った。


「教会は駄目。それはしたらいけない1番ダメな事なの。

それをすると戦争になって沢山の人が死ぬと分かってるから、私は今夜悪い子になると決めたの。」

「そんな馬鹿な!」

「もしどうしても教会に頼りたいなら、今夜私の話が終わってからにして欲しい。

私の話を聞けばどうして教会に頼るのが駄目なのか、ちゃんと分かると思うから。

そうする為に私はどんなに怖くて辛くても悪い子になるんだよ。」

「はぁ~⋯サッパリだ。」

「うん。お祖父ちゃんて実家が農家だよね?」

「⋯うん?」

「だから戦士になってあちこちに行ったから、そこで食べた料理の美味しさに感動して、お料理に興味を持ったんじゃない?」

「あぁ⋯良く分かったな。」

「美味しい料理を食べたくて、真面目に戦士の仕事を頑張ってお金を稼いでたけど、そのうち自分でも料理するようになったんだよね?」

「うむ。そうだ。」

「そしたらお祖父ちゃんの料理目当てで仲間から褒められたり、お金持ちの商人から仕事が来たりしてた?」

「おぉ、まぁ、うん。そうだな。」

「そうやって転々と村や街を仕事で巡ってたら、この村でお祖母ちゃんに出会ったんじゃ無いかな?」

「まるで見ていたみたいに言うんだな。」

「それなら当たってるって事だよね?」

「うむ。間違っとらん。」

「お祖父ちゃんは料理に自信があったから、お祖母ちゃんと少しでも仲良くなろうと思って、同じ場所で働こうと思ったんだよね?

もちろんそれだけじゃ無くて、戦士を止めて料理をずっとしていたい気持ちになったのかも知れないけど。」

「おう。まぁ⋯うん。」

「だから私のお母さんの事もとても大好きだよね?

だってとても大好きなお祖母ちゃんによく似た可愛い娘だから。」

「う⋯」

「だからお祖父ちゃんは、お母さんが調理場に近寄ろうとしたら厳しく叱った?」

「む。」

「だってお料理する所はお肉を来る刃物が有るし、小さなお母さんが火傷するかも知れないから、守ろうと思ったんじゃ無いのかな?」

「⋯うむ。そうだな。小さな頃はよくウロチョロして危なかったから、厳しく叱ったかも知れんな。俺は⋯うむ。まぁ⋯うん。」

「お母さんは大好きなお祖父ちゃんの側に行きたかったし、興味があったんだと思うけど、お祖父ちゃんが何で怒るのか分からなかったんだと思うの。

お祖父ちゃんは口下手だから、お母さんを叱る時にどうして火元でウロチョロしたら危ないのか説明しなかったんじゃ無いかな?」

「⋯⋯」

「そしたら理由が分からないけど、調理場には来たら駄目だって思うよね?お祖母ちゃんにも他の理由で厳しく躾けられてたから、そのうち調理場に来なくなったと思うの。

だからお母さんは凄腕の料理人の娘なのに料理が下手なんだよ。」

「ぬ?!」

「だってお料理を覚えなくちゃいけない年になったとき、忙しいエリザベスお祖母ちゃんに代わってお祖父ちゃんは料理を教えてやろうと思ったんだよね。

腕には自信があったから、出来ると簡単に考えた。


でも凄腕の料理人だからどうしても技術に厳しいし、弟子に教えるのと同じ様に厳しく教えたんじゃ無いのかな?

どうして駄目なのか理由も言わずに。口下手だから。


それでも弟子は育ったから、自分のやり方が間違ってるとは思って無かったんだよね。


弟子は元々弟子になる前に、ナイフを扱う経験なんかの下地になる技術があって、料理人になりたいと思う情熱があったのんだよ。

でもお母さんにはそれが無かった。

何故ならお祖父ちゃんやお祖母ちゃんが、刃物なんかの危険な事から遠ざけて育てていたから。


農村育ちのお祖父ちゃんや似た生活がして来てた弟子達は、子供の頃からナイフに触る生活をしてた。だから当たり前の様にナイフが使えてたから、お母さんみたいに初めて刃物を使う訳じゃ無い。


それなのに同じ様な指導されても、出来る筈が無いよね。

そのうちお母さんはお料理をするのが嫌になる。

だってお祖父ちゃんは何故叱るのか理由を教えてくれないから。

理由が分からない中でも、頑張って努力してるのに、下地の経験が無いから皆の様に上手く出来ない。

何時までも上達しない自分に悲しくなるの。

いつもお祖父ちゃんに叱られるから。」

「⋯⋯」

「ナイフの扱いに慣れすぎて、基本になる大事な技術の違いに気が付かなかったお祖父ちゃんは、何度やらせても下手なお母さんに、呆れて諦めたよね?

それにお母さんが可愛いから、手に傷を作ってるのを見てハラハラしたんじゃ無い?

お母さんが可愛いから、別に嫁に行かなくても家の手伝いをしてれば良いかと思って、そのうち料理を教えなくなったんじゃないのかな?

だからお母さんが農家に嫁に行くってなった時すごく慌ったでしょう。


平民なら嫁に出したら、そこで料理をするのは当たり前だから。

でも料理が下手でも農家なら、まぁ何とかやってけるかなと思ったんじゃ無い?

結婚の話が決まったら、嫌がるお母さんの為にまた厳しくお料理のことを教えたから。

今度はもう徹底的に。

だからお祖父ちゃんが来たら、お母さんは逃げちゃうんだよ。

忘れても忘れられないぐらい、その時の恐ろしくて嫌な記憶が頭にこびりついてるから。」

「⋯ふぅ。そうか。

そう言うことだったのか。」

「こんな風に自分の経験した時の話を出せば、お祖父ちゃんも私の話が理解出来るよね?

でも良い気持ちはしないでしょう?

悪い気持ちになる話をするって、悪い子のする事だよね。

でもこうすれば理解は出来る。

今夜起こる事はそう言う事なの。

だからお祖父ちゃんに美味しい料理を作って欲しいの。

皆の荒れた気持ちを、お祖父ちゃんの美味しい料理で癒して欲しいから。」

「う⋯また難しいことを⋯」

「お祖父ちゃんなら出来るよ。

だってお祖父ちゃんのお料理はとても美味しいもん。

私達が伝言を頼んだお姉さんのいた、あのお洒落なお店の料理人て、お祖父ちゃんでしょ。

お母さんは知らないみたいだけど、お母さんが危ない目に会わないように。

危ない目にあっても直ぐに助ける為に、あの店に行く様にお母さんのお兄さんに頼んだんじゃない?」

「?!」


お祖父ちゃんは愕然とした様子で、瞳を見開く。

そんなお祖父ちゃんに私はニッコリ微笑み。


「それが分かる子だからこんな事になってるって、お祖父ちゃんにも少しだけ分かってくれたかな?

じゃ、お祖父ちゃん。お料理よろしくね。」


石像みたいになって恐る恐ると私を見下ろしている祖父マゼランを残すと、次は父方の祖マドラスを探してトテトテ歩いて鳥小屋に向かった。


こうして延々と僅かな時間を惜しむ様に、色んな人達とお話して周り、4男の叔父タルクスが鹿肉のブロックをもって来たり。

父や兄が帰って来たりしてる間に、祖母エリザベスがいつの間にかバッチリと化粧を整えて、見た目だけはすっかり落ち着いた様子で我が家でお茶を飲んでいた。

まぁ⋯私と視線を合わせてくれないから、心の中は猛吹雪で荒れてるんだとは思う。

それは良い。

これからもっとずっと荒れると思うから。

でも善良で身内の中でのんびり生きて来たマリア婆ちゃんよりも、世間の荒波に揉まれて女だてらに厳しい環境を生き抜いて来たエリザベスお祖母ちゃんとではモノが違う。

うん⋯ちょっと怖いけど、大丈夫だと信じたい。

でも不安だ。

エリザベスお祖母ちゃんと接触した時間が短いから、あんまり自信が無い。

罪悪感でのたうち回りそうな気がして、憂鬱な気分になった。

そしてとうとう闇に紛れる様にして、白銀の騎士を連れた美女が私の家に到着する。


「こんばんわお姉さん!

待ってたよ!」


ドカカカドカカカ!と、響く馬モドキの足音を聞いて、私は家を飛び出した。


「待ちなさい!リリアナ!」


エリザベスお祖母ちゃんの悲鳴の様な声が聞こえたが、まぁ無視する。


「何してるの!早くあの子を捕まえなさい!」


パニックを起こしたエリザベスお祖母ちゃんが、周りの人達を怒鳴りつけるのを聞きながら。


「ごきげんよう。リリアナ。」

「うん。えーと。

サラディーン様。ギルバート様、カルマン様。

ようこそお出で下さいました。

煩い歓迎ですみません。

私の大事な身内が失礼な態度になると思うけど、ちゃんとお姉さんが良い貴族だと分かるまで、怒らないであげてね?

私、これから頑張って説明するから。」

「フフ⋯わかってるわ。

心配しなくても大丈夫よ。

でも直ぐに話は出来なさそうね。」

「うん。どうしてもお姉さんを直接見せて私が説明しないと理解出来ないと思ったから、直ぐは無理だと思うの。

また疲れちゃうと思うけど、直接お姉さんに乱暴なことをする人は居ないから、不安にならないでね?」

「えぇ平気よ、私コレでもソコソコ強いから。ギルバート達に出番は無いわ。飾りだと思ってくれて良いわよ。」

「そんなこと無いと思うけど、まぁ良いや。

あのね?工夫はしたんだけど、多分明るいから近所の人達に火事かな?って誤解されて、近付かれそうで心配なの。

なんとか出来る?」

「そうね⋯大丈夫よ。」

「お姉さんには粗末な椅子になるんだけど、座ってくれる?

粗末な食事は嫌だと思うけど、頑張って食べてくれたら嬉しいの。一生懸命準備したから⋯」

「わかったわ。こちらこそ失礼の無い様に気をつけたいのだけれど⋯」


お姉さんの前でしょんぼりと項垂れると、ポンポンと前屈みになって頭を撫でられた。

そして後ろのギルバートさんがフンと鼻を鳴らす。

まぁ仕事だからなぁ。

譲れないよな。


「ギルバートさんが味見をしてくれたら食べられるならそうして欲しいし、カルマンさんが食べられなくても、お仕事だから失礼な事じゃ無いよって説明するよ。」

「そう。悪いわね。」

「ううん。これは必要な事だと思うから。それじゃ、固まってる皆が心臓が止まりそうだから、宴会場所へ向かおうと思うの。

目眩ましとか、何か出来そうならそこでして貰えますか?」

「えぇ宜しくてよ。」


振り返ったらダルマさんが転んだ状態で、父やらムキムキなマゼランお祖父ちゃんが不自然な格好で止まってた。


まぁ、うん。

例えアマチュアでも狩人の経験のある父や、凄腕の料理人になれるまで経験を積むほど優秀な元戦士のお祖父ちゃんなら、戦う者の核の差なんて直ぐに気付くよね。

幾らエリザベスお祖母ちゃんの願いでも、私に近寄る前に塵にしかならないと分かって身動きが取れなくなったんだね。

私は一度生温かい視線を向けた後、気にせずにお嬢さんの服を掴んでトテトテと早足で歩く。


だって転ぶの嫌だもん。

お嬢さんは少し驚いたけど、クスリと微笑んでゆっくり目に並んで歩いてくれた。


「それじゃあカタリナお姉ちゃん。お兄ちゃん達が来ないように見張りをお願いねー!」

『えええーーーー!!!』

「お母さん、ジーニスは置いて来た方が良いと思うんだけど⋯無理かな?」

「うーん〜お乳は飲んだけど、泣いたらカタリナがきちゃうし⋯どうしようかしら?」

「それじゃ連れて行こうか。」


こうして引き付けを起こしかけてるエリザベスお祖母ちゃんを何とか促して、宴会会場へ向かったが。


「この度は誠に申し訳有りません。無礼のほどを何卒ご容赦を頂きたく⋯」


私の頼みを聞いてバリアみたいな魔法で何かをしてくれたお嬢さんに、エリザベスお祖母ちゃんは、へへー!といった様子で頭を低くして、腰を下げた姿勢でモゴモゴし始めた。


「私のお母さんの母親のエリザベスお祖母ちゃんです。

平民だけど、お姉さんと同じで沢山勉強して家業の宿屋をついで、沢山お店を増やしたから、多分今村で1番儲かってる商人になったスゴい女性です。

戦士のせいで中央に来れない村の娘さんを、働ける様に守っている人でも有ります。」

「まぁ!素晴らしいわ。

貴方、素敵ね!」

「は!恐れ多く⋯勿体ないお言葉を頂き誠に恐縮いたしますわ。」


お嬢さんの反応に小さくほっと息をつくと、ゆるゆるとした姿勢で背筋と腰を伸ばし、少し頭を下げた状態で視線を下げ、美しく見える手を下腹部の前に添えて頭を一度下げた。

多分貴族に対する礼儀作法なんだろうけど、パッと見ただけで大変そうだ。


「どうか楽にして頂戴。

貴族として呼び出しはしたけれど、私はリリアナの望みを叶えたいだけなの。

何があっても決して危害を加える事はしないわ。

私が侍女を連れていないのも、貴族女性として貴方達と対応するつもりが無いからなの。

今貴方の眼の前に居るのは、同じ村で働く錬成師見習いだと思って頂戴。

まぁ⋯騎士はごめんなさいね。

堅苦しいと思うけれど、コレが私がこの村で働ける条件なのよ。」

「畏まり致しました。

お気遣い頂き恐縮です。」

「皆からしたら失礼だなぁって思う態度をするかも知れないけど、騎士の人達はお姉さんを守るのがお仕事だから気にしないであげてね?」

「ヒッ!リリアナ?!」

「心配しないでエリザベスお祖母ちゃん。此処に居るのは村で働く錬成師見習いだから。」

「あ、あの!誠に申し訳有りません!孫は大変幼くまだ作法も常識も何も⋯」

「平気よ。リリアナのように楽にして頂戴。

貴方の努力に対して失礼だとは思うけれど、今はもうそれ所じゃ無いぐらい大変なの。

何せ世界を揺るがす世紀の大発見を、リリアナがしてしまったのだから⋯」

「は⋯はぁ⋯?」


苦笑を浮かべるお嬢さんに、エリザベスお祖母ちゃんはポカンとした様子で固まり、恐る恐ると私を見下ろして来たので、ニカッ!と笑った。


「まぁ皆が揃ったら説明するから、お父さん。マドルスお祖父ちゃん達を呼んて来てよ。

あ、お祖母ちゃんも来てくれるから、お祖父ちゃんが止めたら連れてきて欲しいの。

お祖母ちゃん、必要だから。」

「は???」

「今は理由が分からないと思うから、お姉さんに命令して貰った方が良いのかな?

お姉さんを持たせるのってかなり無礼だよ。

早く行って。」

「っっっ?!

わ、わかった!!!」

「貴方ねぇ⋯」

「だって朝になっちゃうから、使える物は使わないと。」


お嬢さんと騎士達から呆れた視線を向けられたから、アメリカンスタイルで肩を竦めてみせた。

そして苦笑された。

そりゃ2歳児のヘンテコなポーズだもんね。

笑いが取れて恐縮です。


エリザベスお祖母ちゃんは混乱に混乱を呼んで、倒れそうな所をギリギリで堪えてる。

そして母はジーニスに視線を向けて、怒られないように気配を薄めてた。

偲んでない忍者みたいだ。


「だからって父親を脅すのはどうなの?」

「私、かなり気合いが入ってるんだよ。それこそ命かけてるから、全力でなりふり構わず悪い子になる予定なの。」

「はい?」


訳わからんみたいな様子で、お嬢さんが可憐な感じで小首を傾げる。

気品が溢れてるけど、いつ発狂するやら。

こうして大人しくしてたら綺麗なお嬢さんなんだけどなぁ。


そしておっかなビックリな様子で、お父さんがマリア婆ちゃんの手を引きながら、祖父のマドルス、長男のジギタス、4男タルクスが姿を現す。

従兄弟にはジギタス叔父さんの4男のバッカス兄ちゃんと、3女で14歳のエターニャお姉ちゃんと、5男で12歳の末息子のセフメトお兄ちゃんがいるけど、今回は遠慮して貰ってる。

来てもらった方が面倒が無いけれど、親のメンツがあるからね。

そこは配慮した。

必要ならお嬢さんがいなくても、私とジギタス叔父さんが話をすれば良いだけだからだ。


「まぁ楽にして好きな所に座ってよ。」

『リリアナ?!』

「だってお見合いみたいだよ。結婚するわけじゃ無いんだし。気楽にしてくれないと困るの。此処にいるのは錬成師見習いの美人なお姉さんと、喋る銀色の木だと思ってよ。」

『ひぃぃ!!!』

「ね?お姉さん。」

「貴方ねぇ⋯まぁ宜しくてよ。」


平民一同がパニックを起こしかけたが、片眉を上げたお姉さんが面白そうに笑っていたので、パニックは免れた。

空気を読んでくれてお姉さん、ありがとう。


「まぁ気楽に飲み食いして欲しいけど、凄腕の狩人のタルクス叔父さんが持って来てくれたご馳走のお肉は、この村1番の凄腕の料理人のお母さんのお父さんなマゼランお祖父ちゃんが美味しく料理してくれてるから、私が頼んだら話の中頃に出して貰える様にしてるんだ。

楽しみにしててね。」


凄腕の狩人の辺りで4男のタルクス叔父さんが、バイブレーションみたいな小刻みにな動きで頭を横に振ったり、わしか?!みたいに愕然としてるマゼランお祖父ちゃんの顔が面白い事になってたけど、まぁ笑いは堪えた。

私は今頑張ってる。


「でも残念な事にお姉さんの育ちが良すぎて、私達には物凄いご馳走なんだけど、あんまり美味しく無いかも知れないの。

お祖父ちゃんは物凄い料理人なんだけど、設備が農村の竈門じゃね。

本気を出せる環境じゃ無いから、実力の半分も出せてないんだよ。

でも元戦士だから、私達が叫ぶぐらい美味しく食べられる料理にはなってると思うんだけど⋯お祖父ちゃんが実力を出せるいつもの調理場ならともかく、お姉さんには⋯。」

「食べるわよ。そんなの事言われたら食べたいに決まってるじゃない。

貴方がどんな料理で叫ぶのか、それも楽しみだわ。」

「サラディーン様⋯」

「黙らっしゃい、ギルバート。貴方は幸運よ。味見が出来るのですもの。カルマンが可哀想ね?」


迂闊なこと言ってんじゃねぇぞコラ!って威嚇したギルバートさんに、お嬢さんは挑発的に笑って返す。

そのやり取りを聞いて、多分今にも倒れそうなエリザベスお祖母ちゃんを見て、ヤバさを察したマゼランお祖父ちゃんの顔が青ざめて行く。


「つ⋯作り直す!」

「肉ないでしょ。時間も無いし。凄腕の料理人の仕事が、限られた環境でも最善を尽くさなような中途半端な真似するはずないよね。

エリザベスお祖母ちゃんの感覚は正しいから、マゼランお祖父ちゃんはビビったんだろうけど、自分を信じなよ。

最愛の奥さんによく似た愛娘のうちのお母さんが、ビビって近づけ無くなるぐらい、料理に対して真摯で真面目なお祖父ちゃんの仕事だよ?

絶対に大丈夫。私が保証する。」

「う、うぅ⋯」

「どう言う事なのかしら?」

「ウチのお母さんに料理を教えたのはマゼランお祖父ちゃんなんだけど、料理に対する情熱と真面目さが災いして、例えたら騎士並みに厳しい修行を求めたのかなぁと。

お母さん、お祖父ちゃんが側にいない時には、お祖父ちゃんは顔は怖いけど、優しい人って言ってて。

なのに竈門のいる場所にお祖父ちゃんが来たらあっという間にに逃げて行くんです。

よっぽど辛くて怖かったんだなぁと。」

「あらまぁ。何よその話。面白いわね。」

「それでお母さんが、言うにはエリザベスお祖母ちゃんて怖い人だったらしくて、お祖父ちゃんの怖さを銅貨で例えたらお祖母ちゃんの怖さは黒魔石だそうです。」

「ぶふっ⋯え?そんなに恐ろしい女性には見えなくってよ。」

「でも女性ながら猛勉強して、男性の跡継ぎを蹴落として、お金持ちな商人や荒い戦士達をやり込められる人ですよ?

そんなエリザベスお祖母ちゃんがこれだけ怯えてるから、マゼランお祖父ちゃんもお姉さんが怖くなりますよね?

最善の仕事をしたはずなのに自信が吹き飛ぶぐらいには。

それで、多分本当にその感覚は間違って無いぐらい。

お姉さんは身分の高い貴族の娘さんと言う⋯。

これを言ったら全員が石像になって、心臓が止まるかと思うので、この辺りでちょっと話を変えろうかと思います。」

「ねぇ、それ意味が有るのかしら?今まさに指摘してはいけない事を言ってしまったから、気が付いて無かった他の物が物凄く怯えているわよ。」

「はい。だから私は今からそれを直そうと思います。」

「これを?!

⋯そう。それが出来るのなら、貴方⋯あぁ⋯なるほど。 そうね。貴方は本物の黒魔石だったわね。」

「なので皆、大人しくサクサク座って下さい。」


半ば呆然としている人達を促して、なんならギルバートさんやカルマンまで椅子に座らせて話を始めた。 

話す前から疲れたよ。

ギルバートさんは少しテーブルから離れたお姉さんの右後に座ってるし、カルマンさんはそこから更にもう少しだけ離れた所に座って剣の塚に何気なく手を乗せてた。

もう男性陣がそれにビビるビビる。

面倒なのでとりあえず放置すると、私は先ずは私の話を始めたのだ。


「お姉さんの話を始める前に、私の長くなる話を聞いて下さい。

私は産まれた瞬間から、今の私でした。

でも産まれたてだったので目が見えないし、手足も動かし難くて寝返りも出来ませんでした。

まあ、赤ちゃんだったんで。

こんな風に説明しようと思うんだけど、私の言葉の意味は皆分かるかな?」

『まぁ⋯』


そりゃそうだ。みたいな顔で見てくれたので小さく頷く。


「え?産まれた時から今の貴方ってどう言う意味なの?!」

「はい!

皆さんちゅうもーく。

今お姉さんが私に質問しました。皆さんこの質問の内容が分かりますか?」

『????』

「では説明します。

普通の赤ちゃんが産まれた時には、多分今の私みたいにお喋りをしたり、物を考えたり出来ないと思います。

もっと言えば普通の2歳児もそうだと思います。

私みたいに説明したりお喋りが出来る様になるには、平民じゃ大人になっても無理だと思います。

多分お姉さんみたいな環境で育った女の子がお姉さんぐらいの努力をしたら、お姉さんの年になった時、今の私ぐらいになるのかな?と私は考えてます。

つまり私は産まれた直後から、大人の考える力を持った赤ちゃんだった。

それをお姉さんは分からないと思ったんです。

産まれた時から大人の考え方を持った事に疑問を感じたんです。

と、言えば分かりますか?」

『は?!』

「では説明を続けます。

私には産まれた時から物を考える力がありました。

だから私は自分の中でしか通じない言葉を作りました。」

「そんなこと可能なの?!」

「例えば『空』『机』『コップ』今言った単語、みんな意味が分からないよね?

『空』は空、『机』は机、『コップ』はコップと言う意味になります。」

「し⋯信じられないわ⋯」

「不思議ですよねぇ?皆は不思議に思いませんか?

自分だけに通じる言葉を誰にも教わらずに作れる人、ここにいます?」


マリア婆ちゃんとお母さんは途中から話が分からなくてニコニコしてる。多分貴族に緊張するの飽きたか慣れた。

何故なら皆が同じ表情で驚いてポカンとしたからだ。

そうお嬢さんもギルバートさんもカルマンさんもエリザベスお祖母ちゃんも怖い人達が全員間抜けな顔をしてるから、緊張感が解れたんだと思う。

さて、続けよう。


「そして私はお腹が空いたら甘くて美味しい水を飲ませてくれる大きな人間と、お尻がウンチとかで気持ち悪くなったら、綺麗にしてくれる小さな人間に気が付きました。

つまり母と姉です。

だから私はお腹が空いたら、自分で作った言葉でお母さんと呼びました。ね、お母さん。」

「え?なぁに?」

「私、産まれた頃よく『お母さん』って、言ってたの覚えてる?」

「んー、そんな音だったかは覚えて無いけど、聞いた気がするわね。」

「『お母さん』は「お母さん」って意味だったんだよ。私が自分で作った言葉なの。」

「へぇ~そうだったの。知らなかったわ。だから時々お母さんには分からない言葉を喋ってるのね?」

「そう!そうなの!

これってエリザベスお祖母ちゃんとマゼランお祖父ちゃん以外の人達全員が聞いた事有ると思うんだけど⋯覚えてるかな?」


「あー!時々意味の分からん呟きって言葉だったのか!」


と、お父さん。


「ワシもよう聞いたな。」


と、マドルスお祖父ちゃん。ちょっと得意げ。私が凄腕の料理人て褒めたマゼランお祖父ちゃんは知らないって聞いたからかな?


この作り話は私が誤爆した時の言い訳だ。

だって沢山話そうとしたら、間違い無く誤爆する。

それを繰り返しても不審に思われない様に下地を作った。

だって前世の言葉とか説明するの嫌だもん。

まだこの世界の魔物と勘違いされる方が良いと思う。

それはそれで厄介だけど、つまりこの創作話は私の保身だ。

そしてこの話を聞いて、お嬢さんもウンウンと小さく頷く。


「そうね。私も確かに聞いてるわね。たしか⋯ごおくにぇんだったわ。」

「『五億円』ですね?」

「そうよ、それ!それって何の意味が有るの?」

「数です。自分が作った数ですよ。」

「まさか貴方、そんな物までえ?それでは計算は?!」

「何せ考える事しか出来なくて暇だったので、自分で数を数えてました。それが数だと分かったのはかなり後ですけど。」

「待って?貴方まだ2歳よね?」

「私の感覚ではかなり後なんですけど、多分1歳ぐらいだったかなと思います。」

「まだ1年前じゃ無い!」

「何せ2歳しか生きて無いので、私からしたら人生の半分前ですね。」

「あぁ⋯貴方にとってはそう言う感覚になるのね?つまり私からしたら10歳前後と言った感覚だと言いたいのね?」

「はい!正解です。

さて問題です。私とお姉さんの会話が分かったのは人は他に居ますか?」

「ん?どう言う意味だ?」

と、お父さん。段々話について行けなくなって飽きてきたギルダス叔父さんや何とか理解しようと真面目に悩んでるタルクス叔父さん。

まぁマリア婆ちゃんやお母さんは元からあまり人の話を聞いて考えるのは苦手と言うか、あまり訓練されてないので除外するけど、エリザベスお祖母ちゃんぐらいかな?

私とお姉さんの話にギリギリついて来れてるのは。

お父さんも半分以上分からなくてなってきている。


「今私とお姉さんの会話が理解出来てるのって、ギルバートさんとエリザベスお祖母ちゃんぐらいだと思います。


カルマンさんが近い感じで、それにギリギリ食いついてるのがお父さんとタルクス叔父さん。

もうマリア婆ちゃんやお母さんは飽きて完全に流してるし、ギルダス叔父さんやマゼランお祖父ちゃんやマドルスお祖父ちゃんは考えるのが苦手だから、嫌な気持ちになって来てますよね?もうよーわからん!

て、思っていませんか?」


『あ、うん⋯』


ギルバートさんとエリザベスお祖母ちゃんは、当然です。みたいな感じでお澄まししてるが、マリア婆ちゃんとお母さん以外は罰が悪そうな顔になってる。


「さて、今のが考える力です。考える力が無い人はマリア婆ちゃんやお母さんみたいに、あーなんか言うとるわ。みたいに理解しようとは思いません。出来ないのが当たり前な生活をしてるからです。

マリア婆ちゃんはマドルスお祖父ちゃんが考えてくれるので頼れば済むし、お母さんにもお父さんがいるのと昔の環境のせいでそう言う性質になったんだと思います。

コレ意味が分かる人と分からない人がいるので、後で説明しますね。

多分マリア婆ちゃんもお母さんと同じ理由だと思うんで。

それでマドルスお祖父ちゃんやお父さんやタルクス叔父さんに考える力があるのは、教会の勉強がそんなに苦手じゃなくて、楽しかったですか?」

「あぁ、まあ。」

「うむ。神話が面白かったな。」

「俺も得意ではあったぞ。」

父、叔父、祖父の順番で、ウンウンと頷いている。


「そしてジギタス叔父さんやマゼランお祖父ちゃんは、教会の勉強大嫌いだっんじゃ無いですか?もう遊びたくて椅子に座ってるのも嫌で、身体を動かすのが好きな男の子だったんじゃ無いかと思いますが、どうですか?」


「ああ。そうだな。」

「俺もそうだ。嫌だったな。」


ジギタス叔父さんとムキムキなマゼランお祖父ちゃんが罰が悪そうな顔で渋々同意する。


「カルマンさんもジギタス叔父さんやマゼランお祖父ちゃんと同じ様に、身体を動かすのが大好きなタイプだったのに、貴族に産まれてしまったから、嫌々でも勉強を詰め込まれてました?」

「うむ。違うと言いたいが、だいたいその通りだ。」

「そしてエリザベスお祖母ちゃんは、他人任せに生きるのが嫌で、夢の為に親を説得して勉強する環境をもぎ取ったし。

お姉さんも周りを見返すとか、窮屈な生活から自由になりたくてとか言った理由で、必要以上の努力を重ねて今ここに居ますよね?」 

「フン、腹立たしいほど的確ね。正解よ。」

「まぁ私は話してましたからね。」


ツンとしてるけど楽しそうなのがお嬢さんで、エリザベスお祖母ちゃんは苦笑を浮かべている。


「ギルバートさんは分かりません。多分勉強するのは苦にならない性質の人。でも騎士になった。運動が好きと言うよりも、何でも器用にこなせた人。でも騎士に誇り持ってる。

まぁ考える力は十分に持ってる人としか言えません。」

「フ⋯的外れでは無いな。良く見ているものだ。」


「さて自分の立場になって考えたら、同じ人間でも色々と違うと分かると思うんですが、今私が言いたいのは『考える力』と、言うものです。

不思議だし、不自然ですよね?

普通は育った環境とか自分の努力で磨いて行く能力なのに、何故私は生まれながらこんな能力を持っていたんでしょう。

その理由に心当たりの有る人がいます。

そうですよね?ジギタス叔父さん。」

「うん?は?俺?!」


興味がないもんで聞いてるフリをしていた叔父さんが目を白黒させた。


「え?何の話だ?」

「もー!飽きて聞いて無かったでしょ。貴族様が居るのに気が抜けてるでしょ。」

「あ、まぁうん。」

「貴族って聞いてたのに、思ってたよりもいい人達だから、安心したんだよね?」

「まー、良い貴族の人達だなとは思う。」

「私、騙されてないよね?」

「うん、それはよう分からんが⋯」

「馬車をとめたら切り捨てる人達だと思う?」

「それは思わんだろ。

そんな悪い貴族なら、もう切られちまってるだろうが。」

「それって教会で習ったからだよね?」

「まぁな。」

「勉強は嫌いなのに、ちゃんと聞いてたんだね。」

「そりゃ知らんと死ぬことになるんなら、聞いとくだろ。」

「お母さんもお祖母ちゃんも、この話は覚えてた?」

「んにゃ。知らん。」

「んー、貴族が怖いのは覚えてるけど〜」

「マリア婆ちゃんは、忘れてたのにどうして今夜参加するのか、悩んだの?

私のために来てくれたけど。」

「爺さんが騒いどったから、ヘタこいたら迷惑じゃろ。」

「ありがとう、お祖母ちゃん。」

「とまぁ、皆教会で勉強して来たから、貴族は怖い!危ない人!って教えを覚えてるんだよね。

特にエリザベスお祖母ちゃんはもっと詳しい知識を勉強して来たから、失礼な事をしたらどんな貴族でも、とても危険なのが分かるんだよね?」

「えぇ⋯そうね。礼儀作法はしっかりと学んできたわ。」


「じゃあ皆に聞くね?

教会で働く人達の悪い事をしたお話は勉強した?」

『は?』

「してないんだよね?」

「そりゃそうだろ。神様に仕えとるんが悪さする筈ねぇよ。」

『ウンウン』

「それって変だよね?

だって貴族には良い人と悪い人がいるんだよ?

平民だって盗みを働く悪い人と、人の役に立つ優しい良い人がいるのに、教会で働く人達だけが悪く無いだなんて変だよ。」

「はあ?」「うん?」「⋯⋯」

「どういうこった。」「うーん⋯」


「理由はね。教会で働く人は自分達が悪い事をしても気が付いて無いか、隠してるからだよ。」

「そりゃ失礼だろ!」「あんま悪口言うんでねぇよ。」「もーリリアナったらぁ。」『⋯⋯』


「もう考える力を持ってる人達は、全員が何となく分かって来てるよね?私の言葉の正しさが。考える力の無い人達はそれが分からないだけで。」

『は???』

「私の言葉が分からなければ、考える力を持ってる人達の表情を見てよ。エリザベスお祖母ちゃんもお父さんもタルクス叔父さんも、理由までは分からなくても、違和感を感じてモヤモヤしてるよね?

そして教会で働く人の中にも悪人になる人がいる事を知ってるお姉さんや騎士さん達は、澄ました顔で皆を見てるよ」


なにっ言ってんだ?みたいな様子で、お姉さん達を見た皆がギョッとしている。


「私も教会で働く全ての人が悪いとは思ってないよ。

でも教会で働く人は物凄い悪人になる人が居るのも分かってるの。

理由はね?

貴族の悪い人達の事を教えてるのに、自分達の中にいる悪い人達の事を黙って隠してるからなの。」

「そ、そんな馬鹿な⋯」

「あり得ん!」

「これだから物を知らん子供の言うこたぁ~」


「もうエリザベスお祖母ちゃんもお父さんもタルクス叔父さんも分かって来たよね?

教会の怖さを。

教会は自分達は正しいと、平民の皆を教育して、考える力の無い人達をそう信じ込ませてるの。

そして自分達を正しいと説明する為に、貴族は悪人だって例を作って分かりやすいように教えているんだよ。

考える力の無い人は自分が信じてる教会をけなされたら、腹が立つよね。

今私がしてる事をこんなに声を荒げてるのも」

「神様を悪く言うな!

このバカッタレが!」

『⋯⋯⋯』


テーブルをドン!と叩いて立ち上がり、息を荒げて怒鳴りつけたのはジギタス叔父さんだった。

私はお嬢さんの隣に座ってたから、ギルバートさんとカルマンさんが身動き1つ取らずに気配だけでスッと警戒する。


「なんぞ、どーしたぁ⋯ジギタス。」

「コイツ!神様を馬鹿にしやがった!」

「はぁ?何を言うとる。」

「だって今!⋯」


マリア婆ちゃんがビックリして声をかけたら、ジギタス叔父さんは興奮も露わにして私を指差したが、マリア婆ちゃんがとぼけたことを言うので少しだけ気が紛れたのか、ここで初めて周りの誰もがジッと自分を見つめている異様さに気付いて言葉を失った。


「リリアナはなんも神様のことなんて言うとらんよ。

もうアンタはええ年なんだから、ちょっとは落ち着かんか。お客さんに失礼じゃろ。」

「は?」


ジギタス叔父さんはどうして自分が母親に叱られたのか理解出来ずにポカンと硬直する。


「ジギタス叔父さん。私は教会で働く人の中に悪い人がいたらと話してたけど、神様の事なんかひと言も出して無いよ。

それにそんな勘違いをしたのは叔父だけなんだよ。」

「な⋯」

「何でそうなったか分かる?

叔父さんには人の話を聞いて考える力が足りて無いからなの。

マリア婆ちゃんがジギタス叔父の間違いに気が付いたのは、頼ってるマドルスお祖父ちゃんが落ち着いてたから、私が話した話の内容を聞いた事だけを伝えてるだけなの。


マドルスお祖父ちゃんが落ち着いてたのは、自分で考える力が有るから、私の話が分かって間違わなかったんだよ。

でもこれだけ説明しても、叔父には分かって無いから、叔父さんにわかり易く説明するね。


叔父さんは思い込みが強くて判断を間違えやすい人なの。

だから跡継ぎにはなれない人なの。」

「は⋯?」

「今はまだマドルスお祖父ちゃんが生きてるから、お祖父ちゃんの言う事を聞いて鳥を育ててるだけで済んでるけど。

お祖父ちゃんが死んだらどうなると思う?

想像してる事を言ってみて。」

「そ⋯それは⋯」

「言いにくい?

弟が継ぐはずの鳥の仕事を自分が継いで、息子に継がせようと思ってるよね?」

「っっ⋯それは親父がそうしろって!」

「マドルスお祖父ちゃんは正しい判断が出来る人だけど、年を取りすぎてしまったの。

だから自分が居なくなった後に残されるジギタス叔父さんが心配で、判断を間違えてしまったんだよ。」

「な⋯親父まで馬鹿にすんのか!」

「叔父さん。興奮してまた勘違いしてるよ。同じ間違いを繰り返してるの気がついてるのは、叔父さんだけなの。

周りをみて?

もし私が間違った事を言ってたら、皆がそれを間違いだって言ってくれるよ。

マルセロお兄ちゃんがニョロニョロに噛まれた時、私が口を使って毒を吸い出そうとしたのを、他のお兄ちゃんやお姉ちゃんが止めてくれたようにね。」

「な⋯なにを言ってるのか」


キョロキョロと瞳で皆の様子を見て、隣に座ってるマドルスお祖父ちゃんのため息を聞くと段々と元気が無くなって行く。


「叔父さん。

本当は分かってるよね?

だからお祖父ちゃんやマリア婆ちゃんの面倒を見てくれてるし、ウチのお母さんが私を妊娠して具合が悪かった時も、命がけで森の奥に行って精霊実を取りに行ってきてくれたんでしょう?」

「な⋯ど、どうしてそれを⋯」

「叔父さんは凄腕の狩人じゃ無いけど、獲物を狩る技術が優れた優秀な狩人だからだよ。

森の奥に価値の高い、珍しい果物が有る事をお父さんに教えたのは叔父さんだよね。

だからお父さんは危険を承知で森に取りに行きたかったけど、2人で奥に行くのが危険な事は、考える力が有るから避けたと思うの。

だからタルクス叔父さんに相談して3人で森の奥に行ったんじゃ無い?

ねぇ、私の話。間違ってる?」

「⋯それは⋯」

「叔父さんがもし勉強を頑張って考える力をつけてたら、タルクス叔父さん以上の凄腕の狩人だったと思うの。

でもそうじゃ無かった。

だから叔父さんが弟子入りした狩人の師匠は、叔父さんに考える力が足りない事を見抜いたから、危険な狩場に行くことを禁止したんじゃ無い?

そして考える力が足りなくても生き延びられる様に、それこそ徹底的に身体で覚え込ませて厳しく指導したんだと思うの。

だから年を取っても森の奥に行く力を持ってたんでしょう?」

「⋯そ、そうなのか?」

「才能が無いとでも馬鹿にされてた?意地悪な師匠だと、腹が立って狩人が嫌になった?

叔父さんは考える力が無いのに、ある程度の危険は凌げてしまうほど、獲物を狩る才能と技術があったんだと思うの。

多分叔父さんの師匠は、それを危険だと考えたんじゃ無いかな?

だからマドルスお祖父ちゃんに、それを伝えたんじゃ無いの?

狩人が嫌になるように仕向けるから、死なせたく無ければ鳥を育てさせろって。」

「⋯あぁ、そうだな。」

「な?!親父???」

「ジギタスは狩人に憧れて努力したもんで、技術は優秀だったんだそうだ。

でも考える力が無いから、罠を上手くしこめんかったり、獲物の行動を読むのが苦手で、金になる獲物を捕まえる事が出来んかった。

それでも若い頃はまだ稼げた。遠くにいる獲物を狩る弓の技術があったからだな。

だが年を取り、筋力が弱くなるにつれて、獲物を持って帰るんが段々と難しくなってたんだろうよ。

思うように獲物が取れずに深追いして、怪我するのもしょっちゅうじゃった。

だからコイツの師匠が憎まれ役を買って出てくれたんだ。

狩りが好きなコイツがウンザリするほどな。」

「そ⋯そんな⋯こと」

「考える力が無い叔父さんには、分からなかったんだね。お師匠さんの思いが。

そして叔父さんはお父さんに引け目を感じるようになったんだね?

つまらないと思ってる畑の作業を押し付けて、稼ぎのある鳥の仕事を奪ってしまったと思うから。

だからお母さんが弱って行く姿を見て、何とかしないといけないと考えたんでしょう?

少しでも弟のために成りたかったんだよね?」

「⋯⋯」

「だってお母さんがここに嫁ぐ条件は、鳥を含めた稼ぎがある農家だったから。

多分マドルスお祖父ちゃんが死んだら、叔父さんが鳥を継ぐのがバレるよね。

叔父さんだけは、考える力が無いから上手くやればバレないと思ってたかも知れないけど、エリザベスお祖母ちゃんはとても有能だから、きっと直ぐにバレて卵での仕事が難しくなるぐらい、叩かれたと思うんだよ。

農村に村で1番お金を稼いでる商人を怒らせてしまうから。

下手したら力ずくで離婚を迫られて、お母さんは連れ戻されたかも知れないね。

叔父さんはそこまでしないと思ったかも知れないけど、エリザベスお祖母ちゃんはやると思うよ。

考える力のあるお父さんは、それが分かっていたから、エリザベスお祖母ちゃんが恐ろしかったんだよ。

大好きなお母さんを連れ戻されてしまうから。

ジギタス叔父さんも上手く仕事が続けられ無くなると、考えてたと思う。

だから上辺だけでも名義をお父さんにするように、言ってたと思うけど。

叔父さんは兄としてのプライドがあるし、馬鹿にされたと過剰に反応してたから、上手く行って無いんじゃ無い?

それでエリザベスお祖母ちゃんにボコボコにされて、家族が養えなくなって初めてお母さんに絆されて復縁して貰えたかもね。

だってお母さん、お父さんが大好きだし。叔父さん達も好きだと思う。

優しく親切にしてくれるから、エリザベスお祖母ちゃんに連れ戻されてたら、多分弱って死んじゃいそうになってると思うの。

お母さんからしたら、憧れの母親と自慢の父親から無能扱いされてる不出来な娘だから。

お父さんに守られて初めて、呼吸が出来たと思うぐらい、追いつめられてたと思うの。

それぐらいエリザベスお祖母ちゃん達は、お母さんにとったら毒親なんだよ。

そりゃもうヤラマウトの毒に匹敵するから、一緒には暮らして行けないの。」

「不愉快だ!帰るぞ!!!」


今度はマゼランお祖父ちゃんが立ち上がり、エリザベスお祖母ちゃんの腕を無理矢理引きずって離れようとした。


「逃げないでよ!

真実(ホント)だからって。」

「何?!」


私が鋭く呼び止めたら、元戦士のお祖父ちゃんは聞き捨てならない台詞に、反射的に反応して足を止めた。


「自覚あるよね?

少なくてもエリザベスお祖母ちゃんはもう自分がしてきた事を知ってる。

だから今、お祖父ちゃんはエリザベスお祖母ちゃんを守る為に離れようとしてるよね。

でもそれ、1番やったら駄目な事だよ。

それってさ。

料理をしてるお祖父ちゃんに興味を持って近付いた、小さかった頃のお母さんを調理場から怒鳴って遠ざけた時と、同じ事を繰り返してるの。


エリザベスお祖母ちゃんは戦える人だよ。

だからマゼランお祖父ちゃんの仕事は、エリザベスお祖母ちゃんが折れない様に側で支えてるだけで良いの。


危ない場所に一緒に立って、静かに見守ってあげてよ。

危ない時には手を添えて包丁の握り方を教えて欲しいの。

焦げた料理を作っても、黙って食べて、次は頑張れって言ってあげたらいいの。

それを自分で考えて見つける力があったら、お祖父ちゃんは毒親になんてなってなかったよ。

お祖父ちゃんは凄腕の料理人なんだから、1回失敗した事を何度も繰り返さないで。」


何とか言い返そうと口を開いても、口下手なお祖父ちゃんはエリザベスお祖母ちゃんの手を握り締める事しか出来ない。


そんなお祖父ちゃんに、エリザベスお祖母ちゃんがそっとムキムキな胸元に手を添えて小さく「貴方⋯」と、呟いた。


「席に戻って座って。

私も今すごく辛いの我慢してるの。2歳児に負けて逃げるだなんて元戦士が笑っちゃうね。」

「⋯ふぅ。」

「フフ⋯毒親に毒を吐く娘を持つなんて、アローリエも不憫なことね。」


持ち前の勝ち気な性格で微笑を浮かべ、ムッツリと不機嫌になったムキムキなマゼランお祖父ちゃんを連れて席に戻った。


「お騒がせして失礼しました。」

「いいえ、いいのよ。

不謹慎で申し訳無いけれど⋯見てる分には面白いわよ。」

「まぁ。口の回る孫が爺と婆を虐めるのが、そんなに面白いですか?」

「ついでに叔父もやられてるわよ。」

「こんなのまだ序の口です。

私は今日は悪い子になると決めてるの。だから話を続けます。」


「もう皆、嫌な思いをして分かって来たと思うけど、私ね。

人より考える力が多いみたいなの。

私が作った言葉で言ったら『ギフト』って言うんだけどね。

意味は神様からの贈り物って言うんだよ。」

『ギフト⋯』

「私はまだ物知らずだから、神様以上の人を知らないから言うんだけど、私が思う神様は人間が出来ない事が出来る人なの。

ねぇお姉さん。錬成師見習いから見て、魔法生物として産まれたての赤ちゃんに、大人みたいな考える力って人間が持たせられるかな?」

「魔法生物を人で作るのは禁忌よ。そして作れるかと言えば、答えは分からない。が、正解ね。

だって実験される子供が可哀想だから、実験が禁止されてるの。実験出来なければ、作れるか作れないかは分からないわね。

ただ⋯難しいと思うわ。

それこそ何万人の子供を犠牲にしても、今の技術じゃ作れないんじゃないかしら。」

「うん。私もそう思う。だから神様の贈り(ギフト)って言うの。まぁ本当に神様がそんな事をするとは思ってないから、不思議な現象をギフトって呼んでも良いけどね。」

「ではそうしましょう。

神を軽々しく使うのは不敬よ。」

「はぁい。じゃ不思議な現象をギフトって言うね。

そこで、この私のギフトなんだけど。

実は物凄く私に毒なの。

考える力が有るから、カタリナお姉ちゃんが悪い事をしたマルセロお兄ちゃんを殴って叱ったのを見て、アレをしたら駄目だからこうしようって、直ぐに考えちゃうの。

産まれたての私が考えた事は、泣くのは迷惑だって事。

叱られたマルセロお兄ちゃんの泣き声が煩くって、すごく不愉快だったのね。

だから泣いたら駄目って思って我慢してたの。


でも泣かないと誰も来てくれないから、私だけの言葉を使って呼んでたんだけど、意味が伝わらないから来て欲しい時に来てくれないの。

仕方が無いから皆の出す音を聞いて一生懸命覚えて、やっとお母さんって呼んだら、美味しいご飯を飲ませてくれる大きな人が来てくれたの。

私はそれが嬉しくて、どんどん言葉を覚えたの。

するとアレコレ言葉の意味を聞くから、周りの人はスッゴク迷惑で、カタリナお姉ちゃんにビックリされた後で、最初は喜んでくれてたのに、そのうち面倒臭くなって嫌な顔されちゃったんだよ。

だから黙って人の言葉を聞いて覚えて、必要な時だけお話したり。知りたくて我慢出来ない事だけ聞いて教えて貰ったりしてたのね。

それでも私が満足する答えをくれる人は少なくて、何時もイライラしてた。


そのうち考える力があるから、指や足を訓練すれば、自分でトイレに行けるようになったし、服も着られるようになったんだけど、子供がする遊びが全然面白くないの!


私からすれば、走ったら転ぶから怪我をするから走らない。

って考えるの。

転ぶのが分かってるのに走るなんて、信じられない!って思ったら、楽しそうに走って笑ってる子供の中で、私1人だけ楽しく無くなっちゃったの。」

「それは酷いわね。

身体の発育に問題が出るのでは無くて?」

「うん。だから私は他の子供よりも足は遅いし、力も無いし、何も楽しくなくて、でもマルセロお兄ちゃんは私の子守りだから、1人で離れたら叱られるし。仕方が無いから、お兄ちゃん達が遊んでる近くにあるフランを食べて過ごしてたね。

酸っぱさの無い甘い物を探して食べるのが、たった1つの楽しい事だったから。


そしたらキャー!って悲鳴が聞こえて、ビックリして見たら小さな子供がお姉さんの後ろに逃げてて、大きなお兄ちゃん達が何かをしてたの。

私は子供は考える力が足りないから、何か危ない事があったのかと思って、急いで駆けつけたのね。

そしたら首をナイフで落とされたニョロニョロの近くに、マルセロお兄ちゃんが足を抱いて蹲ってたの。」

「それって前の事件よねぇ。あの時は本当にビックリしたわぁ。」

「うむ。無事で本当に良かった。」


母が思い出す様にして、上を向いて呟けば、腕を組んで俯いてた父も静かに同意する。


「まぁこの話は知ってる人もいるけど、私が初めて話す事もあるから、聞いて欲しいんだけど。

ギフトがあるから、私は直ぐにお兄ちゃんの命が危険だと分かったの。

だから1番足の早い人!って言ったらマルクお兄ちゃんが俺!って言ってくれたから、ニョロニョロの頭と身体を持って走って行って貰ったのね。


ギフトのお陰で、お父さんが狩りで取って来る鳥と、ウチで育ててる鳥と種類が違うから、お父さんが危ないって言ってた森のニョロニョロとは違うかも知れないと考えたの。

それで、もし使う薬に種類が有るなら、何に噛まれたか分かった方が良いと思ったんだけど。

次に時間が足らない事がギフトで分かったの。


お父さんが大人でも鐘1つなるまでに薬を飲まないと死ぬって言ってるのを覚えてたから。

歩いて鐘1つかかる所にいるのに、幾らマルクお兄ちゃんの足が速くても子供のマルセロお兄ちゃんが保たないと感じて、移動する方法を考えたの。


でも先に毒を減らす方が良いと思ったから、移動する方法を考えながら、足を布で縛ったり、口で吸い取る考えを伝えたり、傷口をナイフで切って傷口を広げて毒の血を出した方が良いかとか。それはもう頭が破裂しそうなぐらい沢山沢山考えて、言葉にしたの。

駄目な考えは、周りにいたお兄ちゃんやお姉ちゃんが反対してくれて、良かった案は私が思いつかない方法で叶えてくれて、小さな子供も大きな子供も私も皆一生懸命になって、マルセロお兄ちゃんを助けようとしたの。


でも直ぐに何もかも足らない事がギフトで分かって悲しくなったの。皆自分が出せる以上の力を出して、私も一生懸命皆に指示して、それでもどうしても時間が足りなくて。

エリザベスお祖母ちゃんの仕事が大事だと分かったのは、私が指示した経験があったからなのね。

私が指示しなかったら、皆でオロオロしてただけだったけど、あの時は皆が私の言う事を聞いてくれて、1つの事に集中出来たんだよ。

そしたらね!

間に合わないと思ってたのに、マルクお兄ちゃんがボロボロになってカタリナお姉ちゃん達を呼んでくれたお陰で毒消しが届いたの。

ぱー!と眼の前が明るくなって頭がクラクラしたよ。

それまでギフトで考えた予想はほとんど間違えた事無かったのに、初めてギフトがハズレたの。

そしたら世界がキラキラしたんだよ。

楽しくなくて皆に混ざれ無かった私が、初めて皆と助け合って、ギフトがハズレてマルセロお兄ちゃんが助かって。

スゴいと思った!

神様が来た!って感じたの。

毒消しが何なのかを知りたくて、知ったら作りたいと思ったり。

初めて甘いもの以外で夢中になれるものが見つかって、スゴクすごーく嬉しかった。

だから私、必死になって錬成師になれるように頑張ったの。

話が聞きたくて錬成師のお店に行って、お姉さんに嫌な顔されても諦めずに粘って。

お金なんて簡単に稼げる!

だなんて、私を精一杯大きく見せて。

本当は稼げる方法はギフトで分かってたけど、簡単とは思って無かったのよ。

でも頑張れば集められるお金が理由で諦めたく無かったの。

少しでもお姉さんの興味を引きたくて、私の全ての力を振り絞って使ったの。


だから⋯失敗した。

子供みたいに先の事を考えてなくて、少しでもお姉さんに気に入って貰ったら、錬成師になる為のお話や私の知らない知識をくれると思って。

こんなに大変な事になるだなんて全然思って無かったんだよ。

少し考えたら分かるのに、そこにギフトを使わなかったの。

だって錬成師になりたかったから。でも今なら分かる。


ギフトをちゃんと使ってたら、産まれて来なければ良かっただなんて、思わずに⋯済んでたと思うから!」

「フギャーン!」

「あらあらあら⋯」


他の人達が怒鳴ったりしても寝てたジーニスが、私が机を叩いたら突然泣き出した。

母が私の隣に座ってたせいもあるかも知れないけれど。

私は胸が詰まってしまってたので、耳をつんざく激しい泣き声に構わず、ジッとテーブルを睨んで涙を零してた。


「あんれま、悪い子になる言うたが、そう言うことかいな。

まったく親の前でろくでも無い事を言うもんだ。婆ちゃんも苦しいわ。」


お母さんが座ってる後ろに置いてた籠にジーニスを置いてオムツを変えてたら、対面側の左手奥ににいたマリア婆ちゃんが呆れた風で、トロトロと歩いて来る。

そしてシワだらけの手で、私を抱き締めて大きなため息をこぼす。

私は斜め後ろに身体を振り向かせて、背中がまがって胸だかお腹だか分からないフカフカの場所に顔を埋めてしがみついた。


「私はな。アンタの言う言葉は難しゅうてよーわからんが、大人にチビの言葉が分からんのは普通の事さね。

だが見てりゃ、なんぼでも分かる事もある。

婆ちゃんは沢山のチビを育てて来たからね。

難しいことをポンポン言わんでも、アンタが苦しんどるんは見たりゃ直ぐ分かるんよ。」


何度も深呼吸して心を落ち着かせる。甘えて泣くだけでは駄目なのが分かっているからだ。

私は騎士にならなければならないと、漠然と取り留めもなく思っていた。


「ありがとうお祖母ちゃん。

落ち着いた。

ここまで歩かせてゴメン。

マリア婆ちゃんの気持ちは嬉しいけど、やっぱり私は言葉を使って、私が知った知識を皆に伝えたいの。

皆を守りたいから。

死んだほうが良いなんて、思いたく無い。

マルセロお兄ちゃんが間に合わないって思っても、諦めたく無かった。

あの時に頑張れば私が欲しい幸せを掴めると、私は学んだから!私は知ってるから!

私は皆に協力して貰いたい!

あの時の子供達みたいに!」


マリア婆ちゃんの柔らかい場所から顔を挙げて叫んだ、

それから身体を前に戻して、皆の顔を見渡す。

私の左手にお嬢さん。

その右手後ろにギルバートさん。

少し離れた左手奥にカルマンさん。

お嬢さんの左手側にエリザベスお祖母ちゃん。隣にマゼランお祖父ちゃん。

その横にマドルスお祖父ちゃん。1つマリア婆ちゃんの席が空いて、横にジギタス叔父さん。

ジギタス叔父さんの正面がタルクス叔父さん。

その時にお父さん。

その横にジーニスの世話をしてるお母さんの席があって、私の場所からはタルクス叔父さんやお父さんは少し見えにくいけど。

それでも皆が私を見ているから、涙を流しながら声を挙げる。


「お姉さんは最初は私の師匠になる人だと思ったの。

私が欲しい知識を持ってて、私が考えた事を直ぐに分かってくれて、褒めてくれたから。


貴族とか騎士がいるからとかじゃ無くて、沢山勉強したエラい人だと思ってた。

でも泣きながら、私に自分の夢を教えてくれたの。

私の見つけた秘密を世界に伝えたいって言ったのよ。

私には小石にしか感じないそれを、宝物だって言って大事にしてくれたの。

じゃああげるって言ったら要らないって言うの。

自分が見つけたものじゃ無い。

私の宝物だからって。

お姉さんは私が見つけた小石が心から欲しいのに、それは宝石だから捨てないでって言うの。


騎士を連れたお金持ちなお姉さんがだよ。

分かる?

お姉さんはそんな事をしなくても、簡単に私から取り上げられるし、私だって自分から渡すのに。それは誇りが許さないって言うの。


私はその宝石が危険だと感じたから、小石に見えたフリをして捨てたかったけど。

嬉しかったんだよ。

私はその宝石より家族が大事だから、宝石に見えないフリして諦めようとしてたのに。

そんな事しなくて良いって言ってくれたから、本当に嬉しかったの。

その時に私、気がついたの。

お姉さんは私の師匠じゃ無くて、初めて出来たお友達なんだって。

私、どうしても子供の皆を友達だと思えなくて、友達のふりしていつも一人ぼっちでいたから。

同じものを好きで、話があって、私がしたことを心から驚いて思いっ切りヤキモチやくくせに、沢山褒めてくれるの。

だからお姉さんがいつの間にか、私のお友達になってたんだよ。

だから私は家族の皆に伝えたいの。

私は貴族に騙されてなんか無い。

自分の目で見て、感じて、沢山疑って考えて、それでも心から友達だと思える素敵な人だから。

どうか私の友達を信じて話を聞いて欲しいなって。

それが皆からしたら悪い事なのを知ってるから苦しいけど。

私は錬成師になって、家族のための騎士になるから!

だからお姉さんと友達になった私を信じて欲しいの!」

『???』


マリア婆ちゃん。

みんなには通じないみたいだよ。

変だなぁ。

皆沢山子供を育てて来た筈なんだけどなぁ⋯。


私は少しだけ遠い目をして、視界の端っこにあるお月さまを見つめた。


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