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オロオロするゴリマッチョと美魔女が書きたくて。
真っ暗な夜に明かりがついてたら目立つ。
問題は明るい所に居ると暗い所が見えない事だ。
人数の多さから庭を指定したが、海みたいな畑に島みたいな雑木林や家が立ってる状態なので、かなり遠くからウチの辺りが明るいのは見えて仕舞うだろう。
それで滅多にそんな状態にならないのだから、不思議に思った人が火事を疑って様子を見る事も有るかも知れない。
近づいている事が直ぐに分かれば良いが、そこで明暗の差のデメリットが問題になる。
楽観的なことを言えば、お嬢さんが何らかの魔導具を使って対応しそうではある。
騎士がそう言った知識を持ってる可能性が高いと思われるからだ。
彼らであれば私が思いつく以上の危険性を考えているかも知れない。
その辺を話し合っておかなかったのは私の不手際なので、もし無駄になるとしても出来る事はやるべきだと考えた。
そこで父と相談し、長男や祖父や従兄弟の協力のもと、私達祖父の家の庭を使う事に会場を変更する。
そして祖父の家と倉庫の間を麦わらで編んだ綱を通し、ありったけのシーツをかけて光が漏れる範囲を制限した。
そして宴会の会場の様に机と椅子を持ち出し、参加する人数より少し多めに準備する。
宴会から参加者以外は帰った後を演出するためだ。
不審に思ったのが普通の村人なら、外から大きな声をかけて来るだろう。
遮るもので中が見えなければ、騎士達の姿に気付かずやり過ごせるかも知れない。
まぁ馬モドキとトカゲをどうするか問題は、私達の家の方に居て貰う事で見つからない事を期待するしかない。
何とも大雑把で杜撰な目隠しになるが、お姉さんに全てを放り投げるよりも、此方の誠意は伝わる筈だ。
そして母方の祖母以外の参加者全員には、貴族が騎士を連れて来ると説明した。
もうそれだけでひっくり返るぐらい、長男も4男も祖父達も激しく動揺するので、お父さんはとても大変だったらしい。
4男の叔父は知らないが、祖父達の動揺っぷりはしっかりとリアルタイムで見てた。
それだけ村の農民からしたら、貴族も騎士も遠い存在なんだろう。
誓約の話を聞く限り、割りとこの国の王様も貴族もしっかりしてそうなのだが、知らない者を恐れる気持ちは分からないでも無い。
漠然と偉い人と認識しているとは思うが、どうしてそんなに恐れるのかと聞けば、教会で貴族の悪事を聞かされてた。
あぁなるほど、と。少し遠い目になる。
カタリナがあれだけ過剰に反応して、教会を頼ろうとした理由が分かった。
始めて会った縁の遠い貴族より、身近に触れ合う恩師の言う事の方が信用出来るだろう。
そりゃそうだ。
でも今回ばかりは困るのだ。
良かれと思って教会が過剰な反応をしないとも限らないし。
私は聖職者が聖人とは思っていない。
むしろ神の存在を言い訳に使い、横暴や暴力すら正当化する危険性のある組織だと考えている。
これは前世の価値観なので、この世界の教会がそうだとは言わない。
でもその危険性が有ると思えば、自分が触れ合って信頼出来る方を頼るのは正解だと思う。
聖職者の中でも話が分かる人も居るだろう。
そして貴族に善人と悪人が居るのと同じで、教会の中にも居るのが自然だ。
組織は数が増えれば増えるほど、そういった役割をする人もいないと、理想論だけでは運営するのは難しいと予想するからだ。
簡単に言えば貧困者を可哀想だと思って救済したら共倒れする。
救済しようと思えば、それなりの力が必要になる。
誓約の解除の仕組みにしても、教会はお金を稼がなければ、聖職者と言う社員を賄え無い。
だからお金を稼ぐ才能のある人も必要なのだ。
そう言う人達はまぁ⋯ある程度はずる賢くなければ、百戦錬磨の貴族や豪商の相手は出来ないと思う。
教会からしたら自分達は権力に屈せず、善良な平民を保護するつもりで例題として情報を伝えたとアピールしてるのだろうが、平民の教育を丸投げしている貴族も貴族だが、やり方がもうこずるい。
私から言わせれば、ついでに悪徳聖職者の事も伝えて無ければ、正当な教育とは言えないと思った。
そして賢い教会は王侯貴族用にちゃんとフォローもしている。
王様はしっかりしてるし、全部の貴族がそうでは無いが、中にはこんな人も居ますよ。
困ったら教会に来てね。
って感じで伝えているようだ。
でも内容がなぁ〜。
貴族の馬車の前を通って、馬車を止めたら切られた、とか。
妾にすると言って婚約者を連れて行かれた、とか。
汚いから近づくなと言って暴行された、とか。
何かもういつの時代の話だよ、って言う例題ばかりだった。
私の場合、賢いから連れて行かれる、になるんだろうね。
これはちゃんと誤解を解かねばややこしい話し合いになりそうだ。
だから今にも教会に走り出しそうな雰囲気だったので、良い貴族の方だから絶対に駄目。
国と教会で戦争になると、諭しておいた。
夜に祖母が来たらまた同じやりとりをするのも面倒なので、何故戦争になるのかを伝えるだけにしておいた。
外国にドナドナされるのは嫌なので。
メンツの話ってヤクザの抗争かよ、と。心の中で1人で突っ込んだ。
まぁ本店がルドルフ大帝国にあるだけで、1番力のある教会が何処なのかは知らない。
例えば国力で言えばウェスタリアの王都に有る教会の方が、戦争を繰り返し得る本店のルドルフ大帝国の教会より金持ちかも知れない。
戦争してたら国のお金は戦争に行くから、教会にちゃんと給料支払って平民に教育させてない気がするし。
むしろ戦争やめろって言われるのが嫌で教会に圧力をかけてるんじゃ無いかな?
だから元は同じ国だったミスドガルド共和国の教会が聖地を取り戻せー!って戦争になるんじゃ無いの?
情報があんまりないから真相は知らないよ。
でもだからこそ、ミスドガルド共和国は平民を引っ張る力が欲しいし、ルドルフ大帝国にある教会も少しでも自分達を国に尊重して貰いたいと思ってるかも知れない。
だからルドルフ大帝国に私が売られる危険性が有るんじゃ無いかと深読みしたんだよ。
分からないよ?
最悪の場合はそうなるってだけで、教会に知らせても、はぁそうなんですか〜?で、終わるかも知れない。
ウェスタリアの国とこの国の教会が良い関係を築いているなら、ノータッチ⋯は、無いな。
利用仕放題だからノータッチは無い。
恩着せがましく、ウチに逃げて来たんですけど仲介するんで説得します?みたいにウチの教会頼りになりますアピールも出来るもんね。
私は最初から貴族の方へ行くって言ってても、家族の誰が1人でもそれを訴えれば、上の口実が成立する。
この危険性を果たしてどう理解して貰えば良いのやらだよ。
とりあえず戦争の話で大きくして沢山人が死ぬぞと脅したから、勝手な行動はしないでくれると信じたい。
年配者は特に頭が硬いから、ラスボスは母方の祖母だろうね。
はぁ〜先が思いやられる。
会場の設定をするのに教会への牽制を説明するだけで半日近くかかったよ。
だからこれから昼寝をするんだけど、寝られない。
気が張ってるから。
ドナドナがかかってるから、そりゃ緊張もする。
寝られないー!て、キレたら母が臭く無いマモーのホットミルクを飲ませてくれた。
器が原因かな?って話してたから、ウチから持って行った器にミルクを絞って貰ったんだそうだ。
客が多くて早く絞っておかないと間に合わないから、器の匂いなんて気が付かなかったらしい。
マモーの匂いに鼻が慣れてたせいも有るんだろうなと思う。
でもスピード解決した。
あーそうなん?ごめんね?今度新しい器にしとくで、終わったそうだ。
聞くのを忘れていたが、あのお洒落なお店のシェフなら異常に直ぐ気付くだろうから、母と同じように器を自分で用意して入れて貰ってたんじゃなかろうか。
プロなら自分の鼻や舌が優秀なのを知ってるだろうし、他の人達が問題ないなら言わなくて良いと思ったのかも知れないね。
確認するのも面倒だからスルーしとく。
我が家のマモー乳が美味しくなればそれで良いのだ。
嬉しさと美味しさとミルクのあったかさにホッとして、涼しいローブのお陰でストンと寝られた。
何時も日が暮れる前に父は畑仕事を終えて家に帰ってるんだけど、今日は会場設定したりして余計な作業をしたから少し遅くなった。
先に我が家へ来たのは母方の祖父母だ。
父方の祖父母よりも10歳は若く見えた。
ちなみに父方の祖父は69歳だそう。
まぁウチの父が32歳で末子だから、母が28歳なのを思えばそれもそうかと思ったり。
お祖母ちゃんと言うのが烏滸がましいぐらいに若くて、まだ叔母さんで通るレベルだ。
去年も見たからそれは知ってた。
でも実は祖父とは始めてのご対面だったりする。
祖父も若かった。
筋肉ムキムキで、元は戦士出身のコックさんらしい。
バリバリ働くお祖母ちゃんに恋をして、料理が元々好きなのもあってゴールインしたんだそう。
暇があったから若さの秘訣を聞いてたら、馴れ初めの話も聞けちゃった。
お祖父ちゃんは嫌で直ぐに逃げたゃったけど、お祖母ちゃんは明るくてお話しが上手なので楽しくお喋りした。
そしてお祖父ちゃんは偽装した宴会会場を見て、料理を作り始めた。
どうやら夜に会合すると聞いてたので、準備をして来てくれたのだ。
帰り際に貴族と話をする予定があると、あのウェイトレスに伝えた甲斐があったと言うものだ。
お皿とかも上品な物を持って来てくれた。
これでお嬢さんが食べなければ、関係が破綻しそうな気がする。
多分お祖父ちゃんの手料理は試金石になるだろう。
流石お祖母ちゃん。
やり手だ。
って話しをしたら、目を見開かれた。
「良く分かるわねそんな事。」
「お陰でこんな事になってるの。お祖母ちゃんにも迷惑かけてごめんね?」
「貴方が謝ることなど何も無いわ。もし貴族から逃れたいのなら、ウチに来てくれて良いのよ。」
「私は錬成師になるのが夢なの。だから貴族のお姉さんは大好きだよ。
私が家族と離れ離れにならないで済むように、色んな人とお話して助けようとしてくれてるの。
今夜の事もそうなんだよ。
だからお祖母ちゃんも安心してね。
私は畑で魔力草を作って売っても良いし、魔導具や魔法薬を作って売っても良いし。
平民でも食べられる、安くて甘い調味料も研究して開発したいの。
出来たらお祖母ちゃんに安く売るから、美味しいお菓子を沢山作って売ってね。
疲れてる時は甘い物を食べると元気になるから、欲しがる戦士さんも居るだろうし。
お菓子目当てで村の娘さんが食べに来てくれるかも知れないよ。」
やんわりとした本気の滲む勧誘は、マシンガントークと商談で押し流した。
そしたらお祖母ちゃんは両手の指先を合わせて顔を輝かせる。
「まぁ〜!
商才が有るわね。
素晴らしいわ。」
「お母さんには私はお祖母ちゃんに似たのねって言われたよ。」
「まぁまぁまぁ。
今日は来た甲斐があったわ。
たまには外孫や娘に会うのも良いわね〜。」
お祖母ちゃん。お母さんに似て、というか。
お母さんがお祖母ちゃんに似てるんだろうけど、むっちゃ爆乳の妖艶な美人さん。
髪は染めてるのか、父方の祖母みたいな白髪は一本もないし。
亜麻色で光沢のあるツヤツヤした髪に、空色の瞳をしている。
笑うと目尻に少しシワが出来るけど化粧で整えてるし、髪型で顔の両サイドを引っ張ってシワを伸ばしてるから、見た目は30代に見えちゃう。美魔女なのだ。
服もお洒落で胸元がポロリと零れそうなぐらい盛り上がってる。
今ウチの家に居るけど、なんかアヒル小屋に孔雀が来ちゃったみたいな華やかさがあった。
まぁ〜知ってたよ。
でもよく来てくれたわね!楽しんで行ってね!で、さっさと消えて行くから、しかも薄暗い大衆食堂だったし。
明るい時間帯で見ても美人とか、すごいなぁと感心する。
指先まで爪もツヤツヤだ。
きっと家事はあんまりしなさそうなタイプに見えた。
お母さんも料理下手だから、多分お祖母ちゃんも家庭の仕事の才能はあんまりないのかも知れないね。
その代わり商才があって人を上手く使えるのかも知れない。
人当たりも良いしね。
「お祖父ちゃんはお祖母ちゃんの宿の食堂に弟子入りしたの?」
「えぇそうなの。」
「どっちが先に好きになったの?」
「向こうよ。
私は最初は全く興味無かったのよ?
でも料理が感動するぐらい上手でね。腕っ節も良いから、口下手のくせに必死に口説いて来る姿を見てたら絆されちゃって。
戦士の姿も知ってたけれど真面目だし。
まぁ良いかなぁ〜って思ったのよ。」
「お祖母ちゃんは、今は何のお仕事をしてるの?」
「任せてる宿や食堂を見に行ったり、お話を聞いてるわね。
困った事があったら解決するのがお仕事なの。
あとは大事なお客様の歓迎やご挨拶ね。
お部屋の案内もしてるわよ。」
「じゃあ宿や食堂の掃除や洗濯とかは誰がするの?」
「今は村の若い娘さんを雇ってして貰っているわ。
私は何処に何が足りないか、人を指示して皆のお仕事が上手く行くようにしてるんだけど⋯分かるかしら?」
「うん。わかるよ。
人の数が増えたら、皆の動きを見て言ってくれる人が居ないと、さっきと同じ所を掃除したり二度手間になっちゃうんでしょう?
あとは文句の言うお客さんの話しを聞いてあげたり、ワガママなお客さんを気持ちよく過ごせるようにしてるのかな?
大事なお仕事だよね。」
「あらあら。
どうして分かるのかしら?」
「見たらわかるよ。
こんな美人が、ごめんねって言ったら。まぁいっか。て、思う男の人多いだろうし。お金持ちの家から商人の修行に来てる息子さんとかはワガママそうだしね。
お祭りに来てるそんな感じの人が、部下の人にツンツンして意地悪な事を言ったりするのを見たことあるもん。
それに若い戦士が多いから、女の子を困らせて意地悪したくなる、変な人もいるかも知れないもんね。
これはお父さんがそう言ってたよ。
だからお父さんはお母さんに若い戦士の男の人を近づけないように、戦士ギルドに近づいたら駄目って言い付けてるの。
村の娘さんを預かってるから、男の人が沢山いても可哀想な目に会わないように、お祖母ちゃんが守ってるんでしょう?
じゃないと働いても良いよって、娘さんのお家の人が許さないと思うの。
お祖母ちゃんも昔嫌な思いをしたんじゃ無いのかな?
すごい美人だもん。
だから娘さんの気持ちが良く分かるんだよね?
お嫁に行きたくなかったり、戦士になりたく無い娘さんが、沢山お祖母ちゃんに助けられてるんじゃ無いのかな?」
「⋯えぇ、そうよ。
本当にそうなの。
エマーリェから何か聞いてるのかしら?」
「お祖母ちゃんがすっごく怖いって聞いてた。
怖くしてなくちゃ、駄目だったんじゃ無いかな?
その理由は?って考えたら、そんな風に思ったんだよ。」
「たったそれだけで、そんな風に考えられるの?」
「ううん。情報は他にもあるよ。
さっき言ったお父さんがお母さんに戦士ギルドに行ったら駄目って話だったり、5歳になったらナイフを持たせてくれたりとか。
それだけ危ない事が有るんだなって思ってたから、その危ない理由は何?って考えたら、そうかなってならない?
まだちいさくて知識が足らないから間違ってる事も多いと思うから、聞いてもらって間違って無いか、こうやっていつも確認してるんだよ。
だから間違えてたらちゃんと教えてね。」
お祖母ちゃんの唇が少し開いて、そして困った様な微笑みを浮かべて誤魔化してるその顔が、お母さんの良く分からなかった時の表現と全く同じだった。
「まだ言葉がよくわからないから、説明が下手でごめんね?」
「いいえ!
あの⋯そんな事は無いの。
そうでは無くて、言葉は分かるのよ。伝えたい事も。でも貴方は幼い姿をしてるのに、まるで大人とお話してるみたいで良く分からなくなってただけで。
あの⋯どうして謝るの?」
「だってお母さんが分からなかった時にする顔をしてたから、お祖母ちゃんは私の説明が分からなかったのかと思ったの。」
「⋯え?⋯あの⋯え?」
「お祖母ちゃん。お母さんにそっくりだよ。」
「アマーリエが私に似てる?え?」
「だから私もお祖母ちゃんに似てるんだね?」
ウフフと笑顔を見せたら、お祖母ちゃんは絶句して混乱してた。
「お祖母ちゃん、お母さんは物覚えが悪いから自分に似てないと思ってたの?」
「え⋯えぇ⋯」
「それはね。お祖母ちゃんがそうなるように育てたからだよ。」
「うん?」
「だってお祖母ちゃん。
お母さんを沢山叱ったでしょ。それはお母さんを危ない事から守る為にしかのかも知れないし、お仕事が大変で疲れてるのに、お母さんが失敗してイライラしたからなのかは分からないよ?
でも叱られたお母さんは、叱られ無いように頑張ったんだよ。
だからいつもニコニコ笑って沢山働いて、何も考えずに言われた通りに動くようになったんだよ。
そうしたらお祖母ちゃんに叱られ無いから。」
「ま⋯まさか、そんなこと⋯」
「物を良く忘れるのは、叱られた気持ちを忘れたいからなんじゃない?
覚えてたら悲しいし、辛いから、無意識に心を守ろうとしてたんじゃ無いかな。
だから直ぐに忘れるの。
沢山叱られたから、沢山忘れないと心が壊れちゃうから。
そうやって心を守ってたら、気が付いたらあんまり物事を覚えられなくなったんじゃ無いかなぁって思うの。
だってあの忘れ方は変だよ。
自分の考えを聞かれた時とか、話が複雑になったら覚えられなくなるの。
それは自分で何かを考えて行動したら駄目だって躾けられて育ったから、そんな風に学習したんじゃないのかな?
だってお母さん、楽しい事とかはあんまり忘れないから。」
お祖母ちゃんは目を見開いて、唇を小刻みに震えさせる。
そしてバッと片手で口元を押さえて嘘⋯て、小さく呟いた。
「これは産まれてからずっとお母さんを観察してて気が付いた事なの。でも最近までは良く忘れるなぁ〜とか、分からないのに笑って誤魔化すなぁ?
て、思ってたけど。
理由までは分からなかったの。
私が産まれる前のお腹にいた時の話とかは覚えてるんだよ。
それなら記憶が全く出来ない状態じゃあ無いでしょ?
そしたらね。
これはたまたま何だけど、今夜来る予定のサラディーン様が、私の話を理解させる為に、何度もお母さんにどう思う?って質問してくれたの。
そしたら殆ど質問を忘れて答えられ無かったんだよ。
何度も何度も繰り返し聞いて、やっと覚えたかな?ってぐらいに変だったの。
だからこれは普段じゃ無いなって私は気付いたんだよ。
そしたらね?
お祖母ちゃんの話をきいて、ようやく答えが分かったの。
だから答え合わせがしたくてお祖母ちゃんに聞いてるんだけど、お祖母ちゃんはどう思う?
私、間違えてる?」
お祖母ちゃんは右手で口元を押さえて、左手で肩の下を掴んで身体を守る様に小さくなった。
そして嘘⋯でも⋯そんな馬鹿なこと⋯とか小さくブツブツと呟いている。
可哀想だなぁ、申し訳無いなぁ〜って思うけど。
コレしとかないと後で大炎上するからね。
なのでちゃんとフォローはしておく。
「お祖母ちゃん。
お母さんはお祖母ちゃんが大好きだよ。
お祖母ちゃんの話をする時キラキラしてたもん。
とても尊敬してるんだと思う。素敵な人って言ってたから、お祖母ちゃんに憧れてるんだろうね。
だからお祖母ちゃんはお母さんの表情や仕草にとっても似てるの。
それはお母さんがお祖母ちゃんに憧れて、真似してたからじゃ無いかな?」
「あ⋯アマーリエ⋯」
「お祖母ちゃんはお母さんの事を心配して、幸せになって欲しくて厳しく叱ってたんでしょう?
お母さんはちゃんとそれを分かってるから、お祖母ちゃんの事が大好きなんだよ。
でもお祖母ちゃんは、そんな風に育てたら、まさか物覚えが悪くなるなんて知らなかったんだよね?
私もビックリしたから、凄くその気持ち分かるよ。
一生懸命に良いことをしようと思って失敗したなら、それはもう仕方が無いよね。
だって知らなかったんだもん。
私はお祖母ちゃんが悪いとは全然思わないよ。
その事をしっかりと覚えて繰り返さない方が大事だと思うから。
だから私は自分が赤ちゃんを産んだら、叱りすぎないように気をつけるね。」
「⋯⋯」
お祖母ちゃんは両手で顔を覆って静かに泣き始めた。
うん。ごめん。
でもなぁ〜⋯ウチのお父さんがやらかしてるからなぁ。
私は背中を丸めて静かに泣いてる小さな女性を前に、ふぅと心の中だけでため息をこぼした。
うん。すっごく気まずい。
それから私はお祖母ちゃんを残して、父方の祖父の家には行った。
ムキムキな母方の祖父がそこで腕を振るっていたからだ。
広くて逞しい背中を見ていると、とても60代には見えないぐらい若々しい。
「お祖父ちゃん。」
「うん?火を使ってるから向こうへ下がってろ。」
「お祖母ちゃんを泣かせちゃったの。慰められるのはお祖父ちゃんだけだから、助けてほしいの。」
「うん???」
「私がお祖母ちゃんを泣かせちゃったの。嫌われたかも知れないから、私じゃお祖母ちゃんを慰めてあげられないの。」
お祖父ちゃんは持ち込んでたフライパンを竈門に置いて、は?うそん?みたいな顔で振り返った。
「エリザベスが⋯泣く???」
「早く行ってあげて。
沢山泣いてるの。」
「は?」
「急いで行って!
お祖母ちゃんを助けられるのはお祖父ちゃんだけだよ!」
えー?まっさかぁ?え、マジっすか?みたいに小首を傾げながら、私達の家に走って行った。
走る60歳とかマジパネェっす。
「お祖母ちゃん。あとはお願いします。」
「え?」
芋の皮を剥いてた父方の祖母が目をパチクリさせてる。
「焦げたらもったいないよ。
多分お高い素材を使った料理だから。」
「はわわわ⋯」
お祖母ちゃんは66歳なので、ちょっとヨタヨタしながら土間に降りて竈門に小走りで行ってくれた。
それからまた自分の家に戻った所で、泣いてるお祖母ちゃんの横で背中を擦って困った顔をしている母と、群がる孫たちを前に、どーしよ。と、途方に暮れてる母方の祖父が立ち尽くしている。
「お母さん。お祖母ちゃんをお祖父ちゃんと2人きりにさせてあげよう。お料理する人がお父さんの方のお祖母ちゃんを手伝ってあげたほうが良いよ。」
「あら。そうね。それじゃあお父さん、お願いします。
謝るだけで、理由を聞いても何も話してくれないのよ。」
「⋯⋯⋯」
いったい何したんすか?!
って驚愕に満ちた顔で、おっきなお祖父ちゃんは私を見下ろす。
「ほらお祖父ちゃん。
お祖母ちゃんをギュッて抱き締めてあげてね?
何も言わなくてもそれで良いから。」
「あ、おい!」
それだけを言い逃げしてスタコラサッサと母と兄弟達を追いかけて行く。
理由は心が落ち着いたら自分からお祖父ちゃんに話すだろう。
だってお祖母ちゃんは強くて明るいお喋りな人だからだ。
言わなくても気持ちが落ち着けば、それで良いとも思うしね。
さっきまで母が居なくて祖母と2人っきりだったのは、私がそう母に頼んだからだ。
だから戻って来た時に母がいたからビックリした。
父方の祖父の家で料理を手伝ってるはずなのに、子供を理由に逃げて来たのかも知れない。
お祖父ちゃんが行ったから、もう良いのかな?とか思ったのかな?
お母さんは料理が下手だから、お祖父ちゃんに叱られると思ったのだろうか。
何だかあり得る。
だってお祖父ちゃん。
料理が上手い人だから、お祖母ちゃんの代わりにお母さんに料理を教えたのかも知れないね。
でも家に来たら私がまだ話してたから、家の外でオロオロしてたのかな?
うーん⋯手に取る様にその映像が見えちゃう。
マルセロが退屈してて裏でカタリナと遊んでる所を、ジーニスを抱っこしてる母の姿が何となく見えてきた。
ロベルトはお父さんのお手伝いで畑に行ってるから、2人はもうすぐ帰って来るかもね。
段々と空が赤く染まって来てるから。
お嬢さんは真っ暗にならないと来ないと思うから、後金2つ分ぐらいの時間の余裕は有ると思う。
だから私達子供は先にご飯を食べておかないと、お腹が保たないから、私も父方の祖父の家に向かって行った。
あーぁ⋯自業自得だけど、お祖父ちゃんの料理、食べたかったなぁ⋯クスン。
ラスボスをハメる2歳児




