51
リリアナは2歳の女の子なんです!の巻き。
教会が病で無くなった娘さん達を使って王殺しの病のもととなる虫を採るか育てるかしていた墓の中に、墓守とジョルノフが呼んでいた灰色のローブを着たかなり小柄な男性が潜んていた。
ウェスタリアでは見慣れない薄い褐色の肌と濃い緑色の髪色から、外国人かハーフなんじゃないかと察する。
恐らく魔力量が少ないから、汚れ役に回されているのかも知れない。
自傷すらも躊躇わずに土下座をした事と言い、かなり不幸な生活を送って来た事が予想出来る。
顔はよごれていて肌が分かりにくいけれど、20代から30代と言った所だろうか?
正直に言えば教会関係者とは思えない汚さに眉間にシワが寄る。
彼の存在が不快なのではなくて、彼の扱われ方が不快なのだ。
でもこう言う不幸な感じの人に迂闊に手をだせば、下手をすれば懐かれて大変な事になるかもと考えてたら、姉が問題無用で浄化してた。
うん、そうなるよね。
でももう少し自分の身の安全に気を配って欲しいと思ったけど、まぁゴリラだしな。
危険はなぎ倒して進む事だろう。
「アナタ何をやってんのよ!」
姉が怒鳴ると灰色のローブを着た男がビクッと背中を震わせる。
「せっかく喉を治したのに、顔に怪我しちゃってるじゃない。
いま両手が使えないんだから、あんなに勢いをつけたら怪我をするかどうかぐらい分かるでしょ!
全く、手間をかけさせんじゃないわよ!」
姉はツンが多めのツンデレ属性なので、優しさからそう言ってるのでは無く。
本心から言っているので気をつけよう。
叱責と共に飛んだ治癒魔法に、灰色のローブを着た男性がポカンとしている。
予想と違った叱責の内容について行けてないらしい。
「お嬢ちゃん?!」
しかも姉がズカズカと歩いて無遠慮に男に近付くから、ギルド長がさり気なく手を差し込んで近寄れないようにしてくれたのだが。
「何よ。」
「危いから近づいたら駄目じゃろう。」
「さっきの言葉を聞いて無かったの?
黒魔石が説明の魔法をかけたから、謝ってたじゃない。
だからもう平気よ!」
「しかしだな⋯」
「しかしも何も無いわよ!
誤解されてたら危ないけど、誤解して無いんならもう大丈夫に決まってるでしょう!
モタモタしてないで早く縄を解くのよ!」
「いやまぁそれはもう少し話を聞いてからでも⋯」
「つべこべ言わずにサッサとやるのよ!
心配しなくても黒魔石には近づけさせやしないわよ!
だから私が来てるんでしょ!
もう良いわ!
怖いんなら私がやるから引っ込んでなさい!」
「怖い理由が無かろうが!
ワシを誰じゃと思っとるんだ!」
「頭の硬いお爺ちゃんでしょ!
状況なんて直ぐに変わるんだから、思い込んでたら先に進めないじゃない!
早く他の連中を止めないといけないんだから、邪魔をしないで!」
「ぐぬぬ⋯」
「お姉ちゃんそこら辺で止まろう。
ギルド長さんは意地悪してるんじゃ無くて、お姉ちゃんを心配してるだけだから。
お姉ちゃんの想いはちゃんと伝わってると思うから、一度引こうね。
ギルド長さんに失礼だよ。」
「モタモタしてる暇なんてないでしょ!
あんな姿勢じゃ声がモゴモゴするから、話が出来ないじゃない!」
「まぁまぁ。
お姉ちゃんが退いたら、ギルド長さんがちゃんとしてくれるから大丈夫だよ。」
だって姉は知らないけど、ギルド長さんは姉も神様候補なのが分かってるから、だから心配もするし上手く止める理由が言えなくてもモゴモゴするんだよ。
本当申し訳無い。
姉の正論パンチはもの凄く的確で痛いのよ。
無駄に殴られてるギルド長さん可哀想。
だから魔力の手を使って姉をこっちまで引き戻した。
「お姉ちゃん。
ちゃんと反省してるように見えて、傷つける人をギルド長さんは知ってるんだよ。
だから正しく警戒をしてるだけで、あの人に怯えてたり意地悪してるんじゃないから落ち着こうね?
お姉ちゃんが焦る気持ちは皆も分かってるから大丈夫!
それに病は死ぬまでに鐘の音が沢山鳴るから、慌てなくても平気だよ。
お姉ちゃんならちゃんと治せるから、そっちで頑張ろうね。」
「⋯そうなの?
なんだか可哀想だから早く楽にさせてあげたかったのよ。」
「うん。
お姉ちゃんが優しいのも勇ましいのも分かってるよ。
後で誤解して失礼な事を言ってしまった、ギルド長さんに一緒に謝ろうね?」
「でもあの人はちゃんと謝ってたし、本当の事も言ってるんだと思うわ。
だって言えば叱られるのが分かってて勇気を出して言ってくれたんだから、あの人はちゃんと良い人なのよ。
だから親切にしてあげないのは悪い事だわ。」
「それをギルド長さんに言えば良かったんだよ。
お姉ちゃんが動くから、ギルド長さんが余計に警戒をして動けなかったんだよ。」
「なによ!
私が悪いって言うの?!」
「そうは言ってないよ。
お姉ちゃんは賢いから、もの凄く早く状況が分かったんだと思うけど、周りが同じ早さで物事を考えられると思わない方が良いよって伝えてるだけだよ?」
「だから私が悪かったんでしょ!
ゴチャゴチャ言ってないで、ハッキリ言いなさいよ!」
「まぁまぁ。」
「まぁまぁじゃないわよ!」
「話が進まないから、ギルド長さん。
ウチの姉が失礼な事を言ってすみませんでした。
でもお姉ちゃんが言うようにもう大丈夫だと思うから、縄を解いてあげてね?
その人は逃げ場なんてないから、こんな嫌な仕事も頑張ってやって生活をしてるんだよ。
悪い魔法は司教さんが消してくれてるし、身体は全部お姉ちゃんが治したから変な暗示とかもされて無いと思うけど、そこはやっぱり警戒をするのは正しいとは思うけどね?」
「どっちなんじゃい!
と、言いたい所だが⋯ふむ。
良かろう。
お前さんも誤解をするんじゃないぞ?
あの子供達は命に代えても守らんといけん大事な子供達なんじゃ。
大人しゅうしとけば悪いようにはせんから、迂闊に動くなよ?」
「は⋯はいっっ⋯」
姉の眼圧を横顔に感じながら、ギルド長はそう告げながらやったばかりの拘束を外して行く。
私はその作業の間中、じっと灰色のローブを着た青年?が涙ぐむ姿を観察していた。
姉が言うように危険な様子は見えないから、恐らく姉は正しい回復魔法を使って治癒をさせたんだと思う。
それは記憶障害を起こさずに脳を治癒させた事になるんじゃないかな?
つまり私よりも姉の方が治癒魔法の使い方が上だと言う事になるね。
理屈が先に来る私は、曖昧な感じのふにゃっとした魔法の使い方が下手なのかも知れない。
でもだからこそ記憶が飛んだり危ない事になるんだろうけど、姉はそこを理解したからそうならないように上手くやれてるんだろう。
原因が虫だと知る前には治せなかった病気が、治せる事と同じ理屈なんだよね。
だったら私も信じて魔法を使うべきなんだろうけど、これが難しい事に無意識でそれを考えるときっと上手く魔法が発動しない気がするんだよ。
姉は恐らく思い込む意思の力が私よりも強いんじゃ無いだろうか?
アルフィンは私よりも理屈っぽいから、それでこのやり方での魔法に苦労させられてるんだと思う。
考えるな、感じろ!の世界の話だからそうなるんだよね。
正解が分かれば分かるだけ難しい事になるんなら、私もバカにならないといけないのかも知れない。
下手に賢いアピールをするから、姉の言うように余計な足踏みをしたり、大ポカをやらかすんだろうか。
つまり無意識に追い込まれた方が、私は上手く魔法が使えるんだとしたら、蘇生魔法なんてもんはこうなれば良いなってイメージでオートマでぶっ放してみようか。
そっちの方が上手く行きそうな気がするんだよ。
下手なリスクを考えるとそのイメージがつくから、素直に1年未満なら全部治る元気なイメージを固めないといけないのかも知れない。
むしろ私が姉に魔力を渡して、姉に蘇生させた方が良いまで有る。
「お姉ちゃん。
明日私が力を貸すから、蘇生魔法をやってみる?」
「なによいきなり。」
「あの人の治癒魔法の効果を分析してたら、お姉ちゃんの方が私よりも回復魔法を上手く使いこなせてるんだよ。
私はきっと考え過ぎてるから、魔法に失敗の考え方がでちゃって駄目なんじゃないかな?
お姉ちゃんなら1年未満の人達を治せると思ったら、アレコレ理屈なんて考えずに治せるんじゃない?」
「まぁ⋯アンタよりかは考えてないんでしょうけど、なんだかそう言われるとバカにされてるみたいで変な気分ね。」
「まぁ⋯私がやってみて、無理そうならお姉ちゃんに難しい所をお願いする方が良いかな?
私がやるのを見てたら、お姉ちゃんも蘇生魔法の使い方が分かりそうじゃない?」
「そうね。
アンタが失敗する所を見て、そうならないようにやればいいのね?」
「失敗させないように頑張るつもりだから、その通りなんだけど複雑な気分だよ。」
「お相子様だから良いじゃない!
なんだか楽しくなって来ちゃったわ!
1年未満と言わずにもっと前の人達は駄目なの?」
「私が生まれ変わるのと同じで、これから産まれる赤ちゃんの魂を抜く形になれば、楽しみに待ってる家族が悲しむんじゃない?
魂が無くなれば、入る予定だったその赤ちゃんの身体が死んじゃうんじゃ無いかな?」
「1年で産まれ替わるの?!」
「神様が時間を操れるならそれもあり得るってだけで、本当にそうなのかは死んで確認しないと分からないよ。
それと骨から身体を再生するのは、かなり神様の魔法に近くなるから、魔力の消耗が多くて大変な気がするんだよね。
だから1年未満って所が妥当なんじゃないかな?」
「つまり魔力さえあれば、骨からでも1年未満なら蘇生が出来るのね?」
「うん。
その代わり使用される魔力がえげつない事になりそうなんだよね~。」
「やってみれば良いじゃない。
燃やしてる人も沢山いるでしょ。」
「全員が出来ないと不満が出るんじゃないかな?」
「ソレはそうだけど、父親が居ない家はもの凄く大変よ?」
「そこなんだよ。
私からすれば亡くなる前の人の姿形が分からない状態で身体を作るのが難しいって言うか⋯そうか。
骨に残ってる魔力の記憶を使えばイケる?
オートマなら無意識を介入させないからイケるっちゃーいけそうかな?
まぁこれは明日の朝までに考えたら済む話だから、先に街の人達を守る話を考えようか。
さてそこの灰色のローブを着ている人でもジョルノフさんでも良いんだけど、合図を貰った人達がこれからどんな動きをするのか、知ってる事が有れば教えてくれないかな?」
「私は残る立場の者なので、秘密が暴かれる時は街に病を放つとだけしか聞かされておりません。」
「お、俺も同じです。」
「まぁそうなるじゃろ。
でなければ尋問されたらバレてしまうからのぅ。」
ジョルノフがそう言えば、腕の縄をギルド長から解いて貰った灰色のローブを着た人もそれに同意する。
ギルド長が言った理由が当たりだろうから、私も同じ意見かな。
「それなら井戸に病の元を入れると仮定して考えた場合、教会との関連を疑われないように、教会関係者とは別の服を着て、人の少ない時間帯を狙って井戸に病の元を撒きそうな気がするんだよ。
噂がまわらないウチに行動しないといけないから、病が直ぐに発動しないことも考えたら、既に汚染されてる井戸があっても可怪しく無いんだよね。
本格的に行動を起こすとなると、闇に紛れられる夜に動くとは思うけど、まずは戦士達の大勢いる食堂近くの井戸が狙われてないかな?
そこなら戦士の服装さえしてれば、ウロウロしてても不審に思われない気がするんだよね。
夜はその周辺の住民しか使わない井戸を狙って行動するんじゃないかなって思うけど、どうだろう?
他に予想出来る事があったら教えて意見を出して欲しいんだけど⋯」
「ふむ。恐らくは街の中央なら昼に動いてもバレ難いと考えれば、全てそれに当てはまるじゃろう。
夜もそうじゃろうな。
後は酒の樽に仕込む事もあるんじゃないか?
元から教会の仕事をさせずに、食堂で働かせておけば簡単に細工なんぞ簡単に出来るじゃろ。
本人が働かんでも、金を払って雇えば済む話じゃろうしな。」
「そこをとめるには上から伝達が来ない限り止まらないとしたら、かなりマズイかもね。
街の外に出る人達全員を浄化させないと出た先で亡くなる事が有るって事になるし、捕まえるのがもの凄く難しいから、秘匿も出来なくなっちゃうとなると⋯いや待てよ。
そうだ!関係者なら胸に魔法が有るんじゃない?!
関係者を見つけ出したら、雇われた人も止められるよね?!
外に出る予定の人達を足止めさせる出来事が有れば、引き止め無くても止まるとしたらどうかな?!
例えば塩を無料で配ってみたり、角クジラ鮫の料理が広場で無料で食べられたりなんかしたらどう?!
しかも明日は蘇生祭りだよ?
料理を出すのを教会名義にすれば、裏の人も「え?!」ってならない?!
そこに集まった人達を纏めて浄化したり、裏で井戸なんかを浄化させたらどうかな?!
ううん。日没前に一度街や住民を丸ごと浄化させるのはどうかな?
関係者は必ず胸に魔法が有るから、様子を見に来た所を捕まえたらどうだろ?
ここの人達は知らなくても、別で動いてる人達なら仲間の数や雇った人も知ってるんじゃない?!
それと教会に神の使いが来たって皆に言って、やらかしてた理由を素直に話して、お詫びの料理だよとか盛大に話をして明日蘇生の事も伝えれば、今回話が出来て無かった家族も集まって来るんじゃない?!
その代わり教会の人達はもの凄く忙しくなるし、教会の警備は兵士さん達にやって貰う事になるけど、戦士さん達は様子を見に来た裏の人を見つけ出した人から捕まえて貰ったり、夜に井戸を見張って毒を入れに来た人を捕まえる仕事をして貰う必要もあるけどどうかな?
でもそれなら錬成師さんも引き継ぎの人に事情の説明もしやすいよね?
その代わり私や私の家族がヤバくなるから、私達はこうやって顔を隠したり姿を隠して声だけ聞かせるようにして、身バレしないようにさせて貰うけど、どう思う?!」
『う~む⋯』
「あれ?駄目っぽい?」
「いいえ、教会が料理を出すのは材料さえ使わせて頂けるのでしたら問題はありません。
塩に関しては分かりませんが、器をどうにかすれば済むのなら配るのも大丈夫だとは考えられます。
ですが私共では街中全てを浄化させるのは困難ではないかと考えます。
それと胸に魔法と言われましても、私共には見つける事が不可能かと具申致します。」
「うん。街中の浄化は私がやるし、裏の人の捜索は父でもできるから姉も出来ると思うよ。
ただ父をこっちに出すには私の家族を保護して貰う必要が有るんだよ。
元からこの街に住んでる身内は、身バレを防ぐ必要があるから教会で保護は頼めないんだよね。
そうなると秘匿して宿を手配しなくちゃいけなくなるから、そっちはお姉ちゃん。
伯父さん達に頼もうかと考えてるんだよ。」
「そうね。従兄弟達もそうなるのね?」
「うん。その方が良いんだけど、料理や水に気をつけないと危ないからそこら辺は相談が必要かな。
問題はアルフィンなんだよ。
宮殿に1人残す訳にもいかないし、貴族を呼んで護衛して貰うのもマズイんだよね。
だってお忍びだからさ。
塩クジラ鮫を運び出す間中、私がアルフィンを守るでしょう?
そしたら私がそこで動けなくなるんだよ。
だから捜索はお姉ちゃんと父の2人に任せる事になるんじゃないかな?
浄化を日没前にするとしたら、そのころには塩クジラ鮫も運び終わってると思うんだよね? 無理かな?
私も手伝うけど、兄達がお手伝いしてくれたらイケるかな?
祖父は働き過ぎてるから休ませないとだし、祖母と従兄弟と母は教会で保護して貰うのを頼まないとかな。
情報が漏れる前に宿を人数分抑えさせる必要があるから、錬成師さんが⋯しまった骨が探せないのか。
櫛とかは駄目なんだよね?
魔力と櫛を分離させられる?
多分櫛に残ってる魔力はかなり少ないから難しい?
古い骨を捜索して引き合わせて欲しかったんだけどなぁ⋯。」
「そうだな。
試して見なければと言いたいが、流石に10年も経たれていれば私では不可能だろう。
へその緒でなら可能性があるだろうが、石棺の中に入れられている骨の所在を確認するのが精一杯ではないだろうか。」
「うん。そうだよね。
問題は遺体が空気に触れると腐敗が進むから、棺から出した遺体は魔法の水の中につけて空気に触れないようにさせたいんだよ。
最初は蘇生なんて考えて無かったから、仕事の追加になるんだけど、私がその場所を地面に作るから水漏れしない処置って今直ぐ出来る?
難しいなら角クジラ鮫の皮を解体してシーツにすれば水漏れが防げそうなんだけど。」
「何という素材の無駄使い!
正気の沙汰とは思えない暴挙!
だが⋯遺体の人数を思えば、直ぐに塗料を作るとなると手持ちの素材では⋯いや!
まて落ち着け!
ここは橋を建設しておるのだ。
店に戻れば素材は必ず有る!
魔物の素材は使うな!
水漏れを防ぐ塗料を今直ぐ作って来る!
直ぐに戻るから待っていろ!」
「待って!
大隊長さんが来た時に錬成師さんが居てくれないと平民だけだと止まってくれるか⋯」
「ええいクソ!
ならばワグナー貴様が大隊長を抑えろ!」
「私はナランタール様の護衛です!」
「愚か者!
お前はお前が出来る事をしろ!
私ならこの程度の距離では不覚など取らん!」
「露払いとして戦士を店まで護衛につけるか?
広場は人で溢れかえっておるぞ?」
「うぬぬ!良かろう!
依頼料は後で支払おう!」
「ナランタール様?!」
「金は要らんわい。
ここの戦士の給金はもう嬢ちゃんが支払っとる。
セタ!適当に見繕って何人か連れて行け!
錬成師様が動きやすいように露払いしろ!」
「ういーっす!」
「そんなに心配なら私も付き合ってあげるわよ?
死にかけても回復魔法で治してあげるわ!」
「お姉ちゃんはこっちを手伝ってよ。
骨の捜索はお姉ちゃんやお父さんじゃないと無理だからさ。」
「あらそう?
でも騎士様が不安そうよ?」
「騎士さんもそれで良いよね?
早く錬成師さんを動けるようにさせなくちゃ仕事が山積みだよ?
それに死んだ直ぐなら問題無く蘇生出来るから、大丈夫だよ?」
「うぐ!
そもそも死なせないようにするのが私の仕事なのだが?!」
「今回だけだよ。
私が側に居ない時は出来ない事だしね。
錬成師さんが戻るまで此処に人工池を作っていいかな?司教さん。」
「どうぞ御心のままに。」
「では行ってくる!」
「それじゃ私は場所を作るからちょっとお墓から皆離れてくれる?
私の後ろまで下がってくれたら安全だよ。
えーと⋯骨と石棺をそのまま持ち上げて⋯穴を浅くするのと同時に横に広げて⋯と。
こんなもんかな?」
ぐぬぬ顔の騎士を置いて錬成師が血相を変えて早歩きしていくのを、チンピラに数人追いかけて行く。
私はその気配を無視して深さ10m横に10mあった墓穴を横に広げる代わりに土を中に入れて、赤黒くなった気持ち悪い地面をとっとと埋めて行く。
深さ50cmぐらいの浅いプールを目安に作ったから、横に50m前後にも及ぶ浅いプールが出来た。
藪の雑草やら木は抜いて林の外に積み上げてる。
石棺と骨はそのまま下げて配置は変えてないので、周りから骨の様子が見えるようになった事で、後ろから息を飲む音や唸る声が小さく聞こえて来た。
そして後ろからなだれ込む形で、次々と親族が掘った浅いプールの中に入って来て石棺と骨を取り囲む光景を見て、教会関係者達が全員暗い表情になって俯いている。
「ねぇカマニャ!
カマニャは何処なの?!」
「シシリアならまだ一月しか経って無いんだ!
シシリアは何処に入ってるんだ?!」
「ウチの娘は!
ナージャは何処にいるんだい?!」
「俺の妻は、ララベルは何処だ!
8ヶ月前ならまだ中にいるんじゃないのか?!」
『ザワザワ!!!』
もう口々にあちこちで叫んでるから、誰が何を叫んでいるのか聞き取れ難くなってしまっている。
ホントあの杖を忘れて来た事を心から悔やむよ。
人が一気に押し寄せて来そうな気配を察したギルド長が大きな声で一喝した。
「ええい!黙らんか!!!
慌てんでも明日には生きとる娘や妻と会えるんじゃ!
お前らよりも先に骨になっちまった家族の方が優先じゃろが!」
『あっ⋯』
希望が見えた人達は我先にと遺体を探そうと突っ込んだのに対して、取り戻せない事に悲しむ人達はその勢いが無かったので集団の後ろで静かに胸の痛みを堪えている様だった。
「えーと⋯オマールさんだっけ?奥さんの櫛を貸してくれるかな?」
「あぁ⋯」
彼はまだ娘を取り戻せるので、打ちひしがれるまでは行かなくても、妻は無理だと分かっているからか、複雑な表情をしながら落ち着いた様子で、歯の欠けた櫛を手渡して来る。
「お姉ちゃん。
目に魔力を込めて櫛の魔力を見てくれるかな?」
「⋯白っぽい薄い青色と砂粒みたいな青色が点々としてるわね?」
「それと重なりあってお話できる?貴方の魔力は誰のですかって。
名前までは言えないけど、色に模様が有るのが見えるかな?」
「⋯少し取り込まないとボヤけてはっきり見えないわよ?」
「そっか。
じゃあ少しだけアレを取り込んで見てくれるかな?見えるギリギリまでで良いよ。
お兄ちゃん達には言えないけど、元気草をまるごと取り込んだらハイパーモードが解けちゃうんだよ。
しばらく魔法が使いにくくなるけど、身体を戻すにはイケる気がするんだよね。」
「それ絶対に話したらダメな奴よ。
ロ⋯えーと青もそうだけど、緑がもの凄く煩くなりそうね。」
「うん。だからお姉ちゃんと私の秘密かな?
でもお父さんには伝えないと面倒だよね?」
「そうね。
アイツ達が居ない時に話してよ。
私もお父さんにこっそり聞いてみるわ?」
「元気草を全部渡したから、まだ芽が残ってるのを新しく渡して、お姉ちゃんにも作り方を説明しとくよ。」
「その方が便利ね。
でもアイツらに見られないようにしなくちゃいけないのが面倒ね。」
「お兄ちゃん達に説明しても良いけど、そこはお父さんと相談かなぁ⋯。
これから危険な事も増えそうだから、教えるのが良いのか悪いのかかなり難しい問題だよね?
青は多分もう大分使いこなして来てる気がするんだよ。」
「それもそうね。
いざって時の奥の手は普段から慣れてないと、余計に危ない事になりそうだもの。」
「それなんだけどさ。
後でまた家族だけの時に話すから、今は2人だけの秘密で良いかな?」
「分かったわ。
何か有るのね?」
「流石お姉ちゃん。
そうなんだよ。」
私がニヤリと笑うと姉もフフンと得意げになりながら息を吸い込んだ。
すると茶髪が金髪へと変わって行くので、私達の伏せ字だらけの会話を聞いて見ていた人達が、軽く目を見張って色の変化した姉を凝視する。
「見えたわ。」
「それをあの骨の山から探すんだよ。」
「どうやって?!
沢山重なってるのよ?!」
「それなら向こうの骨の山に教えて貰えばどうかな?」
「あぁ⋯そう言うこと。
私が染めるのね?」
「塗りつぶすと困るから、優しくそっとね?」
「見つけたわ!
でも変ね?
骨山だけじゃなくて石のほうにもあるわよ?」
「それはその櫛を娘さんも使ってたんじゃないかな?」
「じゃあ石の方は違うのね?
それもそうよね!
私達だって皆で使ってるんだもの。
私としたことが、バカな事を聞いちゃったわね。」
「骨山の方の骨を呼び寄せてよ。」
「え?!無理よ。
沢山重なってるのよ?!
他の骨が崩れちゃうから、引き出せないわよ。
それにもう随分弱くなってるから、骨が傷ついてしまうわ!」
「私なら周りの骨を浮かせて、その骨も保護しながら寄せるけど、お姉ちゃんにはお姉ちゃんのやり方が有るでしょう?」
「私のやり方⋯?」
「何時もどうやって魔法を使ってるの?」
「ええ?!
2つもいっペんに別のことをさせる魔法なんて使えないわよ?!」
「それはお姉ちゃんが自分でやろうとしてるからだよ。
命令すれば良いんじゃない?」
「あー!
何よ簡単じゃない!
他の子は動いちゃだめよ!
光ってる子はこっちに来なさい!
他の子達は崩れないように収まり良くするのよ!」
姉が言葉に魔力を乗せてそう言い放てば、魔法となって骨たちは姉の指示通りに動いて、骨山の中から古ぼけて黄ばんだ骨の欠片達が砂粒みたいなものから掌サイズまでが姉の目の前に集まって来た。
「メルーニャ!」
思わず叫んだオマールの叫びに、慟哭が、その悲痛な想いが込められた声が私の胸を鋭く貫く。
『なっ?!』
だから直ぐ様私は闇のカーテンで、メルーニャと呼ばれた骨と骨山を覆い隠す。
「ちょっとなんなのよ!」
「黙って!」
私は考える前に起こした自分の行動の意味を探るように、小汚いオマールをジッと見つめた。
「私がさ、オマールさんに言った事を覚えてる?
ほら死んだ後に神様が娘さんと奥さんに会わせてくれるかもって言ってたヤツだよ。」
「⋯あぁ。」
「アレってあの時は何の確証も無かったから、本当に子供の戯言だったんだよね。
でも多分私は気付いてたんじゃないかな?
オマールさんて他に身寄りが無くて、娘さんだって一人っ子だったんじゃない?」
「⋯そうだな。
俺は村から出てこの街でメルーニャと出会ったが、メルーニャの家族も兄弟以外は残って無かったからな。」
オマールさんも私の瞳をジッと見つめて緊張で汗を噴き出しながら、何度も乾く唇を舐めて慎重に言葉を重ねて行く。
「娘さんが何歳の時にメルーニャさんは亡くなってる?」
「2歳になる前だ。」
「それならさぁ。
幼い娘を残すのってもの凄く嫌だし不安だよね?
だって他に面倒を見てくれる身内が居ない訳だし、本来なら空に帰って生まれ変わる準備をしなきゃいけないのに、その呼び寄せを無視して娘さんに魂が引っ付いてる可能性って大きく無い?
その娘さんも亡くなってるなら、今度は残された旦那がマトモな生活してなきゃ、一緒に空に帰ろうと思ってオマールさんにくっついてる可能性って、有るんじゃないかと考えたんだよ。
今でこそ理屈をつけてそう言えるけど、あの時は本当に勘で言ってたような半分以上妄想だったんだよ。
でも今は蘇生の話が出て来たから、あの時とは状況が少し違うんだよね。」
「ちょっとアンタ⋯まさか?!」
「うん。
お姉ちゃんの想像した通りだよ。
空に帰った1年以上前の魂を呼ぶのは神様からダメ出しされてるから、それは出来ない。
でもさっき言った条件の人なら、骨を手がかりにして身体が再生出来るんなら、蘇生の観点からしたら復活の可能性が有るんじゃないかと思ってるんだけど⋯問題は魔力がどれだけ必要になるのかと、地上に留まる為に変質しただろう魂をちゃんと正しく元通りに戻せるのか。
魂を扱う権限なら持ってる気がするけど、私はそれをどうしたら良いか知らないから試行錯誤する必要が有るんだよ。
そして治した魂をちゃんと身体に定着出来るのか。
この辺は始めてだから今は分からないけど、身体と魂さえ完璧に治せれば多分行けそうな気がする。
お姉ちゃんの言うゴチャゴチャ考えてたら、バカな子供の挑戦みたいな愚か者丸出しの行動になっちゃうんだけど⋯オマールさんはこの話に乗る気ある?」
「ある!!!」
オマールは胸元をギュッ握ると強く望む瞳で私を睨みながら叫ぶようにそう答える。
「始めての事だからうまくいかなくて、新鮮な死体が出来るだけになるかも知れないよ?」
「それでも構わない!
死体だろうとまたメルーニャに会えるって事だろう?!」
「下手に成功したように見えて、魂の歪みがちゃんと修復出来てなければメルーニャさんの顔をした魔物になってるかも知れないよ?
それが人に危険な者になってたらまた殺さないといけなくなるけど、そんな所を見ていられる?」
「それはっ⋯いや。
その時は俺が殺る。
それがメルーニャだろうが、中身が違うなら俺が責任を取る。
泣き言なんか言わねぇよ。
俺が死体でも会いたいって望んだ結果なら、そこは俺が責任を取るべきだろう?」
「なら決まりだ。
私も死ぬほど後悔する羽目になるかも知れないけど、やってみなければ分からない事はやらなくちゃ分からないもんね。
だけどどれぐらいの魔力を消耗するのか分からないから、例え成功させたとしても、他の人達まで出来るかどうかは分かんないんだよね。
だから先に聞いて置きたいんだけどさ。
他にこの話に乗りたい人達はいるかな?
勿論魂が残ってる人達だけになるから、新鮮な死体や魔物の話も覚悟してもらう必要が有るし、なんなら街から離れて暮らす必要も在るかもなんだよ。
だって事情を知らない人達からしたら不気味にみられたり、しつこくからまれて私の事を問い詰められる危険性が高くなるじゃない?
その時は神様からの使いがしてくれたって言って向こうが納得してくれたら良いけど、そうでない場合には問題が起こる危険性も有るんだよね。
そしたら生き返った人の事を知らない場所で生活しなくちゃいけなくなる羽目になるかもだよ。
貴族じゃなくても金持ちが人を雇って必死になれば、どれだけ厄介なのか戦士なら分かるよね?
今どんな危険性が他に有るかは分からないし、万が一蘇生した人が年を取らないような変質をしていた場合は、家族の責任で生き返った人を説得して、自分が死ぬときに連れて行って貰うような事になりかねないんだよ。
オマールさんみたいに昔に亡くなった奥さんだと、年齢が離れててうまく夫婦で居られなくなる危険性もあるけど、それでも乗りたい人達だけ今回に限り蘇生の挑戦をしようと考えてるんだけど、どうかな?
オマールさんで失敗したら諦めるのは自由だけど、成功したとしてもそれならやるって人の覚悟は信用ならないから、その時あらためて受けつける気はないよ。」
『ザワッ!』
「⋯ふむ。
此処に居る骨と、魂が残っとる可能性がある者だけの挑戦か。
孫は難しいかのぅ?」
「お爺ちゃんについてたら良いんだけど、孫と2人で暮らしてたの?」
「うむ。6年前に逝っとる。
そろそろ嫁ぐかどうかと思っておっただけに残念じゃったがの。」
「遺品かへその緒は持ってる?」
「へその緒なら持っとる。
何なら妻や娘のも有るが、妻ははもう此処におらんだろ。
何せ30年以上も昔に逝っとるしの。
蘇らせた所で他の男に持って行かれるんなら、このままワシが墓まで持って行くわい。
娘もおるが婿殿もおらんし、どうじゃろうか。
娘が死んだのはかれこれ10年以上昔の事だ。
孫も責任が取れるかと言えば難しい所だが、孫の旦那になる予定だったヤツがまだ生きとるからの。
ヤツがうんと言えば、此処に居るんならよみがえらせてやりたいんじゃ。」
「それならその人と相談して来てよ。
ついでにその人も連れて来てくれるんなら、可能性はもう少し上がるんじゃない?
お爺ちゃんについてるか、恋人についてるかは分からないけど、あっさりお空に登ってたらごめんね?」
「ワハハハ!
そりゃあり得るやも知れんな!
そん時はまた弔ってやるわい。
今度こそちゃんと墓に入れてやれるしな。
ワシは久しぶりに孫の顔が見れるだけで御の字よ。」
「じゃあもし骨があったらその人達は挑戦するつもりが有るんなら、錬成遮光瓶を準備してくれない?
手がかりになる骨の魔力を少しでも逃がしたくないんだよ。
今まで暗い場所にあったから良かったけど、ちゃんと保管しないと魔力はすぐに抜けちゃうんだよね。
誤差みたいなもんだけど、少しでも成功させたいから準備して来てくれないかな?
ウチの村なら戦士ギルドに錬成遮光瓶は置いて有るんだけど、どうだろう?
あ、でも待って!
バラバラでいくと野次馬と間違えられて入れなくなるから、兵士さんに顔を覚えて貰えるように、少人数の方が良いよね?
何なら錬成師さんが錬成遮光瓶を持ってないかな?
残りの骨を仕分けるにも、瓶があった方が便利なんだけど、教会で骨を入れる骨壺みたいなものが有るなら、それでも良いけどどうだろう。」
「骨壺であれば直ぐにお出し出来ますが、あれ程の量の骨を納めるには個数が足りませんな。」
「それなら錬成師さんに伝言で誰か1人走らせてくれない?
その方が運ぶ事を考えても魔法の鞄を持ってる錬成師さんが居たほうが便利かも。」
「なら俺が行く。
その方が早いだろう。
メルーニャを頼む。」
そう告げるとオマールはニヤリと不敵な笑みを浮かべてあっという間に消えて行った。
そして骨の人達もワイワイと騒いで話し合いを行っている。
身内を呼びに行きたい人もいたけれど、魔法を続けて使える保証が無かったので遮光錬成瓶に骨を仕分けて後日行う可能性の話も伝えると、それなら順番を決めよーぜとなりそっちの話し合いに移行して行った。
全員参加の方向らしい。
そりゃそうなるよね!
だって取り下げは後から出来るよって言っちまったんだもん。
そりゃ様子見したい人達だって、じゃあ取り敢えず参加で!ってなるわな!
この時代のこの国では写真なんて無いから、記憶の中にしか生きてる人達の顔が残って無いんだよ。
だから死体でも会いたいって言うのは、そんな所からの発言なんだと思うんだよね。
でもまぁ変質が陽の光による魔力不足で起こるんなら、魔力を足してやれば戻りそうな気はしてる。
不足してる魔力は人から漏れたものを使って魂がギリギリ生き残ってるんなら、その可能性はやっぱり捨てきれないんだよ。
魂の操作をする権限なら、私なら持ってる可能性も高いしさ。
ワイワイと楽しそうな顔をしてる皆を見ててようやくアルフィンの言ってた気持ちが分かった気がした。
「お姉ちゃん。」
「うん?何よ。」
「アルフィンが前に自腹で魔道具を作ってくれた時の話を覚えてる?」
「あぁ⋯報酬の話をしてたやつね?」
「ただ働きしようとするから、あの時はコイツバカなんじゃね?って思ってたんだけど、喜ぶ人の顔が見たくて頑張ろうって思える気持ちが、なんだか分かって来た気がするんだよね。」
「そうね。
でも私は前から知ってたわよ?
お母さんのお手伝いしたら、お母さんが凄く喜んでくれたから、だから頑張って色々やってたんじゃない。」
「そっか。
だからお姉ちゃんはシンドい想いをしても私達のお世話をしてくれてたんだね?
⋯でもさ、働いて無ければ要らないって言われるのを怖がる気持ちって何だろう?」
「うん?
仕事をサボってたら叱られるのは当たり前なんじゃないの?」
「でも王様だよ?」
「うーん⋯言われて見たら変よね。
だって王様を叱る人って普通は居ないんじゃないかしら。」
「そうなんだよ。
あそこまで怖がるのって凄く変な気がするんだよ。
王様が仕事をサボれば周りが困るから先王様とか上后様が叱るかも知れないけど、あのアルフィンがそれで怯えるのは不自然な気がするんだよね。」
「何か理由が有るんじゃない?
仕事をサボっててクビになった王様が昔にいたとか?」
「あー、王殺しで殺された王様がソレだったのかな?」
姉と何気ない会話をしてたら、ジョルノフがビクッと小さく肩を震わせた。
だから気付いたんだよ。
つまりお姉ちゃんの予想は当たりだったんじゃない?
アルフィンは仕事をサボってた王様を知ってる?
そう言えば先王様や上后様の上の人達はまだ見たこと無かったんだよね。
平民なら先王様たちよりも上の年代の人達は亡くなってるけど、貴族は別なんじゃないかな?
魔力の多く含まれた薬を飲んで年を取らなくなったアルフィンや、若い上后様の美貌を思えば前世よりも貴族の老人は長生きしてる可能性が高いんだよ。
秘密を守るのに街を消そうとまでする理由がそこに有るのなら、全てのピースがハマる気がして頭が少しクラッと来た。
万が一先々代の国王夫婦が遊び暮らして暗殺されたとする。
先王様の瞳や髪が銀色なら、保有している魔力はアルフィン以上だった場合、魔法を習うときにアルフィン以上に不器用になっていたら、兄弟のなかでも出来損ない扱いをされていて、王位継承から外れていたとすれば、帝王学も厳しく仕込まれずに、人としての価値観が残っていたんじゃ無いだろうか。
だから周りの顔色を伺う癖がついてて、上后様にも強く言えないし、貴族にも気を使う政治をしてたとするなら、暗殺は王様だけでなく王室の中で傲慢で家臣からは都合の悪い最低な王族を一掃して、疎外されていた先王様だけが生き残ったとしたらどうだろうか。
主犯が宰相のお爺ちゃんなら恐らくアルフィンは王様になった時点でクビにしてるだろうから、残っているのならそのお爺ちゃんが先王様の為に、先々代の暗殺に関与してた全ての関係者を全員クビにしてたらどうだろう。
アルフィンが宰相のお爺ちゃんを、冷酷だと言っていたのは、その排除された主犯が宰相のお爺ちゃんの身内も入ってたとすれば、アルフィンが警戒して正しく恐れている理由はそこに有るんじゃないだろうか。
大国の王族のわりに先王様やサラディーン様の腰が低い事や、アルフィンがあそこまで先王様チームに気をつかっていた事や、信用出来ない理由が何となく見えて来た気がする。
宰相のお爺ちゃんが頭でキリンシュお爺ちゃんが手足だとして、自分の信念の為に暗殺する人間達なら、先王様の信じる正しい統治以外の事を行えば、行動に移される危険性が高く。
アルフィンならそれは返り討ちに出来るだろうけど、アルフィンの行動を貴族の誰もが受け入れないのならイタチごっこになる事を考えて無駄だと見切りをつけて、個人での行動に切り替えたんなら処分されずに残されているのも理由がつくよね?
だから私に警告したんだね?
彼奴等の正体を暴けばそれは暗殺の対象になるのと同じ事だからだよ。
何故なら宰相には諜報員を操る権限が無いからだね。
でも先王様が非道な行いを実行出来なければ、思い上がった貴族が先王様を排除する段階にあったんなら、正しく宰相はそれを処理する必要があるから、本来なら王様の指示でしか動けない諜報員ですら自己の判断で動いて正しく、アルフィンを含む王族の守護を果たしてたなら、今回の件と同じになるんだね?
アルフィンからすれば恩人を排除してまで強行させるのに相応しい政策が見つけられ無くて、即位してからもずるずると来てたのか。
だから寝る間もなく夢中になって飛びついたんだね?
老害共に反論を許さない政策を正しく突きつける事が出来そうだと判断したからだ。
そしてアルフィンが目覚めない理由も分かった。
私がそれを無自覚で阻止してたんだよ。
だってアルフィンが起きてたらこんな大変な目に遭わずにサクッと秘密で処理出来てた、私も楽が出来たからだね?
それじゃあ私の成長にならないのよ。
失敗覚悟でチャレンジしなければ掴み取れない勝利が有るんなら、死にものぐるいで苦労しろって事なんだよ。
チートで楽して生きてたら、人間不信で傲慢な性格の神様が出来るだけだからかな?
バカになるのが私の修行なのかよ。
しかもロリババア一直線の道に乗れってか?
アルフィンを切れないなら、私が誤作動しないための抵抗値を上げるのにはそれしか他に道がないとでも?
冗談じゃねぇよ。
なら私はお前の先に進む。
お前が親で私が子供なんだとしたら、親を超えるのも子供の務めってヤツだからな?
この星の次代になるんじゃ駄目だから、正しく親としての務めを果たして、私がテッペンまで駆け上がる事をお望みですか?
そうですか。
道はそこまでご丁寧に敷いてくれちゃってるわけだ。
何故なら私の本体の真の願いは人間になる事なんじゃね?
次代を作らなくちゃおちおち引退もしてらんないよね。
そしてそれに私が気付いたんなら、その先に私は進まなくっちゃいけない。
魂の権限とやらをこの手で掴んで、私が真の神様の階を駆け上がる。
それが本体にすら出来ない事だったとしたら全ての合点が行くんだよ。
今ある魂は俗に言う偽魂なんだね。
魔素の性質を使って魔力で作った偽物の魂がソレに当たるわけか。
そりゃ私なら今の魂なら操作をする事も新しく生み出す事も自由自在に出来る訳だよ。
だってその偽魂を作ってるのは、私本人なんだもん。
そして骨から作る身体は偽体になるんだね?
だって身体は魔法じゃ無くて血肉で出来てる代物なんだよ。
普通に魔力だけで作ってるんなら、それは魔法生物と同じになるから、偽身体。
つまり偽体って事になるよね?
素直に作れば魔石の魔力しか要らない人間が出来るだけになる。
それを真に人間にするのに必要なのは偽魂の存在が必要になる。
自分で本物の人間だと思い込むには生前の記憶が必要不可欠だから、そうなる訳だよ。
そして偽魂が無意識の魔法を発動させれば、その魔法生物の身体は生身の人間の身体に変位するって事ね。
よっしゃよっしゃ。
大分イメージが出来て来たぞ。
最後の難関は魔力の量なんだよ。
魔力を増やすには魔素が必要。
その魔素をどうやって増やすのか、そんなもん魔素事態見えないのに、作れる筈が無いんだよ。
前世に引っ張られてる存在にはね?
でも私はもう前世の知識を持ったこの世界の人間なんだよ。
だから本体には使えない私オリジナルの魔法を使って魔素を量産させれば良いんじゃね?
コピーのイメージで魔法をつかって見えない魔素をオートマでバカみたいに増やせば、月の光を浴びさせられたらわざわざ海に潜らなくても済むってことかな?
それで1日の猶予が与えられたって事なのね。
はぁ~⋯ヤレヤレだよ。
人間の身で神を超えろってか。
でも死んだら同化するって言うんなら、死ぬ前にやらなきゃ出来ない事なんだよ。
だって本体の方が持ってる不要な知識が多いだろうからね。
賢ければ不要な知識のせいで、魔素のコピーなんて魔法は使えないんじゃないのかな?
だって向こうは私よりもずっと沢山の知識や経験を積んでる神様みたいな偽神なんだもん。
神様の定義なんて知らないよ?
仏教だってキリスト教だって有名な宗教だけど、私が知ってる事なんて南無阿弥陀仏とアーメンぐらいで、仏教の方にはパンチパーマの小太りオジサンやら腕が沢山生えてるオジサンとか、顔が怖いマッチョなオジサンぐらいだし、キリスト教と言えば子供を抱いてるお姉さんみたいな母親と、天然パーマで十字架に貼り付けにされてる腰蓑だけのオッサンの姿ぐらいなもんなんだもん。
でも私が神様になるんなら、他の神様が何を考えてそうしてるのかなんて知る必要なんて無いんじゃね?
私は真実人間だから、死んだら本体に混ざって勝手に本体がステップアップするんだろうけど、そもそも私は死なせて貰えるのかな?
あー⋯ブルーな気分になるから、今はここでストップだね。
先ずは一歩づつ確実に歩かないと、私ってばまだ転んじゃうお子様だもんね。
先の未来なんて普通に進んでたら、新しい発見をしちゃえばそれまであった事が過去のものになるから、今の私が考えるよりも未来の私が考える事の方が遥かに良い可能性が高いんだよ。
賢く生きるんじゃ無くてバカになるんなら、先の事なんてグダグダ考えてたら進めなくなっちゃうよね?
私が目指すのは皆が楽しく生きる幸せな未来なんだよ。
だから私はバカになって突っ走る前に、少しづつ確実に歩いて基礎を身体に叩き込まなきゃ、転んだ先が破滅ならそりゃ転べ無いからさ。
まぁうん。
分かってる。
賢くしないのって難しい⋯。
勇気と根性と気合って何処の少年漫画だよ。
私は女の子なんですけど?!
賢くて臆病な甘えっ子がリリアナって言う女の子なんだよ。
だから勇気と根性と気合が揃ってるバカなお姉ちゃんが神様をやればいいんじゃね?
私は影のフィクサーやってるのが性に合ってるんだよね。
農家の娘だからやってることが雑で大雑把なフィクサーだもんで、ボロが直ぐに出て本当に賢い人達から呆れられて笑われるぐらいで丁度良いんだよ。
人が幸せで楽しく生きる事を目的として働くフィクサーなら、そう言う賢い人達からも多めに見て貰えるんじゃね?
「お姉ちゃん。
私ちょっとだけ移動するから、付き合ってくれない?」
「今度は何を思いついたって言うのよ。」
「うん。
あー、でも今は駄目だったわ。
う~む⋯そうだ!
錬成師さんが作業してる間にしよう!
お姉ちゃん。
今私が移動すると騎士さんとの約束をやぶる事になるから、私は此処から動けないのは分かるよね?」
「それなら私がアンタの代わりに此処に残れば良いんじゃ無いの?」
「お姉ちゃんならまだ蘇生は無理じゃない?」
「出来るわよ。
巻き戻せば良いんなら簡単でしょ?」
「あ、そっか。
もう出来ちゃうんだ。
それなら騎士さんも安心かな?
じゃぁお姉ちゃん。
骨たちの保護を頼んでも良い?
私は今のウチにオジサン達を回収して叔母さんの孫達を移動させておきたいんだよ。
お父さんも動けるようにしないとだし、そもそもあそこに外部の人達が来るから身動きが取れなくなったら困るでしょう?」
「分かったわ。
じゃあここは私に任せなさい!」
「お姉ちゃんの事は司教さんに任せて良いかな?
ギルド長は私に付き合ってくれない?
黒い扉を一旦回収しないと駄目なんだよ。
それともギルド長さんを動かしたらマズイ?
う~む⋯やっぱり良いや!
ギルド長さんは此処で皆が暴走しないか見張っててね!
私ちょっとだけ行ってくる!」
「早く戻って来なさいよ!」
「うん!」
そして私は黒い扉の前に転移した。
理屈で考えたらやり方が分からなかったから、オートマで行きたい場所に連れて行って貰うように指示をしたら出来た。
こう言うのクセになると、思って無かった事で魔法が発動しそうで怖いから、そうなる前にちゃんと魔導の知識を学ばないといけないかも知れない。
とか考えつつ、扉の中を興味津々で覗いてる兵士さんの目の前で扉を回収したら無茶苦茶驚かれた。
それはそう。
だから声をかけられる前に、今度は白い部屋に転移する。
「お待たせー!」
「うわ!いつ来たんだ?!」
そこには壁に背中を当てて腕を組んでるワックスさんと、寝室の部屋になる扉が無い部屋に少し入った所の段差に座ってる叔母さんと、床に座ってたセフメトとジギタス伯父さんが驚いた声をあげるのにも構わずに、私はドン!と黒い扉を床に設置する。
「伯父さん達は此処に待機ね。
ちょっとだけ離れるよ。」
私はそう言うとゴロゴロドンの上に乗せてた獲物を魔法の鞄で解体して、魔石を取り出す作業をしてる父や兄達やお爺ちゃんの所へ転移する。
『うわ?!』
「リリアナどうしたんだい?
いきなり現れただろう?」
「転移魔法を覚えたんだよ。
でも今はまだ村に戻ると大変な事になるから、取り敢えずお母さんやお婆ちゃんやエターニャお姉ちゃんは教会に避難して貰って、アーニャ叔母さんの孫の2人は伯父さん達に宿で待ってて貰おうかと考えて迎えに来たの。
お父さん達はそのまま作業を続けてて良いよ。
私はお母さんの所に行って叔母さんの孫の2人を連れて行くね!」
「それは大丈夫なのかい?
村に戻れるんならその方が良いと思うんだが⋯」
「アルフィンが目覚めない以上は、村に戻ればお父さんはギルバートさん達に尋問されるよ?
痛い想いはしたくないでしょう?
向こうは仕事だからやるけど、やりたくてやるんじゃないし、後から王様にしばかれるか殺されちゃうから可哀想じゃない。」
「分かった。
それぐらいならまだ宿に居させた方がマシだな。
あれだけ世話になってる騎士様達にそんな真似はさせられん。」
「でもここは戦士の街だから、お母さん達は宿だと⋯」
「それで教会か!
それなら仕方が無いな!
口を挟んでわるかったよ。
行ってきなさい。」
「うん!」
次は目視で叔母さんの家に行くと、孫の2人に扉の外に行くように伝えた後で、お茶の入った鍋を持たせたまま、母とエターニャお姉ちゃんとマリア婆ちゃんには一度家から出て貰って、叔母さんの家は魔法の鞄に収納する。
アルフィンのベッドやそのシーツはお母さんの魔法の鞄に入れていたので、王様の所に出して貰うように指示しておいた。
そして3人も王様の所で待機して貰う事を伝えると、一足先に目視で父の所に転移すると叔母さんに渡す資金を貰って、また扉に転移と⋯ちょっとだけグダグダしたけど取り敢えず孫の2人を扉の外に出したら、黒い扉を回収する前にここのメンバーはこの街の宿で待機するようにお金を出して指示をする。
「宿なら引き払っちまったぞ。」
「それで良いんだよ。
泊まる人数が変わるからそうなるのは仕方が無いよね?」
「そりゃまぁそうなんだが、何で予定と変えちまったんだ?」
「それを全員に説明する魔法を使うから驚かないでね?
情報を頭の中に叩き込むよ。」
そう前置きをしてから全員に情報を送り込む。
「ちょっと待っておくれよ!
それじゃ宿だと危険じゃないか!」
「熱々の加熱された料理には虫は生きてられ無くて安全だから、好きなものを食べて大丈夫!
気をつけるのは井戸水と宿屋で出されるお酒だから、封がしてある瓶のお酒や小さな樽のお酒を食堂じゃない店で買うんならまだそこまで手は回ってないと思うよ。
水は魔法の水を自分で出して飲んでね?
でもどっちにしても夜になる前に街全体に治癒魔法をかけるからそもそも大丈夫だし、病気になったとしても治せるんだけどね?」
「あぁ⋯そうだったね。
つい不安になっちまって済まないね。」
「早く宿屋を押さえなければ、時間が経つ事に難しくなるんだよ。
それよりも合流の問題をどうするか、それを考える必要が有るんだよね。」
「前見てぇに探せねぇのかよ。」
「あれはアルフィンだから探せたんだけど⋯何か魔力の染み込んでるものが有れば私でもイケるかな?
念の為に全員の物を私に預けてくれない?
そうすればはぐれても探せると思うんだよね。」
「つってもなぁ⋯」
「そうだ!魔法のお水だよ!
みんなの魔法の水!
全員出せるよね?!
だからお水をくだしゃい!
あ、噛んじゃった。」
私は1つの遮光錬成瓶を空けて、皆の魔力の水を少しづつ入れさせた。
混ざるけどこれを使えば全員の居所を探す事が出来るから良いのよ。
お姉ちゃんがやったミスを利用する形かな。
光の数が多いのが宿屋で待機してる人員で、移動する魔力が外に出てる人になる。
そこを目指して飛べば、直ぐに会う事も出来るって寸法だね。
瓶にはメンバーの名前を書いてから、魔法の鞄に収納した。
お金はセフメトと叔母さんに渡しておいて、セフメトにはバッカスとご近所さんへのお土産とこの街独自の特産品と、村で売れそうな日持ちのする品の購入を伝えておく。
どうせ暇だろうしね。
セフメトはもの凄く喜んでた。
言い訳はワックスさんが購入して来たと言えば済むし、叔母さん達を迎えに行った話は直ぐに村に知られると思う。
とは言ってもせいぜい御近所の皆さんに伝わる程度の噂になるし、配る程度のお土産かな。
今頃迷惑をかけてるかも知れないしね。
ワックスさんはセフメトに持たせる金貨にもの凄く驚いてたけど、説明する時間がないからそれはセフメト本人に任せて扉を回収すると、今度は教会の裏手に直接飛ぶ。
「遅かったじゃない!
錬成師さんもとっくに戻ってるし、作業なら始めてるわよ。
乾くのに少し魔法で乾かすから、塗り終えたら直ぐに使えるンですって。
骨は私が探して今錬成瓶に入れてる所よ。」
「半分残ってるのは該当者が居なかったのかな?」
「そうね。
ここにいる人達の身内じゃ無いみたいね。」
姉が工夫をして闇のカーテンを天井として使ってるから、横から骨が見えるんだよね。
ギルド長は戦士に指示をして、端っこから錬成瓶さんが作った塗料を塗り始めてる。
道具も何処からか持って来させたんだろう。
「その錬成師さんは?」
「大隊長さんが来たから騎士様と司教さんとで足止めをしてくれてるんじゃない?
だからアンタが戻って来るのを待ってたのよ。」
「向こうでお喋りしすぎてたかな?
移動時間はかなり短縮したんだけど、あちこちで事情を説明してたんだよね。
ちょっとアルフィンの支度が出来たかを確認してから大隊長さんの方に向かうよ。」
そう言うと所在無げにしてる教会の人達の前で扉を出して中に入って行く。
入って直ぐの所で作業していた母達が、シーツをつかって家族分の穴あき目隠しを作ってる最中だった。
「アルフィンはベッドに寝かせるね。」
私はそう言うとアルフィンの身体を浮かせて、魔法の鞄から出されてたベッドに藁を乗せた後に、元からあるシーツを被せてマットレスにする。
その後にアルフィンをベッドに寝かせた。
母達が作ったシーツはアルフィンの肩から下にかぶせておく。
藁のベッドよりはマシになったけど、お城のアルフィンの部屋を知ってるから粗末にしか見えないのがなぁ。
でも彼処まで飛ぶのに魔力が足りても、アルフィンのことだから自分以外の魔力だと反応する魔道具を設置してそうなんだよ。
あ、でもそこはアルフィンの魔力に擬態出来るとして⋯、あぁそっかそっか。
そうだその手があったわ。
ウンウンそうしよう。
明日錬成師さんがフリーになったらアルフィンごと城に飛ばしちゃえばいいんだよ。
アルフィンの私室にアルフィンを寝かせて、錬成師さん達は目視で外壁の外に連れ出しちゃえば、移動時間も短縮できて一石二鳥だよね!
そしたらアルフィンも安全になるし、魔法薬を飲みすぎてつかれて寝てるだけだから心配しないでね。
回復薬はものによったら魔力を分解させるだけのものになるから、今は飲ませたら駄目ってことと、滋養のある美味しいスープを飲ませて寝かせてたら自然と起きるまでは手を出さないように注意を書いてたら問題無さそうだよね。
黒魔石よりって書いてたら、イケるんじゃね?
頑張って転移魔法を覚えた事と、アルフィンを守ってたケド今忙しいからそっちに任せるって書いとけばいいよね。
詳しい事情の説明は錬成師さんから聞いてって書いたら完璧だ!
こっちの黒魔石の仕事が終わったらそっちに行って説明するから待っててと手紙にも書いて置こう。
なるべく殴り書きで急いでる気満々のやつね。
まって?!
そうだ!
手紙も要らんかったわ!
キリンシュのお爺ちゃんに言えば済むじゃん。
あそこの鈴をガンガン鳴らして呼んで、説明魔法を頭に叩き込んでから、今忙しいからって言い逃げしちゃえばいいんだよ。
だったら錬成師さんはヴィルヘルムお爺ちゃんのほうへ秘密裏に行けるよね。
よし解決!
そしたらこっちに集中出来るじゃん。
なんなら錬成師さんは明日からで良いんだから、大隊長さんに見せたらついでに城にアルフィンと一緒に飛ばしちまうか。
そうすっぺそうすっぺ。
キリンシュの爺ちゃんじゃマズイから若い方を拉致れば良いね?
そうすれば向こうも助かるっしょ!
こっちに来てもらって大隊長さんと一緒に領主さんを押さえさせれば良いね良いね!
こりゃ来たんじゃね?
必殺技!他力本願!
別名は私だけじゃ無理だからお爺ちゃん手伝って!だ!
「お姉ちゃんは此処で作業してて、他の教会の人達はお姉ちゃんが困ったときに相談出来る人を2〜3人残してあとは全員私についてきてくれる?
灰色のローブの人はお姉ちゃんの護衛をしてあげてくれたら良いかな。
じゃあ皆で移動するよ〜!」
「待て嬢ちゃん。
オマール!
嬢ちゃんの護衛につけ。」
ギルド長が腰のベルトを外してオマールに向ってポーンとベルトの付いた短剣を投げた。
オマールはそれを難なくキャッチすると、直ぐにベルトを腰に巻いて装置する。
「ありがとうギルド長!」
「おう!死んでも守れよ!」
「たりめーだ!
こちとらメルーニャとメリッサの命がかかってやがんだ。
意地でもこのチビは死なせねぇぞ!」
「俺も行くわ〜。
オマールは長いこと仕事をサボってやがっただろう。
俺ん家にもさ、妹の骨が此処に有るんじゃねぇかと思ってんだよな。
母ちゃん呼ばねえとへその緒がねえから探せてねぇんだが。
俺にも1つ噛ませてくれねぇか?」
「良いよ。
この場にいる人達で、そこに骨が有るんならだけどね?
向こうに骨が全部移ってたら出来ないけど、そこは覚悟しといてよ。
お姉ちゃん、紙の余分持ってる?
此処にいる人達で、希望する人達の名前を書いといて欲しいんだよね。」
「私は今忙しいんだけど?!」
「教会の人を補助につけたでしょ。」
「あぁ⋯頼めば良いのね?
分かったわ。やっておくから行って来なさい!
その代わり終わったらちゃんと戻って来るのよ!」
「うん!」
「俺はセタって言うんだ。
宜しくな!」
「うん。セタさんとオマールさん、宜しくね!」
セタと名乗った青年は25歳前後と行った年代の男性で、ヒョロりとしているけれど、歩き方が凄くスムーズなんだよ。
戦士はドタドタ歩く人が多いから、珍しいタイプに思える。
何となくだけどこの人ってひょっとしたら国か教会の裏の関係者じゃね?
間諜ならあり得る身のこなしって言う雰囲気なんだよね。
ここは普通の街と違うから国か教会かの区別はつかないけど、ソバカスの浮いてる調子の良さそうな笑顔の下で、私を観察している瞳が笑ってないから直ぐに分かるんだよ。
ギルド長は気付いて無さそうだから、この人は本当にこの街で産まれて育ったのかな?
まぁ良いよ。
目に魔力を込めて見たら案の定頭と首と胸が光ってるから、私は満面の笑みを浮かべる。
「ねぇセタさん。
貴方は国と教会のどっちの関係者なの?」
ヘラヘラとしてたセタの表情が消えた瞬間にオマールが短剣を引抜いたのと、セタが私の首元に短剣を突きつけようとしてかたまったのが殆ど同時に起こり、オマールの剣がセタに届く寸前で私はオマールの動きも止めておいた。
「大丈夫だよ。
ほら魔法はちゃんと解いておいたから。
もう普通にお話しても悪い事は起こらないよ。」
「こりゃまたすっげえ化け物だな。」
「失礼だなぁ。
私は2歳の人間の女の子なんですぅ~!」
「嘘つけ、そんなんがこんな真似して泣かずにケロってしてるもんかよ。
あーあぁ⋯俺の人生も終わっちまったかぁ~。」
「終わらない終わらない。
その雰囲気で言えば国の方の間諜かな?
よしよし、本体もやるなぁ〜。
それじゃキリンシュのお爺ちゃんの所に連れて行ってあげるから、大人しくしててね?」
「⋯キリンシュって誰だよ。」
「国で1番上の間諜の人だよ。
シッカリ報告頼むわね!
その代わり神様関係の話をしたらヤバいのは自覚して欲しいけど、まぁいっても良いんじゃない?
それは貴方の自由だしね。」
「おいおい、マジかよ。
そんな所に連れて行かれたら俺は殺されちまうぜ?」
「死なない死なない。
逆にこき使われるかもだよ?
だからお仕事頑張ってね!」
オマールは拘束を解いたから、私の前に立ってセタを威嚇しているけれど、セタの方は私だけを睨んでもの凄く嫌そうな顔をしてる。
「オマールよぉ。
早速してやられてんじゃねぇか。」
「⋯もう油断はしない。」
「全く頼むぜおい。
ワシが行った方が良いんじゃねぇのか?」
「ううん。ギルド長さんはお姉ちゃんを頼むよ。
勇ましいし強いんだけど、まだ10歳の女の子だからさ。
お爺ちゃんには申し訳無いけど、守ってあげて欲しいんだよね。」
「そうだなぁ。
この分じゃ何処に何が居るのかも分かったもんじゃねぇしな
ぁ。」
「⋯ちょっとリリ⋯」
「黒魔石だよお姉ちゃん。
ここは戦場になったみたいだから、お爺ちゃんの指示はちゃんとしたがってね?
それともお母さん所に行きたい?」
「バカ言うんじゃ無いわよ。
私がやらなきゃ誰がこの仕事をすんのよ。
ギルド長さんの言う事をちゃんと聞いておくから、アンタはサッサと行きなさい!
しくじるんじゃ無いわよ!」
「はいはい。
それじゃセタさんの拘束を外すよ?」
「はぁ~⋯飛んだ貧乏くじを引いちまったなぁ⋯。どわー!」
拘束を解いた瞬間、飛んで逃げようとしてたから空中で捕獲してそのまま連れて行く事にする。
彼が叫んでいるのは、中途半端な姿勢で固まってるせいで、お尻よりも頭の方が下がっているからだ。
運ぶのに持ち上げたらそうなった。
お腹に魔力の手を巻き付けてるから、仕方が無いよね。
だから私はオマールを全身隅々まで浄化すると、両手をあげて抱っこをせがむポーズを取った。
「私は足が遅いから運んでくれると嬉しいな?」
「⋯承知した。」
オマールが厳しい表情で短剣を鞘に戻す頃には、ギルド長が腰から刃渡りの長いナイフを抜いて、刃の調子を確信しながらお姉ちゃんの隣に立つ所だった。
めっちゃ物騒。
姉の世話役に残した教会の荒事に慣れてない善良なスタッフが、あからさまにソワソワしている。
お姉ちゃんは私を鋭く見つめていたけれど、オマールに抱っこして貰うのを見届けるとツンと顎をそらしてまた作業を再開するべく集中をし始めた。
普段は家から出て村を彷徨く時は着ないようにしてるけど。
さっきまで南西の海付近で果実を探していたから、姉は魔法の鞄から戦闘用の装備を出して身に付けてる。
今着てるアルフィン作の白いローブには、防御能力の他に温度調節機能がついてるし、真夏だけど北寄りのせいかここはまだ涼しい気候の土地なのに、姉の首筋には髪の毛が湿気で纏わりついてた。
セタが短剣を振ったあの一瞬で、姉が警戒レベルを一気に引き上げたから、肉体的にも強い緊張を強いられているんだろう。
ただでさえやり慣れてない難しい作業をしているんだから、無意識でハイパー化するのも時間の問題なんじゃね?と予想する。
でもまだ父は応援に出せない。
父が板挟みになって苦悩するからだ。
姉よりも母の方が弱いから、父を母から離して何かが起これば、姉は私を激しく叱り飛ばすに違いない。
そんな貧乏くじは引きたくないので、正しく姉を放置する。
ギルド長さんは正確に姉の緊張に気付いていたから、持ち場を離れて寄り添ってくれてるのと、オマールの様に警戒レベルを引き上げてくれたんだと思う。
家族の死を悼む謝罪の場にする予定だったのに、被害者の妻や戦士達が姉を守る騎士のような眼差しで、同僚や周囲を警戒しながら、姉に危険が及ばないか気遣ってくれるように変わって行く。
特に灰色のローブの人もシッカリと姉の護衛として務めるべく周りを警戒しながらも、瞳に熱狂的な光を浮かべてチラチラと姉の真剣な横顔を見つめて、褐色の肌でも分かるぐらいには、頬をほんのりと紅潮させてた。
もうヤベェ人にしか見えないんだが?
姉にコナをかける男が出たら、姉に気づかれないように、影で暗殺しそうなタイプにしか見えないから困る。
姉が無自覚でカリスマを発揮して、今不幸な青年を一匹完全に調教した。
うん、知ってる。
姉はビーストテイマーの素質を持った天才児なんだよね。
猛獣を手懐けて厳しく躾けるのなんて、きっとお手のものに違いない。
そして姉の周りに猛獣がわんさか集まって来るんだろうね。
姉の未来ではロクな恋愛が出来なさそうで超ウケる。
「離せー!
マジでこの姿勢キッツ!
ちょ頼むからもう少し何とかなんねぇの?
おい聞いてんのかよ!
ちょっとお願いだからさ?
反省するからマジで謝るから頼むから俺を逃がしてくれねぇかな?!」
「逃がすに決まってるじゃん。
キリンシュのお爺ちゃんからの伝令を持って仲間に伝えて貰わないと困るんだよ。
だから黙って大人しくしといてね?
誤解されて殺されたりなんかしたら、蘇生するのが面倒なのよ。
私はまだか弱い女の子だから、痛そうな怪我とかを見せないで欲しいんだよね。」
「うぅ⋯それ俺の身の安全がもの凄くヤバくなるヤツじゃん〜」
「ならないならない。
大丈夫大丈夫!」
「ホントかよぉ~?」
教会の関係者に裏口を案内して貰って、セタの頭をぶつけないようにしながら、大隊長さんと面会してるらしい教会の礼拝堂へ向かって行った。
浄化してめっちゃ綺麗になったオマールがね。
私は彼に運んで貰いつつも煩いセタの相手をしながら運んでいるので、楽なのかシンドいのか分からない、面倒臭い状況になってる。
「そろそろ真面目にやんないと、大隊長さんに変な態度してんのを見られたら、ほんとにキリンシュさんにしばかれるよ?」
「黙ります。」
「よし。」
神妙な顔をしたので床に下ろして拘束を解いたら、もの凄く憂鬱なため息をつかれた。
オマールは前を向いて歩けなくなったので、セタを先に歩かせることになる。
「げー!ちょマジかよ〜。」
「早く剣直さないと兵士さんに誤解されちゃうよ?
貴方は私の護衛なんだから、露払いすんのは仕事でしょ?
さぁ分かったんならサクサク歩いて進みなさい。」
「背中に殺気飛ばしてくんの止めてくんね?
もうホントシャレにならないんだけど。
ねぇオマールお前さぁ。
悔しかったからって根に持ちすぎ。
仕事サボってるからだろ?
俺に八つ当たりするのは辞めろよなー!」
剣をスルンと鞘に戻したセタが、ギャーギャー言いながら先導しているので、声が礼拝堂に響いているからか通路から広い空間に入ると中の人達が全員こっちに視線を向けている。
「お待たせー!」
「ゴホン。
ナーファルト殿。
この方が話をしていた黒魔石殿だ。」
「⋯失礼ですが私にはどう見ても幼い子供にしか見えないのですが⋯。」
「私にもそうとしかみえてないが、恐らく騙りでは無かろう。
既に陛下のお姿も確認している。」
「うぅむ⋯」
「その件なんだけどね?
ちょっと状況が変わったから、少し予定を変更しようと思うのよ。」
「⋯今度は何をされるおつもりで?」
「転移魔法を覚えたからお城にアルフィンを預けに行きたいんだけど、ついでに上の人たちに説明して貰って、こっちの領主に手出し無用の指示を貰おうかなと考えたんだよ。」
『はぁ?!』
「後で迎えに行くから、司教さんとジョルノフさんは王都の教会で説明して、こっちの裏の人を止めて貰えるように説明してくれないかな?
私は身バレを防ぐのに姿を消すけど、声はちゃんと出して説明するし。
お願い出来る?」
「おいおいバカな事を言うなよ?!
複数の人間を運ぶ長距離転移だと?!」
「まぁまだ1人でしか飛んだ経験はないけど工夫するから、イケるイケる。」
「軽く言うなーーー!!!」
「大丈夫大丈夫。
死なない死なない。
死んでも生き返らすから大丈夫よ。
落としてもちゃんと迎に行くから安心してね?」
「不安しかないわーー!!!」
ちなみに会話してるのはセタだけである。
他の人達は絶句して固まってるけど、セタが皆の心境を代弁としてるから全員の顔色が悪くなってた。
まぁ私も始めてだからね。
失敗しないとは言えないんだよ。
だからホントの事しか話てないから、余計に不安になったらしい。
仕方が無いのでオマールに抱かれながら黒い扉をドンと置いて、扉を開くと父を呼んだ。
「お父さーーん!」
「どうした黒魔石。
今からお母さん達を移動させるから、教会の方に全員で移動してくれないかな?
お母さん達の安全を確認したら、裏庭でお姉ちゃんが頑張ってるから、お父さんも行ってあげて欲しいんだよね。」
「分かったよ。」
「司教さん、急な話で申し訳無いんだけど、ホントに普通のお部屋で良いから家族に貸して貰えると助かるんだけど、駄目かな?
駄目なら他の案を⋯」
「是非お受け致します。
早急に手配を致しますので、それまでは貴賓室でお待ち頂きましょう。
手配を。」
「は!」
「司教さんありがとうございます。
あと教会の皆さんをずっと拘束しててごめんなさい。
なんかもう戦士達が凄く張り切ってるから、謝罪は後日落ち着いてからで良いかなぁ?って。
だからお返しするね?」
「承知致しました。
王都には何時ごろお向かいになられますでしょうか。」
「うん。家族の移動が済んだら王都に行く人達は、こっちの海のほうで待っててよ。
私が王都に飛んだらドアを開けたら歩いてこれるよね?
連れて飛んでも良いんだけど、皆が不安そうな顔をしてるから、こっちの方が安心じゃない?」
『まて!!!』
「ゴホン⋯いや、その案はかなり良いと思うが、その土地はかなり危険なので、南の扉の方を王都に運んで貰えた方が我々としては有難いのだが。」
「あー!そう言う案もあるね。
それでも良いけど、そしたらまた南の方までドアを運ばないと中の食べ物が運べないんじゃない?
飛んでみないとどれぐらい魔力が減るか分かんないんだけどなぁ。
向こうは熱いからこっちに早く移動させたいんだよ。」
「ならば運び終わってから王都に行けば良いのではないのか?」
「それまでずっと王都で王様が居ないよって騒ぎにならない?
あと教会の人に早く止めて貰わないと大変じゃない?
私もちょ転移でピョンピョンとんで街の浄化して蘇生するのは、流石にしんどいんじゃないかな?」
「蘇生は明日だろう。
まぁ確かに街全体的の浄化にしろ、長距離転移にしろ人間では行えない代物ではあるが⋯」
「実はそれなんだけどさぁ。
骨の方も皆が協力してくれることになったから、挑戦してみよーぜ!って事になったんだよね。」
「はぁ?!
あ!それで錬成瓶を欲しがったのか。
し、しかし確か1年だと言っては居なかったか?!」
「ウンウン。
神様が管理してる魂は1年未満のものしか許可が出なかったから、それはそうなんだけど。
例えば遺された人が心配で空に戻りなさーいって指示をだしてるのに戻らなかった魂なら、修正すれば使えるんじゃ無い?って思いついたんだよ。
その代わり空に魂が登ってたら、新鮮な死体をつくるだけになっちゃうんだけど、皆がそれでも会えるんなら良いって行ってくれて、送り直しも出来るから〜ってなったから。
今回のあの場所にある骨に限って復活させてみよーかなーって。」
『えぇぇえええーーー?!』
司教や錬成師や騎士や大多数に隊長にそれぞれお付きの人達が大きな声で絶叫する。
「そ、それは果たして赦されるのか?!」
「だから無駄になってる魂に限って復活させるんだよ。
お空に帰った魂までは戻せないし戻さないが正解かな。
だって赤ちゃんに入る予定の魂に手を出したら流産や死産になる妊婦が沢山出るかも知れないんだよ?
しかも使う魔力が1年未満の蘇生と比べて尋常じゃなくなるから、あの骨に限ってってルールにしたんだよね。
じゃないとちゃんと弔われている骨とか持って来られたらキリが無いでしょう?
魔力は皆が使うものだから、人間の事情だけで消費して良いものじゃないからね?」
「しかしそれは魔力と骨と魂さえ有れば無制限で復活が可能になると言う事にはならないのか?
少なくても死んで1年未満で有れば復活が可能になるとすれば⋯」
「だから私は秘匿になるんだよ。
逆恨みもいやだけど、家族が自由に生活出来なくなったら困るもん。」
「それはまぁ⋯ふむ。」
「その代わり1年未満の蘇生の技術は教会に渡すから、今後は教会の人の頑張り次第になるかな。」
「貴族には渡さないと?」
「多分貴族には難しい魔法になるんだよね。
教えてもいいけど、会得出来る人は少なくて、新鮮な死体の量産になるんじゃない?」
「何故だ?!
どうしてそうなるんだ!」
「貴族は持ってる魔力の量が多過ぎるから、子供の頃に魔法を誤爆させないように制限されてる事が多いからだよ。
それをされちゃうと魔力操作をするのが苦手になるから、いざ細かい作業をしようとしたら、不器用だから技術の会得にかなり努力が必要だと考えてるから、蘇生は平民向きの魔法になるんだよね。
だから貴族でも魔力が少ない人なら会得しやすいんじゃ無いかな?」
「つまり保護の為の魔力抑制具に不具合が有るんだな?!」
「でも死ぬぐらいならマシなんじゃない?
不具合というよりは、そう言う機能が有るから子供の命が正しく守られてるんだよ。
努力は必要になるけど、不可能ではないから蘇生がしたいなら基礎の魔力操作を訓練すれば良いよね?
そしたら魔力が少ない平民よりも、持ち前の魔力で出来る事の幅が広がって良い魔法師になれると思うよ。」
「⋯なるほど。
つまり不利では有るが、その者の志次第になるという事が。
ではその基礎の訓練とはどのように行えば良いのだ?」
「その辺は私と父がこの国の学院に通う予定だから、私は錬成師の勉強をする予定だけど、父は魔法師の方で学ぶ予定だったんだよ。
だから予定通りに行くのなら、そこで講義をやってねって言われてたから、そこで皆に教えようと考えてたけど。
それよりもこっちの問題をどうするかだよね?
そっちの話をしたいんだけど。」
「なっ⋯学院に通うつもりなのか?!
こんな真似をしたらそれは不可能だろう!」
「そうならない為の秘匿なの!」
「いやいや⋯正気か?!」
「まぁ心配してくれてると思って素直に聞いといてあげるよ。」
教会メンバー達から殺気を向けられても、無視する錬成師さんの鈍感力に脱帽する。
分かってて相手にしてないんだから大物だなぁって感心するね。
さぞかし乱高下する人生を送って来てるのかな?
今正に乱気流に突入してるから、さもありなん。
「あの⋯黒魔石?」
「あぁ、お父さん。
ちょっとお城にアルフィンを預けて来るから私が戻るまで他の家族の事をお願いね。
お姉ちゃんにはギルド長さんをつけてるか、お母さん達が落ち着いてからで大丈夫だよ。」
「それは危険ではないのか?」
「なるべく危険の少ない方法を考えて提案してた所だよ。
私には錬成師さんが居るからお母さん達の事に集中してよ。
さっき間諜さんに斬りつけられたからお父さん達も気をつけてね?」
『はぁ?!』
「事情を知らない人からしたらこんなもんだよ。
私はちゃんと油断してないから不安にならなくても大丈夫だから、お父さんは家族の皆を守ってね。
お姉ちゃんが蘇生を覚えたみたいだから、そこさえ落とされ無ければギルド長がいたら大丈夫かな。」
「っっ⋯そこまでなのか?!」
「お姉ちゃんはまだギルド長さんがついててくれてるけど、お父さんがお母さんの所につくならお兄ちゃん達はお姉ちゃんの方へ回してあげてね。
でも逆にお姉ちゃんの負担になるのかな?
やっぱりお兄ちゃんもお母さんの所で待機だね。
お父さん達に何かあったら、お兄ちゃん達にはお姉ちゃんへの伝令に回した方が良さそうかも。」
「⋯分かった。
黒魔石も無理はしないようにしなさい。
錬成師様にはご迷惑をおかけしますが、娘を宜しくお願いします。」
「あ、あぁ⋯承知した。
微力を尽くそう。」
おお!ちょっと感動した!
かなり引き攣った顔をしてるけど、錬成師さんはやっぱり良い人認定で合格だ。
押しに弱いのと頼られると断れない性格のようだ。
ふむふむ、これは便利な人を見つけたぞ!
「てことでお城に行こうか。」
「うぐっ⋯し、承知した。」
ニヤリと笑ってそう言えば、錬成師さんは父の手前嫌だ!と言えずに引き攣った顔で小さく呻いてた。
騎士さんがあからさまに不安そうな顔になってる。
大隊長さんも他人事ではないので顔色があまり宜しく無い。
司教さんは逆にもの凄くワクワクしてる。
王都への凱旋が楽しみらしいね。
そしてジョルノフはそんな司教さんを横目に見て複雑そうな表情になってる。
上司に叱られるだろうけど、その上司は更に上の上司から叱られてひっくり返るのを知ってるからじゃね?
だから嫌だけどそこまで嫌じゃないし、むしろ楽しみな気持ちの方が大きいんだけど、素直に顔に出せない。
みたいな?
「あ、そうだ。
皆の魔法の水を貰っておいて良いかな?」
「唐突になんだそれは⋯」
「別行動したときに捜索するのに、魔力を目安にしたいんだよ。
錬成師さんの銀の魔道具みたいなものかな?
都合が悪いんなら用が済んだら返すよ?」
「むむむ⋯ならばそちらの魔力も預からせて貰おう。」
「じゃあ交換だね。
もう錬成瓶使い過ぎてて在庫が乏しいから、ちょっと分けてくれない?」
「先ほど戦士達に渡したせいでこちらも品薄なのだが⋯」
「そりゃそうだよね。
むしろ良く持ってたね?」
「作ったのだ。
店まで戻る羽目になったんだぞ?」
「そっか。
それは申し訳無かったよ。
土壇場で思い付いちゃったんだよね。
ちょっと顔を出してお話して、大隊長さんの無事を保証して貰うのに、先王様達に会いに行こう!
南からこっちまで飛ぶのにどれぐらい必要か調べるから、その間に司教さんは準備しといてよ。」
「承知致しました。
帰りはどの様になされますでしょうか。」
「魔法の水を頼りに司教さんの所まで飛ぶから教会に行ってエライ人とお話しててくれるかな?
お城での話合いが終わったらそっちに迎えに行くからさ。」
「ではお望みのままに。」
「魔法のお水はやっぱりいいや。
今は瓶が無いから魔力を頑張って覚えるよ。む〜ん⋯」
私は小さく頷くも、なんか変な宗教みたいな返事だなと考えて、あっ宗教だった。
と微妙な気持ちになりながら、遮光錬成瓶にお水を貰うのを諦めて、全員の魔力をシッカリ記憶する。
そして必要な魔力量を確認すのに、試しにオマールをつれて転移した西南の海の地域に出た先の景色が、もう魔物の死骸で埋め尽くされてることに少し悲しい気持ちがする。
アルフィンが起きてた時の美しい浜辺を覚えているから余計にそうなるよね。
私の未熟さを突きつけられてる様な気分になった。
実際にそうなんだろうよ。
私が舐められてるせいで、向こうからしたら美味しそうに見える獲物でしか無いから、魔物が目の色を変えて集まってくるんだろうぜ。
だって野生の生き物はバカだからな!
アルフィンが居ないだけで、あれだけ美しかった砂浜が、此処まで酷く荒れ果てるだなんてと、心の底からため息を零す。
私はこんな存在だから、アルフィンは空に留まって居られなくなるんだろう。
世の中の有象無象を蹴散らして、私を守る存在で居てくれて、私が自由に動けるようにずっと守り続けてくれていたんだろうね。
そりゃ本体の私が大事にするよね。
なんならこの星の分体の女神ですら、記憶を消したくなるぐらい、彼に夢中になりかけてたんだろう。
だってもの凄く優しくてそんなに大切にしてくれる人なら、私だって好きになること間違い無しだわ。
でも私はアルフィンだけを見ている訳にはいかないから、彼を振り切る為にアレコレと工作をして逃げ続けてる羽目になってるんだろうか。
そうなればこれまで散々私の笑顔の為に尽くして我慢し続けて来たアルフィンがブチ切れたとしても無理は無いんじゃない?
アルフィンの静かな寝顔を見てると、この健気な人を何とか正気に戻そうと奮闘する本体の気持ちが分かる気がする。
でもやることなすこと裏目にでちゃって、どうにもならなくなって来たから、今の状態になってるんだろう。
彼の望みに従えば、それは即ち滅びを迎える事になる。
そうなれば自分だけじゃなくて、自分が支えてる全ての星々や生き物達が滅びを迎える事になるんじゃ無かろうか。
そりゃ本体も焦るよね。
誰一人死なせたく無いけど、これまでずっと支え続けてくれた、健気なアルフィンの本体も失いたくないと思うのなら、きっとそうなる。
全てに始まりと終わりが有るんなら、私の本体が始まりで、アルフィンの本体が終わりになるなら、正に神話の世界と言っても過言じゃ無いのかも知れない。
でもそれは偽物の神話なんだよ。
だって私は神様の器なんかじゃ無くて、失敗をするただの人間だからだ。
でもまぁ前世の神様だって逸話がそれぞれ有るし、万能な神様なんて仏様ぐらいじゃね?
とは思うけど、私達が知らないお間抜けな所もひょっとしたら有るのかもだけどさ。
だって私、仏様の話なんて全然知らないしね。
せいぜい聞いた話では、レレレのオジサンにはモデルがいて、高名なお坊さんが悟りを開く為の厳しい修行をして賢い弟子たちを育てていたら、知恵の遅れた1人の弟子が居るんだけど、自分の名前すら覚えられないぐらいに記憶力が低かったせいで彼の教育をどうするかで悩んだ結果。
掃除をしなさいと指示を出すんだよ。
そしたら知恵の足らないバカな弟子は、言われた通りに毎日毎日せっせと掃除を励む姿を長年続けているのを見て、ある日掃除は楽しいですか?
と、高名なお坊さんが聞いたら、弟子ははい!と笑顔で答えたから、師匠がどうしてそんなに掃除が楽しいのかを聞いたら、バカな弟子はこう答えたんだよ。
お掃除をしてたら皆が喜んでくれて、笑顔でお礼を言ってくれたり、褒めてくれるんです。
だから私は掃除をするのが大好きなんです。
それを聞いた高名なお坊さんは、貴方は悟りを開きましたねと、合格を出したもんだから、周りにいた厳しい修行や難しい勉強してた大勢の弟子たちがブーイングを出したんだそう。
だって掃除をしてたら悟りが開けちゃうのなら、難しい勉強も厳しい修行だってやる必要が無くなる事になるからだよ。
そこで答えたエライお坊さんの答えは、長い間飽きずに辛くて面倒な掃除を真面目に行うのはとても大変な事だけど、それを心から楽しいと思えるぐらいに努力を重ねて、他人の為に尽くすその心根の清らかさと弛まぬ努力を行える状態を体現しているから、彼は悟りの道を開いたと言ったんだと説いたとかなんとか。
確かその高名なお坊さんは、お釈迦様だったかな?
うろ覚え程度の話なので、ザッととしか知らないんだけど、そんなお坊さんみたいに有難そうで奥の深い難しい話が出来るようなエライ人が神様やるんなら納得だけど、私がそんなんじゃないのは、私自身が自分で1番良く分かってるんだから偽物の神様だと理解してんのよね。
どうせ魔力の扱いが得意な生き物に変異したとか、その程度の存在なんじゃない?
だからこんな下らない問題も解決出来なくて、追い詰められる結果になってしまってんだよ。
そんな未熟さの権化が沢山の生命を生み出して、根幹的な運営をしてるから、問題がいざ起こった時に大惨事になる訳だね。
その火消し要因にされちゃったもんだから、そりゃ私が大惨事になるのも当たり前なんだよ。
頼りになる相棒がポシャってる中で、果たして何処までやれるのか。
相棒がどうしたら喜んでくれるのか、それを見つけ出す事が本当の解決なんじゃないんだろうか。
でもそれが上では心中になるから、コッチはもう慌ててるんだよね。
この南西の海のあるこの土地は、そろそろ4時を迎えてるけど夜明けにはあと1時間と半分ぐらいと言った所だろか。
いつもなら美しい遠浅の海は、角クジラ鮫が暴れてたせいで、泥水みたいになっていた。
だから私は水を操って海の中を漂う砂を落ち着かせて、鏡のような美しい海を取り戻させる。
そしたら次に大量の魔力を投入すると、通常の100倍の指示をオートマで出して、魔素をコピーして増やす魔法を発動させるた。
魔力と違って魔素なら体積が小さいから、イケるんじゃね?って思ってたらあっという間増えて溢れた魔素達は入り江の出入口から外の海へと大量に溢れ出して行く。
ちょっと100 倍は欲張り過ぎたのかな?
でも夜明けまであと1〜2時間となると、それぐらい増やさないと魔力の消費が足らなくなると考えたんだけど。
このまま入り江の外が魔力で溢れちゃうと、また魔物祭りが始まっちゃうと考えれば、浜辺の魔物がいつまで経っても片付かない事になるんだよね。
それはちょっと嫌なので、私は天井のない浜辺に転移すると、身体を空に高く魔力の手で持ち上げてから、増えた魔素達にこのまま西の海へと魔素を増殖させて進む事を指示を出し、明日の朝7時頃には北西の街の大河まで魔力を運ぶ指示を出す。
でも増加率は100倍にしちゃうと色々と問題が有りそうなので、魔素を倍に増やす指示を出した上で西の海を進み続ける事を指示した。
そしたら朝が追いつく前に少しは消費した魔力も戻る事になるだろうし、入り江の魔力が目立つ前に回収してしまえば目眩ましになってくれたりなんてしないかな?
無理かな?
かなり甘いかな?
う〜む仕方が無い。
それじゃこのまま南下して北の氷の海に到着するまでの間、同じく2倍になるように設定して、魔素の増産を指示しておく。
使用する魔力は海のものだけど、水面を指示してるから海の中に生き物達が必要としてる魔力が減る影響は少ないと思う。
まぁ明日以降に無れば星の魔力が倍になっちゃうから、海の魔物が強くなって数も増えちゃうかも知れないけど。
元々海ってそんな感じ無もんだし、少し魔物が強くなって量が増える程度なら、そこまで影響は受けないんじゃね?ってほら。
私って雑で大雑把な農家の娘さんだし、アルフィンみたいに頭が良くないもんだから、取り敢えず明日の蘇生祭りで沢山魔力を使う予定だからさ?
消費する分は増やさないとそっちの方が問題が有りそうじゃない?
幾ら魔物が強くなって増えるって言っても短期間じゃそんなに増えないだろうし。
私がこうやって魔力を集めて使ってしまえば、良いんじゃね?って思ってるんだよ。
だってさぁ⋯最悪これから鬼ごっこ人生が始まっちゃうし。
長距離転移をバンバン使えるようにならないと、世界中にある教会も回れないだろうしさ。
いやまぁそこまで積極的にアレコレするつもりはないけど、そんな風に言われた時に魔力が無いから出来ません!
なんて言う神様なんて居ないんじゃ無いかと思う訳よ。
それと魔素を増やしたのは、私の無意識の魔法に期待してるからかな。
どうかアルフィンが幸せになれるように、1人に固執しないで沢山の愛おしい物に気付いて欲しくて、星の魔力がそんな願いに溢れてくれたら、それを吸い込むアルフィンや上の神様だって、私の願いを聞いて落ち着いてくれたらなぁ〜って、期待しちゃうわけ無んですよ。
虫の良い話なのかな?
私の願いを聞いて働いてくれてたアルフィンと決別する未来から、手を取り合って仲良く楽しく良い未来を作っていければと考えて、願いを乗せられないかなって思えたから、この気持ちのまま魔法の使えば良い事にならないかな?って他力本願な感じにお願いしてみたんだよね。
うん、まぁ環境破壊だよね。
知ってる。
ひょっとしたら私の方が破壊神だったりする?
はわわわ!
え、ちょっとマジかよ!
そりゃ絶対にヤバいって!
魔力草の根っ子で魔虫が大量に増幅したんだから、そんな変な事になったら大惨事じゃん!
え〜と落ち着け落ち着け。
うん。
悪い事が分かってるんなら改善しちゃえばいいんだよ。
私じゃどうすればいいか分かんないから、魔素達のほうでいい感じにしてねってお願いしておこう。
え〜といい感じって何?
だって影響を与えない魔力を作ってしまえば、私かその魔力を使って何も起こらないことにならない?
いや待てよ。
私だけが自由に操れる魔力を増やして、影響を与えたい時は私が相手の魔力に変質させちゃえばいいんじゃね?
つまり消費した分は消費した魔力と同じ形になるようにして、増えた余分は私だけが使える魔力にしちゃえば、沢山増やしても従来の生き物達には影響を与えられない事になるから安全だよね?
てことで更に残ってた魔力を使って私が作った魔素達にそれを伝達しろー!って言う魔法を放っておいた。
ふー⋯危なかったけど。
多分これできっと大丈夫だよ。
アルフィンが自然に吸っても営業は与えられない事になったけど、私がそのアルフィンの魔力にその魔素を使った魔力で染めて吸わせちゃえば、アルフィンはいい感じに落ち着いてくれるって寸法になるよね?
うん解決した!
さて随分魔力を使ったから魔法の鞄の魔力が殆ど無いんだよ。
これから長距離転移しなくちゃいけないから、少し漁で回復させなくちゃだよ。
はー⋯忙し忙し。
これから西の海のほうで魔力が増えるだろうから、そっちの下の方の魔力を抜いてくればいいよね?
って事で目視で可能な限り西の海に転移!
オートマで魔法の鞄の残りの魔力分だけ転移すると、そのまま海の中に一直線に飛び込んで行く。
海の中の魔力使って私の身体の周りの魔力を増殖させたら、後は何時も通りに周りの魔力を集める事にする。
水流操作を使って下の方の魔力を集めながら、魔法の鞄が満杯になるまでかき集めたいんだけど、大量の魔力を身にまとって移動する私を狙って、全方向から魔物が集まっ来たから、進行方向にいる魔物をスルスルと避けながら、魔力を沢山集めて行った。
そして鞄が満杯になって、私の周りの魔力も増えた事だしと。
5分経過程度の作業を終えて、アルフィンの所に転移した。
もう迷子の心配がないからめっちゃ効率良く作業に集中が出来るし、帰るのもあっという間になったお陰で時間のロスが減った分、気分的には生まれ変わったみたいに感じる。
今までは三輪車で必死にペダルを漕いでたのに、バイクでビューンと移動してるみたいだ。
やっぱり転移魔法って凄いんだね!
これぞまさに技術革命だよ。
しかも魔力なんか覚えなくても済む事が今になって気付いたからビックリする。
私がそれに感激してたら、私を抱っこしていたせいで、今まで強制的に私に付き合わされてたオマールが、声も無くしてガクブルし始めたから、ちょっと落ち着け!と、私は彼の肩をポンポンと叩いた。
空を高く飛んでも転移しても、高い所から海に飛び込んで魔物の中を泳いですり抜けてても、兄みたいに騒がずに、ずっと今まで静かにしてたから、ついウッカリこの人の事を気遣うのを忘れてたんだよ。
「は?」
「気にするな!
これから沢山魔力を使うから、他所から余ってる魔力を集めて来てたんだよ。
それよりも早くアルフィンを移動させて扉を回収しなくっちゃだね。」
動揺しかない視線を向けられたもんで、大丈夫!の意思を込めて小さく頷いてみせる。
するとその説明で腑に落ちたらしく、オマールはスン⋯と表情を消して落ち着いたから、全ての理解を諦めて放り投げる事にしたらしいのが伝わってきた。
え?そんなに?とは思ったものの、説明するのも面倒臭いのでアルフィンを魔力の手で掴んで浮かせたら、ベッドを魔法の鞄に回収する。
「へっ⋯陛下ぁぁ?!」
すると扉の前で大隊長さんが悲鳴を挙げてる横で、オマールと同じ表情になった錬成師さんがポンポンと大隊長さんの肩を叩いて注意を引いているのが見えた。
アルフィンがエビ反りみたいになってるから、胴体を掴んで雑に持ち上げたのが悪かったらしい。
仕方が無いやろ。
でも大丈夫!
アルフィンはオデコ全開になっても前髪の生え際までちゃんと美形だから、ツルンとしたお肌も綺麗だし、教会のお姉さん達は見惚れてウットリしてるんだよ。
エビ反りだぜ?エビ反り。
両手と両足がブランブランしてるのに美しくてカッコいいって何様だ?コイツ。
まぁ良い。
アルフィンが女性に強いのは、出会った頃から知ってるからな!
それよりも気になるのはセタが消えてる事なんだよ。
アイツ⋯扉に全員の意識が向いちゃったのと、私が拘束してなかった事を悪用して、トンズラをかましたらしい。
「セタが逃げたから捕まえるね。」
今度はちゃんとオマールにそう告げて、セタの真後ろに転移したら街の裏道を全力疾走してる真っ最中だったので、エビ反りしてるアルフィンみたいに魔力の手を胴体に巻き付けてから、また教会の中へと転移した。
すると前方にいた私が突然消えちゃったせいで、キョロキョロしている大隊長に気付いたセタが、バタバタと無意味に動かしてた足を止めて、プラーンと全身から力を抜いたので、エビ反りしてるアルフィンごとその真横に転移した私は。
「ねぇ、バカなの?」
と、一声釘を刺した瞬間に、横にいる私に気付いて顔を向けたセタの瞳から、光がスン⋯と消えたせいでオマールがくっ!と笑いを噛み殺すのが伝わって来た。
流石に空中でエア走りしてたセタはマヌケに見えたから面白かったのも有るんだろうけど、人の不幸は蜜の味らしいので、セタが不幸丸出しな顔をしたのも面白くて、さっきの不意打ちされた溜飲が下がったんじゃないかと思われる。
「っっ⋯」
幼い子供に鷲掴みされてる人形みたいにプラーンとしてるセタと、エビ反りしてるのに妙にセクシー過ぎるアルフィンにギョッとした、後ろを振り返ったばかりの大隊長や、同じくギョッとしてる錬成師や騎士や、おやおやと楽しそうしてる司教や悟りを開いちゃったようなジョルノフを掴んで私はアルフィンの私室に転移した。
『え?!』
突然変わった景色に全員がギョッとしてるのをスルーすると、豪華な御一人様の天蓋付きベッドの掛布をはぐってそこにアルフィンをそっと寝かせた。
靴が履きっぱなしだったから、そっちは別の魔力の手を使って両足を持ち上げると、靴を脱がせた後で両足を下ろし、掛布をかけておく。
「オマールさん、あの窓から外を見せてくれる?
司教さん、ここって王都に間違い無いかな?
教会ってどっちの方向にあるんだろ?」
私の希望と質問に答える為に、少し戸惑ったもののオマールは高そうな机の横を通り抜けると、窓の外の景色を私に見せてくれた。
司教も反対側を通って窓辺に向かうと、外の景色を見おろしてふむふむと地形の観察をしている。
「恐らく王都で街から無いかと思われます。
ここは王城でしたな?」
「うん。私はこの部屋が何処にあるのかは知らないけど、多分王城じゃないかとは思うんだよね。
何時もは王様に、この部屋に直接連れて来て貰って内緒の話をしたり、魔道具を作ったりしねたんだよね。」
「作用で御座いましたか。
でしたらこの街並みを見る限り、恐らくあちらの方向に大聖堂が有るのではないかと思われます。」
「私は王都の教会に来たことが無いから、近くまで送ろうと思うんだけど、どの辺りに司教さんたちを送ればいいと思う?」
「ですれば⋯一度外に出て頂いて、右手になりますあちらの方向を向いて頂きまして、大聖堂の入り口へ送って頂ければと具申致します。」
「少しだけ高い場所に出るけど、直ぐに地上に降ろすから心配しないてまね?」
私はそう言うとアルフィン以外のメンバーを連れて、窓の外の上空に飛び出し、落下する直前に右手側にそびえ立つ大きな教会の入り口目指して、再び転移をする。
「うわー!」「ひいぃ!」「ぐっ⋯」「ホホホ⋯」『⋯⋯』
と一瞬だけ騒がしかったせいで、大聖堂の入り口直前の踊り場に到着したら、声に驚いた人達が音のもとを見てギョッとした姿勢で固まる中。
「帰りは直接司教さんを目指して飛ぶよ。
ジョルノフさんはなるべく守ってあげて欲しいけど、無理はしなくても良いからね?
後で私がジョルノフさんも回収しにくるから、ジョルノフさんには申し訳無いけど少し頑張って2人で説明をしててくれるかな?」
「ホホホ⋯承知致しました。」
「はい。承知致しました。
お戻りを心よりお待ちしております。」
ジョルノフさんと司教さんが綺麗なお辞儀で頭を下げる気配を感じながらも、次は過去に2回使用されたあの応接室を目指して転移する。
アルフィンの魔力に擬態しているせいか、今の所は何も問題は起こらず。
そして無事に応接室っぽい部屋に到着したけれど、使用されて居なかったお陰で誰ともかち合わずに済んでる。
「キリンシュのお爺ちゃんと部下の人達を連れて説明するから、ちょっと此処で待っててくれるかな?
オマールさんにはセタの見張り役を任せて良い?
ここはお城だから迂闊に部屋を出られて目撃されたら、ややこしい事になっちゃうからね。」
「分かった。
逃げ出さないように見張っていよう。」
「直ぐ戻るつもりなんだけど、錬成師さんや大隊長さんは楽にして過ごしてくれてたらいいよ。
もしお城の人が私より先にこの部屋に入って来たら王様の代理で行動をしている、黒魔石からの命令で待機を命じられてるとでもつたえておいてね。
キリンシュのお爺ちゃんが来たら上手くやってくれると思うんだけどね。」
「承知した。」
「う⋯嘘では有るまいな?
そもそも何の説明も⋯」
なんか大隊長の話がエライ長そうだったから、無視してキリンシュの元へ転移すると、部下に何かを話そうとしてる所で魔力の手で拘束してから、次はあのアルフィンに名前を覚えて貰えない40代の人の横に飛んで捕獲すると、アルフィンの私室へ転移する。
『は?!』
2人が急に景色が変わった事で、スッと自然に警戒の体制に入ったけれど。
『へ、陛下?!』
「もーーーーー!すっごくすっごくすっごーーーく大変だったんだよ。
今もまだもの凄く大変なんだけど、私のお話を聞いて動いて欲しいんだよね。
先ずは先にお客様の所に案内するよ。」
アルフィンが寝てる横に座って2人の視界に直ぐに入った事を確認した私は、2人が唖然としてる所に言葉をたたみかけると、直ぐに2人を連れて応接室へと転移した。
「くそ!またか!!!」
「く、黒魔石様!」
「っっ⋯」
「今冗談じゃないぐらいに深刻な状況だけど、取り敢えず王様は無事だよって事を知らせて、お城の皆を安心させておきたかったのね?
だから王様が私を良く連れてくるお部屋に寝かせたんだけど、2人ならどのお部屋になるか、知ってるよね?」
「⋯はい。存じあげております。
僅かな間でしたが陛下の私室の1つで有りましたな。」
「希望が有ればまた直ぐあの場所に連れて行くけど、先に私が連れてきたお客様達をおもてなししていて欲しくて連れて来たんだよね。」
「おい!勝手な行動は⋯うっ⋯」
話してる間に飛んで消えたから悪態をついていた大隊長は、私の声を聞いて文句を言おうとしたけれど、会話をしている2人がお城のスタッフなのに気付いた瞬間にピタリと口を噤んだ。
キリンシュのお爺ちゃんもあの眼鏡の40代ぐらいのオジサンも、明らかに私や客と言われた人たちに静かに警戒を向けていたけれど、状況の確認を優先するくれたらしく、今の所は素直に私の話を聞いてくれてるらしい。
「先ずは王様について報告をします。
私が知ってる限り、ここ10日ずっと夜も寝ないで働いていたので今もの凄くよく寝てます。
理由は自作した魔法薬を長い間飲み続けたせいで、薬の効果が切れたから溜まってた過労が一気に来たんじゃないかと思うので、人の身体に詳しい人に一度調べて貰って下さい。
私も独自の魔法で調べたけど、今のところは呼吸や胸の音に異状は有りません。
直ぐにお城に連絡をしたり連れて来たかったけど、倒れたのが西の辺境で活動してたのと、向こうが真夜中だったので、私ではこれが限界の速度でした。
王様が普段使ってた魔法を何とか使えるようになれたので、お世話になった人と、これからお世話になる人と、恐らく国の密偵さんみたいな人と纏めて全員連れてきたのが、こちらのお客様達です。」
「なんという⋯直ぐに手配を。」
「は!」
「お待ち下さい!
王様が1番なのは理解しています!
でも王様が倒れるきっかけになった国の一大事が現在深刻な状況で進行しています。
王様と2人で秘密で処理しようとしている途中で、王様が倒れて寝てしまったせいで、途中でぶん投げる形になったので、私が死ぬほど働いたけれど。
王様が居ないから1人では解決出来ません!
大至急先王様と宰相のお爺ちゃんを此処に連れて来て下さい。
王様の代わりに代理で仕事を終わらせなければ国が滅びます!」
『は?!』
「教会がやらかしてたせいで、暴走しております。
このままだと国と教会との戦争になる恐れが非常に高く。
現在そうならないように協力者を募って行動中です。
そこの関係者すらまともな説明が出来ずに居るので、先王様と宰相さんに報告して、行動を継続する許可を下さい!
中途半端なまま時間が来ちゃうと、今度は人類が滅亡します!」
「うん?」
「はい?」
「此処までくれば胡散腐すぎて信用出来ない状態になってしまうけれど、死にたくないので先王様と宰相さんを早く連れて来て下さい!
教会と国とで戦争と聞いてもどうしよう?って状態なのに、今神様どうしで夫婦喧嘩を始めてしまってるので、本気でヤバいと思ってください。
私が長距離の転移魔法を使えるようになったのも、全てその影響になります!
もう冗談や嘘で済まない状態なので、このまま少し片鱗を感じて貰える現場までお二人をお連れします!
直ぐに此処に連れて来るので、じっとしてて貰えますか?
お客様に失礼があるといけないので、キリンシュのお爺ちゃんだけお付き合い下さいませんか?」
「⋯承知致しました。
万が一私が戻らなければ後は良しなに。」
「⋯は!」
「それでは行きますよ?」
キリンシュを連れて南西の浜辺へと移動すると、怪獣大戦争レベルの大物の魔物達が、浜辺で所狭しと転がっているのと、夜空と月明かりに照らされた入り江の光景に絶句していた。
「ここは⋯?」
「イスガルド大陸の西の果てに有る南の浜辺になります。」
「イスガルド大陸の西の果て?!⋯で御座いますか。」
「この宮殿は王様が夜も寝ないで作った場所になりますが、これは元から凝り性な性格のせいでした事なので、本来の目的は塩を摂るための浜辺の開拓をする事でした。」
「⋯塩、で御座いますか。」
「キリンシュのお爺ちゃんの方が私よりも事情を良くご存知かと思いますが、現在ウェスタリアは深刻な塩不足の状態なので、塩が正しく普及出来ておりません。
麦と同じように塩は人間の生命活動に必要不可欠な品物になるので、小さな入れ物に銀貨20枚と高額で、しかも購入制限があるような有様であれば、それは最優先で解決する必要のある国の問題となります。
ですが利権問題に始まり、橋の建設も厳しい状況なので、ウェスタリアは海に続く土地を手に入れる事が長い間出来ずにいたので、王様は先王様と宰相さんに出せる橋の代わりの代案として、あの黒い扉を開発していました。」
私はキリンシュお爺ちゃんの目の前で、後ろに位置する黒い転移魔道具を指で伝えた。
「⋯あれは?」
「転移魔道具になります。
扉の向こうからこちらを覗いてるのは、西の辺境の街にある教会で働いている方々になります。
あと後ろの浜辺で転がっている魔物は、ゴロゴロドンと角クジラ鮫ににりますが、これは平民がつけた俗称と私がつけた名前になりますので、角クジラ鮫には有りませんが、ゴロゴロドンの方は国ではレジャーポットと呼ばれています。」
「レジャーポット?!
まさか!
レジャーポットは10級の魔物ですぞ?!」
「そうですよ。
本来なら人間では倒せない魔物になります。
目撃者の中にお客様の錬成師さんが居られますので、後で確認をお願いします。
あとヴィルヘルムお爺ちゃんも呼ばなければ⋯。
私では王様が秘密裏に行動されている事をお話できないので、ヴィルヘルムお爺ちゃんも後で連れて来ますね。
それでは扉の外に出て街の確認をお願いします。」
「⋯⋯」
私がキリンシュお爺ちゃんの前に立って片手を差し出す。
「私の足が遅いのでそこまで転移をしようかと。
手をつなぐのと、魔力の手で私が勝手につなぐのとどちらが良いですか?」
「⋯では失礼致します。」
キリンシュお爺ちゃんは静かに私を警戒しながらも、片手を繋ぐ事を選択すると、私の小さな身体に合わせて身を屈めて手を繋いでくれた。
「どうぞご自分でお確かめ下さい。」
黒い扉の前に着いたので、キリンシュお爺ちゃんの手を離すと、彼はその場所から移動して、扉の裏も確認した後で背後を振り返って浜辺を確認した後で、元の場所まで戻ってくる。
「中に入っても?」
「はい、どうぞ。
このあと現在地の確認が終われば、問題の場所へご案内します。」
キリンシュお爺ちゃんが教会の中に入って礼拝堂をぐるりと見渡した後で、教会関係者に現在地を聞いた後は教会の出口に向かってスタスタ歩いて行くので、私は先に出口に転移してお爺ちゃんが来るのを待っている。
キリンシュお爺ちゃんは外に出て直ぐに兵士の異常な行動に気付き、少し兵士と会話をした後で、教会の出入口になる私の元まで戻って来た。
「外から見られないようにしたいので此方に。」
「教会の者には見せて構わないのでしょうか?」
「私は今神様ごっこをしてるので、教会の人達は私の事を神様だと信じている状態になります。」
「神様⋯ごっこ。」
「私は今神様の力を使って居るので、神様では有りませんが、神様の代理で行動しているので、嘘ではないギリギリを攻めています。」
「は?」
「これは先王様達を交えつつお話をするので、その時に聞いて下さい。
その時にはこの街の関係者の方々が居られるので、神の使徒みたいなお話をします。
でも私は人間の女の子で、神様じゃないから、凄く困ってます。
後で愚痴を聞いて下さい。」
「はぁ⋯」
「そもそも最初にこの教会の問題を気付いたのは、王様が私の身内を見つけて下さり、共に守る為に私の住む村に連れて来て下さるように動いた事がきっかけでした。
移動するので手を繋いで下さい。」
「承知しました。」
次に飛んだのは骨山の前に石の棺が並んでる場所だ。
私が現れた事に気付いた戦士達が、ざわめく事で姉も気付いたらしく私を振り返る。
「ちょっと!
何時まで待たせるの?!
錬成師さんは?」
「これからエライ人に説明するのに、関係者の人に冗談を説明してる大事なときなんだよ。
一度錬成師さんを連れて来た方が良いのかな?」
「そうなの!
棺を移動させなくちゃ塗れないのに、置き場所が無いから乾かして欲しいの!
乾かすだけなら私でも出来るでしょうけど、何かやらなきゃいけない事があったら困るでしょう?
だからまってるのよ。」
「直ぐに連れて来るから待っててね。
キリンシュお爺ちゃん、一度戻るのでこの光景を見て覚えておいて下さい。
後ろにある建物は教会の裏側になります。」
「⋯承知致しました。」
「これは本人からの自供ではなく、私の推測ですが普段は此処で国の間諜のお仕事をしてる人に誤解で斬り殺されかけました。」
「なんと。」
「だって胡散臭い話をしてて、平民をこんなに大勢つれて、兵士に協力して貰って裏手に人が来ないようにしていたので、かなり不審者だったと思うんです。」
「⋯なるほど。」
「襲ってきた人は捕まえてお客様と一緒に来て貰ってるので、叱らずに利用してあげて下さい。私は怪しい者ではなく。
大丈夫なのを彼の仲間に伝えて欲しいことと、人をつれて来て間違った行動を取らないように後で間諜の仲間を呼んで説得をお願いします。」
「それはお話を伺った後に判断させて頂きたく思うのですが宜しいでしょうか。」
「勿論です。
ですが現在も毒を街の至る所で撒かれてる危険性が高く。
かなり危険な状態になっておりますので、早めの決断を宜しくお願いします。」
「黒魔石様なら言われずともご承知でしょうが、私共にはその判断を行う権限が御座いません。」
「そうですね。
ではその権限のある方々にお集まり頂きましょう。」
「なりません。
私共にお任せをお願い申し上げます。」
「⋯えと、のんびりしてたら街の人達が沢山死んで仕舞いますよ?」
「それは承知致しております。」
「あぁ⋯そう言う事でしたか。」
静かに警戒をしているキリンシュお爺ちゃんの瞳に、覚悟の色が見えた気がして私は小さなため息を零す。
つまりセタは国が使っている間諜に間違いないが、教会の暗部でも有ると言う事なのよ。
恐らくは宰相のお爺ちゃんとキリンシュお爺ちゃんが、長い長い年月をかけて教会の闇を暴いた結果断罪すべきと判断して、有事の際には正しく教会を裁けるように、手を尽くして来たのではないかと考えられる。
だからこの街は人が死ななければならないのだろう。
教会での悪事を曝け出し、平民が正しく断罪出来るように誘導しようとしているのだ。
何故なら教会と言う組織は世界中に存在するので、余程の悲劇で無ければ情報に信憑性が無く。
噂が他国にまで広がってくれないからだろう。
ウェスタリアが正しく断罪しているのに対して、それを神罰にされては叶わないからでは無いかと予想される。
だからジョルノフは倒れたんだろう。
神の宮で悪事をしていたら本物の神様が来ちゃったと、心から驚いて怯えたのではないだろうか?
なんだか回り回ってもの凄く面会臭くなって来ちゃったぞ?
でも人が死ななくても話が回るように動いているんだから、新しい案を採用してくれたら良いんだけど。
それはあくまでも私の願いでしか無いから、確かに勝手に動いたらNGなのは分かるのだ。
「でも神様がかなりお怒りになられてて、このままだと星を砕くと男性の神様から言われていて、今女性の神様が必死にそれを止めようとして私を利用してる所なんですが、それはどうしたら良いんでしょうか。」
「⋯⋯それは。」
これまで涼しい表情でいたキリンシュお爺ちゃんの額に、ブワッと汗が滲み始めた。
証拠なら見せてある。
でも人が判断出来る事を超えてしまったので、頭中がフリーズしたのだと予想する。
だから私はコレならイケると判断したので、キリンシュお爺ちゃん達を不幸にさせない為に、私は彼をつれて応接室へとジャンプした。
そして錬成師さんとキリンシュお爺ちゃんを入れ替えてから、騎士と錬成師さんを教会の裏庭につれて行く。
『は?!』
「作業が止まってるの。
話し合いが始まる時は迎えに来るから、こっちをお願いね!」
それだけを言い捨てると、私は教会の中に置いてある黒い扉を魔法の鞄に回収する。
それからヴィルヘルムお爺ちゃんやお嬢さんやギルバートさん、カルマンさんや息子2人。
でもこのメンバーだけで応接室がいっぱいになってしまったので、全員をつれて謁見室へと移動させる。
今は使われて無かったのでそこに全員を残すと、王様やエライ騎士さんに宰相のお爺ちゃんや、王后様や娘2人と王子2人。
それから教会に飛んで司教さんの所に来ると、丁度説明してる所だったようなので、部屋の中にいた大勢の教会関係者をつれて、謁見室へと飛んだけど。
この辺りでもう魔法の鞄の魔力が半分ぐらい消耗したから、
時間稼ぎをする為に私は南西の浜辺へと転移する。
今謁見室では大勢の人達がワチャワチャしているだろうから、なるべく早くしないといけないので、生まれたばかりの私の為の魔素が産んた魔力を回収すると、大きく息を吸い込んでハイパー化させた。
視界に入る茶髪が銀色に変質するのを確認すると、次は東の果てに有る南の地方を目指して飛ぶ。
ルドルフ大帝国とミシリャンゼとは時差が8時間半ぐらい有るので、およそ16時前後の時間帯になるせいか、空が明るくなって、上空から地上が良く見えるようになった。
下の土地を確認すると、どうやら此方は人の街や村が海沿いに有るらしく。
この辺りであの入江を作るのは、ご近所さんの迷惑になる気がして躊躇われたので、更に東に進んだ地点で見つけた無人の島を利用する事にした。
草木よりも岩場が多く、イスガルド大陸に近いこの場所は、恐らく17時前後の時間帯になるせいで、はるか先にある東の空が紫色に変色している。
肉眼でイスガルド大陸が見える場所では無いけど、それほど距離は離れて無さそうなので、アルフィンを真似て少し小ぶりの入江を作る事にした。
これから此処らへんで魔力を吸収する拠点とする為だ。
転移に利用する為の私用の目印として、ピヨ子の石像を宮殿の代わりに作ってみたけれど、丸いものに嘴がついてる鳥みたいな何かになってしまった。
これを想像して目印にするのはちょっと⋯と、自分の美術的センスに軽く絶望したので、アルフィンが起きたら作り直して貰おうと軽く決意する。
でも今は無いものねだりになるから、断腸の思いで東の海に飛び込んで、東進しながら深い場所に有る魔力を出来る限りかき集め、魔法の鞄に詰め込んで行く。
こっちの海では向こうと違った魔物が沢山いたけれど、今は漁をする時間が無いのですり抜けるだけに留め。
大王イカみたいにすり抜けるのに危険な魔物だけを仕留めて、魔石を抜いてそのまま海に沈めておく。
かなり勿体ないとは思ったけど、私はアルフィンみたいな大容量のストレージを持ってないから仕方がない。
でも他の魔物達の餌になってくれる事を期待して、海の上の方まで運んでから細切れにして、肉片をばら撒いておいた。
大きなイカは美味しくないとは聞いていたけれど、黒魔石を持ってたから50cm大の欠片の1つだけを魔法の鞄に入れて、アルフィンの部屋に戻る事にする。
すると部屋の外の廊下にカチャカチャと音を立てて騎士が向かって来る気配を感じたので、アルフィンを天蓋ベットごと南西の海へと移動させておく。
何故だか嫌な予感を感じて、彼を守らないといけないと反射的にそうしてしまった。
何故こんなに急に不安になったのか。
その理由は分からないけど、謁見室に集めた人達が何らかの行動を起こした結果では無いかと予想する。
あーもう忙し忙し。
まぁ魔力の回収するだけのつもりが、ウッカリ入江を作ってしまったせいで、10分近く向こうに時間を与えてしまったのが、問題だったんだろう。
誤解が誤解を産んでどうなったか分からないけど、黒い扉は私がちゃんと回収してあるから、これでアルフィンは誰の手にも害される心配が無くなった気がする。
まぁ⋯あそこの素材を運び出す時はまたここに戻すとは思うけど、それは誤解が解けてからで大丈夫なんじゃないかな?
二度手間を惜しむよりも安全第一で行こうと思った。
そりゃ死んでも蘇生は出来るんだけど、だからと言って死なせて良い存在じゃないからしかたが無いよね?
あ、そうそう。
ついでにアレを取りに行かなくっちゃと、バタバタ走ってくる騎士達が部屋のドアを開ける前に、私は自宅のリビングに飛んで白い杖を回収しようとした。
「あ、そうそう。
ついでにバッカスとピヨ子も回収しておかなくっちゃ。
でもなー、説明してる時間も無いし鳥の世話もあるから⋯まぁいっか!」
お昼までにはウチに帰りたいので、面倒臭そうな事はひとまず後回しにしておく。
何故なら説明ならもう魔法を使えば出来るので、時間は必要無いんだよ。
ただ不機嫌になってる彼等の心を宥める時間を、惜しんだだけなのよね。
でもこれは時間を使って丁寧にしたかったので、取り敢えず時間が無い今は保留する事にした。
でも麦は気になる。
ただ日中の暑い時間帯に水撒きするのが不安な事もあったので、時間も無い事だし。
夜にたっぷりとお水を上げようと考えてから、杖を回収して謁見室に戻って来た。
王様ゾーンには誰も居なくて、近くの個室に何人か移動した様子で、せっかく集めた人達が散らばってしまっている。
でもまぁそうなるよね。
とは思ったので、皆で話し合いしてるんなら良いやと、取り敢えず西の辺境にある教会の裏庭に向かってジャンプした。
「お姉ちゃん。
錬成師さんはどう?
もう連れ出しても大丈夫かな?」
「あら、少し前に説明が終わって作業を始めた所だったのよね。
でもあれで良いなら私にも出来そうだから、連れて行っても平気よ?」
「じゃあこっちの準備が終わったら、また迎えに来るよ。
お湯を沸かす鐘の音よりも短いぐらいかな?」
「分かったわ。
今のウチに他の作業がないか確認しておくわね。」
そしてまた謁見室の王座に飛んだら、下のフロアでは教会関係者たちが勢ぞろいしてて、輪になり司教さんとジョルノフさんを取り囲む形で話を真剣に聞いてるみたいで、まだ私に気付いてないからスルーしておく。
次に向かったのは王侯貴族チームの部屋で、何故だか事情をあまり知らないだろう大隊長さんが、ワセランさんからの報告から知り得た情報を駆使して、ヴィルヘルムお爺ちゃんとサラディーン様から質問攻めをされてるのを必死に答えてる所で、その話し合いを上后様や王妃様、第2夫人や娘に息子にカルマンさんやその息子達とギルバートさんが集中して聞いてるみたいだったから、そこも取り敢えず放置した。
次はキリンシュお爺ちゃんの所に向かったら、先王様が私の気配を感じてハッとした顔を向けてきた。
それにキリンシュお爺ちゃんが気付いて直ぐに口を閉ざし、宰相のお爺ちゃんがのほほんとした雰囲気を脱ぎ捨てて、ギラギラとした強い光を孕んだ視線で私を凝視したので、私はニッコリと笑って愛想を振りまいておく。
「大丈夫。
心配しなくても悪いようにはしないからさ。」
それだけを言い捨てると、私はオマールの所に向かってジャンプした。
エライ人達の指示なのか、セタと一緒に捕縛された状態で廊下を歩いていたので、連行している騎士やキリンシュさんの部下の側仕え達を先王様達の部屋に飛ばしておく。
残こしたのはセタとオマールだったので、殴られたらしいオマールの顔の傷を直ぐに治した。
「オマールさん、面倒をかけたね。
準備が終わったからもう誰にも貴方を傷つけさせないよ。
セタはどうやら国の密偵の1人だけど、教会の方に潜入させて向こうの人を装って活動させてたみたいなんだよね。」
「どういう意味だ?」
「うん。
これから事情を聞く事になると思うけど、国のエライ人達は教会がやってることをとっくの昔に気付いてたみたいでね。
でも直接乗り込んで罪を裁けないから、教会が暴走する形で街を壊滅させる事で、正式に乗り込んで罪を表に出して暴こうとしてたみたいなんだよね。
そのために街を1つ壊滅させて、世間に教会の悪事を暴露させようとしたんだよ。」
「⋯済まない。
少し良く分からないんだが⋯」
「頭がこんがらがっちゃうよね?
でもまあコレから全員に全てを暴露して正しく断罪するから、聞いてくれてたらいいよ。
セタさんはその鍵になる人だったから、守ってくれてありがとうね。」
「⋯俺は何も⋯」
「オマールさんが居てくれたからセタさんが生きてるんだよ。
死んでも生き返らせるけど、それをしちゃうと向こうが信じてくれなくなるかもだから、本当に助かったよ。」
それだけを言って私は教会の裏庭に彼らを連れて飛ぶ。
「お姉ちゃん!」
「どうしたの?!
あら、2人共しばられてるの?」
「大変大変!
ギルド長さんと錬成師さんもちょっと付き合って欲しいんだよ。
もう劇ヤバ拗れまくりで頭がゴチャゴチャなの。」
「なんなのよそれ。」
「錬成師さんや騎士さんも来てきて!」
セタやオマールの姿を見て、もの凄く嫌そうな顔をしてる錬成師や、同じく遠い目になってる騎士の2人を呼び、更にこの場にヴィルヘルムお爺ちゃんとサラディーン様とギルバートさんとカルマンさんや大隊長さんに加えて上后様達女性陣とお子様4人を呼び寄せると、更に此処から南西のアルフィンの所までジャンプする。
『はぁ?!』
『へ、陛下!』
「おお⋯アルフィン⋯」
『父上!』
『お父様!』
景色がコロコロと変わったから、全員が状況について来れなかったけど、浜辺にある魔物の死骸よりも、天蓋付きベッドの方が目についたから、アルフィンの身内達は直ぐに彼の元へ向かう。
でも次に目立つのは魔物の死骸になるから。
「あれは何だ!」
「え~とレジャーポットの角クジラ鮫の死骸二組だよ。」
『黒魔石?!』
カルマンさんが叫んだから答えたら、アルフィンが寝てるベッドを取り囲んでた人達が私の声を聞いてキョロキョロと私の姿を探そうとしている。
お役御免になった可哀想な大隊長さんは、そこから少し離れた所で床にへたり込んで座っていた。
私はお姉ちゃんとギルド長とオマールさんとセタの近くに居たから、それを知ってる錬成師と騎士の2人がもの凄く気まずそうな顔をしてるけどスルーして話を続ける。
「まずは今回の事になるけど、教会が先にやらかしてたんだけど、先王様達も王様をそっちのけにして、そこに便乗する形で最悪な事をやらかそうとしてるんだよ。
そのせいで西の辺境に住んでる罪の無い平民が大勢死ぬハメになるから、私は神様からの指示を受けて神様ごっこをする事になっちゃったんだけど。
詳しい事情はこれから説明するから、取り敢えず王様を守ってて欲しいんだよね。
アルフィンは王様になってから今までずっと1人で頑張って来るのに強い魔法薬を飲んで、夜も昼もマトモに寝ないで頑張ってたせいで、その魔法薬の効果が切れて今までの疲れや睡眠不足がドバっときてて、疲れて寝てるんだよ。
不安ならサラディーン様が診察してあげてくれたら良いけど、寝てる以外に身体には何の問題も無かったよ。
ただアルフィンの身体の魔力量を何時もより低めにしてあるのは、今回の事で激怒してる男神がアルフィンの身体を使って暴れないようにしてるだけだから、迂闊に魔力を与えないでね。
じゃないと神様に操られてる王様のアルフィンが、この世界中の人達を殺して回る悲劇が起きちゃうと困るでしょ?」
『何よそれ!』
『何だそれは!』
「その説明はこれからやるけど、それは教会の人達や先王様達全員まとめて平等に行うから、ここの人達はこの場所に残って話を聞いててくれるかな?
ヴィルヘルムお爺ちゃんやカルマンさんは向こうに参加して貰う必要が有るから、その時は私が魔法で今みたいに呼ぶから、話さえ聞いててくれたら、好きな所に居てくれたら良いよ。
これから王様が作った転移の扉を使って此処を隠し部屋みたいにするから、中からチョロチョロと出入りしないでね?
まぁ私がさせないけどさ。
じゃあ皆は静かにしててね。
お姉ちゃんお願いね!」
『黒魔石っ!』
私はフードを被って姿を消すと、黒い扉をドンと置く。
そしたら次は西の辺境の黒い扉の前に飛んでその扉を回収して、更に謁見室に飛ぶとキョロキョロと辺りを見回して扉の隠し場所を探したけど、どこも見通しが良さすぎるので今は断念する。
王座の後ろが位置的に良さそうなんだけど、扉は王座よりも横幅があってハミ出しちゃうんだよ。
でも扉の色は黒いし王座はピカピカしてるからイケるかな?と、雑にそう決めると王座の後ろに扉をドンと設置する。
多分今はお姉ちゃんが騒ぐ大人達に正論パンチしてるだろうから、先に先王様達を下のフロアにまとめて呼び寄せた。
『なっ?!』
オマール達を連行してた下っ端の騎士達やキリンシュお爺ちゃんの部下達も纏めて呼んだから、先王様達を中心にして取り囲む形で護衛スタイルになってる。
それを見た教会の人達は大喜びでもの凄く興奮してた。
アイツらにやらかしてる自覚が無いのかと、小一時間問い詰めたい所なんだけど、まぁ自覚が無い人達ばかりなのは仕方が無い。
キリンシュお爺ちゃんの優秀な部下達が、頑張って仕事をした結果がアレなんだろうね。
もうホントにヤレヤレだよ。
それを思えばセタは国の密偵の自覚が有るから、かなり優秀な人材だったんだろうけど、私の本体が関与したからそう言う都合の良い人が、あの場所にいたんじゃない?
まぁこう言うのをお釈迦様の掌の上でコロコロされちゃうって言うヤツなのかな?
知らんけど。
でもまぁ⋯セタはキリンシュお爺ちゃんの代わりの人材になれそうなのかなぁ?
う〜ん⋯性格的に無理かな。
アルフィンに密偵は要らんしな。
お嬢さんの治世がもし来るなら、その時にお嬢さんが考えれば済む話だよね。
そして私は一度南西の海に飛んで、姉の説教を背後に聞きながら、空気中にある魔力を集めてから減った分を少し補充すると、背後が静かになった所でまた謁見室に飛んで少しだけ扉を開いて声が聞こえるようにして置く。
すると扉の向こう側にいる人達がハッとした気配がして、シーンと静かになった。
よしよし。
さて準備は全て整った。
さぁこれからショータイムの始まりだぁ!
私は王座の上に仁王立ちすると、姿を隠してるローブの頭を跳ね上げた。
「これよりウェスタリア国の友である黒魔石として、または次世代の神候補としての仕事を始めようと思う。」
アルフィンが作ってくれた杖を王座の椅子にドンとついて、全員から視線を集中させるとそう
宣言した。
週刊少年ジャ◯プ様の理念は、1968年の創刊時より根付く「友情・努力・勝利」の3大要素だそうです。
ヒロインは1つも掠っておりません。
女の子だから許してあげて下さいませ!




