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5

リリアナ。

頑張って明後日の方向に走って行くの巻。


太陽がかなり傾いている。

でもまだ夕日が出る時間じゃ無いから、空は青い。

前世なら15時を過ぎたあたりかも。

何時もならとっくにお昼寝してる時間帯なんだけど、私は寝ずに頑張っている。

人工小川のせせらぎが眠気を誘うが、美味しいミルクが品切れなので、黄緑色のストレート茶に、白い粉を多めに入れたものを飲んで起きていた。


マルセロがヤラマウトに噛まれた現場じゃ無いけど、適当に馬モドキとトカゲが走った先で、お嬢さんが降りたのがこの人工小川のほとりだったのだ。


お嬢さん、気に入ったらしい。

でも前と違って気候が夏に近づいているので、太陽の日差しが暑くなってる。

だからカルマンさんは、パラソルと椅子とテーブルを出して設置してくれた。

私には高さが足りなかったので、お尻の下に毛布を重ねてかさ増ししている。

我が家の毛布とちがって、何だか銀色だしフワフワしてた。


でも鎧の照り返しが眩しいので、あんまりパラソルは意味が無いかも知れないとか思ってたのは、私だけじゃ無かったらしく。赤黒いマントで身体を覆って暑苦しそうな見た目になってた。

年中半袖な農民からしたら、見るからに暑そうと言うスタイルだ。


でもそんなのどうでも良いらしいギルバートさんやカルマンさんは、護衛だって言い張ってたあの頃が幻かと思うぐらい、お嬢さんのお茶を飲んで小川をぼんやりと眺めてる。

カルマンさんの出したテーブルと椅子に座ってるのはお嬢さんと私の2人で、ギルバートさんとカルマンさんはテーブルの左右に別れた場所で、それぞれが胡座をかいて地面に座り込んでいた。

2人が小川を見てるのが、土手に座ってる高校生みたいな錯覚をかもし出してる。


「はぁ~⋯それで?話って何なの。」


お嬢さんが疲れ果ててるせいか、かなヤンキーみたいな雰囲気になって来たぞ。

ちょっと戦慄く。


「お姉さんは私の考えに気付いてくれたと思うんですが、騎士のお2人が気付いて無いみたいなので、説明しておこうかと。」

「説明って何の?」

「姉を落ち着かせる為に話した、あの話の裏の話です。」

「裏?裏って表と裏の、裏で合ってるかしら?」

「そうですね。

表を神様がした事だと思わせた作り話だとしたら、その裏に隠された本当にあったお話です。」

「ん?どう言う意味なの?

作り話って何もいつわって無かったでしょう?」

「まだ言葉の知識が未熟なので、上手くお話出来るか分かりませんが、私の気が付いた真実の話を聞いて下さい。」

「⋯良く分からないけれど、聞けば良いのね?」


小川に向けていた2人の視線が、スルリと此方に向かった気配を感じて私はお茶を一口飲んだ。


「あれもこれも全部を神様のせいにしたのは、姉を落ち着かせるためにした事です。

理由は秘密を守る協力を、姉に受け入れて貰いたかったからです。」

「まぁそうでしょうね。

そんな事に神を使う不敬さはとりあえず置いておくわね。」

「はい。ありがとうございます。

それでですね。

先ずは母の子供が流れた事についてです。

子供を産んだ後で使う回復薬は、お姉さんならどんな物が丁度良いと思いますか?」

「うん?産後に使うから中級以上の回復薬が好ましいわよ。

特急までは必要は無いけれど、貴族の女性は人に寄れば血の気が足らないから上級の方が良い場合があるもの。」

「やはりそうでしたか。

でも私の家にあるのは多分下級回復薬なんです。」

「まさか!下級では出血を抑えるのが精々よ。内臓の治癒には中級以上で無ければ⋯」

「確認しても良いですが、多分私は下級で凌いでいるんじゃ無いかと考えました。

3人目を産むまでは、何とか持ち前の体力でしのげていたんだと思います。

でも4人目になったら回復が足らなくて流れてしまったのでは無いかと考えました。

母はあの性格ですから、残念に思って悲しんだとは思います。

でもその頃には5歳の姉と、3歳の兄と1歳の兄がいて、休むまもなくたった1人で家の事をしていたんじゃ無いかと考えました。」

「⋯なるほど、言いたい事が分かって来たわ。神が手を出さなくても子供を産むのが難しい状況だったのね?」

「多分2人目の時も同じように、頑張って1人で働いていたんだと思います。姉もまだその頃は幼くて、母の手伝いをするのは難しかったでしょうし。」

「あぁ⋯だから家の中に仮病を使ってでも閉じこもったのは、結果として正解だった事になるわね。」

「そして父です。

3人も子供を産んだ後でも働いていた元気だった母が2回も子供を死なせてしまい、しかも3回目に妊娠したら体調を崩して寝たきりになったと考えて下さい。」

「それはさぞかし不安になったでしょうね。」

「はい。だから何時もは行かない森の奥に行く決意をしたんだと思います。母に少しでも良い回復薬を買うために。」

「でも見つけたのが精霊実だったのね?」

「恐らく父は森の奥に行く為に、凄腕の狩人である兄を頼ったんだと思います。

父は末息子で上に4男の叔父がいます。その叔父はこの村の狩人の中でも腕の良い狩人なので、精霊実の事も知識にはあったんじゃ無いかと思いました。」

「探そうと思って探せるものでは無いとしても、きっと生える可能性の高い場所を知っていたのかも知れないって事ね。」

「はい。そして恐らく精霊実がとても高く売り買いされているのも知っていたんだと思います。」

「でしょうね。それならそれを売れば良かったと思うのだけど⋯」

「精霊実がとても高く買い取ってくれる物だとは知っていても、精霊実がどうして高く買い取られるかまでは知らなかったと思います。

此処で戦士ギルドの話をしますね。

お姉さんは白金板10枚と言われていましたが、それは錬成師がで買い取りする時の金額で、実際はもう少し安いんじゃ無いかと思います。

それでも小金貨1枚あれば1年は余裕で生活出来る農民が、白金貨が出て来る獲物を売りにいけば、危ないと考えたのではないでしょうか。

凄腕の狩人は引く事を知っていますので。」

「なるほど⋯それで高価な果実と言う知識しか無いのに、売りもせず直接毒味をして試したのね。」

「はい。

2人に聞けば分かる事ですが、その方が色々と話の道が通るので。」

「つまり神は何も介入してないと言いたいのね?」

「はい。お嬢さんが予想した通り、恐らく叔父も父も精霊実を傷つけてはいけないとは知らなかったのでは無いかと思います。精霊実は珍しいと聞いていますし、見つけていたら今ごろ叔父は大金持ちでしたでしょう。ひょっとしたら、見つけていてもワザと見逃していたのかも知れませんが。」

「あぁ!そうね!その可能性が物凄く高いのではなくて?!

元々有る事を知っていたから、弟の為に取りに行ったのね!

でも単独では危険。でも分けるわけには行かないから2人か少人数で行くしかなかった!

奥地に騎士でも無い者が少人数で行くだなんて自殺行為よ。だから精霊実を毒味した時に、とても回復効果を感じてしまったのね?」

「あとはお姉さんが言われた通りに、ギリギリ安全圏まで素材が悪くなって死人が出なかったんじゃ無いかと思います。


でもこれらは、今の所私が集めた情報から推測したものなので、父に聞いてまだ知らない新しい情報が出たら少し変わるかも知れないと思ってます。

でも大筋は、間違って無いんじゃないかなと。

まぁ確認してみないと分かりませんが。」

「⋯そうね。では貴方の事はどうなの?」

「精霊実を使った実験は出来ないのでこればかりは、アレのせいとしか私にも説明が難しいです。」

「まぁ⋯確かにそうなるわね。つまりそこにも神は関わらなかったと言いたいのね?」

「はい。

後はもう強引なこじつけでしか有りません。後から思えば⋯と考えれば、何らかの思いたる事が出て来るでしょうし。


そもそも私が神様なら、自分が望む様な魔法を使わないんじゃ無いかと思いました。」

「それはもう不敬なんてもんじゃ無いけれど⋯せめてそこは別の何かに当てて考えて下さらない?」

「では騎士で例えます。

試合をするとして、2人の騎士に観客が指示を出します。

1人目の騎士には右に剣を振れと言い、2人目の騎士にはそれを左に逃げて避けろと言います。

逃げた所で2人目の騎士に頭を叩けと指示を出し、1人目の騎士に逃げるなと言う。

それで2人目の騎士が勝つ試合を見て、楽しいですか?

それを延々繰り返すなら、見るのに私なら飽きると思います。」

「⋯言わんとする事の意味は分かって来たわ。

()()は努力を重ねて技術を磨いてきた者達の、真剣な試合の方がずっと見るのに楽しいでしょうね。」

「つまりそう言うことです。

私はまだ教会に行ってないので、どれだけの事を神様がして来たかは知りませんが。

人が出来ないスゴい事が出来る、人じゃ無い何かと考えているので。」

『人じゃ無い何か!』


お姉さんと騎士2人目が唖然とする。

まさにポカーンとした顔になった。


「あ⋯貴方!

なんてことを言うの?!

そう言う言い方や考える事も不敬なのよ?ねぇ知らないから何をやっても良いわけじゃ無いんだからね?!」

「すみません。言葉知らずで。神話も何も知らないので、他に例え方が分からないんです。」

「えぇえぇそうよね!

だって貴方は賢くて良く喋るだけの、まだ2歳児なんですもの!

ああぁぁーーーーー!

もどかしいわあぁぁぁ!」


発狂したお姉さんから視線を外して、()るくなった甘いお茶を啜る。

まだテーブルをひっくり返さず、声を出してるだけなので平和だ。


大きなため息が左右から聞こえて来たので、騎士2人へのフォローは完了したっぽい。

良かったよ。

2人がカタリナみたいな妄信者タイプじゃ無くて。


「⋯そうか。神のご意思では無かったと⋯」

「はぁ〜。それでも私達の仕事は何も変わらないのでは?」

「フ⋯神話で語られるよりはマシだとは思うが。」


2人ともわやわや話しながら立ちあがると、背筋を伸ばして顔を見合わせた。


「まぁ⋯それは私では荷が重いとは感じていましたが⋯私は貴方とは違いますので。」

「何を言うか。

それこそ偉大なる神からしたら誤差だろう。」

「誤差⋯」


キリリとしたカルマンさんの視線を受けてギルバートさんが真顔になる。

何となく視線がそんなわけねーだろ!って、言ってる気がするので、多分カルマンさんは強いんだろう。


でも何ていうか、カルマンさんの雰囲気が少しぎごちない。

凹んでると言うか、落ち込んでるのを無理矢理誤魔化してる様な⋯うん。今の所良くわからんので、取り敢えず流す。

神話に出れなくて残念って感じでは無さそうだった。


「私の話は終わりです。」

「なるほどね。

随分と効いてたみたいね。

2人とも。」

「それは仕方が無いのでは。」

「真実を見通す目をお持ちの黒魔石殿からのご指摘でしたので。」

「物凄く説得力があったものね。子供騙しには思えないぐらい。」

「良いのです。

今のが真実なのです。

なぁギルバート。」

「えぇ。追及しないで下さい。

光栄が過ぎて、我々は神話に出たく有りません。」

「えぇ、ウフフフ。私もよ。」


多少騎士から威圧感を感じてはいるが、アットホームな雰囲気なので穏やかだ。

カルマンさんもぎこちないけど笑ってるから、大丈夫なのかな?


「それにしても凄かったです。お金持ちなんですね。」

「あぁ、借りたのよ。

多少揃えるのに苦労したのは黒魔石ぐらいね。」

「でも透明の錬成瓶に入ってましたけど、大丈夫なんですか?」

「ウフフ!貴方、凄腕の狩人の姪なのに知らないの?

あぁ⋯そうね。精霊実を齧るぐらいですものね。

魔石はね。

破損しない限り、太陽の光を浴びても劣化しない素材なのよ。」

「なるほど。

硬そうですもんね。

なら精霊実は遮光瓶ですか?」

「長期の保管を考えればそうね。でも植物で言えば蜜 花 葉 茎 根 実 種の順番で劣化し難くなってるわ。

蜜が1番劣化しやすくて、花と茎と根は同率。それから離れて実。実より種といった形よ。」

「ふむふむ。」


液体より固体の方が劣化し難いのかと、一人ごちる。

気体 液体 固体の法則を認識してるのか聞いてみたいけど、また発狂されたら嫌だなと思って自重したのだ。


「それで貴方の話を聞く約束だったわね?」

「今日はもう疲れたのでまたよ機会じゃ駄目ですか?」

「それなんだけど⋯貴方の安全を思えば、私と接触する機会は減らしたいのよ。

今はまだ良いのよ。

段階を踏んでるし、あの発見もまだ公表してないの。

師匠が他の錬成師と逢って色々と話をつけてくれてるから。

師匠も私の事を弟子のうちの1人としか告げて無いから、まだ私の事もバレて無いと思うの。

でも論文を纏めて発表すれば、読む者を限ったとしてもウェスタリアに激震が走るわ。

そして必ず私の事も突き止められてしまうでしょうね。」

「⋯なるほど?」

「師匠も私の存在を隠す方法で粘ってくれるでしょうけれど、私は見習いだから隠せないわ。」

「私なら隠せる。」

「それも短時間ならよ。

だって皆貴方に会いたがるもの。下手をすればミシリャンゼに住む住人全てに迷惑がかかるわ。子供と言えば子供が攫われるのが目に見えるから、人間と言えば老略男女全ての住人が危険に晒されるわよ。」

「え?そこまでですか?」

「そうよ。そこまで行くと私は感じているわ。」


具体的に住人がどれぐらい住んでるか、私は知らない。

何せ外から来る戦士が多いので、ザックリと1000人以上居そうだなと見知った情報から、丼ぶり勘定してるだけだ。

でも私達一家だけで家族が7人も居るんだから、親の若さを思うと、一家辺りの平均人口が10人として、世帯数100軒なんて可愛い数字では無さそう。

一家につき農家1人、狩人2人、他は戦士や嫁ぎ先に出るとしても、3人はミシリャンゼに残れば親が亡くなっても1人人口が増える。

もっと言えば一家で子供が1ダースとか居る家も有るだろうし、狩人や嫁ぎ先として残る人数が3人なんて可愛い数字に収まらないと思う。


それを可能にしてるのが開墾の余地のある広大な平地。

森さえ切り拓いて行けば行くほど畑や住める土地が広がって行くのだ。

そりゃ1000人なんて可愛い数字じゃ済まないよね。


「ミシリャンゼに住んでる住人て、どれぐらい居るんですか?」

「さぁ。調べなければ分からないけれど、10万人は居るんじゃない?」

「ふぁ?!え?村ですよ!」

「村の規模では無いもの。

でも村で無ければ都合が悪いから、村にしてるだけよ。

住んでる者が農民だから。」

「あ〜⋯」

「街にすれば税が上がるから、農民では生活出来なくなるの。でも農民の育てる(アムル)の値段を上げれば、街の住民が餓死するでしょう?

だからとても難しいみたいよ。」

「⋯なるほど。」

「ミシリャンゼが豊かなのは、(アムル)だけで収入が小さな街に匹敵してるからなの。

村長は村の収入を使って村の設備を整える義務があるから、村の中を移動する乗り物にモッブが10頭以上、マモーに始まってマージンなんて馬鹿みたいに居るし。

今言ったの全部錬成師が作ってる魔法生物なのよ。

魔物と違って魔法生物は自己繁殖しないから、一匹で最低小金貨10枚必要なの。」


ひぃ?!小金貨10枚って、五億円?!

はい?マージンて、あの雀並に大量にブンブン跳んでるてんとう虫みたいなあの虫みたいな鳥だよ!

五億するの?!一匹五億円が放し飼い?!


「え?マージンとか馬鹿みたいに飛んでますよ。しかもアレ、自分で増えないんですか?!」

「そうよ。魔法生物はあくまでも錬成師が人工的に生み出した、人間に都合の良い生物なの。」

「マージンが都合が良いって何の為に?!」

「受粉よ。」

「じゅふん?」

「そうよ。(アムル)を育てる為に人の手でいちいち1つづつ手をかけていたら、こんなに広大な畑なんて管理出来ないわよ。」

「じゅふん⋯じゅふんて受粉。あー⋯なるほど。一匹『五億円⋯』」

「うん?ごおくにぇん?」

「あ、いえ。その。えと魔法生物は全部同じお値段では⋯」

「ないわよ。マモーで金貨1枚居るでしょうし。モッブだと金貨3枚要るわよ。」


あの臭い乳の元が50億で、モップみたいなモッブが150億。

頭がクラクラして来る。

だってパン1つ銅貨2枚だよ?

どんだけあればそんな金額の設備が買えちゃうの?


「なんかもう私には分からない世界のお話ですね⋯」


私はもう日本円で数えるのを止める事にした。

だって価値観が違いすぎるんだもん。


「街の貧民が貧乏なのは、魔石のせいですか?」

「そうね。錬成師がお金を使う理由が魔石と素材だもの。

魔石や素材を稼げ無い職人は、どうしても稼ぎがね⋯」

「だから布が高いんですか?

魔導具で沢山作れそうなのに。」

「お金が無いから魔導具が買えないし、維持費がね。

と言うよりもどうして魔導具があれば布が安くなんだなんて発想になるの?」

「ほえ?!」

「貴方、魔導具がどんな物が知らないでしょう?」

「え?!だってその魔法の鞄て魔導具なんじゃないんですか?」

「そうじゃ無くて。魔法の鞄を見て何で布が安くなるのかを説明しなさいよ。」

「えー?魔導具って便利だから、人が手作業で仕事するより早く作れるかなぁって。」

「あぁ⋯そう言う事ね。

てっきりそんな魔導具の構造を知ってる訳では無いのね?

あ〜⋯驚いたわ。」

「私の方が驚きました。

何かまた変な事言ったのかと。」

「ウフフ。ごめんなさいね。あんまり貴方がどんどん信じられない物ばかり見つけるから、私が過剰に勘違いしてしまったの。」


怖ぇええ〜。

構造なんて知らないけど、そう言った仕事をする機械があれば大量生産出来ると下手に知ってるもんだから、危うく異世界の情報が溢れる所だった。

まぁ⋯異世界の証明なんて、案外こんな発想で良いんだろうけど、作り方なんて知らないからね。


「私には魔導具の作り方なんてサッパリ分からないけど、一度に沢山布が作れたら服が安くなって便利ですよね?」

「そうなれば布を作る職人が職を失うわよ。」

「失いませんよ。布や服は足りて無いから高いんです。

私なんてお下がりのお下がりのお下がりなんですよ?

ボロボロになっても掃除に服を切って使ったりしてるんです。

安くなってくれたら嬉しい人達が沢山いると思います。

そしたら職人さん達の仕事が増えると思うんです。」

「増えた所で作れる量は知れてるわよ。何?服も機械で作れって言うの?」

「服を作るのは職人さんでも、手助け出来る魔導具が有れば短い時間で、沢山服が作れますよね?

例え話ですけど、人が縫ってる作業を代わりにして貰える機械が有れば、縫う人が考えるお洋服が早く作れませんか?

直線だけでも魔導具で縫えたら、それを合わせるのを職人がすれば、作る時間が短くなりますよね?

それで無くても、職人さんも増えますよ。

お仕事が増えたら今まで嫁とか戦士とかしか仕事が無かった女の子達の職場になりませんか?」

「え⋯職人を増やせる?」

「仕事が無いから向いてないのに、戦士になるしか無い人もいると思うんです。

未熟な人が作ったお洋服が安くても、助かる人が沢山いると思います。安く買えるから。」

「買うお金が無い場合はどうするの?」

「その分麦(アムル)をみたいに綿を沢山作って売れば良いんじゃ無いですか?材料が沢山必要になるから、農民も増えて貧民が減りませんか?」

ガチャン

「わあ!」


ティーカップがお姉さんの指から離れてテーブルに落ちた。

お茶がテーブルを伝って溢れてる。

ワタワタしてたらバン!とテーブルを両手で叩いてお姉さんが立ち上がった。


「なぜ布の原料が植物だと思ったのか分からないけど、確かに布の原料は植物よ。

既に糸を作る魔導具は有るの。でも布を織るには職人が必要だから、手を出せなかったのよ。

農民を増やして原材料を増やす。

職人ほどの質は保てなくても布を魔導具で大量に生産すれば、値段が安くなる。

布の価格が減れば⋯」


ブツブツとお姉さんは小さく呪文の様に唱え始める。


「問題は土地。でも開拓が進めば解決する!

戦士は大量に居るものね!

素晴らしいわ!

貴方、街から貧民が消えるわよ!」

「えぇっと⋯そんなに簡単には⋯」

「行くのよ!

仕事がないだけの貧民が大勢居るのだもの!」

「ほぇ?!」

「貴方、錬成師界だけで無く、貴族界にも激震が走るわよ!

錬成師も喜ぶわ!

素材になる綿の種が大量に売れるんですもの。

良い綿の種を開発をしてる人達は狂喜乱舞するでしょうね。

それに魔導具師も熱いわね!

人間には劣っても普段使いで安価に使用出来る布や服の魔導具を作る仕事が出来たんですもの。

あっは!貴方、スゴいじゃ無い!

どうして皆、こんな簡単な流れに気が付かなかったの?

職人の失業率で思考が止まってたのかしら?

それとも魔導具が難しいのかしら?布の織り方を知らないから難しいわね。そこを調べる所を始めないと⋯ああ!身体が足りない!私もやりたいのに!

何なの今までの私!

こんなにボロボロ研究内容が出て来るじゃ無い!

ねぇ!貴方は一体何なの?!」

「リリアナ2歳!

女の子です!」

「こんの黒魔石めー!」

「きゃーー!」


ギラギラした視線で睨まれたから、元気に両手を挙げて返事を返したら、抱きつかれた挙句に頭やら顔を撫でて揉みくちゃにされた。

擽ったくて、悲鳴みたいな笑い声が溢れる。


「でもホントに身体が足らないのよぉ。相談したいのにお師匠様も貴方の件で手を離せないの。」

「んー。今のが終わってから、この話をしたら色々と衝撃が誤魔化されてくれませんかね?

皆忙しくなって、それ所じゃ無いみたいな⋯」

「うっふ。私みたいな事になるのね?それ良いわねぇ〜。構想だけを報告して丸投げしてやれば良いの?

あっは!すっごくそれって面白そうだわ。

でもこの構想を使って研究したらボロ儲け出来ると思うのだけど、ホントに投げて良いの?」

「私は私と家族が安全ならそれで良いので、お金が稼げそうなものはどんどんそっちに流して下さい。好きなの選んで研究してて貰えたら、私を探す時間なんてどうでも良くなりません?」

「ウフフフ!ミシリャンゼの人工が増えそうね。

黒魔石を探せとウジャウジャ来るわよ。他人を雇えばいいだけだもの。」

「それなら人が増えて余計に探すの大変ですね。

ミシリャンゼで出逢った黒魔石にしちゃえば、村人だけじゃ無くて戦士も探す人の数に入りますし。」

「子供とバレ無ければそうなるわね。」

「お姉さんは警戒されちゃうので、相談する時はお父さんにお店に買い物に行って貰えば良いですか?」

「そうね⋯私との直接的な接触はなるべく控えるべきね。

文字を覚えるのだから、私へ手紙を書きなさい。私がそちらに質問する時は魔法を使うわ。

そうね。そういった魔導具も持たせたら良いのね。」

「欲しい魔導具が出来たらどうなりますか?」

「父親に魔法鞄を持ち帰らせるわ。その中に入れて渡すから、貴方の商品もそこに入れて渡せば良いのよ。」

「なるほど。目立たない魔法鞄を⋯父が倒れそうですね。」

「粗末にされても困るから、値段は知ってて欲しいわね。

まぁ娘の安全のために頑張るのでは無いの?

妻に白金板10枚を捧げるために森の奥地へ行ける夫ですもの。」

「是非アレの値段を教えてあげて下さい。その危険性もです。ひっくり返るとは思いますが、やはり回復薬と思われたままだと危ないので。」

「楽しそうねぇ。是非4男の叔父にもお会いしたいわ。凄腕の狩人に当時の想いを聞きたいもの。」

「叔父も倒れそうですね。」

「ウフフフ!父親に誘き出して貰いましょう。凄腕の狩人を捕まえるだなんて楽しそうね。」

「お姉さんは10級ですから、逃げられませんね。」

「10級?

アハハハ!私が10級!

せいぜい7級が妥当だわ。」

「あぁ⋯騎士さんが沢山群がって来るからですか?

返り討ちも得意そうですもんね。」

『ぶふ!』


騎士達が噴き出したので、お嬢さんはちょっと拗ねた顔をする。


「あながち間違いとは言わないけれど⋯そう言った意味で7級にしたのでは無くてよ。」

「まちがいじゃない。」

「もう6級で良いわよ。と言うか魔物扱いは止めて下さる?」

「私も石では無いので人間扱いして下さるならいくらでも。」

「貴方⋯貴族の才能も有りそうよ。天才ってスゴいわね。」

「根が平民なので無理ですよ。のんびり農民しながら過ごします。」


この時思った事がある。

私が父の跡を継げば、兄弟を雇ってのんびり過ごせるのでは無いかと。

農業と言っても(アムル)では無く、魔力草育てる農家でも良さそうだ。

畑を管理するのは兄弟に任せて、私は錬成師として魔法生物や錬成して作った道具や種を渡せば良いのでは無いかと考えたら、何となくシックリハマってしまった。

まぁ、それは上手くこれからを乗り越えた後の話なのだが。


「それで父と兄はどうしますか?」

「そうね。兄は必須ね。

あと4男とは会いたいわ。

巻き込みなさい。

他は貴方の父親の判断に任せましょう。」

「叔父さん⋯ゴメン。」

「ウフフフ。良いじゃ無い。

私がとっても楽しいわ。」

「何時までに返事を返せば宜しいですか?」

「明日には父親を店に寄越しなさい。都合がつくのであれば明後日には全員と話をつけたいのだけれど⋯場所が狭いのよねぇ⋯。」

「うちの庭で良いのでは?」

「私達は良いけれど、そちらが暑いのでは無くて?」

「お姉さんが良ければですが、明かりさえあったら日が落ちてからでも良いのではないですか?」

「そうね。それは良い案だわ。でも貴方⋯寝てしまわない?」

「昼寝を沢山しておきます。」

「そうして頂戴。」


こうして私は自宅に送って貰えた。あと紙と小金貨は貰えた。

と言うよりも、小金貨は母が握りしめていた。

明日父が錬成師店に行く時に、他の一家全員もついて行って、紙以外の私の筆記用具を揃える事になった。

何せ5000万円なので。

お釣りが銀貨なのが恐ろしいが、重さも恐ろしい。

小金貨1枚で銀板50枚になる。

ペンはピンキリで安ければ銀貨10枚あれば買える。10万円が安いのかと衝撃を受けた。

でも子供の私が使う物なので、壊れた時のために予備で5本買ったのだ。

これは私だけで無く、カタリナやロベルトが使う予備の分として多めに購入した。

私が文字を覚える前に、彼らが代筆するからだ。

ロベルトは物凄く嫌がっていたが、カタリナの圧に敵う訳が無い。

洗濯を代わりにしろと言われてしまえば、ペンを買って貰って代筆をする方が楽だと考えたようだ。

そして銀貨は50枚消費した。

そしてインク壺。

くっそ高かった。

ペンもピンキリだが、インク壺とインクもピンキリで、1番安いインクが銀貨1枚からあったが、壺の方は金属製なので安くても20枚からしか売って無かったのだ。

20万円のインク壺とか、子供が使って良いものじゃ無いと思う。

でもインクも1万円だと乾きが悪い。要するに炭を使って作った墨汁モドキなのだ。

モドキと言うのは油性だから。

インクは全て油性らしい。

上は金貨レベルなので置いといて、程々のインクなら銀貨10枚で買える。

あとは入れ物を銀貨5枚で買って、手元に残ったお金は銀貨15枚と銀板49枚になった。

この銀板がくっそ重い。

母や子供の私達が持ち運ぶのに苦労するレベルで重い。

なぜかと言えば、銀板は鉄との合作だから。

しかも銀の含有量はある程度必要になるから、必然的に形が大きくなる。

鉄の板を銀でくるんで作ってるんだから、そりゃ重いさ。

銀も単独では柔らかいらしい。

じゃああのキンキラキンな鎧は柔らかいのかと言えば、また別で、魔石で加工してある銀なのだとか。

だったら銀板も加工しろと思うが、銀の量を減らしたいから鉄を包んでるっぽい。

偽造出来そうなものだが、それは貨幣全てに魔法が使われている事で防いでいる。

中には偽造する悪い人もいそうだが、それは前の世界と同じで犯罪になる。

とにかくひと目で偽造がバレる様にと、あと素材の酸化を防ぐ作用のある魔法がかけられていて、キラキラと虹色に光っている。

この細やかな光が無ければ、偽造と言う事になるんだとか。

だからこんなに綺麗なのかと、心から納得した。

これは教会で習う知識らしく、カタリナから教えて貰った。

父が戻るのを待つのに、銀板を持ってウロチョロしたく無かったからだ。

前にも来た母お気に入りの小洒落た喫茶店風の食堂に一家で避難している。

父との待ち合わせも此処だ。

ジーニスや本来なら私の年齢の者も来るには不似合いなのだが、値段が高いせいか客は少な目で、堂々と長居が許されるほど私達はお金を持っている。

問題は銀貨1枚分の注文を食べきれるかと言った所だろう。

お釣りの銅貨の量次第で、荷物の重さが増えてしまう。

金ならある。

だが腕力が無いと言った状態だ。

まぁズッシリしてるだけで、母や姉と上の兄と交代で何とか運べてるので、父が来るから大丈夫だろう。

お姉さんも安物を買うと思って無かったのかも知れないが、安物なペンの存在そのものを知らなかった可能性が高い気がする。

そりゃ私だって高いペン欲しかったさ。

カタリナが慣れるまで待てと許さなかったんだよ。

しかも一理しか無い。

お姉さんと買い物に来れてたら、ウチの家族が触るのも慄くペンを買ってくれてた気がするから、もう何も言えねぇよ。


ちなみに買ってもらった1番安いペンは鳥の羽だった。

うん。直ぐに壊れそう。

マモーの抜け毛なので、ソコソコ頑丈らしい。

確か金貨1枚だったねマモー。

50億円の魔法生物だと思えば納得だ。

10万円の羽を落とす50億円の生き物か。

円で数えるのやめようと思うのだが、庶民が使いやすいお金を作って欲しいと心から思う。

多分このクラスの大金を持ち運べるのって筋肉モリモリな戦士か、戦士みたいな体格してる商人なんだろうね。

旅商人てそんな感じだもん。

金持ち商人なら馬車使ってるしね。

ワイワイしながらご馳走に小さく吠えてたら、青ざめた父がお店に入って来た。

手には小さな革袋が握られていて、それが魔法の鞄らしい。

父の手のひらに隠せるサイズ感が、何とも不気味だ。

見た目は使い古された革袋なんだけどね。


父は今まで見たことが無いぐらい挙動不審だった。

顔は青いし目つきは鋭いし、私を見下ろして黙って立ってるし。

まぁ⋯気持ちは分かる。

まだ私や母達から話しは聞いてから覚悟はしてただろうけれど、全く実感が無かったんだろう。

それが魔法の鞄だ。

多分きっとそれだけじゃ無い。

何故ならキョロキョロと周りを見渡して、隙を見て私にネックレスをつけたり、銀色の光沢を放つ白いローブを頭から被せて着せたりと、ワタワタし始めたからだ。


ネックレスは革紐の先に青い石がついてた。

綺麗だとは思うけど、多分コレ魔導具だ。

この見た目はネックレス。

私が小さいせいでトップが鳩尾(みぞおち)に来ててサイズが合って無いけど、銀色の溝があって紋章みたいな絵が入ってる。

革紐とのデザインを考えたら、装飾品としての違和感がスゴいのだ。

青色の石も薄っすらと水色に光ってるしね。

あと父が座ってるロベルトを力技で椅子ごと横にずらして、私の真横に来ると右手の中指に指輪を入れた。

ぶっかぶかの銀色の輪っかに赤色の小さな石がついてるシンプルなデザインの輪っかみたいなソレは、父が手を離したらキュッと縮まってジャストなサイズに変化する。

うん、これもきっと魔導具っぽい。

そしてようやく父はふぅ〜⋯と、大きな吐息を吐き出すと、隣の空いてるテーブルから勝手に椅子を取って私の横に座った。

そして無言でロベルトのコップを掴んで一気にジュースを飲み干した。


「あーーー!」

「煩い!」

「だって俺のなのに!」

「黙れ!静かにしろ!」

「だって!だっ⋯」


思わずロベルトが叫んでしまい、父の本気の怒声が飛ぶ。

そりゃ目立つ。

慌てた父がロベルトの口を物理的に掴んで黙らせた。

ロベルトも大人の本気にそりゃ涙目になる。


「ロベ兄ちゃん。

これ飲んで良いよ。

お父さん。ロベ兄ちゃんと私

に新しいジュース頼んでね。

お父さんは好きなだけお水を頼めば良いから。」

「う⋯はぁ~、ロベルトすまん。少し気が立っていたんだ。悪かったな。」

「うぅ⋯」


ガシガシと頭を大雑把に撫でられて、ロベルトはゴシゴシと腕で涙を拭った。

それから父は私とロベルトに新しいジュースを注文し、自分はジョッキで水を頼んだ。

女性の店員さんがえ?って顔をしたけれど、父は汗だくになっていたのですんなりと注文が通った。

外は暑いしね。


「すみません。ちょっと嫌なことがあって大きな声を出しちまって。」


父が怒鳴った事については、ヘコヘコ半笑いして素直に謝ってたら、店員さんも苦笑いで流してくれた。

他のお客さんも渋い顔をしていたけれど、特に何も言われずスルーされた。


「はぁ~⋯」


ゴクゴクとジョッキのお水を飲んだ後は、椅子に背もたれてグッタリとしており。


「いったい⋯何でこんな事に⋯」

「お父さんごめんね?」

「いや、お前のせいじゃない。ただ⋯信じて無かったわけではないんだが、訳が分からん。」

「また詳しい説明してくれるから、その時に聞けばいいよ。」

「何度聞かされても分からんだろう。たぶんこれは俺が分かりたくないからだな⋯」

「そっか。やっぱり難しいなら、残念だけど私はおうちを出て行くよ?」

「それが嫌だから分かりたく無いんだ。リリアナは何時までもウチに居ればいい。」

「お父さん⋯」

「なぁ〜。そんなに大変なことなのか?世界の秘密って。」

「お兄ちゃん。お話は家でしよう。他にお客さんいるから。」

「はぁ~⋯何なんだよもう〜」

「私達には小石にしか見えないけど、ずっとずっと頑張って勉強したり探してた人からしたら、大事なんだと思う。

だから嫌な思いをさせてごめんね?お兄ちゃん。」

「しょーがねぇなぁ〜。リリアナが頭良いのは前からだし。」

「迷惑かけた分、沢山お金を稼げるようになったら皆に恩返しするからね?」

「そんな事を子供が気にするんじゃぁない。

ロベルト。お前もみっとも無いから、妹にたかろうとするんじゃ無いぞ。」

「俺ぜんぜんそんな事言ってねーし!リリアナが勝手に言ってるだけじゃねぇか!」

「そうだよ。ロベルトお兄ちゃんは優しいから、心配しなくても絶対にそんなことしないよ。私がしたくてやるだけだよ。」

「はぁ⋯そうは言うがなぁ〜」

「お父さんも心配してくれてありがとうね?でも私は私のせいで皆が喧嘩するのは嫌なの。

産まれて来たら駄目だったかなって思うから、悲しくなるんだよ⋯。」

『むぅ⋯』

「まぁまぁ、美味しい物を食べて元気を出しましょう?」


父と兄がムッツリとして黙り込んだのを見て、母が朗らかに笑いながらジーニスの口元を拭っている。

ジーニスはミルクのスープにひたしたパンの柔らかい所をモッチャモッチャと食べていた。

まだ0歳だけど、実質1歳に近いから、最近前歯が生えて来てるので離乳食を食べ始めてる。

といってもマモーのお粥なんだけど。

お陰でパン食が増えてちょっと嬉しい。

バターも何も使って無いからぼそぼそしてるけど、麦の粥よりはマシなのだ。


「ねぇお父さん。リリアナのそれって何なの?」

「家で説明する。此処では言えん。」

「でもリリアナだけなの?」

「そうだ。」

「ふぅん⋯」

「これは仕方が無いけど、お姉ちゃんもリボンとかネックレスとか欲しいよね?私が稼いだら買ってあげるね!」

「それは悪いわよ!妹にたかるつもりなんて無いんだから。」

「私のお仕事をお手伝いしてくれるんだから、お給料として渡すよ。」

「家族のする事に金銭を渡す必要は無い!」

「ううん。必要だよ。

だって私にはお姉ちゃんのお仕事のお手伝いが出来ないもん。

だからお礼のプレゼントだよ。お金が駄目なら物なら渡しても良いでしょう?」

「お前は此処には来せられん。今日は仕方が無かっただけだ。」

「だったらお姉ちゃんに代わりに選んで貰うよ。お姉ちゃんが欲しい物を自分で買うなら良いよね?」

「ぬぅ⋯だから金は⋯」

「私はまだ布も縫えないし、物も買えないから仕方が無いんだよ。

お父さんの言いたい事は分かるよ。でもお返し出来る事は返していきたいの。家に戻れなくなっても物があれば、私のことを思い出して貰えるでしょう?」

「う⋯くぅっ⋯」


ブワッと父が涙ぐんだ。

そして片手で顔を覆った父の姿に、姉もビックリして唇をギュッと引き結んだ。

ロベルトは椅子に深く座ってジッとお皿の中を見ている。

マルセロも暗い雰囲気にオロオロしながら、ムグムグと咀嚼で忙しそうにしていた。

ジーニスだけダウ!とマイペースだ。

母も寂しそうで微笑むのに失敗してる。


「だから沢山楽しいことしようね!ガンガンお金を稼ぐから、沢山美味しいものを食べようよ!ね!」

「親の世話が無くなる。ほどほどにしておいてくれ。」

「私を幸せにしてくれるお礼に、神様からのプレゼントだと思えば良いんじゃない?」

「そんなもんは要らないんだがなぁ〜⋯」


空気がやたらとメッチャ重い。

さっきまでワイワイ楽しくしてたのが嘘みたいだ。

私のせいなのは分かってるんだけど、あちらを立てればこちらが立たずで、調整するのがとっても大変。

でも快適!


そう、実は皆には申し訳無いんだけど、さっきからずっと涼しいのだ。

このローブ、温度を調節する機能がついてるらしくて、メッチャ涼しい。

最近昼は暑くなって来たから、室内にいたら風通しが悪くて少し暑かったんだけど、今はもの凄く快適でワクワクしてる。

いやホント実に申し訳無い。

クーラーが無いから去年の夏は暑かったんだわ。

今年は快適に過ごせると思えば幸せしか無いよ。

しかも私が頼んだスープもパンもすっごく美味しい!

暑くなって来たからジャガイモの冷製スープにしたのは大正解だった。

マモーの臭みの無いクリーミーだけど、サッパリしてて口の中が幸せだ。

コレがあのマモーなの?!

ってすっごく感激。


「ねぇねぇ。このお店のマモー乳全然臭く無いの。何でだろう?」

「あら?そうなの?」

「ちょっと味をみてよ。

ほらほら、お父さんも飲んでみて?」


母は楽しそうに。

父は鼻を啜った後で無言で一口飲むと「うまい!」と目を輝かせた。


「あらぁ?ホントね。どうしてなのかしら。不思議だわぁ。」

「え、気になる。私も飲んでみても良い?」

「俺も!」

「ぼくも!」

「もういっぱい頼んで皆で飲んでみよう!お店の人に聞いたら教えて貰えるかな?

お父さんもついでにご飯を頼むでしょう?」

「しかし⋯」

「あら!大丈夫ですよ。

お金なら有りますから。」

「だがそれは⋯」

「へーきへーき!逆に使わないと重くて大変だよ。」


使いすぎるとそれはそれで重いのだが、コレコレと母がマイバッグを指差すと、父が腕を伸ばして袋の重さに「重!」みたいな顔をして驚いてた。


「⋯なんだこれは」

「ペンを買ったおつりだよ。」

「まだ子供だからなれないウチは壊れちゃうと思って1番安いのを買ったら、すっごくお釣りが重かったの。店員さんも笑ってたのよ。私達がビックリしたから。」


軽く混乱してる父に、姉が得意げに説明する。


「俺が持ってやるって思ったけど、手が痛くなって少ししか歩けなかったんだ。」

「普段銀板なんぞ持ち歩かんからなぁ⋯」

「お父さんすごいね!片手で持てちゃうんだ。」

「お父さんが持ったら軽そうに見えるね!」


うへーみたいな顔してる父に、私とマルセロから賛辞が飛ぶ。

まぁロベルトはまだ8歳だし。

成人男性に比べたら非力でも仕方が無いと思う。

でも母やカタリナよりも長く持って歩いてたから、やっぱり男の子はスゴいと思った。

ちょっと筆記用具の店から此処まで遠かったんだよ。

暑い中えっちらおっちら歩いて、30分ぐらいかかった。

他にも買えるお店が近くにあったのかも知れないけど、飲食店や宿屋以外のお店は大通りから外れた場所にしか無いの。

普段どれだけ需要が無いんだって分かるよね。


父はそっと銀貨を15枚取り出して残し、母の鞄から魔法の鞄の方に、銀板49枚を入れてた。


「お父さん。今夜分かるかも知れないけど、お父さんが思ってる以上に、あのお姉さんはお金持ちだからソレは返さないでね。」

「は?しかしこれは⋯」

「必要なものをそろえる度にお金を下さいなんて言えないでしょう。

向こうだって遠慮されたら迷惑なんだよ。そもそもあのお姉さんは、普段から金貨よりしたのお金は持ち歩いて無いよ。

だから1番額の小さな小金貨を渡して来たんだと思うの。」

「は?」

「そんな世界の人だから、同じ価値観でいられたら迷惑になるんだよ。ね?カタリナお姉ちゃんもそう思わない?」

「そうね。ペンとか必要なものが壊れる度に小金貨を渡されそうよね。」

「そぉねぇ、代わりの袋もあった方が良いと思うの。

リリアナの稼ぎを入れる袋が必要だし。買い物をカタリナが代わりに行くなら、カタリナの袋も買わないと駄目よね?」

「ロベルトお兄ちゃんもマルセロお兄ちゃんも必要だよ。

家族の家業じゃ無いし、協力して貰った分は銅貨で渡すから、銀貨を1枚銅貨に変えておいて欲しいの。」

「あら、そうなの?」

「うん。私は魔力草を育てるから、外にある魔力草を持って来て欲しいの。発芽が上手く行くか分からないし、そもそも時間がかかるでしょう?

私じゃ行けないけど、ロベルトお兄ちゃんなら取りに行けると思う。戦士ギルドでも買い取りしてる筈だから、ギルドで買い取る値段で良いから私に売って欲しい。取り方はちゃんと説明する。あと戦士ギルドで遮光瓶を売ってるから、それも買ってきて欲しいの。ロベルトお兄ちゃんなら出来るよね?」

「おー、魔力草取って来るのと、しゃこー瓶?を買うのか?」

「教会を卒業した印と銀貨1枚か2枚だったかで登録出来るから、登録して来てね。あのお姉さんの所だと100個からしか遮光瓶は売って無いんだよ。」

「なるほど⋯そう言う事に使えば良いのか。ウチで賄う必要は無いんだな?」

「不安ならお姉さんに確認して貰えば良いよ。明日には説明しにウチに来るんだよね?」

「そうだな。今夜タル兄の家相談しに行くつもりだが、もし来てもらえるなら明日は都合をつけて貰う。」

「他には?」

「親父とジギ兄達には声をかけるつもりだが、他は外に出るかも知れんから後継以外には外して貰おうと思ってる。

ジギ兄の家族にはジギ兄に話しをつけて貰う。」

「うん。知るだけで迷惑になるから、あまり知らせない方が良いと思う。」

「どちらもだろう。

知らせなければ身を守れ無い。知ればこうして頭を悩ませる。

タル兄には申し訳無いが向こうがどうしてもとな⋯」

「私のせいだね。」

「ハハ⋯仕方が無いさ。

お前がちゃんとダル兄の教えを守って、必死に逃げようとしたんだろう?

本当にお前は頭の良い子だ⋯ほめてやれないのは俺が弱くて情けないからだなぁ⋯。」


困った顔をして私を撫でるから、とっさに口を開いても言葉が出て来なかった。


「お父さんは弱く無いし、情けなくなんてないよ。

心が強くて優しくて働き者な、立派なお父さんなの。

だから悪口なんか言っちゃ駄目だからね。」


頑張って笑顔で言うつもりだったのに、涙で前が見えなくなった。

だから途中から美味しいスープが入ったお皿に視線を移して、涙が溢れる目元に拳で当てる。

動揺が落ち着くのを待ってる間、隣からもグスグスと鼻を啜る音が響く。


「お待たせしました〜。

⋯べ、(べるち)の冷たいスープと、(ピア)の薬草包み焼き、それについてる野菜スープとサラダとパンになります。

お代は合わせて銅貨25枚です。

あ、はい。丁度ですね。

あ、あの。空いてるお皿は下げておきます。」

「はい。お願いします〜」


そんな中、動揺を隠せない店員さんとやり取りする母の呑気な声が聞こえてきた。

2歳の娘と父が並んで号泣してたからビックリしたんだろう。

まぁ⋯私でも驚く。

そして母がノホホンとしてるから状況が分からずに混乱したに違い無い。


でもプロ?だから仕事はちゃんとして帰って行った。

これから先は私達の会話に、聞き耳を立てられるかも知れないかな?と少し気になる。


「美味しいスープが届きましたよ!さぁ食べましょう!

貴方もご飯が来ましたよ。」


明るい声に促されて、父が静かに動き出す。

私もはー!と、息を吐いて自分の冷えたご飯を食べ始めた。


「お父さん、冷たいスープあげるから、そっちのあったかいスープをちょうだい。」

「あ、あぁ。気を使わんで良いんだぞ?」

「ううん。あったかいが飲みたいの。涼しいから少し寒くて。」

「涼しい?あ〜少し肌が冷たいな。服のせいか?脱ぐか?」

「ううん。大丈夫。あったかいスープ飲んだら平気。」


大人なら問題無くても、子供なら身体が適温な時に常温より冷めた物を飲んだら冷えすぎちゃうのか。冷たいスープって言っても冷蔵してるわけじゃ無い。

あ、作り方聞くのを忘れてたや。

父が不安そうな顔をしてるので、ニッコリと微笑んでおく。

油断したら涙が零れそうだからな。

泣いてる暇なんて私には無いのだ。

凄腕の狩人じゃ無い私には逃げ場が無い。

ドナドナが嫌なら戦うしか道が無いのだから。

先ずは相手を知る。

そうで無ければ戦略が立てられない。

武器は発見と発明。

私からしたら基礎研究が大事な筈なのに、何故それが行われていなかったのか。

お姉さんから情報を取りたい。

他にも考えつく全てを紙に書き出して、お姉さんが来る時に聞かなければ。

迂闊に逢って相談出来ないのなら、なるべく逢える環境も作らないと私が不便になる。

閉じ籠もってるだけが護りじゃ無い事を、ちゃんと理解して貰う必要がある。

先ずは家に帰る前に出来ることは何か無いだろうかを考えよう。


「お父さん。ご飯を食べてて、私コレから家に帰るまで今必要なものを沢山考えるよ。」

「うん?」

「私は家族と一緒に楽しく暮らしていきたいの。

そのために必要なものを銀板49枚を使ってそろえられる物を考えるの。何度も此処まで私は来れないから、何があって買えるのかを調べたいから。お父さんが食べ終わるまでの間で考えるよ。」

「⋯そ、そうか。」


え?コイツ何を言ってんの?分かんねぇ。俺には無理だ。

と、お父さんは諦めたようだ。

コレが普通の2歳なら、説明しなさいって言うか、煩い黙れで終わるだろうけれど。

私は世界の秘密を発見した凄く賢いお子様だと思ってる頭の良い父は、私に任せる事にしたらしい。


こう言う父の性格と頭の良さを女の勘で見抜いて捕まえた母はスゴいと思う。

でも母からそんな雰囲気は感じ無いので、身内でスゴい人が居たのかも知れない。

だって母は従兄弟のエターニャより男性にモテるタイプの女性だからだ。

男性の比率の多いこの村では、さぞかし身内はピリピリした事だろう。

そして母の実家は大きな宿屋と大衆食堂を持つお金持ち。

鳥の卵や肉繋がりでウチと知り合った可能性が有るから、お見合いに持っていけるぐらい父は賢かったんだろう。

普通のお金持ちなら街に嫁がせる事も出来たと思うけど、ウチの村に母を残したかったのか、下手な街より生活が安定した農家の方が良いと思ったのかは、母方の祖母に聞かなければ分からない。

でも多分、母方の祖母はやり手なんだと思う。

いつ会っても忙しいから、お祭りの間も年中無休で仕事をしてる雰囲気なので、あんまりお話出来ないのが残念だ。


「お父さん。明日の夜の説明の時にお母さんの方のお祖母ちゃんを呼ぼう。」

「ぶほ!!!」


ゲフンゲフンと咳を繰り返して、それはやめてくれ!と、悲壮な視線を向けられてしまった。

そうか。

やり手なので頼もしいかと思ったが、頼もしすぎて恐ろしい女性に父には見えてしまうらしい。

「お父さんが嫌なら良いや。

お祖母ちゃんも忙しいだろうからね。」

「うぅ⋯嫌なわけでは⋯」


お父さんは頭を抱え込んでしまった。

ご飯を食べる所では無くなったらしい。

お店に入って来た時よりも、顔色が青くなった気がする。

これで我が家と嫁の実家との力関係が見えて来た。


「お母さん。お祖母ちゃんて怖いの?」

「すっっごく怖いわよ。」

「お祖父ちゃんよりも?」

「ええ。顔はお父さんの方が怖いけど、お母さんの方がずっとずーーーーっと怖いわよ。」

「銅貨の強さがお祖父ちゃんだとしたら、お祖母ちゃんはどれぐらいかな?」

「んー⋯黒い石ぐらいかしら?」

「それはスゴいね。1番怖いんだ。私からしたら優しいお祖母ちゃんなのにね。」

「だって貴方は孫だもの。赤ちゃんにまで怖い人だったら、お店にお客さんが来なくなっちゃうわよ〜。」


お母さんは楽しそうにウフフフと笑っている。

お父さんは黒い石?って顔をしていた。

明日の夜には分かるだろう。

うん。やり手な経営者なら恐ろしいのも分かる。

宿屋のお客様はお金持ちの商人や戦士だからだ。

普通の女性が可愛くしていて、渡り合える人達じゃ無いと思う。


「お母さん。お祖父ちゃんてお婿さん?」

「あら!良く分かったわね。

どうして?お話してないわよね?不思議だわ。」

「怖い女の人はお嫁に貰ってくれないんじゃ無いかなって思っただけだよ。

それにお祖母ちゃんの家はお金持ちだから、賢くて気が強かったお祖母ちゃんは、跡取りにして残した方が良いって思われたのかも知れないね。」

「すごいわぁ~。そう言われると、そんな気がするもの。

リリアナは本当に賢いのねぇ。」

「そのせいで迷惑かけちゃってるんだけどね。」

「ウフフ。迷惑なんて何も無いわよ。お母さんはとっても楽しいわ。」


ウフフと、お花モードの母に合わせて私もウフフとしている。

母には今しか見えないので、今が良ければ本当に良いんだと思う。

さぞかしお祖母ちゃんから叱られ捲っただろうと思われる。

ある意味この性格は作られるべくして作られてしまった様に思う。

笑顔で沢山働いて言う事を聞いていれば叱られ無いから、考える事を止めてしまったんだろう。

それを思えば切ないが、やはり危険だろうか。

私が思う以上に祖母はジョーカーなのかも知れない。

願わくば貴族のご令嬢と騎士相手には弱くあって欲しい所だが。

後日ウチの一家が針のむしろになる危険性がとても高くなりそうだ。

祖母の知る情報は私にはとても必要なので、是非とも関係を深めたいので悩む。


「リリアナはお祖母ちゃんに似たのかも知れないわね?

お祖母ちゃんもとーっても賢い女性なの。

平民なのに沢山勉強してて、貴族みたいにとっても仕草が素敵なの。教会だけじゃ無くて、大きな街の学校で勉強し来たんですって。」

「それで村に戻って来るってスゴいね。」

「お店を継ぐために学校に行かせて貰ったらしいわよ。

だから私も街の学校に行きなさいって言われてたんだけど、物覚えが悪くて行けなかったのよ〜。」

「それでウチにお嫁に来たんだね?卵の商売で付き合いがあったから。」

「まぁ!すごいわ。そうなのよ。後継ぎのお嫁さんにって来たんだけど、卵の方はお兄さんが継いでしまったわね。

でもお父さんはとっても優しいから私は運が良かったわ。」

「あぁ、だからお父さんはお祖母ちゃんが怖いんだ。約束と違う状況になっちゃったから。しかもお祖母ちゃんはそれを知らないんだね?」

「う⋯ど、どうして分かるんだ?」

「だからこんな事になってるんだよお父さん。」


ローブを引っ張って見せたら、なるほどと納得された。


「お前の凄さがようやく分かって来た気がする。

これは貴族や騎士が来るのも仕方が無いな。」


そう言って遠い目をしながら、(ピア)のお肉を食べ始めた。


とりあえず祖母を呼ぶかどうかについては、父の食後に確認することにしよう。

あと祖母が来るなら、それの対策も必要だ。

落ち着こう。

冷静にならなければ、見落としてしまう。

あと必要な情報は何だろうか。

メモを書き出したい。

でもあんな付けペンじゃこんな所で取り出せないし、紙は家にある。

外でも使える筆記用具で鉛筆が欲しい。

アレなら炭と木とノリがあれば作れないだろうか。

紙が紙っぽくないので書けるか分からないから、実験も必要になる。

それなら買ったインクを固形にして貰った方が早そうだ。


「木と木をくっつけるものって何かある?」

「釘のことか?」

「金属じゃ無くて。

そうだ木材で小物を作る職人さんて、この村にいるのかな?」

「居るぞ?だがどうしたんだ?」

「作って欲しいものがあるの。そのお金を使ってインク壺が無くても持ち歩けるペンを作って貰おうと思うんだよ。

私が言ったらビックリされるからお父さんに説明するね?」

「あ、あぁ⋯え?何だそれは。」

「木の板に溝を掘って、水のインクを炭たいに固まった状態にしたものをその溝に入れるの。そして上に板を引っ付けて⋯絵に書いて説明しないと難しいかな?」

「そうだな。絵に描けるなら言葉では覚えきれないな。

それに木の職人にインクは作れないぞ。それはインクを作る職人に頼まなければならないのでは無いのか?」

「そっか。直ぐには難しそうだね。一度家に帰ってから絵に書いてみるよ。それと元々炭みたいに固まってるインクが有ればそれを買えば良いだろうから、もう一度お店を見てみようかな?」

「そう言うのが欲しいなら、わざわざ作らなくても、そう言う品を買えば良いのじゃ無いかしら〜?」

「あるの?!」

「有るわよ。持ち運び出来てお外で文字を書けるペン。

お客さんが使ってるのを見たこと有るもの。」

「ならそれ欲しい。

買って帰ろう。」

「お外で字を書くの?」

「だってそれと紙があったら、今絵に書いてお父さんに説明出来たよね?」

「あ〜そう言う使い方をするのね?それならさっき言えば良かったのに〜。」

「どんなペンが有るのか分からなくて、高いのはダメって言われて言えなかったの。」

「それもそうだったわね~」

「私もお金がこんなに余るだなんて思わなかったの。高い物を壊したら怖いし。でもリリアナ、壊さずに使えるのかしら?」

「うん。文字の練習は安いペンを使うよ。持ち運び出来るペンは、お外で使う時にするね。」

「でもお外に行かせて貰えないんじゃ無いの?」

「今はそうだけど、必要になる時に困るから準備しておくんだよ。お姉さんに言われて外に出る事がそのうち有ると思うから。それにお庭でも使えたら便利だもん。」

「庭で使うなら家に帰ればいいじゃ無い。」

「ごめんね。今思いつかないだけで、私が必要だと思って買える物は買っておきたいの。

無駄にはしないから心配しないでね、お姉ちゃん。」


よし。ペンをもう一つ買おう。

むぅとしている姉にへらりと笑って、頭の中の買い物リストにチェックする。


「あとペラペラな紙を止められる板と、首から下げる紐を付けられたら便利なんだけどなぁ。」

『ナニソレ』

「お母さん。その、商人さんはどんな風にペンを使ってたの?」

「台帳を書いたりぃ、テーブルの椅子に座って書いてたわよ?あ、でも紙の方は小さく切って束ねた物を使ってたわね。」

「そう言うの売ってる?」

「有るんじゃ無いかしら?

お店に行って見たら良いわよ。でもジーニスが居るから、ペンのお店とそっちのお店に行くのは大変よ?貴方も歩けるのかしら〜」

「それならペンだけにする。紙は家に帰って私が作ってみる。紙を切る道具は家にあるかな?」

「布を切るハサミを使えば良いんじゃないかしら?」

「それじゃそうしよう。

あとくっつけるものが欲しいな。木に皮を貼ったり壁に紙を貼ったりするのに何か良いものないかなぁ?」

「糊の事かしら?それも紙が置いてるお店にあると思うけれど⋯」

「後はそう言う道具を持ち歩ける鞄が欲しいかな。お父さんが持ってるその鞄が1番良いけど、普段使いするのはダメでしょう?」

「うむ。これは高い。

とてつもなく高い。それこそ死んでも償えんぐらい高いんだ。」

「そうよね〜。このお店が買えちゃうかも知れないわねぇ。」

「お母さん。この鞄は知ってるんだ。」

「お祖母ちゃんが似た様な物を持ってるのよ。だから触ったら駄目って言われてたわ。」

「わぉ。さすが金持ち。お祖母ちゃんスゴいね。」

「だってお店が沢山有るんですもの。あ、このお店もお祖母ちゃんのお店なのよ。」

「だからお母さんはこのお店の事を知ってたんだね?」

「あんまり儲からないけど、必要なお店なんですって。だからお客さんとして来てるのよ。お店の人は私の事を知らないから、秘密にしててね?

こう言うのは言ったら駄目なんですって。タダになっちゃうらしいわよ。兄が言ってたわ。」


割りと母が大きな情報を持っていた事に愕然とする。

頑張って情報を探してたけど、色々と見落としてたらしい。

食事時にチラリとお祖母ちゃんと顔を合わせたぐらいだから、仕方が無い。

あんまり母方の親戚とお付き合いが無かった理由もウチの事情のせいだろうし。

孫も4人目になったら向こうも興味が薄くなる。

外孫だもんね。

私もこんな状況になって無ければ、母方の親族にはまるで興味が無かったからお相子様だ。

付き合いの無い祖母に甘い物を強請るより、隣に住んでる祖母に強請る方が楽だしね。

その結果、出て来るのは甘酸っぱい果物ばかりだったから、自力で甘い物を探していたんだよ。


「うーん⋯自分が使う物だからペンは見たいんだけど、小物もどんな物が有るか自分の目でみたいんだよねぇ⋯」

「それなら俺が抱いて連れて行く。母さんは子供達を連れて先に帰れば良いだろう。

あとリリアナ。お前の祖母はとても忙しい人だ。こちらの事情に巻き込むのは良くないだろう。罰が悪いとかでは無くな。」

「お父さん。残念だけど無理だと思う。店員さんがお母さんの話しを聞いてビックリしてるから、お祖母ちゃんに話しが伝わると思うの。」


そっ⋯と振り返った父は、サッと視線をそらしたウェイトレスのお姉さんを見てから、そっと姿勢を戻した。

私は店員さんの顔を見たわけでは無いけれど、途中から此方の会話を聞いてる雰囲気は感じていたので、あながち間違って無いと思う。

普通の店員さんなら流されるだろうけれど、このお店が儲かって無いのに有ると言うのなら、そこの店員さんは普通の村娘では無いと判断したからだ。


「えーとね?

お祖母ちゃんが賢い商人なら、儲からないのに店を存続させる理由って、金持ちの商人の為に作ったからじゃ無いかな?


お金持ちの商人の会話から情報を集めれば、街のことや世の中のことが分かりやすいだろうし。

商売する人の多い金持ちや護衛が居る宿より、人の少ないこの店の方がポロリと大事な話をこぼしやすいんだと思う。

今の私達みたいにね。

それなら店員さんはお祖母ちゃんに情報を渡すお仕事もしてるから、何も言わなくても店員さんから話が伝わるんじゃ無いかな?」


カタンと小さな音が後ろから響いた。

バッと振り返った父や、他兄弟や母の視線を一身に受けた店員さんは、目と口を見開いたまま、カランカランとお盆を床に落とした。

最初の音は多分背中にカウンターが当たって椅子が動いて音が鳴ったのかな?

信じられない!みたいな顔をして店員さんはゴクリと唾を飲み込んでいる。


「だからお父さん。日が暮れる前にお祖母ちゃんにお家に来て貰える様に伝言を頼んだ方が良いと思う。

忙しくて来れないなら、それはお祖母ちゃんの判断だから別に良いんじゃないかな。」

「⋯⋯わかった。」

「やだぁ〜。このお店、気に入ってたのにぃ〜」

「来れば良いよ。その方がお祖母ちゃん喜ぶし。」

「でもお金が⋯」

「受け取ってくれなかったら、机に勝手に置いて行けば良いんじゃないかな?値段書いてるから分かるし平気だよ。」

「まぁ。そうね。そうしましょう。ウフフ。リリアナが賢くってお母さん嬉しいわぁ。」


お父さんは沈んだ顔をしながらノロノロと身体を前に戻す。

姉や兄達は愕然としたウェイトレスのお姉さんを見て、クスクスと笑っており。

マルセロはあんまり意味が分かって無くて、今にも死にそうなぐらいに凹んでるお父さんを見たり、スゴク楽しそうなお母さんを見て小首を傾げてる。

私はトロトロになった野菜を匙で掬って口に入れてうまー!と幸せになった。


やり手のお祖母ちゃんが雇ったにしてはアマチュアな密偵な気がするから、修行中の跡継ぎ候補か親族の内孫さんかな?

母の兄が会話をしてた時は、プロを使ってたのかも知れないね。

お母さんの素性を見抜けるかどうかも見てたのかな?


母が常連の認識が有るかは分からないけど、前にも来てた商人じゃ無い普通の母子が来て、ノーマークだった所で変な様子の父親が気にってたら、母親の正体に気がついて。

祖母に会う会わないの話をしてるから、知らせようと思ってた所で正体を見抜かれた修行中の彼女は、驚いてウッカリ素が出たのかな?


お祖母ちゃんが他人で無くて良かったよ。

私もこのお店が気に入ってたから、味方になって貰える様に頑張ろうと思う。


ジョーカー出ちゃった。

あれれ?おかしぃぞぉ?

初期設定だった凄腕商人のオジサンが消えたやも知れん。

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