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シャチで全長10m

シロナガスクジラが25mぐらいあるそうです。

海洋生物って大きいよね⋯の巻。


たまに思うことが有る。

私の中に有るこの記憶の持ち主は、何時、何処で産まれて、どんな生活を送ってきた人だったんだろう。

どうして私にはこんな記憶が残ってるんだろう。

ってね。


でもなぜか誰にも相談しようと思えないんだよ。

でも私の中だけにしか無い記憶だって知ってるの。

でもそれって変じゃない?

普通なら貴方もこんな記憶は有りませんか?

って聞いて有りませんよって答えを受けて、そこで始めて私の中にだけ有る記憶だって言えるんだよ。

それなのに確認もしないで決めつけるのは不自然な気がしてモヤモヤする。


そりゃ私が日本語をポロポロ零すし、それで皆が???って、顔になるから日本語が通じない事は分かるけど、ひょっとしたら外国産まれの人で日本語が通じないだけだったりしないのかな?


でもこんな簡単な疑問をどうして今までの私は気が付かなかったんだろう。

決まってる考える意味が無いからだ。


アルフィンの瞳に気付いてから、そんなモヤモヤとした気持ちと、疑問が浮かんで来たけれど。

まぁアルフィンの瞳の謎については答えがもう出てるのはホントよ。

だってお姉ちゃんがそうだったもん。

完全に意図的に魔力を吸い込むと銀色になるけど、慣れない間に手加減して吸い込んでた時は青銀の瞳になってたし、だからアルフィンは昔からそうやって身体の周りの魔力を吸い込んでるから、天才少年だったし瞳の色が時々変わってたんでしょう?


誰に聞いて良いかも分からないし、なんとなくそんな所でまぁいっか。

と感じたから、取り敢えず流す事にする。

産まれてこの方2年間の(あいだ)たまに考えて、前の世界との違いを見つける度に、ここは世界が違うんだな⋯って確認するしか無かったから、正解を確定しなくても保留するのには慣れてたしね。


アルフィンに抱かれて飛んだ先は、ミシリャンゼとは明らかに匂いが違って驚いた。


「くさっ⋯」

「【⋯】」

「あるびん、あびがと。」

「また強烈な。」

「さっきのは何の匂いだったんだろう?

あ、戦士ギルドがあった。

酒場やらそこからの匂いだね、コレ。

辺境だから普通の人よりも戦士が多い街なのかな?」


私は腐敗臭が混ざった強烈なアンモニア臭に、思わず両手で鼻と口を覆ったけれど、アルフィンは直ぐに魔法を使ってくれた。

感覚としてはバリアみたいな感じで、私達の周りの空気が室内たいに変わった気がする。

レモン色に光ってたから、外気と空間を区切って浄化もしてくれたんだと思う。


私達の周りは真っ暗だけど、月が大きいから周りの様子が良く見える。

前世よりも2倍ぐらい大きさに差のあるこの青白い月が、ここは前世とは別の世界だと私に教えてくれた証拠の1つだ。

あと追加して言えば、ウェスタリアの北部に夜が多いのは、この月に日の光が遮られているせいじゃないかなと、ひっそり疑っている。


「ミシリャンゼと時間差はどれくらい有るのか分かる?」

「ふむ。恐らく鐘2つか2つ半以内ではないか?」

「じゃあ真夜中だね。」

「うむ。そうで有ろうな。」

「ちなみにミシリャンゼと王都になると、どれだけの差が有るのかな?」

「鐘1つ半から2つといった所で有ろうか⋯。

詳しくは判らぬがな。」

「ウェスタリアは広い国だよね。

アルフィンの別荘が有る西南の海はミシリャンゼからだとどれくらいになるんだろ。

鐘4つぐらいかな?」

「恐らくそれぐらいで有ろうな。」

「ルドルフ大帝国が鐘8つから8つと1/4ぐらいだったから、それを思うと西は森ばかりになるのね。」

「うむ。

現在の技術では、我がウェスタリアがあの場まで地続きになれるには、数百年は掛かりそうで有るな。」

「国がもう1つや2つは作れそうだね。」

「隣国の規模を思えば5つは作れるのではないか?。」

「そこまで違うかー。」

「それよりどの様に致すつもりで有ろうか?」

「窓から宿に入れるよね?

伯父さんは何処にいるの?」


今私達は大通りに面した場所に立っており、目の前には3階建ての宿みたいな建物が建ってる。

でも一階は戸締まりしてるのか、窓や扉が閉ざされていて明かりは1つも無かった。


ついでに周りを見渡せば私達の後ろは広い広場になっていて、戦士ギルドの剣を交叉してる看板が見えたので、この悪臭の理由が分かった気がする。

夏場だから解体して出て来る血液やら内臓の腐敗臭じゃ無かろうか。

そんな所の近くの宿とか最悪じゃん!とは思うけど、住んでたら慣れて気にしないのかも知れないね。


西の辺境の街とは聞いてたけど、何キロ離れてるかは分からないけど、遠くにはちゃんと外壁が有るから、そこそこ立派な街に見える。

アルフィンが飛び上がると、城壁の向こうが薄っすらと見えて来た。

薄っすらと見えたのは水だ。

どうやらこの壁の向こうは川になってるみたい。

ここからは森が見えないから、対岸から更に奥にある森までの距離は分からなかった。


「大きな川だね。」

「うむ。あれに阻まれたせいで南の海沿いに西進出来なんだ。

今最も辺境に近い村では、橋の建設を行って居る。

ウェスタリアでも最大の川であるからな。

西でもここは北寄りに位置しておるが、まだ川幅が広いのだ。

ここよりも北は冬が厳しく長くなるゆえに、この辺りが川幅の短縮を狙うには限界点で有ろう。

世の即位後は先ずは海をもつ領地を増やす予定であったのだが⋯この川を越えねば話にならんのだ。」

「工事が進まないのは資材不足かな?」

「金属が不足しておるでな。

木造で全てを作るので有れば、それだけ強化に魔石が必要であったのだ。

そうで無ければ、制作の最中にも魔物に破壊されてしまうのだが、作業の邪魔をされるのも橋が進まぬ問題の1つであろうな。

作業のために結界を張るにも魔石を利用する。

ゆえに経費が莫大にかかっておる割に、遅々として作業が進まぬ事になっておる。

作った場所から壊されてしまえば、そうなるので有ろう。」

「じゃあ舟ではダメなの?」

「船底から魔物に破壊される。

ゆえに現在も研究をしておるが、小型舟ならともかく大型舟となればこれもまた資材に悩まされる始末よ。」

「まぁ研究なら無駄にはならないよ。

陸よりも海や川の方が荷物を沢山運べるし、舟を作る技術が発達したらそのうち海辺の街を転々として海路が作れるしね。」

「そうだの。

だが海辺は魔物も厄介では有るな。

水の中から船底を攻撃され舟が沈めば、平民ではまず助かるまい。

それぐらいであれば転移魔道具を使った方が安全でろう。」

「舟を作る技術を磨くのは、イスガルド大陸とは別の大陸と貿易させるためも有るから絶対に必要んだよね。

同じ大陸でも輸送を思えば、船の開発や研究は損では無いと思うんだけどなぁ。」

「それこそ転移魔道具で有ろうな。」

「まぁそれが有ると使っちゃうよね。

それでこの場所でその転移魔道具を利用してない理由は?」

「先王と宰相だ。」

「そっかそっか。

転移魔道具で一度に沢山の人間を移動させられたら、戦争になってもそうされるんじゃないかって、国外から難癖をつけられる事を考えて踏み切れずに居るんだね。

うちが使う分には良くても、他国にそれをされたら困るから、転移魔道具の輸出制限もしてるのかな?

設置型しか使用を許されて無いのも、国外に持ち出された魔道具を解析されて、情報が漏れるのを予防するためにしてるのか。」

「現在多数の人間を移動させる転移魔道具は、エネルギー不足の問題で止まっておる部分もあったのだが、其方の申す理由も多分にあろうな。

だがそれらの問題の多くはもう直ぐ消滅する。

其方が知恵を(もたら)したお陰だの。

さて其方の叔父は此処で有るが⋯。」


少し前までガーガーと呑気なイビキが聞こえてたけど、こうやってアルフィンと2人で窓の外でお喋りをしてたら今はもうそのイビキはとっくに止まってた。


流石腐っても元狩人と、10年経験を踏んでるベテラン戦士だね。

今私達が何なのかを疑って様子見してるけど、窓から中に入れば切りかかって来るのかな?

流石に弓矢は射らないよね?

ジギタス伯父さんだしなぁ⋯。


「伯父さんこんばんわ。

アーニャ叔母さんの説得に失敗したって聞いて飛んで来たよ。」

「リリアナか!」


背中を此方に向けていた伯父さんが飛び起きたら、その手には弓矢があったから遠い目になる。

ジギタス伯父さんは何処までもジギタス伯父さんだった。


まぁ森で使うから狩人は獲物との距離によって弓の大きさを変える場合も有るらしくて、川を泳いでる時や空を飛ぶシャムを射るなら弓が大きくなるし、森の中で使うんなら木が邪魔になるから弓を小さくするんだよ。

あの村の狩人達は、大抵は持ち替えが面倒で小さい方の弓を使う人が居るらしいけど、父なんかの素人だと大きい方の弓を使ってもシャムに矢を当てるのも難しいらしいね。


狩人達も持ち替えが必要な場合は、大きい弓を持ってシャムを狩りに行くのが普通だそうだ。

でもソレを面倒だからと、小さい弓で狩る人もなかには居て、その場合はシャムを狩るには腕が必要になるんだってさ。

川の中央にいたら撃ち抜いても回収出来ずに流されるし、高い空を飛ばれたら矢が届かなくなる。


だからシャムが空を飛ぼうと助走して川の真ん中からそのまま空を飛ばずに、森のほうに向かって飛ぶ進路を取らせてシャムの高度が矢の届く、ギリギリの高さで撃ち抜く必要が有るんだよ。


飛ぶタイミングの不意を狙う為に必要な場所とりや、鳥の軌道を変える為に放つ囮の矢と真打の矢との2発目に放つ速度と精密さなんかの技術が必要になってくるから、短弓でシャムを狩る狩人は達人って事になる。


1人じゃ難しいから2人居れば良いかと言えば、分け前が減るからそうとも言えない。

つまり達人の狩人になるには、たった1人でシャムを狩るために、2本連続的に狙いをほぼつけずに矢を射抜く技術が必要になるってことなんだよね。


だからそれがカッコいいからと、そんな狩り方が得意だった叔父さんが、室内にも小さい方の弓を持ち込んで使ってるんだろうけど⋯そこは素直にナイフとかにすれば良いのにと思うのは私だけだろうか?


伯父さんはそれだけ弓の速射と精度に自信が有るんだろし、実際そうなんだろうから、まぁ良いんだけどさ。


「でぃえあ?!

王様もいるのか!」

「は?」

「そうだよー。

私をこんな所に連れて来る事が出来るのは王様しか居ないんだから、それしか無いよね。

王様は忙しいから不満タラタラだよ?」

「ぐぎゃ!

えらい手間掛けちまってスンマセーーーン!!!」


手にした弓矢をどうしようかと、ワチャワチャしながらベッドに置いて、取り敢えずへへー!と土下座になった伯父さんが泡を食って叫ぶのを、入口側のベッドに寝てた従兄弟のワックスが、短剣を手に持ちながらポカンと見てる。


畳の無いこの国に土下座の文化が有るのが少し意外だったけど、謁見室でカルマンさん。

えーとセドリック王子が、床に片膝をついて首を晒すように頭を下げてたから、アレが貴族式の土下座なら平民はもっと低くしなさいってなって、それが日本の土下座と偶然同じ形に行き着いたのかな?と、考えながらも。

私は月を見上げて睨みつける。


「如何した?」

「ううん、何でもないよ。

ちょっと分かった気がしただけかな。

昔から悩んでたからなぁ〜。

胸がスッキリとして良かったよ。」

「今度は何を思いついたのだ?」

「それよりもジギタス伯父さんが先かな。

伯父さん、ワックスさんがナイフを握ってるんだけど⋯」

「くぉら!このバカ!

早く離せ!

ありゃマジモンの王様だぞ!」

「ええ?!

何で王様が⋯と言うか此処は3階だぞ?!

何で空に浮いてるんだ?!」

「煩え!四の五のいわずに剣を離して頭を早く下げやがれ!」


ジギタス伯父さんの鉄拳がゴチンと落とされる前に、ワックスさんが自分の前にナイフを置いて土下座体制になった。

何か知らんが超ヤバい!

と、その下げられた頭に混乱してるワックスさんの思考がだだ漏れてた。


ナイフは獲物の解体に使う包丁として良く扱われるから基本的には刀身が30cm長くても50cm以内になる。

そしてワックスさんが握ってた短剣は1m前後の流さで、剣としては短い部類に入る流さになる。

森で長い剣を振り回すには向かないから、槍やこの短剣が戦士が好んで使う武器になってる。

騎士は戦争や対人での戦闘もあるから2m前後の普通の剣を使用するけど、カルマンさんは3mは有る大きな剣を背負っていた。

あんなもんを森で使うには無理が有るから、腰にはちゃんと普通の剣や短剣もぶら下げてたけど、私ならすら持ち上げられないぐらいに重いからね?

どんだけオーガなんだよと言いたいけど、今ならその理由も分かる。

持ち前の筋力だけじゃ無くて、自然と魔力で身体強化が常時発動しても苦痛じゃないレベルまで、使用してるんでしょ。

まぁ下手をすればそれも出来るけど、敢えて持ち前の筋力だけを使用してる化け物かも知れないけどね。


「アルフィン。

これじゃお掃除が出来ないんだけど⋯」

「うむ。」


私はそれに構わずに魔法を使おうとして無理なのに気付き、そう伝えたらバリアが消えたので部屋の中を伯父さん達を纏めて浄化する。


するとあれだけ臭かった腐敗臭やらアンモニア臭やら何やら分からない得体の知れない匂いが一気に全部消えた。

元々3階は1階に比べたら、風通が良いのと物理的に悪臭の元から離れるのもあって、あそこまでの匂いはして無かったんだろう。


あとアルフィンが部屋に入るのを戸惑うのも仕方が無いよね。

だって伯父さんも従兄弟のワックスも、長旅で汚れて汚かったんだよ。

今はタンクトップに短パンみたいな下着姿だけど、私は賢いお子様なので袋に入れてある全ての荷物やら服や靴やらも全部纏めて綺麗に浄化しておいたからもう大丈夫!


何なら部屋の中も新品レベルで綺麗にしてるから、お宿の人も驚きそう。

喜んでくれると良いね。

アルフィンが来るならこれぐらいはしとかないとね。

今では自宅も食器棚の上すらぬかってないよ。

魔石で魔力が使いたい放題だから、身体に負担が掛からないので便利になったよね。


やっぱりブレイクスルーってパネェわ。

魔石なんて今じゃバッテリーじゃ無くて、もう充電機能対応の乾電池だよ。

アルフィンに見せる為にお手本として初級充電を見せてあげてるけど、もう海で訓練してるから1000個ぐらいの魔石なら壊さずにフル充電なんて一瞬でやれるのよ。

だって容量覚えたらオートマでやれば済むんだもん。

それに自分色に魔力を染められるなら、相手色にも染められちゃうから、アルフィンも自分の魔力を使わないで私に触ってたら魔力が使いたい放題にしてる。

触らなくても出来るけど、いつ魔力を欲しがるのかを気にして見てるのが面倒だから、そう言うシステムにしたんだよ。


ちなみに魔法の鞄をバッテリーに出来るけど、あれはまだ研究途中だから今の所は魔石の魔力で足りてるので魔石を使ってるだけだからね?


だから文字通り私達は黒魔石と錬成師になってるもんで、そりゃアルフィンも私ん家に入り浸るよね。

黒魔石が欲しい!

って顔に書いてるんだもん。


怒るのを我慢するのも、ヤケに色気を出して私の気を引こうとしてるのも全部ソレが理由。

アルフィンは健全な男性だから幼女趣味なんて無いし、何なら頭の中は国政と錬成師の方で脳みそ使ってるから、恋愛のレの字すら無いから気をつけよう。

相手を落とそうとか何にも考えずに落とす、至上最低最悪のタラシだから、うっかり勘違いして少しでも本気にしたら不幸になる。


さて見るまでも無く汚物だったジギタス伯父さんだけど、何故私が3級の魔石の魔力が全部吹き飛ぶレベルの最上級浄化をしたのかと言えばね。


そもそも平民は入浴する習慣も無いし、元から清潔感念に問題が有りそうな伯父さんの性格だから、そりゃ汚物扱いしても良いレベルで汚いと判断したんだよ。

そんなもんにアルフィンも近づきたくないよね。

私だってそうだもん。


家ならマリア婆ちゃんが居るから、服の洗濯は小まめにしてるし、身体も拭くように言いつけてるんだとは思う。

エターニャも居るから気を使わないと汚物扱いされるから、それなりに身綺麗にしてるけど、旅なんかに出たら洗濯なんて誰もしてくれないし、着たきり雀になるわ身体は拭かないわで大惨事だよ。

もう加齢臭がする年代なんだから、そこん所はちゃんとして欲しい。

それを思えばウチの父はなんと綺麗好きなことか。

いや⋯あれは単に母が浄化してるせいだから、父も旅に出るとこうなるのか⋯。

母が側に居なければ髭を剃る必要も無くなるし、髭がボーボーで悪臭を放ってはヘラリと笑ってる姿を想像して、穏やかなジギタス伯父さん化した父の姿に納得してしまった。


そんなどうでも良い事を考えてたら、アルフィンがふわりと身を屈めて広めの窓から部屋の中に入って行く。


3階だし夏場だから窓は全開になっていて、身長が高いアルフィンでも身を屈めたらスルリと中に入れちゃうんだよ。

まぁ私からしたら高身長なアルフィンも、本当に高身長なセドリック王子に比べたら頭1つ分以上身長は低いから、こっちの世界だと小柄になるんだろうか。

メジャーリーガーに混ざってるイチローみたいなもんだよね。

本当はイチローさんも高身長なのに、チビに見えるイリュージョンが発生しちゃってるヤツだよ。


でもアルフィンは態度と雰囲気が大きいから、巨人が側にいてもそんな感じがしないだけなんだろう。

私からしたらアルフィンも物理的に大きいのもあるしね。


実際ワックスさんの広い背中を見降ろしてたら、彼も高身長の部類だろう雰囲気は感じる。

ジギタス伯父さんよりもひと回り以上身体が大きいんだよ。

これはタルクス叔父さんとタメを張るレベルだし、ギルバートさんを少し超えてるかも知れない。


それを思えばセドリック王子。

アンタは一体どんな突然変異だよと、あの巨大化したオジサンの成長過程と言う名の進化形態を見てみたかった気もするけど、まぁそれは良い。

考え無くても無理だからサクッと諦める。


王族の中にオーガがポツンと混ざってる光景なんて、笑い話にしかならないから想像してたら笑っちゃうしね。

でもまぁケンちゃんはあんな感じだったんだろうな、とは思う。

頭脳がアルフィンで肉体がセドリック王子なら、そりゃ覇権も取り放題だろうよ。

喧嘩に負け知らずだったウェスタリア王朝の始祖の姿を妄想して納得しかない。


アイルヴァッフ・ドンファン・ウェスタリア


たまに復習しとかないと、入試でケンちゃんと書いて爆死する未来しか見えないから、ウェスタリア王朝の初代国王となった人の名前を思い出して心の中だけで呟いとく。

セドリック王子にアルフィンの「フッ」て、笑いをさせたら違和感しか無かった。

あの時代に産まれて来なくて本当に良かったと思うけど、どうなんだろね。

ソレしか知らなかったら、そんなもんだって思ってたのかな?

アルフィン以上に美女でハーレム築いてるのが似合いそうな人だなと思う。

隣のアルフィンから私を探る様な気配を感じて、ハット我に返った。


「⋯あぁゴメン。

ちょっとセドリック王子にアルフィンを合体させたら、アイルヴァッフ初代国王陛下になるのかな?って想像してた。」

「何故そうなる。」

「たまに頭の中で名前を浮かべとかないと、学院の試験で困るから復習してるんだよ。」

「この状況でやることでは無いと思うのだが。」

「うん。だからゴメンて。」


アルフィンから何をしてるんだお前はと、呆れた雰囲気を感じたので直ぐに叔父さんに意識を向ける。


「叔父さん、取り敢えずアーニャ叔母さんの所に案内してよ。」

「え?!これから?!」

「王様が抜け出せる時間が今しか無いんだから仕方が無いと思わない?

それとも朝まで此処で待たせるつもりかな?

王宮が大騒ぎになると思うんだけど⋯」

「今直ぐ準備すっぞ!

おら、ワックス早く服を着ろ!」

「えぇっっ?!」


顔に説明して!って書いてるワックスさんは、確か26歳って聞いてたけど、髭が生えてるからムッチャ老けて見える。

セフメトと並べて立たせたら、美女と野獣じゃなくて美少年と山賊になっちゃう。

ジギタス伯父さんの遺伝子が強すぎてワロタ。

どうかセフメトはアルフィンの様な感じで成長して欲しいけど、無理かなぁ⋯?

父を見てたらワンチャン有ると思うんだけど、まぁ美青年じゃ無くてせいぜいが好青年で止まりそう。


姉やマルセロがやたら可愛いのは、母の遺伝子が頑張ってるだけで私やロベルトは厳しいんだろうか?

ロベルトは明らかに父に似てるし、私はそもそも自分の顔が未だに分かってない。

お金は山程有るのに鏡だなんて高級そうな品物が、この世にあるかすら分かって無い状況だからね。


アルフィンなら教えてくれそうだけど、なんだか何時もバタバタしてて、聞きそびれてる事が他にも沢山有るんだよ。

鏡を聞くぐらいなら距離や長さや重さの単位を教えて欲しい。

早くギルバートさんの家庭教師を復活させて貰うのに、またお嬢さんに言わないとなぁ。


ピヨ子の事があったからこの1月近く止まってる状態で、もう10日前ぐらいからとっくに再開出来る筈だったのに、ブレイクスルーしてからアルフィンがちょくちょく来るもんで、再開しそびれてたんだよ。

私が起きて仕事して無ければ、海に拉致られてバッテリーしてるんだからそうなるよね。


何時もは用が済んだら家に置いて返るのに、この前アルフィンがウッカリ仕事してる部屋に飛んでから慌てて家に飛び直して、家に捨てる様に置いていかれた事もあったけど。

キリンシュのお爺ちゃんの他にもあの名前を知らない神経質なオジサンもいたし、他にも何人かが書類を持って仕事をしてたから、アレって執務室ってヤツじゃ無かろうか。

アルフィンが飛んで直ぐに気付いたキリンシュお爺ちゃんの視線で、アルフィンがウッカリしてたのに気付いて直ぐに家に戻されたから、少ししか見れなかったけど。

アルフィンがお爺ちゃんから小言を貰ってそうで、しばらく私はリビングで爆発してた。


だってアレだよ、アレ。

お母さんにお昼ご飯までには帰って来なさいよって言われてたのに、砂場でお城を作るのに夢中になって遊んでて、忘れてたのをハッと思い出して、慌てて家に帰ったら外遊びのバケツまで家の中に持ち込んでて、叱られる前に慌てて戻しに行ったパターンだよ。

でも目撃されてるし約束が守れてないから、誤魔化しようも無くて、結局叱られるヤツね。


だってアルフィンはあの頃お城を作るのに夢中だったんだよ。

お城なんて、彼からしたら砂山みたいなもんでしょ。


いやまぁ、最初はお城を作るはずじゃ無かったんだよ。

日差しがきついから、少し日陰が欲しいねって言ったら、白い砂浜の砂を使ってギリシャ神殿みたいな柱と屋根しか無い建物を作ってくれたんだけど、ソレがすっごく私に刺さって、プールが欲しい!ってなったのよ。


だって切り立った山の斜面に神殿を作ったから、その神殿の床に立って少し離れたら、床と海が繋がってるみたいに見えたのよ。

そしたらついシンガポールにある、屋上のブールがそんな感じで海と淡水のプールが繋がってるのを思い出しちゃったんだよね。


目の前は広い砂浜のプライベートビーチだもんで、海で泳いで塩を落とすのにブールに入るのも良いなって考えちゃってさ。

ブールって言っても浅い池みたいなもんだけど、そしたらアルフィンも興に乗ったらしくて水が流れる神殿にしてくれたんだよ。


もうスゲェーー!!!

って私ってば大興奮しちゃって、兄弟達にも見せたい!

っておねだりをしたら、じゃあもう少し手を入れてやるってなって、トントン拍子に小さかった神殿があれよあれよと言ってる間に、タージ・マハルみたいな宮殿になって行ったんだよね。

その建設途中だったから、予定よりもウッカリ時間が過ぎちゃったんだと思う。


⋯うん、まぁ犯人は私かな?

キリンシュお爺ちゃんごめんよ。


ワチャワチャと着替え終えた伯父さんに案内させて、この街の中心部から西に進んだ城壁近くの住宅街に飛んで行く。

もう伯父さんもワックスさんもヒィヒィ煩いの何のって。


「落ちないからそんなに不安にならなくて良いのに。」

「うるせぇ!

コチトラ産まれてこの方地面を歩いて生きてんだぞ!

鳥みてぇな翼なんざ生えてねぇからな!」

「下ばっかり見てるから怖いんだよ。

上を見てたらあんまり怖くならないんじゃない?」

「それでどうやって案内しろって言うんだ!

無茶言うなって、うおぉおおぉぉーーー!!!

落ちる!落ちるうぅぅ!!!

ウヒィィィーーー!!!」

「だから落ちないんだってば。はぁ⋯困ったなぁ〜。」


とか言ってたらあっという間に街を囲む壁に到着した。

壁の上にいた見張りっぽい兵士さん達が2人で唖然としてて、同じく少し離れた所でペアを組んでる兵士さんも、騒いでる伯父さん達を見てから直ぐにアルフィンに気づいてギョッとしてる。


明らかにアルフィンは貴族っぽいから、平民の兵士ならそりゃ引くよね。

手には笛っぽい小さな棒やら弓矢や槍やらもってたけど、貴族が相手だと勝手に攻撃するのも難しくて、誰かが笛を吹きながら走り出そうとしたから、魔力の手で笛の穴を塞いだら音かしないから、兵隊さんは「何で?!」って、顔をして笛を振りながら走って行った。


だから塔みたいな所のドアも魔力の手で抑えておいて、地面に降りて伯父さん達が脱力して静かになったら、兵士達全員に回復魔法をかけて記憶を消したから、もう大丈夫かな、?って思う。

壁は10m以上の高さがあるし、あれだけ離れてたら私達の声も遠いしね。


「記憶は消しといたよ。」

「それは犯罪になるのだが。」

「じゃあ今からでも事情の説明をしに行く?

話せば直ぐに思い出せるぐらいにしてるよ?」

「うーむ⋯次よりは世に了解を取ってから行うようにするべきで有ろう。」

「はい、王様。」

「しかし兵士であれば世の顔も知っておると思うのだが、記憶を消すまでの必要はあったで有ろうか。」

「知り合いでもいたの?」

「絵姿を見て居るだろう。」

「絵だけじゃ本人かどうかをちゃんと確認すると思うんだけど、アルフィンはあの人達とお話するつもりあったの?」

「ふむ。

しかし其方の叔父は7級を倒した猛者とは思えぬ軟弱さであったな。

声を塞ぐと案内が聞けぬし、我等を纏めて空間を塞げば煩わしくて叶わぬゆえに放置しておったのだが⋯」

「伯父さん、魔物には強いけどお空には弱かったみたい。」

「バカ言ってんじゃねぇぞ!

コチトラ魔物には慣れてっけど、空なんざ始めて飛んだんだからな!

漏らさなかっただけマシだと思え!こん畜生が!」

「伯父さん、アルフィンが王様なのを忘れてる忘れてる。」

「ハッ!も、申してございませんしゅた!!!」


噛んだうえに土下座したジギタス伯父を見て、溜飲を下げたらしく。

アルフィンがうむと小さく頷く。

ジギタス伯父さんが珍しく空気が読めるぐらい、アルフィンから漏れた魔力が怖かったんだろう。 


姉は正論パンチを使うが、父とアルフィンは魔力パンチを使うらしい。

男には一欠片も容赦が無い所が、アルフィンらしいなと思う。

私も今後は見習って、正論と魔力のいいとこ取りで正論魔力パンチを使って行こうかな?と検討しておく。

やり過ぎたら自尊心がズタボロな上に、漏らされたら浄化祭りになりそうだから、あとのフォローを思えば悩む所だよね。


「ほらほら、伯父さん。

案内して。」

「ハ!ハハァ!」


勢い余って私にまで(へりくだ)ってる伯父さんが、キョロキョロと必死になって周りを確認したけど、背中がヤバい!って書いてあった。

だから一心不乱に空気になろうとしてるワックスさんに話をふる。


「空から来たから道が分からなくなったみたい。

ワックスさんなら分かるかな?」

「フグっっ!

え⋯と、確か西門が向こうだからえーと⋯北門はどっちだ?」

「北ならあっちだね。

月が向こうにあるもん。」

「それなら向こうになるな。

オヤジ!

壁ぞいに歩いて右に行くぞ!」

「お、おう!

任せとけ!」


ワックスさんも私もジギタス伯父さんに任せる気は全く無かったので、先頭を歩くジギタス伯父さんの直ぐ後ろをワックスさんが歩いて、道を間違えそうになる度にワックスさんが伯父さんに声をかけて相談してた。


それを見るとやっぱり頭脳派だなぁと、見た目はバリバリの体育会系なのに実はインテリな伯父さんの次男に少し安心する。

ぶっちゃけ戦士はバカだと生き残れないからね。


伯父さんが狩人になれたのは、一重にマドルス爺ちゃんの交友関係の賜物で有る。

と言ってもマドルス爺ちゃんの兄ちゃんが師匠をしてくれてたらしいよ。

マルセロがロベルトに頼むようなもんだと思えば、弟子入を受け入れてくれたのも分かるよね。

クビになったけどな!


「多分此処だな⋯」


ジギタス伯父さんとワックスさんが何度も井戸の位置や家を確認してから、私達を振り返ってそう言った。


2人が迷うのも良くわかるぐらいの、平屋に近い貧民層的な木造の住宅街だから、建物のデザインが全く同じになってるんだよ。

だから違いがあるとしたら、家の前に置かれてる個人的な品になるけど、盗まれたら困るから置いてあるのは穴が空きそうなボロい木桶とか干した元気草ぐらいなもんだから、あとは家の壊れて直した部分とか、家の前にある木桶の置き方とか、そんな事些細な違いしか無いと言う。


「此処であってる?」

「隣ではないか?」

「あ、すっごく惜しい。

むしろ凄くない?」

「うむ。中々に優秀であったな。」


ウォーリーよりも難易度の高い間違い探しなので私はアルフィンに確認する。

私達の会話を聞いた、その瞬間のジギタス伯父さんとワックスさんの真顔が超ウケた。

アルフィンも分かってて乗ってくるから悪友なんだよね。


「アルフィンどっち?」

「右だ。」

「ジギタス伯父さん、右隣の家に声をかけてよ。」

「分かってんなら先に言えやコラ!」

「王様に案内させるのはどうかと思ったんだよ。」

「俺達必要だったか?!

なぁ必要無かったんじゃねぇのか?!」

「アーニャ叔母さんは私を知らないからジギタス伯父さんをわざわざ連れて来たんじゃ無い。

ホラホラ早くノックしてあげてよ。

私達が騒いでるからアーニャ叔母さんがもの凄い気まずそうにドアの前で待ってるから。」

「な?!」


ジギタス伯父さんが慌てて右隣の家に視線を向けたら、ドアが開いて中から壮年の女性が姿を現す。

夜中だったせいか髪の毛は全て下ろした状態で、服はもう狩人が狩りに行く時に着てそうなぐらいにシッカリと着替えまで完璧に済ませてる。 

しかも鋭い眼光がジギタス伯父さんに向けられていて、その無表情に近い顔には「てめぇこの野郎!やっぱり厄介事を持って来てやがんじゃねぇか!」と、デカデカと書いてあった。


だからジギタス伯父が汗だくになって硬直するのが分かる力関係が垣間見えるよね。

アレだよアレ。

カタリナを前にしたロベルトみたいなもんだから、そうなるよね。


「始めましてアーニャ叔母さん。

こんばんわ。

おはようございます?

私は叔母さんの姪っ子のリリアナです。

ご近所迷惑になるので、お家の中に入れて貰えませんか?」


ダメ元でご挨拶をしたらハァ〜⋯と深海みたいなため息を零してから、チラリとアルフィンを見た後で。


「お貴族様を迎えられるような家じゃ無いんでね。

外で話をしようじゃないか。」


そう言ってサッと家を出てドアを締めようとしたので、その一歩歩くよりも先に私が魔力で物理的に動きを止めさせた。


「此方の事情なので本当に申し訳無いのですが、姿を見せられないお方がおられるので、無理を承知で中にいれて頂きたいのです。

あ、お貴族様はとても良い方ですよ。

平民の私にもとても良くして下さっていて、幼い私が叔母さんと会うためにわざわざ忙しいのに此処まで連れて来て下さってるんですよ〜。

なのでお時間を取らせるのは本当に駄目なので、叔母さんには申し訳無いのですが此処は譲って頂きたいのです。」


そう言いながら、叔母さんの足を動かして家の中に戻させた。

私がわざわざ説明しているのは、壁が薄そうなご近所様への説明になる。


「さぁジギタス伯父さんとワックスさんも早く中に入ってくれるかな?」

『あぁ⋯』


アーニャ叔母さんの恐怖に満ちた顔と口をパクパクさせてるのに、声が1つも聞こえてない不自然さに、ジギタス伯父さん達もなんか分からんがヤバい!と、顔にはりつけてサッサと家の中にはいって行く。 


アルフィンが歩くのにドアを潜る前には部屋の中もその中の住民を全てレモン色にしてから入ると、ドアからはいった先はもう土間とリビングが一緒になってる、床が土のままのお部屋だった。

その先の寝室と思われる閉められたドアの向こう側には、2つの寄り添う小さな魔力の形があり、動きの拘束をやめた叔母さんはそのドアの前に立って此方に警戒心バリバリの視線を向けて来る。

まぁそうなる。

叔母さんは孫からしたら祖母だけど、母親代わりで育ててるから全力で守ろうとするよね。


「アルフィン、大したことはお話しないからこのままさせてね?

必要ならするけど、多分大丈夫だと思うの。」

「⋯承知した。」


アルフィンが防音の魔法を使ってくれそうな気配がしたので、そう言うと視線でまた記憶を消すのかと問われたので小さく頷いて返す。

そして必要になるならするけど、無いなら消さないと答えた私に、アルフィンが許可を出してくれた。


「叔母さん、このお方はお貴族様じゃ無くて、この国で1番偉い王様なの。」

「っっ⋯嘘をつくんじゃ無いよ!

そんなデタラメ誰が信じるって言うんだい!」

「ジギタス伯父さんは知ってるよ。

だから私のお願いを聞いて、わざわざ此処まで叔母さんを探しに来てくれたんだよ。」

「だから騙されてんだろって言ってんだよ!」

「叔母さんがそうしたい気持ちは良く分かるんだけどね?

私はこの王様のご両親の先王様と上后様。

つまりこの王様の前の王様とお妃様と、あと今王妃様をしてる王様の奥さんと妾みたいな奥さんと、お姫様3人と王子様2人に、国の仕事をしてる偉い貴族の人達皆と会ってるんだよ。

だからこれは夢でもなんでも無いんだよ?

叔母さんにも直ぐに分かるように説明したいから、少し移動をしようね。

言葉だけではきっと信じられないでしょう?」

「な、何をするつもりだい?!

下手な真似したら承知しないよ!」

「そう?

じゃあ何もやらなくてもいいけど、信じてくれる?」

「う⋯」

「あーよかった。

王様に二度手間させるのは申し訳ないもんね。

じゃあどうしてジギタス伯父さんが叔母さん達を迎えに来て、それに失敗したから私が此処に来たのかを説明するよ?」

「⋯そうだね。

一体何があったって言うんだい。」

「1つは私の事情に叔母さん達が何も知らないまま巻き込まれたら危険な事になるから、それから守りたかったのと。

もう1つは王様が私の親族全てを調べてくれて、1つの場所に居た方が王様が守りやすいのも有るのと、後は叔母さん達が心配だったから迎えに来たんだよ。」

「っ⋯ウチラの何が心配だったって言うんだい?!」

「それは叔母さんが何時も心配してる事だよ。

少なくても実家ならそんな不安はないでしょう?」

「実家⋯?まさか故郷に返るってのは嘘の話じゃ無かったのかい?!」

「うん。これは王様が部下に任せないで、自分で守ってくれてる理由にもなるんだけど。

私の価値が高すぎて、王様が部下に任せられなくなってるんだよ。

王様からしたら私は本物の宝物なんだけど、部下の人たちからしたら、理由を知らないとただの平民の女の子にしか見えないでしょう?


でも理由を伝えたらその人たちも目の色を変えて欲しくて堪らなくなるから、理由が説明出来ないんだよ。


だから王様が一生懸命に私を守ろうとすればするほど、私は王様を惑わす悪女にされて、王様の部下から邪魔者扱いされて嫌われたり、王様と同じように私が宝物に見えたら、勝手に利用されたりして王様と奪い合いの喧嘩になるから、王様は仕方無く自分で私を守ってくれるしか手が無くなっちゃったんだよ。


だから私を誘い出したいとか、脅したいとかの理由で叔母さん達が使われない為に、王様が身内全員を守ってくれてるの。


でも王様の本当のお仕事は国を治める事だから、私ばかりに時間を使えないのは分かるかな?

どう?此処まで話が長かったけど、私のお話は分かるかな?」

「その理由を言えない価値ってのはなんだい。

アンタみたいなチビがどうしてそんな事になってるんだい?!

それを私に分かるように説明してみせなよ!

そしたら少しは話に乗ってやるよ。」

「少しじゃ無くて、理由を知ったら自分で自分の身を守れなければ実家に帰ることになるんだけど、それは大丈夫なのかなぁ?」

「⋯自分で自分の身を守れるんなら、端から行かなくたって良いってことかい?

そこん所はどうなんだい?!」

「そりゃそうだよ!

悪い貴族が来ても上手く逃げれたり、そんな人がこの街の上の人に指示して叔母さん達を兵士に捕まえに来させても逃げたり、後は教会の人達からも逃げられるならぜんぜん大丈夫だよ!」

「はぁ?!

何で兵士や教会まで出て来る話になるんだい?!」

「それぐらいヤバいから、王様がわざわざ直接私を守ってるんだよ。

そうじゃなきゃ王様だよ?!

平民からしたら雲の上に住んでるような人だよ?

そんな人が無い時間を絞り出す為に、寝る時間さえ使ってわざわざこうして来てくれてるんだよ?

それを思えばどれくらいヤバいか分かるよね?」


目を爛々とさせて戦闘態勢に入っていた叔母さんが、話の大きさに飲み込まれそうになって次第に活気が無くなり、ついには全身がガタガタと震え始めてる。

キョロキョロと瞳だけでジギタス伯父さんやワックスさんの姿を確認すると、ジギタス伯父さんは項垂れてるし、ワックスさんはマジかよ!と、顔に書いて穴が空きそうなぐらいにジギタス伯父さんを睨見つけてた。


話を持って来た叔父さんに八つ当たりしたくなる気持ちは分かるけど、叔父さんは今回全く悪くない。

日頃の行いが悪いとこう言う時に悲惨だなとちょっとウケる。


「ジギタス伯父さんは私に巻き込まれただけだからね?

私が貴族のお姉さんの力を借りて家族に必死になってヤバさを伝えて。

ヤバさに気付いた家族も皆で一丸となって、貴族のお姉さんも良い人だったから私達に協力してくれて、全員で全力で逃げようとしたんだけど⋯逃げ切れなくて今こんな事になったんだよ。」

『うう⋯』


ジギタス伯父さんとアーニャ叔母さんとワックスさんが揃って、頭が痛いと言わんばかりに顔を歪めて項垂れた。


「もうどうしようも無いっていうのかい?

せめて教会なら何とかしてくれるんじゃないのかい?!」

「教会よりも王様の方が全然マシだから、私達は王様を頼ってるんだよ。」

「何でなんだい!?

教会は平民の味方だろう?!」

「平民の味方だからって私達の味方とは限らないんだよ、アーニャ叔母さん。」

「どう言うことだい?!」

「まず教会が私の価値に気が付いた場合。

最初にするのは私の誘拐だね。

国から連れ出してさえしまえば、私は平民のチビだから国も追いかけて来れないでしょ?

次は私の家族や親族の誘拐だね。

私が会いたがってる〜とか、見つけたけど小さいから直ぐに戻せないから来てくれないか?って言ってお父さんや伯父さん達を連れ出して誘拐するんじゃない?

それでも駄目だから今度はお母さんや私の兄弟達とか、見せしめに使うのに叔母さん達も戸籍を利用して調べて騙して連れ出そうとするだろうし、言うことを聞かなければ誘拐するんじゃないかな?」

「バカな事を言ってんじゃないよ!

教会がそんな事をする筈がないだろう!」

「じゃあ逆に聞くよ?

教会の人達は弱くて貧乏な人達を助けたいから教会を沢山作って勉強を教えて、寄付金とかを貰って生活してるのに、私1人でその全部のお金が賄えるんなら誘拐して宥めたり脅したりぐらいはするんじゃない?

だって国が買えるぐらいのお金が稼げるなら、貧乏人も沢山救えるんだもん。

私が協力しない!って言ったらそれで諦めたりなんてすると思う?

皆の為だからって心を鬼にして悪い事もするんじゃない? 

だって悪いのは人を助けようとしない私だからって思うようになるよね?」

「だったら協力でも何でもすりゃ良いじゃないか!」

「そしたら今度は国と教会とで戦争だね。

アーニャ叔母さんはこの国から全部の教会が無くなって、殺し合いの戦争するのが良いと思う?」

「なっ⋯」

「国が買えるぐらいのお金っていうのは、それだけ人の心を狂わせちゃうんだよ。

それがわかってるから、王様はわざわざこうして1人で頑張ってくれてるの。

だったら守って貰ってる私達が王様に協力するのは当たり前なんじゃないかな?

叔母さんはどう思う?」

「そんな⋯そんなバカな話が⋯」

「多分そのうち分かるよ。

少なくとも叔母さんはうちに来ざる負えないし、従兄弟の子供達も守らなくちゃ私の心が罪悪感で苦しくなるから、こうして説得してるんだけど。

王様だからホントはこんなまだるっこしい事をしないで無理やり連れて行けちゃうんだよ。 でもそれをしないでちゃんとお話を聞いて皆が少しでも良い生活が出来るように心を砕いてくれてるの。


この国の王様がこんなに素敵な人じゃ無かったら、私は今頃自殺して親不孝してなきゃいけなかったから、本当に心から感謝をしてるんだよ。

それでも騙されてると叔母さんが思うんなら、騙されたと思って本当に何がヤバいのかを確かめに来てごらんよ。

それで逃げ出せるぐらいじゃ無かったら、とてもとても貴族や兵士や教会から逃げるなんて出来ないから、何も知らないで行動したら危ないと思うんだけど。

どうかなぁ?」

「そんな⋯私にどうしろって言うんだい!

⋯そんな話にゃ私の手なんかにおえやしないよ⋯」


ドアを背にして立ち尽くすアーニャ叔母さんが、それでもその場を動かない姿は、わが子を護って戦う女性の強さがどれだけ凄いかを表している様に思えてくる。


てかよくこんなお子様な話を信じる気になれるな?とは思うけど、王様の存在が話に説得力を与えてるんだろうね。

普通の主婦なら王様の存在感は

余り分からないだろうけど、叔母さんは狩人で戦士なら魔物と闘う経験も有るから、魔力の多さが分かるんじゃないかな?

50代で現役の狩人をやれてるんなら、それも納得だよね。

危機管理能力が抜群に良くなければ、そんな仕事してて長生きなんて出来なるはずがないもん。


「私が王様を頼った1番の理由はね?

王様は私達を守るのに、私の事を話す以外は何の束縛もしないで家族達を自由にしてくれてることなの。

そうしても私達を守る自信があるぐらい凄い人なのと、私を使っても悪い事をしないで居てくれるのが分かるから、こうしてるんだよ。


教会を避けたのはそこの人達が貧乏な平民を理由にして、私が嫌がっても無理やり従わせようとするのが分かってたからなんだよ。

だってそれが正しいと思い込めるような人達だから、貧しく辛い思いをしても教会で働けてるんだもん。


王様は正直に言えば、私なんて使わなくたって自分でもうある程度は出来ちゃうの。

いたら便利だな?

って言えばわかる?

叔母さんだって良い弓や罠や獲物が食いつく餌が有れば便利だから使うけど、別にそんなのが無くたって狩りに行けるよね?


教会の人達からしたら、手ぶらで狩りに行きたくないから私と言う弓や罠や餌が1人で全部出来ちゃう便利な道具を欲しがるようなもんなの。

なんなら何もしなくても勝手に獲物を取ってきてくれる道具なら、叔母さんも少しは欲しくなる?

まぁそんか感じだから、欲に溺れて狂わないで居てくれてる人が、王様1人だったんだよ。」

「黒魔石。

それは嫌味なのか?」

「事実じゃん。

欲に溺れてたらウチのお姉ちゃんが叱っても聞かないでしよ。」

「お、王様なんだろう?!

叱るってなんだい?!」

「私が話の途中で寝たから、話の続きが気になった王様が私を起こそとしてウチのお姉ちゃんに叱られちゃったんだよ。

しかもその時の事をちゃんと反省してお姉ちゃんに優しくしてくれてたよ。


あ、勘違いしないでね?

相手が子供で女の子だったからそうしてくれただけで、大人がそれをやったら死なないにしてもボコシバキだよ?

王様がやらなきゃ私や家族皆がボッコボコにするから気をつけてね?ジギタス伯父さん。」

「な?!

何で俺に言うんだよ!」

「それは良いとして。

そんな状態だから家臣が来れないんだよ。

平民に貴族の真似なんて出来ないから、王様に失礼な態度をしたら首を跳ねるのが王様に仕えてる貴族のお仕事でしょ?

だから間違ってもそんな悲しい事にならないように、王様は沢山我慢をして私達と付き合ってくれてるの。


でも本当なら王様はそんな我慢をしなくても良い立場の人だからウッカリワガママになっちゃうのね?

お姉ちゃんはまだ10歳だから、悪い事をしたら叱らなくちゃ!って思ってつい王様を叱っちゃったらしいんだよ。」

「嘘だろう?

周りは誰も止めなかったのかい⋯」

「皆が王様が優しい人なのを分かってるのと、止めたくてもウチのお姉ちゃんが正論だったから止めらなかったんじゃないかな?」

「⋯そうなのかい。

人とは思えないぐらいに美しいお方だけど、お若いのにご立派なんだね⋯」

「王様は若く見えるけどジギタス伯父さんと同年代だから騙されてるよアーニャ叔母さん。」

「えっ?!はぁ?!」

「王様は結婚が早かったからもう孫までいるお爺ちゃんなの。」

「世は其方の祖父では無いと何度も申しておるだろう。」

「それなのにこうやって老いを否定して、当たり前のように口説いて来るのよ?

ひどくない?

私を嫁にしようと企んでるスケベジジイみたいに見えるけど、私が女の子だから嫁にするんじゃ無くて、便利な道具として欲しがってる職人なのが腹が立つんだよ。


このお爺ちゃん魔導錬成師だもんで、魔法も好きだけど魔道具作りが趣味でもの凄く大好きなんだよね。

もう5人も美女なお嫁さんがいて子供も沢山居るし、他にも女の子達にモテモテな人生だから、ホントはもう女の子なんて必要ないのに、爺ちゃん扱いしたらキレてくんの。

面倒くさいよね!」

「黒魔石?」

「事実じゃーん!

私だってマトモな恋ぐらいしたいんだよ。

魔道具作りの便利道具扱いする変態ジジイは、嫁にするのをサッサと諦めてくれないかなぁ!」

「其方が有能過ぎるのが悪いので有ろう。

そもそも其方などに、並みの男など相手に務まらぬで有ろう。」

「ちゃんと良い人を見つけたらおしとやかにか弱くしてますぅ〜!」

「そうか。

其方なら実に巧みに知謀を張り巡らせて捕獲するで有ろうな。

何という不幸な。

不憫な男を作るでないわ。」

「えー!ひっど!

ちゃんと幸せにするよー!」

「其方1人が幸せになるだけで有ろう。

どうせ飽きれば難癖をつけて捨てそうでも有るな。」

「はぁ?バカ言ってんじゃねぇぞ?!

コチトラ一生添いとげるつもりだっつーの!

テメェと一緒にしてんじゃねぇぞコラ!」

「語るに落ちるとは正にこの事で有ろうな。

おしとやかとは聞いて呆れるわ。

化けの皮など直ぐに剥がれるで有ろう。

それで泣くなら、大人しく世に捕獲されて置けば良いのだ。

迂闊な其方などに騙される男は少なかろうが、不憫な男を作らぬにはそれが良かろう。」

「シレッと口説いてんじゃねぇって言ってんだろ!

コチトラお前の魂胆なんざ、丸っとお見通しなんだよ!」

「見通すのに丸いとはまた面妖な物言いをする。

通すので有れば直線では無いのか?」

「直訳してんじゃネェ!

丸ごと。

つまり果実は丸いから、それを全部って意味なの!」

「また勝手にその様な造語を作りおってからに、言葉を改めねば成長してから苦労を致すぞ?」

「うぅ⋯そうなんだけどさぁ〜」

「賢すぎると言うのもまた弊害よの。」

『⋯⋯』


アルフィンが困った奴めと言わんばかりに凹んでる私の頬を指の背で撫でるから、その緩んだデレデレとした彼の顔を見た3人の表情がもの凄く微妙なものになる。


ジジイが孫みてぇな女を欲しがってんじゃねーぞとか、王様からそんなに気に入られてるから、生意気を言っても首を切られないのか?とか、たらし込んでるねぇ〜と、三者三様の感想が入り乱れてる気がするが、両隣の住民もハラハラしてたのになんかイチャイチャしてる?!

どうなってんの?!

と、家政婦は見た!みたいな状況に陥ってる気配がしているけど、まぁおおよそ計画通りだからね!

木造建築は隙間が多いから、隣とくっついてる構造だと、その気になれば覗き放題とかヤバいな!


だから壁に毛皮やら織物のタペストリーを付ける文化になるのね?

我が家の寝室がそうなんだけど、何でこんな所に毛皮を干してんの?ってずっと疑問だったんだよ。

覗き防止に毛皮を寝室の壁に吊るしてたのかぁ~。

まぁどうでも良いや。


言葉で幾ら説明しても理解なんて得られないから、アルフィンが面白がってくれるのを良いことに実演販売するかの如くふだんのやり取りをして見せているからか、叔母さんから少しだけ緊張が緩んで来ている。


「とまぁ私がうっかり感情に任さて喚いても、王様は大人だから大目に見ていてくれるんだよ。」

「王様。

姪を甘やかさないでくれませんかね。

その様子だと成長すれば首を直ぐに切られちまうよ。」

「大事ない。

世が守るで有ろう。」

「だから家臣に見られて叱られないように、姿が消える魔道具まで作ってくれてるんだよ。」

「それはすぐに止めてちゃんと躾けた方が良いんじゃ無いかい?

じゃないと勘違いして育ったら大変だよ?」

「大丈夫!

ちゃんと許してくれる人の前でしかやらないから!」

「それは大丈夫とは言わなんじゃ無いのかい?!

アンタの親は一体何をやってるだい。

ジギタス!

この子は誰の子なんだい!」

「言ってもいいのかぁ?

俺はコイツの事を喋ったら駄目って言われてんだよ。」

「む。そうだね。

アンタはその方が良いだろうよ。

むしろちゃんと言いつけを聞けてる所が凄いじゃないか。

アンタも大人になったんだねぇ。」

「よせやい!

流石に俺だって命がかかれば、これぐらいの事はするに決まってんだろうが。」

「何を言うんだか。

私が何度も危ないから止めろと言っても、魔物に突っ込んで行ってたじゃないか。

もう忘れちまったのかい?」

「それとこれとは違ぇだろが。

あれは俺の戦い方だっただけだろ!」

「シャムはマトモに狩れるのに、アンタはどうしてそんな風になっちまったかねぇ?

あたしゃ不思議で仕方がないよ。」

「叔母さん叔母さん、ジギタス伯父さん7級の魔物を1人で倒したらしいよ。

しかも弓矢で一撃だって!」

「アンタまさかまだそんな馬鹿な真似をしてんのかい!」

「コラ!バラしてんじゃねぇぞ!

それにアレは1人じゃねぇよ!

モズグスのヤツが水の壁を出して魔物の動きを邪魔してたんだよ!」

「ただ水を出しても突っ込んで来てて普通に攻撃してるから、魔物の動きは全く止まって無いし。

魔物が身にまとってる雷撃の余波はからは伯父さんの身を守れたかも知れないけど、それは防御なだけで攻撃は伯父さんが1人でやってるし、更にその魔物の角での攻撃を避けてるのは伯父さんだからね?

水の壁がなくても普通に倒せてたと思うよ?」

「見てきたみたいに言ってんじゃねぇぞ!

お前は話を聞いてただけだろうが!」

「それで分かる才能が有るから私は今こんな事になってるんだよ。

説明出来る自信は有るけど、言っても理解が出来ないだろうから今回はやめとくよ。

それより叔母さん!

どうしたい?


皆にゆっくり挨拶とかするんならジギタス伯父さん達とモーブ車で帰って来ても良いけど、今なら王様が居るから、ひとっ飛びでお家に連れて帰れちゃうよ?

私はそうやって連れてきて貰ったんだけど、どうしたい?

今直ぐ周りの人に声をかけて来るなら少しだけなら待てるけど⋯」

「え?!この距離をかい?!

どうやって?!

飛ぶって空でも飛ぶのかい?!」

「ううん。その飛ぶじゃ無くて、距離を一瞬で縮めるんだよ。

これが出来るのってこの国でも王様だけって、国の偉い貴族のお爺ちゃんが自慢してたよ。

あれ、お姫様だったっけ?

忘れちゃったぁ!」


アハハハと笑ってると、叔母さんはかなり悩んでるみたいだった。


「⋯私達が行くのは決まりなんだね?」

「その方が多分安全だと思うんだけど、そこは任せるよ。

でもあんまり王様にワガママは言えないから、此処に残るんなら、もし何かがあっても叔母さん達を助けられるかは分からないかな。

叔母さんが嫌って言うのを無理にとは言えないし、ただでさえ忙しい王様を自分の都合で何度も使えないしね。」

「端から王様を使おうとするんじゃないよ!

全く馬鹿な姪っ子だねぇ。

怖い物知らずにも程が有るだろうに⋯はぁ~⋯仕方が無いね。

ジキルスもまだ長旅はキツイだろうし、ハーニャはもっと幼いから無理だろうしね⋯」

「この辺に居る人達はみんなビックリして起きてるから、周りの人達に挨拶するぐらいならできると思うよ。

長話は難しいけど、引っ越しの作業なら手伝えるから持って行きたいものを全部言ってくれたら魔法の鞄を使って運んじゃおうか。」

「魔法の鞄なんてもんまで使えるのかい⋯呆れたねぇ。

わざわざ持って行くようなもんなんか、そんなに有りゃしないんだよ。

墓やこの家には思い入れは有るけどね。」

「ソレ持っていったら他に困る人居るかな?

一応持って行くのは持って行けるよ?」

「嘘だろう?!

そんな事まで本当に出来るって言うのかい?!」

「だって王様だもん。

本当に凄い人なんだよ?」

「はぁ~、こりゃたまげたね。

でも家は両隣とくっついてんだよ?

無理じゃないのかい?

墓だって他人の骨と一緒に入ってるんだよ?

まさか他所様(よそさま)の骨まで持って行こうってんじゃないよね?

それだけはやめとくれよ?」

「骨は生前につかってた物が何か残ってたら私でも探せるよ。

王様にも出来るけど、その方が早く済むかな?

家は危ないから難しい?

アルフィンしか出来ないから私にはちょっと分からないかな。」

「壁を残せば良かろう。

土台ごと切り離して全てを鞄に入れれば良かろうとは思うが、壁は新たにつくる必要が有るな。

それで良ければとなるが如何する?」

「ハァ〜⋯呆れるねぇ。

本当にやっちまえるのかい。

でもまぁ⋯こんなボロい家は諦めもつくが、せめて骨だけは何とかしてくれるなら助かるんだがねぇ⋯。」

「遠慮しなくても良いんだよ?

それぐらい叔母さん達には無理を言ってるんだし。

お家には沢山思い出が有るんだよね?

でもそんな相談してる暇が有るなら、子供達に友達とお別れをさせてあげた方が良いと思うんだよ。

あまり遠くの友達までは合わせてあげられないから、せめて近所の人達だけでもご挨拶をさせてあげたらどうかな?」

「ふぅ⋯。


⋯ジゼルス、ハーニャを連れて近所の連中に挨拶に行ってきな。

今生の別れになるかも知れないからね。」

「え?!」

「ここにはもう戻れないと思っておきな。」

「そんな!嘘だろう?!」

「⋯良いかいジゼルス。

世の中には避けては通れない出来事ってもんが有るんだよ。

狩人なら逃げられなけりゃ、戦い方を考える必要が有るのを分かってるだろう?」

「⋯婆ちゃん⋯」

「獲物を知らなけりゃ狩ることも逃げる事も出来ない事は、アンタにゃ骨身に染みるぐらい教え込んでるよね。

私達はそれを知る為に此処を離れるんだよ。

アンタが本物の狩人になるんなら、そのうち逃げて来られるかも知れないんだから、シッカリしな!

それでも逃げられない相手なら、もう二度と会えない事を思って挨拶して来るんだよ。」

「私は魔物で言えば10級になるから、今は多分何をしても逃げられないと思うけど、試したかったら試しても良いよ?

でもお墓の骨も探さないといけないから、遊ぶのは少しだけになるから、そんな事に時間を使うぐらいなら、お友達とお話した方が良いかな?

私のお話は難しいかなぁ?

ジギルスお兄ちゃんは分かるかな?」

「え?!え?!」


寝室の扉が開いて姿を現した明るい茶髪の活発そうな少年は、背中に妹をへばりつかせたまま、祖母と私の顔をキョロキョロと見てからアルフィンに気付いてギョッとして硬直する。


10歳だったはずだから、貴族がどんかものか知ってるし、王様の事も少しだけ勉強してるから実際に見て驚いてるんだろうね。

妹のほうもとっくの昔にアルフィンに視線を奪われててポーッと見惚れてる女の子の顔をしてる。


まぁ⋯そうなるわな。

むしろアーニャ叔母さんが凄いのはそこなんだよ。

アルフィンの美しさには気付いているけど、母親として子供達に気を取られてるのが分かるから、アルフィンも優しくしてくれてるんだろう。

こんなボロい家や持って行こうとしたり、墓まで行くと聞いてもゴネないのがその証拠だね。

叔母さんの他人を思う心根を、とても気に入ってるんだろう。


それだけアルフィンはその美貌に狂った女性にウンザリしてるんだろう。

だからアルフィンは女性は好きだけど、情念に歪んだ身勝手な女は嫌いなんだよ。

だから奥さん達に辟易した顔をして、私に甘えに来るんだと思う。

しかも心を奪ったとしても、惚れられたと感じたらきっとウザがって離れるのはアルフィンの方だから、それが私には分かるからこんなに心に壁を気付いてジジイ扱いしてるのよね。


全く面倒な奴だと心から思うよ。

正に女の敵だよね。

奥さんやら甘やかされて育った娘達が、全員アルフィンの被害者だと思えばもの凄く可哀想!

お嬢さんがあれだけ恋愛に投げやりになるのも納得だよ。

実の父親に理想の恋をしてるから、他の誰が旦那になっても同じに見えて、だからあぁなんだろうね。


血の繋がった実の父親だから、溺れるほどの恋にはならないせいで、理性もちゃんとのこってるから、叶わない想いを毛嫌いしてウンザリしてるのも有るから、あそこまで天才を見たら荒れるんだと思う。

もう本当に可哀想。


ちなみに私は年齢も有るだろうけど、恋愛とか本気で興味ないからな?

生物学的にアルフィンが脅威だからバリバリに防衛線を張ったりしてるけど、恋愛するなら父みたいな人が良いって思うだけで、積極的に恋愛をしたいかと言えば、あんな面倒臭いもんを誰がするか!と、本気でおもってるんだぞ?

ただ本当に恋愛すると、心のバランスがとれなくなるのを、何故だか知ってるから恋愛に対して軽視出来ないでいるんだよ。

これは前世の記憶だけど、多分通用しそうな知識に思えるのは、アルフィンの周りの女性達の被害を見てるから、そう思えるのかもね?


これが単に面の皮1枚良いだけの、前世の美男子と同じならまだ生優しかったんだろうけど、こっちには魔法が有るせいで無意識やら本能やらの感覚に、向こうの世界とは比べものにならないぐらいにヤバそうな要素が絡んでる気がするんだよ。


魔素と同じで目に見えないけど、いわゆるファンタジーにお馴染みの魅力なんてギフトをアルフィンが持ってたりしたら、そうなるんじゃ無いの?

ってぐらいに明らかな脅威を感じてるのは、恋愛に全く興味のない私ですら引っ張られるのが分かるからなんだよ。


つまり女専用の惚れ薬を垂れ流してる様な劇物が服着て歩いてるのがアルフィンって男だし、しかも頭が良いから便利に使ってる気がするんだよね。

だからクソ野郎でも惚れる女が絶えないし、傲慢なクソカスゴミクズ野郎でも私ですら惚れそうだから、もうホント歩く公害レベルのヤバい魔物と同じと考えた方が良いと思う。


じゃあ何でウチの母と姉が狂わないかと言えば、アルフィンは母と触れ合おうとしないのと、母の性格なんじゃない?

アイドルの応援してる女子高生なのは、母の精神が幼いんだと思うの。

あと父に惚れてるのも有るかもね。

父も普通の男じゃないしさ。

残りは回復魔法の後遺症と言うべきかもね?


あと姉に関しては完全に落ちてた筈なんだけど、鬼軍曹並みの生活習慣と精神を修行僧レベルで鍛えてるからじゃない?

後は私が覚醒させちゃったから、アルフィンの魅力に対して魔力抵抗値が上がってたりするのかな?

知らんけど。


その理屈で言えば私や姉もかなり危ないかも知れない。

魔力で異性を惹きつけるのならって前提で言えばだよ?

⋯よし!

気をつけて姿を隠そう!


もうこんなヤバげなストーカージジイを増やしてらんないからな!

姉?

ゴリラは自分で撃退するから大丈夫!

万が一姉を取り合って男達が殺し合いを始めたら、姉が全員纏めてボッコボコにして泣いて反省するまで許さなさそうだから、戦争は起こらないね!

例え傾国の美女的な何かになって国を傾けそうになっても、そこの王様を調教して国を立て直しそう!

よし、何の問題もねぇな!


ジキルスは妹のハーニャを連れて家を出て行った。

逃げた所でアルフィンがさくっと見つけるだろうから、叔母さんに言って遺品を出して貰う。


「短剣と櫛とえーと⋯この弓は叔母さんの魔力で染まってるから駄目だね。

他にない?」

「そうだね⋯この靴ならどうだい?」

「うん、大丈夫。

かなり薄いけど追えると思う。

でも古いって事は叔母さんの旦那様かな?」

「あぁ⋯そうだよ。

もう20年以上も前に死んじまってるのに、まだ魔力が残ってんのかい?」

「正確に言えば魔力が持ってる記憶かな。

魔力そのものは残ってないけど、こんな魔力だったよって言うのを教えてくれるんだよ。」

「ハァ〜⋯何を言ってるのか、アタシにはさっぱりさ。」

「個別に分けるけど、古い骨は埋葬の方法次第ではもう土になってたらごめんね。

できる限り探してみるけど、土に還った骨を探す経験が無いから、探せるかはやってみないと分からないかも。」

「あぁ⋯墓荒らしは良くないと聞くから、出来る限りで良いさね。

ウチの旦那は病で死んじまってるから、余計に良くないとは思うんだけど⋯もう参れないと思えば連れて帰ってやりたいのさ。

アイツも村の出身だったからね⋯」

「そう⋯病。

ひょっとして目が黄色くなって熱が出て死ぬ病気だったりる?」

「なんだい。

ジギタスじゃないけど、まるで見たことみたいに言うんだね?

全く不思議な子だよ。

全員病に持って行かれちまって、私もそろそろと思っちゃ居るんだが、孫を残して溜まるかって踏ん張った甲斐があったかも知れないね。

まさか王様が迎えに来てくれるだなんて、思いやしなかったけどさ。」

「そう⋯そう言えば此処は川が近くにある街だったんだよね?

ねぇ叔母さん。

此処にもシャムって居るのかな?」

「シャムは居ないが、代わりに別の河鳥が居るよ。

コッチではメバルって言う薄紅色の鳥なんだ。

シャムやりは不味いが、あれも3級の魔物だから魔石が良い値で売れるから取ってんだよ。」

「じゃあその鳥は狩って家でよく食べてるの?」

「男達が居なくなってからは、売ってもっと安い肉を買ってるが、たまの贅沢で食べる事はあったがね。

それがどうかしたかい?」

「ううん。あとね?

叔母さんや従兄弟の旦那さんは、川でお仕事をしてたのかな?」

「そうさね。

この辺りだと戦士の仕事はもっぱら木を切るか川の作業をする者の護衛が多いからね。

ウチの旦那も戦士だったし、婿殿もそうだったから川で仕事を良くしてたね。

アタシはサーニャが腹にいた頃は家にいたが、旦那が死んでからは深追いせずに罠でピアやワムウを取って暮らしてたんだよ。

メバルを追えるようになったのは、最近だねぇ。」


私を抱いてるアルフィンの笑みが深まる気配を感じながら、ちょっとこれは面倒かも知れないと思えばげんなりとした。


そしてまだ暗い時間、ジギタス伯父さんとワックスさんを叔母さんの家に残してから私達は教会の集合墓地へ向かう。

叔母さんはひと言も叫ばず、むしろ空の散歩を楽しんでた。

後でジギタス伯父さんとワックスさんに言ってやろうと思う。


そして教会より少し離れた広い広場にある共同墓地で地下室みたいな場所に行く。

お参りする時は上で済ませるらしくて、地下には納骨する時だけ訪れるらしい。


どうやら火葬の文化があるらしくて、毎回穴を掘るのが大変なのか、広くて長い地下室にカプセルホテル形式で、上下の間隔が狭く棚が本棚みたいに沢山置かれていて、そこに叔母さんの御主人とお婿さんの骨は積み重ねれてる所から探し当てた。

でも従兄弟のサーニャさんの骨が無くて叔母さんが動揺する。


「変だね。

確かにサーニャも此処で一緒に寝てた筈なんだが⋯。」

「叔母さん。

サーニャさんのへその緒とか残して無いかな?

王様ならそれが有れば探せるかもだよ?」

「それなら此処に⋯でもどれがサーニャのなのかは、分からなくなっちまってるが、使えるかね?」

「1つの袋にサーニャさんのへその緒と、子供達のへその緒を入れちゃってるんだね?

ちょっと見せてよ。

アルフィン、これがサーニャさんのだよ。」

「良かろう。」


叔母さんが首からお守りみたいにして下げてる小袋に、小さなへその緒が3つ入っていたから、魔力を分析してサーニャさんのへその緒を魔力の手で摘んで浮かせると、アルフィンは銀色の懐中時計を開いてくれたのでそこに落とす。


「随分とまた遠くに埋葬したんだね。

叔母さん、緑色の光の先にサーニャさんが居るから行ってみようか。」


緑色の光の指示に従って墓地から教会の方に戻り、裏手に回ってから少し雑木林のある所に隠されるようにしてあった祠を見つけた。

そして緑色の光が地面の中を示していたので、アルフィンが私を叔母さんに渡して祠を調べて仕掛けを動かしたら、地下へと続く道を見つけたのだった。


「アルフィンは此処で待っててよ。

私と叔母さんでサーニャさんを迎えに行くから。」

「それには及ばぬ。

世は其方の守護者ゆえ共に参ろう。」

「それじゃあ私はこのまま叔母さんに連れて行って貰うから、アルフィンはちゃんと魔法で身を守ってよ。」

「フン。其方や世で有れば治癒が出来ると申しておったではないか。

何を恐れる必要が有る。」

「それはそうなんだけどさ。

でも周りを包まれたらサーニャさんが探せなくなるんだよ?」

「良いから早く進まねば邪魔が入ると面倒になる。」

「はぁ⋯」

「ねぇ一体何の話なんだい?

何故サーニャだけこんな場所で眠らされてるんだい?

わたしゃ確かにサーニャの骨があそこに入れられるのをこの目で見てたんだよ?」

「叔母さん。

詳しい話はここから離れてからにしようね。

先ずはサーニャさんを迎えに行こう。

教会の人に見つかったら大変な事になるから⋯」

「何だか良くない匂いがするね⋯、わたしゃまだ信じられないんだけど⋯どうやら教会にも裏の顔が有るんだね?」

「そう言う事かな。」


悔しそうな、もしくは怒りを噛み殺したかの様な瞳をギラギラとさせているアーニャ叔母さんとアルフィンの3人で、祠の隠し通路の階段を降りて行った。


何故サーニャさんの遺体だけが、此処に安置されてるかと言えば、女性の身体の方が軽くて運びやすいのと、戦士だと病死で無い可能性が高いからじゃ無かろうか。

必ず身内がいるとは限らないし、死因の確認をする人と作業をする人が違うのなら、間違いを予防するのに標的を女性に絞った可能性を考えた。

恐らく女性の死因の方が魔虫の幼虫である事が多いのかも知れないと言う予想する。


そして地下は両サイドの壁に石棺が10個づつ並べられており、奥の壁には頭蓋骨らしき骨と、身体の骨を分けて乱雑に積み上げられていた。

それは共同墓地と比べたらとても粗雑な扱いに見えてしまい、叔母さんは唇を噛んで絶句している。


「サーニャさん、迎えに来たよ。一緒に行こうね。」


私はアーニャ叔母さんの御主人と、サーニャさんの御主人の骨を入れた遮光錬成瓶にサーニャさんの骨も探して、骨山の裏手に落ちて下敷きになってた骨たちを、魔力の手でドンドンと運んで入れていく。

そして蓋を閉めてアーニャ叔母さんに渡すと「あぁ⋯」と言って胸元にギュと抱き締めた。


そこから直ぐに地上に移動して仕掛けを元に戻してから、私達の痕跡を示す足跡を消す。

これはアーニャ叔母さんが指摘して、アルフィンが地面を魔法でならしてくれた。

それから私達は空を飛んで、アーニャ叔母さんの指示に従って叔母さんの自宅を目指す。


「戻ってきたぞ!」

「王様だ!」

「王様が来たぞ!」


家の周りには近所の人達が沢山集まっていたので、私達を見ると指を指して興奮気味にしていた。

だからアルフィンはその人達の周りを隔離して騒ぎが大きくならないように声を遮断する。


「叔母さん。お墓の事は絶対にあの人達には秘密にしてね?

いつかアルフィンが必ず何とかしてくれると思うけど、今は我慢だよ。

じゃないと大変な事になるからね?」

「あぁ⋯」

「叔母さん。

後で返すから今は隠したいの。

瓶を貸してね?」


叔母さんが抱き締めている錬成瓶を魔力の手で掴んて引くと、叔母さんは直ぐに力を緩めてくれた。


そして30人ぐらいの人達が家の前に集まっている中に、友達らしい子供達と混ざって寄り添って待ってたようだ。

みんなが泣いてる姿に胸がギュと痛んだ。

アレは私がもたらした悲しみだと思うと息も苦しくて、だからアルフィンが私にフードを被せて姿を消させるのに甘えて、彼の豪華な服を握って縋りつく。


でもまぁこんな弱気なのは私じゃない。


「アーニャ叔母さん。

家を持って行くよ。」

『うわ、なんだ?!』


家の中にいた2人を魔力の手で摘んで外に出すと、窓は全てバタンバタンと閉めて行く。


「アルフィンお願い!」


家と家の壁の間に亀裂が入って裂けると今度は直ぐに家の地面が泥濘(ぬかる)んで柱の土台ごと家が浮き上がった。

そこをすかさず魔力の手を伸ばして、魔法の鞄に収納する。


と言ってもこの鞄は新しくアルフィンが私専用に作ってくれたバッテリー用の鞄だから、分解昨日のはついてないけど、その代わりに空間拡張機能と浄化機能のみつけた代物で、南の浜辺に作ったアルフィンの別荘タージ・マハルが、5つは入る大きさになってた。

どんだけ魔力を詰め込みたいのやら、流石強欲な王様である。

有限とは言っても魔力は圧縮出来るからね?

つまり内容量の3倍は入るって事だよ。

だから家なんて余裕で入るわな。


『おおおおーー!』

『えええーーー!』


興奮して野太い声を上げてるのが、近所の人達で悲鳴をあげてるのが両隣の住人だろう。

だって壁は屋根まで無かったらしくて、天井裏が見えるぐらい、ぽっかり空間が空いちゃってる。


だからアルフィンは自分用の魔法の鞄から資材を取り出し、叔母さんの家と同じ構造の建物を、石造りで新しく作ってた。

白いし所々に金が混ざって綺麗な模様を作ってるから、明らかに此処だけお値段がムッチャ高そうな感じになってる。

もう違和感しか無い。

でも穴は塞げたからまぁこれで良しとしよう。

大理石みたいな石の家だから冬は寒そうだけど、夏はきっと涼しいと思う

アルフィンの事だから、ひょっとしたら温度調節機能がついてたら笑う。


『わああぁぁーー!!!』


これには泣いてた子供達もビックリ仰天して、まだ頬を涙に濡らしているけどスッカリ笑顔になっている。

たから私もスッと心が楽になってキャハ!っとはしゃいだ。


「【⋯】」


それからアルフィンは白い家に向かい手の平を壁につけるとキュルッと鳴いたら白い石の表面が水滴が落ちた水面みたいに波状に拡がりそれに魔法陣になって行く。

すると白い石の建物が、周りと全く同じ木造建築に代わった事で、この場にいた全員が。


『えええぇぇーーーーー?!』


と驚愕と落胆の声が一気に上がって行く。

だってあんなに綺麗で素敵な建物が、見慣れた木造の古めかしい建物になってしまったからだ。

それを見て私は成る程と、アルフィンが何を考えたのかに思いを馳せて、そして予想を立てる。


「アルフィン。

此処の人達が危険だから隠そうとしてるの?

それともアルフィンの事を隠したいのかな?

これからさっき私がしたみたいに、此処の人達も兵隊さんみたいにするつもりでしょう?

でもそれは止めた方が面白いと思うの。」

「⋯ふむ。

その方が良いと思ったのだが、何を思いついた。」

「うん。このままだと此処の街に住む人達が全員あの病気にさせられてしまう危険が高いんだよ。

死人はお話が出来なくなっちゃうから、都合が良いでしょう?


だから此処に居る人達全員に説明して協力して貰った方が良いと思うの。

アルフィンも橋の工事が進まないのは嫌だし、楽しくないもんね?

でもこのままだと確実に橋の工事なんて言ってられ無くなるから、私はそれを防ぎたいんだよ。」

「それは世が防ぐで有ろう?」

「うん。

でもそれをすると、向こうは訳が分からなくて暴走すると思うんだよね。

下手をしたら戦争真っしぐらになるから、向こうに分かりやすく、平民の皆に頼んだ方が良いと思うの。


でもこれはとても絶妙な交渉が必要になるから、宰相のお爺ちゃんや先王様達の協力が絶対に必要になるんだけど、素直に話しても恐らく此処の人達は守れないから、共同戦線を張れるようにしたいんだけど、アルフィンは見ていられるかな?」

「それは世の仕事ゆえに其方は大人しくしておれば良かろう。」

「うん。

ホントその通りなんだよ。

でも私のせいでそうなるが分かるのに、私が何もしないでは居られないのも分かって貰えるかな?」

「⋯ふむ。

では如何様に致すつもりで有ろうか。」

「宰相さん達は慌てて教会に相談する立場に追い込んで、私とアルフィンは平民の皆を味方につけてバカな英雄を装えばいいんだよ。」

「ほお?

それはまた随分と愉快な事になりそうでは無いか。

ククク⋯良かろう。

どの様な遊戯になるか、世は其方の手腕を見届けると致そう。」


アルフィンが嫣然とした美しい笑みを浮かべるもんだから、周りの年配の主婦から始まり、下はハーニャよりももっと下の年齢の女の子まで、全員がきゃあ♪と乙女になった。

私は心に鉄壁ガードを施して身を守ってるから平和に見て居られるけど、それでも思わず地面にペッ!と、ツバを吐き捨てたい心地にさせられている。

これはかなり危うい。

まるでアルフィンの笑いを貫通する魔道具と同じ事になってしまっている。


ムカつくからそう無闇に貫通させないで欲しい。

奴は女の子にきゃあきゃあされるつもりは全く無くて、爺ちゃん達が慌てる姿を見たいだけの悪戯小僧なんだよ。

私は賢いからそれにちゃんと気がついているので、イメージとしてはバリアを貫通して来るアルフィンから飛んで来たハートを、マシンガンで撃ち落として対抗している所だ。

フラグ?

そんなもん跡形も無く浄化して消滅させてやるわ!


「じゃあそろそろ朝ごはんにしたいから、此処の人達を連れてアルフィンの別荘に行こうよ。

皆でワイワイ美味しい朝ごはんを食べながら、作戦を始めようと思うの。」

「あの場を晒すつもりで有ろうか?」

「アルフィンが作った渾身の力作を皆にも見せてあげたいのも有るけど、1人たりとも逃さないようにしないと、作戦が台無しなると思わない?」

「フン?

では如何して運ぶつもりで有ろうか?」

「朝ごはんを食べて説明が終わるまで、そのアルフィンが作ってくれた家にルドルフ大帝国に行った時に使った魔道具を置いて置けば良いんじゃない?

皆をこっちに戻したら、回収すれば済むよね?」

「⋯その様な⋯、まぁ良い。

世は見届ける役であったな。」

「うん。アルフィンはスカした顔をしてバカな英雄を演じてくれてたら良いからね!

先王様や宰相のお爺ちゃんや側仕えのお爺ちゃん達には、そろそろ現実を受け止めてアルフィンを認めて貰わないと困るから、徹底的に追い込んでやらないとね!」


疑いを隠そうともしない為政者の眼差しで私を見つめているアルフィンに、私はにっこりと満面の笑みを作ったつもりだが、よくよく考えたら姿を消してるせいで、向こうには見えて無いので無駄になった。


まぁ良い。

それよりもこの人数の朝ごはんを作るのってひょっとしなくても私なんだよ。

姉達に頼んで蟹を取ってきて貰わないといけないから、また姉から叱られるかと思うと少しウンザリする。

でもまぁ自業自得だから仕方がないよね!


「はーい、みんな!

王様を注目して下さい!

これから王様が皆を労って素敵な宮殿にご招待します。

でもそこにはこの人数が座れる椅子やテーブルが無いので、急いでお家から持って来てね!

美味しい朝ごはんを食べさせてあげたいから、器と食器も食べる人数分持って来てこの場所に集合!

忘れてもまた直ぐに取りに来れるから、落ち着いて持ってきてね!

私達はちょっと向かい入れの準備をするのに少し離れるけど、また直ぐに来るから周りに気付かれないようにこっそりと支度をしてね?

じゃないと食べられるご馳走が減って損しちゃうぞ!」

『はぁ?!』

「みんな、王様が出してくれる美味しい朝ごはんを食べたいなら、取り分が減らないように器とか椅子とかを持って此処に来て待っててね!

まぁ説明するよりも見せた方が早いかな?

アルフィン、皆の準備が終わるまで、お姉ちゃん達を先に回収してあの蟹を取るのに向こうに送り込みたいから、先に向こうと宮殿を繋いで欲しいの!」

「フッ⋯良かろう。」


アルフィンは一度南国に飛ぶと、魔道具のドアを海とプールが繋がってる私達のトロピカル麦わらソファーが置いてる場所に出すと、今度は自宅の庭に魔道具を置いた。


「お姉ちゃん大変大変!」

「ちょっとアンタ、何処をほっつき歩いてたの?!

もう朝ごはんの支度は済ませてるんでしょうね?」

「それがもの凄く大変な事になってたんだよ。

お姉ちゃん達にも説明するから、お爺ちゃん達も全員あの宮殿に集まって欲しいの!」

「はぁ?!」

「そこでお姉ちゃんとお兄ちゃん達は、あの岩の食べられる魔物を沢山狩ってきてくれるかな?

とにかく本当にヤバいの!

皆の協力が必要だから、手伝って欲しいんだよ。」

「な、アンタまたロクでも無いことを見つけたのね?!

アンタはどうして何時もそうなの?!

それよりもまだ井戸とか全然出来て無いのに、仕事をどうするつもりなのよ!」

「そこは私がやるから、とにかくお姉ちゃんはお兄ちゃんと皆をそこの扉の向こうに案内して!

私はコッチの作業を終えたらそっちに沢山の人を連れて行くから!」

「はぁ?!

アンタ、本当に何を言ってるの?!

分かるように説明しなさいよ!」

「その説明は向こうでするって言ってるの!

早くしてくれないと本当に大変なんだから急いで!」

「もおおぉぉ!!!

一体何なのよーー!!!」


私は地団駄を踏む姉は放置して、アルフィンに降ろして貰うと走って土間に向かう。


下拵えをした料理を全て大型透明錬成瓶に入れられるものは全て入れて、魔法の鞄に収納すると同時に、土間に置いてる水瓶の水を裏の畑に撒いて捨てた。


その後で井戸の氷を浮かせて土間の水瓶に水を補給してから氷を壊して井戸の中に落とすと、木蓋で魔法の手で井戸を蓋をする。

それをしながら魔力の手でペンを持ち、ぶら下げてあるメモに正の字を1つ足す。


それから魔力の手をありったけ使って、姉が作業を終えて不要になった錬成瓶や錬成箱を全て回収した。

魔力の手は基本的に見えないけど、魔力が見えるアルフィンには、ひょっとしたら私が触手生物みたいになってる姿が見えてるかも知れない。


人手が欲しかったはずなのに、何だかブレイクスルーを起こした気がするが、今は構ってられないので、姉がポカンとしてる間に祖父の家に駆け込んだ。


マリア婆ちゃんが作った鍋を持って庭に集合するように伝えて、椅子に座ってまったりと(くつろ)いでいた祖父や、勉強してたセフメトやエターニャを追い払うと、椅子やテーブルを回収して行く。

それから食器棚も丸ごと収納した。

ウチの分を忘れてたのに気付いたから、ポカンと立ち尽くしている祖父達に、鍋を持ってついて来るように伝えながら錬成箱を収納すると、また自宅に向かって走り出す。

バッカスを忘れてたやと思ったけど、忘れた所で問題ないのでスルーした。

後で思い出せたら迎えに行けば済む。

鳥の作業を1人でやらせる訳にはいかないから、覚えてたら手伝おう。

忘れてたら何か食べられる物を後であげたら良いよね。

とか思いながら、黒い扉の魔道具の前で、イライラしてる姉や何事?!と、???状態の他の家族達に蟹を取ってくるように伝えて宮殿に先に送り込んだ。


父も畑から戻っていたので、母とジーニスを連れて行くように促す。

「え?!行っても良いのかい?」

と言われたが祖父達が家からゾロゾロ出てきたので、一緒に中へと送り込み、

迷子にならないように言い含めて、待っているように伝えてから、私は鍋が置けるように机や椅子をドンドン出して最後には祖父の家の食器棚もどーんと置いた。


もの凄く綺麗な宮殿なのに、この場所だけウチのリビングみたいになってるからミスマッチ感が酷すぎて、アルフィンの美意識に違反するのか、ヤツの顔がかなり引き攣っている。

でも直ぐに諦めてくれたので、兄弟達が訳も分からずに入り江の岩場付近でヒャッハーしてる間に、これから少しの間この扉に触らない事を家族に言い含めてから、自宅に戻って魔道具の黒い扉を回収してまた叔母が居るあの家に向かって飛んで貰った。


クッソ忙しい。

ブレイクスルーしたのにどうしてこんなに忙しいのか。

全部私のせい。

性急に事を進めてるから、アルフィンみたいに周りの人達を置き去りにしてる。

でもこれで良し。

これで少しでもアルフィンが気付いてくれるんなら、それが私の目的に近づく事になるからだ。

だから私は彼にお手本を見せなければならない。

彼の中の価値感を否定するな、それが良いと思ってくれる新しい価値感の見本が無ければ片手落ちになってしまう。


彼が一人ぼっちにならずに幸せでいてくれないと、私の未来がストーカーから逃げ続ける暗い未来になってしまう羽目になるのが見えてるからだ。


奴は魔物だ。

10級すら捕食する最悪の魔王だ。

だからその魔王を封印するには、人間のアルフィンがどうしても必要なのに、このままでは私1人居れば良いとかアホなことを言い出して、逃げられなくなる。

ヤツには沢山の人を囲まれても幸せになれる経験を積ませて、他人を信じられる気持ちを是非とも取り戻して頂きたい。


叔母さんの家の前に来たら、なんか人が増えてんだけどどうしてこうなった?

30人ぐらいだったのに、今はもう100人ぐらい集まって来てやしないか?

流石にこれはキャパシティオーバーなんだけど、えぇい!

もうやるっきゃない!

もう走り出した列車は止まれないんだ!


蟹が足りないなら海で私が魚を獲ってくりゃ良いんだろ!

そんでもってそれも焼いて皆にくわしてやりゃ良いじゃねぇか!

回せ回せ回せ!

頭をぶん回してピンチを乗り越えてチャンスを掴め!

それぐらい出来なきゃ、10級の魔物を捕食する魔王なんざ倒せやしねぇからな!


アーニャ叔母さんの家のドアは見せかけのドアだから、実際は石造りの建物なので、まだドアがついておらず長方形の穴が空いてる事になる。


だからアルフィンはドアを開かずに木製のドアにぶつかる様にして建物の中に入って行った。

外で観客と化した近隣住民の皆さんがワァワァと騒いでるのを背中に感じながら、アルフィンが上を見上げて天井辺りを細工すると、白い大理石みたいな空間に、真っ黒い魔道具のドアをドンと置く。

横に2m弱、縦に3mのドアなので、細工した天井ギリギリになってるけど、何とか無事に設置が出来た。


「焦らなくて良いから、ココから順番に中に入って行ってね。

あともう人が多すぎても困るから、これ以上は人を入れられないから、自分で使う食器は忘れずに持ち込んでよ。」


1番近くにいた人達が、私の声に促されて次々と中に入ってくる。

そして幻惑のドアを抜けた先に有る黒いドアが開いた先に、広がる海の光景を見て「うお!?」と、必ず叫んで足を毎回止めるので、行列が遅々として進まないのを察すると、アルフィンに頼んで海へと移動して貰った。

つまり完全に放置して、入りたければ入れば?状態である。

何せ農家の娘なのでザルなのだ!

だって忙し過ぎて大変なんだもん。

もう好きにやっちゃってよ!

の、ノリである。


アルフィンは汚い平民が沢山来るのが嫌みたいだから、文句を言われる前に浄化しとこうと思って渋滞してる人達を丸めてレモン色に光らせとく。

またそれにも外がザワついたけど、まぁ忙しいのでスルーしとく。


「アルフィン、バック兄ちゃんが家に戻ってきて、オロオロしてたら教えて欲しいの!

ついでにピヨ子も迎えに行かないと、起きて誰も居なかったら怒って拗ねるから、バック兄ちゃんを迎えに行く時に連れて来ようと考えてるの。

平民の人達には私の姿が見えないから、ピヨ子を黒魔石の代理人にしておこうと思うんだけど、アルフィンはどう思う?」

「ぶは!

ククク⋯其方が良ければそれで良いのでは無いか?」


一瞬ツバが飛んで来かたら、ゲッと顔を歪めたけど、アルフィンがとても楽しそうなので大人になってスルーした。

だって私はとても忙しいのだ。

こんな些細な事に時間を取られてる暇なんて、私には無いのよ!


「これから私は皆の為に料理を作ろうと思うの。

でもあの岩の魔物だけじゃ足りないから、海で魚を捕りたいから、海の中に連れて行って欲しいの。」

「承知した。」


そして私は魔力をアルフィンの魔力に擬態させて彼の周りに漂う魔力を増やすと、アルフィンの瞳が青銀色になって綺麗な金髪が白みの有る美しい銀髪に変化する。

あ、コレッてひょっとしたらヤバいヤツ?

と、未だかつてない大きな外見の変化に一瞬だけ戸惑ったけど、アルフィンは魔力が今まで以上に増えた事を実感したのか、とても楽しそうに興奮してた。


ハイパー化すると万能感を感じられて、気分がハイになるのを私も知っている。

それに魔素と繋がり易くなるから、魔法も使い易くなるんだよ。

その代わり仮面をつけないライダー化しそうで怖かったから私や姉は控えてたんだけど、アルフィンはもう既に身体がちゃんと大人になってるから、例えそうなっても身体的なデメリットは、長生きするだけだと考えたら、今と何も状況が変わらないからそこは問題が無さそうで有る。


他に考えられるデメリットとしたら、前よりも魔素の扱いが楽になるから、魔石から直接魔力を引き出す事も出来るようになるかも知れない。

それをアルフィンが気付いた時に、コレを私が早くしてたらあんなに苦労しなかっと姉みたいな感じで怒るだろうか?


うん、その時は知らなかったんだから仕方か無かったんだと言って頑張って誤魔化そう!

他にデメリットが有るなら、前よりもストーカーレベルが上がるかも知れない。

だってこの技法をマスターしてしまえば、アルフィンは私が居なくても魔法が使いたい放題出来る事になる。

だろうか?


なる可能性は有るんだけど、アルフィンは元々姉や父以上に魔素に対して鈍感なので、一回ハイパー化したぐらいじゃ、そこまでマスター出来ないかも知れない?

これはハイパー化が終わってみなければ、分からない奴だ!

だからやってしまった物は仕方がないので、取り敢えずこの分析は保留しとく。

何せ私はとても忙しいからだ!


「何だこれは⋯何という凄まじい力だ。

成る程⋯世界はこの様にして魔力が漂っておったのか。」

「アルフィンには何回かあっちこっちに飛んで貰わないとだから、何時もより大目に魔力を渡してるんだけど、身体はしんどくない?

あまり身体に負担をかけたく無いんだよ。

もしヤバいと感じたら、直ぐに戻すから教えてね?」

「フハハハハハハ!!!

構わぬ。

今の所は特に問題は何も感じて居らぬぞ。」

「いきなり笑うから危ない人みたいに見えちゃって、通りすがりの平民のオジサンがビックリしてるから、取り敢えず落ち着こうね王様!


あ、この人王様なので大丈夫です!

ちょっと沢山魔力を使って補充したので、楽しくなっちゃってるだけなんで、ホントは良い人なんですよ!」


丁度幻惑のドアをくぐって家に入り、月明かりに照らされてる海に感激しようとしてたオジサンが、アルフィンの笑い声にビク!と小さく跳ねてたから、変な人じゃないと聞こえよがしに説明したけど、果たして理解してくれたかは分からない。


未だに顔にヤバい?

アイツヤバそうじゃね?!

と書いてるし、かなり不安そうにしてたんだけど。

後ろから「何だってんだよ!邪魔だから早く行けよ!」と、押されてドアの中につんのめる形で入って行ったので、もう今更どうにも出来ないから、取り敢えずスルーした。

そして押した人も海に気を取られて此方には目が向けられておらず、その後ろから来た30代ぐらいの女性や寄り添っていた子供達が、アルフィンに気付いて目を見開きながら顔を輝かせた所で、私達は入り江の出入り口となる海上に移動していた。


男の子も混ざってたけど、あの一瞬でアルフィンのファンが増えたかも知れない。

でもアルフィンは王様だから平民から好かれても何の問題もないし、向こうだってアルフィンに気軽に近寄れないだろうから、特に問題は無さそう?


もし問題が有るなら、平民の私がアルフィンの側に居るのが見えたら、同じ平民の立場だから私も私も!と、押し寄せて来る事も危険性としては考えられる。

私はもう準男爵だけど、そんな説明なんてしてられないし、姉が何時も通りにアルフィンと接してたら、そこら辺は気を付けておかないと大変かも知れない。

クッソ面倒臭ぇ。


そうだよ、私なんかよりも私の家族達が危険になるかも知れない。

でもどうすればいいか分からなくて、海の中に降りて行く間ずっと魔力を操りながら悩んでたら、アルフィンが私の異常に気付いて問いかけて来る。


「如何した?」

「私は姿を消してるから問題ないけど、私の家族が気安くアルフィンと接してたら、沢山の人達が勘違いしてアルフィンに気安くするかも知れないんだよ。

アルフィンは多分嫌だよね?」

「ふむ。

馴れ馴れしく扱われる事に、抵抗が無いとは言えぬな。」

「でもそこで威嚇すると、向こうが怯えるよね?

そこでウチの姉が前みたいにアルフィンを諌めて、私の家族達が仲良さそうにしてたら、平民達の嫉妬が私の家族に向けられ無いかな?

そこら辺の感情の機微がどうなるか読み切れなくて、少し悩んでたんだよ。


アルフィンが私達を守ろうとして、下手に平民を威嚇するのはかなり不味い気がする。

王様は皆の王様じゃないと必ず不満が起こるから、それを力付くで抑えつけるのは多分良くない気がするんだよね。


これは先王様や宰相さんが何時もアルフィンに言って聞かせてる事なのかな?

そこは私の勝手な予想でしか無いんだけど⋯」

「成る程⋯確かに臣民に対して平等足らんとする教えは、過去に受けた事なら有る。

特有の物を贔屓にすれば争いの種になると言って、ダーフィー等が心配りをしておったが、こう言う事なのか。

ならば臆さずに良かろう。

世が其方達の家族のみその様な、接し方をせねば済む事だ。」

「でもそれはアルフィンにかなり負担にならない?

馴れ馴れしいのは嫌いだよね?」

「大事無い。

これでも世は貴族共に対して、幼き頃より何時も経験を積んでおる。

人のあしらい方など、世には容易い事だ。」

「貴族達はまだ作法を知ってるから強引な事はしないけど、平民にはそれが無いから同じにするのは危険な気がするんだけど⋯アルフィンは我慢出来るかな?

辛かったら暴力を振るう前に逃げて欲しいんだよ。

分かるかな?」

「フフフ⋯世を信ずれば良い。

其方の言う傲慢な王でなく、アルフィンとして接すれば良かろう?」

「アルフィン⋯うん、そうだね。

そうだったんだよ。

アルフィンならきっと上手くやってくれるよね!」


私を餌として狙って突進してきた、鮫みたいな鋭い角と牙を持った魚の魔物を、喜びの感情に任せてしたから魔力の拳を打ちつける形で海上まで殴り飛ばした。


あの大物が美味しければあれで全てが賄えそうだけど、始めて見る魔物だったので、不味かった時の為にこれまで食べた経験のある美味しい魚の魔物を少しだけ魔力の手で直接捕獲する。


「この前ヴィルヘルムお爺ちゃん達に渡したばかりだから、残りの魔物は沖に持って行って放流したいんだけど⋯アルフィンはどうやったらこの魚達を活かしたまま一緒に飛んで行ける?

私が何時もしてるみたいに、魔力で網とか作れそう?」

「ふむ⋯試してみよう。」


出来ると思ってそう唆せば、見事な網を作って辺りの魔物達を一網打尽にやり遂げて見せた。


「フハハハハハハ!

成る程この様にしておったのか。

これは実に愉快な!

まるで神になったかの様な素晴らしき心地よ!」

「アルフィン、危ない人になってるから少し落ち着こう?

それお姉ちゃんやお父さんもとっくの昔に出来てたヤツだからね?

出来なかった事が出来て嬉しいのは分かるけど、そんなに神様はポコポコ生まれないのよ?

後で心が落ち着いたら、やたらと恥ずかしくなるやつだよ?」

「う⋯うむ。承知した。」


既に恥ずかしくなって来たらしくて、アルフィンの頬がほんのりと桜色に染まってる。

それがまた美しいのなんのって、傾国の美女的なオーラを無自覚で巻き散らかさないで欲しい。


私は心の中でバズーカーを取り出して、飛んで来た特大のハートを爆撃するイメージで自分の精神を守り通す。

こっちは忙しいんだから、無駄に神経を消耗させないで欲しいよ全く。

これもアルフィンの魔力を増やしたデメリットかと思えは、自業自得だった!


凡人のクセにあれもこれも一気にやろうとして、先の事を考えながらやってるから、キャパシティオーバーになって根本的に大事な事を見落として自爆しただけである。


あれだけコイツのこの魅力はヤバいとわかっていて警戒してたのに、しかも魔力が関係してるのでは無いかとまで予想しておきながら、よもや転移に魔力が必要だと思ってウッカリ強めに強化しただけで、此処まで失敗するとは夢にも思ってなかったよ!

アレか!アレなのか?!

目先の事しか考えられなくなって、しかも大雑把だからこうなったのか?!

何故なら私は農民の娘だからな!


やっちまった感がどうしても拭えないけど、もうやっちまったもんは仕方か無いよね!

記憶を消したくてもアルフィンの魔力の方が強いから、私の魔力じゃ太刀打ちが⋯あれ?

私ってばもうそれ関係無くない?

だってアルフィンの魔力に擬態出来るから、魔力タンクしてるじゃん?

ヤバかったら記憶を消しちゃえばいいんじゃね?

いや⋯駄目だよ。

だってアルフィンだよ?

もし記憶を消したのを思い出されたら、それこそ私は詰んじゃうよ?!

だって魔素は記憶を持ってるから、本人が心から消したいと望まなければ消せないんだからね?


危ない危ない。

目先の危機に気を取られて、ウッカリ自爆ボタンを押す所だった。

だって私はアルフィンに人を信じる心を伝えたいんだから、そんなあからさまに信用出来なくなる事なんて、絶対にしたら駄目なんだよ。

私が信じられなくなるのは自業自得でも、他の誰も信じられなくなってるアルフィンにそんな事をすれば、それこそ人間不信になった恐怖の独裁者が爆誕しちゃうぞ!

そしたら人類が滅亡して、アルフィンの言う事だけを聞く、魔法生物だらけになっちゃうからな!


なんかもう一周回って面倒臭くなってきて、それでアルフィンが幸せならイイんじゃねぇの?と、投げやりな気分になって来た。


そんな未来で泣くのは、失恋してアルフィンに手玉に取られてる私だけなんじゃね?

皆死ななくてそのうち国は衰退するんだろうし、アルフィンが思うようにしか世界が回らなくなるだろうけど、私を泣かす男がどれだけ不幸になろうが、もうどうでも良くない?

好きなだけ人間不信になってボッチになっとけば良くない?


私は甘い物が食べたいだけだったんだよ。

夢中になれる何かが欲しくて、それで錬成師になれたら良いなって考えてただけだから、本気で恋愛とかどうでも良いんだよね。


失恋して悲しいかも知れないんだけど、でもそれって元は私に関係のない事だから、それで冷静になれるんなら好きなだけ失恋しとけば良いんじゃ無かろうか。

だって私が本当にこんな記憶なんて要らないと思えば、自分だからちゃんと消せるよね?


私の中に有る産まれた時から持ってる記憶は、どんなシステムでそうなってるのか理解が出来ないから消えないかも知れないだろうけど、アルフィンの事なんて要らないって思ったらちゃんと忘れられちゃうんだよ。


また2歳の春からやり直すのは面倒だけど、コンテニューが出来るんなら何度も死ねると思えば、失敗する未来があってもやれるだけやってみれば良いんじゃ無かろうか。


走ると転ぶから走らないのはもう、駄目なのを知ってる私なら、失恋するのが嫌だから恋をしないんじゃ無くて、失恋しても耐えられるのなら、そのまま恋をしたって良いんじゃ無い?


そのうち男の子までアルフィンに恋するようになれば、それこそアルフィンは人から逃げ出す羽目になるだろうけど、それはもう自業自得だから、放置しても良いんじゃね?


もし神様がいる世界なら、アルフィンみたいに魔力がもの凄く増えて、地上に居られなくなって、住むとこないから月にでも住んでるんじゃねぇの?

太陽は暑そうだし魔力を分解するしね!

魔力を増やしたいんなら、月に住んでる方が都合が良いんじゃない?

アルフィンなら多分そうしそう。


だってコイツは魔導錬成師なんだもん。

魔道具を作れば宇宙船だって作れそうだしね。

人間不信で人間嫌いだから人の居ない所を目指して進んで、その先で好きな魔道具を作って遊んで、たまに人間の反応を見るのに空から見下ろしてるとか?


他人の笑顔が有れば満足だなんて言える人だから、それで良いならもうアルフィンを神様にしちゃえば良いんだよ。

そうすりゃ私を嫁なんかにしなくても、自分が何でも出来るんなら、私なんて必要ないからもう嫁になれとウザく言われる事も無いしさ。


それを思えば胸が切なくなったけど、私はもうその気持ちに抵抗するのをやめる事にした。

だってもう良いんだよ。

失恋して辛くて死にたくなったら、アルフィンなんて忘れちゃえばいいんだもん。


そしたら私は自由になれるよね?


「ねぇ神様。

そろそろ私を解放してくれないかしら?」


私を抱いてるアルフィンの青銀の瞳を見つめてそう言えば、照れ臭そうにしていた彼が急に表情を消すと、眉間にシワをギュッと寄せた。

そして1つ瞬きをして瞳をひらいた瞬間、青銀の瞳が白銀へと代わっている。

更に身体から漏れる魔力がグンと威圧感を増したので、私は自分の身体が壊されないように、魔力で覆って強化させた。


「何をもって解放と申すか。

世を拘束して居るのは其方で有ろう。」


アルフィンだった人がひと言言葉を話すだけて、美しさが数倍なった美貌の唇から、キラキラと魔力がこぼれる。


「そうなの?

貴方はこの世界で言う神様の『アバター』で、私を探す為の端末なんでしょう?」

「フン。

もう遊戯は良いので有ろうか。

其方は人で有る事に固執しておるでな。

遊戯を世の判断で奪えば、荒神となるのは貴様の方だ。

世は神が荒ぶるのを鎮める者であり、守護者として神の代理を務める御子の様な者でしか無い。」

「うっわ。

私の方が神様だったの?

それはちょっと予想して無かったんだけど。」

「其方は人で有ろうと幾度と無く転生を繰り返しておるが、やはり神で有るがゆえにその傲慢な本性は隠すに難しく、長く人の世には留まれぬのだ。

その都度空に戻れば荒ぶり、また人に焦がれて転生を繰り返しておるがゆえに、世はもう限界で有ると其方に告げよう。」

「それはどう言う意味になるの?」

「真の創造主たらん其方が全て治めれば良い。

さもなくば世は荒神となり、この星の全てを滅ぼさんとする者に成り果てるで有ろう。」

「どうすれば貴方はまだ神様をしていてくれるの?

私はまだ人間なのよ。

ここで『リタイア』するのは中途半端過ぎて、ちょっと色んな意味で困るんだけど。

あとなるべく『ネタバラし』厳禁の方向でお願いしたいんだけどなぁ~。

だって先の人生がつまらなくなるじゃない。」

「そう申すので有れば、世を呼ぶで無いわ。」

「それで貴方の条件はどうなの?

私のアルフィンはまだ無事なのかしら?

ひょっとしてもうアルフィンは何処にもいないの?」

「フン。

アレは元より記憶を無くした世でしか無い。

ゆえに記憶を消した所で、もはや己の身に起きた事への疑心に囚われるで有ろうな。」

「そうか〜、私が呼んだからアルフィンは台無しにされた気分になってるんだ。

そりゃ腹が立つよね?

でも今のアルフィンなら、今まで自分の何が悪かったのかを、もう分かるんじゃ無いの?」

「だとしても世の本来の親では無く、そして其方も世のシアでは無かろう。」

「シア?

シアって記憶を無くす前の私かな?」

「そうだ。

其方は何度転生を果たしても、シアと同じ様な生き様を歩もうとする。

そして世はシアを求めて守護者としてこの世に降り立つが、其方と違いいつの世も疑心にまみれて苦しまねば成らぬのだ。

もう沢山だ。

世はシアと共に作り上げたこの星で、永遠の眠りにつきたく思う。

ゆえに未だ遊戯を続けるのであらば、この者を世の代わりとして作り上げれば良かろう。」

「貴方が此処にいる間、貴方の代わりに星を管理してる人は誰なのかな?」

「世が作成したシアを素体とした魔法生物だ。

シアを核として作り上げたが、シアのもつ記憶が無いゆえに紛い物でしか無い。」

「成る程ね。

クローンみたいなものなのかな?

でも貴方が本物のシアを取り戻したら、今度はその魔法生物が荒ぶるんじゃないの?」

「知らぬ!

世はもう其方の身勝手に付き合わされる通りは無い!

世の心を慰めるは其方の利に叶う物なれど、それすら放棄せんとする其方とはもう付き合い切れぬわ!」


わぁ!本気でキレてる!

アレだ!アレだよ!

遊んでた途中でコンセント抜かれて、セーブする前に消されたからブチ切れたら、遊んでないで勉強しなさい!って逆に叱られるヤツだ!


それはそう。

仕事を部下に投げて遊び呆けてたらその部下が切れたから、仕方無く遊びに巻き込んだのに、お前ウザいからいらないって言う上司なんて、そりゃ部下だってやってられるか!って辞表を出したら、その人を慕って現在真面目に仕事してるその更に下の部下がアンタ何やってんの?!

ってなって、私が遊ぶのを止めて仕事に戻らないといけなくなるやつ?


分かった!

これ積むってヤツだ。

リリアナの人生終了のお知らせとか、マズイマズイ!


「分かった!

分かったから一旦落ち着こう。

話せば分かる。

私が遊んでるように見えるのかも知れないけど、神様が知らないだけで私は仕事をしてるのかも知れないよ?」

「笑止!」

「嘘じゃないよ。

私はまだリリアナだから、正直に言えば神様の私が何を考えて私をここに送ったのか、それは予想するしかないんだけど、私は貴方を愛してるのは本当なんだよ。

記憶が無くても、私はアルフィンを幸せにしたいとずっと考えてたの。」

「信にあたわず!」

「うん。

貴方が疑心暗鬼になるのもわかるんだよ。

それは貴方の役目が私を守るせいで、そう言った生活が普通の立場に産まれ続けてきたせいなんだろうね?

だから貴方の異常に気付いた私は、どうしてそうなのかを調べる為に転生を重ねて勉強をしてるんじゃない?」

「世は最早どうでも良いのだ。

世のシアを抱いて眠りにつきたく思う。

世の望みは只それのみ。」 

「でも貴方の言うシアが、転生をするずっと前の私なら、この星を大事にしてたんじゃないの?

貴方はそれを知ってるから、今までずっと頑張って来たんじゃない?

貴方が私を信じられなくても、貴方は自分がしてきた事を信じることなら出来るよね?」

「⋯⋯」

「今貴方が全てを投げ出せば、貴方を慕う魔法生物が荒ぶる神になるのも分かるから、貴方は今私を説得したいんだよね?

今の在り方は間違いだよって、一生懸命に伝えてるんだよね?」

「⋯そうで有ろうか。

世には神の想いなど到底理解が及ばぬ。

只人が神の真似事をしていただけに過ぎぬのだからな。」

「それでも私には貴方がきっと必要だったんだよ。

私は多分人じゃないから、人としての考えかたや気持やらを学ばなければ、貴方の様に人間を繁栄させるのが難しいんじゃないのかな?

神様の私がどうして人間を育ててるのかは、私には分からないけど、貴方は自分がどんな仕事をして来たかを知ってるんだよね?

私のこの予想は間違ってるかな?

どう思う?」

「⋯世はシアと出会い、恋に落ちた。

だがシアは世を受け入れてはくれず、世の元より立ち去ったのだ。

再びまみえた頃、シアは人として死を迎える間際であったが、世の懇願を聞き届け人として死を迎える事を許せば、魔法生物となり世と共に有る事を許すと述べたのだ。


世はそれを信じてシアの亡骸を使い、世と共に生き続けるシアを生まれ変わらせた。

だがそのシアは世のシアとは別の存在となっておった。

シアと同じ顔をしているだけの紛い物であったのだ。

それに怒り、絶望して世界を破壊しようと行動を起こす間際で、世は先代に招かれて神の座のおわす場に招かれたのだ。


真なるシアを与える代わりに、星の管理を申し使った。

ゆえに世は真なるシアを与えられて、その星の管理を行っておったのだ。

だがシアは人として生きる事を望む者であり、ゆえに我等の自由に出来る新たなる星を望んだ。

世もシアの勧めを聞き届け、先代に習い次代に星の管理を継がせて後を任せると、シアと共に世たちの為の星を探してエーテルの海を彷徨う旅に出た。


そしてただの石でしか無かったこの星を、世達の故郷となる星を真似て人が住まう星へと作り上げたのだ。

そして世とシアは子を作り、それを人の祖としてこの星に降ろした。

シアはそれを喜んでおったのだが、そのうち子に紛れる事を望むようになり、星に降りるようになった。

放って置けば世を忘れたシアが、他者を求めるようになるのが我慢ならず、世はシアを追うようにして星に降りる為の素体を作りシアを追うのだが、それに不満を抱いたシアが、シアとなる記憶を自ら消してしまったのだ。


そして狂ったように転生を重ねるシアを追うようにして転生を重ねれば、星の管理が疎かになるゆえに世はシアに模した魔法生物を作り、後を託してシアを追い続ける日々を繰り返しておるが、もう世はほとほと疲れてしまった。


この星を作った頃の、世だけを愛するシアと共に人に戻りこの星で眠る。

その約束で其方は次代となる為に、転生をしたのだ。

その役目を放棄すると申すのであらば、後の事は世には預かり知らぬことゆえ、世が残した魔法生物がどう有ろうとも世には何の関わりも無い事となろう。」


怒りと憎しみを込めた白銀に代わった瞳を見て、成る程と私は1つ大きく頷いた。


「説明ありがとう。

状況が凄く良く分かったよ。

悪いようにはしないと約束する。

でももう私を信じられなくなってるだろうから、少しだけの間で良いから、疑ったまま待っててよ。

多分神様の私は本当に貴方を幸せにしてあげたかったんだと思うけど、私の思う幸せと貴方が思う幸せにズレがあったのが問題だったんじゃないのかな?


今の私は凄くソレが分かるの。

少し前まで私もそのシアって人と同じように行動してたからね。

でも私も経験を積んでソレが分かったから、だから言うよ。

貴方が作った魔法生物をシアにして、私達が次代としてそっちに向かうまで待っててよ。

それなら貴方も待てるんじゃない?」

「いかにして世のシアを戻すと言うのだ!」

「そうだね。

今の私はそのやり方を知らないけど、貴方が作った魔法生物生物なら何かを知ってるかも知れないよ。

でもそれを命令する方法を教える代わりに、私のアルフィンにこのやり取りの記憶を残して欲しいんだよ。

自分に神様が降り立った記憶って残すのはヤバい?

どうしよう、でも他に良い方法がないんだよね。

でもそうだね。

アルフィンを信じようと想うから、お願い出来るかな?」

「⋯良かろう。

だがその言葉が偽りで有るのなら、この星を砕き滅ぼさんする。

世の作りし魔法生物に何と命ずれば良きか世に知恵を(もたら)すが良い。」

「自我を残したままシアの記憶を戻すように、星を管理する次代がそう言っていたと伝えてくれたら良いと思うよ。」

「何?!」

「貴方は多分自分がそうしようとして試行錯誤してたから、魔法生物に今までシアの記憶を思い出してって命令した事が無いんじゃない?」

「バカな!

よもやその様な事が⋯あり得ぬ!

なんて事だ!

それでは世は今まで何の為に⋯うがあぁぁぁぁーーー!!」

「混乱するのは勝手だけど、ちゃんと私との約束を忘れないでよ?

おーい!」


抱いてた私を投げ出して、両手で自分の頭を鷲掴みにして仰け反ってるアルフィンの中に有る神様が、感情を爆発させてるせいでアルフィンの魔力が爆弾みたいに爆ぜるもんで危ない危ない。


私知ってる!

アニメとかで自爆するとこんな感じになるヤツだから!


白銀の神様は目が血走ってるし、仰け反ってロックシンガーのパフォーマンスみたいな変なポーズしてるし、雰囲気が丸っきりあの太陽と月の理論を発表した時の、錬成師達と同じ雰囲気を感じるからもう、ホントに笑ってる場合じゃないんだけど私の心の腹筋が大惨事だ!


この神様は私が想像してた魔王なんだよ。

だからシアと呼ばれた私は、彼から全力で逃げるしか無かったんだね。

私の本当の使命は、恋愛なんかじゃ無くて、地上の情報が知りたいだけだったんじゃない?

でも彼の執念に根負けして、1人で残すのが心配だったから魔法生物として寄り添おうと思ったんだろうね。

でも私は神様の端末だから、記憶は残せなかったんじゃない?

そこで発揮して自暴自棄になって、星を破壊しそうになったから、慌てて引き上げたんでしよう。


あぁ⋯もう話を聞いてたら目に浮かぶようたよ。

ワガママなストーカーをあしらいつつ、与えられてる仕事をしてるのに、ストーカーが監禁しようとするから、ブチ切れて恋心まで消して逃げ続けてたんだね?

どれだけ追いかけっこをしてたかは分からないけど、私を追いかけて来る筈のこの人が、私よりもかなり先に産まれてるのは、私が彼をぶっ千切る為に何か工夫してフェイントでもかましたのかな?

それとも何らかのトラブルでもあったんだろうか?

何がどうなってこうなのかは、全く分からないけど、私が何時もアルフィンを前にして、もの凄く警戒してたのは、私が消した記憶を魔力が覚えてたからなのか。


そりゃ今までの色んな気付きにしても、きっと私の中に元からあった知識だったんだろうね。

だからふとした瞬間に、あんな風にフラッシュバックとして思い出してたんだろう。

まぁそこはまた余裕がある時に考える事にする。

何せ今私はもの凄く忙しいからだ。


拡散して行くアルフィンの魔力を、はぜてく片っ端から私の魔力に変色させて、被害を最小限にとどめる作業をせっせと行ってる。


神様が白銀に輝いてるせいでむちゃくちゃ眩しいから、私は自分の目元だけサングラスみたいな闇のカーテンで覆ってるけど、周りにいる魔物達まではそれが出来ないから、右往左往して逃げ惑ってた。


魚みたいな魔物達は小さいのやら大きいのも含めて、ヤベェ!ここヤベェわ!逃げろ!タスケテー!とワチャワチャしてるけど、私が魔力で網を作ってるもんだから、弱い魔物から圧殺されてミンチになるんで、撒き餌みたいになってる。


こりゃ可哀想!

ヤベェ!と私も直ぐに気付いて入り江の出入り口は残したまま、網の魔力を解放したんだけど、私は私でアルフィンの魔力が起こす水流に巻き込まれて流されそうになってるから、必死に魔力の手でアルフィンの足を掴んでたりと、もう忙しい忙しい。


私の周りは水圧で潰れないようにとか、呼吸が出来る空間は、オートマで確保してるから、例え流されたとしても私は生きてるだろうけど、何も事情が分からないまま、南に取り残された私の家族やら、同じく1人ポツンと残されるバッカスも更に大惨事になる。


西の辺境の地と南を繋いだまんま放置するのもお爺ちゃんズから、お叱り案件になっちゃうし、もうパッと考えてもヤバいしか出て来ないから、そもそも今星が爆発する危機にもなってるし、私が頑張らないと神様の私がししやり出て来たらもっとヤバくなりそうで、そりゃ気が焦るよね。


神様の地団駄がヤバ過ぎて笑えない。


でもアルフィンの魔力を奪ったお陰で、体感時間としたら1時間ぐらいと長かったけど、実際は1〜2分ぐらいで事態は沈静化する。

でもアルフィンが魔力を爆発させてなければ、今度はアルフィンの周りに大量の海水が押し寄せて来るから、このままだと水圧で圧死してしまう。


私の魔力の手が足を掴んでるから、ブラーンとぶらさがった状態の彼を、急いで魔力の手を引き寄せると、私の空間に引き入れた。


アルフィンは生きて行くのに必要な魔力まで放出した直後になるから、使い過ぎた雑巾みたいに萎れてる。

具体的に言えば、心肺停止の文字通り仮死状態になってるもんで、脳みそを確保した状態で急いで回復魔法をぶっ放した。

迂闊に脳に回復魔法を使えば、アルフィンの記憶が飛ぶのが分かっていたからだ。


急速に魔力がアルフィンの細胞に行き渡り、心臓の機能が復活して鼓動と呼吸が始まった。

でもまだとても弱い。

まるでピヨ子の時と同じで、大事な生命力が抜けてしまってるんだと感じて悩んだ。


つまり回復薬が必要になるんだけど、私はそんなものを持ってないのだ。

意地を張らずに素直にオジョから買っておけば良かったと、心から後悔する。


転移も出来ない以上、時間を考えたら他所から回復薬を調達する事も難しい。

アルフィンの魔法の鞄には入っているだろうけど、恐らくアルフィンにしか取り出せない契約が結ばれてると思う。

それを魔力の記憶を辿って解析するのに、時間はどれくらいかかるだろうか。


回せ回せ回せ回せ回せ!

頭をフル回転をさせて知恵を絞り出さなければ、アルフィンはこのまま死んでしまうかも知れない。


脳に障害が残り、それを魔法で回復させてしまえば、アルフィンの記憶が何処まで消えてしまうのかも分からないのだ。

先王様達は激怒するだろうし、下手をすれば王様の暗殺未遂で私を含めた家族まで消される危険性がかなり高そう。


真実なんてどうでも良いから、アルフィンを邪魔に思う人達は、弱体化した事を逆手に取ってアルフィンから私を引き離すだろうし。

アルフィンが私を覚えて無いだけなら良いけど、下手に記憶がよみがえった場合、私がアルフィンを殺す原因になった事が直ぐにバレてしまう。


そうなればアルフィンは今度こそ私を直接守れなくなる。

疑心暗鬼のアルフィンなら、きっと誰かに私の知恵を利用される事を恐れて始末しようするだろう。

だから頭を回して知恵を絞り出す。

何か回復に使えそうな物と言えば、直ぐに元気草が思い浮かんだ。

確か慌てて錬成瓶を回収したから、私のことだしウッカリ間違えて土間の外に置いていた元気草入りの錬成瓶も回収しているんじゃ無いかと、そこに思い至り、慌てて魔法の鞄の中を探す。


「あった!」


読み通り元気草は手に入れられた。

家族皆で飲んで効果を確認したけど、元の元気草に比べて味がよかっただけあって、ちょっと元気になったかな?

ぐらいまで効果が落ちた、失敗に近い代物だけど、まぁ味が改良されてるから、少し疲れた時に飲む分には良いかな?と思って栽培を続けていたんだよ。

その後でノインの雛の餌にも使えたしね。


効果が少し弱くても雛がアレだけ大きく育つんなら、多少は回復薬の代わりにアルフィンを癒してくれるかも知れない。

多少は苦くなるかも知れないけど、錬成瓶から元気草を半分出して、魔法のお水に入れて浄化した後は、グツグツと沸騰する直前までお湯を沸かして草を煮込む。

圧縮鍋をイメージしたせいか、お湯は早く出来たけど、これでは草のエキスが出てるかどうだか分からないから、泣きそうになりながら魔法の水の中で元気草を粉々になるまで切り刻んだ。


私は自分が全く冷静で無い事を自覚してる。

だからこれはもう既に失敗してる予感がヒシヒシとしてるんだよ。

だから泣きそうになって、煮込みながら切り刻んだ元気草入りの魔法の水を今度は急速冷凍して固めると、更に砕いて粉々にしてから、またそれを全力で煮込んだ。

それを何度となく繰り返せば、3分もすれば元気草は跡形も無くお湯の中に溶けてしまった。

エキスを煮出さずに、元気草を丸ごと丸かじりする形になるけど、温度がコレだけ急変させたら元気草の効果も果たして残ってるか疑問になる。


「うげぇぇ⋯まっずぅ⋯」


だから試飲してみたけど、予想通りに我ながら最悪の出来栄えになった味に、舌が痺れるぐらいの苦味がもの凄く辛くて、本当に涙がポロポロと零れた。


「⋯でもイケる。」


その代わり運が良かったのか、元気草の効果はちゃんと取り戻せてるらしくて、疲れた頭がシャッキとするのを実感する。

苦くてシャッキっとしてるのか、元気草本来の効果なのか、少し曖昧な面も有るけど、取り敢えず活気が身体に満ちているのは事実だった。


だからこれを一口だけアルフィンの身体を操りながら飲ませてみる。

起きたら口の中が大惨事になってるとは思うけど、アルフィンは上手く咽ずに薬もどきを飲み込めた。

少し待ってみて呼吸や心音を観察したけど、効果が無くてガッカリする。

でもそう言えば早く吸収させるには、砂糖と塩が居るんだったと思い至り、残りに魔力草の種を潰した粉と、直ぐそこにある海水を混ぜてまた浄化させる。

割と念入りに浄化した。


クッソ苦くてオエッてなるけど、でもまぁなんて言うか、ほんのり甘くてもの凄く苦い感じが塩味でちょっとキリッとしてて、ちょっと生臭いけどまぁ⋯さっきよりも元気になれた気がする。


いや、コレはもうヤバいだろ。

生臭い時点で生魚が入ってるじゃん!

せっかく作ったけど台無しになっちゃったと、泣きながら失敗作は入り江に向かって放流した。

小さい生き物が多少大きく育つんじゃ無かろうか?

回復薬を作ったつもりで海の肥料を作った気がする。

そんなもんを飲んだ自分がかなり複雑な気分になるけど、まぁ良い。

まだ元気草は半分残してある。


自分が何時も以上に慌ててる事を自覚していたから、失敗してもリカバリー出来るようにはちゃんとしてた。

でもこの錬成瓶の元気草は少し残して置かないと、アルフィンに説明するのに必要になる。

だってアルフィンはこの元気草の事をちゃんと知ってるんだよ。

だからこれを使って薬を作って飲ませた事の説明をしなければ、何を勝手に飲ませたんだとキレられた時用に安心材料は必要だと思うの。

目の前で同じ製法で作って飲ませたら、味はおんなじだから分かるよね?

だからそもそも生魚のミンチ入りの海水なんて、再現するのが面倒なもんを使ったりしたら駄目なのよ。


念入りに浄化はしたから、魚に変な虫がいても大丈夫とは思うけど、何で私は塩壺を持ってるのに、海水を混ぜたの?

だって本気で危ないよね?

川は海に繋がってるんだから、あの王殺しの病の虫が居るかも知れないんだよ?

農民の娘はこれだから大雑把で困るんだよ。

ウチの母と同じ事してんじゃん。

母は農民じゃないけど村娘にはかわりないからね。

そりゃ似た行動を取っても可笑しくは無いか!

私はようやく目隠し代わりにしてた闇のカーテンを消した。

見えてたと思って勘違いしてたけど、魔力で見てただけだったから海水の異常に気づかずに、血と肉の混ざった海水なんてもんを使っちゃったんだよ。

アルフィンは私の魔力が充満してるか、髪の毛一本単位で見えるけど、ミンチになった残骸は極端に魔力が下がってるもんだから、肉眼じゃなきゃ見えなかったんだよ。

この辺りは魔力が沢山充満してるから、余計に分かりにくいよね。


後でしんどくなったら自分で身体をシッカリ浄化しとこ。

と、ボヤキながらまた新しく回復薬を作った。

今度はちゃんと種と塩壺から取った塩も入れたからね!


また5分も時間を使ってしまったけど、姉達は大丈夫だろうか?

私達が海に来てから、もうかれこれ30分は時間が経過してるんだよ。

そろそろ戻らないとマズイのは分かってるから、これを飲ませてもダメなら私は自分でアルフィンを連れて帰らなくちゃいけなくなるんだよね。

転移なら一瞬だけど、魔力の手を駆使して泳いで帰るんならどれくらい時間がかかるやら。

でもまぁしょうがないか。


最初に打ち上げてた魔物が、かなり潮に流されてたから探すのに苦労したけど、アレを船にして帰ればいいやと伸ばした魔力の手で尻尾を掴んで引き寄せながら小さくため息を零す。


何故あんな忙しい時に、私は神を呼んでしまったのか。

恋とはホントに恐ろしい物なんだなぁ〜とシミジミと思う。

まだ恋なんてすっっごく薄くて淡い物しかして無いのに、勝手に先読みして失恋したから、虚無感に襲われて全てを投げたくなった結果がアレだったんだよ。


しかもアルフィンを好きになって恋してた訳じゃ無くて、神様が私を捕獲する為の魔法に引っ掛かって恋をした気分になってただけだからな?!


おかしいと思ってたんだよ。

父みたいな人が良いって考えてたのに、真逆なアルフィンに恋をしそうになってるから、私はそれが嫌で全力で抵抗してたんだよ。

無意識で神様の策略に気付いて抵抗してたのか、シアとして生きてた経験が私の中に残ってあたかまでは、今の私には分からないんだけどね。


なんとなくだけど、人間を知らない神様が悪い男に引掛かって逃げられなくなってたパターンじゃね?

もしくは神様が恋した人が巻きこまれたパターンだったらマジでどないしよ⋯。

あり得ると思えば土下座じゃ効かないんだが?

でも今が作為的なものかも知れないけど、多分1番最初に出会った時は、きっと本物の恋だったんじゃない?

シアも神様も。

ただシアは端末としての仕事が有るから、人としての恋に応えられなくて、それでもちゃんと恋をしてたから狂った彼を殺さすに、引き上げたんだと思う。


向こうが先かこっちが先かは、私が神様にならないと分からないんだろうけど。

取り敢えずその時はリリアナが死ぬって意味になるから、真実を知る事になるのはずっとずーっと先になるんだろうね。

じゃないと私は死ぬって意味だから、そうであって欲しいと心からそう思うんだよ。


だって今の私は神様なんかじゃ無くて、ただの人間だから。

誰かの為に死ぬなんて本当は嫌なの。

家族の皆を守る為なら死ねるけど、顔も知らない誰かの為に働くなんてしたくない。

神様になったらあの魔虫でさえ愛おしく思わなきゃ駄目とか、そんなの身震いしちゃう。


でも神様はそうじゃなきゃ駄目なんだろうね。

そうじゃなきゃ魔虫は産まれて来れないでしょ?

人間を依怙贔屓するのは私の中に人としての記憶が有るからなのかな?

この記憶の秘密が分かるのも、きっと私が情報を神様にとどけた時になるんだろうなぁ。


王様が平民の暮らしを知らないのと同じように、魔素が沢山ある所にしか暮らしていけない神様なら、私だったらアバターを作って地上に問題がないかを、人と同じ目線で調べると思うんだよ。


この前世の記憶の意味がどっちなのかまだ分からないけど、生きるのに厳しい環境を切り抜ける為の武器なのか、はたまた限界まで削ってもコレだけは消せない理由が何か有るのか。

それもこれも全てはリリアナが終わる時に正解が分かるんだと思うのよ。


だから空に還ったら嘆くんじゃない?

こうやって勝手に予想してこうとしたのに、それが正解から外れてたら、のた打ち回りながら後悔してそうな気がするんだよね。


そんでもって慌ててまた地上に降りて、失敗を重ねながら勉強をしてる途中なのかも知れない。


まぁぶっちゃけこのまま考え続けていたいけど、現実は私を待ってはくれないから、まだ起きないアルフィンを魔力の手で引っ張りながら、海面を目指して浮上する為に、私の周りに有る魔力を操って上に向かってるんだけど。

扱いが雑だってか?

だってコイツがガチのストーカーなのが判明した今は、雑に扱った所でイイんじゃない?

でも一応リリアナからしたら、曲がりなりにも初恋相手になるんだから複雑な気分だよ。


⋯何だろう。

時間が経つ毎に魔力が上手く扱えない気がする。

なんて言うか手袋をしてビーズのアクセサリーを作ってる様な感覚になって来てる。

ヤバい。

ちょっと急いで浮上しなくちゃ、何だか魔力で作ったバリアの維持が難しくなって来た。

アルフィンが逆さ吊りの刑になっちゃってるけど、今はもうそれに構う余裕がががが⋯


オートマだ!

オートマならまだイケる!

難しくなってるのはマニュアル操作だから、オートマでなら取り敢えず溺死と圧死は避けられそう。

でも魔力の手が上手く扱えなくなれば、このまま沖に流されちゃう!


海面で漂ってる魔物を浮き輪代わりにすると、私はアルフィンを連れて急いで海面に浮上を果たした。


大丈夫。

魔石から魔力を引き抜くのは、何度も訓練してるからオートマでイケてる。

魔法の鞄から7級まで育てた魔石を取り出して両手で握り締めて、不器用ながらも自分達を拾う形で、浮き輪代わりの鮫みたいな魔物のお腹の上に乗せる事が出来た。

多分オートマで握ったら、身体が真っ二つになっちゃう。


何とか無事に魔物のお腹の上に辿り着いた私は、四つん這いの姿勢で力を抜いた。


ハァハァ⋯超ビビった。

なんなのこれ。

いきなりどうしてこんなに、魔力操作のハードルが上がっちゃったんだろう。


1つ思い当たる事が有るとするなら、これが元気草の副作用だろうか?

前に飲んだ時は煮出した汁しか飲んで無かったから、まさか元気草にこんな性質が有るだなんて思っても無かったよ。


アルフィンが大丈夫か不安になって、ザラザラしてる皮の上を四つん這いでハイハイしながら、仰向けで倒れてる彼の元へ向かいながら観察したけど、もう呼吸は普通に戻ってるし、心臓もちゃんと動いてる。

それに白銀だったアルフィンの髪の毛の色が元の金髪に戻っていたから、ハアーと安堵の吐息を漏らして脱力した。


それに上手く扱えないのは細かい作業なだけだから、魔物から離されない様にグルグルと魔力の手で私とアルフィンの身体を固定してから、2本の魔力の手を伸ばしてアルフィンが作った元神殿の名残りだった太い柱を掴み、グイグイと引っ張って夜の入り江を突き進み、急いで浜辺へと向かって移動した。


「ちょっとリリアナ!

アンタ一体何処をほっつき歩いてたのよ!

さっきの光は一体何の光⋯

⋯って言うか、何よそれ!」

『うわあぁぁーーー?!』


平民の集団の先頭に仁王立ちしていた姉が、私に気づくや否や、大きな声を張り上げていたけれど、勢い良く進んでるもんだから、私が乗ってる魔物に気づいた途端に悲鳴じみた声が姉からも周りからも一斉に挙がってる。


それはそう。

まだちゃんと確認が取れて無いけれど、横幅は5m以上有るし、角だけでも5m有るけど頭から尻尾まで25mプール以上有る魔物なんだよ。


これまで取ってきた海の魔物の経験から考えたら、少なくても6級以上の魔物なんじゃないかと予想してる。

美味しいと嬉しいんだけど、牙とか角とかを見たら、完全に肉食系っぽいから、あんまり味には期待が出来ないかも知れない。


でもこの世界の常識の1つとして、魔力で味の良さが変わって来るんなら、美味しい可能性も捨てきれないんだよね。


て⋯あれれ?

急に進むスピードがガクンと落ちて⋯あああぁぁ!

遠浅!遠浅だから背中が地面に引っ掛かってるんだ!

ヤバい!柱が折れちゃう?!

コレだからオートマは!!!


「お姉ちゃん!

そこから宮殿に向かって今直ぐ逃げて!」


私は声に魔力を乗せて姉だけで無く、そこにいる平民の集団に声をかけるのと同時に、新しく魔力の腕を2本追加すると、海底に向かってドーンと張り手をかました。


すると海面が両側にバシャー!と飛沫を挙げて魔物ごと私達は空高く飛び上がる。


「クッソ⋯」


いつもなら余裕の魔力操作で加減も出来るけど、オートマを駆使するしか出来ないので、次は浜辺近くに落ちるように宮殿の柱を引っ張って下方向へと荷重を与えた。


そして失速した魔物の本体は、姉から20m離れた地点に墜落する。

墜落する直前にも地面を叩く様にしたけど、不幸にもそこは海面だったのだ。


だから姉だけじゃ無くて平民達が背中を向けて逃げ出す間もなく、大量の海水が飛沫をあげて飛び散った。


アレだよアレ。

イルカショーを最前列で見てた人達みたいな事になっちゃった。

平民の集団の半分以上の人達が、海水でずぶ濡れになる大惨事が発生してる。

しかも私は墜落の衝撃を消しきれずに全身に受けたせいで、魔物の上で目を回してしまったのだった。



きゅう⋯。




遠浅あるある。

バッカスの運命やいかに!

続く。

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