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話が前後する回で、読みにくかったら申し訳ありませんの巻き。


アムル 麦っぽい何か。

ボビー とうもろこしっぽい何か。

ベルチ 甘みの強いジャガイモ

ヤマ 人参 本体緑 草赤

ラグ 紫キャベツ風のほうれん草

マタポ→元気草 ヨモギに似てるタンポポ

カトゥ→大豆っぽい豆

トト→黄色いトマト

ナム→菜種油風

シャム→ペリカンみたいな鳥 

マモー→ペガサスに憧れて失敗した牛 マモーンが原料の魔法生物

モッブ→モップみたいな魔法生物

ピア→モグラみたいな兎 1級

ウェブン→ダチョウみたいな鳥 2級

ノイン→カモみたいな鶏 1級



朝です!

おはようございます!

まだ夜明け前の5時を過ぎた所ですが、今日も私は元気に起きて朝の支度をしながらリビングの椅子に座って内職みたいな仕事をしつつ、皆の朝ご飯を作っています。


私がブレイクスルーを起こした8月の陽気が続くあの日の夜から今日で10日が経過しています。

時の流れは早いもんですね。


私はせっせと慣れない炊事をなんとか試行錯誤しながら、新しい仕事まで増やして、怒涛の日々を何とかやり繰りしつつ熟している所だよ。


あの日の夜。


「え?寝た?!」「あ、ホントだ。寝ちゃったね〜」「え?!何で寝てんの?!この虫どーすんだよ!」「ウソだろ!俺の記憶の話はどうなるんだ?!」「リリアナはまだ小さいから、こんな時間まで起きてた事も無かったから限界だったのね〜」「お母さん!

私達だってそうじゃないの!

私だってすっごく眠いわよ!

リリアナってば呼び出しておいて先に寝るだなんて酷いじゃない!」


等と各々がいきなりハシゴを外された形になり、一斉にガヤガヤとしていた所で。


「黒魔石!起きぬか黒魔石!

クッッ⋯よもや世を呼び出して起きながらこのまま放置するとは申すまいな!

このままでは世は生殺しでは無いか!

起きよ黒魔石!

早う目覚めるのだ!

どの様に魔石を強化したのかを世に早う説明するが良い!」


私が意識を失った後に漫画の続きが気になって仕方が無い少年と化した魔王が、私をすぐに起こそうとしたらしいのだが。


「あの!王様、も、申し訳ありません!

リリアナはまだ幼いので、何時もなら既に寝ている時間ですから⋯」


と、そこは父が頑張って魔王を止めようとしたのだそう。

でもワガママに育った魔王が、いち平民でしかない父の言葉なんて聞く訳もなく。


「そこな平民ごときがよもや世の行いを諭すと申すか!

ええい!邪魔をするでない!

黒魔石を早うこちらに寄越すのだ!」

「え?!王様?!」


父から私を奪おうとした所で、姉がブチ切れて手の平をコロッと返して正論パンチを繰り出したそうだ。

自分が言うのは良くても他人にされるのは嫌と言う、身勝手あるあるである。


「ちょっと王様!

リリアナはまだ小さな子供なのよ!

それを無理やり起こしても起きる筈がないじゃない!

そんな事をしてリリアナが病気になったらどうするの?!

子供には寝る時間が必要なのを、大人なのに知らないの?!

しかもウチのお父さんから奪ってリリアナをどうするつもり?!

娘を父親の承諾も得ずに連れ去るのは貴族でも法律で禁止されてるのよ!

まさか王様なのに、法律を知らないだなんて言わないわよね!!!」

「ぐぅ⋯」


魔王は一応先王様からの教育で良識を教わっていたので、この正論パンチに実に弱かった。

しかも相手は幼い少女だから、元から女性に甘い傾向のある魔王は、どうしても姉に強気にでれず。

私を誘拐する事が出来なくなってしまったらしい。

私はこの話を聞いて初手からラッシュした姉にドン引きした。

ゴリラヤベェよゴリラ。

父も唖然として止める暇が無かったらしい。

そりゃアルフィンも逃げるわ!


「何を言ってんだよ!

こんな事をやらかしといて子供だから寝ますだなんて、そんなワガママ言ってる場合じゃねぇだろ!

王様だってそうだろうけど、俺だって記憶を消されてコレから話を聞こうって時に、寝ちまいやがったらそれが出来ねぇじゃねぇかよ!」


魔王がぐぬぬぬとしていたら、俺も俺も!と、バッカスが仲間意識からしゃしゃり出てきて私を起こす仲間として魔王に味方した結果。


「はぁ?!

どうせバッカスが悪いんじゃないの?

リリアナがさっき、またダラダラと説明してたでしょう!

あんたがそれをちゃんと理解出来なかったから記憶が消されちゃったんでしょう?

そうじゃ無ければリリアナは今頃お父さんやお爺ちゃんに叱られてるわよ!

リリアナはもう限界なの!

話が聞きたいんなら起きてる他の人に聞けば良いじゃない!

記憶を消されてるバカはアンタ1人だけなんだからね!」

「ぐぅ⋯いや⋯でもよ⋯」

「でもも素っ気も関係無いわよ!

リリアナはよく喋るから2歳に見えないだけで、身体は2歳のままなのよ?!

そんなのこんな小さな身体を見れば直ぐに分かるでしょう!

アンタだってセフメトが小さい頃どうだったか知ってるはずよね?!

それとも鳥ばっかり見てるから、人間の子供がどんなだったか忘れちゃったの?!」

「ふぐっ⋯」

「むぅぅ⋯ならばどうせよと申すか。

黒魔石の姉君よ。」

「明日の朝に起きるのを待つしか無いでしょう?

明日の夜の早いウチに、家にまた来ればいいじゃ無い!」

「明日の夜になど待てぬ!」

「なんですって?!」

「いや⋯では黒魔石の父よ!

黒魔石が目を覚ませば世を呼ぶが良い!

良いな!」

「え?!あ、はぁ⋯」

「何だその腑抜けた返事は!

貴様世を王と知っての狼藉であろうか?!」

「えっ?!いや!あの!

すみません!

⋯少し言葉の理解が追いつかずに呆けておりました。

では娘が目を覚ましたら、直ぐにお伝えしたいとは思うのですが、どうやって王様を呼んだら良いか⋯」

「フン!

ならば庭に呼びかけるがよい!」

「え?にわ?庭って⋯ここで良いですか?」

「其方には他に庭が有ると申すか?!」

「いえ!

ここはウチの庭です!」

「では愚鈍な事を申さず、とく明快な返事を返すが良い!」

「え⋯と⋯とく?めいかいな、へんじ⋯は、はい!

分かりました!」


また姉の正論パンチが炸裂した事で、脳弱なバッカスも呆気なくぐぬぬぬとなり。

その姿を見た魔王がアレはみっともないと気付いたのか、姉からパンチの連打を食らうのが嫌だったのかで、私が起きたらすぐに知らせる事を父に約束させて渋々帰って行ったそうだ。


「クッソー!

俺は一体どうすりゃ良いってんだよ!

こんなんじゃ気になってちっとも眠れねぇに決まってンじゃんか!」

「ふむ⋯バッカスや。

俺が話をしてやろう。

夜も遅い。

気持ちを落ち着けて、俺の話を聞け。」

「うぅ⋯爺ちゃん⋯」

「ゴロゴとドーンもそろそろ気になるから、居間で静かに話をするぞ。

セフメト。

お前も気になるなら来い。」

「はい。お爺ちゃん。」


そして最初から味方では無かったが、仲間が居なくなったバッカスも、祖父からの説得で渋々引いて家に戻って行ったらしい。


姉がヤベェ。

よく魔王の魅力に惹き込まれなかったなと思ったが。

オッサンが駄々をこねる姿は、姉からしたら男児育成経験値がカンストするレベルの育児熟練者なので、姉のゴリラセンサーが発動して乙女センサーが作動しなかったのではないかと予想している。


でも私は単に寝落ちしたのでは無くて、自力で調整して魔力不足に陥っていたせいで、翌朝何時もの時間に起きれなかったそうだ。

我ながらアホとしか言いようがないのだけれど、生きて行くのに必要な魔力がどれだけか、感覚として理解していたので、流石にそこまでは踏み込んで無かったけれど。


普通なら倦怠感や頭痛等の症状からそこまで魔力を減らさない様に身体が反応する前に、そこに踏み込む直前まで意図的に使用した。

そのせいで生態反応が起こらなかったのだ。

結果として身体を保護してる魔力が激減したので、弱体化した私は発熱してしまった。


何故7歳まで魔法の指導を控えているかと言えば、7歳以下の体力で魔法を使い、魔力不足になると生命力が少ない幼児では、耐えられないからというのも理由の1つだったんだろう。


起きない私の異常に気付いたのは、ピヨ子がピーピーとサイレンモードになってるのに、私が起きなかったからだ。


「王様!王様、俺の声が聞こえますか?!」

「黒魔石が起きたのか!」

「それが変なんです!

熱が出てて、声をかけても目を覚ましません!」

「何?!」


そこで父が慌てて魔王を召喚した。

魔王は私が起きたら呼べと約束していたせいで、父の呼びかけにノコノコと反応してしまい。

そして飛んだ先で私が熱を出して弱っていたので、大慌てになって対応してくれたそうだ。


「⋯ふむ。どうやら昨夜魔力を使い過ぎて身体が弱っておったのやも知れぬな。

魔石を単独でかように強化すればさもありなん。」

「あの⋯娘はどうなりますか?」

「魔力が自主的に回復すれば元に戻るで有ろうが、黒魔石はまだ幼い。

ゆえに衰弱が進めば命を失うやも知れぬ。」

「そんな!

ではどうすれば良いですか?!

どうやったらリリアナを助ける事が出来るんでしょうか!

王様!お願いします!

俺に知恵を授けて下さい!」

「むぅ⋯薬ならば有るのだ。

だが意識が無くてもそれを飲ませるには技術が要る。

その手が有るかどうか⋯。

城に戻ればその技術を持つものも有ろうが、果たして弱りきってる黒魔石を無事癒す者が居なくては、ここぞとばかりに却って害を与える事も有ろう。


黒魔石はその存在を知れば世の様に好意的に受け入れる者がある反面、その存在を秘匿しておるゆえ得体が知れぬと、不遜な言動に眉を顰めておる者も多いのだ。

真実を知らぬ愚者が、不埒な平民上がりと黒魔石を(あなど)り、世に忠義を果たそうとして、黒魔石を害する事が起こらぬとは言い切れぬ。

通常の黒魔石であればそれらの対処も自ら行おうが、かような場所に弱った黒魔石を連れて行くのは⋯」

「そ⋯そんな!

では俺に技術を!

やり方を教えて下さい!

俺が娘に薬を飲ませます。」

「ふむ。

かなり繊細な魔力操作が必要となるが⋯其方は優れた魔法師で有ると黒魔石が申しておったな。


では其方に知恵を授けよう。

薬は液体ゆえに水を操り、正しき道へと薬を身のウチに誘う事が重要で有ろう。

薬を息を吸う道へ誘えば、胸を悪くして衰弱を悪化させる事も有ろう。」

「分かりました。

息をする道ではなく、食べ物を呑み込む道へと薬を連れて行けば良いんですね。

俺は水を操るのが得意なので、どうか俺にそれをやらせて下さい。」


と言っても意識が無いから回復薬を飲ませる事が難しくて、過剰なぐらいに良い品の魔法薬があっても、魔王にはどうする事も出来ない。

何故なら魔王は日常的な生活に必要な行動の殆どを、使用人が代理でしてくれてるからだ。

そんなヤツに子供の看護なんて出来るはずがないよね。


「なっ?!

何だこの魔力操作は⋯」

「ふう⋯王様!

上手くやれました!

見てください!

リリアナの顔色がこんなに良くなって⋯あぁ、本当に良かった⋯」

「そ、其方、今どの様にして魔力を操っておったのだ?!

まるで薬が其方の魔力に包まれておるかの様に見えたのだが⋯」

「はい。

俺の魔力で薬を包んで正しい道まで運びました。

息を吸うのはリリアナの魔力が弱っていたので、息を止めさせて直ぐに薬を運んだんです。」

「い⋯息を止めさせるだと?

其方は他者の動きを支配出来ると申しておるのか?!」

「いえ!そんな大層なもんじゃ有りませんよ。

今リリアナが弱っているので、魔力を染めやすくなってます。

ですから少しなら俺の魔力が触れた場所の動きを操る事が出来るんですよ。」

「ぬあっ⋯魔力を染める?!

何だそれは。

他者の魔力は他者の魔力で有ろう!」

「え?いや、あの。

ですから弱った魔力なら、強めに染めてやれば奪えますよね?」

「染める?!

染めるとは何だ?!」

「え?染めるのが何と言われても⋯その。

リリアナがそうしていたものですから⋯俺には詳しい説明はちょっと⋯」

「なっっ⋯また其方か黒魔石よ!

あれほど申し付けておったのに、まだ世に伝えて居らぬ事があったと申すのか!

何時まで寝ておる!

とく目覚めよ!」

「お!王様⋯落ち着いて下さい。

リリアナはまだ弱ってるのが回復してる所ですので⋯」

「くっ!」


でも困ってる魔王の代わりに、父が水流操作でお高いだろう回復薬を私に飲ませてくれた。

魔王はこれにもの凄く衝撃を受けたらしい。

これは環境の違いと言うべきか、魔王も魔力操作は出来るけれど、これは後から学んで身に付けた事で、しかもマニュアル操作の使用頻度が少ない事もあり、誤嚥させずに液体を意識の無い人間に飲ませる為に身体の動きを操る様な繊細な魔力操作なんか、理解の外の出来事だったのだ。


魔王は天才なので、母と同じ部類の上位互換的な存在だったんだろう。

恐らく幼い頃から無意識で魔法がよく発動していたんだと考えられる。

だから周りがその状態を危険だと考えて、幼い頃から指向性のあるオートマの魔法を彼に仕込んだのでは無いかと、その話を聞いて私はそう感じた。


無意識の魔法は母の例を見れば分かるように、かなり重篤な障害を起こす事がある。

例えば赤ちゃんが泣いた途端に布団が発火したり、ベビーベッドが水没したりすると想像すると、どれだけ危険な事かがよく分かる。

だから無意識に魔法を発動させない魔道具か何かを装着させて乳児期を過ごし、言葉が理解出来るようになってから、意識して魔法を使わせる訓練を行ったのでは無いかと予想したのだ。


でもこの無意識の魔法と言う存在が、実は魔力を繊細に操る為には必要な技術だったのを、私はこの時に始めてそれを理解した。


私の魔素理論を元に考えてみると、無意識の意識が発動してその願いを伝えてる先が魔素と仮定する。

無意識の思念を伝えるエネルギーが本人が持つ魔力の量で決まるとして、無意識で魔法を発動させる経験は、その魔素との関わり方の熟練度に関係するのでは無いだろうか。


魔素とは人間が認識出来ない存在なので、その無意識で魔素と関わらなければ、魔素の存在を身近な物として察する力が成長せず、それが魔力を操るマニュアルの技術の出来に直結するのでは無いかと予想する。


いやだって想像しただけで魔法が暴発したら、もの凄く生きにくい世界になるじゃない。

だから魔素と繋がるにはよっぽど強い願いや、大量の魔力が必要なんじゃ無かろうか。

だから後先を何も考えないで魔法を使う子供は危険視されて、指導者の言う事を理解出来る年齢になるまで、魔法を使えない環境に慣れさせてるんじゃないかと思ったんだよ。

無意識の魔法を使い慣れたら、母みたいなヤバい状況になりかねないからだ。


本人がストレスを受ける度に、反射的に魔法を発動させて記憶が消えるとか、人間として正常な成長も出来ないし、教育をしようにもそれを忘れられてしまえば矯正するのも難しいよね。


ここで魔王の場合。

例えば魔力を抑えつける魔道具でも使用されて、体内の魔素にエネルギーが身動き出来にくい環境を作られたと仮定する。

すると魔素を操る経験が無いまま成長して、魔素を操作する力が鈍感になる様に成長させたとしよう。

すると魔法を使う感覚が鈍るせいで、私みたいに半オートマ的な便利な魔法の使い方が出来なくなってるんだと思われる。


その代わりに魔王は優秀だったので、高い魔力と優秀な頭脳が出す魔素好みの精密な指示のお陰で、扱い難くなってる筈の魔素を操れるから、オートマのレベルだけがガンガンと上がってしまい、細かい作業を行うのに必要な魔素を操るマニュアル操作の基本が未熟なまま、成長したと考えている。


つまり魔王は布を織る機械のプログラミングをする事は得意でも、レース編みを手作業で行う事が難しい事になる。

糸に触れる経験が殆ど無かったからだ。


それを聞いてピン来た。

ヤケに威力の高い魔法をガンガン使ってるなと思ってたけど、杖を取る等の些細な魔力操作以外の魔法は全く使えてなかったのだ。

これは全くと言えば語弊がある。

何故なら魔王は意識下では、魔素を操って魔法がマニュアルで使えているからだ。

空を飛ぶのも杖を引き寄せるのも、マニュアル操作が出来なければ難しい魔法になる。


だから魔法の天才少年だった彼は、意図的な魔法はマスタークラスの専門家でも、ぼんやりとした曖昧な魔法の扱い方は初級に毛が生えてるレベルになると思う。


つまり理系の頭脳をもって理屈で考えてる人に、芸大出身の芸術家の人から「考えるな!感じろ!」って言われても、幾何学的な絵の価値がチンプンカンプンで分からないんじゃないかな?


つまり水を操って薬を飲ませようとしたら、その水が喉を突き破って貫通するぐらい不器用な事になるし、身体の動きを止めようと魔力を支配すると、生きるのに必要な全ての魔力を強奪して相手を死なせる事にもなるのだが。

魔王はぼんやりとした無意識の魔法を理解出来ないので、そもそも他者の魔力を支配する事が出来ないと言う。


魔王があれだけ言葉に対して慎重になってたのは、無意識に発動する魔法を発動させない為に、つまり自己流のヤマカンでテストの問題を答えないでシッカリと公式を覚えさせた、家庭教師みたいな存在がいた事の証明になる。


父の魔法の使い方を見た魔王の認識が、これまで私の付属品の空気でしか無かったのに、始めて人間として変化したんだと思う。

魔法師とは貴族がなるものだから、そう言う理屈で父は空気から人間になれたのだと私はそう考えている。


知識として平民は人間なのを知っていても、魔王だけでなく。

基本的な王侯貴族の教育をうけて来た人達にとって、平民は家畜や空気と同じ感覚なんだと考えられる。


なければ困るけど、意識して無くても自分の思い通りに扱える存在的な感覚と言うべきかな?

だから私はお嬢さんが平民に頭を下げた事に衝撃を受けたし、先王様が王様を経験した人なのに、どう考えても駄目な王族失格のカルマンさん。

セドリック王子に対して、親の情が垣間見える仕草をした事に驚いたんだよ。


まるで童話に出て来る様な、あり得ないタイプの為政者だなと。

私は心から驚いていた。


例えばバッカスの場合。

彼は平民だから目先の事しか考えられない。

人を殺す虫がシャムにいたなら、それを周りに伝えて危険を訴えるのが、彼の普通になる。

だからそれを止めて別の方法を考えようと言っても受け入れる事が難しかった。

具体例を持ち出しても視野が狭くなってしまったのは、バッカスが本当に救いたかったのが、昔母を亡くして悲しい思いをした自分だったからだ。


人間は善良に普通に生きていても、自分を主として考えるので、これはこれで正しい生き方をしていると言える。


そして為政者の場合。

シャムの犠牲者が少人数な事を知れば、世間の混乱やそれを知らせる事によって得た知識を悪用する犯罪者。

または環境の変化が起こる事で、以前よりも増加する被害を思えば、バッカスの母親の様な死は切り捨てられる事になる。

為政者は国を繁栄させるのが本来の仕事だからだ。


ではバッカスの母親が、自分の友人だった場合はどうだろう。

大事な友達が死んだ理由を、そのまま放置できるだろうか。

友人の息子が泣いて告知を迫ってくれば、それを突き放して出来ないと言えるだろうか。

だから為政者とされる王侯貴族は、自然と平民と距離をおくのだ。

自分を主として考える平民と親しくしていれば、必要な判断が狂う事を思えば、自分の心を守ろうとしたら自然とそうなる。


距離をとってしまえば、そのうち平民が生きるか死ぬかの極貧生活を送っていても、マリー・アントワネットが言った言葉として伝えられている、パンが無ければケーキを食べれば良いじゃない。

と言った的外れな言葉を放つ価値感の持ち主になってしまうのだ。


この言葉には諸説が有るらしいので、本当にマリー・アントワネットが言った言葉かは分からない。

でも駄目な為政者の代表的な発言として、この台詞を使って表現しているけれど。

何故この価値感が駄目なのかと言えば、少数の人間だけが他人が羨む生活をしていると、文字通りに恨まれて妬まれて、そんな価値感の為政者は引きずり降ろされるから、駄目とされている。


でもそれは同じ人間同士の間で起こるすれ違いなのでまだマシな方で、本当に悪い為政者とは独裁政権で生まれてくる生き物だと私は思っている。


つまりバッカスの母が死のうがシャムはそのまま家庭に持ち込まれ続けるし、塩の値段は高いまま続くのである。

若い戦士が死んでもそれは国の民の数としたら、食糧の生産状況において、必要な犠牲者として扱われるだろう。

全ての人間が死なない環境になると、麦が足らなくなるからだね。

だって外国に輸出しなければ、他国が妬んで戦争を仕掛けて来るからだ。

平地がないから麦が育てられずに買ってるんなら、その平地を奪わなければ国の民が飢え死にするのなれば、どの他国も必死に平地を狙いに来るんじゃ無いだろうか。


その際に起こる戦争の被害を思えば、子供の戦士が死ぬのは些細な犠牲となる。


これが現在先王様がやってた政治で、アルフィンが受け継いだ政治になる。

でも強欲な彼らしくない場面が幾つも見えるのは、先王様と宰相の爺ちゃんの意向が今もなお繁栄され続けてるからだろう。


アルフィンはこの貴族家中心の政治から、ウェスタリアファーストの政治に切り替えようとして、先王様達から反発を食らってる所である。

他国の嫉妬を買わない配慮の有る政治は、現在無双状態にあるウェスタリアからしたら無用の配慮なのよ。

だって戦争しようが負けないし、無駄に戦士を死なせるぐらいなら、他国に勝って賠償金を貰う方がお得だもの。

問題のある姫を他国に嫁がせる事からも、ウェスタリアが他国に強気でいられる事が垣間見える。

だから他国の民が飢えに苦しもうとも、麦を国内で回して国内の餓死者を減らせば国力はあがるよね。

塩にしても価格を決めて国が郵送を経営すれば、本来なら赤字になるから寄らなくて済む場所にも、塩が届くことになる。

その代わりに領主からは塩に対しての権限を奪う形になるから、貴族家からは恨みを買う事も起こるだろうね。

それがウェスタリアファーストの考え方になる。


アルフィンは実に良識的で真面目な人だから、奇跡的なぐらい存在が為政者に相応しい形をしているけれど、すでに為政者としての価値感と、人間としての価値感とのすれ違いに、心が擦り切れそうになって疲れ果てていた。


何故ならアルフィンは真の為政者として魔王になる様に教育されてるのに、先王様達が人間の価値感を押し付けながらも、真の為政者になれと矛盾したことを押し付けて来てるから、頭がバグって混乱してる形になってるのよ。



私がYOU遊んじゃいなよ!

と、悪の道に引っ張ろうとしているのは、思考が為政者寄りの価値感に染まっているアルフィンの疲弊した心を救う為に、人間として持ってる心を尊重して、新しい価値感を持つように教育をしているからだ。


そりゃもう今まで大事にアルフィンを為政者として育てて来た人からしたら、何をしてくれてまんねん!

と、激怒される事を私はしているのです。


だってアルフィンが人の心を亡くした場合。

待ってる未来は冷酷無比の独裁政権的な政治をする魔王が誕生しちゃうから。


魔王魔王と私が心で愛称をつけて呼んでいるのは、私の目にはその未来が見えているからなの。

まさに勇者と魔王の物語に相応しい魔王の素質を、アルフィンは全て持っているのよ。

笑い過ぎて私の姿を隠す事をスッカリ忘れてたせいで、笑う事を恐れてしまったアルフィンが、自分からその笑顔や面白いと感じられるな心を封印出来たなら、人を虐げる事を辛いと思う心だって封印出来るはずなのよね。


そしたら他国の国民が飢えようとしても心は全く痛まないし、塩の生産する領地を貴族から取り上げても全く罪悪感を感じずに済むでしょう?

転移の魔道具を使ってしまえば滅びる村も見捨てられるし、若い戦士達を教育して強くて賢い戦士に育てられたら、街にのこってる使い物にならない貧民を処分して、入れ替えを行う事も出来る。

そしたら国力は自然とあがる訳だよ。

その代わりに泣く人が増えた所で、国全体的な繁栄を思えば為政者としては正しく無視出来る犠牲となる。

そして反発する者は全て謀反を起こしたとして処分すれば良い。

その結果が独裁者による恐怖政治と支配。

アルフィンには寿命がないから、何時までも王様で居られるし、信用ならない家臣は全て切り捨てて、魔法契約が出来る魔法生物でも作って命令を聞く人形を増やせば、アルフィンが正しいと思う政治を延々と続けていられる事になる。

しかも本人は楽しくてそうしてるんじゃないの。

家業だしそれが正しいあり方だと思い込んでるからそうするだけなんだよ。

こんな悪夢みたいな未来なんて、私が認められる筈がないよね。


だからと言う訳じゃ無いけど、まだ人間の心を持っていて、良識的な行動をしてくれるアルフィンを、甘やかして今のウチに人間らしい価値感を持ってもいい事を伝えて行きたいんだけど⋯。


アルフィンは今私の目の前で、私の作業をジーーーーーッと無言で見つめている。

ちなみに今は朝の5時を過ぎた所になるが、まぁやり辛い。

人間らしくって言うか、変態度が上がったと言うか。

なんかもう隠れてないストーカーに狙われてる気がして、ムッチャ気色悪いやら怖いやらで私の心が大惨事よ?!


お陰様であの超然とした魔王の姿が吹き飛んで随分と人間臭くなって来てる。

こんなもんを魔王だなんて呼んだら、世の中の魔王ファンが発狂するレベルで気持ち悪い存在になってるの。


そう!杖を作ってくれたあの部屋のアルフィンみたいな、オタク野郎になってるね!

あの時は魔道具オタクだったけど、今は魔導師オタクか錬成師オタクか⋯合体して魔導錬成師オタクかな!


私は軽く現実逃避ぎみに右手に持ってた普通の5級魔石から魔力を抜いて、左手に持ってる6級の魔石に魔力を移してる所だ。

これはアルフィンの持ち込みの魔石。

実は彼今で王殺しの病を警戒して森に入れてなかったらしく、ゴロゴロドンとか空や山の上やら海の底の魔物とかの、10級と呼ばれてる魔物ぐらいしか倒した経験が無かったらしい。


その中でゴロゴロドンが1番弱くて倒すのが楽だったから、魔石や素材集めのメインの獲物として倒して使ってたのだそう。

今は夜になると南西の辺境の奥に飛んで、魔石を荒稼ぎしてこうして練習用の素材として毎朝持って来るようになった。

だって自由に使える塩が欲しいから。

今海がある貴族がいる領地じゃ無くて、そこから更に遥か南西の方向に、王族が支配出来る直轄領を作ろうとして、ついでに森でヒャッハーしてるのよ。

直轄領と言っても誰も住んでないから、単なるアルフィンの趣味の為のセカンドハウスを作ってんのよ。


私も夜に家業が終わると、アルフィンに拉致られてそのセカンドハウス建設に黒魔石として協力をさせられてんの。

文字通り黒魔石だよ。

つまりアルフィンの魔力タンク扱いだよね!

報酬は勿論そこに置いてある「塩」となっている。

だって塩は料理にも実験にも使うしさぁ~。

母からいちいち叱られるのも、制限がついてる所にわざわざ買いに行くのも面倒だし。

美味しい塩とニガリが手にはいるんなら行くよね?

南国の海ってすっごく綺麗よ。

太陽が無いから照明を打ち上げてるんだけど、ムッチャトロピカルな植物も沢山有るから、甘くて美味しい果実も有るし、デッカい魔物のカニやらエビみたいな海産物も美味しいし、ワカメだか昆布だか分からない謎の海藻だって、手に入れられちゃうんだよ。

手伝うよね?

急斜面の海じゃぁ錬成瓶代わりに使いにくいから、アルフィンが強い海の魔物が入らないように、遠浅にして広い入江形の浜辺を作ってくれたから、私も超興奮した。


ただし父や姉から睡眠時間が無くなるからと言われてるせいで、鐘半分程度のランデブーだ。

でも私もアルフィンも楽しくなっちゃって、初日から門限に遅刻したせいで、兄弟が全員ついて来るコブ付きランデブーになっちゃってる。

主な監視員はゴリラ軍曹だね!

ジーニスがまだ残ってるけど、その間父は母とつかの間のラブラブタイムを満喫してる事だろう。

また弟や妹が出来る日も近いのでは無かろうか。


兄弟達が来るようになったら、居場所として石造りのでっかい宮殿まで作ってくれてるから、もう姉や兄達も探検するのに喜ぶ喜ぶ。

調度品が全く無いから、今ん所は海の見えるバルコニーに、藁を積んでシーツ被せてソファーとして使ってるの。

もうそこだけ農家丸出しだもんで、超ウケる。


最初は渋い顔をしていたアルフィンだったけど、その麦藁のソファーに勇敢な兄弟達が冒険して手に入れてきた南国の植物が追加されたり、テーブル代わりに木の切り株が置かれてたら、アルフィンも段々とそれに慣れてきて違和感を感じなくなって来たみたいだった。


元々南部は魔力が少ない地方だから、魔物も小型で1級や2級が多いし、姉があっさりと魔石から魔力を引っぱる技術を会得して使いこなしてるから、聖獣化してないゴリラになってんのよ。

だって30分しか無いから、それはもう兄弟全員が遊ぶのに必死である。


アルフィンも森に突進して行く兄弟達が放っておいても危なくないように、護身用の魔道具で剣やら服を与えてるもんだから、姉が魔力操作の探知で獲物を見つけたら、兄達が無意識に身体強化魔法を使ってプチ剣士的なチャンバラ小僧になってるもんで、ザクザク魔石を集めてくるのよ。


だって魔法の鞄も使いたい放題使えるから、解体は全部ソレがしてくれるせいで、魔物を倒して兄達が入れるだけで珍しい素材が勝手に増えるもんで、アルフィンだってニコニコだよ。

魔力の保有量が少なくても、私に投げれば観察してからポイントを掴んで、素材を魔力操作で強化するから、3段階上の素材に改良が出来ちゃうと言う。

もうここだけ世界の常識から逸脱しちゃってんのよね。


その時間を作る為に寝る時間を建築や開拓やら狩りに使って、朝の僅かな時間でこうして私から魔力操作を学んでる所になる。


じゃあいつ寝てんの?

となったら、寝てないか昼寝をすると言う超絶ヤバげなライフスタイルになってた。

身体壊すよと叱れば、薬があるから大丈夫だと言って人の忠告なんざ聞きやしねぇ。

もう目がヤバい。

今までずっと長い事憬れてた自由を満喫してるのに、1人きりじゃ無いからもの凄く楽しいんだろうね。


姉もちゃんと軍曹になるけど、全く乙女モードにならない訳じゃ無いから可愛いし。

兄達も姉が躾けてるせいで、凄く素直に言う事を聞くから、帝王学の悪影響から男嫌いの毛があるアルフィンだって、警戒しなくて済む男児が珍しいから、懐かれたら悪い気にならないんだよ。

むしろマルセロなんて見た目は女の子と変わらないから、アルフィンの接し方がなんかムッチャ甘いのよ。

ロベルトもまだ8歳だもんで少年らしい少年なんだけど、段々と可愛く見えて来てるみたいだった。

弟の事が有るからまだ警戒してる様子だけど、懐かしい感覚を思い出してしみじみとしてる様にも見えて、そんな姿が胸がちょっとだけ切なくなる。


これは完全にオフレコだし、私も絶対にこれだけは確認するつもりも無いんだけど。


15歳の箱入り王子だった頃のカルマンさん。

セドリック王子が単独で市中に降りても生き延びられる筈がないから、アルフィンは自分の中でも信頼してる家臣をお供につけてセドリック王子の希望通りに王宮から逃がしたと、以前の私もそう予想を立てている。


それ以上に突っ込んだ事情を敢えて考え無いようにしていたのは、ではそのお供につけられたその家臣は現在何をしているかと言う事の予想を無意識で避けてたんだと思う。

何故なら私はまだ2歳の幼い子供だからだ。


これは聞けば正解が分かる簡単な疑問に思えるけど、それは見せかけのトラップで、完全に地雷になると予想している。


アルフィンが魔王の自分を無理やり抑え込んで、弟のセドリックの兄を思う心を信じて、当時孤立するか愚か者に利用されるかしか無かった弟に、彼は1番信頼出来る人をつけたんだと思う。


でもその人はあくまでもアルフィンの家臣だから、平民の女の子に逆上(のぼ)せてるセドリックの行動を見逃す筈がない。

何故なら王族が外に子供を作れば、それは大きなスキャンダルにもなるし。

何よりもセドリックは、傀儡政治を企む愚か者の駒になる存在だったから、アルフィンの王太子が確定するまでは、絶対に子作りなんてしてはいけない状況だったと思うのよ。


それならそのセドリックを生かす為につけられた優秀な家臣はどう行動を起こすだろうか。

セドリックに言い聞かせるのは勿論だけど、初恋に逆上せてるセドリックには頭では理解しても、気持がどうしてもついて来ないよね。


だって理性的な行動が取れる少年だったのなら、そもそも王宮から逃げ出さずに王太子候補としての勉強に励んでる筈だからだ。


単に世間知らずでワガママなだけだったセドリック王子は、そのつけられた家臣が邪魔に思えたのかも知れない。

それは家臣からしたら恩人のアルフィンへ対する裏切り行為に捉えられたとしても可笑しくは無いよね?


でもアルフィンが弟をとても可愛がってる事を知ってる家臣からすれば、平民でしかないセドリックの恋愛相手を消してしまう方が理にかなうんじゃないかな?


ここでポイントになるのが、この後の展開になる。

セドリック王子は感情で納得して無くても、自分が平民の女の子と恋愛して万が一でも子供が出来たら不味いと言う認識はちゃんと持っている。

もしその家臣がセドリック王子の恋愛相手を害そうとするなら、そしてそれを跳ね除けて逆に家臣の方を排除していたら、カルマンさんは逃げたとは絶対に言わないし、何よりもアルフィンが連絡を寄越して来た時に、何の警戒も無くホイホイホイとウェスタリアに戻って来られるはずも無いのよ。


でもここでまたポイントが有るとすれば、セドリック王子は凄腕の剣士に惚れ込んだ事にある。

アルフィンが信頼する優秀な家臣なら、その人は決して弱くは無いけれど、お人好しだった可能性が捨て切れない。

だからアルフィンは彼が弟を害さないと信頼したし、セドリックを連れて王宮から逃げ出すとか、どう考えたって貧乏くじでしか無い仕事を引き受ける事もしないと思うんだよ。

もしイヤイヤ従ってるんだとしたら、適当な所でセドリック王子は殺されてたんじゃないかと思うのよね。


でもそんなお人好しの付き人が、もし年端も行かない少女に手を掛けるとしたら、幾ら優秀な騎士だったとしても、心から殺したい相手では無い以上、無意識下で手加減していた可能性も捨て切れなくなるんだよ。


そして平民の彼女は、その付き人が感じていた以上の天才だった場合、いきなり命を狙ってきたその付き人に容赦する必要がどこにも無いんだよ。

だから返り討ちにして殺すか大怪我を負わせて、セドリック王子を連れて逃げ出したんじゃ無いかと予想してみる。


ここでセドリック王子はその恋愛相手の女の子から、何処まで事情を聞かされているか。

つまりもし殺した事を聞いていたら、アルフィンから連絡が来ても罪悪感でホイホイ従う筈がないんだよ。

そしてその女の子の方も、セドリックが王子だと知っていたらホイホイウェスタリアについて行く訳が無い事になる。

せいぜいが世間知らずの金持ちのボンボンと行った認識しか持って無かったんじゃ無いかと思うのよ。

セドリックも文字通り世間知らずのボンボンだから、王宮に居場所が無いとは肌で感じていても、アルフィンが何処まで考えて手を打っていたか。

多分何も考えて無かったんじゃ無いだろうか。

それでも付き人から逃げた罪悪感は有るから、罰が悪い思いをしていたとしても、そこまで深い罪をしていると認識して無いから、ホイホイとアルフィンの誘いに従ってウェスタリアに戻って来た事を想像出来てしまうのよね。


魔王として育てられて来たアルフィンからすれば、そのセドリック王子を誑かして、自分から忠臣を奪った平民の剣士は一体どんな存在に見えていたんだろうか。


私はその平民の剣士を、始末するために呼び寄せたんじゃ無いかと考えてるわけなんだよ。

そして予想以上のバカでしか無かった裏切り者が、これ以上のバカをやらかさない為に、目の届く場所まで誘き寄せたと考えるのは、魔王として育てられている者が行う行動とすると、何も矛盾を感じ無いんだよね。


でも虎視眈々とその剣士を排除する機会を伺っていたアルフィンは、直ぐに都合の良い口実を弟自身の連絡から手に入れられる事になったのよ。

何せ都合の良い事に特殊な体質をしていて、真面目に治療をしても回復の見込みが無い状態だったんだから、せっせとセドリックの為に行動をしてる様に見せかけても、その剣士もセドリックもその息子達も、アルフィンが心の奥で抱えてる為政者としての殺意に全く気がつけなかったんだと予想してる。


では何故セドリックの息子達が生かされて来たのかと言えば、もう自分の政権は安定しているから、平民との間に産まれた子供達が、自分の敵にはなり得ないと認識していたからだろう。

セドリックが起こした行動にしても、今度こそ徹底的な管理を行なっても本人ですら何も言えない状態に追い込まれてるんだよね。

それだけの裏切りを重ねた自覚と、妻や息子達にアルフィンがしてきてくれたこれまでの行為を思えば、恩を感じる事はあっても先ずは反抗する事も起こさないと思うんだよ。


そしてアルフィンは無自覚でこの行動をしてる事も、ある意味問題なんだよね。

まるっと為政者の思考で行動しているのに、状況がアルフィンにとても都合が良かったから、人間としての良識的な行動を取っても問題が全く無かったんだよ。


だから誰もアルフィンの異常性に気付けない。

本人ですら全く自覚もして無いんだから、そうなるわな。

アルフィンが為政者としての疑り深さを発揮して、善良な人間の王様として無意識に擬態してるからだ。


周りからそうあるべしと育てられて来てるし、本人も真面目だから実直にそう有ろうとしている。

だからバグって、何の説明もしないで1人で飛び出す厄介な王様になってるのよね。


言う事なす事理由を説明しないから突飛も無いし、周りに気遣いなんてしないから、お嬢さんやお師匠さんみたいに、部下達がワチャワチャになるし。


そりゃ先王様やら宰相は必死に軌道修正を測ろうとして、逆にアルフィンを追い詰める形になってた訳だよ。

むしろバグったアルフィンから宰相は漠然と危機感を感じて、追い払う姿勢までチラ見せしたもんだから、為政者のアルフィンから完全に政敵扱いされてるんだよ。

間に挟まれてる人間の王様だった経験がある先王様は、そりゃ宰相の味方になるしか無いよね。

だって先王様には、アルフィンの行動が理解出来ないからよ。

見かけは同じ人間なのに、アルフィンの心の底にある真実は為政者を真面目に遂行しようとしてる異常者なんだもん。

それに気が付いてない人間には、理解が出来なくて当たり前なんだよね。


帝王学は完全にそれを修得出来ないから、家臣の理想を詰めこんだ無理のある教育になってんのよ。

だって人間はその為政者の思考と相反する良識的な常識も学ばされているから当然そうなる。

でもアルフィンは真面目で優秀だったから、ひたすら家臣から教えられる通りの為政者を目指して修得しようとしてんのよ。

だから心が疲弊して、人間のアルフィンが瀕死になってたんだよね。


だって帝王学の教え通りの為政者になろうとしたら、人間のアルフィンは邪魔になるんだもん。

でも本人も周りも何にも分かって無いから、こんな事を私が説明しても、単なる妄想でしか受け止められ無いのよね。


人間は見たい物しか見ないし、見たくない真実には蓋をして逃避する事も有るんじゃないかな? 

真実は痛いものだけど、過ぎれば猛毒にもなるんだと今なら分かる。


ソーニャ叔母さんが亡くなった原因を公言するのが良くないように、真実を指摘して気付けば良いって問題でも無いから、本当にデリケートなんだよ。

だってアルフィンは1人きりで狂ったまま、永遠に生き続ける事になるのを自覚するって事なのよね。


そんなのを聞いて不安にならない人はいないじゃない?

そうしたら魔王モードが覚醒して、ひとりぼっちにならずに済むように、自分の周りにいる人達全員を魔法生物にしちゃうとか、そんな馬鹿げた状態にならないとも言えない恐れが有るんだよ。

当然そこには私も私の家族も混ざる事になると思ってる。

そんなのは嫌だから、迂闊に指摘する訳にはいかないのよ。


だから私がしてるこの作業は、それはまるでカルマンさんの奥さんが死んだ時と同じみたい。

勝手に有罪判決を下して、本人も周りも誰も気が付かないような完全犯罪の様に私は動かなくちゃいけないのよ。

アルフィンと私との違いが有るとすれば、アルフィンはバレた所で誰も裁けないのに対して、私はアルフィンからの信用を失って家族ごと首を切られて終わる所に違いがあるのよね。


クソゲ並みのベリーハードモードになるんだけど、これは私がわざわざ首を突っ込まなくても良いって所もミソなのよ。

だってアルフィンが狂って独裁者の魔王になったとしても、私は人間として正しく死んで行けば、死別でアルフィンとはおさらば出来るからだ。


ピキっと音を立ててアルフィンの手の中にある1級の魔石が砕けた。


「ウガーー!!!」


椅子に座った姿勢で仰け反ったアルフィンが頭を抱えて雄叫びを挙げてる。

アルフィンの目の前には兄弟が集めた魔石の山と、砕けた魔石を入れる透明錬成瓶が置かれてる。

口いっぱいまで魔法の水をいれてるので、砕けた魔石からその中に魔力が溜まる仕組みにしてるのよ。

揮発させない為に私が水面に魔力で蓋をしてるから、アルフィンが入れる時はとりこむ形で錬成瓶に落として、はい終了。

本格的に作業が終わる時には、本来の栓をしとけば、解放された私の魔力は瓶のなかに魔素になって残る仕組みね。


アルフィンたらこのぺきぺき割る作業を5級やら6級の魔石でやろうとするから、兄弟達が献身的に総力を挙げて1級やら2級の魔石を貢いで、高価な魔石を守ってるよ。

だって今戦士ギルドの買取価格での魔石の値段はこうなってるから。


1級 銀貨1枚

2級 銀貨10枚

3級 銀板20枚

4級 小金貨1枚

5級 金板1枚

6級 白金貨1枚

7級 小神赤金貨1枚

8級以上はオークション


自分で採ってきた魔石をどう扱おうともアルフィンの勝手なんだけど、兄弟達はアルフィンから5級や6級の魔石1個と1級なら10個2級なら5で5級か6級の魔石と交換している。

もう貢いでると言うよりも、暴利を貪ってるよね。

でも魔石が大きければこの魔力操作がやりやすい訳じゃ無いから、どうせ砕くんなら1級や2級の魔石の方が、アルフィンの心理的にもお優しいんだと思われる。


縛りが消えて森に行けるアルフィンは、魔石を山程集められるから、今更通常サイズの5級や6級の魔石をこんなに雑に交換した所で痛くも痒くも無いのよ。

兄弟達にしろ、よもや金板や白金貨に換金するわけにも行かないから、その価値を頭に思い浮かべながら、魔石貯金が貯まるのを眺めて喜んでるだけなんだよ。

もう皆サファイアやエメラルドみたいに綺麗な石が、錬成瓶に貯まるのが嬉しくなってるだけな雰囲気でもある。


ちなみに魔法の鞄の袋は全て再生が確認出来た。

素の魔法の水では恐らくまだ再生は出来て無いだろうけど、アルフィンが量産してる1個の魔石が50個有れば3日で、魔法の鞄が再生出来たのを確認した。

つまり銀貨50枚有れば、鐘1つ分にも満たない時間だけど、魔法の鞄に魔力が回復するのである。

でもそれは空間拡張の効果が辛うじて復活するだけなので、物を入れて浄化させたり分解させたら一発で魔力切れになってしまう。


そこで第二弾として、その魔法の鞄の中に1級の魔石を砕いて放り込んでる所である。

でもこれは経済効率が悪すぎるので、1つだけお試し中なだけで本命は砕いた1級や2級の魔石を50個入れた瓶に、魔法の水を入れて月の光を浴びせた物を使って魔法の鞄の再生に必要な時間を測ってる。

検証者は姉と兄2人とバッカスとタルクス叔父さんだ。

現時点で私は布製であれば、魔法の鞄の再生に成功した。

革製の魔法の鞄も、この原理を油で成功されば再生が可能では無いかと予想している。

でも現時点でナタの油を手に入れる口実が無くて、細々と研究してる段階になるのよ。

油に塩を溶かした物が革製に通用しなければ、超高濃度の魔力を含んだ魔法の水を使って、短時間で魔力回復をするしか無くなるから、そうすると経済的に無理が出て来るので、作り直した方が安くなってしまうのよ。


それとピアの飼育で5日目に捌いた結果、質の良い茶色の毛皮がとれた事で、セフメトに靴屋さんに行かせて公表がてらに聞いてくれた毛皮の手入れは、毛皮の裏の皮が乾燥させない様に油を塗る事と、毛並みを櫛で梳いて汚れは固く絞った布で拭き取って手入れをしているそうだ。

日光と湿気に弱いので、風通しの良い日の当たらない場所出て保管するとも言っていたと情報を取ることが出来た。

ムッチャ面倒⋯。

私が再生させるのはとても簡単だし、お値段も0円でイケるけど、それじゃあ意味が無いのよ。

私じゃ無くても出来る良い方法を探すか、そもそも毛皮を使った魔法の鞄は最高級品として再生不可にしておくか悩んでる所である。


つまり現時点で言えば、日数は必要だけど布製の魔法の鞄なら、安価では無くても平民が扱える値段で再生が可能では無いかと、そう予想している。

勿論こんな魔法陣が剥き出しの状態では市中に流せないので、工夫は必要になるよ。

では何故これらの袋が存在してるかと言えば、これは全部錬成師見習い達の手習いで作られた品だからだよ。

だからサラディーン様やら王宮に勤めてる錬成師の弟子たちの品を、錬成師の重鎮であるアルフィンがお金を出して買ってあげてたんだそう。

これは錬成師見習い達の修行を兼ねた資金援助になるんだってさ。


だから革製の魔法の鞄を再生出来なければ、成功とは見なされない事になる。

でも現時点ではナタの油が小さな一瓶銀貨10枚とお高いから、頭が痛いのよ。

他の油を探すか、ナタを増やすかしないとこの値段では扱えない事になる。


では何が皮と布で違うかと言えば、素材の魔力含有量がかなり違うらしい。

皮は小さな鞄でも最低限以上の空間拡張が行えるけど、布製の鞄は大きくしなければその最低限の空間拡張が行えないし、革製と同等以上の拡張をさせようと思えばベッドぐらいのサイズになるんだそう。

だから最低でも中袋サイズになるので、使用期限が過ぎて魔力が切れても、通常の袋として利用されていたのである。

まぁこれは現時点での話なので、これから私が知識を蓄えて行けば色んな利用法がありそうだから、今からワクワクしてるよ。


それと今は違うけど、バッカスは私が作った元気草入りの豆を潰した人工餌を、魔法の鞄に入れて持ち歩いていた。

実は魔法の水を入れた日の光を浴びせた元気草が爆発的に増殖してるので、餌として安価に使えるのと豆には足らない水分と魔力を補う目的で利用している。

もう罰ゲームなんだけど、試飲はちゃんと頑張ってやってみた。

いつもマリア婆ちゃんが作ってる元気茶に比べると、苦味は半分ぐらいは減ってると感じてる。

でもやっぱり苦いから子供の天敵には違いない。


つまり雛達は産まれた時からクッッ不味い餌を食べさせられているのだけれど、雛もそうだけど、ピヨ子ですら喜んでそれを食べるのだ。

理由は単純に、鳥は歯が無いので丸呑みすらから元気草が苦くても問題は無かった事になる。


じゃあどうして畑の元気草の芽をピヨ子が食べなかったかと言えば、日光に晒されてる時間は少なくても魔力含有量が少なくてお気に召さなかったらしい。


つまり少しでも元気草の味に慣れて貰おうと企んだ私の思惑は大失敗となる。

しかもピヨ子はその元気草入りの餌を食べだしてから更に身体が大きくなるし、ノインの雛達も白くならないけれど親鳥と並んでも遜色のないサイズまで巨大化していた。


だからこの餌はやっぱりダメだねとなって、あの箱の中の餌を食べてた鳥にだけ与えて、新しく卵から産まれたノインの雛達は、近所から分けてもらった幼虫を、魔力を抜いた箱で育てて使う事にしている。

でもダメなのはノインだけで、マドルス爺ちゃんとバッカスはゴロゴとドーンにこの巨大化させる餌をせっせと与えているのだ。

そりゃ獣車を運ぶウェブンなら、大きい方が良いのかも知れないけど⋯育った時にバッカスは果たしてその鳥を制御出来るんだろうか?

と、私は一抹の不安をヒシヒシと感じていたりする。

まぁ言う事を聞かなければ、魔法契約するか魔法生物になるだけなんだけどさ。


一応アルフィンは仕事をしてくれてて、ヴィルヘルムお爺ちゃんの采配で、極秘に調査をしてくれた結果、雛達が食べてる餌の幼虫を人間が食べるとお腹を壊すけれど、普通の食中毒レベルで解毒薬が効くので、重篤な症状を起こす事は今の所は無さそうと判断されたからだ。


そして魔虫の方はと言えば、アウトだったらしい。

てか堂々と人体実験の結果を2歳児に聞かせないで欲しかった。

私はてっきりラットみたいな研究用の魔獣でも使うのかと油断してたので、その話にはかなりドン引きさせられたよ。

もう怖すぎるったらありゃしない。


そしたら治療も現物の幼虫を見た人達は、成体になる前であれば浄化が有効で有ることも確認された。

まだ成体になった状態は実験が途中なので、結果はまだ出て居ないが、魔虫の現物は森にさえ入れば魔獣の毛皮にくっついてる事も多くて手に入れやすいので、捕まえて浄化を試した所。

効果が無かった為に、現時点では治療が不可との判断になるのだそう。

だったら成体の実験を今直ぐ辞めてやれよと小一時間問い詰めたい。


ただ目の色が変わる発症してから、過去の記録からも腹痛になるまでには数カ月経過しているので、事情を知らない他家はともかく王家では今後王殺しに怯える生活は無縁であると判断してるから、アルフィンは森でヒャッハーしているのだ。

私が治せると信じてくれてるのは嬉しいけど、他人の腹を掻っ捌くのは嫌なので発症したら即座に治すようにしようと思う。

てか自分で治せよ。

他人に甘えて生活し過ぎだろ。


私はトマトに似たトトと言う酸味の強い黄色野菜をコトコト煮込み、そこに前日から水に着けてる麦を入れて行く。

麦をつけてた水は月の光を浴びせた井戸水を使用している。

でも魔虫のことがあったので、井戸水は7日だけ利用すると、全てを引き出して井戸の中を浄化するといった適当でしか無いサイクルで掃除をしてるよ。

だから7日毎にすると言うよりも、適当に水が使いたい時に掃除しているね。

ただ7日以上の期間は空けないようにするために、掃除をしたらメモを書いて釣瓶(つるべ)の支柱に釘を刺してる所にぶら下げてある。


油性だから雨に濡れても文字が読めないほど滲まないから、氷の蓋を作る度に正の字を書き込んでるのよ。

なにせカレンダーなんて農家にはないからね?

でも中央や教会が日付を管理してるから、週に一度有る村民や流れの旅商人が野菜や加工肉を持ち合って売る市場(バザー)が1週間を知る機会になってるのよ。

あとその日は教会の学校がお休みになるから、子供達からの情報で日曜日を確認することもある。


そこにカタリナはよく友達と行っていたけど、この春からはご無沙汰になっていたので、今日は久しぶりに友達と遊んで来ると言っていた。

作った入り江に早くも貝が居て、殻を集めてブレスレットを作ると、綺麗な貝殻を昨日沢山集めていたので、友達と皆で分け合ってそんな細工を作って遊ぶらしい。


この辺に貝殻なんてあんまりないから、良いのかな?とは思うけど、里帰りする戦士や旅商人が持ち込んで市場の時に売ってるから、村に綺麗な貝殻が無いとは言えないのよ。


カタリナが海から持ち込んでるのは鮮やかなピンク色や水色や虹色をしてる貝殻だから、そんなもんは絶対に無いだろう!とは思うけど。

理由を聞かれたら戦士をしてる従兄弟から貰ったと言うらしい。


今は丁度西の辺境に行ってるから、そんな戦士の従兄弟は居るし、ウソだけど微妙にウソじゃ無い所がミソだね。

父はそんな話を聞いたら許さないだろうから、これは姉と私の秘密の会話になる。

ウソはヤバいと父からこの前しこたま教育された身としては複雑だけど、この従兄弟の戦士お土産は、実は村のあるある話だったりするんだよ。

だって貝殻なんてタダで幾らでも拾えるから、土産ものには最適なんだわ。


だから雑貨屋に行けば貝殻で作ったボタンとかも売ってるんだってさ。

姉は本当に賢いので、安心して任せられるよ。

それに比べて南国の葉っぱや魔物の爪や牙を友達に見せよとするロベルトやら、マージンの口よりも大きな虫を捕まえて見せようとするマルセロは、姉がボッコボコにシバいてアイテムを没収してた。


もう私はなんも言えねぇよ。

お前らどんな良い訳するつもりだったんだよ。

てかマージンの餌にならない虫なんてもんを村に持ち込んだらそれ、いわゆる外来種だからね?

無邪気に環境破壊をしないで欲しい。


とは言え唯一の友人が魔石を砕いて絶叫してる変態しか居ない私からすれば、土産物を渡そうと思える普通の友達がいる兄弟達は羨ましい限りだよ。

私はそこに牡蠣かムール貝か悩む貝に似た蟹を魔力の腕で持って足を千切り、黄色いトマト風の麦入り野菜スープに放り込んで行く。

気分はパエリアだけど、始めて作るから美味しかどうかは、食べてみないと分からない。

でも茹でるだけで美味しくて大人気な蟹だから、殻が麦に混ざらなければ大丈夫だろう。

アレは出汁を取ってるだけなので、スープで湯がいた後は取り出して、殻から身が取り出し易いように切り込みをいれて、胴体は裂いて麦に中身を入れる予定にしてる。

足の本数が8本なので、恐らく戦争になりそうだから、予備としてあと蟹をお湯で2匹湯がいておく予定である。

他には刺身にしたり、焼いたりと後2匹分は作ってるよ。

胴体は昼か夜にパスタとかで使えば良いしね。


朝から蟹三昧(かにざんまい)とか、何処のセレブよ。

でも湯がくだけで済むから、お手軽で美味しい食材だよね。

ちなみに蟹の大きさは、ドッチボールぐらい有るので、ムッチャ食べ応えがあるの。

でも今じゃアルフィンも食べてるし、向こうの家にも蟹を一匹持っていく予定だから、まぁ残らないのは良い事だよね。

余ったら魔虫が食べるかしら?


あの時厠から持ち出した魔虫は、やっぱり母では姿を見せなければ幼虫すら浄化出来なかったよ。

成体になった魔虫は、姿を見ても浄化か出来ない事もちゃんと実地で教えたから、今後素手で魔物のお肉は絶対に触らないと言って、マゼラン爺ちゃんがくれた手袋を探してたね。

魔法の鞄に出し入れする時は、お肉に触る必要があるからそうなる。


最初はもうお料理なんてしない!って言ってたけど。

私がお嫁に行ったらどうするの?って聞いたら泣きそうな顔をしてたよ。

だから残される父の為にも、今もまだ私と一緒に料理を作って覚えてる所なの。


素材を捌くのはあの魔法の鞄がしてくれるから、最初は渋い顔をしてたけど、今ではマゼラン爺ちゃんがくれた手袋をして、仕分けされたお肉を使って料理をしているよ。

今朝は私が1人で作ってるけどね。


母は今ジーニスのオムツを変えてる所なの。

アレが終われば庭に出て作業をする予定なんだよ。

でも残った魔虫をロベルトとマルセロが育ててる所だから、あんまり庭には行きたくないみたい。

ウッカリ手にした錬成瓶が虫入りだと嫌なんだってさ。

仕方が無いから魔虫の幼虫は、倉庫の箱の近くに置くように場所を決めたよ。

成体になったら解体して、極小の魔石を取りだす予定にしてるの。


それまでは少し塩を入れた魔法の水だけで育つから、養殖にはお手軽で便利な虫なんだよ。

川で生まれて育つのに塩なんか必要無いと思うでしょ?

実際に魔法の水だけでも育つけど、私がわざわざ塩を入れてるのは、その理論を検証してるのも有るけど、あの幼虫が塩の入った水の中でも生きられるからだ。

私が何故そうしてるかと言えば、塩を入れたほうが幼虫の中の魔石の成長に促進に繋がるのではないかと予想したからだ。

勿論私の仮説が正しいかを調べる為に、一匹だけ塩を入れずに魔法の水だけで育てたけど。

4日もすれば身体の大きさか随分と違ったから、後は成体になった時の魔石の違いを確認すれば、仮説の証明は完了するよね。


この仮説は幼虫が人体にの中で生息出来る事と、成体が魔獣に身体にくっついて生息してる事に由来する。

魔力草もそうだけど、どうやらこの世界には雌雄同体の生物が存在してるみたいなのよ。

そして魔虫もその1つなのを、今調べてる所だけど残念ながらとある理由の為に繁殖させるのは断念した。


でもまぁ私の仮説が正しければ、魔虫も同じように雌雄が無くても増殖する存在なのではないかと疑ってる所だ。


魔虫の飼育に対して、父とアルフィンは最初はかなり抵抗してたけど、目が金貨になってるロベルトと、虫がキライじゃ無いマルセロの熱意と、あととある事情のために私の根強い説得で、魔虫の幼虫を取り扱う時は必ず手袋の着用を義務づけた上に、父の監視のもと行う事になってるけど。


塩入りであれば、私が魔虫の入ってる水に直接魔力を流せるようになったから、今幼虫を新しい水に入れ替える作業が必要なのは、一匹だけなんだよ。

だからその一匹を入れ替える時に、父が魔力操作で少しの水と一緒に入れ替えをしてくれてるのだ。

じゃあロベルトとマルセロは何をしてるかと言えば、日中は魔法の鞄に入れて管理をしてるんだよ。


そして元々成体に近かった魔虫が3日で成体になりたさそうに瓶の上に登ろうとしてる所を、マルセロが気付いたので、水を減らして空間を作り、傷入り魔力草を入れてあげたら、魔力草の茎を伝って登った魔虫が葉っぱを食べていた。

そしてそこから1日経過すると、茎と葉っぱの根元に留まっていた魔虫が、白い皮を脱皮をして見慣れた茶色の成体に変化してるのを見て、幼虫は嫌がって近寄らなかったアルフィンすらも混ざって、男性陣は大盛り上がりしてた。


それを姉と母と私は、エイリアンになった男達を見つめてる思いで、遠巻きに観察してたよ。

色がつくだけの変化に、何であれだけ盛り上がれるのかは知らないが、脱皮は男のロマンを刺激するらしく。

仮面をつけた本物のライダーが、男の子達に人気になった原点を見た思いがした。

まぁ女の子だって変身に憧れる気持ちは分かるから、アレが綺麗な蝶々や羽根の綺麗な蝉みたいな虫なら、私も少しは共感出来るのかも知れないけど。

カメムシみたいな茶色の物体に、私はロマンは感じられ無かった。


でもそこで恐ろしい問題が発生した。

なんと最初に産まれた一匹を巡って、ロベルトとマルセロで戦争が起こったのだ。

ロベルトの主張はこの成体になった魔虫を解体して、中から極小の魔石を取りだす事に対して、元々鳥の飼育にも興味を持つぐらい生き物が好きなマルセロは、ペットとして飼うと言い出したのだ。


そこで元々は極小魔石を回収するための飼育だったので、ロベルトの意見の方が正論だったんだけど、血迷ったアルフィンが魔法契約の話をここでぶっ放しやがったのだ。


そしたらじゃあ、最初の一匹だけな!と、ロベルトがコロリと主張を変えた事で、最初の一匹はアルフィンの魔法でマルセロのペットになってしまったのよ。


もうこれには女性陣が総出でドン引き。

姉が虫嫌いで遠くにいて、直ぐに動けなかったのが敗因だった。

私もあんなに簡単にロベルトが主張を覆すとは思っても無かったし、じゃあ魔法契約しようぜ!となってからの、アルフィンの行動が早すぎたせいで、私達は完全に出遅れたのだ。


嬉しそうに目を輝かせては、自分の手の上をチョコチョコと這ってる魔虫に熱い視線を送ってるマルセロと、父を含めた男共全員が盛り上がってるのを見て、私はマルセロが多数の魔虫を引き連れてる虫テイマーの道を歩み始めてる現実に打ちのめされて愕然とした気分で立ち尽くしていた。


母や姉も私と似た感想を抱いたようで、私同様に戦慄して言葉を無くしてたよ。

だが姉は強かった。

「何やってんのよ!」と、近寄れずに居たけれど、声を張り上げて怒鳴りつけてくれた。

そして怒りの波動を受けて、マルセロがサッと魔虫を手で包んで隠したけれど、取り上げられると思ったのに、姉は怒鳴るだけで近寄って来ない事に気付き、しかもそれは直ぐにロベルトにも伝わってしまったのだ。


そして男兄弟達から猛反撃が始まった。

なんと永年虐げられ続けて来た兄達に、魔虫と言う救世主が現れてしまったのだ。


これには私も流石にマズイと予感したので、仲裁に入る形で魔虫の恐ろしさを語って姉に助力する牽制を行ったのだが。

アルフィンは魔法契約にはルールが有る事を説明し始めたせいで、無限に魔虫が増殖する恐ろしい未来は回避出来たけれど、ロベルトも一匹だけ魔虫をペットとして飼う事に希望を抱いてしまったのだ。

しかも父やアルフィンまで乗り気なのが手に負えない。

父はまだ母が泣いて縋れば諦めてくれるだろうが、ロベルトとアルフィンにその攻撃は全く通用しないのだ。


魔法契約のルールとして、契約書の魔力が関係するらしく、腐っても4級相当の魔虫を従えようと思えば、契約する魔虫が望む魔力量も多くなるらしく。

マルセロやロベルトなら一匹が精一杯になるとの事だが、父やアルフィンはもっと多くの魔虫を従えられると言うのだ。

賢い父やアルフィンは、この小さくて強い魔虫の利便性に気付いていたので、下手をすれば我が家が虫の楽園になってしまう。


そこで私はやむなく聖獣化した魔物の末路を語って聞かせた。

人に飼われる事で魔力量が増えた魔虫が、マルセロが死んだ後も生き続けるかも知れないと言えば、流石に男達のテンションも落ち着いてきた。

アルフィン以外はな。

だから取り敢えず複数の魔虫を飼う事は大反対の姿勢を貫いて説得しているが、恐らくアルフィンにはあんまり効果が無かったように思われる。


何故私はアルフィンが嫌そうな顔をしてる時に、こっちのチームに引き入れておかなかったのか。

お前、男キライじゃ無かったのかよ!と、小一時間膝を突き詰めて説教をしたいと思ったが、

今更そんな事をしても無駄なのが分かっていたのでしない。


「そんなウンウンの中で産まれた生き物なんて、連れて家の中に入らないでね!

あとそれ持ってるのがバレたら貴族殺しの冤罪真っしぐらだよ! 

知ってる人は少ないだろうけど、知ってる人は知ってるからね!

それにマル兄ちゃん。

バック兄ちゃんやエターニャお姉ちゃんやセフ兄ちゃんにも見せたら承知しないからね?

それはソーニャ叔母さんを殺した虫なんだよ。

それを見てどんな気持になるかちゃんと考えて行動してね!」


と、現実を突きつけて牽制するのが精一杯だったのだ。

そこでようやくアルフィンも魔虫への熱が落ち着いたようであったけど、魔虫の存在を隠すのはお手の物だろうし。

恐らく魔法の水で育って新しく子孫を残せばこの牽制は無意味になって仕舞うので、魔虫は成体になり次第解体を決意するしか無かった。

アルフィンが肥溜め産以外の魔虫と出会わない事を、祈るしか道は無さそうである。


いや男性陣と共通の話題で盛り上がれるのも、生き物を育てて優しい心を成長させるのも全てアルフィンには良い薬になると思うけど。

せめて虫は止めてくれ!

悲しそうなマルセロの顔は見ていられなかったけど、虫天国は絶対に赦せない乙女のボーダーラインだから仕方が無いよね!


さて魔虫の件があったので今我が家では魔物を厠に捨てるのには懲りたから、今はもう厠に魔物は捨ててない。

基本的に魔物関連の残飯は、天日干しにして焼却処分にしてる。

だから燃えないこの蟹の殻は海に持って行って捨てる予定にしてるから、全て遮光錬成瓶行きになる。

よもやゴミ箱になるとは、錬成瓶は働き者だよね。


あと最近魔力を集めるのは入り江の直ぐ外にある人工深海と海面の中間辺りで行ってる。

本物の深海よりは浅いだろうけど、1番底になると光が届かないぐらいには掘って貰った。

何故なら透明錬成師代わりにしてる入り江から溢れた魔力が、その海底に自然と溜まるようにしているからだ。

勿論魔力には揮発性があるから、海面付近の魔力はかなり低くなるけど、逆に魔力が大きくなれば消え難い性質があるので、集まって重くなった魔力は雨が降るようにして海底に集まる仕組みを、私が予想して試した所。

こんな形になっている。


最初は半分偶然だったのよ。

単に浜辺で遊ぶのに、危険な海洋生物の魔物が来ないように入り江にして貰った時に、アルフィンが入り江予定地の外の土を使ったから入り江よりも深い海底になってたのね。

そしたら日の光を遮れば入り江が錬成瓶になることを思い付いて、夜間は闇魔法のカーテンで日光を遮れば、夜はそれを取っ払えば良くない?

って言って試しに魔道具を作ってやった結果、そうなった。

何なら強い魔物が集まって来るから、一般に渡す時は入り江の錬成瓶は止めた方が良い、隣ったけど。

こう言う失敗を人的被害ゼロで経験したかったから、私からしたら成功だし。

アルフィンだって探しに行かなくても魔物が集まって来るから、素材がホクホクで良い漁場みたいなってる。


だから海に入る時は何時もアルフィンが護衛に付き合って貰ってるけど、潜水艦の容量で私達の周囲を魔力で覆って海の中に潜るのよ。


月の光がギリギリ届く辺りまで降りたら、魔力の壁を操作して潜水艦にしてる壁を分厚くして行くの。

すると魔力に反応して海の魔物が集まって来たら、その魔力を網の形にして魔物を捕獲して、電流を流せば捕獲完了。

あとは魔力の壁の下側を開けると、アルフィンに上に向かって浮上するために下に風の魔法を放つから、獲物入りの網をぶら下げて海面に浮上するのね。


そこで宙に浮いたら魔法の鞄で採った海の魔物をドンドン入れて行くの。

私は今は魔石以外の素材は食糧としてしか必要無いから、食べられそうな魚の魔物の肉と魔石だけを貰って、後は全部アルフィンに持って行って貰ってる。

アルフィンも使い切れないと思うんだけど、目ぼしい物を抜いたら残りはヴィルヘルムお爺ちゃんにそのまま投げるから構わないんだってさ。

ヴィルヘルムお爺ちゃんが便利過ぎる。 


まぁそのヴィルヘルムお爺ちゃんも自分が必要だと思う素材だけを抜いて弟子に投げるんだとは思うけどね。

そんな残飯処理みたいな事をしてて良いのかな?とは思うけど、物によっては8級が混ざってるし、大体が5級から6級の魔物だから、ある程度の人たちまでは良い品が使えるとは思う。


最後の人が貰ったら、余った素材から塩を分離させた後で、畑に使う肥料の素材にならないかを研究して作って貰えないか交渉して頼んだの。

今はもうウンウンの肥料を卒業したいから、父が畑を分けて肥料を試し始めてる所だよ。


ヴィルヘルムお爺ちゃんは元々人口魔石や魔石強化の件を知ってるので、その兼ね合いがあってアルフィンがセカンドハウスを持ってることも知ってるんだよ。

だから素直に私からのお土産だと伝えてるから、魔虫の話も知ってるお爺ちゃんは、飼料作りにも協力してくれてるんだよね。

最近は驚かなくなって来たからつまらんと、アルフィンがボヤいてたのがちょっとウケた。


「黒魔石!

何か良い方法は他に無いのか?!」

「言ったでしょう?

修行有るのみだよ。

理屈は教えたよね?

お母さんみたいな事になってたら、アルフィンは今頃生きてられなかったんだから、仕方がないよね?


私達が産まれてからずっとして来た事が、アルフィンには出来なかったんだから、難しくて当たり前なんだよ。

もし1つだけ言える事が有るなら、ちゃんと寝なさい。

薬で誤魔化しても、ずっとイライラしてるのは、ちゃんと神経が休めて無いからだよ。」

「しかし!

これから王としての仕事が有るのだ!」

「うん。だから纏まった休みを貰えるように、ちゃんと交渉をすれば良いって前も言ったでしょう。

そこで1日で良いから何もしないで食っちゃ寝して、のんびり過ごして疲労を癒すのよ。

そしたら集中力も戻ってくるし、苦労した経験も有るんだから、魔石から魔力を引き出す魔力操作だって使えるようになれるよ。」

「⋯むぅ⋯しかし仕事を投げ出して放蕩に耽れば、王の座を払う奴らの言い分にはなりはしないだろうか⋯」

「払いたかろうと、アルフィンにそんな真似が出来る人は居ないから、好きに言わせとけばいいのよ。

だってアルフィンは今、大事な勉強をしてる所なの。

魔力操作もそうだけど、海の中の仕組みにしても、いままで随分と見えて無かった色んな物が見えて来るようになって来たんじゃない?

最近は前と比べたら随分と息がしやすくなったでしょう?

毎日が苦痛で仕方が無かったから、そうだったんだよ。

今はその苦痛が減ったから、気分が楽になって来たと思わない?」

「それは⋯まぁ⋯うむ。」

「後はちゃんと好きな事にのめり込み過ぎないで、仕事と趣味の時間を分けて、安みを取って、人間らしい生活を送ることが目標だよ。


自分の居心地の良い住処の作り方は、今学んでる所だけど、それでも何も知らなかった頃よりかは分かるようになって来てるでしょう?」

「しかし⋯この様な真似を続けていて良いのだろうか⋯」

「それは今まではダメと言われて教育されて来たからそう感じるんだよ。

でもその生活のままだと、アルフィンは苦しくて疲れたから、今それを見直そうとしてるんだよね?」

「⋯だが、世は不安で堪らぬのだ。 

こうまで己の事に邁進して、果たして許されるので有ろうか⋯」

「それを知るための交渉でしよまう。

なんならこんな事をしてるんですよって、先王様や最初のお爺ちゃんをあの場所に連れて行ってアルフィンの成果を見せてあげればいいじゃ無い。」

「駄目だ!その様な真似をすれば、また口やかましく批判するに決まっておる!

奴らは何時もそうなのだ!

世が良いと思う事は全て批判して、回りくどく邪魔を続けておる。

それでも代わりを用意するのも手間であるゆえ、放置しておるに過ぎぬ!」

「ふぅ~⋯根深いなぁ⋯。

どうすればアルフィンの事を先王様達に分かって貰えるんだろう。

私が謁見室でお話しただけじゃ、伝わらなかったって事だよね。

だから理解が出来るように、アルフィンの本当の姿を見せて、教えてあげたいんだけどなぁ⋯。

私がアルフィンと同じ年頃に男として産まれて来れたら良かったのかな?

そしたら今よりももっとアルフィンの手伝いもしやすかっただろうし、先王様達も安心出来たのかなぁ?」

「⋯フン。それはあり得ぬ。」

「うん?どうして?

女の子の言葉よりも男の子の言葉の方が皆話を良く聞いてくれるじゃない。」

「むしろ女児だからこそ許されて居るのだ。

男児で有るなら既に其方は生きて居らんわ。」

「アルフィンが嫉妬で狂っちゃうから?」

「むっ⋯。そうでは無い。

為政者の視点で見れば其方の才能は脅威なのだ。

平民で有りながらにして貴族の在り方への理解も深く、また他を導く手腕も持ち合わせて居る。

しかも我が強く傘下に収まる器でも無い。

魔法の扱いも巧みで、その気付きから産まれる知識は恐ろしいほどの力を持っておる。

さすれば世は王として其方を治世を乱す脅威の存在と見なし、正しく排除しておったで有ろうよ。」

「じゃあ女の子でもそれは同じじゃない?」

「フン。

家長は男児でしか継げぬ。

さすれば其方がどれほどの能力を秘めようとも妻として身のうちに取り込めば良いのだ。」

「うっわ最悪。

今サラッと嫁にする宣言しやがった。

キッショ!」

「何を申すか!

世は王としてこの国を統べる者で有れば、これ程の良縁は無かろう!」

「ハイハイお爺ちゃん。

今はもう朝だから、寝言は寝てから言って下さいね〜」

「世は其方の祖父では無いと何時も申しておろう!」

「赤の他人のジジイとか余計にたちが悪いわ!

あのなアルフィン。

俺はちゃんとお前の事を愛してるぜ?

でもそれは友人としての愛情であって、男女のそれじゃねぇんだわ。」

「それは其方がまだ幼いからで有ろう。

年頃になればその想いも変わるで有ろう。」

「自信満々な所悪いがそりゃ空から槍が振ってくるぐれぇにあり得ねぇわ。

少なくとも俺にお前のその美貌とやらは通用しねぇぞ?

随分と自信が有るみてぇだが、俺を並みの女と同じにして貰っちゃ困るんだよ。

こちとら真実を見通す目を持ってんの知ってんだろう?

友人としたら面白くて最高な男だろうが、お前は恋愛対象の男として見たら最悪なカス野郎なんだよ!」

「なっ?!」

「そもそも平民は妻は1人しか居ねぇんだ。

アルフィンも俺の両親がどんなか知ってんだろ?

ウチのお父さんはお母さんが大好きだから、友達付き合いすらしないで、ずっと側にいるんだぞ?

しかも記憶がチョイチョイ飛ぶような、障害を持ってる面倒な女だからって軽く扱う事もしねぇで大事にしてんだよ。


そこでお前は自分の事を思い返してみろよ。

妻を放ったらかして毎晩夜遊びに耽ってる旦那なんざ、最悪の部類だぞ?

そろそろお前ん所にもその辺の苦情がちゃんと入ってんだろが!」

「うっ⋯」

「女を下に見んのも大概にしやがれ!

テメェなんざ馬女の変態野郎を通り越して騎士のパンツだ!」

「はぁ?!」

「しかも浄化も洗濯もしねぇで履きっぱなしのクッソ汚えパンツ野郎だな!」


アルフィンが目を見開いて呆然としている。

私がフンと鼻を鳴らすと、ワナワナと小刻みに震え始めた。


「暴言が過ぎるで有ろう!

何故世はそこまでの侮辱を受けねば成らぬ。

流石にそこまで言われてしまえば、世も看過は出来ぬぞ!」

「じゃあどーすんだ?

お爺ちゃんキライ!ってチビに言われて怒り狂って俺を殺すのか?

は!やってみろよ。

この腐ったパンツ野郎が!

テメェに足りてねぇのは正にソレなんだよ。」


アルフィンは文字通り目を三角にして無茶苦茶怒ってるけど、ギリギリで絶えてくれてる。

だから私も怒りを控えたくて、ふぅ~と吐息をつく。

これ以上不要に刺激しないように口調を女の子に戻す事にした。


「相手の立場に立って物事を考える。

これは人間関係を円滑にして物事を進める為に1番大事な技術なんだよ?

私がもしアルフィンのお嫁さんになりたいと思うんならその鼻持ち鳴らな傲慢な態度でも赦してあげるよ。


でもこの今回の場合は違うでしょう!

誰が好き好んで私の立場も考えもしない脳みそが足らない傲慢野郎なんかの嫁になりたがると思うの?。

それでも私を嫁にしたいって言うんなら、今いる奥さん達全員が納得する形にしてから、王族を辞めて平民になってよ。


私は誘拐された時の保険として貴族になるのを許したけど、心は平民のまま生きて死ぬつもりよ?


私がアルフィンに自分から惚れこんで嫁になりたいからなるんじゃ無ければ、脅されたってお嫁さんにはならないわ。

貴方がたった一人で国を築く事の出来る王様だって言うのなら、私は誰にも縛られずに生きて行く正真正銘の10級の黒魔石なんだよ。

私に触れる事が出来るのは、私に許された人だけが出来るって事を忘れないでね。」


怒りに歪んでいた人間らしいアルフィンの顔が凍りついたように固まって、頭の上に???が飛んでいる。


次第に顔から険しさが薄れてくると、口を開いて何かを言おうとして、また口を閉ざした。

そして何かを考えるかの様に少しだけ視線を彷徨わせると。


「⋯世は、王になる為に育てられ、皆に望まれて王として有るのだが⋯」

「だったら何よ。」


私が短い腕を組んで睨みつけると、またアルフィンはキョロと視線を彷徨わせた。


「世は王で無ければ成らぬのだが?」

「そんなものは貴方の事情なだけで、私には全く関係ないわね!」


此方の機嫌を伺うように、似た言葉を繰り返すだけのヤツに私がキッパリと断言すると、アルフィンは眉毛を8の字にして困った顔をする。


「世を独り占めしたいと申すのか?

それは少しばかり強欲では無いかと思うのだが⋯」

「キッショ!

何でそんな発想になりやがった?!」


効きすぎた?!

ちょっと甘い顔をしたら直ぐコレだ。

心からそう叫んだのに、アルフィンは急に頬を染めてチラチラとこちらを見ながらハニカンでいる。


いやもう疲れる。

このバカ、都合の良い言葉だけを受け取って繋げちまった気がするぞ?

アルフィンの、脳内変換で私がツンデレ扱いされてる気がして、思わず身震いがする。


悍ましさに私が固まっていると、テーブルに右手で頬杖をついて、男性らしい長くて美しい左手の指先でトントンとテーブル叩く。

視線は私から少し斜めを見ている様であるが、恐らく何も見て居ないと思われる。

またロクでも無いことを考えてなきゃいいなと、私は恐る恐る7級になった魔石を透明錬成瓶にポトリと入れて、スッカリ魔力が抜けて白くなった元5級の魔石を錬成瓶にいれて行く。


そして新しい5級の魔石を左手にとって、小皿にある塩をチョンと指先につけると、次は3級の魔石を手に取り、そこから吸い上げた魔力を5級の魔石に移し替えていた。


私は今あの日の夜に見つけたブレイクスルーの技術を使って、自分が普段使う為の魔石を強化している。

人間の私自身を本物の黒魔石にまでにした、恐らく私が生きて行く中でもこれ以上の気づきは無いと誇れるぐらいの、どデカい発見だよ。


魔力草から始まって数々の研究を重ねてついに届いた発見になるけど、実はコレ、一度忘れてるんだよね。

やたらとテンションが高かったり、イライラしててアルフィンを呼び出した事までは何とか覚えてた。

でも目が覚めてアルフィンからもの凄い追求を受けたけど、その時は本当に忘れてたんだよ。


でも自分でこのブレイクスルーの記憶を一度消してしまったと直ぐに気付いた私は、その理由は何だったんだろうと少しだけ考えたけど、アルフィンにわざわざ知らせたとしたら疑心暗鬼にするつもりでは無かったのでは無いかと思い至っていた。


記憶を無くす前の私の思惑通りに、アルフィンはしつこく追求を始めた。

それはもう何時も隠していた魔王の本性丸出しにして、猜疑心に満ちた視線を私に向けて、言わんかったら殺すと顔に貼り付けながらの執拗な追求だった。

ここから先はあの夜の翌日。

薬を飲んで回復したお昼前の出来事だ。


「お前がそんなだから、多分俺は自分で自分の記憶を消しちまったんじゃねぇの?」

「はぁ?!何だそれは!」

「それぐらいこの技術がヤベェって事だろう?

お前もそんくらい分かるだろ!」

「その様な事を申しておいて世を(たばか)るつもりで有ろう!」

「なぁそんな事して俺になんか良いことあんのか?」

「それはっ⋯」

「それに今はスッカリ忘れてっけど、他にやる事が沢山有るんだよ。

そのうちどうせ思い出すだろうから、待ってればいいんじゃ無ぇの?」

「やはり其方は覚えておるのだな?!」

「いや、綺麗さっぱり忘れてるぜ?

モヤモヤもしてねぇし、完全に一欠片も記憶は残ってねぇよ。」

「何故その様な事が起こるのだ?!」

「回復魔法を利用して物を忘れると、頭ん中に薄っすら記憶が残ってて、思い出せそうで思い出せない感じでモヤモヤするんだよ。

昨日のバック兄ちゃん覚えてるだろ?

あんな感じになるんだけど、今はそれも全く無いんだよ。


でもそれは俺が限界まで魔力を使ってたんなら、それが理由なんじゃねぇの?

だから俺は熱出してぶっ倒れてたんだろ?」

「むう⋯だが其方が虚言を申して居らぬ理由にはならん。

そもそもそれならば、その内思い出すとは何の根拠があって、そような不確かな発言が出来るので有ろうか。」

「そんなもん俺が黒魔石だからに決まってんだろうが。

自分で思い付いてんだから、そこに気付ける情報は全部俺ん中に残ってんだよ。


それに俺が意識を失う直前まで何をしてたのか、俺が覚えてなくても皆が覚えてんだろ?

だったら話を聞けば、それを頼りに忘れた記憶を取り戻すなんざ、俺には簡単な作業なんだよ。」

「では今すぐ説明してやろう。

さすれば思い出すので有ろう!」

「物事には優先順位ってのが有るのを知ってるか?

今最優先しなくちゃならねぇのは、雛の餌をどうするかだろ!」

「その様な世迷い(ごと)を申しておる場合では無いわ!」

「バカ言ってんじゃねぇぞゴラ!

テメェにとったら単なるノインなんざゴミみてぇなもんだろうが、コチトラそれを家業にして生活してんだよ!


テメェが分かるように説明したら、ウチのノインはテメェからしたら民みてぇなもんなんだ。

テメェが曲がりなりにも王様を名乗ってんなら、民の命を優先しない王様が、どんだけバカか分かんだろうが!」

「むうぅぅ⋯ではその餌を早く用意すれば良いのであるな?!

だが⋯餌はもうあの者が揃えておったのでは無いのか?」

「そりゃ隣の家から似たような餌を分けて貰っただけだろが。

テメェ何のためにウチの餌を全部持って行ってんだよ。

危ねえから調べるのに持って行ったんじゃねぇのか?

隣だって魔力草が無いだけで、箱の底や厠に幼虫が住み着いてるに決まってんだろが。

こんなもん言われなくてもテメェぐらい優秀な頭がついてたら分かんだろ!」

「そ、それは⋯」

「テメェが欲に目が眩んでるからそんな無様な真似になってんだ!

口からダラダラヨダレを垂らして、餌を貰うのを待ってないでお前はちゃんと自分の仕事をしろよな!

そこん所ちゃんと理解して反省しろ!

ノインの餌を開発したら、次はちゃんと魔石の事を取り組んでやっからよ!

てかこの為の時間を稼ぐのに俺は魔石の事を忘れさせたんじゃねぇの?」

「む⋯」

「どえせテメェが幼児返りして駄々っ子になるのが、分かってたんだろうよ!

実際そうだったしな!」

「ぐうぅ⋯世は、世は王であるぞ!」

「だったら何だっつーんだ!

コチトラ10級の黒魔石だ!

テメェなんざたかが1つの国の王様じゃねぇか!

俺の知識はイスガルド大陸に住む全ての国から欲しがられる知識なんだぞ!

俺が認めてねぇ野郎にそんなもんホイホイと渡す訳がねぇよなぁ!

俺にちゃんと認めて欲しけりゃ、ちゃんと俺の言う事を聞いて大人しく待ってやがれ!

無理やり手に入れようなんざ舐めた真似しやがったら、こんなくだらねぇ知識なんざ一生闇に葬ってやるからな!」

「ウググ⋯」

「俺がお前を友達だと思って知識を渡してたのは、人間のアルフィンが良いヤツだったからだ!

今の欲に目が眩んで傲慢な王様に成り果てたロクでもねぇ野郎なんざ、俺が友達だなんて認める訳がねぇだろうがよ!

顔を洗って出直して来やがれ!」


とまぁこんな感じでブチ切れた私だったけれど、叱られたのに褒められた感じになったアルフィンは、いきなりハシゴを外されてしまった感じになってしまい。

王様として怒ればいいのか、でもなんか照れくさいんだけど、みたいな複雑な気持のまま混乱して、しばらく完全に動きが止まってしまったのだ。


私はその隙に雛が元気草を食べてくれる事を願って、もう瓶の中ビッシリに茂ってる元気草の葉っぱと、庭に植えてある豆を収穫してノインの餌の開発に向かったのである。

この時もうお日様が完全に登っていたので、魔力草や月の光を浴びせた水が気になったけれど、そう思って姉に話を聞いたら、アルフィンが皆から頼られて預かってくれてるらしい。

だから完全に停止してリビングに立ち尽くしてたアルフィンに。


「おう!アルフィン、魔力草と月の光の水のことありがとう!

スッゲェ助かったよ。

餌が出来たらまた思い出せるように頑張るから、ちょっとだけ待っててくれよな!」


と、声をかけたら素直にうんと声もなく1つだけ頷いて、アルフィンはスッと姿を消して行った。


口も効きたくないぐらいにムカついてたらしいが、それでも知識が欲しくて大人しく私に従う事にしたらしい。

ヤツの中にある本物のアルフィンが、何処まで残ってるのかは目に見えないから分からないけど、もう殆ど消えてしまったかも知れないアルフィンを、私はこれから頑張って取り戻さなければならないのだと。

なんとなくこの時実感した様な気がしていた。


私がアルフィンとやり合ったのは、あの日の翌日の事だったけど、11時頃に豆と元気草の餌を持ってバッカスの所へ向かうと、もの凄く険悪な表情で睨まれてしまった。


「爺ちゃんから話は聞いたぞ。でも人の記憶を消すなんて、なんでそんな真似してんだよ。

アレってすっごく嫌な気持になるんだからな!

もう勝手にあんな真似二度とすんじゃねぇぞ!」

「うん。でもあのままだとバック兄ちゃんは、バカな英雄になってもの凄く後悔すると思ったんだよ。」

「な?!

バカな英雄って何だよ!」

「だってソーニャさんみたいに病気になって亡くなったら、残された子供達が可哀想だから、皆に知らせなくちゃって思い込んでるみたいだったけど。

バック兄ちゃんが本当に助けたかったのは、お母さんを亡くして悲しい思いをした昔のバック兄ちゃんなのが分かったから、ちゃんと止めないと大変な事になると思ったんだよ。」

「はあ?!何だよそれっ⋯」

「だって私にはシャモが危険だと思われて、狩っても誰も買わないから、狩人に狩られなくなって増えたシャモが、ドンドンあの幼虫が入った魚を食べてしまうから、魚が減って幼虫が食べられないまま育って、ドンドン数が増えて行くから、川から流されて村の人工小川に流れ着く事が簡単に想像できてたの。

そこであの幼虫が日の光を嫌って小川に暮らしてる生き物の中に住み着くから、それを食べた多くの幼い子供達が苦しむ姿もみえてたんだよね。

だからその話を聞いたら、バック兄ちゃんはもの凄く後悔すると思ったんだよ。」

「ほ、本当にそんな事になるとか、分かんねぇだろうが!」

「お兄ちゃん。

私はそれが分かる子供だから、黒魔石なんて呼ばれて王様があんなに私にへばりついて離れないんだよ。

王様なら普通だったら、自分で動かないで部下の人たちに私を見張らせれば良いと思わない?」

「そ⋯それは⋯」

「それが出来ないぐらいに、私は本当にヤバいんだよ。」

「っっ⋯!」

「バック兄ちゃんが思ってる以上に、私の能力が凄いから私は人間の子供なのに黒魔石だなんてあだ名をつけられてそう呼ばれてるんだよ?

だからバック兄ちゃんが気付いて無かった本当の気持ちにも気が付いたんだよ。

お兄ちゃん。

本当に子供のためを思って、シャモの話を皆に伝えないといけないと考えてた?

今なら自分の中にある本物の気持ちに気がつけるんじゃ無いの?」

「あっ⋯」


バッカスは私を恐ろしい物を見るような、そんな怯えた目で見つめて顔をサッと青白くさせた。

小刻みに震え始めた身体や指先からは、本物の気持ちに気付いてしまった彼が、それを否定したいのに出来なくて私を恐れる事で、身勝手な自分の罪悪感から、目を背けようとしてる事がありありと伝わって来る。


「まぁそれは良いとして、今朝隣の家からあの幼虫を貰って来てくれたんだよね?」

「え?⋯あぁ⋯うん。」

「でもそこの家の箱の底にも、あの幼虫が住んでるんじゃないかと思うんだよ。」

「ヒッ⋯」


畑に出払った隙を狙って鳥小屋の掃除をしていたバッカスが、怯えて箒を落としたせいで、落ちた箒がカランと音を立てた。


「大丈夫だよ。

魔力草が無ければ、よっぽど強い魔物を狩ってきて厠に捨ててなきゃ、あんな事にはならないから。」

「で、でもっ⋯」

「だって今までもあの幼虫は厠にずっと住んでて、掃除だってしてるけど、誰も病気になんてなって無かったでしょう?」

「あ⋯そう言えば⋯なんで何だ?」

「厠の肥溜めから、押しぐるまに肥を運ぶ時には皆必ず手袋をして、桶やスコップを使って組み上げては運んでたからじゃない?」

「あ⋯うん。

そっか⋯そんな事で大丈夫だったのかよ⋯でもそんな事を言ってたっけ⋯。」

「それに魔力草の根っ子を捨てて無ければ、魔力が足らなくて幼虫は大人になれないんだよ。

だって4級相当の魔物なのが魔虫なんだもん。

だから4級相当の獲物を狩ってきて、厠に捨ててないと成虫にはなれないんだと思うんだよ。

狩人なら4級以上の獲物は全部戦士ギルドに持っていくから、家では食べないよね?」

「あぁ⋯うん。確かにそうだな。

ってか魔力草ってそんなにヤベェのかよ。

だって林にわんさか生えてるじゃねぇか。」

「ウチの魔力草は自然の物よりもずっと魔力が高くなるように、工夫して育ててるからそうなんだよ。

だから自然の魔力草とは全然違うと思っててくれて良いと思うよ。

多分野生のノインよりも、バック兄ちゃんが育ててるノインの方が大きかったり美味しかったりするのと同じ理由だよ!」

「え?!あ⋯そうなのかな?

ちょっと野生のノインを知らねえから、俺には分かんねぇけど⋯」

「だって他の家でもノインは畑に必要だから育ててるけど、売ってる人なんてそんなに居ないよね?

それはその人達が育ててるノインよりも、ウチのノインの方が美味しいからじゃないかな?」

「うーん⋯今度隣ん家に餌を分けて貰った礼としてノインを捌いて持って行こうと考えてたから、ちょっと話を聞いてみようかな⋯」


無意識のうちに私の言葉を疑いたくなったバッカスがそう小さく呟いてたけど、鳥の話をして気分が紛れたみたいで、身体の震えは止まってるし、落とした箒を拾う余裕も戻ってきた様だった。


でもまぁノインは畑の元気草と卵の為に育ててるから、隣の家が捌くのはお祝いでも無ければ、年老いて仕事が出来なくなったノインになるから、育てて1年目の柔らかいウチに肉にする、我が家のノインとは比べ物にならないと考えてる。

餌も向こうは最低限の品質が有れば良いから、水に魔石を砕いて入れるなんて工夫もして無いだろうしね!

隣のノインなんて食べなくても、それだけで肉質が変わるのなんて直ぐに分かるよ。

だから私の言葉を疑いたくても、バッカスは隣の家の人からウチの鳥の美味しさを熱く語られて、微妙な表情で照れてる未来しか私には見えないかな!


「雛の餌の食いつきはどうだった?」

「あんまり食わなかったな。

口に入れても直ぐに出しちまったんだよ。」

「それじゃ雛達はお腹が空いてるよね?」

「あぁ、今ん所はピーピー煩えけど他に餌は無いし、どうしたら良いかと悩んでたんだよ。」

「うん。だから餌を作って来たんだけど、雛にあげてみてくれないかな?」


そう言ってバッカスに元気草と豆の餌を入れた遮光錬成瓶を出して手渡す。


「えとこの緑色にしたのが、餌なのか?」

「そうだよ。

豆と元気草の葉っぱを茹でて潰して混ぜた物を、少しの麦粉で固めてあるの。」

「でもちゃんとツブツブになってるぞ?」

「それは魔力で網を作って上から押した所をナイフで切ってるからだよ。」

「へぇ⋯魔力で網なんて作れんのかよ。

珍しい魔法だな?」

「私のオリジナルだけど、網籠でも出来るから、バック兄ちゃんも餌を作れると思うよ?」

「ハハハ!俺は料理なんてしたことねぇし、そこはリリアナがやってくれよな!」


バッカスがやっと普段の調子を取り戻して来たので、私はそれにホッとしながらも。


「私が責任を取るのはこの雛たちだけになるから、一応頑張って作るけど、もし私が家から出て行くことになったら、作り方を知らないと困るのはバック兄ちゃんだよ?」

「うぇ?!」

「王様の剣幕を思い出してよ。

今回ももの凄い発見をしちゃったから、王様が本気になれば私なんか直ぐに連れて行かれちゃうよ?」

「うわ!マジか!」

「ちゃんと餌が届くように頑張って説得するつもりだけど、どうなるかは分からないから、バック兄ちゃんもちゃんと覚えてね?」

「う〜⋯エターニャにやらせようぜ?」

「でもエターニャお姉ちゃんも、今回の雛達は良いけど、お嫁に行くんじゃないの?」

「はぁ?!まだ全然早いだろうが!

そんな心配はまだ要らねえだろ。」

「分かったよ。

そこまで言われて教える義理はないからね?

それじゃエターニャお姉ちゃんにでも教えておくよ。」


この5日後に隣の家からノインを褒められていい気分になっていたバッカスが、大きさが明らかに違ってきてる雛達を見て欲に駆られたらしく。

ウェブンにも効くかも知れないと考えた事もあり、結局私に餌の作り方を習いにやって来たのだ。

エターニャに教わって作ったけれど、私が作った餌と違って食いつきが悪かったらしい。


エターニャに作り方を確認したら、魔法の水を使わずに祖父宅の井戸水を入れた瓶の水を使っていたのが分かった。

魔法の水を入れる理由を説明してなかった私の落ち度だったので、そこでようやく問題は解決したけども、先の事を思えば必要になるからと、バッカスはこの時に作った餌を必死に真似して、自分で作る羽目になったのである。


元気草も普通の元気草と違って魔法の水を使って育てていることや、透明錬成瓶が銀貨20枚で大型透明錬成瓶が銀板1枚なのを聞いて、バッカスやエターニャはひっくり返りそうになってたけれど。

元気草は瓶の中に入れて育てないと恐ろしい事になり、周りに住んでる農家に大きな被害を与える事も説明したら、2人とも真剣な表情をして、錬成瓶の必要性をシッカリと学んでくれたよ。

だから今は修行期間中なので、雛の餌はバッカスが作ってるから、実はもう私の手から餌作りは離れてしまったのだ。

その効果を狙ってた訳じゃ無いけれど、透明錬成瓶と大型透明錬成瓶を1本づつバッカス用に魔法の袋を作っていれてプレゼントしてある。


そしてまたあの日の翌日の昼に話を戻すと、雛の餌の食いつきが良かったので、その件は一件落着したけれど、今度は魔虫の幼虫の話になった。


お昼ご飯は雛の餌を作るついでに仕込んでいたので、私が始めて作った卵麦粥に、浄化した生卵にタマの果汁を入れて、そこに父が見本として買ってきたばかりの、液体状で1番臭みが少なくて、むしろ良い匂いだったナムと言う植物の種から採った油を混ぜて、魔力の腕の先を泡立て器状態にしてかき混ぜてマヨネーズを作り。

母が育ててる野菜を生でスライスさせた物と、トマトに似たトトと言う黄色い野菜を潰した物を混ぜてオーロラソースを作った。

マヨネーズとオーロラソースは小皿に分けて食べ比べ出来るようにしてる。

肉はノインの肉を魔力の腕を使ってナイフで細切れにして、ミンチを作り、豆の砕いた物と、麦粉と卵を混ぜて豆腐ハンバーグにした。

ソース系は無かったから、オーロラソースで食べれば良いなと思いつつも、大型透明錬成瓶にトトとヤマとタマの実の皮を魔法の鞄で剥いて入れてから、塩を沢山入れてお手製のソースを作る事にした。

最悪浅漬けになると考えてたので、お粥には合うと思うんだよ。

大型透明錬成瓶にしたのは、単に容量の大きな瓶が使いたかっただけなので、大型遮光錬成瓶を今度発注しようか悩んでる。

だって瓶が多すぎても扱い切れない事が分かったからね。

だから当分の間は大型透明錬成瓶を使ってソースを作る事になる。

なので直ぐに食べられるキュウリに似たナズルと言う野菜と、シソに似たハムと言うバジルも収穫して、塩揉みにしたものをスライスして、遮光錬成瓶に入れてある。

これは昼に食べようと思ってるけど、梅干しとして今度タマの実を塩漬けしでようかと思いついた。


なぁ〜何でこんなに豊富な食材があったのに、塩漬けなんて簡単な料理が無かったんだ?

と疑問に思って、直ぐに塩が高い事を思い出したよ。

つまりこんな調子で塩漬け料理は作れない事になる。

梅干しなんて、それこそ塩が沢山必要だからね。

だから塩への欲求不満がムッチャ高まったけど、無い物ねだりは出来ないんだよ。


ピコン♪

そこで私はアルフィンにセカンドハウス計画を持ちかける事を思いついたのだった。

西の端に近い南の方ならまだ開拓も当分出来ないし、東の果てよりかは近いから、あのルドルフ大帝国に行った時に使った転移魔道具も使う事が出来る。

更に転移魔道具と繋いでも、間に困る農村は1つも無いのだ。

何せ新しく開拓するんだから、まだ商人が1人も居ないからね!

それには沢山魔力が必要になるけど、それこそ忘れた記憶を取り戻す事が出来たら、月の光を浴びせる時間を吹っ飛ばして魔石の強化が出来るのなら、イケるやろ!と、考えついたのだ。


幼虫の事は食後にする方が良いに決まってるから、私は情報を探るべく豆腐ハンバーグをトトの実で煮込みながら、あの日の直前までの記憶を思い返していた。


確か記憶が無くなったのは、私が母から塩壺を受け取って、遮光錬成瓶に塩を移し替えてた所で、塩と魔石強化と言えば、浸透率が関係する。

つまり手の中に塩をつけて魔法の水で水分調整をしてやれば、魔石から魔力を直接引き出せるのでは?

と、ムッチャ簡単にそこに辿りいてビックリする。

しかも私は更に1つステップを進める事が出来たのだ。


頭にフラッシュバックが起きて、ピアの血を使って魔石強化した日の記憶、淡水で生活してる筈の魔虫の幼虫が何故人間の身体の中で成長するのか、塩と海。

この海についてはまだ映像は無かったけれど、『海』と、久しぶりに日本語の単語が頭の中に浮かんだ瞬間、身体に雷が落ちたかの様な衝撃が走ったのである。


「アルフィン!

ヤベェ、アルフィン!

俺、思い出しちまった!」


虫の話なんて遥か彼方に吹き飛んでしまい、私は転びかけながらも土間から飛び出して庭に出ると、その激しい動揺のまま声を挙げてアルフィンを召喚していた。


「⋯何だ⋯黒魔石よ。」

「スゲェよ!

ヤベェ、何だよコレ!

記憶を無くす前の俺はコレをよく我慢してたよな!!!」


無表情なのに、かなり不機嫌そうなオーラを巻き散らかしてる魔王をそっちのけに、私は興奮の余りに頬を紅潮させて両手を握り締めてアルフィンを見上げて声を張り上げた。


「⋯ふぅん?

それで其方は一体何を思い出したと申すのだ?」

「海だよ海!」

「⋯海?」

「そう!海何だよ!!!

あ〜っっクッソ!

どうやって説明したら良いんだよこんなもん!

アルフィン!

お前も知ってるだろ!

俺が1番最初にピアの魔石を強化した話だよ!」

「ん⋯あぁ、確かに聞いて居るな。」

「じゃあテメェだって知ってるだろ!

何でコレに気が付けないんだよ!」

「⋯そう申されてもな。

⋯其方とて今日(こんにち)まで気付いて居らんのでは無いかと思うのだが?」


最初に飛んで来たばかりの時よりかは、少しだけ剣呑さは落ち着いていたけれど、錬成師のプライドを刺激されてムッとしたアルフィンが、あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべて私を忌々しそうに睨んで来る。

どうやらもう泰然とした人間の皮を被るのを止めたらしく、アルフィンは本来の姿で苛ついていた。


「そうなんだよ!

俺もホントにバカだよなぁ!

なぁアルフィン。

森の川には塩が入って無いんだよ。

でも海の水には塩が入ってるよな?」

「⋯うむ。そうで有るな。」

「じゃあ今度は魔虫の幼虫だ!

アルフィン!

何で魔虫の幼虫は川で生まれて来てんのに、人間の身体の中で生きて行けるんだ?!」

「何故とは⋯?」

「だって人間の身体の中には塩が入ってるんだぜ!

お前だって涙や汗がしょっぱいのを知ってるだろ!」

「⋯あぁ、まあ。血が塩の味がするかは世も知らぬが、まぁ汗や涙が塩気が有るのは知っておるが⋯」

「魔虫はな!

血の中で人間から魔力を吸って生きてんだよ。

分かるか?!」

「⋯ふむ。」

「それで俺は血の中にも塩気が有ると予想したんだよ。

だからピアの魔石がピアの血で魔石強化が出来たのは、塩気が関係しないかと思って試したんだ!」

「何故塩気が関係すると、そんな突飛の無い予想になるのか、世にはほとほと理解に及ばぬのであるが⋯」


ついにアルフィンが呆れ果てた表情になり、先程までささくれていた苛立ちが急に霧散する。

顔には俺にソレは出て来ねぇわ!

って書いてた。


「俺が塩について考えたのは、人間は緊張すると汗をかくよな?」

「⋯ふむ。」

「すると身体の水が減るから、血が濃くなって塩気が増すんじゃ無いかと予想したんだよ。

魔物が魔法を使う時は敵と対してる事が多いと思ったからだけどな!」

「あぁ、それで緊張か。」

「そうだ。

だから塩気が関係有るのか調べる為に、一度塩だけを魔法の水に入れて実験した事があったんだよ。」

「は?」

「ピアの血とかは手に入れにくいけれど、1級の魔石はノインやピアから取れるし、塩も高いからあんまり使わせてくれねぇけど、家の中に有るだろ?」

「⋯うむ。

なるほど其方でも入手が容易な素材で試そうと思ったのか。」

「うん。ダメでもまぁいっかって軽く考えて塩を月の光を浴びせた魔法の水を入れて、そこに1級の魔石をいれてみたんだよ。」

「⋯それでどうであった。」

「成功した。

5日目で砕けちまったけど、4日目までなら1級が3級近くになるまで強化出来てた。」

「まさか!本当に塩でその様な事が出来るので有るか?!」


それまで少しづつ薄れていた不機嫌だったオーラが、この時パア!と霧散して消えて行った。


「アルフィン!

それだけじゃねぇぞ!

俺は昨日の夜に多分もっと先までぶっ飛んでたんだよ!」

「な、何?!」

「でもあん時は色々立て込んでただろう?」

「あ、あぁ。そうで有るな。」

「でも気になって気になって仕方が無くて、だから俺はアルフィンにあの魔石を見せて俺の思いを伝えたかったんだよ!

でもあの時はまだしなくちゃいけない事が沢山あり過ぎてて、今の俺みたいな余裕が無かったから、全てをほうり出さない為に記憶を消したんだよ!

お前ならアレを見せたら、絶対に追求して来るだろ!

そしたら忘れてもまた思い出せるじゃねぇか!」

「ま⋯まさか⋯その様な⋯世に⋯世に隠すためでは無く。

世を信じて託していたと、そう申すので有ろうか?」

「じゃねぇと可怪しいだろうが!

何で毎回毎回煩く追求して来るクソ野郎に、こんなヤベェ発見を知らせてんだよ!

そんなもん!

それしか理由がねぇだろうが!」


アルフィンは目を見開いて信じられないと言わんばかりに頭を横に小さく振っていたが、突然突進して来ると私を抱き上げてギュッと力強く抱き締める。


「あ、アルフィン?!」

「世は⋯世には真実愚かであった⋯。

世は其方の申す通りに、欲に目が眩んで何も見えなくなっておったのだ⋯。

なんと、なんと愚かな事か⋯この様な無様な醜態を晒すなど、あっては成らぬ!

断固としてあっては成らぬ事なのだ!」


抱き締められてるのに嫌わないで、と。(すが)りつかれてるみたいでアルフィンの震える声を聞きながら、私も短い腕を精一杯伸ばして、擦りつけられてる頭をギュッと抱き締め返す。

それに少しだけアルフィンはビクッとしたけれども、次の瞬間には更に抱き締められている腕の力を込められたせいで「ぐぇ⋯」と、握り締められたカエルみたいな変な声が漏れた。


「黒魔石?!」

「ゲホゲホ⋯し、死ぬかと⋯」

「す、済まぬ!

世とした事が力を見誤って⋯あぁ、黒魔石よ。

大事で有ろうかっ⋯?!」


直ぐに力を抜いて身体を離したアルフィンが、私の背中を擦って不安気な心配そうな視線を間近で見つめて来る。


「ん、大丈夫。

直ぐに力を抜いてくれたからちょっと苦しかっただけ⋯骨は折れてないと思うけど、痛かったら治すから平気だよ。」


平気ぐらいの所でパアっとレモン色に身体が光って目をパチクリさせる。


「どうで有ろう⋯まだ痛む所は有ろうか?」


どっひえぇえーーー?!

顔が引っ付きそうなぐらいの至近距離で、心から心配そうな顔をしたアルフィンに頬を撫でられたから、背筋がザワザワとして思わず心の中だけで悲鳴を挙げた。

だからぐいー!と、その顔を片手で押しのけて「大丈夫!」と、言ったけど。

悲しいかな。

力がひ弱すぎるから、アルフィンの顔は1ミリも離れてくれなかった。


「そうか。大事が無く誠に良かった。」


それ何処か瞳を嬉しそうに細めてニコニコしている。

だから急に恥ずかしくなって来て、顔が熱くなった。

そしたらますますアルフィンが嬉しそうに微笑むもんだから、もう居心地が悪くなってなるべく距離を取ろうとして背中を仰け反らせる。


「アルフィン降ろして!」

「その様に狼狽して、如何した?」

「良いから早く!」


明らかな私からの拒絶に、少しだけ寂しそうな顔をしたが、ギン!と本気で睨みつけてやれば、ヤレヤレと言わんばかりにそっと地面に降ろしてくれた。


お陰でホーっと全身で大きな息をつくと、一心不乱に瓶の中一杯入った魔虫の幼虫を思い浮かべてみる。

すると一気に気持がスンとして、頭が冷えて行く。

よもや魔虫の幼虫でこんなに心を癒されるとは夢にも思って無かったよ。


アルフィンが女に強いとは頭ではちゃんと理解してたけど、コイツの素のヤバさは私の予想を軽く超えていた。

そりゃ王妃が恋に狂うのも納得だわと、ウンウンと1人で頭の中で独り言ちる。

だって男のクセに臭く無いし、顔を押し避けようとしてウッカリ唇の端やら頬に触れてしまったけど、お髭でチクチクしないし、なんか信じられないぐらいに唇が柔らかいしで、しかも強烈な美人が心から浮かべる微笑みの威力が半端なく凶悪で。

心の底からこんな物をずっと向けられ続けていた王妃に、本気で同情してしまう。


アルフィンのクズっぷりを知ってる者としてみたら、これには何としても流されて溜まるか!と、私は日本海の荒波を背負って仁王立ちするイメージを頭に浮かべて、私の心に鉄壁のガードを築きあげた。


「黒魔石?」

「フン!ちゃんと持ち直してやったわよ!

全く本物のアルフィンったら、殺人鬼級にヤバいのね!」

「うん?」

「王様の仮面をかぶってスカシてた時と大違いじゃ無い!

女に強いのは知ってたけど、私はそんなもんには流されてやらないから!

私は今自分の心に鉄壁のガードをちゃんと築きあげてやったんだからね!

覚えて起きなさい!」


びし!と人差し指を上に向かって突きつけてやると、アルフィンはとても困った顔をして、でももの凄く嬉しそうにハハハっと声を出して笑い出した。


「ハハハ⋯いや、黒魔石よ。

なにゆえ其方はそのような珍妙な事になるのだ。

素直にそのまま流されて置けば良いでは無いか。」

「やかましいわ!

コチトラ普通の農家の娘なんだぞ!

私はちゃんと両親みたいに好きあってお互いを大事に仕上げる素敵な旦那様を見つける予定なの!

それを妻や子持ちの爺ちゃん何かに、流されて溜まるもんですか!」

「ふむ。世は其方の祖父では無いのだが⋯まぁ良い。

それよりも世は其方に酷い態度で接してしまった。

人を怪しむ日々が日常とは言え、これは世も心せねばならん失態と言えよう。

だがこの期に及んでも未だに其方を疑問視する性根が消えぬのだ。

世も己がこれ程酷く他者を信用出来ぬとはと、今動揺しておるのだが⋯其方は果たして世の過ちを赦してくれるのだろうか⋯」


アルフィンが片膝をついて地面にしゃがみ込むと、私に媚びる様な視線を向けて来る。


「フン!出たわね!王様。

そんなに不安がらなくても、作られたアンタの性根なんざ、コチトラ丸っとお見通しなんだよ!」

「⋯黒魔石?」

「いいこと?

アルフィンはまだ小さな頃から、周りの大人達から無責任な思考をずっと植え続けられて来たの。

だから本物のアルフィンの心と、その王族として正しい在り方を植え付けられた王様としての価値感が全く違うものだから、真面目に教えを守ろうとするアルフィンが疲れ果てて心が疲弊してしまったの。

だから今のアルフィンは、自分ですら殆ど区別が出来ないぐらい作られた王様の思考で動いているから、他人を信用出来なくなってしまってるのよ。」

「⋯何を申しておるのだ?」

「貴方の中の矛盾を言葉で説明してるだけじゃ無い。

だって本物アルフィンはちゃんと父や母や弟や王妃を信じていたはずなのよ。


でも皆自分の事で精一杯だから、先王様以外の人達は全員が悪気もなく人間のアルフィンを裏切ってしまったの。

だから植え付けられた為政者としての思考の方が正しいと勘違いしちゃってるのよ。


それだけ人間のアルフィンが他人を信じて裏切られた事で、心がもの凄く傷つけられて、今凄く弱ってしまってるのよ。


だから誰も信じられなくなって来てしまってるの。

だって為政者が迂闊に他人を信用してウッカリ騙されでもしたら、国が大変な事になっちゃうじゃない。


でも人間のアルフィンが信じた人達が殆どアルフィンを裏切ってしまったから、アルフィンは自分の事が信じられなくなってしまったの。


だから悪気も無く全てを疑って考えてしまう変な癖がついてしまってるのよ。

でもそれも王様として生きるには必要な技術だから、今はそのまま居ても仕方が無いんじゃない?


誰を疑って誰を信じたらいい良かは、アルフィンがちゃんと疑って確かめて決めたら良いの。

作られた王様の思考だと、ずっと疑ったまま生活しなくちゃいけないから、アルフィンの心が休まる日が来ないじゃない。

たから私が貴方にお手本を見せてあげる。


私はその作られた王様としての思考や傲慢な人柄は大嫌いだけど、人を思いやる気持ちを持った優しいアルフィンは大好きなのよ。


だから私はアルフィンを信じようと思うの。

今まで私が思い付いて来た事をアルフィンに伝えて来られたのは、アルフィンが本当は優しくて、自分よりも他人を大切に出来る素敵な人だってことを私はちゃんと知ってるからよ。


だからアルフィンは、植え付けられた王様としての思考を無視して、あの時、弟を信じてアルフィンが大事にしてた家臣をつけて逃がしてあげたんでしょう?

だから私はそんなアルフィンを信じられるのよ!

貴方がもし私を裏切る事があったとしても、それは信じた私の責任だから、例え裏切られたとしても仕方がないねって笑って流してあげるわ。

だってアルフィンは自分自身の為に人を裏切るなんてしない人だから、もし私を裏切ったとしてもそこにはきっと理由があったんだなって分かるから。

だからこんな風に思えるのよ。

でもそれはあくまでもアルフィンの判断じゃないと絶対に許さないから。

作られた王様としての判断で私を裏切ったりなんてしたら、私はもう二度とアルフィンなんて信じてあげないんだからね!」


片膝をついて至近距離で私の視線をジッと受け止めたアルフィンがギュッと眉間にシワを寄せる。


「⋯其方世を籠絡して何を企てておるのだ?」

「出たな王様!

そんなもん決まってんだろ!

王様なのを良いことに権力振りかざして嫌がる俺様を無理やり手籠めにされねぇように踏ん張ってんじゃねぇか!」


人差し指を突きつけて啖呵を切った瞬間に、ブフ!と噴き出された。

そして声もなく唇を震わせて爆笑する魔王に、私はフンと鼻を鳴らす。


「いや⋯ふむ。

それは確かに由々しき事態となるで⋯グフ⋯いや、よもや無理やり手籠め⋯ブフッ⋯」


ソロリと顔を背けた魔王が、片手で口元塞ぎながらグフグフと噴き出しながら無理やり笑いを抑え込んでる姿に私は酷くムッとした。


「笑う所じゃねぇからな!」

「ハハハハハハ!」

「思いっ切り笑ってんじゃねぇぞコラ!

乙女に対してそれは絶対にやっちゃなんねぇヤツだぞこのボケが!」

「ハハハハハハ!

よせ⋯ハハハハハハ!

何故そなたはそうも⋯ハハハ!!!」


地面を手でバンバン叩いて素に戻ったかと思いきや、また笑いが止まらずにまたバンバンと地面を叩いて笑ったり無表情になったりを繰り返してるアルフィンに、私はちっ!と聞こえよがしに舌を打ち鳴らした。


「いや、許せ。

世は誓おう。

其方の意思に背かず無理やり手に入れようとはせぬ事を宣言する。」

「⋯本当だな?」

「グフ⋯いや、誠にそれは乙女ならば必要な警戒心ゆえに、これは決して笑うべきことでは無い。

もし疑心が晴れぬのであらば、誓約をしても良いで有ろうか。」

「フン。そんなもん教会に行けば直ぐに解除出来るんだから、アルフィンが自分で出来ねぇ訳ねえよな!」

「ふむ。では如何ように申せば信用して貰えるのか⋯」

「言っただろう?

強欲で傲慢で人の気持すら察しようとしない作られた王様の思考なんざ、俺は端から信用なんかしねぇに決まってんだろ。」

「ふむ。

では世はアルフィンとして誓おう。

それで其方の気が済むので有れば良いので有るが⋯」

「うん。だったらいいよ。

アルフィンなら嫌がる女の子に無理な事なんてさせないよね?」

「うむ。誓ってその様な無様な真似は犯さぬ。

これは其方の嫌う為政者との思考が有ろうと、許されるべきものでは無いので、何も矛盾など起こらぬと思うので有るが⋯」

「そうかな?

じゃあ聞くけど私が誰が他の人を好きになって嫁に行くとしたらどうすんだ?」

「なるほど⋯確かにそれは問題では有ろうが、其方であれば下手な相手は選ばぬで有ろう?」

「⋯ふぅ~。

分かってくれりゃ良いんだよ。

ちゃんとアルフィンが残っててくれて本当に良かったよ。」

「世は世で有るからにして、其方の作られた王と世の違いが何で有ろうか良く判らぬ所では有るが、まぁ⋯世が其方を疑いの眼差しで見てしまう理由が少しだけ分かった気がするのだ。


確かに為政者の視点で其方を眺めれば、其方の行動や思考にどう有ろうと警戒を緩めては成らぬと、思うで有ろうからな。


だが確かに1人の人として其方を思えば⋯世との立場の差を思えば、警戒をどれだけした所で足りぬで有ろう。

ふむ⋯そうであったか。

なるほど⋯為政者の視点で世界を見るのに世は酷く慣れすぎておったので、この様な些末なことすらも気がつけぬ状態になっておったのか。

なるほど、其方があれほど王で有る世を恐れておるのは、このせいであったか。

世は其方が世を恐れて真実を謀ろとしておるのだと、心から疑心を抱いておったが、それが過ちであったと思ったその口で、其方が何を思い世を籠絡しようと疑うなどと。

確かにこの様に疑心に塗れた王など、信頼に値せぬ粗末な輩よな。

良かろう。

世はアルフィン個人として、其方と可能な限り接する事を約束しよう。

だが世は為政者としてあり過ぎたゆえにまた同じ過ちを繰り返す様で有れば、また先程の様に知らせては貰えぬだろうか。」

「うん。良いよ。

アルフィンが本当にそう思ってくれるなら、私も安心して王様のアルフィンも信用出来る日が来るのかも知れないね。」

「承知した。

それでこれ程までに其方が用心深くなる気付きとは、一体何であったので有ろうか。」

「そうだった。

えーと何処まで話をしてたっけか。」

「塩を使い魔石を強化しておった事と、魔虫の幼虫がいかにして人の体内で生息しておったかと⋯海。とまでは聞いておるが、世にはまだこの関連性が何を示しておるのか⋯まだ上手く見えて来ぬのだ。」


まるで付き物が落ちたかの様なスッキリとした顔をしているアルフィンが、心から不思議そうな顔をして小首を傾げている。

その姿を見て、私もようやく肩から力が抜けて行く感覚を感じてホッと息をつく。


「うん。どうやって説明したら良いのか、凄く悩んでるんだけど⋯これは隠そうとして悩んでるんじゃ無くて、本当にどう話せばアルフィンに理解して貰えるのかを悩んでるんだけど。

アルフィン、村の中の段差がある場所に少しついて来て欲しいの。

もう少しでお昼ご飯だから、あんまり時間は取れないし、そっちも忙しいだろうから難しいと思うんだけど、私を抱いて早く移動出来るかな?」

「ふむ。段差とはどの様な物を示唆しておるのかが分からぬでは有るが、案内出来るので有れば、指示するが良い。」


こうして再びアルフィンに抱っこして貰った私は、空高く飛び上がったアルフィンに指示して、急いでモーブの停留所から少し離れた大通りに向かって貰った。


「アルフィン、この土の壁を見てくれるかな?」

「ふむ。」

「ここと、ここの土に違いがあるのが分かるかな?」

「うむ。色と砂の形状に違いが有る様に見受けられるが。」

「そう。多分この色の白くなってるのは、森を開いた後で平地になってた場所で、ここの色の濃い場所は森だった名残で腐葉土が多く含まれてるせいだと思うの。

この辺りが昔森だったから、落ち葉が長い年月をかけて土に変わったんだと思うんだよ。」

「⋯ふむ。」

「あと、ここの1番下を見てくれるかな?

アルフィンは身長が高いから、かなり難しいかも知れないんだけど⋯」

「良かろう。」

「あ、ちょっと探しものが有るから降ろしてくれるかな?」


私はアルフィンに地面に降ろして貰うと、膝付いてる彼の目の前でかなり頭を下げてキョロキョロと地面との境目に視線を走らせた。


「あ、あった!

アルフィン、これ何だか分かる?」


私は地面よりもほんの少しだけ高い部分を指先で示すと、アルフィンもググッと頭を下げて、私が小さな指先で示した物を見つめて、ハッとした表情になった。

王様だから知らないかと思っていたけど、アルフィンは錬成師だから色んな素材を知っていから、私が示したその白くなってる部分が、貝殻の一部である事に直ぐに気付いたらしい。


「これは⋯貝で有ろうか。」

「うん。私もそう思ってた。

多分この辺りの地面は、大昔は海だったんじゃないかな?」

「この様な場所に海があったと申すか?!

ここは南部とは申せど、海はまだずっと南に進まねば現れぬぞ。」

「うん。理由までは分からないんだけど、この村はまだ南部のせいか、村の出身の戦士達が偶に貝殻をお土産で持ち込んだり、あと旅商人が売ってる事も有るから、私は海に貝殻が有るのを知ってて、あと従兄弟からの土産話を聞いて海が塩味なのも知ってたんだよ。


それでどうしてこんな事を言い出したかと言えばね?

こじつけとか、考え過ぎかも知れないぐらいにまだ曖昧な予想なんだけど、大昔のウェスタリアは大陸なんかじゃ無くて、小さな島だったか海の底に有ったんじゃ無いかって考えたんだよ。

それは前にこんな風に貝殻が、地面に有るのに気付いてた事もあるけど、魔虫の幼虫が塩が含まれてる人の体内で生きて居られるのは、大昔は海の生き物だったんじゃないかって、そう考えてみたんだよ。」

「魔虫が⋯もとは海の生物だと申すか?」

「うん。この辺の話は戻りながらするから、連れて帰ってくれるかな?

ここはモーブ車が通る道だから、人に見られたら困るからね。」

「承知した。

確かにこの話は突飛に過ぎるゆえに、実物を見せて証明をしておきたかったのだな?」


アルフィンはそう言いながらまた私を抱き上げると、直ぐに空高く浮かび上がって、家の方角を目指して進むとあっという間に我が家での庭に降り立った。


「ヤラマウトの話を覚えてるかな?

確か5級の魔物で、村に来た成体は死んでたけど、産んだ卵の幼体のヤラマウトはこの魔力が薄い土地でも生まれても、生きてたんだよ。」

「うむ。其方と出会う事となった論文発表で言っておった事と記憶しておるな。」

「そう。だから魔虫も生き延びる為に、塩のない川でも生きて行けるように身体が進化したんじゃ無いかなって考えてるのと、他にも生き延びてる海の生物達が長い長い年月をかけて、魔物や魔獣や人間になっていったんじゃないかなって考えたんだよ。」

「それは途方もない仮説で有るな。

教会では人は神が作ったとされておるので有るのだが。」

「私はその教会の話を知らなかったから、そう仮説を立てたけど、教会の方が正しいのかも知れないね。

だって魔物や魔物には魔石が有るけど、人間には魔石がないのかな?

それなら教会の人の方が正しいし、でも私の仮説からは少し矛盾が出来ちゃうから、これはちゃんと証明出来ない以上は、教会の方が正しいって事にしておいてくれるかな?」

「承知した。

それで其方の仮説とは、全ての生き物は海から生まれて陸に適応するために進化を遂げたと、申したいので有るのだな?」

「うん、そうなんだよ。

これはこじつけかも知れなくて、まだ自信が持てないんだけど、魔石に塩を加えたら魔力が溜められるのも、魔虫の幼虫が塩水の中で生きられるのも、海と親和性があるんじゃ無いかなって考えたんだよ。

だからあの時に私が魔石を強化できたのは、塩壺から直接手を入れて塩を錬成瓶に移してたんだよね。

だから少し魔法の水を手についてる塩に与えた事で、私自身の魔力を移したから魔石強化が出来たのかなって考えてるんだけど⋯どうだろう。」

「ふむ。記憶が消えておるのにもかかわらずそこまで辿りついておるのであれば、そこにもう一つ情報を足そう。

其方は魔虫の成体を2匹使用して、4級相当の魔石を6級相当の魔石まで強化させておったぞ。」

「!!!

つまりそれって⋯詰め込むだけじゃ無くて引き出せるんだね?!」

「うむ。まぁ引き出すだけで有れば銀が塩の代用が可能で有るゆえに、是迄も可能で有ったのだが、銀では魔力を込める事が困難で有ったのだ。

ゆえに世は魔力を魔石に詰め込む技術を会得したいので有るが⋯」

「ごめん、それはまだ試して無かったから、家の中に入ってやってみよう!」

「うむ!」


そして入口から入ってリビングに向かうと、仁王立ちするカタリナからお叱りを受けてしまった。


「あんたね!鍋を火にかけたまま、一体何処をほっつき歩いてたの?!」

「うわーー!!!

ごめんなさいお姉ちゃん!

鍋!鍋は無事だったの?!」

「危なかったけど、まぁ焦げては無さそうよ。

でも私が気が付かなければダメになってたんだからね!」

「うう⋯ごめんなさい〜!

お料理してる最中に、昨日の忘れてた事を思い出しちゃって、慌てて王様を呼びに行っちゃったんだよ〜!」

「それで王様が来てるのね?

じゃあリリアナを無理やり連れ出した訳じゃ無かったの?」

「うん。私が料理してたのをスッカリ忘れてたんだよ〜。

アルフィンは私に呼び出されただけで、全然悪くないから。」


そう言ってアルフィンの腕に抱かれてた私が彼に視線を戻すと、丁度目を瞑って軽く頭を横に振ってる所だった。

  

「アルフィン?」

「いや⋯、大事無い。

世はいつの間にか随分と王としての視点に毒されておったのだなと、改めて自覚しておったのだ。」

「なるほどね。」

「ねぇ何のこと?」

「私が料理を忘れたふりをして、アルフィンを騙そうとしたんじゃ無いかって勘違いしそうになってたみたい。」

「はぁ?何でそんな風に勘違いしちゃうの?

鍋が焦げたら昼ごはんが食べられなくなっちゃうのよ?

そんな事する理由なんて何処にも無いじゃない。」

「うん。だからアルフィンは直ぐに気付いて驚いてたんだよ。

お母さんの時と一緒で、無自覚で疑う癖が付いちゃってるみたいなの。」

「何でそんな変な癖がついちゃったの?」

「それはアルフィンが王様だからだよ。

言われた事を鵜呑みにして、悪い人に騙されでもしたら国が大変な事になるから、それが本当の事なのか先ずは疑って確認する癖がついちゃってるんだよ。

これはアルフィンが悪いんじゃ無くて、王様の仕事の1つだから仕方が無いことだけど、かなりしんどい事だとは思うんだよ。

だから少しでも気を楽に出来る場所が有れば良いんだけどね。」

「ふぅん?

だったらここでは楽にしてたら良いんじない?

ここには人を騙して喜ぶ様な悪人なんか1人も居ないわよ。

そんな腐った性根をしてるやっなんて、私もお父さんも絶対に許さないから、徹底的に叱り飛ばしてやるわよ。」

「まぁこれは癖だから、アルフィンだってわかってるんだよ。

だからしばらく疑われても、ハイハイまたやってらって、笑ってたら良いと思うの。

王様が私達の生活を守る為に真面目に仕事をしてる証拠だから、アルフィンには可哀想だけど仕方が無いよね。」

「ふぅん?王様って大変なのね?」

「だから皆が有難がって大事にしてるんだよ。

そのせいで王様に大事にして貰ってる私達に嫉妬して、平民のくせにって意地悪する貴族が此処に来ないように、アルフィンは仕事が忙しいのに、こうして自分で守ってくれてるの。

アルフィンはお城の人達にとても愛されてる王様だからね。」

「あー、そうね。

それは凄く分かるわ。

なんか偉そうにしててたまに変になるけど、大体は良い人そうだもの。


困ってたら直ぐに助けに来てくれるし、高そうなものも勿体ぶったり嫌味な事を言わないで、ポンと恵んで下さってるものね。

ちゃんとお礼をしなくちゃって何時も考えてるんだけど、あっという間に居なくなるから言えてなかったのよ。

だから王様、何時もありがとうございます。

何かご恩が返せたら良いんだけど、何かして欲しい事は有りますか?」


話の途中で思い出したと言わんばかりに、姉が急に居住まいを正すと、アルフィンを見上げてそう告げた。

姉の混じり気の無い真摯な瞳に、アルフィンは苦情を浮かべて頭を軽く横に振る。


「世が自ら望んでこの役を申し

出て居るのだ。

礼は受け取るが、世の行いを鑑みればそれには遠く及ばぬで有ろう。


世は如何なる狼藉者共より其方やを守護する役でありながらも、昨夜は欲に目を晦ませて醜態を晒し、自身が危うく狼藉を働く所であったのだ。

黒魔石の姉君には世の方こそ礼を告げねば成らぬ。

どうか昨夜の失態を赦してくれるので有れば、今後も守護の役を続ける事を承知頂きたい。

今後は肝に銘じて控えようとは思うので有るが、黒魔石の輝きは世の目にはとても強く、再び我を忘れて取り乱すやも知れぬ。

さすれば姉君には、道を誤らんとする世を再び引き戻す役を、務めて頂きたく存じ上げるが如何で有ろうか。」

「えーと⋯」

「ありがとうの気持ちは嬉しいけど、僕は昨日大失敗したから、お礼を言われるのは恥ずかしいなぁ。

それを許してくれるんなら、また頑張って皆を守ろうと思うけど、次にまた僕が変な事をするようならお姉ちゃんに止めて欲しいってさ。」

「分かったわ!

王様があんな風になったらまた私がダメよって止めてあげるわね!」


姉が満面の笑みを咲かせれば、アルフィンも嬉しそうに目を細めて小さく頷いている。


その笑顔に殺られた姉が顔を真っ赤にして視線を斜め下に逸らすのを見て思わずチッと舌を鳴らす。

そんな相反する態度の私達を見てアルフィンはハハハっと楽しそうに笑った。


それから昼食にするに辺りアルフィンに一時帰宅を勧めたが、話の続きが聞きたいと言われたので、お城の料理人に悪いなぁと思いながらも粗末な料理をアルフィンの分まで並べて置いた。


アルフィンが私の横に座ったせいで、弾かれたマルセロは椅子ごと母の隣に移動する。

アルフィンの隣になったロベルトはソワソワしてたけど、豆腐ハンバーグを一口食べたら目を輝かせたかと思えは一心不乱に出された料理とソースに夢中になっていたので、アルフィンの事が頭から吹き飛んでしまったらしい。


しかもロベルトだけじゃ無くて、家族全員がそうだったので、私は嬉しくてついほっこりと微笑んでしまう。


「アルフィンには口に合わないかも知れないから、ダメなら無理して食べなくても良いからね?」

「いや、物珍しいのも有るが、特に問題は感じぬな。」

「そっか⋯じゃあ良かった。」


プロの宮廷料理人が作った豪華な料理を食べ慣れてる人だから、そこややはり緊張したが、お愛想でも無碍にされなくてそれだでも嬉しくてつい顔がニコニコと微笑んでしまう。


「しかし白い肉に緑の肉とは、これは一体何の魔物の肉であろか。」


やっべぇぇぇーーーー!

何やってんだ俺は!

もうほんわかとした雰囲気が吹き飛んでしまい、どう答えれば良いやらで悩んでいると。


「ノインは分かるけど、この緑の肉は私も始めてだわ。

リリアナ、これは何のお肉なの?」


ゴリラああ嗚呼っっーー!!!


それまで木匙がスムーズに動いていたのに、ノインと聞いた瞬間アルフィンが石像になった。

そりゃウンウンの中にいた虫を食べて育つ鳥なんざ、食いたくねぇな。

まだ吐き出さないでくれただけアルフィンはもの凄く頑張ってくれているけど、せっかく勇気を出して食べてくれてたのにと思えば、胸が苦しくなって思わず泣きそうになってしまう。


「リリアナ?」

「⋯⋯⋯」

「如何したか、黒魔石。」


直ぐに答えなくちゃって思うけど、目頭が熱くなって両目から涙がポロッと溢れた。


「ハハハ⋯アルフィンを騙すつもりなんて、コレッポッチも無かったんだけど⋯やっぱりノインなんて食べたく無かったよな。

ゴメン、アルフィン。

食べなくても良いよ。

配慮がちゃんと出来て無くて本当にごめんなさい⋯。

食べる前にちゃんとノインだって説明すべきでした⋯。

せっかく勇気を出して私を信じてくれたのに⋯」


カタリナも遅れて気付いたらしく、顔にしまった!と書いて青ざめていたし、ずっとソワソワしてた父や母もやべ!と顔に貼り付けて硬直してる中で、ロベルトとマルセロは全く気にして無いものだから。


「何でノインならダメなんだ?

ウチで育てたノインは、すっげぇ上手いってマゼラン爺ちゃんもこの前言ってたぞ?」

「うん!

いい餌食べさせてるのかって言われたけど、(アムル)とかボビーとか普通じゃ無かったのかな?」

「ノインはあの虫を食べて居るのでは無かったので有ろうか。」

「虫なんて食ってんのは産まれたてのチビグレぇだぞ。」

「うん。

3つ週を越えたら後はずっとアムルとかボビーだよ!

あ、でも元気草の芽も食べてるかも。」

「ふむ。成る程。

してノインはどれくらい育てば捌くので有ろうか。」

「大体1年経てば雄は捌いちまうけど、コイツは卵を産んでた雌の方だから結構年食ってると思うけどな。」

「1年目のノインの方が脂がシッカリ乗ってて味が良いみたいだけど、雌は卵を産まなくなってから潰すから、脂が少なくて旨味が減るってバッカス兄ちゃんが言ってたけど、雌の方が柔らかいから、僕はコッチの方が好きなんだよ!」

「ほお?雌のノインであったか。卵を産まぬようになるには、どれくらい必要なので有ろうか?」

「そうですね。

大体6年から8年経てば潰していると思います。

マルセロも言っていましたが、人に寄っては雌の方が好まれるので、6年を越えたノインで有れば卵を産んでいたとしても潰すことも有りますよ。

まぁこのノインは6年以上は経っていると思いますがね。」

「左様であるか。

して緑の肉は何の魔物で有ろうか。」

「リリアナ、緑の肉は何のお肉なんだい?」


私は頬を伝う涙を腕でグイッとして、心配そうな瞳を向けて来る皆に、口角を上げてぎこちなく微笑むと。


「魔物じゃないよ。

皆勘違いしてるみたい。

その緑のツブツブはね、(カトゥ)を潰したものなんだよ。」

『えええぇぇぇーー?!』


皆心から驚いたような声を挙げて、自分の皿の中に有る豆腐ハンバーグを見下ろしている。

まぁ豆腐じゃ無くて鳥のミンチと豆なんだけどね。


「カトゥであると申すか!」

「うん。ひょっとしてカトゥもダメだった?」

「いや⋯うむ。確かに世はカトゥは好みではないが、このカトゥであらば問題無く食せておるゆえ、非常に驚愕しておったのだ。」

「僕もカトゥ苦くて嫌いだけど、コレなら食べられるよ!」

「俺もカトゥはあんまり味がしなくて好きじゃ無かったけど、このノインに入ってるカトゥは、なんかめっちゃ美味く感じねぇか?」

「そうなのよ。

不思議だわ。

カトゥを噛むと幸せな気持ちになれるの。」

「そうね、カトゥを噛むと嬉しくなるのは何でかしら〜?

カトゥの青臭い匂いがしないのも不思議だけど〜、ノインも何時もより匂いが少ないのも不思議だわぁ~」

「うむ。美味いな。

この粥も中々イケるぞ。

粥に卵を入れたのは分かるが、この味に深みの有るこの白い物は何だろう。」


アルフィンが父の言葉に誘われる形で木匙を動かして白い色を口に含んだ。


「黒魔石?!」

「⋯大事ない。大事ないってヤツだよアルフィン。」


またボロボロと涙を零してぎこちなく微笑む私に、説明なんかしなくても涙の理由が分かったらしい彼も照れ臭そうに口元を引き締めたけど、失敗して笑みの形に歪めてる。


「今度は分かったぞ。

これはチーズで有ろう?」

「そうだよ。

アルフィン大正解。

これはマモー乳にタマの果汁を入れて作ったお手製のチーズなの。」

『えええぇーーーー?!』


家族が驚くのも無理はない。

この村ではマモーの畜産をしてるから、保存食品として村の雑貨屋で売られてるし、エリザベスお祖母ちゃんの店でもマゼラン爺ちゃんのお店でも使われてる食材だから、知名度はそれなりに有るからだ。

でも長い時間をかけて作られているから、かなりお高い高級品となっている。

だから皆はこんなに短時間でチーズが作れるとは思ってもないし、それがよもや自宅の昼食に出て来るなんて夢にも思って無かったからだろう。


でも言われて口に含めば何時もマゼラン爺ちゃんのお店で食べてるチーズよりも、癖の無い食べやすさに衝撃を受けてしまい、兄弟達全員の目がこぼれ落ちそうなぐらいにまん丸になった。

皆が揃って同じタイミングで仲良く同じ顔になるから、それが面白くて私は泣き笑いになってキャハっと笑ってる。


前世では牛乳とレモンを混ぜて作るフレッシュチーズとして馴染みがあるけど、こっちだとマモー乳とタマの実で作って有るから、本家のフレッシュチーズよりも獣臭が残ってしまう。

でもタマの実には消臭効果があるみたいだから、チーズに少しだけ皮も削って混ぜてるお陰で、かなり匂いが抑えられてるから、スルスルと食べれちゃうし、何よりも味にコクがあって食べ易いのに美味しい素敵なフレッシュチーズに出来上がってた。

だから味見でそれを知ってた私も、一口食べたらウマー!ってなるよね。

超嬉しい!


ニコニコしてた皆がホッとした事が、表情や仕草や笑顔でそれが伝わって来る。

だから私は「あぁ~幸せだなぁ~」って心から思うし、だからこの場所が好きなんだよ。


アルフィンもこんな風に思える場所が作れたら良いのに、済ました顔をしてチーズを乗せたリゾット風の卵雑炊だけを食べながら、サラダや豆腐ハンバーグを避けてるから、まぁ無理そうだなぁ~と、前途多難な道のりの長さに気付いて心の中だけでため息を零す。


「王様、要らねえんなら俺が食ってやるぞ?」

「ん?」

「ノインとカトゥのヤツだよ。

カトゥが苦手なんだろ?

俺はこのカトゥなら食えるし、だから食ってやるよ!」

「僕も僕も!」


そしたら食べ盛りな男兄弟達が意地汚くアルフィンの豆腐ハンバーグを横から奪おうとする。


「あ⋯いや。」

「ちょっと止めなさいよ!

はしたないわね!

王様は王様の食べたい順番があるに決まってるでしょ!

子供じゃあるまいし、好き嫌いなんかで出された料理を残す訳が無いじゃない!

そうでしょう?王様。」

「あ、あぁ⋯。

いや、もし望むのであらば⋯」

「それにしてもこのソースをつけたら野菜も美味しいわね!」

「そうなのよ〜!

お母さんもビックリしちゃったの!

この白いソースも黄色いソースも、似てるのに味が全然違うから面白いわよ〜!」


お坊ちゃんのアルフィンが大家族有る有るの食卓の光景に、1人取り残されて、済ました顔のまま頭の中がワチャワチャとしてるのに、思わず噴きそうになる。


アルフィンが警戒をしてたのは、ノインがウンウンで作られた餌を食べてた事だ。

しかも虫。

もうそれを聞かされたら、それだけでも論外な食材になるのに、人糞を利用してる事もそうだけど、王殺しと一緒に育った虫とか完全にNGに決まってる。

王殺しの病が克服してると理論としては頭で理解していても、実際にそうなのかは検証して始めて分かる事だから、王妃のアルフィンは身を守る為に正しく警戒をする義務が有るのよ。


それでも私から嫌われ無いように無理して食べようとして、ノインがどんな物かを情報を集めて、王殺しの病になる危険性が低い事を農民の表情や健康状態から分析してそこはクリアしてるけど、今度は人糞を使って餌を作る農民の感性が信じられなくて、麦ですら食べたく無くなって来たからその上に有るチーズだけをつついて食べてたのに、兄達が救世主みたいな提案をして来たから、それを利用しようか迷っていたら、姉から正論パンチが飛んで来たもんで、ギョッとしたアルフィンが上手く言い逃れて私を悲しませない方向に話を進めて兄達に豆腐ハンバーグを押し付けようとしたのに、あっという間に話題が変わってしまったから、どうしたら良いのか分からなくなってアルフィンの頭の中がワチャワチャになってるのが超ウケる。


でもこのままじゃアルフィン拒食症になってもアレだから、私とアルフィンの周りを闇のカーテンを出して包み込む。


『え?!』

「く、黒魔石?!」


突然発動した魔法に家族はギョッとしたし、アルフィンも正しく警戒して身を守る為に防御体制を取ったけど。


「あまり食事時に見せるもんじゃねぇからよ。」


私はそう言って部屋の隅に置かれてた、錬成瓶を魔力の手で取り寄せるとアルフィンの目の前で蓋を空けて、中から幼虫を一匹取り出すと目の前で浄化魔法を発動させた。

そして直ぐにもう一匹取り出してから目の前で瓶の蓋をすると、またアルフィンの視界の外になるように、瓶を部屋の隅に戻して置く。


「今やったのは俺の浄化魔法だけど、お前もやれるだろうからやってみな。」

「⋯【⋯】」


目まぐるしく変わる状況に対応しようと、正しく警戒していたアルフィンが、説明なんかしなくても私の意図に気付いて直ぐにキュルと鳴くと、幼虫をレモン色に光らせた。

消滅する光が消えるのと同時に私も周りを囲んでる闇のカーテンを消し去ると、唖然としている家族と1人で納得してる顔をしたアルフィンが現れる。


「皆は何時も食べ慣れてる食材だから、食べても何も問題は無いんだけど。

アルフィンは王様だから周りに仕えてる人たちが、健康で居られるように警戒して処理済みの良い物しか食事させないようにしてるのね。

だからその処理をされてない食材は、アルフィンからしたら毒と同じになるんだよ。

だからアルフィンが食べる速度が皆より遅いのはそれが理由なの。

何の食材で、どうやって育てられて、これは食べても大丈夫なのかをアルフィンは調べながら食べなくちゃいけないから、どうしても遅くなっちゃうんだよ。


皆みたいに食べ慣れて無いから、鳥や麦や卵だってアルフィンには危ないんだけど、私はちゃんとそれを理解してるから、ここの料理にはちゃんと処理を済ませた食材を使って作ってますよって説明をするのと、アルフィンにはその処理のやり方を教えるのに、闇のカーテンで覆ってたんだよ。


だって食事をしてるのに汚い物を浄化する光景なんて誰も見たくないでしょう?

アルフィンにだって嫌な思いはさせたく無かったから、見せるのはホントは嫌だったけど。


此処には普段アルフィンの健康を守ってくれてるその人たちは居ないから、アルフィンは自分でその警戒や処理をしなくちゃいけないから仕方が無いよね。」

『へぇ〜』


私が説明をすると闇のカーテンの理由を知った家族達が、成る程と納得の表情になる。


「王様って大変なのね〜」

「でも皆が気に入って食べてるそのソースは、私がちゃんと処理してるから大丈夫だけど、生の卵を使ってるからそのまま食べたら皆も危ないんだけどね。」

『ぶむっ⋯』


母と姉が信じられない!って驚愕する中で、父も渋い顔になった。

兄達は何々?と状況が理解出来ずにキョトンとしてるけど、アルフィンの気持ちが分かったようで父は申し訳無さそうな視線をアルフィンに向けている。


「ちょっとアンタ何をやってんの?!

生卵なんて危ないじゃ無い!」

「その危ない理由を知ってるから、私はそれを処理して調理してるから大丈夫なんだよお姉ちゃん。」

「はぁ?!

何よそれ!

何でそんなのが分かるのよ!」

「それが分かるお子様だから、私は黒魔石だなんて呼ばれて、アルフィンは私から目が離せなくなっちゃってるんだよ。

何時もそう言ってるでしょう?」

「っっ⋯じゃあ何で卵を生のまま使って出したらいけないのか、その理由が分かるって言うんなら言ってみなさいよ!」

「説明するのは簡単なんだけど、今は美味しくご飯を食べる時間だから、それは食事が終わってからすれば良い話だよね?」

「バカな事を言わないでよ!

理由が分からなかったら、怖くて食べられないじゃない!」

「お姉ちゃん。

その状態がさっきのアルフィンだったんだよ。


でも食べなくちゃ私が悲しい顔をしたから、アルフィンは我慢して食べてくれたんだよね。

でもそんな無理をしたら美味しく食べられないし、他の食事だって本当に大丈夫なのかを疑って調べなくちゃ食べるのが怖くなるよね?


そうすると今度は面倒になって、食事が出来なくて困るから、食べても大丈夫なのを教えるために、浄化する事を教えたんだよ。

お姉ちゃんは教えなくてもお母さんが何時もやってるから知ってるでしょう?


浄化すると人に害の有るものが消えるから、病気も治るし服も汚れが消えて綺麗になるよね?

だから生卵を食べたら病気になるんなら、食べても大丈夫なように浄化すれば食べられると思わない?」

「じゃあ試してないのにそんな事をしたら危ないじゃない!」

「これはマゼラン爺ちゃんのお店でも出されてるソースだから、安全なのはお爺ちゃんがちゃんと確認してくれてるんだよ。

私はそれを知ってるから、こうして食事に出してるんだよお姉ちゃん。」

「うっ⋯だったらそう言う事は先に言いなさいよ!

また変な説明をダラダラするから、コッチは直ぐに分からなくて誤解するんじゃない!」

「それはお姉ちゃんが賢いからそう言えるだけで、まぁ⋯うん。

マル兄ちゃんやロベ兄ちゃんが分かってくれてるから、無駄では無い気もするけど、お母さんはもう話なんか聞いてないから意味が無かったのかな?」

「ふぇ?」


黄色いソースにヤマをつけてポリポリと齧っていた母がキョトンとしてる。


「実に愉快な。

生で卵を食して死んだ愚か者の逸話など溢れておるこの世界に、生で食せる知恵を(もたら)したと申すのか。」

「マゼラン爺ちゃんは浄化が使える料理人だからね。

王宮にいる料理人も、何時もそうしてるから、アルフィンは病気にならないで美味しいご飯が食べられてるんだよ。」

「⋯ふむ。

生で野菜を食すのは好ましくないのでは有るが⋯」

「だからサラダに手をつけて無かったんだね?

でも野菜嫌いの子供は多いから、幼い頃のアルフィンがキライになったせいで、今もずっと調理済みの野菜しか食べてないんだよ。

大人になれば味覚は変わるから、試しに食べてごらんよ。

アルフィンなら自分でちゃんと食べられるように出来るでしょう?

それとも私を信じてそのまま食べても良いけど、そこはアルフィンの自己責任だよね。

王様なら疑う事は正しいから、自分で処理をしても良いし、人間のアルフィンが私を信じてみたいのなら、そのまま食べたって良いんだよ。

何時までも子供扱いされるのが嫌なら食べても良いし、やっぱり嫌いだから食べたくなければ食べなくても良いの。

此処にそれをとやかく言う人なんかいないから、アルフィンは自由にすれ違い良いんじゃない?」


余裕ぶった王様の表情をしてるアルフィンが、私に向けて微笑を浮かべた。

それを挑発と受け止めた私も、済ました顔で更に(あお)る。


「この器に入れられている野菜は何の野菜かを述べよ。」

「ヤマだよ。

生のヤマを棒状に切って木のコップに入れた料理なの。

葉っぱはラグを千切りにして、茹でたボビーを散らしてるの。 

この2種類の料理は、白と黄色のソースにつけて食べる物だから、何の味付けもしてない素のままのお野菜なのよ。


青みの匂いが苦手なら生卵を使用して作った特別製のソースをつけて食べた方が食べやすくなるけど。

素材そのものの味を調べたいなら、そのまま齧れば分かるわ。

ソースの色が違っているのは、その白いソースはノインの卵にナムの油とタマの実の果汁と塩を混ぜてるわ。

黄色のソースはそれにトトの実を炒めた物を冷ましてから入れている物を、網にした魔力で濾したから、滑らかな舌触りにしてるのよ。


その小さなお皿の野菜はヤマとラグを塩漬けにしてて、塩味がかなり強いから、アムルのお粥に飽きて来た時の口休めとして食べてね。」


指先の迷いがその心の葛藤をおしえてるけど、アルフィンは棒状に切ってるヤマを指して聞いて来る。

だからこの際だからと、食卓に出した全ての野菜について詳しく説明しておく。


「あぁ、だからこんなに塩っ辛いのか。」

「も〜!

リリアナったらまた塩の無駄遣いをしたのね〜?」

「まぁまぁ、そう言う苦情は全部食べた後に聞かせてよ。

嫌なら今度から作らないからさ。」


アルフィンが真っ先に口をつけたのは、説明を求めて聞いたヤマのスティックサラダじゃ無くて、ヤマの浅漬けだった。


ポリポリと良い音を立てて噛んでから、リゾット風麦粥を急いで口に含んだ。

でも咀嚼をしたら口が落ち着いて来たらしく、また麦粥を食べた後に、今度はラグの浅漬けを食べてほんの少しだけ目を見張った。


それから少し悩んで次に手を伸ばしたのは白いソースで、味見の為にヤマのスティックサラダを手に持ってチョコっと少しだけつけて口に運んでソースだけを舐めた。

また目を少しだけ見張ったアルフィンは、次に黄色のソースをヤマにつけるとギュッと眉間にシワを寄せる。


それからヤマを一度白いソースの皿の上に置いて、麦粥を食べてからヤマをつけては白いソースを舐めてばかりになった。

マヨネーズは美味しいからそうなるよね。

しかも前世なら卵の黄身はオレンジ色の濃い物の方が味が良いと去れてるんだけど、ノインの黄身は薄目の黄色なのに、旨味が爆発してるんだよ。


だから自宅でのノインを飼ってて食べ慣れてるのに農民の贅沢として、1つ銅貨5枚もする卵が売れるのよね。

ウチで育てたノインの卵は、自宅のノインとは破格に美味しさが違うから、お金に厳しい農民が買う品になるクオリティーは尋常じゃない訳だ。

そのうちソースを舐めたついでにヤマも齧りつき、ポリポリと良い音をさせながらアルフィンが生のヤマを食べている。


「この白いソースを所望する。」

「ソースばっかり食ってるから足らなくなるんだよ。」

「このソースは大変美味である。

ゆえにソースを所望する!」

「私も白いソースが食べたいかも〜」

「私はコッチの黄色のソースが欲しいわ!

ノインの肉にとても合うのよ!」

「僕も僕も白いソースが良い!」

「俺も白いのが良いけど、でも黄色いのもノインにムッチャ合うんだよなぁ〜。」

「うむ。父さんはもう少しノインの肉が食べたいのだが⋯」


もう口々にワガママが出て来る出て来る。

アルフィンが増殖した気分になってウンザリとした。


「ノインの肉や卵がないからもう今は作れないんだよ。

でも白いソースだけなら作るのは簡単だから、誰かバッカスに言って卵を取ってきてよ。

余っても今夜ぐらいなら食べられるし、お姉ちゃんが中央に行く時に腸詰(ウィンナー)を買って来てくれたら、余った白いソースを加熱した料理も作れるしね。」

「じゃ俺ひとっ走り行って来るわ!卵何個いるんだ?」

「落とさないで持てる分ぐらいにしとかないと、バッカスも困るでしょう?」

「あいよ!」


ロベルトはそう言うと風の様に走って行った。


「この白いソースは貴重で有るか。」

「お前が作り方を覚えて帰って料理人に教えたら、作ってくれると思うぜ?

うちよりも卵を手に入れやすいだろ?」

「むぅ⋯口喧しい者がおるからそれは難しいのだ。

世が厨房に行くなどと申せば、キリンシュが諌めにやってくるでな。」

「キリンシュって、ひょっとして魔力測定魔道具を作ってもらう時に側にいたお爺ちゃんのこの?濃い緑色の服を着てた人。」

「うむ。キリンシュは王の筆頭側仕えで有るでな、先代より仕えておるので口喧しいが無碍にも出来んのだ。

奴は忠臣を自負しておるし、今の所矛盾を感じずにおるでな。

とは言え先代より仕えておるので、先代とダーウィンとの関連性を鑑みれば迂闊に心も置けぬのでは有るが⋯。

奴めも世の治世より先代の治世の方が好ましいので有ろう。」


成る程なと、何故人払いされていたあの場所にキリンシュと呼ばれたお爺ちゃんが居て。

途中退場した後に、言葉を噛んだチーフみたいな40代ぐらいの神経質そうなオッサンが姿を現したのか、その理由を察してフムフムと頷く。

キリンシュが先代直属の側仕えなら、あのアルフィンと同年代と思われるあの中年が、アルフィン直属の側仕えになる予定の人なんだろう。


「じゃぁこの前お爺ちゃんが寄越したお笑いの刺客は、アルフィン直属の側仕え見習いになるのかな?」

「あぁ⋯あの者か。

そうであろうな。

ゆえにキリンシュはあの者をあの場に寄越したので有ろうが、決して笑わせるためでは無いと思うのだが⋯」

「うん。弱かったよね。

まだ数値化してくれた魔道具を作った錬成師のオジサンの方が強かったよ。」

「其方は一体何を申しているのだ。」

「人を笑わせる才能の強弱。

あの錬成師のオジサンはクッソ強かったわ。

ピヨ子が負けた人を始めて見たもん。」

「あの者も決して笑わせよとしておった訳では無いと思うが。

確かに間が抜けた者ではあったな。

フフフ⋯よせ。

世をまた笑い死にさせる気か?」

「ね!クッソ強かったよね!

でもアルフィンを困らせたい訳じゃないのは分かって欲しいんだけどなぁ〜。

それであの弱かったオジサンの名前はなんて言うの?」

「さぁ⋯世は知る必要の無い者の名は覚える必要も無いのでな。」

「つまり一応は候補生だけどアルフィンの眼鏡には叶わなかったのね?」


王様の顔をしたアルフィンが口元を優雅に笑みの形に歪ませる。

まぁそうなるわな。

疑い深いアルフィンから排除さる事はして無くても、要らないから放置してるってのが正解なんだろうね。

フムフムと納得すると、私はマヨネーズを千切りにしたラグと、とうもろこしみたいなボビーに混ぜて、フォークに刺してパクリと食べる。


アルフィンはアルフィンで、仕方ないと言わんばかりに眉を顰めると、トト入りのマヨネーズを木匙で掬って豆腐ハンバーグに塗りたくってる。

そして恐る恐るとフォークで切って小さくした欠片を口に運ぶと、「ふむ⋯」と小さく呟いた後は、普通にパクパクと食べ出した。


「あんまり無理してると、心が疲れてご飯が食べられなくなっちゃうわよ?」

「フン。世はその様な軟弱者と同一視されるのは不本意なるぞ。」

「だけど産まれながらの生粋のお坊ちゃまじゃ無い。

物語に出て来る騎士の真似なんて、綺麗好きなお坊ちゃまには難しいんじゃ無いの?」

「フン。侮るで無いわ。

世は伊達にレジャーポットを倒しては居らぬぞ。

他にも悍ましい魔物共戦い倒した経験なぞ幾らでも有るわ。

それに王で有れば穢れた者の末路を見届ける役すらも有るのだ。

それが錬成師ともなれば尚の事、其方が思うよりも遥かに精神は鍛え上げておる。」

「強がっちゃって。

でもまぁただのお坊ちゃまとは違うって言うのは分かったわよ。

サラディーン様が私達と同じ物を食べるられたのもそれが理由なのね?」

「フン。アレもまた見習いとは申せ錬成師の端くれならば、その様な事も有ろうな。


ウェスタリアは平穏な治世が続くが、元は北部の極寒な地方の出身で有り、有事の際に王は騎士として戦場に立たねば成らぬ立場ゆえに、現在も幼少期よりそれらの教育はしかと定められておる。


ゆえにセドリックは平民として降りても生き延びておったで有ろう。

軟弱なあ奴に出来て、真の強者たる世が出来ぬ道理が無かろう。」

「あー、だからあの2人の王子様は後継者として適応出来なかったのね?

上后様はセドリック王子の事もあったし、外から来てるからそんな事は孫には要らないと判断したんでしょう?

先王様も甘やかして強く言わないから、アルフィンが今凄く困ってるのね?」

「⋯ふむ。」

「それならこれから鍛えたら良いじゃ無いの?

だって元々後継者として相応しくないんだから、遠慮なんて今更必要無いじゃない。」

「それは世が自ら思考して決断する事であって、其方が口出しする云われ無いので有るが。

まぁ良い。

それはとうに此方としても承知しておるでの、騎士教育としてあ奴らも多少は学んで来ておるで有ろう。」

「でも足りてないからアルフィンが困ってるんじゃない。

それとも⋯あぁ成る程ね。」


豆腐ハンバーグを食べてピンと来た私は、同じく豆腐ハンバーグを嬉しそうに食べてるマルセロを見てニンマリと笑った。


「察するのが相変わらず早いな。

だが迂闊に漏らすでないぞ。」

「はい、王様。」


ニマニマしてる私とシレッとした顔で私から勝手にマヨネーズを奪うと言う強欲なアルフィンとの間に流れた会話と雰囲気に、父が怪訝そうな顔をして居たけれど。


「卵持ってきたぞー!」


と、ロベルトがリビングに飛び込んて来た事で、雰囲気がそれに合わせて霧散した。


薄く黄色い殻に茶色や焦げ茶色の模様が入ってる卵を、ロベルトの手から魔力の手で持ち上げると、勝手に腕から離れて飛んで行く卵達に、ロベルトが目をまん丸にする。


アルフィンから良く見える様に、母とカタリナの間の後ろで5つの卵を浄化して殻を綺麗にしておく。

そして魔力のボウルに次々と卵を割って落とし、残った殻はゴミ箱代わりの遮光錬成瓶にポーンと投げ入れた。

その間に食卓に私がナタの油入りの薬瓶と、錬成瓶から塩を出して、家の外から摘んできたタマの実を全て集めて食卓の上に持って来ると、全て纏めて浄化する。


『わぁ~』


私の左手にはシッカリと小さな魔石が握られてるのは秘密だよ。

だってこれアルフィンとの取り引き予定の極小魔石を勝手に借りてる所だからね。

アルフィンなら気付いてそうだけど、指摘されたら私だってマヨネーズの件を持ち出して戦うわよ。

まぁ金持ち喧嘩せずじゃないけど、アルフィンはケチじゃないから訪れない未来の話なんて必要無かったか。


ボウルに入ってる卵を泡立て器で卵を混ぜたり、タマの実を魔法の鞄に一度入れてから、実と皮を分けて出して、レモン色に光らせて飛ばしたり、魔力で圧縮して絞った汁を卵に入れたり皮を擦ったりして、そこに油と塩も入れてまた泡立て器で混ぜたりと魔力の手でワチャワチャすると、皆も面白がってはしゃぎ出す。


マヨネーズを皆の目の前で作りながら、この秋の事に思いを馳せると、騎士にまぎれた2人の王子の為に、早めにあのリュックを復活させてあげないとなと考えてる。

そりゃ私が話をバラせばマルセロやロベルトから皆に話が回っちゃうと、アルフィンも疑わざる負えないし、下手に萎縮させて手加減したら王子達をそこに出す理由も無くなって、個人的に楽しい企みが台無しになるもんね。


相変わらず性格が悪い事だとは思うけど、平民の子供達にボコられる騎士や王子2人がすっごく凹みそうだけど、教育係りの担当者は物理的に首が飛びそうで怖いんだが?

まぁ王子達を負けさせる訳にはいかないから、きっと変装させるかしてオフレコにしてるとは思うけど。

本人達と教育責任者だけは真実を知ってる訳だし、また面倒な事にならないと良いんだけどなぁ〜と思うとムッチャ楽しそう。


だって他人の不幸は蜜の味だし、騎士が不利なのは知識分野なだけで、子供達は身体的な分野が不利なんだから、そりゃ騎士の方が強いでしょう。

だって不利ではあっても、騎士も同じ勉強をして来てるんだから、多少のブランクが足を引っ張るだけで、有利なのは当然騎士達の方なんだよ。

王子達2人がそこに入れるんなら、逆に王子達はヒーローになれるチャンスだってある。


そのチャンスをモノに出来れば、内心で天下りを侮ってる脳筋達を味方にする事も出来るし、騎士と一緒に顔を青くするんなら、王子達の自己責任になるんじゃない?

少なくとも騎士や王子達には、良い刺激になるのは間違いないよね。

だって勝って当たり前の勝負なんだもん。

余裕が多少無くなって焦る事は有るかも知れないけど、普段真面目にやってる人達なら、何の問題もない事になる。

だから安心して面白がって居られるよね?

ただ兄達が目立って目をつけられないか、そこだけがちょっと不安なだけなんだよ。


デメリットが有るんなら、兄達が学院に入るのを妨害されたり、虐められたりするぐらいかな?

それもまたすっごく面白そう。

嫉妬は恐ろしい人間の悪意だけど、嫉妬が出来るんならまだ見込みが有るって事になるよね?

だって私が先に学院に入ってるんだもん。

嫉妬してくれるぐらいに気概が無ければつまんないよね。

だってコチトラそこに標準を合わせて、英才教育を頑張る訳ですし?


まぁそれが出来るかどうかは、全てはアルフィンを私がどう調教するかに掛かって来るんだから、ウカウカと面白がっても居られないんだけどなぁ。

中々手強そうな駄犬になるように躾されてるもんで、下手したら捕食してくる肉食獣だからね。


男を落とすには胃袋からって言うし、根強いファンを持つマヨネーズ様ならワガママな性格から、子供舌っぽいアルフィンに刺さってくれるかと思って作ってみたけど、こんなもんで釣られるぐらいじゃ流石に無いわな。

知ってる。

アレはフェイクだ。

物珍しいから気に入って食ってるけど、次も続けて出したら食わないだろうな。

コイツはそう言った贅沢が許される世界で住んでる住人だからね。

クッソ面倒くせぇ。


それから食後に始めた浄化チャレンジで、魔虫の浄化に失敗した母が青ざめて発狂しそうになったり、勝手に減ってる瓶を見て蠱毒みてぇと、サバイバルしてる虫達を成体以外は、成長毎に分けて魔法の水を与えたり。

皆の目の前で成体の魔虫を魔法で討伐してみよう!のコーナーで浄化に失敗した母がまた絶望に落とされたり、アルフィンが燃やそうとして失敗してもの凄く嫌な顔をしたりして面白かったけど。


実は魔法に強いだけで魔虫はポイントさえ抑えたら簡単に倒せる部類の魔物では有る。

父がそう言って手袋をはめた手で、魔虫の首と胴体の間にナイフを突き刺せば魔虫はあっという間に御臨終になった。

秒だよ秒。


それからアルフィンや母の懇願で私が昨日やった魔力ニードルからの電撃で更にトドメの浄化の消滅を実演すると、それを見た母とアルフィンが「何だそれは!」「何よそれ〜!」と絶叫を挙げた。


まぁ真似出来なかったんだから仕方ないよね?

順に言えば先ず母は魔力ニードルが作れなかった。

アルフィンは魔力の杭までは作れたけど、糸みたいな細いニードルを作るのに苦労して作れなかった。

父はニードルは出来たし魔虫の口に差し込めたけど、電撃が出来なくて水を出して破裂させたから大騒ぎになったし。

姉も同様だった。

むしろ姉はニードルを刺してから浄化をぶっ放したから、消滅した魔虫を見てそっちんが良いじゃん!てなった。


電撃とか水とか要らんかった!

特に水はヤバかった!

飛び散った水で濡れた人や部屋を纏めて、高速で浄化をぶっ放して綺麗にしたよ。

それでも気持ち悪かったけどな!


アルフィンが何度か練習して、ようやくニードルが出来たから、魔虫に刺して浄化しようとしたら、ニードルが先ずは口に当たらない。

おや?と思ってたけど、何度か練習してたら今度はニードルを刺したら最初の頃の私と同じように虫ボディを貫通させてるしで、もの凄く四苦八苦してるんだよ。


だからそこから魔石の魔力を引き出す講座に移っても、姉や父は何度か練習したら出来たけど、アルフィンは毎回魔石を魔力が貫通してパリンパリン破壊するもんだから、魔石が勿体ない!

ってなって、10個迄は粘ったけど、極小魔石の価値を考えて、アルフィンも渋々引き下がったんだよね。


「だから塩で開いた小さな穴に自分の魔力を優しく流して、魔石の中の魔力を染めて引き出すんだよ。」

「ぐうぅぅ⋯」


絵に書いて説明したりとやってたら、なんと母が先に魔石から魔力が引き出せるようになったから、アルフィンはもうスカした王様の顔なんてしてる余裕がぶっ飛ぶよね。


「これさ、明らかに変だよね。

だってアルフィンはあんなに凄い魔法が仕えるのに、これだけ不器用って事は、絶対に何か理由が有るんだよ。」


と私が気付いて色々話を聞いて、そこで始めて魔力操作をするのに無意識の魔法を使う経験が物を言う事が分かったんだよ。


ロベルトとマルセロはまだ魔石から魔力を抜けて無いけど、これはニードルすら作れないせいだから、もう魔法の訓練有るのみなんだよね。


姉が苦労してる人達を見て、愉悦を感じてるのが丸わかりな顔をしてたのがちょっとムカついたけど、父もアルフィンを気遣って空気に徹してたから、そこはもう空気を読んでスルーした。


そしてひたすらイライラしてるアルフィンに、母が経験した無意識の魔法のデメリットを説明したり、それでもここまで出来てるからアンタは凄いよ!と、持ち上げてみたりと、クッソ面倒だった。

お前仕事は大丈夫かよ?

って聞いて、アルフィンはもの凄く渋々と帰って行ったんだけどね。


魔石が手に入りやすいのも有るし、私がアルフィンに血迷うのを防ぐ為にも、魔虫って良いよね?って私が言ってから、最初は危ないからと父は反対、母や姉は気持悪いからと反対に回ったから、極小魔石がどれだけ希少価値が高いかとか、この極小魔石2つ有れば白金貨1枚以上の値段になるとか吹き込んで、母と姉は懐柔した。


母には父が簡単に倒してたのを見てたから、父が居れば大丈夫と言ったら落ちた。

父がニヤけるのを必死に隠してる所が密かにウケたけど、最終的にその母のキラキラとした瞳を向けられて魔虫の育成を受け入れてくれた。

チョロすぎ。


勿論飼育するためのルールは作ったし、兄達が乗り気だったのも助かったかな。

兄達は魔法に強い魔虫に対して、気持悪さよりもその強さに惹かれたみたいだったよ。

あと物理的に簡単に倒せるから、恐怖感が薄れたのも良かったのかもね。

見た目はカメムシだから、ゲジゲジや幼虫よりも、光沢の有る深緑色の甲羅がカブト虫みたい感覚を呼び起こしたのかな?


それから夜になって作業をしてたらアルフィンがまた飛んで来た。

成体になりそうな魔虫の為に、刻んたヤマを入れてたら、驚いたアルフィンから飼育に関して猛反発を受けたけど、極小魔石の取り引きを持ちかけたら、幼虫の在庫切れになるまでとの条件で渋々引き下がったよ。

昼間に壊しまくってたしね。


それから海の話が途中だったからせがまれて、何処まで話をしたもんかと悩んだ結果、塩欲しさに「海に行こうぜ!」と、私と(そそのか)した。


でも作業の途中で私が抜ける訳にも行かないから、西の端の方の南の海が良いとおねだりをして、アルフィンに目的地の視察に行って貰った。

転移魔道具の事とかも話たら、すっごく乗り気でめっちゃ良い笑顔だった。

実はアルフィンも塩はかなり気になってて、1番最初に手をつけようとした問題だったけど、私に説明した理由を言われて宰相のお爺ちゃんと、先王様に諭された事だったんだそう。

道理で私が塩でブチ切れてた時に、周りへ気遣い満ちたアルフィンらしくない反論だったなと思ってたけど、やっぱりだった。


でも私の案なら西の端からいきなり王都に転移道具で塩を持って来れる。

間に気を使う村なんてこの場合は関係ないよね?

だって既存の商人達が南の端からそうして持って来てるんだもん。

今は1箇所でしか塩を持って来れないけど、王都に直接持ち込めば、そこから来たや東や西に塩を運べば済むし、何なら輸出したって良いから好き放題出来る。


でもそうなると始まるのは価格競争になるし、高値で売り捌けなくなるから、商人が困るかと言えばそうでも無い。

何故なら塩は制限されるぐらい足りて無いからだ。

それに今後は塩を錬成師も消費せざる負えない時代が来る。

私がその知識を学院に持ち込むからだよ。


魔石に魔力を直接込める技術を伝導する方針を勧めた。

これはアルフィンが実際に経験した結果、かなり会得が難しいと分かったからだ。

今迄は魔力草や茸類からしか回復出来なかった魔力が、魔石から直接取り込めるのはデカいよね。


でもそれで魔石が高騰するかと言えば、しないのよ。

だって魔石強化の技術は国が握って管理をするからね。

使用済みの空の魔石を回収して、国の組織が充填すればまた使える様になって、市中に回せるシステムを作れば良い。

元から塩を売ってる貴族だって、国が魔力を補填してあげれば、従来の年利費で沢山塩を作れるから、多少値下げしても対応が出来るよね?

商人達だってこれから布製なら直ぐに魔法の鞄は再生出来るんだから、一度に運べる量が増えたら塩の値下げにも対応は可能となる訳だよ。


アルフィンがこうやってぴょんぴょん飛んで、初期の開拓さえしてしまえば、後は転移道具を使えば王都に自由に行き来できる事になる。

そこに開拓の人員を送り込めば、逆側からも国が開拓出来ちゃうよね?

そのために必要な転移の魔道具の燃料となる魔石を握るのは国なので、転移先の貴族は迂闊に国に逆らえなくなる。

この案を言った時のアルフィンの顔ったら、もの凄く目をギラギラとさせてて面白かった。


私達は秘密基地を先に作って、開拓の練習がてらに塩をゲットする作戦に出る。

私はもうおネムなので、候補地は魔石の補充がてらアルフィンが探してくれることになった。


私は私で布製の魔法の鞄を入れた水に塩を入れて、魔力を手作業で流し込む。

塩が邪魔になるときは分離すれば良いので、月の光を浴びせるだけの錬成瓶全てに、今使えるだけ塩を入れて様子を見る事にする。


それが今日までの流れになり、今もまた失敗したアルフィンが、目の前で頬杖をついてる訳だ。

今アルフィンの瞳は緑色に戻ってる。

あの夜に見たアルフィンの青色に銀のマダラが散りばめられた瞳は、ドーピングか何かをした事で一次的に変化をしてたのを確信する。


また良からぬことをしていやしないかと、確認すべきか悩んでいると、アルフィンが反らしてた視線を此方に戻してブフッと噴き出したので私は眉を顰めた。


「⋯何よ。」

「いや⋯其方に伝えおくのを忘れて追ったが、どうも其方の伯父が叔母の説得に難航しておるようだ。」

「ジギタス伯父さんが?」

「世は名までは把握して居らぬ。」

「確か西の辺境に居る叔母を迎えに行ってるのが、その伯父なんだけど⋯難航してるってどう言う意味なの?」

「ふむ⋯その伯父の話が信用出来ぬと難儀しておるようだな。

叔母の方は伯父が何者かに騙されておると疑っておるようだ。」

「アチャー⋯」


私は両手に魔石を握って途方にくれる。

ジギタス伯父さんだもんね。

叔母さんの気持ちになれば、今更だけど不安になるのが良く分かるよ。


しかしそれって昨日の話でしょう?

そりゃ夜はバタバタして時間が無いんだけど⋯まぁ仕方が無いか。

教えて貰えただけでも有難い話なんだよね。


「ありがとうアルフィン。

ちょっと伯父さんの所に私を連れて行って欲しいんだけど、時間はまたあるかしら?」

「うむ。通常であれば、今ならまだ世は寝ている時間になるでな。」

「申し訳無いけど、凄く助かるわ。

でも料理を放置してたらまたお姉ちゃんに叱られるから、少し待っててくれるかな?

ねぇお母さん!

ちょっと出掛けて来るから、お鍋を見ていて欲しいの。

沸騰して来たら、竈門から鍋を降ろして置いてくれるかな?」

「ええ、良いわよ。」

「もしお姉ちゃんが来たら、直ぐに戻るって伝えておいてね。

じゃあアルフィン。

お願い出来るかしら?」


私はやりかけの魔石をサッと完了させると、全ての錬成瓶の蓋を閉めて、アルフィンの瓶も全て魔法の鞄に収納しながら両手を浄化する。


「良かろう。

では其方より世に触れるが良い。」

「何言ってるのよ、もう!」


面倒くさ!と、思いながらも子供椅子からストンと降りると、頬杖をついた姿勢で悠然と座っているアルフィンに、抱っこをせがむポースで両手を伸ばした。

何か含み笑いをされるとクッソ腹立つが、背に腹は代えられない。


両手を伸ばして抱っこアピールしてるのに、アルフィンは楽しそうに私を見下ろしている。


「アルフィン?

意地悪しないで抱っこしてよ。」

「其方より縋りつけば良かろう?」


あまりの気持ち悪さに口元がへの字になった。

それを見た瞬間、アルフィンが「ハッ」と弾ける様に笑い出す。

ムカつくやら苛立つやら本気で蹴りたくなって来たんだが?


「ねぇ早く抱っこ!

意地悪するならもう口を効いてあげないんだからね!」

「ハハハ⋯それは困るな。」


アルフィンは緩く結んだ右手から人差し指だけを少し出して口元に当てて笑いを堪えると少し涙が滲んだ、青色に銀色のマダラの瞳で私を見下ろしている。


青色に銀色のマダラの瞳?

パチクリと瞬きをしたらもう濃い緑色の瞳で、青色と銀色のマダラの瞳では無くなっていて薄っすらと滲んでいた涙さえ元に戻っていた。

涙のせい?光の加減か?

目の錯覚かと思うぐらいにほんの僅かな間の変化だったので、小首を傾げていると、しゃあねぇなと妥協する様にアルフィンの長い腕が伸びて来る。


「アルフィン、目の色が変わる体質か何かあるの?」

「うん?」

「さっき青色に銀色が混ざったみたいな色になってたよ。」

「左様で有るか、世には己の瞳の色は見えぬのでな。

だが⋯自覚はないが過去にもその様に他者から指摘された事が有る。

世にも理由は分からぬが、セドリックは元よりその様な色味で有ろう?

父は銀色が強き瞳ゆえに、先祖より受け継がれし物では無いかと皆は予想はしておるが、真相は良く判らぬのだ。

だが其方ならこの謎が解けるのやも知れぬがな。」


そう苦笑を浮かべたアルフィンの瞳に、また少しだけふわりと青銀がよぎった。

そして私は夜明け前の暗い時間に、するり風の様に消えた。



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2級 銀貨10枚

3級 銀板20枚

4級 小金貨1枚

5級 金板1枚

6級 白金貨1枚

7級 白金板10枚

8級以上はオークション

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