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ばばんばバンバンバンはービバドット♪
昨夜は本当に大変だった。
私が突撃しても兄達が相手では全く意味が無かったが。
と言うよりも、2歩歩いただけで聖獣ゴリラが2人まとめてラリアットで仕留めてた。
動きがクッソ早かったので、無意識に身体強化の魔法を使ったのでは無いかと思われる。
可怪しいな。
ネタでゴリラ扱いしてたのに、姉がマジモンのゴリラに進化した。
しばらく兄達2人は姉の強権支配から逃れられなさそうだ。
私は潔くロリババアの称号を進呈したく思う。
どうかその薄い胸を張って普通に生きて欲しい。
アンタはそのまんまでも強いから。
私はちゃんと成長してボン・キュッ・ボンダイナマイトふぅっ♪な女性になって、数々の男共を手球にとって、悠々自適に生きて行くつもりだから、うん、そこんとこヨロシク。
私がチョッピリ現実逃避気味なのは、朝の作業と畑の水撒きを終えて、昨日から聖獣ゴリラに進化した姉が作った朝ご飯を食べてから、テーブルの上に魔王が雑に置いていった沢山の魔法の鞄を並べて、数と種類をチェックしているからだ。
白金貨1枚よりチョッピリお高そうな小袋30個と、お嬢様のお出掛け仕様のお洒落ポーチ純白レースと金のチャーム付きが5個と、え?私豊満ですけどお洒落してますわよ?と言わんばかりの、大人靴が3足は入りそうな大きさの宝石と刺繍入りのレースやリボン付きの中袋が10個。
更に中袋の倍で、同じく宝石とリボンとレースがついてる大袋が5個。
あ、俺ちょっと登山行ってきやす!と、やたらとゴツい存在感を放ってる1種類だけ山男風の革の背負い鞄が2個。
これあの2人の王子のかな?
作ったは良いけどあんま使わなかったパティーンな風味が伝わって来る。
つまりほぼほぼ新品。
総勢52個の期限が切れて普通の袋や鞄になった元魔法の鞄達でした。
多すぎるやろ。
てかせめて宝石は置いてこい。
なぜ外さずにつけてきたし。
何なら金のチャームとかも外して来いや。
あ、駄目この金のチャームは作った人が誰かを教えるヤツのお洒落バージョンなだけだ。
絶対に外せないヤツだね。
ごめんごめん。
まぁこれは良い。
レースもヤバいが、紐代わりのリボンですら刺繍がクッソ豪華で、手触りが恐ろしぐらいにスベスベなんだが?
しかも黄色に赤に青に緑に紫って、ゴレンジャー目指してんの?
何のイメージカラーなん?
しかも紫って誰のだよ。
魔王、貴様か?!
「まぁ⋯」
精神攻撃を鞄から食らった気がして、気分が滅入ってたけど。
シーツを被って寝室に籠ってた母が、如何にも婦女子の憧れを散りばめたかの様な、ハイセンスな革袋達に、キラキラと目を輝かせて見入っている。
父からのムッツリドスケベ攻撃を受けて縮こまっていた少女の部分が、素敵アイテムで癒されて復活したらしい。
ジーニスそっちのけで、テーブルの上に釘付けになっている。
ちなみにジーニス本人はご飯をお腹いっぱい食べて満足してるので、今は食後のトレーニングで壺に座って踏ん張っていた。
母も朝食の支度をカタリナがしてくれたので、悪いなと思ってジーニスの面倒を見る為に寝室からでてきていたが、今はエレガントな袋や鞄達に目を奪われて頬をほんのりと紅潮させて見入っている。
父はその姿にあからさまにホッとしつつも、テーブルの上が豪華過ぎて見ていられないらしく。
心から鞄を拒絶しているので、うっとりとする母を見て癒されてるみたいだった。
姉も現役の少女なので興味があるらしく、白い革に白い繊細なレースと可愛らしい金の紋章みたいなチャームのついたポーチに視線が釘付けにされている。
私からしたら白い革に白いレースなんてつけても見えんやろと、突っ込みたい所だが、武骨な茶色い革に白いレースが似合うかと言えばそうでも無いので、言葉にせずに心の中だけで呟いてた。
兄達2人はゴツい鞄が気に入ったらしく、キラキラとした目でポケットの数を数えてる。
私からすれば真ん中の魔法の鞄に入れたら良いのになぜつけたしと、もうポケットの存在が謎でしか無いが、分解するとなると1番厄介な相手になると思われる。
ウチはかばん屋ちゃうねんぞと、ヤサグレた気分になりながら、1種類づつ手に取って触ったり、袋をひっくり返して中を観察して素材の材質、縫製、糸、革の表と裏の違いと、色んな部分を観察してみた。
そして中袋と大袋は布製である事に気付いて目が輝く。
布なら水が仕えるからだ。
ただ邪魔でしかない宝石や金の鎖が水に漬けても大丈夫かな?と、貧乏性が不安を訴えてる。
宝石も金も多分水にイケルと思うが、見るからに高価そうで恐ろしいのだ。
頑なに視界に入れようとしない父や、眺めてるだけで満足してる母や兄弟達の気持ちが痛いほど良く分かる。
私だって仕事じゃ無きゃ触りたくなんて無かった。
そんな愚痴をグチグチと心の中だけで呟きながら、魔法陣と思われる謎言語らしき記号が書き込まれてる円も確認する。
1番見やすいのは大中の布製の袋で、何のカモフラージュも無く袋の中に銀の糸で魔法陣が刺繍されてるだけの代物だ。
次に見やすいのは私達が使ってる小さなタイプの革袋で、ひっくり返してみたら、裏地は無地の布だったけど、振れたら凹凸がありそこにも銀の糸で刺繍が刺されている様だった。
でも布製の袋と違って、刺繍が有るのは後付けで縫い付けられた感じの布袋の下にある。
つまり刺繍に月の光を当てるには、ここを解体する必要が有る事を示していた、
何故刺繍に拘るかと言えば、この魔方陣が鍵だと私が感じているからだ。
また銀色なのが余計に疑わしい。
銀を溶かして其処に魔力を詰めてやしないだろうか?
作り方がさっぱり分からないから、コッチは予想をするしか無いんだよ。
それが見当違いだって今は確認出来ないから、素直に怪しい所から攻めようと考えてるだけで、どうせこっちもやれる事は限られてるしさ。
次にポーチ式の中には木箱が芯代わりに入れられていて、そこの周りに刺繍いりの革が貼り付けられてる風の造りになっており、外の白いレースやチャームは単なる飾りの様で魔力などは全く感じなかった。
最後に男性用らしいおおきな筒型のリュックだけど、底に薄い布製が貼られてて全周囲が革なのでその布の下を魔力を込めた目で確認すると、下に魔法陣が隠されているのが、ぼんやりと見えた。
しかも中央だけで無く左右に付いてる諜報家のポケットや、身体に当たらない背面の中形ポケットの1つも魔方陣がついているので、このリュック式鞄は合計4箇所が魔方の鞄となっているのが分かった。
何という魔法の鞄の無駄遣い。
しかも魔方陣は全て銀色の糸で刺繍されてるんだよ。
こんなに頑張って作ったのに、使われてる形跡がほぼ無いとか、作った人が泣いてんじゃね?
まあ婆ちゃんの上后様が過保護だったらしいから、遠足的なワクワク行事があってもあまり参加させて貰えなかったんだろうね。
だから真ん中の獲物がすっぽり入れられそうな空間も、獲物を入れたら小物は横や背面に入れた方が気持ち悪くないよね?
だって同一空間だから。
と、使う人の為の気遣いポケットとかを見ると、優しい人が作ったんだな?と思えば切なくなる。
大丈夫。
ウチならタルクス叔父さんも、セフメトも魔力がキレても鞄が擦りきれるまで使い込むからな。
王子達に背負われたかも怪しい鞄を、私は決意を込めてキリリと見つめる。
「この宝石や飾りは全部外して布の袋は月の光を浴びせた連成瓶に漬けるよ。袋は裏返して直接月の光を当てられるようにしようと思う。
革製のはこの小さいので試してから、効果のある方法を見つけてからにするから当分は放置ね。」
それだけ言うと背負い式リュックと、レース付ポーチは魔法の鞄に直す。
あと小さい袋も全部は要らないけど、今はどうしようも無いから全て魔法の鞄にいれておく。
「お父さん、戦士ギルドに行って透明の液体か半固形の油の素材がこの森で採れるか確認して来て欲しい。
帰りに追加分の連成瓶ももって帰って来てね。」
「あぁ、分かった。
しかし理由はどうするつもりだ?」
「そっか⋯理由。
それなら今度エリザベスお祖母ちゃんの宿でお風呂を作ろうと考えてるから、髪の手入れをするのに良い油が無いか探してるって伝えていいよ。
娘達が花の匂いのついた化粧品代わりの油を作るみたいだって言えば、戦士ギルドの人達は全員男性だからそんなもんか?って、思うんじゃないかな?」
「分かった。
髪に塗るための油だな?」
「うん。出来れば植物の油が欲しいけど、無ければ魔物や魔獣のでも良いよ。
匂い消しにタマの皮を使って工夫するとか言ってくれたら良いから。」
「なるほど、分かった。
それで行こう。
ウチでは昔から傷薬の軟膏でタマの実の皮を使っているとこの前言っていたものな。」
「実際に仕入れた油の匂いがキツかったら使ってみても良いしね。」
「ハハハ、そうだな。
そうでなければ幾ら魔力が戻っても、あの臭いに耐えながら使うのもしんどいしな。」
「他に匂い消しに役に立ちそうな植物の情報があったら仕入れてくれて良いよ。
タマの実の皮でダメなら試したいからって聞いてくれたら、実際ダメならそうなるから、嘘じゃ無いしね。」
「魔法の鞄だからな。
幾ら安くなったとしても、元の質が良い物だから、下手をすれば白金貨のままかも知れんしな。⋯」
「うん。魔力が戻るかどうか次第になるけど、元の値段が白金貨1枚以上なら、どうしてもそうなるよね。
まぁ匂いより先に、先ずは魔力だけど。
多分行ける気がするんだよ。
時間がどれだけかかるかに寄るけどね。」
「うむ。そうだな。」
「それじゃ余計な飾りは全て外しちゃおう。」
「え?!俺は無理だぜ!」
「僕も!」
「わ、私もちょっと⋯」
「えっとぉ~お母さんもちょっと困るかなぁ〜。」
「お母さんには悪いけど、この中で1番裁縫が得意なのはお母さんだから手伝って貰うよ。
お姉ちゃんはお母さんの作業
を見て慣れたら手伝ってね。
お兄ちゃん達はちょっと面倒だけど、昨日タダで貰った傷物の魔力草を今度はちゃんとお金を払って買いに行って欲しいかな。
今後は定期的に買いに行くことも伝えてね。
理由はピアも食べたけど、鳥にも使うって言っておいてくれたら大丈夫かな?
ピアにもあげたいし、鳥も食べるなら食べさせたら品質があがるかも知れないから、そこはやってみなくちゃ分からないんだけどね?
だから魔力草はお父さんとはべつ口にしておきたいんだよ。」
「それなら良いぜ!」
「うん!」
「でもそうすると、帰って来たらまた午後にも中央に行くことになるから無駄かな?」
「別に気にしないぞ?」
「うん!獣車の中で勉強するから大丈夫だよ?」
「⋯ふむ。じゃ今日はお願いするね。
遮光錬成瓶も増やして起きたいから、錬成師屋さんで100個の遮光錬成瓶も買ってきて欲しいんだけど⋯これはお父さんの方が良いかな?」
「うむ。そうしよう。
入らなければ獣車に乗せれば良いな。」
「なら出来るだけで良いから、この前注文した大型と普通の透明錬成瓶も完成してたらもって帰って来てね。」
「人数もいるから大丈夫だろ。」
父と兄達2人は傷物の魔力草を仕入れる為に、銅貨を100枚近く入れた遮光錬成瓶と月の光の水を入れた遮光錬成瓶を背負い籠に入れて、中央に向かう為に先ずはセフメトの所に走って向かった。
昨日の午後兄達が買ってきた、萎れた傷物の魔力草は、今朝には予想通りに錬成瓶の中で元気を取り戻した事はもう確認してある。
でもこれが種まで作れるかは分からない。
何故なら種を作る時は蓋を開ける必要が有るからだ。
でもこの傷物の魔力草が有れば、魔法の水に漬けて置けば魔法の水に魔力を溶け込ませる事が出来るのは、これまでに作った根っ子だけ漬けたあの月の光のお水を飲んだ私は身体で知っている。
せめて花付きになれば、刻んで水に入れればいいんだけど⋯お茶になる?
葉っぱと茎は外さないと、水が緑に着色されるから袋も緑に染まっちゃう?
なら根っ子だ。
無色透明でいられる魔力草の根っ子を其処に入れて、他は私が飲む魔力草のお茶にしよう
傷物の魔力草は15cm以上に育っているから、花付きになるまで3日か4日も有ればイケルはず。
何なら1日だけ漬けて蕾がつく前に使ってもいいけど勿体ないよね。
魔力草の本数が増えたら月の光の水の日数を稼ぐのが難しいかな?どうだろう。
早く戦士達に魔力の水を出させなくちゃ!
明日には私も中央に行こうかな?
獣車で私も勉強を頑張らなくっちゃ。
「お母さんとお姉ちゃん。
眺めてても飾りは外れないよ?」
「でも〜」
「壊したらどうするの?
責任取れないわよ!」
「宝石は石と同じで硬いから、机に叩きつけでもしなければ傷物にならないし、金の鎖も同じだからね?」
「それなら外さなくてもそのまま水に着けたら良いでしょう!」
「石や金属はそうだけど、リボンやレースは駄目なんだよ。
袋は魔力を回復させなくちゃいけないから仕方が無いけど、そんな繊細な飾りを水に着けたら布が伸びたり劣化するから、ボロになっちゃうの。
だから外さないと駄目なんだよ。
⋯でも外したら、今度はつけなくちゃいけなくなるんだよね。
どれぐらい日数がかかるか分からないから、飾りの配置を忘れちゃう?
ならメモに残して置かなきゃ駄目?
でも全部ちょっとづつ飾りのつけ方が違うのに、これを全部メモするのってかなり面倒臭いよね⋯う〜んどうしよう⋯」
「メモぐらい書くわよ!」
「お母さんも絵ぐらい描けるわ〜!
それなら得意なのよ〜!」
「そう?
それなら金色の紋章みたいな飾りがついてる物以外の飾りを、全て外す前にメモに絵を書いて遺しておこうか。
お母さんは最初だけ絵を描いたら、どんどん飾りを外して行ってね?
私やお姉ちゃんがやるより確実だからね!」
「えぇ〜⋯お母さんもお絵かきの方が良いんだけどなぁ〜⋯」
「お母さん。コレは遊びじゃ無くてお仕事だから。」
「だうー!あー!」
『あ!!!』
「ヤバ!ジーニス!」
うっかり話に夢中になってたら、静かにしてるな?と思ってたジーニスが、壺を遺しておしり丸出しの状態で外に冒険に出かけてた。
庭から聞こえたジーニスの声に、姉が慌ててすっ飛んで行く。
流石!聖獣ゴリラ、風のように素早かった。
姉はもうヒロインじゃ無くて主役として凄腕の戦士になれば良いのにと思う。
魔物も魔獣も倒せるだろうけど、何なら悪い戦士達もボッコボコにして、躾し直してくれたら村が平和になるんじゃ無かろうか。
そんな新しい女傑誕生の妄想を繰り広げかけてたら、ジーニスを捕獲した姉がレモン色に光りながら戻って来た。
どうやらジーニスは外で汚い何かの所に居たのだろうか?
ちょっとよく分かんないけど、無事で良かったよ。
そして聖獣ゴリラに叱られたジーニスは、ベビーベッドに戻されて今度は木片を投げて遊び始めた。
ちょっ⋯こっちに投げて来ないでよ!
私まだ2歳なんだから怪我しちゃうじゃ無い。
⋯あ、と思う。
昨日は顔に擦り傷があったのに、今触ったら治ってた。
王様からは顔に傷がある事を言われなかったから、王様と会う前には治ってたんだろうけど⋯。
2歳児の治癒力がヤバすぎない?
鏡が無いから良く分かんないけど、そりゃ回復魔法もつかってたんだけど⋯お昼寝したら治るもんなの?
擦り傷だよ?
若さって凄いのね〜。
それともあの臭くて目に染みる塗り薬も効いたのかなぁ?
「リリアナ!
サボって無いで早く手を動かしなさい!」
「あ、はい。」
私は頑張ってお絵かきをして、取り敢えず15枚のメモは完成した。
次は飾りを外して行くのだが、外したら高価な宝石とかを入れる袋が必要になる。
だから今は当分触る予定の無いお洒落ポーチに宝石や金の鎖やチャームやらリボンやらレースを入れといた。
ポーチの芯は木製っぽいけど、そこはお姫様仕様だから、ベルベットみたいな濃い赤色の布が敷かれてるから宝石を入れても安心の柔らかさが有る。
でもこのベルベットみたいな肌触りの良い布は、ひょっとしたら何かの魔物の毛皮を染めて使ってるんだろうか?
うーむ⋯謎い。
このお洒落ポーチは、あの男性用リュックとは別の意味で強敵に成りそうな予感がする。
布は蚕みたいな蜘蛛の糸っぽいのを編んで布にしてるんだろうなとは、私達の服を思えば納得するけど、このベルベットみたいなヤツは布を染めてるのか、それとも毛皮を使ってるのかが、分からないのだ。
つまり水なのか油なのかが分からない事になる。
むしろ水も油も、使ったら駄目なヤツかも知れない。
毛皮と革は違うからだ。
これはピアを増やして、ピアの毛皮を使って実験しなくちゃいけないのかも知れない。
思ってた以上にこれはかなり手強そう。
なら先に専門家に毛皮の手入れを聞いた方が早い。
革の専門家と言ったら靴屋さんしか知らないけど、毛皮も分かるかなぁ?
ピアの毛皮を納入するついでに、セフメトに情報収集して貰えるようにメモを書いておく。
どうか私の平凡なる頭脳よ、メモを書いた事すら忘れないでちゃんと覚えてて欲しい。
いやそんな淡いもんに頼ってるから駄目なんだ!
「ちょっと出てくるね。
直ぐに戻って来るから。」
そう一言言ってから私はメモを手に持って倉庫に向かった。
メモを縄に挟んでピアが入ってる錬成瓶につけて置こうと考えたからだ。
あとついでに餌も確認して、食べてたら追加しようかどうしようを悩んでる。
傷物の魔力草は取り敢えず元気になったので、本当に食べるかお試ししてみたいのだ。
でも相手は魔獣だから、私だけだと舐められてしまうかも知れない。
でも頼りになる父や兄達は今居ないので、私1人だけ頑張るか、それとも餌やりは観察だけして置いておくかで悩んでた。
だって私は賢いお子様なので、危ないと思ったらやらない子供なのである。
でも危なく無かったならどうだろう。
ピアは魔獣だけど私がスーパーモードに成らなくても、私本来の魔力だけで制圧出来そうな感じがするのだ。
そうすると父や兄達を待つ理由が無くなってしまう。
でも最初本当に大丈夫か、誰かが居る時に試してからやらないと、王様に偉そうに言えなくなっちゃうよね?
そう考えが行き着いたので、今回は見てメモを挟んで終わろうと思って倉庫に向かった。
でも倉庫のドアが古くて少し立て付けが悪いので開けることが難しかった。
私は1人で倉庫に入った事が無かったので、まさかピアに会う前にこんな難関が待ち受けているとは夢にも思って無かったのである。
しかし私は賢いお子様なので、今回は魔力に頼んで力を強くして貰った。
そう私は倉庫のドアを開けるのに、身体強化の魔法を産まれて始めて使ったのである!
でも倉庫のドアは私が予想していたよりも強敵だった。
日本家屋みたいに横にスライドさせるタイプのドアだったが、私の身長が低すぎるせいで、下の方にしか力が入れられず、下の方ばかり幾ら横にスライドさせても、上が引っかかるからドアが動かなかったのだ!
おのれ!なんたる事が。
よもやこれ程とは!
ドアは門番なんて誰も居ないのに、存在だけで門番だった。
だから私は賢い頭脳を回してどうすればいいかを考えた。
他人を呼びに行けば早いけど、それは負けた気がするので自分で何とかしたいのだ。
身体強化では駄目だったので、魔力の手を使って本数を増やして対抗することにした。
でも魔力の手を素の私本来の魔力では、3本形にするのが精一杯で持続時間も恐らく30秒も使えない。
でもだからと言って取り込み法を使ってしまえば、聖獣ゴリラの二の舞になる。
だから私は少ない私本来の魔力を、なるべく消耗しないで済むように日光を浴びながら使わなければならなかった。
つまり魔力の筋トレをすることになる。
父はこうして魔力を鍛えて来たのだ。
ならば娘の私も魔力の筋トレをしなくてはならない。
と言うことで頑張って3本の魔力の腕を使ってドアを横に開いた。
そしたらターン!ターン!って勢い良く開いたドアが行き止まりに当たって戻って来て、私の目の前でも壁に当たって音が鳴ったから、身体がビク!とする。
ホントにビックリした。
まさかこんなに勢い良く開くとか思って無かったからだ。
しかも当たった反射で戻って来たドアが目の前でまた閉まったのに勢いがつき過ぎてるから、また当たって開く形になったんだよ。
今高速で私の目の前を左右に行き来したドアはゆっくりと動いて中途半端な所で止まってる。
あー、ビックリした。
アレだ、重いと思って力を入れて段ボールを持ち上げたのに、中が空でスカッ!と持ち上がってビックリした感じ。
アレと似てる。
むしろ開きすぎて老体を蹴り倒した気分で、ドアが壊れなかったか不安になった。
取り敢えず外れて倒れて来ないから、大丈夫だったんだろうか?
ウチの実家は母が嫁入りする前に、麦藁を入れてた倉庫を改築して街から逆輸入した中古素材を使って建て直した、新築モドキの家になってるから、あんまり古く無いはずなんだけど、元の素材が中古品を使って建てられてるから、頑丈さに不安があるんだよ。
でもまぁ1秒で開いたから、うん、魔力の消耗は少なくて済んで良かったのかな?
あんまり筋トレした気分にはならなかったけどな!
うん、大失敗だ!
私が思ってたよりも魔力の消耗は少なかったけど、ドアのあのようすを見る限り、多分魔力の腕は1本で足りたんだと思う。
素直に真ん中の1本を使えばドアは開いたんだよ。
だから上下に作った2本分の魔力の腕に使った魔力が無駄だった事になる。
そりゃ筋トレになんねーわ。
魔力をタップリ使った単なるゴリ押しじゃねぇか。
少ない魔力を使って魔法の効果を及ぼすからこそ筋トレなんだよ。
真逆な事をしてたらそうなるよね。
次にドアを開ける時はオートじゃ無くて、マニュアルにする事にした。
ターン!て、なる最大の理由がソレだったからだ。
多分マニュアルで操作してたら、動かし始めに想像よりも軽い事に気付けたはず無んだよ。
手動で魔力を動かすんだからそうなるよね。
でも魔力に命令してやらせたオートマ仕様だと、違和感なんてコッチは全然分かんないのよ。
だって指示してるだけなんだもん。
つまりこのオートマで細かい作業をするのは、向いてない事になる。
それをしようと思えば、きっと魔導の知識と魔法言語が必要になるんじゃ無かろうか。
王様の様子を見ると、人間が素でオートマ魔法を使える事を知らないみたいだったけど、こんな不便があったから魔法言語として技術が発展したんじゃ無いかと考えられるんだよ。
才能だけでやれちゃうから、仕組みがちゃんと理解されて無くて、こうしたら良かったみたいな経験から得たふんわりとした知識でやってるから、そんな矛盾が起きても誰も気が付かないんだろうね。
今更ながらこんなヤバいもんを姉にあたえてしまった自分の迂闊さにウンザリする。
父やタルクス叔父さんはまだ大人だから、自制心を働かせて魔力を調節しながら魔法を使うだろう。
でも姉。
アイツは駄目だ。
あれだけ注意してるのに、欲望のまま魔力を取り込んで、何も考え無いで魔法をぶっ放してる。
コレマジモンの激ヤバ案件だ。
姉にはこの危険性をちゃんと伝えなくてはならない。
だってアイツは天才テイマーなんだもん。
しかも鬼軍曹。
兄達やジーニスにまでこの知識を、何も考えずに得意げに詰め込みそうな予感がヒシヒシとする。
これ下手したらこの星が滅亡するレベルかも知れん。
たった1人なら大したことのないものでも、数が増えたら最悪な事になりそうだ。
まさに秘伝にするべき知識である。
むしろ失伝した方が良いレベルのやつだ。
もうピアがどうとか言ってる場合じゃない。
どえせ餌をやりたかったんだし、私は姉をここに連れてきて問題を伝えねば!と、慌てて家まで走って行く。
魔力で筋肉強化をして走れば速くなるかとおもって、下半身の筋力を上げたら最初の一歩の踏み込みが力が入り過ぎたせいで、ブチ!ボキ!と言う音と共にそのまま斜めにすっ飛んで行ってゴロゴロと地面を転がった。
顔やら掌やら足がまた大惨事になった。
私はひょっとしてアホなんだろうか?
力を強くしてもバランス感覚が養われて無ければ、そりゃ上手く走れなくて当たり前だったのでは?
地面に転がった痛みに悶えて、ミノムシみたいに蹲りながらも、私はそんな事を考えてた。
でもそんな余裕は一瞬で消えてしまう。
だってショック状態で痛みがまだ薄かったことを、右足からの異常から察したからだ。
これはアレだ、多分魔力で筋肉を強化したせいで大怪我をしてる。
ズキンズキンと時間が経つごとに痛みが強くなって来てる気がするからだ。
下手したら骨が逝っちゃってるかも知れない。
それはそう。
歩くのすら満足に出来て無い未熟な筋肉を強化したから、そりゃ筋とか骨とかに負担がかかって当然無んだよ。
肉体強化はそこまで意識して強化しないとヤバかったらしい。
私は最初にドアを開ける為に筋力だけを意識して強化してたのが失敗の要因だ。
てか原因の究明とかやってる場合じゃない。
急いで何とかしないと、私はまだ2歳なんだから本気で死ぬよ?!
たかが骨折だけど2階から落ちても死ぬような脆弱な身体だからな?
さっきの転倒だって自動車と交通事故を起こしたレベルだよ!
てことで私は止むなく周りから魔力を集めて吸い込んだ。
もう変質がどーのこーのと気にしてる場合じゃないからだ。
でも流石に魔法を2連続で失敗してるから不安も大きい。
だから地面を動かして姉に助けを求める事も難しいから、ハイエルフモードもやむ無しと、魔力を強化して浄化と治癒魔法をぶっ放した。
マニュアルなんてやってらんない。
だって骨やら筋やらがどうなってるのかさえ分からないのに、集中して探ることも出来ないぐらいに痛いからだ。
だから神様お願いモードになって、私は運に自分の命運を委ねることにした。
何だろ。
イージーモードで生きてたはず無のに、今生きるか死ぬか変異するかのハードモードに突入してる。
可怪しい。
私は倉庫のドアを開けようとしただけなのに、何でこんなにプチられてるんだろう。
全て自業自得のなせる技でしか無いけれど、これが国を1つ滅ぼした天罰ってヤツなんだろうか。
そんな鬱な精神状態になりかけてたけれど、ぱあぁぁ!とレモン色に光ったら痛みが綺麗さっぱりと無くなった。
恐る恐ると視界に入る髪を見たら、周りの魔力が姉に奪われてて薄くなっていたせいか茶髪が綺麗なブロンドレベルで落ち着いてる。
はああぁぁぁ~⋯と、大きなため息を零して私は地面に大の字になって寝転んだ。
しばらくは雲の多い空をぼんやりと眺めてる。
もう指先1本すらも動かしたく無かったせいだ。
でもぼんやりとしてたら厠からほんのりとアンモニア臭が漂って来る。
私が倉庫よりも厠の方が近くなってしまっているからだった。
だから私はむっくりと起き上がると、厠に向かった。
トイレに行きたくなったからだ。
足の事はもう確認なんてしてない。
だって変な風に治ってたら歩けないのなんて、分かりきってる事だからね。
家から出て僅か5分もしないウチに、スペクタルな冒険をしたような気分になったが、今はもうどうでも良かった。
だってもう私、何で厠に来てんの?って、ぼんやりとしてるからだ。
なんかしなきゃ行けない事があった気がするんだけど、今はポッカリと空いてる板の隙間に気をつけないと、今度は肥溜めの中でスペクタルな大冒険が始まってしまう。
それだけは絶対に避けなくちゃ駄目なので、ここはぼんやりしてる暇なんて無いのだ。
何とか無事にトイレを終えて、厠に来たんだからついでにピヨ子の為にエレガント米粒を仕入れて置こうと考えた。
何かを忘れてるような、そんな変な違和感を感じてるんだけど、お母さんじゃあるまいし。
そんな短期記憶障害を起こすような、トラウマみたいな経験なんてしてないからな。
「あれ?何で倉庫のドアが明けっ放しなんだろ。」
そしたら偶然半開きのドアを発見して眉間にシワを寄せた。
だってそこの倉庫にはピアを入れて、日の光が当たらないようにしてたからだ。
誰かは知らないけど、開けたんならちゃんと閉めといて欲しい。
そうプリプリしながらも、倉庫に行くついでに、ピアの様子を見て置こうと考えた。
だって傷物の魔力草を食べるかを、確認しておきたかったからだ。
でもピアに餌を与えるには瓶の蓋を開けなくてはならない。
私の魔力なら抑えめるとは思うけど、やはり王様じゃないんだから最初の1回目は他に誰かに側に居て欲しい。
頼みやすい兄達は中央にお使いに出してしまったので、残ってるのは姉とエターニャとバッカスになる。
姉は頼むと煩いから置いといて、でもバッカスはこの時間だと鳥の仕事をしてるから難しいだろうか?
エターニャは魔獣と戦える気がしないので、頼むのには気が引けてしまうのだ。
そしたら残るは姉しか居ないよね。
姉なら多分ピア程度なら、戦った経験なんて無くてもボッコボコにしてくれそうな安心感が有るから多分イケルんじゃ無いかな?
そんな事をツラツラと考えながらも、取り敢えずドアを閉めて置こうとしたけど、私だと引っ張っても下の方にしか力が入らないから、上手く閉まらないんだよ。
だから肉体を強化をしようと考えた所で、何だかハッとした。
何かは分からないけど、私は大事な何かを忘れてる気がしたのだ。
でもそれはとても霞んでる記憶だから、幾ら辿ろうとしても掴めないのよ。
デジャヴみたいなこの変なモヤモヤは一体何なんだろう。
もの凄く気持ち悪い。
だって厠に行く前には今よりも何かを覚えてた筈なのに。
それが今なら分かるのに、何を覚えてたかすらハッキリしないから悶々とするのだ。
でも大事な事ならちゃんと覚えてる筈だから、忘れるぐらいなら大したこと無いのかも知れない。
何時もならそう考えて一旦横に置いておくのに、何だか今回はずっとモヤモヤしてるの。
だから念のために倉庫のメモを見る事にした。
さっきまで鞄のデザインを描いてたから、筆記用具は置き去りにしてたのよ。
私は何かをしようとして地面に寝てた。
もうそこが変なんだよ。
私は何かをしようとして、家を出たのに地面に寝てるのって変じゃない?
厠に行ったのはあれはボーッとしてたら厠から匂いがして来て、ついでにトイレに行きたかったから行っただけなんだよ。
だからトイレじゃない何かがあったから、今の私はこんなにモヤモヤしてるんだと思う。
ピヨ子の為のエレガント米粒は、このまま忘れた所で他にも食べ物は有るから取り敢えず置いておいて、メモを漁ってみることにする。
何かヒントが有れば良いなと思って紙の束を出して読もうとしたら、視界の端っこに紙が1枚落ちているのに気がついた。
何だろう?と思って倉庫の前から少し移動してその紙を拾って
書かれてる内容を読んでみた。
そしたらピアの毛皮を売りに行く時に、セフメトに毛皮の手入れを聞いて貰うようにつたえると、書いてあったのだ。
私はハッとして半開きになったドアを振り返って、少し呆然とする。
この紙がここに落ちてたなら、ひょっとしたら私はドアを明けっ放しにした犯人なのかも知れない?
でも私にはドアを開けた時の記憶が全く無いのは何故?
しかも地面に転がったんなら、理由は分からないけど、私が自分で地面に寝てた事になる。
でも私はそんな事は絶対にしない。
だとしたら転んで怪我をしたんじゃないだろうか。
そしたらふと⋯視界にキンキラキンになった髪の毛の先が目に入ってゾッとする。
多分私は転んで治癒魔法を使ったんだろう。
転んだ理由が何かは分からないけど、地面に転がってる理由なんてそれしか考えられなかったのだ。
そしてゾッとしたのは治癒魔法をオートマで使うと、私が短期記憶障害を起こすのではないかと予想したからだ。
私はその理由を探す為に周りを観察する事にした。
半開きの倉庫のドア。
倉庫から少し離れた地面に落ちていたメモ。
私が転んでいたのは倉庫よりも厠に近い土間の手前。
このメモが落ちていた場所と、倒れていた場所に違和感を感じた。
転んだ拍子にメモを落としたにしては、少し距離が離れすぎていないだろうか?
メモは明らかに倉庫の近くに落ちている。
そして倒れた場所は10m以上離れていたのだ。
風で飛ばされた事を考えても、今日は風が強く無い。
それに手にメモを持って転んだのなら、メモはもっと私が倒れた近くに落ちてるはずなのだ。
そう思って半開きのドアの前に立って、メモを手から離してみた。
するとヒラヒラと舞い落ちたメモが、私が拾った辺りの近くに落ちた事を確認して、私は確信する。
メモは私が転ぶよりも先に落としていたのだ。
だから私の転んだ近くに、メモは落ちて無かったのでは無いかと、そう考えながらメモを拾おうとしゃがんだら、地面に小さな窪みをみつけた。
まるでつま先に力を入れて後ろに砂を蹴り上げたらこんな風になるのでは無いかと言わんばかりに、窪みの後ろに放射状に掘り返された砂が飛び散っていたのだ。
「あ⋯」
私はメモを手に取ると、素早く立ちあがって半開きのドアを振り返って辺りを警戒する。
長閑な午前だった夏の朝なのに、いきなりホラー空間に迷い込んだみたいだった。
ゴクリと生唾を呑み込む。
恐らく私は持っていたメモを落とすぐらいの脅威を目の当たりにしたのだ。
身体強化をしようとしてハッとしたのは、忘れていても身体が体験して残っていた痛みの経験を、そこの魔力が覚えてて反応したのかも知れない。
これはもう希望的な予想でしか無いけれど、私は転んだぐらいならハイパーモードになる程の治癒魔法なんて絶対に使わない。
だとすると地面に痕跡が残るぐらいの足跡を見る限り、使ったことの無い身体強化の魔法を使った事で、強化された筋肉がやらかしたとしか考えられないのだ。
そして走ったら転ぶ子の私は
ハイパーモードを使わないといけないぐらいに大怪我をした事になる。
そしてオートマで治癒魔法を使わないといけない程の重症だったせいで、上手く指示が出せなかったんじゃ無かろうか。
だから短期記憶障害を起こして、今ここに居るのでは?
服に血の跡や泥汚れが無いなら、浄化魔法も併用したと考えられる。
それほどの大怪我なら、出した指示が甘かったのも頷けるよね。
つまり開放骨折でもしてたらそうなる。
肉体強化激ヤバ!
経験の浅い私はメモを落とすぐらいに動揺してたせいで、ウッカリ筋肉だけを強化していたんじゃ無かろか。
そして走る経験が未熟なのもあって、初めの一歩でバランスを崩して勢い良く転んだから、あんな所に寝転がる羽目になったと予想すれば、全ての辻褄が合う。
記憶障害にしてもスッキリ忘れてた訳ではないので、これはオートマで身体を元に戻してとでも願っていれば、誤作動で記憶まで巻き戻る程の影響を受けた事が予想出来る。
でも記憶を消せと指示した訳では無かったので、薄っすらと残っていたからこそ、デジャヴやモヤモヤとした感覚を感じられたのかも知れない。
つまり曖昧な指示で、オートマで魔法を使うと予想だにしなかった落とし穴に落とされて大惨事になるのが確定した。
それはともかく、メモを落として慌てて身体強化して走らないといけない状況って何なの?
ピアが脱走でもしたの?!
私は覚悟を決めて、ゆっくり倉庫の中に侵入する。
泥棒が隠れてる事も警戒したけど、それなら走った方向が腑に落ちない。
もしそれなら私は姉ではなくて祖父を頼りに祖父の家に向かって転がっていた筈だからだ。
姉は強いけど一応は女の子なので、将来的に戦士になって無双したとしても、今はまだその年齢じゃないからね。
そして祖父の家に迎えば、其処にはバッカスがいる。
多少心許なくても祖父とバッカスで泥棒に対応して貰って、私は援護をする筈なんだよ。
でもそうじゃないなら、ピアの捜索に出るために姉を呼びに行ったのでは無いかと考えたんだけど⋯ピアは普通に透明錬成瓶の中に居て、モシャモシャと朝にあげたヤマを齧ってた。
もう私の頭の中は???だよ。
え?他に何かヤバいのが有るの?!
でもそれならピアが呑気に餌を食べてるのも腑に落ちない。
コレは一応野生なので、私が今こうして近づいただけでもピク!と、反応してヤマを咥えたまま動きを止めたからだ。
そしてくるくると回ってから、逃げられない事を悟って身を低くして警戒してるので、私は取り敢えず放置して倉庫の表に向かった。
メモをつけようとも考えたけど、それはこうなった原因を究明した後にすれば済むことだ。
そして倉庫の辺りを一周して、何か変化はなかったかを調べてたら、姉がやってきた。
「何やってんのよ。
直ぐに戻って来るんじゃ無かったの?」
「実はね⋯」
私は泣きそうな思いで、さっきあった事の全てを報告する。
「なによソレ、身体強化ってそんなに危険な魔法なの?」
「うん。今なら落ち着いてるから思い出せたんだけど、錬成師のお姉さんから、身体強化は魔力を込め過ぎたら大怪我をするって聞いた事があったの。
それは多分私が失敗したみたいに、筋肉だけを強化してるからだと思うんだよ。」
「私はそんな事をしてないけど、怪我なんて1つもして無いわよ?」
「それは強化しようと思ってしてるんじゃ無くて、無意識でやってるから魔力が全身を強化してくれてるんじゃないかな?」
「その違いが何なのか良く分からないわ。」
「つまり高く飛びたいから足に力を貸して!って想像したら兄の筋肉だけを強化するから骨が折れたりするんじゃない?
お姉ちゃんは高く飛ぼうと思わずに、木の上に手を届かせる為に飛んでるだけだから、結果として高く飛んでも、身体がその動きにあった強化をしてくれるんじゃないかな?」
「それなら今のまま使えば良いのね?」
「うん。でもお姉ちゃんからそれを他人に教えるのは止めた方が良いと思う。
下手に教えたら意識しちゃうから、今私がこうしてお姉ちゃんにこの事を伝えるのも危ないのかも知れないよ。」
「あ!そうよ!何やってんのよ。
これから怖くて動けなくなるじゃない!」
「そもそもそれは成長が止まるからしちゃ駄目よって言ってるのに、どうして続けてるの?」
「え⋯?そうだっけ。」
「ほらお姉ちゃんも私みたいになってるよ。
多分回復魔法か何かを使った障害で一次的に大事な記憶が消えてるんじゃ無いの?」
「え?!そうなのかしら?
嫌だわ。怖いのねこの技術って。」
「うん。私もこんな事になるなんて知らなかったから色々皆に教えてたけど、もう教えない事にするよ。」
「そうね⋯私も教えない事にするわ。
でもこれも忘れるのかしら?」
「私も怖いからメモに書いて残しておくね?」
「私はどうしたら良いのかしら⋯」
「それじゃあお互いに確認し合おうよ。
この技術を使えば色が変わるから、覚えてる?って聞くから覚えてたら、うん!って言えるけど、忘れてたらえ?ってなるからわかるんじゃないかな?」
「分かったわ。この技術は身体の成長が止まったり記憶が消える事が有るから危ないわよって、忘れてたら教え合いましょうね。」
「うん。お姉ちゃんが居てくれて本当に良かった。
私も早く学校に行ってちゃんと魔法言語を習って、魔法を使う事にするね。」
「それなら私も学校に行きたいわ。」
「それじゃ私とお父さんが学校に行って調べとくから、お兄ちゃん達と一緒に学校に行けば良いよね?
その代わりに1人金貨30枚と、小金貨10枚だったか向こうの生活で必要らしいから、頑張ってお金を稼ごうね?」
「分かったわ。
そのためにお金を貯めて置けば良いのね?」
「うん!」
私はとてもスッキリとした気分で笑顔になった。
私が何に驚いて姉を呼びに向かったのかは分からず仕舞いだ。
まだやっぱり何かを忘れてるような違和感もあるけど、今の所はまぁいっかと。
いつも通りにちゃんと思えるようになれたので、ホッとしている。
これまで以上にハイパーモードになるのは厳禁だし、魔法のことだけで無く、例え転ぶとしても走って身体を鍛えようと考え方を変える事にしたのだ。
だって今日私の記憶が飛んだのは、身体が上手く使えなかったのに魔法で身体強化をしてしまったからだ。
私は人よりも多く魔力を持っている。
だからこの先の人生で、必ず今日のように全力で動く日も有るだろう。
それなのに身体が上手く使えなかったら、また大怪我をしたり記憶が飛ぶような回復魔法を使う羽目になるのが、今回はよく分かったからである。
それに怪我をしても治りが早い事もわかったし、私の根性なら多少の痛みぐらい耐えられる事も、ピヨ子の件で経験したから知っている。
だから私はお姉ちゃんに手伝って貰ってピアに傷物の魔力草を与えたり、エレガント米粒をゲットした後はちゃんと走って家まで戻って行った。
じゃないと空から魔物が来て攫われるかも知れない事を、私はもう知ってるからだ。
お姉ちゃんが私の様子を見に来てくれたのも、お姉ちゃんがその話を知ってたから心配してくれたんだと思う。
家に帰れば母がせっせと飾りを外してくれていたので、今のウチにと姉と2人で寝床から剥がしたシーツやジーニスのオムツを、木桶に魔法の水を出して洗濯したり、部屋のお掃除で浄化魔法をぶっ放したりして母のお手伝いを頑張った。
家や厠まで浄化したり明るいお日様の下で魔法を使ってたら、姉も私も元通りの色に戻った事を、お互いの色をチェックして教え合ったよ。
いつも通りに戻った母が、全ての飾りを外してくれたので、私は姉と寝室に来て闇魔法で闇のカーテンを作って部屋の明かりを遮ってみた。
「真っ暗で何も見えないわ!」
「うん。だからお姉ちゃん。
私の代わりにお月さまを想像して天井を照らしてくれない?」
「そうね、やってみるわ。」
本物のお月さまじゃないとおもうけど、青白い光が部屋に満ちたから、私は直ぐにベッドの下の床に錬成箱を出して、次々に透明錬成瓶を取り出してベッドの上に並べて行く。
「これ⋯あの魔道具がついて無いわね?」
「うん。これは今までずっと長い間月の光を浴びせてた私の取っておきなの。」
「あぁ、いつも使ってなかったあの錬成箱の方なのね?」
「うん。多分これでも足りないかも知れないけど、今回はコレを使って行こうと思ってるの。」
私はそう言うと錬成箱の蓋を開けて、ベッドの上から手を伸ばして瓶にお水を汲んで行く。
ベッドの高さは60cmぐらいなので1mの高さがある箱の中に私が落ちる事も無く、いい感じにお水が掬えている。
姉も同じようにして手伝ってくれて合計15個の錬成瓶が水を汲み終えてベッドの上に転がってた。
そして私は魔法の水を入れて満杯に戻すと、蓋を直ぐに閉めた。
「これをしたら魔力の量が分からないんじゃ無いの?」
「うん。良いの。
これは復活するかまだ分からないから、もしこの方法で復活出来たら今度は記録を取って研究していくよ。」
「あぁ⋯そう言う事ね?
無駄になるかも知れないからなのね?」
「うん。それに1月以上の月の光の水を準備するのは難しいからね。
もしそれが知りたいなら、知りたい人が実験したら良いと思うんだよ。」
「サボる言い訳みたいね。
でも作業が増えてるから、これで済むんなら楽で良いわね。」
一応は魔力を瞳に集めて光の強弱で、魔力の差は確認したよ。
だから個人的にメモは取るつもり。
薄い水色から始まり、さっき水を足すまでは深緑だった錬成箱が今はエメラルドグリーンまで明るくなってる。
だからこれからまた月の光を浴びせてたら、魔力が溜まってまた深緑まで戻ると思う。
そして魔力を込めた瞳で袋入りの透明錬成瓶を見ると、深緑色なのがよくわかる。
私はそこまで確認すると、次々に魔法の鞄に袋入り錬成瓶と錬成箱を収納して、闇のカーテンを消し去った。
姉も部屋が明るくなったので、月明かりに似せた光の魔法を消している。
「ただいまー!」
するとドヤドヤと家の入り口辺りが騒がしくなって来た。
父や兄弟達が戻って来たらしい。
昼食後に久しぶりにカルタ大会をしたけど、2人の兄にボコられた私達姉妹はぐぬぬぬとなっまた。
リベンジで私はトランプで挽回を計ったけど、スピード勝負では姉が勝ち、神経衰弱だとマルセロが勝ち、ババ抜きだと何故だかロベルトが勝ったので、私は大富豪で勝ち抜けた。
革命した時の3人の唖然とした顔が痛快だったよ。
負けが込んでたからなぁ〜。
実は瞳に魔力を込めたらトランプの数字が読めたけど、そんなズルして勝っても楽しく無いよね?
だからちゃんと真面目にやったよ。
強欲な姉も同じ事が出来るはずだから、気がつくまでは秘密かな。
魔力草の水の入れ替えも、闇のカーテンと月明かりのランプはまた活躍してくれたから、ロベルトとマルセロが面白がって真似して月明かりのランプが3つになった。
闇のカーテンはまだイメージがつきにくいけど、月はハッキリとイメージ出来たみたい。
これはカーテンの無い生活をしてる弊害かな。
窓が無いから、雨が降ったら木の板で窓穴を塞いで、ロウソクを灯すのが普通だけど、我が家にはプチ聖女様が居るので、魔法の光は皆馴染みが有るんだよね。
魔法草の水の入れ替えを終えて、闇のカーテンを払ったら、外は雨が振ってて薄暗くなってた。
兄弟達はがっかりしてるけど、私はこれから昼寝だからラッキーだね。
そう思ってたけど、昼寝から起きても雨はまだ振り続けてた。
それでもこれぐらいなら良くある事なので、ピヨ子に餌をあげたり勉強してたら。
ゴロゴロゴロゴロ⋯と、低い音が聞こえて来たので、私は一目散に椅子から降りると、玄関に向かって走って行く。
また転びそうになったけど、転ばずに走った。
でもいつも開いてるドアが閉まっていたので、家から外に出られない。
「どうしたんだよ急に。」
「あ!マルお兄ちゃん!
雷見たいの!ドアを開けてよ。」
「雷?雷ってなんだ?」
「お空のゴロゴロだよ!」
「でもドアを開けたら雨で濡れちゃうよ。」
「大丈夫!雨なら操れるから。」
こうしてマルセロを説得すると、今日は雨のせいで騎士の会に行けなかった鬱憤から、マルセロも楽しそうに笑ってドアを開けようと手を伸ばす。
「開けるな!」
すると後ろから父が珍しく怒鳴ったので、私達はビク!と身体を揺らした。
「開けるなよ。
良いか、今のはゴロゴロドンの鳴き声かも知れん。」
「ぶっっ」
父があまりにも鬼気迫る真剣な表情をして、ゴロゴロドンとか言うからそりゃ噴くわ!
でも真剣そのものだもんで、慌てて咳をして誤魔化した。
「ゴロゴロドンってなぁに?」
兄は神妙そうに父に質問してるけど、私はマルセロの後ろに隠れて身体をグネグネさせてる。
「空を飛ぶ魔物だ。
偶に雷撃を落として来るんだよ。」
「らいげき?」
「あぁ、殴られるよりも強い衝撃で頭を殴られるから、雷撃を当てられると皆倒れるんだ。」
ちょっっっマジか!
そういや魔王が雷撃は打撃魔法って言ってたけど、言ってたけど!
それ殴ってんじゃねぇから!
雷が落ちて感電してるからね!
打撃ってっっっ!!!
ヤベェ、異世界マジか!
ゴロゴロドンて、あれじゃね?
こっちの世界の雷様とか鬼とか言ってるアレか?!
アレなのか?!
緑色のグルグルしたカツラ被ってウクレレを鳴らしてる太っちょなお爺ちゃんが頭に浮かんで来る。
ちょっっマジで勘弁して!
「早くこっちに来なさい。」
私は父に素早く抱き上げられて、リビングに連れ戻された。
そして直ぐに床に降ろされたかと思えば、ロベルトとカタリナが椅子を避けて行く。
そしたら父が片側を、反対側にロベルトとカタリナが来てテーブルをジーニスのベッド方向の壁に引っ付ける形で寄せたのだ。
その作業の間中、母はジーニスをシッカリと抱いて、もの凄く不安そうな顔をしてる。
一体何が始まるんだと、もう喉元まで込み上げてくる笑いを必死に堪えて、私はマルセロの傍らて両手で口を全力で塞ぐ。
だってもう皆すっごく真剣な顔をしてるから。
なのにそんな、笑えないよ!
またお正月じゃないのに、あの笑ったら駄目な番組が始まっちゃったよ。
何なんだよ。
あの番組とっくに終わったはずだろ!
何で異世界に来てリアルに体験しなくちゃなんないの?!
しかもコレ2度目だからな!
もう目を開けていられなくなってギュッと目を閉じてたけど、ガタガタ⋯ゴトンと、音がしたからビックリして目を開けたら、テーブルの下の床が開いて地下へ降りる階段があってもっとビックリした。
「さぁ行くぞ。」
父の号令で皆がぞろぞろと下に降りて行く。
マジかよ!
雷が鳴ったら地下にまで避難しなくちゃいけないの?!
打撃魔法にビビりすぎじゃね?!
とは思ったけど、家は木造だし畑には偶に木があるぐらいで、基本的に平地なんだよね。
人工小川があるから高低差はあるんだけど、高い建造物が無いから家に雷が落ちる危険性が有るのかも知れない。
下手すると井戸の横に立ってるタマの実がなるあの木が避雷針の役割があったりするんだろうか?
もう半分以上気持ちは笑ってるけど、笑い事じゃ済まないのも段々分かってきたんだよ。
雷が落ちて山火事になった例がある様に、もしタマの木に雷が落ちたら家が火事になる恐れが有るんじゃね?
でも雨が振ってて全部窓を閉め切ってるから、火事になってても中にいる人達は気がつけないんだとしたら?
確か木造って7分で全焼するとか言ってなかったっけ?
てか消せば良いじゃん!
魔法使って雨操れば消せるじゃん!
あ、駄目だ。
この人達打撃魔法が怖いんだ。
そりゃそうだよ。
本物の雷が落ちたら死ぬからね!
だから地下に避難するのか!
火や煙は上に行くから、地下に逃げたら生き延びられると思ってるんだね!
でもリビングに隠し地下室が有るとか驚きなんだが!
でも腑に落ちる。
何故リビングに地下室が有るかと言えば、食糧庫が近くにあるからだ。
土間とリビングの段差から、地下へ食糧を置く空間が有るんだよ。
そこには人間が入る隙間は無いけれど、地下室に避難したら、そこに手が届く仕様にしてれば、食べ物を持って逃げなくても済むんじゃないかな?
じゃあ水は?となっても、魔法の水を出せるよね?
そんな事を考えてたら私はカタリナに抱かれて地下室に続く階段を降りる所だった。
ゴロゴロゴロ⋯⋯ドーン!
『キャーーー!!!』
「ゴロゴロドンだ!
急げ!
早く地下に避難するんだ!」
音からしたら割と遠くに落ちてるが、今ゴジラが現れたみたいな緊迫感に包まれてる。
もう父の真剣な表情もヤバいが、母や姉やら兄弟達の悲鳴とか怯えた顔がもう堪らん。
「プッ⋯アハハハハハハ!」
「リ、リリアナ?!」
「アハハハハハハ!!!」
「キシャーーーー!!!」
「ハハハ⋯⋯は?」
バリバリバリバリ⋯ドーン!
バリバリ⋯ドーン!ドーン!
「キシャーーー!!!」
「⋯あれ?」
「は、早く避難を!」
姉が猛然と地下室に駆け下りた所で、家族の最後に控えていた父が階段を降りながら床のドアを閉め切った。
そして真っ暗になる。
え~と⋯さっきの怪獣みたいな鳴き声は何だったんだ?
私の頭の上に????が飛び交っていてかなり混乱している。
「アマーリエ、明かりを頼む。」
「は、はい〜」
地下室の底に子供達と固まっていた母が、小さな太陽みたいな明るい光を天井付近に浮かべた。
「ゴロゴロドンの本来の鳴き声はさっきのだったんだな。
ではゴロゴロと言うのは唸り声だったのか⋯」
「え~と⋯お父さん、ゴロゴロドンって魔物なの?」
「あぁ、リリアナ。
元に戻ったのか。
怖すぎて可笑しくなったのかと心配してたんだ。」
「そうよ、当然あんなに笑い出すんだもの。
私も驚いちゃったわよ。」
「え~と⋯雷って自然に起こる事かと思ってたから、まさか本当に魔物がいるとは思って無かったんだよ。」
『????』
「いや、良いんだよ。
これは少し難しいお話になるから忘れて良いよ。」
「⋯ふむ。」
てか異世界ヤベェ。
そういやこの世界には、空を飛ぶ魔物が居るんだった。
前の世界とは違うんだから、常識が違って当たり前なんだよ。
自然現象としての雷雲は有るだろうけれど、私が生まれてから雷雲を見てないこの土地の環境を注意するべきだったんだね。
コンコンと、天井が鳴ったため、皆がハッとして上を見上げた。
「王様かも⋯」
私がそうポツリと呟くと、父は階段を駆け上がって行って、天井になってる床を持ち上げる。
「王様!」
父の喜びと驚きが滲む叫びに、残っていた家族の顔がパッと喜びと安堵で明るく輝いた。
リリアナを先頭にして、父の後を追って私達は階段を登って行く。
私はこの時すれ違い様に階段の半ばの土壁に横に1m高さ40cmぐらいの木製の窓が有る事を目視する。
恐らく此処が食糧庫に繋がってるんだろう。
そして姉の後ろを見ると、上を目指してる他の家族達の顔と、横に5m高さ2mの土壁の空間が有る事を確認した。
思ってたより広いけれど、子沢山な家族の総数を思えば狭いぐらいで、これぐらいの空間は必要なのかも知れない。
今は広々として見えるけれど、これはまだ皆が幼いからで、バッカスやエターニャの年齢になれば、あっという間にギュウギュウになるのが分かる。
だからこう言うのもあって、子供達は成人したら家を出されるのかも知れない。
他にも理由は沢山有るだろうけれど、この部屋の広さはそれを想定してるように見えた。
そして部屋の隅には毛布やカンテラみたいなランプが置かれているのも見えたが、その頃にはカタリナが階段を登りきっていたので、地下室の観察はここで終了だ。
そして地下室から出たら、地下室がカビ臭かった事をようやく思い出せた。
精神的に混乱していたので、そこまで気が付かなかったのだ。
まだ窓や扉を決めきったリビングは薄暗かったけど、雨が降ってた頃に比べると随分と明るくなっている。
「⋯ふむ。息災か。」
「うん。お陰様で。
王様がゴロゴロドンを倒してくれたの?」
「ゴロゴロドン?
あぁ、また珍妙な名前をつけおったな。」
「これは私がつけた名前じゃなくて、平民がつけた名前だよ。」
「ふむ。では正しき名を覚えるが良い。
アレは10級のレジャーポットと言う、龍系の魔物なのだ。」
「れじゃーぽっと⋯レジャーポット、雷龍ってこと?」
「如何にも。」
王様はいつも以上にキラキラとした姿で、心から嬉しそうに笑った。
服装はいつも通り黒を基調に金やら銀やらの糸であちこち刺繍されて、ヒラヒラとしたシャツが襟元や袖から覗いているから、まるでドレスみたいに見えるけれど、下が黒いスッキリとした細身のパンツスタイルなので、足が長くてそこそこ細く無ければ着れないデザインになっている。
男性はマッチョじゃ無ければ基本的に足が細いので、スッキリとした雰囲気になってるから、上がゴチャゴチャと飾り立ててもバランスが良いんだと思われる。
そして執事風のお爺ちゃんの様に、黒革の美しい靴を履いていた。
下から登って見上げたから、今回はいつも以上に下半身が目についたようだ。
ちなみに下半身のデリケートゾーンは、丈の長いシャツやジャケットで覆われているので、うまい具合に隠されてる。
だからそれがルーズさを感じさせて、ロックバンドのボーカルみたいなイメージを抱かせるんだと思う。
顔が良すぎるからビジュアル系のロックバンドだけど、雰囲気が上品過ぎるから、マイケル・ジャクソンじゃないけど、立ってるだけでカッコいいし、大物の風格が滲み出てるんだよね。
だからか農家のリビングなのに、私達は王城の地下室から恩赦で出された囚人みたいな雰囲気になっちゃってる。
まぁ本物の囚人なら、こんなに王様の近くで顔なんか見れないんだろうけどね。
「何であんなのが空を飛んでるの?」
「そう言う生態だからでは無いのか?」
「そうじゃなくて。
え~と⋯王様はレジャーポットを良く狩ってるの?」
「うむ。
今回はまだ幼体に近い状態だったのでな、逃がして育つのを待つのも良かったが、其方に目をつけたかと思えば野放しにも出来ぬ。
ゆえに今回は速やかに討伐をしておいたのだ。」
「10級なのに狩れちゃうんだね⋯。」
「地上には居りぬ魔物であるために10級に指定されておるが、よほど長く生きて経験を積んだレジャーポットで無ければ、8級相当とあまり変わらぬでな。
空を飛べぬ騎士や魔法師からすれば、⋯いやそうさな。
世と同等の魔導師で無ければ、未だに10級で妥当では無いのか?」
「あ、うん。
多分そうなんだろうね。
だから王様はあんなに沢山の黒魔石を持ってたんだ。
何となくそんな気がしてたけど、王様って本当に凄い人なんだね。」
「何故呆れておるのだ?」
「いやもう⋯王様が凄すぎて、周りの人達が大変だなぁって思っただけだよ。
皆王様が大好きだから、それについて行けるように成りたがるだろうから、仕込むの大変そうじゃん?
私の仕事ってソレだから、ちょっとどうしようかを考えて、途方に暮れかけたって言うかさ。
だって下手に強化したら、それはそれで王様が困るんじゃ無いかと思うとさぁ〜⋯」
「ふむ。」
カタリナは私を抱いてるせいで身動きが取れずにいるが、他の家族達が全員地下室から出ると、奥に寄せてたテーブルを戻したがってオロオロとしている。
王様と私達のいる場所が邪魔になってるから、テーブルが戻せないのよ。
多分座ってお話をどうぞってしたいから、オロオロしてるんだろうね。
「王様、座ってお話する?
それならその準備をするんだけど。」
「いや、緊急時ゆえに飛んで来たが、直ぐに戻らねばならんのでな。
其方に1つ注意を告げるために立ち寄ったのだ。」
「あぁ⋯なるほど。
確かに今日は大きな魔法をお姉ちゃんと一緒に沢山使ってたわ。
ひょっとしたらソレ?」
「うむ。餌と認識されておったやも知れん。
アレらは人を襲う習性を持っておってな。
平時は温暖な気候の海沿いに生息しておるのだが、夏場になると北を目指して飛んで来るついでに、大きい街を狙って人間を喰い漁って行くのだ。」
「龍は渡り鳥か何かかな?!
いやもう⋯だから10級なのに、皆が名前をつけてその存在を知ってるんだね?」
「うむ。」
「しかも王様しか倒せないから、未だに10級なんだね?」
「うむ!如何にもそうだな。」
「多分空は寒いから普段は暖かい場所に住んでるけど、そう言う場所は魔力が低いだろうから、夏場になると魔力を求めて北上して魔力を補給するのかな?
人間は餌として見れる程度に強い魔力を持ってるけど、魔力が薄い土地に住んでるから、息を止めて水の中に潜るみたいな気持ちで地上に降りて人を食べるのかな?
だから直ぐに浮上するから人間には手がつけられなかったんだね?
魔力が薄い所では生きられないのがレジャーポットだけじゃ無くて、強い魔物の特性だもんね。
あぁ⋯なるほど。
王様は自力で飛んで最初の一匹を倒した段階で、空を飛ぶ補助の魔道具を作れたからガンガン狩れるのか。
でも空を人に飛ばれてしまうと、防衛上に問題が出るからそれは秘匿してるのね?」
「そこまでにしておけ。
其方は一言告げればそこまで辿り着くのか。
全く説明要らずで便利なのだが、面白がって聞いておったら飛んでもない所に飛び込んで来おってからに⋯」
「そんなあからさまに、駄目な子を見るような目で私を見つめないでよ!
悪かったよ。
だって合ってるか分からないから口にしただけで、相手が王様じゃ無ければ言ってないから!」
「ふん。其方は直ぐに人に懐くで有ろう。
世に懐くのと同様に先王やダーフィーに懐いておるでは無いか。」
「なるほど⋯確かにソレがバレちゃったら王様が大変だ。
10級の魔物なんてものを狩ってるのがバレた日には、もの凄い剣幕でガミガミ叱られちゃうのか。
王様が愛されてるから。」
「いやそうで無く!
⋯いや、まぁ⋯確かにそう言った面も有ろうが、世が申しておきたいのはだな?」
「その人にとって都合の悪いことも私が暴くから、それが危険だよって心配してくれてるのね?」
「うむ。
ダーフィーや先王とて祭り事を携わる者ゆえに、其方に世と同等以上の価値を抱かねば、いかに胸が傷もうと構わず其方の排除を企てるで有ろう。」
「つまり善良なだけでは駄目だから、捨てられる前に気付いて捨てられないように動く必要が有るのね。」
「それをすれば良いと考えて実行に移せる者は少ないのだが、魔法の鞄は2人からすればわかり易い実績で有ろうな。
⋯だが其方に其方の脅威を知らしめるために、世は敢えてこれを告げるのだ。
ゆめ誤解をするで無いぞ?
レジャーポットは世の力の根源である。」
「なるほど⋯王様が私の価値を認めて無ければ、全員が消されてたのね?」
「ダーフィーや先王より其方を守護するのは世の務めと心せよ。
其方が世を慮って、ダーフィーと先王の守護に回ろうとも、世は其方を失う訳にはいかぬのだ。」
「⋯うん、分かったよ。
王様⋯辛い仕事をやらせてごめんなさい。」
「⋯其方は其方のままで良い。
たが世以外の王侯貴族には心を開きすぎぬようにの。」
「それが1番悪いパターンな気もするけど、自分なりに気をつけて頑張るよ。」
ニヤリと悪どい笑みを浮かべた魔王がパチリと指を鳴らすと、ブワッと魔王の全身から魔力が溢れ出して、家族全員をつつみこんだ。
あ⋯、と思ってるウチにそれに対抗したのが姉と父だったが、まぁ現在の時点で叶う訳もなく。
あっさりと飲み込まれてしまった。
でもそれが表面的なのは分かっていたけど、私は敢えて口を継ぐんだ。
何故なら本格的に魔王に家族達を消させないためだ。
魔王は何も分かって無いのよ。
こんな事をされたら、私が怒りを抱いて警戒を覚えるのでは無いかと楽観視してる。
嫌われ役を買って出てくる所が優しい魔王だなと感じたけど。
悪いな。
コレ完全に無駄なんだよ。
でも私以外の家族がこれを知れば、素直に魔王を警戒してしまう。
そうすると魔王の都合が悪くなるから、私は家族から引き離されてしまうだろう。
でもコイツに独り善がりの欺瞞を思い知らせるには、まだ私は幼くて弱いのだ。
だから私はグッと堪えて今は全てを飲み込んでおく。
「⋯あれ?王様?」
『うわ?!』
カタリナが夢から覚めたみたいに目をパチクリとして瞬いた。
他の家族がいきなり魔王が姿を表した事を気付いたかの様に振る舞う姿を見て、魔王はフッ⋯と姿を消し去った。
帰ったんだね。
魔王が来る前の記憶を消してさ。
だからそれさ。
本気で無駄なんだよ。
「⋯どうして王様が来てたの?」
「ゴロゴロドンを追い払ってくれたらしいよ。」
「ゴロゴロドン?
何故リリアナはそれを知っているんだ?」
「王様から聞いたからだね。」
「俺達は何も覚えて居ないのだが?」
「探らない方が良いよ。
王様が記憶を消したのは、私の家族を守るためなの。」
「どう言う事だい?」
「私が暴いたら駄目な王様の真実の1つを暴いちゃったからだよ。
だから記憶を消せば済むと思って安心して帰って行ったから、思い出さないように気をつけてね?
それしちゃうと多分直ぐに思い出しちゃうから。
お姉ちゃんも気になるとは思うけど、それはしたら駄目だよ。
記憶を消せないと知られたら、存在を消さないといけなくなるからね?」
「⋯ふむ。」
「うっわ⋯」
『えーー?!』
父は素直に納得したが、姉は嫌そうな顔をした。
そして他の家族達は全員が驚いて少し怖がってしまったようだ。
「王様は私が編み出した魔力の取り込み法を出来ないんだよ。
一応同じように説明したんだけど、沢山他の知識があってソレが邪魔してるみたいで、私がした説明だと理解が出来なかったみたいなの。
だから魔力にも記憶が有る事に気付いて無いんだよ。」
「なるほど⋯」
「だから胸がモヤモヤするのね?」
「うん。
だからお父さんとお姉ちゃんは凄く危ないの。
取り込み法はあまり周りの人達に教えたら駄目だったのかも知れないね。
だって平民が国で最高峰の魔導師の技を、魔力の扱い方を知るだけで、勉強もしないで超えちゃえるんだもん。
私が想像した以上にヤバい技術だったみたい。」
「え?じゃぁそれって僕達に教えてくれないって事?!」
「は?え?!マジか!」
「どっちにしても、お兄ちゃん達2人には身体がシッカリ育つまでは絶対に教えてあげられ無かったの。
お姉ちゃんを見てよ!
分かるよね?
あれだけ成長出来ないよって言っても、あんなに真面目で自分の気持ちを抑えられるお姉ちゃんですら、ガンガンに使ってたでしょう?」
『あ⋯』
「チビで子供みたいな騎士が、戦えると思う?」
『⋯⋯(ふるふる)』
兄達が頭を横に振るのを見て、納得した事を確認する。
疑心暗鬼の魔王が話を聞いてもいい様に工夫して、私は全員に様々な危険性を話して聞かせた。
「私もこれからはもっと心して、アレをしないように気を付けようと思ってるんだけど。
便利過ぎるからつい使ってしまうのよ。
でも今日気がついたんだけど、アレをして魔法を使うと大事な記憶が消えてしまうみたいなの。」
「うん。私もまだ身体が全然育ってなくて未熟なのに、身体を強化したら大怪我をしたんだよ。
早く走って移動しようとしたみたいで、下半身を強くしたんだと思うんだけど、骨が身体から飛び出すぐらいの大怪我をしたんだと思うのね?
でもそれを治しちゃったら、その事すら覚えて無かったの。
でも周りに残ってた色んな証拠を集めて考えたら、どうもそれしか思い付かないんだよ。」
すると姉が苦い表情になりながら、罰が悪そうに昼前の話を暴露する。
私もそうだったなと思い出して、それに乗っかると私が体験した事を踏まえて思い付いた事を伝えて行く。
「それは本当なのか?!」
「うん。子供が魔法を使うのを7歳まで教わらないのは、こんな欠点が有るからなんじゃ無いかな?
ひょっとしたらお母さんも子供の頃に無自覚で私達と同じ事をして、身体がそれを覚えてしまったのかも知れないね。
今も忘れっぽいのはそのせいなのかも?」
「そうね⋯。
お母さんもあんなに浄化魔法を使えるぐらいだもの。
無意識で回復魔法を使ってたら、似たような事になるのかも知れないわね。
でも多分リリアナが思いついた方法を意識してやらなければ、あんまり危なく無かったんでしょうけど、お父さんと違って私とリリアナは流されやすいみたいなの。」
「お父さんは今までの経験が有るから、無意識に無茶な魔法の使い方は出来ないんだと思うの。
だからタルクス叔父さんも大丈夫かなって思いたいけど。
タルクス叔父さんは周りの魔力が豊富で危険な場所に行かないと駄目だし、これを使い慣れて無かったら、それはそれで危ないかも知れないんだよね。
だから大人になってもまだ若いウチなら修得してもいいとは思うけど。
それを貴族に知られたら、私達は消されちゃうかも。
知識でそれが出来るなら、私達を殺してその知識を独占したがると思うのよ。
じゃないと戦士ギルドの悪い事をするような戦士達が、貴族よりも強い魔法を使う事を想像してみてよ。
危なくてやってられないよね?」
『あっ⋯!』
「ウチならジギタス叔父さんがこれを知ると、どうなるか考えたらわかり易いかな?」
「それは不味い。」
「また森に突っ込んで行って、今度は死んじまうんじゃねぇか?」
「狩人仲間や色んな人達に自慢して話しそう⋯」
「ヤバいわね。
もの凄く強気になって手がつけられなくなりそうだわ⋯」
「うん。
だからこの知識は秘密にしなくちゃいけないし、子供が知ったらとても危ないの。
だって小さな子供のまま成長出来ないのも困るし、大怪我をしたり記憶が無くなるのも怖くて嫌だよね?」
「ではリリアナとカタリナはどうなってしまうんだ?!」
「今は私とお姉ちゃんと2人で見張りあってるの。
アレをすると見た目が変わるから、もし覚えてる?って聞いて覚えてたらうん!て、言えるけど、記憶が無くなってたら、え?ってなるでしょう?
そしたらお互いで忘れた事を伝え合おうねって相談したの。」
「お父さんに報告するつもりだったのよ?
でも雨が振ってきて色んな事でバタバタしたから、つい忘れてたたの。
ごめんなさい⋯」
「私もお姉ちゃんもお父さんに心配かけたく無くて、悪気は無かったけど無意識で隠そうとしたのかも知れないね。
あれこれ忙しかったのは本当だけど、お互いが見張り合えばいいなって軽く考えたのは、それが理由だったのかも。
だってこんな大事な話は絶対にお父さんにするべきだし、それにまだこの技術を知らないお兄ちゃん達に知らせた方が、同じ症状になる2人がお互いに確認し合うよりもっと確実だし安全だよね?」
「⋯そうか。だが今教えてくれたから、これは叱れないな。
でもそんな大事な話はなるべく早く父さんに話すようにするんだぞ?」
『はい。お父さん⋯』
こうして私は姉と揃って神妙な態度を取りながらも、私達が魔法を使った事でゴロゴロドンが食べに村に来た事を秘密にした。
だってこれを父が知れば不安がって魔法が本格的に使えなくなるし、例えゴロゴロドンが来ても、王様が喜んで狩りに来てくれるからだ。
ゴロゴロドンは雷雲を纏って現れるから、目立つし逃げやすいからね。
何せ日の光に晒されたら魔力が分解かれるから都合が悪いんだろう。
黒雲の中なら魔力が豊富なのも納得出来るしね。
南方の海沿い辺りに住んでるのは、暖かいかどうかよりも黒雲が多く発生する地域じゃないと生息出来ないからなんじゃない?
それでも魔力が不足するから、北の空に来たくて黒雲が発生しやすい季節を狙って北上してる気がするんだよね。
黒雲の成り立ちなんて王様達に前世の知識を伝えずに説明出来ないから、空の上は寒いから〜で、誤魔化したんだけどさ。
てかレジャーポットだっけか?
やっぱりアイツ10級狩ってるじゃねぇか!
そりゃ私も狩れると思って狩りに来るよな!
俺だけに懐けとか、モロバレなんだよ。
コミュニケーション能力がゼロだもんで、ポンコツ過ぎてバレバレだっつーの!
まぁ先王様や宰相の爺ちゃんが、私を害虫指定したら私を守る最後の砦なのは魔王なのは間違い無いんだけどさ。
そもそも私が害虫指定されなきゃ良いんだよ。
魔王ばっかり懐いてたら、それこそ害虫指定されちまうじゃねぇか!
でも私が2人に懐くと魔王が不便になるから、離しておきたいんだろね。
うん。
頑張って魔法の鞄を再生しよう!
それを口実に早く便利使い出来る諜報員をゲットだぜ!
そして私みたいな人ばっかりになるから、魔王はどんどん孤独になるのか。
それはもう自業自得なのでは?
金払いで興味を引いて自分の都合が良いようなコマを増やすから、アホなら引っかかるだろうけどそうじゃない人は全員敵か味方かで悩むんだろうね。
平和だなぁ~ってつくづく思うけど、だからこそ私は八方美人に生きるのだ。
魔王からもお爺ちゃんズ達からも排除出来ない存在を目指して、魔王を孤独にさせる事も無く、お爺ちゃん達を安心させてあげなくちゃいけない。
クッソ面倒臭ぇ⋯。
それを思えば断崖絶壁で対岸に綱渡りをして歩く様なもんだけど、ぶっちゃけ私がやれる事となれば誰もが分かりやすく価値の有る発見をしたり、お爺ちゃん達が不安にならないように魔王の手綱をシッカリ握るしか無いと。
それを思えばやることが今と何にも変わらないんだよ。
だだほのぼのイージーモードの生活を送ってたら、ハードモードに進むように思えるけど、そもそもイージーモードですらイージーじゃ無かった的な?
自然が脅威か人間が脅威になるかの違いでしか無いから、森なら周りの環境や魔物や魔獣の性質をよく見て調べて知って身体で経験して、危険を避けながら生きてるんだからそれが人間が相手でも同じなんだよね。
「だけどこれからこの技術やそれに対する知識は、私達家族が平和で幸せに暮らして行くには大事な武器になると思うんだよね。
危ないのならどうすれば危なく無いか、勉強して知識や技術を増やして行くしか無いと思うの。
お姉ちゃんなら魔導師の、お父さんなら魔法師の、お兄ちゃん達は騎士の知識や技術を学んで、私はもっと多くの知識や技術を集めて蓄えて行くつもりだよ。
でも例え魔法師の知識や技術を学んでも、お父さんは畑で麦や魔力草を育てても良いし、他にも好きな植物を育てて生活すれば良いと思うの。
お姉ちゃんだって魔導師の知識を学んでも、お嫁さんになったり逆に凄腕の戦士になって、森でガンガン魔物や魔獣を狩って、悪い戦士達をビシバシ教育し直しても良いし。
お兄ちゃん達だって騎士になっても村に戻って来たら皆の護衛をして家業を手伝ったり、森に狩りに行ったり好きに生活すれば良いと思うんだよ。
お父さんやマル兄ちゃんが錬成師の勉強に興味が持てれば、それを学んで自分の好きな事にその知識や技術を使ったって誰も文句は言えないよね?
だってちゃんと勉強してその知識を持つのに相応しいから卒業するんだしさ。
そこで仕入れた知識を家業に使っても、私達は平民で農家で働いてる農民なんだもん。
そんなの当たり前だよね?
叙爵されて貴族の仲間入りにさせられたって、元は平民なんだから平民の生活をしたってそれが普通なんだよ。
そりゃ貴族が集まる場所にいれば、ちゃんと貴族の顔をしてその場に相応しい態度でいなくちゃいけないけど、農村に住んでるなら農民でいたって良いはずなのよね。
そうやって貴族の事を知って、それを知らない平民達との橋渡しをするのが、今後の私の仕事になって行くんじゃないと思うんだよね。
分かるかなぁ?」
「なるほど⋯」
『⋯???』
父はまだギリギリついて来てるけど、それ以外の子供達には話が難しすぎたらしい。
結局どう言うこと???
の、頭の中にクエスチョンマークが飛び交ってるのが、目に見えるように混乱してる。
「ま、今は今まで通りに勉強にお手伝いしながら色んな経験を積んで大きく育とうねってお話だよ。」
「それならそうと言いなさいよ!
アンタの話は無駄に長くて分かりにくいんだからね!」
「まぁまだ2歳だから、そこは私が育つまで大目に見といてよ。」
「もう⋯アンタっていつもそうよ!
自分の都合の良い時に年齢出して言い訳するの止めなさいよね!」
「でも事実だからなぁ〜」
そうなのだ。
多分魔王は彼なりに皆に心を尽くして色々と頑張った結果、周りの人達に色んな所で沢山裏切られたから、疲れ果てて諦めたのが今なんだろうね。
だからアイツは私に期待して執着してるんだろう。
何故なら私は周りの人間と違って、王様でありながら人の心を持てなどと、矛盾したことを彼に願わないからだ。
王としての価値感が主で有りながらも、もしかしたら人間としての自分を大事にしてもらえるのでは無いかと思って、周りの人達にして来た方法で私の気を引いてるんだろう。
その手段がそもそも間違ってる事を彼が知らないのは、そう言う人間として生きる為の教育を受けて無いからかな。
先王様や宰相の爺ちゃん達は、必死にそれを伝えてるんだけど、魔王は自己中のバカになるように家臣から育てられて来ちゃったから、その声がちっとも届いて無いんだよ。
先王様や宰相の爺ちゃん達は、人として必要な気遣いを伝えながらも、王として生きる事を望んでいると言う矛盾したことを押し付けてるからだね。
そりゃ魔王も無理言うな!って反発するわな。
理不尽な軍曹に戻った姐にビシバシと正論パンチされながらも、私も奴と同じ道を歩かないようにしないとなぁと、独り言ちる。
しかしゴロゴロドンとか、やってくれたなぁ〜。
私は童話か何かで聞いた名を憎々しく思いながら心の中だけで吐き捨てた。
雷の原理が同じだもんで、擬音を使えば前世と似たような名前がポンと出てきても確かに変じゃないとは言え。
ゴロゴロドンは笑うだろ!
もう誰か転生して来てくれない?
私のこの胸の内の不満をどうか真摯に聞いて欲しい!
しかもレジャースポットとレジャーポットって一文字違いで観光地になるからな?!
何なの?!
他の魔物はそこまで前世と繋がって無いのに、洒落にならんタイプの魔物で何でいきなり笑いに走ってんの?!
しかもこの不満が分かる人が他に居ないとか、むっちゃ孤独なんだが?!
魔王そっちのけでぶっちぎり のボッチじゃん。
さて思考を切り替えよう!
こんなもん永遠に考えたって不毛でしか無いからね。
もう色々あり過ぎて昼寝が終わったばかりなのに、もう不貞寝したいぐらいにクタクタだよ。
だがまぁ今は情報収集に勤しむとしようか。
「取り敢えずテーブルをもどしてお茶にしない?」
「まぁ⋯そうね。」
「うむ⋯」
「そういや何で机がこんなに寄ってんだ?」
「うん。何でだろう。
僕も分かんないや⋯」
「その辺も詳しく説明するから、取り敢えず直して座ろうよ。
あと全員汚れてるから浄化しておくね。
私の魔力しか使えないから、皆近くに集まってくれるかな?」
押しくら饅頭みたいにカタリナの側に全員集合するのを見てシュワワ〜とレモン色に輝かせた。
3匹のやぎのガラガラドンと勘違いしてるヒロイン(笑)




