43
魔王VS着ぐるみ幼女 Fight!
⋯なんだろうあの愉快な生物は。
魔王の私室に置き去りにされたから、暇を持て余した私は部屋の中を探検して遊んでたんだよ。
無いとは思うけど、スケベなアイテムとかないかなぁ?って思ってベッドの下を覗いて見たり、ベッドによじ登って枕の下を探したり。
でもなんにも無かったから、本棚の仕掛けみたいなボタンっぽいのが他にも無いかな?って思って机の引き出しを見に行こうと思って机に行ったら、秘密部屋の本棚が薄っすらと開いてて、そこから魔王がこっちをコッソリと覗き見してたの。
見た瞬間ビク!と飛んじゃったよ。
地面から足は浮いてないけど、身体が明らかにビク!と揺れるよね。
だってホラーだから!
なのにまた静かに本棚が閉まったんだよ。
超怖えぇぇー!
なにあの生き物。
噴くかと思ったわ!
愉快が過ぎて腹が捩れるんだが?
向こうは向こうでまた爆笑してそうだからもう、負のループに入ってないか?これ。
「もー、王様ー!
私まだ仕事が有るから早く出てきてよー!」
ここはもう実力行使だと決意して、本棚をバンバン叩いてんだけどうんともすんとも反応しないから、ムフーと鼻息も荒くなるよね。
だから次の手を使おうと思って、机の引き出しを階段状に引っ張って、これ造りが良い物だから良かったけど、日頃から錬成瓶で筋トレしてなきゃ、2歳児には重い引き出しだからな?
それでも頑張って引き出しを引っ張って、階段を作って机の上に登って、目当ての銀のベルに手を伸ばした所でローブのフードを魔王に摘まれて、今みょ〜んとぶら下げられてんの。
ピヨ子は寝床に置いてきてて居ないから、前みたいに直ぐに掴まれるんだよ。
両腕で体重を支える形だから、あんまり苦しくはないけど、UFOキャッチャーの縫いぐるみになった気分になる。
そしてストンと腕に座らされた。
「これ悪意あるくね?
私が頑張って机の上に登り切る前に出てきてくれたら、あんなに苦労しなかったのに。」
「もう良い。そうして笑わせようとしても無為と知るが良い。」
「あ、魔道具作ったんだ。
てか早く作っておけば無駄な時間を使わずに済んだのに。」
「言われずとも作っておったわ!
だが其方はそれを抜いて来るのだ。
ゆえに少々永続の時間を高めたのだ。」
「それって変な副作用はないよね?大丈夫なの?
あのさぁ、男の子が産まれなかった時に、少しは懲りた方が良かったんじゃ無いの?
新しい物を作って効果を試すのは、他の誰かに使って貰ってからにしなよ。
王様がそれしたら普通は駄目なんじゃ無いの?」
「あいも変わらず姦しい口よの。
まぁ良い。
其方を返さねばな。」
「あ、ちょいまち!」
「なんだ。まだ有るのか?」
「バイトの件を忘れてるでしょ!」
「ばいと?」
「諜報の人の話し!」
「あぁ、それであれば世に貸して欲しいと申せば良かろう。」
「あ、それで良いの?
そしたらお金は王様に払えば良いのかな?」
「ふむ⋯端金など要らぬが、そうだの。今後は屁理屈を捏ねずに其方が知り得た全ての情報を伝えるが良い。」
「じゃあ良いや。
他を探すから。」
「ふぅ⋯また其方は一筋縄では往かんのか。
面倒な⋯」
「暴利が過ぎるんだよ。
王様に何かを頼んでお礼をする時に、新しい情報がなかったら、御礼が出来ないじゃない。お金も権力もなんもないし、王様が頼んで来てもそれに対応できるかわかんないから、支払いが溜まり過ぎないようにしたいんだよ。」
「その思考がそもそも可怪しいのでは無いか?」
「何でよ。王様はこっちが良い事をしたらちゃんと報酬を払ってくれるじゃない。
だから支払うお礼があったら、王様だって嬉しいでしょう?」
「⋯⋯うーむ⋯それだと其方は何時までも世に報酬が貰えぬのでは無いのか?」
「その代わりに王様が働いてくれてるからこっちは損してないよ?
むしろ王様の方が使ってるお金が多いから、損をさせてるかも?」
「いや⋯内容を思えば損失を被って居るのは其方なのだが⋯。
そうか⋯金銭を渡そうとも使えぬのであれば、報酬としては難しいのであったな。」
「使ってるよ。
でも思うように使えないだけだよ。
金銭は嬉しいから、くれるならよろこんで貰うよ。」
「ならば全て伝えよ。
それに応じて報酬を授けよう。
本来の形はそうあるべきで有る。」
「じゃあお礼をしたいときはどうしたら良いの?王様は何をして貰えたら嬉しいのかな?」
「笑えば良かろう?
今宵魔道具を授けた時の様に素直によろこんで置けば良いのだ。」
「えー?
それじゃ王様が損してるまんまじゃん。」
「損など微塵もしては居らぬ。世の魔道具は優れておる故に迂闊に表に出せぬ物も多いのだ。
作った所で世しか使わぬ故に、民の喜ぶ姿を見れるのは中々愉快な心地になるのでな。」
「えー⋯喜ぶのは当たり前じゃない。それだけ凄い魔道具を渡してくれてるのに⋯」
「フフフ⋯其方は素直に受け入れよ。
王に施そうと思う事がそもそも不敬なのだ。」
「むぅぅ⋯」
だから王様は皆に大事にして貰える存在って意味?
あー⋯なるほど。コレ家臣の望む理想の主がコレなのね?
王家は民に無料奉仕するから、周りは大事にすると見せかけて単なる搾取じゃん。
「私そう言うの嫌いかも。」
「む?」
「王様にだって褒められる権利はあって良いし、報酬だってちゃんと貰わないと駄目だよね?」
「その為の税であるが?」
「じゃあ聞くけどその税を使って王様は魔道具を作る素材を集めてるの?」
「いや?魔道具は世の嗜みゆえに己で素材を調達して作成しておる。」
「でしょ?それって変なんだよ。報酬って言うのはちゃんと自分が自由に使えるお金じゃ無きゃ駄目なの。
税は王様の報酬じゃ無くて、国の運営費でしょう。
服や靴や食べ物も買うのに使って、好みは伝えてるかもしれないとけど、それって自分が本当に欲しくてそれを買ってるの?」
「⋯いや、買わずとも献上として捧げられておる。
気に入れば求める事も有るが⋯今の所それほど世の望む品は見当たらぬが、世の親族はその税で養っておる。」
「だったら王様だって趣味に使えば良いじゃ無い。
税をそれに使えないのは、金額が大き過ぎて他の人達が困るからでしょう?」
「まぁ⋯そうだの。」
「だったら王様が作った魔道具を使うならそれ相応の報酬は支払わなくっちゃ。
だって税で賄ってないんだもん。
全部自腹を切って作った物だから、こっちは依頼して作って貰うんだから、職人に支払うのは当たり前なんだよ。
王様としてじゃ無くて、職人として考えてみてよね!」
「⋯ふむ。成る程。」
「私が渡す報酬が王様が作った魔道具と釣り合うかは、それは王様と私の話し合いで決めるべきでしょう?
私だって国の為の思いつきなら、職人の王様じゃ無くて本職の王様にちゃんと伝えるから、そこは王様として見て国の為になる知識だと思えば国としての報酬を与えてくれたら良いと思うの。
私って間違ってる?」
「ふむ⋯つまり魔石強化や人工魔石などは国への報告であって、今回の魔道具作成の依頼報酬としての魔力操作の情報か。
確かに国の報酬を与えぬ物まで求めるのは、強欲と言われるとそうであろうな。
世が望めばその情報は魔道具で買えると言うことか。」
「そりゃそっちも何でもかんでも魔道具としてホイホイ渡せないと思うけど、せめて私が依頼して作って貰えた物には、報酬をちゃんと支払ってありがとうって言葉や笑顔を渡したいかな。
実際に金銭を動かす訳じゃ無いから、自己満足と言われたらそこまでなんだけどね。」
「いや、職人と呼ばれるのは意外と愉快であるな。
世は王であらねばならぬと、ずっと思い込んでおったようだ。」
「そりゃ王様もしてるから、自分の魔道具が世の中に出しては駄目な物は出せないだろうけど、私がお願いする便利道具が、その王様の判断に違反しなかったら職人として作って欲しいかな。
毎回何か見つけて報酬に出来るように私も頑張るし!」
「では魔法の鞄はいかにするつもりであるか?」
「それは将来的には国への報告になると思う。
法律や運営の仕方をちゃんと考えて貰う必要が有る物になるからね。
でも研究としては、何処まで復元出来るかも見ないといけないから、ある程度実用性が有ると私が判断出来るまでは、私が研究したいかな。」
「何の思惑でそう考えて居るのだ?」
「聞いてたから知ってるでしょ。」
「フフフ⋯其方の口から聞きたいのだが?」
「戦士や狩人やお金のない旅商人が私が魔法の鞄を持たせたい人達だからかな。
そもそも研究を始める前にコレを言うのは早とちりなんだけど、何処まで使えるかと言えば鞄を作ってる錬成師の腕次第じゃないかな?
素材の鞄にどれだけの品質が有るかで、変わって来ると思うのよ。
お洒落目的でも使える鞄と、戦闘前提で耐久性に優れた鞄とでは、使える月日に違いが有るのは当たり前でしょう?
それと同じで本職の鞄職人が作った魔法の鞄と、まだ習いたての錬成師が作った鞄とでも耐久性が違って当たり前なんじゃ無いかな?
造り方を知らないから想像だけで言ってるから、そこは見当違いな事を言ってるかも知れないけどね。」
「いや、矛盾は特に感じぬな。
10年はあくまでも魔法の鞄に対する最低限の品質保証であるに違いは無い。
故に10年を越えても使える鞄は実在する。
だが10年未満しか使用に耐えぬ品を作られて蔓延すれば、購入時に難儀する故に法を定めたのだ。
そして品に作成者の名を刻む事で安易に悪質な品が出回らぬ様に抑制し、または発見時に取り締まれる様にしておるのだ。」
「うん。だから10年を越えた品は保証されないままで良いと思うの。
平民は服の値段が高くて新品を買えないから、中古品を選んで買ってるのね。
その時は売買してる店しか金銭のやり取りはしてないし、買ってから直ぐに服が破れても自己責任で店や製作者が訴えられる事も無いんだよ。
多分他の魔道具もそうなってるんじゃ無いかな?」
「であれば魔法の鞄も同様の仕組みになるであろうな。」
「うん。まぁ研究が長く続くのも有るし、使用の問題を洗い出す為に家族に、使わせるぐらいは大目に見て欲しいけど?」
「だが無制限ではな。
それはそれで世としては認め難い。」
「利便性とか考えたらそうなるよね?」
「元は存在の無いものゆえ、身勝手なのは承知しておるのだが⋯。」
「では、何年にする?」
「ふむ。再利用の確認ができ次第、そこから5年としよう。
そこまで有ればどれだけの品が使用に耐えるか、ある程度の確認は出来よう。」
「それなら私の家族だけだと個数が稼げないから、王様の部下で秘密が守れて実験に協力してくれる人がいたら渡して情報だけくれたら嬉しいんだけど⋯難しいかな?
いきなり分解する危険性は承知して貰わないと駄目なんだけど。」
「フフフ⋯では其方の所望する諜報の者を使用に使えば良い。
其方の実験に協力するのも吝かでは無かろう。」
「個人的なお願い事しても聞いて貰えるかなぁ?」
「そこは交渉次第で有ろうな。犯罪に加担することと等しき技術もある故に、望む内容次第としか申せぬな。」
「ウチの叔父さんにカジノや夜の街の遊び方を教えてあげて欲しいんだよ。
何処に気をつけないと危ないとか、こんな人は要注意とか、そう言った初心者の指導をして欲しいの。中年のオジサンだから、楽しくない仕事だとおもうけど。」
「フフフ⋯ハハハハハハ!
こら!どうして其方は抜けるのが上手いのだ。全く。」
「大分復帰が早いから実用化出来てると思うよ。」
「そうで無ければ甲斐がない。
ハァ⋯だが、面白い。
かつてこれ程手古摺らせられたのは魔力過多症以来よの。」
「内容の重要性の差が酷すぎない??」
「ククク⋯世の思考や行動を制限される事を思えば、世としては深刻な問題であるのだがな。」
「笑い上戸なだけだよね?!」
「其方以外にここまで世を笑わせる道化は居らぬわ!」
「そもそも私は道化じゃ無いんだけど?!」
「国1番の道化の称号を与えても良いぞ?」
「要らないよ!」
「フハハハ!
何故にそこまで愉快に居られるのか、理解に苦しむ。」
「顔の変化早すぎてツッコミが追いつかないんだけど。
真剣に悩む議題じゃ無いよね!
もの凄く情緒不安定な人になっちゃってるよ?!」
「また世に部屋へ籠もらせるつもりか。」
「黙ります。」
「良かろう。
では魔法の鞄の再利用が確認でき次第諜報の者を与えよう。
⋯だがそれは其方の情緒も抜かれる覚悟で使用する事になるが、そこは弁えておるのか?」
「うん。ウチの叔父さんはバカだから、そもそも大事な情報なんて家族の誰も教えないし、叔父さんも覚えてられないから!」
「⋯ブフッ。
クッッ⋯⋯⋯⋯はぁはぁ⋯。
わざと笑わせようと企んでおるのでは無いか?」
「失礼な。
ウチの家族は笑うネタじゃ無いからね?」
「しかしその様な者を指導する価値は有るのか?」
「自分に興味がある事は覚えて居られるみたいだよ。」
「⋯なんとも都合の良い頭をしておるな。
まぁ良い。
幾ら本人から抜けぬとしても、尾行などを行えば住処は判明するし、家人が判別出来れば、そちらから情報を抜かれると思うので有るが⋯」
「見晴らしのいい畑しか無いから尾行がそもそも出来ないのでは?」
「⋯ふむ。そこは魔道具で魔力を追われるのではないか?」
「ふぅん?成る程ね。
じゃあ対策しとくね。」
「は?」
「魔力を追われないようにしてから会わせるよ。」
「⋯どの様にするつもりで有ろう。」
「それは新しい魔道具を依頼する時の報酬で取って置くよ。」
「次の品は報酬を出さねば良かろう。」
「前払い?でも次のがこの情報に釣り合うか分からないよ?」
「充分だ。申してみよ。」
「魔力を混ぜちゃえばいいんだよ。魔力を追えるのは、その人特有の魔力だからそうなるから、混ぜちゃえばいざ位置を調べようとしてもあれれ?居ないよ?ってなるよね?」
「それをいかにしてするのかを問うておるのだが?」
「そっか。えーとね。
はい!どうぞ、調べて良いよ。」
「では髪か体液を⋯」
「髪の毛ね。はい、どうぞ。」
私は1本髪をプチっと抜いて魔王に手渡す。
魔王はジッと私を見ながら、銀色の懐中時計に似た物に私の髪の毛を入れて魔道具を発動させた。
すると私に向けて一直線に緑の光が伸びて行くが、途中でスッと消えるのを見て魔王が眉間にギュッとシワを寄せた。
「⋯何故?」
「王様が手に入れた時の素材はそもそも私本来の魔力じゃ無い魔力を含んでたからだよ。」
「⋯いかにして?」
「魔力に頼んで変質して貰ったんだよ。」
「⋯は?」
「魔力操作でやれるじゃん!」
「イヤイヤ⋯待て待て⋯は?」
「やれるじゃん!」
「⋯⋯いかにして?」
「頼んでるだけだよ。」
「いや頼むだけでは変わらぬが?!
と言うより頼むとは何だ?!
その様なデタラメな魔力の扱いが魔力操作などであるわけが無かろう。願えば魔法が発動するなど危険過ぎて世界が滅ぶわ!」
「それじゃそもそもどうやって魔法を使ってるの?」
「どうやって⋯とは⋯魔力を己で動かして頭脳で描いた事を放出した魔力で操作を行っておるが、魔導師としては言語でそれを指示しておけば⋯そうだ。
変質は言語では指示出来ぬ。
術者が、世が変質を理解せねば使えぬのだ。魔力を変質させるなど、どの様な想像を行えば可能であるのか?」
「⋯?」
「理解しておるから変質させておるのでは無いのか?!」
「あれれ?
さっき私が魔法の使い方を教えたよね?
アレって何に驚いて納得してたの?」
「掌以外で魔力を放出していた事を自覚したことに驚いておったのだが⋯」
「え?!そこ!?」
「⋯うむ。通常は指先からと指導を受けるが、世は掌からだせたのだ。だがそこ以外で出せるとは思っておらなんだ。
ゆえに出して始めて無自覚で全身より緩やかに放出しておった事を理解したのだが⋯違うので有ろうか⋯」
「ううん。
それはそれであってるよ。
でももう一つ気付く要素が有るんだけど⋯王様は無自覚で長い間その方法で魔法を使って来てるから、逆に気が付きにくいのかなぁ⋯?」
実はこの時の私は魔王がそれに気がついてない理由が分かっていた。
でも全力で誤魔化しに走っているのだ。
だって父も魔王ほどではないが、あの取り込みによって認識が変化したからてある。
つまり魔王も取り込み法を指導すれば理解するのが分かったけど、敢えてしらばっくれている。
じゃあさっきなんで教えなかったと言われたら困るので!
私は素知らぬ顔で小首を傾げてみせた。
だって嘘は一つもついてない。
ただ伝えてない情報があるだけだもんね!
魔力操作をマニュアルからオートに切り替えるには、取り込み法を会得しないと駄目な事が分かった。
ジギタス叔父さんは魔力が弱いと思われるので、私が変質させてから送り出そうと思う。
まぁ⋯初回に限らず粘着されるだろうから、お金を渡す時にでも変えてやれば良いかなと考えてる。
向こうはプロだからサッサとバラしても良いんだけどね。
ほら私は一応黒魔石だから。
「ぬぬっ⋯それはどうにもならぬのか?!」
「私がそもそも指導者として未熟なだけだよ。
経験を積んで情報を集めたら、新しい何かを気がつけるかも。今の所ウチの父が1番経験豊富な魔法師なんだけど、そもそも才能だけでやってた人だから、誰にも何も教わってないから、先入観も無かったんだよ。」
「⋯成る程、それが世の気付きを阻んでおるのか。⋯ふむ。」
「全身で出せるんだから、そのうち私が教えなくても自力で辿りつけるかも知れないから、無理をしない程度にやってみてね。」
「良かろう。一歩進んだのは間違い無いのでな。
フハハハ!
この年になってまだ新たなる気づきが待ち受けようとは、世はなんとも愚かなことだ。
もう道を極めた故に何も無いと自惚れて、殻に閉じ籠もっておったのだな?
それを知れただけでも、実に愉快よ。」
目が爛々と輝いてらっしゃる。
まるでタルクス叔父さんのときと一緒だ。
だからきっと魔王も自力で到達するでしょう。
掌から出すだけなのと、全身から出すのでは取り込みの容易さがまるで違うからね。
それでも自然と豊富な魔力を吸い込んでるから、魔力操作をするのが上手いんだと思う。
ただ魔王は頭が良いから、マニュアルでもオートに近しい事が出来てるせいで気付きにくいってのは有るかも知れないね。
「ねぇねぇ諜報の人がしそうな事って他にあるかな?」
「一度の失態で諦めぬのでは無いか?」
「叔父さんはお金を自由に使えないようにお爺ちゃんと私のお父さんに管理されてるから、カジノに行きたくても行けないんだよ。だから私がコッソリとお金を渡してあげてたら毎回魔力の変質は出来ると思うの。」
「だが毎回通い続けるので有れば、顔馴染みも増えよう。
さすればそこから辿り着くと思うのだが。」
「まぁ相手はプロだもんね。
でもそれで何か私に悪い事が有るのかな?」
「其方や身内の情報は全て抜かれて監視下に置かれるで有ろう。
⋯犯罪に加担をすれば直ぐに明らかにされ罪を問われる事になるな。
だが⋯其方の場合、犯罪に加担しておったとしても、そもそも国への貢献度が通常の貴族家を越えておるので、謀反などの見過ごすことの出来ぬ犯罪で無ければ、世の匙加減一つで目こぼされるとは思うが⋯」
「でも犯罪しないのって普通だから、悪い事して無かったら問題にならないよね?」
「まぁ⋯普通はそこで犯罪が起こる故に諜報とは国の不利益になるその情報を集めるのが仕事なのだが。」
「つまり何も犯罪してくれないと無駄働き?」
「ぶふっ⋯いや⋯無駄と思うのは結果的なものであって、其方の力量を思えば決して無駄ではないのだが⋯」
「じゃあお家に最初から来て貰おうか。問題が無ければ家族ぐるみで付き合っとけば、向こうも気が楽でしょ。」
「なぜそうなる。」
「何も無い場所で延々と見張るのは大変だよ?」
「イヤイヤ⋯そうでは無くてだな?懐柔を計っても無駄で有るぞ?」
「懐柔って、犯罪しても許されるのに何で懐柔しなくちゃいけないの?変な奴なら追い出すけど?」
「いや犯罪を許すと言ってるわけでは⋯」
「でもウチの家の人真面目だから、犯罪って何が有るのかな?あ!脱税になるのか!
やってたわ犯罪。」
「ぬ?」
「魔力草だよ。作ったのを調べて貰ったついでにサラディーン様に買い取って貰ってるの。
家業にしたいけど、今情報を制限してるから麦の農家をしなきゃいけなくて、魔力草が家業に出来ないんだよ。」
「それは脱税とは言わぬで有ろう。こちらはそれを全て把握して研究させておるのだ。
そもそも作った魔力草をサラディーンが買い取るからややこしい事になっておるのだ。
だが育てた魔力草を無駄にするのも惜しいか。
其方が錬成師ならば魔水として売れるので有るが⋯それらは特殊な故、末端の徴税者では判断出来まい。」
「そこなんだよね。
麦より魔力草の方が高く売れちゃうから、もし村長代理や周りの村民にバレたら不公平になるから迂闊に納税出来ないし、麦の仕事も辞められないから、どうしたら良いのかな?」
「ふむ⋯戦士ギルドで対応させるしか無いのであるが⋯」
「ウチの魔力草は特殊だから、銅貨30枚だと大損なんだよね。」
「うむ。確かに魔力の含有量が天然の魔力草とは別物故、個別で話をつけるしかあるまい。
だが秘密保持をそこに求めるのは困難で有ろうな。」
「だから動きやすい諜報の人に居てもらった方が、犯罪を疑われた時に助けて貰えないかな?
王様やサラディーン様が出るほどじゃないやり取りを相談したり解決出来そうで、でも村人や旅商人っぽい人居ない?」
「成る程な。
だがセバスの村に居るのだ。
そこまで問題は起こらぬのでは無いのか?」
「今村長は村の区画整理の設計とか、貴族家への説明やら人のの手配なんかで手がまわらない状態なんじゃ無い?
それでも村長代理が報告すれば直ぐに動いてくれるとは思うけど、そもそもその村長代理は私が黒魔石なのを知らないんじゃ無いかな?」
「ふむ⋯ではセバスにそれを申し伝えて置こう。
諜報は先王や宰相の耳にも情報が届く恐れがある故、迂闊に利用する気にはなれんのだ。」
「そっちのが大問題じゃ無いの?」
「まあ、其方で無ければ充分役に立つ。」
「つまり王様が私にしてくれてるアレコレがバレたくないんだね?」
「うむ。また口煩く言われてはな。」
「情報の価値って人に寄るから端から見たら王様のお金にたかる害虫に見えちゃうヤツだね?」
「故に魔法の鞄と言ったわかり易い利益を与えれば、其方の不利益にはなり難くかろうとは思うのだ。
魔石強化や人工魔石は危険度が高過ぎて迂闊にもらせぬ。」
「そっかウチに出入りしてたらそれもモロバレなんだね。」
「もろ?」
「全てを見てしまうこと。」
「いつか魔法が誤発動せねば良いがな。」
「⋯魔法言語を知らないから、気をつけようがないんだよ。」
「平民は元々誤発動を危険視する程の魔力を持たぬが通常ゆえに、言葉の変異も見過ごされておるのだが⋯」
「王様は魔力が多いからそれを厳しく躾けられて来たんだね?
でもサラディーン様は王様ほど厳しく無かったのは何でだろう。」
「魔力言語を理解するのが遅かったせいではないか?」
「なるほど⋯。
あ、そうだ。
騎士は学問を嫌う人が多いって聞いたけど、平民には無い武術があって、それを得意なのは何でなの?」
「魔力の差でないか?
平民では肉体強化のための魔力操作も武術も学ぶ機会も無かろう?」
「あー、やっぱり肉体強化とかウェスタリアでも有るんだね。」
「そうよな。
放出系の魔法が得意であっても、そも学問が及ばねば魔導師や錬成師の道には進めぬ。」
「なるほど⋯貴族で居られる最後の砦なのね。
そしたらそこに平民が来たら怒られそう?」
「其方の警備として同腹であれば受け入れられようが、それ以外の平民はよほどの力量が無ければ現状では厳しかろうな。
世は門戸を広げたいが、そも受け入れられる貴族家の問題も有るがゆえに中々に厳しい。」
「つまり平民は戦士から騎士に進むしか道は無いと⋯」
「だが今愉快な事になっておるそうだな。」
「聞いた?私も笑っちゃったよ。
アレってカルマンさんとサラディーン様の案でしょう?」
「セドリックだ。
もうあ奴は王家に戻したで有ろう。」
「そうでした。
セドリック様は頑張ってくてれるからウチの兄弟も凄く喜んでますよ。
今村では大人気の騎士の教えの会ですって!」
「フフフ⋯世が其方の村に騎士の派遣を許したのもそれを見せたいからだ。」
「うーわ。それ現役の騎士さんが頭抱えてうずくまるヤツじゃん。」
「故に世は非常に楽しみにしておるのだ。」
「性格わっる!
でも凄く面白そう!」
「其方に言われたく無いぞ。
世の方が其方よりも余程善良で有ろう?」
「るいともー」
「るいとも?」
「類似した性格の人間がいつの間にか集まって、気がついたら友人になってる事。
ハッと気が付けば好みが似てるから、それやったらダメなやつ!って指摘してもおまえもな!って返されてあれ?ってなるの。」
「フハハハハハ!
るいとも⋯類友か。
よく考えておるの。
早う魔法言語を学ぶが良いぞ。」
「私⋯2歳児なんですが?」
「都合の良い2歳児よの。」
「王様と魔道具職人で使い分けたら?とか言ったら害虫指定されちゃうかな。」
「類友で有ろう。」
「良い人間を悪い道に誘うと悪友って呼ばれちゃうんだよ。
私は良い子だった筈なんだけどなぁ?」
「世も紛うことなき善良で有ろう?」
「宰相のお爺ちゃんの目を見てそれ言ったら殴られそう。」
「ふは!ダーフィーは賢き者ゆえ笑うで有ろうな。」
「職務の違いなだけなんだけどね〜。
立場の差って難しいよね。」
「あの者も理解しておるがゆえに穏健で居られるのだ。
ダーフィーは世よりも余程腹の座った男ぞ。奴めが謀反を企てるのであらば世よりも余程冷酷で有ろうな。」
「人は見かけによらないの見本みたいな人だよね。」
「そうで無ければ大国の宰相なんぞ勤まらぬわ。
だがダーフィーとて其方だけには言われたく無かろうよ。」
ついに王様はふっくらとした一人掛けのソファーに座ってしまった。
私はなぜだか机の上に置かれて座らされてる。
あー、こんな喋る縫いぐるみの玩具があったよね?って、私は人間ぞ!
これ長話する気満々なヤツじゃんと思えばげんなりとするが。
会話がポンポン進むから苦痛じゃないし、情報収集がむっちゃ捗る。
だからもう少しだけ付き合っても良いかなと思っちゃうのよね。
「王様、お茶ないの?甘いやつ。
ミルクも入れて欲しいな。」
「其方はこの場には居らんのだ。ゆえにその願いは聞いてやれんな。」
「じゃウチに行こう!
マモーのミルクなら美味しいヤツ作るよ!
あ、でも王様なら食べた事有るかも。
じゃあ駄目か。」
「其方は王が口にする物を⋯まぁ良い。
何を考えてそう思った?」
「マモーのミルクを温めて甘い粉をいれたのを冷やして冷たいのを作るんだけど、一気に冷やさないで、何回かに分けて冷やすから、シャリシャリふわっとして美味しかったの。
でも貴族なら氷の魔法なんて使いたい放題だから、そんな料理ぐらい有るでしょう?」
「フ⋯」
「何その笑い。」
「いや⋯先入観がない、とはこれ程の差があるのだなと。
少し感慨深く思っておったのだ。」
「無いんだ。」
「何故魔法で料理をしようなどと思った。」
「むしろ料理と水撒き以外の使い道って何?」
「⋯そうか。」
「いや、そうか⋯じゃ無くって!え?空とかまだ飛べないし、あ、掃除か!
いやでも氷の魔法で掃除?
洗濯も無理じゃん?
あぁ保存だ!食べ物を冷やすのに使ってるんでしょ。」
「⋯何を勝ち誇って居る。」
「え?他に何かある?
人工魔石作るのに使うには気温が高いから無理だよ。
暑いからイケルかと思って小部屋を作ってみたけど、涼しいを通り越して寒いから。
寝るのには向かないよ?」
「ふむ⋯」
「えー、他に何かあったかなぁ?」
「攻撃魔法として使わぬのか?」
「凍らせるの?
出来なくはないけど⋯攻撃するなら雷のほうが良くない?
凍らせてる間に逃げられちゃうよ?」
「何故雷が出てくる。」
「え?だって早いでしょ。」
「何が早いのだ。」
「早さが早いでしょう?」
「早さ?」
「ん???あれ?私の思ってる雷と違う雷があるの?」
「其方はどの様な雷を想像しておるのだ?」
「空からピシャーンて落ちる雷?」
「雷が落ちるとは?」
「えぇ?!あれ?王様は雷が落ちた所を見たことない⋯?」
ダラダラと背中に冷や汗が。
あれ?これ私やっちまった?
そう言えば前に雷の話をした時に、すんなり受け入れられたと思ったからこっちの世界も雷は空から地上に落ちてくるんだと疑いもして無かったけど。
良く考えてみたら生まれてから一度も雷が鳴ったり光ったりした所を経験したことが無かった。
え?これマジでやっちまった?
まて!いや違う!
だって東のルドルフ大帝国では城に避雷針があった筈。
だったらまだすれ違う理由がきっと有るんだよ。
ルドルフ大帝国に無くて、ウェスタリアに有るとすれば⋯。
「あ!魔道具?!
ひょっとして王都って魔道具で空から落ちてくる雷を防いでたりするの?!」
「なるほど⋯世は空を飛んだ時に始めて雷を経験したが、アレは真横に走っておったのだ。
故に落ちた所を見たことが無かったが⋯そうか。
魔道具が防いでおったのだな。」
「村にそんなのは無いと思う⋯」
「うむ。アレは魔力の消耗が激しく街でも領都でしかあつかわぬであろうな。」
あっぶねぇぇーーー!!!
こっわ!異世界の常識こっわ!
てか村で雷をあんまり見ないのは夕立が来ないからかも。
あと海が遠いとか関係あるのかな?
でも全く雷が落ちない訳じゃ無いから、大人は経験した事が有るのかも知れないね。
「だが雷は光るだけで有ろう?」
「⋯それ飛ぶときに防御魔法とかで雷を避けてるよね?」
「⋯なるほど。」
「雷が落ちた木とか見たことない?」
「うむ。試しに使って見せよ。」
「え?使ったことないよ?」
「では何故雷を攻撃魔法で言い出して来たのだ?」
「だって逃げられない速さで攻撃出来て火傷とか⋯出来るし。あ!そうか。
魔物だよ!ウチの叔父さんが仕留めたヤツ!
確か7級って言ってたよ。
それが雷の魔法を使うって言ってたから早いとか火傷とか印象に残ってたんだよ。」
「7級を仕留めた?
平民がか?」
「叔父さんはバカだけど天才だから⋯」
「さては其方が指導を申しておった者がそうで有るのか?」
「うん。狩人なのに至近距離で矢を撃つから怪我するし、危ないから周りから狩人を辞めさせられるぐらいにバカだったの。
でもたった1人で7級を弓矢で一撃で倒せるちゃう天才なんだけど、矢を撃つ場所が近いから逃げられなくて怪我するよね。」
「何故盾や剣を使わぬ?」
「狩人だから。」
「そも弓矢とは遠距離で放ち攻撃するための武具で有ろう。」
「矢がショボいから近くないと威力が低くて倒せなかったんじゃ無いかな?」
「それはもう戦い方を根本的に誤って居ろう。」
「皆そう思ったから狩人を辞めさせたんだよ。」
「⋯愚か者とはそこまで愚かなのか。」
「普通なら怪我したとこで戦い方を変えるか死んじゃうんだけど、天才だったせいでずっとそれで倒せてきちゃったし、死なないからそれで良いと思い込んでたんじゃ無いかな?」
「何という才能の浪費か。
驚きすぎて笑えぬわ。」
「え?笑う所でしょう。」
「⋯魔道具のせいか。」
「多分ね。」
「まぁ良い。それで雷を使う魔物とは何であったか⋯7級であるならバストゥークか?」
「ごめんなさい。
名前忘れちゃった。
1本角の動きが早い魔物だって言ってたよ。」
「ではバストゥークで間違いなさそうだが⋯そもそも何故バストゥークは矢で射られるほど距離を詰めさせたのだ?
バストゥークであれば遠距離から電撃を浴びせられるで有ろう。」
「それ、雷の魔法だよね?」
「なるほど。其方は電撃を雷と思っておったのだな。」
「え?雷と電撃って違うの?」
「先に世の問いに応えぬか!」
「私⋯その場にいたわけじゃなくて、これはあくまでも当事者から話を聞いてからの推測だけど、その魔物が居たのは精霊実の側だったらしくて、森の奥地なのに広場みたいに開けてたらしいのね?
だから精霊実に電撃が当たらないように、角で刺し殺そうとしたけど、丁度後ろからはウチの父が叔父さんを探しに来てたらしくて、叔父さんは矢をつがえて雑木の陰に隠れて魔物の隙を狙ってたから、驚いて振り返ったらしくて。
その時バストゥークの一撃を偶然躱したから、魔獣が2撃目を薙ぎ払うつもりで角を横に振ったけど、叔父さんが横に躱しながら矢を放って目を射貫いて倒したらしいよ。
叔父さんは勘だけで避けて倒したけどバストゥークが角を振るった状態だったから、死んでも勢いが残ってて、そのまま飛ばされて叔父さんは火傷して死にかけたんだってさ。」
「最早神に愛されておるのでは無いか?」
「そんな戦い方をずっとしてきてるから、バカな子ほど神様も可愛い!って思っちゃったのかな?
狩りしてギリギリで生き残る度に、毎回お腹を抱えて笑い転げてそうだよね?」
「其方の親族らしいの。」
「え?ちょっと意味が分かんないんだけど?」
「分かって居るくせにしらを切るで無いわ。ククク⋯」
「それで雷と電撃の違ってなぁに?」
「世は雷は光るだけの物と解釈をしておったのだが、電撃とは微細な振動を与える事により熱を持ち、指向性を与えれば他の魔法よりも随一の速さを誇る打撃の魔法と分類されおる。
類似の打撃魔法としては、氷と石を飛ばす魔法がそれに当たる。
火炎や水や風などの形を持たぬ魔法は、打撃とは違う効果を与えるため現象系の魔法と分類されておるのだ。」
「治癒や浄化や光の魔法は?」
「光も現象系だの。
ただ光は闇と反対の現象を起こすために、対比魔法と分類されておる。
治癒や浄化においては効果が人体の機能の回復を及ぼすため回復魔法の分類に当たるな。」
「あー、そうだよね。闇も有るんだ。闇の魔法はどうやって使ってるの?」
「おかしな事を申すものよ。
光が使えるので有れば手段は同じで有ろう。」
「おお!よっしゃ!
これは大きな情報きたこれ!」
「何をそこまで興奮しておるのだ?」
「昼間に魔力草の水を入れ替える時に1番気を使ってる事が、日の光なの。
闇の魔法が使えたら、日の光を遮れるでしょう?
だから嬉しかったんだよ。」
「闇の中で作業が出来るものなのか?」
「全てを闇で覆うんじゃ無くて、日の光が入る場所を闇で塞ぐんだよ。」
「???同じことでは?」
「まぁ試してみてダメなら諦めるかな。
まだ2つ同時に魔法を使うの苦手なんだよね。」
「⋯2つ同時に魔法を使うとは?」
「右手で絵を描きながら左手で字を書いてる感じがして、頭が混乱するから1つの魔法しか使えないの。」
「あぁ、魔導を学べばそれは解決するな。確かに魔法師の状態では困難で有ろう。」
やっば。調子に乗ってポロリ仕掛けたけど、軌道修正が出来てホッとする。
もう同時に魔法が発動出来るとか言えば、またややこしく成りそうだなー。
「魔法の鞄を直すのに、空気を取り込めるか確認したいんだけど、王様はご存じ?」
「その発想はなかった。」
「普通はそうだよね。
じゃ、試行錯誤するしかないかぁ⋯あ。空気に色をつける魔法とかあるかしら?」
「ふむ。細かい霧ではどうだ?乳白色の色の変化が起こると思うが⋯」
「霧は水になるから、鞄にいれちゃうと水と空気に別れそうな気がするの。」
「それならば困難で有ろう。
そも魔法の鞄とは拡張と分離を併用した特殊魔法と分類されておるので、実際に存在する空間より広さを具現化した段階で、べつの空間となっておるのだ。そこに利便性を求めて錬成魔法の分離を使用しておるため、その異空間に入った段階で、1つの物と認められぬ物体は分別されてしまうのだ。
そも魔法の鞄とは、錬成師が素材の解体の手間を惜しんだ事により発展した派生の発明ゆえに、その様な事になっておるのだ。」
「あー!もとは沢山の荷物を運ぶのが目的じゃ無くて、鞄に入れたら皮や骨や肉や魔石や血に解体して欲しかったのね?」
「うむ。だがその本来の目的として分解されたのは良かったのだが、連成瓶に保存をせねば素材が劣化するので、解体された段階で連成瓶に入れられた状態になる事を最終目標として、実験はまだ続いておるのだ。」
「まだ完成してないけど、利便性が高くて使い勝手が良かったから通った発明だったのね?」
「うむ。血は素早く採取するのが非常に困難であり、また奥地ではそも解体自体が他の魔物を呼び寄せるために困難であったのだ。
だが血は目的の魔物が死ぬと時間の経過と共に凝固するために、この魔法の鞄の開発は錬成師には悲願であったのだ。
ゆえに血が分類された時点で実用性が認められ、中途ではあるが公開の運びになったのだ。」
「それもまたもの凄く役に立つ情報だよ。
だから氷をそのまま魔法の鞄に入れた時に、同じ空間に入ったから湿気って紙が変質したのに、水だけを外に出したら、紙が乾燥したんだね?
あれは分解魔法のお陰だったんだ。」
「くフッ⋯ハハハ!
其方でも他の者と同様の過失をするのであるか!」
「魔法の鞄あるあるだったんだ。
ひょっとして書きかけの論文が入ってたのに魔物の解体をしちゃった人が大勢いたりするのかな?」
「ハハハハハ!」
「有るんだ!
それは悲惨!
あ!だから本は水に濡れても変質しないような造りになってるんだ!」
「ハハハ⋯これ⋯抜けるでないわ。ハハハ!」
「でもさ魔物の鞄を作った人って魔法を2つ同時に発動させてるのに、10年も保つって凄い事だよね。
魔導錬成師じゃ無いと作れなくない?」
「設計が有るならば誰でも作れる品よ。
ただ其方が見抜いたように鞄そのものを作るのが困難なのだ。革の縫製は布の縫製よりも難しく、普段より刺繍などの嗜みのある婦女子で無ければ到底扱えぬのだ。
だがその婦女子が錬成師には少なくてな。
ゆえに魔法の鞄は需要の高い魔道具であるにも関わらず製作する者が少ないのだ。」
「破産した人が頑張って作って売るんだね?」
「如何にも!
魔法の鞄ほど飛ぶように売れる高額な魔道具はないからな。」
「そりゃ再生が出来るとなったら皆が青ざめるのね。
いざとなった時に金策するのに都合の良い奥の手の魔道具だから。
でも不足し過ぎてるから幾らでも売れそうなんだけど、そうでも無いのかな?」
「ふむ。白金貨ともなれば購入が可能な者は限られるでな。」
「ねぇ鞄だけ平民の鞄職人に作らせて、魔法の処理を錬成師がするんじゃ駄目なの?」
「そも魔法の鞄に必要な素材が高価なのだ。
平民の職人では購入が難しかろう。」
「だったら素材さえあれば作らせる事が出来るの?」
「それも難しい。
構造上の理由ゆえに今の其方にどこまで情報を与えて良いか悩む所であるが⋯魔法の鞄そのものに魔石をそのまま使用して居らぬのは分かるか?」
「あ⋯ホントだ。他の魔道具なら必ずある魔石がついてない。」
「そうだ。その代わりになるものが革や糸に仕込まれておるのだ。
魔法の鞄は基本的に完成すれば魔方陣は異空間の中に潜むために余人の目に晒される事もないが、魔力が切れれば元の鞄に戻るで有ろう。
ゆえに余人の目には触れさせぬ仕込みが有るのだ。
その為に鞄を錬成師で無いものに作らせるのは法律で禁止されておるのだ。」
「見様見真似で作れてしまうから?」
「無論本来の処理を施さねば10年は保たせられぬが、劣化品を作るのであれば可能となる。」
「なるほど⋯その縛りがあるから難しいんだね。
あれ?そしたら私が魔力の切れた魔法の鞄に触れないってこと???」
「フフフ⋯」
「え?法律違反になるの?!」
「そうとも限らぬ。
購入者がいかに扱うかなど、取り締まれんであろう。」
「あ⋯」
「魔法の鞄は高価な品になる、ゆえに素人が迂闊に手を出す事はありえぬのだ。
職人は造り方を知り、何度も繰り返し製作する可能性があるために、法律で禁止されておる。だが魔力の切れた魔法の鞄をどう扱おうが、現在の法律では禁止されて居らんのだ。
誰しもが不要として処分するからだな。
其方の推測通りよ。
錬成師は革製の鞄の職人としては素人なのだ。
好んで極めた者が居らぬ限り、手入れの手段など知るものはまず居らん。
手入れの手段を知る者は逆に錬成師としての知識が無いだろうな。
騎士の防具は金属製なため、学院で革の手入れの仕方などを学ぶ機会が無いのだ。
魔導具製作で革を使用するのは魔法の鞄、魔法の靴、革紐、ベルトと有るが、製作方は指導しても普段の手入れまでは指導はしておらん。
それは錬成師では無く、使用人の仕事であるからだ。
魔法の鞄の全てを分解し、魔力を失った部品に新たに魔力を与える為に、魔石から魔力を付与する手間をかけるのであれば、元の魔力を持った素材で新しい鞄を製作する方が費用が安く済む。
10 年も使えば革製ゆえに劣化も有ろう。
そう言った理由で使い捨てにせざるおえぬと言う次第なのだ。」
「うわ⋯これ本当にものすごい大ヒントだよ。」
「鍵となる部分は全て其方の推測であるがな。」
「分解して組み立てるのはありなの?」
「現在取り締まる法は無い。
綻べば繕うものも居ろう?」
「最後にもう一つだけ教えて欲しい。
固形にならずに透明性がある油ってどんな魔物から取れるかな?」
「油は基本的に固形であるな。だが半固形の物で有れば探せば複数有るのでは無いか?」
「半固形⋯ブヨブヨしてるって事かな?」
「そうだ。其方の村の森に世はまだ訪れた事が無いのだ。
どの様な魔物が居るかさえ定かでは無い。だが其方ならそこ以外の場所での素材の入手は困難では無いのか?」
「まずは近場を探して無ければ取り寄せって事かな。」
「戦士ギルドに依頼を出せば入手は可能で有ろう。
だが戦士ギルドには其方が直接乗り込むでは無いぞ?」
「ぶー。もう懲りました。
必要なら父に頼みます!」
膨れた私を見て、魔王が弾かれた様な笑顔を見せた。
あっという間に消えてしまったから、それがとても貴重なことの様に思えでしまう。
だから不安になる。
この笑顔が無くなれば、王様を慕う人達が減るのでは無いかと、そうなればこの人が王様として存在する事が難しくなるような気がするのだ。
それは私の不利益に繋がらないだろうか。
今私が平穏な生活を送り、沢山の恩恵を受けていられるのも、この人が王様だからだ。
錬成師の行いに興味の無い人や、地位に価値を高く置く人間に私はどう捉えられるだろうかと、それを考えるなら私はこの錬成師の王様が扱いやすくて1番都合が良かった。
「⋯王様。
やっぱりその笑いを収める魔道具は駄目なヤツだ。
私とお話する時以外は絶対に外しておいて欲しい。」
「なぜ?」
「笑顔は人して大事な表現の1つだからだよ。
王様が怒ってなくても何時もしかめっ面になってたら、周りの人達が不安になるよね。」
「⋯ふむ。
世は王ぞ?
それが何故周囲の者を気遣わねばならんのか?」
「王様も人間だからだよ。
私が何時も泣いてる顔になる魔道具をつけてたら、王様はそんな私に近づきたいと思う?
表情を偽るって言うのは、それだけ他人に与える影響が大きいの。
王様が想像してる以上に、本来の表情を偽るって言うのは、生活の障害になってくると思うよ。」
「⋯世では理解しかねる気付きでは有るが、⋯まぁ良かろう。
多少手間では有るが、忠告に従うことにしておこう。」
「うん。その方が絶対に良いと思う。
魔道具は便利な道具だけど、効果が高いものほど使う時には注意が必要なんだね。
魔法の鞄も世間に与える影響が大きい魔道具だから、私も慎重に扱う事にするよ。」
「うむ。世は魔道具に慣れておるせいで、自身の作成した道具が優れておることを理解しておきながら、安易に多用しておることを留意せねばならんのだな。」
「私もこれから魔道具や魔法に慣れた生活を送っていれば、今みたいな気づきも無くなるんだろうね。
だから今の環境をなるべく保てるように努力するよ。
色々と手間で面倒で難しくなって来るんだろうけど⋯上には王様が居てくれるから、私は下を見続けて王様の気付きを奪われないように頑張るね。」
「⋯そうか。」
机に座っている私よりも、少し高い場所にある王様の頭が私を見下ろして俯く。
それが少しだけ寂しそうに見える気がするのは、私も段々とヴィルヘルムお爺ちゃんみたいに、彼に魅了されているせいかも知れない。
だが私は賢いお子様なので、そんな上っ面なもんに騙されないからな!
コイツは身勝手で面倒臭がりのお坊ちゃまだ!
甘い顔をしたらつけ上がって上前を跳ねて行くに違いないんだ。
「王様。私に魔道具を作って欲しい。
こんな時に直ぐに美味しいお茶を入れられたりするお鍋!」
「⋯茶なのに何故鍋が出てくる。」
「ついでに料理にも使いたいから!」
「そこは鍋と使い分けた方が良いのでは無いのか?
そも茶を入れるための道具も、鍋も世間に溢れて居るだろう。
世が作らずとも買えば良いのだ。」
「高い魔道具を平民が簡単に買える理由ないでしょ。
王様が王都の店をうろついて、自分で買い物が出来ない状況と真逆なのに同じ理由だよ。」
「また厄介な⋯」
「でもまぁ王様はとびっきりの職人だから、世間に溢れてる商品を作らせても楽しくないじゃない。
だから鍋なのに好きな温度に加熱したり、竈門が無くても一定の温度に保てたり、蓋を閉めたら湯気でカタカタしないような、『気密性』えーと⋯空気の漏れないの何ていうんだっけ⋯封蝋?閉鎖?封印?そう言うがシッカリしてるの。
あと加熱してるのに、こんな机に置いても机が傷まないの。
そんな便利なお鍋作れなくない?難しいかな?それとももうあったりする?」
「⋯ふむ。
丁度風呂を作るのに、加熱も保温も必要な機能だから調べておる所では有る。
だが空気が漏れぬように空間を閉鎖して加熱した事は無かったな。
しかも鍋として使うので有れば、蓋は使用時には取り外さねばならんのだろう?
他に湯気の逃げ道はどうするつもりだ?」
「閉じ込めるの。
私ウェブンの卵を人工的に孵すのに、手作りで道具を作ってたんだけど、蓋を開けると湯気と一緒に魔力が逃げちゃうから、なるべくその湯気が逃げない工夫をしたんだよ。
そしたら蓋を開けてお湯を作るよりも短い時間でお湯を作れたの。
蓋を開けた状態なら鐘1/3ぐらいの時間が必要だったのに、ちゃんと蓋を閉めてたら1/10近くまでお湯が出来る時間を短く出来たの。
でも売られてる普通の鍋だと、蓋がカタカタして湯気が逃げちゃうから、それ以上時間を短く出来なかったんだよ。
だから王様なら出来るかな?って思って言ってみたの。
サラディーン様が使ってるお湯を沸かす魔道具は、短い時間でお湯を沸かしてるから、そう言った機能がもう有るのかも知れないから、王様には面白くないかなぁ?」
圧力鍋が欲しいんだが、説明が非常に難しい。
無理かな?
お嬢さんが使ってた湯沸かしポットみたいなヤツも湯気が出てきた時はもうお湯が出来てたから、何らかの圧力鍋の構想がある気もするんだよね。
圧力が溜まると危険だから逃がす機能をつけられてたら、圧力鍋は難しだろうなぁ。
自作するしかないのかなぁ?
「よし。其方を返そう。
世にはやる事が出来た。」
「期限切れの魔法の鞄は忘れずに置いていってね。」
圧力鍋が出来るかは分からないが、無事に魔王のやる気スイッチは押せたらしい。
「⋯あれはなんだ。」
「あ⋯」
そして再び実家に帰って来たが、珍しく行きと同じ場所に戻って来れられたと思っていると、人工小川の側でキャアキャアしてる兄弟達を目の当たりにして、魔王が直ぐに固まった。
ウチのゴリラ鬼軍曹がやらかしていたからだ。
「なぜ貴族の子女がこの場にいるのだ?」
「⋯⋯ウチの姉です。」
「は?」
魔王から至近距離で向けられる魔力と眼圧が痛い。
月明かりの下で強欲な姉が白に近い銀髪になって、必死に魔力をかき集めてた。
どうやら洗濯せずに済む風呂が気に入ってたらしく、私が居なくても何とかしようと思ったんだろう。
だから髪が変質するまで魔力を集めて、今丁度水瓶の中の水を浄化してる所だった。
魔王から圧力で、説明早う!早う!!と催促をされているが、果たしてどう説明をすれば良いのやら。
「うちの父は無自覚の天才魔法師で、母は掃除に浄化魔法を使う人間です。
私はちゃんとそう説明してましたよね?」
「⋯うむ。」
「そもそも、ウェスタリアに住む民族の特性をご存じですか?」
「みんぞくのとくせい⋯」
「いまウェスタリア地方の覇権を握っているのは、元は北の地方で長年に渡り厳しい生活環境のせいで強制的に魔力過多症を起こしても、生き延び続けてきた民族なんです。
その得意な環境で生息する為に、身体が大量の魔力を持っていても生きられる様に、元の民族とは違って変異を起こしていたのでは無いかと、私は予想しました。
そして北の地方から中央に進出した事で、その場に住んでいた元は同じ民族と交わる事になったので、権力を保持する為に権力を持っている北の地方の民族同士で婚姻している貴族家と平民とで、同一民族でありながらも、元の民族と交わりの多い平民に、体質の変化が起き髪や目の色に変化があったのでは無いかと考えました。
此処まではご理解頂けますか?」
「⋯うむ。」
「その為に民族の戦力となる大多数の人間の魔力が劣化したので、民族が弱体化を起こして戦力が低下したため、隣国の3箇所の国との婚姻外交が始まり。
人間との戦争を終えたことで、ウェスタリアの民族達は、森との闘争に専念することになったと、歴史の勉強をした事で紐づけてそう考えています。」
「⋯なるほど。」
「そして森の中でも魔力の低い土地から民族達は時間を掛けてて森を切り拓いて行った事で、高い魔力を秘めている森を残し、どんどんと西へと国の開拓を進め、そのさいに魔力の豊富な土地で育った魔物や魔獣の肉や植物や果実を食し、他の素材を使って戦闘に便利な武器や防具や魔道具などを開発して、強い魔物や魔獣に対抗出来るように進化を続けているのでは無いでしょうか。」
「⋯それで?
それではアレの説明にはならんだろう。」
「⋯貴族家はその生活環境から今も妊娠時に魔力過多症を起こしやすい状態ですよね?」
「うむ。」
「それと同時に一部の平民に限って、妊娠時に魔力過多症を起こす状態が長年続いていたんです。」
「どう言うことだ?」
「ミシリャンゼは魔力が豊富な森が近くに有りますよね?」
「うむ。」
「平民は子沢山な家庭が多く、1人で10人以上も出産をします。
そのため末の子供が産まれる頃には、妊婦は高齢化しており、また妊婦になった母親の代わりに、それまで行っていた日の光を浴びる仕事を、育った子供達が代わりに行う事になります。
そして室内の生活が増える事と、豊富な魔力を含んだ食材を食べる事で、その平民の妊婦が魔力過多症を起こすんだと思います。
それが問題として取り沙汰されていないのは、貴族家の女性と違い、平民の女性は労働をしているので基本的に体力があり、また長年の経験から受け継がれている日の光を浴びれば元気な子供が産まれると言った伝承があることで、重症化する前に、自主的に対応出来ていたからでは無いかと予想しました。
そして此処が大きな鍵となるのですが、農民は麦を育てて生活していますが、麦の値段が安いので後継になれる人数は少なくなります。
そのために広大な敷地を個人、または少人数で管理しなくては生きて行けないので、魔力過多症を起こした妊婦が産んだ、高い魔力を持った子供が、後を継ぐ事になるのではないかと考えました。
私の父や祖父が魔力が高く優れた魔法師なのは、それが理由です。
そして祖母も魔力過多症を経験したので、私が生き延びられたのもその為かと思います。
そしてそこにいる姉はそんな2人から産まれた第一子。
正真正銘の長女になります。
だから何時もでは無いけれど、高い魔力を必要とする魔法を使う時に、あの様な姿に変わるのでは無いですか?
王侯貴族の方々の髪や目の色が、高い魔力をもつ証明だとしたら、大きな魔法を使う時に一次的に魔力量を増やす事で、あよ様に髪や目の色が変わる変異を起こすのではないかと私はそう予想しています。
我が家には魔力草がありますから。」
「ふぅぅ~⋯。なるほど。」
「あくまでも起きてきた出来事や、勉強して知った知識を元に考えた推測なので、真実がどうかは分かりませんよ?」
「確かにそうだ。
だが合点が行く事も多く、其方の解説には説得力がある。
実に良い分析だと世も思う。
其方の言う通り世や貴族達はウェスタリア王朝の原始の民族と容姿が近いので有ろう。
平民は多種族との交配により、劣化したとは言っても元はその他種族と思われる民族が変異したのが我らの先祖であるなら、根本的な民族特性は引き継がれて居るから、容姿の色が似通っているのだな。
そして一次的と言っても高い魔力を保持する体質と能力が有る平民だけが、貴族家と似通った色を持つ可能性が高いと言う訳か。
実に面白い見解であったわ。」
「むしろそう言う民族で無かったら、ウェスタリアの森は拓けなかったんじゃないですかね?」
「フフフ⋯そうやも知れぬな。
通りでウェスタリアの民は他国の民と違い、高い魔力を持って産まれる訳か。
先王やダーフィーも面白がって耳を傾けるだろうな。
だが実に惜しい。
今宵世は其方と会っては居らんのだ。
さすれば先程の気付きも其方が語る機会を得るまで、彼奴らが耳にする事も出来ぬな。」
「⋯あんな話を面白がって聞いてくれるのは、王様だけだと思うけどね。」
「また其方は下らぬ事を申すでないわ。
其方の気付きで今宵世は、ほんの僅かな時間でどれだけの変化を迎えて、様々な見識を深めたと思うておるのだ。」
「それが必ずしも良いとは言えないんじゃない?
良いと思ってくれるのは王様がれっきとした錬成師だからだよ。
人間は変化を嫌う人だって沢山いるから。
だって変わるって事は、今までの遣り方で通用しなくなるって事だから大変になるからね。」
「ふん。有象無象の話など耳にするのも辟易するわ。」
「それは王様が若くて心身共に健康だからじゃない?
年老いたら身体もしんどくなるし、先の事が心配で不安になる事が有ると思うんだよ。
愛情深い人なら余計にそうなりそうだよね。」
「ふん。あ奴を庇うておるのか。」
「王様は王様が思ってる以上に愛されてるって言ってんの!
無くしてから気付く前に、今まで苦労をかけて来たんだから、ちょっとは労って安心させてあげなってば。」
「また其方は世に説教をするつもりか?」
「そう聞こえてるんなら、本心では分かってるって事だろうから、私も安心したよ。
王様には割と迷惑かけてるから、幸せでいて貰いたいしさ。
はい。魔法の鞄出して。
私が注文しておいて何だけど、あれはあったら良いなと思う程度の道具だから、あんまり根を詰めすぎないでたまの気晴らしにやってくれたら良いからね。」
「⋯⋯⋯」
魔王は無言で私を地面に降ろすと、当てつけみたいにドサッと頭の上から期限切れの魔法の鞄を沢山ふらして来た。
酷くない?!
小袋程度なら軽いし柔らかいしでダメージは全く無いけど、お嬢さんやギルバートさん達が使ってるポーチ式のは造りがシッカリしてるから、そこそこ痛いんだが?!
「痛い!ちょ⋯なに?!」
「フン。希望の品だ。
有難がって受け取るが良い。」
「そりゃ心から有難いよ!
ありがとう御座います!
でも渡し方が最低!!!」
「ハッ⋯ハハハハ!」
「ハハハじゃねぇぞコノヤロウ!」
両手を突き上げて憤慨してたら、魔王は悪戯が成功した小僧みたいに笑って、サッと風の様に消えてった。
しかし⋯私は足元を見て、どうしてもニンマリとする口元の笑みが堪え切れずにいる。
ヤツは相変わらずの根性悪だが、金払いが良いのは最高だと思う。
鞄で殴られたような痛みだって、この足元に散らばってる鞄の種類や、如何にも高額そうな素材を使って作ってます!と、言わんばかりに高品質な革を見せられたら、今ならほっぺたにキスをされちゃっても許せそうなぐらいに超アツい!
「あ!リリアナ!アンタいつの間に帰って来てたの?!
居るなら居るってちゃんと言いなさいよ!」
「お姉ちゃん『ストッップ』!!」
「えぇ?!」
「コレ!全部魔法の鞄!!!
しかも白金貨1枚だなんて安モンじゃ無い、ホンマモンのヤバいヤツ!!!」
「はぁ?!」
銀色の髪に銀色の目になった、ハイエルフみたいな姉が突進して来たので大慌てで制止する。
もうアレだよ。
聖獣化したゴリラだ!
怒りの速度で突っ込んで来られて、真正のお宝を踏み荒らされたら堪んないぞ?!
大小様々なタイプの魔法の鞄があって、基本的には私が賞金を貰う時の小さい小袋タイプの製品が多いけど、他にも背負い袋のリュック式やら、ポーチ式やらがあるが、どれもこれも平民からしたら新品同然の品物ばかりだ。
そりゃお城で管理されてる魔法の鞄だから、使う人だってお姫様や王妃様とか外をあんまり彷徨かない人とかも沢山居るし、なんならお世話する人達がちゃんと管理してるだろうから、10年物と思えないぐらいに使用感があんまり無くて、それでも革の風合いとか色味が深くて、逆に味があって良くなってるパターンの魔法の鞄に進化しちゃってんだよ。
何だよこれ!
宝石までつけて、お前⋯マジか?!
鞄のクセに何お洒落して色気づいてんだよ?!
金細工の飾りとか、ケロッとした顔でついてんじゃねぇぞ!
どこのお嬢様だよ!
お前は単なる鞄だからな?!
こんなもんタルクス叔父さんやらセフメトに持たせられる訳が無いじゃんか!
バカかアイツ!
騎士とか、沢山いるじゃん!
何であっち系の鞄入れとかないで、こんなお姫様仕様の鞄ばっかり集めて持って来てんの?
バカなの?
ねぇバカだよね?!
つーかこんなん絶対に嫌がらせだろ!
「ひっ⋯ナニコレ。
ねぇ何かキラキラしたのついて無い?
え?これ本当に魔法の鞄なの?!
え、ちょ⋯何で地面に?!
リ、リリアナ!!!
アンタ何をボサッとしてんのよ。
は早く!早く拾いなさいよ!」
「おーい、どうしたんだよ。」
「なになに?何かあったの?」
『ちょっっ!』
私と姉が2人揃ってプチパニックを起こしてると、お湯になるのが待てずに、浄化された水に浸かってずぶ濡れになってるバカ兄達がドタドタと走って突進して来る。
そんなもん私も姉も顔色がサッと変わるよね!
水に革って1番駄目なヤツじゃん!
『わああぁぁーーー!!!』
私も聖獣化したゴリラも逆突進をかまして、バカ兄達を身体を使って阻止してやる。
王様は帰ったはずなのにどっかで見てたのか、何となく夜風に乗ってクスクスと笑ってる囁きが聞こえた気がした。
期限切れの魔法の鞄は処分されるか、下請けの業者が普通の革製品の袋として下げ渡されて購入しているので、残っていたのが女性達の小物入れ代わりに、侍女さん達がリメイクして衣装部屋で使われてた物だった設定です。
だから王様が狙ってやった訳じゃ無いのに、無自覚ザマァしちゃった感じですね。
最後の笑い声はリリアナの被害妄想的な幻聴か、または王様が覗き見してたかは秘密です♪




