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話が脱線しまくりで進まないの巻。


私達姉妹が家に帰ると、私の手紙を家族で回し読みして、父が解説してくれた様な雰囲気がしてた。

姉は賢いので、それもあってのあの行動だったんだと考えられる。

むしろ私がなぜついて来た?と、思って苛ついてたからあんなにトゲトゲしかったのかなと察した。


でもそれは私が、今は心の余裕を取り戻せたからであってそれを考えられるだけで、私の気持ちを完全に無視して行動するからあぁなったんだと声を大にして叫びたい。

指摘されたらそれを言うつもりだったけど、そこは流されていたので、姉は後から気付いたのかも知れない。

第一子の長女らしい傲慢さと、子供らしい視野狭窄も感じるが、それもあってのあの呆れた様子で言ってた「信用しなさ過ぎ」発言かと思えば納得も行く。

私が言い訳するなら、あれは王様達との会話があってのあの警戒であって、私個人としたらピヨ子は信用していたのだ。

そうで無ければ魔法契約をしろと言われた時にしていたと断言してやる。

でももうそれはどうでも良い事なので、苦い気持ちを噛み締めながらスルーしといた。


「それでどうなったんだ?」

「ピヨ子はウチで暮らしたいので、ちゃんと私達の言う事を聴くそうです。」

「⋯そうか。」

「大丈夫よお父さん。悪さをしたら私が叱りつけるから。」

「⋯うむ。」


父は難しい顔をしていたが、娘2人から説得をされたせいか、今の所は静観する方針にしてくれたらしい。


子供が相手なのによく話を聞いてくれる人だなと思うけど、それは父が末っ子だからだとも考えられてしまう。

だって上から指示をされる事を素直に聞いとかないと叱られるから。

それはもうガツンガツンとやられてても可笑しくはないんだよ。

だって長男があのジギタス叔父さんだからね。

しかも父との年の差を思えば17歳ぐらい開いてた筈。

そんなんもう兄じゃ無くて父親みたいなもんだと思えば、そりゃ逆らえないよね。


特に父は頭の良い人なので、叱られないように過ごしてるウチに周りの意見を聞いて行動する癖がついてしまったんじゃないかと、私はそんな予想をしている、


私は今目に包帯を巻いたせいで、中二病みたいな顔でお話をしている。

水で洗っても油が弾いて落ちないし、薬だから母が浄化しても消えないしで悩んだ末に目を布で隠すのに包帯をグルグル巻いたら中二病になった。

ローブ姿で目元に包帯ってモロそれでしょ?


目が見えない上に、鼻も軟膏の匂いのせいで効かないって、どんなヘレン・ケラーだよ。

彼女が駄目だったのは耳と目だけど、鼻と目だって五感を封印されるのはかなり不便よ。

母もふわふわと笑ってないでちゃんと反省して欲しい。


水洗いして少しはマシになったけど、鼻にメンソレータム塗ったらこうなる、の見本みたいな事になってるからね?

匂いは腐りかけの生臭い何かに草の青みを足してスダチで割った匂いがする。

タマの匂いを足すんじゃなくて、この生臭い何かと草の青臭い匂いを弱めないと、匂いの対策にはならないと思われる。

でもこれでトイレの消臭に元気草は関係ないのが分かった。

だとしたら⋯。


「ねぇお母さん。

さっき聞かなかったけど、ウチで教わる秘伝の内容って、タマの実の汁を入れるんじゃ無くて、皮を使ってない?」

「あら。良く分かったわね〜?」


ででで出たーーーーー!!!

料理が出来ない人あるある!

基本が出来てないのに感覚でオリジナリティーをぶっ込んで失敗するヤツ!

まさにそれじゃね?!

料理でも迷惑だけど、薬でそれはやらないで欲しかった!

薬でそれはやらないで欲しかった!!!

大事な事なので2度言った。

でも口に出して言ってもどうせ忘れちゃうだろうから言わない。


「厠の匂い消しに、タマの実の皮に効果がある事に気付いたご先祖様の誰かが、元気草とダブリンの軟膏にもタマの皮を入れた事で、わが家にも伝わってるんじゃ無いのかな?」

「あらぁ~。タマの実の匂いじゃ無くて、皮が匂い消しに必要だったの〜?

小さく刻むからお母さん、アレ苦手なのよね~⋯」

「お姉ちゃん。」

「分かったわ。

危うく間違った方法を私達の子孫に残す所だったのね?

あんたのソレも、たまには役に立つじゃない。」

「たまに?」

「魔力草と軟膏の事は認めても良いけど、ウェブンにしてもそこのピヨコにしても、余計な事をしてるだけじゃない。」

「ウェブンはこれから効果を出すんだよ。」

「でも卵を孵す度にあれをしなくちゃいけないなら、数なんて増やせないわよ。」

「1番最初の成鳥を育てるまでが大変なだけだよ。

次からはウェブンの鳥小屋を作ったら、ある程度はウェブン達に育てさせて、途中からあの卵孵機を小屋において使えば、親鶏が育ててくれるし、魔法のお水を出した人の命令も聞くようになると思うけど?」

「それ、ホントにそうなるかしら?

だってピヨコは貴方が卵を取り上げたから、親鶏はピヨコの事なんて覚えて無かったのよ?」

「そこは卵孵機の形次第だよ。

今は私にそれを作る知識や技術が無いから、あんな格好の道具になってるだけで、そこを学校に通って知識や技術を増やせば良い道具を作れると思うの。」

「ねぇそれって何年後の話になるの?

少なくてもウェブンは来年には成鳥になって卵を産んでるんじゃ無いの?」

「⋯うん。まぁそうなんだけど、やり方は必ず有るんだよ。

そうじゃないと業者なんて存在しないと思うの。

それにうまく行けば魔法生物までしなくても、買う人の命令を聞いてくれるウェブンが作れたら、買っていく村人や旅商人も居ると思うんだよ。

金貨が払えなくても歩いて旅商人してる人なら、ただのウェブンでも買う気がするんだよね。」

「⋯ウーン⋯そう上手く行くのかしら?」

「そうでなくてもウェブンは卵や肉が美味しいらしいから、高値で売れるって聞いてるよ?

ミシリャンゼは旅商人が沢山来る村だから、儲けになると思うんだけど⋯」

「でもそれなら肉は森の魔物の肉を買うんじゃないの?

街にウェブンを育ててる業者があるのに、わざわざこの村のウェブンの肉を買うのかしら?

卵は割れやすいから旅商人も困ると思わない?」

「⋯⋯なるほど。

そっか、確かにお姉ちゃんの言う通りだね。

魔法生物ウェブンにしないと、ウェブンでの商売は難しくなるのか⋯セフメトなら魔法の鞄でウェブンの肉も卵も運べると思ってたけど、街に売るなら魔物の肉の方が需要があるに決まってるよね。」

「まぁどこの街でもウェブンの業者が有るとは聞いてないから知らないけど、もしない街があるんなら売れるとは思うわよ?」


家族を養うついでに、若くして死んでいく戦士達を有効活用してウェスタリアを富ませる方法として、旅商人が欲しかったからウェブンに着目してたけど、姉の地に足がついてる的確な指摘を聞けば、いかに机上の空論だったのか、身が引き締まる思いがする。


姉の視点には今で培ってきた経験や知識が有るから、私が頭だけで考えた展望よりもちゃんと現実に寄り添える案になってると思うのだ。


遠くばかりを見て足元が疎かになる危機感は前からあったけど、それを具体的に提示されただけなので、むしろこれは私が周りの人達に期待してた展開なのよね。

父が横にいるからこの指摘は私にとっては苦しいけど、個人的には心から有り難い。

問題点は見つけるまでが大変だけど、対策を考えるのなら幾らでも出来ると思っているからだ。


「いや、お姉ちゃんの意見は凄く大事だよ。

ただ数を増やすのが大変そうだから、3年も有れば私が知識と技術を学んで家に戻って来れば魔法生物ウェブンも作れるし、それで良いかなって簡単に考えてたかも。」

「まぁ⋯普通の子供ならそれは難しいでしょうけど。

貴方ならその可能性が無いとも言え無いから、お父さんやお爺ちゃんは、貴方の話に乗ったんでしょうけどね?」

「それにもし、私がこの家に直ぐに戻れなくても、きっと援助はさせて貰えるから、私の代わりに錬成師になる子供を育てたらって考えてたけど⋯」

「マルセロは騎士になりたいみたいよ?」

「錬成師と騎士を両方したら良いんじゃない?

王様がそう言う人だし、私が目指してるのも魔法師と魔道具師と錬成師の仕事が出来る魔導錬成師になるから、騎士でも出来ると思うんだけど⋯。」

「それは貴方じゃ無くて、マルセロが決める事なんじゃ無いの。」

「うん。まぁそうなんだけど、今のお兄ちゃんを見てたら、錬成師としての素質が有りそうなんだよね〜。知りたがり屋さんになってるから。」

「⋯それもそうね。

あり得るんじゃ無い?

騎士になるのに学校に行ったけど、錬成師の授業を受けたら僕も僕も!って、どんどん新しい事に首を突っ込んで、色んな事を覚えそうよね?」

「でっしょ〜!」

「う⋯、そうかなぁ?」

「だって騎士なら自分で森に入って素材を取ってきて、便利なものを作れちゃうんだよ?

お兄ちゃん想像してみなよ。

自分で鍛えた剣を森で倒した魔物の素材で作ったり、強化したり。

防御になる道具や狩りが楽になる便利道具とかも、自分の好みで作れちゃうの。

しかも普通の騎士になるだけなら、私のツテで王様に騎士にして貰えるけど、そうして自力で7級の魔物をたおせるようになったら、誰からも尊敬される騎士として皆から憧れる存在になれるんだよ?

それって楽しそうに思わない?」

「⋯でも騎士は森に入れるの?」

「最初慣れるまでは誰と森に行っても良いけど、1人きりで7級の魔物を倒せたら、それで騎士になる話を聞いて無かったの?」

「学校に通ったらなれるって言ってたよね?」

「学校に行かないと騎士にはなれないけど、学校を卒業してなれるのは騎士見習いなの。

見習いになったら騎士になる為に、森で魔物を倒すか、貴族や王様に仕える事で騎士として認めて貰う必要があるのよ。


戦士として騎士になるにも、森で単独で7級の魔物を倒した上で、貴族に認めて貰えた人が始めて騎士になるのよ?

あと騎士って言うのは爵位になるから、騎士は貴族になるって事にもなるんだよ。

だから必要な知識が有るから、学校に行くの。

普通の平民の戦士が騎士になるには、よっぽど賢くて強い人じゃないと難しいと思うよ。」

「う⋯そうなの?そんなに大変なの?」

「それがほかの人達は大変なんだけど⋯知識だけで言ったら、マルセロお兄ちゃんは騎士の学校に余裕で入れちゃうぐらい、勉強は簡単なんだって。

だからお兄ちゃんだと物足りなくて、錬成師の授業が受けたくなると思うんだよ。」

「あれ?そうなの???」

「今のまま頑張って勉強したらきっとそうなるよ。

春になったらお兄ちゃんは教会に行くから、そこで村人が学べる知識が何処までなのか体験して来たら良いよ。

魔法も使えてるから、下手したら初日で卒業出来ちゃうかもよ?」

「えーー?!」

「あー、うん。マルセロはそうかもしんねぇなぁ⋯」

「確かに⋯この子って教会に行く必要が有るのかしら?」


目玉が溢れ落ちそうなぐらいに丸くなってるマルセロを見て、兄と姉がウーン⋯と難しい顔をしてる。


「教会は勉強以外にも人として必要で大事な話を教えてる筈だから、授業は卒業出来ても、そっちの勉強をする為に通わされるかも知れないかな。


でも天才少年として教会が働きにおいでよって誘いに来るかも知れないよ。


これから国も平民の学業に力を入れていくから、近くの街の学校に誘われるとも思うけど、私とお父さんが国立魔法学院に行けば、そっちに通える可能性が高いから、学校としては国で1番良い所だし、騎士なら絶対にそこに通わないとなれから、そっちに通うんじゃないかと考えてたんだけど⋯」

「あ、なんだろ⋯僕もそんな気がする。

騎士になるなら行かなきゃ駄目な学校なら、僕もそっちが良いかも。」

「⋯なぁ俺も行きたいんだけど?」

「じゃあ2人で通えば丁度いいよね?

平民は少ないだろうから、仲間がいた方が楽だと思うよ。

でもそれには勉強だけじゃ無くて、武術や身体も鍛えないと駄目だから、カルマンさんやギルバートさんに合格を貰えなかったら学校には通えないと思うの。

だって貴族を押しのけて入るには、武術を鍛えるのが最低限の条件になるからだよ。」

「そっか。勉強だけじゃ駄目なんだっけ。」

「そりゃそうだよな。」

「錬成師の勉強して身体を鍛えたら、騎士の方に行けるかも知れないけど。どっちが良いかは、私とお父さんが学校に行ってみないと分からないかな?

でも騎士の人達は、武術よりも勉強の方で苦労してるみたいよ?」

「ウーン⋯なんでだろう?

勉強って凄く面白いのに。」

「あー、それはリリアナが考えた勉強の方法が楽しいだけで、教会のはあんまり楽しくなかったんだよ。だからじゃね?」

「え?そうなの?!」


またマルセロが目を丸くすると、難しい顔をして腕を組んでる8歳と、同じく難しい顔をして背筋を伸ばしてる10歳がウンウンと頷いてる。


「だからマルセロって良いよなぁ⋯。俺ん時もリリアナがあの方法を思いついててくれたら、すっげぇ楽ができたのによ⋯」

「あら。勉強は最初楽しくなくても、ちゃんと真面目にやってたら、分かるようになってくれば楽しくなって来るじゃない。」

「俺は最初っから最後までぜーんぶ楽しく無かったよ。」

「それはお姉ちゃんが毎日の生活でお母さんの為にお手伝いをしてたから、楽しく無くてもやり遂げる癖を身に着けていたから、勉強が楽しくない時期も乗り越える事が出来たんだと思うよ。


でもそんな事は普通の人達には出来ないから、周りから凄い!って認められて、そこからお姉ちゃんは楽しく勉強が出来る様になったんじゃないの?

頑張れば皆から褒めて貰えるし、そうして難しい事をしてたら慣れてきて勉強が本当に楽しくなって来たんじゃないかなって思うの。

勉強の方法が難しかっただけで、知らない事を覚えるのって、本当は楽しいことだから。


それに対してロベ兄ちゃんは、面倒で楽しくないお手伝いは全部お姉ちゃんがしてくれてたから、楽しい事しかして無かったんじゃない?

そうでなくてもイヤイヤ言われた事だけさせられるから、余計に楽しいなんて思わないよね。


だから面白くない勉強をする気が起こらなかったんじゃないかな?

でもやらなきゃ皆から叱られるから、仕方無くやってるせいで、最初っから最後までぜーんぶ楽しく無かったんだと思うの。

そしてお兄ちゃんみたいな人達がほとんどだから、お姉ちゃんは凄い!って皆から褒められたし、そこで勉強は楽しくない!って、大勢の子供達が間違った価値観を植え付けられるから、勉強しない戦士達が多くて、そう言う人達から沢山死んでいくんだと思うんだよ。


だって知らないと駄目な事を覚えるのを面倒がって覚えようとしないなら、そう言う人達には大事な仕事を任せられないよね?

だって知らないと駄目な事を、ちゃんと覚えてないと失敗するんだもん。

頼む人なんか居なくて当たり前だと思わない?」

「げ!そしたら俺ってすっげぇヤバかったんじゃねぇの?」

「お兄ちゃんだけじゃ無くて、周りの人達皆がヤバいんだよ。

だってお兄ちゃんと一緒になって教会をサボってた子供達って多かったんじゃない?

お兄ちゃんにはお姉ちゃんがいたから、イヤイヤでも教会に通って勉強をやり遂げたけど。

そうしなかった友達も中には居るんじゃないかな?」

「⋯いる。マジか。

やっぱまずいよな、アイツ等。

あ、でも今は教会の勉強はしてないけど、午後にやってる騎士の教えの会にはちゃんと来てるんだぜ?」

「きしのおしえのかい⋯」

「おう!すっげぇ人気あんの。

だから教会の勉強に通わなくても教えられる事を覚えられるから、卒業してた人達が悔しがるんだよ。

俺も最初はそうだったけど、教会でやる以上の勉強しないと勝てなくなって来たから、勉強が嫌いな奴等に頼られて仕方無く頑張ってたら、いつの間にか難しい事を覚えるのも楽しくなってきちまったんだよなぁ。」

「そっかぁ~良かったねぇ〜」


きしのおしえのかい、か。

そんな宗教みたいな名前になってんだ。

騎士の体育倶楽部が。

もうカルマンさん達とお姉さんとの合わせ技で1本取った感じよね。

学校は嫌いだけど、クラブには通う学生の話を聞いた記憶がフッと蘇ったよ。

でもコッチの世界だと、本家の授業よりもクラブの方が勉強が難しいとか、超ウケる。


「ねぇ、教室の人達はそれで嫌な顔をしないの?」

「なんで?」

「なんでって、自分達が教えてる以上の難しい事をしてるんでしょう?

しかも沢山の人が教会に押し寄せて来るとか、迷惑じゃないのかな?」

「逆だぜ逆!」

「うん!教会の人達、皆ニコニコしてるよ!」

「おう!楽しそうにしてるよな?」

「なんかね?教会を嫌がってた子供が、皆楽しそうにしてるのが嬉しいみたいだよ。

卒業する前より勉強してるって言って笑ってたし。」

「それに終わりにはちゃんと掃除とかもしてるしさ。

前は教会の教えが終わったら、すっ飛んで帰ってたのに、今はちゃんと掃除して帰らないと騎士の教えを受けられないから、皆が箒を奪い合って掃除してるんだぜ?」

「雑巾の水拭きも人気なんだよ!たんれん?になるって騎士様が言うから!」

「誰が1番早く床を拭けるかとかも、競争してて楽しいよな?」

「あ、うん。そっかぁ~」


そりゃ教会の人達もニコニコするだろうなぁ⋯。

卒業したら教会に寄りつきもしなかった、苦労させられた教え子たちがこぞって集まって来て勉強した上で、掃除もちゃんとして帰って行くんなら、まぁいっか。

て、広い気持ちで居てくれてるんだろうなぁ⋯。

何せお人好しの集団だもんね。

村にある教会の人達ってさ。


私は手探りでコップを見つけてずずっとお水を啜った。

ピヨ子はもう定位置だった頭の上に登ろうとせずに、私が座ってる椅子の周りをチョンチョン跳ねて歩いてる。


どうやら歩くのにハマって筋トレしてるらしい。

そこはかとなくジーニスの匂いが漂ってくる。

そのジーニスと言えば母に座らされて、小さな壺に座ってウンウンを学んでる所だと思われる。

見えてないけど会話と音で分かるからね。


そう赤ちゃんのオマルは壺なんだよ。

小さな水瓶と呼んでるけど、アレは壺だ。

ジーニスも来年の春には1歳だから、月齢を考えたらもう肉体的に1歳なのでオマルの訓練をしても可笑しく無い。

ちなみに私は首が座ってから自分で座位が保持でき次第、速攻でオマルをくれと自分から催促した。


身体の感覚が掴みにくい時期だったので、ハッキリするまで多少は失敗したけど、生後半年を超えた辺りでマスターした気がする。

ついでに汚れたオムツを自分で処理するようになったのも、その頃である。

処理といってもお尻を自分で拭いて、あのクッサイ薬を塗って新しいオムツを身につけるだけで、洗濯は出来なかったので作業が終わったらカタリナを呼んでたね。


オムツの結び方を教えてくれたのはカタリナだよ。

下手くそね!ちゃんと結びなさいよ!って言いながら教えてくれたし、変な形になってたら直してくれた懐かしい記憶が残ってるよ。


今はジーニスがオムツに粗相したら早く言いなさいよ!何失敗してんの!こっちは忙しいのよ!と、叱ってオマルに自主的に行かせようとしてる。

凄いだろ?ウチの鬼軍曹、赤ちゃんにも容赦ないんだぜ?

なんか母みたいに変なトラウマにならなきゃ良いなと思うけど、ジーニスって図太いから今の所は平気そう。


誰に似たのか分からないけど、叱られてもニコニコキャッキャしてるし、マイペースな性格で自分がしてほしい事はちゃんと自己主張するんだよ。


私は用もないのに泣いて呼ばれたら面倒だから、一応積み木代わりの廃材を利用した木片のオモチャとか、母に作ってもらった藁を詰めた革のボールとか、投げても自分で回収出来るように古い革紐を縫い付けて工夫して貰ったのを渡したけど、ジーニスは自分で屈伸運動したりコロンコロンとでんぐり返ししてたりハイハイしたり、ボールを投げて取りに行く姿は偶に見るぐらいだね。

大抵は迷惑にも木片を投げてんだよ。

しかも自分で拾えないから、投げる物が無くなって、始めてボールを投げるみたいな?


でも割と肉体的強化が好きみたいで、危ないからジーニスのベビーベッド柵は、私でも下手すると脱出出来ないぐらいの高さにしてるの。

柵を降ろす鍵の代わりも難しい物を私が作ってジーニスの知能と指先だと操作出来ないように改良してるから、改良した始めの頃はカタリナや母からめっちゃブーイングされたよ。

今はもう慣れたみたいだけどね。

そんな難しい造りじゃないのよ?

藁の紐で結び目を固く作って、輪を通すだけのお手軽仕様なんだけど、その輪がチョッピリ曲者で正しい結び目の向きで通さないと結び目が抜けないだけなの。

力で引っ張っても駄目だから、指先がソコソコ器用で知恵が無ければ外せないから、ジーニスなら柵を下ろせなくて脱出出来ないのだ。


でも姉の時代から使われ続けてる、歴史のある父と祖父合作の日曜大工風味漂うベビーベッドなので、柵の紐は外せなくても柵を破壊しそうではある。

その場合は私の責任じゃ無いし、念のために床には夏でも毛皮が敷かれてるのだ。

ジーニスはいつか転落した時の為に、身体を鍛えているのかも知れない。


ちなみにピヨ子を育ててる時に、私がジーニスのベッドを使ってた時は面倒だから細工紐は使って無かったけどね。

私は賢いお子様だから、柵が無くても落ちたりしないので!


畑は水やりが終わったし、ピヨ子の事もあったから、皆でお水を飲みながらダラダラ喋ってたけど。


「さてそろそろ畑に行くか。

リリアナも来るだろう?」

「ロベ兄ちゃんが居ないと難しそう。

魔法の誤魔化しが難しいんだよね〜」

「あー、俺どーすんだよ。

あんな魔法使えないのに、リリアナったら俺が使ったみたいに言いやがったんだぞ?!」

「だって2歳でアレはどう考えても変でしょ。

だからロベ兄ちゃんが早く覚えてくれたら、嘘にはならないと思うんだけどなぁ〜」

「それってさっき言ってた死ぬかも知れない修行でしょう?

ホントに大丈夫なんでしょうね?」

『はぁ?!』


姉がチクったせいで、父と兄達が目を剥いて驚いてる。


「タルクス叔父さんの事を見てたでしょう?

無理をしたら身体から生きるのに必要な魔力まで外に出ちゃうんだよ。

だから私が外からそうならないように魔力を積止めてたの。

お父さんぐらい魔力が鍛えられてる人なら難しいけど、そうで無い人なら私でも簡単に抑え込めるんだよ。

だから下手すると死ぬけど、私が居たら大丈夫って言うのはそこなの。

カタリナお姉ちゃんみたいに魔力切れのシンドさを知って気をつけてる人なら、不安にならなくても大丈夫だと思うよ。

ロベ兄ちゃんだってこの前魔力切れのシンドさを覚えただろうから、無理はしないと思いたいけど。

ロベ兄ちゃんは楽しくなったらやりそうだから、そこは心配かな?

だから自分でちゃんと調整出来るようになるまでは、私やお父さんが居る時以外は、あの魔法は禁止です。

実はお姉ちゃんよりも、お兄ちゃんに教える方が不安なんだよ。

使いこなしたら調子に乗って、1人で森で魔物を沢山狩って暴れそうなんだもんなぁ〜。」

「⋯え、そんなに?」

「うん。

たった1人で7級の魔物を倒せる人は、無意識にでもあの魔法の技術を使えるから倒せるんじゃ無いかなって予想してるんだよね。

でもジギタス叔父さんみたいに、無意識で使って倒せても、他が駄目だから危ない目に何度も遭ってたんだよ?

それがジギタス叔父さん以上に、魔物を倒す修行を積んでないロベルト兄ちゃんが⋯って思うと、危ないよね〜」

「うむ。それは止めた方が良いだろうな。ロベルトは今まで通りの魔法を使う練習をしなさい。」

「ええぇー?!

そんなのリリアナが学校に行くようになったら俺どーすんだよ。いきなりあの魔法が使えなくなるとか変だろ!」

「そこは父が居ない時は禁止されてるんで〜って言えば良いよ。

魔力を使いすぎて倒れると困るから、父が監視せずに1人での使用は禁止してるって言えば、誰だって納得すると思うよ。

だってロベルト兄ちゃんはまだ子供なんだもん。」

「はぁー?!

魔法を教えるって言ってただろう?!」

「お姉ちゃんに教えておくから、少しづつ覚えて行けば良いんじゃない?」

「うぇーー!?」

「もう、仕方がないわねぇ。

そう言うことなら私が覚えておいてあげるわよ。」


この世の終わりみたいな顔になってるロベルトも面白いけど、フフンみたいな感じで、私は興味ないけど仕方ないわねぇ〜と装おうとして失敗してる、明らかに上機嫌な姉に私は噴きそうだった。

素直過ぎて演技が出来てない所が可愛い。


「それじゃ畑に行く前に少しだけお姉ちゃんに魔力の流れ方について教えとくね。

お兄ちゃん達が見ててもわからない方法でやるから。

お姉ちゃんコッチに来て私の手を握れるかな?」

「ええ良いわよ。」


澄ました雰囲気なのに足音が弾ん出るから笑える。

でも顔は真面目キープしとかないと理不尽女王が降臨なさるから我慢我慢。


「見えないから私の掌の下に掌を当ててくれるかな?」

「こうかしら?」


気配を感じた方向に掌を下にして差し出すと、下から姉の掌が当てられてるのを感じてギュと握った。


「今からお姉ちゃんの身体に少しだけ私の魔力を流すから、それがどんな動き方をするか感じてね。」


姉のカタリナの魔力は弱いので、押すと私の魔力に簡単に押されてしまう。


「んんっ⋯」

「お姉ちゃん、どんな感じがする?」

「掌がザワザワするわ。」

「痛い?」

「⋯何だろう、痛くはないけれど、擽ったいのかしら?」

「それならもう少し押すね?」

「ひっ⋯」

「お姉ちゃん、どう?」

「い、いま手首までザワザワしてるわ。何コレ⋯すっごく変よ。」

「そっかぁ~。じゃあゆっくり引くから、魔力が何処から出ていくのか感じて覚えてね?」

「⋯えぇ、アレ?」

「はい、おしまい。」

「うそ!あれ?!えぇ?!」


カタリナは私の手から離すと混乱してワチャワチャした。


「ソレが第1段階かな。

指先だけじゃ無くて掌全部から魔力が入ってきたの分かる?」

「え⋯えぇ⋯」

「手首まで来た後どうなったかは、お姉ちゃんの中だけのヒミツね?ロベ兄ちゃんやマル兄ちゃんが聞いてるから。」

『あ!ずっる⋯』

「でもその感覚と同じで、ホントなら足の裏でも首からでも背中からでも魔力は出せるの。

でもそうしたらあっという間に魔力が身体から外に出ていくから、生きて行くのに必要な量の魔力が足らなくなるんだよ。」

「⋯そうでしょうね。」

「そこで第2段階。

身体の周りを薄っすらと自分の魔力が包み込んでる事を意識出来るかな?

まだ分かりにくいと思うから、私の魔力を感じてね?」

「わ⋯分かったわ。」

「行くね。」

「ひっ⋯」

「ハイ、おしまい。」


姉が床に崩れ落ちた気配がする。

全身を薄く私の魔力で包んで、全方向から押しただけなんだけど、コレをすると私の魔力が消えるから割と私が消耗した。

薄くしても消えないように堪える訓練も必要そうな気がする。

父の魔力が強いのって、薄くても存在がシッカリしてるせいかも知れないなぁ〜と、他人に教えてるつもりで、自分が学んでる感覚になった。


「⋯お姉ちゃん、危ないよ。」

「あ⋯」

「でもコツを掴むの早かったね。お姉ちゃんは何時も真面目に努力してたからかな?」


言葉だけの制止で姉は自分で身体の外に向けて魔力を放つのを止めた。

それでも出した魔力はまだ霧散せずに身体を包むように留まっている。


「これ⋯凄いわ。」

「そうなんだよー。

新感覚だよね。

世界が切り替わっちゃうんだよ〜。」

「でもコレじゃ消耗が大きすぎて、私には使いこなせないわよ。」

「そこで編み出した私の必殺技が、周りを漂ってる魔力を支配して口の中に集めて飲み込んじゃうの。するとあら不思議。

周りの魔力が自分のものになっちゃうんだなぁ〜」

「あぁ⋯言ってたアレね?

でも周りに伸ばそうとしたらきえてしまうわ。」

「お父さんは日の光が当たる場所で魔法を使い続けたから、薄くしても消えないよう魔力を強くする技を身に着けたみたいなの。

私はまだそんなこと出来ないから、自分の魔力を増やす事でそれをマネしてるんだけど、ちゃんと周りの魔力が何処にあるか把握しないと、消耗が大き過ぎて減るほうが早くなっちゃうんだよ〜。


だから私のやり方はオススメ出来ないので、お父さんのやり方で地道に魔力を鍛えた方が、私の編み出した技を少ない魔力で使えるからもの凄い魔法師になれると思うよ。」

「⋯あぁ⋯そう。

日陰だからコレでもまだマシなのね?」

「お姉ちゃんは繊細な魔力の調整が上手いなぁ〜。

もうモノにしちゃったんだね。」

「沢山は出せないから、日陰じゃないとできないわね。」

「元の魔力がお父さんや私より少ないからだね。

でももう取り込めてるじゃない。

お姉ちゃんはホントに凄いわ。」


目の包帯をズラして姉をチェックすると、茶色い髪の毛が淡く金色に輝いていた。

どうやら母やロベルトやマルセロやジーニスから漏れてる弱い魔力を少しづつ自分の魔力に変化させて、取り込んだみたいに見える。


「でもお姉ちゃん、それすると⋯」

「分かってるわ。

だからジーニスやマルセロからはしてないでしょう。」

「うん。それも有るけど、やり過ぎたら身体が変質して成長するのが難しくなったら、お姉ちゃんは身体が大人になれなくなるかも?」

「えぇ?!なによソレ!」

「だってお姉ちゃん欲張り過ぎて自分の魔力よりも沢山集めてるからさぁ〜。

ピヨ子が変質して聖獣化したのも、王様がアレなのもそう言うのが関係してるんじゃ無いかと思うんだよね〜。」

「ならアンタはどうなのよ!」

「だからヤバいと思って自制してるんだよ。でもコレを知っちゃうと便利だから、取り込み過ぎないように気をつけて使ってるんだよ。」

「それを先に言いなさいよ!

なんでそんな大事な事を後から出してくるの?!

私が大人になれなかったらどうしてくれるのよ!」

「だからさぁ。

直ぐにそこまで行くとか分からないし、先に言ったらお姉ちゃんは警戒するから、ソレ出来なくなるから。そうすると魔力が足らなくなるから⋯」

「もう!言い訳は沢山よ!

サッさと謝りなさい!」

「むぅ〜。私はまえからこの事をずっと言って来てるんだよ。

お姉ちゃんがそれと、この感覚がそうだと結びつけて考えられて無かっただけじゃない。

それなのに私のせいとか、酷くない?!

私、ソレしたら成長出来なくなるってずーーーっと言ってたよね?」

「うぅ⋯」


奥義逆ギレ!

姉の必殺技である理不尽パンチを交わすにはコレしかない。

ただしこれは事前に仕込みが無ければ、反撃で正論パンチのラッシュを食らうのでご注意頂きたい。


私が虎の着ぐるみを着た子供なら、姉はゴリラの着ぐるみに軍帽を被せて迷彩服を着せたアーミーモデルになっております。

実際の姉はポニーテールですが、ゴリラモデルの時にはツインテールにしてあげて下さい。

ツンが多めとは言え一応姉はツンデレなので。


ちなみに私はまだ肩を少し過ぎたぐらいしか、髪の毛の長さがないので結べておりません。

これは父がストレートな髪質に対して母が天然ウェーブの持ち主なせいで、受け継いた遺伝からの違いになります。

姉はストレートなのに、私は天然パーマと姉妹なのに髪質がちがうのはそのせいですね。

なおかつ私が天然強目のウェーブなせいで、毛先がクルクルしてるから実際の長さよりも短く見えてしまうのです。

兄のマルセロも天然強目のウェーブなので、見た目はバッチリ天使君となっております。

ロベルト兄ちゃんも父似のストレートなので、ジーニスと同様にストンとしていますが、床屋さんはお母さんと言った風情があるので、シロウトが散髪してるせいか寝癖がピンピン跳ねてるので、基本的に活発な印象を受ける短髪少年となっております。


父も短髪ですが、母が散髪してるので兄と同じ様に軽くピンハネしております。

ジーニスはまだハゲから髪の毛が生えて来てようやく頭皮が見えなくなったレベルなので、まだ母からの被害は受けていませんね。

その母ですが豪華な天然ウェーブの持ち主なので、平民なのに後ろに1つに括った髪の毛が縦ロールになっております。

エリザベスお祖母ちゃんはアップにしてるから分かりませんが、マゼランお爺ちゃんは短髪のパンチパーマ仕様なので、母は爺ちゃんから髪質の遺伝を受けたのでは無いかと予想しております。


え?今頃になって詳しく容姿の説明されるとイメージが狂うって?

HAHAHA!シロウトなので笑って赦して頂きたい。

だってコレ私の心の日記だからね。

読む人なんか居ないと知ってて綴ってる、淋しい自叙伝みたいなものなのよ。

だって半年も誰ともお喋り出来なかったせいで、こう言うことになってるんだよね。

誰にも言え無いヒミツが有ると、心の中だけで愚痴るしか無いしさ。


「まぁまぁ喧嘩は止しなさい。

リリアナもまだこの技術は始めたばかりだから慣れない事も多いんだ。

だからカタリナも少しづつ自分で使い慣れて、新しい気づきが有ればリリアナにも教えてあげなさい。

父さんだってリリアナが知らない事を教えられるなら教えてあげるから、もう拗ねるのはやめて皆で仲良くするんだよ。」

『⋯はい。お父さん。』


うぅ⋯父の正論パンチの優しいことよ。

ダメージを受けてるのに、心が癒されるとか謎の効力を持ってるもんで、あの姉ですらツンデレのツンを消滅させられて素直な少女に戻すんだから、そりゃ私だってツンツンしてられないよね。

もう⋯お父さん、大好き。


「あら〜、ジーニスは賢いわねぇ〜。ちゃんとウンウンが出来たじゃない〜」

「だうー!」


向こうは向こうでホッコリしてる。

ジーニスの精神が安定してるのって、母の存在が大きいんだろうなぁ〜。

普通なら私と母の取り合いをしてたかも知れないけど、ほら私ってばそこは自立しちゃってるから。

ジーニスは母を独占出来ちゃうもんね。

夜以外は。


夜はほら。

ジーニスはぐっすり寝てるから、そりゃ元は父のだし。

ね?

そんな時間もないと兄弟が増えないから、ね?

旦那の浮気でハラハラしたり、酒に溺れて暴力を振るわれてる訳でも無いんだから。

普通に夫婦が仲良くしてくれたら、それはそれで私達だって幸せに暮らせるんだし。

多少ウザい兄弟が増えた所で、許容範囲じゃないかと思うのですよ。

兄弟がウザいのは小さいウチだけだろうしさ。


「お父さん。身体の中だけで魔力を回す方法って教えられないかな?

外に出すのが危ないだけなら、自分の中だけで魔力を回す分には、身体の負担にならない程度なら良い魔力操作の練習になるんじゃないかと思うんだけど⋯」

「ウーン⋯父さんは外に出す魔法しか使わないからなぁ⋯」

「でも自分の身体の中でも魔力を回せるよね?」

「それはまぁ⋯でもコレがいつ出来るようになったかと言われると、いつの間にか勝手に出来てたからなぁ〜⋯」

「そうなんだよね。

でも魔力の流れを外から教えたら、お姉ちゃんみたいにあっという間に掴んじゃう反面、外に出す事まで覚えちゃうのが問題なんだよねぇ〜」


私は包帯を外してジッとロベルトの身体の中にある魔力を見つめてみる。

顔を洗って目を休めたら大分軟膏の刺激に慣れたのか、軟膏が薄くなったのか。

目を開けても涙が滲むぐらいの強い刺激は収まってたからだ。

匂いにも鼻が慣れたから、まぁ許容範囲かな。


「ロベルト兄ちゃん。

ちょっと目を閉じて身体の中を意識してみてくれる?

何時も魔力を外に出すけど、それを自分の身体の隅々にまで生き渡らせて欲しいの。」

「えー?魔力って言われても⋯あのズルって外に出るヤツだろう?」

「そうなんだよねぇ〜。

ウーン⋯あ、そうだ。

外から魔力を吸い込むぞー!って思いながら思いっきり大きく息を吸い込んで、苦しくなるまで呼吸を止めて欲しいの。

それで苦しくなって我慢出来なくなったらゆっくり長く吐き出してみて?

そしたら胸がドキドキしたり、頭とかがじ~んとしたりする感覚が有ると思うの。」

「ねぇリリアナ、それするとマズいんじゃ無いの?」

「自然に外に出てる魔力だけなら、あんまり影響は受けないよ。

お姉ちゃんのソレは自分で外に出して他所の魔力を捕まえたからそうなってるだけでしょう?」

「あ〜、そうね。

確かにそうかも?」

「だからお兄ちゃん。

試しに息が吸えなくなるまで大きく息を吸い込んで、止めてみてくれるかな?」

「おう⋯」

「⋯⋯」


ロベルト兄ちゃんが肩が上がるぐらい大きく息を吸い込んでるのを見て、マルセロ兄ちゃんもこっそりと大きく息を吸い込んでた。

そりゃ息を吸うだけなら真似れちゃうよね。

もうこれは仕方が無い。

それにこれは単に血流を意識させる為にやらせてるだけだから、実際にやった所で魔力じゃないのよ。

ただ魔力は水に溶ける性質があるから、身体を巡るのに血管を利用してると考えたのはホントなんだけどね?

だって魔石に電解質の理論が通用するのって、そう言う事だしさ。


「プハァ〜⋯ハァハァ⋯」

「どう?心臓がどくどくして、頭とか身体がじ~んとしない?」

「⋯する。」

「その感覚を自分で身体の魔力を動かして、感じるように出来るかなぁ?

目を閉じて、呼吸を楽にして⋯もし魔力の流れが分からなかったら大きく息を吸い込んで⋯口をすぼめて息を遠くにとばす想像をしながら吐いて行くのよ⋯」

「すうぅぅ⋯⋯⋯。

⋯⋯⋯⋯ふぅぅ~⋯。」

「⋯⋯ふぅぅ~⋯⋯。」

「あ、マルセロ。アンタこっそり真似してるじゃない!」

「うぇ?!あ、アハハハ⋯」

「アハハハじゃないわよ。

アハハハじゃ。」

「あーもー、ウルセェ!

いま何か掴みかけてたのに、邪魔すんなよ!

もう〜、⋯ていうかさ。

俺、この感覚知ってるかも知んないわ。」

「うん?」

「⋯うん。そっか⋯これ⋯ひょっとして魔力だったのか⋯。」


完キレして怒鳴ってたロベルトが、段々と自分の中の思考に意識を取られて行って、小さな声でブツブツと言いながら、自分の両手を見つめている。

おやおや?

身体を使う事が大好きで得意な兄の事だから、今までも無意識で身体の魔力を使って行動した経験があったのかも知れない。


兄が掌を開いたり握ったりして、何かを確認している作業に一見見えるけれど。

私が意識して目に魔力を集めてみたら、兄の両手の指先から掌までに身体の中の魔力が集まっていた。


「ロベ兄ちゃん、両手に魔力が集まって来てるよ。」

「あー、やっぱりコレが魔力だったのかよ。

なんだよ、コレかよ。

ハハハ!

今までの俺ってバカみてぇじゃん。

魔力を手に集めてるつもりで、全然そうしてないから、そりゃ魔法だって使えるわけがねぇよな。」


ロベルトの目がキラキラと光って、両手を楽しそうに見つめている。


「ヤベェ、これ出したくなってきちまった。」

「出したら駄目よ。

消えちゃうからね。

だから集めたそれを全身にグルグルと回して見てよ。」

「また面倒なことを簡単そうに言うよなぁ〜⋯」


そうロベルトがボヤキながら目を閉じて、両手を握り締めた状態で、手に集まっていた魔力達を身体の中に少しづつ流していく。


するとカタリナがそんなロベルトに意識をとられてるのを見計らってマルセロも深く息を吸い込んでるし、父までもがいつの間にか目を閉じて自分の身体の中で魔力を回し始めてた。

だから私も目を閉じて、目に集めていた魔力を身体の中に戻してグルグルと回してみる。


「これ⋯息が楽に出来るかも?」

「リリアナが生きていくのに魔力がいるって言ってたけど、なんか分かるよな。」

「⋯そうね。

だから魔力が減ると身体が怠くなったりするのね?

頭が痛くなるのは、どうしてかは分からないけど⋯」

「多分痛いのや苦しいのはお知らせなんだよ。

頭が痛かったら動くのを止めてジッとして休むから、そしたら魔力が回復するでしょう?」

「成る程知らせか。

確かにあの状態なら魔力を使おうとは思わんな⋯」


目を開けて周りを見渡せば、母とジーニス以外の全員が目を閉じてジッとしている。

皆自分の感覚に集中してるんだろう。

母はジーニスと遊んでるふりをしながら、こちらに意識を向けているが。

なんか難しそうな事をしてる⋯と、逃げ腰なのでジーニスを理由にしてカモフラージュしてるのだ。

多分父が何時までも若くて焦りを感じて、母はやっとやる気になる気がする。

何故ならどうして父が若くいられるのかと悩む母に、その頃の私達が理由を教えるだろうからだ。


それはどうでも良い。

どうせ母も魔力が多い人なので、これから魔力が不足する事もあんまり起こらないだろうし、何なら子供達が全員出世して、いい品を持ち込むだろうから、魔力過多気味な生活を送る様になるなら、王妃様みたいに緩やかに年を重ねる事も考えられる。

王妃の外見が若い理由は、間違いなく魔王が、産後にせっせと魔力が高そうな品を貢いて来てた過去の日々が想像出来るからな。

妊娠中は魔力過多で過ごして、産後の消耗も回復されてるんなら、あの若さにも納得が行くんだよ。

魔王が異次元のレベルで若いだけで、王妃も元が童顔なタイプみたいで、まだ三十代前半からギリギリ二十代後半ぐらいに見えるしね。


魔王は明らかに肌が若い。

でも特大の魔力やら極上の美貌で勝手に威圧して来るから、若く見えた所で皆がそれに萎縮してるんだよ。

あの人1人だけがエイリアンみたいになってるから、誰もが本能的に怖がってるのに、魅力的過ぎて目が離せないんだと思う。


産まれて直ぐにそれなら誰もがそれに慣れてて異常に気づかないから、ヴィルヘルムの爺ちゃんみたいなファンが大勢居るんだろうね。

そりゃカルマンさんが逃げるのも分かるよ。

皆が魔王の方が王様に相応しいって思ってるのに、男児が生まれないだけの理由じゃ誰も納得する訳が無い。

そもそもカルマンさんは男児ってだけで、周りから勝手に排除されてたんだと思う。

魔王のファンが無意識にでも、カルマンさんの存在を魔王のデメリットになると考えてたら、自然とそうなる。


いやこんなんどうでも良いわ。

皆が自分に集中してて暇だから、私もつい思考が明後日の方向に脱線してたよ。

若さ繋がりで魔王が出てきたせいだな。

あれは悪い見本だから、私の頭のなかでも出演率が高いんだよね。

しかもこれ、私の勝手な予想たし、ホントかどうかは本人達に聞かないと確定しないから、なんぼ考えた所で答えはないから。

でも多分そうかなぁ?って、私の中では自信をもって出せる意見なんだけどね。


「うぅ〜⋯分かんない⋯」


マルセロが大きく息を出した後で、机に突っ伏した。

どうやら彼は自主トレに挫折したらしい。


「マル兄ちゃんだってそのうち分かるようになるよ。

お父さんと畑仕事をしてたら、嫌でも出来るようになるんじゃない?」

「うぅ⋯でも、魔力草のお手伝いがあるし⋯リリアナが学校行く時はお父さんも居なくなるんだよね?」

「それで焦らなくても、ウチにはまだカタリナお姉ちゃんやロベルトお兄ちゃんが居るから、2人から教えて貰えるようになると思うよ?」

「⋯ぶぅ~。」


僕はお父さんやリリアナから教えて欲しいと、その可愛らしいふくれっ面の横顔に書いてた。

うい奴め。

まぁミタリーコスプレしてるゴリラ鬼軍曹な姉と、感覚派なチャランポラン代表みたいな兄に教わるのが不安な気持ちは、私も分かるから同情はする。


でもマル兄ちゃんは放っておいても、今日のヒントだけで独自に発展しそうなので、私は生温かい視線で彼を見つめておく。


「それじゃ皆で畑を終わらせて、お昼はマゼランお爺ちゃんの所で食べようよ!

私ね?魔力草のことですっごく良いこと考えたんだよ。

畑に行くときに歩きながら説明するから、皆で聞いてくれない?」

「まだ何かをするつもりなのかい?」

「これは必要な事なんだよ。

だってこれから冬までがお金儲けをする勝負時だからね!

それとは別に多分この先魔力草を家業にすると、沢山税を取られてしまうと思うの。

それを少ない人数で回そうとしたらあんまり儲けにならないんだよ。

魔法の水が足らなくなるから。」

『あー⋯』

「だから稼ぎ時の今のウチに試しておきたい事が有るの!

お母さんには悪いけど、お姉ちゃんにも一度畑のお仕事を見せてあげたいから、ジーニスと留守番しててくれるかな?

洗濯物も帰ったら私がお手伝いするし、昼ごはんは向こうで食べるなら、食事の支度も要らないよね?」

「そうね〜。だったらカタリナが居なくても大丈夫かも?」

「てことで、皆には歩きながらどうやって足らない魔法の水を集めるのかをお話するね!」


私は強引に話を纏めると、背負い籠を背負ったロベルト号にピヨ子と一緒に乗って、父や姉とマルセロと連れそって歩きながら、戦士達を魔法の水タンクにする話を皆に持ちかけた。


他にも村の中央を拡張する話や、そうなると空間が必要だから森を開拓する話やら、その時に沢山の魔法師や騎士が来るんじゃないかと予想してる話やら、だから魔力草で種を作れば今なら倍額の銀貨20枚で一粒が売れる事なんかも話をして行くと、皆が目の色を変えて盛り上がって来た。

やっぱりお金って良いよね。

特に白金貨とか知らない世界のお金じゃ無くて、手が届く銀貨やら金貨のお話が1番興味を引いてくれるんだもん。


「問題は集めた魔法の水を、日の光にさらさないでどうやって集めるかと、代金の支払い。

それと夜の酒場で集める人をどう雇うかだけど、これはエリザベスお祖母ちゃんに任せようと考えてるの。」

「それは良いな。

そっちの方が向こうも利益になるなら、協力も頼みやすい。」

「そうね。でも昼に魔法の水を運ぶなら、どうしても魔法の鞄は外せないだろうけど⋯」

「容量が少ないのと、数が少ないのが問題なんだよね。

だから王様に今夜期限切れの魔法の鞄を持ってくるようにお願いしたんだよ。」

『あーーー!!!』

「でもどうやって期限切れの鞄を使えるようにするつもりなの?」

「うん。これはまだ私の勝手な予想でしか無いんだけど、魔力草って錬成瓶に入れる前は、魔法の鞄に入れたら萎れてたよね?」

「ええ覚えてるわ。

だから隣にも置けなくて苦労してたのに、錬成瓶の中だと育つし、鞄に入れても萎れないから、凄く驚いたのよ。」

「うん。僕もビックリしたよ。」

「そうなのよね。

お姉ちゃんやマル兄ちゃんが言うように、錬成瓶に入れたら萎れてないって事は、鞄の中には日光が入って無いのはそれで証明されてるんだよ。

それなのに魔力草が萎れたのは何でだろうって考えたら、魔法の鞄に魔力を奪われたからじゃないかなぁって、そう予想してるの。」

「アンタまさか!」

「うん。水が入れられるのはもう私達も知ってるよね?

問題はどれぐらいの魔力を込めた水を入れるかなんだよ。」

「その魔力はどうやって集めるんだ?戦士達から集めても、月の光に浴びせなければ魔力は低いままだろう?」

「ヒントは鳥小屋の水瓶かな。」

「あ!魔石を砕いて魔法の水を入れた錬成瓶に入れるのね?!」

「それを月の光で強化すれば、高い濃度の魔法の水が出来るでしょう?」

「その魔石はどうするつもりだ?あ⋯ひょっとしてピアか!」

「その通り!

ピアは今の状態でも身体に魔力を溜めれるか実験してる所だけど、少なくても1級の魔石を月の光をあびた水を使えば4 日で3級の魔石ぐらいに強化出来るのを私が前にやった実験で確認してるんだよ。」

「な⋯なんだと?!

そんな話は聞いてないぞ?!」

「だから今言ってるんだよお父さん。」

「しかし!それが本当なら大変な事になるんだぞ!」

「だから先に王様に報告してるから、心配しないでね?

あとこの魔石強化の技術は、国が抱えて秘密にして実験する事が決まったんだよ。

だから黒魔石の話になったの。」

「あーっっ⋯そうか、それでなのか。

クソ!聞いてるじゃないか。

俺がちゃんと理解出来て無かっただけだったのか⋯」

「そんなに落ち込まないで良いよ。

これはもう『フェイク』だから。」

『ふぇいく?』

「そ。

実際に昨日の昼までは、その方法を考えてたんだよ。

でも実はもっと良い方法が有るんだよね。」

「⋯どう言う⋯」

「フェイクの意味は偽物って言うの。

魔法の水に魔力を込めるのに、ピアの魔石を使ってどれぐらいで魔法の鞄が再生するかはちゃんと調べるつもりだよ?

でもそんな事をしてたら、多分一冬なんてあっという間に過ぎちゃうでしょう?

だから私はお父さんとタルクス叔父さんに、森に連れて行って貰おうと考えてるの。

そこで錬成箱をだして、周りの魔力を集めて押し込めば、大量の魔力を含んだ魔法のお水が作れるなって、考えてるんだよね。」

「⋯それは危険なんじゃ無いのか?」

「森に行く事が危険と言えば危険だけど、だからお父さんとタルクス叔父さんとで行くんだよ。私は背負われてるだけだから、特に危険は無いんじゃないかな?」

「⋯⋯そうか。

奥地まで行かなくても、魔力を呼び寄せれば⋯」

「そのついでに魔物が来る事も考えられるから、その辺はちゃんと周りを魔力で確認する必要が有るとは考えてるよ。」

「だが出来る。

そうか⋯それで偽物なのか⋯」


籠の中から立って父の顔を見上げたら、瞳が爛々と強い輝きを放ってるみたいだった。

勿論言うのは簡単だけど、ここまではただの机上の空論ってヤツだ。


まず私は森を知らない。

林に行った経験から言えば、2mもある箱が置けるスペースを確保するのも難しい。

何故なら地面は腐葉土や根っ子で平地とは言え無い地面になってるからだ。

そして次に夜に森には入れない。

何故なら畑の水遣りがあるからだ。

それなら昼に行くことになるけど、どれだけ葉っぱが覆い繁っても木漏れ日が有るなら、錬成箱の月の光を浴びせた水が劣化してしまう。

最後にはどうやって魔法の水に魔力を溶け込ませるか。

私の魔力に染めた魔力をいくら掻き集めた所で、水に入れと命令してそこにとどまる指示を出した物が、果たして魔法の鞄が吸収できるかと言った疑問もある。

更に言えば魔力が切れた魔法の鞄はただの小さな袋でしか無い。

大量の水を入れられないのだ。

魔力草の魔力を吸えるなら、空気中の魔力を吸う力は魔法の鞄に有ると考えられる。

でも水から魔力を取り込めるかは、まだ分かって無い。

簡単に上げられるだけで、これだけの疑問と問題が浮かび上がって来る。

ならどうするか。


まぁ簡単な方法で試してから、少しづつ内容を精査して詰めて行く必要が有るので、今の段階ではどれだけ考えた所で机上の空論でしか無いので、これは一旦保留かな。


「お父さん。森で魔力を集めるのは、別に急がないからね?

まずタルクス叔父さんの予定も聞かなくちゃいけないし、そもそも森にあんな大きな箱なんて置ける平地って有るのかな?」

「あ⋯平地か。それは厳しいな。」

「それと完全に真っ暗って訳じゃ無いよね?」

「あぁ⋯林よりも暗いが、肉眼で見える程度の明かりはあるな。少なくても多少は日の光が入ってると思う。」

「つまり錬成箱は置けないって考えないと駄目だね?」

「うむ。恐らくそうだな。

そう言う場所を作る必要が有る。」

「そこで魔法の鞄に水を入れて、外から魔力を入れらるるか実験しようと思うんだけど、期限切れの魔法の鞄はただの小さな袋なんだよ。」

「あ!そうか⋯それじゃ大量の水はそもそも入れられないのか。」

「僅かでも魔力が回復すれば、本来の容量を取り戻せるとは思うの。

それさえ出来たらこっちのもんで、錬成箱から水だけを魔法の鞄に取り込ませて、集めた魔力も魔法の鞄に取り込ませたら⋯あ。水も要らないのかな?

集めた魔力をそのまま袋の中に入れちゃえばいいのかな?

それならどっちみちただの袋に戻った鞄の魔力を、少ない月のの水でどうやって回復させるか⋯」

「それこそ魔石を砕いた水瓶にでも放り込んでたら良いんじゃないのか?」

「⋯私、大きな見落としをしてるかも。前にピアの実験で皮を水につけたけど、毛皮は強化できなかったんだよ。

靴屋さんも、革は水に弱いって言ってたよね?」

「あ!そうか。油か!」

「固まらない油って何かある?」

「そこは俺よりもタル兄の方が知ってるだろう。」

「理想は透明で液体の油。

これなら透明錬成瓶に入れて月の光で強化が出来るよね?」

「そうだな。

ただ油は熱を与えなければ固まるものだとばかり思っていたが、液体のままの油なんて有るんだろうか⋯」

「私もそこを考えてたんだよ。でも熱さえ与えて行けば水みたいになるんなら、透明でさえあってくれたら錬成瓶に入れて、お湯に漬けて置けば良いんじゃ無い?」

「ハハハ!その手があるな。

その強化した油を期限切れの鞄に塗るのか?」

「うん。塗ったら錬成瓶に入れて、それをまた月の光に浴びせたらどうかな?」

「フフフ⋯やってみなくてはわからんが、ワクワクするな?」

「もし少しでも回復してくれたなら、後は森に行って集めた魔力を袋中にガンガン入れてやれば良いよね?」

「ハハハ!それなら錬成瓶も錬成箱も月の光の水も要らないから楽で良いな!」

「森に行く時点で楽じゃ無いと思うんだけど⋯」

「ならタル兄にやらせたら良いさ。

ついでに魔法の鞄も使えて逆に喜ぶんじゃ無いか?」

「わぁお父さん、頭良い!」


私も興奮で震えてるけど、父も大興奮して頬を紅潮させている。


「途中からちょっと分からなくなってたからアレなんだけど、そんな油に魔力を足して塗っただけで治るなら、もう誰かが試してるんじゃ無いの?」

「フフフ⋯お姉ちゃん。」

「な、なによ。」

「賭けても良い。

誰もそんな事を試して無いから。」

「???」

「革に油を塗って手入れをする話はお父さんが靴屋さんに聞いて仕入れた知識なんだよ。」

「うん、そうだな。

まさかこんな事にハマるとは思っても無かったから、ちょっと感動して身体が震えたよ。」

「やっぱり勉強って大事だよね~」

「だからこっちは意味が分からないのよ?!

2人だけで盛り上がらないでよ。」

「アハハハ!ゴメンゴメン。

だからね?

錬成師になってる人達は、今も昔も貴族のお坊ちゃまかお嬢さんなんだよ。

そんな人達が革の手入れなんてした事が有ると思う?

賭けても良いよ。

そんなお金持ちな人達なら、靴の手入れなんてして大事にしないで、ちょっと汚れただけでも履き捨てにして新しい靴を買ってるから!」

『あっ!!!』

「それに手入れをするぐらいの靴があったとしても、それをしてるのはお坊ちゃまやお嬢さんのお世話をする使用人さん達なんじゃ無いかな?」

「それならその錬成師の人達は革の手入れの方法なんて知らないのね?」

「そう。

だから色んな方法を試したつもりで、結局は値段の高い魔石を使ったりするような、魔力だけを使って考えられる事だけ試して、根本的な手入れをしてないから、お金が沢山かかってるんだと思うよ。

だからそれなら新しい物の方が良いやって思って、新しい魔法の鞄を作ってるんじゃ無いかな?」

「王様がそう言ってたわね⋯。

でもそれだけで本当に?」

「お姉ちゃん。忘れてるよ。

月の光が魔力を強化する発見は私が見つけたばかりの理論を使ってるんだよ。」

「あ!あーーー!」

「そう。だから油の強化なんて出来て無いし、手入れした後の魔法の鞄に取り入れた魔力の強化も出来て無いんだよ。


だってこの理論を見つけたのは私だし、今の所私ぐらいしか魔法の鞄を回復させるのに、この理論を使おうだなんて考えてる人間は居ないからね。

だって手直しするよりも、新しい物を買う生活を送るのが、当たり前だと考えてるお金持ちな人達ばかりだから。」

「ヤバ!」

「ピィ!」


ロベルトが自分で自分を抱き締めて、ブルリと身震いしたから乗ってる籠も揺れてしまい、私はコロンと尻もちをつく。

そしたらピヨ子をお尻の下に敷いてしまったので、ピヨ子から怒りのピィ!が飛んで来た。


「うわ!ピヨ子、ゴメン!

大丈夫?!」

「ぴゅうい⋯ぴぅぴぅ⋯」

「あ〜。もう痛かったねぇ。

ゴメンねピヨ子〜⋯」

「もうリリアナってば鈍臭いんだから。

シッカリ籠に捕まって無いからそんなドジをするのよ。

それにピヨコ。

あんたもサッと避けるぐらいしなさいよ。

そんなんじゃ強い敵が襲って来ても逃げられないわよ。」

「ぴ〜⋯」

「うぅ⋯」


くそう⋯鬼軍曹の正論パンチで私とピヨ子のライフゲージがレッドゾーンだよ。

ゼロじゃないのはまだ生きてるからだね。


「あー、悪い。

つい怖くなって来ちまってさ。」

「そりゃ白金貨を出さないと買えない魔法の鞄が復活出来たら、世間はど偉い騒ぎになるからね。

だから王様は利権って言う、魔法の鞄を作った人の権利を心配したんだよ。

だって作って売った時点でお金のやり取りは終わってるのに、魔力を回復させて使うなら、そこで自分にお金が入らないと作った人は損した気分になるでしょ?」

「だが中古で売られてる品なて世の中には沢山溢れてるだろう。」

「それは平民がその生活に慣れてるからだよ。

貴族は新しい物しか買わないからね。」

「ふむ⋯それで夕べの話に繋がるのか。」

「うん。基本的に今魔法の鞄を買えるお金持ち達は、変わらずに新しい鞄を欲しがると思うんだよ。

だから中古品を奪い合うのは、お金が無い平民達なの。

だから再生しても白金貨じゃ売れないし、壊れても責任が持てませんよって売るしかないから、売れて金貨か小金貨ぐらいまで値段は落ちるんじゃ無いかな。」

「だが買うやつは絶対に居る。 それも複数欲しがるだろうな。」

「そそそ。

だから新品は必ず売れるんだよ。皆が欲しがるから。

そして期限切れになったら中古で売りに出す人も増えて、新品を買う人だって得になるから、大きな問題にはならないと思うの。

でもそれは魔法の鞄に安定して魔力を取り戻す研究が終わって考える事だから、まだまだ遠い先のお話だね。

だから今のウチにお金を稼いで、期限切れ前の魔法の鞄を沢山買って集めておくんだよ。

名目としては研究材料だけど、それをタルクス叔父さんだろうが、旅商人になったセフメトがつかおうが、私達が仕事につかおうが、それはあくまでも研究だから。

他人には売れないけど、使う分には自由に使えるよね?

だって期限切れがどれぐらいまで保つとか調べるのに時間がかかると思うもんね。」

「ヤベェ⋯くっそヤベェ⋯」

「⋯ねぇそんなに沢山集めて、もし法律が整って周りに認められて売る許可がおりたら⋯」

「私達は大金持ちになっちゃうね。今なら期限切れは普通の袋だから、小銭袋と同じような値段で買えちゃうんじゃないかな?」

『はわわわ⋯』


事の大きさが段々分かって来たみたいで、父もロベルトもカタリナもカタカタと小さく震え始める。


「でもそんな大金持ちになる頃には、ロベ兄ちゃんやマル兄ちゃんは騎士になれてるだろうし、お姉ちゃんはお嫁に行ってるかも知れないから、今から不安にならなくても大丈夫だよ。」

「あ〜も〜俺さぁ〜。

ほんっっっとーーにバカだったわ。

リリアナがスゲェ事をしたのは聞かされて何となく分かってたつもりだったし、危なくなるって聞いてたから、それも何となく信じてたけど。

何が凄くて何がヤベェのかを、ちっとも分かって無かったんだよ。」

「そんなの私もよ。

少し大袈裟なんじゃないかって、心の何処かでずっと思ってたわ。

でも貴族や騎士や王様まで来るから、分からないままでも秘密を守らなくちゃってずっと気が張ってただけで、何がそんなに大変なのかちっとも分かって無かったんだわ⋯」

「えと⋯こんなすごいお話を畑なんかでしてても大丈夫なの?」

「もの凄〜く遠くにしか、他に人が居ないからね〜。

ほかの人達は今頃皆お家で休憩したり、他の仕事をしてるんじゃないかなぁ?」

『⋯⋯⋯』


前世とは地形が違うから当てはめて考えても、やっぱり違和感は残る。

だから8月下旬の気候みたいだと感じても、空気がサラっとしてたり、雨が多いと言っても梅雨みたいな感じじゃ無くて、1日土砂降りな日も有れば、チョロっと雨が振って終わる事だって有る。


でも今私達の真上からギラギラしたお日様が遠慮無く日の光を浴びせてるから、畑に撒いた水から湿気や魔力が揮発して、一次的に蒸し暑くなってるのに。

何だか皆真冬の畑に来たみたいにブルブルと震えて、興奮したり硬直したりしている。


「⋯ねぇ、リリアナ。

私⋯本当はアンタのこと前から変な子だなってずっと思ってたけど、ちょっと私が思ってたよりもずっと変なんじゃないの?」

「それを最初に出会ったばかりのお嬢さんが、あっという間に私が変なのを見抜いて黒魔石呼ばわりして来る事も驚きだったけど、私から言わせて貰えば先ずはお姉ちゃんが全ての変の始まりだと思うよ?」

「はい?」

「私は産まれたばかりの頃は、普通の子供よりもちょっとだけ賢くて、魔力が多い赤ちゃんだったんだよ。

それなのにお姉ちゃんがどんどん私を鍛えて行くから、あっという間に普通よりも賢いお子様に育って来ちゃったの。

そもそもお姉ちゃんは他の子たちよりも賢くて、心がとても強かったから、皆から認められるぐらい勉強が得意だったんじゃない?

それに人を育てる天才になれるぐらい、面倒でも辛くても自分よりも年下の兄弟の面倒を見て来たから、私が他の赤ちゃんと違うと分かってても、普通よりもかなり厳しく育ててくれたでしょう?

あのせいで私ってば、ゼロ歳の頃から色んな事が自分で出来るようになっちゃったんだよ。

だから私が変なのは、半分以上お姉ちゃんのせいだと思う。」

「え⋯ちょっと意味が分からないわ?!

私は普通に⋯」

「じゃあ普通の8歳の女の子って、赤ちゃんのお世話をしながら、洗濯をしたり食事の支度も出来ちゃうもんなのかな?」

「え⋯それは⋯」

「エターニャお姉ちゃんはそんな事ちっともしてないよね?」

「⋯⋯それは下に小さな兄弟が居ないから⋯」

「ハッキリいうよ。

ウチのお母さんは子どもを可愛がって甘やかせるのは得意だけど、面倒なことや大事な事を教えてるのは全部お姉ちゃんだからね!」

「う⋯」

「私が凄く変なのは、育てたお姉ちゃんが変だったからだよ。

でも変て言うと悪口みたいだからアレだけど、私から言わせて貰えば、お姉ちゃんは天才をそだてる才能を持った子育ての天才なんだよ。」

「えぇ?!なによソレ。」

「自覚が無いみたいだからハッキリいうよ。

ピヨ子の事に何の興味も無かった人が、いきなりピヨ子を抱いたり会話が出来るとか、そんなの絶対に可怪しいから!」

「う⋯」

「お姉ちゃんには才能が有るんだよ。しかもその才能を自覚もせずに全力で育ててきたから、鳥の本能までねじ伏せられるぐらいに、もの凄い育児の天才になっちゃってるの。

ねぇ分かってくれるよね?

だってお姉ちゃんは育児の天才なんだもん!」

「はぅう⋯」


秘奥義こじつけからの逆ギレ!パートⅡ!

アーミーモデルのゴリラ鬼軍曹は、地面に崩れ落ちている。

どうやら激しく混乱してるらしい!

だって私が変なのは生まれつきだなんて言え無いしさ。

カタリナにビーストテイマーの才能が有るのは本当だし、まぁ誤魔化せられるよね。


「はっ⋯待って!

それは変だわ!

だってロベルトやマルセロは普通じゃない!

私が天才を育てる才能を持った天才なら、そこの2人が天才じゃないと可怪しいじゃない!」


ちっ。

姉はとても賢いので勢いだけでは丸め込めなかったか。


「お姉ちゃん。私は元々賢かったから天才になれたんだよ。

でもね?

ロベルト兄ちゃんは、お姉ちゃんと2歳しか離れてないのよ?

それなのにお姉ちゃんはロベルト兄ちゃんを、バカな戦士になるしかなかった道から引き摺り戻してるじゃない。

それって育児の才能が有るからでしょう?

あとマルセロ兄ちゃんだって、普通の6歳の男の子よりももの凄く賢いんだよ。

それって普段からお姉ちゃんが厳しく躾けてきたからだよね?

ねぇ〜まだ言わなきゃ駄目?」

「クッッ⋯でもマルセロが天才になったのはアンタのせいじゃない!

ロベルトだってあんなに勉強嫌いだったのに、勉強が好きになれたのも全部アンタがしてきた事が有るからでしょう?!」

「そこはお姉ちゃんが下地をしっかり作ってくれてたからだよ。私だけどれだけ頑張った所で、アホな戦士は私の話なんか右から左へスットーンと聞き流すんだよ。

人の話を聞かない人に私の言葉なんて届かないのは、戦士ギルドで確認したからコレ本当の話だからね?」

「まて、リリアナ。

お前はいつ戦士ギルドに行ったんだ?」


し⋯ししまったあぁぁぁ!!!

や・ば・い⋯。

ヤバいやヤバいヤバヤバヤバヤバババババ⋯⋯⋯!!!

墓穴掘っちゃった!


あんなに空気が蒸し暑かった筈なのに、ローブの温度調整機能が壊れたのか背筋がゾゾゾっと氷漬けになった。


「⋯それはねお父さん。

あの、お姉さんが悪いのよ。

だって1番最初にお姉さんと会った時に、魔力草を育てて売るお話をしたら、ただしい採取方法は戦士ギルドで調べなさいって、意地悪して教えてくれなかったの。

だから戦士ギルドに調べに行ったら、今度は教会を卒業した証を持って戦士ギルドに登録しないと教えないって言われて、だから私はまだ2歳だから教会に行けないって言って説得しようとしたの。

そしたら難しい話は分からんから教会に行って話せって追い返されちゃったのよ。

だからお姉さんに苦情を言いに行って、その時にヤラマウトの話もしたらお姉さんが直接魔力草の採取方法を教えてくれる事になったの。」

「⋯ふむ。それでリリアナを戦士ギルドに連れて行ったのは誰なんだい?」


おふ⋯誤魔化されてくれねぇぇ⋯ヤベェよヤベェよ。

もう背中や脇汗がダクダクで、父の目が恐ろし過ぎる。

コレ絶対に誰が私を戦士ギルドに連れて行ったか、ちゃんと理解してるヤツの目だよ。

もうやっちまったんだよ私は。


「えーと⋯だ、誰だったかなぁ〜?」

「はあぁぁぁ⋯」


目がウロウロと泳いで気が付けば斜め上を見上げてすっとぼけてみたら、もの凄く特大のため息を吐かれた。

ひいぃぃい!


「ちちち違うの!

あの!ギルドはお爺ちゃんばっかりだったんだよ!」

「それは行ってみて分かった状況だな。」

「ご⋯ごめんなさい!

わわわた私が凄くおねだりを⋯」

「後日俺と行けば済む事だよな?」

「あのあの⋯だからその、もう二度としません!

ごめんなさいっっ!!!」

「リリアナ。

お前を戦士ギルドに連れて行ったのは誰だ?」

「はふぅぅ~⋯」

 

母上様⋯ごめんなさい⋯リリアナは無力でございました⋯。

⋯いや待て。

諦めるのは早いんじゃないか?

だって父がこんなにしつこく確認して来るのは母がもの凄い忘れん坊だからだ。

まだまだ何か粘れるやも知れん!負けるなリリアナ!

脳みそぶん回せ!


「ひ⋯ひとりで⋯いきました。」

「それは本当に?

中央までリリアナと一緒に行った人が必ずいる筈だろう?」

「だから⋯その、戦士ギルドの近くまでは一緒に来てて⋯」

「それは誰かな?」

「お⋯お母さん⋯だけどね!

お母さんは絶対に戦士ギルドに行ったら駄目って言われてて連れていけないって言われちゃったの!

でも私がどうしても魔力草の事を調べたくて、何度もお願いして連れて行ってもらったの!

でも戦士ギルドの中にお母さんを連れて行くわけには行かなくて⋯だから、ごめんなさい⋯」

「⋯ふむ。てっきりアローリエが俺の言いつけを忘れて、戦士ギルドにお前を連れて行ったのかと思ってたんだが?」

「忘れてません!

お母さんはちゃんと覚えてました!

戦士ギルドにはお父さんに連れて行って貰いなさいって断られたけど、私はどうしても諦めきれなくて⋯だからお母さんはもの凄く心配してて。

だから⋯ごめんなさい⋯」

「戦士ギルドの側まで行くだけでも大問題なんだが?」

「ふぇっっ⋯もう二度とお母さんを巻き込みません!

ちゃんとお父さんやロベ兄ちゃんを頼ります!!!」


こえぇぇ~⋯!腕まで組んでガン切れして見下ろしてる。

こんな怒り狂ってるお父さんを生まれて始めて見た。

ヤバヤバヤバ!

ヤバいなんてもんじゃ無いよ。

他の兄弟達まで震え上がってるからね!

魔力が⋯魔力が漏れてる!

ものすっごくダダ漏れしてるからだ!

それでこの威圧か!


私の頭も真っ白になるのも納得だ。

でも1番のピンチだけはギリギリ滑り込みセーフで切り抜けたか?

まだ危ういか?

魔力が原因だと分かってから直ぐに抵抗してるから、少し冷静になれたけど。

恩人に恩を仇でかえすわけには行かない。

例え夫婦喧嘩にまでにはならなくても、ここはシッカリと母を守りきらなければ⋯。


「⋯リリアナ。」

「ひゃい?!」

「最後にもう一度だけ確認するよ。

戦士ギルドに行ったのはお前が  1人で行ったんだね?」

「は⋯はぃ⋯」

「その近くまで連れて行ったのはアローリエなんだね?」

「⋯はぃ⋯」

「俺は嘘が嫌いなんだが?

それは誓って嘘では無いと言えるのかな?」


えええ!?

これってハッタリ?!

どっちだ?!

戦士ギルドに母を連れて行って向こうに確認されたら終わるか?!

ヤバい!これは分岐点だ!

どうするどうするどうする⋯あーーーもーーーどーしよーーー?!


「リリアナ。

俯いてないで俺の目を見てハッキリと言いなさい。」

「ふわっ?!」


父が籠から私を取り出すと、むっっっちゃ至近距離で視線を合わせてくるぅぅ〜!

これ無理やん!

私が嘘ついてるのバレてるヤツやん!

だって私、さっきからずっと父と視線を合わせられて無いからな!


「ご、ごめんなさいいぃぃぃ!」

「嘘は良くない。」

「はいぃい!!!」

「戦士ギルドに子連れで向かう婦人など村にはまず居ない。

しかも2歳の幼子がひとりで行ったとしても、直ぐに保護されてアローリエが後から名乗り出たとしも、必ず俺に連絡が来て確認を取っていた筈だ。

何よりもアローリエがたった1人でお前を戦士ギルドに行かせる筈が無いだろう。

だから聞けば直ぐに確認できると考えなかったのか?」

「ご、ごめっっ⋯」

「リリアナ。」

「はぅう⋯」

「なぜ嘘をついた。」

「お⋯お母さんが、嫌がってたのに⋯私がむりに言って、連れて行ってもらったから⋯ま、守らなくちゃって⋯」

「庇う事が必ずしも守る事に繋がるとは思わないことだ。

もしアローリエが戦士ギルドに行っても大丈夫だと、その経験から簡単に考えていれば、また同じ事を繰り返すだろう。

そうすればいずれ悲しい問題が起きる事もあった筈だ。」

「うぅ⋯」

「お前が思ってる以上に、戦士にはろくでもない人間も多く居るんだよ。

だからアローリエやお前達が悲しい事にならないように、日頃からシッカリと言い聞かせていた筈なんだが?」

「⋯はぃ。お父さんの言う通りです⋯」

「ではなぜ言いつけを破った。」

「うぅ⋯どうしても我慢が出来なくて⋯」

「つまりお前はまだ、我慢の効かない幼い子供だからだろう?」

「ううぅ⋯」

「それに流されるアローリエにも問題が有るな。」

「でも本当に私が悪くてっ⋯」

「勿論お前も悪い。

大事な言いつけを破る人間は信用出来ない。

しかも嘘をついて誤魔化そうとする。

そうだな?」

「⋯はい。」

「嘘は必ずバレる。

それを必ず肝に銘じておけ。」

「⋯はぃ。お父さん。」

「だがお前は言いつけを破る人間だから、また嘘をつくんだろう?」

「はぅ!も、もう二度とお父さんの言いつけを破ったりはしませんっっっ!!!」

「だがお前は嘘をつく人間だから信用はしない。」

「はふぅ⋯」


終わった⋯。

私はガックリと肩を落として項垂れる。

これはもうかなり怒りが深い。

なぜ私は安易に戦士ギルドの話を持ち出したのか。

それは姉を言い負かすのに必死で、プチられたんだよ。

調子に乗ってそんな事をやってるからこうなる。

もう兄弟達までチビリそうなぐらい震え上がってるからな?

あの気のつよいカタリナまで、マジでガクブルしてるからね?!


「あのさぁ〜。

私が悪いのは百も承知で言うよ。

お父さん、ブチギレし過ぎて魔力が漏れてるの自覚して直ぐにそれ引っ込めてくれない?」

「ぬ?」

「お姉ちゃん達がモロに余波を喰らって今にも倒れそうなんだが?」

「あぁ⋯そうか。」

「お姉ちゃんが普段お兄ちゃん達を正論でぶん殴ってるの、お父さん知ってた?」

「ちょっ?!」

「⋯何の事だ?」

「さっきのソレ。

お姉ちゃんがまだ幼い頃に、お父さんは自覚無しに強く魔力をブツケてお姉ちゃんを正論で殴りつけたんじゃないの?」

「⋯は?」

「お父さんは自分が思ってる以上に魔力がもの凄く強いんだよ。

だから暴力を奮ってる自覚なんて無かったと思うんだけど、感情が昂ぶってしまうと魔力が相手を攻撃してんの。

お父さんより魔力が強いとしたら、多分爺ちゃんがそうなんだろうけど。

だからお父さんは普段は大人しいのに、幼い頃に魔力で殴られて育ってるから、無自覚で同じ事をやってるから、お姉ちゃんもそれを真似してやってるんじゃない?」

「だがこれは必要な事だろう。」

「言い聞かせる事は大事だと思うよ。

暴力が悪いと全面的に否定するのは私も無いと思う。

痛い思いをして始めて身につく事も有るだろうしね?

でもそれは当事者だけの話であって、今回の話に無関係な兄弟達まで、そんな暴力を受けるいわれは無いよね?」

「無関係だとは思わない。

人の失敗は己のこととして知ることも勉強だろう。」

「それは話を聞けば済む事であって魔力で殴りつけることでは無い。

お父さんなら私だけに集中して、魔力を放つ事がもう出来ると思うよ?

あとお母さんにそれは絶対に禁止ね。

お母さんは幼い頃にソレを両親からされ続けてたから、心が病んでて記憶が本当に飛ぶんだよ。


今は特にお父さんには心が無防備になってるから、ソレやられたら多分お母さん壊れるんじゃない?

元々壊れてるのをお父さん達が治した状態なだけだから、多分かなりモロいんじゃ無いかと思うんだよね。」

「しかし⋯」

「話をすれば良いんだよ。

魔力をシッカリ抑えつけて、言葉だけで想いを伝えてあげてよ。

そもそも出産直後にバカみたいに働いて身体を壊したのもそれが下地にあったからで。

少なくても私には心の怪我の治し方なんて見当もつかないね。

そんな状態のお母さんの嫁ぎ先がお父さんじゃなきゃ、今頃どうなってたかと思うとゾッとするよ。


心の傷は目に見えないから、違和感の有る症状を探して観察して分析して、それでも情報が足りなかったから両親がどんな人なのか、どんな状況で育って来たかとか話を沢山聞いて情報を集めても、ヤバい状態としかまだ分からないんだよ。

それも何処までヤバいのかも予想すら出来ない。

それだけ見えないって言うのは厄介なの。

良くお父さんはあそこまでお母さんの心を立て直せたなって、随分前から感心してたんだよね。」

「⋯⋯⋯」

「お母さんの両親達に悪意があった訳じゃ全然無いんだけど、箱入りで大事に育てられたお嬢さんが、最前線を走ってる一流の商人や優秀な元戦士の料理人に全力で殴られて、ただで済む訳が無いよね。


そんな状態でボロボロのお母さんを、お父さん達がやっと癒して心を治して来てたのに、ここでまた信頼をして心を開いてる状態で、強力な魔力で殴られたら、って考えたらもう私にはどうする事も出来ないんだよ。

嘘だけが信頼を失う事だとは限らない事を、お父さんなら知ってるでしょ?」

「ハァ⋯それが分かるのなら愚かな嘘をつくな。この馬鹿娘が。」

「ハハハ!うん。

ありがとう⋯お父さん。」


涙がじんわりと滲む。

これ⋯多分アウトってヤツだ。

母上様。

私粉骨砕身で健闘致しました。

でも若輩の身のため、現在大敗北しております。

でもリリアナはまだ頑張ります。

アウトには違いありませんが、母上様への被害がより少なくなるように、これからも諦めずに努力を続けて参ります。


そんな決意を胸にキリリと表情を引き締める。

泣いてる場合なんかじゃない。

私は恩人には仇でかえす訳には行かないのだ。


あからさまにイライラしてて、でもため息をついてそんな自分を落ち着かせようと、自分の感情を持て余してる父の姿に、私も覚悟を決める。


「お父さん。」

「⋯なんだ。」

「今日中央に行くのは止めよう。

お昼はジーニスも連れて子供達全員がマリア婆ちゃんの所に行くよ。

だからお父さんはお母さんと2人きりで、今回の事をお話して欲しい。」

「⋯そうか。」

「うん。

今回のことは全て私が悪いとちゃんと自覚してるけど、でもお父さんが言うようにお母さんがもし誤解をしてたら、この先でお父さんが言うような危険が有るかも知れないでしょう?」

「そうだ。だからとても困ってるんだ。

アマーリエは言いつけても忘れてしまうなら、もう1人で中央にはとても行かせられない。」

「うん。

だからね?

お父さんが不安にならないように、シッカリとお母さんに想いを伝えて欲しいの。

でもお父さんが言うように、言葉だけでは不安だから、身体に教えるのはどうだろう⋯。」

「うん?魔力は抑え込めとそう言っていたのにか?」

「暴力は駄目だよ。

特にお母さんを魔力で威圧するのは、昔にあった悲しくて嫌なことを思い出させてしまって、お母さんには逆効果だと思うからね。


でもお父さんは手で殴ったりするような人でも無いのも分かるんだよ。

だから戦士ギルドに行って、もし悪い人に出会ったら、お母さんはこうなるよって、お父さんが考えるようにお母さんの身体に教えてあげるのはどうだろう。


赤の他人がそれをしたなら、お母さんは洒落にならないぐらいの大きな心の傷をおったり世間から知られたら不名誉になると思うけど。


お父さんが家でそれを少しだけやるなら、それはお母さんも世間もあまり困らないんじゃないかなって思うんだよ。

でもお母さんにはちゃんとお仕置きだよって伝えて、いつもよりちょっとイヤだなぁ〜恥ずかしいなぁ〜って思うぐらいの所で、こんな悪い事が有ると困るよね?

だから僕は心配で、不安なんだよって言って教えてあげるのはどうだろうか。」

「⋯⋯⋯リリアナ?」

「小道具として縄を使ってみるのはどうだろう。」

「⋯⋯縄?

縄なんて何に使うんだ?」

「悪い人に攫われたら、縄で縛られたりしない?」

「っ?!」

「だからね?お母さんが痛くない様に、気をつけながらになるけど、お母さんの打てや身体を縄で縛ってからお話をするのはどうだろうか。」

「あ⋯アマーリエを、な、縄で縛るのか。」


珍しく雲1つ無い青空なのに、父の頭上にピシャーンと雷が落ちる幻影が見えた気がする。

今父は頭の中で絶対に想像した。

それも具体的なやつ。


「うん。手や身体を縛るのって、攫われたらされる事だと思うし、縛られたりしたらお母さんもちょっと怖いな〜って思うんじゃない?

そこで悪い戦士が何をするのかは、私は子供だから分からないけど、お父さんはこうなるんだよって教えてあげられるんじゃないかな?」


雷に打たれたばかりの父の、動揺に小刻みに揺れていた瞳が、青い瞳孔をカッ!と開いた様な気がする。


「そしたらお母さんももうお父さんの言いつけを破らないかな?って、ならないかな?

でも途中でお母さんが泣きだしたり、本当に嫌そうにしてたら何時ものお父さんらしく、優しく慰めてあげてね?

僕はこんな事をしたくは無かったんだけど、言いつけを守らない悪い子にはお仕置きしなくちゃいけないから、とても嫌だけど仕方がないよねって、ちゃんと教えてあげてね?

お父さんが怖い人だと、お母さんに勘違いされたら困るから、絶対に忘れないでね。」

「あ⋯あぁ、そうだな。

分かった。そうしてみようか。」


お父さんが見る見るうちに頬を染めて、でも何だかソワソワとしてて落ち着かなくなって来てる。

ウーン⋯私は縄プレイが好きな訳じゃ無いんだけど、この世界に来てから身近に縄のある生活をしてるからか、つい小道具に使ってしまうんだよね。


ちなみに兄弟達は幼いので、言葉通りに内容を受け取っているため、この会話の隠された真実に何にも気付いていない。

それよりも父の怒りの波動が完全消滅したから、全員がホッとしている。


「お姉ちゃん、私のせいでゴメンね?

お父さんとお母さんのお話が終わるまで、私達はマリア婆ちゃんの所に行こうと思うの。

そしたらお姉ちゃんも、時間が出来るからお昼ゴハンを食べた後に、久しぶりにお友達に会いに行ったらどうかな?

午後は私とジーニスは2人で、お祖母ちゃんの家でお昼寝をしておくよ。」

「あ⋯それは良いけれど、魔力草は大丈夫かしら?」

「1日ぐらいなら大丈夫だと思うけど、気にしてくれるなら婆ちゃんの家で水の入れ替えをしようかな?」

「そうね!大丈夫なのは知ってるけど、少しでも早く増やさなくちゃいけないから、水の入れ替えはした方が良いわね!」


姉の目に金貨の絵柄が浮かんでいるように見えるのは、私の目の錯覚か思い込みによる幻影なんだろうか。

でも私だって目を金貨にさせてるから、そこはもうお互い様だと思うんだよね。


「それじゃお父さん。

私達は午後マリア婆ちゃんの所に居るから、お母さんのことはお願いします。」

「あ⋯あぁ、うん。

まぁ⋯そうだな。」

「じゃ急いで人工小川の方だけでも整備をしておこう。

水漏れしてたら大変な事になるしね。

小道の方はどうせ今夜も弄るから、麦が傾いてるんじゃ無ければ、このままでも良いかなと思うんだけど、どうかな?」

「うむ。そうだな。

では手分けをして水漏れがしてる場所がないかを調べてみよう。

そのうちバッカスが鳥を連れて来るだろから、丁度いいな。」


急に元気ハツラツとし始めた父がそう指揮を取る。

私達お子様部隊は、天使の輪っかを取り戻した父の指示に従って行動を始めた。


バッカスに連れられたノイン達が群れでやって来ると、私がピヨ子を抱き上げて籠の中からその姿が見せてたら、それをジーッと観察してたピヨ子がぴょんと籠から飛びだした。

あっと思ってるウチに、ピヨ子がパタパタと羽ばたきしながら、チョンチョンと走って麦の中に飛び込んで行ったのだ。


どうやら元気草の芽を探しに出かけて行ってしまったと、魔力を観察して動きを見てたらそれに直ぐに気付いた。

私は最初ピヨ子が何を思ってそう行動をしたのかを信じられない気持ちだったけれど、じわじわと喜びが胸にこみ上げて来て、あんまり嬉しかったから思わず泣いてしまったんだよ。


だってピヨ子が生まれて始めて、自分で餌を取りに行った日を迎えた事が分かったからだ。

ピヨ子はまだ雛の羽毛をまとっているけど、多分赤ちゃんを卒業してロベルトぐらいの年齢になっているのかも知れない。


それを思えば、何時までも赤ちゃん扱いをして、ピヨ子の成長を妨げる毒親になりかけてた事を身に染みて気が付いたら、そりゃ泣くよね。

だって毒親にならずに済むって事なんだもん。


でもピヨ子はパタパタと直ぐに戻って来た。

ん?と思って籠から下を見おろしたら、ピヨ子が地面にペッ!と、小さな双葉を吐き出したのだ。

挙句の果てには小さな足でその双葉を蹴り飛ばしてしまった。


どうやら元気草は芽でも苦みがあるらしく、グルメに育ってる予感がするピヨ子の口にはお気に召さなかったらしい。

この時私はまた世界の真実に気付いたかも知れない。

ショックを受けて身体が震えているのは、この真実を目の当たりにして私がピヨ子の毒親な事が確定してしまったからだ。


そして世の中に珍しいと言われてる聖獣化した魔物達は、ひょっとしたら私みたいに魔物や魔獣が雛や幼体の時代に、毒親と化した貴族が良い餌をあたえて変質させてしまったんじゃ無ければ良いなと、遠い目になりながら悪あがきをしている。


ピヨ子はノインの雛だから、多少グルメになった所で餌の問題はあんまり感じ無いけれど、金持ちの貴族が飼うような魔物や魔獣は、ノインみたいな安物とはとても思えないのだ。

そしてそんな高価な魔獣や魔物が成体になった時、果たしてそれらが望む餌のレベルはいかほどお高いモノになってやしないかと、不安に思うのは私だけなんだろうか?

いや、そんな、バカなと、いつか目にした光景の様に、私の心が未だに悪あがきしているのだけれど。

変質して長生きになって、大事に育てていた人が亡くなったり、餌が高価になり過ぎて飼いきれなくなった魔物や魔獣が森に放たれていたとしたら?

殺すには忍びないと考えて、捨てるバカがいやしないだろうか。

いや、まさか、そんな⋯バカな事をする奴なんている訳が無いよね。アハハハ⋯と、思いたいんだけどさ。

住処を浄化してまで綺麗にして住むって事は、綺麗な環境で生活をしてきた証のようにも思えるし、人間に会ったら賢くて強い魔物や魔獣が逃げ出す理由は、人間を傷つけない様に、厳しい教育を幼い頃に受けて来たからだとは考えられないだろうか。

更にうがった気持ちでそれを思えば、貴族は家の恥になるからと捕まらないように言い聞かせてから森に放ってはいやしないかとまで考えてしまうのは、私の疑い過ぎなのかも知れないが。

魔王にこの話は伝えておこうかなと、ちょっと思い悩んでいる。


だって聖獣化している魔獣や魔物達は、明らかに素となった魔物や魔獣達よりも毛皮や魔石などの素材がかなり上質なモノに変化していると考えて間違い無いからだ。

それを森に放つ理由が有るならば、やむにやまれぬ事情があり、飼うことが出来なくなってしまったけれど、お前なら人間を襲う事は無いだろうと、そんな安易な親バカ思考と、バカになる程の深い愛情も垣間見えて仕舞うからだ。


そして聖獣化した聖獣達はきっと賢いから、自主的に主人の迷惑にならない生き方を続けているのかも知れないなと、不味くて食べる気がしないのに、私が喜んでいたからとピヨ子がまた麦の中に消えて行く健気な姿を見せられてしまえば、私は嗚咽がどうしても堪える事が出来なくなってしまった。


「も〜、泣くなよ

親父も起こってねぇしさ。

元気出せって。」

「⋯うん。⋯⋯うん。

ひっく⋯もうちょっとだけ⋯」


ロベルトが勘違いして優しく慰めてくれるから、それだけでも今の私には涙が止まらない理由になってしまってる。


貴族が苦労して育てるとも思えないから、逃すとするなら幼い頃から育てて来た飼育員みたいな人だとか。

父の言う問題を指摘せずに見逃す事が、守る事に繋がらないと言った教えとか。

安易に考えて魔物達を飼育して、飼えないから捨てるだなんてバカを放置してたら、そのうち人間に敵意を持った聖獣が敵に回るかも知れないとか。

でもそれを指摘して仕舞えば、今まで逃れられていた魔物や魔獣達が、全て処分されてしまうとか。

勝手に連れ出して育てておいて、こっちの都合で要らなくなったら殺すのってどうなの?とか。

とかとかとかとか⋯色んな考えが頭の中でグルグルと渦巻くから、こうして泣きながら思い悩んでいる。


だからピヨ子が持って来る元気草の双葉の量も増えて来るし、兄達は困った顔をしながら慰めて来るし、鬼軍曹からも見当違いの正論パンチも跳んでくるから、焦るしムカつくしで心がちっとも落ち着かない。

挙句の果てには父まで罰が悪そうな顔をしてるしで、誤解塗れの大惨事が起きてるんだよ。


「お兄ちゃん、降ろして。」


だから取り敢えず優先順位の高いピヨ子から宥める事にした。


「ピヨ子、ありがとう。

こんなに沢山、集めるの大変だったねぇ〜⋯」

「ぴぃ⋯」

「お母さんね、凄く嬉しかったから。

だから今泣いてるんだよ。

ピヨ子はとっても優しくて良い子だね⋯」


ピヨ子が欲しいのはお礼なんかじゃ無くて、私の笑顔なのは分かってるから、ピヨ子が持ってきた全部の元気草の双葉を集めて遮光錬成瓶に入れると直ぐに魔法の鞄に収納してから、ピヨ子が私の顔を見ないで済むようにギュッと抱え込んだ。


「お兄ちゃん、私ちょっとだけつかれたから籠の中で寝てもいいかなぁ⋯」

「お、おう。」

「あんなに泣くからそうなるのよ。もう赤ちゃんじゃないんだから、何時までもメソメソするのは止めなさい!」

「⋯赤ちゃんの頃は沢山泣くのを我慢してたから、大目に見てくれないかな?」

「⋯そうね。アンタはそうだったのよね。」


姉が急に罰が悪そうになったから、私がチラリと父に視線を向けたら姉も兄達も釣られて父に視線を向ける。

そして罰が悪すぎて視線を合わせられない父の横顔だけを見て、私は直ぐに姉へと視線を戻した。


「お姉ちゃん⋯だっこ。」

「もう⋯仕方がないわね⋯」


そして姉にねだって籠の中に抱いて入れて貰う。

姉もこの時は盛大に誤解しているので、珍しく素直に私の甘えたお願いを聞いてくれた。


まだ怒ってる父が私を無視して、まるで私が凹んでいる様に兄弟達からは見えただろうが。

ソレ、全然違うからな?


まぁこっちはソレを狙ってやってんだから、別に良いんだけどさ。

こうして見せとけば、少なくても見当違いの慰めや正論パンチが飛んで来なくなると考えてそうしてるんだよ。


父が私と視線を合わせられないのは、頭の中の大半がこの後帰ってからどうするかと、大人の妄想が止まらなくなってるから、罰が悪くて私の方が見れなくなってんだよね。

お父さんは紳士だけど、どっちかと言えばムッツリスケベだと思うから。

今縄を見せたら真っ赤になって、挙動不審になりそうな気がする。

面倒だからやんないけどさ。

もう子供が5人もいるんだし。

新しいプレイしたってバチは当たらないと思うんだよ。

ここってメディアが丸っきり発達してないから、連れそってから割と長い年月を過ごしてるのに、未だに二人共何処か初々しさが抜けて無いんだよね。


だから明るい昼間にやろうとしてる、こっちが考えてる以上にソフトなプレイの妄想だったとしても、胸が爆発しそうなぐらいトキメイて頭がパンパンになってるんだよ。


そりゃ真っ暗な部屋でも見てるとは思うけど、あの爆発しそうな悩殺ボディを昼間から見れると考えたら、もうウキウキが止まらなくなってても仕方がないよね。

だってちゃんとした理由も有る事だしさ。

そりゃ未だに女子高校生よりも遅れてる様な母だから、もの凄くダメージを受けるとは思うけど。

そこはほら、最愛の人が相手だから。

そりゃ恥ずかし過ぎて泣いちゃうかもしれないとけど、でも深く傷ついたりなんかはしないと予想してるんだよ。

だって相手はムッツリな旦那様なんだもん。

こっちがケッ!て、なりそうなぐらいにヘタレなプレイをしそうなのが簡単に想像出来るしな!


「お兄ちゃん、私がもし寝てたら家に帰る前に起こして欲しいの。

お母さんに私から直接謝ってお父さんにバレたって説明するから⋯」

「う、分かった。」


兄も一次的に父が気持ちを切り替えてたのに、今はこっちを見ようともしないで、1人で黙々と小川を覗き込んでる父に、また怒りの再燃を警戒してるみたいだった。


それは単に大人の世界の思考にのめり込んでるから、行動不能になってるだけなんだけど、そんな事純真な兄には分かる筈が無いよね。


取り敢えず私はこの後に大仕事が待ってるから、ピヨ子を抱えたまま籠の中で仮眠を取った。


「お母さん⋯ごめんなさい。

お父さんに秘密で戦士ギルドに行ってた話がバレて仕舞いました。」

「え⋯?!」

「お父さんはかなりお怒りなので、お母さんは私に巻き込まれただけだとちゃんと説明したけど、言いつけを守らないなら1人で中央に行かせられないと、もの凄い剣幕で荒れております。

この度は本当にご迷惑をおかけして、どうもすみませんでした。

その後お母さんにもシッカリと言い聞かせると言っていたので、心の準備を宜しくお願いします。

お昼ご飯は子供達全員、マリア婆ちゃんの家に行く予定なので、これからシッカリと叱られて下さい。

私もコテンパンにされてます。

だから泣きつかれてヘロヘロなので、お母さんを助けられずにごめんなさい。

どうかお父さんの言う事を聞いてシッカリと反省してる事を伝えて下さい。」

「⋯⋯⋯え〜と⋯え?」

「戦士ギルドに勝手に行ったのがバレちゃった。

お父さんがメッチャ怒ってるからゴメンね、お母さん。

昼ごはんは要らないから、頑張ってお父さんをなだめてね。」

「ふぇえぇ?!」

「お姉ちゃん、ジーニスを。」

「分かったわ。」

「あ!あの⋯ちょっと⋯」

「お母さん、頑張ってね!」

「ふぇぇぇ?!あ⋯わ私も⋯あの、ちょっ⋯お母さんをおいていかないでえぇぇ〜!」


リビングで裁縫をしてた母を1人遺して、私達兄弟はサッサと家を出て行く。

そしてちゃっかりと倉庫から縄を持って来ていた父が、玄関前でウロウロと熊みたいになってたので、私はジーニスを抱いてる姉に頼んで立ち止まって貰うと、兄に父の所へ向かうよにお願いする。


「お父さん。お母さんには事情を説明してきたよ。

でも叱られるって分かったら、私の説明が理解出来なくなったみたいなの。

もの凄く動揺してるけど、お父さんはすごく怒ってるよって、ちゃんと伝えておいたから、なるべく優しくしてあげてね?」

「あ⋯あぁ⋯」

「でもちゃんと教える事は教えとかないと、言葉だけだとお母さんは頭を素通りしちゃうから、シッカリと身体に教えてあげてね?」

「うっ⋯」

「だよね?お姉ちゃん!」

「そうね。お母さんは忘れっぽいから、シッカリやらなきゃ意味が無いわね。

ギッチギチに縛り上げてやれば良いわ!」

「戦士ギルドにまたうっかり行ったら大変だもんね?」

「でも私はまだ行った事が無いんだけど、戦士ギルドってそんなに危ない所なの???」

「あー⋯なんつーか。

真面目なやつは良いんだけど、そう言う人は少ないし、変なのが沢山居るのはいるんだよ。

割とそう言うのがヤバいっぽい。

そう言う変な奴らは俺でも危ないから気をつけろって言われてんだよ。

金を取られるだけじゃ済まなくて、玩具にされて殺されるぞってさ。」

「ふぅん⋯迷惑な話よね。

そんなやつは村に来なきゃいいのに。」

「やらかしてんのがバレたらギルドも捕まえたり、追い出すとかするけど、コッソリとやられてたら分かんねぇから難しいらしいぞ。

それで俺も成人になるまでは、あんまり1人でウロチョロすんなって言われるんだよ。

だからギルドに行くときはツレとかバッカスの兄貴とかと行ってるんじゃん。」

「だからお父さん。

ここは心を鬼にして頑張ってね?

でもお仕置きが終わったら、ちゃんと優しく慰めてあげてね?

お父さんはお母さんが嫌いでそんな事をしたんじゃ無いよってシッカリ伝えてあげてね?

お母さんにお父さんから嫌われたと勘違いされたら大変な事になるからね?」

「わ⋯分かった。」

「じゃ!私達は婆ちゃんの所に、行くから〜!」


はー、大仕事終了!

たくやってらんねぇっつーの!

何が悲しゅうて親の特殊プレイの後押しをせねばならんのか。

1人でやるのは悲しすぎるので、何も知らない兄弟達を巻き込んでみた。

ウチではやったの見たことないけど、酷い悪さをしたら井戸の木に縄で括られてぶら下げられるお子様の話はよくあるので、兄弟達は素直にそっちを想像してると思われる。

マジで父がそれを母にやってたら、私は大爆笑するので止めて欲しい所だが。

それはそれで面白そうなので、いや⋯まぁ、うん。

そのね?

私は反省する立場なので、神妙な気持ちで過ごそうと思う。



あくまでもネタですから!

これ全年齢対象作品なのでそこの所ヨロシクね!

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