表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/53

40

映画【ボディガード】で歌ってる、ホワイトニーヒューストンのIwillAlwaysloveyouのサビでエンラーって聞こえるけど、あれってEnd loveのエンダーなのかしら?

歌詞が分からなくてすみません。


「はー、こりゃたまげたわい。いったい誰がこんなもんを作ったんだ。

またおチビか?」


パチリと目を覚ましたのは、祖父の驚いた声に起こされたからだ。

どうやら私達家族揃って全員が寝過ごしたらしい。

何時もの時間に来ない私と父の様子を見に来た祖父が、家を出てから土間の外に変なものが有る事に気付いて寄ってきたら、氷の囲いの中で寝てる子供達に気づいて、ビックリして声をかけて来た所だった。


祖父が来る方向からだと、藁の上に寝てるロベルトが丸見えだからね!

だけど私達はそれ所じゃなく大慌てだ。

まだ完全に夜は明けてないけど、空の向こう側が少し明るくなって来てるんだもん。


「ヤバい!急げ!」

「ちょっ⋯どうしたら良いの?!」

「取り敢えずマル兄ちゃんは、お父さん達を起こして来て!

カタリナお姉ちゃんは錬成瓶を錬成箱の近くに集めて!

ロベルトお兄ちゃんは花付きから魔力草を家の中に避難させて!

後から収納に行くから!」


うん!おう!分かったわ!

と、それぞれが返事を返すと、パッと蜘蛛の子が散る様にして散開する。


「まずはお爺ちゃんの所の錬成箱を直すから私を連れて行って下さい!」

「おー⋯そうだの。

日の光が当たるとまずいんだろ。なら急がんとな。」


ピヨ子には悪いが放置して、私は祖父に抱き上げて貰う。

ピヨ子は毛皮の中に居たから、声に反応して起きた気はするけど、鳴いてないからまだ半分寝てると判断したのだ。

だって暗いからね。

温かいし、そりゃモゾモゾしてるけど鳴いてアピールするほどじゃないと思ったのかな?

それとも昨日のカタリナから受けた説教が効いてたりして?


「先に行く!」

「うん!後からロベ兄ちゃんとそっちに行くから!」


祖父の家の前で作業してたら、父が実家から飛びだして来て、声だけ飛ばして一目散に畑に駆け出して行った。


私の声も聞こえてるかと思うけど、返事を返す余裕も無さそうだったし、私だってそれを気にする余裕なんて全然無かった。

とにかく日が昇るまでに全てを避難させなければ、全部が台無しになってしまうと慌てていたからだ。


祖父宅前に置いてた錬成箱を収納すると、またおねだりして私達の錬成箱が有る所に連れて行ってもらう。

そしてカタリナが積み上げてくれてた錬成瓶も全てあっという間に収納した後、ロベルトが運びきれてない魔力草もどんどん収納して行く。


まぁ後から落ち着いて考えてみれば、日の光を浴びた所で魔力草は少し萎れるかも知れないけど枯れる訳でも無いし、月の光を浴びた水も多少劣化するだろうけど、消滅する訳でも無いからそこまでの被害は無いとは思う。

でも研究者としたらこの事態が大打撃なのは確かだったのよ。


魔力草の方はもう研究も終盤で、後は育生を重ねて魔力草の魔力含有量を増やすとか、味を良くするとかの時間が必要な研究をするぐらいで、今は単にお金稼ぎで育ててる面が強いから、そこまで神経質になる必要は無かったの。

でも月の光が劣化するのは取り返しがつかない大事故になる。

特に魔王に渡す予定の錬成瓶やら、被害が大きくなる錬成箱は真っ先に収納した。

本来なら安全な真っ暗な時間帯でやりた作業なだけ、まだ暗いと言っても不安を噛みしめるばかりだ。


「誰かビアを倉庫に連れて行って!」

「お爺ちゃん!

私を井戸に連れて行って下さい!」


本来なら朝ごはんを食べて寝るだろう祖父まで扱き使って、私は井戸に向かい。

私が氷を落とした後で、すぐに木の蓋をお爺ちゃんに閉めて貰った。


そしたら太陽がついに顔を出して来て、辺りが段々と明るくなって来る。

まだ畑が残ってるのに!と、泣きそうになりながらも、祖父に礼を伝えて、必死の形相で倉庫から駆け戻って来たロベ兄ちゃんに抱いて連れられて、私も一目散に畑に向かう。


「ロベ兄ちゃん私の籠を⋯」

「分かった!」


この時すれ違いざまに水になってる風呂の元お湯や、部屋を作ってた氷を崩して氷を溶かす目的で小川の水を大量に混ぜた物を全て私が浮かせて引き連れて行く。


すると私の背負い籠を抱えたマルセロも少し遅れて走って来ており、魔法に驚いた祖父もその後をついて歩いて来た。


カタリナは家に戻って行ったので、母の手伝いかジーニスの面倒を見てくれてると思う。

そしてこの時ピヨ子の存在は完全に忘れてた。


「お父さん!」

「隣との境目だけ残してここまでは終わってる!」

「じゃあ私は向こうに行くね!

兄ちゃん、あっちの隣りの家の畑を目指して走って!」

「おう!」


父は既に畑を1人で10面以上の水撒きを終わらせていた。

まだ鐘15分ぐらいの短時間でだ。

よく見れば小川の壁や小道の復元率はあまかったかも知れないが、今はそれを確認する余裕なんてない。

引き連れてきた魔力が籠った水を、元からある小川の水を掬い上げる受け皿に変えて、ウチの畑じゃない所と隣接してる畑に水を撒き始める。

何故なら私が連れてきた水達は、本来の水よりも温度がまだ低くて使えないからだ。

なんなら氷も完全に溶けて無くて、冷え冷えの氷水状態になってる。

私の頭には『冷害』の文字が反射的に浮かんだので、元からある水を掬う為の受け皿として使うしか無かった事が悔やまれる。


でもだからこそ自由自在に操る事が出来たので、あっという間に大量の小川の水を掬うと、視界に入る全ての隣接してる畑の水撒きを、その方法だけで終える事が出来た。


「はぁ~⋯こりゃまた⋯もの凄い魔法だのぉ⋯」

「あ!見てお爺ちゃん!

虹が出てるよ!」


うん⋯そりゃ局所的に雨を降らせた様なもんだしな。

なんなら隣りの畑にも水が少しかかっちゃってるし、隣りの畑のオジサンもあんぐりと大きく口を開けて、作業が止まってるぐらいだった。


そこまで焦らなくても昨日までは日中に水撒きしてたのに、もう人間ってパニックをおこすと、視野が狭くなる見本みたいな事をしてるんだけど。

元々父がかなりの水魔法使いなので、とうぜん似たレベルの近所のオジサン達からは。


「坊主は若いのに子守をしながらようやるなぁ⋯。」

「え?!」

「そうなの!

うちのお兄ちゃんはすごいんだよ!」


と、誤解されたロベルトが褒められて微妙な顔をするだけで済んだ。

私が全力でフォローして押し付けたとも言う。


「おい!あんな適当なこと言って大丈夫なのかよっ。

俺あんな魔法なんて使えねぇぞっっ⋯」

「大丈夫。教えるから。

お兄ちゃんも出来るようになるよ。」

「ほ⋯ホントかぁ?」


動揺の激しい兄と小声でやり取りする些細な出来事もあったが、日が昇り始めてから僅か10分で水撒きは全て完了する。

水撒きは、だ。


この後は急いだせいで荒い作業になったから、人工小川や小道周囲の土の確認と復帰作業をする事になった。


同じく水撒きを急いだせいで魔力の消耗も多かったから、大元になる人工小川など急ぎで修復しないと行けない場所以外は、倒れそうになってる麦だけ地面の整地をして、朝食後にまた改めて行うとして家に帰る事にする。


帰り道で救世主の爺ちゃんに、私と父が感謝感激でお礼を言いながら敷地に近づくと。


「ピーーー!ピーーー!」

「ピヨ子!」


警報機と化した怒りの化身が、お日様が燦々と当たる場所で毛皮から口先だけを出して鳴き叫んでる所に、私は慌てて駆けつけたのだが。


「ぴいぃぅぅい!

ぴぅいぃいぃいうぃ!」

「ピヨ子、ごめんねぇ。

1人きりにさせて本当にゴメンねぇぇ~!」


なんて言うか。

抱いた途端に今まで一度も聞いた事のなかった鳴き声で鳴かれ続けるから、私も思わず涙目になる。


ぴぅいぴうぃと鳴くピヨ子をローブで包んで家に運ぶと、残された藁はそのままそこで干す形になった。

毛皮は北側の影になってる風通しの良い所へ、ロベルトが持って行ってくれてる。


何せ氷に周りを囲まれた上に、直接氷に乗せてたから、全体的に湿気たんだよ。

藁の下にある氷をみて、コレを持って行くの忘れてたと思ったけど、ピヨ子を思うとどっちみち持っていけなかったから仕方が無いよね。


元はと言えば小川の水だし、まぁ良いやと思ったが。

これを砕いて小川に流すと、水の温度が下がって周りの迷惑になると考えたから、藁をひっくり返すついでに、土や藁で汚れた氷を細かく砕いて道やら地表に撒いて分散させといた。


「ちょっとまだ泣いてるの?

しつこいのよアンタは。」

「ピィ!」

「リリアナだって悪気があってアンタを残して行ったんじゃ無いのよ。

それぐらい言われなくたって分かってるんでしょ。」

「ピッ!」

「だったらもう甘えて泣くのなんて止めなさいよ。

いつまでもメソメソしてたら、立派な大人になれないわよ!」

「ピピピッ!」

「アンタ、バカなの?

何時までも子供のままで要られると思ったら大間違いよ!」

「ぴぅい?」

「リリアナや私達と違って、アンタには羽根が生えてるの見てりゃ分かるでしょ!」

「ピ?!」

「そうよ。

アンタは人間じゃないの。

だから私達よりもアンタは大人になるのが早いのよ!」

「ピ?!ピィ゙ーー?!」

「ウソじゃないわよ。

アンタと同じ生き物は、外の別の小屋に沢山住んでるわよ。

アンタはその中からリリアナが連れてきて育ててるから、此処で産まれただけなんだからね。」

「ピィ゙ーーー?!」


ガビーン!と、ピヨ子が自分の出生の真実を知り、ショックを受けてるらしい。

実はピヨ子。

今の今まで自分が私達と同じ人間だと思ってたのかと、姉との会話を聞いて私もすごくビックリしてる。


元はと言えば餌をあげる前も、あげてる途中も、あげた後でもずっとぴゅういぴゅういと甘えた声でピヨ子が鳴き続けてたから、それにイラッとしたらしい姉がピヨ子を躾ける所から始まったのだが。


私もよもやピヨ子が私と同じ人間だと思ってるとは考えても無かったので、驚いてるウチにピヨ子が私の実の子供じゃない事までバラされてしまった。


息子か娘かはまだ分からないから、子供と表現しております。


じゃ無くて、ちょっと動揺が酷くて頭が混乱している。

だって私は今かなり嫌な予感がしてるのだ。

ピヨ子について姉や家族達と相談して無かった事が非常に悔やまれる。

でもどうしたら良いのか。

ピヨ子がいる場所でこの不安を伝えるにはどうすれは良いのかと、グルグルと悩んだ末に私は自分の食事をそっちのけにして、思考を巡らした。


そして沈んで静かになってるピヨ子をそっと太腿の上に乗せると、魔法の鞄から少しよれた紙とペンを出し、鬼気迫る勢いで怒涛のごとくペンを走らせ、必死の形相になりながら手紙を書いた。


何度か文面をシッカリと確認すると二つ折りにして、「このかみに書いてる文字をよむときは声を出さずによんで下さい。」と書いて、まずは姉に1番先に届けてと言って隣のマルセロに渡す。


「は?今ご飯を食べてるんだけど⋯」

「お願い⋯。全てにおいて最優先でお願いします。」


行儀が悪いのは分かってるけど、家族みんなが???となりながらも、私の形相を見て只事じゃ無いなと思ってくれたらしく。


姉はサラッと私が書いた手紙を読み始めた。

すると面倒くさーと、書かれて呆れ半分だった姉の表情がサッと引き締まり、一度鋭い眼光で私を睨みながら口をパクパクとさせて、でも直ぐに諦めると、また手紙に視線を落として最初から速度を上げて読み直す。

視線の速度を上げて文字を目で追った後ではああぁぁ〜と、大きなため息を零した。


「⋯お父さんが先に読んで。」

「⋯うん?」


そして姉が優先順位を決めた後で、手紙は父へと渡ったが。

父も何だろうなぁ?と、ミルク粥を口に含んでるノンビリとしていた雰囲気が、手紙を読んでる途中から気配が突然鋭く変わった。


また姉と同じようにして視線で文字を追うスピードが速くなると、また最初から読み直すと言った行動を2回も繰り返して、ようやくはああぁぁ~〜⋯と深くて長いため息を吐き出しながら、頭痛が⋯と言わんばかりに片手で額を押さえて俯いている。


「取り敢えずご飯を食べよう。」

『え?!』

「食べ終わったらピヨ子を連れて寝る部屋に行くね。

静かな所でゆっくりピヨ子とお話したいから⋯」


私はそれだけ言うとモクモクと食べ続けた。

事情を知らない兄弟達は、父の持つ手紙に興味津々となっているが、姉のカタリナも私以上に食事のスピードを速めてサッサと食べ終えると、ジーニスを抱いて食べさせ始めている。

逆に父は食事を止めてとても悩んでる状態で、何時も以上に静かな朝食の時間が続いていた。


私が書いた手紙の内容はこうだ。


【この手紙を読んで(おどろ)いても、絶対(ぜったい)に声に出して内容(ないよう)を言わないで下さい。


この前王様が私を迎えに来た時に、ピヨコについて話をして来ました。

そこでえらい人から、ピヨコが白いのは聖獣化(せいじゅうか)しているのではないかと言われました。


この聖獣化と言うものは、魔獣(まじゅう)が何かの原因で変わる事を言います。

元の魔獣よりも頭が良くて、魔法が強くなるので、(つか)まえるのが(むず)しいから、くわしい事はまだ良く分からないと言われました。

ウチで飼ってるノインは、水と風の特性(とくせい)があるので、ピヨコも大きくなると強い水と風の魔法が使えるようになると思うから、気をつけなさいと言われています。


ピヨ子は人の話が分かるので、家族(かぞく)にどうやって相談(そうだん)するか、ずっと(なや)んでいました。

でも昨日のお昼に、このままだとあぶない事になるかも知れないと気付いたので、早くみんなに相談しようと考えていたのですが、ピヨ子に聞こえないようにお話する方法が分からなくて、今まで伝える事が出来ませんでした。


いま文字でつたえる方法を考えついたので、お手紙を書いています。

ピヨ子が大人になって、自分の仲間が食べられてると知れば、私達をうらんだり、にくんだりしないかなと心配しています。


ピヨコは普通のノインと違ってかしこくて、つよいので敵になるととてもあぶないと思いました。

でもピヨコは私が育てた私の子供なので、仲よくくらして行きたいと考えています。

でもどうすればいいのか分からなくて、皆に相談したいと思いました。

どうかピヨコをころさずに済む方法をいっしょに考えて下さい。

私のワガママなのは分かっているので、どうしてもころさなければいけないのなら、私がころします。

だからなるべくころさなくて済む良い方法を考えて下さい。

どうかよろしくお願いします。


この話はひみつにしてたら、大変なことになるので、なるべく皆に知ってほしいです。

でもピヨコは言葉が分かるので、ピヨコには聞こえないようにお話して下さい。

もしかしたら文字もおぼえているかも知れないので、この手紙を皆が読み終わったら、もやして下さい。


読める省略文字(しょうりゃくもじ)を使って書いた手紙ですが、読めない人もいるかもしれないので、食事が終わったら私はピヨコと一緒に皆から離れます。

だからその時は声に出して相談して下さい。

でもなるべく小さな声でお話して下さい。】


なるべく難しい省略文字には翻訳を文字の上に書いて、皆が読めるように慎重に書いた。

もし読めない文字があると不安なので、姉と父以外の人達は、食事が終わったら私達が離れてる間に、相談してくれたら良いと考えている。


「待ちなさい!」


そして食べ終わり、ピヨ子を抱いて寝室に向かおうとすると、ジーニスを母に渡した姉が私達がリビングから出る前に呼び止めたのだ。


「お姉ちゃん?」

「私アンタにすっごく頭に来てるんだけど⋯、まあ、それは先にこの鳥に話をしてからにするわ。

だからソイツを私に渡しなさい。」

「お姉ちゃん?!」

「ぴぃ⋯?」


私は反射的にギュッとピヨ子を抱き締めて抱え込んだ。

するとピヨ子から弱々しい鳴き声が聞こえてくる。


「リリアナ。

アンタはそうやって何もかも隠して、その鳥に何も教えないつもり?

今のウチに自分の親が誰かを知らせなくちゃ、兄弟にだって一生会えなくなるのよ?」

「あ⋯」

「だから貸しなさい。

私がその鳥に本当の事を教えてあげるわ。」


親鳥は卵を産む仕事がある間は小屋に居るだろうけど、もしピヨ子の兄弟が雄なら1年後には捌かれて肉になってしまうのだ。

その事に気付いて動揺した私は、シッカリと抱え込んでいたピヨ子の顔を見る為に、少しだけ身体を離した。

すると10歳の姉の行動は、私からしたら鬼の様に早かった。

カタリナはサッと私からピヨ子を奪って駆け出して行ったのだ。


「ま⋯待って!待ってよ!」


泡を食って追いかけたけれど、走ろうとしたせいで足がもつれて直ぐに転んでしまった。


ビタン!と勢いよく前に倒れたせいで、オデコや鼻がジンジンするし、両膝や両手も痛くて涙が滲む。


「ピヨ子!ピヨ子〜!」

「ピーーーーーー!!!」


半泣きになった私の絶叫と、ピヨ子の恐怖と混乱の混ざった絶叫が飛び交うが。

家の廊下に転んでる私の後ろからは、父の生温かい視線と、姉の強権に振り回され続けている兄達の、同情交じりの視線が向けられるばかりだった。

母も私の方に視線を向けていたが、ジーニスに腕をパンパンと叩かれて、ご飯のお代わりをはようはよう!と、催促されたから直ぐにそっちに気を取られている。


私は両手に力を込めて、ジンジンする痛みごとギュッと握り締めた。

この時の私は心の底から動揺していたせいで、魔法の魔の字も頭に思い浮かばず。

代わりに頭の中に流れて来たのは運動会で同じみの名曲【負けないで】だった。


人生には、転んでも走らなければならない時が有るのだ!

その決意を胸の中で燃やして私は走った。


直ぐに横によろめいて地面に手をついたり、立ち上がっても前に歩いてたらつま先が引っ掛かって、何故か後ろによろめいて尻餅をついたりした。


そうかと思えば立ち上がっても今度は前のめりに転んで、手をつくのが間に合わなくて顔から地面に突っ込む事もあったけど私は走った。


だって泣いてるだけじゃピヨ子を取り戻せない。

転んでも、痛くても、怪我をしても、そんなものはピヨ子を失う苦しみなんかとは、比べものにならないぐらいに些細な事だった。


私の足は短くて、普段ろくな運動をしてないせいでちっともスタミナが無いから、私は走ってるつもりでヨタヨタと歩いてるだけになっても、肩で呼吸をするぐらいに苦しくなっても、走って、転んで、また立ち上がって走り出しては転んで。


この時には【負けないで】もリピート疲れしたのか、【ロッキーのテーマ】のサビに曲が変わってる始末だ。

映画が古すぎてわかる人が居ないんじゃ無かろうか。


ちょっとこれは効率が悪すぎると考えて、歩き出しては転ばない程度に走って、また転んでと繰り返しながら、私は鳥小屋を目指して進んだ。


「アナタは鳥なの。

ここにいるのは、元はアナタと同じ種類の仲間なのよ。」


するとカタリナの甲高い声が気のえて来たので、どの鳥小屋に入っているのかが分かり、私はヨタヨタとそこを目指して歩き続けた。


「そうよ!その小さいのがアナタの兄弟なの。」

「ピィ!」

「全然違うように見えても、同じなのよ!

⋯もう、アンタってば頑固なヤツね!

アンタはリリアナが育てたから、そんな風になってるだけなの!」

「ピヨ子!」

「ピィーーーー!!!」


私が鳥小屋の外から叫ぶと、中から嬉しそうなピヨ子の声が聞こえて心が軽くなった。

でも鳥小屋の扉は取っ手が高い場所にあるせいで、私が手を伸ばしても届かないのだ。

しかも引いて開けないといけない作りなので、扉のすき間に指を突っ込んで開けようとしたけど、隙間はあるのに扉が掴めなくて思うようには中々行かなかった。


「リリアナは外で待ってなさい!終わったら直ぐに行くから。

ピヨコ。

アンタは此処に残るのよ。」

「ピーーー!ピピッ?!」

「言ったでしょう?

アンタは鳥なの。

本当なら此処で産まれて此処で育っのが普通なのよ。」

「ピィピピピッピ!」

「そうね。

他の鳥達と違ってリリアナはアナタの為だけに、美味しいご飯や、綺麗な寝床を用意してたのよ。」

「ピィ!」

「そうよ。リリアナはアナタを自分の子供だと思って大事に育ててるの。」

「ピ!」

「卵を産んだのはその威嚇してくる嫌なバカ鳥だけど、アナタを大事に育てたのはリリアナなの。

ならアナタは分かるわよね?

自分が産んだ卵も忘れるようなバカ鳥と、リリアナならどっちが大事なの?」

「ピィーーー!」

「そう。良かったわ。

それならアナタもリリアナを大事にしなさい。

それから向こうの家で暮らしたいのなら、人間の規則もちゃんと覚えて守るのよ?」

「ピ!」

「良いわ。

それを絶対に忘れちゃ駄目よ。

ワガママ言ってリリアナを困らせたり、同じ家に住んでる家族に迷惑をかけるなら、直ぐに此処に連れ戻すからね?」

「ピピッ!」

「そう⋯ならもどるわよ。」


パサパサと羽根の音を響かせて、扉の向こうから2人が近付いてくる気配がした。


「ピヨ子!」

「え?!リリアナ?!」

「ピーーー?!!」


少し後ろに下がった私は、扉が開いた途端に涙目になって両手を広げてピヨ子を迎えようとした。

だから今私の頭の中には昔の映画ボディーガードの【I will Always love you】のサビが流れて来てる。

あのエンラーって言うヤツだ。


それなのに、2人から思いっきりドン引きされた。

エンラーの曲もエラーを起こしたみたいにグニャリと歪んだ。


「ちょっとアナタ何やってんの?!」

「ピーーー!ピーーー!」


しかも息が合ったコンビネーションを発揮され、2人から同時に叱られてる気がする。


⋯解せぬ。


一生懸命に頑張った私にこの仕打ち。

ちょっと悲しくて心がしおしおと萎れそうになったけれど、向こうは私を心配してくれてるのは伝わってたので、そこは下唇を噛んで理不尽な思いに耐えてる。


だってずっとずっと一緒にいて、夜だって寝不足になりながらずっとピヨ子の面倒を見てきたのは私なのに、姉があっという間にピヨ子と仲良くなって、相棒の様に私に接してくるのが、何だか胸がモヤモヤしてムカついたのだ。


でも私は賢いお子様だから知ってるの。

そうこのムカついた気持ちは、嫉妬って言うんだよ。

お嬢さんは本当に性格の良い人なのがよく分かる。

私があんなに必死に観察して、考えて色々試して沢山我慢してやっとピヨ子の事が分かってきて出来るようになった事を、これまで面倒臭い変な鳥ぐらいの認識しかして無かった姉が、その才能であっという間に感覚的にピヨ子の言葉や気持ちを理解するんだもん。


そりゃ今までの私の努力って何だったの?!

タンタン!って足踏みして、「これだから天才ってヤツわ!」と、怒り狂いたい気持ちになるよね。

分かる。

今この瞬間にもの凄くお嬢さんの気持ちが良く分かった気がするよ。


でも私は賢いお子様だから、姉が才能だけで簡単にしたように見せかけて、実は自分が楽をする気持ちを犠牲にして昔からコツコツと兄弟で育児をお手伝いして子育ての経験も沢山積んで、その上で鳥小屋のお手伝いも沢山してたから、ピヨ子の気持ちが分かるようになったって事も理解が出来るんだよ。


「ふぅぅ~⋯」


空を見上げて大きなため息を零すと、モヤモヤしてた胸の奥の嫌な気持ちが、少しだけ軽くなった気がした。

大きな声を出すのがお嬢さんのストレス発散方法なら、深呼吸をするのは、私の知らない何か良い理由が有るのかも知れないね。


「私ね。今までは走ると転ぶって分かるから、そんなに走った事が無かったの。

でも転んで怪我をする痛みよりも、ピヨ子を失う事の方が怖かったから、家から走って来たんだよ。」

「アンタねぇ~。

そうだ。その事についても文句を言おうと思ってたのよ。」

「うん?」

「アンタ。鳥の事にしてもそうだけど、私やコイツを信用しなさ過ぎなのよ。」

「⋯え?」

「ちょっと考えたら分かるでしょう。

私がアンタを悲しませる事なんてするわけ無いじゃない。」

「あ⋯」

「この鳥にしたってそうよ。

アンタがあんなに苦労して、大事に育てて来たのよ?

コイツが賢い鳥だって言うんなら、そんな事はすぐに気付くと思わなかったの?

今だって産んだ親鶏より、アンタの方が良いって自分で選んだのよ。」

「お姉ちゃん⋯」


私は目をウルウルさせてピヨ子をジッと見下ろす。

鳥なので実際には目が潤んだりはしないけど、身体が小刻みに震えてるし、黒目がちな目をフワフワな毛並みの下からジッとこちらに向けてるので、ピヨ子も瞳をウルウルさせてる様な、そんな気がした。


「ぴぅい⋯」


ピヨ子はチョンチョンと地面を蹴る様にして、私の足元までやって来る。

そしてぴぅいぴうぃと甘えた声を出すから、私は堪らなくなって痛む膝を曲げてしゃがみ込もうとしてバランスを崩し、尻もちをつく。

そして手をつけなかったせいで、そのまま後頭部を地面にゴツンとブツケた。


せっかくまたエンラーが流れてたのに、私のせいでまた強制終了した。サビスタートなのに、エン⋯で、終わるとかイントロドンしてんじゃねぇよ。

曲が聞きたいんだから流しといてくれよな。

サビしか知らないけどさ。


「り、リリアナ?!」

「ピーーー?!」


慌てた2人が上から覗き込む様に顔を近づけて来たから、罰が悪くてついついヘラリと笑ってしまう。


「アンタはもう〜しょうがない子ね。

ホント鈍臭いんだから⋯」


姉は呆れたようにそう毒を吐いたけど、私の頭の下に手を入れて、身体を起こしてくれた後で怪我の様子をシッカリとチェックしてくれてた。

ピヨ子の方は、そんなカタリナの動きをチェックしながらも、ぴうぃ⋯と鳴いて私の曲げてる足に頭を擦り寄せて来る。


「⋯ピヨ子。騙そうと思ってた訳じゃ無かったんだけど、今までピヨ子が鳥なのを教えて無くてゴメンね。

私、鳥を育てるのが始めてだったから、とってもダメなお母さんだね⋯」

「ピ!」

「⋯ありがとう⋯ピヨ子は慰めてくれてるんだね?」

「ハイハイ。

とにかく怪我の汚れを洗い流すわよ。

でもうちの井戸は使えないんだったわね?

爺ちゃん所の井戸に行くわよ。

浄化しても砂は消せないらしいんですって。」

「消せるよ。

ただ魔力を使う量がもの凄く多いから、水で流せるならその方が楽なだけだよ。」

「そうなの?!」

「目安にするなら水で洗い流せるか、流せないかで魔力が増えると考えたら良いかもね。


だから昨日みたいな鍋を浄化するのは簡単だけど、泥とか油で汚れたら、水で落とせないから魔力の消費が上がるんだよ。


洗濯を井戸でするのは、人間の身体から油が汗と一緒に出てるから、浄化するのが大変で手洗いする方が早くて楽だからそうしてるだけかな。

部屋の浄化は砂埃なんかは水で洗い流せるから、消費が少なくて楽なんだと思うよ。」

「でもそれならお母さんみたいに、人の身体を浄化するのは大変なんじゃ無いの?」

「そうだよ。

だからついでに床まで綺麗になってるんだよ。


でもお母さんの浄化も外からの表面的な汚れを綺麗にしてるだけだから、皮膚が古くなった肌は消えて無いんだよ。

昨日お風呂に入ったら、皮膚がボロボロと砂みたいに落ちてたでしょう?

アレは古くなって要らなくなった肌がお湯でふやけたから、あぁなったんだよ。


だからボロボロした後は産まれたての新しい肌が表に出て来るから、触り心地がサラサラしてたし、古くて茶色になってた所が落ちたから、肌の本来の色が表に出て着て白くなったように見えたんだと思うよ?」

「はぁ〜。アンタってよくもまぁそんな無駄な所にはよく目が行くのね。

そんなどうでも良い事を考えるぐらいなら、大事な物を見落とすんじゃ無いわよ。」

「へへ、だから私が大事な事を見落としたら、ちゃんと叱って教えてくれるから。

お姉ちゃんは、私にとってかけがえの無い大事な人なんだよ。」

「もう〜、また調子の良い事を言っちゃって!

そんなんで誤魔化されてなんて、やらないんだからね!」


とか言いつつも抱き上げて運んでくれるから、かなり機嫌が良くなったと思う。

ピヨ子は必死にチョンチョンと飛び跳ねる様にして、私達の後ろをついて来ていた。


今まではずっと頭の上に乗せてたり、抱いて運んだりしてたけど、ピヨ子はもうお日様の下でもあんなに元気に動けるようになったかと思うと、それだけで感慨深くて涙が滲んでしまう。


そして擦り剥いた顔や(てのひら)や膝を洗う時も、水が染みて痛くて涙が滲んだ。

これはもう生理的な、身体の反応なので赦して欲しいと思うよ。


洗えば当然血がダラダラと流れるから、姉もピヨ子もビビるのを見て、気合いで魔力に命令した。


「え?魔法?」

「うん。血がウザかったから。」

「ぴぅ⋯」


そして無事にお水が染みなくなったので、顔や掌や膝の血をお水で洗い流す。


「ソレが出来るんなら早くやれば良かったのに⋯でもまだ治りきってないわよ。」

「砂とか取り込んで治したら困るし、浄化しても良かったけど、治癒魔法は浄化よりも魔力を多く使うから、半分ぐらいは節約したんだよ。」

「アンタって便利なのか不便なのか分かんない魔法の使い方をするのね?」

「うん?」

「普通なら治癒魔法を使えば一発で傷も汚れも綺麗になるのよ?」

「ならその分魔力を使ってるんだよ。

私はまだ2歳だからケチれるもんはケチっとかないと、直ぐに魔力が切れちゃうんだよ。」

「あんなに凄い魔法を使うんだから、魔力を沢山持ってるんじゃ無いの?」

「あれは私の魔力じゃ無くて、空気の中や水の中にある魔力を使って魔法を使ってるだけなの。

だから自分だけの魔力で魔法を使うなら工夫が必要なのよ。」

「へぇ~。それなら私も外の魔力を使ったら、治癒魔法も使えるようになるってこと?」

「うん。でもこの技術はとても問題があってね?

これをしようと思ったら、魔力を身体全部から出して操る練習が必要になるの。

それを失敗したら、生きるのに必要な魔力が身体からでちゃうから、死んじゃうんだよ。


お姉ちゃんは魔力切れの酷い症状を経験してるから、そうなる前にちゃんと調整出来る可能性が有るけど、練習してみる?


ロベルト兄ちゃんも練習させようと考えてるから、一緒にすれば良いよ。

その代わり失敗しても死なないように私が調整するから、1人で練習するのは禁止だよ?」

「ねぇ、何でその説明で私がやるって言うと思ったの?

死ぬかも知れない練習なんて、嫌にきまってるじゃない。」

「でもロベルト兄ちゃんが私みたいに魔法を使うようになっても大丈夫?

多分マルセロ兄ちゃんも、身体が成長したら練習すると思うんだけど⋯」

「⋯仕方が無いわね。

やるわよ。

死なないようにちゃんと注意してよね?!」

「うん。」

「ホントにちゃんとやるのよ?!

じゃないと死んじゃうんだからね?!」

「お姉ちゃんは私に必要な大事な人だから死なせないよ。」

「も〜、怖いわね。

ホントに頼むわよ?」

「私がお姉ちゃんを死なせるはず無いよね?

これさっきお姉ちゃんが言ってた事なんだけど⋯信用出来ないなら仕方ないから、無理にやらなくても大丈夫よ?」

「アンタねぇ⋯はぁ⋯」


よしリベンジ達成。

お姉ちゃんはかなり凹んでるけど、私は何一つ嘘はついて無いから大丈夫なのだ。


いきなり何もいわずにピヨ子を連れて行くから、私は凄く怖くて悲しかったの。

必死に走ったし、沢山転んで痛かったわ。

でもお姉ちゃんが言う通りに、ピヨ子には全てを伝えて自分で生き方を選ばせる方が大事だし、良いのも分かるの。

でもちょっとぐらいなら、辛かった私の気持ちを仕返ししても良いわよね?

だって私はまだお子様だから。


それから私達は祖父宅の井戸から歩いて家に帰ったよ。

カタリナはロベ兄ちゃんやお父さんと違って、怪我が治った私を抱っこして歩いてはくれないの。


その代わりに歩幅を狭めて私のスピードで歩けるように、ゆっくり歩いてくれるから、私もピヨ子に無理のない速さでゆっくり歩くのよ。


でもピヨ子の方が身体の使い方が上手みたいで、結局私は精一杯頑張って転ばないように早歩きで歩く羽目になってた。


だってカタリナが私やピヨ子の動き方を見て。


「トロいわね。早く歩きなさいよ。」


と、口で急かしてくるからだ。

カタリナの身体の動きは私達に合わせてくれるけど、姉もまだ10歳の子供だから、大人げがないのよ。


それに私を甘やかすつもりが全く無いから、鬼軍曹ってこう言う人を言うんだと思うの。

厳しい事を言ったり辛い事をさせたりするけど、その心根は私やピヨ子に身体を使わせて鍛えようとしてる所が愛なのよ。


だって置いて帰る訳でも無いし、面倒になって抱いて帰る事もしないんだもん。

カタリナは家の仕事のお手伝いをする忙しい人だから、早くしなくちゃって気持ちが焦るのも分かるの。

それは自分が楽をするためじゃないから、やっぱり真面目で良い子なのが私の姉のカタリナって言う女の子なのよね。

甘ったれな私には、やっぱり必要な人材なんだよ。


「まぁ!どうしたの〜?」


リビングに着いたら、母がサッと立ち上がって私の方に向かってきた。

そして直ぐに床に膝をついて私の顔を覗き込んで来る。


「走ったから何度も転んだの。洗って治癒魔法したから、直ぐに治るよ。」

「あらあら〜。

女の子の顔は大事にしないと〜」

「お母さん。

顔に醜い傷が出来て、ソレが理由で大勢の人から選ばれなくても。

私の中身を見て素敵だねって言ってくれる人を選ぶつもりだから大丈夫よ。」

「あらぁ~!

ウフフ⋯、リリアナらしくてそれも素敵ね〜。

でもね〜⋯好きな人が出来たら可愛く思って欲しくなるものだから、やっぱりお顔は大事にしましょうね〜」


魔力をケチった治癒魔法じゃ、止血してカサブタが出来てるぐらいが精々だから、顔の擦り傷が目についたのは分かる。

新陳代謝が活発な2歳だし、それでも明日には治ってると思うけど、母チェックでは見逃して貰えなかったらしい。

食器棚から出してきた臭い軟膏を額やら鼻やら他にも掌や膝とかに満遍なく擦り込まれてしまった。


鼻にこの軟膏はホントに止めて欲しい。

上后様の香水の臭さよりかはマシだけど、匂いが目に染みてまた涙が滲んでるからな?


てかこの軟膏。

原料は何を使って作ってんの?

獣臭いからピアか何かの油を使ってるのかな?

でも兎の油を採る所なんて見たことないし、違う魔物の油を使ってると思うんだけど、怖くて原料が聞けないんだよ。

変な魔物だったら薬を塗られたく無くなるからね!


あんまり怪我をしないお子様な私でも、冬場の霜焼けとか夏場のオムツカブレでこの臭い軟膏は良く登場するのよ。

庶民の味方の塗り薬は、高い魔法薬をなるべく使わないようにする貧乏人の強い味方なんだけど、シロウトの手作り軟膏だから、確かな効果があってもちょっと不気味なんだよね。


薬剤師が錬成師なら生薬みたいな物を作る専門家が居たほうが良さそうだけど、居ないから民家の主婦がプチ薬剤師になるんだよ。

だから効果は有るよ?

効果がないものなんて作らないからね。

でも臭かったり特徴的な黄緑色してたりするから、塗ったら近づいただけでアレを使ったでしょ。

ってバレるぐらい匂いが酷いし、目立つんだよね。

しかも効果しか見てないから、何かの副作用があっても、調べようがないから分からないだけな気がするんだよ。

前世ても昔に赤チンて呼ばれてた傷薬があって、とても効果が有るから庶民に愛用されてたけど、後から水銀が含まれてるから危ないってなって製造が中止させられたんだよね。

水銀が人の身体に入ったら、かなり嫌な副作用が起こるからそうなったんだけど。

使ってるだけじゃ直ぐに水銀の副作用なんて出ないから、かなり長い年月の間使われてたんだよね。


だからこの臭い軟膏も、そんな変な副作用がないか不安になるんだよ。

だって作ってるのが、何の知識もないただの主婦だから。

自家製みそじゃないけど、基本的に使ってる薬草や油が同じでも、各家庭のオリジナリティーが有りそうで恐ろしい。

たまに黄緑色じゃ無くて、濃緑色の塗り薬をつけてる子を見ると、絶対にその変化の可能性を感じさせられるんだよ。

向こうが変わったのか、コッチが変わったのかが分からないとなると、やっぱり怖いでしょ?


そんなに不安なら私が原材料を聞いてちゃんと調べれば良いと思うけど、まだ2歳だなら調べたくても調べる方法が分からないし、もし原材料が米粒です!って言われたらもう立ち直れないよ?

だから無理やり目を背けて、意識の中でも横の隅っこの方に置いといて、なるべく怪我をしないように生きて来てるんだよ。


分かるかしら、この私の心の葛藤(かっとう)が。

元気茶みたいに純粋に植物を使ってるだけなら許せるけど、油には動物が関わる事が有るから、知りたいけど知りたくないから心が葛藤するの。

でも植物性の油なら、もの凄く興味があるから知りたいんだけどなあぁ⋯。


原材料が何かは知らなくても、タルクス叔父さんのお土産が原材料なのを知ってるから、動物性の油の予感が今の所濃厚なんだよね⋯。

今度タルクス叔父さんに会ったら、植物性の油を森で見ないか聞いてみようかな。

もしあったらもって帰って来て貰えば、化粧品が作れると思うのよね。

お風呂上がりにはビタミンCの水と、保湿力を高める油が有れば良いと思うの。

この臭い軟膏じゃ無くてさ。


でもなぁ⋯この根拠って前世の知識が元なんだよ。

だから郷に行っては郷に従えじゃないけど、この臭い軟膏は本当に良い品物で積極的に利用して良い代物の可能性だってある。


妊婦の魔力過多症が対応出来たみたいに、長年愛され続ける民間の知識は大事にした方が良くて、新しい時代で何かの不利益が分かったのなら、それはそれで仕方がないって考えるべきなのかな?

と、今日になって思い始めてる。


何故なら前世とこの世界の違いを知り始めたからだ。

だから前世の知識に従う事が必ずしも正解だと言え無い事も分かって来たので、米粒もエレガントにして対応出来た事だし。

だってタルクス叔父さんが持って来てる時点で、米粒じゃないのは確定してるんだから。

私も米粒じゃ無いなら使える気がするんだよ。

この際米粒ですら慣れて来てるしな!


「お母さん。この臭いお薬の材料って何を使ってるの?」

「あ〜、それは元気草とダブリンの油を使って作ってるんですって。

お母さん、ダブリンって言う魔物がどんな姿をしてるかは知らないんだけど、川で泳いでる魔物だって聞いてるわね。」

「あ⋯うん。ダブリン。

そっかダブリンかぁ~⋯」


ガマの油って確かホントなら植物性の油の筈だけど、コッチの世界だとカエルの方の油だったかぁ⋯。

いや私もダブリンの姿を知らないから、ダブリンがカエルかどうかは知らないけど。

各家庭に1人ぐらいは狩人の息子が居るから、それでこの軟膏が各家庭に有るのも分かる気がする。


そして元気草よ。

お前もホントに良く働くなぁ。

この臭い匂いはダブリンと元気草のミラクルオマージュの賜物だったのかと思えば、かなり腑に落ちた。

元気草も麦の敵じゃ無ければ、問答無用で皆に愛されてたかと思えば、胸が切なくなるよ。


飲んで効くんなら塗っても効くんじゃね?と言う素直さが滲み出てる実に民間薬らしい安易さだ。

元気草が何処までの性質を持ってるかは分からないけど、飲んで活気を与える事にだけ注目すれば、皮膚に栄養を与えて再生を促す働きも有るのかも知れない。


ダブリンが睡眠薬の素材になる性質が有るなら鎮痛作用があっても変じゃないし。

油は水を弾く性質があるから、カブレの原因である汚物を弾くから、オムツカブレにも効果が有るのも分かる。


また油は皮膚を保護してくれる働きもあるから、水仕事が多い主婦の指だって塗れば赤ぎれになり難くなるし、乾燥肌の保護にも役に立つ。

使用する量も少なければ副作用だって少なくなるし、そもそも元気草を食べたがる幼児は居ないから、苦くて誤まって食べる子供も居ないだろしね。


「⋯ねぇお母さん。その原料の他にウチに伝わる秘伝の隠し味みたいな素材は他に入れてない?

あと作る時にお母さんだけがしてる工夫とかもあるよね?」

「うん?ウチでは庭にあるタマの実を絞って入れてるわよ。」

「あぁ⋯だから目に染みるんだね。」

「あら?そうなの?

少しでも良い匂いに成ればいいのにって思って、教えて貰った量よりちょっと多めに入れてるのよ〜。」


タマの実とはスダチみたいな柑橘系の果実の事だ。

ウチに出される甘い果物と言うと、コレが出される。

洗濯物の絞り木や、井戸掃除に使われてる木がタマと呼ばれてて、このタマの実を実らせるんだけど。


夏は緑色の小粒の実で、味や匂いや見た目がまるでスダチみたいでも、秋になって熟せば皮が黄色くなって、ほんのりと甘くなるからデザートとして使われてる。

採っても保存が効くから、次の年になってもまだ残ってる事も有るしね。


ビタミンCの塊みたいな存在だから、軟膏に入れたくなる気持ちは分かるけど。

酸味が強いって言うのは、それ強酸性だから。

お肌に良いのは弱酸性までだからね?


目の近くに塗ったら染みて痛くなるのは当たり前なんだよ。

むしろ何で傷薬にソレを入れたの?

傷口に塩を塗るのと同じ事をしてるんだが?


そりゃオムツカブレで痒みも止まるよ。

染みてるんだからね?

ダブリンの鎮痛作用のお陰で、ギリギリ傷口が痛くないのかも知れない。

でもタマの実の生搾りは強酸性だと思われるので、酸性ゆえんの刺激は鎮痛作用だけでは誤魔化されてくれて無いんだと思う。

柑橘系の匂いが良いからってだけで、安易に工夫するのは止めて頂きたい。


「お母さん⋯薬がツンて目に染みて、傷は痛くないんだけど、涙が止まらないよ?」

「あらあら⋯やだぁ~。

ゴメンなさいね〜!

ウフフフ⋯」


ちなみに食べたら分解されてアルカリ性食品になったりするから、人体って不思議よね。


てか中和ってどうすりゃ良いんだ?

竈門の灰でも塗ればいいの?

でも傷口に灰を塗るのってどうなの?

もう誰かタスケテー!




曲名調べるのに映像で【ボディガード】のヒロインが、女性歌手役なのに監督の趣味で日本刀を武器として持たされてるのを見て噴いたのって私だけ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ