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突撃農家の昼ごはん!


私はリリアナ。

今年の春に2歳になった女の子だ。

薄茶色の髪に空色の瞳をしていると思われる。

多分美少女。

鏡が無いので自分の顔はまだ見たことないけど、母と姉が美しいので、きっと私もそうだと思う。

身長は多分80cmくらい。

体重は分からない。

でも太って無いから軽い方だと思う。

お腹はまん丸でポコンとしてるけれど、手足はスラリとしてるので標準より少し痩せ型と言った所かな。

今私は日陰を見つけたら魔力草を探して、平和な毎日を過ごしている。


魔力草はお日様が苦手なので、陽の当たらない場所にしか生えていないからだ。

村外れの林の中では割と生えていたけれど、幼い私の行動出来る範囲はせいぜい家から歩いて1時間以内の場所にしか行けないので、林にはたどり着け無い。

でも家の周りは畑になっているので、日当たりがとても良いから日陰が少なくてとても困っていた。


世界を揺るがす世紀の大発見とやらをしたと、錬成師見習いのお嬢さんに言われたが、今の所私の平穏な生活は続いている。

何故ならお姉さんが言うには、私が思いついた理論の証明をするのに、お嬢さんが簡単だと考えていた死刑囚を使う実験方法では、その実験を行う事すら難しいと、お嬢さんのお師匠様に駄目出しされたからだ。


何故難しいかと言えば、人間はある程度魔力濃度が濃い場所でも生きて狩りをしているので、それよりも濃い場所を人工的に作るとなると、黒魔石が何個も必要になるらしい。


黒魔石はとても値段が高い素材なので、例え世紀の大発見の証明とは言え、コストオーバーが過ぎてしまう。

死刑囚をいれておく部屋が狭ければ、濃度を下げないために密閉した空間を作っているせいで、濃度で死ぬ前に吸える空気が無くて死んでしまうと、お嬢さんのお師匠さんは指摘したらしい。

流石見習いじゃない、ベテランの錬成師さんである。

水中で呼吸が出来る事をテーマに、薬や魔導具を使って行った研究論文の中に、限られた空間では生きる為に必要な空気が有ると言った記載があったのを覚えていたそうだ。

これにはお嬢さんも苦笑い。

死刑囚は安くても黒魔石は高い。

じゃあ安い魔石を使えば良いと思うが、結局使用する個数が増えるだけなので、値段はあんまり変わらなくなっちゃうとか。

つまりお嬢さんが考えた実験はボツになった。


ではどうやって太陽が魔力を消すと言った理論の証明をすれば良いのか。

お嬢さんとお師匠さんは沢山悩んで考えた。

そこで現時点での報告がてらウチに来たので、その話を聞いた私は、素材に太陽を当てて何が変わるか実験してる人がいるなら、その実験が何も出ない事の証明にならないかと聞いたら、お嬢さんが物凄い顔をして帰って行った。

お嬢さんのお師匠さんに逢うとかの話は出て来なかった。

きっとそこまで話がたどり着く心の余裕が、お嬢さんやお師匠さんに無かったんだと思う。


そしてそこから1週間経っても何の音沙汰も無いから、今私は平穏な魔力草探しの生活を続けているのだ。


ちなみに1日歩き回っただけで、家の周りで魔力草を探すのは断念した。

一応1本は見つけたよ。

祖父の家にある倉庫の裏に生えてた。

でも3日で10本集めるのは不可能だと判断するには充分だ。

なので栽培する方向に思考をシフトする。


栽培するには植物の生態情報と、種が必要だ。

なので祖父の家にある倉庫の裏に毎日通って、魔力草を観察することにした。

でも魔力草だと思うけど、私が見つけた物は林で見た魔力草に比べて小さいし、ヒョロリとしていて元気が無い。


理由は分かる。

日当たりは悪いけど、風通しが良いので割と明るい場所だったからだ。

これならまだ木陰の多い林の方が薄暗かった。

だからこれが本物の魔力草か、一応お嬢さんに確認はとってある。

お嬢さんの話を聞く前に飛び付いて、引っ張って来て現物を見せた甲斐があったと言うものだ。

お嬢さんの話を聞くのが先なら、魔力草の確認は出来なかったと思う。


そして晴れて本物の魔力草だと分かったので、観察を続けていたんだけど⋯。

翌日に見ても魔力草が成長してる気がしなかったのだ。

むしろ前日よりも葉っぱの元気が無い気がして、私はハッとした。

夏に向けて段々と暖かくなって来てるから、太陽の高さが変わって来てるのではと考えたからだ。

つまりこのまま生態を観察してたら、種が出来る前に枯れるんじゃないかと予想した。

発見した翌日に早くも観察継続の危機である。


なので植物の育成に詳しいプロに一応相談してみた。

父である。

魔力草の生態について説明して、私が気が付いた事を話したら。

「それなら陽に当たらないように、何かで囲いを作れば良いんじゃ無いか?」


でもそれをしてしまうと、雨が振っても魔力草に当たらなくなってしまう。

あんまり雨は降らないけれど、それでも屋根を作ったらそうなる。

なら私が朝晩お水をかければ良いと言われたので、なるほどと思ってそうする事にした。


毎朝井戸で汲んだお水を入れてる所にお邪魔してお水をわけてもらい。

夕方は瓶に汲み置きしていたお水を、8分目で大体200CCぐらいの木製のコップに入れて、えっちらおっちら持って行った。


魔力草の屋根は小枝に藁で編んでる袋を乗せて作ってある。

小麦(アムル)を入れてる袋だけれど、使い古して使わなくなったものを父に貰ったのだ。

小枝は近所の小籔から拾ってきたものを使用した。


すると5日目にはもっと魔力草の元気が無くなってしまった。

1番上の頭の部分が萎れてクタリと垂れ下がっているのを朝に発見したのだ。


そこで私は気が付いた。

お日様の光を警戒していて、月の光の効果を忘れていた事だ。

つまり少なくても魔力草には月の光を当てる必要があった。

萎れてしまったのは、月の光が当たらなくなったせいで、育つ為の栄養。つまり魔力が足らなくなったのだと気が付いた。


では魔力草を助けるにはどうすれば良いか。

日除けの藁の袋を夜に外してあげれば良い。

でもコレだけでは月の光が足りる保証は無い。

日によっては曇る事もあるからだ。

既に魔力草は瀕死の状態に見える。

このまま何もしないで枯れさせるぐらいなら、手を加えても良いのでは無いかと覚悟を決めた。

そして私は父の手を借りて、慎重に根っ子を傷つけないように魔力草の周りを掘って土ごとコップに移そうとしたが、そこで排水に困った。

植木鉢には排水用の穴が有るが、コップに穴はついていない。

じゃあどうやって穴を開ければいいか。

コップは木で出来ている。

ナイフで削ると割れてしまいそうだ。

切り抜きが有れば小さな穴を沢山開けることが出来るが、そんな道具は無い。

コップに穴を開ける為だけに、銀貨を支払って道具を買うのもどうかと思われてしまう。

ウンウン悩んでたら、ふと水で栽培する方法を思いついた。

ひょっとしたら土が無ければ育たないかも知れないが、ビチャビチャになった土をどうすれば良いか悩む必要はこれでなくなる。


だから私は根っ子の土をお水につけて落とし、お水を入れたコップに小さく萎れた魔力草を入れてみた。

ちなみに此処で使ったお水は、魔力で出した水だ。

井戸水よりも、魔力を使って出す水の方が、魔力草の栄養となる魔力が入っているかも知れないと推測したのだ。

でも私はまだ魔力が出せなかったので、父におねだりして出して貰った。

仕事で魔力を使うのでちょっと渋い顔をされたけれど、萎れた魔力草を必死に何とかしようとしている私に流されてくれた様だった。

土を使わない事には渋い顔をしたが、コップには底が有るから地面みたいに水が抜けないとか、アムルと違って必要な栄養は魔力だから土は要らないとか、理由を沢山説明してそんなもんかと納得して貰った。

多分私が植物を育てるのに興味を持った事が、父には嬉しかったのかも知れない。

カタリナは農家の仕事に興味は無いし、ロベルトも狩りの方に興味を持っている。

マルセロは何方かと言えば生き物が好きで、祖父の家の鳥の方に興味を持っていた。

私は錬成師になる夢をもっている事を知っているが、白金貨が高い事を知っている父は、その夢を諦めた時に農家になれば良いとでも考えたのかも知れない。

これは父の反応を見ての推測だけど、あながちハズレては無い気がする。


母はまた違った様子で、今まで子供の遊びに興味が無かった私が、夢中になれるものを見つけたと喜んでくれていた。

まだ2歳なもので、将来どんな仕事をするのか深く考えて無いんだと思う。

私が錬成師になりたいと思っている事は知っているけれど、お嬢さんは理論の方に意識を取られているので、その辺の説明を全くしていないのだ。

私もまだお嬢さんからの指示が何も無いので、大発見がどーのこーのと言うのは言い出せずに居た。

むしろ魔力草に夢中ですっかり忘れてたとも言う。


さて私がコップに入れた魔力草は、救出した翌朝には完全に復活してくれていた。

それはもう驚く元気さに、一家全員がビックリして笑った。

あ、ジーニスは別。

赤ちゃんなので家族だけど、ちょっと無しの方向にお願いします。


とまぁこんな調子で朝にコップ一杯ほど、魔力で出す水をお強請りして出して貰い、魔力草はジーニスにイタズラされない様に気をつけながら、家の中でスクスクと成長することになった。

もちろん月の光には当てる必要が有るので、太陽が沈んだら家の外に置いて月の光が沢山浴びられるようにした。

農家は日の出前に活動するので、夜が明ける前に外の魔力草の水を交換した後、家の中に戻す。

と、行った生活を送っている。

私は元々早寝早起きで、日が沈んだら寝て、父が起きる時間には起きてる子供だった。

これは私だけで無くて、皆が自然とそうなってしまうのだ。

多分20時に寝て5時に起きる生活である。

ジーニスは除外。

母はジーニスが産まれた後、夜間も授乳で不規則に寝たり起きたりしてたけれど、ジーニスが産まれて半年たった頃から、夜にガッツリ寝られる様になっている。

爆乳なのでタップリお乳が飲めるせいで、夜泣きが消滅したからだ。

ちなみにジーニスが産まれたのは去年の夏だったので、そろそろ1歳になるのだけれど、お誕生ルールのせいで、彼は来年の春まで0歳児。

ちなみに私は初夏の産まれらしくて、あと1月もすれば3歳なのだが、来年の春まで2歳児だ。


そして観察を初めて順調だった魔力草に変化があったのは、家で保護してから10日目。

15cmぐらいしか無かった魔力草がスクスクと伸びて30cmまで成長し、蕾がソロソロと行った所で急に萎れ始めてしまった。

花を咲かせる為の魔力が、月の光とコップ一杯の水では足らないのでは無いかと推測した。

なので葉っぱに使ってる魔力を蕾の方に回しているのかも知れないと予想する。


本数が有れば育成方法を変えて試せるが、今は一本しか無い。

種まで出来るかは分からないが、なるべくなら上手く育って欲しかったので、魔力のお水をコップ一杯から朝晩交換のコップ2杯に増量してみた。

これでダメなら肥料で良いものが無いか考えるしか無い。

魔力草の栄養は魔力と考えられるので、魔力を増やす効果があるのは何だろうと思えば月しか知らない。

でもそれなら現状も同じはずなので、肥料の増加を期待するのは難しい気がする。

いや、まてよ。

木のコップだから外に出してても、月の光は水面しか当たってないなと思い当たった。

けれど透明のコップなんて持って無い。

今の所手段が無いので、交換で何とかなって欲しいと祈る気持ちだったが。

何とかそれで補えることが出来た。

家で栽培を始めて20日目の夜に、綺麗な青い花が咲いたのだ。

この日ばかりは珍しく少し夜更かしをした。

でも蕾がかなり膨らんだ所で寝てしまい。花を見たのは翌朝だった。

咲く瞬間が見られずに無念だけど、まぁ2歳児だからこんなもんだろう。

そして花が咲いた3日後の朝。

朝起きたら花だけじゃ無く、葉っぱ全部が萎れてて、グッタリと地面に倒れていたので思わず泣いてしまった。

暗くてよく見えて無かったけれど、父が直ぐに種を見つけてくれてビックリした。

2歳児の私の小指ぐらいの爪の大きさの茶色の種が、地面にパラパラと散乱していたのだ。

日中はお日様の当たる地面だったので、土が乾燥で白かった為に、夜明け前の薄暗い時間帯でも辛うじて見つける事が出来たのだ。

つまり発見して27日後。

私はとうとう魔力草の栽培に成功したのである。


でもまだこれは完全な成功とは言えない。

何せ種から育てた訳では無いからだ。

今度はこの種を使って魔力草を栽培しなければならない。

最初の難関は発芽だ。


見つけた種は全部で15粒あったので、まずは5粒の栽培を開始する。

でも此処で1つ問題が浮上した。コップを5個も使えない問題だ。

なので朝食の時間に家族に水袋が無いか相談してみた。

この時何故水袋で聞いたかと言えば、水筒代わりの革の水袋を見知っていたからである。

そしてコップだと置き場所に制限されるし、成長したら背が高くなるので魔力草の重みでコップが倒れ易く、ヒヤヒヤしてた事も大きい。

小さな水袋を作って魔力草の根っ子を入れて、紐で口を縛り。

さらに紐で壁にぶら下げてみたらどうかと考えていた。

夜は木桶に革袋ごと突っ込んでおけば外にも置ける。


でもどうやら水袋はお高いらしい。1つ銀貨3枚もするんだとか。

そもそも小さく加工するなら、水袋に加工する前の皮を買えば良いんじゃないかと言われた。

でも果たして素人が作って水が溢れないかどうか分からない。

なのでこの案は1回保留となった。


でも発芽チャレンジしたら容れる容器が必要になる。

それじゃあ採取瓶が1つ銅貨1枚だった事をこの時思い出した。

革袋をぶら下げる案も気に入っていたので捨てきれ無かったが、魔力草の種10個を売れないか聞いて、売れれば採取瓶が手に入る。

それならコップが足りない問題は解決する。

もっと言えば水漏れを気にする必要が無いので、皮で袋を作れば吊り下げの工夫が活用出来るといっきに問題が解決する。


発芽後の憂いがなくなり、魔力の水を入れたお皿に種が半分浸かるように置いて発芽セットを作った。

発芽するかちゃんと確認してから、私は錬成師屋さんに向かう事にする。

母にそれを相談してたら、お嬢さんがまたウチに突撃して来た。


目の下に隈を作ってて、雰囲気からして怖い人にしか見えずに、母と姉とマルセロは大いにビビった。

ちなみに騎士つき。

騎士の2人は前と違って父が居ないせいか、普通にニコッと爽やかさを醸し出してた。

父とロベルトは久しぶりに狩りに出掛けてたので不在だったのだ。

なので女と子供しか居なかったから、彼らも配慮してくれたのかも知れない。

そこで威圧されても困るので良いのだが、笑顔の理由が良く分からなくて不思議だった。

イケメンの笑顔でキャー!とならないぐらいにはカタリナはまだ幼いし、母は性格的にのんびりしてる。

だからなのか騎士の2人は機嫌が良さそうで、目が血走ってるお嬢さんとの対比がヤバかった。


「父親はいないのかしら?」

「こんにちは、お姉さん。お久しぶりです。

父は今、長男と狩りに出かけてますよ。」

「そう。中に入れて頂戴。話しが有るの。」


お昼ご飯前にやってきて、たのもー!と、聞き覚えのある声を聞いて出て来た私達に、目が血走って草臥れてるお嬢さんが、挨拶も無しに話し始めだした。


普通は2歳児よりその後ろに立ってる母親と交渉すべきだと思うのだが、どうせ母も騎士を連れたお嬢さんに嫌ですとは言えまい。

錬成師見習いと言う、素性も知ってる仲である。

なので「どうぞ」と促せば、カタリナと母はギョッとしてからも、無言でワタワタしながらキッチンとリビングが隣接してる部屋に入って行った。


竈門が置かれている床は地面が剥き出しで、食事をする場所は一段床が高くなっている。

部屋の中央に大きな机が1つ置かれていて、周りに子供用の背の高い椅子が1つ。他は大人も使える椅子が6つ取り囲んでいた。

お皿を収納する棚が、竈門が見えないように部屋と竈門の境目に置かれているのだが、物凄く生活感に溢れたリビングになっている。

何せ床に毛皮を敷いてそこにジーニス用のベビーベットが置かれているし、昼食の支度で芋の皮を剥いてたせいで、テーブルにドーンと籠が置いてある。

他にも縫い物途中で置かれてる籠とか、布とか⋯取り敢えず恥ずかしいリビングなのだ。

カタリナと母は青ざめた顔をしながら、必死に皿の棚で隠れてる場所に色々と追いやっているが、ベビーベッドは動かせないし。まぁ早い話が取り繕う暇も無く、お嬢さんはリビングに騎士を連れて入って来た。


めっちゃ圧迫感。

主な原因は2m超えの騎士2人。

でも日本の家屋と違って天井が高く吹き抜けの構造になってるので、リビングの入り口で騎士が頭をぶつける事は無く、ドアもないので楽に入って来た。

そして部屋の造りをちょっと不思議そうに見回している。

その場所からは見えないが、皿の棚の後ろには、竈門から外に出られるようにドアがあったりする。

何故から水瓶が竈門の横に置かれていて、そこの裏から井戸に出られるからだ。


騎士からすれば壁が近くて椅子の後ろに立つのも何となく窮屈そうだった。

主な原因はベビーベッドである。

だからかカルマンさんは竈門のある土間に逃げる様に移動した。

カタリナと母が必死に隠したアレコレが丸見えになっているかと思われる。

でもどうせ騎士は気にしないと思って直ぐに流した。

お嬢さんは椅子に座るのを少し躊躇したけれど、諦めた様子でいつも父が座ってる所に腰を下ろした。

いわゆるお誕生席だ。

入り口から近い場所だから座りやすかったのかも知れない。

前世の認識からすれば、下座になる。

我が家では部屋の奥にベビーベッドを置く都合で、身体の大きい父が広い空間を求めてそこに座っている。


母は竈門に行く必要があるので、父の右側に座っており。

本来なら父の左側はカタリナの場所になるのかも知れないが、ジーニスの面倒を見る都合で母側の1番奥に座っている。

なのでロベルトが父の左側。

その横がマルセロで、最後が私。

私の真後ろがベビーベッド。

そして私の正面がカタリナだ。

普通なら母とカタリナの間が空いてるので、幼い私はそこに座った方が、母達が私の面倒を見るのに都合が良いのだが。

何せ私なので。

1歳になれば自力で訓練して直ぐに飲み食い出来ていたので、面倒を見てもらう必要があんまりないので、小さな椅子を置く都合でこの形になった。


「持て成しは良いから全員椅子に座りなさい。」


初っ端から無気力に威圧モードらしく、騎士がこっちに来ちゃった!と、ワタワタしていた母とカタリナが、スゴスゴと土間から戻ってくる。


ちなみにマルセロは泣きそうな顔をしてベビーベッドの横でオロオロしていたが、お嬢さんの命令にビックとして、だぁだぁしてるジーニスとお嬢さんをキョロキョロと見てから、ジーニスをヨイショ!と抱き上げようとした。


「弟はベッドで良いですよね?」

「え?あぁ⋯そうね。そのまま置いてて良いわよ。」

「だー!うきゃ!」


ベビーベッドの柵に捕まって、意味不明にリズミカルな屈伸運動してるジーニスからサッとマルセロが離れると、急いで私の横に歩いて来る。


「ギルバートさん、この椅子とこの椅子を交換して下さい。

お姉さん、何かお茶とかあったら勝手に出してくれて良いですよ。

お菓子も出してくれたら私が嬉しいです。」


私はお嬢さんの相手をする都合で、ベビーベッドの側にあった足が長くて小さな私の椅子を、いつもロベルトが座っている椅子と交換してもらった。

するとマルセロがホッとした様子で狭い空間なのに、わざわざベビーベッド近くの交換した椅子に座る。

無意識かも知れないが、なるべく離れたいと思うぐらい、お嬢さんに怯えてる気配がしたけどスルーした。

現実逃避か分からないが、マルセロはお嬢さんに背中を向けて、真後ろにいるジーニスの相手をしてくれてる。


「⋯そ。悪いわね。」

「あ、ギルバートさん。

ありがとう御座います。

ギルバートさんもカルマンさんも、座れるなら好きな所に座って下さいね。立ってても邪魔なんで。」

「俺は此処で良い。」

「私も護衛なので。」

「椅子が壊れたら悪いもの。気にしなくて良いわよ。」

「分かりました。あ、お茶ありがとうございます。」


話しをしてる間に、椅子から立ったお姉さんが、綺麗なポットと花柄の素敵なティーカップボコボコと机に置いて、ポットがシュンシュンしてから茶葉を入れると、軽く揺らした後で私の目の前にあるカップにお茶を入れてくれた。

てぃふーる?なんか前世でみた感じのポットだが、お湯が沸くのに10秒も経ってない気がするからコッチの方が優秀だ。


「魔導具ですか?薪が要らないの、便利ですね。」

「そうよ。そのうち買えば?」

「んー、先に魔法鞄が欲しいですね。力が無いんで。」

「なら頑張って魔力草を集めるのね。」

「あ!それなんですけど、魔力草の栽培に成功して種が採れたんです。なので⋯」

ドン!ガチャン!

「⋯はぁ?」

「お湯!お湯が!お湯は危ないです!」


魔導具のポットを机に叩きつけないで欲しい。

まだお茶を注いでない綺麗なティーカップが、振動で少し浮いてガチャンって鳴った。

お茶が入ってる方もユラユラ揺れて少し溢れてる。


「いやいやいやいや。

待って?ねぇ、待って待って待って⋯お願い、お願いよ。ちょっと待ってよ。ねぇほんと待ってくれない?」

「はい!まってます!」

「待ってないじゃ無い!

何をやってんの?!

まだ1ヶ月しか⋯ちょっと待ってよ、ほんと早い!

早いのよ次が。

次が早すぎるのよ貴方ぁ〜⋯」

「あ、ギルバートさんありがとう!」


お嬢さんの手から華麗にポットを奪ったギルバートさんに拍手したら苦笑された。


「外に向かいますか?」

「⋯⋯そうね。ちょっと胸が苦しいの。変ね。私⋯ちょっと疲れてるのかも知れないわ⋯」


ギルバートさんがポットをテーブルに置いてる隙に、サッとお姉さんが部屋の角に向かった。

外に出なくて良いらしい。

そして立ったまま角におデコを当てて静止してる。

明らかな奇功に私の家族が全員視線を釘づけにされてる。


「お母さん、お茶を継いであげて。せっかくのお茶が苦くなっちゃう。」

「え?!」


こんな高そうなポット、私が触るの?!

みたいに物凄くキラキラしいポットを見つめてコクリと唾を飲み込むと、少し震えた手つきで恐る恐るの持ち手を持ち、まだお茶の入って無い綺麗なカップに注ぐ。

何だか爆弾の解体シーンみたいな緊張感があって、逆に面白くなる。

お湯は危険だからね。

バーン!とか大きな声を出してみたくなるけど、母が悲鳴を挙げてポットを投げそうなので自重しておく。


そんな楽しい妄想してたらお茶を次終わり、母がホッとした様子でポットを置いた。

まだ熱いからフーフーして軽く口をつけたら、華やかなお花の匂いがするオレンジペコみたいな苦味の少ないお茶なんだけど、色が黄緑色だからハーブティーっぽい。


「お姉さん。お茶が入ったよ。美味しいから飲みませんか?」

「⋯そうね。」


後ろ向きな地縛霊っぽかったお姉さんが、無表情のままお誕生日席にストンと座った。


「お姉さん、甘い粉入れたいです。あと匂いの無いマモーみたいな乳があったら入れたいです。」

「⋯⋯」

「混ぜる匙が、あ。ありがとうございます。」


スゲー!言ったら何でも出て来る。

机にポンポン錬成瓶が出てきて感激する。

甘い粉の透明な錬成瓶はキラキラしててお洒落なデザインだし、ミルクの方は銀食器の口の長い急須の中に入ってた。

金のスプーンもお洒落で、液体を掬う匙の真ん中が陶器になってて、薔薇の絵柄が入ってるお姫様みたいなスプーンだった。


「美味しい!」


臭く無いミルクもあるんだ!

ミルクティーの概念があってメッチャ嬉しい。

お嬢さんが青くて丸いタヌキの人になってる間に、甘いミルクティーを思いっ切り満喫する。

そんな私を見てた母もカタリナもマルセロも、恐る恐ると交代で真似し始めて、口をつけた瞬間、無言でキラン!と瞳を輝かせた母とカタリナは「おいしい!」と口パクで言い合い。

最後に飲んだマルセロは目を光らせた後で、口をひし形にして身体をプルプルさせた。


するとお嬢さんの真後ろに立ってたギルバートさんが。

ブフン!グフン!と、変な咳払いしたら、んん!とつられたカルマンさんも小さな咳する。

それでハッとしたのか、テーブルを見つめてお茶を飲んでたお嬢さんの視線が、ミョンミョンと横揺れしているマルセロを見てピタリと止まる。

そしてえ?何?みたいな感じで凝視しかけた所で。


「美味しいです!

この乳は一体なんの乳ですか?!」

「え?えぇ⋯これは⋯」


私はお嬢さんの注意をこちらに向ける。

何の乳か知りたかったのもホントだよ。


「マグラシアね。」

「何の魔物ですか?」

「魔法生物よ。マモーの元になったマーモンを使って改良したのがソレね。

マモーは肉も乳も味は良いけど、少し独特な匂いが残るでしょう?それを植物の魔物で改良したのがマグラシアなの。何の植物を使って改良したかは秘匿されてるわね。」

「マモーの匂いは少しではありません。」


私はスンと真顔になって全力で主張する。


「そう?」

「お母さん!マモー出して!」

「え?!」

「お姉さん、ちゃんと飲んでから感想をお願いします。」

「え?⋯えぇと⋯」


お嬢さんは困った様子でチラリと背後を伺う。


「私も味見をさせて頂きたく。」

「お願いします!」


多分毒見かな?と思ったので、全力で頷く。

そして恐る恐ると言った様子で、マモーの入った瓶を母が持って来る。


「今朝買ってきた乳なので、まだ悪くはなってないとは思うんですけど⋯」


父が畑で働いてる頃、カタリナが乳を買いに行ってくれてる。

それを持って来た。


「失礼。こちらのカップに入れて頂けますか?」

「は、はい。」


木のカップはマズいと思った母が、木のオタマを持って構えてたら、ギルバートさんも腰にあるポーチからマイカップらしき銀製のマグカップを取り出す。


「⋯これは今朝の乳で間違い有りませんか?」

「は、はい。あの⋯ちょっと味見しますね。」


なんかマズい?と慌てた母が木のコップに入れて口に含む。


「あ、良かった。

何時もの味で間違いないです。」

「⋯そうですか。」

「何か変な匂いしますよね!

少しなんて可愛い感じじゃ無いと思うんです!」


私は鼻息も荒く主張すると、視線を向けて来るお嬢さんに小さく頭を横に振って返事を返す。

お嬢さんが飲むのは駄目らしい。


「ギルバートまだ残ってる?」

「はい。」

「そこに置いて。」


机の上にマグカップを置くと、お嬢さんは魔法鞄から瓶とスポイドを取り出す。

そしてマモーの乳をスポイドで吸ったら、瓶の中に入れて蓋をした。


「浄化 ちょっと調べとくわ。マモーは優秀な魔法生物よ。

私はあの匂いが苦手だからマグラシアを使っているけれど、ギルバートが違和感を持つなら何かの理由があると思うの。

今回だけならまだしも、何時もの味と言うなら、少し気になるわ。」

「ありがとうございます!

毎回物凄く苦手だったので、少しでも匂いが良くなったら嬉しいです!」

「ちなみに貴方なら、匂いが悪くなる原因は何だと考える?」

「⋯そうですね。 

今までマモーが元から持ってる匂いだと思ってたんですけど、そうでないなら真っ先に疑うのは入れ物です。

洗い方が悪いのか、長い間使ってるから洗っても変な匂いがついて取れないのかは分かりません。

乳を採る時にもし素材が木の入れ物を使っていたら、陶器の器よりも匂いが染み込み易いと思います。

マモーの近くで働いてたら匂いに慣れてしまってて、乳を採る人に気付いて貰えてないのかなって思いました。」

「容器の材質までは思いつかなかったけれど、私も衛生状態を疑ったわね。

でも言われてみたら体調不良が無いのだから、それが答えな気がするわ。

作業を思えば木製の方が軽いし、破損もし難いもの。

体調不良になれば異常も気付けるけれど、匂いが変質してるだけなら、常用してる者は変化に気が付かなかったのかも知れないわね。」


どうやらお嬢さんはいつもの調子を取り戻して来たみたいだ。

レモン色に光った後、採取キットらしき物を魔法鞄にスッスと直して行く。

ギルバートさんのマグカップもついでに綺麗にして貰ってたので、腰のポーチにスッと消えて行った。

そしてマグカップを直す動作の最中に、ギルバートさんの口元もレモン色に小さく光ってた。

ウガイの代わりに綺麗にしたのかな?

あの匂いは嫌なものだ。

ギルバートさんも嫌だったらしい。


そして私の意識はポーチに向かう。

魔法の鞄、めっちゃ便利。

あれ作る。

私も絶対に作りたい。

私の胸に小さな炎がぼわりと灯った。


「ごめんなさい。

先ほどは予想外な事が起こったから少し取り乱してしまったわ。」

「少し?」

「黙らっしゃい。」

「それでさっきの話を続けても、もう大丈夫ですか?」

「いいえ。あまり自信は無いわ。後で必ず聞くから先に私の用件を話させてくれるかしら。」

「はぁ⋯絶対に聞いて下さいね?約束ですよ。」

「聞きたくなくなって来たわ。」

「えぇ~!」

「だって貴方、またやらかしてるわよ。まぁ貴方らしいのかもね。どうせ黒魔石だし。」

「人間です。

でもそんなに駄目なことですか?作ろうと思えば作れるんですよね?」

「そうね。とりあえず設備に白金板50枚使って、毎日白金貨1枚使えば作れるのは確定してるわね。」

「はい?」

「貴方、お金を幾ら使って栽培したの?」

「⋯えっとコップって幾らした?お母さん。」

「え?コップ?」


私とお嬢さんの視線を受けた母が目をウロウロさせてキョドり出す。


「えぇ~と⋯5個で銀貨1枚ぐらいだから⋯」

「なら銅貨20枚です。」

「⋯計算、早くないかしら?」

「え?だって『割り』やすい数ですし。」

「わり?わりって何?」

「私が考えた数を数える方法です。」

「凄く気になるけど⋯まぁ良いわ。」

「他に今回家族に魔法の水を出して貰っていたのですが、値段が分かりません。」

「量は?」

「お姉さんに確認した魔力草が有りましたよね?」

「えぇ⋯」

「確認した日から10日は1日にコップ1杯分。それから13日1日に2杯の魔力の水を使いました。

他にアムルを入れる藁袋と小枝も使っていますが、値段は分かりません。

今回有るものを使ったので、お金はかかっていませんが、次からは使わない物になります。

逆に使いたいものが有るので魔力草を育てるのに必要なお金が幾らかは、まだ安定してません。

実験の結果で色々と変わると思います。」

「アレを使ったの?アレを?え、アレで出来るものなの?どうやって⋯?」

お嬢さんは話を聞いてギュッと眉間にシワを寄せて虫歯の痛みを我慢したみたいな顔になったけど、スッとまた元に戻った。


「途中だけど、やはりこの話は後にしましょう。

どうせならメモも取らないと駄目だもの。二度手間になるわ。」

「あ、はい。」

「はぁ~。ヨシ!

それではこちらの話を先にするわね。」


メッチャ可愛く気合いを入れてキリリとしたお嬢さんは、私達に視線を向け。


「まず金貨以上の価値があまり分からないとリリアナから聞いてるわ。

私の説明を始める前に一度お金の説明をさせて貰いたいの。

よろしくて?」

『え?』

「それにはお金を置く場所が要るので、邪魔になる物は一度片付けるわね。

飲んだら器をこちらに戻して頂戴。」

「お茶を飲んだらそのままお姉さんに渡して欲しいんだって。甘い粉と乳の容器も返してね。」


お姉さんの説明にキョトンとしていた家族が、ワタワタと一斉にお茶をグビ!とあおると、お姉さんの前に持って行く。

甘い粉とミルクもだ。

全てが目の前にそろってから、「浄化」と言ってピカリとレモン色に輝かせた後、スッと全てを鞄に収納した。

どうやら一度に鞄に入れる方法があるらしい。

便利だなぁ。


「ではお金の説明をするわよ。」


何も無くなったテーブルの上に、お姉さんはドン!ドン!と薄茶色の上質な革袋を置いて行った。

丸々と丸く太った袋も有れば、ペタリとした中身の少ない袋も置いてある。


「先ずはおさらいから始めましょう。これが銅貨で100枚よ。

ギルバート皆さんが見えるようにしてあげて頂戴。」

「⋯ふぅ。私は⋯。」

「重いの。」

「⋯判りました。」


ちょっとした攻防があったけど、チラリとしゃーねぇなぁみたいな雰囲気を上品に滲ませたギルバートさんが、直ぐに折れて決着する。

先ずは1つ。

彼がスッと長い腕を伸ばすと、お姉さんの1番左に置いた袋を縛ってあった焦げ茶色の紐を開くと中央に置いて皆に見える様にした。


『おおお〜⋯』


マルセロは椅子の上に立ち上がり、カタリナは椅子の前。

母はテーブルに爆乳を置き、身を乗り出して銅貨100枚をのぞき込んだ。

馴染みのある銅貨だけど、100枚なんて重いし滅多に持ち歩かない。

だから量の多さにキラキラとした顔をして楽しそうになった。


「次が銀貨ね。」


また同じように丸々とした袋が、ドンと銅貨の袋の横に並んだ。


「銀貨だ!」

「凄いわ!沢山ある!」

「はぁ~⋯お金持ちさんですねぇ〜」


マルセロがはしゃいで跳ね上がり、カタリナもわぁ!と歓声を挙げる。母はのんびりとした視線をお嬢さんに向けた。

私はもうこの時点で沢山置かれている残りの革袋の意味が分かった。

確かに量と現物の説得力が有れば、皆もわかり易いだろう。


「全部するんです?」

「やるわよ。じゃ無ければ理解出来ないでしょう。」

「しても何処まで分かるか⋯」

「やらないよりマシではなくて?」

「つまりそんな手間をかけてまで大きな話になると?二度手間では?まだ父と兄が居ませんよ?」

「話の内容によればそれ以外にも増えそうだもの。そっちはまた全員揃えてから同じ説明をするつもりよ。」

「二度手間になるけど、元々二度手間になるから同じだと。

そんなに大きくするんです?」

「必要だと思うわ。

もちろん最低限を目指すつもりよ。」

「1人に伝えれば村中に廻りますよ?」

「契約で縛るの。」

「人の口は閉ざせませんよ。」

「⋯そう。知らないでしょうね。大丈夫よ。1言も秘密は漏らせないわ。それが例え赤子でもね。」

「あぁ⋯魔法ですか。」

「そうよ。」

「不便になって皆挙動不審になりそうです。」

「やり方次第ね。まぁ最低限にするから大丈夫だと思うわ。

そうでなくても必要な事なの。」


母子が銅貨と銀貨でワイワイ楽しくしてる横で、私はお嬢さんとの会話で憂鬱になった。

まぁ⋯本音を言えば忘れてたけど、流石に1月もあれば覚悟も決まる。

私は錬成師になりたいのだから。


銀板、小金貨、金貨、金板、小白金貨⋯と、どんどんと続いて神赤金の板まで出たら最後にドン!と、透明な錬成瓶の中に入った黒魔石も出て来た。

大きさはジーニスの頭ぐらいある。

思っていたよりも大きかった。

つまりこんな大きな物が体内に有る、大きな魔物が持ってる魔石だと言う事だ。

確か7か8級以上だったっけ?

あの大きな死骸だったヤラマウトが5級だった事を思えば、なるほどなぁ〜とは思う。


紛れもなく真っ黒い石だけど、綺麗な球体では無く。

けれども球体に近い形で、小刻みにカクカクしたミラーボールみたいな感じだ。

触れないので感触は分からないが、黒いダイアモンドと言えば伝わるだろうか。

めっちゃキラキラしてる。


家族は金額の価値が分からないので、沢山の綺麗なものを見てキャラキャラと楽しそうにしていた。

母も白金貨辺りから現実味が無いらしく、金貨までは驚いていたが今はもうカタリナと一緒にキャピキャピしてる。


私はパン1つが銅貨2枚なので、銅貨1枚を100円と当てはめて考えてみたのだが。

銅貨100枚の上は銀貨1枚で1万円、銀貨100枚で銀板1枚で100万円。

銀板50枚で小金貨1枚が5000万円?

小金貨100枚で金貨1枚が⋯えーと50億?!

金貨50枚で金板1が2500億になるのかな。

金板10枚で小白金貨1枚が1兆⋯

ちょう!?

つまり小白金貨が100枚で白金貨1枚だから⋯100兆⋯白金貨50枚で白金板1枚⋯5000兆。


この辺りでスッと考えるのを止めて遠い目をした。

私もお父さん達と何も変わらない。兆以上の単位なんて覚えて無いからだ。(けい)とか那由多(なゆた)とかあと、何だっけ?寿限無(じゅげむ)とかだっけ?もう調べられないので頭の中がパイポパイポとしてる。


「今の所これが全部よ。

どう?お金の種類は分かったかしら?」

「うん!」「とっても綺麗なのね、お金って!」「えぇ〜すごく分かりやすかったですねぇ〜」


と、口々に興奮してる母子に、お嬢さんは静かにウムウムと小さく頷いてる。

ギルバートさんは長閑な母子の様子に苦笑を浮かべているし、カルマンさんは外を警戒してるらしく、こちらに視線を向けずに窓の外を見るとも無しに眺めている。

まぁ⋯ぶっちゃけ平穏しか無いが、警戒するのもよく分かる。

総額幾らよ。

と、言うよりも全部揃えるとか口で言うよりも簡単な事じゃ無い。

神赤金までキチンと数を揃えて来てるからね?

更に貴重な黒魔石。

多分普通の錬成師見習いが持ち歩ける金額じゃ無いのは充分伝わって来る。

私が思っている以上にお嬢さんは凄い人なんだろう。


「お姉さんはお姫様でしたか。」

「そうね。」

「それは周りの人が煩くて大変だったのでは?」

「錬成師見習いになるまではそんなに煩く無かったわよ。

普通の令嬢よりも結婚の条件が良くなるのよ。」

「つまり上を目指したから、物凄く大変だったんですね。」

「そうなの。

目指せるぐらいに有能でなければ鼻で笑われて終わってたわね。まぁ男の兄弟にはかなり嫉妬されてるわよ。」

「なるほど。面倒臭そうですね。多いんですか?ご兄弟。」

「貴方よりは多いわね。」

「ギルバートさんは従兄弟ですか?」

「へぇ〜?色かしら?」

「異性なので難しいですけど、鼻の形とか似てるって言うか、雰囲気が近いなぁ〜って。」

「んー、まぁ答えはハズレね。従兄弟では無いわ。

親族では有るけれど⋯ギルバートは姉の息子なのよ。」

「つまり叔母。え?年下の叔母さん?!」

「フフフ⋯大正解。」

「あら、そうなんですかぁ~。子沢山なお家ですね~?」

「この辺ならべつに珍しくは無いでしょう?」

「そうですね〜。無いお話では有りませんが⋯大人になっても仲良しなのは珍しいかも知れませんよ?騎士様ですし。」

「良いのよ私が錬成師見習いなんだから。ギルバートなんて護衛にかこつけて遊んでるようなもんよ。

ちゃっかり自由を満喫してるんだから。

ねぇ?ギルバート。」

「否定はしませんが、そちらも私のお陰で自由なのでは?」

「つまりお互い様だったんですね?カルマンさんはお2人のお目付け役ですか?」

「あっちはあっちでお目付け役件婚約者よ。」

「はい?」

「私が行き遅れた時の保険なの。」

「⋯年の差すごくないですか?」

「良いのよ。向こうはもうお子さんが居るもの。私は錬成師になるんだから、ちゃんとした結婚なんてするつもりないわ」

「何か、え?お子さん居るんです?!奥さんいるのに、娘さんみたいな若いお嬢さんをお嫁に貰うんです?!

犯罪ですか?!」

「⋯妻が俺より先に死んでるから、疚しいことは何も無いぞ。仮の婚約者だ。他言無用だがな。」


不愉快です!みたいにカルマンさんに睨まれた。

でも怒っては無いらしい。


「えーと⋯すみませんでした。えと、お子さんの方は大丈夫なんですか?」

「そこに居るが?」

「ふぇ?!ギルバートさんのお父さんんん?!」

「あれ?!カルマンさんてお幾つ?!」

「38だ。」

「ふわ?!若!え、13歳前ぐらいで子供作った?!」

「ふは!アハハハ!」


カルマンさんとギルバートさんをキョロキョロと見比べてたら、お嬢さんが大爆笑し始めた。


「⋯私は22です。」

「16歳の頃の子供?!

それでも早いですね~」


渋い顔をしてるギルバートさんの横で、お嬢さんが片手で口元を押さえながら笑いを堪えてる。


「と言うか⋯ギルバートさんてお母さん似です?」

「父とは血縁では無いので。」

「はいぃ?」

「あ〜!もぅ、言っちゃった。

もっと遊びたかったのに残念だわ。

⋯私の姉とカルマンは再婚なの。ギルバートはカルマンの息子には違い無いけど、血のつながった方のお子さん達は学校に通ってるから、寮にいるのよ。

だから養育を心配してるなら大丈夫ね。

それと今は仮の婚約だけど、私は錬成師になるから、そのうち本物の婚約になるわ。」

「正気ですか?」

「良いじゃない。私は自由にノビノビやりたいんだから。

それに産むとしてもカルマンの子供なら優秀に決まってるし、別に良いんじゃない?」


カルマンさんに呆れられて、お嬢さんはツーンと返す。

そしたらはぁ~と、カルマンさんが大きなため息を零してた。


「それより貴方。やっぱり天才じゃない。」

「はい?」

「計算よ。計算。早すぎやしない?」

「え?そんなこと無いですよ。」

「あるわよ!なら14.25.61全部でいつくになる?」

「流石に無理です。えーと14と25と⋯61?えーと、あ、100。

なるほど。一応簡単にはしてくれてたんですね。」

「簡単じゃ無いわよ!」

「だって丁度良くしてくれてるじゃ無いですか。」

「そうだけど違うわよ!」


片腕で頭を抱えたお嬢さんは、少し何かを考えていたけれど。


「⋯ねぇ貴方。この袋とこの袋。銅貨と銀貨なのは考えない事にして、全部で何枚になるかしら?」

「ふぇ?!」


母に向かって革袋を指差す。

するも母は革袋を見て小首を傾げ。


「すみません、ちょっと数えてみないと〜⋯」

「なら良いわ。横の貴方は?」


ふにゃりとした事を言う母に私は愕然とした。

お嬢さんは更にカタリナに答えを促す。


「え?袋に100枚入ってるでしょう?なら200枚だわ。」

「正解よ。」

「あらぁ~。そう言えばそうだったわねぇ〜。」


するとカタリナはスルリと答えたので、母はパッと表情を明るくする。


「それなら貴方。100枚から14枚を使ったら、残りは何枚残るかしら?」

「え?!100枚から14枚?

えーと⋯えーと⋯」


カタリナは慌てた様子で指を折りながら唸り。


「86枚です。」

「正解よ。それならそこから12枚と27枚抜いたら何枚残るかしら?」

「えぇ?!そんなの書かないと答えられません!」


割りと早めに答えたけれど、最後には頭を横に振って拒絶する。


「それならそこの貴方。100枚から25枚抜いたら何枚かしら。」

「え?沢山!」


最後にマルセロに質問すると小さく頷く。


「正解は75枚よ。ねぇ貴方。分かる?これが普通よ。まぁ姉は少し優秀だったと思うけど、年齢が違う事を考えれば貴方の異常さは分かるわよね?」

「⋯それでも誤差じゃ無いですか?」

「頑固ね。貴方は天才なのよ。ちゃんと自覚しなさいよ。」

「数を数える訓練しただけです。なので天才とは違います。」

「2歳で?」

「⋯暇だったんです。他にやれることあんまり無かったので。でも文字は知らないので、お姉ちゃんみたいに書いて数えることは出来ません。」


前世が何歳まで生きてたかは分からないが、少なくてもカタリナよりは長く生きてる。

でもそんな事を言えないから、苦しい言い訳をするしか無い。


「書かずに計算出来るなら、その方が難しいのよ。

なら文字を覚えなさい。

教会に行けなくても教えたら覚えられるのではなくて?」

「書くものが有りません。」


どんどんテーブルの上にあった革袋を魔法鞄に直して行く。

紐縛って無い!と思ったけれど、紐が自分で勝手にシュッ!っと締まったのを見て、あれも魔法のアイテムなのにビックリする。

そして机の上が綺麗サッパリ何も無くなると、今度はドン!と紙の束が置かれた。


「手持ちはこれしか無いけれど、これだけ有れば足りるわよね?」

「お金の援助はしないんじゃ無かったんですか?」

「これは私が楽をする為だから良いのよ。文字を覚えたら魔法草をどうやって作ったのか書いて私に渡しなさい。なるべく細かくした事を書くのよ。

それを元に話を聞くことにするわ。」

「それは良いですが、時間がかかると思いますよ?」

「それぐらいで丁度良いのよ貴方は。良いから言われた通りにやりなさい。」

「あの。紙だけじゃ字は書けないんじゃ⋯」

「ペンぐらい有るでしょう?」


お嬢さんが母を見ると、母はへによりと困った顔をする。


「有るのは有るんですが⋯えーと⋯夫の仕事道具ですから〜」

「それなら買って与えなさい。」

「えーと⋯お金はあんまり無いので〜」

「はぁ~、そうだったわね。

この家での収入は1年で幾らぐらいなのかしら?」

「さぁ~?そう言うのは夫で無ければ分からないので〜」

「⋯もう良いわ。今貴方に渡せるものは無いから今度渡すわね。」

「ありがとうございます!」


下手に父のものを使うより、よっぽど良いものが使える!と、心から喜んでいたのに。


「貴方に与えるけれど、貸し出しよ。自分で作れる様になったら作って返しなさいね。」

「ふわ?!」

「錬成師は自分でペンを作るの。これは学校で学ぶことよ。だから直ぐには無理ね。

あ⋯待って。駄目だわ。貴方じゃまだ使えないわね。しまったわ。面倒ね⋯。でも仕方が無いわね。」


途中からブツブツと小さく呟くと、諦めた様子で鞄から小金貨を1つコトリのテーブルに置いた。


「このお金でこの子が使えるペンとインクを買い与えて頂戴。私が渡すつもりだったペンは魔力を使うものになるの。

まだ2歳には使わせられないわ。」

「わ⋯いいんですか?」

「仕方が無いもの。お金はこの子が働いて私に返すから、残りはこの子に渡して良いわよ。

欲しがるものを買い与えて頂戴。」

「あり、ありがとうございます!そ⋯、それなら透明な錬成瓶が欲しいです!

買わせて下さい!

コップ1杯水を入れられるのが良いです。

そこで魔力草を育てるので!」

「はい?錬成瓶で育てるつもりなの???」

「はい!」

「⋯き、気になるわね。

でもまぁ⋯良いわ。

えーと遮光のは要らないのかしら?」

「完成したら持ち込みたいので欲しいです。とりあえず10本下さい。」

「⋯本来小売りはしないのよ?でもまぁ良いでしょう。私は銅貨を普段使わないのよね⋯面倒だけど仕方が無いか⋯。

えーと⋯透明な錬成瓶はこれとこれ、どっちが良いの?」

「コレが良いです!」

「じゃあこれを何個出せば良いのかしら?」

「そうですね⋯置き場所に困るので、でも栽培にも必要だし⋯10本⋯えーと20本下さい。

何度も頼むのは難しそうなので。あ、戦士ギルドで買えますか?」

「いいえ、この透明な方は無理ね。錬成師は研究で使うから持ってるけれど、戦士ギルドは採取でしか使わないもの。」

「それならお姉さんから買うしか無いんですね?」

「⋯今度どうせ残りの家族を集めるから、何とかするわ。

とりあえず今使う分だけならどれぐらい必要なのかしら?」

「では10本有れば充分です。

まだ発芽に成功して無いので、5個しか栽培してませんので。」

「そう。分かったわ。遮光はまだ先で良さそうね。なら透明な錬成瓶を10個だけ渡しておくわね。」

「ありがとうございます!」


ひゃっほい!やったぁ!

私は飛び上がる心地になって満々の笑みを咲かせる。

何だか楽しみがどんどん膨らんで行く。

あとから憂鬱にるかもだけど、とりあえず今はルンルン気分だ。

魔力草10本で10万かと思えばヤルも気出て来る。


「透明な方は遮光よりも実は高いのよ。だから小金貨で買うと少し足らないの。」

「え⋯そんなにお高いんです?」

「この大きさの瓶一本銀貨20枚よ。」

『ひぇええええ?!』


私とカタリナと母が盛大な悲鳴を挙げた。

マルセロはポカンとしている。

小金貨って確か5000万円だよね?

私は1つ20万円の錬成瓶をジッと見つめながら考えてた。


「⋯確かに綺麗だわ。これが銀貨20枚⋯」

「駄目よ〜そんな高価な物、使わせられないわぁ~!」

「うぅ⋯そうなるよね⋯」


カタリナが目をギラギラさせながら至近距離で触らずに錬成瓶を睨見つけてる横で、母が身を竦ませて恐れ慄いてる。

私は諦めモードになりつつあった。


「駄目よ!この子が実験に必要だと思うものは全て使わせなさい。貴方が払うお金じゃ無いんだか気にしないで頂戴。」

「で⋯でも〜、ウチにには小さな子供が要るので無理です〜」

「錬成瓶は丈夫なのよ。

例え大人が地面に叩きつけたとしても壊れないから、子供が触っても何ともないわよ。」

「ほえぇ?!そうなんですかぁ?」

「ほら、実際にやってみなさい。」

「いや〜!怖いぃ〜!」

「困ったわね。これはギルバート達にやらせられないわ。流石に壊れちゃうかも知れないもの。」


騎士の腕力は大人の腕力とは別物らしい。

お嬢さんの小さな呻きを聞いた私は、ヒョイと両手で透明な錬成瓶を取るとトコンと椅子から降りて土間に向かう。


「え?リリアナ⋯?」

「ちょ!リリアナ!?」


母がオドオドしてる横を通ってカルマンさんの足に当たらないように気をつけながら、ぶん!と錬成瓶を剥き出しの地面に叩きつけた。

カタリナが悲鳴を挙げてコッチに近寄って来る。

私は慎重に下に降りると、コロコロと横に転がった瓶を両手で掴んで頭上に持ち上げた。


「壊れてない!

傷ひとつついてないよ!」

『うそぉ〜?!』

「わあ!すごいや!」


ロベルトも椅子からシュタンと身軽に降りて来てトタトタ走って寄ってくる。


「ホントだ!ピカピカだ!

えい!アハハハ!

壊れないやー!」

「ちょ⋯もう!

やめなさいよ!汚れちゃうでしょ!」

「あ!ぼくの〜!」

「アンタのじゃ無いわよ!」


土間から上がるのに邪魔だったのでマルセロに渡したら、すかさず土間に落として遊び始めた。

ヨジヨジと板の床に登って私の椅子に戻ってる間に、ゴチンと鈍い音とあーん!とマルセロが泣くのが聞こえたが、お嬢さんがひょうひょうとしてる私に呆れた視線を向けて来る。


「お母さん。

お姉さんが大事なお話してるから静かにさせて。」

「マルセロ〜こっちにいらっしゃい〜」

「お姉ちゃんありがとう。」

「もう!銀貨20枚なのよ!壊れないのは良いけど大事にしなさいよね!」

「うん。あれは壊れないか調べただけだから、大事に使うよ。」

「ロベルトやマルセロに渡したら駄目よ!

あいつら絶対外に持って行って無くすわ!」

「それはお父さんにも注意するように言って貰った方が良いと思う。これは私が使う道具だけど、お姉さんとの仕事で使う道具だから。魔力草を10本作ったら、銀貨10枚で買ってもらえる約束をしてるの。」

「え?!スゴイじゃ無い!

魔力草ってあの草のことよね?!」

「そうだよ。育てるのがアムルと違って難しいみたい。だから10本でも高く買って貰えるの。」

「へぇぇ〜!面倒だったけど良い仕事を見つけたじゃ無い!」

「誰にも言わないでね?

お姉さんの迷惑になるから。

これは錬成師になるのに必要な勉強みたいなものだから、やってるんだよ。

今はまだ色々やって育て方を調べてる所だから、失敗すると思うしね。」


お嬢さんは微妙に表情を歪めたけれど、カタリナへの説明を咎める様子は無いので流すことにしたらしい。


「だって花が咲いてたじゃない。種も採れたしあのやり方で良いんじゃないの?」

「必要なのは花が咲くまでで良いの。増やすのに種が必要だったから⋯」

「あ、それね。

普通は魔力草の花なんて滅多に見れないの。花が咲いた魔力草は1本から買い取るわよ。

調べて価値が有れば、そこでまた値段は交渉しましょう。」

「種はどうですか?」

「そうね。手に入れられない訳では無いけれど⋯貴方の育て方とこちらのとで差を見てみたいわね。何個か買い取りましょう。」

「今5個使ってます。10個残っていますが買いますか?」

「いえ⋯もっと増えてからで良いわ。それと種が採れたら遮光瓶に入れて渡して欲しいの。

種用の遮光瓶も準備しておくわね。」

「はい。分かりました。」

「あと今更だけど貴方。今やってる事ですら、見習いが取れちゃうわよ。そう言う実験になるもの。」

「あー⋯なるほど。元にあった栽培と方法が違ってるし、今の所安く作ってるからですか?」

「それと雇用の問題も解決するわね。魔法師1人か魔導具が有れば農民が作れる方法なら、スラムの貧民の仕事になるもの。」

「人助け出来る研究なら良いですね。でもこんなに簡単なこと、どうして誰も⋯あ⋯」

「そうね。まぁ⋯きっとそれもそう言う事なのね。

貴方も少し自重してあげて丁度。大勢の苦しんでる見習いが救われるんだから、良い題材を残してあげて欲しいの。

とは言っても貴方には研究を続ける権利は有るのだけれど⋯」

「いいえ、分かります。それなら栽培する効率を上げる研究は程々にしときますね。」

「悪いわね。多分貴方以上の物を思いつく者は居ないだろうから、本音は貴方を止めるのも苦しいのだけれど⋯」

「身を守る為に必要な事なので仕方がないです。」


少しションボリとした雰囲気を出す私達の会話を聞いて、母とカタリナが怪訝そうな顔をしている。


「さぁ、大事なお話の続きをしましょう。

良いかしら?」


シリアスな空気に母の膝に乗ってる涙目のマルセロも、母もカタリナも神妙な顔をして小さく頷く。

ジーニスだけが「だー!あうー!あきゃ!」と、玩具を壁に投げる音を響かせながら自由に過ごしてた。

一人遊びが出来るんだから、ジーニスは優秀だ。

お陰でシリアスなはずなのに、どことなく平穏なのは彼のお陰だと私は思う。

お嬢さんは家族の顔を見渡した後。


「この前私がカタリナをヤラマウトの捜索に連れ出した時、彼女は世界を揺るがす大発見をしたの。

これ、意味が分かるかしら?

はい、貴方。世界を揺るがす大発見と聞いてなんて思う?」

「え〜?え〜と⋯とってもスゴイ物をみつけた?って事ですか?」

「正解よ。まぁ物では無く概念と、それを証明する理論ですけどね。」

「はい?」

「難しい話は良いわ。

それより貴方はどうかしら?

世界を揺るがす大発見って何の事か分かる?」

「え?えーと⋯世界って国とは違いますよね?えーと⋯世界ってなんでしょう。ごめんなさい。良く知らないので分からないです。」

「あら貴方。

流石に天才の姉なだけあるわね。とても優秀じゃ無い。」

「え?⋯えーと勉強は頑張ってたので、少しだけは⋯」

「そう。それで泣いてるそこの貴方は?」

「な⋯もう泣いて無いよ!」

「それで世界を揺るがす大発見って聞いてどう思うの?」

「全然分かんない!」

「そう。素直に分からないことを分からないと言えるって凄いわね。貴方も素晴らしいと思うわよ。」

「え?⋯そうかな?」

「そうよ!知らないのに知ってる振りをしたり、知らない事を聞かれて怒鳴ったりしないじゃ無い。人間としてとても素敵だと思うわ。」

「えーと⋯よく分かんないけど、そんな変な人っているの?」

「沢山いるわよ。特に金持ちの息子にはそんな人が大勢居るわね。」

「んー、別に金持ちで無くたって貧乏な若い戦士なんて、お姉さんが言う人沢山居ると思うよマルお兄ちゃん。」

「そう言えばお父さんがそう言ってたかも。だから知らないのに知ってるってウソを言ったらダメって言ってたよ。」

「そう⋯なら父親が素晴らしいのね。リリアナには驚かされてばかりだったけれど、父親が優秀なのかも知れないわね。」

「確かに子供の話もちゃんと聞いてくれるし、魔力草を育てる時だって助けてくれたし。危ないことや悪いことは駄目って言うけれど、自分の考え方を押し付けたりしないから良いお父さんだと思う。」

「そう⋯天才が産まれる理由って、あるものなのねきっと。」

「⋯あの!すみません。お話の途中で。リリアナの事で後で少し聞いて貰いたいお話があるのですが⋯」


しんみりしてたお嬢さんに、珍しく思い詰めた様子でギュッとマルセロを抱き締めながら、母が勢い付く。


「ん?リリアナのことで?

今でも良いわよ?私もリリアナの事を話すつもりでいるもの。」

「あの⋯子供の前では⋯」

「そう。なら後にしましょうか。それで良いのね?」

「⋯はい。ありがとうございます。私の考え過ぎで、何でもない事かも知れないのですが⋯」

「え?!ちょっと私もスゴク気になるよ!えっと何の話?!」

「⋯⋯⋯」


あの呑気で明るい母が、みるみるうちに表情を暗くして唇をキュッと引き結んでるもんだから、私も非常に気になって仕方が無い。

前世の記憶持ちとまではバレて無いだろうけど、私がそんな風に産まれた謎が分かるかも知れないと思えばソワソワする。


「やっぱり今聞く事にします。私はカタリナやリリアナの様に賢くないので上手くお話出来ないかも知れませんが⋯」


そう前置きして語りだしたのは私が産まれる前の話だった。

どうやらマルセロの後に母は2回妊娠と流産を繰り返していたんだそうだ。

私からすればそんな事も有るだろなと、思うような話であったが。

普段はとてものんびりとしている母も、その時ばかりはとても思い詰めたんだそうだ。


「妊娠した時はお日様に良く当たる方が元気な良い子が産まれると聞いていたのに、1人目はともかく2人も流れてしまって、リリアナがお腹にいると分かった時にとても怖くなってしまったんです。


夫や両親はもう子供が3人も元気に産まれて来たんだから、気にする事は無いと励ましてくれてたんですが、流れてしまう子供達が可哀想で可哀想そうで⋯私は、どうしてもカタリナを失いたく無くて、お日様に当たる事も怖くなってしまったんです。

ですが家事をするとなると、必ず外には出ないと行けないので、ずっと体調が悪い振りをして家の中で過ごしたんです。」


それを、聞いて何となく流産した理由が分かった気がした。

割りと日常生活にも力仕事が多いし、ウチの母は呑気な性格だから妊娠初期でもバリバリと家事と育児を頑張ってたんじゃ無いだろうか。

私とマルセロの年の差は4歳有るので、子供が流れた頃のマルセロは赤ちゃんだ。

今は母の手伝いをしてるカタリナも6歳か5歳ぐらい?

それなら母が1人目で家の事を何もかもしていたことを想像出来る。

多分マルセロまでは何とか流れて無かったのかも知れないが、繰り返される妊娠と出産に、子宮の回復が追いつかなくて、流れやすい身体に変化していたのかも知れないなと感じた。

この世界には回復の魔法薬が有るから、割りと無理をしても何とかなってるのかも知れないが、回復にも限度が有るのかも知れない。だって初級とか言ってたもん。

初級と言う事は中級などの上が有る筈なので、1番効果の低い薬しか使ってなければ、回復が足らなかった可能性は有ると思う。

だから私を妊娠した妊娠初期に、家で仮病を使ってゴロゴロして過ごしたのは、流産を防ぐと言う点では、ある意味正解だったのかも知れない。


「でも何時までも体調が悪い振りをするのも心苦しくて、合間合間には治ったことにして、家の事もしてたんですが、娘も随分と不安にさせてしまったし、夫や両親がとても心配する様になってしまって。」

「お母さん⋯」

「ごめんなさいね、カタリナ。貴方には本当に申し訳無い事をしたと思っているの。

でも私もリリアナが流れてしまわないかとても不安で堪らなかったのよ⋯」


あー、うん。そりゃ姉としてはかなり複雑だろう。

本当に不安になって心配したから、今じゃもう小さなお母さんみたくなってバリバリと母を手伝ってるんだもん。

それを思えば母が子供の前で話をしたく無かった気持ちを、痛烈に感じる。


「でもカタリナ。貴方には心から感謝しているのよ?

リリアナやジーニスが無事に産めたのも、貴方が沢山頑張って家の事をしてくれてるからだと思うもの。」

「⋯そっか。なら仕方が無いかな。ちょっとかなり不安だったけど、でもそうだよね。

赤ちゃんが死んじゃう事を思ったら、私は全然平気よ。」

「カタリナ⋯ありがとうね〜」


あぁ⋯麗しい。

私はもらい泣きしそうなんだけど、ちょっとお嬢さん。

何でそんなに面倒臭そうな顔をしてるんですか。

いや理由は分かるよ。

前置きが長いとか思ってるんだよね?

はぁ~仕方が無いなぁ⋯。


「お母さん。私が変なのはお日様に当たらなかったからだと思って怖かったのかな?」

「あ⋯違うのよ!リリアナ。

その⋯あの⋯」

「ううん。気にしないで私は自分でもちょっと変だとは分かってるもん。

何処まで影響があったかは分からないけど、お日様の光を避けてたなら、お母さんは他の兄弟を産んだ時とは違う行動をしてたって事だよね?

他に何か変わったものを食べたりはして無かった?」

「⋯まぁ、そうね。ジーニスの時は反省してちゃんとお日様にも当たってたし⋯カタリナが大きくなって、楽をさせて貰ってたかも知れないけれど⋯。

リリアナの時ほど家の中に篭もってた事は無かったわね。

食事は体調が悪い振りをしてたから逆にあんまり食べて無くて⋯あ⋯そう言えば。」

「ん?何か思い当たる事が有るの?」

「えーと⋯珍しい果物や甘い粉で作った物をリリアナ時は食べさせて貰ってたかも⋯」

「珍しい果物って?」

「えーと⋯お父さん⋯えと夫が森に生えてた果実を持って帰って来てくれた事があって⋯」

「名前は知らないのね?

持って来た季節は何時かしら?大きさや形は?」

「えーと⋯季節は確か冬になる前のまだ秋の終わり頃でした。悪阻もあった頃でしたので。

それで大きさはコレぐらいで⋯形は丸かったです。」

「他に覚えてる特徴は何か有るかしら?」

「はい。金色の皮で中の実は空色の果実でした。」

「なんてこと!え?この森って精霊実が採取出来るの?!

と言うか、食べたの貴方?!」


何だか良く分からないけれど、

森のお宝果実を持って帰って食べたらしい。

何かお嬢さんの雰囲気が真珠を豚が食べた感じになってる。


「あの⋯食べたら駄目な果実でしたでしょうか⋯」

「いえ⋯とても貴重な素材で、錬成師に渡したら高く買い取ってくれるわよ。それこそ、さっき白金貨見たわよね?

白金貨の板が10枚ぐらいで売れると思うわ。」


うぇえ?!白金板?!

10枚って事はえ、待って。

白金板って1枚5000兆じゃ無かった?!

え、私の計算間違ってる?!

てか10枚なんて私が日本円で数えられやいヤツうぅぅ!!!


『ええぇぇぇーーー?!』

「お母さん。白金板10枚食べちゃったんだ。」

「あらあらぁ⋯」

「それで食べて大丈夫だったの?貴方。」

「あら、やっぱり駄目でした?

実は凄く体調が悪くなっちゃったんです。」

「ダメじゃない!お父さん何やってんの?!

あ!思い出したわ。私見てたもの!あれってやっぱり駄目だったの?私も食べちゃったんだけど⋯」

「え?!お姉ちゃんも食べたの?白金板10枚。」

「じ10枚も食べないわよ!

多分1枚も無かった筈よ!」

「白金貨80枚ぐらいは食べたんだね。」


フフ⋯確か白金貨って100兆だから80枚で8000兆かぁ⋯。

頭の中がピヨピヨする。


「うわぁ~⋯凄く甘くて美味しかったもの。

お母さんが私の口の中に入れるからぁ〜!

って言うかロベルトだって食べてたわよ!少しだけど!」


カタリナがお母さんのせいにして頭を抱え込んでいる。

でも


「私が産まれる前ならロベ兄ちゃんは3歳か4歳ぐらいだよね?

お兄ちゃんは体調に代わりは無かったの?」

「⋯お母さん以外は何とも無かったわね。」

「そうねぇ〜。それなら関係無かったのかしら?」

「でもお父さんらしく無いね。戦士ギルドで確認しなかったのかな?」

「元々私に食べさせるつもりで持って帰って来たから、売るつもりは無いし、聞かなかったんじゃ無いかしら?」

「でも安全か分からない物を体調の悪い妊娠に食べさせないよね?」

「ん〜⋯お父さんに聞いてみないと良く分からないけれど、元気になる実って言ってたから、何か勘違いしてたのかしら?

一応持って帰る前に味見はしてたみたいよ。」

「あー⋯なるほど。貴方達が死なずに済んだ理由が何となく分かったわ。」

『???』


全員がキョトンとして疲れた顔をしてるお嬢さんを見つめる。


「魔力草と同じよ。魔力草の葉や根を傷つけたら魔力だ段々減って行くの。太陽の光を当てると傷ついて無くても魔力は減るわね。

つまり貴方達の父親が安全か確かめようと思って味見をしたから、家まで持って帰る間に、魔力が抜けてしまったんだと思うわ。

遮光錬成瓶なんて持ち歩いて無いでしょうから、太陽の光も当たってたかも知れないわね。

それで父親が回復薬と勘違いした理由は、精霊実がある場所はかなり森の奥になるからよ。

体力や魔力を使って消耗していた父親が、自然の回復薬を口にすれば元気になるになるでしょうね。

日光を避けて家に閉じ籠もってる女性とは条件がかなり違うわ。

しかも食べた量も父親より多いんでしょう?少しでも子供が横から食べて無ければ、それでも危なかったのでは無いかしら。

貴方だけが体調を崩したなら、魔力を沢山取りすぎてしまったんだと思うわよ。

そしてそれが胎児のリリアナに影響を与えた可能性は否定出来ないわね。

でもこれは禁忌の実験になるから再現しない以上。

どれだけ精霊実が人間の胎児に影響を与えるかは、一生闇の中ね。」

「実験しようと思ったら罪の無い赤ちゃんが犠牲になるからですね。」

「それでも馬鹿は沢山いるわ。天才を人工的に作ろうとして、精霊実を妊婦に食べさせる愚か者を出さない為にも、この話は此処だけにしておいて欲しいわね。

皆さんよろしくて?」

「私達のお父さんはお母さんを助けようと思って間違えてしまったけれど。

頭の良い子を産ませようとして、精霊実をお腹に赤ちゃんのいるお母さんに食べさせる悪い人がいるんだって。

私達はたまたま死ななかったけど、死んでしまうお母さんや赤ちゃんが沢山出たら可哀想でしょう?

悪い人にお話してなくても、皆がお話してたら悪い人にも聞こえちゃうから、このお話は絶対に誰にも言わないでね。」

「ひどい⋯そんな悪い人いるの?」

「えぇ⋯沢山いると思うわよ。」

「ええー!何でそんなにひどい事が出来るの?考えられないわ。」

「そうね。でも失敗して死ぬのは子供を産む母親と赤子だけだし、自分は死なないじゃない?だからきっと平気なのよ。」

「⋯ぼくなら胸が痛くて苦しくなるよ。」

「私も悲しいわ!」

「良い子はそうね。だから悪い人なのよ。そう言う人は。

良い人ならこの話を聞けば、絶対に精霊実を食べさせたりしないと思うわ。でもその話をしていて悪い人が聞いたら、危ないわね。どう思う?」

「ないしょにする!」

「そうね⋯絶対に誰にも言わないわ。」

「貴方はどうかしら?」

「えぇそうですね。秘密にします。」

「では聖約をするわよ。良いわね?精霊実を妊娠した母親に食べさせる話を秘密にすると誓う。私と同じように、言葉にして言って下さる?

いくわよ?【我は神に誓う】」

『【われは神にちかう】』

銀のステッキをいつの間にか取り出していたお嬢さんが、1言づつ区切って3人に復唱させる神と、「【聖約】」と。小さく呟く。

すると3人がペカー!と銀色に光った。


『わあ〜⋯』


3人が歓声を挙げてキラキラする光を見つめていると、スゥ〜と消えて行った。


「ありがとう。これでこの話はおしまいね。」


全く悪い人だなと、心の中だけでため息をこぼす。

でもまぁ正しい判断だとは思う。

そして私や自分。または騎士に魔法を使わないのは、この話を他言するつもりだからだ。

この3人が悪い人に遭遇するより、私達の方がよっぽど遭遇するだろうに。

美しい光に感激してる3人は、私を含めた人間が光って無い事に気付いていない。

私は悩んだ。

悩んだ結果私は私の判断を信じるしか道が無い。


「聖約が何かの説明。えぇ~と、聖約の良い所と悪い所の説明と破った時に起こる嫌な事の説明と、サラディーン様。ギルバートと様とカルマン様、そして私にも聖約をお願いします。」

「⋯そう。私は貴方の身内では無いから、それをする私への対価が必要になるのだけれど?」

「この話を母から聞いた事を対価にして下さい。」

「ん〜、対価の後出しはどうかしら?」

「では私のサラディーン様への信頼を対価に。」


お嬢さんの口元がニンマリと歪むが、目は笑って無い。

私も同じように口元だけで笑顔を作ろうと頑張った。


「ウフフ⋯良い度胸ね。まぁいいわ。凄腕の狩人の姪にしてはソコソコなんじゃない?」

「ありがとうございます。」

「⋯ふん。まぁ良くってよ。

では教えてあげる。

聖約とは誓った言葉を縛る魔法の事で、魔法の契約の中では最も行うのが簡単で破り難いのが良い所よ。

悪い所は誓う者がその言葉の内容を理解して、心から誓わないと魔法が発動しない事ね。

先ほど母親達が聖約した時に私に聖約が反応しなかった理由はそれよ。

あの時点で私には聖約するつもりが無かったから、光なかっでしょう?

それは貴方がどうするか見たかったから、わざとした事だけど。」


はい(ダウト)

でもここは敢えて指摘しない。

お嬢さんと対立したい訳でも無い、無意味に母達のお姉さんへの信用を無くす訳にも行かないからだ。

今後が面倒臭くなる。

だから私はシレッと流す。

お姉さんはお茶が飲みたかったのか、説明しながらまたポットとティーセットを出して来た。

シュンシュンと音を立てたポットに茶葉を入れながら、説明は続いて行く。


「難しい内容なら理解させるのがとても面倒なの。

その代わり善良な者が騙されて聖約する事故が起こりにくいのは良い所かしら。

必ず教会で聖約が何かは学んでいる筈ですもの。

母親と姉は聖約の事を知っているわよね?」

「あ、これって聖約だったんですね~?」

「ちょっとお母さん⋯最初にちゃんと「神に誓う」って、言ってたじゃない。

それに最後も「聖約」とも言ってたわよ!

何で今ごろ気が付いたの?!」

「だ、だってぇ〜。

聖約なんて結婚する時にしてからしたこと無かったから〜」


カタリナからの咎める視線に母はオホホと笑って誤魔化しているし、お嬢さんは小さなため息を零す。

私は結婚式の誓いで聖約するのかと、ちょっと慄いてる。


「つまりこんな人も居るから、

知恵のある悪い人間が悪用出来ないとは言い切れないの。

例えばの話よ。

この魔力草。今の時点では10本で銀貨10枚と言うのは、戦士ギルドに売るより少し高い値段になっているわね。

その代わりに正しい採取方法で採った魔力草を10本と言う、子供の貴方には難しい条件がついているの。

この契約をするのに聖約を使えば、貴方は永遠に魔力草10本を銀貨10枚で私に売れなくなるし、私も同じ条件でしか買えなくなるわ。

まぁ商売で聖約を使うのは教会に迷惑だから普通はしないけれど、今回は例え話として使うわね。」


何だかギルバートさんやカルマンさんに悪い気がするけど、カルマンさんは竈門にある机に腰を半分かけてるし、ギルバートさんもお茶を飲むつもりで、マグカップをシレッとお姉さんの所に置いている。

ひょっとしたらさっき飲んだマモーのせいかも知れない。

飲んだ後にちょっとしてからレモン色に光ってたのは見てたんだけどね。

そしてマグカップを見たお姉さんは説明を続けながら、ポットをギルバートさんに渡してた。

それもめっちゃスムーズに。

ギルバートさんも自分が口直ししたかったのか、無言で流れる様に受けとったけどね。

小さな攻防に南無南無な心になる小心な私。

だってお嬢さん。義理の息子を使い倒す気満々なんだもん。

そして義理の息子から隠しきれてない不満が漏れててヒヤヒヤするんだよ。

まぁ義理とはいえ、年下の叔母さんが義理のお母さんになるのは嫌なんだろうか。

頭がこんがらがるぐらい、複雑な家庭環境だと思う。


「聖約を安全に破るには、教会で高位の司教の指示で解除して貰う必要があるから、高いお金と正当な理由が必要になるわ。

例えお金があっても理由に正当性が無ければ行うのは難しいし、例えお金が無くても教会で担当した人が解呪の正当性と、問題の解決を行う必要があると判断すればお金が無くてもして貰えるの。


今回の場合、今後魔力草の値段が金貨1枚になった時、まぁ⋯商売で聖約を使った事に嫌な顔をされるけれど、貴方の年齢を考えれば叱られることは無いわね。

それと司教もお忙しいでしょうからお願いして直ぐに行って貰えるかは分からないけど、でも解除の正当性は認めて貰えるわね。

でも無料では無理よ。

何故なら金貨1枚で魔力草を売れる能力が貴方には有るもの。


そして魔力草の値段が銅貨1枚になった時、私は他から買えば済むからそのまま放置も出来るけれど、契約内容を変えたいと思えばお金を払って教会で解除するわね。

理由の正当性も認められるわ。

魔力草の価値。つまり値段が変わっているんですもの。

そのかわりもの凄く叱られるわね。なんなら延々と後回しにされて、私が忘れた頃まで解除して貰えないかも知れないわ。

商売で魔法の契約が他に有るのを私は知ってるし、契約の相手が2歳児ともなれば、それこそ軽蔑する対象になるからよ。

他の魔法契約なら、保護者が代理で契約が出来るの。

未成年が単独で契約するとしたら、孤児ぐらいなものよ。

それすらも孤児院に連れて行って、そこで代理の契約をするのが普通の大人の行いになるけどね。

まぁ⋯この辺はおいおい教会で教えて貰いなさい。」

「はい。分かりました。」


全員にお茶を回して行き渡った所で、お嬢さんがお茶を飲んでひと息つく。

私もまた甘い粉とミルクをガッツリ入れて美味しいミルクティーを作った。

因みに私の一家全員ミルクティー派らしい。

お嬢さんとギルバートさんはストレートで飲んでる。

カルマンさんは自分の魔法鞄から、銀貨の水筒を出して何か飲んでた。

おおう、なるほど。

つまりギルバートさんも持ってるだろうけど、お嬢さんのお茶の方が美味しい事を知ってたんだね。

ふむ。実の叔母で無ければ、お嬢さんの婚約者はギルバートさんだったのかも知れない。

ちょっと昼ドラ見てる気分になっちゃって、危うくお姉さんの説明を聞き逃す所だった。


「ふぅ⋯。

さて続けるわよ。

でもそれがそこの兄と私との契約だった場合。

聖約の中に1月に必ず1回は魔力草を売買すると言う条件が入っていれば、貴方と言う身内が居たとしても正当な理由で身内に支払う能力の有る者が居ないと判断した場合、教会は大至急で解除するわ。それも無料で行うでしょう。

そして教会は国へ報告を行い、国は犯罪の疑いがあるとして、私を調べたり捕まえる事が出来るわ。

未成年を相手に不当な契約を持ちかけた罪が確定すれば、国が被害者の代わりに裁ける仕組みになってるの。

そして私の罪が確定すれば、かかった全ての費用を国へ渡す義務があり、教会は国から至急に行った解除の代金を受け取れるわね。

この法律に身分は全く通用しないわ。

昔の国王がそう言う命令を出したからよ。


そして何故至急で行う必要があったかと言えば、聖約に具体的な日時の内容があったからね。

1月以内に魔力草を10本持ち込める能力が無いのに、それを理解出来ない未熟な者なら、出来ると騙されて思い込んでいれば聖約は行えると言うことなのよ。

例えば貴方が魔力草を作っているのを見て、1月に10本持って来れると兄が思えばそうなるわね。


そして期限が間に合わなければ聖約を守れなかったとして、そこの兄は命を失うわ。

それが聖約を破る代償になるの。


もっと言えばそこの兄が聖約の危険性を何も理解して無かった場合、誰にも何も言えない状態で死んでる所を家族が見つける事になるわね。

そして私がそれを目的としていたなら、完全犯罪が成立するわ。

何故なら兄が死んだ原因が分からない可能性が高いからよ。

葬儀を行う聖職者が気づければ、殺人事件が発覚する可能性は有るけれど、この村の様な長閑な場所ではね⋯。

聖約で死んだかは聖職者の中でも、それなりに経験のある者か、よほど不信に思った家族から依頼がなれば調べたりはしないわ。

そこの兄がまだ貴族なら死因をしっかり調べるでしょうけれど、普通の善良な農民の家族なら、事件性を疑うよりも不幸な突然死を悲しむだけになるからよ。」

「こっわ!聖約怖っっわ!」


こうして説明を終えた後、私も含めた4人も無事に聖約の銀色に光って私の秘密は一応護られる事になりそうだ。

立証するのは難しいが、魔物での実験は行える。

実は他言無用の聖約だけでは秘密とやらは守れない。


「精霊実の現物をもって、コレを⋯あぁ。なるほど。文字はどうなります?」

「該当する文章になるものは書けないわ。」

「なるほど。自分でするのは行えると。」

「そうね。やるの?」

「しません。」

「なら良いわ。」


小声でやり取りしてる間に、ステッキはもう消えていた。

皇族だか貴族かは分からないが、身分の高い人は恐ろしいなと感じた。

信頼も信用もしてる。

むしろしなければ私は知識が足りないので、どうしようも無い。

それでも私がミシリャンゼの黒魔石で居るには、成長しなければならないだろう。


「聖約を解除するのが難しいことは分かりました。

私からの信頼を重く受け止めて頂けることも深く感謝します。」

「珍しい言い回しね。

感謝が深いだなんて。」

「沢山ありがとうと思ったら、お姉さんならなんて言いますか?」

「そうね。貴方に出会えた幸運を神に感謝致します。かしら。」

「なるほど。では」

「言わなくて良いわよ。もう伝わったもの。」

「勉強したいのですが?」

「そんな事に使われたら、神に失礼だから止めなさい。」

「なるほど、分かりました。

気を付けます。」


どうやら私が思ってる以上に、神様は大事にしないとイケない存在らしい。

そりゃそうだ。

聖約なんてものを作ったのが神様なら、実在を実感出来るもの。

そして結婚式が前世の感覚以上にヤバい気がする。

誓う内容に寄ったら、浮気しません!と聖約したら、浮気をしたら死ぬ。

浮気を文化とは思わないから別に良いんだけど、例えば酔っ払ってハニートラップにかかったら、殺人事件が起きるよね?

つまり私はそっちの方が恐ろしいのよ。


「⋯あの、結婚で言う聖約で永遠の愛とか浮気しません!とか誓ったら死んじゃう事ありますよね?結婚式でどんな聖約をしてるんです?」

「この話の流れで貴方。

いきなりどうしてそんな考えが出て来たの?」

「お母さんが結婚するときに聖約をしたと言ってたので、もしお金を奪おうと思った悪い人が、お父さんにお酒を飲ませて女性で誘惑させたら、そう言うことも有るのかなぁ⋯て、気になって。」

「なるほど、それで愛の誓いが結婚の聖約に含まれるか気になってしまったのね?

私が兄で聖約の例え話をしたから、不安になったのかしら?」

「⋯そうかも知れません。」

「そう⋯良かったわ。

貴方はまだ2歳なのに、男性に不信感でも有るのかと、とても驚いてしまってたわ。

確かに平民なら、愛を誓い合うのは結婚には相応しい行いだと思うのかも知れないわね。」

「あの〜私はリリアナが浮気が何かを知ってる事に今とても驚いてます〜。

どうしてリリアナは浮気なんて知っているのかしら〜?」

「誰かが言ってた。浮気はダメって。男の人が男の人とは浮気しないらしいよ。」


私は必死に誤魔化した。

それはもう冷や汗ダラダラしてる。


「ねぇマルセロ。貴方浮気が何か分かるかしら?」


ひぃい!!!

そりゃそうさ!私が行動をする時には、必ず兄がついてるよ!

ヤバい!逃げ場が無いぞこれわ!


「そんなことより、どうなのお母さん。お父さんが突然死んだりしない?」

「ん〜。誓いではそんな事言わないわよ?私達夫婦になりますって神様に誓うだけだもの。」

「フフフ⋯アハハハ!

リリアナが不安に思った様な危険があるもの。迂闊な事を誓約ではさせないわよ。」

「そうですか。それは良かったです。それで誓約の事は分かりました。

母の話も解決したので、お姉さんの話を続けて下さい。」

「あら?貴方が浮気を知ってることは追及しない方が良いのかしら?」

「追及しても良いですけれど、いつどんな風に聞いたかは覚えてません。昔は幼かったので。」

「貴方、2歳が思う幼い頃っていったい何歳なのよ。」

「0歳ぐらいですかね?」

「そんな頃から言葉を理解していたの?」

「お話するのは難しかったですけれど、聞くだけなら。」

「そうなの?」

「あ〜⋯そうかも知れませんねぇ〜。生まれて半年もしないウチにぐらいでおかーたんて言われてビックリしましたから。」

「私なんてカタリナ!って名前で呼ばれたわよ。お姉ちゃんよ!って言ったら、おねーたんって言ったから、言葉が分かってたと思うわ。」

「⋯そう。まぁ天才ならそんなものかも知れないわね。」

「やっぱりアレのせいかしら〜?」

「確認は難しいわね。

でも否定も難しいわ。」


よし!乗り切ったどー!!!

私は心から達成感で清々しい気持ちになった。

発言には気をつけねば。

コレだから私は天才じゃ無いと声を大にして言いたい。

目に見えない経験の記憶が残ってるだけで、本当に天才なんかじゃ無いんだよ。

でも前世の証明なんて凄く難しい。だって魔力や魔法がある世界で、前世の科学知識が通用するのか分からないし。

何より私の記憶がオンボロで、都合の良い知識が出て来るとは限らないからだ。

今の所前の知識が利用出来る所は有る。例えば計算とか。

じゃあ難しい数式をちゃんと覚えているかと言われたら、覚えて無い。

せいぜいが小学生レベルの算数ぐらいだ。

因数分解とか素数とか単語は覚えてるよ。

じゃあ因数って何かと言われても説明が出来ない。

因数が何かを覚えて無いからだ。素数だって同じ。

自分の名前や性別すら覚えて無いんだから、そんなもんだよ。

もし前世が男性でも出産出来る世界なら、私が男だった可能性も有るもの。

なんか遺伝子的に無理?

あ、それなら女性だったのかな?

とまぁこんな調子で前世なんてとても説明出来やしない。

せいぜいチョコレートが美味しい事を説明出来るぐらいだ。

私の甘味好きって、母が甘い物ばっかり食べてたせいかも知れない。

だってさっきそう言ってたもん!


「はぁ~⋯まぁ良いわ。

話を元に戻しましょう。」


もう明日にしない?

お昼ご飯が食べたいんだけど。

甘いお茶飲んでるからまだ我慢出来るけど、え?まだ続くの?って顔に全員がなってる。

お嬢さん本人ももそうだから、文句は言わないけどさ。


「甘い物が食べたいです。

お昼ご飯の時間なので。」

「そうね。私も何か食べたくなったわ。」


と、言いながらドンドンドンと、マーマレード?マドレーヌだっけ?みたいな焼き菓子や、クッキーみたいな包みが沢山出て来た!


「ふおおぉぉーーー!」

「キャー!凄いわ!」

「おー⋯」

「あらあらあら。

絵本の中の魔法使いみたい。」

「魔法師では無くて魔導錬成師よ。絵本の題材にはよくなってるもの。」

『へぇぇ〜』


私は綺麗なお皿に乗ったマドレーヌモドキに手を伸ばして口にパクリと含んだ。

ふおぉぉぉ!!!

おーいひぃぃ!


「美味しいです!

貴方に出会えた奇跡を神様に感謝します!」

「さっそく使ってるわね。

よろしくてよ。

貴方の行いを神が見て居られるたのでしょうね。

と、感謝を受ければ返すのが礼儀よ。

あまり多用するのは神に不敬なので気をつけなさいね。」

「はい!」

「私もお姉さんに出会えた奇跡を神に感謝しますわ!」

「ぼくも!」

「私も感謝致します〜。こんなに美味しい物、産まれて始めて食べました〜」

「え?そんなになの?!

神が貴方達を見ておられたから、私を遣わされたのかも知れないわね。

社交辞令とかでなく心からそんな気がして来たわ。

変だわ。マモーの乳みたいな何かが有るのかしら?」

「ひょっとしたら生活環境の問題な気がします。」

「どう言うことなの?」

「街の中央に食堂があるので、戦士や男性が大勢いるんです。問題を避ける為に、村の女性のほとんどが自宅や畑で過ごしているので、よほど用事が無ければ村の中央には近寄りません。


男性は甘くて値段の高いお菓子よりもお肉や沢山食べられるご飯やお酒を好むので、こんな素敵なお菓子を売ってるお店が村に無いんじゃないかと思います。まだ2歳なので出歩く事が出来ないから、これは私の想像なんですけれど。」

「⋯なるほど。

説明されるとそんな気がするわ。でも2歳児に説明されると恥ずかしくて死にたくなって来るわね。

もう少し私は世間を学習しなくてはいけないわ。

ギルバートやカルマンはこの事を知っていたのかしら?」

「いえ⋯まぁ店が無い事は知っていましたが⋯カルマンはどう思いますか。」

「村の規模でここはかなり栄えていますが、普通は村に宿も食堂も無い事が多いので、全く気にしていませんでした。」

「お店があってもお客さんが来なかったら潰れますもんね。」

「んー、果物屋さんでジャムを売ってるぐらいなのよね〜

甘い粉はお高いから〜」

「お姉さん。是非とも甘くて安い粉を作って売って下さい。」

「物凄く欲望が分かりやすいわね。⋯なるほど。研究の題材を探すには、こうして村人の声を聞けば良かったのね。

だから師匠は私に店番をする様に言い付けたのかしら。

あー⋯私ったら自分が嫌いになりそうだわ。

どうしてこんなに愚かなのかしら⋯」

「必死だっただけで、お姉さんは決して愚か者では有りませんよ。むしろ女神では?」

「貴方⋯甘い物目当てに不敬になり過ぎよ。天罰を受けたくなければ自重しなさいな。

まぁ⋯気遣いには感謝をするわ。

相手が2歳児なのが切なくなる所だけれど⋯黒魔石だと思えばまだマシかしら。」

「私は人間の可愛い女の子です。」


ハハハと素でギルバートさん達に笑われた。

実に不愉快。

失礼しちゃうわ、プンプン!


「さて本題に入るわね。

可笑しいわ。

もう鐘1つ以上前からずっと本題に入ろうとしてるのに、全く話が進まないだなんて。

しかもそれた道もそれなりに重要過ぎて無視も出来ないとか、こんな話が有るのかしら。」

「現実から逃げてないで話を進めて下さい。」

「分かってるわ。

もう下手をしたら忘れてるかも知れないけれど、貴方達、お金の事は分かったのかしら?

はい、貴方。

お金の種類は覚えていますか?」

「え〜とぉ、沢山ありました。」

「⋯では金貨は下から何番目に高い物ですか?」

「えぇ?!えーとぉ⋯5番目?ですか?」

「良かったわ。正解よ。

それなら1番高いお金は何だったかしら。」

「⋯え?また私ですか?」

「えぇ貴方が1番覚えが悪そうだもの。さぁ1番高いお金は何?」

「えぇ〜?えーとえぇ〜と⋯赤色をした金貨でした?」

「では兄が代わりに答えなさい。1番高いお金は何?」

「黒い石!」

「惜しいわ!正解だけど、少し正確とは言わないわね。では姉。貴方は答えられるかしら?」

「黒魔石ですわ!」

「大変宜しくてよ。完璧ね。

さぁ兄。1番高いお金は何ていうのかしら?」

「くろませきです!」

「素晴らしいわ!宜しくてよ。」

「では母。貴方はもう答えが分かるわね?」

「はい〜。黒魔石でしたぁ~。お金の形じゃ無かったのでつい〜」

「フフ。宜しくてよ。

これまでの時間が無駄になって無くて心から嬉しいわ。

そして今から大事な事を言うから心して聞いて頂戴。

よろしくて?」

『⋯⋯⋯』

「あら?よろしく無いのかしら?お返事はして下さらないの?」

「あわわ⋯」

「大事なお話をするわ。聞いて下さるかしら?」

『はい!〜』


1人返事が間延びしてたけど、気合いの入った3人を、お嬢さんが満足そうに見てる。


「最初に世界を揺るがす大発見をリリアナがしたと言った事は覚えているかしら?」

『はい!』

「あ、はい〜」

「あとは世界の説明ね。

私達が住んでる村の名前はミシリャンゼと言うの。

名前は知っていて?」

「はい!」

「みしりゃんぜ?ぼく知らなかったよ。」

「私も村の名前は分かります〜。」

「兄。今村の名前は覚えたかしら?」

「はい!ミシリャンゼって言います。」

「大変宜しくてよ。

とても優秀ね。」

「エヘヘ」

「それでミシリャンゼみたいな村より、もっともっと沢山の人が住んでる場所を街と言うのよ。街と言うものが有る事は聞いた事が有るかしら?」

『はい!』

「あ、はい〜」

「宜しくてよ。」

「では村や街が沢山あると、それをまとめて国と言うのをご存知?」

『はい!〜』

「くに?えーと⋯聞いた事はあるけど、村や街が沢山ある所なのは知らなかったです。」

「では覚えて頂戴。

私達が住んでるミシリャンゼが有るのは、ウェスタリアと言う国よ。」

「ウェスタリア!

ぼくウェスタリア知ってるよ!」

「あらぁ?ミシリャンゼは知らなかったのにウェスタリアはご存知とか面白いわね?」

「ミシリャンゼはウチの村って言ってたから、名前は知らなかったんだ。でもウェスタリアには偉い王様が住んでて、強い戦士になってウェスタリアの王様が認めたら騎士になれるってお兄ちゃん達が言ってたよ。」

「なるほど⋯色々と合ってるような間違ってるような⋯、リリアナ。」

「後で私がちゃんと教えときます。」

「宜しくてよ。

では兄。騎士の正しいなり方はリリアナから聞くように。

強い戦士になって認めるのは地方の領主だけよ。王が認めるのは国立魔法学院の騎士科の卒業資格が必要なの。7 級以上を単独撃破した者だけが、王が認める騎士になるわ。

それ以外は全て地方領主よ。

リリアナ、地方領主の事は分かるかしら?」

「決められた場所にある、村や街を纏める1番偉い人ですか?」

「宜しくてよ。

ミシリャンゼが所属している南部地方の領主の名前はご存知?」

「知りません。」

「セバスティア・ドルマン・ダンジェロよ。」

「サラディーン様は南部地方の領主令嬢ですか?」

「ウフフフ⋯違うわ。

詳しく説明は出来ないけれど、村に降りる為に母方の実家の名前をお借りしているのよ。」

「あぁ⋯ウェスタリアが有名だから⋯」

「貴方。わざと?わざとなのよね?」

「いえ、すみません。何か間違えました?」

「もういい加減にしなさい。

なぜウェスタリアが出て来るの?」

「だってお姫様だってお姉さんが言ってたじゃ無いですか。」

「なるほどそこから行き違いが起きてたのね?

あぁ驚いたわ。

領主令嬢とは言わないけれど、私は領主の娘をそこに住む民は姫と呼ぶのが普通だと思っていたの。そうね。村娘は領主なんて知らないね。姫と言えば有名な王族が先に来るものなの?

これは私が未熟だから起きたすれ違いなのね。分かったわ。」

「では領主の娘はお嬢様とは呼ばないんですね?お姫様と呼べば良いんですか?」

「いえそうでは無いの。

貴族には名前があるのよ。

でもその話を始めて仕舞えば、また本題から遠のくの。」

「では諦めます。」

「まぁ⋯いつか説明しなくてはならなくなるのでしょうけれど⋯ちょっと今日はもう本題に行かせて欲しいの⋯」

「すみませんでした。お願いします。兄にはその辺りは必要無いと思うので。」

「そうね⋯私が良く分かったわね。⋯ついあんまりにも曖昧な知識がとても不愉快になってしまって流せ無かったのよ。」

「分かります。大雑把なんですよ。私もいつも心の中で叫んでます。」

「あぁ⋯貴方の苦労が忍ばれるわね。」

「乱用するつもりは無いのですが、私が心から信頼出来る知識を与えてくれるのはお姉さんだけなんです。思わず何度も神様に感謝したくなるぐらい、私にはとても有り難いことなんてわすよ。」

「⋯そう。それでも家族が良いのね?」

「はい。とても優しくて大好きなんです。せめて成人までは甘えていたいぐらい。」

「無理よ。10歳になれば平民は家業の見習いを始めるのでしょう?粘れて10歳よ。

それも難しいわ。貴方は本物の天才なんだもの。」

「⋯分かりました。気を付けます。」

「あの〜⋯何のお話なんでしょう。」


私とお姉さんの会話を聞いて、思わずと言った様子で母が顔を強張らせながら身を乗り出す。

あ!爆乳と机に挟まれたマルセロが苦しそうになってる。


「お母さんマル兄が潰れてるよ。」

「あらぁ?マルセロ、ごめんなさいね。」

「ぼくもう自分の所に行く。」

「待ちなさいマルセロ。

それはそこに置いて行って。

落としたら大変なことになるわ。あ、割れますよね?このコップ。」

「そうね。ギルバートが運ぶから、カップは置いて行って頂戴。壊した所でどうにでもするけれど、怪我をさせたくないに、貴方達が胸を痛めるでしょうから。」


え?俺がすんの?みたいな雰囲気が滲んでる滲んでる。

でも自分でも他に適任が居ないと理解してるから、無表情でムカついてるギルバートさんが可愛い。

お嬢さんはソレを楽しんでるし、カルマンさんも生温かい視線を向けてる。

義理だけど息子が可愛いんだね。

名前を呼び捨てにされてるけど、義理な上に育ってるから仕方が無いと諦めてるんだろうな。

多分貴族的な地位は息子の方が上なんだろうね。

カルマンさんは騎士だし。

奥さんの地位が高いとしたら、兄が領主を継いでる?

だから外に出たか出された?

血縁を辿ってお姉さんにくっついて来たらパパがつられた?

分からん。

複雑なパズルが過ぎる。

確定してるとするなら、ギルバートさんは間違い無く領主雇用の騎士か、騎士見習いだ。

いや見習いでも実力があれば自立出来るから、縛られてるなら騎士なんだろう。

雇用主はお嬢さんのパパかな。

姉の血縁で雇用されたとしたら、この気位の高さが説明つくんだよね。

カルマンさんは分からん。

マジ分からん。

地位の高い娘、再婚、ときたら領主雇用された騎士が結婚出来る気がしない。

むしろフリーの独立した騎士な気がする。

お嬢さんのお姉さんと年齢が合いそうだから、好きだったけど身分違いで諦めた恋?

でも離婚だか死別だかで独身に戻ったから、再婚となった?

雇用騎士を辞めて、7級を倒してフリーの騎士になったとしたら、何となく辻褄が合いそう。

元から7級だったかも知れないけど、離婚したとか別居したとか言ったスキャンダルな情報は、近くに居なければ知るのは無理な気がする。

おっふ。無駄に好奇心がはかどっちまうぜ。

そしてマルセロの移動タイムが終了した。

うん!ジリジリとしか本題が進まんな!

ラスボスが母だから、仕方が無いよね!

父や兄がいなくても話しだしたお嬢さんの判断は大正解だ。

私だって父や祖父や大人の男性の方が話がスムーズに進むと思うもん。


「それでは話を戻すわよ。

コレの流れ。いったい何回目なのかしら?」

「気にしたら負けです。」

「そうね。ではそこの母。

ようやく興味を持ってくれねとても嬉しいわ。

私が本当に話たいのはリリアナの今後の事なの。

リリアナが世界を揺るがす世紀の大発見をしたせいで、世界中の人達がビックリすることになるの。

その世界の説明だったわね?

世界とはこのイスガルド大陸の全ての国の人達をまとめて世界中の人達って呼ぶのよ。

私達が住んでる他にも国が有るのはご存知だったかしら?」

「は?世界⋯?」

「大陸は知っていましたが、イスガルド大陸って名前は知りませんでした。

他に国があるのは知っていましたが、他の国の名前は教会の本部があるのが帝国って国としか知りません。

教会が世界中にあるのは聞いていたけど、世界が何かまでは知りませんでした。

でも今なら分かります。」

「素晴らしわ!

姉はとても優秀ね。

ちなみに教会本部が有る国は、ルドルフ大帝国と言うのが正しい名前よ。隣のミスドガルド共和国とよく戦争してるわね。

つい最近まで戦争してたわよ。どうせまた直ぐに戦争するとは思うけど。私達の国からしたら間に3つぐらい他の国を挟んでる遠くの国だから、直接的な接点は無いわね。」

「たしかその3つの国をウェスタリアが守ってるから、他の国の人達は仲良しだと聞いています。」

「ルドルフ大帝国がとっても戦争が好きな国で、周りが迷惑してるのよ。ミスドガルド共和国も、元々はルドルフ大帝国の一部だったものが内戦で別れて新しくなって国になったの。

もう300年も前の古いお話ね。

まぁとにかく世界中には国がルドルフ大帝国やミスドガルド共和国の他にもあって、大きい国から小さな国まで、全てを合わせたら20カ国はあると言われているわ。」


え、少な!

私は慌てて自分の口を押さえて我慢する。


「⋯何なのその反応は。」

「え、沢山て聞いてたからもっと有るのかなと。

だってミシリャンゼの周りですら村や街があって、私が知ってるだけで5つは有るのを聞いてたから⋯」

「あぁ、なるほどね。

それはウェスタリアがとても大きい国の1つだからよ。

イスガルド大陸の1/3はウェスタリア王国の領地なの。」

「ふえぇ?!」

「え?!そんなに???」

「これには理由があってね?

ウェスタリアは辺境に1番近い国で、その辺境と言われる森がイスガルド大陸の1/3を埋め尽くしていると言われているからなの。

もちろんミシリャンゼの近くにある森の様に、入るのが難しい途中はあちこちにあるわ。

ウーン⋯地図を見せた方が早いのだけど、地図は見せられないから絵にするわね。」

「お腹をナイフで刺すぐらい惜しい気持ちで口を挟みます。

また脱線してる。

お姉さんは今日中に話を終われるんだろうかと私は不安です。


でも世界の話はとても興味があるので黙っておこうかと物凄く迷っています。自分でお腹にナイフを刺すぐらい辛いです。」

「⋯ありがとう。

そのうち字を読める様になったら本を貸してあげましょう。

そして出来ればあまり物騒な表現をするのは止めなさい。

気持ちはとても良く分かるけれど、切なすぎるのよ貴方。」

「私はお姉さんがどれだけ沢山勉強してきたのかとても感動しています。教会を知らない私ですが、説明がとても分かりやすいです。」

「私は教会を知ってるわ!

私はお姉さんのお話は時々難しいと思うの。

でも私達に言ってくれる言葉は、聞いててとても面白いわ!もっと勉強したくなってくるの!勉強って辛い事が多いけれど、した方が良いと思ってたから驚いてるわ!」

「お姉さんは勉強を人に教える天才だったのきも知れないね。」

「⋯天才なんかじゃないわよ。努力してきた事が実っただけだ。」

「でも本当に私には分かりやすいし、楽しいよ?」

「良いから本題を続けるわよ。」


あ、紙が消えた。

あぁぁ~!そう言えば私にくれるって言ってた紙がない!

邪魔だったからウッカリ片付けらちゃってる。

小金貨は?あれはどこ?

く⋯後でちゃんと確定しよう。

私はナイフを飲み込むぐらい辛い気持ちを我慢した。


「ともかく、私達の国以外の人達も驚く大きな事をリリアナは見つけたの。」

「それはもう何度も聞いてるわ。リリアナは何を見つけたの?」

「覚えてくれて嬉しいわ。

リリアナが見つけたのは、世界中の沢山の偉い人達がずっと悩んで考えてた事の理由なの。」

「え?理由?」

「そうよ。これは貴方達に説明するのがとても大変な難しい話だから、知りたかったらリリアナに聞きなさいね。

でもずっとずっと長い間分からなかった事をリリアナが見つけたけれど、それを世界中の人に教えたらどうなると思う?」

「え?」

「喜んで貰えるのではないですか〜?」

「そうね。喜ぶ人はとても沢山いるわね。私もとても喜んでいるもの。こんなに手間をかけても難しい話を皆さんに分かって貰える様に頑張るぐらい、とてもとても嬉しい話なのよ。」

「それは良かったですね~」

「そうね。私にはとても良かったわね。てまも逆に良く思わない人も中にはいるのよ。

または良く思いすぎて、リリアナが欲しくなる人も沢山いるでしょうね。

私だってリリアナがとても欲しいもの。」

『え?!』

「正確に言えばリリアナの視点と考え方ね。

でも何の事か分からないわよね?」

『⋯⋯』


皆が小さく頷くのを見て、お嬢さんは満足そうに頷いた。


「姉も兄もとても賢くて優秀だと思うけれど、世界の秘密を探す人達はもっとずーっと賢くて、長い長い時間を使って勉強しているの。

それこそ寝る時間や、食べ物を食べる時間を使って、世界の秘密を探している人が世界中に沢山いるわ。

中には世界の秘密を探す為にお金を使い過ぎて貧乏になったり、心が壊れてズルをしようとして、悪くなる人がいるぐらい。みんな一生懸命に探してた秘密を、リリアナが簡単に見つけてしまったの。」

「⋯すごい。」

「まぁ⋯リリアナは賢いとは思ってたんですが、まさかそんなに賢いのですか?」

「え?リリアナってスゴイの?」

「スゴイなんて言葉では足りないぐらい、リリアナは素晴らしの。

それこそ農民の父親から産まれた2歳の女の子が、黒魔石に見えてしまうぐらいにね。」

『黒魔石⋯』

「リリアナが黒魔石に見える人達が、リリアナを欲しがるのは当たり前だと思わない?」

『⋯⋯⋯』

「リリアナは私の妹よ!欲しがられてもあげないわ!」

「そうだよ!リリアナは凄くかしこいかもしれないけど、あげないよ!」

「じゃあこのお金をあげるから、リリアナを売ってくれと言う人には売るのかしら?」


ドン!とさっきまで見てた革袋が机の中央にまた置かれて、ティーセットがガチャンと跳ねた。


『え⋯?』

「神赤金や本物の黒魔石まであるわよ?これがあれば貴方達は一生遊んで暮らせるわね?

贅沢も出来るわよ。

さっき食べた甘くて美味しい物を沢山毎日食べられるわ。

それに綺麗な服も買えるわよ?

ねぇ売ってくれるのかしら?」

「売るわけないわ!」

「そうだよ。リリアナは人間だから売り物じゃ無いよ!」


口々に兄弟が声を挙げる中、母は青ざめた顔をして椅子から立ちあがるとギルバートさんの後ろを通って小走りで私に近付き、抱き上げようとした。


「大丈夫よ。これはこれから起こる事の説明なだけなの。

リリアナを奪うつもりが有るなら、こんな面倒な手間をかけて説明なんてしないわ。」


母は椅子から持ち上げるのは止めたけれど、小刻みにカタカタと震えながら私をギュウギュウ抱き締めている。


「そのままで良いわ。話しを聞いて下さる?

リリアナを守る為には貴方達家族全員の協力が必要なのよ。」

「⋯はぁ〜。お姉さん、今日はもう無理では有りませんか?」

「そうね。父親や他の親族がいるから、この辺りで止めておきましょう。

とうやら皆ようやく私が伝えたかった事を分かってくれた様だものね。

ねえ聞いて下さる?

リリアナの願いは家族と過ごすことなの。

私は私の出来る限り。

命をかけてこの願いを叶える協力をする事に決めたわ。

リリアナが見つけた世界の秘密を、世界のために知らせることを私が願ったから。

全ての説明をして納得して貰いたいけれど、たったこれだけの事を伝えるのに、あれだけの時間が必要になったの。

理解して貰える様に、全てを伝えるのは難しいわ。

だからどうか私を信じて下さるかしら。

嫌がる貴方達からむりやりリリアナを奪おうとする者達から、どうか私に守らせて欲しいの。

他の誰でもない私にこの役目を与えて欲しい。


理由は簡単よ。

アレの話を思い出して頂戴。

この話を知る者が多くなればなるほど、リリアナより貴方達のの命がとても危なくなると思っていいわ。

嫌がるリリアナに言うことを聞かせるには、家族を使って脅すのが簡単だからよ。

そんな悪者を止められるとしたら、家族全員がこの土地を捨てて教会に駆け込むか、国王に願ってお城に閉じ籠もるしかないわ。

とても不自由な生活をしなくねはならなくなる。

でも私はなるべくそうならない為に、行動しようと思うの。

女性の私がリリアナを守るのは、私よりもお金持ちや力のある人達では、間違い無くリリアナの願いが叶えられないからなの。

今私の言う事を理解出来たかしら。」

「他に良い方法はないの?教会の人に相談するとか⋯」

「教会に言えば教会の人間がリリアナの為だからと言って教会の本部があるルドルフ大帝国へ連れて行くわね。」

「そんな!司祭様はひどい事しないわ!」

「ひどい事をするとは思わないのよ。もし貴方達がリリアナを連れて行くのを嫌がるなら、貴方達家族も一緒に行く様に説得するかも知れないわね。

そうで無ければ彼らも危険だからよ。こんな村の教会では守り切れないから大きな教会に連れて行くの。

教会の者からすればルドルフ大帝国が1番偉い人がいる国だから、そこに連れて行くのが安全だと心から思ってそう行動するの。貴方達が嫌がっても、貴方達の命を守る為にそうするのよ。」

「そんな⋯嘘!嘘よ!」

「ごめんなさい⋯確かめさせるのも難しいの。

もしそうなれば戦争をしてでも国王が動いてしまうわ。

リリアナはもう黒魔石になってしまったの。

誰もが欲しがる、とても価値の高い黒魔石なのよ。」

「そんな⋯そんなのって無いわ!何なのよ!世界の秘密なんてどうして見つけたりなんかひたの?!」

「貴方、それだけはどうか言わないであげて欲しいわ。

リリアナは見つけたその秘密を捨てようとしたの。

貴方達家族に迷惑がかかると思ったからね。」

「だったら捨てれば良かったのに!」

「捨てられ無かったのは私よ。

リリアナの見つけた秘密が有れば貴方には想像出来ないぐらい、大勢の人達が幸せになるからなの。リリアナは世界中から驚かれて、褒められる素晴らし事をしたのよ。

それなのに捨てるだなんて、どうしても勿体無くて見逃せ無かったの。

だから私にはリリアナとリリアナの家族を守る責任があるのよ。」

「貴方のせいなの?」

「そうよ。」

「貴方がリリアナを騙してそそのかしたのね?!」

「お姉ちゃん。

私は騙されてなんか無いよ。

私達が世界を騙すんだよ。」

「え⋯?」

「世界の人達は私の見つけた秘密があった方が幸せになるけど、でも家族と離れ離れになったり、悪い人に狙われるのは嫌だから、お姉さんに協力して貰う事に決めたの。」

「どうして私達に言わなかったの?!」

「言えばさっきみたいになるからだよ。私はずっと皆と一緒に居たいけど、私が見つけた秘密は捨てられる様な小さな物じゃ無かったの。

それでも私は家族と一緒に居たかったから、つい捨てようと思ってしまったけれど。

でも今は、家族のためなら家を出て行かないといけない事は理解してるよ。

でもワガママだから、まだ少しでも皆と一緒に居たいんだよ。お姉さんに皆が協力してくれたら、1日でも長く皆と一緒にいながら、誰かを幸せに出来る秘密を見つけていけると思うの。」

「⋯私⋯もう⋯どうしたら良いのか分からないわ⋯」

「どうしても苦しいなら忘れられる薬もあるわ。忘れるものはリリアナよ。」

「そんなの⋯そんなの嫌に決まってるわ!うわあぁぁん⋯」


あ〜ぁ、泣いちゃった。

凄く嬉しい。

私の姉はとても良い子だ。

私は幸せ者だと心から思う。

でもちょっと苦しい。

物理的に。


「お母さん。苦しい。

私死んじゃう」

「あ⋯」

「ふぅ⋯あのね。

皆聞いて欲しい。

お姉ちゃんもちょっと泣くの止めて、聞いてくれたら嬉しいかな。」

「うぅ⋯」


右手に左手にと交互に涙を拭ったカタリナが、私をキッと睨見つける。


「お母さんの話を聞いてて、ちょっと気になったんだよ。

またサラディーン様に叱られそうなんだけど、ひょっとして神様が狙ってやってない?」

「⋯何を言ってるの貴方?

「だって変だなぁって。

子供を2回も連れて行かないと、お母さんも家に閉じこもって体調悪い振りをする事も無かったし。

精霊実って森の深い所にしか無いんだよね?ウチのお父さん、あんまり狩りが上手じゃ無いからそんな所に行く筈無いんだよね。なのに珍しい精霊実を見つけたのも変だし。

始めて見るような珍しい果物なら、試しに食べるような真似なんてしないと思うの。

でも食べてる。

それも変だけど⋯まぁ置いといて。

私が0歳から私なのも変だよね。多分1番変なのは私だとは思うけど、マルお兄ちゃんがヤラマウトに噛まれたのも変。

だってヤラマウトって深い森に住んでるんだよね?

だから珍しいって大騒ぎになったし、お姉さんだってホントなら私と関わることも無かったよね?

と言うか、お姉さんも変なんだよね。だって物凄いお金持ちで、偉そうにしててもいい人なのに、凄く優しくて親切過ぎない?

そんな人貴族の中でどれぐらいいるのかな?

しかも沢山村や街が有るのに、変な私が居るミシリャンゼに来たのも不思議でしょう?

お姉さんじゃ無い人がお店に居たとして、私の話を聞いてくれるかな?

少なくてもお姉さんのお師匠さんじゃ林に一緒に行く事も無かったし。

あ、もっと言えばギルバートさんやカルマンさんもどうなの?

何だか私やお姉さんを守れる人を、誰かが選んで連れて来てない?

これだけ偶然て言うか変な感じが続くのって、どうしても違和感が有るんだよね。

私のお姉ちゃんがカタリナなのも、お兄ちゃんがマルセロなのもお母さんがお母さんなのも、全部本当に偶然なのかな?

私のお姉ちゃんはカタリナじゃ無ければダメな理由が何かあったりしないのかな?

って、考えてたらね。

あったの。理由。」

『え?!』


カタリナが目が零れそうなぐらい大きく見開く。

お嬢さんは顔を強張らせながらカタカタと震える手で自分のギュッと腕を握ってる。

ギルバートさんも驚いた顔で私を凝視してる。カルマンさんも唇を引き結んで物凄く緊張してた。

マルセロは皆の様子をキョロキョロと見て肩を竦めてる。

お母さんは私を至近距離で見下ろして呆然としてた。


「お姉ちゃんは弟が2人居るから、普通の赤ちゃんがどんなものか知ってるの。

でもどう考えても私って変な赤ちゃんだよね?どうして嫌いにならないの?」

「え、どうしてって言われても⋯」

「ねぇねぇお姉さんやギルバートさんやカルマンて兄弟いるかな?皆から見てウチのお姉ちゃんってどう思う?

お母さんの代わりに家事を手伝ってくれたり、子守りをしてくれてるんだけど⋯妹のせいで自分が危なくなるって分かっても、あんな風に泣けるかな?」

「いいえ。私の兄弟なら泣かないわ。喜んで追い出すでしょうね。」

「私なら⋯妹や弟が似た立場であるなら、ちゃんとした設備の整った所へ向かう様に説得する。不憫だとは思うが⋯その方が幸せだと判断するはずだ。しかし年齢が違うので正直分からない。」

「兄弟がどうだったか正直に言えば興味が無くて覚えて無い。俺は少しでも強くなろうと剣の事ばかり考えていた。」

「とまあ、こんなに兄弟や家族思いの娘さんて、いない訳じゃ無いけれど、私からすれば有り難いお姉ちゃんなんだよね。

出来れば一緒にいて欲しいぐらいには大好きなの。

私が人間を好きなのって、お姉ちゃんの影響が大きいんだよね。コレがもしロベルトお兄ちゃんがお姉ちゃんなら、あんまり好きになってたか分かんない。だって関わって来ないんだもん。

マルセロお兄ちゃんは面倒見てくれてるからまだ好きだけど、私より遊んでる方が楽しいみたいで、うーん⋯言葉にするの難しいけれど、他人を幸せにしたいって思えるのって、自分が幸せで心に余裕が有る時なんじゃ無いかなって私は思うの。

カタリナお姉ちゃんが私のお姉ちゃんじゃ無かったら、そんな余裕なんて無いんじゃ無いかなぁ〜って。でもカタリナお姉ちゃんが私のお姉ちゃんになるには、それは誰が決めてるのかな?」

「えっと⋯神様?」

「それしか無いよね?確認出来ないから予想でしか無いんだけど⋯私の考え過ぎ?」

「もうやめましょう。神の行いを推測するなんて不敬だわ。」

「私も私の意思でしか行動していない。確かに指摘されれば色々と⋯思い当たる事が⋯いや偶然だとは思うが⋯そんな馬鹿な⋯」

「やめてくれ。何だか恐ろしくなって来たぞ。俺にはそんな大役なんざ⋯クソ!」

「やめて。やめましょう。私達は神の使徒でも何でもないわ。本当に偶然なのよ。たまたまなの。そうでしかあり得ないのよ。だってそんな⋯リリアナが世界の秘密を見つけて変革させる為に全てがこうなる様に集められたとか⋯」

「私も神様なんて見たこともないし喋ったことも何にもないからね?でももし神様が観察してたら笑ってるのかな?

でも私達が幸せになれないと悲しむのかな?それならきっと大丈夫だよね?世界を幸せにするには私が幸せじゃないとダメだから、危なくになったらきっと良い人を選んで連れて来てくれるかも?

お姉ちゃん大丈夫そうだよ!

お姉ちゃんが私のお姉ちゃんになるように選ばれたみたいに、この人達も私達を守る為に神様が選んで連れて来てくれたと思わない?」

「え?そうなの?え?

じゃあ教会で聞いて見ても良いの?」

「それは駄目。サラディーン様に認められた教会の人じゃ無いとダメだよ。その為に神様が選んでくれた人だからね?」

「あ⋯そうなのね?」

「お姉ちゃんが信頼出来る人をサラディーン様に紹介するなは良いんじゃない?」

「ちょっとリリアナ?!」

「だってお姉ちゃんが塞ぎ込んでたら友達や他の人が相談すると思うよ?サラディーン様がお話してくれた方が良いんじゃ無い?」

「貴方がしなさい!

その方がずっと説得力が有るわよ!」

「それなら一緒に来てね?その方が説得力有ると思うもん。」

「うわーうーわーえ?本当にそうなの?危険ではなくて?」

「危険は有るよ。でもカタリナお姉ちゃんが信頼してる人ならきっと大丈夫。協力してくれるよ。だって教会の人も戦争は嫌だと思うし。私は私の意思をちゃんと伝えられるから。

もし駄目なら魔法学院に逃げるから、大丈夫!」

「それは大丈夫と言わないのではなくて?!」

「お姉ちゃん。サラディーン様がちゃんと大丈夫な時に動いてくれるから、教会の人に相談するのは待っててくれる?」

「分かったわ!」

「えー⋯まぁそうね。

でも姉。直ぐには無理よ。

しばらくは貴族も血眼になってリリアナを探すわ。

だからなるべくリリアナは隠したいのよ。

教会を戦争に巻き込まない為には落ち着くまで時間が必要なの。分かるかしら。」

「分かったわ。サラディーン様がお許しになるまで、私誰にもリリアナの事を話さないわ!

だって私。神様に選ばれたんですもの!頑張って使命を全うするのよ!」


よし。だまくらかせた。

私は心の中で親指を立ててキラリと歯を光らせる。

お姉ちゃんが燃えてる間は、きっと大丈夫だろう。

お嬢さんに下手くそなウィンクをして見せたら、あぁそう言う事?貴方何をやってるの?不敬よ不敬!って顔になった。

ギルバートさんは静かに混乱してて、カルマンさんは重圧に絶望してる。

これは後でちゃんとフォローしておいてあげよう。


マルセロは何だか良く分からないけれど、カタリナが元気になったからホッとしてる。

お母さんは何がなんだか分からなくて小首を傾げてたので。


「お母さん。サラディーン様が全部良いようにしてくれる

から、信じて言う通りにすれば上手くいくよ!」

「あら〜良かったわぁ⋯もう私怖くて怖くてどうしたらいいか⋯」

「もう大丈夫!お父さんにも相談するからお母さんは何も考えずに楽にしててくれて良いからね。あと私のことは秘密だよ。バレたら連れて行かれちゃうと困るからね。」

「お母さん出来るかしら〜?」

「難しかったら忘れたら良いよ。どうせサラディーン様が説明しないと皆信じないから。」

「それなら良かったわぁ!」


一応ポロリが怖かったので口止めをしておきたかったけれど、無理だと悟って方向展開する。

うん⋯ポロリしたら私が誤魔化そう。それしか道は無さそうだ。


問題はマルセロなんだよ。

どうせ秘密とか言ったら言いたくなるだろうから、騎士になる方法を仕込んでそっちに夢中にさせれば良いやと戦略を立てる。


それからフワフワしてるお嬢さんがまた誓約を使って、第1回目の話は一応終わった。



銅貨100枚の上は銀貨1枚 1万円

銀貨100枚で銀板1枚 100万円

銀板50枚で小金貨1枚 5000万円

小金貨100枚で金貨1枚 50億

金貨50枚で金板1 2500億

金板10枚で小白金貨1枚  1兆

小白金貨100枚で白金貨1枚 100兆

白金貨50枚で白金板1枚 5000兆

白金板10枚で小神赤金1枚 5京

小神赤金100枚で神赤金1枚 500京

神赤金50枚で神赤板1枚 2該5000京

神赤板10枚で黒魔石 25該


ちょうより大きい数には、けいがいじょじょうこうかんせいさいごく恒河沙ごうがしゃ阿僧祇あそうぎ那由他なゆた不可思議ふかしぎ無量大数むりょうたいすうと言うそえです。作中に寿限無じゅげむが出て来ますが、リリアナが間違ってるだけなのでワザです。


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