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銅貨1枚100円計算で、金貨1枚50億円なり。


井戸の掃除が終わってから、綱を木から外して巻き取り、それらの道具を倉庫に片付けた後で帰ろうとしたタルクス叔父さんを私が呼び止めた。


「これ私達が作ってる魔力草の種なの。

もし森で魔力を使いすぎて動けなくなったら、コレを噛んで飲み込んだら魔力が少し回復して動けるようになるよ。

殻が硬いから身体が弱ってたら難しいかも知れないから、錬成師屋さんで魔水って言う薬も持ってた方が良いと思う。

錬成師屋さんが売ってる魔水の値段は知らないけど、種の値段は今一粒銀貨20枚ね。」

「ぎっ⋯!

銀貨20枚とはまた⋯それほど儲かるものなのか?

魔力草なら林に沢山生えていた筈だが⋯」

「もちろん理由は有るよ。

銀貨20枚なのは種は珍しいものだし、今は数が少ないからその値段なんだよ。

これから増やして行けば、もっと安くなるかも知れないかな。

でも他に作る人が増えなかったら、どうなるかは分かんない。


育てるには色々と制限が有るし、設備が無ければ林の育ってる魔力草を取ってきても、種を作るのに一ヶ月はかかるんだよ。


あと沢山研究して育て方を調べたから、林の魔力草より私達が育ててる魔力草の方がずっと質が良いの。」

「成る程⋯ではピアを生け捕りにしたのは?」

「うん。捌くまでの数日で肉質や毛並みや魔石がどうなるかを見る為に捕まえて来て貰ったんだけど、それがどうなるかは、まだ分からないかな。

生き物だし、野生の魔物を飼うのはとても難しいからね。」

「確かにそうだな。」

「それから種だけど、そのまま持ってたら魔力が少しづつ漏れるみたいだから、小さな遮光錬成瓶があったら入れといた方が日持ちすると思うよ。

でも種だけでもかなり保つから、そこは任せるね。」

「タダで貰ってもいいのか?」

「そりゃ何個もタダなのは困るけど、これまでもタルクス叔父さんが獲物を持って来てくれてたから、私達は生きてこられたんだし。

いつか恩返ししたいと思ってたの。」

「⋯リリアナ。」

「毎年春には種を使わなかったら新しいのと交換するから持って来てよ。

今は1つしか渡せないけど、頑張って作る量を増やそうと考えてるから、そしたらもう少し渡せると思うの。」

「⋯ありがとう。助かるよ。」

「ただバッカス兄ちゃんは噛み砕けたけど、私には固くて無理だったの。

でも砕いたら魔力が抜けちゃうから気をつけてね。」

「分かった。錬成瓶を手に入れるのに、錬成師の店に行ってみる。魔水も値段を聞いておこう。」

「うん。

私が持ってるこの大きさの遮光錬成瓶が1番小さいんだけど、種にこんな大きな物は要らないし、小さい錬成瓶が無いかお姉さんに聞いてみてね。

あともし魔水の値段が分かったら教えて欲しいな。

お姉さん魔水の値段を言わないんだよ。

だから多分高そうな気がするんだよね。

それで私がそれを知ったら種を値上げすると思って、わざと教えないようにしてる気がするんだよなぁ⋯」

「ふふふ。

まぁそうだろうな。

俺も魔水と言う薬の存在は始めて聞いたが、あの状態を留めようとするなら魔力を使うのは分かる。

だが師匠も何も言って無かったから、俺達狩人からしたら魔水は使わない薬なんだろう。

値段が高いのなら尚更だ。

だからリリアナは種を俺にくれたんだろう?

下手をすれば森で立ち往生すると命に関わるからだな?」

「⋯うん。でもやっぱり奥の手はあった方が良いかなって思うから⋯」

「うむ。修行は安全な場所で行うつもりだ。魔水も調べて手が届くなら1つは持ってみよう。

種は命綱にする。

そうだろう?」

「うん。もし使ったら取りに来てね。」

「分かった。

有り難く使わせて貰おう。」


タルクス叔父さんは渋くはにかむと、大きな手で私の頭をポンポンと撫でる。

もう頭の上に戻っていたピヨ子が迷惑そうにピ!と威嚇したけれど、叔父さんはそれに破顔(はがん)して帰って行った。


私はその広い背中を見つめて猛烈な後悔に襲われている。

種を持たせたのもそれが理由だ。

狩人はいつも死と隣り合わせになる危険な仕事なのだ。

だから皆引き際を見極めて、命を大事にしながら狩りを続けている。

そんな微妙な塩梅の仕事をしていたのに、バランスブレイカーになりかねない技術を教えてしまった。

タルクス叔父さんの才能を舐めてたとしか言いようの無い迂闊(うかつ)軽弾(かるはず)みな行動だったと思う。

あの時の私は新しい技術に触れて、万能感みたいな興奮からつい浮ついてしまったのだ。


だから私はあの時、叔父さんにヒントを渡してしまった。

それが叔父さんを死地に追いやる行動だと思いつかずにだ。


叔父さんは10代の頃から師匠の教えを忠実に守ってコツコツとスキルを鍛えて今も長年の経験を生かして、無理のない狩場で狩りをしている筈だ。

でも新しい技術を身につけた場合。


少なくても自分の周囲にある魔力を取り込みながら、観察する範囲を増やす事が出来るようになったら、タルクス叔父さんは慣れ親しんだ狩場を捨てて、新しい技術に見合った狩場へとステップを進めるだろう。


つまり現状よりも強い魔物が生息してる、生存の難易度が高くなる狩場へと挑戦するのだ。

何故ならタルクス叔父さんは少しづつそうして出来る事を増やして、森の奥を目指して進んでいたから当然そうなる。

勿論タルクス叔父さんの事だから、慎重に事を進めようとするのは分かる。


でも不測の事態と言うものは、突然牙を剥くからこそ不測の事態と言うのだ。

これまでなら逃げられていたその状況も、新しい技術はまだ習得して日が浅い。

だったらタルクス叔父さんは、古い技術で逃げる事になる。

それで逃げられないから、そこに進む前で止まっていたのにだ。


だから当然、新しい技術を何処まで身につけたかで生存できるかが決まって来る。

タルクス叔父さんは父よりも年上なので、少なくても33歳以上の年齢な筈だ。

つまり少なくても18年以上培ってきた技術と、習得して1年足らずの技術をどう組み合わせるかに掛かってくる。

そんなギリギリの判断を迫られる状況に私が送り込んだ事になると気がついたから、私はもの凄く後悔して思わず種を叔父さんに渡したのだ。


咄嗟の状況で生き延びる為に魔力を全放出する危険が、頭を掠めたからである。


タルクス叔父さんのことだ。

新しい技術を完璧に身につけた自信が無ければ、先に進まないと思いたい。

でも咄嗟の判断を求められた時、天才型のジギタス叔父さんは持ち前のセンスで切り抜けて来た。

でも努力型のタルクス叔父さんは?

私の不安の根源は全てそこにある。


面白いな!と、私を見た叔父さんの瞳は、長年求めていた彼に足りない物をついに掴んだと、そう心の底から叫んでいた様に思う。

実際そうなんだろう。

だからジギタス叔父さんは心をへし折られて森から引き離された。

ジギタス叔父さんには、他に狩人として足らない物があったからだ。


ならタルクス叔父さんはどうだろう。

ジギタス叔父さんが持ってなかった物を持ち、狩人でい続ける事を認められた彼がこれから更に成長をして、足りてなかったものを手に入れる事が出来たなら、叔父さんは死ぬまで森から離れないのかも知れない。


だからある日突然彼は、帰って来なくなる。

私が余計な事をしなければ、年老いて自分が納得すれば少し早目に引退していただろう慎重な彼から、その選択肢を奪ったのは私だ。


彼がどうあの技術を消化して、自分の中の経験と今までの技術と結びつけるのかは分からないから。

明日帰らない、と。

いきなりそんな事にはならないと思うけど、でも1年後はどうかは分からない。

森の深い場所に行きたいのなら、回復薬や装備を揃えなければ生き残れない様な厳しい狩場で、狩人は己の才覚と弓と罠で切り抜けるのが仕事なのだ。


私が何も伝えなくても、彼は自分でそれを掴み取っていたのかも知れないけれど。

少なくてももうその未来は無くなった。

今は種を渡すのが精一杯な私だけど、彼を失いたく無いと思うのなら、私は自分に出来る事で彼を守る為の武器や道具を与えるのが、これからの私の仕事になる。


だったら私は運命の歯車を、自分で早く回さなければならない。

タルクス叔父さんは狩場に出て仕事をしている人なので、モタモタしていたら間に合わなくなる。

彼を死地に追いやった私は自業自得だし、そうしたくてするんなら、それもまた自己責任ってやつだ。


「リリアナ、そろそろ飯だ。

帰るぞ。」

「⋯うん。」


もう少しのんびりと歩いて生きたかったんだけどなぁ。


私はそんな未練がましい愚痴を噛み殺すと、赤く染まった空の下を歩いて行くタルクス叔父さんの長い影を見送り、くるりとロープを翻して家に向かって走り出した。


晩ごはんが終わり、日が完全に落ちて外が真っ暗になり、月と星が姿を現した頃。


「きゃーー!!!」

『?!』


ピヨ子に晩ごはんを与えておこうとして、私は異常事態にようやく気が付いた。


「リリアナ?!」

「ぴーーー?!」


ピヨ子の給餌用の木串入りの箱をテーブルに放り出し、ピヨ子をテーブルに置き去りにして一目散に駆け出して裏庭に向かう。


そして新しい水瓶の上に凍らせた氷を置こうとしたが、ズボッと半分まで水瓶の中に落ちてしまった。

その衝撃で氷と砕けて中の水が水瓶の中で溢れたが、それを気にすることも無く、直ぐに魔法の鞄から中にある水を全て取り出す。

鞄をひっくり返す勢いで、全部の水よ出ろと強く念じれば、ビチャビチャと音を立てて地面を濡らした。


「うえぇぇ〜⋯」

「どうしたんだ、一体⋯」


真っ先に駆けつけて来てくれたのは父で、戦慄してる

私の潤んだ瞳と歪んだ唇をみて思わず吹き出しそうになるのを堪えて、心配そうな声をかけて来る。


その後ろにはピヨ子を両手でガッツリ掴んでるカタリナと、ロベルトとマルセロがついて来ており、母はカタリナが投げ出したジーニスの匙を持って最後尾に居た。

ジーニスまさかの1人置き去り。


「こ、氷が鞄の中で溶けてた⋯」

『あー⋯』


私は魔法の鞄は中に入れた物の劣化が遅くなる印象をもっていたのだが。

皆は夏だし暑いからだけの理由で、全員から納得のあーを貰った。

でもそれではまだ私の深刻さが伝わってない。


私は直ぐに丸型LEDを頭上に浮かべて、鞄から紙を取り出して手元に増やして行く。


「う、うそ⋯うぇ⋯うわぁぁぁあん!」


ピヨ子の木串を入れた箱に比べたら、紙は全く湿って無かったけれど、その代わり書いた文字が滲んでいたり、紙にシワが出来てしまい、ヘロヘロになっている物まであった。


まるで濡れた後で急激に乾燥させた様になっているが、深刻だったのは私のメモや紙が滲んで歪んでる事なんかじゃない。


「あ~あ⋯大丈夫だ。

少し文字が滲んでるが、まだちゃんと読めるじゃ無いか。」

「だって⋯だってぇ〜。

宝物にしようと思ってた、始めてお姉ちゃんやマル兄ちゃんが、一生懸命に書いてくれた魔力草の観察記録があぁ~⋯」

『⋯ぇ゙?!』

「それにこれがこうなってるって事は、お姉さんに借りてた大事な大事な本があぁぁ~⋯」

『うわっっ!?』


一気に全員から血の気が引いた音を聞いた気がする。


「リリアナ出せ!

出してみろ!」

「ダメよお父さん!

あんな大きな本、テーブルじゃなきゃ置けない!」


焦る父をカタリナが鋭く指摘すると、父は私の胴体をつかんで一目散に家の中に戻って行く。

お姉ちゃんに捨てられたピヨ子は、自力で最後尾をチョンチョンしながらついて来た。


『はあぁぁぁ~⋯』


そして全員が慌ててる中で、本を全て出してテーブルに置き、そして全員が手分けをして本の中をチェックしたのだけれど。


「うわぁぁぁん!

良かった。

本は無事だったよおぉぉ!」

「表紙がシッカリしてて助かったな⋯」

 

私1人泣き叫んでいたが、家族全員が大きく安堵の吐息を吐いて背中を丸めてた。

なにせ本は一冊金貨3枚もする高級品だからだ。

マルセロだって勉強しているので言い聞かされてたし、母ですら知ってるぐらいの、超超超貴重品として、わが家ではかなり真剣に扱っていた代物だった。


そうなのだ。

獣の皮で挟まれてバンドで開閉を止められていた本は、例外無く全て湿気の損害からギリギリ免れていた。


その代わり剥き出しの紙に書かれていた全ての文章と紙は、低度が違っても全て湿気の被害をうけており、新しく買ったばかりの紙も全部フニャっとしている。

ただし全て乾燥してる状態なのが不思議だ。

念の為と出した布や錬成瓶やインク壺、ペンやお金などには見た目で分かる損害は無かった。


「だが濡れた跡が有るのに何故乾いているんだ?」

「うぅ⋯私が鞄から水を全部出したから全部外に出たんだと思う。それで濡れてた物が全部乾燥したんじゃ無いかな⋯うぅ⋯」

「魔法の鞄はそんな事も出来るのか⋯」

「まぁ!それなら洗濯物が直ぐに乾いちゃうわね♪」

「お母さん⋯魔法の鞄は1番安くて白金貨1枚するんだけど⋯」

「あらぁ⋯それってお幾らだったかしら?」

「金貨50枚で金板1枚で金板10枚が小白金貨1枚で小白金貨100枚が白金貨1枚だったはず⋯。」

「え〜と⋯」

「金貨50000枚かな。」

「ご⋯ごみゃんまい???

それって何枚になるのかしら〜?」

「うーんと⋯金貨が500枚入った袋が100個分。」

「え?500枚が100個もあったら大変よ〜?!」

「⋯そうだよ。」

「ひぇ~!

え?!そんなにするの〜?!

魔法の鞄て、お高いのねぇ⋯」


地の底まで沈んだ私は、やさぐれた気持ちで投げやりに応えたが、母は特に気にならなかったらしい。

それよりも説明された内容にビックリして、困った様な吐息をこぼしてた。


村人は数は100までしか知らないんだよ。

それ以上必要な数があんまり無いからだろうね。

だから代表して聞いていたのは母だったけれど、他にもピンと来て無かった兄弟達もうわぁ!と、顔を強張らせている。


それにしても謎が残る。

私の予想では魔力草を草の状態で中に入れたら萎れたので、魔法の鞄の中には空気が無い筈だったのだ。


空気が無ければ真空だと言う事で、だから生きてる魔力草は呼吸が出来ずに萎れたが、食品などの他の素材の劣化が通常の空間より遅いのは、そのせいだと認識していた。


でも実際には、鞄の中で氷は溶けていたらしい。

つまり魔法の鞄の中は真空では無い事の証明となる。

ならどうして魔力草は萎れたんだろう。


そもそも私は魔力草が二酸化炭素を必要とする植物なのかは知らない。

ただ魔力草が萎れた状態なのを見て、前世の知識がそう言ったから、私もそう考えていただけなのだ。

イメージとしたら宇宙空間かな。

でも真実そうなら氷が溶けたのは変である。


つまり魔法の鞄の中で生き物を入れられない理由が、他に有る事になるのだ。

空気はある。

でも限られた空間だから、取り込まれた空気は通常は入換られない。

でも魔力草は1日とは言っても閉鎖空間の錬成瓶の中でスクスクと成長してる。

魔法の鞄の時は日が出てる日中の時間、収納しただけで萎れたのにだ。

これは二酸化炭素の量は関係無い事になる。

だって明らかに錬成瓶の空間の方が、魔法の鞄の空間より狭いからだ。


駄目だ。今考えてもサッパリ理由が分からない。

これも学校で学ぶ知識か、必要な情報がまだ足りてないんだと思う。

ただ魔法の鞄の中で氷は溶ける。

濡れたら劣化する素材は一緒に入れられない。

この2点が今回の失敗で分かった事になる。

本が無事で本当に良かったよ。

金貨3枚するだけあって、多分湿気に強い造りになってるんだろう。

紙がへろっても破れて無いのは、原料が植物性の脆い紙じゃ無いからだろうし、多少滲んでも文字が読める程度に被害が済んだのは、インクが油性だからだと思う。


これはあくまでも予想でしか無いけど、紙は錬成師が作った薬剤を元にして、平民が工夫して作った薬剤か何かで、ピアとかの雑魚魔物の皮を加工して作ってるんじゃ無いのかな?

少し高くても平民が買える値段に落ち着いてるのは、ソレが理由なんじゃ無いかと思う。

だからペンが引っ掛かって書きにくかったり、水に濡れただけで湿気で歪んだりするんじゃないだろうか。

本を見たら明らかに、紙質の良さに差を感じるもん。


つまり今回の1番の被害は、記念に取っておいた兄弟達が書いた観察記録だけになる。

これがもう個人的に大ダメージなんだよ。

マルセロの幼稚園児が書いた様な拙い文字だけど、私が読めるように一生懸命に書いてくれたからもう、この文字を見るだけで胸キュンする作品になってるし、カタリナだってそうなんだよ。

まだマルセロよりは綺麗な文字を書いてるけど、小学生の文字だからね!

これが愛おしく無い訳が無い。


無事だった本を横に置いて、2人の観察記録を手に取って泣いてると、2人から微妙な視線を向けられてしまう。


「もうそんなもの論文?て言うの書いて出したんでしょう?

ならもう要らないじゃ無い。」

「うん。今ならもっと上手に書けるから、僕もちょっとそれは恥ずかしいから捨てて欲しいかも⋯」

「駄目だよ!

これはすっごく貴重な記念品なんだよ!

もう二度と同じ物は手にはいらないんだからね!」

「な、何をバカな事を言ってるの?!」

「そうだよ!

そんなのぜんぜん貴重なんかじゃないから!」

「もう捨てるから出しなさい!」

「嫌!」

「リリアナ?」

「これは私の宝物なの!」


取り上げられそうな雰囲気に、私は慌ててそれらを収納する。

今度木箱を買って来て貰って、また似たようなトラブルが起きてもちゃんと守れるようにしなくてはならないなと、心の中で使命感を燃やす。

2人からはえー?と言った、微妙な視線を向けれているが、ツンとそっぽを向いて無視してる。


「ハハハ。まぁ本が無事で本当に良かった。

高いからと言うだけでは無くて、人から借りた物だからな。

しかも相手は貴族様だ。

私達なら大丈夫だと信用して貸してくださった貴重なものだから、汚さずに済んで本当に良かったよ。

人からの信用を失ったらその方が取り返しがつかない事になる。

だから皆も気をつけなさい。」

『はい(うん)』

「それじゃあ、そろそろ仕事をしようか。」

「錬成瓶や魔力草を出したら畑に行くね。」

「うむ。ならロベルトはリリアナに付き添ってやってくれ。」

「ピアはどうすんだよ。」

「それは倉庫からだして、一度様子を見るつもり。

眠り薬の餌は畑が終わってからにするね。

だから忘れないように、一緒に覚えててくれるかな?」

「おう。良いぜ。」


こうして私達はそれぞれの仕事に向かって行く。

私はカタリナにお願いして井戸の木蓋を開けて貰い、新しい水瓶の中にあった氷を溶かして井戸の蓋を造り、井戸の上に乗せた。

もうそれだけで自分の魔力は8割消耗してしまったので、取り敢えず周りから魔力を集めて身の回りを固めている。


LEDライトをつけてみたら、髪の毛の色は明るい金髪から少し濃い目の栗色に戻っていた。

これでようやく何時もの私の状態に近づいたけど、もうすでに私は魔力の少なさに心許なさを感じてる事に愕然とする。

まだ半日も経ってない。

それなのに周りの魔力を取り込まないとと、そんな気持ちになってしまうのだ。

これは相当気をつけないとヤバいと思った。


でもこれから色々とやりたい作業が残ってる。

だから迷った挙句に私は魔法の鞄から、魔力草の根っ子を入れて月の光を浴びせ続けてる水を取り出して、半分だけ遮光錬成瓶に入れて、両方とも魔法の水を満了にして蓋を閉めた。

ネジ回し式じゃないから締めると言うのも変だけど、コルク状の蓋を瓶の中に押し込むと言った形だ。

私はかなり非力な自覚は有るけれど、開けようとか閉めようとか思えば簡単に行えるから不思議な造りだと思う。

錬成師が作ってる瓶にしては安物だし、ガラスと違って軽いのでプラスチックの容器みたいな気安さも有る、本当に不思議な瓶だった。


内容量が400mlならほぼペットボトル1本分の重さになる。

だから容器がガラスなら私には重くて扱えて無かったと感じてる。

魔法の鞄も不思議だけど、1番触れ合う機会のあるこの錬成瓶が、私には1番の不思議かも知れない。


「水瓶はどうする?」

「明日からは井戸水を入れるつもりだったけど⋯運ぶのを魔法の鞄でしようと考えてたけど、難しいかも知れないね。」

「ふむ。また鞄の中で水がこぼれたら大変だからな。」

「うん。でも本や紙を全部あの1番小さい魔法の鞄に入れたら大丈夫かと思う。」

「ならそうしよう。

今夜はもう無理だ。

本や紙の移し替えは明日にしよう。」

「うん。それじゃあ錬成瓶と錬成箱を出していくね。

ロベ兄ちゃんはピアを倉庫から持って来てくれるかな?」

「おう、良いぜ。」

「カタリナお姉ちゃんは洗濯用の木の桶を持って来てくれるかな?」

「何に使うつもりなの?」

「これから説明するよ。

桶があった方が分かりやすいと思うの。」

「分かったわ。」

「なら俺は畑に行ってくる。」

「あ!お父さん、ちょっとだけ待って欲しいの。

ちゃんと畑のお手伝いするから、お父さんの力を借りたいの。」

「ん?そうか。

だが大丈夫か?」

「うん。取り敢えず出すだけ出すね。

マル兄ちゃんとお母さんは瓶を並べてくれるかな?」

「良いわよ。」

「うん。」


こうして錬成箱を2つ出して横に並べ、その1つに座らせて貰うと、下にどんどん錬成瓶を出して行く。


そうしてると先にカタリナが戻り、少し遅れて大型透明錬成瓶を抱えたロベルトが戻って来る。


「それじゃあ先に説明するね?

これからこの錬成箱の中の水を全部お父さんに箱の上に持ち上げて貰います。

お父さんはこの形のまま水を真上に浮かせて、方向を横に変えて下さい。

そしたら私が水の周りを凍らせるので、凍ったら錬成箱の上に置いて下さい。

どう?お父さん。

分かるかな?」

「あぁ、水瓶の上に乗せてたみたいにずらせば良いんだな?」

「うん、そう!

横長をずらして『十字』にするの。」

「じうじ?」

「えと、こんな形。」


地面に絵を描いて説明すると、父はフムと頷いて返す。


「お母さんは木桶を浄化してて下さい。」

「良いわよ。」

「お父さんは此処に立ってね。

合図したらお姉ちゃんとロベ兄ちゃんで、錬成箱の両端に立って蓋を開けて欲しいの。

それでお父さんが水を持ち上げたら直ぐに蓋を閉めて、閉めたら直ぐに逃げて欲しいの。

出来るかなぁ?」

「それぐらい簡単だろ。」

「一人でも出来ると思うわよ。でもまぁ良いわ。」


木桶がレモン色に光るのを横目で見てるウチに説明を終えて、兄弟が配置につく。


「蓋を開けて下さい!」

『うん!(おう!)』

「お父さん、今よ!」

「おう!」


父が水を持ち上げて蓋より高くすると。


「蓋を閉めて逃げて!」

「任せて(ろ)!」


兄弟達が蓋を閉めてパッと散る

。それを見た父が私が指示する前に、箱状になってる水の塊を横に180度回転させた。


そして錬成箱の真ん中辺りに水の中心部分が来る所で、私は水の周りに魔力を沿わせて外から水を凍らせるのだが。

だが予想通りに父の魔力は強いよで、私は身体の距離を水に近づけて、その有利さで魔力を補強させる事にした。


先ずは父から遠い場所に向かって、そこから水を侵略して行くのだ。

場所は水の底から凍らせて行くのだが、距離を近づける為に、錬成瓶の上に立って頭の上に手を伸ばした。


父は錬成箱との距離が5mぐらい離れてるが、私と水の距離は30cmぐらい。

そして私に近い場所から、父の支配を染め替えた魔力が水の底や横を凍らせて行くのだが。

まぁ魔力が足らない。


仕方が無くて魔法の鞄から例の遮光錬成瓶を取り出して、水を半分移し変えて魔法の水で薄めた物をグビッと一口飲む。

そして増えた魔力を使って私の支配を増やし続け。


「リリアナ、まだか?!」

「あと少し!」


取り敢えず上は犠牲にして横と下を完成させた。


「良いよ!そっと置いてね。

中はわざと凍らせてないの。」

「よし!」


私は更に二口飲んで、父がゆっくりと先々してる間に上の水面も凍らせて行く。


「ふぅぅ~⋯」

「お父さん、お疲れ様。

これ飲んで良いよ。」

「うん?なんだこれは。」

「使わなかった魔力草の根っ子をつけてた水と、月の光を浴びせたものを私の魔法の水で薄めたものだよ。魔力を回復するお水なの。」

「おお!それは助かるな。」

「まだ効果がよく分かって無いから、少しづつ飲んで回復量を感じながらにしてね。

魔力が溢れる事は無いと思うけど、今のところ量はあんまり無いから。」

「分かった。」


体感した所だと回復量はそんなに悪く無い。

ただ吸収率が悪いから早目に飲んで置いた方が良い代物だとは感じてる。

あんまりドーピングするのは嫌だけど、スーパーになるよりかはマシだと思うことにしている。

あと魔法の水を足した事が幸いして、水が保有してる魔力の量が何となく分かる。


「⋯お父さん用にもつくった方が良さそうだね。」

「うん?」

「私よりも少し身体に魔力が溶けにくいみたい。

私は自分の魔力だから楽に入ったけど、お父さんは少しだけ弱いみたいなの。でも多分この水の元はお父さんの出したお水だから、まだ吸収してるんだと思うけど⋯」


つまり父と私の合作になるのだ。

初期の頃は父やカタリナやロベルトに水を出して貰っていた。

でもやはりカタリナよりも父が出す水の量が多かったので、今回のは偶然だけど、多分当たりは父の方が多くなってる。


なので元は父の魔法の水に月の光を浴びせ続けていたが、途中で使用して量が半分になり、そこに私が魔法の水を足して月の光を浴びせ続けていた。

またそれを更についさっき私がソレを半分にして、私の魔法の水を入れたので父の割合は単純計算で1/4に減ってしまっているのだ。


でもこれは吸収率の問題で、時間を置けば私のだろうとそのうち吸収されて行くとは思う。

だから速攻の効果を求めるのなら、自分の魔力で出した魔法の水を使う方が良さそう。

と言った所かなと。

新たな技術で感じた感覚かそう伝えている。


「それじゃあお父さんは少し休んでてね。

次は他の人達でお水を汲んで貰うからね。」

「え?でも凍らせちまってんじゃん。」

「大丈夫だよ。

これから説明するね。

先ずは空の錬成瓶を持って来てくれる?」

「あるわよ〜」

「あ、ありがとう。

次は木桶は此処に置いて、その周りに座って欲しいの。

地面に直接座らないで、お尻の下に錬成瓶を置いてくれて良いよ。

凍った所の下からお水を出すようにするから、そこから錬成瓶についでいって欲しいの。

マル兄ちゃんはお水の量を調整して貰うから、此処に立っててくれるかな?」

「いいよ。」

「最初は私がやるね?」


口で言うのは簡単だが、実際にやるとこれはかなり魔力を使う高度な技術になる。

私は突出してる氷の下に排水溝の穴を開けて、下に水を落とす形で凍らせて行く。

でも仲間では凍らせない。

あくまでもイメージは水道の蛇口になる。

ただ水を開閉する弁がついて無いので、氷の上に穴を開けたらジャジャ漏れになるだろう。

今は完全に密封しているので、意図的に魔力で水を引っ張らなければ水は出て来ない。

だから加工も容易く行える。

ただし水を引っ張りながら形を整えて凍らせてるので、粘土細工を水でしてるようなものだ。

でもこれが中々難しい。 


右手で絵を描いて左手で文字を書いてるようなもので、水を引っ張りだして形を整える。

この水の操作の技術が絵を描くのと同じなら、整えた形の外だけを凍らせることが、文字に当たる。

これは私が前にやってた魔法の使い方になるのだが。

私だけの頭脳1つならまるで出来ないので、現場の魔力達に指示を出してその通りに動いて貰ってる。

これが新しく会得した技術になる。

摘んで私はイメージを自分の魔力に、乗せて送り込むだけで魔法を使っているのだ。

前も確かにイメージをして魔法を使っているので、やり方としては似ているけれど。

自分が魔力を掴んで手動で行う事と、魔力と同調してイメージを説明して動いて貰うのとでは、天と地ほど労力の差が生まれている。

車で言えばオートマとミッションの違いかなぁ。

だからメリットとデメリットは勿論有る。


メリットは楽なこと。

指示するだけでやってくれるから、使用魔力量も少なくてイメージ通りの作業が出来る。

デメリットは魔力達が自分で働いているから作業が終れば消滅する事だ。


つまり今父と私が行った新しい技術を使っての作業のせいで、錬成箱にあった魔法は随分と減ってしまった事になる。

駄目じゃん。

疲れて意味の無い作業をしただけになる。


だから此処で工夫がもう一つ要るのよね。

どうするかと言えば、周りから魔力達に集まってもらうのだ。

それでも足りないのでドーピングしてる。

それが月の光を浴びせた水と魔力草の根っ子だね。

この作業のメリットは父と私のの拘束時間を減らすこと。

デメリットは残された家族達が冷える事。

氷の近くの作業だなら寒いよね。

まぁ今は真夏だから、そのデメリットは相殺されてるけど、それは箱が1つなのと氷で水が減って作業が少ないから。


今のところ駄目駄目な結果ばかりだけど、この作業を一気にメリットだけにする方法が1つ有る。


「王様〜聞こえてるかなぁ?

もし時間があったらちょっとだけ来てくれない?」


蛇口を完成させてさぁ今から水を流そうかと言った所で、ダメ元で魔王を召喚した。


「⋯どうした。」

「あ、王様。こわばんわ〜!」

『?!』


少しだけ待ってみて、やっぱりダメかと諦めかけた頃、ギョッとしてた家族もホッとした頃になってから、家の玄関から魔王がスタスタと歩いてくる。

私は笑顔で片手を挙げて、コッチだよと居場所をアピールしとく。


そりゃ父は総立ちで直立不動。

ロベルトもマルセロもポカーンと口を空けてる。

母も姉も聞こえないキャー!を挙げて両手で口元を押さえて全身をプルプルさせてた。

なんかライブが終わったスターを出待ちしてたファンみたくなってるが、まぁスルーだ。


「ぶっ⋯相変わらずな。」

「今寝てるけどね。

それよりコレを観てくれるかな?」

「⋯ふむ。」

「魔法でやると中の水が消耗するから、道具をつかいたいんだけど、錬成箱ってこんな風に穴を空けられる?」

「ふむ⋯この形が良いのか?」

「下手だから分かりにくいと思うけど、この下に下がった所をポットみたいにして、水を瓶にいれたいんだよね。

あと水を出したり止めたりしたいかな。」

「暫し待て。作業は明日もしておるのか?」

「うん。この時間ぐらいに何時もしてるよ。」

「ならば試作を持って来よう。用はそれだけか?」

「ううん。少し聞きたい事が幾つかあってね。」

「ふむ?なんだ。」

「魔法の鞄に剥き出しの素材を入れたら魔力が劣化する?」

「鞄にいれずとも錬成瓶に入れねば、魔石以外の全ての素材は劣化するが?」

「なら魔法の鞄に水だけ入れて持ち運んだりする?」

「それは可能だが、出した先に入れ物が必要になる。」

「その時に魔法の鞄に問題は起こるかな?中が臭くなったりとか。」

「さぁな。世はしたことが無い故に知らぬが、そうして水を運ぶ土地が有るのは知っているぞ。

飲用に利用すると言う事は、気になる程ではないのではないか?」

「そう。あ、そうだ。

魔法の鞄て10年が期限って聞いたんだけど、期限が切れたらどうなるの?」

「従来通りの品に戻るぞ。」

「それに魔力を足してまた利用したりする?」

「可能か不可かを問われているのであれば、可能では有る。

だが新たに制作した方が消耗する魔力は少なく済む。

消耗するのが魔力だけでは限らぬ故に、現状であれば処分しておるな。」

「じゃあ実験してみてもいい?」

「ほぉ?」

「魔力が切れて捨てる前の物があったら何個か持って来てよ。

成功するかは分かんないけどさ。

あ、1つは容量が少ない物があったら嬉しいな。」

「ククク⋯良かろう。」

「参考に聞きたいんだけど。

魔法の鞄で1番小さい容量の物を作る時に必要な魔力は、魔石にすると何級の物が必要かな?」

「⋯ふむ。材料とすれば5級から制作可能ではあるが⋯全ての魔力を合わせるので有れば、6級以上になるであろうな。」

「5級の魔石って幾らで買えるの?」

「さぁ、世は知らんな。

戦士ギルドで問えば分かるであろう?」

「そか。分かったよ。

ありがとう。

ちょっと色々と実験してみるね。

また新しい事が分かったら伝えるよ。」

「フフフ⋯魔石の次は魔法の鞄を強化するのか。」

「ウーン⋯新しいものが欲しい人はそのまま買えばいいけど、今は足りてないだろうから。

再生して使えるんなら、その方が作るより安くなるなら、そうしたいかなぁって。」

「利権はいかがする。」

「製作者は10年が期限で良いと思うよ。その代わり不測の事態が起きても、期限よりも超えて使用してたら製作者に責任は行かない事にするの。

10年より古い物を使用したその人が責任を持つなら、損害はその人が背負うんだよ。

だからどうしたって大事な物を運ぶのには使えないでしょ。

突然壊れる事もあるのが使用期限で、それを越えてるんだから保証されないんだし。

だから新品の魔法の鞄の需要は絶対に落ちない。

そもそも足りてないから。」

「ふむ。運用するのであれば、また議論は必要であろうが、先ずは安価に魔力の補充が可能か、不可能かにかかるが⋯。

2級をそこまで高めるのであるな?」

「そこはやってみないと。」

「フフフ⋯成る程。

魔石の価値を落とさずに、使用の道を増やすのだな。」

「魔法の鞄が壊れたらどうなるの?」

「従来の物に戻るのみ。

故に地に全て撒かれるな。」

「つまり魔物の遺骸とか麦なら大きな問題にはならないね?」

「道が塞がれば問題であろう。」

「その規模の問題は全て運んでる商人が背負う事になるから、新品は必ず売れるんじゃない?」

「フフフ⋯そう来るか。」

「じゃ忙しい所を呼び出しちゃってゴメンね?

また明日宜しくお願いします。」

「ふむ?」

「じゃあマル兄ちゃん、コッチに来て。説明するから。」

「うぇ?!」

「早く早く!」

「あ、うん⋯」


マルセロはジッと私を見下ろす魔王が気になって仕方が無いみたいだけど、私に急かされたせいで慌てて駆け寄ってくる。


「錬成瓶の蓋をこうして当てて、水を止めるんだよ。」

「えと⋯うん。」

「それじゃお水を出すから、冷たいけど頑張って。

シンドくなったら交代するから、言ってね。私がお水を止めるから、」

「わ、分かったよ。」

「お母さん達は此処から出る水をどんどん錬成瓶に入れていってね。お母さん、聞いてる?!」

「あ、あら〜。でも王様がいらっしゃってるのに⋯」

「王様は観たいから作業を見てるだけなの。

だからお母さんは見てないから気にするだけ損だよ。」

「あらあら〜。そうなの?

でもお母さんちょっと恥ずかしいかも〜?」

「なら桶に溜まる水でも掬ってたら良いよ。」

「お姉ちゃんとロベ兄ちゃんは、今のうちに錬成瓶の蓋を開けておいてね。水を入れたら閉めて代わり番こに水入れてってくれたら良いよ。」

「お、おう。」

「わ⋯、分かったわ。」


皆魔王に気を取られてるから、全員気がそぞろで動きがかなりぎこちなかった。

でも無視して私は事を運ぶ。

だってサッサとやらないと父の寝る時間がヤバい。

予想より錬成箱の氷に魔力と時間を取られすぎた。

急がなくちゃ。


魔力を伸ばして箱の上の氷に5cmぐらいの穴を開けた。


「何だそれは。」

「うん?」

「其方の魔力の使い方だ。」


するとヒョイと後ろから胴体を掴まれて、くるりと回されたかと思えば真剣な顔をしてジッと私を探る様に見つめてる魔王の顔が間近に迫る。

ウゼェ。


心からうんざりした気持ちになったが、キャー!と、母とカタリナから聞こえない悲鳴が挙がってる気配がする。

ちなみに父とロベルトかはうぉー!と無言で野郎の悲鳴が挙がってる。

マルセロは頭の処理がついてきて無いから口を開けてポカーンだ。

もうマルセロ以外の皆の反応もウゼェ。


違うから!

何もテンション上がる事を魔王はしてないから!

魔法の使い方が気になったから、瞳の色を確認しようとして顔を近づけて見てるだけなの。

家族が気にしてる様な事は全く考えてないの。

全員見た目で騙されてるけど、孫もいる爺ちゃんだからな?


「近い!」

「む。」


ぺしん!と掌でオデコを抑えたら、魔王が普通にムッとした。

勢いが良かったから殴られたと勘違いしてムッとしたけど、でも痛くも無いから怒るほどでもないかと考えて、気を持ち直したらしい。

私の腕を払うこともなく、答えの続きを待っている。


「お爺ちゃん顔が近い!」

「世は其方の祖父では無い。」

「え?何その逃避。

意味なくない?

自覚してんのに、無理やり現実から目を背けてるよね?」

「黙れ。」

「男なら開き直って(じい)ですが何か?って、ドッシリしてろよ。

変に若作りして、取り繕ってるのってカッコ悪いからな?」

「ぬぅ⋯」


鼻先に人差し指を突きつけると、本格的にムッとしてる。

でも言われた言葉が正論だから、真面目なコイツは何も出来ない。

何故なら侮辱では無くて事実だと認識してるからだ。

だからこっちも指を引いて苦笑を浮かべる。


「友達にちょっと良い所を見せたくて見栄張りたくなるのも分かるけど、俺達の関係にそう言うの要らないだろう?

俺達が本当に興味が有るのは、魔法とまだ知らない何かを見つけて知る事。そうじゃない?」

「⋯ならばアレは何だ。」

「前にアンタもやってたじゃん。

棚の上の杖を取るときにしてたのと同じだろう?」

「世は魔導師だ。

其方は何故(なにゆえ)同じ真似が出来るのだ。」

「ウチのお父さんに魔法の使い方を習っただけだよ。」

「其方の父だと?」


魔王が視線を巡らせて父を見たから、直立不動のままビクンと肩が跳ねた。

実際は背筋を伸ばしただけなのに、勢いがつきすぎて文字通り小さく飛んでた。

ちょっとビビり過ぎててウケる。


「魔法師では無いと思っておったが⋯」

「うん。農家の跡継ぎ。」

「何故その様な者があの様な魔術の使い方を其方に教えられるのだ。」

「魔術だなんて自覚はしてないんじゃ無いかな。

それに昔から代々伝わってた事みたいだし。

この村の人達もそうなのかは知らないけど、ウチの家に限って言えば魔力過多症の妊婦から産まれた子供しか跡継ぎになれないんだよ。

仕事の量が多いから。」

「むう⋯故に対処法を知っておったと言う事か⋯」

「あと生活習慣の違いかな。

貴族女性と違って日の当たる場所で肉体労働してるから、基礎となる体力が有る。


だから高齢で出産する時とか、自分の代わりに家事や労働してくれる子供がいたり、そこの森から魔力の高い材質の食物を取ってきて、妊婦の時に食べさせるかしないと、魔力過多症には中々ならないんじゃ無い?


それになったとしても症状が軽くて深刻な問題になってないだけで、似た環境の村の人なら何処でも有る話なんだと思うんだよ。


魔法の使い方だって、毎日日差しを浴びながら、回復薬も使わないでたった一人で、もしくは少人数でやるような仕事じゃ無い事をやらないと食べて行けないから、仕方無く効率が良くて、楽な方法が無いか試してやって良かったら口伝で伝えていくんじゃないか?


だからウチだけじゃ無くて、探せば他にも並の魔法師以上に強い魔力を持った農民がゴロゴロしてるかもだよ。」

「⋯⋯そうか。」

「だから農民だろうが街民だろうが、王侯貴族に似た色をしてるのがそう言う生活をして来てる人達で、そう言う人達が集まってる国だから、ウェスタリアが繁栄してるんじゃ無いのかなぁ?」

「⋯⋯」

「あ、だからってちゃんと教育させてからじゃなきゃ、魔法師の代わりに使おうとすんなよ?

そうでないと国が大変な事になるからな。


今私はこう言う情報を頭のアンタに伝える目の仕事をしたけど、私以外に他にも沢山増やせば、色んな所から話を聞けるし、王様が自分で動かなくても良くなるから役に立つんじゃない?


こう言う事を考えるのが頭の仕事なんだけど、王様は友達だし。

明日私の仕事が楽になる道具を持って来てくれるから、お礼の代わりに王様が仕事をしやすいように、私が気付いた事を教えてあげるね。


今王様が不自由なのは、魔法師の方法で仕事をしてるからなの。

だから魔導師のやり方で仕事をするには、目や手足を増やして行かないとダメなの分かるよね?」

「⋯どの様にして増やす。」

「王様が目や手足を育てたら良いんだけど、それは苦手なんだよね?

だったら私を学校に行かせてくれるんなら、代わりに私がそれをお手伝いしてあげても良いよ。

だから私が早く学校に行って王様のお手伝いが出来るように、私が居なくても家の仕事が出来るお道具や道具を増やす実験の材料が欲しいなぁ〜」


スッと魔王が私を下に降ろすと、スタスタと歩いて家に戻りかけた所で、途中で我に返ったらしく、パッと姿が消え去る。


『はあぁぁぁ~⋯』


私以外の家族全員が、大きなため息を吐き出して全身で脱力した。

さて邪魔者が居なくなったので、私は心置きなく仕事を続ける事にする。


「それじゃいくよ!」


真夏だからイケルかと思ったが、夜に氷水はやっぱり厳しかったらしい。

マルセロの唇が紫色になってるのを見て、明日が待ち遠しくなった。

桶の周りも水浸しだし、水の魔力も減ってしまってるしで今夜は大失敗だ。


「この残った氷はどうするんだ。」

「崩して魔法のお水をいれといてよ。その間に私はお爺ちゃんの家に行くから。」

「向こうでも同じ事をするのか?」

「ううん。思ってたよりも消耗が多かったからやめとく。

向こうは何時も通りにして貰うよ。」

「なら俺が連れて行けば良いのか?

俺は畑が気になるんだが⋯」

「そこは私もお手伝いするから、今は何時も通りにして行こう。」


錬成箱の上に積んだ氷の箱を崩して錬成箱の中に入れた後、マルセロやカタリナやロベルトや母に魔法の水を入れて貰うように指示すると、私は父と2人で祖父の家に向かった。


そこは何時も通りだったので、箱を置いて去るだけで良かったんだけど、畑に向かう途中で氷水の中に水を入れてる家族達が寒そうにしてる姿を見たら、我ながら罪悪感で胸が痛むわな。


だから父に伝えてまた家に戻って貰った。

そしてまた私は遮光錬成瓶に月の光と魔力草の根っ子を入れた水を全て注いで、透明錬成瓶を空にする。

根っ子は悩んだ末に、モゾモゾと起きてたピアの瓶の中に入れてみた。

もしピアが食べずに残したら、朝になったら捨てようと思う。


そして今夜は空になってる新しい水瓶に小川の水を入れてお湯にしてお風呂にしようかと考えていたけど、小川の水を運ぶのにも父に多くの魔力を使わせてしまう。

それはこれから畑に水を撒く事を思えば都合が悪い。

だから空の水瓶を魔法の鞄に入れて、持ち運ぶことにする。

勿論水瓶の中に水が残ってないかは、父にチェックして貰ったよ。


そして氷水の箱の蓋を閉じて、身体を拭く布と着替えをカタリナに準備しに行って貰った。

足場は木箱や板でいいやと、父に倉庫から木箱を、ロベルトとマルセロに薪になる予定の板を運んで貰う。

切って乾燥させた新しい木材を街に運ぶ業者が、街から帰るついでに古い家を壊した時に出来る廃材を安く引き取って来て売るので、村で再利用出来ない物は家で割って薪代わりに使う事もあるから、この近辺の住民は大抵こんなのが置いてある。


今回の廃材は元は何処かの家のドアだったらしく、丁度いい感じに割れて半分になってたので、スノコ代わりに使う事にしたのだ。


私は家の近くに有る小川で、エレガント米粒取るときに平籠を洗う場所の上流になってる事を確認してから、でもまぁウチの上流で同じ事をしてたら意味ねぇやと半分以上黄昏れながらも適当に場所を選び。

でも民家付近にある人工小川の土手はかなり低いので、水瓶の入り口と高低差が開いてる事に不満を持った。

それに水瓶の高さがマルセロよりも高いので、跨いで入りにくい事も有り。

だから水瓶を地面に半分ぐらい地面に埋めて、水を入れやすくした上で、人間が水瓶の中に入りやすくしようと考えた。

それでも水瓶は深いので、底はさっきつかった洗濯用の木桶を沈めて足場に使う事にする。


お風呂のイメージは固まったから、月の光を浴びて小川のなけなしの魔力がチョッピリ増えた物を利用して、人工小川の近くに有る地面に大量の水を撒いた。


そして私が支配している水を利用して、土の中に水を染み込ませて行く。

そしたら硬い地面が泥になって動かしやすくなるので、そこに新しい水瓶を置いて地面の中に沈めて行くのだが。

え?ちょっとキツイんですけど?

と、言わんばかりに水瓶の周りの土が盛り上がって行く。


だから予定の半分ぐらいまで水瓶を沈めたら、周りに土手みたいな囲いが出来てしまった。

でもコレが有ると水瓶の中に入るのに邪魔なので、一部分は階段代わりの段にして、他は通れるように横に寄せておく。

泥のままだとフニャフニャだから、加工が終れば水を全て引き上げれば、無骨ながらもそれらしくなった。

引き上げて用済みになった水は、空の水瓶に7分目ぐらいまで注ぎ、残りは小川に戻せば作業は終了になる。


こうやって人工小川の横に土手が出来るのかと思ったが、今は関係ないからそこらはスルーする。


『土魔法?!』


家族が誤解して驚いてるけど、まだ他にやることが残ってたから、時間の節約の為に説明はせずに母にお水の浄化を頼む。


「え〜?さっきお水を作るのにも魔力を使っちゃったから、コレを浄化しちゃうと寝る前に皆の身体が綺麗に出来なくなっちゃうんだけどなぁ〜⋯」

「浄化した水で皆の身体を綺麗にするから良いんだよ。」

「あ〜、それで着替えと布を持ってこさせたのね〜?」

「でもそんな事をしたら布や服が濡れちゃうじゃない!

こんな時間から干さないといけなくなるの?!」


納得する母に変わって、また仕事が増えるとカタリナが憤慨してる。


「それは小さい魔法の鞄に入れたら直ぐに乾くよね?」

「あ、そっか。

まだ紙や本を入れてないからその手が使えるのね?」


でもあっという間に怒りは溶けて、成る程と言った表情になる。

むしろ紙や本を入れなきゃダメなの?そんな事をしないで、ずっとそうして欲しいと言わんばかりになってた。

洗濯物を干すのも絞るのも大変だからね。


「明日王様が持って来てくれる予定の、使えない魔法の鞄が使える用になったら、洗濯物専用の魔法の鞄にしても良いんじゃ無い?」

「それは良いわね!

でも使えるようになったら返さなくちゃいけないんじゃ無いの?」

「実験に使う間は返さなくても平気だよ。期限が切れてどれぐらい利用出来るのか、試すのも実験だよね?」

「アンタ、もの凄く頭が良いのね?」

「だから今こんな事になってるんだよ?」

「確かにそうだったわね。

そりゃこんな事を考えつくぐらいに賢い子供なら、皆が欲しがるだろうからバレたら攫われちゃうわね。」

「あー、今までスゲェスゲェってずっと思ってだけど、リリアナはヤバいぐらいスゲェのか。」

「まぁどうでも良いから、お水を浄化してよお母さん。

私がそれをお湯にするからさ。」

「あ〜!そう言うことなのね?

身体を綺麗にするのと、温めるのにこんな事をしたのね?リリアナは〜。

だからお水を浄化しないと、お外のお水だから汚くて使えないものね〜?」


カタリナやロベルトが何か変な方向でも納得してる横で、ようやく意味が伝わった母がサラッとレモン色に水瓶の中の水を輝かせた。


私はトテトテと歩いて水瓶の開けた部分に向かうと、えっちらおっちら転ばない様に小さな階段を登り、水瓶の縁に手をかけて水面を覗き込む。

後は前みたいに自分の魔力を使って水をお湯に変えた。

適当にするしか無いから、何度になるのか分からないので、湯気がモクモクとあがって来る頃合いで魔法を止める。


夏出し少し暖かく成ればいい程度だから、多少冷めた所で問題無い。


「これで何時でもお風呂で温まれるから、残りの水を貯める作業を頑張ってね?

私とお父さんはこれから畑に行くから!」

「え?今から入らないの?」

「入りたかったら入ったら?

お父さんと私は畑が終わったら入るよ。

あ、お母さん。

マモーって、まだ残ってる?」

「いいえ?晩ごはんに全部使っちゃったからもう無いわよ?」

「そっかぁ~⋯。

思いつくのが遅かったかぁ~⋯。

仕方が無い。

お母さん。

今日は皆が頑張ったご褒美で、甘い粉を溶かしたお水を作っててくれない?

冷えたら甘みを感じにくくなるから、甘い粉を多めに入れて作らないと駄目だけど。

私がそれを凍らせるから、お風呂上がりで身体が暖かくなった後なら、皆で美味しく甘い氷を食べられると思うの!」

「あら!それは素敵ね〜?

だったら先に作ってくるわね〜!

量はどれぐらい有れば足りるかしらぁ?」

「あんまり沢山食べてもお腹が冷えちゃうから、コップ2杯お水を入れて、ソレが1杯と半分ぐらいになるまで甘い氷を入れて煮込んだぐらいで良いんじゃ無いかな?

私が戻ってくる頃にはお湯も冷えて凍らせ安くなってるでしょう?」

「ならそうしましょうね。

楽しみだわぁ~!

何だかお祭りみたいね〜」


母はウキウキしながら家に戻って行く。

お風呂が気になった子供達は先に入る事にしたみたいだ。

カタリナがいつの間にか父から、魔法の鞄をシッカリゲットしてた。

スノコを階段の1番上にセットしたら準備は整った。

木箱の上に乾いた代わりの服やら布を置いて、スノコの前で靴を脱いだ子供達は全員で服を着たまま水瓶のお風呂に向かって行く。

私は父と歩いて畑に向かった。



             北                 

西

|畑畑畑畑畑畑畑畑畑畑|畑畑畑畑畑畑畑畑畑畑|

|畑畑畑畑畑畑畑畑畑畑|畑畑畑畑畑畑畑畑畑畑|

|畑畑畑畑畑畑畑畑畑畑|畑畑畑畑畑畑畑畑畑畑|

|畑畑畑畑畑畑畑畑畑畑|畑畑畑畑畑畑畑畑畑畑|

▥━━━━━━━━━━▥━━━━━━━━━━▥

▥道道道道道道道道道道▥道道道道道道道道道道▥

▥道道道道道道道道道道▥道道道道道道道道道道▥

|        厠厠|       堆肥場|

|獣車      厠厠|       堆肥場|

|倉倉箱       |  家家家家家家  |

|倉倉箱          |土家家家家家家家  |

|(※1)          |間家家家家家家家  |

|家家家家家土    | 家家家家家家家  |

|家家家家家間    |    井木    |

|家家家家家     |       ▓▓▓|

|家家家家家     | (※2)▓▓▓▓▓▓▓|

▥━━━━━━━━━━▥━━━━━━━━━━▥

|鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥|畑畑畑畑畑畑畑畑畑畑|

|鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥|畑畑畑畑畑畑畑畑畑畑|東



左手が祖父家

右手がリリアナの実家

※1サラディーン様とした宴会会場

※2の場所がそのお風呂である。

━━は畑用人工小川。

|は生活用人工小川。

|は下水道としても利用中。

右側にある土間に隣接してるリビングから魔王は参上する。

井→井戸

木→木

倉→倉庫(自宅用倉庫)

厠→トイレ

堆肥場→人糞、落ち葉、生ゴミに藁を混ぜて肥料を作る場所。

▓→自宅用の畑

畑→麦畑

鳥→鳥小屋を建ててる場所

大型倉庫は祖父家の左隣にある設定でしたが、範囲に収まりませんでした。


大体のみイメージ補完程度の認識でお願いします。(土下座)


絵がズレてる方は標準で参照お願いします。

微妙なズレはお許し下さい。

修正してもズレてます(涙)

北はもう少し右側で南はもう少し右になりますが、上手く書けず申し訳ありません(滝汗)

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