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仮面して無いライダーかヤラマウトか!の巻。


ここで今更ながら錬成瓶についておさらいをしたいと思う。


遮光透明に限らず、私が基準として把握している錬成瓶の大きさは、底が直径約20cmで高さ40cm前後の円錐形の形をしている代物だ。

対して同じく遮光透明に限らず、大型錬成瓶は底が直径約50cmで高さ80cm前後の円錐形の瓶となっている。


毒消しや初級回復薬などの薬瓶は、これらの瓶よりも小さくつくられており、薬瓶は全てラグビーボールを縦に置いて下1/5をスパンと横に切た形の、自立出来る物になっている。


瓶の高さは約10cmより少し大きいぐらいだろうか。

その代わり上の方も細くなっていて、1/7ぐらいがコルクみたいな栓がはめられており、呑口をロウソクみたいなもので封蝋している。

つまり一度開けたらそれが壊れて、開封された事が見た目で分かる造りになってるのだ。


ただしこれはあくまでも私の目分量での測定なので、正確に測れば1cmが実際よりも大きかったり小さかったりするかも知れないが、そこは赦して欲しい。


そこで体積の計算だけど、私はもう過去正式に習った円錐の公式はサッパリ覚えて無い。

πとかあった気がするけど、綺麗サッパリ記憶から消えている。

ただ成人してからなんかの拍子に、底の半径×高さで体積が出るよって言うミニ知識をゲットして、学生時代に知りたかったとぐぬぬな思いをしたから覚えていたので、今回はそれを使って計算している。


つまり私が上記の方法で計算すると、基準の錬成瓶の体積は400mlで、大型錬成瓶は2000mlとなった。


実際に発芽させる時は藁を使って水の上に地面を偽装し、高さ0.5cmぐらいしか種が水に浸からない工夫をしているのだが、瓶の半分ぐらい水を入れてるから、満水にした瓶を持ち運ぶよりかは軽くなっている。


それでも錬成瓶の中で育てる事に気がついて無かった時は、上の縁ギリギリまで水を入れて魔力草を刺していたから、2歳の私が運ぶのにとても苦労した。


だから1つ運んでる間、皆は作業が終わる事が多かったのだ。

今もまだ歩くのがとても遅いので、重さが軽くなろうとその程度の機動力しかないのは、此処だけの秘密にして欲しい。


最初期に魔力草の栽培で利用していた木のコップは、8分目まで水を入れた状態が、錬成瓶だと1/2ぐらいの分量なので、大体200mlぐらいかと思われる。


これは今回ちゃんと計算して出した数値なので今までは完全に適当だった。

そして錬成箱の場合。

縦1m×横2m×高さ1mなので体積は2000000mlになる。

つまり200kLかなと。

でもキロリットルとか馴染みが無いから200kgだっけ?

間違えてたらゴメンナサイ。

もう私には調べられないんです。

うう⋯あんなに勉強したはずなのに時の流れって無情⋯。


そして水瓶はとなると、私⋯この形の計算方法が分かんない。

苦労して出来る様になっていた筈無のに、苦労した思い出しか残ってないのは如何なものか。


錬成箱に水を入れて水瓶に移し替えたら分かりそうだけど、水瓶は高さ約130cmで底の直径が80cmぐらいだけど真ん中が膨らんでるのよ。

真ん中の幅は100cmかな。

要は樽の形になってる。

単純計算で62000にプラスアルファで約70000mlぐらいかなぁ⋯?

つまり70kg?

もう少しあるかも?

またふんわり丼勘定でごめん。

本気で計算するなら、上下の差を出して引いたり複雑な計算をやれば出来るかと思うけど、その数値が必要かと言えば要らないので、その手間は省かせて頂く。

頭の良い人はどうぞご自由に想像で計算して下さい。

それが正解かどうかは永遠に謎だけどな!


そして白金貨1枚の魔法の鞄は1m×2m×50cmなので、錬成箱の半分になるから体積は100kgになると。

こうして計算したら意外に魔法の鞄が小さいのが分かる。

まぁ叙爵する時にお金を入れてくれてた分だしね。財布としては大きいとは思う。


あと目分量のどんぶり単位なので、実際に測ったら違うかもです。

そこはもうどうしようも無いのでゴメンナサイ。

大体の目安として考えてくだされ。


でもこの仮1mは木箱の大きさ と共通なので、この単位で規定されてると思われる。

つまり錬成箱は、木箱2つ分と同じ量になるという事だ。


法律問題ばかりでまだ単位の本に巡り会えて無いから、そのうち見つかると思うけど、家庭教師が居ない独学の欠点だよね。

どの本に何が有るか読んでみないと分からんと言う。

ギルバートさんに聞け?

正にその通り!

聞くのを忘れてる父と私が悪いのだ。


平民では単位を習わないみたいだから、錬成師の学校で習うんだろうか?

でも畑はちゃんと単位が有るんだよ。1面2面て。

畑1面に対しての税は1/5面だとか。

つまり2割が税金になります。

そのかわり10面から3割に増額されるそうです。

だからウチの畑は20面あって、8面が税だから多いなと最初は感じたけど、もし敷地で税が計算されてたら、家や庭や倉庫や鳥小屋も入れたら30面は有るから、それを思えば税は4割切ってるのよね。

そう思えば安いとは言わないけど、福利厚生として獣車とか走らせてくれてるし害虫少ないし受粉いらんし、治安もそんなに悪く無いからこんなもんかな?とも感じてしまう。


服とか日用品が安ければもうちょっと生活が楽になりそうなんだけど、銀貨があっという間に飛んで行く。

だから年間80枚は月計算で1月銀貨8枚で生活しろって事になる。

そりゃ苦しい。

だから父がたまに狩りに行ってたんだろう。

2級の魔石は確か銀板1枚だった気がする。

ピアは1級だから銀貨1枚ね。

2級は父が年に1〜3回もって帰って来てる鳥。

後は魚の魔物とか、タヌキみたいなヤツも確か2級。

魚は食べるに値しないレベルだそうだから、私は食べた事がないので味を知らないが、タヌキは肉が不味くてあんまり食べたくない魔物だね。

でも本体の味はともかく、銀板1枚なら美味しい魔物なのかも知れない。

だって魔石の他に毛皮とか売れるしね。


まぁ脱線した。

じゃあ何で今更錬成瓶の容量を計算してたかと言えば、そう!

魔法のお水を戦士達から恵んで貰うためなのだ!


もうアホかと!

エリザベスお祖母ちゃんのお風呂屋さんを考えてた時に、お客さんから魔法の水を集めるアイデアは既に考えてたんだよ。

それを使って魔力草を育てることまでちゃんと考えてたのに、ピヨ子の事とか人工小川やら井戸の水の事とか考えてたら、スポーン!とその思いつきがすっ飛んでたんだよね。


もうアホか!

メモまで残してたのに、それすら忘れてるとか。

知ってた。

メモって偶に読み返して整理しとかないと、メモして安心して忘れてたら意味ないんだよ。

うん、しかもソレ私知ってたからね!

もうアホとしか言いようがねーわ。


もう少し前に思い出せてたらロスタイム無しでエリザベスお祖母ちゃんに、大食堂で水を集めて良いか聞けたのにさぁ〜。

自分の無能さに脱力する。


思考があっちこっち飛ぶからこうなる。

やっぱりメモって大事だよね。

見返しも大事。

せっかく良い案があっても、忘れてたら意味ないよね〜。


とまぁ黄昏れてたら、17時ぐらいかな?

タルクス叔父さんがやって来た。


まだ錬成瓶が幾つ有れば大型錬成瓶の水を溜められるかまで計算して無かったけど、この作業は一旦保留する。

だって簡単な計算だしね。

いずれはちゃんと計算して、それを元にエリザベスお祖母ちゃんの所へ持ち込む瓶の数を決めたり、使用する小物の用意をしていくつもりだ。

カタリナにはお土産の爪紅と刷毛を渡して説明したので、既に買収済み。

後は具体的な小物の数が分かれば、それを作るのに協力して貰える話になっている。


さて叔父さんに戻ろう。

ピアはまだ寝てたから、叔父さんに眠り薬の事を聞いたら持ってたから分けて貰った。

これで夜は安眠出来る。

檻ごとは大型透明錬成瓶に入れられなかったから、藁を敷いた所にピアだけ入れて、そこに切ったヤマとラグも入れといた。

そして蓋をして倉庫に持って行く。


夜に一度出すからそれぐらいじゃ、窒息せんやろとおもったからだ。

睡眠薬は餌を食べたのを確認してから入れようと考えてる。

あと水も入れたかったけど、蓋を開ける時に瓶を縦にしたら中が大惨事になるのでやめた。

どうかヤマとラグで水分補給をして欲しい。


ちなみにピア入りの大型錬成瓶を倉庫に持って行ってくれたのはタルクス叔父さんです。

だって私の身長ぐらいある瓶なんて持ち歩けないもん。


タルクス叔父さんには銀貨4枚払って眠り薬も分けて貰った。

日持ちしないらしいから、遮光錬成瓶にいれてある。

一応革袋にいれて2日もつらしい。

材料はダブリンって言う3級の魔物の毒だった。

話を聞いてたらカメレオンかカエルみたいな水陸両用の魔物らしい。

眠らせて川に引きずり込むんだけど、見つけにくいから危険な魔物だけど、川に行ったら沢山居るらしい。

コレが偶に人工小川に流されて来ると、子供達が襲われるので、割と小川が接続してる川周囲は神経質に見回りする為に罠を確認する狩人の当番まで有るそうだ。

水の中は泳いで通れない様に、それ用の設備もあるから、ヤラマウトがどうやって侵入したかは、未だに謎に包まれてるのだそう。

まぁ蛇だし、その設備とやらを越えられるのは簡単そうだよね。


でもわざわざ自主的に魔力の薄い場所を、ヤラマウトが目指す理由が分からないから謎のままなのだ。

気になる人がその理由を探しているだろうから、私は叔父さんから聞けは済むので関与する事は無いと思ってる。


そして今回私が欲しがってる毒の製造元であるダブリンだが。

ヤツには睡眠毒が効かないので、麻痺毒を使うらしく。

麻痺毒は茸から取るそうだ。

やっぱりこの世界でも茸はヤバいらしいよ。


なので一応タルクス叔父さんは、そのダブリンから眠り薬をしょっちゅう手に入てるらしい。

ただ日持ちしないのは餌の野菜を混ぜてるせいなので、遮光錬成瓶を渡して毒を下さいとお願いしてある。

私に渡すのは危ないからと、父に渡してくれた。

いや、食べんよ?

でも間違って口に入ったら、効きすぎると呼吸が止まるのだとか。

叔父さんは茸の痺れ薬も持ってるけど、痺れ薬は他の狩りでも便利に使われてるアイテムなので、眠り薬ほどお手軽に渡せない代物なんだそう。


狩人が罠で獲物を捕まえる時に獲物を生かしておくのは、肉の質を良くする為に血抜きをする為にそうしている。

でも偶に回収しに行くと、死んでる時もあるらしい。

それは大抵若くて想定より身体が小さい幼い魔物の時、そうなるらしいので子供には絶対に毒を触らせないようにしているそうだ。


ちなみにそんな時は肉もマズいし、皮を剥ぐのも労力の割に皮は少ないから雑魚魔石だけ取り出して後は森に返すんだとか。

他の狩人達はその雑魚魔石すら取らないで捨てるけど、タルクス叔父さんはそれを鳥用の水瓶に入れる為に貯めてこっちに来る時にナイフの柄で叩いて入れてるんだそうです。


タルクス叔父さんは慎重派なので、大人しくいう事を聞いておく。

だって毒貰えんかったら困るしな。

ちなみに毒消しが効きます。

でも5分以内に飲まないと駄目らしい。

寝ちゃうからだってさ。


そして寝ると薬が飲めないから、子供だとかなり厄介なんだそう。

だからそんな時は教会へ連れて行って浄化して貰うんだとか。

ただし有料。

銀貨1枚だってさ。

錬成師の毒消しの値段と同じだね。


⋯ほほう。

しかし解毒も出来るんか。

浄化は便利だ。

そりゃ両親共に教会にスカウトされちゃうよね。

でも浄化は水を出すのに比べたら3倍以上魔力を持っていかれる。

しかも範囲が広ければ広いほど消耗するし、銀貨1枚はかなり良心的な価格に思える。

でも毒消しが銀貨1枚だから、貧乏な平民ファーストの教会は、それ以外取れないんだろうね。


しかしピヨ子はピアと初遭遇だったけど、ピアが寝てたせいか興味を示さなかった。

むしろタルクス叔父さんを警戒して、ピアに気がまわらなかったらしい。

だから今後ピアに関わるのは夜ピヨ子に寝てからにしようと思う。

私から離れたらピヨピヨ五月蝿いピヨ子も、夜は鳥らしく寝る。

最近は日が沈んでから朝日が昇るまでガッツリ寝てるから、ウッカリ家に残しておくと空が明るくなり始めた途端にウチのお姫様ピヨ子はクッソブチ切れるのだ。

ピヨピヨが、ピピピピピピッ!

と、電子アラームになるけれど。

それすら放置したらぴーーー!

ってヤカンみたいになる。

それがまぁ喧しいのよ。


しかもそこまで行ったら拗ねて、中々落ちついてくれないから余計に面倒になる。

だから何時も頭の上に乗せてウロウロしてるんだけど、ピヨ子も少しづつ成長してるのでそろそろ頭の上は卒業になるかも知れない。

子供の成長は速いものだなぁ。

母はしんみりするよ。

だからじゃ無いけど、ピアに関わる時はピヨ子はジーニスのベッドに置き去りにする事にした。


いずれノインの事を知る日が来るだろうけど、それは大人になってからで良い。

それは未練がましい時間稼ぎかも知れないけど、私はもう少しだけピヨ子と仲良く暮らせる時間を大切にしたいのだ。

ズルい母を赦して欲しいと思うよ。


しんみりとしてる間にタルクス叔父さんは父と話をしていた。

そして驚いてるから、冬の話を聞いたんだろう。

そしてこれから井戸の掃除をする説明をしている。

人の良いタルクス叔父さんをこき使う気満々の父に、甘え上手な末っ子の気配を察した。


準備してるのは綱と縄梯子。

藁を編んで縄を作るが、その縄をまた3本以上より合わせたのが綱と此処では呼んでいる。

縄を木に括り付けて命綱にするらしい。

この木なんで此処に有るのかと思ったら、洗濯の時には布を絞るのに利用されるし、洗濯物を干すために縄を渡す為にも使われて、挙句の果てには井戸掃除の時にも使われてるとか、スゲェ働くじゃん!

農家って木までこき使うのかと思うと戦慄する。

実は月の光を浴びせる時に邪魔だなって思っててごめんな。

仕方が無いから光の反射用の鏡置き場にしようとか企んでてごめん。


アンタいいヤツだよ。

昔からこき使われて来てるのに黙ってそこで立ってるんだね。

だって歩いて逃げられないもんねぇ〜。

木だから。

ちょっとだけしんみり来た。


今日はしんみりする日だなぁ、とか思ってたら縄梯子も井戸の縁に取り付けられたので、井戸の中に入る準備は万端に整ったのだ。


「リリアナ。」

「取り敢えず量が知りたいから、水瓶に水を移そう。」


父は命綱をたすき掛けにしたまま、コクリと頷くと腕を振って土間の水瓶から水を呼び出して小川に捨てると、そこに新しく井戸から水を呼び込んで入れて行く。

え?!

あの釣瓶の意味は?!

カタリナが洗濯する時は、釣瓶に繋がってる桶を井戸に落として水を汲んでたから、てっきりそうするのかと思ってた。

それなのにもう命綱をつけてるから、お父さん張り切ってんなぁ〜とか、思ってたけど。


魔法が有るなら使うよね魔法。

でも井戸から出て来る水が蛇とか龍みたいで、私は度肝を抜かれてポカンと口を開けた。

兄弟もわぁ!とはしゃいでいるし、タルクス叔父さんも腕を汲んで面白そうに眺めてる。

そうしてるうちに、今度は買ったばかりの水瓶に水を入れていた。


「まだ有るな。

さてどうするか⋯」

「流石に疲れただろう。」

「いや、でもこの後井戸に入るから、少しだけ休むかな。」


やっぱり命綱着けるの早かったんでないの?!

水を抜いてからつければ良かったと思うの私だけ?!

お父さんはしゃぎ過ぎ。

まぁ気持ちは分かるけどね。


「リリアナ。」

「うん?」

「せっかくだ。

魔法を教えてやろう。」

「あ!うん!」

「もう教えるのか?」

「この前使ってただろう?

この子は筋が良いんだ。

魔力が切れない様に上手く調整出来てるんだよ。」

「ふむ。そう言えば始めて使った時に、そうとは思えない程上手かったな。」


釣瓶の桶を私の前に置くと、父は水瓶から水を呼び込んで半分ぐらい入れた。


「リリアナ。

よく見ててごらん。」


そう父が言って地面にしゃがむと砂を片手で掴んで私の目の前に差し出す。


「これが魔力だと思うんだ。

今から桶のなかに入れるから、どんな動き方をするのか見ていてごらん。」


そう言って私の見ている目の前で、桶に砂を入れた。


「⋯なるほど。見える化させたのね。」

「うん?」

「ううん。こっちの話だよ。

砂がふわふわしながら下に落ちて行くね。」

「うん。そうだね。

魔力は砂よりも軽いから、普通にそそいでるだけだと、表面にしか届かないんだ。

だから押し込むつもりで深い所まで魔力を進めて、水にこうして溶け込む様に回してごらん。」


父は片手を入れてぐるりと水をかき混ぜる。

すると、下に落ちていた砂がまた浮かび上がって水全体に広がって行く。

確かに見える化して貰うとかなりイメージが掴みやすいと感じた。


「リリアナ。出来そうなら水に魔力を混ぜて持ち上げてごらん。」

「はい。」


私は指先からだけでなく、下半身でも水を出せる子なので、身体のどこからでも魔力を出せる事を知っている。

だから片手を伸ばして掌全体から魔力を出すと、ゴソッと流れ出す感覚を感じた。

でもそのおかげが水面からあっという間に底まで辿り着いた私の魔力が、水全体に伝わるまでもの凄く早くてビックリする。

ちょっと魔力を奮発し過ぎたみたいだ。


でもお陰で魔力の水を出した時の様に、赤の他人の水が自分のものみたいにハッキリと感じ取れる。

だから水の中をフヨフヨと移動している砂粒の1つ1つの形がハッキリと分かった。

とても不思議な感覚で、そこに私の身体がもう一つ有るかの様な錯覚を感じる。


私は自分の身体を持ち上げる様な感覚で、桶の水を全て持ち上げてみた。

すると水の中に沢山あった魔力がプチプチと弾ける様に消えて行く。

そこでやっと分かったのだ。

何故水を持ち上げると形を整えるのが難しいのか。

それは形を支えてる魔力が消耗されて次々と消えてしまうからだった。

ならば話は簡単に済む。

消えるなら足せば良いのだ。

でも水の中にはまだ消耗されてない魔力が沢山残っている。

だったら均等に混ぜてやれば良い。

すると今度は砂粒を邪魔に感じたので、持ち上げてる桶の形の水の塊の底からパラパラと砂を落として行った。


もう桶に戻しても良さそうだったけれど、まだ魔力は沢山残っていたので、その水の塊を新しく買った水瓶の中へ放り投げる。


そしてダイブした勢いで真ん中辺りまで進めると、浮力を利用したり、力を込めて潜水させたりして満遍なく水の中の範囲を魔力で把握して行く。

いつも頭の中だけでイメージしていた物が、まるで自分の身体を広げるかの様にして支配する範囲を拡大させた。

その時感じた私の物でない魔力も自分色に染めて、更に水の中の魔力を私のモノへと変えていく。

それはとても不思議な感覚で、私の世界が広がってるみたいでとても新鮮だった。

砂粒を水から追い出した様に、私のものじゃない魔力も取り込んで水全体を支配した実感があったので、ゆっくりと上に持ち上げて行く。


『うわぁ~⋯』

「ほぉ。」

「ハハ!やるなぁ。」


兄弟達の驚く声やタルクス叔父さんの感心した呟きや、父の楽しそうな言葉が耳から聞こえてるはずなのに、身体の中から弾けてる。

その時ようやく気が付いたのだけれど、水だけを支配していた筈なのに、勝手に身体から漏れた魔力がこの辺りの魔力を取り込んで広がってしまっていたのだ。


でもとても不思議なのが、自分の魔力だけじゃ無くて、そこに有る魔力も利用してるせいか、自分1人で水を出すよりも破格に楽なのだ。


ワンピースの裾がゆらりと揺れて動く。

私の太腿から首からお腹から漏れた魔力で、まわりの空気が動かされたから?


既視感。


なるほど、アイツはコレを桁の違う量でやっていたのか。

ヤツに抱かれて見下ろした、大きな街と海と山の景色が頭を掠めた。

でも今は集中。

他に気を取られてる余裕なんて無い。


「リリアナ?」


父から不安の滲んだ声がした。

私は片手を挙げて大丈夫をアピールする。

言葉は今使えない。

私から頭皮から膝から背中から足首から掌から、身体中の至る場所から魔力が滲んで外に出て混ざろうとするのを、今必死に掴んで留めてる所なのだ。


これらに全部出ていかれると、後の私が困るからね。

私の周りの空間と混ざり合ってしまった魔力は、私の掌の皮膚みたいに周りの事を教えてくれるけれど、身体の中に取り込もうとしても粒が大きくなったから、取り込むのが難しいみたいだ。

なら粒が大きいのなら小さくしてみようか。

なるほど、そうするとお日様に分解されて消えちゃうんだ。

だから皆集まって大きく成ろうとするんだね。

だったら私の口の中においでよと、私は大きく息を吸い込む。

唇から舌の上を通って喉に落ちる前に次から次へと砂粒よりも小さく小さくして肺のなかに取り込んで行く。


「ふう〜⋯」


だけど息を吸い込む量なんて、高々知れてるから随分と身体から魔力達を逃がしてしまった。

効率を上げようと途中で気付いて周りの塊を呼び寄せたけど、分解が追いつかなくて唇の先で魔力が大渋滞を起こしたからだ。


限界まで息を吸い込んでたから、私が息を吐き出したらあっという間に魔力が前へと飛んで行く。


「リリアナ?!」


まだ大丈夫。

私はまだ魔力の手を離してない。

心配そうな父に手を振ってその合図を送る。

目は閉じたまま。

いつの間にか集中するのに、視覚すら邪魔で目を閉じて瞳から入る情報を遮断していたからだ。


タルクス叔父さんが組んでいた腕を降ろそうとしている。

待って、邪魔しないで。

だから彼が動かない様に、彼の周りに魔力を送って動けない様に固定する。


「リリアナ!」


私がまた息を吸い込んで逃してしまった魔力を集めようとしたら、今度は父から強い魔力が流れ出して私の魔力を奪おうとした。

父の魔力が強いのか、触れた側からあっという間に染められてしまう。

だから私はなるべく急いで魔力達を吸い込んで行く。

あぁ、もう⋯鬱陶しい。


父に魔力達を奪われるのは、私の色が薄いからだ。

それに気が付いたら後は早かった。

腕から胸から肘から漏れた魔力達を使って、父の周りの魔力の支配を染めようと拮抗させる。

父の魔力は私の色に染められない。

何故なら父の魔力が強いからだ。

タルクス叔父さんみたいにフニャフニャして無いから、奪うのはとても難しい。

だけど拮抗させたらそこで父は止められているから、もう私の方へは進んで来られないでしょう。


目を閉じているのは、周りの景色が手に取るように分かるから。

だから目を閉じ無いと見えてるものと、見えないけど分かる感覚が喧嘩して、頭の中がシンドくなる。

でも父が不安になってまた魔力を出せば、私が頑張って抑えてる場所がまた奪われてしまう。

だから早く早く早く早くと、大きく息を吸い込んで周りの魔力を沢山集めて、もう風船みたいに膨らんで破裂するんじゃないかと思うぐらいに吸い込んだから、後の残った魔力達で水瓶の上に浮かばせた水の塊を私の残り物で染め上げて一息で凍らせた。


「ふぅ〜⋯。あー、疲れた。」

「リリアナ!

大丈夫なのか?!」


タルクス叔父さんがハッとしたかの様に身動ぎする。

もうあそこの周りの魔力達は霧散して消えたから、彼を留めて居られなくなったのだ。


「うん。少し疲れたけど、魔力は大分取り戻せたから大丈夫。」

「リリアナ⋯目が⋯」

「うん?目?」

「⋯目の色が、銀色になってるぞ。髪の色も⋯」

「あぁ⋯うん。

今魔力を吸収したばかりなの。

だからかなぁ?」


私は父に言われて横髪を摘んで見たら、薄茶色の髪の色がキラキラと光る白に近い銀色になってる事にビックリする。

なんかライダーした?

周りの魔力って、 私のものにして取り込むのは駄目なのかな?


「あぁ⋯、大丈夫だ。

色が少し落ち着いたぞ。

青みが戻って来た。

あぁ⋯良かった。本当に。」


父が不安そうに私の瞳を覗き込んでたけれど、見つめてるウチに色の変化が起きたみたいで、身体全身から安堵の息をついて、鳩尾の辺りの服を握り締めてる。

どうやらまた胃が痛くなったらしい。

父は32歳だった筈だから、胃壁の弱るお年頃なのかも知れないね。

私がストレスかけてるし、労ってあげないと、穴が空いたら大変だ。


そう思って片手を伸ばして、鳩尾を握り締めて手の背に触れてから、そこを魔力で突き抜けると胃の形を頭に思い浮かべてから胃の中の壁を労る様に包み込む。

父の魔力は強いから私の魔力を押し返す力が強いので、そこをゴリゴリと押しのける形の力技で私の魔力を押し込んでやる。


『?!』


するとレモン色の光が父の胃を中心にパアッと光った。

まぁ周りからは胃なんて分からないから、父の胸の周りが光ったと思ってるだろう。


「お父さん、もう痛くない?」

「え、あ⋯」


父が驚いた様子で自分の胸元を見おろして、服を握り締めていた手を緩めてその場所を擦り。


「うん。もう痛くないみたいだよ。リリアナが治してくれたのかな?」

「うん。前もそこが痛いって、お父さんがそう言ってたから。」

「⋯そうだったかな?」


苦笑を浮かべながらも、感極まる様子でムギュて私を引き寄せるから綱が!

綱がチクチクするんじゃが!?


「お父さん痛い!

刺さってる!

綱のトゲが顔に刺さってるから!」

「あ、あぁ⋯ごめんごめん。」


綱のトゲって言うか、藁の端っこだけどな?

80cmぐらいの長さの藁を数本適当に手に取って、両手の平を擦り合わせる様にしてクルクルと手の中で作業すると紐にするんだけど、紐の長さを出すのに藁が残り1/4ぐらいになったらそこに新しい藁を足すの。


そしてまた藁をクルクルして紐を長くして行くのね。

その紐を3本ぐらい手に取って、端を踏んで引っ張りながらまたクルクルしたら縄になるんだよ。

綱は更にソレを柱に引っ掛けて伸ばしながら掴んでせっせと編むから、端っこやら途中で切れた藁やらがつんつん飛びだしてる所も有るのね。


そこが私の柔らかい皮膚にはチクチク刺さって痛いのよ。

私の迷惑万感な思いが込められてる声に、父がハッとして身体を離す。

申し訳無さそうな。

でも笑いと涙を堪えてるような顔でくしゃっと笑った。


「それよりも身体はどうだい?シンドくは無いかな?」

「うーん⋯疲れたのは体力じゃ無くて神経かな。

沢山勉強した後みたいな感じなの。

だから身体は大丈夫よ。」

「そうか。でも無理はするなよ?」

「うん。でも魔法はもう少し使いたいの。

ちょっと私の魔力が減り過ぎたから、周りの魔力を変えて取り込んでみたのは良いけど、欲張り過ぎてお腹がいっぱいになったみたいにパンパンなのよ。」

「また器用な事をしたなぁ?

周りの魔力を自分のものに変えられるのかい?」

「でもこれ、あんまりやらない方が良いよ。

私が操るのを止めたら、私が変えちゃった魔力は元から有るのに比べて消えやすくなるみたいなの。

だから周りには良くないかも。」

「へぇ~?

でも魔法をつかっても身体の魔力が増えるのは便利だなぁ。」

「お父さんも出来るよ。

私よりもお父さんの方が魔力の力が強いから、私が変えた周りの魔力をどんどんお父さんが自分の魔力に変えて行くんだよ。

抑えて奪われない様にするのが大変だったんだからね!」

「え?そうなのかい?

どうすれば身体に取り込めるのかな?」

「口から吸い込んでから、飲み込む前に魔力を砂粒よりも小さく小さく砕いて、胸の中で身体にとりこむんだよ。

甘い粉がお水に溶けるみたいにするの。」

「ウーン⋯俺にそれが出来るかなぁ?」

「自分の身体から外に出てる魔力が分かるかなぁ?

お父さんはそれを操ってお水に魔力を溶かして伸ばして魔法を使ってるよね?

それを口の中から吸い込んだ時にやれば良いんだよ。」


父は目を閉じると大きく息を吸い込んで胸を分厚く膨らませる。

しばらく息を留めていたけど、ふぅ~〜と、長く吐き出した。


「今は私がここら辺の魔力を変えちゃった時に、この周りにある魔力が消えて減ってるから、今やってもあまり実感は無いかも知れないよ?」

「そうか。それなら畑で休憩する時にでも練習してみようかな。

でも何となくリリアナが言ってる事の意味が分かる気がするんだよ。

まだ練習は必要そうだけどね。」

「お前たちは一体何を言ってるんだ?」


水瓶の上の氷を拳で叩いて強度を確認していたタルクス叔父さんが、私達の会話を聞いて呆れた顔をしながらそう突っ込んで来る。


「えと自分の身体の周りに魔力が有るのが分かるよね?」

「いや?サッパリ分からんが?」

「あ⋯えーと⋯有るんだよ。

まずはソレが分かるようになるところから始めないと難しいかも?」

「ふむ。どうすれば分かるんだ?」

「え?!どうすれば?

えーと⋯自分の身体の中から魔力を出すんだけど、頭の皮とか顔とか首とか全身から少しづつ出して身体の周りに纏わせてみてよ。

そしたら分かりやすいから。」

「魔力は指先から出すんじゃないのか?」

「じゃあ叔父さん。

手の裏の皮を見てみて。

毛が生えてる穴があるよね?」

「あぁ、あるな。」

「そこから汗が出てるんだよ。目で見ても分かりにくいと思うけど、身体の中と皮膚は繋がってて小さな穴が空いてるの。

そこを通して魔力を出せたら、指先だけじゃ無くて、掌とかでも出せるようになるから、そしたら全身で魔力を出す感覚も分かるかも知れないよ?」

「はぁ~⋯何だか(きり)を掴んでるみたいな話だ。」


そりゃそうなる。

だってずっと指先からしか魔力を出せないと思って生きて来てるからだ。

それは先入観と言うもので、私はそれを壊す事が出来るのを良く知っている子供だった。


「叔父さん。

叔父さんは知らなかっただけで、今も身体の周りから魔力が漏れてるんだよ。

ただ意識してないから、その量がとても少ないの。


だけど意識して無くても出来てるから、身体全部から出せるって信じて練習したら、出せるようになると思うの。


でも見えないから分かりにくいのも分かるんだよ。

私もお父さんに見えるように桶に砂を入れて貰ったから、分かるようになっただけなの。


あとさっきやってみて気が付いたんだけどね?

ジギタス叔父さんの矢、ひょっとしたら魔力を纏わせてるのかも。

だからジギタス叔父さんの思いが、矢に込められて飛ぶんじゃ無いのかなぁ?」

「ぬ⋯」

「真っ直ぐ目を射抜けって命令を矢が受けるから、目に向かって物凄い速さで飛んで行くんなら、ジギタス叔父さんは知らないウチに、矢を使った魔法を使ってたりするのかな?」

「⋯矢に魔力を纏わせて飛ばす。ならば魔物の目では無くても貫けるのでは無いのか?」

「それはジギタス叔父さんが、まだ若い頃に矢が弾かれたりして、矢は脆いとか弱いとかそんな経験から思い込んでるから、速さと命中させる事しか意識してなかったりして?」

「ぬ⋯あり得る。

だがまさか⋯本当に?」

「でもタルクス叔父さんがもし、矢や弓に魔力を纏わせる事が出来たら、年を取っても強い矢が放てるかも知れないよ?」

「⋯ふむ。

身体全部から魔力は出せるのだな?

ソレが分かれば俺は弓矢に魔力を纏わせられるのか。」

「今まで意識してそれをして無かっただけで、ひょっとしたらこれまでも無意識でそんな事をしたりして?」

「⋯ぬう⋯だが⋯いやまさか⋯しかし⋯ぬううう⋯」

「何だか思い当たる事があったみたいだけど。

今度から暇な時があったら、目を閉じて全身から魔力を出す想像をして、身体全部を包む空気を自分の魔力に染めて包み込む想像をするの。

そしたら魔力がそこに有るのが分かるから、次はそれを弓矢に包む様に想像しながら弓矢を使ってみたらどうかな?」

「ふむ。ならば試そう。

体力が弱っても強い矢が放てるのならば、狩人として長く働けるからな。」


あ、しまった。

タルクス叔父さんをセフメトの護衛にスカウトしようと考えてたのに、狩人を続けていく話になって来ちゃったよ。

まぁいっか。

タルクス叔父さんは狩りが好きだから、狩人してるんだしね。


「自分の身体の中にある魔力だけでそれをしたら、多分疲れてしまうから。

さっき私がお父さんに説明してたみたいに、身体の周りにある魔力を使って周りの魔力を自分のものに変えられる様になったら、口から取り込んで使える様になるよ。

そしたら少し休んだだけで、また魔法が使えるようになるかもね。」

「ふむ。それは分かる気がするな。

今までも疲れて休む時には大きく息を吸い込んでいた。

そうか。

あれはそう言う事をしていたのか。」

「タルクス叔父さんが休む時は魔力の多い場所だから、知らなくてもソレが自然に出来てたんだね。」

「あぁ、今それがハッキリと分かる。そうか⋯あれは俺が知らない間に身体の魔力で染めた周りの魔力を、そうやって身体に取り込んでいたのか⋯」


タルクス叔父さんは信じられない!と言わんばかりに目を大きく見開いて、自分の両手をジッと見下ろしている。

そしてギュッと目と拳を閉じると、今度は意識して身体の周りを探ろうとし始めた。


「あ、だからタルクス叔父さん。

今この辺りの魔力は私が変えて使っちゃったから、今それをしても分からないかも?」

「⋯いや。大丈夫だ。

俺の身体の周りにある魔力が、そのお陰で逆に分かりやすいのだ。

そうか。

これが俺の魔力だったのか⋯」


あ、この人普段から仕事で早く深く集中するのに慣れてるから、意識するのがもの凄く上手いんだ。

しかも魔力が多い場所で仕事をしてるもんで、元々魔力に馴染みもある。

だから少し認識を変えたら、あっという間にそれが分っちゃったんだね。


そりゃ生きるか死ぬかの環境で、ずっと周りを意識して気配や魔力を探ってたんだろうし。

そりゃいつもやってる事をしてるだけなんだから、うん。

まぁそう言う事だろうね。


「いやはや、これは驚きだな。

何故俺は今までこんな事すら気が付かなかったんだ?

いや⋯気付いていたんだ。

自分の身体の周りが薄いことには、俺はちゃんと気がついていた。

だがこれが俺の魔力だと言う事を知らなかっただけで⋯。

⋯なんだこれは。」


タルクス叔父さんはショックを受けて愕然としている。

何となくそれが日の光の働きを知った時の錬成師達の反応に、似てる気がする。


だって両手で頭を抱え込んで、叔父さんが項垂れてるんだよ。

だって叔父さん、もう自分の身体の中から魔力を引っ張り出して身に纏ってる空間を広げてるんだもん。

それ、私がさっきやってビックリしたヤツじゃん。

同じ事してんじゃんか。

ただ周りに魔力が無いからそれすると、あっという間に魔力が消えてくんだよ。


「叔父さん口から大きく息を吸い込んで、早くそれを身体の中に戻そう。

じゃないと、それを続けたら倒れちゃう。」

「っっ⋯」


言われるまでも無いと言わんばかりに、胸いっぱいに大きく息を吸い込んでる。

でも多分消えた魔力の方が多いと思う。


「はぁ⋯」

「随分と消えちゃったから、凄くシンドいんじゃ無いかな?」

「あぁ⋯だが、これは面白いぞ!」


閉じていたタルクス叔父さんの瞼が開くと、キラキラとした瞳が私に向けられていた。

かなり興奮してるから、日に焼けてソバカスやシミになってる頬がほんのりと紅潮している。


白人っぽい人種なのに、ウチの父もタルクス叔父さんも年中外で仕事をしてるから、私達と違って肌が焼けて少しだけ小麦色になりかけてるんだよ。

シミやソバカスも多いけど、それが目立たないぐらい肌が少し茶色いのだ。

それが赤くなってるんだから、彼は今相当興奮してると思われる。

まぁ分かる。

私の場合は魔王との差が見えたせいで、気分がガッツリ落ち込んだから興奮しなかったんだよ。

でもあれは本当に新感覚で、私もかなり楽しかったせいで、ついやり過ぎちゃったんだよね。


「いやいや、叔父さん。

落ち着こう。

それ今やったらひっくり返るヤツだから。」


私は突然肩にかけてた弓を降ろして、流れる様に矢を矢筒から引き抜いた叔父さんを慌てて止めた。


「ぬ⋯」

「だって相当シンドいでしょ。

せめて休もう。

コラコラ、休むついでに周りに魔力を増やそうとしない!

それすると身体の魔力が減っちゃうでしょ!」

「ぬぅぅっっ⋯」

「睨んでも無理だから。

叔父さん担いで行くの大変になるから。

叔父さんさんは大きいんだから、お父さん1人で運ぶのも難しいの自覚してる?」

「ハハハハハ!」

「お父さんも笑ってないで叔父さんを休ませてよ!」


だってタルクス叔父さんはデッカイんだよ。

そりゃカルマンさんのが大きいけど、ギルバートさんよりも分厚い身体をしてるんだからね?

叔父さんより小さなお父さんだけじゃ、家の中に運ぶのも苦労しちゃうよ。

子供の私達が束になったって、絶対に持ち運べないからね?

それなのに叔父さんは唇をへの字にして拗ねてるし、父は爆笑してるしで全然役に立たなくなってる。

ウチの兄弟は理由がわからなくてポカーンとしてるし。

カタリナが理由が分からなくて仕事しないから、私がカタリナみたくなってるよ。


お父さんがお腹を抱えて蹲って爆笑してるのは、未練がましい叔父さんを、私が魔力で包んで保護をしてるのが、目で見て無くても分かってるからだ。


叔父さんが地味にちょっと出しては自分の魔力を身体に纏おうとするから、それが出た先から消えないように私が周りを包んでせき止めてるんだよ。

でも太陽がまだ沈んでないせいで、このままじゃこの状態でも自然と分解が進んで魔力が消えていくので、叔父さんが直ぐに倒れちゃう。


「叔父さん。

身体から魔力を出したら駄目だよ。

日の光が魔力を分解して消すから、増やしても消えて薄くなるのはそのせいなんだよ。」

「ぬうぅ~」

「そうそう、出さないように意識して自分の中に閉じ込めるの。

薄くなってもそれは仕方が無いんだよ。

⋯うん。調整出来てる。」


私はホッとして魔力から手を離すと、それはあっという間に霧散した。

取り込むにはちょっと難しかったんだよね。

引き戻そうとしたら、消えないように魔力を増やさなくちゃ駄目だから、取り込むよりも消耗すると判断して切り捨てたの。


残ったのはグッタリと疲れた顔をしてるタルクス叔父さんと、込み上げてくる笑いを悪いと思って必死に留めて微妙な顔になってる父と、話の流れに取り残された私の兄弟達。

そして随分と色が戻ってきて、明るい茶髪になったスーパーな私。

死んでも修行するような戦闘民族じゃないから、プラチナブロンドじゃなくても良いんだけどね。

でも成る程と思う。

私達は魔王達と同じ民族らしい。

そりゃ同じ国に居るんだからその殆どが同じ民族かもとは思う。

でも魔王達王族と私達平民の何が違うか。

それは魔力だ。

産まれながらもってる魔力が多いから、向こうは金髪が多くて、私達は色がくすんで茶髪の髪の人間が増えてるのだろうか?

ソレがとても不思議だった。

だって私の色が変わったからだ。


産まれながら持ってるもののせいでは無くて、もし他に何か理由が有るならそれは教育、食生活と言った環境の変化はどうだろう。


貴族の女性は魔力過多症になりやすいと言う。

何故そうなのか。

元々お金持ちのお嬢様だった人が、昼の日の当たる時間に外でうろちょろ仕事をする理由が無い。

働かなくても生活が出来るし、女性は守られる立場だから、日の当たらない家の中に籠って、毎日過ごすのでは無いかと考えられる。

ならそんな人達が嫁いだ先で、突然外に出て働くだろうか?

それもまた娘時代と似た生活を送れる様に、お金持ちの嫁ぎ先を探して親が嫁がせてるかと考えられる。


全ての貴族女性達がそうだとは限らないけれど、洗濯をするのに外に出たり、ご近所付き合いで散歩して歩いて他所の家に向かったり、種まきや収穫時に長時間外に出て畑仕事をするなんてしないと思う。


だから日の当たらない所で過ごし、しかもお金持ちだから魔力が豊富で美味しいご飯を食べたり、飲んだりして過ごすとしたら、身体に魔力が沢山増えて行くから、妊娠して、更に魔力が増えることになった状態が魔力過多症となって姿を現すのだとすれば、無事に産まれて来た子供達もきっと、産まれながら沢山の魔力を持って来る筈なのだ。

だって私がそうだから。


北の昼の少ない大地で生まれ育ったご先祖様が、長い長いこれまでのもの凄く長い年月の中、魔力過多症を繰り返す環境で生まれ育ち続けて来た民族で、その特徴が魔力の多さで髪や目の色が変わる体質の人達なら、今のこの状態も説明がつく気がするのよ。


ウェスタリアは魔力が豊富な土地のせいで、森が深くて強い魔物が多いせいで、広い平地なんて最初の頃はそんなに無かったんじゃ無いかと私は想像している。


でも全く無い訳じゃ無いから、そんな平地に人が集まって小さな村が出来て人が増えていけばそれが街や国になって行く。

北の寒い大地に追いやられた人達も、その平地で最初は産まれて来たのかも知れない。

でも長い時間をかけて、身体や遺伝子が変異を起こすぐらいの時を過ごしていたのなら、それが北の国の始まりの原点だと言うのなら、変異をしたとしても元は同じ民族。

それなら北の寒い環境じゃ無くても、人工的に魔力過多症を繰り返す環境を作り出せているから、平地の民族達と交わったとしても、少しづつ変異を繰り返して、貴族達が北の国の力を引き継ぎ続けてるのだとすれば、同じ民族なのに髪の色や目の色が平民と貴族とで違いとなって現れたとしても、可笑しくは無いと私は推測した。


だって私は前世の知識から知っている。

皇族や王侯貴族の人達でも、元が同じ民族なら平民と同じ色の髪や目や肌の色をしてる事を知っているからこそ、ウェスタリアで王侯貴族達と私達平民の色の違いが、不思議に感じたのだ。


そしてその知識と推測を元に私達家族の事を考えてみよう。

母は平民だけど、元は中央で隠される様に大事に育てられていたお嬢様だ。

エリザベスお祖母ちゃん達は、中央の中ではお金持ちの家だったから、日の当たらない建物の中で育って来た母は、魔力の多い子供だったのでは無いかと考えられる。

だから浄化魔法が使えて、外に出て働かなくても仕事が出来ていたのかも知れない。


次に父を考えてみようか。

家業は鳥小屋で鳥を育てる事と、畑で麦や芋を育てる事を仕事として生活をしている。

そして父は末っ子としてこの家に産まれて来た。

つまりマリア婆ちゃんにとっては、高齢出産になる。

昔は洗濯物をしたり、外に出て働く事も多かったのかも知れないが、その頃には婆ちゃんの代わりに外の仕事をする子供が沢山いて、また妊娠した事で家の中に籠って生活をしていた事が容易に想像出来る。

食事も子供達が森で魔力の豊富な獲物を持って帰ってきてくれていたとすれば、マリア婆ちゃんは魔力過多症を経験したのかも知れない。

それが父がお腹に居る時の事かは分からないけれど、もしマリア婆ちゃんが父がお腹に居た頃に魔力過多症を起こしていたとしたら、その頃にはまだマリア婆ちゃんの上に義母が生きてたから、マリア婆ちゃんが生き延びる事が出来たのでは無いかと、仮定して考えてみた。

すると母が魔力過多症を起こした時に、的確な指示を父に与えて危機を凌いだ事も、森から魔力が豊富な物を取ってきて食べさせた事を叱ったのも説明がつく。


つまり父はひょっとしたら私と同じ、魔力過多症を起こした妊婦から産まれた子供では無いかと予想される。

だから母よりかは少ないとは言え、浄化魔法が仕えるほど魔力を持っているのでは無いか。

そして毎日日の光にさらされながらも、過酷に魔力を使う生活を繰り返す事で、自然と外の魔力を使う事を覚えて熟していたのなら、父の鍛え上げられた魔力の強さに説明がつくのでは無いかと考えている。


そんな2人の子供なら、カタリナやロベルトやマルセロや私、そしてジーニスですら産まれた時に持ってる魔力が多いのでは無いかと思えるのだ。

そしてその兄弟の中でも、母が魔力過多症を起こした時にお腹に居た子供が私だ。

だから兄弟の中で飛び抜けて魔力が多いのも説明がつく。

そして魔力は多ければ扱いやすくなるので、私はまだ幼いけれど魔法が人よりも上手く使えるのかも知れない。

何故なら父や祖父がそうだからだ。


何故マリア婆ちゃんが、義母が、正しい魔力過多症の対処法を知っていたかと言えば、祖父も魔力過多症を起こした時の子供では無いかと考えられるからである。

何故そう思うかといえば、祖父はこの広大な畑や鳥小屋の管理を両立させていた猛者であり、今でもエターニャやセフメトが2人合わせても太刀打ち出来ないぐらいに、魔力の水を1人で出せているからだ。


そして更に上に遡ると、そもそもここの家の後継になれる存在は、魔力過多症を起こした時に産まれた子供で無ければ、魔力が足らなくて跡継ぎになれないのでは無いかと考えてしまう。


そしてこの村の殆どの村人が同じ環境で生まれて育っているから、色味が多少違っていても、皆平民なのに、王侯貴族達と同じ色を保ち続けているのでは?と、そう考えてしまうのは私だけなのだろうか?


もっともっと掘り下げて考えて行けば、そもそも北の国の大地から快進撃を起こして国を大きくして来た民族しか、このウェスタリアで生息出来なかったとすれば?

そりゃこれだけ長い年月をかけて、高い魔力を維持し続けながら、戦う為に必要な技術や知識を増やし、強くて便利な魔道具を開発し続けていたのなら、最初は敵わなかった魔力の大きい強い魔物とも戦えるようになるよね?

そして倒した魔物の肉を食べ、魔石や骨や皮を使って武器や道具を造り、その生活が民族の強化に繋がって行く。


そして私はこの時、恐ろしい事に気付いてしまった。

そんな体質をもつ民族の王族が、わざと後天的に魔力過多症を起こして、それを改善するといったアホな離れ業をしていたとしたら?

それが可能なぐらい、身体が成長してる途中の幼い頃から人工的に高密度な魔力を蓄えても健康被害が起こらない様に下地造りを励んでたとすれば?


もっといえば、その下地造りに等しい大量の魔力を身体に蓄える生活を、まだ身体の基盤すら出来てない2歳から続けて仕舞えば?


あ、これ仮面してないライダーに向かうヤツだと、私はこの技術の恐ろしさに気付いてちょっと途方に暮れてしまった。


エイリアンなピヨ子がエイリアンなまま生きて行くのを恐れていた様に、延々と2歳の身体から成長しない自分の姿が想像出来てしまったからだ。

俗に言うロリババア爆誕への道を進んでしまう事になる。


それはもう女子高生の身体に憧れてダイエットに励んでいた前世の生活よりも、もっと深刻で過酷な成長被害を起こすって事だよね?

うん。これはとても便利だけど、この技術を鍛えるのはもっと大きくなってからで良いんじゃね?

私は走れば転ぶと分かると走らない人だから、走らなければきっと大丈夫だと思う。

そう⋯走らなければ⋯。


⋯さっき全力疾走した気がするんですけど⋯、あの、まだ大丈夫ですかね?


あ!

まだ髪の色が戻って無い?!

あっっ!

ひょっとしてまだ私、走ってる途中なの?!


サッと血の気が引く。

だって私は知ってるのだ。

普段魔力が豊富な土地で生まれ育ったヤラマウトの成体が、土手の土の中で冷たく萎れていた姿を、私はこの目でみてしまっている。


今なら何故そうなったのかが分かるのよ。

だって彼女?は自然と周りから魔力を集めて生活してたんだって事が分かるの。

そんな生活をしてるから魔力を沢山持ってて、強い魔物だと言われてる存在になれる。

多分どんな強い魔物もあの感覚を知ってるんだと思う。

だから出産とかで魔力が減ってしまえば、失った魔力を取り戻そうとしても、周りに魔力が無いから身体の魔力が足りなくなって死んでしまったんだと思う。


だってさっき私、分かっちゃったから。

私の身体の中の魔力が全部出て仕舞えば、生きていくのに必要な魔力が足りなくなるのに気が付いたから、慌てて外に出ていく魔力を抑えたし、取り戻そうと思って吸い込んだんだよ。


ヤラマウトは無意識でそれをしてたから、魔力が少ない環境だとそれが出来ない事を知らなくて、理由は分からないけど危ないのがわかって地面の中に潜ったんじゃ無いのかな?


そこで子供を産んでしまったから、タダでさえ減った魔力を使ってしまって死んだのか。

死ぬと思ったから子孫を残したのかまでかは分からない。

私はそこまでヤラマウトの情報を持って無いから。


前世の記憶から子孫を残すのには雌雄が必要だと言ってるけど、魔力草に雌雄が有るの?ってなると、この世界独自の繁殖方法が有るとも考えられるし、だから雌雄が有るのかも知らないヤラマウトが、どうなのかは分からないのだ。

子供を産んだから彼女?って仮定したけど、真実そうなのかは分からないよね。


とかのんびり考えてる場合じゃ無い!

もう、黙ってて思考!

勝手に働いて私の行動を止めんなバカ!


私は慌てて周りの状態を確認する。

もう何が何でも構わずに魔力を解き放つ事は出来る。

でも私はコレから井戸の光源になるのと、浄化してお掃除する仕事が待ってるのだ。

そう先ずはあの氷!

あの邪魔な氷を除けられたら、水瓶が使える!


「お父さん!

あの氷を水瓶の上から除けたいんだけど、どうしよう?」

「え?それは⋯。」

「それなら取り敢えず鞄にいれとくね!」


直ぐには溶けないだろうと安易に考えた私は、もたつく父の返事を待てずに水瓶のサイズの氷を魔法の鞄に放り込んだ。


「お父さん、残ってる井戸の水を入れちゃって!」


何故私がそれを出来るのにやらないかと言えば、この後で浄化が待っているからだ。


浄化は汚れてる範囲や程度で消費される魔力が多くなる。

つまり井戸なんて明らかに古くて汚れてそうで大きな設備を綺麗にしようとすれば、2歳の私自身の魔力では足らない可能性が有るのだ。


それでも感覚的に足りるかもと考えたから、この提案はしてた。

でもそれは表面的に綺麗にする魔法の使い方をしていた頃の拙い感覚が出した答えなので、いわゆる風呂場を掃除する時に水で汚れを流す程度の物なのだ。


でも今の私ならカビすらも分解してしまえる。

でもそれをするには、前とは比べものにならない魔力を消費する事が、感覚的に分かってしまうのだ。

コレはもう理屈じゃ無い。

経験なんかしてないけれど、さっきまでそこにあった魔力からの情報だと言えば分かりやすいだろうか。

とにかくそんな感じで、私はこの辺りの情報を全て持ってしまってるから、早くこれを手放したくて今めっちゃ焦っているのだ。


その情報を持ってる魔力を使って仕舞えば、私の中からその残滓みたいな記憶は薄れて行く。

もういまはコレ以上は持てないので、頭が前みたいに混乱する事は無いけれど。

でもこの状態が続けば、私は走り続けてる事になってしまう。

それが意識出来ないぐらいに当たり前になってしまえば、待ってる未来はヤラマウトになる。


私はこの魔力の低い場所で、生きられなくなってしまう。

だから私は今こんなに焦ってる。

早く早く早くと気持ちは焦るけど、それが分からない父はヤレヤレと急かす私に苦笑を浮かべて地面から立ち上がった。


もうむくれてるタルクス叔父さんとかどうでも良いし、え?何?何?何が始まるの?と、興味津々でこっちを見てる兄弟も、お母さんも見たいのになぁ〜と、思いながら晩御飯の支度をしてる母も、うーあーと唸りながらベビーベッドで一人遊びしてるジーニスも、今は本当にどうでも良いから、早くお水を除けて欲しかった。


なんなら水ごと纏めて浄化すれば良いんだけど、カ〇キラー並の強烈な浄化をしてしまえば、せっかくミネラル豊富な井戸水が、ただの精製水になってしまう。

それはそれで勿体ないとか考えちゃうから、早くそこの水を除けて欲しいのだ。

だって精製水なら簡単に作れるけど、ミネラル豊富な水は私には簡単に作れないんだもん。


私が人工的にミネラル豊富な水を作ろうと思えば、腐葉土や炭や布を使った方法でしか作れない。

そんなの何時間かかるか。

そもそも薪の燃え残りの一部が炭っぽくなってるだけで、ちゃんとした炭が無いから其処から自作しなくちゃいけないし、布はとっても高いからお金だってかかっちゃう。


そりゃ古くなってるシーツを買い換えるつもりで買っても良いけど、その古いシーツを使うかと思えば気分もげんなりするからシッカリと浄化しなくちゃだし、シッカリ浄化するなら2歳の私だとまだ魔力が足らないから、またスーパーモードになるかと言えば、そんな事するわけないじゃん!となる。


つまりミネラル豊富な水はとても貴重な素材で、氷にして月の光を浴びせたら、ヤマやラグには良い餌になるし。

なんなら裏庭に撒いても良い。

そしたら美味しいお野菜が食べられるかと思えば、捨てられないよね?


だって私は農村で生まれ育った農民の娘なので、美味しい食物への執着と勿体ない精神が、私の価値観の大幅をしめてるから、これはもう誰が何を言おうとも仕方が無いのだ!


父が井戸から登らせた龍みたいな水は、今までと違って黒く濁ってしまっていた。


(きたな)っっ?!』


色の薄い場所の水には、蓋を閉めても入ってしまった枯れ葉や、泥になりかけてる葉っぱや、そんな葉っぱが混ざった泥。

つまり井戸の底の水の中に、井戸の近くに有る木から落ちた葉っぱが溜まって、ヘドロみたいになっているんだと予想出来る。


「うーわ⋯俺達、こんなのを飲んでたのかよ。」

「洗濯する時の水はこんなに汚く無かったのに⋯」

「ほへぇ〜⋯」


ロベルトがその宙に浮かんでる水を見て顔を顰めたし、カタリナも信じられないと言わんばかりに、嫌悪の瞳を黒い泥水に向けている。

マルセロはもう好奇心全開で素直にその情報を取り込んでるみたいだ。

まだ頭の中で兄達の様に、情報の整理が出来ていないからだと思われる。


「あ!」


そして新しい水瓶にそれを入れるのを躊躇った父は、裏庭の畑に向かって黒い雨を作って水を撒いてしまった。


「お父さん?!」

「ん?だってあんな汚いものを水瓶になんて、入れられないだろう。」

「でもそれだとお水の量が測れないから、分からないのは困るよ!」

「量ならそこに入れなくたって分かるさ。

大体半分より少し多いぐらいだな。」

「あ⋯そっか。

お父さんなら分かるよね。」


そりゃそうだとストンと情報がお腹の底に落ちる。

あの水には父の魔力が混ざってるんだから、そりゃ量ぐらいわざわざ測らなくても、感覚的に把握出来るのも納得だ。

元々水瓶にメモリなんて書いてないから、入れた所で丼勘定なので、半分より少し多いと言うのなら、大体50kgぐらいかな?と、私も大雑把な農民らしく杜撰な計算をする。


「つまり今の井戸は水瓶2杯と半分ぐらいお水を溜められるんだね。」

「問題はそれがどれぐらいの時間で溜まるかだよな。」

「そうだね。お父さんの感覚からしたらどう思う?」

「汚れを除けたら水が湧く道が通るから、今よりかは溜まる時間が短くなりそうだな。」

「なら今度は私の仕事だね?」

「上からやれそうか?」

「えーと⋯下までの距離が遠いからどうだろう。

1番綺麗にしたいのが底になるから、私も半分ぐらいは中に入った方が良いと思うの。」

「ふむ。⋯まぁそうなるだろうな。

そもそも半分の場所から全てを浄化するのも大変だぞ。

それなら底に降りて必要な場所だけ浄化しなさい。

水が当たらない場所まで、わざわざ浄化する必要は無いだろう。」

「えと⋯うん。

分かった。」


まぁ井戸の底から上を目掛けて浄化すれば良いだけなので、私もそこは飲み込んだ。

重点的に綺麗にしたいのは井戸の底。


そこから上に向かうのなら、1番上の入り口は弱い浄化になるが、父の言う通りそこを重点的に綺麗にするのは、後日また改めてすれば良いだけなのだ。

父にはその意図は無いので、言葉にした通りの認識をしてるんだろう。


でも私達兄弟はあの綺麗好きな母に育てられてるお子様達なので、ヤンチャなロベルトですら入り口が汚れてたら嫌な顔をすると思われる。


父なら井戸の壁に擦ることも無く、底から水を龍にして水瓶に入れているから、上が汚れてようが気にしないのも分かる。

でも兄弟達は違う。

彼等が洗濯や何かで井戸水を汲む時には、そこの古いツルベの桶を井戸の底に落として、綱を引いて水を汲み上げているのだ。

まだ力が弱いから、一度で水が足らなければ何度か行うし、木桶を手前に引き寄せる時に上の辺りの壁に当たるのはまま良く有る事なのだ。

そうしたら上の汚れが落ちるのも、想像しちゃうよね。

実際そうして井戸の底は汚れが溜まるんだろう。

だって普段使わない時はちゃんと蓋をしてるのに、あれだけ落ち葉が溜まってるんだもん。

そりゃ上の方だって掃除して無いなら、雨水やら人の手垢や砂埃やらと色んな物で汚れてても可笑しく無いよね。


「ちょっとお父さん!

何をしようとしてるのかな?!」

「ん?入る前に底を綺麗にしておこうかと⋯」

「小川の水は駄目!絶対!

それ見た目は綺麗に見えるけど、それ使うと井戸の中で悪いものが増えるから井戸水を飲むと病気になるよ!」

「あ、そうか。

ウッカリそれを忘れてたよ。

井戸の中に川の水を混ぜたら駄目なんだったな。ハハハ。」


いやぁゴメンゴメンと、明るく笑い飛ばしながら、人工小川から鎌首を持ち上げていた水があっという間に崩れて行った。

アブねぇ。

父はまだ賢い方だと思うけど、それでもおおらかな農民なので大雑把な所は同じなのだ。

朝に私が聞かせたばかりの話だから、直ぐに思い出してくれてたけど。

それが無ければ井戸の掃除をした時に、小川の水を使って大惨事を引き起こしていたに違い無い。

日の光に当たらない多湿で栄養豊富な環境なんて、病原菌からしたら楽園じゃ無いか。

そんなの繁殖仕放題になる。


そりゃそんなにしょっちゅう井戸の掃除なんてしないけど、偶にやらかす農民がいて病気が蔓延するから、教会が繁盛するかと思うと複雑な気分になる。

だから浄化や治癒の魔法が使える人を、教会はスカウトして村に配置してるんじゃ無かろうか。

だってそんなスキルを持った人なら、こんな貧乏人が集まる村じゃ無くて、金持ちが集まる都会に居させた方が、お金を稼ぎたいだけ稼げるからだ。


でも病人が増えて手に負えなくなると困るから、初期に対処するべく末端の村でも環境が良さそうな所にそう言う有能な人材を派遣して、初期のウチに大火になる前の火消しの対応をするようにしてるかと思えば、今の形も納得出来る。


病原菌なんてまだ知らないだろうから、悪いモノを取り除くつもりで浄化して病気を治してたりして無いだろな?と。

ついついそれを疑ってしまう。

浄化が抗生物質で、回復薬が滋養強壮剤とするなら、感染症に限って言えば最強の組み合わせなのかも知れない。

だって浄化で消せない病原菌で無ければ、何の種類の病気だろうと治せてしまうのが、浄化と言う魔法の働きだからだ。

病気になった人だって、苦しいのは嫌だから早く治りたいなぁ〜って思ってるだろうし。

下手をすればそれで自分の魔力を使って、治癒魔法を知らないウチに使ってたりしてないか?

魔力が豊富な人が健康なのって、それが理由じゃ無いの?

いや、知らんけど。

こんなの単なる推測でしか無いから、ハズレてても可笑しくも何とも無いんだけど。

元気草みたいな生命力のある薬草が有るじゃん?

沸かしたお湯で湯がいた汁を飲むだけで元気になるヤツ。


でもアレって日の当たる場所でしか繁殖しないから、魔力が決定的に足りてないと思うんだよ。

だからあの草の汁に人工的に魔力を与えて、これが回復薬です!とか言って作ったりなんてして無いだろうな?

気が付いて無いだけで、無意識に身体が魔力を使って自己回復をしてるのなら、魔力を補ってあげたら身体の悪い所を治せるし、元気茶の効果で元気ハツラツするんなら、薬で治った!

って、勘違いしても可笑しくなくない?


ハハハ⋯そんな、まさかなぁ〜。

ハハハハハ⋯前に魔王に飲まされた、元気になる謎の液体がクッッッソ苦くてマズかったのは、アレの原料が元気草だったりしたんじゃ無いかと⋯そんな不吉な予感がどうしても拭えないんだが。


だってあの尋常じゃ無い渋みって、三日三晩普通の元気茶を煮込んで煮詰めて作ったんじゃねぇの?!と、疑うぐらいに強烈だったんだよ。

まぁ良い。

これが単なる私の思い過ごしなのか、それとも真実なのかは学校に行って勉強すれば分かる事だしな。


結んでた命綱を解いて家に入って行く父の後ろ姿を見ながら、私は大きなため息をこぼす。


父は多分私を背負って井戸のなかに入る為に、私が入っても大丈夫な大きさと頑丈さの有る背負い鞄を、探しに行ってくれたんだろう。

だって何時もの背負い籠は大きくて、狭い井戸の中に背負うには向いてないからだ。


私もピヨ子を置いて行かないといけないから、やっぱり命綱結ぶの早かったんじゃねぇか!と、父のお茶目を呑気に突っ込んでる場合じゃ無い。


キョロキョロと周りを見渡して、兄弟達の間を通ると土間へ入る所の横に有る、農具置き場にある肥料袋の上にピヨ子を頭から降ろして置く。


「ピヨ子、よく聞いてね?」

「ピ?」

「コレからお母さんは井戸の中に入らないと行けないの。

だけどお母さんが下を見たら、頭の上に乗ってたピヨ子が、高い所から落ちしまうのが分かるかなぁ?」

「ピピ???」

「頭の上にピヨ子が乗ってると、落とさないようにお母さんはなるべく下を見ないようにしねるのは知ってる?」

「ピ!」

「うん。落ちた事有るから、それは知ってるよね?

だけど井戸の底は深い地面の奥まで有るから、お母さんの頭の上から落ちたら、ピヨ子が大変な事になるの。

ピヨ子、見て。

あの屋根より高い所から地面に落ちるのと同じになるんだよ。」

「ピ?!」


ピヨ子を私が指を刺す屋根を見上げて、ガビーン!と、ショックを受けた顔をする。

かなり言葉を理解出来るようになって来てるなと、その様子を観察して心の中でため息をこぼす。


「だからね?お母さんが井戸の中から戻って来るまで、ピヨ子は此処の日陰で待ってて欲しいの。」

「ぴーー!」

「嫌なのは分かるよ。

ピヨ子はお母さんから離れるのは、淋しくて辛いんだよね?」

「ピピ!」

「でもピヨ子がお母さんの頭の上に居られないのも、賢いピヨ子は分かるよね?」

「ピィ⋯」


白くて丸い塊のピヨ子が、肥料袋を見つめる様に俯くのが分かる。

首が有るんだよ。

毛並みがフワッフワしてるから、首が何処なのか見えないだけで。

丸い目が三白眼みたいに鋭く見えるのも、フワッフワの毛が目の上に被さってるから錯覚して、そう見えてるだけなのよね。


私は俯くピヨ子を慰める様に、頭が有るとおもわれる場所をそっと優しく撫でる。


「ん?どうした?」

「ピヨ子を留守番させないと、井戸の底に落ちたら大変でしょ?」

「あ、そうか。

それはそうだ。

何時も一緒に要るから、ウッカリする所だった。

よく気がついたな。

偉いぞリリアナ。」

「えへへ⋯いやぁ、それほどでも。」


頭を優しくナデナデしてくれるから、照れ臭くて身体がムズムズする。


そして照れる私の目の前でしゃがんだ父が、狩りに行く時に何時も背負ってる革のゴツい鞄の蓋を、私の目の前で開けた。

だから私は問答無用でそこを浄化させる。


「ん?リリアナ?」

「うん?なぁにお父さん。

私は中に入って良いんだよね?」

「あ、あぁ⋯」


だって狩りに行く時に背負ってる鞄だから、狩った獲物を入れてるせいで、中は何かの生き物の血の匂いやら、汗臭い何かを入れたような、カビ臭い匂いで充満してるんだよ。


ん?嗅いでないが?

そんなの見たら分かるよね?

お母さんは私達のお世話で浄化魔法を使うから、父が管理してる狩り用の鞄まで面倒見切れて無いと思われる。


それでも血の汚れがあったり、気付いたりしたらお母さんなら浄化するだろうけど。

そしたら外の見た目が、あんなに薄汚い筈が無いんだよ。


今はもうピカピカの新品に近い茶色い鞄になってるよ。

外のアチコチが擦れて白くなってる所はあるけど、ずず黒くなってた(きた)()な血の染みとかは綺麗サッパリ消えてるね。

私が消したから、そりゃそうなるわな。


父は浄化されて綺麗になった鞄を見て、自分が思ってたよりも鞄が汚かった事に気付いて、ちょっと罰が悪くなったらしくて笑って誤魔化してる。


オジサンがテヘって笑っても、普通なら可愛く無いけど。

まぁウチの父は童顔だからな。

まだ20代の青年みたいに見えるから、母なら胸キュンするかもね?

私もちょっと胸キュンしたから仕方が無い、此処は1つ大人になって(スルー)してあげよう。


そして綺麗になった鞄に入ろうとして、私はハッとした。

小川の水で井戸の底を綺麗に掃除した後で、私が中に入って浄化すれば病原菌の元なんて綺麗サッパリ消えて無くなるのでは?

しかも泥汚れが小川の水で綺麗に洗われてたら、浄化に使う魔力を少なく出来るかも知れなかった?


私のバカ⋯。

ヘラリと笑ってる父の顔を見て、あの⋯さっきやろうとしてた小川の水を使って井戸の底を掃除してくれませんかね?

とか今更言い辛い。


これだから!

これだから前世の記憶って邪魔なんだよ!

こっちにはこっちの常識とルールってモンが有るんだから、偉そうな顔をしてしゃしゃり出てくるんじゃねぇーーー!!!


もう内心はドッカーン!と爆発してる私だけど、まぁ⋯うん。

所詮は凡人な私だからこんなミスをする事も有る。


それに井戸と小川の水が別物だと知らない農民が、井戸を水の入れ物ぐらいの感覚で、やらかすヤツが居ないとまでは思えないので、その危険性を家族に伝えるのは悪く無いとは思う。


「⋯お父さんごめんなさい。

私ウッカリして、間違えてしまいました。」

「うん?」

「さっきお父さんがわざわざ小川の水を使って井戸にはいる前に綺麗にしてくれようとしたのを、途中で止めてしまってごめんなさい。」

「え?だって小川の水は井戸より汚いんだろう?」

「はい。私もそう思ってるから、止めたけど⋯中に入って私が浄化したらそれも綺麗になりますよね?」

「あー⋯!そっか。

確かにそうだ。

だがそれなら俺は余計な魔力を使わずに済むから、別に止めた事を謝る必要なんてないんだぞ?」

「でも私が浄化するまでは、汚いものを見て嫌な思いをする事になるよ?」

「ハハハ!そんなの俺は全く気にしないから大丈夫だ。

さぁ、リリアナ。井戸の中を掃除しに行こう。

もうすぐ日が落ちてしまうからな。」


父はHAHAHA!と、アメリカンな感じで朗らかに笑いながら、私に広げた鞄の中に入るように促した。

そうだね。

嫌な思いをするのはきっと私だけなんだよ。

でももうゴリ押しも出来ない。

だって父はこの後、あの畑の水やりがまだ残ってるからだ。

そりゃあんなハードな事をこれから2時間以上かけてするなら、もう魔力の消費なんてしたく無かろうよ。


そして私もその水やりに派遣させられるだろうけど、もうスーパーになるつもりは無いので、残りの魔力を細々と使って地道に頑張ろうと思う。


身体⋯持つかなぁ⋯?


何だろう。

ブラック企業に就職して、月曜日の朝を迎えた時の社員さんの気持ちが、今なら分かりそうな気がする。


そんな憂鬱な気持ちのまま、父が私が入った革袋を背負い、タルクス叔父さんに手伝わせて、私に綱が当たらない様に命綱を巻き直し。

さぁいざ行かん井戸の底!

とばかりに井戸の壁を跨いで、吊り下げてある縄梯子に足をかせて、1段づつ慎重に下りて行く。


それを兄弟達はワクワクして見守ってるし、ピヨ子はピヨピヨと鳴いて淋しいアピールをしてるけど、アラームに進化することも無く、肥料袋の上で足踏みしながら頑張ってた。


でも、父が井戸の中に下りて行くと、当然背負われてる私も一緒に中に入ってしまう。


「ピーーーー!!!」


だからアラームモードをすっ飛ばして、私の身体がピヨ子の視界から消えた途端に羽をパタパタさせながら絶叫モードに突入した。


それでも父は、井戸の壁に遮られてるお陰でダメージを受けてないせいか、淡々と下に向かって降りて行く。


「もう!煩いわね!

静かにしなさい!

焼き鳥にして食べちゃうわよ!」

「ピピーーーー!」


だからカタリナがピヨ子に向かって雷を落とし、ピヨ子が怯えて絶叫した。


「ピーーー!!!

ピーーーーー!!!」

「あぁんもう⋯、煩い!

しょうがないわねぇ。

ちゃんと静かにしてたらリリアナの姿を見せてあげるわよ。」

「ピ?!」

「嘘じゃないわよ。

リリアナが見たいんでしょう?」

「ピピ!ピーーー!」

「ハイハイ、分かったから。

ちゃんと大人しくしておきなさいよ?

ジッとしてないと井戸の底に落ちたら死んじゃうんだからね?」

「ピピ!ピ!」


そして代わりに出した妥協案が良かったのか、ピヨ子が珍しく話を聞き分けたのだ。

スゲェ姉ちゃん。

弟だけでなくてピヨ子まで躾けようとしてる。


そして姉が奇癖を起こす。

なんと!

今まで一度も私以外に抱かせた事のなかったピヨ子が、姉に両手で鷲掴みにされて井戸の上から私を覗き込んだのである。


今まで指先でそっと撫でる程度なら、父や先王様とか他の人でもピヨ子のふわふわな毛並みを撫でた人間はいた。

でも私がしてるみたいに抱かせる事は、今まで一度も無かったのだ。


「ピヨ子⋯」

「ピ!」


ピヨ子も私も感激モードで、迷惑そうに見下ろしている姉の視線をどこ吹く風の様に、まるで離れ離れになった恋人達の再開シーンの如く、私は真上を見上げて私を見下ろしているピヨ子にウルウルとしてたけど。


「リリアナ。暗いから明かりをくれないか。」

「あ、はい。」


上からピヨ子や姉だけで無く。

マルセロの服を掴んでるタルクス叔父さんやマルセロやロベルトまでもが井戸を取り囲む様に覗き込んでるもんで、そりゃ真上にしか光源がなけりゃ暗くて足元や手元が見えないよね。

だから私は自分達の下に丸型のLEDを灯す。


「もう少し明かりを落としてくれないか?」

「えーと⋯はい。

こんな感じはどうでしょう。」

「うん。いい感じだな。」


白熱灯の明かりは父のお気に召されなかったので、オレンジ色の常夜灯をイメージして優しい明かりに変更すると、オッケーが出た。


まぁな。

井戸は狭いんだよ。

だから白熱灯の明かりだと、井戸の白い壁に反射して眩しくなり過ぎるんだよね。


そう中に入って気がついたんだけ、石組みの壁は入り口から入って地面の下辺りで途切れ、そこから先は陶器みたいな白い壁になっていたのだ。

その見覚えの有る白さは、水瓶に使われてる水漏れと水瓶の補強に使ってる(うわぐすり)の色にとても似てる気がする。


この井戸を誰が作ったかと言えば、何となく魔法師ではないかと思うけど、穴を掘るのは魔法師でも、その穴を維持するのに必要な物資は錬成師が作ったのでは無いかと、何となくそう感じるぐらい。


入り口の無骨な感じと、その下の洗練されてる白さの辻褄(つじつま)が合わずに、どうしても違和感を感じさせられてしまう。


まるで魔法師が掘った穴を、平民が補強して作った井戸みたいだ。

ひょっとしたら穴も平民が掘ったのかも知れないが、その割には丸さが近代的な真円を描いてるから、人の手で掘ったと言うよりも、やはりここは魔法師の手を借りてると思わされる不自然な空間だった。


では何故錬成師が作ったと思わないかと言えば、空間の丸さは機械的なのに、その壁の白い塗料に塗りむらと言うか。

手作り臭さを感じる拙さが残って要るからだ。


何ていうか、魔法師が井戸を掘る為に穴を空けたとする。

底から水が出てきたら一気に地上まで来てしまう。

だから魔法師が井戸の底まで一息に掘らず、地下の水脈を確認して地面を掘り下げていく間に、平民が複数中に入ってえっちらおっちらと塗料を塗って行けばこんな感じにならないだろうか?


でも魔法を使ってる時に生身の人間を使うのは危ないし、邪魔だとしたら土管みたいな物を作って、中を水漏れしない様に平民が塗料を塗って乾いた物を穴の中に入れるのはどうだろう。

その塗料は平民が作った物かも知れないけど、そこは錬成師が絡んでても可笑しく無いよね?


だからあんなにヘドロみたいな葉っぱが底に溜まるまで掃除して無くても、壁は真新しいぐらいに綺麗なままなのかも知れない。


そして村にあった水瓶。

あれはこの塗料を参考にして平民が魔力を使わずに作ったものだとしたらどうだろう?

錬成師が作るものは良いものだけど値段が高すぎて平民は気楽に使う事が出来ない。

だから水瓶屋さんは試行錯誤を重ねて今の塗料を作ったけど、たまたま原料が似てたとしたらどうだろうか。

もしくはこの井戸を作る現場に参加してた人が、この塗料をイメージして作ったとは考えられないだろうか。


「よっ⋯と。」


とかなんとか考えてたら、いつの間にか底まで到着してました。

父が地面を踏む前に浄化しようと思ってたのに、予想より井戸の中が綺麗だったからかなり油断してた。


そして父が地面に片足を着けると、ゴリッと石の擦れる音が響いた。


「リリアナ、済まない。

床が滑って危ないから、このまま浄化をしてくれないか。」

「うん。あ、光が消えるかも。」

「うん。動かないようにするよ。」

「じゃあ浄化するね。」


井戸の全体が10とすると、上の1割と、1番そこの1割が手作りみたいな感じで、父の両手ぐらいの大きさの石で敷き詰められている。

そして最底も同じように石が敷き詰められてるから、泥やヌメリで立つのも危ないぐらいにヌルヌルしてるんだろう。


私は身体から魔力を出して1番底の部分を綺麗に出来る様に、魔力を広げて行く。

ゴソッっと身体から魔力が減ってヒヤリとするけれど、元々限界まで詰め込んでいたから、さっき鞄を浄化した事もあって、まぁこの程度なら身体の中の魔力タンクが底をつくまでは無いなと感覚から伝わって来たので冷静に魔力を伸ばして行った。


あぁ⋯そう。

1番上は遠いんだね。

ならこの辺りで良いや。

壁は思ってたよりも綺麗だったから、上から浄化したら下も綺麗になるよね。


母が私達を浄化したら床は綺麗になるのに、食器棚の上は埃が溜まってた事を思い出す。

どうやら最初私が考えてた下から上に魔法を行使するのは、少し難しいらしい。

勿論出来なくは無いけど、使用する魔力の量を増やさないとダメなようだ。


ならば今度余裕が有る時にでも上から浄化したら、自然と1番下まで到達出来る気がする。

でもそれはカビ◯ラー並の強烈な物じゃ無くて、除菌レベルの物で良い筈なのだ。

井戸に使われてる塗料のお陰で、白い部分は表面的な汚れを弾いてくれてるので。

底にそれを使用して無いのは、やはり葉っぱやゴミが上から落ちて来て底が汚れてしまうからだろうか?

それともわざわざ石を使う理由が、何か有るってこと?


「お父さん。明かりをつけようと思うんだけど、地面がどうなってるのかをちゃんと見たいから、最初みたいな色の無い明るいのを出すよ?」

「分かった。」


浄化が終わって真っ暗になった井戸の半分辺りの距離から下に伝わる様に、少し控えめな光量の蛍光灯を灯した。


「⋯お水⋯どこ?」

「ふむ⋯」


底には壁に使用されている石より少しだけ小さな石が沢山敷き詰められている。

でも確かに此処は井戸の底なのに、水が一滴も残って無かったのだ。


父は完全に縄梯子から下に降りると、膝をついて地面に手を伸ばす。


「あぁ⋯あったよ。

どうやら俺が強引に底を漁って水を抜いたから、石が水の通り道を塞いでしまってたらしいね。」


そう言って床に手をついていた父がクイッと何かを掴んで引き揚げる動作をすると、ぷしゅ!と音を立てて、井戸の底の中央部から水が噴水みたいに噴き出して来た。


「おっと⋯」


父は水が身体に掛からないように後じさりをして、壁に背中をつけた。

そして床を眺める間もなく、見る見るウチに吹き上がった水の量が増えて来ると、あたりに魔力がふんわりと昇ってくる気配がした。

つい無意識にその魔力を自分の物に変えようとしたけれど、父の方が早くて、私はチョピっとしか変換できず。

ちょっとだけムッとなった。


でも危ない危ない。

ウッカリコレをして取り込んだらスーパーモードになると、直ぐに気を取り直す。


「ちょっと勢いが良すぎるかな?」

「どうかな?

上から溢れるようなら、底の水を操って石で蓋をすれば良いんじゃ無い?」

「それもそうだな。

それじゃあ上に戻ろうか。」


父がそう言ってる間に、あっという間に増えた水が父の靴を濡らし始めたので、父は少し慌てて縄梯子を掴むと、降りるよりも倍以上の速さでてっぺんを目指して登って行く。


「お父さん。明かりを切り換えるよ!」

「おう!」


常夜灯をつけてから蛍光灯を消してオレンジ色の世界に光源を切り替えたけれど、父が縄梯子を掴む手は振れること無くスルスルと登って行った。


「どうだった?」

「うん。底も綺麗になったよ。水の出が悪かったから少し弄って来たんだが、井戸から水が溢れるならまた弄って調整するさ。」

「そうか。」

「お父さん。魔力が勿体ないから氷で蓋をしておくね。」

「此処から出来るのか?」

「うん。大丈夫。上からの方が楽みたい。」


上から見下ろしてるだけでは良く分からなかったので、父が井戸の壁を跨ぐまでの間に魔力を垂らして水量を観察していた私は、宣言通りに表面を凍らせて魔力の噴出を氷の下に閉じ込める事にした。

それでも水を抑えたく無いので、壁との隙間が空けてるから、氷を押し上げる形で下の水がどんどんと量を増して行く。


まだ水に勢いがあるせいで氷と壁の隙間から、氷を乗り越えようとする水まである。

抑えようかと思ったけど、氷が深く沈んだりひっくり返るまでも無く、水面が上昇するに連れて北から押す力が弱くなり、氷が安定したのを感じて観察を切り上げた。


うん、よく無いとは分かってるけど、チョピっとだけ頂きました。

でも身体の中には取り込まずに、身体の周りの魔力と合体させて留めてある。

わざわざ吸収せんでもコレで良いじゃんと言いたいが、これはあくまでも意図的に留めてるだけなので、手放したら直ぐに霧散するのは分かる。

身体に取り込むのは入れ物に入れる形だから、消耗した時にするぐらいが良さそうな気がする。

こうして気がつけば仮面して無いライダーを避けて、ヤラマウトへの道を歩みそうだから、なるべくはやらない方が良いと思う。

もう⋯ややこしいなぁー。


白に近い銀色だった髪が、明るい金色のまま止まっている髪の毛を摘んでガッカリすると、茜色になって来た空を見上げた私は大きなため息を零した。





ブリーチしちゃった!

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