35
ミシリャンゼが震撼するお話。
私がマゼランお爺ちゃんのお店で何時もの家族席に入り、お父さんの隣にすわって、対面にマドルスお爺ちゃんが座ってメニューから注文した品物がテーブルに並んだ頃。
セフメトが錬成師屋から戻って来たので、私はピノを飼う件について彼が調達して来た話を聞いている。
そのセフメトはマドルスお爺ちゃんの隣に座って、メニューからさっき注文をした所だ。
「空気の穴かぁ~。そりゃ生き物だもんね。」
「あとは餌を与えるのは良いけど、それを食べ残したり、フンや尿の処分するのも問題じゃないかって言ってたよ。」
「そこは浄化魔法で一発すれば済むけどね。」
「教会から人を呼ぶの?」
「まさか。私でもお母さんでも浄化は使えるよ。」
「ふぇ?!」
「最近使えるようになったんだよ。お母さんは前からバンバン使ってたけどね。
元々宿屋の娘だから、お掃除が得意なんだって。」
「そ、掃除なんかで浄化するの⋯?」
「私達を綺麗にするついでにお部屋のお掃除もそれでしてるよ。」
「あー⋯だから何時もカタリナや皆がちっとも臭くなくて汚れてないんだ⋯」
「うん。
こっちはセフ兄ちゃんが知らなかったのが驚きだけどね。」
瞳から光が消えかけているセフメトを、私は朗らかに笑い飛ばす。
「空気以外に何か問題は無さそうかな?」
「蓋を壊す心配はしなくて良いみたい。
でもそれでちゃんと飼育出来るかは、試してみないと分からないってさ。」
「そりゃそうなるよね。
駄目ならお姉さんは檻の事何て言ってたの?」
「一応魔物を使って研究する時の為の檻は有るみたいだよ。
ピノなら1番安い檻でも充分だから、銀板10枚出せば買えるってさ。」
「銀板10枚をピノには出せないなぁ〜」
「それは僕⋯私もそう思ったよ。それなら今から行く水瓶の中に閉じ込めておくのを選ぶかな。」
「水瓶じゃ耐えられないでしょ。」
「でも音がするから逃げ出す時に直ぐに分かるよ。」
「あぁ、そう言う⋯。
つまり水瓶に入れて倉庫にいれてる場合は、逃げる前に捕まえられるって事なのね?」
「外に出すなら木箱に水瓶を入れて出す感じかなぁ〜。
でもそんなに大きな木箱は無いから無理だよね。」
「それなら檻に入れてから水瓶に入れても良いね。
周りには木箱を並べて置いておけばどう?」
「そっか地面を塞いでたら、穴は掘れないんだ。
そしたら木箱をどうにかしようとしてる間に間に合うのか。」
「夜中に起こされるのは迷惑だから、夜には狩人が使う眠くなる薬を与えても良いかな?」
「あ!それ良いね!それが1番安全だし、寝るのを邪魔されないのがスゴク良い!」
「問題が有るとしたら、そんな状態でも餌を食べてくれるかだよねぇ⋯」
「起きた時にお腹が空いてたら食べるとは思うけど⋯」
「これはやってみないと分かんないか。
それなら薬はどうしよう。」
「タルクス叔父さんが持ってると思うけど、持ってくるかは分からないよね。」
「まぁ一晩だけなら仕方が無いかなぁ?タルクス叔父さんがピノを持って来たら相談してみよっか。」
「うん。そうだね。」
「だがそうなると木箱も買うのかい?」
セフメトと2人で話をしてたら父が参加して来る。
今日食べてる父のメニューはガッツリとしたステーキだ。
今日働く為のスタミナを補給する気満々だね。
「錬成箱で良いんじゃ無いかな?」
『あーー!』
「1面足らないから、そこは大型透明錬成瓶でも並べとくよ。
上に積んでたら重さで除かせられないと思うの。
中にお水が入ってるしね。」
『確かに⋯』
「でも貴重な水瓶が夜に1つ使えなくなるのかぁ~⋯。
それはそれで困ったなぁ〜。」
「だが大型透明錬成瓶の中に居れば良いだけだろう。一晩だけなら中の空気ももつんじゃ無いのか?」
「それもそっか。」
ピヨ子がピピピッと鳴いたので、私はハッとした。
ウッカリこんな話をしてたけど、ピヨ子は人間の言葉を覚え始めている。
その事を知っていて忘れていた自分に、猛烈に動揺する。
でもまあ此処でエレガント米粒を食べさせるのは流石に嫌なので、私はマゼランお爺ちゃんが作ったパンを食べさせた。
「ちょっと宜しいかしら?」
その時セフメトの料理を運んで来たエリザベスお祖母ちゃんに、私は更に動揺した。
また朝のアレが頭の中で起こったからだ。
でもまぁピヨ子の事は後回しにしようと優先順位をつけたので、取り敢えずまた頭痛や思考に翻弄される事はギリギリ免れてホッと息をつく。
ピヨ子の事は私の中では優先順位が高いけど、でも今回の閃きは今の段階では急ぐ事ではないとはっきりしていたのも幸いだった。
それよりもわざわざ給仕役を買って現れたエリザベスお祖母ちゃんの席を用意しなくてはならない。
「エリザベスお祖母ちゃん、お久しぶりです。
この前はうちの姉とセフメトがお世話になりました。
ご配慮頂き誠にありがとう御座います。
お父さんのお膝に私が座れば、お祖母ちゃんは隣に座れるよね?
セフ兄ちゃん、エリザベスお祖母ちゃんの椅子を持って来てあげて欲しいの。」
「はい!」
「それならこの子供椅子を戻さなくてはな。」
セフメトと父が素早く立ち上がり、エリザベスお祖母ちゃんが微笑んでる間にテキパキと動いて、父の隣に座れる様に大人椅子が戻された。
私は宣言通りに、父の太腿の上に座っている。
私のお子様ランチが遠い⋯くすん。
冷めても仕方が無い。
話が終わってから続きを食べようと思う。
とか思ってたら、自分で大人椅子を持って来たマゼランお爺ちゃんがお誕生日席にドスンと座って太い腕を汲んだ。
今めっちゃ忙しい時間帯だろうから、厨房から弟子の聞こえない悲鳴が聞こえて来そうである。
セフメトは暑苦しい圧迫感にタジタジで、目の前にホカホカした料理が有るのに一口も食べられないでいる。
「セフ兄ちゃん。マゼランお爺ちゃんの料理は最高だから、熱いウチに楽しんでたべてね?」
「は、はい!」
「それでエリザベスお祖母ちゃん。ひょっとして区画整理の話かな?」
「⋯そう。やはり知っていたのね?」
「ううん。知らなかったよ。
エリザベスお祖母ちゃんが来た理由を探してたら、そうかなぁって想像しただけなの。」
「まぁ。オホホホ。」
優雅な手つきで口元を軽く隠しながら、そっと反対側の手で袖を抑える仕草がとても上品で美しい。
まるでエリザベスお祖母ちゃんがおしとやかな女性だと、錯覚してしまいそうになる。
中身は猛禽類の禿鷹って言ったら微笑みで威圧されるから言わないけどさ。
マゼランお爺ちゃんは話には全く興味は無いけど、孫の顔を見るついでに客層が同年代の爺さんが多いから、お祖母ちゃんの保護に来ただけだと思う。
だって此処に来るまでの僅かな時間で、明らかに爺達がざわついたからね。
エリザベスお祖母ちゃんて、見た目30代のマダムだからなぁ。
胸部装甲も補強されたチョモランマだし、仕草がもう色っぽいんだよ。
それでも10代から20代前半の若年層からは敷居が高すぎてそこまでウケないから、給仕は出来ちゃうんだろうけど、爺達はなぁ〜⋯。
まぁどうでも良いか。
「あとその理由は大浴場かな。
私がこの前話してた大きなお風呂なんだけど、ウキウキしてたら王様まで興味をもっちゃって、この前取り上げられそうになったの。
これは私がエリザベスお祖母ちゃんの為に考えた事なのに!って、ちゃんと苦情を言っといたから、少しは遠慮してくれてるとは思うんだよ?」
「⋯りり、リリアナ。
貴方⋯そこは此方が快く譲るべき事だったのではなくて?」
「駄目だよ甘やかしたら。
王様は何でも気楽に持っていっちゃうんだから。」
「其処はもう⋯何処までも甘やかせて差し上げなさいな。」
「絶対に嫌。
そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。
私がちゃんと王様を躾けとくからさ。」
「ヒッ!りっっリリアナ?!」
「向こうの先王様や宰相のお爺ちゃんもそれを望んでるから本当に大丈夫なの。
だからこの前王子の王妃にならないかって、結婚まで進められたから断るのに大変だったんだよ。」
「あぁ⋯」
エリザベスお祖母ちゃんがふらりと蹌踉めいて倒れそうな所を、太い腕を伸ばしたマゼランお爺ちゃんがシッカリとキャッチした。
そしてズリズリと椅子をずらして、お祖母ちゃんの隣りに近い場所まで移動して行く。
その顔には婆ちゃんをいじめんな!と書いて有るが、私が虐めてないのも分かるから唇がへの字になっている。
お爺ちゃんの婆ちゃん愛に孫の私は胸熱だよ!
ニコニコと笑顔を向けてたら、お爺ちゃんはムフーと大きな鼻息を出して、どうやら心の折り合いをつけたらしい。
威圧や剣は取れたが、代わりに呆れた顔になって来てる。
それを客観的に見て唇をVの字にしてるセフメトが、匙を口に運ぶ途中で固まって横目で私の祖父母を眺めてるのだが、その横にいるマドルスお爺ちゃんは、俺は何も知らんとばかりに例のダブルスープ料理を楽しんでいた。
私を太腿に乗せてる父の顔は見えないが、気配がやたらと薄いので祖父母達から話しかけられたくないらしい雰囲気が漂ってる。
だって叱られてたって困るしな。
「王様は本当に実力のある王様で、周りの人達はどうやってもアイツに太刀打ち出来ないんだよ。
だから私が王様をボッコボコにするから、周りの人からしたら英雄みたいな扱いにされちゃうんだけど、それすらも王様の掌の中の出来事なの。
それに気づいてるから私もこうして呑気にしてるし、王様も笑ってのんびりしていられるの。
じゃないと王様はやりたくなくても夜な夜な人狩りをしなくちゃいけなくなっちゃうからね。」
「待って?ねぇ待って頂戴リリアナ。
お祖母ちゃん、そう言う怖いお話は聞きたくないなぁ〜って思うのよ。
だから楽しいお話をしましょう!」
「大浴場が出来たら、森が遠くなってもお祖母ちゃんのお店が沢山ある中央の街は大丈夫だよ。
大浴場目当ての人達が沢山現れるからね。」
「あぁ⋯リリアナ。
貴方って本当に天使だわ。」
「ただ⋯王様がノリノリで大浴場を作ったら、維持費が大変な事になるんだよ。
そしたらエリザベスお祖母ちゃんじゃ高くて管理が出来なくなっちゃうの。
中央はお祖母ちゃんの名前をつけて大浴場を残したかったから、仕方無く私は森の近くにもう一つ戦士用の超大型大浴場と小さな店が1つの建物に集まる大型の建物を建てることを提案したの。
そこならカジノがあってしよーふ?のお姉さん達がいても、村の人達は関係がないでしょう?
空間だけ作って、そこに場所代さえ払えば自由に好きな物が売れるようにするの。
お店は高級な服やら飾りを売ってる人やら武器屋やら、雑貨屋さんがあっても良いし、野菜を売る店があっても良い。
誰でもそこに入って好きな物が売れるようにするんだよ。
村の人がお店をするなら空間の代金はとらないか安くして、中央から靴屋さんが作った靴を売っても良いし、本屋さんが魔物や薬草の本や戦士達が欲しがる本を並べたって良いよね。
錬成師のお店もあってお薬を並べるのも良いと思う。
だからお祖母ちゃんだって、食堂もだせる。
建物の周りに普通のからしょーふのお姉さん達が住む宿を作っても良いかな?
そこに沢山人が集まるなら、建物の中に屋台を沢山集めてもいいし、高級な食堂を見晴らしの良い建物の上の方に作っても良いよね?
そしたら大浴場目当てに来た人達が飲み食いして、買い物を楽しんで遊べる場所にならないかな?
戦士達もお風呂で綺麗になって、可愛い女の子達と遊べれば、高い服やら飾りなんかを買ってあげるかも知れないしね。
屋台じゃ格好がつかないと思えば高級な食堂に向かうかも知れないし、他所の街から遊びに来た人や旅商人達もきっと楽しんで商売してくれるんじゃ無いかなぁって考えたの。
その方が村の娘さん達が安全になるだろうし、村の奥さん達も中央に来やすくなるでしょう?
その代わりお祖母ちゃんの大浴場には、村人や他の街の人が遊びに来るから周りのお店も釣られて儲かるかなって思うんだよ。
そんな楽しい大浴場を作ってほしいって、王様が本気を出せる大浴場を作る前に、中央のお風呂は練習で作ってねってお願いしたから、維持費も少なくするようにしてくれるだろうし。
私の希望通りにお祖母ちゃんの名前を残せるから、楽しみにしててね!」
「り⋯⋯リリアナ。
お祖母ちゃん、ちょっと嬉しすぎてお胸が苦しくなって来ちゃったわ⋯色んな話がとても気になるのだけれど⋯その。
おお王様がお風呂を作って下さるの?」
「そうだよー酷いよねー。
サラディーン様に依頼してたのに、横取りしようとするからこう言う形にしたんだよ。
お姉さんはあんなに楽しそうにしてたのにさ。
可哀想だから2つ作るの面倒だなって思えば手を引いてくれるかと思ったんだけど、でもまあ王様も忙しい人だから。
先に作るお祖母ちゃんのお風呂が終わって満足したなら、森近くに作る予定の超大型大浴場の方はサラディーン様に丸投げしちゃうかもよ?
王様って新しい事は大好きだけど、一度作ったらよっぽどハマらないと直ぐに投げちゃうからさ。」
「ほ⋯ほほほほ⋯え?
本当なの?え?おほほほ⋯。
リリアナぁ⋯お祖母ちゃんにはちょっとそのお話は、荷が重すぎるかも知れないわぁ~⋯」
「孫の愛は重いものだから、お祖母ちゃんはのんびりしてたら大丈夫だよ。
ね!マゼランお爺ちゃん。」
「む?⋯???」
「もー!
全然お話を聞いて無かったでしょう。
お祖母ちゃんが心配だからって、お祖母ちゃんに集中しすぎだよ。
相変わらずお祖母ちゃんが大好きなんだから。」
「ぬっ⋯」
「まぁ良いや。
あのね?お祖母ちゃんの名前がついたウェスタリア初の大浴場を王様が作ってくれるの。
だからミシリャンゼの村が続く限りお祖母ちゃんの名前とこの伝説は永遠に残るんだよ。
それってちょっと嬉しいよね?」
「おお!それはスゴイな。」
「でっしょー!」
『⋯⋯⋯』
褒めて褒めてのオーラを出す私を、マゼランお爺ちゃんはとても優しい眼差しで見つめてくれているが。
エリザベスお祖母ちゃんは吐きそうになってるし、セフメトはエリザベスお祖母ちゃんの顔を見て、口元をV字にしたまま、どっかの芸人みたいにヤバいよヤバいよと冷や汗をダラダラと流してる。
父は修行を極めた修行僧の様に空気になろうと頑張ってるが、マドルスお爺ちゃんは既に別世界に1人でいる心境になって、美味しいご飯を楽しんで食べてた。
だって内孫が何かをやらかしてるけど、マドルスお爺ちゃんには対岸の火事だし。
何ならマドルスお爺ちゃんは現在進行系で私の被害を受けてるから、お前らも頑張れ!ぐらいの気持ちで気楽に楽しんでるんだろう。
流石おおらかな所が父の父親らしいなと思う。
ギルタス叔父さんのあの遺伝子は、一体どこから流れて来たんだろうか。
ちっともそうは見えないけど、マリア婆ちゃんだったりしてね。
「私が出せる情報はそれぐらいだけど、お祖母ちゃんは私に何のお話を持って来てくれたのかな?
宿屋もそうだけど、色んなお店が足りないから、中央を広げるのは分かるの。
だから何時頃、どんな形で始まるのか分かれば嬉しいかな?」
「はぁ~⋯。」
エリザベスお祖母ちゃんは大きな吐息をつくと、目の前にあった私のコップを掴んでグビッと、豪快に煽った。
それお酒じゃ無くて私専用のブレンド果実ティー。
まぁ良いや。
おおらかな私は、小さな事は気にしないのだ。
タン!とコップを鳴らしてテーブルに置いたお祖母ちゃんはもう、瞳をギラギラとさせて化粧の上からでも分かるぐらい耳まで紅潮させながら、横にいる私に鋭い視線を向ける。
「今年度の麦の収穫が終わり次第、村人が集まる秋祭りで区画整理の話を村長が自らなさるそうよ。」
「代理人ではなく?」
「ええ。村長ご本人が説明成されると耳にしたわ。」
「なら冬の芋は作らないのかなぁ?荒れるなぁ~」
「その代わり農家の税は今年度に限り接収は半分だそうよ。」
「つまり旅商人も荒れると。
麦を売ったら冬に食べる物が無くなるか⋯逆に高値で売れるから良いものを買ってホクホクの冬を過ごすのかぁ。
でも井戸や家はどうなるのかな?」
「まず中央付近一帯の農家が、住む家を失う事になるから、宿の手配を頼まれたのよ。」
「それでエリザベスお祖母ちゃんはこの話を知ってるんだね。
その農家はどうなるの?」
「不平等が起こらない様に村全域の住人が指示に従って移動になるそうだけど、一冬では難しいと感じたから、どうするのかを聞きに貴方に会いに来たのよ。」
「⋯ふむ。それならこの後お姉さんの所に顔を出さなくちゃ駄目かな。
王様が動くと派手だね〜。」
「だから私にはとてもでは無いけれど荷が重いお話なの。
ねぇお願いだから分かって頂戴。」
「まぁ良いんじゃない?
村人の全員がこの村の英雄が誰かを知るだろうけど、多分誰も文句は言え無いだろうしね。」
「英雄って⋯そんな、私は女性なのよ?!」
「女性の英雄はウェスタリア初の登場になるのかな?
お祖母ちゃんは貴族の教育本にも載っちゃうね。
そんでもってお祖母ちゃんも準男爵の受賞おめでとうございます。」
「はぁ~⋯やはりそうなるわよね。全ては貴方のせいなのね。」
「いやいやご謙遜を。
全てはエリザベスお祖母ちゃんが頑張ってきたからこそ。
今回はその功績を認められて、そうなるんですよ?」
「潰されるわよぉ~⋯」
「私が守るから大丈夫だよ。
困った人が来たら私に相談しに来てね。」
「ええ、そうね。
是非そうさせて頂くわよ。」
「その代わり、ウチのセフメトの事を宜しくお願いします。」
セフメトがあからさまにビクンと跳ねた。
エリザベスお祖母ちゃんは両肘をテーブルについて顔を覆っていたけれど、その彼女らしくない行儀の悪い姿勢のまま、両手を少し開いてオデコとコメカミを押さえた状態でギラギラとしている瞳をギン!と鋭くしてからセフメトをジッと凝視する。
その探る様な視線に、セフメトは匙を置いて背筋を伸ばすとウロウロしそうになる目元に力を込めてお祖母ちゃんの瞳を見つめ返した。
その瞬間フッとお祖母ちゃんの口元が挑発的に歪む。
「今回の話を聞いて、今旅商人になった貴方は現時点での資産で何をするのかを答えなさい。」
「ふぇ?!あ、えーと⋯知り合いの家を回って事情を伝えて、可能なら麦の契約を今から取り付けて⋯保存出来る食料を買うのに旅商人に冬前に村に運ぶ手配をして⋯あ!街に人を探しに行きます!
えーと⋯村に働きに来たい人を集めてエリザベスさんに、面会しないかと話を持ちかけます。
断られたら大型大浴場で働く人たちとして雇わないかと村長さんに話せるようにお願いするとかして、仲介料を貰うとかはちょっとやり過ぎですかね?」
「麦を買うお金はどうするつもりなのかしら?」
「エリザベスさんに紹介して貰って買いたい人にその権利を手数料込みで売ります。」
「保存食を買う資金は?」
「雑貨屋さんに事情を伝えて代理で購入して貰います。
希望が有れば買取に応じるとも言います。
駄目ならリリアナに借ります。」
「リリアナにお金を借りて買った保存食はどうするつもりかしら?」
「獣車が有るので冬になったら村を回って少し高値でも欲しい人が居ないか家に行って聞きます。
残ったらうちで食べます。」
「街で貴方はどうやって求人するつもりなの?」
「商人ギルドに行きます。
上役に顔つなぎが出来るから、働きたい人がいたら連れて行くと説明します。」
「それだけでは曖昧ね。
どんな仕事を出来る人を私や村長が望んでいるのかしら?」
「えーっと⋯お店を任せられる経営の知識の有る人か、料理が出来る人とか⋯装飾品や服を作れる人とか⋯ですかね?
まだ店を持って無いけど、独り立ちしたい人に来て貰えたらと⋯」
「素晴らしいわ。
完ぺきじゃない。
でも求人するのは良いけれど、する前にひと言欲しい気もするわ。紹介状を渡せるわよ?
でもそれも貴方なら不要なのね?
リリアナがいるから。」
「はい。忙しいだろうからエリザベスさんや村長さんの手間を省こうと考えただけですけど、失敗したらリリアナに意見を聞こうと考えてました。」
「そしたら私がその人達を仕込んで、店が出来たらウチの店舗として働かせるよね。
シッカリ計算してるなぁ~。」
「中々やるじゃない。」
「元々才能が有るとは思ってたけど、かなり期待しちゃうね。
飲み込みが早い早い。」
「フフ⋯嫉妬しちゃうわね。
私は貴方みたいに上手に人が育てられないのよ。」
「私はなんにも。
今回はセフ兄ちゃんが凄かっただけだよ。」
「いえ!リリアナならこうするかなって、話を良く聞いてたので⋯」
顔を真っ赤にして俯く所がまた可愛らしい。
エリザベスお祖母ちゃんも、これにはニッコリ上機嫌になった。
甘え上手な末っ子らしく、年上の人に好まれる可愛らしいセフメトの人柄は武器の1つだよね。
しかも純粋な末っ子と違ってすぐ下に姉御肌な気のつよいカタリナが居る。
小さな頃はセフメトがカタリナの面倒を見てたんだろうし、そりゃ下からあんな強烈な突き上げを食らってたらノホホンとはしてられないよね。
あと娯楽が少ないからどうしても他人との会話が娯楽になる。
だから人との会話もスムーズに出来るトレーニングを日々してる様なものだし、会話の内容を理解する能力も育ちやすい。
どちらかと言えばセフメトは武よりも知寄りの性質があったから、ここ一月の英才教育の辛さも商人への憧れと情熱でのりこえて来たんだから、これぐらいの結果は彼の頑張りからしたら、当然の結果だったのかも知れない。
まだ身内の。
しかも女性からの圧迫面接だしね。
セフメトからしたら、カタリナの突き上げやギルタス叔父さんの怒声に比べたら可愛いもんだったんだろう。
エリザベスお祖母ちゃんの身内は上品な生活を強いられてるから、女傑なエリザベスお祖母ちゃんの圧迫面接はちと効きすぎるのかも知れない。マゼランお爺ちゃんは厨房に籠ってあんまり出て来ない人だし、意外に優しいから余計だろう。
ここの家庭は鞭がエリザベスお祖母ちゃんで、飴がマゼランお爺ちゃんだしね。
その心の余裕の差が会話に現れるから、エリザベスお祖母ちゃんが渋い顔をする原因の、息子達や孫達の萎縮した態度が目に浮かぶ様だ。
「それにしても困ったな。」
「あら、リリアナ。
どうしたのかしら?」
「うん。どんな整理するのかは分からないけど、めっちゃ商機になるから、これから忙しくなるなぁ〜って。」
「あら?どういう事かしら?」
「うん。街の人の勧誘はもう手配してるだろうし、護衛をつけられないからセフ兄ちゃんは出せないけど、それ以外のさっきの提案は実現可能な範囲だから、やらせてあげたいんだよ。
麦のことも全ての村人って言うんじゃ無くて、セフ兄ちゃんの知り合いを回る程度なら、お目こぼししてもらえるだろうし、
手数料を謝礼として権利を買う商人に決めさせたら角も立たないよね。
なんなら村長に売っても良い。
村長は国に買わせたら良いんだしね。
この事で村に例え冬の話が噂で回ったとしても、損をする村人が減るなら村長だって許容範囲内だと思うの。
保存職の購入の手配については、エリザベスお祖母ちゃんの口利きでセフメトを紹介して貰って契約を結ばせて、資金なら貸せるから冬の間家をまわって保存食を売り歩いても良い修行になると思うんだよ。
ただそうなるとウチではセフ兄ちゃんがあまり使えなくなるのが痛くてさ。
でもそこはセフ兄ちゃんからしたら願ってもない商機だから、ここは多少無理をしてでも動かないといけない。
だからエリザベスお祖母ちゃん、セフ兄ちゃんにいい服を見繕ってあげて欲しいの。
お金は出すから金持ちの商人に契約を持ちかけても足元を見られない程度に仕上げて欲しいな。
靴は中央の靴屋さんで銀板の靴を注文しに行くよ。
旅商人なら足元が多少無骨でも、当たり前だろうしね。」
「それなら遠慮は要らないわよ。それぐらいなら任せて頂戴な。お金も無用ね。
その代わりさっきの話を知り合いにしても良いかしら?」
「お祖母ちゃんなら私の事をシッカリ誤魔化してくれるだろうから、その辺はお任せするね。
セフ兄ちゃん。
服を買う事も大事な経験だよ。
どうすれば良いのか、シッカリと教えて貰ってね。
次からは自分で準備させるから。」
「はいっ。」
「それとは別にして魔力草の需要が急激に高まる気がするから、ウチも種を頑張って作れば儲けも大きいんだけど。
ただお父さんは麦の育生にこれまで以上に力を入れるだろうから、魔力草を増やそうと思えば家族の負担が大きくなるなぁ〜ってね。
正直に言えば兎に手を出す余裕もぶっ飛ぶ段階だけど、そこを成功させられるなら保存食を売るついでにセフ兄ちゃんの商品も増えるかと思うと⋯嬉しい悲鳴ってヤツかな?
お父さん。大型透明錬成瓶を100個増やすよ。あと透明錬成瓶も100⋯いや200個増やすね。」
「そんなに買って大丈夫なのか?!」
「まだ少ないぐらいだけど、これでも水が足らないかもだから、なるべく頑張る。
足りなかったら最悪小川の水を育てるよ。
日数がかかっても育てられるだろうしね。
短期間で森を開くのに騎士や魔法師が大勢来たら魔水の需要が跳ね上がるから、値段を上げても買ってくれそうな状態になるの。
分かる?稼ぎ時ってこう言う時の事を言うの。
水瓶も買えるだけ買おう。
ジャマになったら後で売れば良いけれど多分足らないぐらいじゃないかな。」
全員がブルリと身震いする。
話を流してたマゼランお爺ちゃんやマドルスお爺ちゃんですら、大きな話に身体が反応したらしい。
「⋯分かった。だが無理はするなよ。これは絶対だ。」
「うん。分かってる。」
それでも父は父親としての仕事を果たした。
娘の私から見ても天晴な精神力と信念だなと感心する。
それとは別にして魔王はこれを私への報酬に充てるつもりかも知れないなと、ふと何となくそんな気がした。
つまり私への圧が今後日増しに増えるような、そんな予感がしていたのだ。
だって魔王の技術料は黒魔石3個以上らしいし?
現物を渡しても返せない状況に追い込んでやろうって言う露骨な魂胆が透けて見えてくる。
でも良いよ。
ノッてあげよう。
だってお祭りってそう言うもんだろうしね。
1人や2人来ても大騒ぎになる雲の上に住んでる天上人が、大群で村に押し寄せて来る感覚に、平凡な村人がガクブルするのは当たり前かな。




