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キュピーン!セフメト覚醒の巻。


人工小川の水シャボン玉大作成を開発したお陰で、父と合流した後はロベルト車を乗り回して畑を駆け回った。


でも一度に撒く水やりの範囲の広さは私に軍配が挙がったが、一度に撒く水量とスタミナは父に遠く及ばず、父を見習って同じ量の水を(アムル)に与えようとしたら、畑一面につきシャボン玉大作成を5回する必要があった。

だから1面終わったら私は休憩しなければ、次の畑の水が撒けず。

ロベルトに背負われてる籠の中で揺られてるか、立って遠くにいる父の作業をボヘーっと見てる事が多かった。


父は大量の水を2回分撒く必要はあるが、次々と畑の面を変えて移動して行くので、私が1面の畑を終わらせる間に、父は4面の畑に水撒きを終えているのだ。


1面の畑の広さは目算で約50m四方の広さがあり、我が家は20面の畑を持っているらしい。

父が1面の畑にかける水撒きの時間は5分未満程度だが、5面を終えたら30分の休憩を挟んでるとか。

つまり5面の水を撒いてもまだ余力が残ってる状態だけど、連続でするとシンドくなって本格的な休憩が必要になるので、朝食前後で10面づつ畑の水やりを分けてるらしい。

コレを1人でしてたんだから、半端ねぇなと思う。

まぁ毎朝5時前には家を出て、7時前には帰ってきてご飯を食べて、カルタ大会をしてからまた8時半あたりで畑に出勤し、10時までに水やりを終えてる事になる。


私はと言うと1面の水撒きは10分未満で終わるけど、その後は10分の休憩が必要になる。

その間ロベルトは1面の1/10ほど水を10分かけて撒くので、私を背負ってるロベルトが走って次の畑に向かい、私がそこでまた新しい畑でシャボン玉大作成をする。


すると今度はロベルトが担当してる畑に戻り、また10分かけて2/10へと水撒き範囲を増やすのだが⋯畑に目印なんか無いから、多分重なってる所もあるし、水が捲けてない所も有るかと思うが、まぁこれは仕方が無い。

それに同じ畑の面なので、多少ズレた所で地面は繋がってるから多少の水量の違いは大丈夫なのかな?

大丈夫じゃ無いかも知れないけど、そこはどうしようもない。

これも修行だからだ。


つまり父は5面の畑の水撒きに大体55分必要で、私は1面が20分必要、ロベルトは1面につき1時間半以上必要になる。

だからロベルトは何時も朝食前後で2面の畑に水撒きをしていたが、最近は遅れて畑にいくので前後で1面の水撒きをしてたんだそう。


1つの畑の端から隣への移動時間は歩けば1分必要になるので、私は畑の境目にロベルトに立って貰い、左の畑に水撒きをして休憩してる間に、ロベルトは自分が担当の右の畑に水撒きをして、私が終わったら水撒きが終わった畑の左隣りにある畑まで、私を背負った状態で1分ぐらい走るのだ。


そして10分未満したら、また1分ぐらいで自分の畑で10分ぐらい水撒きをして、また私を背負って私の畑に戻って行く。


畑を走り回ってるのはロベルトだけで、更に言えば行ったり来たりしてる事になる。

私を置いて行けば済む話になるけど、2歳をボッチにするのはマズいと父からのお達しなのよ。


何故ならこの前マルセロがヤラマウトに噛まれたから。

あんなピンチは非常に珍しいけども、ていうか村史上始めてだったけど。

小川の中を泳ぐ魚の魔物や空を飛ぶ魔物も居るので、連れ去られる子供も1年に何人か居るらしい。


父の兄弟の死因はコレだった。

子供は小さければ小さい程誘拐率は高いので、集団で行動させるか幼いウチは家の中に居させるのだとか。

怖っわっっ!!!


あの⋯私個人行動してましたが?

そういや離れてたらマルセロに叱られてた気がする。

だからつかず離れずの距離を保ってフランを漁ってた。

茂みに顔を突っ込んでる様な状態だし、小川からは離れていたので無事にいられたのかも知れない。

やっべぇ⋯異世界の治安が悪過ぎて引く。


そして2面目の水撒きをしてたら、休憩と様子見を兼ねて父が合流して来た。

それから先はロベルトと交代して父が私を背負う。

背負うと言うか、何時もの籠inスタイルだね。


何時もなら30分休憩が終れば4面水撒きしてた所を、私が2面担当したので、残りは2面になる。

だから父は休憩時間を減らして10分で水撒きを終えると、私が巻き上げてるシャボン玉を楽しそうに眺めてた。

一応休憩時間を短縮したので、保留していたお茶⋯と言うよりほぼ水を飲んで給水して貰っている。


私もやりかけで父の畑に移動したせいで、5分掛からなかったので、ハヒハヒ言ってるロベルトを人工小川の土手に父と座って見守っている。

私の椅子は父の胡座(あぐら)をかいてる足だ。

デリケートゾーンに座るのはちょっと嫌だったので、太腿に座らせて貰っている。

私はまだ2歳の乙女なので。

何でそこに座るんだ?と聞かれたからそう応えたら、女の子はおませさんだなぁHAHAHAと、アメリカンに笑われて流されたので少し不安になった。


父からおおらかを通り越して、無神経オヤジの匂いがしたからだ。

そのノリで着替えてるカタリナが居る部屋に平気で突入しそうで怖い。

発育が良いからカタリナはもうそろそろ思春期に入るぞ?

むしろ拗ね方がモロに思春期やったぞ。

子供だけど子供扱いしてたら炎上するヤツだからな?

100%悪意のない善良な良い父に、よもや不安になる日が来ようとは、今日この瞬間まで思っても無かったよ。


まぁ発育が良いと言っても母がエベレストなら、姉はまだ丘レベルだけどな。

紛うことなき平地の私に比べたら、少し成長したぐらいなもんだ。

HAHAHAHA!

五月蝿ぇ、余計なお世話だよ。

カタリナよりも立派な丘になってる自分のお腹を思うと切なくなる。


幼児あるあるだよね。

私も大きくなったらきっと⋯て、高校生ぐらいのお姉さんを見てそう思ってたのに、自分がその年頃になっても丘だった腹の前世の記憶が恐ろしいんだが?


え?無いよね?

遺伝子変わってるし。

何なら人種だけじゃ無くて世界まで変わってるから、あんなに恐ろしい事にはならないよね?

夢を見てるだけじゃダメなんだと気付いて、ダイエットに励んだ日々を思い出して戦慄するぞ!?


ギフトがお前やっべぇぞ!とか言ってるんだが?!

そりゃ運動しないで飲み食いしてるよ?

最近甘い物が食べられるようになって幸せなの。

だからマズいの?

えー?だってまだ2歳なのよ?

ジーニスを観ろ?

隙あらばスクワットしてるだろって?

アレは脳筋よ!

きっとジギタス叔父さんに似てるのよ!

もぉ〜やだぁ~!

年頃になっても樽だったら、魔王に鼻で笑われちゃう。

そんな事をされたら、殺意であのスカした顔をボッコボッコにしたくなっちゃうじゃない。

そんな真似をした日には、流石に死刑にされちゃうよ。


「リリアナ?」

「⋯なぁに?お父さん。」

「いや、さっきから話しかけてたんだが、疲れたのかい?」

「ううん。ちょっと先の事を考えてただけだよ。

えーと⋯井戸と水瓶のお話かな?」

「うむ。時間が空いてるしな。」


ロベルトはボタボタと汗を垂らしながら、人工小川に向かって両手を突きだした姿勢で微動だにしてない。

かれこれ5分はあのまんまだから、水が動くまで時間が必要なんだろう。


「土間にある水瓶より大きいの有るかな?」

「有るとは思うが⋯買う理由が無いだろう?」

「そっかぁ〜それならあの大きさの水瓶が何個有れば井戸のお水が入るかな?」

「さぁ〜。何時もは水瓶一杯分入れたら終わりだからなぁ。

多分まだ沢山残ってるから、三杯ぐらいは入れられるんじゃ無いか⋯こればかりはやってみないと分からないな。」

「うん。もし水瓶に入れられるなら、もの凄く助かるよね?

夜は庭に出して上に氷で蓋をしてたら月の光が井戸の中よりも浴びれると思うの。」

「だが魔法の水よりは魔力が低いんだろう?」

「うん。それは多分井戸の上の蓋がお日様が有る時間に開けられてるからだと思うの。

だから一度井戸から水を抜いて、中を掃除して、魔法の水を入れてあげて氷で蓋をしてあげたら、後から湧いてきた水は魔力が豊富かも知れないよ?」

「あ!そう言う事か⋯次からはそれを月の光に浴びせて行けば良いのか。」

「うん。井戸のお水の量次第になるけど、水瓶に入れば魔法の鞄に入れられるから、畑に持ち運びも出来るし⋯」

「ふむ。それは悪く無いな。

むしろとても良い案だ。

それを夜に撒けば良いんだな。」

「国の畑って何面あるの?」

「8面だな。」

「じゃあ今ロベ兄ちゃんがお水を撒いてるのは?」

「ん?あぁ⋯税はアムルを8面分と決められているが、何処が国の畑とは決まってないぞ?」

「成る程ね。だから旅商人さんは余ってる麦を買いに来るのね?」

「そうだ。

でも国に納める畑は8面分と決められてるが、それ以外の畑で作る農作物は本来なら自由に選べるんだよ。

ただ畑が広いから、俺1人で全ての畑の面倒を見るのはアムルやベルチ(芋)で精一杯なんだ。


でも俺は経験した事は無いが、あまり質の悪い麦を税に出すと、他の農作物の出来も調べられるから、気を付けろと親父に言われたし、村長からも畑を継ぐと決めた時に言われてるんだよ。


だから見かけで分からん程度の質なら良いが、よっぽど悪ければ大変な事になる。

何故お前の家の麦だけそうなんだ?って色々調べられたら、関係ないのにウェブンの事で罰を受けるかも知れんな。」

「そう言えばそんな法律あったよ。確か税の取締法として、税に収めた品と他の栽培及び畜産物に著しい価値の違いを認めた場合。

増税だったよね。

今4割の所を6割持って来て行かれるんだったはず。

それが払えないなら強制労働の為に管理責任者。つまり家長が連行されるんだっけ。」

「う⋯マズいな。

税なら分かると軽く考えていたが、ちゃんと覚えて勉強して置かないとダメか。

そこまでちゃんと覚えて無かったよ⋯。」


父の肩がガックリと堕ちて背中が丸くなってる。

私も人のこと言えない。

マルセロにボコボコにされたばかりだ。

こんな休憩時間にもメモを書いた物を持ち込んで覚えねば。

むっちゃ憂鬱になる。

父の目があの時輝いてたのは、こんなストレスを感じてるせいかも知れない。


しかし半分近く税として持っていくとか、マジボッタクリだよね。

お金が無い所からお金を取ってどうすんだって話だよ。

まぁ明らかに脱税してる私が言うなって台詞だな。

ウェブンも今はまだ卵と雛だから今年はお目こぼしして貰えるだろうけど、これ以上数を増やしてとなると鳥と農家で分けないと、麦を納めてもウェブンの額で納税を求められるから申請しとかないと再来年には刑罰を受けそう。

ノインも麦よりかは稼げるけど、それでも目くそ鼻くそレベルの年収差だし、小規模な畜産だからお目こぼしして貰ってるんだと思うんだよ。

それを思えば畑で8面は、わりと少ない税な気がして来た。

だって向こうは鳥と畑の合計年収で税を取ってるからだ。


しかし⋯麦麦と日頃言ってるが、これはアムルなのよ。

麦ってブドウの房みたいな稲穂が藁の先についてるでしょう?

アムルは違う。

見た目はスズランみたいな感じで、片側に丸い袋がぶら下がってるの。


その袋の中に麦みたいな白いツブツブが入ってるんだけど、脱穀がその袋を弾くだけだから、前世の麦に必要な脱穀は必要無いと言うお手軽さ。

最初は米かと思って期待してた時期もあったんだけど、パン作ってるのを見て、あ、これ麦か?って気付いてしまったのよね。


でもお粥とかにもしてるし、何ていうか米っぽい麦なのかなぁ?

小麦か大麦かは、そもそも私が前世でそれらを粉としてしか接して無いから区別がつかないのさ。

あと米だと考えると、味と匂いに違和感があって脳がバグるせいで余計に米が食べたくなるから、馴染みの薄い麦だと思う事にしてる。


「それで残り12面だとして、水瓶(みずがめ)何個あったら足りる?」

「ウーン⋯買うかどうかは置いておくとして⋯1面に水瓶1つで足りるかどうかだな。」

「それなら12瓶かな。

それだけでも庭が一杯になりそうだけど⋯アレに夜の畑の為に必要な、朝の小川の水を入れるのは子供の私達だと2つぐらいが精一杯なのかなぁ〜?」

「うん?魔法を使えば良いだろう?」

「私のは水球を運ぶ為に軽くするのに中身が空洞だから、瓶にお水を汲むとなると難しいんだよ。」

「⋯ふむ。

帰ったら少し魔法をみてあげよう。

少しは良くなるかも知れない。」

「え、ホントに!」

「うん。お父さんが習った方法を試しにやってみないかい?

効果は有るかはやってみなければ分からないが、リリアナなら上手くやれそうな気がするんだ。」

「おお!スゴク嬉しい。

ありがとうお父さん!」


ロベルトが汗だくになりながらジッと此方を睨んで佇んでる。

自分がシンドい時に横でワイワイ楽しそうにされたらムカつくよね。

まぁ頑張れ。

私はピヨ子が頭にいるから姿は隠せないけど、温度調節機能は働いてるから涼しいよ。

父も私を太腿に乗せてるから、私の周辺は涼しいと思う。

ロベルトは炎天下の下だから暑いよね。

さっきまで走って動いてたもんね。

頑張れ!


「ロベ兄ちゃん氷をあげるから、こっちに来て。」

「おー!」


目をキュルン♪と光らせて、テケテケと畑の中から走って来たから5cmも無い氷の欠片を、魔法の水で作って、駆け寄ってきて屈んだ兄の口の中に出来立ての氷を放り込んでおく。

始めて作った時は3cmぐらいのを3個作るのに精一杯だったが、コツを掴んだ今なら1つぐらい作るのは楽勝だ。


「くふぅ〜ふへへー!(くぅ~つめてぇ〜!)」

「頑張れー!」

「ふおー!(おー!)」


またテケテケ歩いて人工小川に近づき、両手を突きだして止まった。

ロベルトは水球を長く飛ばせないので、水球を浮かせたら走って行って目的の場所に落とすのだ。

多分まだ水の塊を安定させるだけで必死なんだと思う。

でも水の量はしっかり有るし、トータルとして私よりかは少ない量を運ぶ事になるけど、私に真似が出来るかと言えば出来ない。

畑の中を歩くのも難しいし、あの重さの水球を持って移動するのも難しいと思うから。

私がもしあの量の水球を浮かべたら、そのままポーンと投げてる。

だから魔法は個人差が大きいなぁと感じる。

学校に行ったら何を教えて貰えるんだろうか。

今からとても楽しみだ。


「そう言えば水瓶って1つ幾らするの?」

「さぁ〜⋯あの大きさの水瓶は買ったことが無いからなぁ。

ただマモーの乳を運ぶ水瓶は銅貨10枚だから銀貨1枚ぐらいじゃ無いのか?」

「大きいと作るのが大変になるから、もう少し高そうだけどなぁ⋯。」

「それでもどうせ銀貨だ。

銀板ですら行くか怪しいな。」

「土に白いのが塗られてるでしょう?土は地面の土なのは分かるけど、あの白いのって何だろう?」

「うーん⋯それは俺も知らんな。

水瓶を買うときに聞いてみるか。」

「うん!

それで何個買うの?」

「そうだよなぁ〜。

12個あっても置き場に困るし、そもそも水瓶がそんなに必要な理由も言え無いからな。」

「魔法の鞄でもあの大きさの水瓶を12個も入れたら、他のものが入らなくなるよねきっと。」

「だよなぁ⋯。

水瓶には井戸の水と朝の小川の水を入れるんだろう?」

「うん。透明錬成瓶の方が良いけど、量が必要になるなら水瓶の方が安いし、蓋をチマチマ閉めてく手間も無くて楽だよね。

それに魔法の水もそんなに出せないから、結局そうなると思うの。」

「ふむ⋯セフメトと、俺と、親父と、後は甥の誰かと手分けをして、1つづつ日を置いて買うしか無いか⋯」

「それもまた面倒臭いね。

そもそもお爺ちゃんじゃ水瓶の瓶を運べないよ。」

「それも有るんだよなぁ⋯。

おれですらあの大きさの水瓶は、1人で運べるか分からんしなぁ⋯」

「それならセフ兄ちゃんも、他の従兄弟のお兄ちゃん達も1人じゃ無理だよ。」

「そうなんだよなぁ⋯。

取り敢えず1つか2つなら買えるだろう。理由をどうするかだが⋯」

「それならウェブンの水用にするとか?卵3つあるし。

小さいうちは檻がわりに使うとか。」

「おお!それは良いな!

それなら3つは買えるな!」

「じゃあ今度買いに行く?」

「昼に買いに行こう。

井戸は早い方が良いだろう?

それに畑の水も欲しいしな。

2面だけでも実験出来たら楽しいぞ!」

「あ、うん。そっか。

うん、そうだね。アハハ⋯」


それはお父さん。

貴方だけが楽しい実験かと思われます。


でも私は賢い子供なので空気を読んであげたのだ。

毎日毎日人手がないから、麦や芋しかつくれなくて、お父さんはきっと飽きてたに違い無い。

だから少しでも麦を良くしようと、コレまでも自分なりに色々考えてしてたのかも知れないが、今回は1人きりの実験じゃ無いし、高い効果が出せる実績のある方法も試せるから。

きっと胸がワクワクして止まれないんだと思う。

これが娯楽の無い恐ろしさってヤツだ。

でもまぁ幸せそうだから、良いかな。


そして今夜日が沈む前に井戸の掃除をする事になった。

もう日没迄待てないらしいが、私が思うに多分どう頑張っても日没後になると予想してる。

明かりは私がLED魔法を使えば良いしな。


水瓶を買ってきたら直ぐに畑に水を撒いて、それが終わったら井戸の水を抜くと張り切ってらっしゃるが。

私はそんなに魔力が保たないと思ったのだが、目がとても爛々としてるので、私にそれは言えなかった。

多分私も夕方の水撒きに参加予定にさせられてる予感がする。

え?私の昼寝いつするん?

と、思ったが。

馬車での移動中に寝てれば良いだろと思われてる気がしてならない。

密かにブラックな匂いしかしないが、無邪気な父を見てると何となく嫌とは言い出せない雰囲気なのだ。

きっと私がそれはシンドいから嫌だと言えば聞いてくれるだろうけど、その代わり目に見えてガッカリするのが分かってしまうから。

それを思うとな⋯。


お父さんは私が実験する時は嫌な顔1つしないで協力してくれているのだ。

なのに私がそれをするのは、どうしても気が引けてしまう。

父はこんなに大変な思いをして、1日中魔力を使って働いていたのに、私の実験の為に木のコップに魔法でお水を出してくれたのを私はちゃんと覚えてる。


それなら私も恩返しに頑張るのは、当たり前だと思うので、それなら今日は頑張るしか無いのだ!


「そうと決まればゆっくりしてられないな!」


父は私を片腕に抱き、俄然張り切って立ち上がるとフン!とばかりに片手を大きく振った。


「わぁ?!」


そしたら畑にいたロベルトを少し巻き添えにして、残っていた範囲全ての水撒きを終える。

人工小川から大量の水がうねる様に飛び上がって、パッと畑の上で雨になる光景を間近で見るのは圧巻だった。


コレには私もビックリだ。

だってロベルトが一生懸命にチマチマ水やりをしてたのに、ずぶ濡れになって唖然としてる彼が可哀想なぐらい面白い。

いや気の毒だ。


「ロベルト!

中央に行くから付き合え!」

「え?!ホント?

水撒き終わりか?!」

「あぁ、今夜は井戸の掃除をするから水瓶を買いに行くぞ!」

「おぉ?水瓶??」

「ほらモタモタするなよ。」

「え?今から?!

ちょ⋯ノインの見張りはどうすんだよ!親父!」


あぜ道をノシノシの早歩きで歩いてた父がパン!と、オデコを押さえた。


「⋯しまった。

そうか、ノインがあったか。

はぁ~。

よし!ロベルト、ノインの見張りは頼んだぞ!

俺はセフメトを連れて行く。」

「はぁ?!

え?俺1人でヤレってこと?!

はあ?!そんなの無理だよ!

出来る訳無いじゃん!」

「む。⋯そうだな。

お、おぉ!エターニャがいた。

エターニャが居るじゃないか!

あの子にも手伝って貰おう。

さぁ早く行かないと、こうしちゃおれん!」

「ちょ⋯親父ぃ!!!」


スタスタと大股で歩く父の後ろを悲壮感に塗れてるロベルトが後をついて来る。

この前ジギタス叔父さんもそんな顔をしてたなと、畑を任されるとなった時の反応を思い出していた。


「ノインをどうするの?」

「あぁ、ノインを畑に放ってるんだ。

元気草の芽や悪い虫がいたら、ノインが食べてくれるんだ。

今はマージンが多いから昔みたいに悪い虫は殆ど見掛けなくなったが、元気草は厄介だからな。

ノインを放つのは止められん。

だがノインには何処の畑がウチの畑かなんて分からんだろ?

だから人間が付き添って他所の畑に行こうとしたら、連れ戻すのさ。」

「あ、え?!ノインて沢山居るよね?」

「あぁ、だからそれはバッカスが大抵のノインは従えてるんだが、それでもハグレは居るし、バッカスには小屋の整備も有るだろう?

だからハグレがいたら連れ戻す手伝いがいるのさ。

何時もは兄貴かバッカスかで、2人で手分けをしてるんだが、今はバッカス1人だから仕方が無いんだよ。」

「でもそれなら小屋の方を人に任せたら良いんじゃ無いの?」

「成鳥ばかりの小屋はそうだが、まだ産まれる前の卵を温めてるノインや、雛が幼い小屋の方はバッカスか兄貴じゃなくちゃ駄目なのさ。

見慣れない人間が来たら、雛や卵を抱えてるノインは攻撃して来るからな。」

「あー!そっか本能で子供を守ろうとするんだね?

だからその小屋をいつもお掃除してるんだ⋯。

それでバック兄ちゃんは昼前になると疲れてグッタリしてたんだね。」


マドルスお爺ちゃんの家に行く道で、父の腕に抱かれた私はそう話を聞いて行く。


元気草と言うのはマタポと言う草の愛称で、繁殖力の強い薬草の事だ。

育った所しか知らないが、ヨモギに似た葉の植物で育てば冬でも黄色い花が咲く。


高さは30cmから50cmぐらいまで成長するので、小島みたいな木の生えてる雑木林には良く繁ってるのを見掛ける、ミシリャンゼではポピュラーな雑草系の薬草である。


種になるとタンポポの綿毛システムを導入しているので、風に乗って何処までも飛んで行くのだ。

だからマタポを見かけたら農民に関わらず、村人は全員が敵の様に抜くのだが、それでも小島を見たら繁ってるぐらい、生命力と繁殖力の王者とも呼べる植物である。

でも日の当たるところにしか繁殖しないので、森やら林でも暗い所には全く見かけないのも特徴だ。


農民は年中マタポとの生存競争を繰り広げてるが、雑草と言ってもヨモギに似てるなと思ったのは、葉の形だけの事ではない。


元気草は干してお茶にして飲むと、元気が出る。

だから愛称が元気草で、農民の天敵では有るけれど金の無い人達の健康を支える薬草でもある。


でも我が家では元気草のお茶は基本には出ない。

マドルスお爺ちゃんの家に行くと、いつもマリア婆ちゃんが作ってるので飲んだ経験なら有るが、アレは前世の記憶で言うセンブリ茶だ。


つまりクッッッソ苦い薬草茶になる。

だから偶に父が疲れてシンドくなったら母に強請って飲むぐらいで、他の家族は元気草のお茶は基本的に飲まずに過ごす。

それでも軽い熱がでたりすると必ずコイツがやって来る。

風邪を拗らせたら回復薬を飲まされるけど、風邪の引き始めに現れるのは元気茶だ。

元気草は子供の天敵でもある。


人間の役に立つのに、敵の多い不憫な薬草だなと思う。

だが私はコイツには絶対に同情なんかしない。

それぐらい元気茶は苦くてマズいのだ。

だから見かけ次第殲滅させてるのに、何時も何処かに生えている。

ちなみに抜いた元気草は家に持って帰ってマリア婆ちゃんに渡してる。

マリア婆ちゃんが要らないって言ったら肥料を作ってる所に捨てに行く。

偶に肥料を作る肥溜めやら藁やら生ゴミが混ざってる所で繁ってる元気草が有るのはそのせいだ。

抜いてボッキボキにへし折って捨てても、シレッと繁殖する恐るべき強靭な生命力の持ち主である。


だから畑に生えたら麦が育つのに必要な栄養を奪ってしまうから、育つ前に処理をする必要が有るんだろう。


私はノインが人工小川を泳いで畑に向かう姿を知ってるし、畑に入って何かを食べてるのも知ってた。

でも何を食べてるのかは確認して無かったので、地面をつついてるノインを見て虫でも食べてるのかと予想していたのだが。

確かに元気草は畑の天敵とも言えるから、それは畑にとってノインの放牧?は必要な作業だろう。

もうアムルは育って実をつけ始めてるので、この時期に栄養を奪われたら実の育生に大ダメージを受ける。

でも育ってわさわさしてる畑に、大きな人間が入って地面にマタポが生えて無いか探すのは不可能だ。

そりゃノインは畑の英雄になる。

よそ様の畑にお邪魔しようと邪険に扱う農民は居ないだろうけど、戻って来れなくなっても困るので、監視する人員が必要と言う事かな?と納得した。


「とにかく時間が惜しいんだ。説明なら馬車の中でさせてくれ。」

『はあ?!』


こうして父はマドルスお爺ちゃん宅に乗り込み、戸惑いしかない寝不足のお爺ちゃんと、混乱しているセフメトを馬車に乗せて、悲壮感を漂よわせてるロベルトとエターニャを置いて中央に向かった。


この後2人はカタリナとマルセロを巻き込みに自宅へと向かうと予想される。


「それで一体どういう訳なんじゃ?」

「ウーン⋯それがね。」


仕方が無いので御者席に座ってる父のやる気に満ちた背中を見るともなしに視界の隅に置いて、荷物置き場に座ってるセフメトと祖父に説明を始める。


「成る程のぅ⋯だがそれは今で無くてはいかんのか?」

「もう刈り取りまでに2ヶ月も無い。少しでも月の光の力を貯めるには、1日でも早い方が良いんだ。」

「ふむ。確かにこれから実が育つ時期に入る。

力を与えられると言うのであれば、今の時期から始めたくなるのも良く分かる。


失敗しようとも困窮せんで済む余裕のある今のうちに試したいと思う気持ちも分かる。

分かるんじゃが⋯ふむ。


⋯まぁこれもしてみなければ分からんしの。

よし!ならば俺は寝るぞ。」


父が御者席からひと言いえば、祖父はそれだけ言うとクッションと絨毯のリクライニングコーナーでゴロリと寝転がった。

じゃないと今夜もまた雛の世話が待ってるしね。


というか飲み込み早すぎ。

まぁお爺ちゃん父の先輩だから、仕事のノウハウも分かってるから深い説明なんてしなくとも、事情が分かるんだろう。

理解が出来てない顔をしてるのは若いセフメトの方だ。


「えっとー⋯。午後はタルクス叔父さんがピノを持って来てくれると思うんだけど⋯」

「あ、うん。

ありがとうセフ兄ちゃん。

ピノの為の野菜はちゃんと準備出来てるよ。」

「たった1日で元気になったって言うアノ野菜の事だよね?」

「そうだよ。

セフ兄ちゃんに頼んで買って来て貰ったアノ野菜の事だよ。


井戸が終わったらピノの檻を庭に置いて、野菜も置いてたらお腹が空いたら食べるだろうし。

ピノは手間がかからないと思うんだよ。」

「それなんだけど、ピノは地面を掘るのに魔法を使ってると思うって、タルクス叔父さんが言ってたんだよ。」

「ふぅん⋯セフ兄ちゃんは檻を壊せる魔法だと考えたんだね?」

「うん。捕まえるときも眠る薬を餌に混ぜて捕まえてるって聞いたから、起きたままなら危ない気がするんだよ。」

「成る程⋯檻は木製だもんね。

それなら檻は大型透明錬成瓶にしてみるよ。」

「うん???」

「大型透明錬成瓶。

今見せられないんだけど、透明なこれぐらいの大きさの瓶なの。」


私は祖父の為に声を潜めながら、身体を使ったジェスチャーで大きさを説明する。

大型透明錬成瓶は、縦に80cm底の直径は50cm大の円錐方の透明な瓶だ。


ピノは兎に似てるから兎と呼んでるけど、大きさは平均で40cmぐらいある、モグラみたいな兎で、前足の爪は太くてしっかりしてて、鼻は丸くなってる。


耳は兎みたいに長いけど背中にピッタリとくっつく形になっていて、基本的穴のなかで生活しているけれど、穴から出たら耳を立てて周りを警戒するらしい。

何故なら目が暗い地面の中の生活で、退化しているからだ。

だから活動は主に夜間に行う。


日が暮れる前に檻を仕掛けていたら、上手くいけば朝には捕まってる事になる。

それでも夕方前にタルクス叔父さんが家に来るのは、狩りの帰りに檻を持って帰るからだろう。

恐らくその餌に仕込んでる薬は半日以上効くんじゃないかな?

だから薬が切れた頃に解体させる為に、そうしてるんだと思う。

何故ならピノの肉を食べるのは幼い子供だからだ。

眠り薬というのは、言い方を変えれば毒になる。

多少食べても人間に害のない物を使っているだろうけれど、子供に食べさせたい物じゃ無い。

それならピノが自分で解毒した頃に解体出来るような時間に持って来てくれるんだろう。


「えと茶色の大きな錬成瓶はこの前買って来た事も有るから知ってるよ。

だけどアレってそんなに頑丈なのかな?」

「うん。私が言ってるのは、それが透明になった瓶ね。

石に叩きつけても割れないらしいよ。

じゃ無いと運搬に困るからだってさ。

基本的には魔法の鞄で錬成師は持ち歩いてるけど、業者に運ばせる時なら運ぶのは平民だからね。

どんな技術かは学校に行って習わないと分からないけど、7級の魔物に踏まれても壊れないそうだよ。」

「それなら大丈夫だね。

でもピノが入るかなぁ?」

「横にして使えば良いんだよ。」

「でもあの蓋、壊されないかなぁ?」

「木の蓋だと思って心配してる?」

「違うの?」

「アレは多分魔法の素材だよ。

ピノみたいに弱い魔物じゃ壊されないよ。

だって錬成師が使ってる錬成瓶なんだもん。

そんじょそこらの強度な物じゃ、毒とかいれられないよ?」

「毒?」

「溶かす毒とか有ると思う。

でも透明だから、中で魔法を使う魔物を閉じ込めるのにも使ってそう。」

「え?思うって⋯それじゃあ確認してないの?

それで本当に大丈夫?」

「聞いては無いけど色んな物が入れられてる錬成瓶は見た事あるから大丈夫。」

「ホントかなぁ⋯」


セフメトが不安になるのも仕方が無い。

私も栽培に使う事しか頭になかったので、蓋の強度とかそこまで確認して無かったのが悪いのだ。


ピノは1級の魔物だけど、そもそも魔物と言うのはジーニスや私を殺せる力の有る存在なんだよ。


マルセロも無傷で勝てるか怪しいレベル。

逃げ出して畑を荒らされるのも困るけど、赤ちゃんや幼い子供が居る家で不用心に飼って良い魔物なんか居ないのだ。


そこは魔石の無い獣も同じだろうけどね。

でもまず獣は殆どミシリャンゼでは見かけない。

それだけ魔物が多く住んでる森の側にある村だから。

これは勉強する歴史の本に書かれてた情報なんだけど、従来の獣がいる土地を切り開いて道や街を作ったから、今残ってるのは強い魔物が住んでる土地ばかりらしい。


どうしてそうなるのか。

それは強い魔物は魔力の低い土地では生きられないからだ。

だから恐ろしい魔物が済む森の近くでも住めるんだよ。

そして強い魔物を倒すのは大変だから、街が大きくなって村を沢山作ったら道が必要になり、人間が増えたら食べるものを作る畑が要るから、魔物を狩ってどんどん平地を作って出来たのが、ウェスタリアと言う国なのだ。


でも昔は狩れなかった魔物が今は狩れるんだから、人間てスゴイなと感心する。

魔法や魔道具を開発して、人間が繁殖する為に大きな自然を切り拓く姿が、高度経済成長期を迎えた戦後の貧しい国の発展を連想させた。


成る程なと不安げなセフメトの顔を見ながら納得する。


「でもセフ兄ちゃんの不安は分かるから、お父さんが水瓶の方に行ってる間、セフ兄ちゃんは錬成師屋さんに行って大型透明錬成瓶の中でピノを飼っても瓶が壊されないかを確認して来てくれる?

飼育に向いてないから他の道具を勧められたら、その理由と値段も聞いて来てね?」

「うん!分かった!」

「でも水瓶を運ぶのに人数が必要だろうから、なるべく早く合流してね?

お父さん、お話聞こえてたよね?

セフ兄ちゃんを錬成師屋さんの近くで先に降ろしてあげてね。」

「あぁ、仕方が無いな。

セフメト。水瓶屋がある場所は分かるかい?」

「えっと⋯ごめんなさい。

水瓶は買ったことが無いので、分かりません。」

「ふむ。どうせ着くのは昼になる。

それなら飯を先に買う方が良いか。

その間錬成師屋に行って来てくれ。

俺達は屋台で持ち運び出来る飯を買ってるよ。

獣車置き場で待ち合わせにしよう。」

「あ、うん。

お昼ゴハンはマゼランお爺ちゃんのお店じゃ無くて、屋台のにするんだね?」

「セフメトが注文出来ないと可哀想だろう。」

「お話を聞くのに時間はそんなにかからないし、セフ兄ちゃんの足ならお爺ちゃんのお店にも早く来れると思うんだけど⋯」

「だがセフメトはあの店を知らないだろう。」

「セフ兄ちゃん、マゼランお爺ちゃんのお店憶えてる?

この前ご挨拶をして、エリザベスお祖母ちゃんの場所を聞いて来たと思うんだけど。」

「あ、うん。覚えてるよ。」

「ほらセフ兄ちゃん知ってるって。あのお店なら私も顔を出せるし、その方が良いなぁ〜」

「何だ、屋台の飯は嫌いなのか?」

「ううん。屋台は屋台で楽しいし、美味しいから好きだよ。

でもセフ兄ちゃんやマドルスお爺ちゃんは、マゼランお爺ちゃんのお店のご飯の方が喜んでくれるかなぁって思ったの。」

「あぁ、成る程。

そうか、分かったよ。

今日は親父が居るし、あの店にしよう。」


セフメトがどういう事?と、視線で私に理由を聞いて来たので、私は場所を父の方にクッションを持って移動する。

父の座ってる場所の真後ろにクッションを降ろしてそこに座り直すと、セフメトもそのままついて来た。


「屋台のご飯は年齢が低い人達が食べるから、お年寄りが食べるのに向かないご飯が多いの。

それとあのお店は、夜になるとお金持ちの商人が来るお店になるのよ。

だからセフ兄ちゃんもなるべくあのお店に顔を出して慣れる必要があるの。

私達の身内だって店員さんに慣れて貰うのに、顔を見せたほうが良いでしょう?」

「へぇ~、そうなの?」

「これから先セフ兄ちゃんは1流の旅商人になるの。

これはセフ兄ちゃんにしたら、とても過酷で可哀想な話になるけど、魔法生物ウェブンと魔法の鞄を持つ商人は、どうしても1流になってしまうのよ。


後は良い護衛を捕まえるだけになるけど、セフ兄ちゃんにはワックスさん?て言うお兄ちゃんがもう居るし、カックス叔父さんがその伝手を持ってると思うから、1流の旅商人になれる道は整えられてしまっているの。


後はセフ兄ちゃんが、成人までにどれだけ修行を詰め込められるかにかかってしまうんだよ。

旅商人はどうしても商人の技術や商才で結果が出てしまうから、商人のお家なら小さな頃から受けてる教育を、セフ兄ちゃんは今から後3年で終わらせ無ければならないの。

この意味が分かるかなぁ?」

「⋯うん。最初に聞いてたから、とても大変なのは分かってるつもりだよ。

つまり本当ならぼ⋯私?は、リリアナに説明して貰えなくても、さっきリリアナがそのお店に私と祖父?が良いと言った理由に気が付かないと行けなかったんだね?」

「そう。そう言った経験をこれからどんどん増やして行くの。

そしたら今分からない事も、そのうち見えて来る様になってくると思うよ。


ううん。見て貰わなければならなくなるの。

セフ兄ちゃんの代わりになれる人が今他に居ないから。

ワックスさんの方が旅の経験を積んでるけれど、それはあくまでも戦士としての視点の経験なの。

セフ兄ちゃんは、まだまだ商人の卵だから、どうしてもワックスさんに負けてしまいそうになるから、商人としての武器を磨く必要が有るんだよ。


良い護衛と言うのは、護衛の戦士がどれだけ賢くて強くても、それを従える商人の器が無ければ、良い護衛はどうしても雇えなくなるの。

最初は赤の他人よりも安全かも知れない。

でも身内の、しかも年上の戦士達の方が、セフ兄ちゃんには今後扱いづらい人達になって来ると思うよ。

今は分からないだろうけど、今後⋯」

「うん。これも分かるようにならないと駄目なんだね?」

「うん、そう。

セフ兄ちゃんが1流の商人だと、ワックスさんに分からせるには、道具だけでは駄目なの。

商人の商機を見ることが出来る視線と頭脳と人との繋がりを持って、始めてセフ兄ちゃんは1流の商人になるの。


そのためには目を鍛える為に良い品を見て聞いたりして覚えたり。

良い判断をする頭脳を作る為の知識を増やす為に色んな事を勉強したり経験を積むの。

礼儀作法を学んで、新しい人と出会って、人との関係を増やして仲良く出来る様に深めて行くのも必要ね。


これにはセフ兄ちゃんが今まで会ってきた人との関係も有るし、これから知り合う修行先の人達の関係もある。


そして同じ旅を続ける仲間の戦士達ともそう。

兄弟だろうが赤の他人だろうが、セフ兄ちゃんはこの先そう言う人達を使って指示を出して、自分の価値を示して行く必要が有るんだよ。

何故ならセフ兄ちゃんは1流の商人だから。」

「⋯少しメモを取らせて欲しい。今は分からない事が多いから、忘れないようにしなくちゃ、だよね?」

「うん、そう。

今はそれが大事だね。」


そう伝えると、セフ兄ちゃんは背負っていた自分の鞄から紙の束を取り出して、揺れる獣車の中で苦労しながらも猛烈な集中力で、言葉を書き取り続けている。


彼の何がそうさせるのかは分からないけど、目がキラキラとしてるから楽しんでくれてるのは何となく伝わって来るから、まぁ良いやと私は道の端に続いてる広い畑の風景を眺めた。


父の向いてる前方も、多分似たような景色が続いてるだろう。

私の視線の先が開けてるのは、乗ってるのが後ろの開いた幌獣車だからだ。


モッブが毎日丁寧に道を慣らしてくれてるお陰で、特に深い轍が出来ることも無く。

小石もろくに落ちてないから、古い獣車を使っても乗り心地がそんなに悪く無いのは良いけれど。

こうして荷台の中のプライベートが、外から筒抜けになる形式は、如何な物かと思われる。

でもこれはあくまでも荷獣車なのだ。


積まれるのは卵や野菜なので、中から外を見る人も居なければ、外から中を見られた所で今までは問題無かったし。

農民は基本的に開放的で大雑把な人も多いから、荷台でごろ寝してる所をみられても何とも感じ無いんだろう。


これまでの私も籠の中に入っていたり、姿を消していたから、後ろに遮る物が無くても、全く影響が無かったので気にしてなかった。


だから今、機密の塊な私がこうしてのんびりと姿を晒しているのに、何一つ焦ってないのも、私も農民なんだなと感じる一コマだ。


だってこの時間に、獣車が通る道を歩く人は殆ど居ない。

それは獣車同士が横を通り抜けられる大きさで、道を作ってるからだ。

つまりバス通りをわざわざ歩かなくても、人工小川の土手と言ったあぜ道や、畑を区間分けしてる小道を歩けば、人間は何処でも通り抜けられるので、わざわざ本数が少なくて家から少し離れた場所を通ってる大通りを通り抜ける人は、まぁ居ない。


我が家に限らず家を建てるのに道は必要なので、家の前の道は獣車1台が通れる道が作られている。


モッブ車が停留する場所は、少し丸い広場にみたいな道になってるけれど、大通りに人間が来るのはそれぐらいになる。


なので次の停留所がある場所までは、こうしてのんびり外の景色を見ていられると言う訳だ。

でもその停留所ですら、この時間使う人は少ないかも知れない。

だってこれからお昼になるから、女性は家で昼ごはんを作ってるし、畑で仕事をしていた男性達はご飯を食べに家に帰る頃になる。


でも私達みたいに用事があってモッブ車にのる人も中には居るだろうけれど、モッブ車は決められた時間に来るようになっているので、大体乗り降りする場所が同じだと、モッブ車が来る時間を見計らってギリギリに停留所に向かう。

多少は早く行って待つとは思うけど、こんな炎天下で何も遮る物が無ければ、ギリギリまで家にいるのが人情ってヤツかな。


そして見られた所で私は単なる幼い子供だ。

荷馬車には珍しく置かれている絨毯やクッションに視線を持っていかれて、子供が乗ってる事すら頭に残らないかも知れない。

だからこうして堂々とクッションに座って、外の景色を眺めてると言うことになる。

ね?大雑把な農民らしい思考でしょう?


実際に私は農家に産まれた農民の娘だから、こうして農民の生活習慣や思考や行動原理や盲点を理解して利用出来るのである。


そこで村で噂になったとして、荷獣車にどうして絨毯やクッションを置いてるのかと聞かれたら、新しい家業を増やす試みをしてるが、ついでに中央に卵や鳥を売りに行く為に獣車を買ったが、足腰の弱った老婆を中央に連れて行くための工夫で試してると言えば良い。


では何故新しい仕事を見つけるのかと言えば、畑と鳥で子供に分けて残す家業の為にしてると。

分けると収入が減るので、ノインを育ててる経験が有るから、ウェブンも育てられるんじゃないかと思って試してる。


ここ迄聞く人は居ないと思うけど、金はどうしたと聞かれたら、エリザベスお祖母ちゃんの娘が嫁いで来た事や、息子の将来を考えて貯金していたと告げても良い。


そして金が無いから獣を買うのが精一杯で、良い獣車を買えなかったから、エリザベスお祖母ちゃん達が使っていた古い仕入れ用の荷台を譲って貰い、あの工夫をして使っているのだと言えばまるっきり嘘ではないので、問題は何も起こらないのである。

村人の誰が聞いても「へぇ~」で終わる程度の、説得力の有る話だからね。


私はセフメトのメモが落ち着くと、そんな話や何故ウェブンに目をつけたかの市場の不足事情やらを、商人の視線でものごとを伝えて行く。


そして月の光の水を研究しているのは、私が発見した理論を使っている事。

これは秘匿する必要があり、家族以外の誰にも話せない事や国が関係するから、王家の庇護を受けている事やら、話せる事は話してメモを取らせてはいけない事はメモを取らせないようにさせて情報を共有すべく伝えて行く。


「全ての修行が終わらないと、どうしても話せないこともあるから、分からない事がこれから増えていくかも知れないけど、少しづつ知って、理解をしてくれたら良いからね?」

「うん。⋯あ、はい。」

「そしてこれらの情報を私が伝えるのは、家族ではお父様の次にセフ兄ちゃんになってくると考えてるよ。」

「え?!」

「セフ兄ちゃんのする仕事には、その情報が必要になるからね。」

「⋯はい。」

「だから見込みが無ければ修行の途中でも他の人に変えるし、セフ兄ちゃんもシンドかったらそう言ってくれたら私も考える。」

「えっ?!」

「今の所セフ兄ちゃんは、百点満点以上に頑張ってくれてるから、大丈夫。

でもこの先色んな経験を積んで、見えなかった物が色々見えて来たらセフ兄ちゃんがどんな風に変わってしまうか分からないの。

だから生きていくのに必要な事は必ずしてあげられるけど、元々が修行をする環境も整えられて無い状態だから、私が求めてる国1番の商人になるには難しいなと考えてるの。

だからセフ兄ちゃんは、1流の商人になって貰って、国1番の商人にはセフ兄ちゃんの子供や親族の中から見つけて育てようかなって考えてるんだよ。」

「う、わぁ~⋯え。1流になるだけじゃ国1番の商人にはなれないのかな?」

「うん。どうしても国1番の商人になるには、それを支える大事な基盤が必要なんだよ。

その基盤をセフ兄ちゃんがこれから作って行くの。

そしてその基盤を持ってる1流の商人は、もう国の中に山程居るんだよ。


だからセフ兄ちゃんが死ぬ前に、そんな人達を差し置いて1番を掴めるかどうかは、お兄ちゃんの商才に全てがかかって来るかな。

でも1流の商人なる事さえ、普通なら難しい事だから、そこはもうセフ兄ちゃんの問題じゃ無いと考えてるよ。」

「⋯でも全くあり得ない話じゃ無いんだよね?

ぼ⋯私が1流の旅商人になって、将来は国1番の商人になる事も。」

「そうだよ。でもそれはなろうと思ってなれるもんじゃ無いの。

1流の商人には無ろうと思って頑張ればなれる事も有るけど、国1番になるには成ろうと思わなくても、周りから必要とされたら勝手にそうなるから国1番の商人なんだよ。」

「う、分かりにくい⋯でもうん、何となく分かる気がする。そっか。国1番の商人になるには、皆に認めて貰えるようにちゃんと仕事をしないといけないんだね。」

「ちゃんと仕事をするのは当たり前。それは1流の商人だとか、関係無いよね?

どんな仕事でも、雑にしてたら駄目なのをセフ兄ちゃんは知ってるでしょ?」

「あ、うん。そうだね。

ウチのお父さんは雑だから狩人するのも、鳥を継ぐのも難しいんだよね?」

「そこは性格も有るし、ジギタス叔父さんは感覚派の天才だから、仕方が無いんだけど。

まぁ、そうなんだよ。

でもね?

国1番の商人になるには、ジギタス叔父さんが持ってるのみたいな、センスって言う感覚が重要になると思うよ。

これはもう努力で手に入れられる物じゃ無いから、その差を埋めるには大変苦労すると考えてるし、それだけじゃ駄目なのはセフ兄ちゃんも知ってる通りなんだよ。」

「む⋯難しい⋯」


ガックリと項垂れてペンを握り締めながら獣車に揺られてるセフメトが可愛くて、私は胸がほんわかと暖かくなった。


「だからセフ兄ちゃんは楽しんで修行しててくれたら良いよ。

修行にはシンドくて辛い事や難しい事も有るけど、それをもし楽しめて自分を育てる栄養に出来るんなら、セフ兄ちゃんには1流の商人になれるセンスが有るって事の証明なんだよね。」

「え?!そうなの?!」

「ジギタス叔父さんのセンスを生かす為には弓の修行が必要だったの。

私のセンスを生かす為には、物事を正しく知る知識を集める為に、本を読んで勉強したり、色んな経験を積む努力をする事が必要なの。


そして1流の商人になる努力を楽しめるのなら、それは1流の商人になるセンスを持ってる事と同じなんだよ。

センスは持ってるだけじゃ何の役にも立たないの。

血の滲む様な努力して、それを苦しく思わずに続けて始めて自分の物に出来た人が、傍から見てる人達に天才って呼ばれてるんだよ。」

「わぁ⋯」


興奮に瞳がキラキラと輝いて、頬が赤く紅潮して行く。

そんな彼の瞳をジッと見つめていた私に、この時にふと1つだけ小さな悪戯心が芽生えた。


「これは絶対にメモには書かないでね?

そして誰にも言ってはいけない秘密のお話をするよ?」

「え、うん。」


夢から突然引き戻されたかの様に、セフメトはハッとして表情を可愛らしくキリリと引き締める。


「私がセフ兄ちゃんの師匠をしているのは、エリザベスお祖母ちゃんから商才を認めて貰った事を前に話しておいたの憶えてるかな?」

「うん。リリアナはスゴイって皆から聞いてるよ。」

「うん。でもどうして私がスゴイって皆から言われてるのかまでは知らないよね?」

「えと沢山お金を稼いで来たからじゃ無くて?」

「あんなはした金の話じゃ、私の商才は微塵も伝わらないかな。」

「え?!はした金って⋯えと、物凄いお金だよね?」

「でも国1番の商人なら、あれぐらいのお金なんて銅貨と同じなんだよ。」

「⋯⋯。」


ゴクリと唾を飲み込んで、額に玉の様な汗を滲ませ始めたセフメトが、私の瞳を探る様に覗き込んでいる。


「セフ兄ちゃんがその場所に辿り着けるかは分からないけど。

私が1流の旅商人を欲しがった理由は、このイスガルド大陸の西の果てに有るウェスタリアと、1番東の果てにあるルドルフ大帝国を繋ぐ、商人の道を通すためなの。」

「商人の⋯道?」

「うん。この国の中だけでも、村から出て街に行けば商売をするのにお金を取られてしまうのよ。」

「あぁ、うん。知ってる。

通行税とか、商益税の事だよね?確か前に言ってた。」

「そう。言葉は違うかも知れないけど、他所の街で旅商人が商売をしようと思ったら、そこの土地の商業ギルドに登録してお金を払って商業してるの。

これは勝手に他所から入ってきて稼いだ商人のせいで、元々街に居る商人達に不利益を与えない為の仕組みになってるんだよ。

だから旅商人はその税を嫌って、そこの街の商人に物を売ってるよね?」

「うん。その仕組みの話も聞いてるよ。」

「うん。そしてそれがウェスタリアの国から出ていくと、その先の国でも同じ事が起こるの、分かるかなぁ?」

「うん。分かる。」

「うん。だからセフ兄ちゃんが旅商人として国を跨いで進めば、その先々でお金を取られてしまうから、ウェスタリアだと銅貨1枚で買った商品が、そこまで行く旅に必要なお金を計算したら金貨1枚以上になるの、分かるかなぁ?」

「えと、⋯うん。必要経費って前に言ってたヤツ?」

「そう。正解。

じゃあウェスタリアから遥々届いた商品がパンだとしたら、それが出来立てホヤホヤだったとしても、金貨1枚のパンなんて誰も買わないのは分かるかな?」

「そりゃそうだよ。

そんなの買うわけ無いよ。」

「じゃあウェスタリアで買った銅貨1枚のパンを、東の果ての国で売ろうとしたら、どうしたら銅貨1枚のままで、そのパンを売れると思う?」

「うえ?!どうしたら?」


ウーンウーンと、目を閉じて唸りながら眉間にシワを寄せてるセフメトが可愛い過ぎて、思わず吹くかと思った。


「ごめん、全然分からないや。だって街に移動するだけで、お金を取られちゃうんだよ?

だから銅貨1枚でだなんて、売れる訳が無いよ。」

「じゃあ私が考えてる事を言っても良いかな?」

「うん⋯どうしたらウェスタリアの銅貨1枚のパンを、東の果ての国で同じ値段のまま売ることが出来るの?」

「まぁ実際にパンは魔法の鞄に入れてもゆっくりと悪くなって行くから、これはあくまでもたとえ話として聞いてくれるかな?」

「うん。それは分かるよ。

ただ通行税や商益税をどうするのかが知りたいんだよ。」

「そうだね。

だから私は今この村を治めてる領主様の居る領都に店を作ろうとして、タルクス叔父さんにカックス叔父さんと連絡を取るようにして貰ってるのを知ってるかな?」

「あ!!!

え?そんなの有りなの?!

えぇぇええーーー?!」

「しっ!マドルスお爺ちゃん寝てるからっっ。」

「むぐ!う、ごめん⋯」


セフメトはペンを持ったまま口を自分で塞いでしまったので、ホッペたの所にインクがチョンとついてしまっている。

またそれが面白可愛いのだが、取り敢えず今はスルーしとく。


「領都に私がお店を作ったら、ミシリャンゼから来た私達親族がやってる旅商人は、その街からしたら他所から来た旅商人じゃ無くて、ただの仕入れ人になるんだよ。


領都の店はそれを申請するから、その手形を持って通れば通行税はかからない。

その代わりに店で商売するから、商人ギルドに登録して年間の登録料は取られるけれど、それはあくまでも店の支払うお金なだけで、旅商人そのものには荷物を降ろしておカネを払ってもらっても、お金は掛からないよね?

だって仕入の費用だから。

でも実際には自分のお店だから、そこで売買して儲けた金額はセフ兄ちゃんのものになる。

でも従業員にはお給料が必要だから、そこは残さないと行けないよね?


だから通行税も商益税も、そこの街を通る私達の旅商人には必要無い事になるの。」

「え?ホントに???」

「これはメモしないでって言ったから、知識として頭の隅にでもこんな方法が有るんだなぁって思ってくれてたら良いかな。


でもこの方法をとった旅商人達が、今のお金持ちになってる旅商人達で、他の街にあるお店の数がその基盤なんだよ。

こうして月日をかけて店をどんどん増やした旅商人達が、その街での豪商と呼ばれる人になって行くの。


でもまぁ、そんなの誰でもしてる事だろうから、その程度じゃセフ兄ちゃんに私が商才を持ってる説明にはならないかな。」

「いや、もう充分スゴイと思うんだけど⋯だってリリアナ。

それ自分が考えてる事なだけで、本当にそうなのかはまだ調べないで言ってるんだろう?」

「うん。そうだよ。」

「じゃぁもうコレだけでスゴイと思うんだけどなぁ〜⋯。

聞いてるだけで、その手があったんだって。

私にも調べなくても、分かっちゃったもん。」

「まぁまぁ、良いから。

こんなのまだチョビっとだから。」

「うぇぇ⋯」

「店を出すには良いけど、店を出したら店員を雇わないといけないよね?」

「⋯うん。」

「ならイチから店を作るのは手間だから、元から有るお店を取り込んでみよう!」

「ぐは⋯え?!

そんな事、ホントに出来るの?!」

「例えば経営が苦しくて、店員は居るけど親族経営だったりする業績の悪いお店を丸ごと買っちゃえば、そこの人間も丸ごと手にいれられるよね?」

「う〜わ〜⋯。でもそんな事したらお金を持って逃げられたりしないかなぁ?」

「そりゃそれなりに契約をちゃんと交わす必要はあるよ。

でも店からしたら売れる商品を持っ来て給料を払ってくれる人なんだから、仕入れ用の札を渡すなら問題無いんじゃない?

税や給料は儲けたお金から支払うから、稼いだら稼いだ分増やしてあげたら頑張って働いてくれるよね?」

「そしたら品物を売るのに私には商益税も関係無く売れちゃうよ?!」

「それが狙いだから良いんだよ。

でね?それをどんどん国から出た先でも繰り返して行くの。

セフ兄ちゃんはウェブンの他にも街で売れそうな品を持って次の所に移動して行くんだけど、この場合。ウェブンだと生き物だから食費が必要になるから、ウェスタリアから離れたら離れるだけ費用がかかるの。

分かるかな?」

「それはまぁ⋯うん。」

「だからセフ兄ちゃんは、出先で仕入れたものを売り歩いて、店をどんどん増やして行く必要があるのね?

でも店が増えたら、そこのお店を専属で働いてくれる、部下の旅商人も増やさなくちゃ駄目でしょ?


店を増やすにもそこがどんな状態かを知るのに情報が必要だし、任せられるか選ぶのにも、知識と人間を見抜く力が必要になる。

そして売れそうな物を選んで買って運ぶのに、商人の視点ってヤツも必要なの。」

「あ⋯うん。わかった。」

「そしてその国では何が必要かを知る為には、その国の情報が必要だよね?」

「うん。そうだね。」

「例えばウェスタリアなら麦は安く手に入れられるけど、他所の麦が育てられない土地の国の人なら麦はウェスタリアより高値で買ってくれるんだよ。」

「あっっ!だから旅商人がこんなに大勢村に集まって来てるの?!」

「大正解♪」

「うっわ⋯じゃあ魔物の素材や魔石だけじゃ無くて、麦まで買って行くのはそう言う事だったんだ⋯」

「ちなみにセフ兄ちゃんなら、野菜も運べちゃうんだよ。

普通なら日持ちしないから、野菜は難しいんだけどね?」

「え?⋯⋯あっっっ!」

「だからこの話は秘密なんだよ?」

「っっ⋯。」


セフメトが上下にガクガクと頭を振った。

私を見る瞳に恐怖の色まで浮かんで来た。

今になってようやく私の存在がどんな物かを、少しだけ理解して来た雰囲気を感じる。


「そして何故東の果ての国に、私が商人の道を作ろうかと思ったかと言えば、それは私がルドルフ大帝国を滅ぼしちゃったからなの。」

「⋯っっっ?!」

「信じられないだろうから、これはこの先セフ兄ちゃんが修行を積んで行けば、出先でこの話が伝わって来ると思うのね?


誰がどうやってルドルフ大帝国を滅ぼしたかまでは伝わって来なくても、向こうで大変な事が起こったぞって話ぐらいなら伝わって来るんじゃ無いかと思うから、この話は絶対に秘密にしてね?


喋った所で誰も信じたりはしないと思うけど、ルドルフ大帝国の国の人が流れて来てて、私の事を恨んでる人がそこに居たら、セフ兄ちゃんは危ないでしょう?」

「っっっ!!!」


パンクなバンドのステージを聞いてる人みたいに、セフメトは頭を上下にガクガクと振っている。


「商人の道を作ってるのは私達だけじゃ無いけど、まだ西の果てから東の果ての道を作った人が居ない事は、私が現地で掴んできた情報だからコレは本当だよ。」

「どっっ⋯」

「どうやって東の果ての国まで私が行ったかと言えば、ウェスタリアの王様が、私が言う様に言葉だけで国が滅びるのか興味があったから、黒魔石を2つも使ってあっという間に東の果ての国まで行ける転移って言う魔法を使う魔道具をつくってくれたからなの。


そして私の宣言通りに王様の目の前で、実際に言葉だけで国を滅ぼしたから、元々は錬成師界から見ても大きな発見をした珍しい子供だったから保護を受けてたんだけど。

私はこの実績を認められて王妃になる?って言われて、最近断ったばかりなのよ。

だから王様だけじゃ無くて国の偉い人達まで私は大事にされてるんだよ。」

「ふひゅー?!(うそー?!)」


セフメトの手から万年筆っぽいペンがポロリと零れ落ちてしまい、コロコロと転がって荷台の端に行ってしまった。


「はっはっはっ⋯」

「セフ兄ちゃん。

取り敢えず落ち着こう。

息がちゃんと吐けて無いから、苦しいけどしっかりと息を吐き出すように意識してね?

息をちゃんと吐き出せたら、自然と吸える様になってくるからね?」

「っっっ⋯⋯」


そんなまさか!嘘でしょう?でも王様って⋯。黒魔石?!黒魔石ってあの黒魔石だよね?

まさか!でも⋯そんな?!

信じられない!でもリリアナがスゴイってこういう事だったの?!えー?!ウソだろう?!


と、過呼吸まで起こすぐらいに荒ぶるセフメトの心の悲鳴が、聞かなくても分かる動揺ぶりに、チョピっとだけ罪悪感が込み上げて来るんだけど。


どう考えても与太話の盛り合わせなのに、真面目に信じちゃってるセフメトの素直さが可愛くて、涙目の彼に胸がキュンキュンしちゃうんだよ。


だって小学6年生にもなって、サンタクロースはいる!と、心から信じて演説してる子供みたいに純真なんだもん。

そりゃ生暖かい気持ちになって来るよね?


それをまぁお父さんにしてもセフメトにしても、内心では疑ってるとは思うけど、それなりに信じて素直に受け入れるのが私には不思議だった。


「私が何故自分が滅ぼした国とウェスタリアを商人の道で繋ごうと思ったかと言うとね?

そのルドルフ大帝国は盗賊の王様みたいな国で、あの国の周りにあった国からお金を奪って支配していたの。


そのせいでボロボロな周りの国から大きい恨みを買ってたし、戦争をいつもしてたから他国の商人が今までそこに行けなかったんだよ。

でもそれを私が言葉だけで壊したから、今頃向こうは大騒ぎになってると思うの。

しばらくの間は国の中で戦争が起こったり、恨んでる周りの国から攻撃を受けたりして荒れると考えてるけど、それが終れば残ったのはマトモな国なの。


海も近くて人間が沢山住める平地の街だから、ルドルフ大帝国は滅んでも、新しく出来た国があってそこにはきっと誰かが住んでるはずなんだよ。

だから其処にウェスタリアで1番最初に乗り込んだら、その商人の道を完成させた偉業を持って国で1番の商人を周りに認めさせられる事になるんだよ。

私はこう言う情報を掴んで商売に利用出来る素質が有るから、エリザベスお祖母ちゃんからセンスが有るねって認められたの。

お祖母ちゃんは私が具体的に何をしたかは全く知らないけど、そこはエリザベスお祖母ちゃんも、生来の持ってる商人のセンスでそれを嗅ぎ取ってるんだよ。

何故ならあの人も(あきな)いの天才だから。


だからセフ兄ちゃんは安心してね?

さっきの話が万が一出来たら、それは国1番の商人だけじゃ無くて、世界で1番の商人になるから。

今イスガルド大陸の中で1番大きい国がウェスタリアなのよ。

だからウェスタリアで1番になるって事は、世界で1番の大商人になるって意味なの。

分かるかなぁ?」

「うぅ⋯」

「だから色々大変になるから、セフ兄ちゃんは、楽しくなければやらなくて大丈夫なの。

私はセフ兄ちゃんが国で1番の大商人になってくれたら、楽だし嬉しいけど。

そんな事をしても楽しく無かったら、無理をさせるつもりは無いんだよ。

分かるかなぁ?


でも私は商人じゃ無くて錬成師を目指してるから、例え1流の商人で世界で1番の商人になれるセンスがあっても、私はそうならないんだよ。

その代わりに万が一王妃にさせられたら、国をちゃんと回せるようにしないと行けないから、今こうしてコツコツと地道に頑張ってるの。

まぁこんなのは家族皆が幸せに生活してくれる事のついでみたいなもんだから、気にしないで気楽にしててね。」

「⋯⋯や、もうなんか、むりかも僕⋯」

「じゃ、もっと良いお話をしたげるね?

実は今の時点でこの国の王様が世界で1番の大商人なのよ。


王様なら皆が欲しがる魔道具も作れるし、地道に人間を使わなくても東の果ての国まで魔道具で繋げて仕舞えば、間の国をすっ飛ばして向こうの国と契約が結べて仕舞うの。

そんな人に私達が叶う訳が無いよね?

だからセフ兄ちゃんも普通の商人を目指して、コツコツ楽しもうね!」

「う⋯うん。そっか。

今王様が世界で1番の大商人なんだ?

なら僕は普通の商人で良いかな⋯」


あからさまにホッとした顔をしたセフメトが、私に乗せられて世界の大商人になる一歩を、今正に歩まされようとしているのだが。

果たしてそれに本人が気がつくのは一体何時になるんだろうか。


だって王様は家業が国政だから、商人じゃ無いんだよ。

私とおんなじだよね。

だからその事に気がついても、これはちょっとした悪戯心が発端なので、そこは笑って赦して欲しいと思うよ。


マドルスお爺ちゃんも止まってた寝息がようやく再開を始めた。

途中までちゃんと本気で寝てたのに、セフメトが大きな声を出すからお爺ちゃんは目が覚めちゃったんだよ。


でも話の流れが穏便に落ち着いたから、ようやく安心して今寝てる所だ。

私の話の内容は、端から理解するのを諦めてたらしく。

と言うよりも途中から関わろうと思わなくなったみたいに、意識から素通りさせてる雰囲気があった。

お爺ちゃんに驚く素振りが全く無かったのは、セフメトの反応をぼんやりと伺っていただけだからだ。


そして我が父上様は、私の話を完全に理解した上で、現実逃避気味に右から左に聞き流してる。


きっと、俺は農民だし王様が面倒見てくれてんだから任せとけば良いよな。

ただ父親だしリリアナの性根が曲がらない様に、ちゃんと見て諭してやらないとな。

ぐらいに私のやらかしを投げたんだと思われる。

育児放棄に走らないだけ、立派な大人の男性だ。


魔王は息子が曲がったなら殺れば良いぐらいの放任主義者だから、あれは父親の資格は無いと思われる。

そもそも父親じゃ無いしな。

せいぜい、皆が欲しがってるから作っただけの作品としての意識しか持って無いんじゃ無かろうか。

ただしその感覚は息子だけのものだと考えられる。


だって娘には激甘だからだ。

それは為政者として親心で不出来な息子を王座につかせない為に施された教育の賜物なだけで、魔王自身が悪い訳では無いのが不憫な所かな。

だからその反動で娘には激甘な駄目親父になったんだろう。

そしてそれは現在も進行しており、火種にしかならない娘達を他国に嫁がせようとしている。

国内が炎上したら自分が忙しくなるから、奴は他国に放り投げるのだ。


為政者としたらアウト!の、行動なのに、彼には例え問題が起ころうとも捻じ伏せられる力と金と権力が有るせいで、きっとその駄目親父な行動を誰にも咎められず。

またそれで問題が起こったとしても、気の毒な周りが火消しに走るんだろうなと予想している。

だからアイツは中身が少年のままワガママに育ったクソ爺なのだ。


宰相さんは国の為にそれをようやく排除しようとしたが、私を利用しようとして潰されたので、今頃苦悩している所だろう。

本物のドラゴンと対面する虎の着ぐるみを着た私が、がおー!とすると、荒ぶるドラゴンが一応は大人しくなるから、血迷って虎の着ぐるみを着た私に手を伸ばして来ても何も可笑しくは無い。


猫パンチをして手を払った所で、所詮私は着ぐるみの虎。

ならドラゴンの着ぐるみを着せた王子の身を守る本物のドラゴン対策として、そのうち隣に座らせる事を選ぶかも知れない。


何故なら宰相のお爺ちゃんは、安定してるウェスタリアの宰相だからだ。

波乱を呼ぶドラゴンなんて、彼には要らないよね。

長い目で見たら必要な事かも知れないと分かっていても、それは自分には関係の無い遠い未来での話なのよ。


王様ならそこを視野に入れて国政をするのが仕事だけど、宰相は現時点でのウェスタリアを円滑に回すのが仕事だから、どうしたって受け入れられる問題じゃ無い。

だから排除に動いて当たり前なのよ。

優秀な宰相なら尚の事、穏便に事を運ぼうとすると思われる。

だってそれが仕事だからだ。


だから王様には宰相を選ぶ権限が有る。

ようは気に入らなければ首を切って新しい人を宰相に選べば済む話なのだ。

では何故今それをしないかと言えば、代打が居ない。

つまり首をすげ替えた所で、今のウェスタリアには王様について来れる人材の中に宰相を任せられる人間が居ないから。

だからうっとおしくても、まだ賢くて穏便に動く有能な宰相のお爺ちゃんをそのまま置いてるだけだね。


そして宰相のお爺ちゃんもそれが分かってるから、私を使って穏便に行動を起こそうとした所で猫パンチを食らった所になる。


まああれは宰相のお爺ちゃんのほんの些細なジャブで、私や魔王の反応を見ただけだとは思ってる。

でも私の猫パンチがかなり物騒だったから、ドン引きしたとは雰囲気から伝わって来た。

虎の着ぐるみを着た私は、お爺ちゃんが思っていたよりもずっと変な生き物だったからだ。

だから当分は私が何という生物なのかを見極める為に、観察に入ってくれるだろう。


もうわし引退する所だったんじゃが?!

と、お爺ちゃんの聞こえない悲鳴が聞こえて来る様な気がするけど、そこはもう先王様と2人で頑張って欲しいかな。

そうやって時間を稼いでくれてるウチに、宰相のお爺ちゃんも安心して引退出来る様に、魔王がするだろうからね。


⋯クソ!

分かってる。

魔王はそんな事する必要なんか無いって事は。

でも私からしたら国政なんてマジで面倒な予感しかしないんだよ。

でもそうなのよ。

私しか居ないのよ巫山戯た事にも。

穏便に事を運ぼうと思えば、人材が居る。

だったら私は面倒だろうが、王妃にさせられない為にもガンガン人材を鍛えて上に押し上げて行く必要が有るの。


セフメトがそのメンバーに入るかは知らないよ?

でも関係者を鍛えて行けば、そんな人材ともいつか巡り会えるかも知れないしね。

あー、メンド。

でも親族家族の安全と安定した幸福な生活と、私の身の安全と自由の為には、人材不足でキューキューしてる魔王の側に、新しい価値観を持った有能な人材を突き出して、私の身代わりとして人身御供になって貰わなくてはならないよ〜。


魔王の妻になるよりはマシだけど、人間関係がヤバそうな世界に誰が好きで嫁ぐかって言うのよ。

よっぽど王子が良い男で、最低でもウチのお父さんぐらいには優秀で度量の大きな男性じゃなきゃ、熨斗をつけて捧げられたって要らない!って、突き返してやる。

なんなら魔王に要らない!って言うしな!

魔王も政権を渡したくないだろうから、喜んで王子達を排除してくれる事だと思う。

王子達だってあの様子だと、喜んでその排除の風に乗って自由に空を羽ばたいて行く事だと思う。


そしてその先に待ってるのは、粛清の嵐かな。

魔王が夜な夜な人狩りに奔走する事になる。

あの人達と関わり合いにならなければ、勝手にやってろと赤の他人の起こす嵐から、身を守る事だけを考えて生きて居られただろう。


実際そうしようと考えて、身を隠してあの場に挑んだのだし。

だから魔王が飛んで来たせいで、全てがご破算になったんだけども。


国政なんて興味の欠片も無いのに、平民ファースト思想をぶっ放して、貴族ファーストな人達から利用されるのを頑張って阻止してるのが今の現状なのよ。

魔王のアレはそれが分かってるから、逆に私を利用する為にノッて来てただけ。

知りたい情報だけを抜いて、自分の作りたい国に繁栄させる為に喋りまくる私を気持ち良く乗せて、足りない情報を与えたらどうなるのかを遊び半分で探って来たから。

私がてやんでぃ!と、平手を飛ばしたのよ。

そしたら巻き添えを食らってお師匠さんとヴィルフォンテお爺ちゃんも、魔王と一緒に凹んでたけどな。

スマンな。

私の平手は散弾銃の効果があったらしい。


「リリアナってさ⋯」


疲れ果てたサラリーマンが、ブランコに揺られてる様になってるセフメトが、獣車で揺られながら生気のない瞳を私に向けて来る。


「スゴイって聞いてたんだけど⋯、本当はヤバかったんだね。」


彼もタルクス叔父さんの薫陶を受けて育ってきた親族の1人だから、全力で私から逃げたくなる気持ちも分からないでもない。


「商人の仕事の何が面白いか。

それは自分の才覚1つで、どれだけ上にのし上がれるか。

自分の判断1つで白金貨なんてはした金って言い切れるお金を稼げたり、周りの人の生活を助けて尊敬を集められる事に有ると思うの。


そして商人の何がスゴイかって言えば、その仕事をする上限が年齢に無い事かな。

戦士や狩人は年を取ったら引退しなくちゃいけないけど、商人は自分が旅に出られなくなっても、一生商人でいられるって事なんだよね。


つまり大きな失敗をしない限り、30歳を過ぎたら街角で野垂れ死ぬ不安に怯える戦士みたいな生活とは無縁に生きられるって事なんだよ。


特にセフ兄ちゃんには私がついてるから、旅商人としての始めの一歩を踏み出す段階で、国中で溢れてる1流の商人達と、対等よりも有利な立場で戦える事になる。

失敗したと思っても、私に相談したらその失敗を取り戻す事だってできちゃうの。


何故ならこれから新しい時代を作っていく人達の側で得られた情報を、貴方は私から受け取れる立場の人だから。


それを利用するにしろしないにしろ、それはこの先のセフ兄ちゃんが決めたら良いと思うよ。

だから今はその判断がちゃんと出来る様に、勉強や経験を積んで頑張って修行をしてね?」

「⋯⋯⋯」


めっちゃ口元は怯えてドン引きしてるのに、目がギラギラしてて笑える。

またそのギャップが妙に面白い。

やっぱりセフメトって商人で生きるギャンブラーの才能が有ると思う。

ギャンブルが好きな所は、流石ジギタス叔父さんの息子だよね。

そこがまた可愛いから。

絶対に逃してなんかやらないぞ♪




幼女が馬耳をつけた小学生の目の前に、人参をぶら下げてる状態。

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