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ピシャーン!


眠れねぇ⋯。

あのクソ野郎⋯。


ジーニスのベッドの上で天井を睨見つけた私は大きなため息を吐き出す。

飲まされた薬の効果が絶大過ぎて、1ミリも眠くならない。

寝ないと身体に悪いと思うのに、サッパリ頭が冴えてしまい。

このまま永遠に眠れないのではと不安になるぐらい、シャッキリしている。


「ふうぅ~⋯仕方ねぇ。

眠れねぇなら仕事すっか。」


ヤサグレた気分で窓から差し込んで来る月明かりを頼りに、今のうちにメモを取ろうと身体を起こす。

こんな薄暗い場所でする作業では無いので、少し前までいた庭に出ようとトイレも兼ねてジーニスのベッドから抜け出した。


家横にあるトイレの階段をえっちらおっちらと登り、ボットンの穴に落ちない様に気をつけてしゃがみ込む。

そして終わったら自分で水を垂らして下半身を洗い、またえっちらおっちらと後退りしてトイレから出て行く。

少し前まで自分で水を出せなかった時は、横に置かれてる藁を使ってお尻を拭いてたけれど、そりゃ自分で水が出せるなら出すに決まってるよね!

なので誰にも言えないが、私は下半身でも適切な場所から水を出せたりする。

本当に誰にも言えない乙女の秘密なのだ。


そしてえっちらおっちらと階段を降りて地面に到着すると、トコトコと歩いて玄関に向かう。

すると別れたはずの魔王が、花の咲いてる錬成瓶の前に座ってる背中が見えてしまった。


どうやら種が出るまで観察するつもりだなと、その丸まった背中に向けてげんなりとため息をこぼす。


あの薬が有れば少しぐらい寝不足になっても元気に仕事が出来るだろう。

そうして無茶を繰り返してたら、不眠症になってたとしても何も可笑しくないよね。

どうせ眠れないなら珍しい花が種を出す瞬間を、観察でもするかと考えたのかも知れない。


放っておいても眠くなったら帰るだろうと、私は魔王を見なかったことにして玄関前の少し高くなってる所に座って魔法の鞄から紙とペンと手作りの画板モドキを取り出した。


書くものは沢山有るけれど、大事なものは明日の動きの見直しだ。

何せ最近眠くて行き当たりばったりな対応しか取れてないので、忘れてはいけない事を朝から順番に書き出して行く。


最優先はピヨ子の餌。

お母さんに豆とマモー乳で疑似米粒を作って貰うと書く。

駄目ならエレガント米粒の作成。回復小麦の作成。


こんなもんかな?

次は魔力草を運んだり月の光を込めた水槽や瓶を片付ける。

まぁこの辺りは何時もの作業だから、メモを書き直す必要も無いが。

トントンと膝の上に置いてる画板を指先で叩き、問題点を書き出す。

今の瓶達の配置は割とアバウトになってる。

もちろん魔力草同士は、私の指示通りに離して置いて貰ってるし。

月の光の錬成瓶も、ある程度は規則的な配置にはしている。

並びについてはコレから実験で、距離を室内で確認するつもりなので、まぁそこは今は良い。


「雨がなぁ〜⋯」


今月に入ってから雨に降られる事も何回か経験していた。

そもそも瓶はまだ数が少なくて100本ぐらいだし、人手が必要な魔力草は30本未満だ。

今は魔力草12本と種用のが2本になる。


家族が手分けをすればあっという間に終わる作業の量なので、雨が降れば畑仕事を見合わせる父と言う最高の機動力に抱えられて、私は何時もよりスムーズに移動出来るから回収の効率が良いまであるのだが。


雨の中を種を探すとなるとかなりマズい気がする。

何せ月明かりが無ければ外はかなり暗くなる。

全く気にして無かったけれど、雨で地面が濡れて荒れたらもっと探す難易度は跳ね上がるだろう。

下手すれば流されて行方不明になる危険性もあった。

種の余裕が無い今を思えば、その失敗は致命的な作業の遅れになる。


といっても20日遅れるだけだし、林から魔力草を持ってきたら5日で挽回は可能。

だからそこまで危機的に考えて無かったけれど、下に板を置くだけでこの問題は劇的に改善する。

種になる日も分かってるんだし、取れない手段じゃ無いしね。

板を敷いて花付きの瓶を置くだけだし。

何なら板と言わずお盆でも良い。


ただ大きさがなぁ〜。

割と飛ぶのよ魔力草の種。

群生出来ないから当たり前なんだよ。

なら上からカバーをしたら良いのでは?と閃く。

透明のアクリルケースだ。

でもこの場合は1つ問題があって、閉鎖空間で果たして魔力草が種を作れるか、そこが今度は問題になる。

全体を覆えば葉っぱから魔力が吸収出来なくなる。

これは群生出来ない理由につながる私の仮定だが、魔力草は葉っぱからも空気中に漂う魔力を吸収しているのでは無いかと予想していた。

だから根から吸い上げる魔力量を増やせば、群生させられないかと思ってコレから実験するのだが⋯。

なので葉っぱを根元まで覆うアクリルケース作戦はやらない。

お金もかかりそうだしね。


次の案は袋で花を包むパターン。

これもやって見なければ分からないが、植物は普通受粉をして子孫を残す。

でも群生しない魔力草は果たして何をもって受粉に代わる手段で子孫の種を残すのか。


最初はマージンがしてるのかとも考えたが、林の中や森まで果たしてマージンが行くとは考え難い。

更に言えばマージンは虫を食べる要領で、林の中から飛んで来て地面に落ちた種を拾い食いした可能性を考えてるのだ。


種がもってる魔力の豊富さを思えば、同じ様に森や林の中でも拾い食いシステムで、繁殖の範囲を拡大しているのでは無いかと推測してきる。

種を齧れるのは牛などの平たい歯を持った動物だけなので、鳥や犬やイノシシなどの動物は、丸のみするのでは無いかと予想している。

そして消化されずにフンとなって地面に排出されて、魔力草は林や森のあちこちに繁殖しているのでは無いかと考えたのだ。


だったら受粉は誰がしているのか。

大人2人以上離れた場所にいて、障害物があっても風でそれが可能なのか。

そこはまだ解明出来てないので、袋で花を覆うと種にならない可能性がある。


だから面倒でも大きめな板を下に敷くのが1番良いし、何なら壁は無くても床のある倉庫を作れば、回収も移動も楽になるとは思う。

ただ屋根がないと雨がなぁ。

月の光を浴びせる絶対条件に、透明じゃ無い屋根は使えない。

ならばテーブルならどうだろうか。

少し傾斜をつけたテーブルに、瓶を乗せる凹みがあれば直立した瓶の下に斜めのテーブルが有る。

そうすれば雨水も種も転がってテーブルの1番下に到着する。

そしてテーブルの下が斜めになっていれば、雨といっしょに種も転がって行く。

最終的に端っこに網をぶら下げていれば、雨だけ抜けて種が残る。

雨が無ければ種は下の所に残ってるかも知れないし、最後の網の中まで転がってるかも知れないが、まぁ回収が出来ないって事は無いよね?


と言う事で種について。

アクリルケース✕

傾斜のあるテーブル

と、テーブルの絵とメモを書いた。

そこはもう、絵は簡単に斜めのL字だ。

瓶を置く場所は棚のイメージかな。瓶が直立すれば良いし、傾斜も緩くて良いので凹みでも全然良いけど、穴が空いたままだとそこから種が落ちる危険性が有るので、その時は月の光の瓶を置いて塞げば良いかも知んない。


でもこれは現状の対策なだけで、私の最終目標は室内で大量の魔力草を群生させて栽培する事を目指してる。

そう✕をつけたアクリルケースの大型を成功させるのだ。

今はまだ受粉の謎が解けてないから、今後の実験にかかってくる。

空間中の魔力量を補うのに、ミスト設備か川の流れを空間内に作れれば、室内での栽培は可能と考えてる。

なら月の光を直接浴びせる必要が無ければ全てそこで完了するし、何なら種が必要無ければ魔力草の出荷だけなら室内での栽培は可能になる。


その案があったから雨の日のデメリットを見落としてたし、群生させる方法を探してるんだけど、私のしょぼい頭で考える事なんてこの程度なもん。

私は自分で体験して、自分の目で見て確認して、始めて効果を出せる凡人だから失敗を恐れずに行動する事が最善だと考えた。


何故なら私はもう魔法の水のミスト化の原点に、手をつけてたのだから。

前世の記憶で衣類スプレーばかり気に取られて出来ないと思ってたけど、加湿器ってそれだよね?と。

ピヨ子の卵を孵す装置を思えば、室内で魔法の水を炊いてれば、空気中の魔力の補充が出来るのでは?と。

今ようやくスッキリした頭で思いついた。

でもこの時代で私の周りには木造建築しか無いからやたらと風通しが良い。

だから夏は暑く冬は寒いのが、木造建築の特徴である。


そこは魔法の水を月の光でパワーアップする事で、補えれば良いかなと考えてる。

人工的な温室だね。

せめて屋根を透明錬成瓶みたいに出来れば良いなと思う。

ガラスが有るならそれで良いんだけど、身の周りにある透明な製品て、この錬成瓶しか知らないのよ。

だから今は焦らずに学校に行ってから、群生させる装置を考えた方が無駄が少ないのかも知れないね。


でもバッカスの事はそんな悠長な事を言ってられないので、今の私のショボい頭脳で頑張るしかないのだ。


「何をしている?」

「薬が効きすぎて眠れないから、明日の行動予定に漏れが無いか確認してたら、いつの間にか他の事を考えてた。」

「⋯⋯」


魔力草の観察に飽きたのか、いつの間にか私は魔王に観察されていた様だ。


「あの薬って子供に使っても良かった薬だよね?」

「⋯うむ。害はない⋯とは思う。」


顔にヤバい!と書いたまま、丸眼鏡をかけてる若づくりの爺さんが、必死に取り繕うべく誤魔化しに走っている。


「良かった。王様のことだから子供に使った経験が無いのに、症状だけを見て自分用に強化された薬を、効き目が有るもんをとだけ考えて、ウッカリ出して来たんじゃ無いかと疑っちまってゴメンな。」

「⋯⋯まぁ、うむ。」


メガネ越しでも分かるぐらい視線を反らして、頬にマズいバレてる!と書いてる素直じゃない爺さんが、ションボリしながらまた逃げた。


「花付きの魔力草が種になる所見てたけど、飽きたから周りを見たら偶然私を見つけてこっちに来たんでしょ?」

「偶然ではない。」

「無視してたけど何もして来ないから、逆に気になってこっちに来ちゃったのね?」

「むう⋯」

「それで花付きの方の観察はもう良いの?」

「うむ。世が近くに居れば月の精霊が姿を現さぬやも知れんでな。少し離れた場所から観察しようと思ったまでよ。」

「つきのせいれい?」

「うむ。」

「つきのせいれいって何?」

「姿は見えぬ。

だからそれを観測出来れば良いと考えたのだ。

群生できぬのなら、受粉を精霊がしておるやも知れん。

人の目に映らぬので有れば、この魔力測定眼鏡が有れば、何かが分かるやも知れんと考えたのだ。」


サンタクロースを信じてる小学生って、こんな感じ何だろうか。

いや⋯魔力のある世界だから、精霊とかがいても不思議じゃ無いとは思うし、私も受粉の謎は気になってたから、バカにするつもりも無いんだけど⋯。

月の精霊かぁ~。

マジでいたら建物で覆ったら駄目ならヤツじゃん。

ファンタジーっぽいなーとは思ってたけど、アバウトな方法で草が繁殖するのは辞めて欲しい。


「ふぅん⋯月の精霊って随分と几帳面な性格をしてるのね?

必ず3日毎に来るだなんて。」

「そこが気になっておった。

万が一月の精霊が繁殖に関係しており、人間が観測して姿を現さねば種には成らぬで有ろう?

ならば3日毎に種が作れると言った法則が崩れる。

又は花の魔力量を観測して変化を捉えられたならば、精霊の存在を立証出来るやもとも考えたのだ。」

「つまり私の魔力草を使って勝手に実験して、明日種を売りに行く私の都合を台無しにする所だったのね?」

「う⋯」

「まぁ良いよ。私も受粉の謎はとても気になってたの。

そもそも夜中ずっと起きてられ無くて、観測したかったのに出来なかったのよ。

1日ずれるのはちょっと痛いけど、取り返しのつかない失敗にはならないから大丈夫よ。

例え種が取れなくなってあそこまで育てた意味がなくなったとしても、何度もやれば良いんだし、気にしないであげるわ。」

「⋯そうか。」


言葉でラッシュしたせいか、流石の魔王も罪悪感を感じたらしく居心地が悪そうにソワソワとし始めている。


「王様。私に何か言うことあるよね?」

「何かとは?」

「悪いことをしたら素直にゴメンねって言うのよ?」

「フン。王は過ちなど犯さぬ者であり、過ちは認めてはならんのだ。」

「なるほど、そう言う教えが有るのか。そりゃ謝れなんて言って悪かったな。

じゃあアルフィン、お前なら良いだろ。俺様に今すぐ頭を下げて謝れ。

お前個人なら何も問題無いよな?

そもそも一国の王がこんな時間に農村に来て、子供と話なんかする訳ないよな?」

「⋯ぐぬっ。」

「呻いてないで、ごめんなさいだろ?」

「むうぅぅ!世は、世は今まで誰にも頭など下げたりしたことは無いっっ」

「貴重な初体験が出来て良かっただろ。ほら謝れ。悪い事をしたら人は謝るのが筋だろう?

それとも自分は何も悪い事なんかしてないのでも思ってんのか?」

「っっ⋯そもそも世は貴様が弱っておったから来てやったのだ!」

「だからありがとうってちゃんと俺はアンタにお礼を言ったよな?

その後薬の副作用で眠れなくなっても、俺はそれを叱ったりしてねぇだろう?」

「ぐぬぬぬ⋯」

「まぁそう言う生き方をして来てんだから、突然変われと言われても難しいか。

なら悪いと思ってんなら、隣に並んで観測をちゃんと真面目にしろよ?俺には魔力の量の変化なんか見えねえからな?

観測結果が分かったら、種が例え出来なくても赦してやるよ。」

「⋯フン。ただ働きせよと申すのだな?」


そう言いながらも俺から視線を外して、ここから花付きの魔力草の方を向く魔王。

素直か!と、思わず吹きそうになるがまぁ耐えた。


「悪いと思ってんならそれぐらいしてくれても良いんじゃねぇの?」

「ならソナタは世に謝るべき事が有ろう!

何を勝手に弱っておる。

その様な無様を晒すなら王城に連れ去って徹底して管理してやっても良いのだぞ?

親もソナタの窮地を知れば、納得するのでは無いか?」

「う⋯、そこを突いてくんのかよ。子供が知恵熱を出すぐらい当たり前だろ?」

「フン。ソナタは普通の子供では無いのを自覚せよ。

故に普通の農村で暮らす民ではソナタの管理は難しいと言っておるのだ。」

「そりゃ身体だけの問題だろ?心の問題はどーするつもりだよ。

そんな所に連れて行ったら俺はグレて拗ねて暴れちまうぞ!」

「また幼子の様な事を言う。」

「お前は目が腐ってんのかよ!

どう見たって俺は幼子なんだよ!

だから大人用の薬なんて飲んだから効きすぎて大変な事になってんだろうが、お前俺を小さな大人とかと勘違いしてねぇか?」

「ぬ⋯ならば世に偉そうに説教などするで無い!

先人は敬うものだぞ。」

「お前は知らねぇのかよ!

老いては子に従えって言葉が有るだろが!

年食い過ぎてマトモな判断出来なくなってんだから、下のもんの話を粗末に扱うんじゃねぇぞコラ!」

「世はそこまで老いては居らん!」

「孫も居るんだからちっとは自分が年寄りなのを自覚しろ!

見掛けが変に若いから勘違いしてるだけだろ!」

『むむむーーーっっ』


思わずお互いが睨み合う寸前になったが、魔王がハッとする雰囲気を察して私も花付きの魔力草に集中する。

距離は20mぐらいか。

月明かりが眩しいぐらいで、昼間の様にハッキリと花や葉の形まで見れている。


何となく花の周りがぼんやりと銀色に光ってる様な⋯?

次の瞬間、花がグググ⋯と花弁を丸めて実の様になり。

ポン!と、音は鳴ってないが、花弁が弾ける様にして、何かが周りに飛び散った。


真っ先に動いたのは魔王だったが、私も画板と筆記用具を直ぐに収納してポテポテと自分的には急いで萎れてる魔力草の元に走って向かう。


「月の精霊はいた?」

「いや⋯姿は分からぬ。

だが明らかに花の周りの空間が、異様な密度の魔力を帯びておったわ。」

「室内で花になることも花が種を飛ばす事も今までは試した事が無いんだよ。

一度試して見ても良いのかもな。

もし室内でも同じ様に種が作れるんなら、魔力草の栽培に月の精霊は関係無いって事の証明になるだろう?

3日目で種にならなくても、魔力の籠った水さえ与えていれば、種は作れる気がするんだよ。

元々魔力草は日の当たらない暗い場所で生息してるだろう?

それなら月の光が無くても、時間さえあれば繁殖出来ると考えてるんだよ。」

「それは確かに一理有るな。

月の光で保持している魔力が強化されるから3日で種を作れるのであれば、月の精霊は元から繁殖に必要は無いと言うことか。」

「上からとか、周りから光が集まってる様には見えなかったしなぁ。

自分の中の魔力を全て花に集めたから、花の周りの空間が銀色に光ったのかもな。」

「光が見えたのか?肉眼で。」

「うん、見えてたぞ。」

「⋯ふむ。ならばコレを見よ。何か輝きは見えるだろうか。」


魔王はそう言うとスッと手に遮光錬成瓶を取り出して蓋を開けた。

膝までついてるので、私も覗き込む形で中を見て。


「うげ!何だそれ?!」

飛竜(レグルス)の血だ。」

「生臭いもんを見せてくんなっっ!」


嗅ぎ慣れた悪臭に両手で鼻を摘んで瓶から顔を離した。

魔王は直ぐに蓋を締めたが、強烈な臭いに目がシパシパする。


「それで輝きは?」

「黒かったぞ!

光なんかなんも無かった!」

「⋯黒い?⋯光の加減か?

もう一度光を灯すので良く見ておれ。」

「くぅ〜、まだすんのかよ。

子供に変なもん見せんなよな。花とか宝石とか綺麗なもんは他にねぇのかよ?」

「臓物や目や舌なら有るが、アレが花や宝石よりも魔力の含有量が多いのだ。」

「まだ血を選んでくれてて良かったよ。すこしは気を遣ってくれてたんだな。」

「うむ。」


うむじゃねぇよとは思ったが、油断して匂いを嗅いだせいで嫌な思いをしただけで、鼻さえ摘んでいれば、兎の解体を直接見せられてるし、何なら目玉からレンズを穿って取り出した私なので、特に問題は何も無かったりする。

そしてまた魔王がLEDを飛ばして確認再開。


「どうだ?」

「んー、今の所は黒いなぁ。

周りが少しだけ赤黒い感じかなぁ?

あ⋯でも、少し金色?

なんか霧みたいに薄いのが、ちょっぴりフワフワしてるかも? 」

「ふむ。」

「なにかあるの?」

「いや、世と同じだな。

世はもう少しハッキリと黄金の輝きを見れるのだが。」

「ならアルフィンも眼鏡をかけてなければ、あの銀色の光が私よりもハッキリ見えたのかもね。」


直ぐに蓋を締めたが、魔王は納得した様で錬成遮光瓶を消したら、ついでの様に私の頭にポンと手を乗せてワシャワシャと頭を撫で回した。


でも私はちゃんと見逃して無いぞ、貴様、私に触れる前に浄化しやがったな?

それが汚い子供の頭を直接さわるのが嫌だったのか、魔物の血を入れた瓶を触った後だから自分の手を綺麗にしたのかは良く分からないが、まぁちょっとだけ不愉快にはなった。

乙女なので。


「何だよ。」

「いや⋯ソナタは農民の子にしては、魔力を多く持っておるのは分かっておったのだが⋯どうやら魔力視も出来る様で有るな。」

「まりょくし?」

「うむ。魔道具を使った方が遥かに見えるし、今は数値化されておるので差も分かりやすくなっておる故、昔ほど重宝する物では無いのだが⋯魔力視の出来る者は優れた魔法師になる者も多いぞ。」

「あ、それは分かるかも。

まだ2歳だけど回復魔法が使えたり、氷を出せたりするのは優秀なんだろうとは思ってた。」

「⋯は?」

「だから優秀な魔法師になるのってそう言う事でしょ?」


魔王。右側に頭を傾けたので、私も同じく左側に頭を傾けて視線を合わせる。

そしたら魔王はスッと頭を真ん中に戻して、眼鏡を消すと少し空を見上げたので、私も空を見上げようとしたら。


「もう、お主は学校へ行かずとも良いな。」

「はい?!」

「うむ。お主はもうそのまま過ごせ。」

「ちょ!何を言ってくれてんの?!は?ちょ!私は錬成師になるんだよ?!」

「錬成師にはもうなっておるで有ろう。

ソナタはソナタの道を進めば良い。」

「は?ふざけんな!こちとらどれだけ法律の暗記してるとおもってやがんだ!

学校に行くために努力してたのを全部ひっくり返すつもりか?!」

「ハハハ⋯」

「ハハハじゃねぇぞコラ!

俺が学校行って勉強したら、超えられるかもとでも勘違いしてんのか?

俺はアンタみたいに天才じゃ無いから、あんな魔法なんか一生使わねぇぞ?!」

「わからぬでは無いか。」

「認めやがったな?!

大人げ無いぞ!

子供の成長を妨害しよーとすんじゃねぇよ。

だが俺が凡人なのは確かだよ。

アンタは何も考えずに自分の思う様に突き進んで来ただろ?

そう言う感覚で生きてるヤツを天才って言うんだよ。

俺は逆に周りを見て先を考えて、結果を恐れるから進みが悪いんだ。

ピヨ子みたいに見落とすポカもするが、後先考えずに自分で作った薬を試さずに自分の身体に使ったりなんかしねぇからな?

アンタの魔力が多いのも、歳を取れなくなっちまったのも全部、今までのアンタがして来た事の積み重ねなんだよ。


だから貴方と私は似てるけど違うのよ。

それを勘違いしないで頂けるかしら。」

「⋯ふむ。」


私も話してるうちに興奮が鎮まって来た事も有るけれど、魔王も混乱が収まってきた様子が分かってきたので、心を落ち着ける事が出来る様になってきた。


何せ此処で感情任せに相手を怒らせたら、私の人生設計が台無しになる。

そんなんさせてたまるか!

お父さんですら、めちゃくちゃ頑張ってるんだからね?!


「それに私がこの世界の知識を学べば学ぶほど、今までみたいな劇的な発見は出来なくなるかもね?

その代わり今まで見落としていた何かを、逆に気がつける様になるとは思わない?

私が知識を蓄えるのは、特に悪い事は無いと思うのよ。

正直に言えば、魔法に関してだけでも私は貴方を超えられないし、逆に貴方が私に勝てないのも変わらないわよ。


だって私はこれから大きくなるにつれて常識を学んでいくんですもの。


貴方はそんなものこの先もずっと学ばないで、自分が好きな様に生きて行くのではなくて?

ご存知無いみたいだから、教えてあげてよ。


今の妻たちに自分が勝てると思うのは、周りの妻たちが貴方に勝たせてあげてるだけなの。

嘘だと思うのなら、周りの常識をちゃんと見てご覧なさいな。

力じゃ叶わなくても、妻に頭の上がらない男性は沢山いると思うわよ。」

「⋯⋯?」

「まぁ貴方が女性に強いのは認めてあげるわ。

でも私が彼女達から曇った目を取り払ってしまったから、段々と貴方を生身の人間に見れる様になるわよ。

そしたらいつの間にか立場も変わって来るから、貴方もきっとそのうち分かって来るのじゃないかしら?」

「????」

「今は何も分からないわよね?貴方の視野は貴方が自覚してる以上に、錬成師や国政以外に関してはとても狭いのよ。」

「ぬ⋯」

「だから子供を小さな大人だと勘違いもするし、自覚がないまま自分の身体を魔法薬で変えてしまったのに、それに気づくのも遅かったんでしょう?」

「ぬぅっっ!」

「図星を刺されたからってムカつかないでよ。

そんな所が貴方は幼いのよ。

知識ばかり詰め込んで、心をちゃんと育てなかったから、そうなるんでしょうけど。

そんな事で私に勝てるとは思わないでね?」

「むぅぅ⋯つまり学校に行きたいのだな?」

「お父さんも頑張ってるし、私も家族もそれを応援してくれてるし、協力もしてくれてるからまだ教会に行けずにマスタリク語を習ってない6歳の兄が、マスタリク語だけで無くて省略文字やら法律を暗記してるのよ。


まだまだ彼には知識が足りてないけれど、興味を持ったら伸び続けるとは思うわよ?

そんな子供が果たして貴族のお家にどれぐらいいるのかしらね。

知ればどうせ自分の立場が弱くなると思って、貴方みたいな意地悪をする貴族も多いでしょうけどね。」

「ぐぬ⋯また貴様は兄弟を使ってロクでも無い事をして居るのだな⋯」

「さぁ⋯皆それなりに楽しんでるから良いんじゃないかしら?

貴方が私に本当に勝ちたいなら、男性らしく正々堂々としていて欲しいものね。


でも良かったじゃない。

いい経験が出来て。

お陰で貴方は血筋だけを誇って優秀な平民を恐れる貴族の気持ちが、少し分かる様になれたわね?」

「っっ⋯はぁ~⋯」


前頭部を抑えて頭が痛いと言わんばかりに項垂れる魔王の姿に、私は心のなかで勝利を確信する。

気分はスクリューパンチで右ストレートだ。

高い高いその鼻柱を、ぶち抜いてへし折ってやった気分だぜ。


てかマジでヤバかった。

思いっ切りちゃぶ台返しされる所だったぞマジで。

コイツにはその権力も能力も全て兼ね備えてるからだ。

まぁだから何?ってなるけどね。

だってそしたら私が全力でコイツを排除するもの。

真正面から挑む様なバカな真似なんかしないよ?

今みたいに怒って宥めて諭して落とすだけで充分だよ。

魔王も落ち着けば金持喧嘩せずの余裕を取り戻すだろうしね。


うん、ジジイ扱いしたのは悪かったかな?

ついマウント取るのが楽しくて遊び過ぎちゃった。

プライドの高い男性は掌でコロコロするのを忘れてたわ。

つい友だち感覚でいたのが間違いね。

私はこの瞬間に見えない壁をドシャ!と、魔王との間に築いたのを自分で自覚した。


あー、ようやく気がついたわ。

私落ち着いたんじゃ無くて、マジ切れしたから一周回った感じで頭が冷えただけだったんだ。


だからコイツがウンザリしてた、女の嫌な面を全面的に出して攻撃したのかと。

分かり易い口調の変化と冷ややかな態度を見せる事で、私のマジ切れに気付いて方針を引っ込めた魔王が戸惑いの眼差しを私に向けてくる。


「それでは御機嫌よう。」


私は自分史上で最高に優雅なイメージを模索して、エリザベスお祖母ちゃんがしてたみたいに、背筋を伸ばしたまま腰を少しだけ落として直ぐに立ち。

まぁ筋力不足で真似した格好だけで終わったので。

あとは魔王の微笑を真似してみたけれど、上手く出来てるかは分からなかった。


「⋯は?」


でもぐるりと向きを変えてトタトタと歩き、魔王の戸惑った声を置き去りにする。

そしてジーニスのベッドに戻り、直ぐに靴を脱ぎ捨てて丸くなった。


そう私は分かり易い形で絶交を魔王に叩きつけて来たつもりだ。

でもそれが悪手なのは分かっているので、一次的に拗ねるぐらいは赦して欲しい。

忙しい中皆で頑張って来た私達の努力を、簡単な思い付きで踏みにじられた様で心の底からむかついたのだ。

あの無自覚で傲慢な国王には、それぐらいの罰があっても許されるだろう。





ヒロイン激怒で種を拾い忘れてるの巻。

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