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凡人がマルチタスクなんざ出来るかー!
私はまた目をショボショボさせながら、ピヨ子に米粒を食べさせようとしてハッした。
月明かりに照らされたエレガント米粒達が動かなくなってたからだ。
今の時間は真夜中なので、新たな米粒を集めるのは私には難しい。
何故昼の間に調達して置かなかったのか。
迂闊な自分を呪った所でピヨピヨピヨピヨ攻撃して来るピヨ子には通じない。
だから仕方無く回復麦粉を与える事にした。
魔法の鞄に入れてるお陰でまだ暖かい。
鮮度を思えばそろそろ新しい物に変える必要はあるが、まぁそれは夜が明けてからすれば済む事だ。
これを与える度にピヨ子が魔改造してそうで恐ろしいが、仕方無く回復麦粉を食べさせて窮地を凌いだ。
明日がかなり憂鬱である。
麦粉を食べるなら米粒で無くても良いんじゃ無かろうか。
なるべくなら本来の食物を与えるべきとは思うけど、どうしても米粒達から卒業したかった。
お母さんが浄化してくれてるけど、羽毛混成クッションがフンで汚れてるのを見る度に身体が震えるからだ。
米粒達はエレガント!と、呪文の様に繰り返して凌いでる。
何時も餌を何とかしないとと考えてるのに、何度思いついても直ぐに忘れてしまう。
そして餌をあげたり、フンを見る度に後悔する変なサイクルに突入してる。
エイリアンピヨ子は、随分と肌色が減って全身を小さな白い産毛に包まれる様になって来てる。
だからまだ仮面をつけてないライダーには成っていないと断言出来るが、実は本家の鳥の雛は羽毛が薄い灰色をしているのだ。
成長すれば茶色と薄茶色と黒の立派な羽になり、雄は頭の上に王冠の様なトサカも生えてくるけれど、白い産毛の雛は見たことが無い。
それはこの時期の雛が母鳥のお腹の下から出て来て無いだけかも知れないし、薄汚れてるから灰色なのかも分からないから、まだライダーにはなってないと断言している。
でもやっぱり不安は拭い去れない。
100%エイリアンから50%エイリアンぐらいまで変化してくれてるので、早くラブリーピヨ子になって欲しいなと、祈る気持ちで期待している。
他人が見たらまだ100%エイリアンのままだが?と、言われる程度の変化だけど。
親としては我が子は可愛いからそれは良いのだ。
餌として分析すると、米粒はタンパク質で麦粉は炭水化物な所だろうか。
なら卵の白身でタンパク質を補えればと一瞬考えたが、それは共食いになる。
それを気付いてしまった瞬間に、その案は消滅した。
ピヨ子の身体に良くても私の気分がな。
なので他のタンパク質を考えたら、手に入れやすいのは豆だ。
鳥は雑食なので肉でも良いのかも知れないが、消化を考えたら豆かな?と考えてる。
ミミズはまだ偶に見かけるので、ミミズでもタンパク質になるけど、ピヨ子にあげるには刻まないと駄目なのだ。
誰が刻むん?となる。
頼めばマルセロやロベルトもしてくれそうだけど、次は誰が食べさせるん?となる。
なので私としては豆で何とかして欲しい。
フンの問題もあるしね。
あとはマモー乳。
豆をひと粒粉砕して粉になるまですり潰し、マモー乳を混ぜて捏ねたら米粒モドキにならないだろうか?
誰がするん?てなったらカタリナかお母さんになる。
やってくれないかなぁ⋯。
米粒をエレガントにするぐらいならやってくれるかも知れないと、一筋の望みを掛けて私はジーニスのベッドに寝転んだ。
何時もここ迄は考えてるのに、起きたら忘れてるからホント謎い。
ちなみに魔力草は出荷して家にスペースが出来たので、昨日のうちにロベルトに魔力草の調達を依頼している。
カタリナも希望したので、1人あたり6本か7本のノルマで頼んである。
今朝起きたら種が回収出来るから、発芽に3日かかるし。
さらにそこから出荷まで7日必要になるので、そんなもんかなと。問題は銅貨の数。
一本銅貨30枚計算なのでお釣りの問題がね。
腐葉土だけど、傷つけずに穴を掘るのも大変だしね。
ロベルトはその苦労を知ってるから、説得に苦労しなかったのは良かったよ。
ナイフの柄で掘ってるらしいので、お金が貯まれば道具を買えば?とは伝えてある。
でもスコップって小さくても金属製だからお高いのよ。
木製も有るんだけど、長い目で見たら金属製の方が良いのよね。
そこはカタリナとロベルトの選択の自由なのでお任せである。
外から持ってきた魔力草は5日も育てたら大体は銀貨1枚で売れるぐらいに葉っぱがシャキッてなる。でも売らずに種まで育てる分にするのだ。
それが何かあったら自宅で消費する予定の魔力草になる。
リリアナブランドとして、種から発芽させた物だけをお姉さんに売るのだ。
変な拘り言うな。
これは生産者ポリシーなのだ。
そして今日は種を収穫して、明日出荷になる。
遮光錬成瓶はお嬢さんに発注しているので、種を渡す時に受け取る予定になっている。
その時に透明な首の短いフラスコ型の錬成瓶が作れないか相談しようと考えてる。
それは魔力草の大量生産をする時に必要になると考えたからだ。
最初は横長の水槽を作れば良いと考えていたけれど、法律の問題が有ると知ったので、それなら雨水の侵入が最低限抑えられる上に藁を乗せる手間を減らす為に差し込み口が細いものの方が好ましいと考えたのだ。
まだ発芽したばかりの幼い魔力草には使えないが、3日もすれば使える様になる。
すると今度は魔力の水の入替えが不便になる問題が新たに生まれるが、そこは漏斗を使えば解決しそうだと考えた。
大人数で作業する事を考えて、最低でも3つは欲しい。
でも漏斗なんて売ってるのか分からないので、家族が情報を持ってなければ雑貨屋さんに聞き込みになるかもね。
ちなみに檻は雑貨屋さんで売ってた。
狩人が使うかららしいよ。
流石村の雑貨屋は何でも売ってるな!
問題は明日の朝私がコレを覚えていられるかである。
マルチタスクなんざ出来るかーー!!!
主にピヨ子のせいで脳内スペースを8割使用されてるせいで、残り2割を使ってヒーヒー言いながら遣り繰りしてる所だ。
ピヨ子の何がそんなに頭を占領してるかと言えば、6割が寝不足ゆえの機能ダウンだよ。
適当な予想だけど頭が回らなくて、目先の事しか考えられなくなって来てるので多分正解してるんじゃね?
メモを取りたいのに、眠くてそれ所じゃなくなってるんだよ。
いつの間にか書いた文字がミミズになってるのを、何度ハッとして書き直そうとしてミミズになるのを繰り返してるやら。
こんな状態だから論文なんて書けやしない。
やはり2歳児に3時間睡眠は過酷だ。
寝るのもまだ下手くそなせいで意識がうっすら残るから、3時間だけでも、シッカリと寝れてないのも大きい。
下手したら今日明日にでも、お父さんからDrストップがかけられやしないかとひやひやする。
ピヨ子が生まれて来てまだ4日目なのに辛いなぁ⋯2週間だと聞いてるから後10日もあるよ。はぁ⋯。
でも大型錬成遮光瓶が手に入れば、取り敢えず気分的にも大きく楽になる。
新しい魔力草も手に入ったから、バッカスのスポドリも作れるしね。
実は今バッカス用に水出し茶が作れないかと、透明錬成瓶に魔力草の葉っぱと氷を入れている。
小さいけど氷を作れちゃったのだ。
ホント小さいよ?
大人の親指ぐらいだもん。
しかも3個で限界だった。
やり方は直径10cmの水球を出して動くな動くな動くなと、氷の結晶を頭に思い浮かべながら、ひたすら念じて限界を感じたら3cm〜4cm位の水浸しな氷がお皿の上に出来てた。
水球の真ん中辺りが凍ってたらしい。外からじゃないんか!と、驚いたけど。
外気温は真夏だしな。
そんな事もある。
だもんで最初からその大きさで作ったら出来た。
でも3つ作ったらしんどくなったから止めたのだ。
魔力草のお茶をのむほどでも無かったので、月の光1日分の水だけ飲んで休んでたら楽になった。
魔力草やら種を食べた時みたいに劇的な回復はしてないけど、気のせい?と言うよりかは楽になってた。
でもそんなんで身体が疲れてる上に、眠たい頭で適当にしてるもんだから、葉っぱを入れた上に作った氷を転がした状態で錬成瓶の蓋をしてるだけなので、今夜から月の光を浴びせてるけど果たして効果が有るかは疑問だ。
でも今は深く何も考えられないから、なら氷出すなよと言われそう。
まさにそれ。
確か今はそんな無茶したら駄目って、自分で答えを出してたはずなんだけど。
何で氷を出したかさえもう朧げなのだ。
大人の思考能力が落ちて、幼い子供みたいに思いつきだけで行動してる状態と言えばいいか。
それなのに癖なのか何なのか分からないけど、頭の中がグルグルと色んな事を考えるのだ。
つまり我ながら危機的状況にある気がする。
お父さんに伝えなくちゃと思うのに、言えばピヨ子が⋯との悪循環。
頭が痛くてボーッとする。
そしたら月明かりの中に魔王が現れた。
ボーッとしてるから直ぐに気が付かなかったけど、何時もと着てる服がなんか違う。
テーブルが邪魔で下半身は見えないけど、何時もの私なら裸ガウン?!と、ドン引きしてたかも知れない。
でも肌色が何時もより多く見えてるだけで、ちゃんとだぼっとしてる足首まであるズボンを履いてるらしい。
薄暗いから色までは分かんないけど、スリッパみたいなのも履いている。
此方に向かって歩いて来たから、直ぐにそれが見えてホッとした。
良かった魔王が真の変態じゃなくて。
裸にコートを着て、下校途中の未成年者に見せに来るアレとは違ったらしい。
「なんぞあったか?」
白くて長い指が伸びてきて、オデコに触れたかと思えば、大きな掌が前頭部全面を覆っていた。
「熱が出ているな。」
「知恵熱かな。沢山考えごとしてるから、病気なんかじゃない。」
ヤバい!ヤバいヤバいヤバい!
頭が痛いと思ってたらそれか!
朝までに治さないとピヨ子がヤバい!
「衰弱しておるが?」
「寝不足なだけだよ。」
「何故寝不足になる?」
「ん⋯コレが原因かな。
卵から雛にする実験してたら、ウッカリ顔を見せちゃって、それから餌やりが大変でさぁ。」
「何故育てている?
卵を孵すのが目的だったのであろう?
育てずとも良いのでは?」
「命は粗末にしたらいけません。」
「また難しい事を言う⋯。
それでは実験に時間がかかって仕方が無かろう。」
「まぁね。効率悪いのは分かってるよ。でもこれはこれで勉強になるんだよ。色々と新しい知識を貰えてるから損はしてないかな。」
「ふぅん?」
「こさせてごめん。
寝てたの起こした?」
「いや、これから休む所ではあったがな。」
「夜更かししてるんだね?」
「お前達がやたらと早く寝るだけだろう。」
「ハハ⋯なるほど。」
灯りのある生活をしてたら確かにそうなのかも知れない。
今が何時かは分からないけど、1時とか2時に寝るのなんて前世なら普通にあった。
まぁ朝は辛いけどさ。
「コレを飲むがよい。」
「ナニコレ」
「元気になる魔法薬だ。」
「⋯⋯ふぅん。」
魔改造されるぅ?!と、普段なら騒いで拒否る所だけど、今は魔改造でも何でも良いからもの凄く有難い。
元気になれるならもう何だって良い。
私は頭を支えて貰って身体を起こすと、やたらと凝った瓶に口をつけて液体を飲んだ。
「っっっ!!!」
「ふはっ⋯」
「にっっがっっ!!!」
「フフフ⋯目が冴えるであろう?」
「かー!みみみ水!お水くだしゃ!!!」
「水など飲もうが何も変わらぬ。耐えよ。」
耐えよじゃねーー!!!
コレ絶対2歳児に飲ませたらダメなヤツ!
劇薬劇物それ系の何か変なヤバいヤツだろ絶対!!!
実績があるヤツはヤッパやる事がヤベェな!
これはアレだ。
コレ系の薬を飲み過ぎて耐性が出来て、更に強化して改良を積んだ自分用の薬なんじゃねぇの?!
お陰様で頭の中にあった霞が吹き飛んで綺麗にサッパリしてる。
疲労感も完全にスッキリして、身体も元気ハツラツだよ。
口の中以外は!
「うげーっ〜まっずぅ⋯」
「フハハハ⋯」
涙が滲んだ目で睨見つけたら、それはもう爽やかな良い笑顔をした魔王が、上機嫌で私を見下ろしてた。
月の光を背負ってるから顔は半分影に隠れてるけど、そんなの見えなくてもハッキリ分かる。
「でもまぁ⋯助かった。
来てくれてありがと。」
「うむ。」
「あ、そうだ。丁度良かった。忘れてたけど、王様に渡そうと思ってたんだった。
どうしようか悩んでたけど、はい、これ。」
「⋯?」
私は首から下げてた魔法の鞄から、茶色の遮光錬成瓶を取り出して魔王に手渡す。
「それは私が始めて自分で育てた魔力草から取った種を使って、始めて発芽に成功して、更に栽培した魔力草がお花を咲かせたもんなんだよ。
だから素材としての価値はあんまり高く無いかもだけど、一応今は貴重なヤツかなと思うの。あとそれでね⋯庭に有るんだけど、私が1番最初に作った兎のレンズが入った、世界で1番月の光を集めてる魔力の水も有るよ。」
「うむ。前に話をしていたものだな?」
「うん。この前ルドルフん時に貴重な素材を使ってくれてただろ?
だからそれを王様にあげようと思ってたの。
王様が集めてたのに比べたらショボいかもだけど、一応私の中では1番価値の有る素材だから、貰ってくれたら嬉しいかな。」
「⋯⋯は?」
「あとサラディーン様から聞いたんだけど、強化魔石と人工魔石の論文書いたら黒魔石を貰えるんだろ?だから2つぐらいなら直ぐに王様に返せると⋯」
「待て。何を言っておる?」
「ん?だからこの前王様に黒魔石を2個使わせてるだろ?
王様の技術代には全然足りて無いけどさ。俺に出来る事で少しだけでも返さないと、友だちだなんて言えねぇじゃん。」
「うん???」
「王様が金持ちで俺か貧乏だとしても、一方的に借りっぱなしだと互角だなんて言え無いだろう?
そりゃ俺に返せるもんが何も無いなら甘える事も有るけどさ、少しでも返せるなら返さないと。
そんなので釣り合いが取れるとかまでは思って無いけど、こう言うのって気持ちじゃん?
友だちってのはなるべく対等な関係でいる、て言うのが俺の価値観なんだよ。」
「⋯そうか。ふむ⋯見ても?」
「うん!あ、でもギリギリまで月の光を当ててたから、月明かりに気をつけてね。
種を飛ばしたらその花、直ぐに枯れちゃうんだよ。」
「⋯⋯」
魔王は自分の身体を盾にして影を作り、横にLEDみたいな光の球を浮かべると、遮光錬成瓶から花付きの魔力草を取り出した。
そしてサッとあのレンズが丸い眼鏡をかけて、花付きの魔力草を観測したらしく。
直ぐに花を錬成瓶に戻して、サッと消して私をジッと眼鏡をかけたまま見下ろして来る。
「⋯あれはとても良いものだと思う。」
「そか!」
「庭を見に行っても?」
「いいよ!」
私はピヨ子を胸元の布の中に入れて、ジーニスのベッドから降りようとしたら王様にサッと抱き上げられてスタスタと運ばれた。
昼間は慌ててローブとか全部脱いでた私だったけど、落ち着いて考えたら布で押し付けてるだけだから、結び目をほどかなくても木箱をズラせば直ぐにピヨ子が取り出せるのだ。
人間て慌てるとロクな事しないってのが良く分かった日だったよ。
路地裏で何もなくて本当に良かった。
そしてあっという間に庭に出たら、月明かりにキラキラと錬成瓶達が輝いててとても幻想的な風景になってた。
まだ種になってない青色の魔力草の花も風に吹かれて小さく揺れている。
随分と消費したので論文の資料用と王様用に抜いたら2本しか残らなかったのだ。
それでも種がゲット出来るから急場は凌げるし、何なら今揺れてる12本の魔力草が後15〜18日ぐらいで種になる。
他にもマッチョにしてる魔石の入った瓶やらピノレンズ入りの瓶やら大型水槽3台やら、月の光を浴びてるメモ付きの瓶がワラワラと庭に広がっている。
「この花は⋯」
「うん、さっきのと同じ状態だね。
これから種になると思うの。
朝になったら地面に種を飛ばして萎れてるんだよ。
まだ種を飛ばす瞬間は見たことが無いんだけどね。」
「⋯⋯何故種になると?」
「花が咲いたら3日目にそうなるから。」
「全て同じ時期で?」
「そうなんだよ〜。
花が咲く時期はそれぞれズレる事もあるんだけど、花が咲いたら全部3日目に種になるの。
人工的に魔力を増やす用にしてるから、自然に置いておくとまた違うのかもだけどね?」
「なるほど⋯そう言う⋯ふむ。」
「今日まで私がしてたのは月の光を1日浴びせた魔法の水を使用して、発芽から何日かかるかを、ただの魔力の水の時と比べてたの。
ただの魔法の水に月の光を魔力草に当てて栽培すると、発芽から15日で花の蕾が出来て、そこから10日で花が咲いて3日目で種が出来てたんだけど。
そこに魔法の水に1日月の光を浴びせた物に変更して、更に透明な錬成瓶に魔力草を入れて栽培したら、発芽に3日そこから7日で蕾が出来て、更にそこから7日で花が咲いて3日で種が取れる事が分かったの。でも今までは1つの魔力草の横には月の光を使用しないと大人2人分の距離を開けないと魔力草が弱って育たないのが、月の光を使用したら大人1人分まで距離を縮められる事も分かったから、次は更に距離を縮めるのを目指して月の光を2日目浴びせた物を使用して育ててみようと考えてるんだけど、設備的にそれが限界かなぁ。
水槽があるけど手間が大変だし、蓋を空けたら早く作業しないと魔力が漏れるでしょう?
そしたら正確な測定が難しいんだよ。
3日目の月の光を作るのも大変だしね。
蕾が出来たら1日2回は交換しなくちゃいけないから。
でも大型水槽が貰えたから、一部なら3日目以降の月の光を含んだ水も使えるとは思う。
あとは魔力草間の距離を縮められたら良いんだけど、他に魔法の水に魔力を増やす方法を考えた方が楽だし早いんだよね。
魔法の水に魔力を増やす方法としては、魔石を砕いて中に入れるとか、お茶に使用しない根っ子を入れてみると方法は一応考えてるよ。
それとは別に月の光を浴びせ続けるとどれだけ魔力の水の魔力が増えるのかも観察してるけど、ピノのレンズじゃ微妙な違いが良く分からなくて⋯」
「それは新しい魔力測定眼鏡を使えば解決するのではないか?」
「お姉さんからもそれは聞いてるけど、それならイチから始めないといけなくなるから⋯、それに今持ってないしね。
だからって訳じゃ無いけど、王様に1番古い月の光を浴びてる魔力の水をあげようと思ったの。ほらアレだよ。
今日で41日目になるね。
雨が降って濡れたりしたらメモを書き直してるから、この棒線がその回数を示しててね。
こうして書いて行って5回まで回数を表してるの。
最初から雨の日には外に出して無いから、その日も入れてあるよ。だから作って41日目だけど、月の光に確実に当てられた日は36回になるの。
分かるかな?」
「⋯うむ。毎日記録を取り続けているのだな。」
「うん。1番古いのはコレだけだけど、3日後に作ったピノのレンズ入りのがもう一つあってね。
それが2番目に古いの。
2番目に作った時にはピノのレンズは1つしか入れて無いけど、コレとコレも2番目に作ったのと同じ日に作ったヤツだよ。
もう一つあったんだけど、それは使っちゃったからもう無いの。
でも最近はピヨ子を育てるのに必死で、中々手をかけられなくなってきてるから、この研究もそろそろ難しいんだ。
だからダメにしちゃう前に、王様にあげようと思ったって言うのもあるよ。でも⋯要らない?
王様は忙しいから貰っても困っちゃうかな?」
「いや⋯私が手をかけずとも、月の光を浴びせる役目を与えた者に任せれば良いのだが⋯」
「良かった!なら研究を引き継ぎ出来るね?それ助かるよ。
まぁ1番古いって言ってもまだ41日なんだけどね。」
「⋯それでもこれらは全てソナタが自ら手をかけて来た研究なのであろう?手放すのは惜しくは無いのか?」
「そうだねぇ〜。でもまだ2歳なのも有るけれど、毎日の生活だけじゃ無くて魔力草の研究とか新しい発見とかしてるから、もう手一杯なんだよね。
アレもコレも手を出すのがいけないのは分かってるんだけどさ⋯」
「ふむ。なら世が引き継ごう。だが人事を決めるまでしばし待てるか?」
「うん。凄く助かる。
ありがとう。お礼のつもりだったんだけど、余計な手間かけさせたみたいでごめんね。」
「いや⋯日の光に当てぬ様にする程度の事ならば、下男にも出来よう。代りに人選は厳格に行わねば成らぬがな。」
「適当にされたら研究じゃなくなっちまうしな。でもあんまり気負わないでくれよ?」
「フン。何を言うか。ソナタが1番これの価値が分かっておる故に、世にコレを贈ろうと思っておったのだろう?」
「ハハ⋯まぁそうなんだけどさ。コイツの価値は続ける事に意味が出て来るから、魔力を測定出来る眼鏡が無いと片手落ちなんだけどね。」
「良かろう。
眼鏡は支給取り寄せておく。
だが⋯問題は規格になるな。」
「大人用でもつかえない訳じゃ無いし、そのうち成長するから別に普通ので良いぞ?」
「向こうがそれを許さぬであろうよ。ソナタは己の価値をもう少し正確に知る必要が有るのでは無いか?」
「でも顔を晒すのもなぁ⋯」
「ふむ、世もそこは懸念しておる。ソナタの姿を知りたいと言う好奇心も有ろうからな。
だがその身に合ったものを設えるとなれば、それもまた必要なのも一理は有るのだが⋯。」
高い買い物になるからオーダーメイドになるよね。
顔のサイズに合わせて眼鏡を作ってるんだろう。
私の場合はそれをされると成長するから逆に困ってしまう。
何なら眼鏡じゃ無い方が良いまである。
でもそんなこと開発した本人に直接言わないと失礼だし、そしたらやっぱり顔を合わせる事にもなる。
姿を隠したままだと正確な情報が伝えられないから、それは仕方が無いんだよ。
その魔道具が欲しいのは此方の都合だからね。
「まぁ礼儀でもあるし、開発してくれた人にだけなら良いよ。こっちも眼鏡にされると都合が悪いから、その辺の事情も相談したいしさ。」
「うむ。やむ終えぬか。
ソナタはこれから成長するであろうからな。」
「でもまだ買うお金が無いんだよなぁ⋯」
「それは気にせずとも良い。」
「それって強化魔石と人工魔石の論文書いてからの話だろう?
その論文を書く時間がまだ作れねぇんだよ。」
「む⋯」
「そっちが早く欲しいのは分かるんだけどさ。
ピヨ子の事だけじゃ無くて、今ウェブン用に卵を孵す道具を作ろうとしてて、それやんなきゃ卵が1つダメになるか、従兄弟が倒れちゃうんだよ。
私が欲を張って卵を2つ取り寄せちまったせいなんだけどさ。」
「ぬう。
また面倒な事をしておるの。
世もウェブンの卵については無知では有るが、それは業者に頼めば良かろう?」
「その業者になろうとして、コッチは色々と調べてやってんの。」
「うぬぬ⋯何故そんな事をやろうと思ったのだ。ソナタには他にも重要な研究が有るでは無いか。そもそも今は入学の為に勉学に励んでいるのでは無かったのか?」
「そんなの家族の為に決まってんだろ。それにこれもまた勉強になるんだわ。面白いぞ?
あと勉強は覚えるだけだし、まぁピヨ子が落ち着いたらボチボチやるよ。」
「そのピヨ子とやらはソナタが育てねば成らぬのか?
他のものに任せれば良かろう?」
「すり込みって本能があるから、私じゃないと餌を食べてくれないんだよ。だからこんな苦労して頑張って育ててんだってば。」
「ピヨ子とやらは何だ。卵から産まれるなら何の魔獣だ?」
「鳥」
「その程度の弱い魔獣なら、魔法契約を結べば服従可能で有ろう。
本能なぞ抑え込めば良いでは無いか。」
「またそう強引な⋯」
「ソナタはやることがいちいち回りくどくて叶わぬ。大体ルドルフの時も⋯」
「ハイハイ、イライラしない。落ち着いて落ち着いて、大きく息を吸って深呼吸する。」
「何だ一体!
世は今大事な話を⋯」
「ハイハイ。うん。
言いたい事は分かってるよ。
効率的にしろって言いたいんだろう?
王様はそうしなければ仕事が終わらないぐらい大変な日々を送ってるから。
特にアンタは昔から手広く色々と詰め込まれてたから、余計にそうなっちまってんのは分かるよ。ちゃんと分かってるよ。
でもさ、それって本当なら大人になってすれば良い事でも有るのさ。私はまだ2歳で、本当なら研究なんかしないでお母さんに甘えてゴロゴロしてたら良い年代なんだ。そうは思わないか?」
「それは⋯だが⋯」
「アンタは俺と似たような年ごろから色々やって来たから、それが当たり前になってんじゃねぇの?
でも俺から言わせたら、そんなだから視野が狭くなって来たりしてねぇか?
2歳の俺に効率を求めるのが変だと思えねぇぐらい、苛ついてるよな?
無駄に思える事でも、長い目で見たら大事な経験や知識に繋がるってことも有ると思うぜ?
ルドルフがそうだろう?
直ぐに問題を解決しようと短絡的になって、暴力に頼ったからあぁなったんだ。
ウェスタリアはそんな事をしないで、地道に積み重ねてきた日々があったからこそ、今こう言う違いになって現れてんじゃねぇの?」
「⋯⋯」
「王様の人生を否定するつもりはねぇよ?その方が良い事だって有ると思うしよ。
でもそれは今俺がする事じゃ無い。
何故なら俺はまだ2歳で、生物として生きる為に他に大事な事が沢山有るからだ。
まぁ分かってるのに変なもん見つけちまって、それを何とかしようとして色々とやって、今こんな風になっちまったんだけどな?
ピヨ子を育ててたら俺の悪い所がハッキリ見えて来たから、余計にそう思うのかも知れねぇけどよ⋯俺は多分アンタに凄く良く似てるんだと思う。
でも真似して無理してもアンタじゃないから、上手くいかなくて途中で壊れちまいそうで不安なのかもな。
アンタは凄く良くやってると思うよ。だから俺も頼りたくなるし、皆もそうなんだと思う。
でも周りがそんなのばかりだから、アンタはしんどくなっちまったんだろう?
アンタだって人間だから、効率ばっかり考えて限界ギリギリまで働いて、そうして疲れたから視野が狭くなって来て、心が焦って止まらなくなりそうで不安だったから。
俺を頼ろうと考えたんじゃねぇの?
効率は良ければ作業は捗るけど、その分心も身体も疲弊するもんだと思わないか?」
「そのわりにソナタは疲弊しておるでは無いか。」
「うん、まぁちょっとだけ頑張り過ぎてる自覚は有る。
だからアレもやりたい、これもやりたいと手を出して困って今アンタに助けを求めてる。
でもピヨ子はダメなんだよ。
効率だけを考えて良い相手じゃ無い。
それをやれば私はルドルフと同じになるのが分かるから、やらない。
そう言えば良かったのかな?」
「⋯そう考えるのは何故だ?」
「命だから。」
「⋯いのち⋯?」
「俺は人として大事な事を見落としてたんだよ。
アレコレ手を出し過ぎて視野が狭くなってて、卵を孵す事ばかりを考えてたから、孵した雛の事なんか何にも考えて無かったんだ。」
私は魔王に抱かれてる姿のまま、胸元から木箱を出して寝てるエイリアンピヨ子を彼に見せる。
「鳥は家畜として飼われてて、卵を産ませたり捌いて肉にして食ったりしてる生き物だ。
だから俺もつい軽く考えて扱ってしまったけど。
本当なら俺が手を出さなきゃ、ピヨ子は今頃他の雛と同じように普通の生活を送れてたんだよ。
産まれた時からピヨ子は私のせいで不幸になってしまったんだ。
私はそれに気がついたから、今はなるべく不幸にしないように頑張ってるんだよね。
王様の言うように魔法で契約したらピヨ子から私は解放されるのかも知れないけど、それは私がピヨ子を幸せにしようと思ってする事じゃ無いでしょう?
でも子供で未熟な私がお世話するより、ちゃんとした人のほうがピヨ子には幸せなのかも知れない。
それを思えば王様の方法が悪いとは言え無い。
でも私が他の事をする為だけに、ピヨ子にする方法じゃ無い。
うまく言えてないかもだけど、私の気持ち分かってくれる?
それとも今の時間は効率的じゃ無いから無駄なのかな?
王様はどう思う?」
「⋯ふむ。なるほど。
本心から無駄だと言いたい所だが、確かに己には無い1つの価値観を知る経験を積んだと思えば、それは無駄では無いのか。難しい所では有るが⋯」
「私は私の責任でピヨ子を育てたいの。どうせ後10日も有れば済む話だし、強化魔石も人工魔石も逃げないから。」
「そうか。世は焦っておったのか。今まで無い物であったと言うのに、いつの間にか欲に囚われておったのだな⋯。
法も人員の整備も何も出来ておらぬのに、好奇心が抑えられずに手を伸ばそうとして、故に己にはない価値で暗愚な行動をするソナタが腹立たしかったと⋯。」
「うん。待つのって難しいよね。特に興味があって楽しみにしてるのを待つのって、イライラする事もあるけど、でもワクワクしない?」
「イライラしかせぬ。」
「そう?楽しみじゃ無い?」
「己が実験する方が遥かに愉快な心地になるが?」
「もうせっかちだなぁ~」
「ソナタは呑気に過ぎるだけだ。」
「でも楽しいよね?」
「フン。退屈せぬだけで、それはどうかな。」
「ふぅん?ピヨ子ね?
今は夜だから分からないけど、羽根が白いの。普通の雛は灰色だから不思議だよね?」
「⋯変異をしておるのか?」
「再現できるかはかなり条件が難しいし、私はやらないけど。
卵を孵すのに魔法の水を使ったり、死にかけたから初級回復薬に月の光の水2番目に古いのを使ったりしたから変なのかな?」
「ククク⋯またお前は⋯」
「あと私が育てた魔力草て一本が魔力茸と同じぐらい魔力が有るらしいの。
その花付きのはもっと多いから、だからかも知れないんだけど。
花付きの花がつく前のヤツをお茶にしたら、魔力不足だった従兄弟が元気になったんだよね。
あと種もヤバいかも。」
「ハハハハハハ!
ソナタはいちいちやる事がロクでもないな!
ハハハハハハ!!!」
「ちょっ⋯静かに!
今夜中だからっっ」
ピヨ子を持ってるから片手を伸ばして塞ごうと頑張ったけど、口が大きいのと手が小さいせいで、あと腕が短かった。
だから全く口元が塞げてない。
だけど意味が通じた様でピタリと笑い声を抑えてくれたお陰で、口元に小さい子供の手が張り付いてる。
「ククク⋯まるで逢引よな。」
「ロクでも無い事を言うのはソッチだろ。」
ウゲッとなって慌てて手を戻すと、私はピヨ子入りの木箱を抱きしめた。
背筋が悍ましくてゾゾゾとする。
お母さんならきゃー!てなって、クネンクネン身体をくねらせてる所だろう。
それぐらい色気がヤバかった。
気色悪く感じたのは私がまだ2歳だからだろう。
月の光に照らされてるからか、タダでさえ美しい顔が笑みを含めば余計に妖しくなる。
マジでロクでも無い。
姫たちが結婚に妥協出来ない理由の1つに、コイツの美貌が有りそうな予感がした。
まぁそれはどうでも良い。
「ククク⋯」
「はぁ~。そろそろ寝ないとだろ?引き取りに来るまでは月の光の研究は頑張って続けてるから、今日はもう帰って良いよ。
受け渡しは夜にまた取りに来てね。日の光に晒したく無いから。」
「何だ。もう逢引は終わりか?」
「そう言うのは奥さんとやってろよ。
2歳児に言う台詞じゃねぇだろ。全くお前は気色の悪いオッサンだな。」
「ふはっ⋯ククク⋯」
「てかもう、爺さんなんだっけ?ギルバートさんて孫だよな?アンタ本当はいくつなの?」
「フフフ⋯ギルバートは世の孫では無いが?」
「あれ?サラディーン様がお姉さんの子供だって言ってたけど⋯」
「世の妹の子供だな。」
「それならサラディーン様と従兄弟同士?何でまたそんな嘘を⋯」
「世の妹が嫁いだのがダンジェロ侯爵家だからではないか?」
「それならサラディーン様の本物の婚約者はギルバートさん?」
「ククク⋯まぁそうだな。
本人達は嫌がっておるが、いずれはそうなるであろうよ。」
「へーほー。うん、お似合いじゃね?」
「是非そう言ってやれ。」
「⋯えー、2人からもの凄く嫌な顔されそう。」
「ふは!」
「そっかぁ。ギルバートさんは未来のダンジェロ侯爵様になるのかぁ。」
「いや⋯サラが錬成師になれば自ら臣下して公爵家を起こすであろう。さすればギルバートは公爵家の当主となる。」
「なんかややこしいお家騒動でもあったと。面倒臭いね、貴族って。」
「フフ⋯」
「あー、だからお姉さんは焦ってたのか。公爵家を興すには錬成師にならなきゃダメだから。
もし見習いのままならその場合はギルバートさんとダンジェロ家に乗り込んでた?」
「いや、ギルバートとは離して他国に嫁いでおったやもしれぬな。三国の更に向こうの国だ。さもなくば他の当主家に嫁ぐかだが、国内はもう粗方埋まっておるでな。」
「おおぅ⋯婚姻外交⋯。
なら生き遅れのお姉さん達はギルバートさんが空くのを待ってるの?」
「今同じく他国を見繕っておるな。」
「あ〜それでお姉さんは錬成師になろうと必死なのか。お姉さん達と嫁ぎ先の奪い合いになるから⋯」
「身勝手が過ぎる娘たちでほとほと困っておる。まぁ来年には片付いておるであろう。
文句は言わさぬ。
これまで決めきれずにいた己を恨むしか無かろう?」
「おぉう⋯。厳しい世界だね。」
「フン。本来であれば20歳前には嫁ぐのが通例よ。それをグダグダと引き延ばしていたのはあやつらだ。」
「ウェスタリアは強いから、皆欲しがってくれて良かったね。」
「此方も恥を外に出すわけには行かぬ故に後手に回ったせいで、余計な支出を背負うがな。」
「あー⋯うん。
そうなるよね。
王様にはまだ外国から来た奥さん所のお子さんもいるから大変だね。」
「アレ達は男児故にむしろ楽であったが?」
「女の子は一人づつしか作れなかったのか。」
「嫁ぎ先でもめるのが目に浮かぶ故にな。」
「普通なら産み分け出来ないけど、女の子が出来たら打ち止めしたんだね?」
「またそなたは、そう言うはしたない事を何処で学んでくるやら。」
「え?お祭りかな。色んな人の話を沢山聞いて覚えたから、何処で聞いたのかもう覚えてないや。」
前世とは言え無い。
この人なら空間飛び越えて異世界を探しに行きそう。
そしたら魔王の侵略系の物語がはじまっちゃう。
単なる錬成師バカだけどさ。
「でもさ⋯孫、いるよね?」
「⋯さて。ソナタも寝なくてはな。明日も早いのであろう?」
「お爺ちゃん。今日は来てくれてありがとう。」
「フフ⋯」
ニヤリとチシャ猫笑いを向けたら、丸いグラサンかけてクソガキと頬に書いてる魔王が不敵な笑みを浮かべていた。
おぉう怖い。
レンズから透けてる目の圧が上がってるよ。
お爺ちゃん呼びは流石の魔王も嫌だったらしい。
でも確か娘は4人いたはずなんだよ。つまり1人目はとっくの昔に嫁に行った訳だ。
さて孫は一体何歳なのかな?
星空の下のロマンティックな逢引シーンなのに、お爺ちゃんと孫とか切ない。




