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黒魔石なんて呼ぶから〜⋯。

ヒロインが着実に黒く育っていく。


私は何時も通り兄弟達に混ざって眠りにつく。

でも明日の事を思えば不安で、中々それは難しかった。

寝たふりしてたら焦れたお父さんに言われて、お母さんに連れ出された私は、温めたマモーのミルクに甘い粉を入れた物を飲ませて貰った。

お母さんの浄化魔法様々である。

暑い時期だけど温度調節のローブを着てる私は、有り難く美味しいホットミルクに涙がポロリと零れ落ちた。

夜だから静かに、少しだけ泣いてようやく私は心が落ちついたから、ポンポンとお母さんに背中を撫でられてるウチにようやく眠る事が出来たのだ。


子供饅頭が出来てる寝床に寝かせられたら、本能で涼しさを求めてる兄弟達に群がられたせいで、野太いお父さんのイビキが聞こえて来て笑った。

どうやらお母さんを待ちくたびれて、先に眠ってしまったらしい。


だから私は寝苦しくてもその重みに心地良さを感じて、また安心したから眠れたのだ。

グルグルしてた明日への不安な気持ちは、いつの間にか遠ざかっていた。


私は自分が何をしようとしてるのか、その意味を知っている。

その結果にもたらされる狂乱も、ある程度の予想はつく。

だから罪の意識を当たり前に感じてるし、逆に言えばその必要性も認識していた。


1人の人間が偽善でそれをするのは、決して褒められない事なのも分かってる。

ある程度調べたから知らん顔をして、時代の流れに任せる方が危険を引き寄せないで済む事もちゃんと理解してた。


だからこれは私の選択で、私がやらかした事の責任を理解してるからこそ、必要だと考えて行動するから只の自己満足なのだ。


甘いものが食べたくてフランをチューチューしてた頃を思えば、随分と物騒な事になって来た。

でも知らなかった事を知り、皆がすごく驚いてくれるから、ついつい楽しくなって止められなかった。

美味しい物も食べさせて貰えたし、便利な道具も沢山貰ってる。


愛されて甘やかされた子供がワガママに育つのは、予定調和だと私は思う。

何とも身勝手な自分に呆れるしかない。

何も知らない考えられない本物の子供なら、せいぜい大人になってから周りが迷惑して、本人が凹むだけで済んだのに。

私はそうはならないのだ。


始まりは事故だとは思う。

誰も悪くないし、何でそうなったのかは分からないけれど。

私は私としてこの世に産まれてしまった。

愛されて育ち。

子供らしく増長して、周りの反応を面白がって悪戯する、悪ガキ丸出しのお子様だ。

私がそうありたかった本物の子供を、私はとても満喫している。

だからいつかは叱られるだろう。

やってる事は子供の悪戯なんだけどね?

でも中身が子供じゃ無ければ、子供のする事じゃないだけだ。


私は小さな鼠みたいに、真実マヌケで弱い存在だから、自由気ままに生きてたら、いつかはプチリと潰れるだろう。

鼠って害獣だしね。

それが嫌なら愛想を振るまいて、誰かのペットとして生きるしか無いと思う。


でも私は人間だから碌でも無い飼い主を選ば無いだけだ。

何なら私の有効性を全力でアピールして媚を売ってる。

でも鼠は自由でいたいんだな。

いつかプチリとされたとしても、家族が無事ならまぁいっかと。

その程度のロクデナシで、無責任なヤツだからさ。


だったらどうせプチられるなら、暴れてやろうぜ!

それが身勝手なヤツの生き様だろう?

いるよなー、他人を殺したかったとか、自殺しようと思っても死ねなかったとか言ってキレた結果、周りを巻き込んで自滅する身勝手な迷惑バカ野郎が。

私もそれに似てるのかも知れない。

ただ私は肝の小さな鼠だもんで、ちょっとだけ周りを気遣いもする。

怒られない様に叱られない様に、姑息に生きて遊ぶのだ。

だっていつかプチられるしな。


そんな半分以上やけっぱちになりながら、私は8時に帝都の教会に運んで貰った。

私が居るのは、昨日魔王が細工した鐘楼だ。

そこから足元に広がる大きな大きな街を、少し離れた所から見下ろしている。


だって怖いよ?!

フラリとよろめいたら落ちちゃうからね?!

バンジージャンプで飛び降りるのに、床のギリギリの所で立ってたらお腹がヒュン!てするでしょう。

なら少し離れて景色見るよね?

夜だから暗いけど石造りだし、月夜だからある程度は見えるもん。

地面は真黒かもだけど、高さぐらい周り見てたら分かるからな?

高所恐怖症じゃ無くても手すりの無い床の端っこなんて、行く人あんまり居ないと思う。


さて本店だけあって豪華な教会の鐘楼は、街の中でも帝都の城の次に高く建てられてる。

鐘の音をこの広い街中や他の地方の街や村に届ける使命が有るからだ。


ルドルフ大帝国全体の基本になる鐘の場所だから、まぁそうなるよね。

ここからでも遠くに海の煌めくのがもう少ししたら見えるのかも知れない。

夏だから後1時間もしないウチに、朝日が登ると思うので。

前世の国とは違って洋風な造りの石造りな街だけど、日出処の天子様が住む帝都だ。

それぐらいの配慮はしてると思う。


海が近ければ塩に苦労しないし、外敵になる国もそっちには居ない。

海から海産物も取れるから、食べるのに苦労してたルドルフの人達には楽園みたいな土地だろう。

獣の肉や麦なんかの穀物は、周りから幾らでも集まって来る。

だから帝都が発展して、端が見えないぐらい街が大きく育つのよ。


まぁ錬成師を育ててないから城以外の建物は、せいぜい三階から四階建てが限界なんだろう。

鐘楼は塔だからもう少し高い場所に有るけどさ。

城が高いのは基礎をしっかりさせてるのと、鐘楼みたいに高い塔が沢山生えてるせいだ。

避雷針の先が何本も空に向かって細長い線みたいに伸びている。

まるで映画やゲームの中に有る様な本物のお城にちょっとじゃない興奮を感じてしまう。

だって魔王ったらピョンピョン飛んで連れてくから、せっかく王都のお城に行っても石の壁やら花壇や噴水のある庭しか見れてないんだよ。

自国より先に他国の城見て感動してるバカって私だけじゃね?


「予定通りだ。」

「ん。なら始めよっか。」


鐘楼の鐘から配線みたいなのを伸ばしてきた魔王が、前に使った通信機に似た蓄音機モドキを私の前に静かに置く。


私は白っぽい杖の柄を石畳の床につけてたので、足元にあぐらをかいて座り、左肩に棒の部分を乗せて腕をかけた状態で目の前の端末に意識を向けた。


魔王は立ったまま私の少し斜め後ろから、周りを静かに警戒している。

これから私が行動を起こせば、声の元を探して兵士が動き始める。

魔王は外から姿を見せる様な事も、魔法で探されるヘマもしないとは思うけど、神業じみた直感で鍛えてる兵士がこの場所を見つけないとは限らない。

見つけられても逃げるだけだけど、弓で矢を直接撃ち込まれる事を考えたら、魔王もそりゃ警戒するよね。

だって小さなハエや蜘蛛を切り捨てられる武人の国なんだもん。

普通なら引くのも難しい弓だって引ける猛者がいても、何も可笑しくは無い。

魔王が少しビビっててウケる。

だって私も話を聞いては?って、なったもん。

バレないと思ってたハエやら蜘蛛がバレて魔王もかなり動揺したんだと思う。

いつもヘラヘラしてたり悠然としてる彼が、今はちゃんと騎士みたいに周りの気配を探ってるからだ。


教会の鐘は朝は6時から鳴り始め、1時間毎に時を知らせて、夜の8時を最後に鳴るのを止める。

だから今は8時を半分ぐらい過ぎた所だ。

このルドルフ大帝国なら5時に近い4時を半分以上過ぎた所かな。

朝方の超迷惑な時間帯だね。

子供からお年寄りまで、本当なら寝てる時間で、早起きな老人と仕事だから何人かが起きてるだけの早朝になる。


魔王が操るヒラヒラとした青色と小さな星みたいに黄色が散りばめられた羽根をもつアゲハ蝶が、蓄音機モドキのラッパの部分に留まり羽根を開いた。


「やぁおはよう!

みんなー、あさだよー!

おっきろーー!!!」


寝てるお父さんのお腹にダイブする子供みたいに、私は無邪気な声を蓄音機モドキに向けて叫ぶ。


「なっ⋯何奴?!」


すると蝶々の羽根の中央から、驚いて飛び起きたオッサンの野太い声が聞こえて来た。

魔王が放った蝶々が皇帝の寝室に忍び込んでたからだ。

でも音は直接頭の中に響いてるから、蝶々の場所は分からない筈だ。

普通なら分からない筈なんだよ。

まぁ今の所はといった状況なだけで、音の発生源を調べられたら、あっという間に見つかるとは思う。

だって室内に蝶々がいるのは不自然だもん。


「寝起きに悪ぃなぁ〜。

昨日教会の偉い爺さんに、このぐらいの時間に来るって伝えてたんだけど、伝言聞いて無かったのか?」

「曲者ぞ!

衛兵は何をしておる!

不届き者をひっ捕らえよ!」

「いやいや、俺はそこに居ないから。どれだけ探したって見つからねぇぞ?

声だけ届けてるんだよ。

だから皇帝?だっけ?

アンタだけがこの声を聞いてる訳じゃねぇんだぞ。

何ならルドルフ大帝国の全員が俺の声を聞いてるんだぜ?」

「なっっ?!」

「ヒッ⋯」


何か若い女性の息を呑む様な悲鳴が聞こえてきてビックリした。

でもまあ大人ならそんな事も有るかと直ぐにスルーする。


「言っておくが俺様は神様でも魔物でも無いからな?

産まれてまだ2年しか経ってない可愛い人間のお子様だぞ。」

『?!』

「お休みの所失礼します!」

「皇帝陛下はご無事か?!」

「なんかワチャワチャして来たなぁ〜。

言っとくけど俺様が出来る事なんてお話するぐらいだぜ?

あんたらが歩いて蹴り飛ばしただけで死んじまう様な弱い小さなお子様さ。

だけど友達にお願いして、俺の声を滅びる国の皆に聞こえる様にして貰ってんのさ。」

『っっ?!』

「だってあんたらバカだから、自分の国が滅びるなんてちっとも思って無かっただろう?

『カウントダウン』って知ってるか?

10から数えて1つづつ数を減らしていけば最後には0になるだろう?

そんな数の数え方を『カウントダウン』ていうんだが。

数が0になったら滅ぶとしたら、あんたらの国が1番大きかった頃が10だとして、今は3か4ぐらいの所にこの国は立たされているんだよ。

あんたらも本当はそれが分かってるから、ミスドガルド共和国を倒して、3か4の所を5か6ぐらいまで押し戻そうと頑張ってたんだよな?

でもよ。

あんたらがどんだけ必死になった所で、ミスドガルド共和国は倒せねえぞ?」

「な⋯何を?!」

『何だと?!』


今私がそのカウントを1まで下げたのは秘密だ。


「理由は簡単だ。

あんたらの誇ってる軍隊は、暑さに弱いんだよ。

だからここら辺で戦えば簡単に倒せそうな弱い奴等なのに、何度も戦いを挑む羽目になってんのは、本当の敵が人間じゃ無くて『気温』だからさ。

分かるか?『気温』て、言うのは暑い寒いって肌で感じてる空気の温度の事だぞ?

しかも暑けりゃ嫌な虫も沢山湧いてるだろ?

それも鎧じゃ防げねぇから厄介だよな。

熱を出してぶっ倒れる兵士も多かったんじゃねぇの?


なぁ⋯少し考えりゃ分かるだろう?

夏場の暑い日に、重いよろい着て重たい鉄の棒を振り回すんだぞ?

気合いで行ける!って、頑張ってんだろうけど、あそこら辺を涼しくするか鎧を着てても涼しくしなくちゃ無理だからな?

あとは病気を治す薬や虫除けも要ると思うぜ?


そんなもん、どんだけ身体を鍛えた所で、あんたらは魔物じゃないし神様でもないんだよ。

そう言ったものに弱い身体の造りをしてる人間なんだ。


多少鍛えたらマシになるかも知れねぇけど、そんな事が出来るのってほんの一握りの天才だからな?

どれだけ剣が上手く扱えたって、どんだけ体力を増やした所で、我慢して暑い所を根性で走り回ってたら、それだけで死んじまうんだぞ?

戦争なんかしなくても、それが本当だからあんたらがどれだけ強くても向こうを倒せないんだよ。

なぁ、気付いて無かったのか?

だからあんたらは帝都を涼しい所に作ったんだろ?」

「なはっっ?!」

『はぁ?!』


何となく驚愕に口をかっぴろげて言葉を失ってる皇帝や兵士の姿が見えた気がする。

熱中症とか知らずに耐えてたら、そうなると思うが知らんだろうなぁ。脳筋じゃ。


「し⋯しかし!」

「最初に支配出来てたから、戦えば勝てるとおもってたんだろ?

それさ、違うからな?

最初に支配出来てたのは、向こうに住んでる人達が賢かったからだよ。


だってルドルフ大帝国と戦ったら、土地を駄目にして国の民は奴隷にされちゃうんだろう?

教会の聖地が有るような国なら、国民にそんな思いはさせたくなかったんじゃ無いのか?

だから最初に攻めて来た時は、少しは戦ったかも知れないけど、直ぐに諦めて素直に言う事を聞いてくれてたんじゃないの?

ねぇ、本当に気付いて無かったの?

少し考えたら分かる話なんだよ?』

「ぬ⋯ぬうぅぅ⋯」

「まぁそんなバカな人間が1番上に居る国だから、このまま放って置いたら滅びちゃうんだよ。」

「な⋯なにを?!」

『無礼者!!!』

「イヤイヤ、もう俺なんか怒ったって仕方が無いだろう?

俺は何も悪口なんてひと言も言って無いからな?

俺は真実を知らせてるだけなんだよ。

だから俺の言うバカっていうのは、知識が足りない未熟者って言う意味なんだ。

悪口なんかじゃ無いだろう?

だってミスドガルドと戦って勝てない理由が分かって無かったんだからさ。

でも今俺がちゃんと説明して教えたから、少し前までバカだった皇帝も、今は勉強したからバカじゃ無くなった訳だ。

どう思う?」

『⋯⋯ぬうぅ』

「俺はまだ産まれて2年しか生きて無いからさぁ。世間の決まり事とかまだ知らないんだよ。

でも変に頭が良いもんだから、情報があれば本当の事も直ぐに見えちゃうんだ。

だから俺のことを1番最初に見つけた奴は、俺のことを黒魔石って呼んでるんだぜ?


知ってるか?黒魔石。

むちゃくちゃ強い魔物から出て来る魔石の事なんだけど、お金の代わりになるぐらい価値のある、その価値が分かる人には全員が欲しがる宝物なんだよ。

俺は人間の子供だぞ?

もう、はぁ?!ってビックリしたのさ。

ちゃんとお母さんもお父さんも居るし、愛されて大事に育てて貰ってる人間の赤ちゃんが、ちょっとだけ成長したヤツなのに、黒魔石って何なんだよ。

って、本当にビックリしてたんだけどさ。


最初に俺を見つけた奴はめちゃくちゃ頭が良くて大人で周りの事を知ってたから、俺がものすごい世界の秘密を見つけちゃったから、もう俺のことが黒魔石にしか見えなくなっちゃったんだとよ。

まぁ、こんな話をしても何のことやらって分かんない人達が多いだろうから、分かる奴だけなるほどって納得してたら良いんだけどな?」

『⋯⋯⋯』

「⋯黒魔石⋯貴様が見つけたと言う世界の秘密とは何だ。

貴様はいったい何を見つけたと言うのだ。」

「ことわりだよ。

お日様が東の空から昇って西の空に沈んでいく規則的な動き方って、皆知ってるだろ?

でも何故朝になればお日様が昇ってきて、夜になればお日様が消えて行くのか。

その理由は知ってるか?


それはお日様が昇るから朝になって、お日様が沈んで消えるから夜になるからだ。


ではどうしてお日様は移動してるんだ?

どうしてお日様は東から来て西に進んで行くんだ?

どうして?何故?その意味は?

理由は?

そんな感じで自然の中にある物の働きには、1つ1つ理由があるのさ。

まだその意味や理由が分からない世界の働きの謎、つまり秘密は沢山有ると思うぜ?


俺が見つけたのは何年も何百年も世界中の錬成師が、お日様で素材が劣化するのを知って、肌でその理由を感じていても、それが何故なのかが分からなくて、探して探してそれでも見つけられなかった、世界の秘密の1つを証明する理論ってやつを俺が見つけちまったのさ。

こんな事を言われてもサッパリ分かんないだろうから、皆にも分かりやすく世界の規則が何かを例え話で教えてあげるね?」

『⋯⋯』

「教会の人達が何度も言ってるとは思うけど、人間は他人と協力しないと1人では生きられない生き物なのを知ってるかな?」

「うむ。」

『⋯⋯』

「だからこんな大きな国じゃ無くても、法律って言う仕組みを作って、皆が仲良く暮らせるようにしてると思うんだよ。

頭のいい人なら説明しなくても分かる簡単な事だよね?

でも平民は勉強しないし、バカが多いからちゃんと皆に分かる様に例え話で説明するよ?


ある1人の腕の良い剣士がいました。その若者は厳しい修行をしなくても、天才だったので簡単に強くなったせいで、自分がスゴいヤツだと考えてたから、とても身勝手なワガママな性格になっていました。


だから剣の扱いが上手くて、ほかの人より簡単に軍隊に入れた若者だったけど、前の日がお休みで恋人と過ごしてたら、ついお酒を飲みすぎて寝坊してしまったのです。


若者は仕事に遅刻したら叱られると思って、急いで恋人の家を出て行きました。

でも慌てていたのと、前の日にお酒を飲み過ぎたせいか、走ってる間にお腹が痛くなってきました。


朝早い時間なのでお店は空いてないし、遅刻するからトイレを探すのも難しかったので、仕方無く誰かの家の庭に飛び込んで、ウンウンしちゃいました。」

『ぶっっ⋯』


青色の蝶々の向こうやら、頭の上から吹き出す音が響いたけれど、私は無視して話を続ける。

だって子供が聞いてるから、下ネタはテッパンよ?


「そしたらタイミングが悪くて、家の中から家主が仕事に向かおうと出て来てしまったのです。

自分の庭に怪しい若者が居るのも驚きですが、何をしてるのか分かった家主はカンカンに怒って若者を怒鳴りつけました。

若者が素直に反省するなら良かったけれど、マヌケな姿を見られて恥ずかしかったのと、怒鳴られて腹が立ったので、つい得意な剣を振るってしまったのです。

家主は腕を切られてビックリしました。

そしてウッカリ切ってしまった若者も同じようにビックリしています。

若者は脅すだけのつもりで、本当に傷つけるつもりは無かったからです。

剣の腕が良いから何時もの冷静な自分なら、目を瞑っても失敗しないぐらい簡単な事だと思っていたからです。

でも切れてしまったからには仕方が有りません。

こんな事がバレたらせっかく帝都の良い軍隊に入れたのに、首になってしまいます。

だから若者は仕方が無く、家主を脅しました。

家主も殺されるのは嫌だったので、腹は立つけど逆らえずに素直に言う事を聞きました。

そして慌てていた若者は、他の人に見られないウチにその庭から出て行きました。


そして一生懸命に走っていたら、美味しそうなパンを齧りながら歩いてる人がいました。

剣士の若者はこれから自分が仕事をするのに、朝から何も食べていない事を思い出したのです。


ウンウンもしてお腹もスッキリしたせいでお腹が空いてるのもあって、仕方無くその人を殴ってパンを奪いました。

殴られた人はビックリしたけれど、泥棒だと思って反撃したのですが、剣士は強かったのでとても喧嘩に敵いません。

だからイヤイヤだったけれど、戦士の若者の言う通りに、黙って我慢しました。

もう剣士は腹が立って仕方が有りません。

だって自分は国を守る仕事をしているからです。

切らずに済んだのは良かったけれど、お陰で時間が随分と掛かって仕舞いました。


ちょっと庭でウンウンしたり、パンを貰っただけなのに、向こうが邪魔をするから仕事に遅刻してしまったと考えたから腹が立ったのです。


若者は自分が悪いと相手から叱られるので、自分が正しいと思っていたいのです。

だから遅刻しないように急いでいたのを、邪魔をしてきた奴らが悪いと考えました。

それに嫌なら自分に勝てばいいとも考えたのです。

何故なら若者はワガママで身勝手な青年だからです。


少しやれば剣を上手く扱える才能があったので、強くなるのは簡単な事だと思っていました。

文句があるなら鍛えてからにしろとも考えてたので、人の家に勝手に入ってウンウンをした事も、人のパンを奪った事も自分の中では正しい理由があったから問題は無いと考えたのです。


でもそれは駄目な事でした。

遅刻した若者の上の立場の人は、遅刻をした身勝手な理由を聞いてカンカンに怒り出してしまいました。


勝手に人の庭に入ってクソをする事も、人からパンを奪う事も悪いことだからです。

名誉ある帝都の軍隊にいる兵隊がしてはいけない事でした。


だから若者を正しくさせようと叱りつけたのに、若者は叱られるのが嫌で自分が悪いと思いたく無かったせいで、怒鳴る上の人が悪いと腹を立てました。

そして怒りに任せて斬り殺してしまったのです。


直ぐにハッとなった若者ですが、周りにいる見てた兵隊を全員殺すか脅せばバレないと思い、周りの兵隊仲間達を脅し始めました。

そして拒否した人たちから、俺の言う事を聞かないヤツが悪いと言い訳しながらドンドン殺して行きました。

でも自分よりも強い人が現れてしまい、若者は直ぐに殺せなくなってしまったのです。

そして突然暴れ出した若者に驚いて、仲間を殺された事に腹を立てた仲間だった兵隊達が、皆で腕の良い人を応援して、隙を見て若者を斬り殺しました。


ワガママで身勝手な若者のせいで、全部が終われば沢山の兵隊達が怪我をして亡くなっていたのです。


何故こんな事が起こってしまったのか。

それは剣が上手く使えた若者を、スゴいスゴいと皆で持て囃して甘やかしていたせいで、人間として大事な事を教えて、心を鍛えて無かったからです。


人の嫌がる事をしない、人のものを盗まない、人を無闇に傷つけない。

人間が皆で仲良く暮らすには、必要で大事な約束事でした。

これが無ければ身勝手な盗賊が大きな顔をして街を歩くでしょう。

自分の思い通りに生きる、そんな奴らは税をはらってもくれません。

だからその街の偉い人は、それは駄目ですよと約束事を作って皆に守らせるのです。

約束事を守らない盗賊は死刑にされていませんか?

人間が生きていくのに必要な決め事だと、大昔から教会で皆に教えていませんか?

同じ言葉でなくても、同じ意味をもつ話を行動を、必ず誰かがしているはずです。

それが人間を作った神様が決めた、世界の理の1つだからです。

さぁどうかな?

俺の話は間違ってるかい?」

「ふぅ⋯何を話すかと思えば下らん話をダラダラと聞かせおって⋯」

「うん?そう思うって事は、俺の言葉は間違ってるって事なのかな?

この国は剣が上手く使えたら、人からパンを盗んで食べても良い国なのか?

盗賊が堂々としてても、誰も何も言わねぇ国なのか?」

「ふん!パンを奪われた相手が奴隷なら許されるが、上級市民にそんな事をすれば許される筈が無かろう!

盗賊など見つけ次第犯罪奴隷として仕事をさせるか、罪状により処刑しておる!

馬鹿馬鹿しい話で、時間を浪費させるでないわ!」

「あー⋯良かった。

マトモな考え方をしてくれる皇帝で助かったよ。

けどよ。

あんたはとても大事なことを見落としてるんだぜ?」

「⋯何?」

「それはアンタのせいじゃないとは言えないが、アンタが生まれて来た時から教え込まれた間違った教育のせいだな。」

「⋯どう言う事だ。」

「だって人間が生きていくのに必要な神様の(ことわり)や、人間が人として大事にしてる決め事をあんたは知ってるんだろ?

なら自分の国が滅びる理由もわかるはずなんだよ。

なぁ⋯大きな帝都を治める様な偉い人なら、此処まで言われたら何のことか分かるだろう?」

「⋯この者を探せ!

捕まえてワシの前に連れて来い!!!」

「だから探しても見つからねぇのさ。

だってアンタの国の人じゃ、ルドルフ大帝国の全員にこの話を聞かせる方法なんか、知らないだろう?」

『っっ⋯⋯』

「疑うなら後で隣の街で聞いて見ろよ。なんなら国の端に住んでる人に聞いてもらってもいいんだぜ?」

「ば⋯馬鹿なっっ⋯」

「俺はルドルフ大帝国が本当に滅びちまうから、そうなる前に間違った教えを捨てて、周りの国の人達に許して貰える様に、正しい事を伝えに来たんだ。」

『な⋯なにを⋯』

「まさか⋯」「本当に⋯?」

「ええい!狼狽えるな!

賊の妄言などに惑わされるでは無いわ!」

「皇帝には残念だけど、俺はお人好しな賢人(けんじん)。つまり人間が大好きな賢い子どもだから、賊ではないし。

妄言。つまり嘘は言って無いんだよ。


だってこの国は人間として、正しい生き方をして無いから、世界の国の人達から滅ぼされてしまうと皆に知らせてるだけなんだ。

もう剣士が剣を振り回してたら戦争に勝てる時代は終わっちまったのさ。」

『なぁ?!』

「だからルドルフ大帝国は生き方を変えて行かないといけないんだよ。

真実って奴は痛いし苦しいもんなんだ。でも目をそらしても、そいつからは逃げられねぇのさ。

目の前に強くて自分が叶わない剣士がいたとして、目隠ししてもソイツが消えないのと同じなんだよ。」

「は⋯バカな⋯」

『うぅ⋯』

「もう滅びのカウントダウンは始まってる。

昔は10もあったのに、今じゃもう後3か4ぐらいしか残ってねぇんだよ。

だからこのまま何もしなければ、0になった時。

この国は今まで他の国にして来た事の報いを受ける事になっちまうんだ。

信じたくない気持ちは分かるさ。どうやって?ってあんたらも疑うだろう?

でもこの国の軍隊が暑さに勝てない様に、剣を振り回した所で一瞬で殺されちまう。


そんな物を作れる知識が、世の中を変えて行くのさ。

2歳の赤子みてぇな俺が、今ルドルフ大帝国に住む全員に声を送る事が出来る技術がそうだ。

あんたらの理解出来ねぇもんが、世界中にはゴロゴロ溢れてんだよ。

東の端っこに住んでるアンタ達は、それを知らないだけなんだ。


何でそうなってるのか分かるか?

お前等がしてる支配の方法では、弱った国がこの国の1番外を取り囲んでるからさ。

そんな国を金を持った旅商人は通れないんだよ。

ちゃんとした国が有っても、アンタ達は嫌われてるから、ヤバいと思われて他国の商人が避けてるんじゃねぇの?


それでも金にガメつい商人や、教会関係者から新しい技術や知識は少しは届くが、あんたらはちゃんと他国の商人や教会を大事に扱って無いんじゃ無いのか?

だからほかのマトモな国より、色んな知識や大事な技術が遅れちまってんだよ。


俺が見つけた知識は、大勢の人達を幸せにする為の知識だが、世界中の時代を進める力の有る知識なんだ。

そこに元から時代遅れの盗賊の国があるなら、元から滅びかけてんだから、トドメが簡単になっちまうんだよ。


俺はモノを知らねぇ赤子みてぇな子供だったから、まさか時代に遅れてるのにも気がついてねぇ、間抜けで盗賊みてぇな事をしてるのに、堂々と大きな顔が出来る恥ずかしい国があるなんて思っても見なかったんだ!」


魔王がグンと上半身を折り曲げたのでギョッとしたが、口元を抑えて吹き出すのを耐えたのでスルーしておく。


「勉強して始めてヤバい国を見つけちまったから、俺は慌てて飛んで来てるんだよ。

でもこの知識が当たり前の様に世界中に広がれば、盗賊の国はもう生き延びる事が出来なくて当たり前なんだ。

だって金はあるのに獣車を知らなくて、荷物を背負って足で歩いて街道を進んでる、バカな旅商人みたいなもんなんだぞ?」


今度は背筋を反らして魔王が上を向いたが、こっちは真面目な話をしてるのでスルーしておく。


「人間が生きるには、協力して助け合う事が決まり事だからだ。

他人の国から奪うだけ奪って、同じ人間とすら認めずに他国の民を踏みにじる様な、最低な生き方を正当化させてる奴らを、世界中の人達は絶対に許さないぞ。


ミスドガルド共和国の人達だけで無くて、今までなら何の関係も無かった国までもが、この国の汚くも醜い生き方を理由に、金持ってるのに古臭い道具しか知らない事に気付いて、簡単に戦争に勝てると思って潰しに来ちまうからだ。


お前等が教えちまったんだぞ?

戦争に負けた国の財産を奪って、国民は全員奴隷にするんだろう?

アンタ達が今までして来た事が、全部アンタ達に降りかかって来るんだぞ!


なぁ⋯なぁ俺、嫌だよ。

自業自得の国だからって、そうやって他の国に迷惑をかけて生きて来た国にだって、人間として生きる権利ぐらい与えたいじゃんか!

今踏みにじられてる人達だって全員助けたいと思うからさぁ!


俺⋯自分の損にしかならないバカな事をしてるって分かってるけどさぁ〜⋯

なぁ頼むよ。

俺が良い見本を教えてんだ。

悪ぃ見本を周りに見せるだけ見せといて、責任も取らないで消えてかないでくれよ⋯。


奴隷は悪い事だったってちゃんと気付いて仕組みを変えて、奪うばっかりだった他の国の人達の財産や国の民を返してやってくれよ。

じゃないと今平和に暮らしてるルドルフ大帝国の民が全員奴隷になっちまうんだぞ?

そんなの可哀想だろう!


俺なんかよりも自分達の方がそのヤバさが分かるよな?

ミスドガルド共和国に勝てない事で、今虐げられてる周りの国の人達は、ルドルフ大帝国をいつ潰そうかとその隙をずっと狙ってるぞ?


この国の人達は何にも分からないウチに犯罪者の親に産まれた時から育てられてるから、皆正しい人間の生き方を知ってるのに、自分達の国がどれだけ悪いか分かって無いんだぞ?

今まで自分達がやってきた奴隷の扱いを、今度は自分達が周りにされるなんて絶対に分かって無いだろう!


でもそんなの思ってるの、この国に住んでる人達だけだからな?

他の国の人も、離れてる国の人達も全員が分かってんだぞ?!

だって思うだろう?

盗賊の国がやって来た事を自分達がやり返したって文句ねぇよなって言われたって、国が弱かったり、滅びてたらどうにもできねぇぞ?


暑さに勝てねぇ事にも気付いてない。2歳の子供が国の全部に声を届ける方法も知らない。

国がヤバい事繰り返してる事にも気付いてない!

奴隷と自分が同じ人間なのも知らない!

そんな甘い汁飲んで身勝手になる様に育てられた、バカの集まる国なんて、そりゃ潰されちまうだろう。

剣なんかで太刀打ちできなくなるんだし、そもそも何で自分達が負けるのかもわからない様な、そんなバカの国なんだぞ。


バカバカ言われて腹が立つよな。耳も頭も胸も痛いよな。

恐ろしくて息だって苦しいよな。

本当の事を知り、ちゃんと受け止めるのは大変な事なんだよ。

でも本物の剣士が沢山いる国の人ならきっと根性だって有ると思うんだ。


今は悔しくても歯を食いしばって耐えて、何故自分達がそうなのかを見直して、間違いを見つけて、生き延びる道を探し出す根性を持ってなければ、こんな大きな国なんて治めてられねぇだろう?


他人の国を自分の欲だけの理由で滅ぼすな。

自分の国を頑張って守れ。

自分達の国の民を粗末な奴隷にされたくなければ、他の国の民も大事に扱え!

奴隷も皇帝も平民も貴族も、全員基本は同じ人間って種族なのを、しっかり胸の大事な所に刻みつけろ!

皇帝が偉いのは皇帝だからじゃない。

国の民が生き延びられる方向を目指して、皆を引っ張って行ける力が有り、国の代表者として一生懸命に働いてるからだ!


俺の言葉が信じられないなら、自分の中に答えを聞け。

間違った偽の教えの言葉じゃねぇぞ!

人間として正しく思える生き方だ!

あんたらはきっとそれが出来る人達なんだよ。

だから滅びを迎える前に、どうかそれに気づいて欲しい!

沢山の兵士を殺して、最後に殺された身勝手な若者の剣士にならないでくれ!


滅びるからって金持って国を捨てて逃げ出した所で、国が滅びたら一生安全な住処(すみか)なんて見つからないからな?!


歯を食いしばって死なない為に、奴隷にならずに済むように、誰かの為に生きてくれ。

最初は自分のためでも、それが身勝手な行動じゃ無ければ、そのウチ誰かの役に立てるから。

皆で協力して支え合って、教会の爺ちゃんに相談して、他の国の人達を幸せにしてやってくれ!


言っとくけどルドルフ大帝国が今までやって来た事が酷すぎて、どれだけ教会がお人好しで頑張ってくれてもお前等全員は助けられないからな?!


でもちゃんと相談して、正しい行動しないと身勝手なバカから死んでいくんだぞ?


苦しくても、金がなくて腹が減ってても、頑張って頑張って正しい行動をして、全員が力を合わせて生き延びられたら、奇跡だってきっといつか起こせるさ。

真実を見抜く俺が保証しといてやる。

今までのルドルフ大帝国は滅びても、まだ根っ子のルドルフ国が滅びると完全に決まってなんか無い。

俺がその滅びの道から抜け出せる、まだ本当にか細い希望への道を教えたからだ。


帝都を追われて古巣の貧しい土地に戻ってきたとしても、ちゃんと奇跡を掴み取れたら、アンタ達も周りから自然と必要だとおもわれるから。

苦しくても辛くても今までしてきた罪から目を絶対に逸らすな!

負けて溜まるかって、自分の弱さに歯を食いしばって打ち勝て!


昔のアンタ達の祖先にはそれが出来たんだ。

やり方は間違ってたけど、ド根性で困難を切り抜けて来たから、子孫達は此処まで繁栄してんだよ。

そんな人達がこの国の本物の民なら、この国はきっと滅びずに新しく生まれ変われると思うからさ⋯。


昔昔のルドルフ国の人達は、厳しい環境で生きるしか無かったから、盗賊の真似事をして生きて来たけど、本当は家族を守りたいだけだったんだと思うんだ。

自分達が死ねば家族が飢えてしまうから、毒も使ったし夜襲もして被害を少なく減らして戦ったんだ。

食料が欲しくて国を襲ったのに、自分達で土地を毒で台無しにしちゃったのは、今まで畑なんかあんまり無くて、その後どうなるかなんて深く考えてなかったからだ。

そこの国の民を自分の国に連れて帰ったのは、食べ物の代わりにキツイ仕事を手伝わせたり、可愛い女の子が欲しかっただけなのに、食べ物が無いから外に出た事をウッカリ忘れてて、住んでるところより寒さの厳しい土地で、食べ物も無ければ、そりゃ他の国の人達は死んでいくさ。


殺そうだなんて思って無かったのに、勝手にコロコロ死んでいくから大昔のルドルフ国の人達はきっと驚いただろうぜ。

だって自分達はそれで長年生きてきたからだ。

悪い事をしてるのには気付いたけど、若者の剣士みたいに色んな言い訳を自分にして、弱い心を隠して目を逸らしたから、奴隷なんて下らない文化が出来ちまったんだろ。


なぁそんな奴らの教えを、今の時代も大事に守る必要って本当に有るのか?

どう思う?皇帝陛下。」

「⋯⋯」

『⋯⋯』


言葉を失い、ひたすら無言が続く。側に居るだろう女性も兵士も何も言えないでいる。

考えているのか、思考を放棄してるかまでは見えないが。

取り敢えず反発は出来なくなった様だ。


「そっか⋯うん。

辛いと思うけど、自暴自棄になんかならないでね。

皇帝が、貴方が踏ん張らなければ、この国が滅びちゃうから。

貴方ならきっと強い人だから、頑張れると思うんだよ。


だから周りの人達も、頑張って支えてあげてね。

心が弱い身勝手な人達は、自分達ばかりを助けようとして勝手に自滅すると思うけど。


それに巻き込まれないように前を向いて進む人達を、皇帝陛下が皆の為に頑張ろうとするなら、同じ様に頑張ってる人達と一緒に助けてあげてね。

私は子供だから、遠くから知らせて祈ることしか出来なくてゴメン。

だからどうか⋯皆で協力して生き延びて、幸せになってね。

バイバイ。」


秘技まくし立てからの言い逃げ!

多分平民ならサッパリ分からんのでは無いかなと思うが、てか脳筋にどこ迄伝わってるか全く自信が無い。

奴隷が駄目とか私本当に思ってないしな。

やり方次第では救済措置に出来るよね?

人間としての尊敬は残して、ダメ男やニートを働かせられる手段として使うのなら最高じゃね?

まぁそんなもんは極論だろうけどさ。


終わったと、魔王に手を振って合図を送ると彼はスッと魔道具の前に片膝を立てて腰を降ろした。


「⋯ルドルフの国主よ。

世は貴殿と同じ、1つ国を統べる王である。」


思わずギョッとして、暗闇にそめられた中でも光を放つ金色の髪が流れる背中をジッと見つめた。


「⋯貴様の計略か」

「いや、今は丁稚の真似事をさせられておる、友人の黒魔石にだ。」

「⋯は?」

「ふむ。呆れた話では有るが、貴殿と同じ様に黒魔石にしてやられた王が世なのだ。」

「⋯何が、言いたい?」

「黒魔石を2つ使わされた。

この人間の幼子では無く、魔石の方の本物の黒魔石だ。」

「⋯???」

「世の国では年間の国費に黒魔石1つあれば足りるが、ルドルフであれば10年は保つ。

この国の規模は世の国に比べると半分もないからだ。

そして経費に必要な魔道具も無い。

具体的なルドルフの国費が分からずとも予想はつく。

それ程まで価値が高い黒魔石を、2つも使わされたのだぞ!


それだけでは無いぞ?

世の時間だけで無く、他にも世が政務の合間を縫って(わず)かな時間で地道に集めた希少な素材も使わされたのだ。

金では買えぬ!

希少な素材をだ!!!」

「⋯お、おう。」

「更に申せば世の技術は黒魔石を3つ報酬に積まれた所で、全く足りぬほど高い価値を持つ物なのだ!

ルドルフに興味などない!!!


滅ぼうが栄えようが世には爪の先ほどの得などなく、関わればむしろ負債でしかない!

故にこれまでは無関心を貫いていたのだ。

必要が有るのであれば納得も行くが、何故世が貴殿の国の為に行動を起こさねば成らぬのだ。

納得がいかぬ。」


な、何か知らんけど魔王が猛烈に愚痴り始めてる!

しかも皇帝陛下に話してる様に見せかけて、ルドルフ大帝国の全国民相手にだ!


「そんなの俺様が頼んだからに決まってるじゃんかよ。

悪かったよ。

タダ働きさせちまってよ。」

「世もそうであるが、例え小国だとしても一国の王がすることでは無い。」

「王様がすることじゃねぇけど、友達だから手を貸してくれたんだろ?

俺一人じゃ喋る事も出来なかったしさ。」

「ふん。」

「ホントに感謝してるんだ。

王様が頑張ってくれてなきゃ、大事な話も伝えられなかったし。

お金も沢山使わせちまってごめんな。今はお金なんて持ってないけど、いつか働いて頑張って返すよ。」

「⋯何故ソナタが世に返さねば成らぬ。返すのであれば恩を受けたルドルフであろう!」

「イヤイヤ、俺が勝手にした事だし、これからこの国はすごく大変になるんだぞ!」

「だったら何だ。

幼子に施されて喜ぶ国などおらぬわ!」

「だからそうじゃ無くてさ!

別にルドルフ大帝国の人達は何も頼んで無いからな?

見本だよ見本!

こうやって他人のために働くって言う事の、良い見本や手本になるだろう?


もう、悪かったよ!

拗ねるなって!

俺が見つけたもんはちゃんと王様に教えてやってるんだから、それで良いだろ?

だからもう帰ろう!」

「世はソナタに報酬は渡して居るし、保護も願いも叶えておる。

決して無償で知識を得てはおらぬが⋯まだ釣り合うとも言えぬか。

まぁ良い。


ルドルフの国主よ。貴殿がしくじり、他国に政略されて滅ぶなら、世は今回使わされた費用の全てをルドルフに要求してやる。


腕の立つ剣士も使えそうな民も、踏み躙られる前に全て世が連れ去り、この度消費した分は病むほどこき使ってくれるわ。

奴隷では無いぞ。

世の国の民として扱ってやる。

貴殿との王としての格の違いを見せつけてくれる。


金に群がる蛆虫は不要だが、貴殿の国の剣士は良い腕をしていた。

滅ぶには惜しい技術だ。

奪われるのが不本意ならば、今夜の行いを無駄にせぬ事だな。」

「なっ?!」

「万が一でも、幼子と侮り世の友人を害すなら心せよ。

世の怒りをその身で思い知る事になる。


空を見上げるが良い。

ソナタらに真の王たる世の力の一端を少し知らしめてやろう。」


フンと珍しく鼻を鳴らして魔道具の配線を切り。

スッと手で払って消した魔王は、座っている私をヒョイと摘んで持ち上げた。


「俺のためか⋯?」

「バカを申すな。

世は貴様とは違う。

滅ぼすと言って救おうとするなど、ルドルフが滅ばねばソナタはその身を危険に晒す事になる。

度を越しておるわ。

ソナタは只の人である事を忘れるでは無い。」

「うん⋯王様、ごめんね、あと、ありがとう⋯」


魔王が私を抱え直し、片腕に座らせてくれたから杖を胸元に挟んで両手でギュと握りしめた。


「わ⋯」


次の瞬間、私は魔王と教会の遥か頭上の空中に浮かんでいる事に気づいて、目をパチパチと瞬く。


「⋯ーーーー」


魔王が小さな声で歌う様にスルスルと聞き取れない音を囁くと、ごう⋯と風が私達の周りを周回する様に渦巻く。

魔王の金髪や服やマントも風に煽られてバタバタと音を立てている。


「わ⋯」


そして唐突に魔王は片手を振り上げると、その美しい指先からかなり離れた場所に太陽みたいな白くて丸い光が浮かんでいた。


そしてそれがヒュルンと猛スピードで頭上高く登って行く。

ポカンと口を開けてそれを見上げていると、真っ白な光が急激に大きくなり。

次の瞬間ぶわ!と、大きな大きな玉になった。

そしてさらにドゴン!と音が響いた後で、熱風が押し寄せて来る。

熱っ!と思った次の瞬間には、私は森の上にいた。

そして私が見上げている空に白くて大きな光が、ルドルフ大帝国の帝都を明るく照らしている。

まるで真昼になったかの様な輝きだった。

遠くにある海まで、水平線がハッキリと見えてて感動する。


「⋯スゲェ⋯お日様みたいだ。」

「フン。」


得意げなフンだなと思って、大きな光の玉から魔王に視線を戻せば、魔法薬の瓶を煽ってる所だった。

まるで徹夜明けにスタミナドリンクを飲んでるサラリーマンみたいに、少し萎れていた魔王がシャキとした姿に、コイツの馬鹿さ加減を思い知らされた気分になる。


「あのさぁ⋯。薬のまなきゃいけないなら、あんなもん出すなよ。」

「ぬう。あれしきの事大した事では無い。

薬は単なる用心だ。」

「イヤイヤ、見栄張るなよ。

俺なんかにそんなもん要らねだろが。」

「見栄でない!」

「ハイハイ。」

「貴様、世を愚弄するか?」

「してないしてない。

面倒だから絡んでくんな。

王様がスゲェの知ってるから。

でもあんなもん出すからスゲェ訳じゃねぇぞ?

アンタが本当に、すごいのは『貪欲なまでの未知への好奇心と探究心だよ』」

「ぬ⋯」

「なんて説明したら良いか⋯、知らないことへの飢えと、知ることの興味と、それを好ましいと思う心。そして何処までも答えを探し求める強い願い、かな?


俺がどうやってルドルフを滅ぼすのか気になってたんだろ?

だからアンタは協力してくれたんだな。

本当に言葉だけで国を滅ぼせるか、知りたかったんだ。

でもアンタは勘違いしてる。

俺の話を全て理解したのはアンタぐらいだよ。

彼奴は皇帝陛下ですら、途中から俺の話について来れてなかったんだ。

平民なんざ更にそうだ。

何か変わらないと駄目な事は何となく分かったかも知れねぇけど、じゃあ具体的にどうしたら?ってなると彼奴等は何も出来ないのさ。」

「⋯つまり何だ?」

「ルドルフは滅ぶ。

平民は目先の事しか分からねぇ。だから皇帝は新しい国を滅ぼすか侵略して、目に見える形で平民達に納得出来る供物を与えてた。

でもそれが無くなってしまったら、あっという間に不満が高まる。聞き分けの良い連中ばかりじゃないからだ。

そして皇帝がちゃんと仕事をしてないからだと思い込む。

あとは暴れる平民を取り押さえる兵隊との内乱が始まるのさ。

他の国も荒れて行くルドルフを見たら、あっという間に掌を返してルドルフを食い尽くしに来るだろうぜ。

思いだけでは国なんか救えないのさ。」

「⋯言葉で滅びへの不安を与え、真実の滅びへ扇動したのか。」

「元々自滅する奴らだからだ。

身勝手になる様に育てられたバカが多いなら、きっとそうなる。

アンタがダメ押ししちまったから、前の時代の戦が上手いだけの皇帝陛下じゃ立て直せない。余計にそうなってるだろうな。

それをひっくり返せるんなら、あの皇帝陛下は俺とアンタと同じ存在だと証明になる。」

「フン。

だとしてもだ。

野盗の頭に遠慮なぞせんわ。

貴様とは違う。」

「だからダメ押ししたんだな?

俺が甘いと思ったんだろ。

アレは俺なりの保身だったんだけどな。逆恨みされて俺が殺されるだけなら良いけど、家族まで巻き込みたく無かったんだよ。

だから小狡く攻めたのさ。

俺はどうしようもなく非力だ。王様の負担を増やして、甘えてるのは分かってるよ。」

「⋯そうか。

貴様は(さか)しく生き、その身を守るのか。」

「小さな生きものは小さいなりに、(かしこ)く無ければ死ぬしか無いからな。

例えいつか自分が掘った穴に埋まっても、それは俺が自分で選んだ道だ。

だから俺なんかにかまけてないで、奥さんを大事にしてやれよ。」

「⋯フン。言われずとも承知しておるわ。」

「んで縄は作ったのか?」

「ブハッ⋯」

「そうか。

作っちまったかぁ〜。」

「ククク⋯」

「しかも、縛り返したと。」

「実に良き趣向であったわ。」

「しばらく近寄って来てくれなさそうだな⋯」

「ハハハハハハ!!!」


うん、魔王が強いのは知ってた。

気持ちよく高笑いする魔王に、心の目が遠くなる。

ヤバ!

ハッとした。

今度王妃と第2夫人にあった時に、顔みたらニヤニヤしそう。

そしたら私は2人から殺されるかも知れん。

ヤバヤバ。

奥さん達の前で開き直って爆笑したら拗れそうだから、他の良い案を考えておこう。

私はこれから彼女達の前では謙虚に生きるのだ!


こうして私達は何事も無く、無事にウェスタリアに戻った。

何せルドルフ大帝国は東の端っこにある国なので、農民の娘なんかが情報を得る機会なんて全く無い。

王様もアレから音沙汰無いしね。

私もお嬢さんに会えば何か聞かせて貰えると思うけど、特に急いで会う理由も無いし。

魔力草や人工魔石や魔石の魔力増幅がどうなるかなんて、今は特にどうでも良い。

お風呂は気になるけれど、伝えたい想いは言えたから、後は完全にお任せモードだ。


目下の私の興味はウェブンの卵にある。

だって従兄弟のバッカス(16歳)が、もの凄く大変そうだからだ。

真夏でとても暑いのに、バッカスは卵を2つ抱えて今も鳥の掃除を頑張っているのだが。

両手を使う為に卵を背負っているんだけど、温めるのと卵を固定するので背中を布で覆っているから見てるだけで暑苦しい。


「うーん⋯取り敢えず水で濡らした布を首に巻いてみようか。」

「おう⋯」

「頭がフラフラしたり、痛かったら塩と甘い粉を入れたお水をちゃんと飲んでね?

甘く見てたら死んじゃうからね?」

「え?死んじゃうのか?!」

「そうだよ。身体から汗で水や塩が出て行くの。軽ければボーッとしたり気分が少し悪くなるだけなんだけど、酷くなったら頭が痛かったり、手足が震えたり痺れたり()ったりするよ。

それも我慢してたら、最後は倒れて死んじゃうの。

だから無理しちゃだめよ。」

「でも親父が居ないから、仕方が無いよ。」

「⋯うん、ゴメンね。」

「何でリリアナが謝るんだよ。叔母さんの話聞いたから知ってるんだぞ?50歳越えて狩人して孫育ててるとか、マジでスゲェ。それに従兄弟に会えるんだから愉しみだろう?」

「従兄弟じゃ無くて従兄弟の子供ね。」


バッカスは本当優しくて良い子だから、暑さに真っ赤な顔をしてるのにニコニコしてる。

熱中症が既に不安だ。

塩には心臓や筋肉に電気を伝える役割があるので、身体から減ると心臓の動きを弱めてしまう。

血圧が高くなったら塩分を控えろと言われるのはそのせいだ。

野菜を摂れと言われるのは、果物にもおおく含まれてるカリウムと言う電解質が塩と逆の働きを持っているから。

では何故果物じゃ無くて野菜を摂れと言われるかと言えば、美味しい果物は言わなくても勝手に食べるし、糖分が高いので摂りすぎも良くないからだ。

因みに野菜でも根菜はカロリーがたかいので要注意。

「野菜を食べてお菓子を控えてるのにちっとも痩せないのよ〜」と、ボヤいてる初老のお婆ちゃんに、詳しく話を聞くと食べてる野菜とは人参や蓮根や大根の混ざった煮物だったのだ。

根菜は野菜の部位でも糖分が高い上に、煮物には砂糖や味醂などの糖分の高い調味料を使ってる。

そりゃ痩せねーわ!と、突っ込んでる女医さんが、テレビでそう言ってた。

つまり医者の言う血圧が高くなったら野菜を食べろの野菜は、ほうれん草や小松菜等の葉物野菜のことだ。

皆様ご注意下され。

私も豚汁を飲んでオニギリをカットしてダイエットしてる気分になってたバカでした。


そして熱中症になるのは身体から塩分が減ってるシグナルとなる。砂糖を摂らせるのは塩分と一緒に糖分を摂ると、水分の吸収が良くなるのと、カロリーを摂る事で疲労感を回復させる目的があるらしいよ。

レモンは含まれてるクエン酸が、身体の中でアミノ酸に変化して疲労回復の役に立つからだそうだ。

クエン酸が糖分より山ほど詰め込まれてるもん、一杯ここにはあるぞー!


取り敢えずバッカスには、後で休憩する時にスポドリの差し入れが必要だと判断する。

今は取り敢えず暑さ対策を考えよう。


「私は力が無くてお手伝いもあんまり出来ないから、ちょっとカス兄に良いもの探してくるね!」

「はぁ?!

変な所で名前切るなよ。

カスて何だ?

バックかバースだろ!

つぅかこれ前にも言ったよな?

おい!ちょっとこら!」


『後ろにバックします』とか前進して言いながら、六甲の曲が頭の中に流れた私は、トテトテと牛歩で小走りしつつ、私は実家に戻ってテーブルの上に魔法の鞄からお嬢さんが貸してくれた商品カタログを開く。

身体の熱を冷ましてくれるマフラーを見つけて、値段を見たら銀板1枚で買えるのがわかった。


でもバッカスはコレで良いけど、それでもし身体の熱を下げてしまえば、ウェブンの卵を背負う意味が弱くなる不安もあり。ウーンと頭を悩ませる。

ウェブンをいつもバッカスが背負っている理由は、卵を温める事と、羽化した時に1番最初に顔を見せる為だ。

次はカタログを閉じて横に置くと、ヴィラフォンテお爺ちゃんが貸してくれたウェブンの資料を開く。

少し癖のある字だけれど、何度か読んだのでもう慣れてきた。

絵じゃないから分かりにくいけれど、身体の温度についての記載は載ってなかった。

でも魔法の鞄でない布製の鞄を肩に下げるか、背負うのが好ましいと書かれている。

最初バッカスは斜め掛け鞄を使用して、卵を入れていた。

でも作業すると鞄がずれて身体の前に来るから、卵を割りそうだと背負いに変えたのだ。

ウェブンの卵はとても大きくて、何時もの卵の20倍は有る。

だから2個も布に巻いて背負うと背中の大部分を布で覆ってしまう。

そりゃ暑いよ。

今は8月半ばぐらいなんだもん。

最近雨が多くて湿度も高いから、余計に蒸し暑く。

特に鳥小屋は熱が籠りやすい、

夜に脱走しない様に、窓が小さいからだ。

長く空を飛ぶ訳じゃないけど、2mぐらいジャンプする時があるからそうなってる。


私はウーンウーンと知恵を絞って色々と考えてみた。

籠だと卵が重なるから、歩いてる振動で割れないか不安になる、でも間に藁を沢山敷いたら駄目だろうか?

ワザワザ布と書いてる意味があるのか無いのかも不明で、実に悩ましい。


ウェブンは足の長い鳥だ。

しゃがんで座った状態で卵を温めるなら、衝撃には強そう。

ウッカリ蹴ったり、踏んだりするのはあり得そうである。

羽毛と鳥の体温でかなり高い温度に包まれる必要がありそう。

年中卵を産むから、無精卵なのか有精卵かは卵が返らなければ見分けがつかない?

本当に?ある程度育てば光に透かせば、分かりられてぶつかってもそうだけど。

殻が分厚いから見えにくいのかな?

なら籠に揺良いかも。

でも身体から離されたら温度が下がる。

布や藁でも足らないなら、卵を温めてくれる何かが必要。

でも必要なのは温度だけ?

魔力も必要としない?

1番最初に顔を見せる為もあるけど、身体から漏れる魔力も必要ならどうかな。

私は一節に視線を止める。


「ウェブンは獣だと世間では呼ばれているが、正しい手段で羽化させると攻撃性が落ちるだけで、生物としては2級の魔石を持つ魔物である。」


うん。羽化には布と藁と温度と魔力が必要そう。

でも1つだけでも重い卵を2つ背負い、更に藁や布に魔力の水は重すぎやしないかな。

だって労働してるんだよ。

それに顔だけじゃ無くて、魔力を覚えてたら身体から離すのは宜しくない。

そもそも卵に魔力の水は使えないかも。入れたら窒息されちゃいそうだもんなぁ。


「ウーン⋯振り出しに戻っちゃった。多分情報や知識が足りてないのかなぁ⋯」


老化が無いなら成長をしない可能性があるので、ウェブンの成体を元に魔法生物ウェブンは作られてる。

ハッと閃きが走った。


魔物なら魔力で羽化させられないか。

頭の中に有るのは、ウェブンが卵の上に乗ったら日陰に卵があり、上から退いたら日に当たる状態である事。

そして日陰の妊婦が魔力過多症になることだ。

卵を人為的に魔力過多症に追い込めば、羽化を早めさせられるのでは無いかと仮定する。


でも原種ウェブンより強い個体が産まれそう。魔力や顔を覚えさせるのは必須になる。

卵が呼吸してたら魔法の水に浸すのはマズいのは、さっき気付いたから、魔石の方法は使えない。

もし殻の厚さが温度だけ通して、分解能力を落とす作用があるなら卵に直接月の光を当てても意味が無い。


それなら夜、野外で寝転んだバッカスに卵と添い寝させて月の光を浴びせる。日中はバッカスが今の方法で、体温を冷やさせる手段を取る。


夏だから野外で寝るのは問題無い。虫が少ないから刺される心配も薄いしね。

藁のベットは暑そう。

卵には良いけど、ハンモックならどうだろう。

木の棒を地面に打ち付けて布を使ってハンモックを作り、お腹の上に卵を乗せて寝る。

涼しくて良さそう。

でも羽化の温度が不足する?

種から発芽させるには土を必要とした、なら温度は外せないか。

鳥は夜間動かない事を思えば、保温性が高そう。

昼は動いても日光が当たる。

魔力が分解されても日が卵を温めてる。

温度は外せないのかなぁ⋯。


行き詰まりを感じて資料達を魔法の鞄に治めた。

そしてバッカスにハンモックの事を相談しようと思いつつ、鳥小屋に向かうと鳥小屋の外の日陰で彼がグッタリしてるのを見つけた。


「バック兄ちゃん!」

「⋯おう⋯」

「頭痛い?」

「いや⋯身体が怠くて、何か魔法の水を沢山出した時みたいな⋯」

「分かった!

少し待ってて!」


魔力切れの症状かも知れないが、一応熱射病も視野に入れて家に走って戻る。

またポテポテと。


「お母さん!

魔力草でお茶を作って欲しいの!」

「あらあらどうしたの?」

「バック兄ちゃんが卵に魔力を吸われてるのかも知れない。

熱にやられた事も考えないとだから、塩と甘い粉は必要。

魔力草を茹でて食べさせてもいいのかな?塩と甘い粉で炒めてみる?美味しいかは分かんないけど⋯炒めてる時に魔力が逃げるならスープだ!」

「うん???」

「お鍋にコップ半分よりも少なくした魔法のお水入れてお湯にしてて、お母さん!

私他の材料取って来る!」


寝室に向かって種にしようとしていた魔力草を取ろうとしたけどハッとした。

種はどうだろう。

発芽に必要な魔力が込められてるなら⋯。

魔力草一本よりは少ないかも知れない。

でも魔力草の限界まで魔力が高まった所で出来るのが種だ。


予備の種を1つパクリと口に入れて噛んでみた。

でも硬くて噛めずにペッと出す。

バック兄ちゃんなら噛み砕けるかも知れないけど、元気の無い今じゃ難しいかもだし⋯。

私は1日分の月の光を込めた錬成瓶と、余ってる魔力草と種を持ってお母さんの元に戻った。


「量が少ないから直ぐに沸くわよ?」

「お母さん!種って砕ける?」

「うん?え~と⋯」

「あ!ちょっと洗うよ。」


自分の口に入れた物だから、少しだけ掌に水を出してササッと洗い、濡れた種をお母さん渡す。

種は私の小指の爪ぐらいの大きさだ。アサガオの種より少しだけ大きいかな。

お母さんは布で種を包むと、包丁の柄の部分で「えい!」と、打ち付けた。


「こんな感じかしら〜?」


広げられた布に砕けた種が乗っかってる。

粉になってる欠片を摘んで味見を⋯。


「甘い!」

「あらそうなの?」


目をピカリ!と光らせた私を見て、お母さんも摘んでパクリと味見した。


「あら!ホントに甘いわ。

甘い粉みたい〜」

「アレよりは苦味が少し有るけど、工夫すれば代用出来そうだね。」

「これは良いわね!」


種が元々小さいので、極僅かしか口に入れてないが、強い甘味を感じた後は口の中に後から渋みがふわっと出てきた。

量が少ないせいか子供の私でも耐えられる渋みだ。

安価な甘味を見つけたかも知れない。

今種は15個だったのが、18〜20個採れている。

魔力草が一本銀貨1枚なら、種は15個の計算でも6.666⋯なので1つ銅貨6枚かな。

15個以上は取れるからね。

まぁ今はバッカスだ。


葉っぱを千切って噛むと青味の風味が口のなかに広がる。

種ほどではないけれど、甘みをしっかり感じる。

食感はシャクシャクしてて、葉脈が口の中に残るから、サラダにするには違和感が有る。


次は茎を刻んた物を少しだけ口に入れたがエグミが少し有り、茎も硬くて生で食べるには向かない食材で、根っ子も甘みと茎よりも強いエグミにウエッとなる。

漢方薬に似た味がした。


なので葉っぱは後から入れても良いが、味はともかく魔力が逃げる。なので刻んだ茎を手早く先に入れて、次に雑に千切った葉っぱも入れてしまう。

木蓋をしてグツグツしたら、砕いた種と塩を入れて味見をした。


「ウーン⋯スープじゃないね。

甘みのあるちょっと苦い熱いジュース?」

「お茶じゃないかしら〜?

甘い粉を入れたお茶だと思うのよ?

少しマモーを入れたら美味しいんじゃない?」


そうしてお母さんがマモーを入れて緑茶のミルクティーになった。

あ!これ知ってる。

抹茶ミルクだ。

何か風味が違うけど、飲めなくは無さそう。

美味しいかどうかと言えば微妙なのは、私が子供舌だからかな?

お母さんは気に入ったらしく、美味しい!と喜んでる。

月の光の水は使わなかったので、取り敢えず向こうに混ざらない様に残った根っ子を入れて、魔法の鞄に保管しておく。

竈門がある場所は日陰になるけど、リビングは明るいので日光を浴びてるかも知れないからだ。


私はコップに抹茶ミルクモドキを入れて貰い、木のお皿で蓋をしてせっせと運んで行く。

つい好奇心でマモーを入れてしまったので、スポドリとは言えなくなってしまった。

むしろ吸収しにくそう。

なので一応種も持ってきてる。

駄目なら噛んでもらおうかと。


「なんだコレ。」

「魔力草のお茶にマモーを入れたもの。マモーは要らなかったけど、魔力草のお茶が思ったより甘くて、渋みを誤魔化すのにお母さんが入れちゃったの。」

「ふーん⋯」

「汁だけでも効果が有ると思うけど、食べられたら葉っぱや茎も食べても良いよ。」

「ん〜⋯分かった。」


バッカスにはかなり渋い顔をされたが、まあ全部飲んでる。

葉と茎は半分以上食べたが残した。

うん。これは仕方が無い。

むしろ頑張って食べた方だと思う。


「身体はどう?」

「おー、少し楽になったかな。

休んでたのに怠かったけど、コレのお陰かな?」

「マモーを入れちゃったから、効果が出るまで少し時間が掛かるかも。

だから種有るけど噛めるなら食べてみる?スゴク甘いし、魔力が豊富だから身体が元気になるかも。でもちょっと苦い。

私は噛み砕けなくて、お母さんに包丁で砕いて貰ったの。

大人なら噛めるかな?って思ったけど、無理ならやめてね?」

「やってみるか。⋯お!

あっっま!⋯て、苦っ!」


ガリ!と音を立てて噛んだ直後は目をピカリと光らせてたけど、直ぐにググッと眉間にシワが寄る。


「あー⋯ん〜?

なんつーか苦いけど、ウーン⋯好き嫌いが別れそうだよな。

子供は無理だと思うけど、大人で甘いのが平気なら、塩で炒ったら食えそうかも。

うん。俺も最初は何かマズいと思ったけど、甘いの好きだし、工夫したら悪くない気がする。変な臭いが無いからかもな。」

「でもそれ手間賃無しでひと粒銅貨6枚だから、オツマミにするのは無理だと思う。」

「うぇ?!

そんなにすんの?!」

「原価でそれだから、売ろうと考えたらひと粒銅貨50枚貰わないと私はやってらんないかな。」

「うへぇ〜⋯」

「それを作る半分の手間と時間で10本あれば銀貨10枚になる魔力草が作れちゃうんだよ。

しかも魔法の水は2倍必要になるの。」

「なる⋯そりゃキツイな。」

「でしょ!でも甘い粉よりは量が多いから苦味はあるけど、銅貨50枚でも買う人いそうだよね。

多分水で煮込んでシロップにすれば、もっと苦味も減るし量が増えるから銅貨50枚でも元が取れそうなんだよ。

フランのお花や果物の皮と煮込めば、美味しいシロップが出来るから、銅貨10枚でコップ一杯の量が売れちゃうかも。

あとお酒も作れちゃうよ。」

「へぇ〜。

ヤッパ、リリアナはスゲェな。エリザベスさんみたいな立派な商人になれるんじゃね?」

「錬成師になるから商人にはならないかな。」

「あー、そうか。ソッチが有るのか。どっちが金を稼げるんだ?」

「楽にお金を稼ぐなら錬成師かな。稼ぎ方なら商人の方が稼げるけど、錬成師並みに稼ごうと思ったらエリザベスお祖母ちゃんよりも上にいかないと駄目なのよ。

国で1番の商人ならやり方次第で錬成師は超えられると思うよ。」

「うへ、そんなに錬成師って儲かるのか。」

「商人だって旅商人と街の商人では持ってるお金が全然違うでしょ。

それと同じだけど、錬成師なら旅商人と同じ下っ端でも街の商人ぐらいは直ぐに稼げちゃうんだよ。」

「うっは。錬成師、ヤベェな!」

「だから貴族に人気で、学校に入学するのも難しいんだよ。」

「そんなもんになるのかよ、リリアナは!」

「うん。私はもう元になる教えを勉強すれば、それだけで錬成師なの。他の人達はそれを勉強しても、錬成師見習いになれるだけだから、私はその人達よりも上になるんだよ。

だから王様が私の親族を守ってくれてるんだよ。」

「あー⋯なるほど、そう言う⋯えぇ?!王様?!は???」

「バッカスが首から下げてるソレ、王様がくれたヤツだよ。」

「うえぇぇぇ?!」

「あとバッカスが育ててるウェブンは、大臣みたいな貴族の中でも偉い人がくれた教えで育ててるんだよ。」

「あ⋯ヤバ⋯頭がクラクラする。」

「んー、薬が効きすぎちゃったのかな?お日様の光に当たる所に行けば、取りすぎた魔力は減らせるけど行く?」

「いや⋯ちが⋯これは多分、そうじゃ無くて⋯うぅ。」

「そう。

あとお守りのこともウェブンの育て方も誰にも言わないでね?

秘密にしとかないと、王様と大臣みたいな偉い貴族に叱られちゃうから。」

「はぅあ!?」


鉄砲で心臓を撃ち抜かれたみたいに、胸元をガシッ!と鷲掴みにしたバッカスが頭をガクガクと縦に振ってる。

そしてまたクラッとして、ガックリと肩を落とすまでが一連の流れになってた。


でも一応は口止めしとかないとな。

狩人の流儀を知ってるから、ソッチを出しても良いけど、王様と大臣コンボの方が更に効果が高そうで。

高すぎて瀕死になってるけど、まぁ大丈夫でしょ。

人は慣れる生き物だからね。


「私はここで暮らしてたら皆に迷惑をかけちゃうから、本当は要らない子供なの。


でも小さいから、私にはまだ皆が必要なんだよ。

それで私は迷惑かけても育ててくれた皆が、幸せに暮らしていける様にしていきたいの。

だからゴメンねバック兄ちゃん。

あと少しだけ我慢してくれるかな?

ワガママを言えば後5年ぐらいは一緒にいたいけど⋯もっと少ないかも知れないから⋯」

「な⋯何だよ、それ⋯」

「遠く離れて暮らしてても、ちゃんと皆が幸せに暮らしていける様に頑張れるから。

セフメトもちゃんと独り立ち出来る様にしとくし。

だから心配しなくて良いからね?」


口を開いて閉じたけれど、また口を開こうとしたバッカスは、震える唇を噛んで暗く沈んだ顔で地面を見つめる。


「⋯悪い貴族に捕まるからか?」

「私の周りには良い貴族しか居ないよ。

だから私を無理やり家族から引き離さないし、私が暮らしてても大丈夫な様に遠くから守ってくれてるんだよ。」

「⋯そっか、でも、なのに出て行くのがそんなに早いのか?」

「仕方がないの。

悪い貴族が皆を利用したり、傷つけたりすると困るから、王様や大臣も強い人達だけど、世界中からそんな人達が来ちゃうと、皆を守るのも大変なの。

それでもなるべく守ろうとして、無理をしてくれると思うから、それなら私が諦めるしかないと思わない?」

「世界中⋯?」

「私達が暮らしてるのはウェスタリアと言う名前の国なの。

私達が暮らしてるこのミシリャンゼと言う名前の村を、沢山沢山集めて、街も沢山集めたらウェスタリアの国になるんだよ。

世界中と言うのは、そのウェスタリアみたいな国が他にも20個あって、それを全部まとめたら世界って呼ぶの。

分かるかなぁ?こんな説明で。」

「⋯そんなもんから悪い貴族が集まって来るのか⋯」

「ウェスタリアは国の中でも大きいし、お金も沢山持ってるけど⋯家族だけじゃ無くて他の村の人達も狙われたら大変でしょ?」

「⋯うん。」

「だから私はそうなる前に、ミシリャンゼの村を出て行くの。ウェスタリアには住んでるよ。

でも何処に私が居るのかは、秘密になると思うの。」

「⋯⋯」

「でも王様はとてもスゴい人だから、私が寂しいって言ったら、コッソリ内緒で家に連れて来て貰えると思うんだよ。

でもそれが周りにバレたら、家族が攫われちゃうから。

だから秘密にコッソリね?」

「あぁ⋯なるほど、そう言う事⋯はぁ~そっか。

一生会えなくなる訳じゃ無いんだな?」

「うん。でもバレたら私が早目に離れる意味が無くなるから、ホントに内緒だよ?」

「うん、分かった。

だから大人になる前にリリアナは行くのか⋯小さいのに大変だな。」

「うん。寂しいけど手紙のやり取りは出来ると思うし、また会えると思えば、頑張れるでしょう?」

「あぁ⋯うん。そっか。

なら俺もリリアナを不安にさせない様に、ちゃんとウェブンを育てないとな!」

「他にも親族を沢山集めるのは、皆が協力して幸せになる為だから、バック兄ちゃんだけ頑張らなくても良いからね?」

「おう!でも俺はこの家に残るヤツだから、リリアナが帰って来られる様に、ちゃんと家を守っておくからな!」

「うん!周りの人に言えないけど、私はこの家の自慢になる娘だから宜しくね!

私が死んだら、多分この家は聖地にされちゃうかもだよ?」

「アハハハ!何だそれ!

教会みたいだな!」

「私がした事はそれだけスゴいから、王様や大臣達が皆で必死に守ってくれてるんだよ。」

「へぇ〜。草を育ててるだけなのに、そんなになのか?」

「あの草、今まで育てるのにこの村を全部買えるぐらいお金を使わないと育てられなかったらしいよ。

でも私が見つけた方法は、魔法の水コップ1杯と、木のコップ1つで出来るから、もの凄く偉い人達や沢山の錬成師達がビックリしてひっくり返っちゃたの。

泣く人やら倒れる人やら喚いてる人とかいて、スゴく面白かったよ。」

「アハハハ!

何だそれ、アハハハ!」

「こうやって頭を抱えてうおー!て、言ったり。

こうやって地面に両手をついて「それは無い!」とか叫んでたりして。」

「アハハハハハハ!

腹がいてぇ、アハハハハハハ!」

「王様も驚きすぎて、床に転がって笑い転げてたよ。

泣きながら死ぬ死ぬ言うから家来の人達が顔を真っ青にしてもの凄く心配してて、何の魔法だ!って不安になっちゃって。

私まだ2歳で魔法なんか使えなかったのに勘違いされて。

頼む!陛下を殺さないくれ〜!って立派な偉い騎士に頼まれちゃうし。

王様は笑ってるだけなのに、本当に困っちゃったのよ?」

「っっっ!

ハハハハハハハハハハ!!!

ヤベェ!ハハハハハハ!!!」


ヤッパ王様ネタはテッパンだな。

鐘半分ぐらい笑いを引っ張れた。

卵を潰さない様に身体をグネグネさせてから、呼吸困難になって、最後には地面に四つん這いでバッカスも死ぬ死ぬ言い出した。

騎士と爺ちゃんの必死さや、その時のジギタス叔父さんやお父さん達の様子や仕草を熱演した甲斐があったと言うものだ。

来年の春に親族が集まったら、1発芸としてぶちこんでやろうと思う。


そして私は転がるのを耐えて瀕死になってるバッカスを見下ろして、ウェブンの卵を育てる保育器を作ることにした。


卵を1つにするだけでもバッカスの負担は大きく下がる。

そしてバッカスの首には水でぬらした布を巻いて、こまめにそれを水で冷やしながら、水分補給と言う名の魔力補給を兼ねて、魔力草のお茶に塩を入れた物を飲ませたり、月の光を含んだ水に塩を入れて飲ませる事にした。


そして保育器だけど普通の卵を使って実験して、取り敢えず試作機を作っのだ。

材料は錬成瓶と桶と縄と藁と布と木の板と鍋になる。


先ずは小さな卵を布で包む。

そして麦藁を入れてある錬成瓶に、布で包んだ卵を入れてその周りにも麦藁を満遍なく詰め込んで行く。

卵の1/5は布が麦藁から出ている状態で一端保留。

そして鍋に魔法の水を入れて湯気が出る所まで加熱する。

この時に最初は蓋をしないで、湯気が出る時間を大体確認しておく。

竈門なので時間にプレはあったけど、まぁ大体な感じに把握出来た。

時間は地道に一定のスピードで数を数えて測った。

大体5分もあれば小さな気泡が出来て、白い湯気が立つようだ。

恐らく50度から40度ぐらいの温度になっている。

これはお玉でお湯を掬い、ちょっぴり指を突っ込んで確認している。

そして今度は木蓋をしてお湯を沸かすと5分もしないウチに目的の温度になった。

大体4分前後である。

なので木蓋をした鍋で魔法の水をその時間茹でてお湯を作った。

次に桶に卵を入れた錬成瓶の蓋を開けたまま、中央にいれる。

この時桶の壁の高さが、錬成瓶の高さを越えない事を確認する。

そして錬成瓶の周りにお湯をいれるのだが、錬成瓶が浮かない様に重しを乗せる必要があると考えて、縄を十字に錬成瓶の上に乗せて、縄の先に小石を縛っておもりにした。


そして鍋のお湯を錬成瓶の4/5辺りまで入れた後は直ぐに木の板で上を塞ぎ、あとは鐘1つ鳴れば中の温度を確認した。

大体鐘1つあれば少し冷めてるが、真夏なので冷めてもかなり温かった。

後はこれで卵が返れば保育器は成功となる。

卵が茹でられて無いかは1番最初の鐘1つの時に確認しておいたが、中は完全に生卵だったので大丈夫なのは確認出来た。


なので本番では、卵は産んでから雛を育てる為に分けてる物で、古い物を使い。

魔力の水は月の光を1日分当てた物を使用した。

そして実験して3日後に、無事木桶からピヨピヨしてる雛を見つけて、実験の成功と保育器が作れる事を確信した。


この時私が最初に木桶を確認したせいで、産まれたてでエイリアンみたいな雛をピヨ子と名付けて、私がお世話をする羽目になってしまった。

ウーン⋯辛い。


何が辛いかと言えば、倉庫の外に置いてある、わざと鳥の飼育用に肥溜めのブツを入れた箱で育てさせたウジを、1つづつピヨ子に与えるのがとても苦痛なのだ。


バッカスが平気な顔をして、目が染みるぐらいに臭い箱の蓋を開けた瞬間に、ブワー!と中から成長した小バエが飛び立つのにも驚愕したが。

現実逃避気味に何故魔力草が倉庫の日陰にあったのかを、この時に直感的に悟ったのはもう良い。


それよりも箱の中に入れられていた泥みたいな肥料を柄杓で掬い、それをポンと平らな網籠に乗せて運び、倉庫の近くにある小さな人工小川の辺りで、柄杓で小川の水を掬って網籠を洗い流し。

ホレと、網目の上でウゴウゴしてる小さなウジを見せられた時に、私は卒倒するかと思った。


バイブレーションみたいに震えてる私の怯え方に爆笑したバッカスが、笑いながら素手でウジを摘んで小さな木箱にポンポン放り込んで行く姿にも、猛烈にショックを受けた。


いつの間にか私はピヨ子用に分けて貰えたウジを入れた、錬成遮光瓶を持たされていたのだが、何故私はこんな悍ましい瓶を持っているのか、この辺りの記憶は定かでは無い。

何となく泣きながらバッカスに、手を洗う様に頼んだかも知れないが、本当にうろ覚えなのだ。


バッカスは小箱のウジを親鳥の餌箱に入れたら済む。

そして親鳥は嘴を使って雛に与えるので、私は指先でウジを摘んで与えなければならない。

悍ましいと言葉で言い表せないぐらいに嫌だったので、木串に突き刺して与えている。

だけどそれも非常に辛い作業だった。


でもピヨ子は私があげないと餌のウジを食べてくれないのだ。

なのでウジが平気な頼もしい兄弟に代わって貰う事も出来ない。

そしてバッカスが言うには、2週間はそうして小まめに与えてあげないと駄目かもと言うからもう。

泣いた。

何故私はピヨ子がピヨピヨしてた時に、その危険性に気がつけなかったんだろうか。

ギフトよ仕事してくれ。

何故こんな時に貴様は沈黙していたのだ。

2歳児が夜中も起きて餌を与えるのが、どれだけ苦痛かお分かり頂けるだろうか。

そのせいで私は親兄弟から離れて、リビングにあるジーニスのベットで一人寝をさせられている。

ピヨ子がピヨピヨと、暗い夜中も煩いからだ。

夜中に1人でトイレに行ける様に、父が困った様な顔で心配しながらも、結局は悲壮感の漂う私に笑いながら工夫してくれたんだぞ!


それは私が成功の喜びに気を取られ、すり込み現象の知識を持ちながらも意識せず。

また自分で雛を育てた経験が無く。

親鳥が雛を育ててる姿を真面目に観察して無かったからだと、ギフトは直ぐにその理由を私に悟らせやがったので猛烈にムカついた。


真実と言うものは、とても腹立たしく、苦しくて辛いものなのだ。

タンタン!




語り継がれる黒歴史と自爆したヒロイン。

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