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リリアナは運命の扉に手をかけた。
私が住んでる家は村の中央からかなり離れてる。
原因は畑。
特に我が一族は鶏だか鴨だか分からない謎鳥の飼育もしてるので匂いも有るし鳴き声も有る。
だから人が賑わう中央より、森が近い外側の場所に家が建ってるんだそうだ。
つまり私の足では2時間歩いてもたどり着けない遠さに有るレベル。
ならどうするか。
中央に向かう為の乗合馬車が2時間に1回ぐらいの割合で走っているので、それを利用するのだ。
運賃は教会を卒業してない子供は無料。
それより上の人達は、村人なら1回銅貨2枚で利用が出来る。
そとから来る商人は5枚必要らしいけど、私と母が利用した便に商人は乗って無かった。
ウチの村。
広さだけは下手な街以上に有るらしいよ。
ちなみにマルセロを襲ったニョロニョロの同類は、今の所人工小川の近くで見つけられなかったらしい。
父から聞いた話では、本来は魔力が豊富な森の奥地にある沼や川なんかの水場に生殖してるので、人工小川でニョロニョロが出るのは珍しいんだとか。
水を引いてる本物の川から流されて、迷い込んできたんじゃ無いかと予想されてる。
でも他にもし成体のヤラマウトがいて、地面に産みつけた卵が羽化して現れたなら、まだ増える危険性も高いから、しばらく人工小川で遊ぶのは禁止だってさ。
行けと言われたって、コッチだって嫌だよ。
アレはトラウマレベルの魔物だった。
そう。あのニョロニョロは魔物だったらしい。
蛇のことをまとめてニョロニョロと呼んでるけど、正式にはヤラマウトって名前の魔物なんだってさ。
私達が遭遇したのはまだ幼いサイズだったらしくて、育つと最低でも大人の身長ぐらいになるらしい。
今分かってる一番大きなサイズで、大人5〜6人分て言うから、10mぐらいになるのかな?
大人1人辺り2mは越えて無いだろうからね。
計算の元はジーニス。
何でか前世の知識から赤ちゃんの身長は大体40〜50cmぐらいが平均って言うのがあって、でも足が曲がってるからちゃんと伸ばした状態でソレらしいのね。
とは言ってもここは異世界。
前世の赤ちゃんと人種が違うから、本当にジーニスの身長が平均値なのかは分からないし確かめようが無い。
だから正確に測定したらジーニスは60cmかも知れないし、30cmなのかも知れない。
それでも大体5cmがどれぐらいの感覚か分かるので、少なくてもジーニスが30cmじゃ無いことは分かる。
正確性を求めるなら、そもそも成長するジーニスを基準にするのは間違ってると思う。
だけどこの世界の単位を学ぶまで、前世の知識を使うしかないのでジーニスを50cmと仮定して、その対比で考えると私の身長は80cmぐらいになる。
ジーニスを床に寝かせて頭の上に枕を置いて、足を伸ばさせた先に掛毛布をの端を置いて目印にした。
その横に寝転がって私の膝上ぐらいに毛布の端が来たので、残りの流さを目測で80cmかなと。
2歳も年の差があって30cmしか身長の差がないのって、これはジーニスが大きい赤ちゃんな気もするけど、私も小さい2歳児なんだと思う。
だって何時も一緒にいる3歳児よりも頭1つ分私の身長が低いから。
マルセロは1m10〜20cmぐらいかな?
私の頭の先にマルセロの肩があるのでそう目測した。
それで父を見たらマルセロ2人分までは無い。
マルセロの頭のてっぺんが、鳩尾の少し下辺りに有るから、目算で190cmぐらいな気がする。
丼ぶり勘定なので本当に適当。
長男のオジサンは父よりも身長が少し低いから170cm過ぎたぐらいだけど、4男のオジサンは逆に高くて2mぐらい。
父の頭のてっぺんが、4男のオジサンの鼻の辺りだから。
4男のオジサンよりも高い身長の人は少なくて、ちゃんとした装備の戦士の人ぐらいしか越えてるのを見たこと無いから、大人の平均身長って170cm前後だと私は考えた。
何でそう思うかと言えば、我が村の男性は皆身長が高くて、大体は180cm越えてるんだけど、お祭りがあれば沢山低い身長の男性が集まって来るからだ。
下手したら160cmぐらいな母よりも低い身長の男性もいる。
しかも沢山。
外から来る人達は、ひょっとしたらウチの村人と人種が違う人が居るかも知れないけど、大きな差になるのは食事事情ってヤツかも知れない。
前世の食生活から比べたら、かなり食べられる肉やカルシウムなんかの栄養が少ないから、貧しい食生活になるよその農村出身の人達は身長が伸びにくいんじゃ無いかと予想してる。
それに比べるとウチの村は農業に狩猟と畜産まであって、食生活が恵まれてる家庭が多い。
特に我が家は卵を毎日食べられる環境なので、それが身体の成長に影響してるんじゃ無かろうかと思うのだ。
それにウチの家は鳥を育ててるけど、乳目当てで牛みたいな体格の良い角の生えた生き物を飼ってるお家も有る。
まぁ⋯前世の牛乳と同じ栄養素が入ってるかは分からないけど、少なくてもカルシウムを手軽に摂取できる環境なのだ。
余談になるが、その乳を出す動物。ガタイの良さは牛っぽいのに、ヤギみたいに跳ねて移動する所を目撃したことが有る。
退化して小さいけど、鳥みたいにフワフワしてる羽も背中あったよ。
ねぇ⋯羽が生えてたらもうソレって牛とは言えなくない?
かと言っても体格的に鳥にも見えない。
あえて言うなら、ペガサスに憧れて失敗した牛っぽい何か。
んでもって、マモーって言う名前だからマモー乳が、毎日とは言わなくても良く朝の食卓に麦粥の形で出て来るんだけど。
味はミルクみたいにコクがあって甘くて美味しいんだけど、匂いがなぁ⋯。
獣臭さが鼻につくから苦手なんだよ。
前世での私は牛乳がとっても大好きなんだけど、匂いを煮詰めたパクチーを溶かした牛乳の味を想像して欲しい。
子供が好む味かと問われたら、無理だろって私は叫ぶ。
だからマモー製品が食卓に登るとあんまり食べないから、私の身長は小さいのかも知れない。
さてヤラマウトの話に戻るとして、子供が一匹流されて来ただけなら、夏頃には人口小川が解禁されるけど。
他にも生息してるのを見つけたら、親のヤラマウトが流されて住みついてる危険性が高いので、人口小川の近くで卵を産んでる恐れがある。
まだ寒い時期だから土の中に潜ってるけど、暖かくなれば表に出て来るとか。
サイズが大きいから地上に出て来たら目立つので、もし見つけたら人口小川一帯で子供のヤラマウト捜索が始まるんだそう。
それはもう狩人だけで無く、戦士を雇って村人総出での大捜索になるんだとか。
早めに駆除しなければ人口小川が生息地になった場合、何処の畑や小籔に現れるか分からない状態になるからね。
特にの中に潜んでたら、直ぐに見つけるのが難しい。
農民仲間の被害を思えば、とても頭が痛い話だよ。
まだ今の時期ならアムルの種まきをしたばかりなので、子供のヤラマウトでも見つけやすいけど、秋になったら大惨事になる。
ただ獣と違って魔物は魔力の多い土地を必要とする性質が有るから、畑や人口小川は基本的に生息しにくい場所になる。
そうなれば毒性も低くなるし、サイズもあまり大きくならないんじゃ無いかと、戦士ギルドからの情報らしい。
ぶっちゃけ子供のヤラマウトに噛まれたとしても、マルセロの状態を考えたらかなり軽傷なので、手当てが良かっただけで無く、毒性が低くなってる兆候は有るそうだ。
まず6歳児なら大人のヤラマウトが噛めば、それだけで手足が無くなってるか、そのまま丸呑みなんだって。
子供のヤラマウトだとしても、噛まれてから早く毒消しを利用して無ければ、鐘1つ分で呼吸が止まってたらしいよ。
時間の感覚を前世に照らしあわせたら、1時間て所かな。
大人でソレなら6歳のマルセロが2時間近く耐えられたのを、奇跡だと言われても仕方が無いよね。
こんな話をされたらそりゃコッチだってトラウマになるよ!
てか笑いながらすんなっつーの。
ウチの父にはデリカシーが無いと感じた瞬間だった。
あと戦士ギルドの人達からも、マルセロや子供達がしたマルセロへの対応がとても良かったと絶賛されたと誇らしげにしてた。
マルセロには、噛まれても動き回らずに直ぐ膝下をシッカリ自分で押さえた行動を、父はとても褒めてた。
それにくわえて太腿を縛ったり、傷口を洗い流して血抜きで毒を排出させたり、大人に直ぐに知らせに走ったり。
幼子が皆で協力してマルセロを運ぶことも素晴らしかったし、そもそもあんな形で担架を作った事も大絶賛されたそう。
これは村の大人達の、子供への教育が良かったと褒められて嬉しかったんだそうな。
マルクも6歳ながら落ち着いてヤラマウトを倒した勇気やナイフの技術も良かったし、大人に伝えに走った時に現物を持って見せた事を話し。
その時にニョロニョロには色んな種類があって、ヤラマウトの他にもいる事を、父はマルクを褒めながらロベルトやマルセロに伝えてた。
森の奥に狩りに向かう村の男の子には、必要になる知識だからこそ、良いと思った話はシッカリ伝えてるんだと思う。
マルセロは当事者だけど、噛まれた後から割と早い時間で息が吸いにくくなって、頭がフワフワしてたから、ものがちゃんと考えられなくなってたと、家族全員に話してたから、父はおさらいする形で情報を伝えたんだろう。
そんな悪い状態で最善の行動をするのはとても難しい。
だからそれもマルセロを褒めることに繋がって行った。
あとは慣れてて安全な場所だと思っても、警戒する必要があったなと、反省会もちゃんとしてた。
特にマルセロは最年長だから、その責任があったと注意をされてションボリしてた。
私からしたら6歳に無理を言うなよと感じたけど、こういった反省会の必要性は理解出来ないでも無い。
それで叱るとか責めるとかすればやり過ぎだし、理不尽さに怒りや反感も感じるけど、諭す形だったので、渋い気持ちで私もちゃんと反省した。
これは私が最年長になって、年下の子達を引率する立場になれば、必要な知識になるからだ。
特に私は子達の遊びに興味が薄いので、もし引率する立場になったらちゃんとしようと反省した。
その年頃になっても覚えてられるかは知らんがな。
まぁ⋯いくら3歳より前の記憶は残り難いとしても、マルセロがヤラマウトに噛まれた事や、みるみるうちに肌の色が変色した事も、ドス黒い血の恐ろしさや焦りとか、かなりインパクトが大きかったし、まだ6歳ぐらいなら覚えてられる気もしたので、素直に受け入れておく。
そして子達達が編み出した工夫と言った形で、簡易担架の情報も一家全員に伝えられた。
ぶっちゃけカタリナや母は現物を見てるから知ってるけど、私はナイフであんな太い枝が折れると思わなかったと興奮した様子で、家族全員に簡易担架に使用した枝の調達方法を教えた。
多分父なら不要な情報だったかも知れないけど、カタリナや母にも伝えたかったので全員に伝える気持ちでお喋りする。
「ホントあれには驚いちゃったわ。」
「お陰で襟ぐりが裂けてて、繕うのが大変そうだなって思っちゃったけどね?」
「ウフフ。カタリナは縫うのあんまり好きじゃ無いから、余計にそう感じたのね?
でも私は感謝したわ。今思い出しても泣けちゃうもの。
毒が弱くなってたって言っても、鐘1つあれば大人が死ぬ様な危ない毒だったんでしょう?
私達の方に子供達が向かって来てくれて無かったら、毒消しが間に合わなかったかも知れないもの。」
カタリナは呆れ顔で肩を竦めておどけたけれど、母は笑いながら涙ぐんでた。
「私、凄くビックリしたの。
大きな板か、枝が2本あったらシャツを着させてマル兄ちゃんを運べるのに!って、つい言っちゃったけど、大きな板も丁度良い枝も無いし、服だって大きさが違うから本当に作れるとは思って無かったんだよ?
なのにお兄ちゃん達があっという間に枝を2本作ってくれて、お姉ちゃんがナイフで首の所の布を裂いて作ってくれたの!」
「思いつくリリアナも凄いとは思うけど、枝にシャツを着せるとか⋯そんなヘンテコな説明で分かったマルシャが凄くて驚きだわ。」
「私なら無理ね。今なら品を見てるから分かるけど、気持ちが焦ってる時に話を聞いただけではきっと伝わってないわ。
マルシャが直ぐに気付いてくれて本当に良かったわね⋯。」
「うむ。あの太さの枝を調達して来たのは本当に凄いぞ。成人した大人なら確かに簡単な作業だが、まだ教会前の子供が出来る作業とは思えない。それだけ皆がマルセロの為に必死になってくれたんだろうな⋯」
「俺もシャツで運ぶの作るヤツ、凄くタメになった。多分俺がそこにいたらマルセロを背負って走るしか考えらんなかったろうけど、それじゃあんまり運べて無かったと思うし。」
「うむ。まだ小さいのにリリアナは頭が良いな。運ぶ力が無いから思いついたのかも知れないが、お父さんには絶対に思いつけ無かった事だ。よく頑張ったな。」
涙ぐんだ父を見て、私はいきなり胸がいっぱいになって涙が溢れて来た。
「すごく⋯すごく怖かったの!マル兄ちゃんが死んじゃうって思って⋯ニョロニョロが噛んだ所があっという間に変な色になるし、口で吸って毒を出そうと思ったけど他のお兄ちゃん達に駄目って止められたし。早く毒をなんとかしなくちゃって頑張って足を押したけど、あんまり黒い血出てこないし⋯沢山お水かけて貰ったりして⋯うわあぁあん!」
「そうかそうか。リリアナもよく頑張ったなぁ〜!」
もう大号泣だった。
今馬車に揺られながら思い返してるけど、メッチャ恥ずかしい。
褒められて嬉しいと言うよりも、ようやく安心出来て胸にこびりついて残ってた不安が爆発した様な感じだった。
だから母も「マル兄ちゃんを助けるお薬を作ってくれた人にお礼が言いたい。」だなんて理由を素直に信じてくれて、こうして連れて来てくれてる。
嫌⋯ウソじゃ無いのよ?
そりゃバリバリの好奇心で錬金術に興味が有るし、砂糖を買うお金を稼ぎたい気持ちも大きいけれど、神様みたいな効果のある良いお薬を作ってくれた人に、深く感謝してるのもホントの気持ち。
冷静ぶってたけど、そうしないとヤバいと察して無理矢理色んな不安を押し殺してたから、あの毒消しの効果を見た瞬間の感動といったら。
まさに神の奇跡を目撃した気分だった。
いつも理性の方が強くてちっとも子供らしく振る舞えない私が、産まれて初めて子供らしいギャン泣きをするぐらい大きな不安に苛まれていたから、余計に魔法薬への感謝や思い入れが強いんだと思う。
「どうしたの?リリアナ。」
「昨日泣いたこと思い出して、恥ずかしくなってたの。」
「ウフフ!お母さんはとっても安心したのよ?
いつもリリアナはあんまり泣かないから、産まれる時にお母さんのお腹の中に涙を置き忘れて来たのかと心配してたんだから。」
「そんなに抜けた子供じゃ無いよ!ジーニスがいたし、私が泣いたらお母さんが大変だと思って泣かないようにしてただけだもん。」
「リリアナはお母さんがビックリするぐらい優しくて賢いものね。でも我慢し過ぎは駄目なのよ?
まだ泣いても全然恥ずかしくない歳なんだから、何時でも泣いて良いんだからね?」
「無理。歳とか関係ない。
私が恥ずかしくなるから、泣きたくないの!」
「ウフフ!もう可愛いんだからぁ~」
「可愛いくなんて無いよ!
もうお母さん、ヤメてよ!」
ツンツン頬を突かれてからギュッと抱き締められて、挙句には頬ずりまでされたもんで、心の中がギャーー!ってなった。
乗合馬車の乗客が私達だけだから遠慮なく騒いでるけど、他に人が居たら冷やさ100%で対応してる所だよ、全く。
ゴトゴト揺られてたどり着いた村の中央広場近くで、私達は馬車から降りる。
そして私はジッと馬車の車輪を見つめる。
太さは自転車の倍はあるし、大きさも私の身長より直径が長い。
でも木が剥き出しの状態じゃ無くて、何か灰色の素材が車輪のゴムにあたる部分に使用されていた。
きっとこの世界の素材で作ったゴムもどきなんだろうと予想する。
ちなみに馬車は木製じゃ無い。
なら何の金属かと言われても全く見当がつかない。
だって緑色なんだもん。
緑色の金属っていったい何なんだろう。
ひょっとして錆止めで鉄が塗装されてるのかも知れないけど、サッパリ分からん。
舗装されない土道を単なる木製車輪で走るのは、さぞや乗り心地が悪そうだと思う。
実際乗せられたリアカーの乗り心地はあんまり良く無かったし。
でもリアカーは徒歩のスピードだったので、良いとは言わなくても酔うほど悪くも無かった。
馬車のスピードはあの時の倍以上は会ったが、車両を引いた動物は私の知ってる馬じゃ無い。
乗合馬車と思ってるが、モッブ車と呼ぶ。
そう。馬では無くて、モッブと言う3m近い大きさの動物?が車両を引いてるのだ。
見た目は柄の無いモップの穂先としか言えない。
名前は朧気でサモンだかコモンだか何だったか⋯なんちゃらドールと言う犬で、そんな見た目のヤツがいたと、前世の記憶が言っている。
でもモッブが犬に見えないのは、犬の顔をついて無くてモップの穂先まんまの形をしてるから。
「さぁ行きましょう?」
「う、うん⋯」
ついモッブをガン見して動きが止まった私を、母が促して手を引っ張る。
モッブ車の乗り心地が予想以上に良い理由をさっき見つけてしまった。
どうやらモッブの頭はお尻の部分にあるらしい。
つまりこいつはあの速度で後退りしてる事になる。
ひょっとしたら今私が見落としただけで、口はお尻の方にあるが、目は前方に有るのかも知れない。
NHKの赤いヤツの姿がチラリと脳裏を過ぎったが、あんなに人化して無いよ。
雰囲気や名前は似てるっぽいけど。
そしてどうやらモッブの好む餌は小石らしい。
ボリボリ音を立てて食べてる所を見ちゃったから、多分そう思う。
地面に引きずるまで伸びた毛で掃き掃除しながら道を歩き、止まったら集めた小石を食べる生態なのかな?
だから道が平坦で車輪が小石で跳ねる事も無く、でも轍があるから少しだけゴトゴトするんだろうね。
轍が深くならないのは、きっとモッブが執念深く掃き掃除してるからなのかな?
この辺は想像でしか無い。
食べ物が小石だとしたら、うんこが非常に気になる所だ。
「お母さん。モッブって小石を食べてるよね?」
「ええ、そうよ?」
「じゃあモッブのウンチってどんな感じになるの?」
「砂よ。」
「へぇ〜、小石を食べて砂にするんだ。じゃあ道が削れてそのうち道が川になったりしないの?」
「ん~、モッブは小石の中の魔力を食べてるだけだから、そこまで地面を削ったりはしないわよ。小石はオヤツみたいなもので、本当のご飯は別にあるですって。」
「小石に魔力なんて有るんだ⋯」
「あんまり無いわよ?でもモッブにはオヤツになるぐらい好きなんでしょうね。」
「へぇ〜、そうなんだぁ~⋯」
何とも馬車の馬をする為に産まれたかのような都合の今生き物である。
「あ!でも落ち葉とかゴミとかあったらどうするの?!」
「それも食べて砂にしちゃうらしいわよ?」
「モッブって凄く便利過ぎない?」
「そうなるように国の偉い人が作った魔法生物って言うらしいわ。」
「え?!モッブって人間が作った生き物なの?!」
「ええ、そうみたいよ?」
それってやっぱり錬金術じゃん!
そりゃ便利だよモッブ!
コッチの都合が良い様に作られてるんだとしたら、便利以外の何物でも無いよ。
モッブすげぇ!考えた人の発想もそうだけど、どうやって作ったんだろう。
胸がドキドキして苦しくなる。
まるで恋をしたみたいだ。
「モッブを作った人のお仕事は何で言うの?」
「フフフ⋯それはね?国家錬成魔導師って呼ぶんですって。」
「こっかれんせいまどうし⋯」
胸がバクバクし始めた。
ヤバい!これはもう恋じゃ無くて心房細動だ!つまり病気だ!
トキメキの心房細動で死んでしまう!
あ、心房細動だけじゃ死なないのか。
良かった。
うん。落ち着け私。
「お母さん⋯ねぇ、ひょっとしてあの毒消しを作った人のお仕事って、国家錬成魔導師さん?」
期待と、期待しちゃ駄目!って言う不安でドキドキバクバクやたら心臓が喧しい。
苦しいけど聞きたい。
知りたくないけど知りたいという矛盾にやたらと目眩がする。
「ウーン⋯お母さん、よく知らないのよね。
多分似てるからそうなんじゃ無いかしら?」
「えええーーー?!
似てるって何が似てるの?!」
「魔法が関係するお仕事って所が似てないかしら?」
大雑把過ぎるーーーーー!!!
だってそれって獲物を倒すお仕事だから戦士と狩人を一緒にしてる暴挙と同じだよ!
「⋯お母さん。狩人や戦士って似てるけど、違うお仕事だと思わない?」
「あら!そうね。似てるわね。でもそう言われちゃうと、狩人と戦士のお仕事って何が違うのかしら?」
「身内に狩人が居るのに知らないの?」
「だって今まで気にした事が無かったんですもの。お父さんなら知ってるかも知れないわよ?」
「⋯そっか。うん。分かった。多分仕事の内容が狩人は獲物を狩る『専門家』で、戦士は獲物を狩る以外にも護衛とか荷物運びとかしてるから『複合職』として街や村の雑用仕事をしてる所で線引きされてるんじゃないって思うけど聞いてみるよ。」
「あらぁ?何だか正解っぽい気がするわ。でもまた意味が分からない言葉が混ざってたわよ。」
「あぁ⋯うん。気をつけるよ。」
『専門家』も『複合職』もコッチの単語知らないからつい日本語がでちゃった。
「お母さん。こっかれんせいまどうしのこっかって国のことよね?」
「えぇ、そうよ。」
「じゃあれんせいは?」
「さぁ〜⋯お母さん難しい単語は知らないのよ〜。」
「じゃあまどうしは?」
「魔法を使う人って意味ね。」
「まほうつかう人ってまどうしだけ?」
「ううーん、確か魔法師さんとか教会の司教さんも魔法を使うわよ?」
「まほうし⋯教会のしきょーさん?」
「えぇ。魔法師さんは戦士ギルドでお仕事したり、家とか壁を作ってくれたり。ほらニョロニョロのいた小川も魔法師さんが作ったものよ。」
「おお!まほーしさん、お仕事してる!じゃあ魔ほう師さんと魔どーしの違いってなぁに?」
「さぁ~。何が違うのかまではお母さん知らないわ。
でも魔法師さんより魔導師さんの方が偉いらしいわよ?」
「国がお仕事の名前についてるから?」
「んー⋯そう言えば、国家魔法師とは聞いた事が無いわねぇ〜。あ!ついたわよ。お薬屋さん。
お母さんは此処でいつもお薬を買うからお薬屋さんって呼んでるんだけど、正しいお名前は何ですか?って聞いてみたらどうかしら?」
「うん!聞いてみるね!」
母とたどり着いた場所は広場の大通りから2つばかり奥まった路地に建っていた。
人の多い大通りから少し距離があるので、人の通りはかなり少ないので客足が少し気になる所だが。
モッブ乗り場から私の足でも10分以内の距離を思えば、需要の高い商品を扱うので、特に不自由してないのだろうなと納得する。
並びにあるお店は看板の絵を見る限り、本屋とか靴屋など、どれも需要のある専門のお店が並んでいる様だった。
そして目的の『薬屋さん』は、レンガ色の明るい茶色に深緑色のドアがついていて、その横には地上から2m50cmぐらいの所に黒塗りの枝の様な細工の枠から白い看板がぶら下がっている。
白い看板には黒いペンキか何かで黒い●が描かれており。
その中央に白に近い薄い水色で✡の絵が描かれていた。
うん。分からん。
本屋の看板は本を開いてる絵が描かれてるから、本屋さんだと直ぐに分かったし、靴屋さんは片足のハーフブーツのシルエットが描かれてたから、靴屋かな?と分かりやすかったのに。
●に✡ってナンゾや。
母が「薬屋さん」と言うから毒消しや回復薬を売ってると分かるけど、じゃあ何のお店かと言われたらサッパリだ。
まぁ⋯どうせ今から何のお店か店員さんに聞くんだから、良いんだけどね。
今は分からなくても、次にこの看板を見たら●に✡がそのお店なのは確かに1発で分かるから、それを考えたら確かに覚えやすいマークではある。
「ゴメン下さぁい⋯」
ドアを開けたらチリリンと軽やかな音が鳴った。
母が声をかけずとも、多分この音で客の入店を知らせるんだろう。
「はぁ〜い⋯少しお待ち下さいね〜」
直ぐに可憐な声の返事が来たけど、私はそのお嬢さんが現れるまでの間、キョロキョロと店内を凝視する。
店には窓が全く無くて、証明は天井の隅っこに淡いオレンジ色が灯ってるのを見て愕然とした。
前世で言う間接照明だと閃いたので。
そのテクニカルな証明のお陰で、かなり暗い店内なのにお洒落なバーに来た雰囲気がある。
この世界の酒場がどんなかと言えば、大衆食堂だもんでコレはかなり村の店としては異質な雰囲気だ。
「はい。お待たせしました。
どうされました?」
それから5分もしないウチに、カウンターの奥から20代前半ぐらいの若い女性が現れた。
村で良くある茶髪に空色の瞳と違って、金髪で緑色の瞳をした美しい女性だ。
何となく村には無い街の雰囲気を纏ってる、気品のあるお嬢さん。
服は薄い水色のローブに金色の刺繍や縁取りがされてて、何だかメッチャ高そうです。
もうお金持ちの匂いしかしない。
「毒消しと回復してくれるお薬を使ったので、1つづつ新しいものが欲しいんです。」
「毒消しと回復薬は初級のもので宜しいですか?」
「えーと⋯多分?
あの。初めて毒消しを使ったもので種類が何か良く分からなくて⋯」
「でしたら空き瓶はお持ちでは有りませんか?お持ちでしたら同じ物を購入頂けるかと思いますよ?」
「あ!あります!」
母が珍しくワタワタしながら、肩から下げてる大ぶりの鞄から、茶色の瓶を2本取り出してお嬢さんの前にあるカウンターに置く。
「はい。下級解毒薬と下級回復薬ですね。解毒薬は一本で銀貨1枚。下級回復薬は銅貨50枚になります。」
「あの!そこで少し相談なんですが⋯ちょっとお礼に甘いものを作って配りたいので銅貨50枚分の甘い粉も買いたいんですが⋯」
な・に・?!
私は目玉が溢れ落ちそうなぐらい目を見開いて硬直した。
「ん〜⋯甘い粉は銅貨50枚ですとパイ1枚分ぐらいの量になりますが⋯」
「あ〜⋯やっぱりお高いのねぇ⋯。あの⋯果物のジャムにするならどれぐらい作れます?」
「果物にも寄りますが⋯そうですね。今の時期ですとシェリアでしょうか?」
「そうなんですよ〜。
この時期なので良い果物が無くって⋯シェリアもまだ早いから、全然甘く無いのよね〜⋯」
「ん〜⋯。でしたらお花のシロップは如何でしょう?」
「え?お花ですか?」
「はい。今の時期ですとフランのお花が良く咲いてますから。フランの花蜜に甘味があるので、花の根元をとって中の雄しべと雌しべを抜いた後でお花弁だけにされてから、魔法水5回分のお水を入れて、とろみがつくまで煮込んで濾せば、平カゴ1つ分のフランに甘い粉銅貨50枚分で、この瓶10本分ぐらいのシロップが作れますよ?
シロップにはフランの香りがついてるので、紅茶に入れても華やかになりますし、パンケーキやクッキーにかけても美味しいですよ。」
「まぁ、素敵ね!ありがたいわぁ~!」
ちちちちちちょっとまったあぁぁぁぁぁーーーーー!!!
甘味、有るんかい!!!!!
「あ⋯あの!
フランてどんなお花ですか?!」
「あらやだ。リリアナってば知らないで食べてたの?」
「へ⋯?!」
「貴方が良くチューチューしてるピンク色のお花のことよ。」
「あーーーーーーー!」
あ、うん。私、フラン知ってた。ガッツリ食べてるわぁ⋯。
うん。確かに甘いね、あの花。
そっかぁ〜⋯。
大口をあけて驚愕する私を見て、母とお嬢さんがクスクスと笑っている。
おっふ⋯。
「では甘い粉銅貨50枚分で宜しいですか?」
「ん〜、ちょっとまってね。
ねぇリリアナ。この瓶10本で足りるかしら?」
「あー⋯うん。どうだろ。
ぱんけぇきとかくっきーがどんなのか分かんないから言えないけど、ウチのパンの大きさを思ったらちょっと少ないかな。どこも兄弟が多いから喧嘩になりそう。」
「あらやだ。食べさせたこと無かったかしら?」
「たべてない!」
「あー⋯そっか。ジーニスがお腹にいたから私が作れなかったのね。それは可哀想なことしたわねぇ⋯。」
「うん!私、可哀想!だから甘い粉銀貨1枚分追加して買って!」
「あらやだ。ん〜銀貨1枚分かぁ~。どうしようかしら⋯でも、そうね。奮発しちゃおうかな?」
「ひゃっふぅうぅぅ!!!」
私は両手を上げて飛び上がって喜ぶ。
そりゃもう天にも登る心地だよ。
ビバ甘味!
ビバ甘い粉!!!
「じゃ、そう言うことでお願いね?」
「はい。直ぐに用意しますね。」
母とお嬢さんにクスクスされまくってるが、今の私はそれ所じゃ無い。
もう甘い粉=砂糖と私は判断した。
うん。たけぇ。
だってモッブが大人運賃銅貨2枚よ?
甘い粉が銅貨50枚分でパン20本分のシロップが作れないって、どんだけよ。
飴を作ろうと思ったらどれぐらい作れるんだろう。
あと私知ってるよ。
お祭りで食べる串肉、あれって一本で銅貨5枚要るからね?
十倍の値段だよ。
砂糖は高い!
甘い粉が入ってる瓶は、透明で高さ5cmぐらいしかなく。
しかも銀貨1枚と銅貨50枚の量なのに、3/10ぐらいしか入って無い事にも愕然とした。
高いなんてもんじゃ無かったよ。
酷すぎない?!
「うわ~⋯甘い粉、少ない。
コレって何で出来てるんですか?」
「ん〜、甘い木の根っこを錬成して作ってるのよ。一本分の木の根っこを使って、この瓶一本分ぐらいしか採れないから貴重なの。」
「木?!」
「そう、木の根っこね。」
「え?!根っことか沢山あるよね?!幾らでも取り放題だよね?!」
「色んな手間賃と言うか⋯、魔力が値段の高さの原因なのよ。
このミシリャンゼなら魔力が豊富な甘い木が沢山生えてるけど、他の地方は辺境まで行かないとあんまり生えて無いのね。
だから木一本分の価値も高いし、魔物の多い森から大きな木の根っこごと持って帰るのも大変でしょう?だから素材として値段が高くなっちゃうの。
それに錬成師が魔法を使うでしょう?元々採れる分量が少ないし、欲しがる人は多いから。
どうしても高くなるんですよ。」
「あー⋯そっか。枝とかじゃ無くて根っこだから、引っこ抜くのをあの森でするってなったら物凄く大変になるんだ⋯」
「なるほどね〜。お母さんもどうしてこんなにお高いのか知らなかったから、説明して貰ったら納得よねぇ〜」
てかいまれんせいしっていった?
ねぇ、れんせいしっていってた?
ウッカリ話の流れでそのまま流れて行きそうな情報に気付いて、心の足が思いっ切り踏み止まる。
「あ、あの!
このお店で神様のお薬作ってくれたのって、れんせいしさんですか?!」
「え⋯?神様のお薬?」
「ぷは!」
カウンターの高さがマルセロの身長ぐらいあるせいで、かぶりついたらお嬢さんが完全に隠れてしまう。
だから私は母よりも一歩下がった所で喋りかけていたのだが。
興奮し過ぎて思考が硬直したせいで、カウンターに突進した勢いで縁にぶら下がった。
懸垂して顔をだそうとしたのだが、2歳児の筋力では出来なかったのだ。
なので私からはお嬢さんの顔が見え無いのだが、声の調子からキョトーンとしたのが伺える。
それが面白かったのか、噴き出した母が背中を丸めて珍しく爆笑した。
「ゲホッゲホッ⋯ちょっと、ごめんなさいね⋯。あんまり可笑しくって笑いが止まらなくなって⋯」
「い⋯いえ。」
「もうう⋯リリアナってば、何時までもそんなに面白くしないで〜。お母さん、笑いが止まらなくって困っちゃうわ。」
「くっ⋯」
顔を真っ赤にしてカウンターから顔をだそうとして、縁からぶら下がってる私に、涙ぐんでる母から苦情が入った。
仕方が無いので私はヨロヨロと背中を丸めてお腹を押さえてる母の後ろに一歩下がり、お嬢さんを睨む勢いでキリリと見上げる。
「あの神様のお薬はお姉さんが作ったんですか?!」
「え、え?」
「あ〜、ごめんなさい。
訳が分からないわよねぇ。
この子ったらもう毒消しの効果にとっても感激してしまって、神様のお薬って言ってるんですよ。」
「はぁ⋯」
「あの!あの!作ったのはお姉さんですか?!」
「えーと⋯ちょっと分からないです。私が作ったものもこのお店に有るのですが⋯この空き瓶を見る限り、ひょっとして少し古く有りませんか?」
「えぇ⋯そうかも知れませんね。これは夫が購入したものだと思うんですが、いつ購入したか私も知らないんです。
でも私達は昔から此処のお店でしか魔法薬は買わないので、此方のお店で作られた物に間違いは無いんですが⋯」
「でしたら私が作った物では無いかも知れませんね。
あの⋯効果に感激されたと言うのなら、問題があったわけでは有りませんよね?」
お嬢さんが苦笑を浮かべながら、空き瓶を手に取って困った様に告げると、母はコクコクと何度か頷いた。
「えぇ、えぇ。商品には何の問題も有りませんでしたよ?
私達はとても感謝してるんですの。
このよく効く毒消しのお陰で息子の命が助かったものですから。」
「はぁ⋯ならお役に立てて良かったです。」
「ですのでこの子はこの毒消しを作ってくれた方に、お礼を言いたいと言ってるんですわ。」
「なるほど、そう言う事でしたか。それは嬉しいお話です。
この毒消しを作ったのが誰かは空き瓶を師匠に見せなければ分かりませんが、お客様が感謝なされていた事はお伝えしておきますので、どうかお気になさらず。」
あ、マズい。
営業スタイルになった気配をお嬢さんから察して、私はとても慌てた。
このままだとサッサと会話を切り上げられてしまいそうだ。
まだまだ聞きたいお話は沢山あると言うのに。
「あ、あの!マルお兄ちゃんを助けてくれてありがとう御座いました!」
「ウフフ。作ったのが私では無いですが、こちらこそ丁寧なお礼をありがとうございます。」
「それで!あの!私もこのお薬を作れるようになりたいです!どうやったらなれますか!」
「え⋯?!あー⋯」
満面の笑顔だったお姉さんに会話を切り上げられない様にしたら、物凄く気まずそうな顔になった。
「そうですねぇ〜⋯うーん⋯」
「私がなるには難しいお仕事ですか?
私は本気なのでズバッと教えて下さい!」
「⋯はい。そうですね。
普通のご家庭のお嬢さんには少し難しいのでは無いかと思いますよ。」
「理由を具体的に教えて下さい!」
「⋯あの。とてもしっかりされてるお嬢さんですね?お幾つなんですか?」
「2歳ですわ。次の春で3歳になりますね。」
「⋯それは、とても凄いですね。幼く見えるけどもう少し上のお子さんかと思いました。」
「そうなんですよ。この子はとっても賢くて、兄弟の中でも一番お喋りが得意で。とても優しい子なんですよ。」
「そうですか⋯。
でしたら勉強を本気で頑張れるなら、錬成師になる才能をお持ちかも知れませんね。
でも錬成師になるにはとても沢山のお金が必要なんですよ。
ですから本気で錬成師になろうと思うので有れば、お金持ちの家の養子になって支援して貰う必要が有るんです。
ですが⋯普通のお金持ちだと無理なので、領主様の中でもお金をお持ちの方か、王都のような大きな街に本店のある、大きな商会の会長でなければ難しいかと思います。
ですがそんな方々に見初めて貰うにも大変なので、よほど飛び抜けた才能をお持ちでなければ、やはり難しいのでは無いでしようか。」
「あらあ⋯それは残念ねぇ。」
ガーン⋯。
お金を稼ぎたくて錬成師になりたいのに、錬成師になるのにお金が必要とはこれいかに。
「⋯お金が沢山いるのは分かりました。でもどうしてそんなにお金が必要になるんですか?」
グヌヌと思ったが端から難しそうなのは分かっていた。
でも理由が納得できなければ諦める気持ちにはどうしてもなれずに食い下がる。
多分これが平民では無理で爵位が必要とか言われるのであれば、直ぐに諦めたかも知れない。
でも理由はお金なのだ。
それなら私にも少しチャンスがあるのでは無いかと思っている。
でもお嬢さんは意外だったのか、まだ粘るの?!みたいなビックリした顔をする。
「え、えーと⋯お嬢さんには少し難しい説明でしたか?」
「いいえ。お金が沢山必要で、私が話す事も難しい人達でなければ援助が出来ないのは分かりました。
ですがどうして錬成師になるのに、そんなにお金が必要なのかを知りたいんです。」
「はぁ⋯。そうですね。
先ずは国立の魔法学院に入学する必要が有りますが、その知識を学ぶには高いお金を支払って先生を雇う必要があります。
本などの教材を揃えるにも莫大な資金が必要になるので、入学前に既に金貨20枚は必要かと。
そして上手く入学出来たとして、成績にもよりますが入学金が小金貨30枚必要となります。
また王都にしか学校が無いので、そちらにご親族の方が居られないのであれば寮生活になりますので、年間で小金貨10枚必要ですね。
えーと⋯もうこのあたりで普通のご家庭のお子さんであれば、難しいかと思うのですが⋯」
「大丈夫です。
でも全てを細かく聞くのはお姉さんの迷惑になるので、卒業までに必要な『総資金』を教えて下さい。」
「え?そ、そうし?」
「必要なお金を全部でいくらになるか教えて下さい。」
「あぁ⋯、上限なんて有りませんよ。お金は幾らでも使えますので。」
「う⋯では最低で幾ら必要になるんでしょうか。」
「そうですねぇ〜。白金貨5枚も有れば、錬成師になるだけでしたら可能かと思いますよ。」
「分かりました。
白金貨5枚ですね。
では何故そんなに高いお金を必要としてるんでしょうか。」
「えー、まだお聞きになられるんですか?白金貨って意味お分かりです?」
「大丈夫です。
本音を言えば白金貨の価値はまだ理解しているとは言いません。でも、そうですね。
例えばさっきの甘い粉の話をします。
甘い粉の木が何なのかを調べて根っこを集めたら、素材として買って貰えますよね?」
「ウーン⋯まぁそうですね。
基本的に直接買い取りをするのはあまり無いので、甘い粉の根っこなら戦士ギルドで売って頂けたら此方に届きますよ。」
「では例え話をします。
甘い粉の根っこの木が何なのかを調べて、森の奥まで行ける狩人の叔父や従兄弟に協力してもらって根を手にいれて、それを戦士ギルドで売るとします。
まだ売値を知らないので適当に金貨1枚としますね?
そして甘い木の根に素材としての価値があると教えた情報量として、私はそこから銀貨を1枚貰うとします。
この時点で1銅貨も無かった私は銀貨1枚儲けました。
でも私は更に儲けます。
今度はそこからお姉さんに銅貨50枚分の白い粉を売って貰います。
そして私は甘い粉を使って『飴』と言う商品を作ります。
『飴』と言う商品の材料は甘い粉、水、フランとします。
作り方は作ったシロップを茹でて水分を飛ばし、お皿にとろみのある汁を垂らして、熱を冷ませば完成です。
分量を調べなければ正確にどれぐらいのお金が入るかは分かりませんが、甘い粉は作れば作るほど売れる商品とのことなので、旅商人に売りさばけば少なくても銀貨10枚は稼げるんじゃ無いかなと予想しています。
あ、疑っていますね?
まぁ今は例え話なので良いです。
私が言いたいのは、甘い粉の原料になる木がこの村にあり、高額な素材になると知った知識があるだけで商売が出来ると言っています。
つまり正しく必要な情報さえあれば、お金を稼ぐと言うのはお姉さんが思うよりも簡単なんですよ。」
「⋯⋯お話の真価はともかく。私が予想していた以上に、お嬢さんは賢い方なのですね。
作り話として話半分に聞いても、確かにお金を稼ぐ素質を持っておられると私も思います。
大金を稼ぐにはもっともっと難しいとは思うのですが、恐らくお嬢さんであれば稼げるのかも知れません。
お嬢さんは勉強を何もされていないのに、もう錬成師みたいですね。とても驚いています。
であればお話をするのも無駄では無いやも知れませんが、見習いとは言え私も錬成師です。
私はお嬢さんとお話する時間で金貨10枚稼げます。
つまり私はお嬢さんとお話しても稼ぎが何も無いので損をします。
お嬢さんは私に金貨10枚分の価値のあるものを、支払うことが出来ますか?」
「分かりました。
では最後に1つだけ。
お姉さんが有れば良いなと思う素材を教えて下さい。
ただし2歳児の私が単独で調達可能な素材でお願いします。」
途中から少しウンザリとした表情をしていたお姉さんが、とたんにニッコリと良い笑顔になった。
「良いでしょう。
では魔力草をこのお店に持って来て下さい。
正しい採取方法は戦士ギルドでご自分で調べて下さいね。
正しい方法以外で持ち込まれた素材は失格とします。
受け取りは魔力草10本。
毎日一本持ってこられても困るので、一度に10本持って来て下さい。
1日で10本の魔力草を採取するのは、貴方では難しいでしょうから、3日以内に正しい方法で採取した魔力草を10本とします。
持ち込めたら銀貨を10枚お支払いしましょう。
その時に少しならお話をしても良いですよ。」
「ふおおぉぉぉーーー!!!
お姉さんありがとうございます!!!」
挑発的な威圧感を醸し出していたお姉さんだったけど、私が飛び上がって喜んでたら苦笑された。
「お母さんの言う事を良く聞いて、危ない事はしないでくださいね?あとズルもしちゃ駄目ですよ?」
「しません!」
「もぉ〜⋯お礼を言いたいって言うから連れて来たのに、本当の狙いはそれだったのね?
ご迷惑をお掛けして本当に申し訳無いわぁ~」
「ウフフ。いえいえ、とても楽しかったですよ。ではまたのご利用をお待ちしております。」
申し訳無さそうな顔をする母に、営業じゃ無いスマイルを見せてくれたお姉さんは、ルンルン気分な私を静かに見送ってくれた。
あのお嬢さんメッチャ良い人だった!
名前聞くのを忘れた事をお店から出て思い出したけど、私の中ではこれから長いお付き合いをするつもり満々なので、またこのお店に来て聞けば良いやと意気込む。
ちなみにこのお店が何のお店かも聞くのを忘れていたので、それも聞こうと思う。
でも私が本当に欲しかった情報は掴み取れた。
完全なる迷惑行為をした自覚は有るけど、背に腹は代えられない。
「お母さん!戦士ギルドに行こう!!!」
私は顔を真っ赤に、目をギラギラさせながら、珍しく嫌そうな顔をする母を見上げる。
「えぇ〜、戦士ギルドは女性や子供は近付いたら駄目なのよ?」
「え、意味分かんない。
理由は?」
「危ないからよ〜」
「それって女性や子供が殺されるってこと?」
「殺される以外にも危ない事はあるのよ?」
「つまり誘拐されたり、はしたないことをされるって意味だよね?」
「えぇ〜?!リリアナ、貴方はしたないってことの意味が分かるの?!」
「今それは良いから!お母さんが戦士ギルドを危険だと思う理由をちゃんと教えて。」
「いやいやいや、何を言ってるの?リリアナがはしたないことを知ってる方が、お母さん大問題なのよ?」
「お母さん。こんな道端ではしたない話をする方がはしたないと思わない?」
「うっ⋯」
「なので取り敢えずその話は家に帰ってすれば良いよ。
あとお母さんが思ってるより、戦士ギルドは安全だし。
お母さんが不安に思う理由も分かるから、その対処はちゃんとするよ。」
「ええぇ?!どうやって?ちょっとお母さん、リリアナみたいに賢くないから言ってることが全然分からないわぁ~」
オロオロと困る母を見上げて1つため息をこぼす。
確かにこんな母を戦士ギルドに連れて行くのは危険な気がする。
でも父と出直せば良いかと言われたら、そりゃその方が断然良いに決まってる。
でも母が戦士ギルドを警戒する以上に、父はもっと警戒するだろうとも思う。
何せ私は可愛いからだ。
ぶっちゃけ鏡なんて無いから、私は自分の容姿を知らない。
でも母やカタリナを見てたらきっと私も可愛いのでは無いかと予想は出来る。
ちなみに父は可愛く無い。
髭面のオッサンなのもあるけど、美形では無い。
なのでロベルトもあんまり美形では無い。ちょっと可愛いとは思うけどね。
逆にマルセロは美少年だから、きっとモテると思う。
その理屈で言えば私も美形とは断言出来ないが、2歳児が可愛く無い訳が無いだろうと判断してる。
つまり何を言いたいかと言えば、父が私を戦士ギルドに連れて行く訳が無いと言うことだ。
それは困る。
私には戦士ギルドで魔力草の正確な採取方法をゲットする使命がある。
なら父にそれをさせれば良いかと言えば、それは違う。
父が出来ることは話を聞くことだけだからだ。
情報には文章だけでは無く、絵も有る。
実際に私自身が戦士ギルドに行かなければゲット出来ない情報が有ると思うのだ。
そして父は説得出来ないが、母なら何とか煙にまける自信がある。
逆を言えばそれを出来なければ、私には錬成師になる資格は無いと言う事になる。
「お母さんが美人で私が幼いのが問題なら、お母さんは布で顔を隠せば問題無いし、私には親がついてるから大問題。
それに危険だと思う人間は、こんな時間帯に戦士ギルドの中にはいないんじゃ無いかな。仕事を面倒がってテントの中でゴロゴロしてるか、渋々ながら森に向かってると思うから。
それに村人が依頼に来れないような職場だと、仕事が無くなるから戦士ギルドの職員さんは厳しく目を光らせてくれると思うよ。
お母さんが危険に近付かない行動をするのは悪いことでは無いけれど、私は自分の力で情報を調べないといけないの、分かるよね?それをお父さんに説明しても、きっとお父さんは許してくれないと思うから、どうしても今行く必要が有るんだよ。
そうで無ければ、私は少し危険な方法で情報を調べるしかなくなる。でもお姉さんがそれは駄目って思うだろうから、お母さんに頼むしかないんだよ。
お母さん、どうかお願いします。
私に魔力草を探すために戦士ギルドへ連れて行って下さい!」
私は地面に土下座して頭を地につけた。
「えぇ~?!えええ〜?!
もう〜、もうもう〜お母さん困っちゃう〜」
母はひたすらオロオロして大きなため息を吐き出した。
顔を布で隠した所で母のナイスバディは何も隠れてないからきっとこの時点で父に言わせたら大問題。
それにこれだけの長台詞を言っても、母にはきっと半分も聞いてないし2割ぐらいしか理解して無いと思う。
カタリナなら私の頭にゲンコツを落として「煩い、帰るわよ。」で終わってる。
従兄弟のエターニャなら付き合ってくれると思うけど、あっちは母以上に問題だ。
戦士ギルドのスタッフすら危険になっちゃうから。
何せエターニャも可愛いので。
カタリナよりは美貌のランクは少し下がるけど、気立ては良いし適齢期だし、何よりソコソコなナイスバディ。
身体だけで言えばカタリナよりも断然豊満なエターニャの方が需要が高いと思われる。
ちょっと腹回りも太いが、誤差の範囲でしかない。
ちゃんとクビレが有るからね。
前世で言う肥満とはモノが違う。
「はぁ〜⋯。仕方がないわねぇ〜⋯。何時までもそんな可愛い格好をしてないで立ちなさい〜。まんまるくなっちゃって、ほんとリリアナは可愛いわねぇ〜」
ヨッシャ!
チョロいぜ!!!
しゃがみこんだ母がクスクスと笑いながら私の後頭部を指先でツンツンしてくる。
うん。母が戦士ギルドに行くのを止められるワケだ。
母の両親も兄弟も父も娘の私だって単独で行こうものなら全力で阻止する所だよ。
「お母さんありがとう!大好き!!!」
私は素早く起き上がると、無茶苦茶罪悪感に胸を痛めながら、全力で母に抱きついた。
母よ。可愛いのはアンタだよ。
キャーと笑いながら道端でギュッとしあう母娘なんて、端から見たらほのぼのするんだろうが、2歳の娘に28歳の母親が騙されてるだけだからな。
うん、もう何も言うまい。
ちなみに全力で戦士ギルドの安全性を訴えたけど、あれは紛れもなく嘘百日だ。
だって戦士ギルドなんて行ったことないし。
ぶっちゃけ危険しかないと私も実は思ってる。
そう思わず迂闊に行動すると本当に死ぬぐらいには、日本とは全く環境が違うことを察せる情報を集めてると思う。
でもその少ない情報から、戦士ギルドで働く最底辺のロクデナシが昼前のこの時間帯に少なくなってる事は予想してる。
問題は仕事の出来る真面目な戦士ですら、母には危険なことかな。
私?
戦士の趣味に寄るんじゃ無い?
変態王国だった日本人なら警戒するけど、ん〜⋯こっちの環境なら真性のロリコンは庶民には少ない無いんじゃ無かろうか。
まぁ無いとは言わない。
何せ私は可愛いので。
同年代ウケするかと言われたらカタリナ以上にモテ無いタイプとは思うがな。
やっべぇなウチ。
可愛い人って母とマルセロしかいねぇよ。
ジーニスはまだよく分かんない。なにせ普通の赤ちゃんなので。
こうして母は肩にかけてたストールを頭の上に被り、口元にクルリと巻いて顔を隠した気分になりつつ、いやもう全く隠しきれてないからね。
でもそれは指摘しない。
そして戦士ギルドの建物の直前で私を抱いて、ドアが完全解放されてる入り口を潜って行く。
開けた所で風で勝手に閉まらないように、ドアの下に石を置いて簡易に固定までしてる徹底ぶりに少し引いた。
戦士ギルドで働く人、すっごく寒いんじゃ無かろうか。
冬場の電車で停車時間中ずっと開いてるドアを思って不憫になったが取り敢えず流す。
「あの〜⋯ごめん下さい。」
入った先のフロアは石畳で、10mぐらいの前方にある壁には、A4サイズのコピー用紙2倍ぐらいの大きさの黄色い革が数枚貼られてる。
この世界で言うポスターかは知らないが、文字っぽいものが黒色のインクで書かれてた。
で、母が声をかけたのは左横にあるカウンターの中だ。
「おう。なんだい。」
メッチャゴッツいお爺さん達がカウンターの中で働いてる。
父よりも10歳ぐらい年上の中年もいるが、70歳未満のお爺さんの方が多い。
うちの祖父より年上っぽいね。
と言っても見える所で6人だけども。
つまり1人がオジサンで5人がお爺さん。
右側にはテーブルと椅子が何台か置かれてるけど、そっちの方にもお爺さんが10人ぐらい居る。
お酒だかお茶だか分からないけど、何となく老人会のか将棋倶楽部とか言う単語が頭の中に浮かんだ。
まぁ⋯理屈はわかる。
若い戦士がずっと生き残って、引退する年齢になったら、戦士ギルドの職員として働いてるんだろう。
んで戦士ギルドの職員になったら死に難いから、職員が高齢化する。
口五月蠅いお爺さんと話しをしたくない若い戦士達は用がなければ戦士ギルドには近寄らない。
つまり自然と客には安全な環境になる。
今はまだ冬が開けたばかり。
戦士の数も少ないのでお爺さん達は暇してるが、獲物を持ち帰ったり、仕事を探す為に若い戦士が彷徨くことも有るから、ロクデナシな戦士も多いので母や子供には危険。
うん⋯なるほど。
取り敢えず年齢層を見る限り、どうやら現時点で言えばかなり私達母娘には安全な環境っぽい。
母も理由までは分からなくても、想像とは違いって安心出来そうな環境に明らかにホッとしてる。
「あのぉ〜⋯初めてで勝手が分からないので、少しお話を聞いて頂けたら嬉しいのですが⋯。」
「あ!困った事ではないですよ。」
なんでぃなんでぃとばかりに、カウンターの中も左側からも全員から意識を向けられた気配を察して、私は目の前にいる60代ぐらいのお爺さんに話すふりをして全員に聞こえる声をあげる。
「おう。個室いくか?」
「いえ、そこまでじゃないです。魔力草の正しい採取方法を調べるにはどうすれば良いか教えて下さい。」
「おう?!」
お爺さんはビックリして目をパチクリさせた。
どうやら私の言葉は聞こえたらしいが、色んな事がまだ理解出来てないらしい。
母はもう仕事を終えた気分で成り行きを見ているだけなので、お爺さんが飛ばしてる視線のSOSには全く気付いて無かった。
「毒消しを買うのにお薬屋さんに行ったんですが、錬成師になるための話しを聞く為に、私が採取出来る素材を持っていく約束をしたんです。
なので魔力草の正しい採取方法を調べたいので、どうすれば良いか教えて下さい。」
「んんんん???」
お爺さんは一度私を見て話しを聞いた後、更に母にSOSの視線を向けたが全く母が気付いてないので混乱してしまった。
「あの、俺も一緒にいても良いですか?」
「お、おう!頼むわ!」
50代ぐらいのオジサンが後ろから声をかけると、目の前のお爺さん明らかにホッとしたオーラを出しながら振り返ってる。
「正しい採取方法を調べる為には、戦士ギルドに登録する必要が有るんだ。
だが成人前の子供がギルドに登録するには、教会を卒業した印がいる。
お嬢ちゃんには無理だ。
それとも奥さんが登録するかい?」
「え?!」
「奥さんの年齢なら文字で、教会を卒業した証明をすることになる。あと登録料は銀貨1枚だ。」
ぬ。これは困った。
早くも私では解決出来ない展開になってる。
「⋯戦士ギルドに登録せず、魔力草の情報を調べる方法を教えて下さい。」
「ふむ。こっちも商売だからな。金になる情報は仲間以外には売れん。」
「はい。ですが錬成師見習いのお姉さんが、私個人で出来るとして、そう指示されています。その点で何か情報はありませんか?」
オジサンもお爺さんも流石にギョッとした顔をする。
「⋯随分と小さいが、歳は?」
「2歳です。」
『?!』
異質は弾かれる?
知らんな。
私は錬成師になると決めたんだから、普通の人から弾かれるぐらいはちょっと我慢する。
ギョッとしてるお爺さんとオジサンに、私は真剣な視線を向ける。
「お姉さんが言うには、錬成師になるには学校に行くために全部で白金貨5枚は必要になるそうです。」
『白金貨?!』
「普通の農村に産まれた娘は、その学校に行くのも難しいと言われています。
でも私は錬成師になるに学校に行きたいです。
普通の子供と同じことをしていたら間に合わないので協力して下さい。
私が戦士ギルドに登録出来るようになったら、必ず登録するのでお願いします。」
「⋯これは参った。」
「うむむむ⋯」
オジサンからどうやって諦めさせようかと考えてる雰囲気を感じる。
何故ならのほほんと母がしてるからだ。
「⋯錬成師になりたいのは分かった。無理だから諦めろ。」
「いいえ。目指します。
理由は目指す価値があるからです。」
「⋯目指す⋯価値?」
「例えば戦士になりたいと思った2歳の子供が、毎日走ったり勉強したりするのは無駄ですか?」
「いや、それは⋯」
「登録するには銀貨が1枚必要になります。
ですが彼はとても貧乏な家庭の産まれで、明日には飢えて死ぬかも知れないぐらいに食べるものにも苦労するような生活をしていたらどうですか?」
「うむむ⋯言いたいことは分かる。だが戦士と錬成師では⋯」
「同じです。
なりたい職業を目指す為に努力するのは同じなんですよ。
そしてそれは絶対に無駄にはならない努力です。
違いますか?」
「いや⋯別に間違ってはないんだが⋯あー、どう言えば良いやら⋯」
「ガハハハ!」
オジサンは等々頭を抱えて悩み始めるが、お爺さんは爆笑し始めた。
「ワシは難しいこたぁ分からん!だが決まりは大事だ。
嬢ちゃんが頑張った所で何ともならんことも有る!
だが努力するのは良いことだ!
ワシは頭が悪いから、難しいこたぁ教会で聞け!
銀貨と卒業した印を持って来るんなら、2歳だろうが魔力草の情報がのっとる本を読ませてやる!
ワシ達が言えるのはそれだけだ!」
交渉失敗。
もうこれ以上粘った所で、どうにもならない雰囲気を感じて気分が沈んだ。
「⋯リリアナ。なっとく出来た?帰りましょう?」
悔しさに目に涙が滲んだが、泣いて駄々をこねるのは間違いなのは分かる。
だからぐっと握りこぶしを作ってコクンと1つ頷いて返事を返した。
「お仕事の邪魔をしてごめんなさい。教えてくれてありがとう御座いました。」
母に抱かれてる姿勢のまま、ペコリと頭を下げたら涙がパタパタと下に落ちて行く。
今の私には、魔力草が何なのかを知ることすら辿り着けなかった。
でもまだ諦めた訳ではない。
この涙は単に思うように事が運ばなかった事が悔しくて、駄々を捏ねてる子供のワガママだ。
「お母さん!教会につれて行って!」
「ん〜泣くのを止めない子には無理かなぁ〜」
「泣くのやめる!」
「はいはい。
ではお邪魔しました。
お話して下さって、どうもありがとうございます。では。」
「おう!頑張れよチビッコ!」
お爺さんの威勢の良い声に送られて、私達母娘は戦士ギルドから出て行った。
明けっ放しの出入り口から出た瞬間、ドッと建物の中が騒がしくなったが、これはもうしょうがない。
名前も教えて無いので面白可笑しく話しを回された所で、錬成師を目指す2歳の子供が居るぐらいの情報しか漏れないだろう。
なんならお喋りで変なチビッコが来た、ぐらいで終わるかも知れないけどね。
残念




