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勇者誕生!


「お⋯お姉さん⋯おみ⋯おみぢゅをくだしゃ⋯コフ。」

「っ?!リリ⋯!黒魔石、大丈夫?どうなさったの?」

「は⋯話しすぎて⋯お水⋯コフケフ」

「分かったわ。お父様!」

「だめ⋯まだ、おわってない⋯」

「でも貴方⋯くっ。

お父様、この場所に黒魔石の為にお茶を用意しても宜しくて?お話し過ぎてお茶を所望されてますの。

でもまだお話は続きが有るそうですわ。」

「ならば休憩を挟もう。」

「まだ駄目だと申されておりますの。」

「ならば茶の手配を。」

「いいえ!私が出しますわ。

黒魔石はまだ幼いのです。

何もないとは思うのですが、理解の及ばない者が外に居れば危険もありましょう。」

「ならばそうせよ。

他の者で茶を望むなら申せ。

黒魔石が回復するまでなら、不浄も許そう。

だが騎士の付き添いの元とする。」

『ザワザワザワザワ⋯』


お姉さんが手早く何時もの机とテーブルをサッと出して、お湯を沸かそうとした所で、元王妃が男孫の手を借りてゆっくりと立ち上がる所だった。


「おう様。婆さん⋯とめろ。」


うつむき加減だった元王妃が無表情で私がテーブルに置いた杖を見下ろす。


「しぬきだろ。にがさねえ。」


口の中の唾液を集めて必死に飲み込むと、何とか声を絞り出す。


「お祖母様?!」


男孫や元王様がハッとして彼女を見つめる中で、王様は私をジッと眺めている。

王様が人形みたいに表情が抜け落ちてるのを見てゾッとした。


「み⋯。水でいい!」

「どうぞ。」


ギルバートさんに顔を向けると、見えないはずなのに気付いてくれて、サッと銀色の水筒を差し出してくれた。

大人用なので1人じゃ持てなくて、ギルバートさんの手に私の手を添えて水筒を傾ける。

間接キスとか言ってる場合じゃねぇ。


「花摘みに行くだけじゃ。」

「嘘だな。」


グイッと口の端から溢れた水を拭って張りのある声を取り戻した私は、あれ?休憩終わり?うそん、はやくね?

みたいにオロオロしてるギャラリーを目の端に掠めながらも、無表情な元王妃の覚悟の決まった瞳をシッカリと観察する。


「アンタは息子の足手まといになるのが嫌だから、自分で自分の始末をつけるフリをして、自分のプライドを守りたいだけだ。」

「⋯⋯⋯」

「良いことを教えよう。

母はバカな息子を叱るのも仕事なんだぞ。

なぁ1つ聞きたい。

3番目から5番目の奥さん達についてだ。

最初の頃は男児ばかり産んでなかったか?」

「?!」


無表情だった元王妃が眉間にシワを寄せて王様の横顔を睨見つける。


「多分最初は本当に偶然女の子が続いてたのかも知れないけど、錬成師の勉強が楽しかった王様は、10歳過ぎてからまだ成長してる途中だったのに、自分で作った魔法薬を自分で飲んで効果を確かめる癖とか覚えてそうだよな。

んでもって可愛い妻が妊娠して魔力過多症になってたから、何かいい方法がないか探そうとして、自分の身体をワザと薬で⋯」

「黒魔石。」

「当たりかよ。」

「アルフィン⋯ソナタまさか⋯」


無表情だった王様がムッツリと不機嫌そうな顔になるのを見て、無表情だった元王妃は唇を震わせた後、般若に変わった。

もうマシンガン説教が始まった。


「だいたい貴方は昔から何度申せば分かるのです!

貴方には自覚が足りないのですよ!

それなのに⋯」

「みんなー、婆さんの説教が終わるまで休憩だってさー。

でも死人でたら困るからヤバそうなヤツいたら気を付けてくれー!」


うーっすと返事は無かったが、何人かはコクリと騎士達が頷いてくれたので任せる事にする。


煩い女は嫌いと言ってた王様は、多分この事を経験してたからに違い無い。

元王妃から暗い気配が吹き飛んだので、私はお姉さんにお茶を用意して貰うことにする。

勿論甘いミルクティーにした。

王様の瞳から光が消えてくのと反比例して、元王妃が活気を取り戻して行くのが面白い。

多分このバカ残して死ねねぇと思ってくれて良かった。

でも逆に奥さん達が嘘やろ?!

って心境なのにショックがあんまりにも大きすぎて、思考が固まったせいで、宇宙を見上げてる猫みたいになってる。

これはちゃんとフォローしとかないと大惨事だ。


「黒魔石」

「貴方!

アルフィン聞いているのですか!貴方は昔から何度私が申してもそうして⋯」


何だか説教の内容がリピートして永遠に終わらないゾーンに入ってる。

年寄りって同じ話しを繰り返すことあるよね。


「元王妃様。」

「何です。その様な面妖な呼び方は、前から聞いて思っていましたが⋯」


あ、なんか説教がこっちに流れて来た。

そうか、だから元王様や孫達の誰もが助け舟を出さなかったのか。

それでもいつもは程々の所で元王様がお助けマンしてたかもだけど、王様のやらかしが酷すぎてムッツリモードに入ってるし。

そりゃ自分の身体で人体実験して影響受けてただなんて聞いたら、温和なお父さんも怒るよね。

あと元王妃様は王太后殿下、または上后様(じょうきさま)と呼ぶらしいよ。


「じゃあ元王様は上王様なのかな?」

「いいえ、違います。

先王様とお呼びなさい。」

「せんおーさま。先王様。

覚えたよ!上后様ありがとう!」

「それと丁寧な話言葉を身につけなさい。」

「はい。分かりました。

でもお手本がないと難しいかも。なるべくサラディーン様の言葉を覚える様にしますわ!」

「ふむ。宜しいでしょう。

貴方は今後貴族になるのですから、平民のお手本として言動に気を付けるのですよ。」

「はい!でもお仕事の時はごめんなさい。」

「ふむ⋯どうしても必要なのですか?」

「私の能力はとても無責任です。与えられた情報が増えたり違っていれば、答えが変わるからです。

なので嫌われる、嫌がられるぐらいで丁度良いと思います。

そのまま信じるのでは無くて、反発して答えを自分の中で探して欲しいと思うからです。


あとは上后様もお分かりでしょうが、王様は折角のお叱りも聞き流していました。

女性は下に見られてしまうので、母親でそれなら他人はもっと流されると思います。

素直に信じられるのも困りますが、流されるのもお話する意味がないので困るんです。」

「妾も殿方の言葉を学ぶべきでしょうか。」

「それも手段として有ると思いますが、王様に限って言えば母の特権を使った方が効果的だと思います。」

「ほお。どのような?」

「黒魔石」

「かまいません。お話なさい。」


王様からの眼圧が高まってる所を見れば、今後が大変な予感がするが仕方がない。


「王様。上后様が覚悟を決めるよりよっぽど良いと思います。」

「むぅ⋯」

「それでですね?

王様はとても偉そうにしてるけど、中身はお子様なんですよ。

だから母は心配なのですよ、って優しく抱きしめて上げて下さい。

そしたら悪いなぁって素直に反省してくれると思います。」

「適当な事を申すな。」

「どうやら恥ずかしくて嫌みたいなので効果はありそうです。」


オホホホ!と閉じた扇子の先を口元に当てて上后様はそれはもう楽しそうに笑ってくれた。

王様はぶすくれてるけれど、圧力は下がったので許してくれるらしい。


「あと王妃様、第2夫人様、さっきは途中で止められたから最後まで言えなかったけれど、王様が誤解されても困るので聞いて下さい。

王様は頭の良いバカなんです。

私はバカとは知識が足らない愚か者と言う意味と、知識があっても強い意思を持って自分を犠牲にする事もバカだと考えています。

王様が子供の頃は知識の足らない前者のバカをしていたと思いますが、王妃様を迎えてからしたのは後者のバカだと考えます。

王妃様が苦しむ姿をただ黙って見ているのは、王様はきっと辛くて嫌だったのではないかと予想しました。

だから魔力過多症の状態をわざと自分で体験して、良い治療方法はないかと探したんだと思います。

それらのどれが何の働きをして、女の子ばかり産ませる様な体質になったのかは、もう誰にも分からないと思います。

でも流石に変だと気付いた王様は、また自分の身体を使って対策をしたんだと考えています。

だから今はもう外国から来られた奥様達は、女の子を無事に産めていませんか?」

『⋯⋯』

「お二人の辛かった経験を思えば、簡単に許せとはとても言えません。

特に第2夫人様は王家が望んで迎えた女性です。

それなのに理不尽な事をされたら、怒っても当然だと思います。

ですがどうか、その苦しみを乗り越えて欲しいと思います。

なので第2夫人様が嫁いでから経験なされた悲しいお話を、苦しかった経験を、この場にいる全員に、つつみ隠さず聞かせて欲しいです。

それはここに居る人達にとってはとても辛い事だとは思います。

でもどうか罪の意識を持って、長い間苦しみに耐えてきた女性の情報を聞いて上げて下さい。

私が咎められないのと同じで、これは新しい時代で必要になる知識に変わると思うので、思う存分たまりに溜まった不満を全てお話下さい。

過去の恨みはそれでどうか、今日この瞬間に捨てられる様に宜しくお願い致します。」


そして怒涛の如く始まった第2夫人の恨み節を、鐘半分以上聞かされる事になった。

上の皆が段々と遠い目をして行くのが、なかなか見ていて面白かったが、下のギャラリーも反応は様々で、王室のスキャンダルを面白がってる人や不愉快になってる人。

第2夫人に肩入れする人も居れば、逆に王家を庇う気持ちの人も居て、シレッと私と同じ様に椅子に座ってるお姉さんは、静かにティーカップを見つめてる。


それと下の人達全員聞いてるのに、僕聞いてませんよー。

興味ありませんよー、ってこんなふうにそれぞれが取り繕ってるのが、わざとらしくてもっと面白かった。


私は上にいる無表情で口元をレースの扇で隠してる姫と、フワフワの扇を畳んで握り、肩を落としてる姫のうちどちらが第2夫人の娘なのかを観察する。

一応2人ともサラディーン様と色は同じで、どちらがどちらの姫かは外見での見分けが難しい。

王妃は銀色に近いプラチナブロンドで、第2夫人ははっきりとした金髪と一応色に差はある。

瞳の色も王妃は薄い空色だが、第2夫人は濃い翡翠色と違っているものの、肌の色に差は感じない。

人種が同じで金髪が多い所を見れば、銀髪は劣等遺伝子なのかなと思う。

あと農民だけど私達家族や村人は薄い茶髪や空色の瞳が多いことから、緑色の瞳は劣等遺伝子なのかなとも思う。

先王様は青みがかったグレーな色をしてるし、最初は老化で色が抜けた銀髪かと思っていたが、ひょっとしたら元から銀髪なのかも分からない。

上后様は美しいはっきりとした金髪と鮮やかな碧眼。

王様は間違いなく上后様に似てると感じる。

先王様の顔立ちを見れば、上后様似なのは明らかだ。

ちなみに老化や化粧で取り繕っていても、上后様は控えめに言って物凄い美女である。

だから上后様に似てる王様は美人なのだ。

ちなみに王妃様も可愛い系の美女である。

サラディーン様は王妃様の娘だと思う。

第2夫人より顔立ちが似てるからだ。

第2夫人も美女だと思うけど、上后様や王妃様と比べたら美貌が霞んでるんだよ。

なんて言えば良いか難しいけど、鼻が少し高すぎたり唇の形がポッテリとしてたりと。

興奮して扇からチラチラ口元が露出したから分かった情報ね。


目立たないが微妙な所に少しだけ違和感がある顔なのだ。

それは個性なんだけど、そんな違和感が全く無い芸術的で迫力がある美貌なのが上后様で、同じく王妃様も愛らしさを感じさせるのに、目鼻立ちのバランスが調和してると言うか。


上后様がグレース・ケリーなら、王妃がオードリー・ヘプバーンで、第2夫人がマリリン・モンローな感じだ。

系統で分ければだよ。

ちなみにレースの方が第2夫人の娘でフワフワの方が王妃の娘と思われる。

理由は目。

レースの方には怒りがあり、フワフワの方には失意がある。

つまりレースは第2夫人と同じ被害を受けていて、失意の方にはそれに同情してるからだと思われる。

王妃は目に光が消えて顔が曇ってる所を見れば、恐らく第2夫人に直接的な攻撃をしたのは本人では無いと予想する。

性格的に嫉妬に狂った所でウジウジ泣いてるタイプなのかも知れないが、それを見て王妃を慕ってる側近が暴走したなら、王妃はそれを止めなければならない。

でも止めなかったのなら、それは故意である。

自分が積極的に攻撃してなくても、自分の側近が第2夫人を攻撃しても仕方が無いと思うぐらいには狂ってたんだろう。

第2夫人の話を聞いて、そんなこと知りませんて顔じゃないから、加害者の自覚はあるらしい。


そして上后様の方はまた無表情になってる。

これもまた罪の自覚がある様だ。

瞳に怒りが灯ってない事から、反省しているのが伝わってくる。

多分上后様も当時は狂っていたんだろう。

でも心が落ちついた今ならそれが分かる事も有る。

そして第2夫人は今狂いに狂って復讐の権化になってる。

だって私が黙っていても排除されると伝えたからだ。

なら最後に一発かましてから消えてやろうとキレてる。

彼女は元から強い女性なんだと思う。

虐められても泣き寝入りせずに、反抗出来ると言うのはそう言う事だ。


先王様はセンブリ茶を煮詰めたもん飲まされたぐらいに渋い顔をしてるし、孫の2人はまた言ってらぐらいの余裕を滲ませてて他人行儀だ。

王様は第2夫人とは目も合わせずに、口元に微笑を浮かべて私達を見てる。

現実逃避してんじゃねぇよと思うが、コイツもまた王子達と同じでウンザリしてるんだろう。


しかしこれは実に良い情報をゲットしたぜ!

王様は長男タイプのお子様だから、庇護的な女性が好みなんだろう。

第2夫人は自立型なので、タイプじゃないのに攻撃してくるからウンザリしてるのか。

私も自立型だと思うのだが、まだ赤ちゃんみたいなもんだから、どうしたって家族に甘えてるし甘え上手だもんで、一応王様の好みの範囲に収まっちまったと言う訳だ。

だって甘えないと生きて行けない状態だから、上手く人を使おうと思えば甘えるしかないんだよ!と、私は全力で主張する。


あと別枠でカタリナみたいに自立型でも、他人の為の行動するのは王様も好ましいらしいから、第2夫人が狙うとすればそこだろうと分析した。


「2番目の奥さんご苦労様でした。」

「第2夫人よ!

名前はテレシア・フィット・ウェスタリアと言うの。覚えなさい。」

「はい、テレシア様。

沢山の情報をありがとうございました。

お陰で色々と対策が見えて来ました。」

「なっ⋯」


情報?対策??てか名前呼んだの?!平民よね?!ゴチャっと一瞬のウチに混乱してるのを感じたがスルッと無視する。


「テレシア様が王家に絶縁状を叩きつけて実家に戻っても、王家は誰も叱れません。

何故ならテレシア様は苦しい中でも頑張って、ちゃんと仕事をしたからです。

逆に今後の暮らしを支える事を約束して、深く頭を下げて見送る立場なのが今の王家です。


王家を出た先で自由な生活を楽しんで、新しく第二の人生を送っても良いと思いますが、もしこのまま第2夫人でいたいのなら今日から生まれ変わって下さい。

とても難しい事を言いますが、今までの恨みや怒りを綺麗サッパリ切り捨てて、王家の為に働けるのなら王様はきっとテレシア様を切り捨てられないと思います。


テレシア様自身が選ぶ必要があるので、実家が何と言っても無視する覚悟で決めて下さい。

テレシア様ならその知力と心の強さが有るとお話を聞いてて分かりました。

どうでしょう。」

「⋯⋯」


表情は崩れてないが、精神的にポカンとしている。

え?ホントに?え??第二の人生???

実家を無視?!は???とかグルグル頭の中を回ってそう。


大混乱を起こしてるが、憤怒に歪んでた顔も怒りや恨みに曇っ瞳に光が差し込んでキラめきが少しづつ戻って来ている。


「⋯私は自由になれるのですか⋯」

「はい。王家からも実家からも自由になれます。

でも残念ですが、王様がこれから世の中を変えて行くつもりでも、まだ当分の間は今の価値観で生きる貴族達は、この事に気がつくまで貴方を攻撃して来るかも知れません。

それでも跳ね返す強さをテレシア様は持ってると思いますが、しばらく王家に潜んで周りが落ち着いてから出た方が余計な苦労は少ないと思います。

でも王家に残る選択になるので、どうしても恨みや怒りを捨てなければ行けないのは分かりますか?」

「⋯ええ、そうね。陛下に口実を与えてしまうからなのね⋯」

「はい、そうです。

でもどうしても気持ちが捨てられなければ、距離を開ける事で取り繕う事は出来るかと思いますが、悪い気持ちを捨てられない間は、王家の人達に近寄れないし、テレシア様から攻撃することは絶対に許されません。」

「向こうが何をしようと泣き寝入りね⋯」

「いいえ、今後はそうならない様に王様や王様に協力する人達が貴方を守ります。

王様がそうします。

これは絶対です。

消えるのは貴方を攻撃した人達になるでしょう。」

「あぁ⋯」


扇で目元まで覆って感情を抑えているが、今テレシアは心から安堵の涙をこぼしている。


「まだ答えは聞きませんので、心が静まりましたら、今後どうするか考える様にお願いします。

私個人の願いを言えば、恨みや憎しみを切り捨てて、王妃の手を取って王様と戦う戦士になってくれたら嬉しいです。

王妃はすでに王様に負けてるので、貴方が唯一の希望です。

どうか弱い王妃の尻を叩いて、傲慢な王様から人間の優しい王様を取り戻してくれたらと思います。

テレシアよ。

さぁ勇者となって立ち上がるのだ!」

「⋯は???」

『んんん????』


「だ!」で、クッションを敷き詰めた椅子に座りながら、杖をドンと床についてみたが少し音が弱くて残念だった。


ちなみに上の人達は全員が途中まで良いこと言ってたのに、最後の方のは何なん???て、混乱している。

テレシアに至っては、尻を叩く?戦士?王様と戦う?は?勇者???と、更に大混乱だ。

王様は笑いかけた途中で止まってるぐらい心の中で爆笑しているし、ギャラリーの方も意味が分からない人は上と同じ様な混乱をしてるけど、分かった人達が静かに心の中で笑ってる。


カルマンさんは笑いたいけど笑える立場じゃないと自覚しているので、やぶれそうなぐらい絨毯に指先を立てているし、お嬢さんはカップを揺らしてお茶を零してるし、ギルバートさんは笑わない様に真顔になって呼吸を止めてた。


「笑い事では有りませんよ。」


椅子からヨジヨジと頑張って降りて、石畳に向かった私はドン!と今後こそ杖で大きな音を立てた。


「良いですか?

長い間貴族のお家で、正しいと思って守られて来た教育で植え付けられた古い価値観を変えるには、時間が必要なんです。


それを王様は知っているので、自分の時代なら被害を小さく出来ると思って、信念を持って剣を振り下ろすでしょう。


その結果で産まれるのは、ウェスタリアの大きさを思えば小さな犠牲でしょうが、それは相手からしたら『理不尽』⋯えーと、理由のわからない犠牲です。


でも今このままの状態が続けば、腐っていくウェスタリアで必ず大きな問題が起き。

大きな害が出て始めて変わる為に必要とされるその王様の剣を、いったいこの平和なウェスタリアの人達が、どれだけ受け入れられますか?


その理解を少しでもして貰う為に、先王様や家臣達が行動を起こすのにも時間が必要なのに、王様は明日にでも剣を下ろしてしまえる状態なんですよ?

なら時間稼ぎは必要でしょう?

でも王様はとても強くて魅力的なんです。

どれだけ国中の美女を集めても、生半可な作戦では止まってくれません。

フザケてる様な強さで根っこが真面目な王様は、何せ邪魔だと思えば消してしまうんです。

邪魔だと思われない為には、どうしても今側にいる、王様になれてる女性達の協力的な働きが必要に思うから、私は皆にわかり易い言葉で説明しています。


王様は皆が思ってる以上に、恐ろしい人なんです。

私の母はとても父と愛し合っていて子供の私から見ても仲良しですが、王様を見たら頬を染めてきゃあきゃあします!

姉はまだ10歳なんです。

最初は私を守ろうとつよい口調で王様に「あんた誰よ!変なことしたら承知しないから!」って言ってくれてたのに、王様がしゃがんで目を合わせただけで真っ赤になってハワハワしてました。

もうあっという間にメロメロにされた感じです。

王妃様が王妃のお仕事を投げ捨てるぐらい、女性にものすごく王様は強いんです。

王妃様の意思が弱いんじゃ無くて、王様が強すぎるんです。

しかも王様、奥さんが多くて女の人に慣れてるから、ちょっとやそっとじゃ気が引けません。


そこで!立場が上の人間が相手でも、怯えずに戦い続けた強い戦士のテレシア様が必要なんです。

でも相手は強大で傲慢で真面目な王様です。

どれだけ勇気を振り絞っても、たった1人じゃ気も引けません。

そこで必要なのが王妃です。

子供だった頃から王様が大切にしていた女の子だからです。


でも今の毒にまみれて弱ってしまった王妃様では役に立ちません。

王妃様にはもう一度自分を清く洗って毒を落として貰い。

大変だった王妃になる勉強していた頃に、戻らないといけないんです。

多分王様は自分のお嫁さんになる為に、一生懸命に頑張ってくれてた王妃様が好きだったからです。


そして王妃様のためにと、せっせとテレシア様に嫌がらせし続けた人達を説得して、必要なら切り捨て貰わないといけません。

そうで無ければテレシア様も王妃様を許そうとは思えないでしょう。

そして王妃様がそれをちゃんと行えたら、テレシア様もどうか身の回りの人達を片付けて下さい。

あまり時間はかけられません。

なるべく心の整理をする時間をあげたいけど、王様は傲慢で身勝手なので自分の都合で全てを動かしてしまいます。

そしたら泣くのは事情が分からないのに切り捨てられた貴族達です。

お2人が教会の人じゃないのは分かっています。

でも2人が手を取り合って、王様に立ち向かえば、王様は錬成師なので面白がってノッて来てくれると思います。

例えばテレシア様が心を強く持って王様を縄でグルグル巻いてからお尻をペンペン叩き、王妃様にもやれ!と言ったら王妃様もモジモジしながらやれるでしょう。

王様は女性に縄で縛られるのも叩かれるのも始めてだから、きっと大笑いします。

何故なら2人が手加減しなくても、王様はきたえてるので縄なんて直ぐに抜け出せるし、叩かれた所で痛くも痒くも無いからです。

慣れない2人が一生懸命にしてる行動が面白くて笑うのです。

しかも仲が悪かった2人が、協力してる姿が嬉しくてニコニコします。

そして油断して笑い転げてヒーヒー言ってる所を、思う存分襲って下さい。

子作りはやり方が分からないのでお任せします。

そしたら経験したことない事なので、錬成師として気に入ったら2人の奥さんにしばらく気持ちが向けられるかと思います。

そしたら素っ気なくして拒否して下さい。

王妃様はここでもの凄く弱いので、上后様は母の慈愛を見せつせて、王様の注意を引いてお二人を逃がして下さい。

他の3人の奥さん達を巻き込んで貰っても構わないので、先王様が家臣達と動ける時間をなるべく稼ぐのを目的として、皆に指示を出してあげて下さい。

勿論そのまま私の言葉通りにして頂かなくても、他に良い方法が有れば宜しくお願いします。


ですが大事なのは誰一人欠けることなく全員が協力出来る環境を作る事だと思います。

そうしたら傲慢な王様は、人間の王様になだめられて大人しくしてくれるんじゃ無いかなと私は思いました。

どうでしょう。」


最後にバンと音を立てて、見えない胸を張る。

テレシアと王妃は2人揃って扇で顔を完全に隠してた。

そして2人とも少しだけ前かがみになってプルプルしてる。

笑いを堪えてると言うよりは、私がいいつけた内容が恥ずかしかったようだ。


娘2人の方も完全に扇で顔を隠してプルプルしてる。

でもコッチは笑いを堪えてるみたいだ。

王子2人は両手で口元を精一杯握り締めてる。

腕力で笑いを堪えてるらしい。

先王様も少し頬を染めながらも、口元が何となくニヤけてる。

上后様は頭が痛いと言わんばかりに目をギュッと閉じて閉じた扇子みたいになった扇の先をオデコにつけてた。

王様は顔は澄ましてるものの、組んだ足の先を機嫌良さそうにプラプラさせてる。

多分ワクワクしてるんだろう。

きっと王様の顔を見て逃げ出す2人の妻を思って、今からもの凄く楽しそうだ。


ギャラリー達は天井を見たり床を見たりニヤけるのを我慢したり、咳払いしたりと色々と忙しい。

きっと皆の頭の中には、縄を構えて頬を染めながらもキリリとした勇ましいテレシアと、真っ赤になってモジモジしてる王妃の幻に心を奪われているに違い無い。

だって皆男性だからだ。

誰一人として不敬な!と、怒らない所からして、きっとその幻を気に入ってるんだろう。


「ねぇ黒魔石。それは陛下に聞かせては駄目な話では無いのかしら?」

「いいえ。王様はスカした顔をてますが、さっきからもの凄く楽しみにしてます。」

「ぶほ!!!」

「ヒグッッッ!」

「きっと自分を見たら逃げ出す奥さん達を見て、しばらく遊ぶんじゃ無いかと。

それだけでも少し時間を稼げるとは思いますが、どんな風に実行するのか楽しみにしてるので、お2人が行動を起こさなければ苛ついて来ると思います。

それはもう大人気無く。

あの手この手で色んな方法で誘って来るでしょう。

なんなら縄を自分で用意すると思います。

自分を自分で縛って縛り心地も確認して、気に入った完璧なものを自作するでしょう。

奥様達が決意を固めて立ち向かう様子が分かれば、それだけでも時間を引き伸ばせるので逆に話た方が良いのです。

何せ王様は身体は大人でも心は子供で止まっていますから。」

『アハハハハハハ!!!』

『オホホホホホホ!!!』

「ゲホン」「ゴホン」「ググッ」「ハァハァ⋯」「ヒグ!」「ケフフンッ」

『っっっぅ!!!』


2人の王子のウチ片方が腕力で抑えきれずに吹き出した事で、横にいた王子が暴発した。

最後には堪えきれず椅子から床に崩れ落ち。

座ってた椅子に縋りながら爆笑してる2人の王子を見て、姫達も堪えきれずに扇からはみ出して爆笑してる。

皆につられた上后も閉じた扇を口元に当てて笑っているし、先王様も太腿を叩きながら大口を開けて笑っている。

妻2人は完全に扇で顔を隠し、全身のプルプルが大きくなった。

これは恥ずかしいやら、可笑しいやらで、顔を真っ赤にしながら怒りながら笑うと言う、不思議な状態になってるのに違い無い。

上の人達みたいに笑えないギャラリーは悲惨で、風邪に集団で感染したみたく皆咳してるか、失敗して誤魔化そうとした異音を出してる。

そして騎士達はもっと悲惨で、憤怒の形相で顔を真っ赤にしながら、つま先に槍の柄を当ててギリギリ押し付けてた。

いっそ殺せ!と言わんばかりの必死さだ。

小間使いっぽい人達は、まだ平静を装っているけど。

ムスームスーと荒い呼吸音が漏れてるし。

拳を握る手がズボンを肉ごと握ってる気がする。

かなり痛そう。


お嬢さんは序盤から余計な事を言ったと言わんばかりに気を引き締めようとして失敗。

弟が吹き出した時点で異音を出してた。

ギルバートさんは天井を見上げてたのに、今はもう俯いて口元に拳を当てながら控えめに笑ってる。

カルマンさんは地面を殴って笑ってる。

王様が自分で自分を⋯から、自作するでしょう。辺りで皆が一斉に決壊した。

オジサンやお爺さん達も我慢の限界に笑い出すと、もう騎士も小間使いさん達も堪えきれず、控え目に異音を出して笑ってる。

もちろん王様もだ。

お爺さん達が笑い出した時点で、堪え切れずに爆笑してる。

実は私も笑い出した王様を見て笑い出した。


でもまだ終わってないので、しばらく笑ってキリのいい所で、バンバンと杖の先を鳴らして皆を静める。


「最後になりましたが、やはりこれからは信頼出来る味方が1人でも多く必要になるので、カルマンさん⋯えーとセドリック王子?も、オッサンですが戻して下さい。

あと息子さんも。

平民の王子を王家に入れるのは難しいとは思うので、それは皆様が良い方法を相談して下さい。

でも私はここで彼等を受け入れて貰わなければ、傲慢な王様を黙らせられないと思っています。

傲慢な王様が国の仕組みを変えたがる理由の1つに、それが有るのではないかと考えたからです。

出来ましたら、息子さんは本人の希望も聞いて上げて下さい。

逃がしたら余計に拗れて大変になります。

ですが教育が必要なのは分かるので、無理強いはせずに説得の形でお願いします。


私は2歳なのに頑張ったご褒美として、考えてくれたら嬉しいです。

聞いてくれたら、それを持って王様に勝利の宣言とします!」


バンと杖を床に叩きつけて胸を大きく張った。


「それは気が早かろう。

幼い貴様は人の醜悪さをまだ知らぬ。

世が負けたと決まるのは、全てが終わってからだ。」

「はぁん?

バカ言ってんじゃねぇよ。

もう勝ちは見えてんだろ。

汚れたもんなんか知りたくもねぇが、俺様はアンタを知ってんだよ。

ここに居るのは全てアンタ自身が選んだ人間達だ。

アンタが心から必要がないと思う者は、この場に居ることすら出来ねぇんだよ。


親や子は選べねぇが、アンタの親と子だ。

ちゃんとアンタが何を考えてるか、その理由さえ分かれば端から優秀な人間が、それを理解出来ねぇ訳がねぇんだよ。

国を変える為の準備に、それぐらいはちゃんと揃えて来てんだろが。

その用意が出来ねぇ『ポンコツ』が、たった1人で国なんか変えられる訳がない。


俺の仕事は真実のアンタの力と恐ろしさ、そして何を望んで行おうとしているかを皆に知らせて、その上で叶うのなら家族達を正しい形に戻す事だ。

だろう?」

「フッ⋯」

「ほら俺の勝ちだな。」


杖の先を王様に突きつけて鼻を鳴らし、最後にドンの床をつく。

楽しそうにしてる王様に、胸がドキドキと高鳴った。


「⋯良かろう。

では通常通りに叙爵を行う。」


お嬢さんが素早く立ち上がり、サッとテーブルや椅子を消すと、片膝を曲げ背筋を伸ばした姿勢を保った。

ギルバートさんも姿勢を正し、静かに膝をついてカルマンさんと同じ姿勢を取る。

私は片手に杖を持って、両足を踏ん張って立ち。

王様を真正面に見据えて見上げた。

家臣達はそれぞれ椅子から立ち上がり、背筋を伸ばしてシャンとする。

騎士は槍を正しく持ち直し、直立の姿勢を取った。

小間使いや髭のオッサンも、小さな咳払いをして、凛とした姿勢を取る。

上に居た人達もそれぞれが扇を閉じて膝の上に置き、背筋を伸ばして私達を静かに見下ろす。

その僅かな間で王様は執事みたいな小間使いの偉い人を指先で呼び寄せ、何かを言いつけた。

そしてその小間使いのお爺さんは髭のオッサンの所に向かって何かを伝えている。


髭のオッサンが私の方を確かに見て、目を見張った後に目元だけで笑うのを感じ。

私は悲しみに心が震えた。

この瞬間まで勝利を確信していたが、どうやら王様からは逃げられ無かったらしい。

流石10級の魔物を単独撃破する魔王である。

まぁ此処で色んな人達から情報を漁って、王様の異常性を知れば知るほど、そうじゃないかとは思ったが、もう少しだけ私は真実よりも幻を見ていたかった。


王様は恐らく黒魔石を落とす魔物を狩ってるだろうが、何故そこに人が倒せない10級が含まれているかと言えば、この「人が倒せない」と言うカテゴリーに魔物の強さだけでは無い条件が含まれていると考えていたからだ。


例えば人が行けない深い海の底だったり、人が登るのも難しい険しい山の上に住んでるヤツだったり、森の奥深くにいる様な10級は、出会うだけでも大変なのにも関わらず、倒すにも人間の数が必要だとすれば、そんな所に軍隊なんて行けない。

つまり結果として平地に来たら倒せる強さしか無くても、その魔物は10級になるのでは無いかと私は考えている。

勿論純粋な強さのみ10級の魔物が居るかも分からないが、それなら何故人がその存在を認識しているのかと言う矛盾が産まれる。


これは私が育つにつれて手に入れる知識の中に有れば、どんな魔物が居るかも分かるだろうが、取り敢えず私が言いたいのは、未だにヤツは私が思う10級の黒魔石だと認めてない事に由来する。

アイツは他の奴らが行けない場所に行って、10級と呼ばれている魔物を狩った経験が有ると仮定すれば、例え私が真実10級の黒魔石だとしても手に入れられると思っているのでは無いかと、この瞬間に肌で私は察したのだ。


あともっと言えばアイツが若いのはドーピングのせいじゃ無くて、色んな実験を自分の身体で試していた後遺症だった場合。

仮面をしてないライダーになってるんじゃないかとも考えられてしまう。

だから1人で危険を犯せるのだとすれば、いよいよ持って魔王説が笑い話じゃ無くなって来た。

これはあくまでも今の段階で集めた情報を元にして、私の中で様々な不安が弾けてるだけなので、真実かどうかは分からない。


髭のオッサンが周りの準備が整うのを確認すると、手元にあるお値段が高そうな紙を上下に広げ。

声も高らかに私の叙勲理由を告げて行く。


「その功績を称え、準男爵の爵位を授与すると共に⋯」


オッサンが紙から視線を外し、私を見つめて高らかにそう宣言した。


「ウェスタリアの恋人を改め、国王の友人の称号を授ける事とする。」

『おおおおーーーー!!!』


誰もその理由に気が付かない人達は、嬉しそうな声を挙げてパチパチパチパチと控え目な拍手を行った。


王様はそれを上から見下ろしていたが、少しして片手を挙げて拍手を制止する。


「黒魔石はウェスタリアで産まれた世界の黒魔石であると、世はそう認識している。

なれどウェスタリアの恋人などと称すれば、外の国にワザワザ黒魔石の価値を伝える事になる。

故に国王の友人との称号を授ける。

通常の人間で有れば希少なれども、全く存在しない者よりかはまだ既存の有る者にワザと落とし、黒魔石の価値を秘匿する事とする。」

『パチパチパチパチ⋯』


あーあーあー、ペラペラペラペラとよくもまぁ⋯。

皆ももの凄く驚きながら、王様の説明を聞いて、終わった瞬間から拍手がまたパラパラと起こった。


それを聞くとも無しに聞き流しながら、私は憂鬱な気分で小さな吐息を漏らした。

説明出来るんだよ、しようと思えばヤツはさ。

例え苦手だろうが、どうにも魔王は優秀なのだ。

カカフカカ。

つまり可能か不可能かで言えば可能と言うヤツである。


でも普段は面倒だからやらないだけなのさ。

面倒臭がりなのもあるし、察するのが仕事な環境で育って来てるからね。

なのに敢えてそれをする。

そんなの私が恋人と言う言葉に嫌悪感を抱いてる事もあって、それを使わずに済む言い訳を考えたと言う訳だ。

私には説明なんて必要無い。

でもワザワザそれをしているのは、私には隠しきれない下心を少しでも周りに誤魔化して、尚且つ私のご機嫌取りに来てると言う訳だ。


本格的に私を狩りに来てるのが、どうにも私には分かってしまう。

王妃が女の勘で感づいたのか、理由が分からないなりに怪訝そうな表情をしているが、それ以外の人達はすっかりと騙されてしまい。

恋人よりも友人と言う、人として穏やかな表現にまぁ王妃や第6妃よりはマシだと心から安堵したのが、雰囲気から伝わって来る。


「だが黒魔石のもたらす叡智の恩恵を鑑みて、真の価値は世界の宝であると世は宣言する。

ウェスタリアで産まれた真の宝を保護するため、その存在は世に知れども、姿そのものも公では秘匿とする。

これは錬成師界において、黒魔石の叡智が未だに必要とされているからに他ならず。

また本来受けて当然の評価及び金銭、名誉を黒魔石が正当に受け取るためでも有る。

そのため存在そのものを秘匿する事は不可能と断言する。

表向きは国王の友人としての保護を行い、その真の価値を触れて回らぬことを各々(おのおの)各自(かくじ)留意せよと世はこの場に居る全ての者へ命ずる。」

『ハハーーー⋯』


演劇地味てはいるが、王様が椅子から立ち上がり、長い腕を斜め前に突きだしてそう宣誓すると。

上下段関係無く、私と騎士以外の全ての人達が背筋を伸ばした姿勢で頭を少し下げる形で身体を傾けた。

警備として立っている騎士達は

、槍を持たない腕を胸に当てている。

それはいつ如何なる時も油断せず、守るべき者を守る為に、周囲への警戒を怠らない為だと私は察した。

私1人だけがキョロキョロと頭を振って、忙しく周りを観察している。

だから杖の先がブレて警備の騎士と王様にはバレてるのだが、子供だからお目こぼししてくれているのだろう。

口元だけがピクピクとニヤついてる。


軽やかにマントを払って王様が謁見室から出ていくと、他の王族達も後をついて行く。

カルマンさんは私達と一緒に退室するらしく、お爺さんやオッサン達を残して、ギルバートさんが私を抱いて移動したのだが、部屋から出て廊下を歩いてる最中に、私は眠ってしまった。


「リ⋯黒魔石?!」


杖を落とした事で私の異常を知ったお嬢さん達が慌てたが、呼ばれても眠かったので無視していると、フードを捲くられた後で私が寝てるだけなのに気付いたから、そのまままたフードを戻して運んで貰ったと、意識が曖昧なのでよく覚えてないけど多分そんな感じ。


「はは!何だコレ!」

「僕も!次僕もかして!」

「ちょっと煩いわよ!」


そんな私が目を覚ましたのは、バン!とかドン!とか鳴ってる自宅の寝室だった。

畑仕事から帰ってきたロベルトが杖を見つけて振り回して遊んでるのを、ちょうどカタリナが様子見に寝室に来た所だ。


「お姉ちゃん、それ多分王様が作ったから高いヤツ。

白金貨ぐらいすると思う。」

「は⋯白金貨って⋯」

「この前お姉さんから貰った小金貨より4つぐらい上の白くて高いヤツ。」


カタリナの目がグワーッと開き、ロベルトが「小金貨って前のアレだろ⋯?」と、硬直してる隙にサッと杖を奪い取り。


「お母さーーーん!!!」


ダダダダと杖を持って走って行けば、ロベルトやマルセロも負けじと走り出して行った。

そして私がお水を飲みにリビングに行けば、母がうんせと腕を伸ばして食器棚の上に杖を乗せてる所だった。

多分小さな子供が悪戯出来ない様な高い所に保管しようと考えたのだろうが、白金貨がソレって良いのかどうかは私には分からない。

まあアレでも国王作のアーティファクトだが、効果は軽いのと音が鳴るだけなので気にしない事にした。


「なんか人がいっぱい居た。

偉そうなオジサンとかお爺さんとか沢山いたね。」

『へー!』

「騎士いたか?騎士!」

「うん、居た。」

『おおーー!』

「お姫様は?!」

「うん、2人いた。

お姉さんと同じような年だったよ。フワフワしたの手に持ってて、ヒラヒラキラキラした服も着てた。

あと王子様も2人いたよ。

お姫様よりも少し年下みたいで、ひょろんとしてた。」

『へぇぇえーーー!!!』


夕食を食べながら、早くも腕が筋肉痛な私はプルプルしながら匙を口に運びつつも、家族から請われて謁見室での話をしている。

擬音が多いのはアレを表現する言葉をよく知らないのと、知っていた所で子供な兄弟達には伝わらないからだ。


「あの杖は何なんだ?」

「アレは私の仕事の道具だよ、お父さん。

王様が私に作ってくれたの。

小さな魔石だけど高い魔力が籠ってるから、かなり値段が高いらしいよ。

ひょっとしたら、白金貨より高いかも知れないね。」

「?!そんなものをあんな所に置いてて良いのか?!」

「うん。音が鳴るのと杖を軽くする効果しかないから、大丈夫だと思う。

シッカリと隠すよりも、あんな風においとけば泥棒だって値段が高いとは思わないよ。」

「うーむ⋯確かにそうかな。」

「その代わり皆も言わないでね。」

「ふむ。良いか、下手に金目の物が有ると言いふらしたら悪い奴らが盗みに来るから、外で話さないようにするんだぞ。」

『はーい!』

「もし喋っちゃったら、効果はショボいから売れないって言っといてね。

作るのに高いだけで、私以外の人には使い道が無いもん。

あれは小さな私がお話する時に、皆の気を引くだけの音が鳴る道具だから。

別に魔法が使いやすくなるわけでも無いからね。」

『なるほど〜』


マルセロやロベルト辺りは無理そうなので、父に続いて効果が有りそうな事を言っておく。


「それと王様がね?

リリを連れて来てくれた時に、こんなのを置いていったのよ。お父さん、どこに飾ろうかしら。」

「それは何だ?」

「さぁ〜?リリ、これは何かしら。」

「さぁ〜?寝てたから説明聞いて無いんだけど、準男爵になった記念の盾じゃないかな。」

『へぇ〜』

「キラキラしてるからあの棒より高そうだよな。」

「うん!高そう!」

「アンタ達イタズラするんじゃないわよ!」

「分かってるよ、それぐらい。」

「うん⋯」


縦30cm×横に15cm未満で、濃い木枠の中に紺色の布が貼られており、その中央に銀色の紋章が入っている。

デザインは銀色の●に中央は✡が水色の鉱石で表現されているので、錬成師関係のマークだとは思うが、それが何かは分からない。

そして紋章はそのマークの周りを銀の草で縁取っていて、更にその下には金で文字も書かれているのだが、多分省略文字と言うヤツだろう。

借りた本で調べなければ、パッと見ただけでは意味が分からない。

直立して飾れる様に写真立てみたいに後ろに木の細工も有るので、盾の様なものだと私は認識した。


まぁ確かに金銀と宝石みたいな鉱物を使ってるので、素人の目には杖より高そうに見えるかも知れない。

金は少しだけ使われてるけど、小さな魔石だしね、杖。

アレがまさか高いとは思わないんじゃ無かろうか。

クズ魔石と呼ばれる1級より少し大きいぐらいだから。

ウチは狩りで小さなザコ魔物を食べるから、2級までの魔石なら馴染みが有るのだ。

ちなみに1級は銀貨1枚で、2級は銀貨10枚で買い取って貰える。

魔力草を育てる手間を思えば、狩りに言った方が楽だとは思うけど、雑魚戦士がワラワラいるから2級の魔石は殆ど手に入らないのだ。

その雑魚戦士達もきっと同じ環境だと思うので、3級以上狩れる様にならなければその日暮らしの生活になってしまう。

3級の値段は確か銀貨50枚だったと思う。

でも狼とか鹿もどきなので、それなりに森に入る必要が有るし、そもそも大きいので強くて1人で倒すのは難しい相手になる。

狩人みたいに罠をしかけるか、弓が上手な人じゃ無ければまずは倒せないし、見つけるのも難しい。

狼なんて群れに出逢えば、魔石は3級なのに倒す難易度としては4級の魔物かそれ以上だと言われている。

これはお祭りで仕入れて来た情報だ。

私王様の部屋で見た何級かは分からない魔石と、2級までの魔石しか見た経験しか無いので推測が入るが、白色の魔石が電池切れの状態なら、水色が濃くなるに連れて魔石の等級が上がり、最後には黒魔石になると考えている。

ならお姉さんが持っていた赤色の石は何なのか。

魔石が生体から取れる魔力電池なら、あの赤色は天然鉱石では無いかと予想している。

つまり鉱山とかで取れる、魔力の籠った宝石では無いかと考えてるのだ。

物に寄りそうだけど、多分お高いヤツで、装飾品に使うのに丁度良いサイズと思われる。

魔石は錬成師や魔導具師が仕事で消費して、装飾品系統の電池は天然鉱石か錬成師が作った人工宝石を使用し使い分けてるのでは無いかと思う。

なら白っぽい杖に使われてる濃い目の青い魔石は、ひょっとしたら鉱石なのかも知れないし、希少な魔物から採れたかも分からないが、ヤッパリどっちにしたってお値段が高いと考えられる。

値段が分かると保管するのにも心に悪い影響を受けそうなので、永遠に謎のままソッとしておいて、考察はこのへんまでで止めておく。

とまぁ盾にしろ杖にしろ、この辺りに泥棒が入るとしても雑魚だろうから、盗んだ所で売ればあっという間に捕まるだろう。

ちなみに銀や金を使ってはいるけど、微量なのでそこまでお金としての価値は高く無さそうだ。

せいぜい白っぽい杖の魔石だか鉱石が高いと思うけど、雑魚が売る店で果たしてソレの価値が見抜けるかは分からない。

ヤバい!と察せるとは思うけどね。

そして父と母が悩んだ結果、記念の盾は食器棚の中にお皿と一緒に入れられている。

見せるべき物で、寝室にでも飾れば良いとは思うけど、金目の物なので隠したい心理が働いた結果だろう。

王様やお嬢さんが盾の保管場所に気が付いたら、爆笑されそうではある。

杖に至っては見上げても杖の先の楕円形の部分が、チラリと見えてるだけだ。

仕事で持って行く時には埃まみれになってそう。

木製だけど水洗いか、叩けば問題無いとは思う。

なんかツルツルしてたしな。


「後はお金ね。」

『おおーー⋯』


母が父に高級そうな革袋を渡したが、父がそこから中身を取り出せば小さくない普通の金貨が入ってた。


「⋯使えないな。」

「お父さんのお店なら仕えるわよぉ~」

「両替しなけりゃ迷惑だよ。」

「両替してくれるわよ?」

『なるほど⋯』

「またお祖父さんの美味しいご飯が食べられるね!」

『やったあ!』


父は金貨を無表情で見下ろしてボソリと呟いたが、母はなんて事無い顔をして難題を親にぶん投げてた。


まぁ大店だし、出来るだろう。

何なら金貨を1枚だけ両替して貰い、残りは学費以外全額渡して運営して貰っても良いぐらいだ。

投資の説明は私が出来るしな。

ちなみに詳しく調べたら金貨は50枚と金貨板9枚に小白金貨99枚と白金貨9枚入ってた。

奮発し過ぎじゃね?

それともコレが貴族の普通なのかも知れない。

しかも微妙に両替してくれた感まで察せられる。

悪いが小金貨以下にして欲しかったが、価値観が違うから仕方が無いんだろうか。

アイツ達、こっちは平民だから白金貨はマズいとは思っても、金貨ならイケるやろと考えてそう。

それよりも中身を見て気が付いた私と父は視線を合わせた。

この小さな革袋も魔法鞄だ。

父が持ってるのと同じタイプのヤツ。

じゃ無ければ母がコレを楽々と父に渡せる筈も無いからね。

サイズも小さいしな。


「学校用に白金貨を1枚と金貨50枚は残して、他はエリザベスお祖母ちゃんに任せよう。」

「分かった。」

「あとはモーブとは言わないけど、鳥用のに見せかけて安い乗り物買えない?

モーブを使わなくても自由に使えるのが有れば、中央に行きやすくなると思う。」

「ふむ⋯誰と相談したら良いやら⋯親父と話してみるが⋯呼ぶしか無いか⋯。」

「叔父さんにはなるべく秘密の方が安心だからね。

中央で自慢して回りそうだもん。」

「うむ。そうだな。」

「お礼はしたいからマゼランお祖父さんのお店でご飯は奢ってあげたい。マルクス叔父さんも。」

「あの2人なら俺が酒場へ連れて行くからあの店に兄貴は行かせない方が良い。

下手すれば迷惑になる。」

「ジギタス叔父さん、悪い人じゃないんだけど、考えが足らないんだよねぇ。

感覚的な天才だから。」

「なるほど⋯。

なら乗り物の事は親父と相談して決める。それが有れば母さんも出掛けやすいだろう。」

「うん。お爺ちゃんとマリア婆ちゃんならマゼランお祖父さんのお店に連れて行ってあげても良いもんね。」

「うむ。お前のことや金の事も乗り物も、あそこで相談すれば良いな。

店を貸しきれないか今度相談して来よう。」

「お姉さんも呼ぼう。」

「頼って良いか悩むが、きっとその方が良いのだろうな。」

「マリア婆ちゃんを呼ぶのは乗り物を買ってからが良さそうだから、先に報告と相談だけはした方が良いと思う。」

「ならこっちは俺とお前だけで行くか。貸し切りは必要だな。」

「うん。絶対必要。お母さんとお姉ちゃん達はマリア婆ちゃんと一緒の時だね。」

「兄貴には酒場の話をしておく、多分そっちの方が喜ぶだろうからな。」

「うん。2回に分けよう。

2回目にはお姉さんは呼ばなくても良いと思う。」

「それなら兄貴以外の家族も呼んでやろう。

タル兄の家族にも言ってもいいな。だがあっちの事はタル兄に相談しよう。」

「1回目の時に話せば良いよ。」

「そうだな。」


もう阿吽の呼吸で父と素早く決めて行った。

夕食後はお母さんにキラキラする魔法をかけて貰い、日が暮れたら外に魔力草を出した後で私は寝ることにした。

沢山昼寝をして寝れないかと思ったけど、あっという間に爆睡する。

途中でトイレに起きたけど、まぁ朝までグッスリ寝れた。

兄弟で団子になって寝てるから、親が並んで裸のまま寝てる理由をスルー出来る私は、ワザワザ夜中のトイレで親は起こさないのだ。

ボットンは怖いがもう慣れた。

美しい星空を見上げた私は、勇者テレシアと王妃の奮闘を心から祈っておく。


私の話を忠実に守ってれば今夜は何事も無い筈なのよ。

でもなぁ。

あの王様だしなぁ。

ワクワクすると、止まらなさそうじゃん?

なので黙祷。




高級品は取り敢えず高い場所に置くのが、小さな子供がいる家庭のあるある。

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