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可哀想なオジサンの話


「遅いわ。

何をしていらしたのかしら。」


私と王様をヤキモキしながら待っていたお嬢さんは、私達の姿を見るなりサッとソファーから立ち上がってキツい目をしながら口を開いく。

口調はおしとやかだが、まとってる雰囲気がどす黒かった。


「これより謁見を始める。

謁見室に椅子を持ち込む手配を。指示は世が出す。騎士以外は座らせろ。」


王様はお嬢さんを丸っと無視して、緑色が基調のジャケットと白っぽいパンツスタイルの、執事風の年配の男性に声をかけた。

するとその男性は軽く一礼して、風の様に扉の向こうへ消え去る。

仕草は優雅に見えたけど、かなり焦りを感じるスピードだった。


「カルマン、ギルバート。

兜を着用して謁見しろ。

サラディーン。

お前も顔を隠せ。

世は向こうへ向かう。

黒魔石を渡すが姿は隠せ。

外の騎士が不審に思うなら姿を表し俺の命だと伝えろ。

だが謁見室に入る前には戻しておけ。良いな。」

「陛下?!⋯もう!

何なのかしら?!!」

「サラディーン様、今は急ぎましょう。」


王様は抱いていた私をギルバートさんに渡すと、指示だけしてスルリと姿を消す。

お嬢さんがコレだから天才は!と言わんばかりに、歯ぎしりしそうな勢いで腹を立てていたが、冷静なギルバートさんが私にフードを被せて先を促した。

恐らく謁見中に付き添いの騎士は顔を晒すルールが有るのかも知れない。

でもカルマンさんの顔を隠す為に、王様がそう指示したのだと雰囲気で伝わった。


騎士の2人はフル装備で兜をかぶり、面を下ろした状態でお嬢さんの後ろをついて王城の廊下を歩いた。

お嬢さんは一刻も早く遅刻した謁見室に向かっている。

頭にはローブのフードを被っているが、顔はお嬢様にあるまじき必死な形相になってるだろう。

私は兜を被ってるギルバートさんに抱かれて運ばれていた。

鎧は硬いしお嬢さんに合わせてるけど、早歩きだからそれなりに振動はある。

でもお嬢さんが待機してた待機室は、元々目的の会場から近いのもあって私が酔う間もなく扉の前に到着した。


扉の前で待機状態になり、私の頭の中でオルゴールが鳴り出す。

兜の件でお嬢さんがゴリゴリ押してるのを聞きながら、意識が朦朧と揺れている。


言い訳をさせて貰えば、お昼ゴハンを食べた後で魔力草の水替えを行い。

そのあといつもはお昼寝タイムの時間なのだ。


でも私は王様とワイワイしながら、小道具作りや色々していたので笑って疲れたとか。

まぁ扉前で警備してる騎士達相手にお嬢さん達の顔確認やら、説明は無かったけれど、恐らく王様の準備時間やらなんやらがあって。

扉前の待機時間が予想外に長くて暇だったとか、硬いけどフードが緩衝材になってるし、慣れたら身体があったかくなって温もりが心地よかったとか。

まぁね。

居眠りしてたんだけど、私はローブを着て姿を消していたからギルバートさんも私の状態に気が付いて無かったのだ。


「黒魔石一行。前へ!」


だから怒りの滲んだ様な大きな声でパチリと目を覚ましたら、白を基調とした部屋に金色の刺繍みたいな模様の入った太い柱が壁に並んでて、そこにカンテラみたいな明かりの灯ってる部屋の中に入ってた。

床は聞いていた通りフカフカしてそうな濃い青色の絨毯が、部屋の3/4ぐらいの範囲に敷かれており。

その絨毯の先にある大理石みたいな狭いスペースの先に階段が5段程あって、更にその上のスペースには金色の枠取りに赤黒い布で豪華な椅子が2脚並んで置かれていた。

椅子の造りは似てるけど、片方はサイズが小さくてそれで差別化してる雰囲気だ。

更に2脚の左右には持ち込んだと思われる椅子が並んでおり。

そこには綺羅びやかな衣装を着た、金色の髪色をした人達がズラリと座っていた。


大きくて豪華な椅子には王様が座り、その左隣の小さ目で豪華な椅子には美しい30代ぐらいに見える女性。

さらに左側には同じく30代ぐらいに見える女性と、それ以下の女性達が2人前後に別れて座っている。


そして王様の右側には60代ぐらいの年配の男性と、少しだけ若そうだが50代ぐらいの女性が座り、その後ろにギルバートさんぐらいの年齢の若い男性が2人並んで座っている。

前後に別れている人達は、少し互い互いに椅子がズラされていたので、全員の顔が良く見えた。

そして階段下の両サイドには、重鎮らしい人達がゾロゾロと並んでいる。

上も下も表面的には静かにしてるけど、王様以外の全員が。

皆明らかに遅刻したのを怒ってるみたいで、心で見る目が三角になってた。

怖い。


「そこな止まれ!!!」


静かにお嬢さんが進んで行くと絨毯の真ん中辺りで、鮮やかな赤色に金色の刺繍が入ってる服を着た白っぽいパンツスタイルの、金茶色の髭を鼻の下に8の字に生やした男性が張り切って怒声を挙げる。


でもお嬢さんは構わずにそのまま後ろに騎士達を連れて前へ進んでいた。


「無礼者が!!!

平民如きが弁えろ!!!!」


だから指示を聞かない私達に、金茶色の髭を生やした男性が顔を真っ赤にして、喉から血が出る勢いで叫び。

部屋の両壁に控えていた色んな人達がザワザワと小さく不満げにざわめく。

そしてフル装備をして兜をかぶって面を下ろし、槍を持ってる騎士達も動揺してる。

王様達の近くにいる血縁関係者や、左右の壁のお爺さんやオッサン達もあっという間に動揺した。


「なな、何をしているか?!

陛下の御前である!!!!

騎士よ!黒魔石を止めよ!」


金茶髭の男性は顔を真っ赤にして動揺しながら、警備らしき騎士達を制止している、上官らしい騎士達の姿に更に泡を食って捲し立てる。


「はぁ〜、オイオイ。

そこの髭のオッサンよ。

落ち着け落ち着け、心を鎮めろよ。」

「なな?!」

「アンタにゃなぁ〜んの罪も無いから可哀想なんだけどよぉ。

やったらイケない事しちまってんのはアンタの方なんだよ。


これから何でこんな事になってんのか、他にも分かってないヤツがゴロゴロ居るだろうから、まぁ自己紹介がてらに説明してやっからよ。

椅子にでも座って、ノンビリとしながら聞いてくれや。」

「椅子をこれへ」

『ザワザワザワザワ⋯』


いきなり聞こえた子供の声に、驚いた人達が小さな声を挙げて空気がざわめく中で、王様はしれっと使用人に指示を出した。


平気な顔をしてるのはヴィラフォンテの爺さんやらその側に居る人達、あとは騎士の上官らしい人他下っ端数名。

そして王様と私達だ。


私は思わず心が震えた。

確かにあの時私は不安を叫んだ。

でも口止めなんてして無かったのに、何故こんな事になっているのかを理解したからだ。

そしてソレがとても嬉しくて、私は思わず鼻を啜った。


「なんかもうよぉ。

ハハハ。

有り難いよなぁ〜。

俺の事を守ってくれるカッコいい人達が、こんなに沢山居るってこったろ?

もう感激して思わず泣いちまいそうだが⋯まぁ俺は俺が今日この場に呼ばれた事の意味を、部屋にいる全員に説明しなくちゃなんねぇから。

泣かずに頑張って説明してやるさ。」

「な⋯なにを⋯一体⋯」


金茶髭のオッサンは顔を赤くして小刻みに震えながらも、ギョロギョロと周りを見渡して状況を少しでも知る為に、情報を集めようと必死になっていた。


私は私が姿を見るのは初めてになるが、恐らく前の会場で声だけ触れ合った人達が、今の私の震える声を聞いて、当然だと言わんばかりに胸を張ってる姿に、心を落ち着かせる事で必死になる。


「⋯だからそこの金色の髭生やしたオッサン。

アンタにゃ恨みも何もねぇし、なんなら可哀想なぐらいなんだが。

アンタが悪く無いって事を説明するのに、ちょっくら俺に付き合って貰うぜ。


ただ俺は平民の子供だから、口の効き方は知らねぇし。

知識だってなんもねぇ。

言葉使いが荒くなって耳障りだろうが、王様が黙ってる間はしんぼうして聞いててくれよ。


なぁ!王様。

平民の子供を悪い奴らから守る為に、秘密を守ってくれてありがとうよ!」

『な?!』

「フフ⋯世は何もしておらぬ。固く口を閉ざしたのであれは、それは各自の行いから来るものだ。」

「そっか。アンタの部下の貴族はヤッパリ良い奴らバッカリなんだな!」

「何を今さら、当然だ。

世はこの国を治める王だ。

無能な部下などを従えはせぬ。」

『陛下!!!』


オッサンやお爺ちゃんや騎士達が一斉に胸がいっぱいになったらしく、恐らく直接王様と直接会話したり、タメ口をきいたら駄目なルール違反をしてる私そっちのけで、顔を真っ赤にして感激している。

ちなみに事情を知らない人達も、つられて流れ弾にやられてた。

どんだけアイドルだよ。

カリスマすげぇな。


その隙にお嬢さんはスタスタ歩いて、1番王様に近い場所の絨毯の端で足を止めた。


「でもよ〜。

俺を守る為に姿を消せる服を着せてくれてんのは良いが、そのせいで罪のない大事な部下が1人やばくなっちまってんだ。

この部屋に杖なんて持ち込めねぇ規則があんのは知ってるんだが、皆に俺が見える様にしてやりてぇんだ。

なんか良い考えは無いかな?

王様。」


これは予め王様と私の段取りしてた予定調和だ。

具体的な話なんかしてないけど、頂戴って言えばくれる様にしてた。

何故なら謁見室には武器が持ち込めないルールがあるらしく。

私が魔法を使えなくても、魔導具を使えばそれは武器を携帯してる事になり、出入り口に居る警備の騎士から取り上げられてしまうそうだ。

なので王様が部屋の中で私に小道具を持たせてくれる手筈になってた。


今外からワラワラと緑色の服やら茶色の服を着てる、王城のスタッフさん達が椅子を運んでる最中で、時間潰しがてら仕事道具をゲットする事にする。

差し出されたお爺ちゃんやオッサン達はえ?座るん???

マジで?は?

て、めっちゃ驚いているけど、スタッフさん達も顔によー分からんが座らせてくれって言われたんっす。

俺も知らねぇんっす!

みたいに少しオドオド、キョロキョロしながら、着実に騎士以外の年配の人達に椅子を配ってた。

そしてスタッフさんの責任者っぽい細身のお爺さんも、額に汗をかきながら王様を見たり、マジで?と疑問の視線を向けてくる重鎮たちに、私も知らないんですけどぉ〜、いや、駄目って一応言ったんですよ?

でも王様の指示なんでぇ~。

見たいな感じで静かに頭を横に振ってる。

普段から王様がいかに部下達をぶん回してるのか分かる光景に、何となく同情めいた気持ちになった。

だって重鎮たちらしい人全員がムスッ!としてるんだもん。

でも従うのは、さっきのゴマすりがあったお陰なのかも知れない。

まー、コッチも狙ってやってんだけどね。

だって重鎮たちが謁見中はずっと立ってるのはルールだって、さっき王様から聞いてたんだよ。

そしたら何も下準備してないと、駄目よ王様!ルールでしょ!って言う人出て来るじゃん。

むしろ怒ろうかどうしようか悩んでる雰囲気なんだけど、初っ端から金茶髭を見せしめにしてるもんだから、向こうも何時も通りに行かなくて行動が起こせないのだ。

何せ聞かずに悟れがデフォルトな環境だから、理由が分からなければ失敗するとなれば迂闊に行動出来っこないんだよ。


これも全部計算なんだけど、こんな具体的な作戦は王様も俺もそこまで口にしてない。

もうお互いアドリブの出し合いなんだわ。

そりゃ基本的な戦略は話してるよ。

椅子がいる。座らせるタイミングは私が出すとか、大雑把なもんよ。

でもあの話の振り方で乗ってきた王様が、ジャストなアドリブしてくれたのは完全に王様のセンスなのだ。

面白くね?

家族ん時よりもめっちゃスムーズに運んでるんだよ。

楽で良いわぁ。

青いタヌキばりに小道具を簡単に出せるし、王様はヤッパリ有能な人だった。

これから私がボッコボコにするから、少しだけ⋯⋯⋯無い。

うん。

罪悪感など微塵もねぇな。

ヨシヨシ。

遠慮なくボッコボコにしてやんよ。

どこまでベストなアドリブ効かせられるか、今からスッゴク楽しみだ。


「良かろう。受け取れ。」


王様は手すりから右手を挙げると、何もない空間からあの白い杖が姿を現す。

そしてカルマンさん目掛けて、バトントワリングばりの回転を効せながら杖を飛ばした。

え?!と、思っていると、バシンと軽い音を立ててカルマンさんが難なく杖を掴み、何の問題も無かったかの様にギルバートさんの方向を向いて床に片膝をついて腰を落とした。

更に杖を両手の掌に乗せると、彼からしたら小枝みたいな杖を捧げる形で私に向かって差し出す。


「どうぞ。」

「ギルバートさん。」


ギルバートさんも床にしゃがんで見えない私を床に下ろした。

私がカルマンさんの両手のひらに乗ってる杖を、ローブから出した右手で受け取ると。


「何だ⋯」「まさか⋯」「うむむ⋯」「⋯よもや魔物か。」「小さい⋯」


階段の上やら下から驚く声がざわめく。

何せちんまい右がシッカリと杖を握ってる、不思議な映像になってるからだ。


「うん。これなら俺の身長もどれぐらいなのか分かるよな。

あんがとな、王様。」

「うむ。」


王様が口角を上げて満足気な笑みを浮かべてるのは、私を知らない人達が素直に驚いたからだろう。


「もうこれで髭のオッサンが、さっき何を間違えたのかが分かるよな?

でもさ。

髭のオッサンだけじゃ無くて、今日呼ばれた黒魔石が何なのか、知らねぇ人間は多かったハズだ。

それは何の罪も無い平民の赤子を巻き込まない様に、俺の願いを叶えてくれたカッコいい大人達が沢山いたからだ。」

「ではあの女性は⋯」


金茶髭のオッサンは顔を青ざめさせて、ローブ姿の成人女性を見て眉間にシワを寄せる。


「うん。多分オッサンは今日黒魔石と呼ばれている平民が、貴族になりに来るぐらいの情報しか、上から直接貰ってねぇよな。

どうだ?」

「⋯うむ。」

「でも黒魔石が女性だと思ったのは、王様が王妃にしたがってるとか、愛人がとかそんな噂を聞いてたからじゃ無いのか?」

「⋯その通りだ。」

「蓋を開けてみりゃ、本物の黒魔石は子供で、あそこに立ってるのは黒魔石を見つけた錬成師見習いなんだよ。」

「れ⋯錬成師見習いっ?!」

「うん。オッサン、その仕事長いのかな?

少なくても今日、昨日なったばかりの新人じゃあねぇなら、錬成師見習いが貴族なのは知ってるよな?

どうだ、俺の言葉は間違ってるか?」

「⋯いや、そのとおりだ。

なんて事だ⋯」

「オッサンが貴族の女性に平民んって言って間違えたのは、色んな事情が重なった不幸な事故な面も有るが⋯オッサンの仕事は王国の顔だ。

謁見ってヤツはから外来た人間と王様が会う為の場所だから、ソイツと初めて言葉を交わすその仕事は、相手の身分を間違う事は許されねぇんじゃないか?

これは俺の予想でしか無いんだが⋯、どうだろう。」

「ああぁぁ⋯」


金茶髭のオッサンは真っ青になって、悔しそうに俯く。


「しかもよぉ。この錬成師見習いのお姉さんは、国王様の娘なんだよ。」

「な?!ま、ま、まさか⋯」


ヒュと小さく息を吸い込んだ後で、うわ言の様に呟きながらガタガタと身体を震わせ始めた。


「でも、これは意地悪じゃ無くて仕込みなんだよ。

王様がワザと間違えさせた事だから気にすんな!

叱られやしねぇよ。

だから安心しろよな!」

「そ⋯そうなのか?!」

「うん!でもな?

俺が思うに、オッサンは王族と平民を間違えちまったんだが、もっとやったら駄目な失敗してるんだよ。

それが何だか分かるかな?」

「な⋯なんだと?!」


まだあんの?!って感じでオッサンが泣きそうになってる。

小刻みに震えてる姿に、私はドンと杖で床につく。


歩いて見て思ったが、絨毯は良く踏まれてる場所は硬くなっていた。

だから試しについてみたけど、音はヤッパリ吸収されて、石畳と比べたら雲泥の差がある。


「俺はオッサンの仕事の内容を知らないだろ?

だから間違ったこと言うかも知んねぇから、思い違いしてたらオッサンが教えてくれるかな?」

「う⋯うむ。」


「オッサンは黒魔石が平民の女だと思ってるから、錬成師見習いが歩いたら駄目な場所まで進んだから止めた。

それは決まり事を知らない平民に、したら駄目な事を教えるためだ。

つまりオッサンの仕事はこの場所に来た客を見て、決まり事を守れなかった時に注意して教えてあげるのも、仕事の中の1つじゃ無いかな?」

「⋯うむ。」

「なら何で騎士達には注意しなかったんだ?」

「は⋯?!な、バカな?!」


金茶髭のオッサンは兜をかぶって面を下ろしている2人の騎士に気付いて目を見張った。


「うん。本当なら騎士から武器を預かったり、兜を脱がせる様に指示する役目の者が他にいたからだろ?

でもそうじゃ無かった。

だったら騎士が兜をかぶってる事について、オッサンはその事に気付いて、気をつけてなきゃいけなかったんじゃないか?」

「あ⋯あぁ⋯」


騎士達を見てオッサンが動揺してる間に、私はテクテクと階段と絨毯の隙間に有る石畳に向かい。

ドン!と、今度こそ大きな音を鳴らして注目を引く。


「つまりアンタは別の事に気を取られてたせいで、異常に気付かず、本来なら必要だった仕事を見逃したんだよ。

騎士達が兜をかぶったままなのは、入口に入って来たら直ぐに見える。

だがアンタは遅刻して来た平民に腹が立ってた。

もしくはソイツが王様から王妃になれって言われるぐらい、気に入られた事にも腹が立ってたんじゃないのか?

だから注意が感情に取られて、大事にしなきゃいけなかった事を見落としたんだ。


入口の騎士が何時もはやってる仕事ってのもある。

だがもし入口の騎士達がその仕事が、したくても出来ない状態になってればどうなる。

アンタはそれに気が付かなきゃ駄目だよな。

平民がテクテク呑気に歩いてるのなんか目じゃねぇぐれぇ厄介なのが、正体の分からねぇ騎士だ!」


ドン!と杖の先を叩きつけたら、金茶髭のオッサンがビクン!と跳ねた。


「でもこれは王様が俺の事を皆に教える為に仕込んだ事だ。

アンタが見落とそうが見落とさずに指摘しようが、どうでも良い事だな。


だが1つだけ言っておく。

俺にはそんな事の説明なんざ1つもされてねぇんだよ。

全部アンタの言葉や態度や行動を観察して、この部屋を見て何故そうなのかを予想して、掴み取った情報を元に全部自分で考えた事なんだ。

だから俺には本当に正解してるか分かんねぇ。

だからオッサン。

教えてくれや。

俺が言った事、間違ってるか?」

「はうぅ⋯あ⋯」

「間違ってるか、当たってるか聞いてんだろ!

ブルってないでさっさと応えろや!!!」

「も⋯申し訳有りませんーーー!!!」


バン!!!

と杖の先を叩きつけたらギュッと目を閉じたオッサンが、軽く悲鳴じみた声で何故だか謝った。


「⋯全く可哀想に、飛んだ目に合わされちまったなぁ。

だがアンタのした今回のやらかしは絶対に叱られねぇ。


俺がそれを絶対に許さないからだ。

だから王様もそうはさせねぇ。

じゃねぇと俺が、王様の言う事を聞かなくなると分かってるからだ。


俺は人をハメて不幸にする存在なんかになりたくねぇんだ。

そんなもんに利用されるぐれぇなら、何を言われたって死んだ方がマシって考えてる生き物だからよ。

つーことで許してくれよな。

オッサン。

嫌な思いさせて、本当にごめんな。」

「は⋯ハハッ⋯い、いえ⋯もも勿体なくっ⋯」


小さくはぁと息をこぼし、冷や汗を吹き出して頭を下げてるオッサンから、視線の雰囲気が悪くなってる面々を見回した。


「とまあ⋯俺はこんな風に少しの情報が有れば、色々理由を想像する考える力が有るから、ウッカリ世界の秘密を見つけて、聞かれるまま錬成師見習いに喋っちまった大馬鹿野郎だ。


俺は自分が周りに比べて変なヤツなのは分かってた。

でもよ。

まさか錬成師見習いにそれを喋れば黒魔石だなんて生き物じゃねぇもんに見られて、こんな大事になると知らなかったんだ。

何せ俺は産まれて2年しか経ってない子供だから、俺の済む呑気な村じゃ、そこまで考えられる情報が無かったからよ。

でも何がどうヤバいと分からなくても、逃げなきゃマズいのは分かった。


だから俺は見つけた世界の秘密を捨てようとした。

目の前にいる錬成師見習いが欲しけりゃ持って行けと、押し付けようともした。

けどその錬成師見習いはすごく誇り高いヤツなのに、平民の農村で育った2歳の女の子に縋って泣きながら言ったんだ。


捨てないで欲しい。

貴方が見つけた宝物は私ではどうしても見つけられなかった、世界が驚く世紀の大発見になる。

これが有れば貴方を恨む人も居るけれど、助かる人はもっと沢山いる。

貴方が望む全てを出来る限り守るから、どうか皆に伝える事を許して欲しいって頼みやがったんだよ。


俺からしたら家族じゃない、知らない他人なんかどうでも良かった。

自分が逃げる手を考え抜いたし、家族が巻き込まれて死ぬ様な目に遭うのも何回も想像した。

俺は産まれて来なければ良かったと考える自分も、嫌ってほど繰り返した。

家族を守るのに俺が死ねばなんとかなるかなとも考えた。

考えて考えて吐きそうになるぐらい先を考えて。


俺はそれを断れ無かった。 

錬成師見習いは自分1人じゃ、俺が望む家族の命を守る事も難しい事も、全部正直に話してくれたからだ。

貴族なんてのがあるのも、錬成師見習いが貴族とかも知らなかったけど、その錬成師見習いはとても賢くて心が綺麗で頭が下がるエライ奴だってのは、それで直ぐに分かった。


だから俺はその錬成師見習いを信じる事にしたんだ。

そして俺より勉強して物を知ってる賢い錬成師見習いが、こうすればいいと考える話を聞いて、自分の頭で考えて行動を起こした。

たとえ失敗しても錬成師見習いのせいじゃ無くて、自分が自分で責任をとるためだ。

つっても俺に出来る事は自分が死ぬ事しか出来ねぇんだけどよ。


そしてその結果が今ここに全て有る。

錬成師見習いよりも頭が良くて強い王様や、世間知らずじゃない沢山経験を積んでる偉い爺さんや、沢山身体を鍛えてる力の強い騎士や、誇り高い錬成師や錬成師見習い達が、皆で俺ごと家族を守ろうとしてる。

なんなら俺と関係無い平民の子供だって守ろうとして、俺の事を誰にも話さずに秘密にしてくれてんだ。


でも俺はもの凄く珍しい存在で、保護するのも簡単じゃねぇんだわ。

俺には家族が必要で。

それも争いのない呑気な村で畑に囲まれた生活も必要でな。

もちろんそれはずっとって事じゃない。

でも出来ればなるべく長く、今のままでの環境で暮らしてく必要が有るんだよ。

それは俺が安全な人間の女の子でいるためなんだ。


こんな事言われても王様が俺を王妃にするって言い出したのと同じぐらい、ここに居る全員はきっと訳が分からねぇよな。

でも俺は王様と違って、俺が何故そうなのかを自分の言葉で説明する事が出来る奴なんだ。

だからそれが出来る人間の俺を、錬成師の世界に触れた皆は黒魔石だと認めた。

黒魔石ってのは数の少ない貴重なもんで、お金の中なら1番高い価値をもってる。

黒魔石を知ってるヤツは誰だって欲しがる。

そんな奴だと皆が認めた。

ここまでの説明で訳が分からない奴はいるかー?

上のお嬢さん達は完全に飽きて来てるけど、ちゃんと話を聞いとけよ〜。


勉強サボってるから、集中力が続かないんだぞー。

ちゃんと母ちゃんや父ちゃんや弟を見てみろ。

興味が無くても大事な話してるから、ちゃんと聞いてんだぞ。」

『なっっっ⋯』

「無礼ね。」「まぁ⋯なんて失礼なのかしら。」


名指しされた2人の美女が、静かに優雅な仕草で睨んで来る。


「残念だが俺はまだ2歳児でな。見たもんをそのまま言う事しか出来ねぇんだわ。

もしアンタラが腹が立ったなら、それは自分自身で俺の言葉が当たってることを認めたからだ。

そこんとこ、良く覚えとけよ。

そこの髭のオッサンはそれが分かるぐらい勉強して考える力を身に着けて来たから、俺がスゲェと思って態度を変えたのよ。

平民ごときの2歳の子供に、それが出来るスゲェ奴だからこそ!

そこに立って国の顔って言う仕事を任されてんだよ!!!」


ドン!と杖を突くとお姫様達は、肩をほんの少し持ち上げて嫌そうな顔で身を竦ませる。

髭のオッサンは、えー、そうなん?て言わんばかりの視線を周りから向けられたもので、澄ました顔をしながらも、いや〜それほどでもぉ~と言わんばかりに頬をウッスラと染めてた。

ちょっとキモい。


「なぁ、アンタ達の兄妹である錬成師見習いは、何にも言わなくたってソレに気付く力が有る。

だから結婚なんかしなくても生きていけるが、嫁ぎそびれてるだけのアンタ達にゃ難しいぞ。

ワガママ言ってないでサッサと嫁に行かないと、婆になっても姫なんて仕事をする恥ずかしい事になるんだぞ?

それが嫌なら、人の話はちゃんと聞け。」

『なっっ?!』

「グフ!」

『ブッッ』


はぁん?!殺すわよ!とキレた姫君達は、王族の男性達全員から吹き出されて、目つきが三角になった。

睨んでる睨んでる。

でも私を睨まれたってなぁ〜。


「睨んでる暇があったら、俺を見ろ。

知識や技を学べ。

アンタ達が見て来た、父親と同じか似た能力を持った存在が俺だ。

父親がやってる事は分からなくても、俺ならまだわかり易いだろ。

話聞いてるだけでそれが勉強出来るんなら、楽な仕事だと思って頑張れや。

上手く技のみとりが出来れば、それはこの先の人生で利用出来るかも知れねぇだろ?

生かすも殺すも今この時の自分次第だぞ。」

『⋯⋯⋯』


何言ってんのコイツ⋯でもまぁ良いわ。

そこまで言うんなら聞けば良いのね?いい度胸じゃない。

聞いてやるわよ。

って不満気な雰囲気を出しながらも、スンとお澄ましする。


「かしこまってたらシンドイだろうから、楽にしてくれや。

ダラダラしてても俺は平民だから、何も恥ずかしくねぇだろ。

エライオッサン達も同じだ。

シャンとして疲れて話を聞き逃したらどえらい事になる。

俺はもの凄く嫌だが、これから本気で大事な話をしていく。

それが王様が俺に望んだ仕事で、王妃にとかフザケた事を言い出した理由だからだ。」

『ザワ⋯』『ヒソヒソ⋯』『ドヨドヨ⋯』


爆弾を投げるだけ投げた私は、ヨチヨチ歩いて皆の表情、年齢、来てる服、座ってる場所なんかの情報をどんどん集めた。

皆目の前を杖を持った小さな手が歩いてても、動揺してるか自分の話に夢中であんまり気にしてない様だ。


まぁ私を知ってる騎士やらお爺ちゃんとかは、興味津々の視線をコッチに向けてて、何だか楽しそうにしてる。

上の人達はお姫様2人が別に気にしてませんけど?と言わんばかりにお澄まししてて、王様と元王様と弟2人は、ヤベェヤベェと笑いを治めるのに必死で感情を噛み殺すのに忙しい。


2番目の奥さんは、あんた面白いじゃない。もっとヤレ!とか思ったけど、表に出せないから取り敢えずな気分で苦笑を浮かべてそうだし。

王妃や元王妃は何なのコレは、はームカつくんですけど?と思ってるけど、そんな事思ってませんよと言わんばかりにツンと澄ましてた。


「俺と王様は形は違うが殆ど同じか、似たような存在なんだよ。

これは産まれや身分や性別の話じゃ無くて、持って産まれた能力の話だぞ?

そこ勘違いして顔を真っ赤にしながらイライラするじゃねぇぞ。」


私は皆の顔を観察しながら、トテトテと右へ左へと歩いてたから、直ぐに杖の先を向けて指摘する。


すると杖を向けられた相手はグッと息を飲んで、鋭い視線は向けて来るけど、取り敢えず我慢するみたいだ。

それを確認すると杖を引いてまたトテトテと杖を持ってゆっくり歩き始める。

杖をつくとバンて言う仕様は、こんな時に不便なのが分かった。

機会があれば改良してもらおうと心に決める。


「んでな。

王様は人間の男じゃいられなくて王様になっちまったが、俺はまだ人間の女の子だ。

だから王様が説明出来ない事も、俺なら代わりに説明出来る。

その代わり間違わない様に、少しだけ必要な知識はいるけどよ。

何でそんな事になってるかと言えば、王様は自分の考える事を周りが察するのが当たり前の環境で育ってきたからだ。

つまり自分が考えてる事や思ってる事を説明するのが苦手なんだよ。


そこで俺はどうか。

もうここ最近ずーっと色んな人達に説明しどおしよ?

頭から湯気が出そうなぐらいに頑張って言葉を覚えたり、お喋りする方法を相手に合わせて考えてる。

つまり王様が出来ない事を、俺はやれる様になっちまってんだ。

それは俺が死に物狂いで頑張ってるからだし、まだ知識や経験が足らなくて見てるものを伝えるしか出来なくても、受け取る人達が賢くて考える力が有れば理解してくれるからなんだが。

こんな説明でも皆分かってくれてるみてぇだな?」


立ち止まって周りを見渡すと、小さく頷いてる人や、反論しない所を一別してまたトテトテとゆっくり歩き始める。


「じゃあ続けるぞ。

俺が王様と初めて会った時、王都から王様は俺が居る所まで魔法で飛んで来ちまった。

俺が住んでる村がどこなのかは俺は名前しか知らないけど、まあ普通なら王様以外は出来ないぐらいの距離は離れてるらしい。

そこで色々と話して俺がさっき髭のオッサンにしたみたいにコテンパンにバンバン説教してたら、王様に少しは優しくしてくれと言われたんだ。」

『グフッッ⋯』


王様も含めた全員が吹き出して、サッと顔を背けた。

おー、なんか快感だぞ?

だって不機嫌な顔してた奴らが全員だぞ?

これはちょっと嬉しかった。

王妃も元王妃もウケてくれて嬉しいな。


「だから俺はな、心の底から呆れちまって、だったらちゃんと礼儀を学んで良い男になりなさい。

女の子に好かれたいと思うなら、突撃なんてやらかさないで、文通から始めてみればどうかしら。

初対面で女の子に優しくされるだなんて、思うほうが図々しいわよ。

どれだけ世間知らずなのかしら。貴方、ちゃんと礼儀作法を学んでらしたの?

って言ってやったんだ。」

『フグッッ⋯』


皆めっちゃ頑張って耐えてる。

いきなり始まった我慢大会で、やはり個人差が有るらしく。

やたらと咳払いする人が増えた。

お姫様達は良く言った!と言わんばかりに引き付けを起こしかけてて、必死に腹筋に力を込めてるのか全身がプルプルしてる。


一度聞いてた筈の人達も、思い出し笑いでやられちまってる。

多分謁見室てあんまり笑ったら駄目な場所なんかな?

王様ですら口元に拳を当てて我慢してるんだもん。


王様ネタが皆にウケるのって、それだけ皆が王様に対して大なり小なり鬱憤を抱えてるんじゃねぇの?と分析した。


王様の事を尊敬してるし大好きだけど、天才だけにやることなすこと飛んでもなくて、それをフォローする人間が苦労してるって事なんだよ。


だから赤の他人の俺が王様を貶したら、皆不愉快になって腹が立つけど、自分が納得出来る事ならそこまで反発せずに受け入れる事も出来るって事だ。

王様が神様じゃない証拠だし、それだけここに居る人達は盲目的にならずに考えて判断出来る知性を持ってる事にもなる。


「クフン⋯そこな平民。

何故その様な物言いも出来ると言うのに、粗野な言葉を使おておるのじゃ。

改めれば良いではないか。」

「それは私が使い分けてるからですよ、王様のお母様。

ここは男性が中心の男性の世界ですから、強くて男性的な言葉で無ければ、受け入れられない事も有るのです。

あと私は教えられてる訳では無いので、王様のお母様が言う粗野な言葉は私の叔父が使ってる言葉使いを真似してるだけなのです。

丁寧な言葉使いは錬成師見習い様を真似て、似せて使ってるのですが、恐らくこんな優しい言葉では男性は女性に叱られる経験が少ないかと思うので、聞き流されると思います。」

「なるほどのぉ⋯」


思わずと言った様子で元王妃が話しかけて来る。

元王妃と呼んで良いか分からなかったので、呼び方は変えて使ったが、子供だからどうやらギリギリで許してくれたらしい。

元王妃はフワフワな扇子を口元に当てて、ジーッと私が持ってる杖を見つめている。


「丁寧な言葉だろうが、野蛮な言葉だろうが、相手に聞いて貰わないと始まらねえ。

もっと勉強すれば他にやり方が有るかも分かんねぇけど、今はこれが俺の出来る精一杯なんだよ。

錬成師見習いさんと一緒に暮らしてる訳じゃ無くて会う機会もすくねぇから、どうしたって隣の家に住んでる叔父さんの真似の方がしやすいんだ。

俺のお父さんは真面目で優しいから、言葉遣いも大人しいのさ。

だからそんなもん使っても、強さが足らなくて心の奥まで届かないと思ってる。

特に俺の声は子供だ。

大人が1番聞き流しやすい部類の声だ。

だってよ、子供に説教される大人なんてこの場所には1人もいねぇだろ?

なら言葉の荒さに腹が立って聞き苦しくても、反発するって事は聞いてるって事なのさ。

ムカつくって事は意識がちゃんとこっちに向いてるって考えちゃいるが。

どうかな?」

『⋯⋯』


なるほどと、年齢関係無く静かに学ぶ姿勢を見せるのは、それだけ上等な人間を普段から王様が侍らせてるって事だと察する。

こんなの貴族社会では上澄みだと思うので、先代の王様かそれより前の王様か。

はたまた今の王様かは分からないが、そんな人間を好んで重用する風習があったのでは無いかと予想する。


良い場所だと思った。

もっと頭が凝り固まったどうしようもない連中の集まりで、私が何を言おうとも罵倒されて、聞き流されたって仕方が無いと思っていたが、そうじゃ無かった。

そりゃあの王様が守りたいと願う人達なだけは有る。

なるほど⋯と、小さく頷いた。


「俺は今とても驚いてる。

何故なら俺は平民で、しかも2歳しか生きてない農民の子供だ。

それなのにここに居る全員が俺の言葉を聞いてくれてる。

俺の話をただのうるせぇ雑音じゃなくて、聞く価値が有ると認めてくれたって事だよな。

普通は出来ねぇよ?

俺なんかに泣いて願った姫が育つ環境なだけは有るよな。

⋯分かった。

俺も命をかけて腹をくくる。

王様が守りたいと願う大事な人達を、誰一人零す事なく全てを救って、俺は俺の価値を証明してやる。」


そう高らかに天井を見上げて言い放つと、両手で杖を持ち上げて構える。


「これより俺様10級の黒魔石と、本物の王様と勝負を始める!

俺の勝利は、本物の王様を人間の王様に引きずり降ろす事!

本物の王様の勝利はこの中にいる者を1人でも切り捨てる事だ!」


ドン!と一気に突き降ろす。

そしてポカーンとしてる人達を、視線を流して全員見ながら言葉を続けた。


「俺は真実を突きつける。

それしか出来ねぇ無能だからだ!


まぼろしの血反吐を吐き散らかす野郎共が大勢出ようが、俺は一切妥協はしねぇ!

こんな宣言されたって、誰一人分かんねぇだろうか、これから俺が説明してやる。」

『な⋯なにを⋯?』

『ザワザワザワザワ⋯』


ポカーン、キョトーンとしてる人達も居れば、何か始まるワクワクって興奮してるヤツもいる。

呆れてまだ続くのかと疲れてるヤツもいれば、今度は何を言うつもりだ?と不愉快になってるヤツもいた。

大多数がウンザリしてるが、そこは丸っと無視をする。

私だって嫌だよ。

もうお家に帰って昼寝がしたい。

王様だけは満足そうに微笑んで、肘置きに肘をついて頬を乗せてくつろぎモードだ。

そんな余裕が有るのも今だけだ!と、そんな負けん気で鼻息を荒くして私はギュッと薄ら笑いを浮かべてる変態野郎を睨見つけた。


「事の始まりは王様から来た1通の手紙だ。

でも紙に文字が書いてる訳じゃ無い。

自分の娘を使って、俺に王様の願いを伝えて来たんだ。

俺が文通でもしろって言ったからだろ?

俺に文字は読めないと思ったのか、字を書くのが面倒だったかは知らねぇが、俺は王様の娘が手紙だとそう分かった。

内容はこうだ。

俺の第1夫人にしようと思ったが反対されたから、仕方無く第6夫人か国の愛人にする事に決めた。ってよ。

でも皆が混乱してるから、お前ちょっと、こっちに来て説明しろよ。やれるよな?

だよな?錬成師見習いの娘。」

「え?!⋯えぇ⋯」


お嬢さんは少しだけワタワタしたものの、小さくコクリと頷いた。


「それを聞いてこれは恋のお手紙に見せかけた、王様からの挑戦状だと受け取った。

あと王様が愚痴ってたから、疲れて追い詰められてたのも知ってた。

何でそうなってんのかは分からねぇよ?

何も情報が無かったからな。

でも望まれてるのが、皆への説明だけじゃ無くて、どうにかしてくれ!って言う俺への『救難信号』って、なんつーんだ?

えーと助けて!って言う願いも込められてるのも分かったんだ。

んで俺なら出来るだろ?って、挑発されてるとも思った。

なにせ10級の黒魔石だなんて、大袈裟な事を前に言っちまったからな。

それは俺の命がけの覚悟の言葉だったが、王様はそれを鼻で笑いやがったんだ。

死ねば済むと思うなよ?

俺ならお前が死んだらお前の大事な家族を殺すが?ってな。

それが嫌なら俺の家族や家臣を助けてみせろ。そしたらお前もお前の家族を俺が守ってやるからよ。

て、言ってると思ったんだが、どうだ?王様。

当たってるか?」


この場に居る上下関係無く全員が王様に視線を向けた。


「そうだな。」

『っっっ?!』

『ザワザワザワザワ⋯』


薄ら笑いを浮かべ余裕ぶっこいてる王様に、大なり小なり動揺して溢れた言葉や疑問の声がサワサワとしたざわめきになって響き渡る。


「何でそんな事になったのか。それは皆にも分かるようにするのと、俺が王様に勝つために情報を集めるからするんだが、

簡単に言えば王様はもう疲れちまったんだよ。

人間らしく他人に気を使うのがな。

だから昔から教育され続けて来た本物の王様に、自分を明け渡して国を治めようと思ったんだ。

黒魔石である俺を利用してだ。

王様は人間だ。

それをさせない為には俺が10級で有る事を、コイツに解らせてやる必要が有る。

だからこれは俺と王様の勝負なんだよ。

何で俺が命を張るかって言えば、10級だと証明するには真実を必要と思える奴ら全員に突きつける必要が有るからだ。

それでソイツらの頭をかち割って、今の状態から抜け出させねぇといけねぇのさ。

つまりここに居る全員が、下手したら人間性を無くした本物の王様には要らねぇってことなんだよ。」

『まさか?!』『ばかな!』『そんなはずは⋯』『ザワザワザワザワ!!!』

「普通の奴ならそんな真似したら国なんて滅びちまう。

でもコイツはそれが出来ちまうんだ。

ずっとずっと考えて考えて考え続けてたんだろ?

今の状態を見て、アンタは国が止まっちまったと感じたんじゃねぇのか?

こんだけ大きく国が育てば、要らねぇもんも増えるだろうしよ。

国が止まると言う事は、川の流れが止まれば水が腐る様に、国も腐ると言う事だ。

まだ今俺が見る限り、この国は腐るとこまでは行ってねぇ。

でも今真実実力のある強い王様の自分が行動を起こさないと、そのウチ段々と国がどうしようも無く腐ることが見えたんだな?

目の前の事だけをワチャワチャするのに精一杯な普通の王様じゃ無くて、あんたは最悪国を滅ぼしても1から立て直せる実力を持った、本物の王様だからだ!

国が有るから王様になってるんじゃ無くて、あんたが居る場所が国になるんだ。

それについて来れない奴達は、全員取りこぼされちまうよな。

アンタには疑問を持たずに行動する手足さえ有れば良いんだ。

考える力はあっても、自分について来れない人間は、例え有能であっても邪魔だと思ったんだろ?

尊大で肥大化したその自信に満ちあふれた、でもそれが決して過信でも何でもない。

真実本物の力のある強い王様だもんな。

こうしたら良いと思うのに、そうしようと思えば、目先の事しか考え無い奴らがあーだこーだと邪魔して来るんだよ。

そりゃうっと惜しくてたまんねぇよな。

逆に言えば向こうからしたら、また理由のわからない事をしてる身勝手な王様だけど、俺達が頑張って支えてあげないと、とか思われて好かれてるのに邪魔され続けて行くって言う悪循環が起こってる訳だ。」

「ククク⋯フハハハ!

良く分かってるではないか!

フハハハハハハ!!!

まさにその通りよ。

流石、真実を見通す力の有る黒魔石よな。」

『っっっっ?!』


肘置きをバンバン叩いて爆笑してる王様に、信じられない物を見つめる視線が振り注ぐ。


「でもそんな事は、人間の王様は嫌なんだよ。

お父さんもお母さんも奥さんも娘も息子も家臣も全部大事なのに、日が経つに連れてブクブク大きく膨れ上がって行く傲慢な王様から、人間のアンタが必死に止めようと頑張ってるけど。

人間のアンタはどうにも小さくて無力なんだ。


だって本物の王様は自分がどれだけ痛くても、国を正しい方向に引っ張って行くのが仕事だと考えてるからだ。

そんな風に教わって、そんな恐ろしい価値観が正しいと植え付けられてるからだ。

普通なら教わった所でその通りには出来ないもんだよ。


でもアンタは人より優秀な上に精神力も強かったんだ。

だから人間として大事なもんが育ち切って、壊れない真が出来る前から、周りが考えてる最高の王様になる為の知識や価値観を植え付け続けられて来たんだよな。

俺が俺として正常に育つ為に必要なのが、今の環境と家族だと考えてるのがそれが理由だよ。

人間には絶対に無くしたら駄目なもんが有るんだ。

なのにアンタはそれをちゃんと育てて貰えなかった。

でも全くそれが無かった訳じゃ無い。

それがお母さんやお父さんから貰ったのか、兄妹からなのかは分かんねぇけど。

本物の愛をくれたのって、今の王妃なんじゃね?

だからアンタは人間の自分に失望したんだよ。

1番大事に守りたかった妻を、毒を撒き散らしてくる奴らに壊されちまったから。

頑張って守ろうと必死になって、腐らない様に綺麗なお水をあげたり、環境を変えてやろうと周りに言ったし、そうしたのに。

アンタの大事にしてた綺麗な彼女は、見てられないぐらいに萎れて腐っちまったんだな?


だからアンタは弟を逃がしたんだろ。

彼女を守れなかった自分の無力さを痛感してたからだ。

情けない奴だけど、アンタを本当に慕ってくれてる可愛い弟だもんな。

守れなかった彼女みてぇに腐る前に、諦めたんだ。

だから随分と王様のアンタに責められただろ。

ソイツからしたら正気の沙汰じゃ無い。大失態だからだ。

そうじゃ無きゃ子供の王子だなんて、誰にも見つからずに逃げ切れる訳がねぇもんな。

自由になる弟を見て、自分を重ねたんだろ?

僕もそんな風に生きたかったってよ。」


ガラン⋯と大きな音を立て兜が床を転がって行く。


「あ⋯あに⋯え⋯」


2mを超える巨大が背中を丸め⋯丸めてはないな。

前かがみになって、片膝をついた姿勢から頭を地面につきそうなぐらいにたれ下げ、血を吐かんばかりに言葉を絞り出してる。


「セドリック?!」

『ザワザワザワザワ!!!』


椅子を倒さんばかりに僅かに腰を上げたのは元王様だ。

立とうとした所をギリギリで止めたかなり不自然な姿勢で、目を見開いて信じられないと言わんばかりに口を開いて震えている。


「なんてこと⋯」


元王妃も目をギュッと閉じて必死に平静を装ったけど、失敗して無茶苦茶良い姿勢のまま、小刻みに身体が震えてた。


「王様の弟には嫌な仕事を引き受けてくれる家臣が居なかった。

だから王様は自分を慕ってるヤツをつけて弟を城から逃した。

最初はソイツが嫌だったけど、仕方が無いから我慢してた弟だけど、そのウチ仲間になる良い剣士を見つけちまった。

だから王様がつけたお目付け役から逃げて、弟は平民の彼女と夫婦になって幸せに暮らす事になる。

王様はもう、はーって感じだよな。

しかも子供も作っちまうし、それ見たことかって自分の中の王様からボッコボコに叱られる訳だよ。

でもまぁ王様からしたら、妻を救えなかった不甲斐ない自分が、少しだけ自信を取り戻せたぐらい嬉しかったんだよな。

アイツやりやがったな!って思うけど、笑っちまうよな。

逃げた先で速攻で彼女を作って子供まで作っちまったんだよ。

それも自分には中々産まれてくれなかった男の子だし。

もう笑うしかないよな。」

『そ⋯その様な⋯平民の⋯』

「セドリック⋯なんて事を⋯」

『ザワ!!!⋯⋯ザワザワザワ』


謁見室が大炎上。

話を聞いて鋭い視線をカルマンさんに向けてる人もいるし、元王妃は椅子にもたれて失神しかけてる。

元王様も片手で頭を押さえて、痛そうに呻いてる。

だから私はバーンと杖の先を床につけて注目を私に集めた。


「おいおい!

集中しろよー!

話はまだ終わってねぇんだぞ〜。

こんなんじゃ人間の王様はあっという間に消えて夜な夜な人を殺して行く、ヤバい王様に乗っ取られちまうぜ?

おい、ばーさん!

気を失ってる場合じゃねぇぞ!

おい!王様の親父!!!

アンタがシッカリとしないでどーすんだ!

そんな様だから王様がアンタの代わりに弟を守る羽目になってんだ。

シャンとしろやシャンと!

アンタこの家族の家長だったんだろ!

農民の親父にも負けてんぞ!」

「ぐ⋯」

「あと騒いでる他のヤツラ。

お前等にはお前等の価値観が有るのは分かってるよ。

だがな?今はそんなもんゴミ箱に捨てろや。

ウダウダ言わずに黙ってろ。

話は全部が終わってからだ。」


杖の先をゆっくりと巡らせて、ざわめく人達に向けて行けば、不満を飲み込む形でシーンと静まり帰って行く。


「さて話の続きだ。

もっと言えば、贅沢な暮らしをしてた弟は妻と子供にも良い生活をさせてやりたくなって、王様にも男の子が産まれた事だし、遠くの外国から奥さんと子供を連れてウェスタリアに帰って来ちまったんだよ。

そこはまぁ王様も帰れば?って、思ってたから良かったんだけど。


問題は王族の弟が平民の妻と子供を作ると魔力過多症になるって事なんだよ。

外国はウェスタリアよりも魔力が低い土地だったのか、太陽の下で働くのが普通の生活をしてる分には何の問題も無かったのに、魔力の高いウェスタリアに戻ったら、妊娠した奥さんが魔力過多症になっちまったのさ。

しかもそうと気が付かない弟が良かれと思って高い回復薬を飲ませたからさぁ大変!

これここに居る錬成師達なら全員がそのヤバさが分かるよな?


奥さんが死にそうになったから、弟は自分が知ってる最高の錬成師に、つまり王様に泣きついたんだ。

王様は呆れたけど、錬成師だから興味もあったし自分に自信もあったから、助けてやるかと向かったのに⋯奥さんは死んじゃった。

王様じゃ弟が大事にしてた奥さんを助けられなかったんだよ。

しかも息子まで魔力過多症になっちまった。

王様は多分必死になって色んな方法を探しただろうが、魔力過多症は特別で幾らいい素材を集めても仕方が無かったんだ。

その上厄介な事にその死んだ奥さんは自分じゃ魔力を外に出せない体質だった。

息子もそうだ。


だから王様じゃどうしようも無かったんだよ。

仕方がないから自分も研究を続けながら、経験を積んだベテランの錬成師を弟の息子につけてやった。

それでギリギリ生きてたが、治療方法が見つからないから、先も見えてた。

王様はまた自分が情けなくなっちまったんだ。

大切な彼女を失い、今度は可愛い弟の妻や子供も救えない。

どれだけ錬成師として功績をつんでも、出来ない事はこの世には沢山有るんだよ。

でも普段は何でもかんでも簡単に出来る王様だから、自分が情けなくて許せなかった。

責任感の強い、長男だったのが仇になっちまったんだよな?

家族は守るもの。

人間の王様は無意識のウチに、そんな価値観を抱えてたんだ。

頑張るのに結果が出なければ、段々と疲れてくる。

家業も親父や家臣の協力を得られなくて、ウェスタリアは止まったまんま。

可愛かった奥さんは嫉妬にまみれて毒の塊みたいになって、少し注意したら泣いて縋って手がつけらない。

2人目の奥さんも虐められたから、恨みと憎しみで王妃といがみ合ってるし。

お母さんは孫が大事だから、仲介なんてしてくれない。

向こうの味方すんのか、息子を返せ。

危なくて預けられないって言われたら困るから。

親父だって家庭の中では、強い奥さんのお尻に敷かれてるから役立たずだ。

どーにもこーにも行かなくなってた所で、ポコンと出て来たのが黒魔石なんだよ。

そう、マヌケにも錬成師見習いに見つけられちまった俺様なのだー!」


ドン!と杖をついて軽くふんぞり返ったが、誰にも見えないと言う悲しさ。

まぁ良いけど。





偲んでないニンニン

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