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始めてのお城


私はお嬢さんに城に行く事を了解した。

移動手段はド変態のタクシーだ。

なのでお嬢さんは心起きなく私を残して、王都に向かって帰って行く。


まぁ今日明日城に向かうわけじゃ無いので、私は自分の仕事(しごと)に向かった。

魔力草の発芽だ。


やはりお皿に魔法の水を入れて浸してるだけでは発芽しなかった。


ならどうすれば良いか。

日の当たらない日陰に種を植えたのだ。

でもこの日陰が実は厄介で、お日様が移動すれば日陰が消えて日向になる。

しかも夏が近いので、太陽が高く。

家や倉庫なんかの既存の建物が作る日陰は、中々条件を満たしてくれない。

しかも夜には月の光が必要になる。

今はまだ種だが、双葉になれば月の光が必要になると感じたからだ。

まあそれはあくまでも予想で、しばらくは魔法水さえ与えてあげれば不要かは分からないが。

雨は少なくても月の光の力を含んでると推測していた。


それでどうすれば良いか。

遮る物の無いだだっ広い空き地に種を植え。

人工的に日陰を作ってみる。

具体な事を言えば、洗濯とかで使ってる裏庭だ。


最初に倉庫の裏で魔力草を見つけた時、あれは雑草の少ない砂地に生えていたのを覚えてる。

太陽の当たりにくい場所は、どうしても雑草が育ちにくい。

何処から魔力草の種が来たのか。

それはマージンが運んだのでは無いかと私は予想している。

マージンは麦の受粉や害虫を食べる仕事をしていると、私は勝手に考えてるのだが。

種を運ぶのは鳥の仕事と言う認識もあった。

周りに魔力草が無いなら、人工的に運ぶ存在が居ないと変だ。

放し飼いにされてるマージンが、魔力草の蜜を吸い。

その時に種を食べるかどうかして、倉庫の近くに来た時に糞にまざっていた種を落として行ったと考えた。

実際に現場を見た訳では無いので、これはあくまでも予想である。

そして運よく日陰に落とされた種が発芽して、育ったものが私に見つかった。


それなら発芽の条件に必要な物を考えよう。

お皿に魔力の水を入れて月の光を当てたものは発芽に成功していない。

日にちが足らないのか、何かの条件が不足していると思われる。


なので種ふた粒はお皿+魔力の水+月の光で実験の経過観察を続けた。

そして次のパターンへ移行する。

土+日陰+月の光+魔力の水

土+日陰+月の光+井戸水で、ツーパターン。

更にお皿に浸した種と、まだ使用してない種とで分けて、合計で5パターンの実験を行っている。


発芽の実験を考えれば雑草は必要無いので土を耕し、林に近い土にする為に麦畑から土をちょろまかした。

コレで駄目なら誰かに林から腐葉土を持って来て欲しいが、土の栄養はあまり考えてない。

何故なら倉庫裏でも発芽してたからだ。

マージンの糞に含まれると予想されるのは魔力と蜜だ。

なら土はあんまり関係無い。

なんならマージンの糞を集めて、そこに仕込めば良いのだが、マージンの糞て探すと意外に見つからないのだ。

面倒だったので畑の土で代用し、魔力は魔法の水で代用する。

何故土が必要かと言えば、更と魔法の水では発芽までに至って無いからである。


綿があれば皿の上に乗せればいいけど、綿なんて買わないと手に入れられない。

買えば良いけど、買わなくても土で良いならそれで良いと考えた。


土の役割が栄養じゃ無いなら、どんな役割をしてるかと言えば、フタの役割と考えた。

魔力の空気は水に溶ける。

じゃあ水が揮発したら空気に魔力が飛んでも可怪しくは無い。

お皿には蓋が無い。

だから魔法の水から魔力が抜けて、発芽に至る魔力が減ったものと仮定する。

他にも何か理由があるかは分からないけど、思い当たる1番の理由はソレだった。

そして土の役割は魔力の水が地面に浸透するので、種の周りに魔力がキープされると予想した。

だから畑の土を使わなくても、地面のもので良いとは思う。

でも地面の土は硬いのだ。

雑草を除けてるから少しは柔らかいけど、畑ほどフカフカして無い。

発芽したら抜いて家の中に入れる予定も有るので、柔らかい土の方が都合が良いと感じただけである。


そして問題は日陰だ。

人工的に作る為に、麦わらを被せた。

日没後はこの藁を除ける予定だ。


結果。

発芽は成功した。

土+日陰+魔法水+月の光で、お皿に魔法水を浸した物が1つだけ成功したのだ。


この結果を踏まえて考察すると、自然には魔力の水に浸されて無い筈の種が発芽している不自然さに注目する。

何故他の種は発芽して無いのか。

魔力の不足が考えられる。

魔法生物であるマージンの糞は、それだけ魔力が高いかは分からないが、自然に生えてる魔力草だって有るだろうから、その辺は条件から除外した。


なら何故1つなのか。

放っておけば他のも生えて来るかも知れないから、まだ続けて観察すれば良いのだが、私は林で見た魔力草の特徴を思い出して、ある条件に気づいたのである。

魔力草は群生しないのだ。

林に生えてた魔力草の全てが、1本独立して生えていた。

それはその場所にある魔力を独り占めした結果では無いかと予想する。


それならパターン4と5の土+日陰+井戸水は発芽が難しい。

群生が許されないのなら、ソレが魔力不足になるからだ。

では群生が可能な条件が何かと言えば魔力の水。

なので井戸水を辞めて群生してくれるかの実験を行う事にする。


先に発芽した土+日陰+魔力の水+月の光+お皿に浸した種の方は、小さな双葉を日の当たらない夜に丁寧に掘り。

双葉が水に浸らない様に、土を小皿に入れて小さな魔力草を置いて、魔力の水を与え月の光を当てる事にする。


それとは別にして、ロベルトが戦士登録をしてくれたので、向こうの魔力草の販売金額を調べて貰った。

すると正しい採取方法を行えば、1本で銅貨30枚で買い取りをしているそうだ。

葉や根が欠けたら1本銅貨1枚で買い取りらしい。

つまり正しい採取方法の魔力草を10本持っていっても、戦士ギルドでは銀貨3枚にしかならないとなる。

まぁお嬢さんはゴミに近いと言ってたから、そんなものに銀貨3枚出すのもすげーとは思った。

根っこを傷付けないで採取するのは大変だが、正しい方法で1本採れば取り敢えずその1日のご飯代金にはなる。

失敗したら30本集めないと駄目だから、正しい方法で取るご褒美としては、良いのかも知れない。

そして失敗しても銅貨1枚払ってくれるのは、救済措置だと思われる。

だって利用価値の無いゴミにお金を支払うバカは居ない。

でもあえてやってるなら、それは失敗したバカに本の重要性を教えつつ、せめて1食はマトモに食べられる様にしてあげてるだけだ。

あとは遮光瓶を買う資金にさせてるのかも知れん。

最初だけは真面目に買う者も居るだろう。

だって値段が30倍も違うもん。


でも草を掘って集めるより、そのうち魔物を狩る方が楽しくなるだろとは思う。

だって農家が嫌だから戦士になった人が多いと思うからだ。

畑が無くてって人も居るだろうけど、風潮としたら強い魔物を倒した方がカッコいいと思われてる。

でもそれで怪我とかしたら、やはり救済措置は必要だから、魔力草はあの値段になるんだろう。


さてその辺は良い。

好奇心で情報は貰ったが、ロベルトに戦士ギルドになってもらったついでに、魔力草を林から取ってきて貰ってる。

今はお姉さんから借りてるお金で、魔力草を10本銀貨5枚を支払った。

これはロベルトと相談して決めた。

魔力草10本を戦士ギルドに持ち込んでも銀貨3枚にしかならない。

そして私が買い取った分が銀貨5枚なのは、その魔力草を育てるのに失敗するリスクが有るからだ。

その辺りを説明して、ロベルトは納得してくれた。

でも銀貨1枚一万円だからな?

8歳が1日で稼いだ金額とするなら5万円は相当だとは思う。

ロベルトは飛び上がって喜んでたが、群生しない魔力草を育てるリスクを説明したので、しばらくは買い取れ無い事も伝えて有る。

何故なら私はこれからこの10本の魔力草と、発芽の実験を抱えてるので、沢山増やされても手に負えないからだ。

あとカタリナやマルセロにもお金を払って手伝って貰ってる。


一度魔力草を育てた経験から言えば、林の魔力草は育ちが悪い。葉っぱも小さくて背丈が低いと感じる。

なのでお嬢さんが銀貨10枚支払っても良いと納得可能な魔力草を渡さなければならないので、蕾をつける寸前まで粘るつもりで育生する。

10本有る外から採取した魔力草が、私が納得出来る状態まで育つかは分からない。

つまり10本揃わなければ私は銀貨5枚+カタリナやロベルトのお小遣いの損失が出る。


でも私はこの魔力草で蕾の寸前の物、花、種まで作り、お姉さんに買い取りして貰う予定だ。

希少価値が有るし、今後の取り引きで必要か参考にするからである。

それなら例え銀貨10枚にならなくても、損失を減らす事にはなるし、魔力草育生の難しさ等の論文に必要な情報が集まると思えば損失とは言えない。

これは必要経費である。


さてカタリナとマルセロの雇用代金だが、枚に銅貨10枚支払っている。

カタリナが6枚で、マルセロが4枚だ。

何故ならカタリナは魔力の水を出せるので、マルセロもそれで納得した。

教会で習うので、マルセロはまだ魔力の水が出せない。

これは私が出せる事に不満を感じたが、これから教会で習うのに最初から出せたら疑われて、理由を聞かれたらどうするのか。

私の事は秘密にしないの誘拐されるとか、アレコレ言えばマルセロもマズいと理解してくれたのだ。

なんか使命感を感じさせる様に説得したせいか、目がキリリとしてて可愛かった。


まあぶっちゃけその頃にはバレても問題無い様になるとは予想してる。

でも家族に危険は少ない方が良いので、(あと面白かったので)そんな風に教育した。


ついでに騎士になる方法も説明したので、マルセロは銅貨を貯金している。

カタリナも今は使うあてが無いので貯金をはじめた。

貯金は箱は自分達のお金で買った遮光瓶だ。

ちょっと中身が透けて見えるから、各自増えるのが楽しいらしい。

ちなみにロベルトもつられて貯金しているが、自分の貰ったお金が銀貨なのがかなり優越感があるらしく、悔しがったカタリナが次に魔力草を採取する時は自分も行くと息巻いてた。


まぁそんな日は来ないかも知れないが、そんときは宜しくと伝えて有る。


さて貧弱成体の魔力草を筋トレするのが私の仕事。

マッチョ魔力草にする為に、家の中に置くのだが、やはり群生しない魔力草は室内の栽培に向かない欠点が露出する。


2本までは同じ部屋で離せばイケるが、3本目は葉に影響が現れる。

つまり魔力不足の状態になった。

それは外に置く時も同じで、距離が近づけば元気がなくなる。

大体は寝転がった成人男性2人分は開けなくてはならない。

補うには魔力だ。

そこで私は透明の錬成瓶を使う事で対応した。

透明な錬成瓶に魔法の水を入れて月の光を当てさせ、室内に戻した魔力草の水を昼ごろに交換する様にしたのだ。


結果として効果は感じられた。

でも透明の錬成瓶も、栽培中の遮光瓶も改善の余地を感じさせられている。

つまり発芽の条件と同じなのだ。

魔力草を瓶にさしてるから、瓶に蓋が出来ないので、間口の広い錬成瓶達は魔力草の育生に不向きだった。

まだ木のコップの方が口が狭く、向いてる様に感じる。

今後を思えば透明で細長い錬成瓶が、魔力草栽培に向いてる事に私は気付いた。


でも間口が広い透明の錬成瓶が無駄かと言えばそうでもない。

だって月の光を当てた魔力の水を作るのに向いてるからだ。

そこから水を移し替える事も、簡単だしね。

今は細長い木の棒をと藁を使って間口の広さをカバーしている。

物が無ければ工夫したら良いのさ。


安定すればスクスクとマッチョ魔力草に育って行くので、取り敢えず道筋は見えてきた。

そして完全に結果が集まる前に、私は王都に向かう事になった。


「きゃあ!」


母の可憐な悲鳴の後に、カランカランと何かを落とした音が響いた。


「お母さんどうしたの?!」

「何?なんかあったの?!」


ドタドタと音を立てて、カタリナとマルセロが母の居るリビングに走って行った。

私は着ていたローブのフードを被ってスッと姿を消し、寝室からトテトテと歩いてリビングに向かう。

今は月の光を浴びた水を魔力草に与えていた所だったのだ。


「あ⋯アンタ誰よ!」


まぁ予想はしてたんだが、両手の指先で口元を押さえながら頬をピンク色に染めてる母と、マルセロを背中で庇いながら必死に威嚇してるカタリナの低い背中と、オドオドしてるがしっかりとカタリナの横から中を覗いてるマルセロの背中が見えた先に、王様がゆっくりと視線を巡らせて私を見つめて止まった。


「行くぞ。」

「その前に家族に説明させてよ。皆『ビックリ』してるでしょ。」

「え?リリアナ。知ってる人なの?」

「うん。ソイツ王様。

この国で1番エライ人。」

『ええぇーーー?!』


カタリナとマルセロの高くて大きな声が部屋中に響き渡る。


「私ちょっと仕事してくるから、お姉さんに魔力草の事を頼んでも良い?」

「え?それは良いけど⋯ちょっとアンタ仕事って何しに行くのよ。」

「家族皆を守る為に、王様から言われた仕事をしに行くんだよ。

これさえ上手く行けば、皆が少しだけ安全になるんだよ。

でも完全にじゃ無いから、まだもう少し不自由な暮らしになっちゃうんだけどさ。」

「⋯⋯アンタ。

戻って来れるの?」


不安そうな。

けれどもそれを強い視線で隠して、カタリナが少しだけ声を震わせた。


「あったり前だよ!

その為に私は行くんだし。

晩ごはんに間に合うかは分かんないけど、必ず戻ってくるから、それまで魔力草を守ってて欲しいの。

お姉ちゃんとマルセロにしか出来ない事だし、毎日の給料はお母さんから貰ってくれたらいいから、私が居ない間お願いします!」


私はペコリと少し前かがみに頭を下げた。

下手にオジギしたら頭が重くて前にコロリと転んでしまうからだ。


「ねぇ⋯王様。アンタ良い王様なんでしょ?

だからリリアナをちゃんと連れて戻って来なさいよ!」

「⋯⋯」

「変な真似なんかしたら承知しないんだからね!」


ガルガルと毛を逆立てたチワワを見たかの様に、王様はフワリと優しく微笑む。

すると一気にカタリナの耳が真っ赤になったのが、後ろから分かった。


「承知した。

安全は保証する。

小さな傷1つつけさせる気はない。

恐れずに待つが良かろう。

だが状況にも寄るのでな、今日帰せるかは分からん。

なるべくなら早く戻してやりたいが、世を信じて待っていて欲しい。黒魔石の姉君よ。」

「はわ⋯はわわわわ⋯」


フワリと片膝をついてカタリナと視線を合わせると、そう低くて耳障りの良い声でなんか言ったらチワワが落ちた。

もう瞬殺である。

ゲンナリした気分になったが、動揺するカタリナにそれ以上は触れずにスッと立ち上がると、王様が消えてる私に長い腕を伸ばした。

変だな。

完璧に消えてるはずなんだが、と考えてると猫の子供みたいに襟ぐりを摘んで持ち上げられる。


「わあ!」


マルセロが中に浮く私の足を見て驚いて声を挙げた。

そしてぐぇ!とか呻いてる間に、すっぽりと私は王様の片腕に座らされてしまう。


「黒魔石の母上だな?」

「?!(コクコク)」

「しばし借りるが、(じき)に返す。

騒がずが良かろう。

良いな?」

「えと⋯えーと〜」

「遅くなっても心配して大袈裟にしないでってさ!

必ず帰って来るから、魔力草のこと宜しくね!」

「あ〜そういうこと〜」


頬を赤くしながらも、1つコクリと母が頷いた瞬間消えた。

そして見慣れない豪華な洋室に到着する。

オッサンが飛んだらしい。

なんか高そうな香水がプンプンしてる王様は、黒いに金色の刺繍や飾りのあるマントを身に着けて、これまた触り心地の良い光沢のあるシャツとスーツを着ているのだが、イチイチ刺繍や模様が煩い。

でも上品でまたそれが腹が立つほど似合ってるのは良いとして、真っ赤な絨毯にマホガニーとやらが有ればこんなのかは分からないが、濃い茶色の美しい机やら書類やら豪華そうな椅子やらを見れば、何となく王様の私室なんじゃ無いかと分かった。

あとベッドもあった。

天蓋付きの豪華なヤツ。

でも王様が寝るには何となく小さい気がしたので、こんなんでも仮眠用のベッドなのかも知れない。

そして王様がスタスタと歩くと、本棚へ向かい。

手をサッと横に振ったら本棚が自動ドアみたいに横に別れた。

そしてその先には明らかに実験室みたいな透明な資材やら、何かの素材を入れた遮光瓶やらが、山ほど置いて有る。

あと確かに魔石もゴロゴロ転がってる一角があった。

箱に入りきらずに何個か横に溢れてる。

うん、この部屋汚い。

誇りとか汚れは無いけど、物が多過ぎてゴチャゴチャしてる。

さっきの豪華な机の有るベッドの部屋はとても綺麗に整えられていた事を思えば、ここは王様しか入れない秘密の場所なのかもなと予想する。


そして忙しい王様は片付けをしないから、こんなに物がワチャワチャしてるのだ。

辛うじて吸われそうな椅子が1つ有るのだが、その上にすら書類が乗せられていた。

さっきの部屋に戻して欲しい。


でも王様はスッと片手を横に払い、山ほどあった資材やら遮光瓶を一気に消した。

あっという間に物が消えたので、白っぽい元は高級だった様な汚い机が残った。

そしてパチンと指先を鳴らせば、机は真新しく新品になった。


もう突っ込む間もなくあっという間にそんな事が起こり、見てる間に私は机の上にちんまりと乗せられる。

私を実験材料にするつもりか?!

思わずそう思って王様を見上げたら、楽しそうな顔で私を見下ろしていた。


「この後に謁見を行う。

参加者は王族と国の重鎮、そして護衛の騎士共だ。

なんぞ必要なものはあるか?」

「あー、なるほど。

ん〜、顔は晒さない方向が良いね。声は今更だからこのままで行く。

あと大きな音を立てたいから、何か私が扱える棒みたいなのが欲しい。部屋が広ければ叫ばなくても聞こえる声を大きくする魔法かなんかあれば、それも。

あとは⋯なんだろ。

少し考える。」


私が黙ると王族は無言で作業に入った。

私はなるべく状況を頭の中に思い浮かべる。

王様は家族皆で黒魔石をした時の様に、色んな人の頭かち割って欲しいんだと思う。


「なぁ⋯王様。王族と重鎮の他にアンタに勉強教えたヤツも追加出来る?」

「良いだろう。」

「王族の内容は?」

「元陛下、元妃殿下、俺の妻2人。王妃と第2夫人。継承権のある王子2人、城に残ってる姫3人⋯あとはもう1人居る。」

「ソイツって弟?」

「⋯⋯⋯」

「カルマンさんだろ?

他の名前知らんけど。」

「フッ⋯黒魔石。」

「あんだよ。」

「⋯迷っている。」

「でも連れ戻したいんだろ?

なら戻そうぜ。」

「奴には息子が居る。」

「関係ねぇなぁ。

今回の仕事は俺を参加者全員に、国の恋人と認めさせる事だろう?」

「そうだ。」

「ならやっぱ関係ネェな。

それが出来るから俺は黒魔石なんだよ。」

「⋯何故?」

「ぶち壊すからに決まってんだろ。どうあっても飲み込める所まで叩き壊してやるさ。」

「⋯なるほど。

だから黒魔石か。」

「それが出来なきゃ、どっちみち終いだな。

俺は俺が生きる為に全力を尽くすだけだ。」

「ふぅ⋯」


王様が疲れた様な安堵した様な深い吐息を吐いて机の端に腰掛けた。

私には背中を向けた状態で、軽く組み合わせた手元を見るともなしに見つめている。

だから背中が丸まっているので、威圧感が消えて年齢通りの中年にちゃんと見えた。


「ソナタの自信は過信か?

無知故か⋯」

「あのさぁ。

アンタ自分の目を信じろや。

まあ全部がまるっとアンタの期待通りには行くかは分かんねぇよ?

俺は神様なんかじゃない。

でも今回の仕事でアンタに勝てるかどうかで言えば勝つ。

じゃねぇと俺が死ぬ羽目になっちまうしなぁ〜」

「⋯何もせずともソナタは護られると思うが?」

「無いな!

そりゃ無理ってもんだろ。

アンタに死ぬ気で感謝して貰わねぇと、そんな未来は永久に消えるね。」

「⋯⋯何故?」

「わかってんのに聞いてくんのダルいしウゼェ。」

「分からないのだ⋯もう世には何も見えぬのでな⋯」

「でも胸のど真ん中にあるもんぐれぇ分かってんだろ。

だからアンタは俺を挑発したんだもんな?」

「挑発⋯?」


私は両足を投げ出して、少し横を向くと広い背中を背もたれにした。

目の前には沢山の遮光瓶が並んでて、直視するにはちょっと不気味なものだ沢山並んでて少し引く。

だって何かの目玉が沢山入ってたり、舌を集めてるのとか。

猟奇的なホラー映画見てる気分にならもん。

だから伝わってくる背中の温もりが、その恐ろしい遮光瓶をただの壁紙ぐらいに緩和させた。


「アンタの娘が手紙で、よこした内容は愛の手紙に似せた挑戦状だろ。

そりゃ認めてやんよ。

俺は不本意だろうが、負けは認める主義だ。

アンタが取った手段はいくら考えたって逃げ場が無かった。

完封だ。


だから俺は再戦を挑む気になったっつー訳だ。

今回は負けねぇよ?

勝ち筋は有る。

負ける訳がねぇ。

理由はテメェで考えな。

アンタなら言われなくてもそのウチ気付くさ。

その代わり俺を挑発した事を思いっ切り後悔させてやんぜ。

タップリ楽しみにして、俺を見てろや。」


あと必要なもんて何だろ?

出たところ勝負な所が有るけど、まあイケるかな?

何せ今回の私は1人じゃ無い。

この国最強の魔道錬成師がついてるのだ。

ただの凡人共が束になろうが敵う訳が無いと見込んだ、この国最強の男を利用する。

それが私が見てる勝ち筋。


姿を見てる訳じゃ無いけど、俯いてた王様が顎を挙げて上を向く。


「そうか⋯世は負けるのか。」

「何が勝ちかにも寄るだろうが、アンタが持ってきた遊び場で勝つのは⋯まぁ俺達だな。」


グフッと、王様が吹き出して、直ぐに俯く。


「なるほど、ソレが勝ち筋か。なら勝つな。

世で無くとも直ぐ分かる。


そうか⋯世はもう1人では無いのだったな⋯」


クツクツと静かに笑って俯くと、絹糸の様な長くて真っ直ぐな髪がハラリと肩から滑り落ちる。

見たわけじゃないけど、不思議とそれが伝わってきた。

顔を見たわけじゃないけど、分かる事なんて幾らでも有るんだ。


実際には涙なんて1つも滲んで無いだろうけど、王様のど真ん中に残ってた小さな王子が号泣してる。

45年も生きて来て、大人になり切れなかった理由はソレがいたからだ。

だから王様は皆の望む良い王様になろうとした。

でも色んな無理があちこちから出て来てしまい、王様は段々疲れて来たのだが。

王様はとうとう光る宝物を見つけてしまった。

黒魔石と言う物はそう言う存在でも有るんだろう。


さてそれはともかくだ。

必要な物が何かを考えるには情報がいる。


「なぁ王様。地面叩いて大きな音させたいんだけど、私が行く仕事場ってどんな所?」


こうして私は話し合って、今後の展開を詰めて行く。


「そっか。なら絨毯は駄目だな。」

「だがサラディーンがつくのだ。そうれば足場の近くが石造りになる。」

「なるほど⋯後は時間は?」

「フン。明日の朝までかかろうが問題無かろう。」

「私が大問題だよ。

でも長くなるなら椅子がいるね。」

「ふむ。承知した。

直ぐに持ち込めぬ場所もあるのだが⋯」

「なら私が状況を見て持ち込ませればいいかな。だってお爺ちゃん来るんでしょ?」

「ん?ヴィラフォンテの事か?」

「名前は知らないんだけど、王様の自慢してたお爺ちゃん。」

「ならそうだ。」

「他の重鎮さんてのも年寄り?」

「ふむ、半分はそうなる。」

「なら椅子は要るね。年寄り虐めたい訳じゃ無いし。ひっくり返ったら立ってるよりも座ってた方が良いだろうしさ。」

「ククク⋯フハッ⋯アハハハハハハ!!!」

「なんだよ。煩いなぁ。」

「ハハハ⋯良かろう。

年寄りは労ってやらねばな。」


顔は相変わらず見えないけど、悪戯小僧みたいにニヤリと悪どく笑ってるに違い無い。

コレ完全に労る気ゼロなヤツだ。

まぁ私を連れ込んでるんだから、そもそもそうなるのは仕方がない。


「心臓が止まって死なないかなぁ〜⋯」

「フン。殺しても死なんヤツラの集まりよ。」

「ほーん。ならまぁいっか。」


何か思いっ切りストレスが溜まってる雰囲気に、私もサッパリと不安が消えた。


何度か調整して作っもらったのは私でも持てる重さの軽いハンマー。

と、言う概念の杖だ。

そう見た目は白い杖。

でも役目は大きな音を出すハンマーなのだ。

ちんまい私の頭の上20cmぐらいの高さが、楕円形の形になってる。

あと柄にも金属製の金型がついてて、地面を突くとドンと鳴る。

カツンじゃ無くてドンなのは、そう言う仕様の魔導具だからだ。

でも絨毯の上だと音が吸収されるので、石畳の方が好ましい。

そして白っぽい楕円形の部分には、小さな魔石が(ハメ)め込んである。

コレが音の鳴る杖の電池。

叩いて割れないのか不安になるが、ソナタの力ではどう扱おうと割れぬと言われた。

それはそう。

私は普通の2歳児よりも非力だから、音の鳴る加工よりも重さの方が難しい処理になるそうだ。

何せ魔力を食うらしく、それを思えば小さな魔石でも魔力が詰まったヤツを使わないといけないので、どうやらお高いらしい。

そして白っぽい楕円形の部分を床に叩きつけたらバン!と大きな音が鳴る。

なんかもう前世にもあったなこんなタイプの玩具。

剣の形してて当てたらズバーンとかビリリとか鳴るヤツ。

それを思えば値段は知らんけど、中々の高級玩具になる。

まぁ私の仕事道具なので、玩具では無い。


私の叙勲は小型の謁見室で行うそうだ。

大型のヤツがどんなんか聞いたら、沢山階段がついてる面倒くさいタイプで、大規模な舞踏会とかでも使われるらしい。

叙勲なんかは本来ここで行うが、今回使うのは参加者もそんなにいないし身内で使うもんだとか。

身内って言うか、部下から仕事の報告聞く時に使うらしいよ。

城内の仕事なら執務室を使うそうだけど、外向きの仕事とかで出した部下を労う用なんだってさ。

イチイチ部屋使い分けンの大変ねって言ったら、世もそう思うと素で言われた。


でもやっぱり大国の王様だから箔が要るし。

でっかい場所しか無かったら不便だから仕方がないよね。

その辺りはコッチが勝手に察しておいた。


ちなみにこの王城、やたら広いらしいよ。

大型の謁見室も3種類あるとか、小型も5種類あるとか。

え?そんなに必要?!

って驚いたんだけど、客の格で別けてるんだってさ。

見栄張りすぎ。


ちなみに今回は小型の中でも参加者が豪華だから最高級らしい。

床に傷ついても大丈夫?って聞いたら、直せば良いがまずそんなもんで傷つくような安い石では無いと笑われた。

どんだけ非力だと思われてんのか、まあ多分そうなんだろう。


あーだこーだ言いながら悪戯の準備すんのは、なんか楽しかった。

王様もしょげてたのはホンの最初だけで、もうルンルン気分であーだこーだ作ってる。

こう言うのって準備すんのが楽しいんだよ。


「ク⋯今から笑わないか不安だ⋯堪えきれる自信が無い⋯」

「笑いたければ笑えば?

私も適当に合わせるしさ。」

「なら、そうしよう。

だがアレは中々に辛いのだが⋯」

「心を静める魔法とかって何か無いの?」

「なるほど⋯そうしよう。

グフッ⋯よもやこんな事に使うなど⋯グフッグフッ⋯」

「危ない人になってるよ。

キモいなぁ⋯」

「キモいとは?」

「作った言葉だよ。気持ち悪いを略してキモい。」

「ぶは!ハハハハハハ!!!」

「今から心静める魔法かけとけば?」

「ハハハハハハ!!!

しゅ⋯ハハハハハハ集中力がひつ⋯必要⋯ヒィ!」


なんか知らんがゼヒゼヒしながら、魔法使ってた。


「貴様は恐ろしいヤツだの。」

「笑わせたら怯えるってなんなの?」

「⋯グフッ」

「はぁ~、笑うの好きだなぁ。」

「好きで⋯笑う訳では⋯グフッ」


なんかもう壊れた笑い袋みたいになってた。

マジキモいんですけど。

私も思わずギャル化するよ。

ひ孫ギャルだよ。

ぶっちゃけ王様ひ孫が居ても良い年だから、良いんだけどさ。


「今からだとカルマンさんの息子は無理そう?」

「端から無理だな。

世が連れて来るにしても説明せねばならんとなると、時間がない。受け入れるにも時間は要る。

セドはどうでも良いが、甥に罪はない。」

「カルマンさんて、セドって言うんだ。」

「うむ。

セドリックと言うのが生来の名だ。」

「ほーん。

なら息子は今回は無しって事で。

でもソイツ入れなきゃ片手落ちな気もするけど、焦っても仕方が無いしなぁ〜はにゃ?!」


杖を両手に持って握り心地を確認してたのに、ぷに⋯と頬を指先で突かれてビックリした私は目玉を見開いて王様を見上げた。


すると直ぐにヤツは視線を逸らし、またグフグフと変な音を立てながら両肩を揺らしてる。


「触んな『変態』!」

「ぶは!ハハハハハハ!!!」


ヤツは盛大に笑った後で、直ぐに指先を振るとふぅ⋯と小さな吐息をつく。


「もはや魔導具を作ったほうが良いやも知れん。」

「真面目に語られても困るが好きにすれば?」

「ときにヘンタイとは?」

「意味分かんないで笑ってたの?!」

「罵倒されたのは分かったのだが、今まではな。」

「んー、なんつーか私が勝手に作った言葉なんだけど、普通じゃ無い、趣味、スケベな人の悪口?」

「世に尋ねられてもな。

普通では無い趣味と言うのが性癖ならば、馬嫁というのがそうかと知れんな。」

「ばめ?」

「馬が嫁という下賤な言葉だな。騎士に対する侮辱として使われる戦場の言葉だ。」

「あー!馬が嫁!なるほど!

そりゃ確かに変態だ!」

「何故それで分かるのか⋯淑女たれとは言わんが、耳が早すぎるのでは?」

「うるせぇ馬嫁!」

「ぶふ!!!」

「どーかんがえても2歳児に愛人申し込むなんて馬嫁だろ!」

「アハハハハハハ!!!」


片手で目元を覆って笑う王様の姿が、格好つけてる昭和のバンドマンみたいで私も思わず吹いた。

たまたまだと思うけど、親指と中指でコメカミ辺りを触れながら前かがみになられると、流石に私も笑っちまう。


『アハハハハハハハハ!』


誰か止めてよとは思うけど、一度始まったら笑うのって、意外に止めるの難しいよなぁ。


「ハァハァ⋯」

「し⋯しぬ⋯」


だからマヌケにも2人揃ってグッタリするぐらい笑っちまった。


「わ⋯笑うの止める魔導具作ってよ。」

「う⋯うむ。」


会話するのも難しい。

だって私は走ってるだけで笑っちゃえるお年頃だし、王様は王様で笑いの沸点が低い笑い上戸だから、頑張って止めても今にも吹いてしまいそうなのだ。


「でも王様、急ごう。

さすがにそろそろヤバいんじゃね?」

「クッ⋯この様な事なら事前より用意すべきであったわ。」

「言ってる場合かよ。

急ぐぞ。」

「うむ。」


こうして私達は謁見開始予定時刻ギリギリで、お嬢さんが待つ待機室に滑り込んだ。

間に合って良かったぜ。

まぁ王様やお偉い様方を待たせる事になるから、それを思えば待機時間からはぶっちゃけ遅刻だけどな!


こうして焦っていたお嬢さんと騎士2人と合流した私は、ギルバートさんに抱かれて小型の謁見室に小走りで向かい。

王様は転移して控室へと飛んで行った。


だから謁見開示予定時刻からも遅刻しちまったよ。テヘ。




いそげー!

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