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てっててー!おうさまがあらわれた。


四つん這いでハァハァしてるバカを見下ろして吐息を零す。


頭ん中がグルグルする。

考えろ考えろ考えろ⋯。

先を見つめて着地もまとめて全部失敗なんか許されない。

王様が飛んで来るなんて予想外だったんだよ。

何で来るんだよ。

私を見極めに来たのは分かってるけど、必死に考えて準備して来たこと全部ひっくり返された。

これは戦争なんだよね。

私と貴族社会との。

はぁ〜もう、嫌になっちゃう。

バカ1人のせいで全部台無し。


「黒魔石〜、喉乾いちゃった。お水をくだしゃい。」


あ、噛んじゃった。


「黒魔石?」

「もー、王様が飛んで来るなんて予想外なんだよ。

こっちが時間かけて準備して沢山考えて練習やら話し合いしてた労力がぜーーーんぶ、そこのバカのせいで台無しなんだよ。」

「ヒィ!黒魔石?!」

「慌てたって無駄だよ。

だって私の姿を見られちゃったからね。

コレからは私が頑張んないと、生きてられないんだよ。」

「な⋯何を言って⋯」

「その説明後でするから、取り敢えずお水!

私コレから沢山お喋りして、バカとバカ共に説教しないといけないの。

もー⋯ホントに嫌になっちゃう。」


ガヤガヤザワザワと通信機の向こうから同様とざわめきが聞こえて来る。


「それじゃお水が来る前に、何でこんな事になってるか、分かってないおバカさん達に説明したげるね?」

「な⋯無礼であろう!」

「あ、もう。そう言うのいいんで。あのさぁ。どうして王様がたった1人でここに来たのか、その意味分かってる?

ねぇ説明してみてよ。

誰でも良いからさぁ。

このバカには私がちゃんと説教してあげるから、取り敢えず理由を考えてみよう!


錬成師って頭使って考えるお仕事だから、考える力はちゃんと持ってるはずなんだよ。

この期に及んで私が何で黒魔石なのか分かってないから、無礼とかどーでも良い事言っちゃうって、そこんとこちゃんと自覚してよね!」

「な⋯一体何を⋯」


お爺さんや騎士達が向こうでザワザワと話し合いを始めたので、ワザとらしくはぁ⋯と大きく息を吐き出す。


「私が本物の黒魔石なんだよ。

これは演技とかじゃねーんだよ。この言葉使いは俺の叔父さんの真似をしてカッコつけてただけなんだよね。

ちゃんと騙されてくれてた?

王様は半分は分かってたと思うんだよ。

私が子供だから1人で乗り込んで来たの。

平民の子供が相手ならどーにでも出来るでしょ?

例え周りに誰がいたってどうにでもする自信はあったし、何よりもギルバートさんがここに居る。

やり方なんて全然分からないけど、ギルバートさんを目印に飛んで来たんじゃないかって思うんだけど、そっちに居る人なら分かるよね。

ねぇ、お水まだー?」


固まってるお母さんを見て催促したら、え?え?みたいにキョロキョロしながらも、お水を取りに行ってくれた。

とはいえ、ここはリビングだから、目の前に直ぐ降りるだけなんだけどね。


「それで予想してた通りに私は子供だった。

でも思ったよりも小さくて、アレ?って思ってたら、お爺さん達が必死になって心配するから、自分も似たような勘違いしてたもんで、笑いが止まらなくなっちゃったんだよ。

しかも私は目の前で、叔父さんの声を道具で出してチョロチョロ動いてるもんだから、そっちが必死になればなるほど。

もう笑いが止まんなくて、今もの凄くグッタリしてるの。

でもこの説明聞くだけでも、思い出し笑いが込み上げて来るから、ピクピクしてるもんでお喋りすら出来なくなってるの。


もうちょっと時間がかかりそうだから、その内にそっちの躾をしとくね?

私の本当のお喋りの仕方でやると、王様がいつまでも笑っちゃうから、もう一回叔父さんの喋り方を真似しちゃうよ。

私の声のままじゃないと、そこのおバカさん達は怖くて怯えちゃうからこのまま行くね?」

「なんだと?!」「我々を愚弄するのか?!」「無礼なっ⋯」

「平民如きが思い上がりも甚だしいぞ!何が躾だ!」


もう大炎上。

王様のピクピクが酷くなっちゃった。

ギルバートさんは少し私に不安そうな視線を向けてるけど、ピクピクしてる王様を見て複雑そうにしてる。

お父さん達は止めようかどうしようか迷ってる様子で、ジッと私の横顔を見つめていた。


なのですう⋯と息を吸い込んで。


「うるせーンだよ!

そろいもそろって馬鹿共が!」

『なっ⋯』


思いっ切り叫んでやった。


「何で王様がオマエらを置いて1人でワザワザ飛んできたのか、全く理解してねぇだろうが!

いいか?俺様が親切にも頑張って理由を説明してやっから、ちゃんと聞いとけよ!」


私は叫びながらバン!とテーブルを叩いて大きな音を立てる。

手のひらがジーンとしてかなり痛かったけど我慢した。


「良いか?

アンタ達には分かんなかったんだろうが、王様はココが命の危険が無い場所なのを見抜いてんだよ。

たがな?

アンタ達を置いてったのは揃いも揃って大馬鹿者バッカリだから、信用ならなかったのさ!


そのくだらねぇクソみてぇなプライドなんて捨てちまわないと、何時まで経っても王様は一人きりで頑張る羽目になっちまうんだよ。

そこんとこちゃんと教えてやってんだから、しゃんとしろよ!

グダグダ口ばかり使ってっからこんな事になってんだって、ちったあ自分の頭で考えろや!


良いか?騎士はともかく錬成師ってのは世界の秘密や、新しく便利な者を作る方法を探す、捜し物の狩人なんだよ。


そりゃ元からあるもん作るのも仕事だが、本来の仕事の目的はそこにあるから、あんたら錬成師と見習いで分けてんだろ?

ならなんで平民の子供に叱られなきゃなんねぇ、情けねぇことになってんのか。

そりゃ簡単な話だ。


あんたらが探してんのは、金になるネタだけなんだよ。

金なんて下だらねぇもんは実家に稼がせとけば良いもんを、自分が想像する便利なもんバッカリ研究してるから、そんな下だらねぇ事になっちまったのさ。

錬成師ってのは探求者だ!

分かるか?その意味が。

考えて探して無い道を切り開いていくのが本物だって、ちゃんと心ん中では分かってんだろ?

だから座り心地の良い椅子に座って、自分が偉いと勘違いしてるバカには道が何も見えてねぇんだよ。

なぁ王様の重鎮きどってんなら、ちゃんと王様が見てるもんを見れる目や頭を鍛えろや!

王様は本物の探求者だから、錬成師なんてもんになってんだよ。

アンタ達が上っ面ばかり気にしてグダグダ言うから、邪魔されたく無くて1人でここに来て、俺が一体何なのかを見極めに来たんだよ。

そりゃ笑うよなぁ!

声だけ聞いてマトモなもん言ってんのも、錬成師になりたがってたのも俺のこの声だけなんだからよ!

なぁ〜なぁなぁ。

それに一体何人の頭のいいヤツは気がついたんだ?

ちゃんと耳と考える頭はついてんのか?

今日そこに居る錬成師や見習いはちゃんと、学校行ってんだろ?

さっき爆笑してたヤツしか、こんな簡単な問題を見落としてて、それで自分は錬成師だなんて誇ってんの。

アホらしくてそりゃ王様も死ぬ程腹抱えて笑うよなぁ!

オラオラ⋯ぼんやりと口開いてないで、ちゃんと俺について来いよ!

オマエ達は曲がりなりにも一端の錬成師を気取ってやがんだろ?!

なぁ、俺の言葉は難しいか?

ちゃんとマスタリク語で話してんだぞ?

それでも分かんないのは、頭がガチガチに硬い脳ミソで固まっちまってんだよ。

そんな程度なら錬成師なんて今すぐ辞めちまえ!

過去の若かった自分の栄光に縋ってんじゃねーぞ!

今も若いんですぅ、なんて勘違いしてっから生まれて2年しか生きて無い俺なんかに言い負かされてんだ。」

『なぁ!?』『バカな!』『嘘だろ?!』

「ほらみろほらみろ、今驚いたヤツは皆王様と同じだ。

考える力ってもんが、真実を見抜く力が貴族って言う肩書きで曇りきってんだよ。

そんなことじゃ農村の婆ちゃんにも負けちまうぜ!

自分が偉いと思うな!

今の立場で立派にやれてるなんて勘違いしてんじゃねぇよ!

そんなんは死ぬ間際で、自分の人生振り返って自分で自分を褒めながらやれや!

楽して金稼いで満足してっから、頭の程度が知れちまうんだろ!


なぁ悔しいか!

俺はそんなもんじゃない!って否定してぇか!

だったら歯を食いしばって自分の凝り固まった頭をかち割ってみやがれ!

王様が好きか?!

本当に王様が好きなら、その腐った目ん玉くり抜いて心ん中の目でちゃんと王様を見て、見てるもんを見抜いてやれよ!

俺がこんだけガミガミ言ってんのは、本来ならテメェらにはこの答えに自力で行き着く考える力を持ってるからだ!

だからワザワザ脳筋の騎士には言ってねぇんだよ!

だがな。

王様の騎士やってたいんなら、頭使うのサボってたら仕事なんざさせて貰えねぇぞ!

テメェ達騎士共が仕えてんのは本物の王様なんだよ!

血筋だけとか、貴族の顔色伺ってるような使い勝手の良い神輿じゃねぇんだ!

守りたいんなら連れて行って貰える様に、ちゃんと自分を鍛えろよ!

筋肉ばっか鍛えてっから、そんな無様な事になってんだよ。

そんなだから魔物なんざナンボ倒したって、たかだか2歳児の言葉だけで吹き飛ばされんだよ。


考える力だ!

平民にウジャウジャ居る戦士と違いがあるなら、考える力が有るのが騎士ってもんなんだよ。

覚悟や格好だけで騎士になれんなら、俺だって立派な騎士なんだよ!

呑気な農村の主婦や婆でもなれちまうんだよ!

あんたらはそんなもんじゃネェだろが!

俺は何だ!

お前は何だ!

ちゃんと考えてるか?

一端の口効いて、この声だけ小さな女の子は一体何だ!

何で黒魔石はあんなに苦労して、婆や他の子供や男や女使って誤魔化したと思ってんだ!

そんなの平民の赤子を守るためなんだよ!

それをここに居るバカが全部台無しにしちまいやがった。

蹴り飛ばしたいぐらい叱られたって当然のことやりやがったんだよ!

そんな平和ボケしてっから、教会に悪口書かれてノホホンとしてんだぞ?

教会は労力を惜しまずに献身的に働いて皆に感謝される生き物目指してんだが、神様なんざ頭にするから自分で考えないで心で行動しちまうんだぞ?

だから俺はワザワザ貴族ん所に顔出してんだよ。

説明しなくてもその意味ぐらい、この場に居る奴らぐらい知っといてくれよ!

揃いもそろってバカばっかりか!

俺は農村で産まれて来た2歳の女の子で生きたかったんだよ!

お前等貴族は平民にとったら父親だろうが!

悪い事したら叱って、養ってやる立場の人間だろうが!

そんなヤツが好奇心で、此処に乗り込んで来るんじゃねぇよ!

2歳児相手に陛下に手を出すなだなんて、脅して来んなよ!

床に笑い転げてるだけなのに、は?なんだっけ?後悔させてやるだと?

フザケたこと言ってんのも大概にしやがれ!

脳ミソついてないで、反射で動くからそんな無様な事になってんだよ!

なぁ、痛いだろ?

平民に殴られんのは屈辱だろ?

自分が貴族だって言いたいんだったらちゃんと脳ミソ使えや!

その首の上に生えてんのは飾りかよ!

庇えないかも知れない?

は!

2歳児もロクに庇えやしねぇ無能が、王様気取ってんじゃねぇぞこら!

オラオラオラ!

全員ちゃんと俺について来いよ!

王様の仕事も教えてやっからよ!

コイツと違ってバカな重鎮も騎士も、全員俺は見捨ててねぇぞ!

俺はな!

ウェスタリアで産まれた世界の黒魔石だ!

それもとびっきりの10級だ!

それを違うと言うバカは、俺をちゃんと殺してみろや!

おい!そこの重鎮気取ってる腐ったジジイ!反論あんなら言ってみやがれ!」


バン!と最後に机を叩く。

精一杯声を張り上げたから頭がクラクラする。

お母さんがコップを持ってボーッと立ってるから、両手で指先だけでカムカムすると、とたとた歩いて来て目の前にコップを置いてくれた。


「はい、黒魔石ちゃん。」

「わーい。お水をありがとう!」


そしてゴクゴクと飲んでプハーと息を吐き出す。


「あれ?偉そうなお爺ちゃん、ちゃんと生きてる?」

「⋯おう。生きとるぞ。」

「あー、良かった。

おい、コラ。そこの転がってるクソボケ野郎。

いつまで呑気に笑ってんだよ。


はぁ⋯お爺ちゃんも大変だねぇ〜。

でもね?

私、思うんだよ。

こんだけ悪口言っても怒らずに笑ってる王様って本当に凄くない?

これちゃんとした本物の王様だよ。

だから仕える人もボヤボヤ出来なくて大変だねぇ〜。

ね?お爺ちゃん。」

「⋯⋯⋯」

「もう私とお喋りしてくれないの?」

「⋯⋯何と言えば良いやら。」

「それなら貴方は素晴らしい人でちゃんとした良い貴族だね。

痛い言葉に反発するのは楽だけど、奥歯を噛み締めて自分の物にするのは難しいよね。

それが出来る貴族が治めてくれるんなら、ウェスタリアはとっても良い国だと思うよ。

偉そうにしてゴメンね。

私はどうしても私の巻き添えで可哀想そうになる子供をつくりたく無かったんだよ。

だからって平民の女の子なら、許されない事をしたってちゃんと自覚してるよ。

私は皆が笑って暮らせれば良かっただけなのに、どうしてこんなにバカなんだろうね。」

「⋯お主は愚かではない。

私が思うよりも賢く、善良な存在なだけだろう。」

「ううん。愚か者なんだよ。

だって本当に賢い人なら、最初に錬成師見習いさんの手なんて取らなかったし、小川に飛び込んで死ねば良かったの。」

「黒魔石!」

「これ言うとウチの黒魔石が悲しむから、あんまり言いたく無いんだけどさ⋯。」


不安になったお父さんが苦しそうに叫ぶから、お母さんもギュッと悲しそうな顔になった。


「私ね?人よりも少しだけ考えるのが得意みたいなんだけど、知識が少ないし、身体も小さいから臆病なんだよ。

人に偉そうにする資格なんて全然無いの。

スゴクちっぽけな、くだらないクズなんだよ。

聖職者じゃないから人の為に死ぬのが怖いの。

でもそのせいで誰かが犠牲になるのも悲しくなるから嫌なんだよ。

お爺ちゃん。

お母さん達とノンビリ暮らすのって、そんなに難しいことなのかなぁ⋯。

本当は黒魔石だなんてそんな大層なもんじゃないんだけど、王様が飛び込んで来るぐらい、私は変な子なの。

見る人が変われば、小さな女の子が黒魔石に見えるだなんて、そんなの普通じゃないよね。

ねぇ今のお爺ちゃんには、私が何に見えてるのかな?」

「錬成師だろう。人を導く力の有る強い錬成師だな。」

「私が錬成師になりたいと思ったのはね?

お兄ちゃんがヤラマウトに噛まれた時に、絶望したからなの。

私がどんなに知恵を絞っても間に合わないと気が付いてしまって、でも諦めきれなくて力の限り頑張ったけど、それでも無理だと悔しかった時に、錬成師さんが作った毒消しが間に合ったんだよ。

もうさ⋯スッゴク感動しちゃって、あんな凄いお薬作る人になりたいな〜って思ったの。

それに私が錬成師だとしたら、甘くて美味い物も作りたいなぁ。皆を幸せにしてくれる安い甘い粉。 

そしたら貧乏な子供でも、お菓子が食べられるようになるかなぁ⋯」


アンニュイな気持ちでお水を飲むと、また横からヘブ!とか、くしゃみを失敗したかの様な異音が聞こえてイラッとした。


「ねぇまだ笑ってんの?

いい加減に帰りなさいよ。

それとも叱り足りなかった?

心配してくれる良い部下持ってんのに、どうしてアンタはそこで転がってんの?」

「あ〜⋯ゲホ⋯よもやこんな方法で⋯我に死を悟る思いをさせられるなどとは⋯夢にも思って無かったわ⋯」

「そんなの貴方が自分を優れてると過信して、奢っていたからよ。ホント、バカよね。」


テーブルに肘から先をついてヨロリと身体を起こすと、王様は疲れた様子で近くの椅子に腰掛けた。


「あ〜⋯まだ苦しい⋯茶を所望する⋯」

「農村にそんな洒落たもんが有るわけないじゃない。

頭大丈夫?

平民の生活ぐらい勉強しときなさいよ。」

「煩い⋯我に説教など不要だ。」

「貴方自分が未熟なのを自覚してないからこんな失敗をするの。叱られても仕方が無いじゃない。」

「何でそう偉そうなんだ。」

「貴方よりは人として賢さがマシだからじゃない?」

「赤子のクセに生意気な。」

「そう思うならこんな所に1人で来るなんて、バカな真似してないで大人の仕事をしてれば良いじゃない。

そしたら私だってこんな風に言わないわよ。」

「よく(さえず)る口だな。」

「あら。私はソレが出来るからこんな事になってるって気付いて無かったの?」

「煩いのは嫌いだ。」

「貴方、何処までお子様なの?

身体ばっかり大人になって、子供まで作っておいて、ちっとも中身は子供から成長してないじゃない。

そんなだから視野が狭くて、後先考えずにここに来て、床に転がる羽目になるのよ。」

「⋯ぬう。少しは優しくしてくれないか。」

「だったらちゃんと礼儀を学んで良い男になりなさい。

女の子に好かれたいと思うなら、突撃なんてやらかさないで、文通から始めてみればどうかしら。

初対面で女の子に優しくされるだなんて、思うほうが図々しいわよ。

どれだけ世間知らずなのかしら。貴方、ちゃんと礼儀作法を学んでらしたの?」

『ぐほっっ⋯』


向こうから複数の吹き出しが聞こえて来たが、笑い声は聞こえて来ない。

どうやら頑張って我慢大会してるらしい。


「不敬罪で捕まえても良いのだが?」

「2歳の子供にそんな事したら、この国に住む全ての人達が恥ずかしくなるからやめて下さる?

言われなくてもこれぐらい、少しは物を考えてから言葉を語って下さらないかしら?」

「むぅ⋯」

「拗ねてないでさっさとお帰りなさいな。もうお遊びの時間は終わりにしましょう。」


口を開いてそのまま閉じる。

ジッと探る様な視線を向けながら、綺麗な指先でトントンとテーブルを叩いてる。

だから私は素知らぬ顔でお水を少し口つける。


彼の足は長いから、少し横を向いて組んでる姿がなんとも優雅で、何時もの素朴なリビングがまるで王城にいる様だった。

エリザベスお祖母ちゃんの時は、お祖母ちゃんが孔雀に見えたけれど。

この人の場合は彼が居る場所が変わるらしい。

コレが本物の貴族なのかと、お嬢さんよりもずっと洗練されてる事を思えば、お嬢さんにはさぞかし生きにくい世界だなと何となく察した。


「何とも面妖な生き物だな。

さきほどはまるで少年の様だったが、今は貴族の令嬢に見えてくる。」

「何を当たり前の事を言っているの?

私は考える力をちゃんと持ってるの。

きちんと相手を見て、それに合った相応しい態度をとらなければ、会話なんてできないのよ。

私が少年に見えたなら、男性である必要があったからよ。

でも中年の叔父さんを真似してたんだけど、この年では難しいわね。」

「何故男を(かた)る必要があったのだ?」

「私は向こうの人達の、凝り固まった思考を壊したかったからよ。

男性主体の社会で、貴族は女性から叱かられる経験が少ないと思ったの。

どれだけ思いを尽くしても、女性に対する向こうの認識が、素直に受け入れる事を邪魔をするのよ。

それでも始めは私の声と話し方で説明をしたけれど、プライドが高くて受け入れが甘かったから、やり方を変えたの。

どれだけ言葉を尽くしても、相手が聞こうとしないと無駄でしょう?

それでも駄目なら仕方がないけれど、向こうの人達はシッカリと学んで思考する能力が高いから助かったわ。

これが平民の戦士なら大変よ。この前お話したけれど、難しい話は分からないから、教会に行けと逃げられてしまったの。」

「ぶふっ⋯」

「それは一体何に笑っているのかしら?」

「いや⋯その平民が低能なのも有るだろうが、お前は言葉の数が多いのだ。発音はしっかりしているが、言葉が早くて聞き漏らす。

それに与えられた情報の量や速さに、考える時間が足らず。

受け取る者の思考が追いつかないのだろう。」

「そう。じゃあ次はゆっくりお話すれば良いのね?」

「伝えたい思いが先走るのが原因ではないか?だがあの少年の様な話し方はリズムが良くて愉快だったぞ。」

「オラオラが気に入ったの?」

「ぶふっっ⋯」


また横を向いて吹くと肩を小刻みに震わせている。

私は傾げていた小首を戻してなるほどと思った。


「貴方、ひょっとしたら子持ちなのに子供を育てた経験が無いのね?」

「うん?」

「だから中身が子供のまま、時間が止まっているのよ。

そして子育ての経験が無いから、部下も育てられないんだわ。

貴方が窮屈な原因て、それではないの?」

「⋯部下を育てる?」

「私が見本を見せてあげたじゃない。貴方が見てるものを部下に説明してあげた事は有るのかしら?」

「向こうが察するのが仕事であろう?」

「そんな甘えた考えだから、余計に手間がかかってイライラするのよ。貴方自分の思考と他人の思考に違いがあるのを気付いて無いの?

自分が何を望んでいるのか、ちゃんと説明してあげてご覧なさい。

そこがズレてるから思う様に行かなくて、こんな事になるのよ。」

「⋯面倒だ。」

「少しでも自分が過ごしやすい環境を作るのは当たり前なの。

その労力を惜しむのは、ただの物臭なだけね。

それでイライラするだなんて、ただの身勝手よ。」

「また説教か。」

「私は見たものをそのまま伝えてるだけなの。

それを叱られると感じたなら、それが必要だと理解したのね?

だから面倒臭くてイラッとしたのよ。

でも手間をかけると楽しい事だってちゃんとあるから、やる前から逃げ出さないで、やってみなさい。」

「はぁ⋯貴様がやってくれれば良いではないか。

世には他に熟す事が山ほどあるのだ。」

「人は経験を積まなければ成長しないのよ。

そして人任せにしてるだけでは、何時までたっても自分が信頼出来る仲間は作れないわよ。

貴方にはそれが足りてないから、自分でするのも必要だと思うわ。」

「もう気力がないのだ。

疲れてしまった。」

「だから逃げたくなったのね。貴方はこれまでの間で、真面目に働き過ぎてしまったのかしら。」

「皆が我に全てを押し付けて当然の顔をして、困った時だけまた我を利用する。

欲しがるばかりで攻撃する者や、嘆くばかりで(すが)る者もいる。

我の半分も働かぬのに、不満が有れば批評する者や、己の欲ばかり押し付けて来る者。

利用されてばかりで返される事は少なく、断れば攻撃してくる。もうどうにも理不尽でやりきれぬのだ。」

「そう。それは難しい問題ね。教育していくしか無いとしか私は言えないもの。

貴方には休息が必要だと感じるけれど、小さな私にはどうする事も出来ないわ。」

「ハハハ!何だ。大きくなれば何とかしてくれるのか?」

「して欲しいのならちゃんと国を治めてね。尊敬出来て恩返しが必要だと感じれば、そうなる事も有ると思うわ。」

「ソナタは待つには幼すぎる。だが強くて美しい意思がある。ずっと飽きずに眺めていられる者など始めて出逢ったな。」

「もう!そう言うのは奥様に伝えてあげてね。私はまだ2歳なんだから。」

「なるほどこれが黒魔石か。

⋯ふむ。ではまた来よう。」


王様はニンマリとお嬢さんと良く似た笑みを浮かべて、サッと姿が消えてしまう。

まるで風の様な人だった。

面倒で笑い上戸だけど、皆に頼られて好かれるのも何となく分かる気がする。

私はこんなに産まれたての子供なのに、彼の中年とは思えない。

生き物としての美しさや男性的な魅力に心が惹かれて、考えるよりも先に自分が女の子なのを自覚してしまった様だ。

誤魔化したけど、お澄ましして気取ったのはそう言う事だと悟った。


私が父を知らなければ、顔が真っ赤になってお喋り出来なかったかも知れない。

母への態度や私達への愛情を見せて貰って感じているから、アレは違うと分かった私は私で居られたと思う。

王様を好きかはまだ分からない。

でもまたお話ぐらいはしてもいいかなと思う。

だからアレはヤバいと気付いた。

ギルバートさんも似た雰囲気で男性としては美人だけど、あの人は生き物として存在の格が違った。

私が想像した以上に彼は本物の王様で、とても恐ろしい人なのだ。


「ねぇお爺さん。王様が今帰って行ったけど、そっちに戻ったかしら?」

『なに?!』

「行き先は?!」

「何も言わなかったよ。

ここの声は聞こえて無かったの?」

「やられた!

陛下がお消えになったぞ!」


何か急にバタバタと慌ただしくなった。

私もどっと疲れが来て、お昼寝をするのにリビングをでることにする。


「ギルバートさん。私もう疲れちゃった。お昼寝してくるね。」

「フ⋯わかりました。

また何か有ればお知らせ致します。」

「うん。それじゃまたね。」


全力で脱力してるお父さん達を置いて、私はトテトテと寝室に向った。

どうやらこの戦争、取り敢えず和平に向かっているが、まだ不穏は続きそうである。


兄弟で団子になって寝る為の2つ繋ぎのベッドで、私は枕元の上に置いた魔力草の種を観察した。

お皿の中に半分水に浸かったまま、5つの粒がある。


「まだ変わらない、か。」


もう3日目だが、このままで良いのか少し悩んだ。

1つか2つ残して、他に試してみても良いかも知れない。

でもそれは昼寝が終わってからにしようと、私はコテンと寝転んだ。


研究発表会は国王様の逃亡のドタバタで、なし崩しに終わった。

私の大説教大会になったせいで、新発見した理論の疑問や質問が吹き飛ばされてしまったからだ。

訳が分からない内に全てが終わり、全員が悩んだまま。

ブツブツ呟いたり、考え込んだりしながら自主解散したらしい。


そして提出した論文はダメ出しを食らった。

そもそも内容が子供の観察日記だったり、会話方式の記載だったりと、論文の規格としては提出に満たしてないとされたのだ。

でも内容は間違いじゃないから、一度お爺ちゃんが保留とし、提出ではないが学院預かりとなった。

そして異例ではあるけれど、この論文を授業の資材にする事となったのだ。

規格にあった論文に修正にするのは、お爺ちゃんの指示で参加者を募り、その中で話し合いをしていくらしい。


つまり論文としては認められ無かったが、満場一致で公表に向けて進められていく。

ブツブツ呟いたり、考え込んでた人達の瞳は強く輝いていたと、参加していたお嬢さんがお茶を飲みながら苦笑していた。


そう。

私は自分を秘密に出来なかった。

でも親元はまだ離れてない。

ただ外出時やお嬢さんと会う時は、姿を消すロープを常に身に着け、お嬢さんは私の母とお茶をしてるフリをして、私と会話をしたのだ。

2歳の女児が黒魔石と知られたが、表向きに捜索はされて無いらしい。

目星がつけば、そのうち2歳前後の少女が誘拐される事件が起こるかも知れないが、そこはかの会場にいた人達の倫理を信じるしか無かった。

でも2歳なら普通は親の近くにいるし、外に出たとしても範囲は狭く。他の子供も大勢いて、単独で行動をする事はまず無い。

他の村がどうかは分からないけど、少なくてもこの村で言えば、畑のエリアは見通しが良いので、見慣れない人間や馬車はとても目立つ。

だから私は姿さえ隠してたら、取り敢えず安全でいれられると判断された。


恐らくは私を保護出来る環境が整うまでの、束の間の平和だ。

私に本気で怯える者も居たらしいが、ほぼほとんどの参加者達は、私に学院に来て欲しいと希望したそうだ。

それも生徒では無くて、私が研究している事の発表を単独でして欲しいらしい。

しかも数日に分けて。

ふぁ?!と、思ったら、全ての錬成師や錬成師見習いや研修生が、聞く価値のある研究発表と言う名の講習会だからだそうだ。

まてまてとしか言えないが、参加者の人数が多いので少なくても1つの研究を5日ぐらい同じ内容で講習して欲しいとか。

え?イジメ?

とか思った私は、悪く無いと思った。

聞いた瞬間に頭に浮かんだのは、長い行列が続く動物園のパンダ。

でも国王様以外のたっての希望とかで、奮戦してるらしい。

国王様が駄目って言うのは、私の顔や存在が有象無象に知られるのは、それが何か嫌って言う。

子供の独占欲丸出しだった。

まぁ警備的にも危険はある。

私も大勢に姿を晒すのは嫌なので、国王様頑張れ!と、心からエールを送っている。

最悪講習会からは逃げられ無くても、また前みたいに声だけの参加でやるのは、国王様も渋く認めてるらしい。

ちょっと意味が分からないが?

国王がまさかの裏切り?

とは思うが、そもそもヤツが私の味方とは限らない。

どうにもロックオンされた気がして危険なのだが、叙爵の話も出てるそうだ。


子供は普通自分では爵位を持たない。

何故なら爵位には基本的に領土がついているし、王宮勤めの爵位持ちは仕事をしているからだ。

そう、普通なら子供は仕事をしないのだ。

でも例外として未成年の爵位持ちは居る。

親族が少なく親が早死にして、その子供しか爵位持ちなれる人が居なかった場合。

爵位は子供が持つが、仕事は代理人が行って領土を管理するそうだ。


そこで私の場合は平民である。

平民は騎士になるか、準男爵として貴族になれるが。

騎士になる平民は7級の魔物を単独で倒して貴族に認められた戦士か、金持ちの商人の子息が学院で騎士科を修了して、主を見つけるとなれる。


そして準男爵は国に貢献を認められた商人や、貴族の代理人として国営地を治めたりする人が、便宜的にであったり、長年の功績を称えられた時に授けられる、名誉勲章なみたいなので、両方とも本人のみが貴族となる。

つまり妻や子孫は平民なのだ。


さぁ私で当てはめて考えよう。

国が認める功績は持っている。

長年では無いが、発見した概念を証明する理論で、安価の魔力草の栽培や魔力過多症の治療がこれに該当すると、認められるのだ。

つまり準男爵としての条件は揃っている。

普通未成年が行える事では無いものの、やっちまったもんは仕方が無いね?って、事らしい。

そして準男爵に叙爵すれば戸籍が貰えるので、ワザワザ貴族の養子になる必要は無くなった。


でも外国に誘拐された時に、少なくてもウェスタリアが介入出来る権利はこれで出来るが、問題は他の貴族家や豪商そして悪意をもった者への対策は出来ない。


そこであのバカは私を第1夫人とすると言い出した。

つまり王妃である。

もう絶望するレベルの筋金入りの変態だ。


遠い目をするお嬢さんと、黄昏ている騎士の2人からこの話を聞いた時に、ひょっとして初恋だった?とか感じてた淡い気持ちは霧散した。

むしろ私の人生の汚点になった。

見かけは若く見えるけど、実は国王様。

奥さん5人いる上に、子供が12人いるんだって!

あと年齢は45歳!

死ね!としか思わん。


まあそれは満場一致で猛反対されてるらしく、私は心から頑張れ!って思うが⋯問題は王様がめちゃくちゃ強いのだ。

もう権力だけでなく、魔導錬成師なだけあってお金持ちだし、騎士に実習に行けなかっただけで物理的にも強いらしい。

実は黒魔石等の貨幣を私達家族の教材として準備するのに頼った先は、国王様だった。

王様⋯コッソリ気晴らしに狩りに出掛けてるらしく、黒魔石をゴロゴロ持ってるらしい。

つまり少なくても単独で8級以上の魔物を倒せる人なのである。

騎士の実習に行くとなると、剣を使って至近距離で戦う必要がある。

お嬢さんが言うには、国王様からしたら無傷で出来るそうなのだが、学生時代の国王様はまだ王子でしか無かったので、許可されないよね。

つーか国王様になったらもっと駄目だよ。

なのでコッソリ単独で出かける為に、執念で長距離の転移魔法を開発したアホなのだ。

お嬢さんが知る限り、この村から王都に飛べる人はこの国では国王様1人だけしか居ないと言われた。

もう私もお話を聞くだけで視線が遠くなる心地だった。


確かにお嬢さんは金持ちらしいが、神赤金板やら黒魔石は流石に持って無かったので、速攻で王様を頼ったそうだ。

もちろん私の事は秘匿した。

しかも貸してと言ったら、理由も聞かずにポンと出たらしい。

何故お嬢さんが大変だったかと言えば、お金を取りに行く手間が大変なだけだったとか。

そりゃそうだ。

お嬢さんの馬はとても足が早いけど、それでもココから王都には2週間はかかる。

普通ならだ。

そこで通信機で連絡をとり、設置型の転移魔法陣とやらで王都に戻り、忙しい国王様に繋ぎを取り、そしてまた戻る。

色んな人と連絡を取らないといけないので、1日でそれをするのが大変だった訳だ。

だが素知らぬ顔でお金を貸したものの、国王様は私の存在をその時点で嗅ぎ取っていたらしく。

お嬢さんに気が付かれない様に、改良した魔法生物で偵察させていたとか。

なにそれ怖い!

とか思ったら、ブンブン飛んでるマージンだった。

つまりてんとう虫ボディに嘴がついてるアレである。

そりゃバレねぇわ!

でもマージンは家の中に入れないので、外から会話を聞くしか出来なくて、私の顔や姿までは分からなかったらしい。

それと映像を遠くに送る魔導具は有るが、魔石を利用するのでそもそもマージンみたいな小さな魔法生物には持たせられない。

あとマージンは鳥なので夜間には利用出来ず、色んな制約はあったとか。

ただギルバートさんが場所を確認された時に、王様が転移出来た理由は教えて貰えなかったそう。

対策されたら困るからだろう。

ヤツはまだ飛ぶ気らしいよ。

飛ぶ45歳の変態とか嫌すぎる。


だが本当に恐ろしいのは第6夫人にするか、愛人として妾にするかは確定らしい。

もう滅びればいいのに。

確定って何だよ。

私が暗黒面に落ちたよ。


国王様は頑固に第1夫人でしかあり得ないと反発してるそうだが、まぁ⋯国の愛人としてなら⋯って感じだとか。

ちょっと意味分かんない。

お嬢さんが罪悪感で震えながら提案して来たのは、国の愛人としてなら、退位すれば今の王様で無くて次代の王様に引き継ぐ事が出来るって、え?私財産分与扱いなん?

て、ビックリした。

でも国王様の理屈で言うなら、ウェスタリアの黒魔石の管理は国王が行えば良いと、無理矢理こじつけてるのだ。

でも私は無機物じゃないので、愛人。

妻は引き継げないので。

なんかもうよーわからんくて、気分は宇宙遊泳だ。


ただこれなら現在の王様が独占したいんじゃないよ、と言う言い訳としては通る。

じゃないと国王様に嫁ぐ前に私が誘拐されてしまえば、夫人にはなれないからだ。

他には平民が不愉快なバカに殺される理由にもなる。


けれど国の愛人なら人間としての私は、やり方次第で恋人や夫を私が好きな人を選べるでしょう?って、事らしい。

ある意味人道的な提案だと、お嬢さんが言ってる。

国の愛人の夫やら愛人になりたい者がいるかどうかは別として、私が受け入れるだろうギリギリを狙う智謀に歯ぎしりしてしまう。

つまりこれは私ではどうしてもひっくり返せない。


コレがもし妻として求められるなら、私は世界の黒魔石として王様個人には独占はさせられないと拒否出来る。

でも国の愛人ならどうだろう。

愛人と言う名の肩書きなので、私は準男爵にはなってしまうが、好きな所を選んで住めるし、夫も恋人も一応は選べる。

だって国の妻ではないからだ。

もう屁理屈でしか無いんだよ。

なんだよ国の愛人て。

まぁ私に主導権を託してくれたのは良いよ。

何となく俺しかいねーだろ?って言う王様の傲慢さがプンプンしてて気色悪いが。

100歩譲って無理矢理手籠めにされてるんでなければ良いよ。

まぁそれは教会対策なんだと思う。

どう考えても2歳を本当の愛人にしたら、教会が荒ぶる。

人としてやったら駄目なヤツだからだ。

なので国の保護としての肩書きなら、まぁ納得も行く。

もう貴族だろうが平民だろうが、誰も手が出せない。

出したら国に殺されてしまうからだ。

私自信が希望した時にだけ、夫や恋人が作られるのであれば、それもまた水面下で色々ありそうでは有るけれど、少なくても親を誘拐してとかそう言った事は起こらずに済む。

でもこれはあくまでも表向きなので、水面下ではどうしたって私の家族が危険だ。

そのため私の存在は秘匿されるのである。

物理的にロープを使って他人から見えなくなるのだ。

私や家族が許した人とだけ、会話が出来る。

なるほど、流石王様。

一応は色々と考えてくれてた。

第1夫人ジョークは別として。

これヤツは本気で言ってるから軽蔑し過ぎて、もうジョークとしてしか生理的に受け入れられない。


でもこれもヤツの智謀だろう。

絶対受け入れたらダメな提案を出して、それならと思う案を出してるわけだ。


それなら私を含めた、王様の親族やら部下達も納得するよね?と言う戦略なんだろう。

なんか前世の記憶にもあった気がする話なので、その手腕には理解も出来る。

問題は愛人の感覚の違いだろう。

貴族の言う愛人と私の思う愛人とで、認識に違いがあるらしい。

貴族の言う愛人は肉体関係のある無しはともかく、女性の保護としての役割があり、能力の高い平民や下級貴族の女性を、立場が上の者が下の者から守る、または愛人を自分のものだと主張する役割が有るそうだ。


結婚ではないので、愛人にした貴族と肉体関係とは違う愛人関係なら、恋人や夫は認知されるんだとか。

何故なら愛人は捨てたり捨てられたりするが、別れた先で自分が自由にするのは許される。

貴族が相手だとしても同じ。

愛人から別れを持ち出されて、監禁とか殺人したらアウトになる。

それは悪い貴族に該当するから、教会から叱られるのだ。


まぁ大体は肉体関係があるらしいが、その愛人がコッソリ他に恋人を作ったり。

または金稼ぎだけが目的な場合。

商人の家の娘で、親の商人が自分を守る貢物として差し出しだせるし、エリザベスお祖母ちゃんみたいな人なら、愛人にした貴族も金が目当てだから愛人が夫を作っても平気なんだとか。

貴族からしたら有用な商家の保護としての役割を果たせる訳である。


男性上位なシステムなので、女性としては腹の立つルールがこうしてまかり通る訳だ。

妻からすればやっぱり愛人は苛つくが、例えば本妻が子供を作れなかった場合。

よその貴族家から第2夫人が来たら、自分の立場が失われて困る。

でも平民や自分より下の下位貴族の愛人が産んだ子供なら、自分の子供として育てれば、自分の立場は守られるし。

単なる夫の趣味なら、逆にその子供には跡継ぎにならない契約をしてしまえば、使い勝手の良い下働きにも出来る。


極端に言えば自分は遊んで暮らすから、愛人の子供に仕事をさせて働かせば良いと言うヤツな。

それが準男爵なのかは分からないが、不愉快ながらも本妻には平民の愛人制度を許せる土壌は有ると言う事になる。


そして私を含めた平民の感覚からしたら、愛人イコール浮気だ。

もう妻が激怒していいヤツである。

ただ金持ちな夫で貴族みたいに後継者が必要だったり、本妻が認めるならそこは貴族と同じシステムだ。

ただウチは農家なので愛人はふしだらな女性として、嫌悪の対象や可哀想な女性がなる職業なのだ。

愛人自身は家族を養う為に悲しく愛人する人もいるだろうが、逆に贅沢な暮らしがしたくてなる人も居る。

でも貴族だろうが平民だろうが、愛人の立場は本妻より下なので、どうしても誇らしくは思えないお仕事になる。


私の場合は2歳児なので、親が激怒していいヤツ。

ちなみに私だって激怒する。

だから人間じゃ無くて、ウェスタリア王国が相手なのだ。

もうパッカーンと口が開いて???ってなるのも仕方が無いやね。

国の愛人として国王様が私を管理する。

もう鳥肌しか立たないが、私は人間なので国王様からイタズラされても、バレれなければ許されるが、公にはそんなことしないよ、と言うヤツ。

だって国は概念だから人間の私にエッチなこと出来ない。

それに私が嫌がれば教会が出てくる。

つまり国王様は、私の同意が無ければ私に手が出せない。

あとは国の愛人として、国王様が有象無象の男性達を私から排除出来ちゃう。

平民だろうが貴族だろうが、国王様や私が認めなければ手が出せ無くて、私は無事守られる訳だね。


そして更に悍ましいのが、精霊実を使って作れる薬と言うのは若帰りの薬らしい。

もう消えそうになるぐらいに背中を丸めて、お嬢さんは私から視線を逸らしてるので、そこで言葉を止めさせた。

王様の外見が20代で止まってる理由が分かったからだ。

黒魔石や精霊実が貴重なのは、誰かさんが乱獲してるんだろうと悟った。


考えたく無いのだが。

少なくても妻が寿命で全員死ぬまで、この国の王様はアイツなんじゃね?と、ギフトがぼやいてた。

アイツのヤバさは私と次元が違ったようだ。

アイツは人間じゃなくて魔法生物なのかも知れない。

つまり私流の知識で言えば魔王だ。

私はヤツの言う国に囚われた姫なので、ヤツの悪辣な企みから逃れるには、彼の夫人達を勇者に育てて、誘惑してもらおうかとまで考えたよ。


でも私のギフトはまだ先を読んでしまった。


でももし。

妻達が勇者を拒否して自由を選んでしまえば、私は今度こそヤツから逃げられなくなる。

彼に妻が1人もいなくなれば、私には彼を拒む理由が無くなってしまう。

そうなれば彼は喜んで王様を辞めるだろう。

何故なら国の愛人となった私の夫として、自由に生きられるのだから。


私は震えた。

これはお嬢さんの形をした手紙。

つまり国王様から私へのラブレターだと気付いた。

そしてもし私が国の愛人になる事を選び、国王様が引退して私の夫になった時。

私は王都からこの家に帰れる直通のタクシーを手に入れる事になるのだ。


完敗を悟った。


つまり貴族と私の戦争は私の負けで終わりになる。


これは私の家に突撃してきた王様が、私の施した策に完敗したと思っていたならば。

負けず嫌いの彼が私に向けて放った、リベンジだったのかも知れない。


これはもうヤバい。

心が震えているのが分かる。

興奮で頬が熱くなり、口角が上がった。

このラブレターは私への挑発だ。

守ってやるから国のために働いてみろと、国王様が仰られてるわけだ。

私はこれで公式に立場を得らる。

必要なだけ隠れはするけど、逃げ出す必要が無くなる訳だ。

学校にも行けるし、出産時に中級回復薬を平民が安価に手に入れられる仕組みを作る事だって出来る。

なんなら貴族と平民の壁までブチ敗れるかも知れない。

全部私の行動次第になるが、やりたい事を我慢せずに出来ると言う。

もう何だこれ。

アイツは一体何なんだ?

45歳の飛ぶ変態は、痺れるぐらいに頭が良い天才の王様で、私の喧嘩(ライバル)相手って事になる。

あの面倒臭がり、マジでやりやがった。

私が育つのを待つ気ゼロで、こき使う気満々だコレ。


ギフトは働かない。

なんせ情報が全く足りないもんだから、破滅なんて見えっこない。

失敗すれば破滅なのは、ギフトなんて使わなくたって分かる。

じゃあ失敗するには、行動を起こすと言うことだ。

その行動って何だ?

私は国の愛人になって何の行動をすれば、私の愛する家族を守れる?

私の必要性を国の民に認めさせる事だ。

その手段と方法は国王様が考えてくれても良いし、私が考えても良い。

ぶっちゃけ2人で話し合って決めればいいのだ。

国王様はそれをどうやら望んでるらしいが、何せ変態だからな。

私もウカウカしてらんない。

近寄ったらダメなヤツに、ワザワザ相談なんてしてやるもんか。

でも向こうのが1枚も2枚も上手なんだよ。

私より先に産まれた上に、権力や財力まで揃えてやがんだ。

そりゃマトモにやりあったら勝てる筈もねぇ。

ならヤツに勝つのには何が必要だ?

情報だ。

正確な情報が有れば、私なら起死回生の一撃をヤツにぶち込んでやれる可能性がある。


ハァハァと興奮で呼吸が荒くなり、お嬢さんさんが勘違いで心配してくれてる。

愛人について、名誉なことだとか、概念だから本当の男性の相手をする訳じゃ無いとか。

明後日の説明して全力で私を宥めてらっしゃる。


私が震えてるのは恐怖じゃなくて、武者震いなのに。

私は最高の遊び相手を見つけてしまった。

全力で鬼ごっこをしながらも、尊大なヤツに打撃を与えるに必要な情報を得る為に、懐に飛び込んでヤツを喜ばせないとダメなのだ。

何だコレ?

オイオイ王様も私も一人ぼっちじゃ無くなっちまったよ。

本当に何だコレ。

私はヤツに友人関係を求めたのに、ヤツは恋愛関係を求めて来るとか、マジで異性の友人は難しいって証明だよな。

だが恋愛は断る。

何せ私はピチピチの2歳児なのだ。

妻子持ちの成人男性とか気色悪いにも程がある。

だがヤツは超のつく長期戦を挑んでやがった。

光源氏かっつーぐらい、長いヤツ。

年齢差なんて目じゃ無いぐらいに酷いヤツだ。

頭湧いてんじゃね?

流石頭は子供、身体は大人の変態野郎である。

考えてる事が理解不能レベルでぶっ飛んでるわけだよ。

しかも極悪なヒトデナシだ。

私が素で殺意を抱いて許されるヤツ。

そのクセこんなに憎めないとか、マジやってらんない。


このラブレターからヤツはなりふり構わず、私にSOSを飛ばして来てる。

2歳児の私に助けて!って叫んでるのだ。

あの尊大で存在の次元が違う王様が。

問答無用で痺れるじゃねぇか。


私と私の家族を守るから、俺を助けてくれと望まれてるわけだ。

頭がクラクラする。

もーホント何なん?

アイツ何歳大人やってんの?

もう認めてもらえて嬉しいやら、存在が気色悪いやらで私が大惨事だよ。


でも負けは認めなければ成長しない。

今回私は大負けだ。

この話を蹴れば、じゃあ現状の保護は誰がする?ってなる。

無理矢理国王様が私を第1夫人にすると、貴族と王様で戦争になって国が荒れて私や家族が苦しんでしまうので、私は死ぬことになる。


次は国王様が私を自分の愛人にした場合は、教会との戦争になる。


次は他の貴族が私の保護をした場合、王様は強いからその貴族を潰して私を手に入れればいいから私は死ぬことになる。


次は素直に教会に逃げ出し、上手く行けば外国に逃げた場合、その外国と国王様は喧嘩出来る立場にあるので、教会と外国を含めた大戦争になる。

ので私は死ななければならなくなる。


そう⋯国王様が私を欲しがってる以上、私にはデッド・エンドしか道が無い訳だ。

つまり詰み。

投了ってヤツだね。

クッソ大人気ねぇ。

権力財力全てを使った私の捕獲大作戦。

挙句の果てに私の逃げ場が死ぬしか無い。

ブンブン飛んでるマージンを偵察機に仕えるヤツから、家族を連れて逃げられる場所なんて何処にもない。

デッド・エンドしたら家族が悲しむので、私は私が生きられる道を行くしか無いのだ。


あの美しくもスラリと長い芸術的な腕が、醜悪な蜘蛛の長い腕に見えて来るのが超気色悪い。

なのにあの美しい顔が疲労の滲む影で曇り、疲れたと男性的な耳に優しい声で息をつく。

頭をヨシヨシしてやって、助けてやっても良いかなと、勘違いする程度には可哀想に見えた。

もう悪辣。

自分が魅力的なの分かってるヤツの所業に戦慄する。

あれは絶対に本心だろうが、天然じゃ無い。

私じゃ無くて、他の女から積んだ経験で技を磨いてんだよ。

これを悪辣と言わずに何とする。

あー、そうさ。

男性経験なんか微塵も無けりゃ、コロリと行くだろうが。

こちとら出産までした経産婦人だが?

引っかかると思うなよ雑魚が。


けれども真実として、ヤツの窮地も見えるのだ。

これまで優秀で不備なく真っ当な王様で頑張ってたのが、夜中に学校の窓ガラスをぶち抜いて回るぐらいの暴挙を起こしてる。

部下や彼の親族の驚愕や混乱が、手に取る様にして伝わって来る。

どうせ私が黒魔石だからとしか言ってない。

それだけ面倒臭がりで、疲弊してるからだ。

私を信じて、あるいは見抜いて丸投げしている。

心の底から利用するつもりで、成り振り構わずぶん投げた。

暴投も良い所だが、コレを私が治められるなら。

いや治められるからこそ、黒魔石と言う証明になる。


「つまり叙爵にかこつけて城に行くついでに、混乱しまくってる王族や重鎮を躾ろって事かよ。」

「ええ、そうよ。」


失笑しながら呟けば、お嬢さんは頭が痛いと言わんばかりに渋い顔をしてお茶を飲んだ。


「どう言う事なのから〜?」

「私や私達家族が平和に生きられる様にしたら、身内がわけ分からなくて騒いでるから、静かになる様に助けてくれって言われたんだよ。」

「???」

「お父さんが2歳の女の子を愛人です!って紹介したらお母さんどうする?」

「お父さんはそんな事しないわよ〜?」

「例えばだよ。もししたらお母さん達はどう思う?」

「驚くし、やめなさいって言うわ。女の子は〜お家に返しちゃうわね。」

「つまり王族の家族や仕事のお手伝いしてる人達が、そうなってるんだよ。」

「あら。リリが愛人にされちゃうからね!

なら愛人なんてやめましょうよ〜。いくら人間じゃ無いからって、リリが変な娘に思われちゃうもの。お嫁に行けなくなっちゃうわよ〜」

「愛人やめたら私は死ぬしか無くなるよ。

王様が私を欲しがってるのもそうだけど、他の悪い人達から家族の皆を守るには、それしか無くなるからね。」

「何か良い方法は無いのかしら〜?」

「国の愛人になる事が1番良いんだよ。王様は頭が良いから良く考えてると思うけど、王様の周りの人達は王様みたいに賢く無いから、私が皆に分かる様に説明をしに行ってあげなきゃ駄目んだよ。」

「そう言うことなのね?

リリは大丈夫かしら〜?」

「うん。ケチョンケチョンにしてくるから平気だよ。」

「⋯それもそうね!

リリは賢いもの。

でも愛人ね~⋯ふぅ⋯」

「王様は自分の愛人にしたいつもりだけど、私が大人になって自分で選ぶまで待つみたいだよ。

それにどうしても私が他の人を選んだら、王様は諦めなくちゃいけない決め事なの。

だから王様は私に男の人を見せないし、見ない様にするとは思うけど⋯一応自由に出来るんだよ。

それなら父親が決める結婚と同じでしょう。」

「まぁね〜。お父さんは自分でリリをお嫁さんにはしないけど、国王様は違うから出来ちゃうのね?

でも貴方、お爺ちゃんのお嫁さんて嫌じゃないの?」

「お母さん。王様はお爺ちゃんなのは間違いないけど、若返りの薬を飲んでるから、この前見た姿とずっ変わらないらしいよ。」

「あら!王様凄いわ!

それならリリも大丈夫ね!

まぁ〜あんな素敵な人が私の息子になるの?お母さん、ドキドキしちゃう〜」


母は素直にアイドルに出逢った女子高校生になってクネクネしながら喜んでる。

外面は良いからな、あのオッサン。


「⋯貴方、私の義母になるのね⋯」


そして虚ろな目をしたお嬢さんが、儚い吐息を吐き出した。


「私はこうなる予感があったので、なるべくリリアナは隠して置きたかったのですが⋯あれ程とは。これは予想外でした。」


ギルバートさんも無念を滲ませながら立っている。


「まさか陛下が立場を悪用してまで狂うとは思って無かった。俺はまだ未だに信じられない。」


ズーンと暗い顔で沈んでるのはカルマンさんだ。

それはもう今にも倒れそうなぐらいに、2mを越えた身体を小さく丸めて小刻みに震えてる。


「本心かもだけど、計算も有ると思う。自分自身を使って私の価値の高さを周りに教えてると思う。

この前育てろって私が言っちゃったから。」

『な?!』

「イヤイヤイヤ、待って?

待って頂戴。

それにしてもアレは無いんじゃないの?!」

「どんな解釈をすればああなるのだ?!

私などには陛下のお考えが全く分からない!」

「⋯本心なのか策謀なのか⋯どうなんだ???」


お嬢さんはお嬢様らしく無い取り乱し方で愕然としてるし、ギルバートさんも青ざめた顔で、頭を横に振っている。

カルマンさんは何故だか涙目だ。

何だか怖がってる様な、ウーン⋯この人って何だろう。


「情報が欲しい。

ねぇ、お姉さんは王様の娘だよね。ギルバートさんは王様の孫。じゃあカルマンさんは何なの?」

『⋯⋯』


お嬢さんとギルバートさんが同時にカルマンさんを見つめる。

でも口は開かない。

カルマンさんは眉間にシワを寄せてムッツリ黙ったままだ。


「つまり言えない関係者。

じゃあ言える所を聞こうかな。

お姉さん。王様の家族構成を教えてくれるかな?」


こうして私は情報収集を徹底的に行い。カルマンさんが何なのかを推測出来るまでになった。


王様の家族構成を知るにあたり、王族のシステムを勉強することにも繋がったのだが。

どうして?何故?

王様が疲れて荒ぶってるのか、それはこう言う事情だった。


ウェスタリア王国は大国だ。

でも昔からそうでは無かった。

北部地方の永久凍土と呼ばれる、人の住めない土地の近くに暮らす民族が、ウェスタリア王国発祥の地とされ、今も聖地の扱いらしい。


ぶっちゃけただの貧乏領地で、観光資源で金を稼いでる訳だ。

夏は1月と短くて、春と秋はもっと短い。

そして冬はやたらと寒くて、半年は家に閉じ込められた生活になる。


それだけ寒い地方なので金になる魔物はいるが、狩るのに厳しい環境で肉も取りにくい。

何よりも植物が育たない。

あるいは育ちにくいと言う事は、人間が住みにくい環境なのだ。

でも人間がいた。

始まりは永久凍土よりももう少しだけ内陸部にある国から、犯罪者や国の都合が悪い人達が送り込まれていたからだ。


例えば国の中央にいれば政権争いが起こる血筋と能力を持った人間を、領主として死刑と変わらない処置をするなどである。

国から追われたその人は、血筋が良いので魔力が高くて教養もあった。

そして迫害されていたからか、人柄も良かったのである。

つまり現地の人達に好意を持って、受け入れられる良識者だったのだ。


その人は頑張って少しでも暮らしやすい環境を作って行った。

子供達にも正しい知識を与えて、自分に変わる指導者として育てたのだ。

そしてその人が亡くなっても、その知識や技術が教えとして、その地に残ることになる。

そんな事を繰り返していたら、段々と良い領地になって行く。

嫁は、あるいは婿は、国に必要とされない有識者だから、当たり前である。


中には手のつけられないワガママな悪人も居たかも知れないが、仲良くしなければマズいのは分かる。

中央に恨みはあっても、地元は優しく迎えてくれたのなら、少しは猫を被るぐらいはしただろう。


そして遂に住みやすい地を目指して、そこの領主は侵略を始める。

勝者なので侵略と表現はされて無いが、まあ私に言わせたら侵略だ。

物資は無いが極悪な環境を生き延びた人達は、精神も身体も強かった。

食事は粗末なのだが、油を取っらなければ生きられないので、そうすると身体も自然と大きくなる。

精神は頑強そのものだ。

なにせ軟弱者は長い冬を生きられない環境なので。

つまり強かった。

グングン伸びた。

最後には国を乗っ取るぐらいに凄かった。

そしてその技術や教えは素晴らしいものだからと受け継ぎ、どんどん住みやすい土地を目指して隣の国を侵略して行くと、あら不思議。


地元は永久凍土の近くだったのに、段々と住みやすい所に移動してたら、そんなに強くは無くなってしまった。

そりゃそうだ。

伝説的な強さの根源は、生活力から産まれたものだったからだ。

そこで息詰まりを感じたそこの王様は、侵略をやめて周りと仲良くすることにした。

何せ南へ南へと進んでたから、ウェスタリア王国の東側には3つの外国が並んでおり。

そこから同時に攻められたら、苦しかったからだ。

単独なら余裕で勝てる。

でも協力されたら辛い。

なら仲良くすれば良いわけだ。

向こうも大国になったウェスタリアや、南隣の国や更に東側の国に囲まれてるから苦しかった。

こうして3つの国と仲良くするのに、決め事を作った。

外国から来た姫をお嫁さんにするのである。

でも外国から来たお姫様が王妃になったら、他の国も良い気持ちにはならないし、ウェスタリアだって乗っ取られたら困る。


なので嫁にはするけど、産まれて来た王子達には、継承権は与えない事に決まる。

じゃあ、その王子達はどうなるか。

国を守る騎士や錬成師や魔法師になった。

そして、姫は3カ国の何処かに嫁ぐか自国の貴族の嫁になった。

他国なら王妃として、迎えられる。

でも王妃として受け取るなら、自国の血が混ざった姫が良い。

こうして王様の外国から来た人達は、女の子を外国に1人必ず戻すことになる。

つまり女の子が必ず必要になった。

そしてウェスタリア自国は、逆に跡取り男児が必要になる。

王妃が跡継ぎを産めば良いが、子宝とは天からの授かりものなので、まぁ生まれない事だってある。

実際に王様は男児が生まれなかったから、自国の妻が2人になった。

これはまた後の話であるが、ウェスタリアは最低でも4人の妻を王様が迎えるルールで、延々と続けて来たそうだ。


氷の大地が発祥なので、塩が欲しくて1番北から南までウェスタリアが大きく育ったせいで、東側には進めず。

天然の大自然の森を西に向けてどんどん開拓をして行くのだが、一度は弱くなった国が厳しい自然と戦ってるウチに、また強さを取り戻す事になる。


そのウチ目障りだった3カ国が3つ束になっても敵わないぐらいに、ウェスタリアは強く育つことになった。

すると3カ国は表向きは独立した、属国となったのである。

そして属国となれば、ウェスタリアの助けを借りられるので、更に東側へと侵略するのが可能となった。


なんなら東側の国の中にも大国があり、そこから挟まれた形の中央に有った、小さな国はどんどん消滅することになる。

そしてイスガルド大陸に残ったのは20カ国ぐらいになったと言う訳だ。

形としてはユーラシア大陸なんだろう。

そしてウェスタリアは北をロシアの1/3ぐらいから西を治め、南はユーラシア大陸の1番南の国がどんなかは知らんので良くわからんが、イランやらある辺りか、中国の1/5ぐらい西側だろうか。


まあユーラシア大陸と同じ形ではないだろうから、正確には言えない。

でもアメリカ大陸みたいに上下に長い国では無さそうだ。


だってこの地の運搬能力とか考えたら、アメリカ大陸を上下制覇とか出来ないよ。

むしろユーラシア大陸でもビックリだ。

そこは魔法がある世界なので、行けたのかもだけど。

だから余計に乗り物が発達しなくて、未だに馬車を使ってるのかも知れん。


そこでウェスタリアはイスガルド大陸屈指の大国になった。

めっちゃ人も多いし金持ちだ。

そしたら政権争いが起こるんだよ。

なので自国の嫁は数が少ない方が良い。

でも嫁は周りから認められる人じゃ無いと攻撃されちゃう。

平和じゃ無ければ困るから、王様が我慢する事も増えるのだ。

強くても人殺しの日々を送るよりかは、魔導具を作ったり錬成したり、転移して素材を集めて回る方が楽しいもんね。

そして我慢する毎日だったが、私が現れたのでプッツンした。

今ココ。


さて王様の家族構成はどうか。

王様の父親は元国王様だ。

その元国王様には外国人の妻が3人と、正妃となる自国の妻が1人いる。

王様は王妃が産んだ長男だ。

そして王様の下には妹が2人と弟が1人いるそうだ。

王様の父親は男児が2人産まれた事で、無用な争いを避ける為に自国の妻は1人にした。

そして国王様は王太子になった。

でも直ぐに王太子になれたわけじゃ無い。

ただの王子だった時に、父親に認められて王太子になったのだが、王太子になるには1つだけルールがあった。

それは自国の妻を娶り、跡継ぎになる男児を1人持つ事だ。

何故なら国王様になると外国人の姫を娶り、子作りをしなければいけなる。

だから自国の妻から最低1人は男児を産んでもらわないと、世継ぎが出来なければ困るからだ。

でも1番最初に妻を娶り、男児が産まれるとなると、父親の王様と子供の王子とは年齢が近くなる。

だから最低1人は必要になるが、理想は2人望まれるのだ。

王様からなるべく年の離れた王子の方が王様も、長く務めることが出来るから。


なので今の王様は最初から王太子では無かった訳だ。

でも王様は飛び抜けた天才野郎だった。

7歳年下の弟は逆立ちしても真似が出来ないぐらい、優秀な人だったのだ。

弟が出来る保証が無いから、王太子では無かったけれど、今の王様は次期跡継ぎ候補として教育を受けて育ったので、弟はそれと比べられてしまう。

弟は直ぐに不満を持つようになった。

兄弟の仲は良かったが、何をやっても兄に届かないせいで、周りに色々と駄目出しされたら、それはとても辛かった。


だから勉強を嫌がる様になり、今の王様の父親は次期跡継ぎの王太子に今の王様を選びたくなる。


年は近いが自分よりも優秀な王様なら、上手くやってくれるだろう。

何ならその父親は自分が王様をやるよりも、好きな事をして遊んで暮らす引退生活が魅力的だったのかも知れない。


だが王太子になるには息子が最低1人は必要になる。

飛び抜けて優秀だった王様は、僅か15歳で結婚して男児を1人作る羽目になった。

だが今の王妃との間に産まれた最初の子供は女児だったのだ。

まぁ最初だからそんな事も有る。

だから王妃様は頑張って子供を作った。

けれども2人目も女の子が生まれ、更に3人目も女の子だった。


王様は長男なので父親の元王様も年齢が近い。

だから焦って代わる必要は無かったが、貴族の女性が出産をするのは平民がポコポコ子供を作るのと訳が違う。


魔力が多い者が優秀とされるので、王様は勿論王妃様もとても魔力が強かった。

しかも王様は飛び抜けた天才野郎だから、優秀だった王妃様ですら、1人子供を産むのは大変な仕事になる。

つまり妊婦になると魔力過多症になりやすいのだ。


王様は王妃様を大事にしていた。

何故なら王妃になるには周りの人達から認めて貰う必要になるので、勉強も礼儀作法も小さな頃から頑張って習い。

婚約者として幼い頃から王様と長く付き合って来たからだ。

王様からしたら恋人と言うより兄弟みたいな間になるが、それでも頑張る彼女が好ましかった。

王様は長男基質なので、自分の妻になる為に必死に努力している彼女を守りたくなる。

でも3回妊娠しても男児が生まれない。

妊娠は明らかに王妃様の身体に悪影響をもたらしている。

だから王様は弟に期待した。

でも弟は勉強が嫌いで、どうにも難しい。

仕方が無くて王妃と弟の為に、2人目の妻を娶る事にした。


でも王妃様からすれば、それはとても辛かった。

大好きな彼を独り占め出来なかっただけで無く、王妃として跡継ぎを産めなかった事で劣等感に苛まれる。

でも完璧な王妃で無ければそもそも王妃にはなれて無い。

自分が跡継ぎを産めないのだから、妻が増える事もやり切れない気持ちで受け入れたのだ。

でもやはり面白く無い。

そして国王様が大好きな王妃様は、続けて頑張ることにした。


妊娠させない為に新しく妻を増やしたのに、以前よりも鬼気迫る勢いで王妃が子作りを迫ってくる。

精神的に追い詰められているのが分かった王様は、仕方無くそれを受け入れる事にしたのだが。

王妃も2人目の妻も女児を出産した。

荒れた。

王室がもの凄く荒れることになった。

どうしてこんなに男児が産まれて来無いのか。

もう笑って済まされる段階は越えてしまったのだ。


王様の弟は酷く慌てた。

次期王太子になるために、結婚を周りから求められたからだ。

どう考えても男児さえ産まれて来たら、兄が王太子になる方が相応しい。

だから当時15歳だった弟は、父親の元王様や兄の今の王様を含めた周りの期待から逃げ出したのだ。


つまり家出である。


15歳のボンボンが無事に生きているのか分からないが、王様の弟が行方不明になってしまった。

それに慌てたのは元王妃である。

2人も男児を作り、安泰だった未来に暗雲が立ち込めてしまったのだ。

そりゃ怒る。

だって長男は何処に出しても恥ずかしく無い、優秀な王子だったから。

そして元王妃の怒りは男児を産まない嫁達に向かった。

4人も女児を産んだ王妃の精神はそれで見事に壊れてしまった。

追い詰められて、2人目の妻もまだ自分は1人しか産んでないのに酷く理不尽に責められて不満を持つようになる。

怒りの矛先は全ての原因になった王妃だ。

家庭環境がすこぶる悪くなった。

立派な跡継ぎを産んだ元王妃は、元国王様が2人目の妻を増やす話が出て来たからだ。

今の王様も3人目を娶る話が持ちかけられてる。

妻2人は荒れに荒れ、王妃は発狂してる勢いだ。

そりゃ女はもう要らんと思いたくなる。


そして、次。

王妃と2人目の妻は2人が揃って男児を産み、荒れに荒れた王室は、ひとまず落ち着きを取り戻した。

でも一度荒れたものが、表面的に沈静化しただけで治まる筈もなく。

2人の産まれた王子は危険になった。

王妃と2人目の妻の権力争いが勃発したからだ。


下手したらやっと恵まれた王子達が殺されてしまう。

そう危機感を抱いた元王妃は、王妃と2人目の妻から王子達を取り上げて何方(どちら)が何方の子供か分からない様にして、双子として育てることにする。

産まれて直ぐに取り上げてしまえば、まぁ分かりにくいよね。

ようやくこれで王室は一件落着したのである。


残った問題はギスギスした王妃と2人目の妻の関係と、消えてしまった弟の存在。

あと産みに産まれた姫の数。

その数5人。


私は取り敢えず此処まで情報を集めて、新しい戦場(あそびば)へ向かう事にした。

王都にある王城へ叙勲されに行くのである。



45歳と2歳のクロスカウンター

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