10
ポロリ。
小さな欠伸が出て、ポロンポロロンとノンビリしたオルゴールの幻聴が聞こえて、頭がグラグラして来たので温くて酸っぱいオレンジモドキジュースを飲んで、塩っぱい顔をしてたら。
「眠いんか?」
「平気。」
聞いてるだけで癒し系なマリア婆ちゃんの声に、気力を振り絞って返事を返す。
「チビがオネムだとよぉ。」
「何時もなら寝てる時間ですものねぇ。」
「こんなに早くに寝るものなの?」
「朝が早いですから〜」
お母さんが声で寝かし付けに来てる。
だがまだ眠れん。
私にはまだやりたい事が残ってるからだ。
「えとね。もう少しだけお話したいの。
あのね。そのね。んー⋯」
「限界みたいだな。」
「ちがうの。ちがうのよ。
あのね?んと⋯あ、そうだ!
お父さん、アレ出してよ、アレ。」
「うん?」
「お姉さんに書いたお手紙!」
「あぁ、アレか。」
眠気に散々邪魔されたが、ようやく思い出せたので頼めば、父は何処やったっけ?と言わんばかりにポンポンと服を叩き。
あ⋯、そうだったそうだったと、言わんばかりに腰につけた皮の魔法鞄から私が書いた1つ折りの紙を取り出した。
どうやら父もお酒を飲んだから眠くなって来たらしく。
随分と仕草が可愛くなってた。
「済まない。忘れていたんだ。」
そう言いながら、父はギルバートさんに紙を渡した。
「リリアナは文字が書けなかったのではなくて?」
「書けなかったよ。だから文字表を作って書いたんだよ。
話し言葉だから助かったよ。」
「はい?」
お嬢さんの怪訝な顔を見て、やっべぇしくった。と、察したけど、頭が鈍くてへらりと笑うしか出来ない。
「それは始めて作った魔力草の『観察日記みたいな報告書』なんだけど、分かるかなぁ⋯?」
「はい?今なんて言いましたの?」
「リリアナ〜。また自分言葉を使ってるわよぉ。」
「なんて言えば良いか、見て書いた毎日の記録みたいなヤツ。を書いたの。」
「ふぅん。まぁ確かに綺麗とは言えないわね。読めるけれど⋯大きくて平民の子供の文字だわ。」
「そりゃ子供だもん。」
「それなのに文章になってるのね?不思議だわ。
あと出来れば省略文字も使ってくれれば読みやすいのだけれど⋯」
「それしか教わって無いよ?」
「平民では習わないのね。
仕方が無いわね。」
「それ以外に文字があるの?」
「そうで無ければズラズラと長いじゃない。
省略文字を覚えれば、随分と楽になるわよ。」
日本語で言えば漢字みたいなヤツかな?と理解する。
「それなら省略文字を表に書いてよ。覚えるから。」
「私が書くの?」
「ギルバートさんでも良いよ。」
「私は護衛ですので。」
「⋯何よ。面倒がって。
少しぐらい良いじゃない。
手伝って下さらない?」
あ、エリザベスお祖母ちゃんが空気になった。
多分エリザベスお祖母ちゃんなら書けるよね。省略文字。
お姉さんはいかにギルバートさんを巻き込んでやろうかと頑張ってるから、こっちを向いててエリザベスお祖母ちゃんを忘れてる。
「本を渡した方が早いのでは?」
「それはそうだけれど、持って来て無いわよ。」
「それならば今度父親に、取りにこさせれば良いのでは。」
「それしか無いわねぇ。
明日は無理よ。
カルマンの事が有るもの。」
「店に出ないのであれば、自己にて対応するが⋯」
「貴方。実は酔っ払ってるわね?直接行くつもりになってるでしょう。
駄目よ。師匠を使うのよ。
でなければ貴方は黒魔石と関連性を疑われるわ。」
「もう暴露すれば良いのではないか?」
「まだ早いわ。
せめて上を落としてからよ。
そうで無ければ暴走されたら厄介じゃない。
でもそうなのよね。
貴方が直接乗り込めるから、話が1番早いのだけれど。」
「お姉さんも酔ってますよね。面倒がって来たでしょう。」
「だって貴方。黒魔石なんですもの。あのいけ好かない、偉そうな頑固爺達を吹き飛ばしてしまいなさいよ。」
「お爺さんなら、お姉さんよりも受ける衝撃が大きいですよね?それってウッカリ命まで飛んで行きませんか?」
「それは困るわね。
有能な人達では有るのよ。
後釜は沢山居るのだけれど、若ければ若いで欲が強くて厄介だし⋯悩むわねぇ。」
ワインを傾けながらケッ!と、雰囲気で毒を吐きながら、思考を巡らせてる様だ。
「⋯遠くから声だけ届ける事は出来ますか?」
「可能か不可能かで言えば、可能よ。そうね。それも悪く無いけれど、間違い無く子供なのはバレるわね。」
「ウーン⋯」
ポクポクと思考を巡らせる。
「何だ今の」
「いやだから⋯」
後ろで酔っ払いのジギタス叔父さんに迫られて、誓約の説明を繰り返しさせられてウンザリしてるタルクス叔父の声が聞こえる。
「⋯しまった。省略文字か。他にも勉強しなくてはならないのか?」
「貴方なら出来るわよぉ。」
自分がせずに済む勉強だもんで、完全に他人事なお母さんが俯いてるお父さんの背中を擦って笑う声も聞こえてきた。
「ほら貴方。」
「む。しかし⋯」
「コレ絶対お高いわよ。」
「⋯うむ」
それからもの凄く小さな声でワインを楽しんでるエリザベスお祖母ちゃんの声も聞こえて⋯。
ピコンと頭の上で電球が光った。
「そっか、でも⋯ウーン⋯」
「何か思いついたのかしら?」
「うん。出来るかと言えば難しいかも知れないけれど、お姉さんのお師匠さんに声が届く魔導具だか魔法だかを使って貰うでしょう?
それをコッチは家族全員で答えるのってどうかな?」
「はい?」
「つまり皆が黒魔石ごっこをするんだよ。
この中で1人は本物の黒魔石ですよって言っておいて、1人づつ「黒魔石です!」て自己紹介して行くの。」
「それで済むならね?
でも会話はそうはいかないわよ?」
「でも自分に分かる事なら答えられるよね?
分からなければ、私が文字に書けばそれを読めば良いんじゃない?私の代わりに答えて貰っても良いし、私自身が答えても良いと思うけど⋯」
「ボロが出ないで済むかしら?」
「向こうは発見に驚いてるだろうから、冷静ではいられないんじゃないかな?
名前を呼んだら駄目だけど、それ以外なら誤魔化せないかな?」
「それはどうなのかしら?
やってみなければ分からないけれど、質問の意味が分からなければかなりの質問を貴方が文字で書く必要があるのよ?
そこまで手早く出来るかしら?」
「向こうは偽物が居るって知ってるから、スラスラ答えられればその人が本物だと思うよね?
逆に私がヨチヨチ答えてたら、若すぎるから⋯」
「なるほど!確かにそうよ。
老いも若きも居る中で、端か除外されるのは幼子の声ね!
アハハハ、面白いじゃない!」
「ギルバートさんやカルマンさんやお姉さんにも参加して貰えば、スラスラ話してる人の数が増えると思うけど、声でバレるかな?」
「声の質を変える薬もあるわよ。それを使うとイケるわね。」
「あとはコッチで指揮を取る人が欲しいから、誰かしてくれたら嬉しいな。私は文字を書くので必死になってると思うもん。
あ、お姉さんは混ざったら駄目だ。もしこの中に本物の黒魔石が居るとなると、お姉さんだけは外さないとお師匠さんの関係者として真っ先に疑われちゃう。」
「確かにそうね。私は師匠の付き添いとして、兄弟弟子と頑固爺の慌てた姿を見学させて頂くわ。」
「ならば護衛で私はつかねば成りません。カルマンで務められるかは⋯」
「なら俺がサラディーンにつこう。オマエは黒魔石と共に居れば良いのではないか?」
「⋯仕方が有りませんね。
魔導具の操作などは恐らくここの人員は不慣れでしょうし。」
とまあ、アレよアレよと話しが進み、何も良く分からない人達も全員参加の方向に決めた。
主に私が。
お母さんやマリア婆ちゃんやカタリナやロベルトだって、黒魔石です!って自己紹介なら言える。
まぁカタリナはともかくロベルトはウッカリ名前を出しそうでちょっと不安だけど、誓約に似た魔法で何か有ればそれを使えば良いし、もしくは1時間だけ名前を呼ぶ時は黒魔石としか呼べないと期限を使えば出来るかも知れない。
あーだこーだとお姉さんに質問して戦略と作戦を詰めて行く。
呼び出しが掛かれば。
もしくは世紀の大発見をしたと、此方から向こうを集めて演説出来る場を作れるなら、基本的な作戦は出来ると判断するまで頑張った。
途中から楽しくなってきて、マリア婆ちゃんの方がうつらうつらしてて可愛かった。
最終的に渋い顔をされはしたものの、制限時間付きで誓約を利用して、自分達の名前とお嬢さんの名前を「黒魔石」と「錬成師見習いさん」で、定着させる事になった。
誓約を使うのは作戦の直前で、ギルバートさんが行うから、日常生活で困ることも無い。
これならジギタス叔父さんも、ロベルトも心置きなく参加させられる。
まぁジギタス叔父さんの横には
ウチのお爺さんと、タルクス叔父さんに横を固めて貰い。
ロベルトとお母さんにはお父さんがついてて貰えば、より安心出来る。
「師匠に相談してくるわ!」
そして瞳をキラキラとさせたお嬢さん達は颯爽と帰って行った。
エリザベスお祖母ちゃん達夫婦も、乗ってきた場所に乗って帰って行き、私達も後片付けは明日にすると決めて解散した。
取り敢えず明日は無理なので、3日後に父が錬成師のお店に顔を出す事になり、もし向こうが連絡を望めばあのお洒落な喫茶店風のお店に、ギルバートさんかカルマンさんが行く事で連絡を取り合う方向となった。
なので私は出来るだけスムーズに文字が書ける様に練習しまくった。
アルファベッドに近い文字なので、読み方さえ分かればまぁそんなに苦労はないが、母音と子音を合わせて1つの文字になるせいで、文字数がやたらと増えるのがネックだ。
省略文字と言うのが有るのなら早く覚えたいが、読むのは平民なので今回は仕方が無い。
錬成師達の興味は日に日に大きくなっているみたいで、先ずはカルマンさんの息子さんの為に、お師匠さんが真っ先に出向いて息子さんの主治医っぽい立場の人と交渉を行い。
私の考えた対症療法の効果を確認した後、今回使用した理論の発表を公表する事だけを伝え。
公表後に新しい理論を使った治療方法として、研究論文を提出して貰う約束を取り付けた。
なので先走りでは有るが、他に必要な人達を実験として治療しても良いが、発案者が誰かは酷くに協力して貰う事で了解を取れた。
向こうとしては自分が見つけた治療方法で無いのは残念だが、長年研究してた事があっさりと新しい理論で突破出来た事に驚き。早く公表して欲しいと熱心に言われたそうだ。
何せ日に当てて、掌を傷つけ魔銀の短杖を持たせて魔法を使うだけ。
と、言う。
研究者からすれば意味のわからない対処法に、それはもう鳩豆な状態だったらしい。
日に当てる意味も傷つける意味も伝えてないからだ。
でも多分気持ちが落ち着けは、説明されなくても分かると思うが、動揺が激しくてそれどころでは無さそうだったらしい。
なので一方的な交渉で終わり、簡単な制約書にサインさせてさっさと切り上げたらしい。
後日関係者から鬼の様な連絡が来たらしいが、そこはスパッと公表を待てと押し留め。
次は日の光を研究していた者達が先に集められて、お嬢さんのお師匠さんとお姉さん達弟子が複数付き添い、講習会を開いたそうだ。
それはもう数が多かったらしく、関係の無い人達は追い払うのが大変だっとか。
新しい理論が聞けると思ったらしいが、新しい理論を証明する実験として、論文に名前を書く交渉だけしか無かった。
それに不満で粘ろうとしたらしいが、お師匠さんは「黒魔石」は自己にて証明を確立出来るから、不満なら参加は要らないと切り捨てたそうだ。
もう完全に泣き寝入りでしか無い。
長年の金と努力と信念が詰まった大事な研究が、ゴミくずになるか、世紀の大発見の理論を書いた論文の検証実験として利用されるとでは、天と地の開きが有る。
誇張抜きで全員が無念を胸に抱えながら、論文の参加を約束する契約を結んだらしい。
中には猜疑的な人もいて、論文を盗む詐欺では無いかと不安がられたらしく。
確かにこれだけ大規模な人数を集めて詐欺はやりようが無いのだが、気持ちは分かると。
実際有る話らしいので。
じゃあ新理論の提出辞に参考文献として自分で提出しろと言われて終わったらしい。
内容に齟齬が有れば、それはそれで問題も有るので、提出前に確認して問題が有れば参加を拒むがそれでも良いか?と交渉したら、向こうは諦めたそうだ。
論文に慣れた錬成師ならともかく、内容に不備が有れば事前に連絡を受ければ訂正も出来る。
でも直前だとそれは行えないとなれば、諦めるしか無かったのだ。
そして荒れてる人達を前にして、「正史に残る貴重な論文に参加して下さった皆の努力に対し、神に感謝を捧げよう」と、丁寧に言い捨てて帰ったそうだ。
だからあっさりと新理論の提出時に、大規模な講演会を行う事が異例として決定された。
ようは研究発表会だ。
それの審議はこの発表会が済んでから行えば良いだろうと言う、前代未聞の傲慢ぶりに、錬成師会が大揺れに揺れた。
本来なら師匠が弟子の錬成師見習いが書いた論文を添削して、偉い人達が年に1度は行う審議会に数カ月前に提出を行い。
更に実験結果と論文に齟齬が無い事を確認して。
ようやく晴れて論文の正当性が認められ、研究会などで発表を行うのが流れだからだ。
先ずそんな異例な事が実践出来る事になったのは、カルマンさんの息子を始めとした数々の患者に劇的な回復を確認出来たせいである。
本来お嬢さんもお師匠さんも、従来の提出方法を守ろうとしたのだ。
でも錬成師界が待てなかった。
我こそはと言わんばかりに、早期の公表を彼方此方から直談判されて、興味を持った重鎮がゴーサインを出したせいである。
ちなみにこの重鎮とは国王様だ。
普通は国王になるのに錬成師になる必要は無いそうだ。
でもそれなりに錬成師の知識があった方が良いので、可能なら錬成師見習いぐらいの教養は好意的に受け入れられてた。
王位を継ぐに必要な皇太子候補として、帝王学を学んだ後に希望があれば、錬成師見習いの教育を受けられるのだそうだ。
王子の中に錬成師見習いと騎士見習いがいたとすれば、錬成師見習いが皇太子として望まれる可能性が高く。
権力争いの決め手になるのだとか。
でもこの国王様は、超がつく程の飛んでもなくぶっ飛んだ天才児だった。
それはもう教育を担当した人たちが可哀想になるぐらい、酷かったらしいと、楽しそうに取り巻きのお爺さんが言ってた。
何せ帝王学を10歳までで修了し、本来から魔法師を学んで錬成研修生になる所を、王族で家庭教師から英才教育を受けられる環境をフル活用し。
教師の尻を叩いて7歳で既に魔法師の修了資格を会得した挙句、10歳と言う幼さで最年少の錬成研修生としてコレまた自分家(王城)で入学資格をもぎ取り。
学校には実習だけ個別対応をしてもらい、何せ次期皇太子候補なので学校に普通に通わせて貰えなかったらしい。
(この時王様のお父さんが皇太子だったらしい。)
そして錬成師の勉強をしながら、剣術も鍛えて騎士見習いの学科のみ修了し、挙句の果てには趣味で魔導具師の資格まで取り。
在学中に見習いにならずに錬成師になっちゃったらしい。
流石に併用し過ぎて15歳まで掛かったそうだが、騎士見習いになれなかったのは実地の実習に参加させて貰えなかったのと、魔導具にハマって途中から魔導具ばかり作って遊んでたのと、かと言って錬成師も好きだから魔法生物をわんさか作り。
国で10人も居ない魔導錬成師になっちゃったのだ。
しかも最年少の15歳で。
ぶっ飛び過ぎで有る。
ちなみにモッブを作ったのは国王様だった。
アレが錬成師になった決め手だったらしい。
確かに道路整備する馬車って、画期的だよね。
そりゃ通るわと納得したよ。
お嬢さんがアレだけ天才に殺意を持ってたのが、何となく分かった気がした。
これはもう何の情報も無かったので、単なる私の妄想なんだけど。
天才のお父さんに秀才のお姉さんの気持ちが分からなくて、無自覚な無茶振りをしてたんじゃ無かろうか。
もしくは手本みたいな感じで、超絶スキルをかましたか。
まぁお母さんの様なトラウマを植え付けられないぐらいには、お嬢さんは優秀だったから良かったけど、やってる事はマゼランお祖父ちゃんと同じだ。
あえて確認する勇気も無かったので、素早く意識から流したけれど、お嬢さんのあの天才への荒れっぷりを思えば何となくそんな感じがした。
まぁ国王が錬成界隈の重鎮と聞いて、何でや?って質問して答えが帰ってきたのは、本番直前にその重鎮様の取り巻きの中でも一際偉そうなお爺ちゃんが、挨拶代わりのマイクテストで「今回は重鎮であらせられる国王も参加してるので〜」的な牽制で、私がウッカリ「どうして国王様が重鎮なの?」と、質問したせいで起きた、国王様の取り巻きの自慢話で分かったのだが。
本番直前にネタバレしないで欲しかった。
皆聞いた事があったんだよ。
酔っ払って記憶が怪しいジギタス叔父さん以外、お嬢さんのポロリを覚えてた人達は少なく無かったのだ。
まぁマリア婆ちゃんとお母さんは通常運転で、「そう言えば最年少の錬成師さんになった話を何処かで聞いた事があるわぁ~。王様のことだったのねぇ〜?」だなんて、天然でテロするもんだから、向こうは向こうで平民にまで話が伝わるだなんて、国王様は流石です!ぐらいに盛り上がってたけど。
王様は苦笑いが酷かったよ。
やめろやめろと何回も、隠しながらキレ気味に止めようと頑張ってたのが可哀想で、逆に面白かった。
指揮する予定だったエリザベスお祖母ちゃんは、最年少発言で固まっていた時に発生したテロにやられて、盛大に悲鳴を挙げてひたすら呪文の様に謝罪を繰り返してたし。
お父さんも青ざめて、お母さんの口を塞いでるし。
あっちこっちでお母さん!と、言えない面々が黒魔石!と叫ぶし。しばらくはテンヤワンヤしてたら、向こうの取り巻きさんはとても楽しかったらしく。
叱られずに済んで本当に良かった。
機材の管理をしてた、この時のギルバートさんの遠い目は、一生忘れられないと思う。
でもまぁコッチがカマそうと思ってたのに、してやられた感はある。
要は内容をまだ把握できないお爺さん錬成師は、テメェ程度の天才なんざゴロゴロしとるわい!と、自分の知る最も優秀な存在を出して、コッチを威嚇したんだろう。
つまり此処まで大事にしといて、つまらんもん出して来たら許さんからなと言った脅迫とも言える。
根っからの天才魔導錬成師の王様は、普通に参加したいだけだったので、此方を萎縮させない様にやめろやめろとワザと連呼したんだと思う。
何度も国王として来てないよ。
気にしなくて良いよと、エリザベスお祖母ちゃんが謝罪してる最中優しく慰めてくれてたので、何となくそんな気がした。
まぁお嬢さんのお父さんかと思えば何となく、寛大な人だとは察せられる。
まぁ魔導錬成バカなだけなのかも知れないけどね。
それを思えば思いっ切り動揺してる皆の中で冷静になれた。
でもエリザベスお祖母ちゃんは立て直せないだろう。
国王と言えば、平民からしたら神様と似た存在なんだもん。
しかも今頃青筋を浮かべてるだろう、サラディーン様とご飯を食べた上でワインまで奢って貰ってるからね。
アレコレと記憶がフラッシュしてて、パニックを起こしてる。
上の方のご令嬢とは察してても、正真正銘のお姫様とまでは考えて無かったんだろう。
私は割りと初っ端でお嬢さんが誤爆したので、確認までしてたから動揺はそんなに無かったけども。
ただ猛スピードでコレからどうしようと、悩んで遠い目になったギルバートさんが哀れだっただけ。
頼れる戦力が2人程撃墜されたのは、正直に言えば痛かった。
でも売られた喧嘩は買うと決めたのだ。
私は家族の為の騎士なのだから。
「それでは平民が論文の発表前に何かを話したいらしいが、一体此方に何を求めているのかね?本来であれば決して許される事では無いのだが、どうしてもと請われてこの時間を作ったのだ。言葉についての無礼は、この場に限ってのみ咎めぬ事となっておる。
ゆめゆめそれを忘れぬ様に発言するが良い。」
「はーい!それじゃあ自己紹介から始めます!黒魔石はこの中に1人だけいます!
でも性別やえーと⋯ねんれ?ねんれーが分かったら、さらわれちゃうって錬成師見習いさんに言われたので、家族の皆でお話ししよーねってなりました!」
私はサッと隣にいたロベルトお兄ちゃんを叩いた。
「え?俺?何で⋯いて!分かったよ。えーと、黒魔石です!」「えと次は私ね?黒魔石です!」「俺が黒魔石じゃよ。」「うひょひょ⋯私が黒魔石だよぉ。」「私が黒魔石なの〜宜しくお願いしますわ〜」「く⋯黒魔石です。妻が⋯ゴホン。黒魔石が申し訳ありません。」「俺が黒魔石だぞ!ホントだぞ!」「俺も黒魔石だな。」「わ⋯わた⋯私も黒魔石で御座います⋯娘が⋯いえ黒魔石が大変なご無礼をどうか⋯」「すまんな。俺が黒魔石だ。」「んー、何だかバレバレなんだけど、まぁいっかあ。」「⋯最後になりますが私が黒魔石です⋯」
ロベルト、カタリナ、マドルスお祖父ちゃん、マリア婆ちゃん、お母さん、お父さん、何だか張り切ってるジギタス叔父さんに恥ずかしそうなタルクス叔父さん。そしてガクブルが止まらないエリザベスお祖母ちゃんに、何とかフォローしようと必死なマゼランお祖父ちゃん。つい思わず突っ込んだ私と、最後に消え入りそうになってるギルバートさんで挨拶は終わった。
もうお母さんのテロで並んでた順番が入れ違うし、エリザベスお祖母ちゃんは倒れそうになってるし、ギルバートさんは心が飛んでるしでワチャワチャしてる。
「なんともまぁ騒がしいのう。まぁ言わんとする事は分かるがの。それで早う応えよ。」
「えーと⋯私は教会では王様は良い人で、貴族には良い人と悪い人が居ると習って来ました。
その為に錬成師見習い様から、今回の発見が素晴らしいものだと褒めて頂いたのですが、恐ろしい事に思えたのです。」
「俺は狩人だが、師匠より引き際を見極め切れぬ者は、良い狩人とは言えんと言われて育てられて来た。
精霊実と言う物を見つけた狩人が、狩りに出かけている間に強盗に押し入れられ、狩人以外の全ての家族が殺された話も教訓として聞かされている。」
「だから捨てようと思ったのよねぇ〜。だってぇ、家族の方が大切ですもの〜」
「そうよ!発見とか知らないわよ!だから欲しいなら自分で勝手に言えば良いじゃないってちゃんと言ったのよ!」
「けどよぉ⋯その錬成師見習いさんがよぉ〜」
「自分が見つけたんじゃ無いから貰えないって言うの。
だけどどうしても大切なものだから、捨てないで欲しいって言うの。私、錬成師になりたいって思ってたから⋯つい後の事を考えずに良いよって言っちゃったの。」
「でもなぁ〜わしらにゃ、どーしても怖いよなぁ〜。」
「教会には絶対に駆け込むなと言われたんだ。黒魔石から話を聞かされてなるほどとは思ったが、錬成師見習いに騙されてはおらんかと不安じゃった。」
「教会の人はエエ人だよぉ~」
「だが立場が違えば考え方も変わる。もし教会が我々の安全を考えて、貴族から逃す為に国外へ連れ出されてはかなわん。」
「黒魔石と、その黒魔石の家族は平穏無事に日々を送る事が何よりも大切で掛け替えの無い希望なのです。」
「俺達は錬成師見習いを信じる事にした。だが錬成師見習いが良い貴族だとしても、他の者がそうかは分からん。」
「怖いんだよね。だって知らない世界で生きてる人達なんだもん。凄い人ってのは分かるけど、なら信じられるかって言えば難しいんだよ。
皆が錬成師見習いさんみたいな人達だったら、そこに行きたかったんだけど。」
「あぶねーのが居たら困るだろ!馬車を横切ったら切られちまうんだぜ!」
「妾にするって勝手に嫁になる女連れてくんだろ?ヤベェよなぁ。」
「王様なら間違いは無いと思うが俺達にはどの貴族が良い人で、誰が悪いのかはサッパリ分からん。」
「だからね?錬成師見習いさんにお願いしたの!どうか家族の皆が困らないようにしてねって!」
「なりたいもんになれるんなら、がくえん?とかにも弟子入りしてもええんじゃがのぉ⋯」
「心配なのよ。だって黒魔石は、あ。私が黒魔石なんだけど、大事な家族だから!」
「たく何とちってんだよ。」
「煩いわね!たたくわよ!」
「コラコラ、今は喧嘩はよしなさい。」
「え~とつまり、私共が平穏に暮らせる様にして頂きたいのです。」
「そおなのよぉ〜。見つけたものが1つだけなら良かったんだけど、黒魔石ったらポンポンみつけて来ちゃうのよねぇ〜。困っちゃうわぁお母さん。」
「それ言ったら駄目なやつ!」
「もう黒魔石に喋らせるな!」
「お祖父ちゃん怒ったら駄目だよ!黒魔石が怯えてるじゃん!」
「才能が大き過ぎて恐らく隠し切れないかと思われます。
早急に対処をお願い致します。黒魔石はこの家族が側に居るからこそ、黒魔石なのです。
いずれ望んで国立魔法学園へ入学を希望するかと思いますので、それまでは呉れ呉れも慎重な行動を宜しくお願い致します。
なので今回の発表に至り、錬成師見習いは家族の騎士になると断言しております。」
「だって産まれて来なけれ良かったと思うぐらいなら、さっさと死んだ方が良いと思わない?」
「こりゃ!またそげなこと言うか!」
「だってよぉ。俺のせいで家族が死んだらよ。辛いに決まってんだろ。なら俺のちしき?ってのが欲しいなら⋯あー⋯」
「胸が詰まるよね。
だって良いことをしてるはずなのに、どうしてこんなに怖がらないといけないの?」
「錬成師見習い様に驚いて褒めて頂いたのは有り難く思うが、幾ら金を稼げた所で家族を奪われるのであれば何のための稼ぎなのか俺には分からん。
黒魔石1人犠牲にして済む話では無かろうと思うのだが⋯、そちらではどう考えておられるだろうか。」
「ねぇ〜無理矢理連れてくなんてしない?」
「絶対に渡さないからな!」
「偉い人達ならそろそろ誰がホントの黒魔石か分かってると思うの。」
「だから最後にしよう。
知識が欲しければ黒魔石から家族を奪うな。平穏を踏みにじらないでくれ。」
「此方からの要望は以上になります。ご清聴ありがとう御座いました。
願わくば教会よりも貴族を頼る選択した我々の信頼を、裏切らぬ様に取り計らって頂ければ幸いに御座います。
家族がたった1人でも犠牲になるのなら、黒魔石は騎士として殉死致す覚悟に御座いますれば、どうかウェスタリアの黒魔石を砕かぬ様ご配慮願います。」
最後には持ち直してくれたギルバートさんが綺麗に纏めてくれた。
「⋯フン。終わりか。
まぁ言わんとする事は此方もシッカリと考えておるわい。不安は大きいであろうが、儂らは全力を尽くして望みをかなえる為に最善を尽くす事を約束しよう。
だがそれほどの事なのか。
ウェスタリアの黒魔石とは大きく出たものだな。」
「はい。何せ世界を揺るがす世紀の大発見を、たった1月足らずで最低でも3つは見つけてしまう様な稀代の大天才なのです。」
「ほお?1つでは無いとな?」
「恐らくはまだまだ抱えている様で、最初に黒魔石を発見した弟子と共に毎日走り回る有様でして。いやはや心労で倒れそうに御座います。
私共が黒魔石の発見に追いつけず、今回は無理矢理2つを1つに纏めております。
これは本来であれば1つ1つ論文を完成させる価値があるのですが、この理論をもってして開発するのでは遅すぎる症例が有りまして、黒魔石の知恵を一鐘でも早く広める為に御座いますれば、不甲斐ない限りですが、ご助力頂きますれば幸いに御座います。
命が有れば済むと言った段階では無く。黒魔石が黒魔石たらんとする理由を、論文には例外として書かせて頂いております。
それ以上の情報の開示は現在断固として致しませんので、私自身。黒魔石とはまだ対面させて貰えておりません。
発見した弟子も秘匿する事を条件に、発表へと至った次第に御座います。」
「あぁ、スマンな。そなたの心労は察して余りあるが、さっさと発表してくれんか。
お預けを食らった者の圧がうっとおしくて敵わんわい。」
話がなげぇよ!と、言わんばかりの視線を一身に浴びたお祖父ちゃん取り巻きが、特に国王からの無言の圧に屈して発表を促した。
「では始めます⋯」
こうして「太陽と月の関係性。その概念を肯定する為の理論の発見。」と、銘打って論文の発表が始まった。
私達はもう仕事は終わったけれど、魔力の許す限り向こうの反応が知りたかったので、静かに耳を済ませて、お嬢さんのお師匠さんの発表を聞いている。
エリザベスお祖母ちゃんは気が緩んだのか、マゼランお祖父ちゃんに背もたれてグッタリとしていた。
お父さんはお母さんがウッカリ発表中に声を出されないか、ハラハラしつつ側に控えており。
マリア婆ちゃんは終わったからと、渋るカタリナとロベルトを連れてジーニスのマルセロの所に戻って行った。
マドルスお祖父ちゃんは居残ってコッソリとお母さんの横に移動してた。
いやマリア婆ちゃん、お母さんを連れてってよと、思わないでも無かったけれど、一応親だからね。
娘のやらかした成果を知る権利ぐらいあるかな?と、お父さんに任せる事にする。
ジギタス叔父さんとタルクス叔父さんは2人揃って仲良く腕を組んで、通信の魔導具の魔石を睨見つけていた。
ギルバートさんは魔導具の横に座って、静かに耳を澄ましている。
通信の魔導具は、壺みたいな形をして、壺の先がこっちに向いてる。
私達の声はココから向こうに流れて行く仕組みらしく、向こうの声は魔石がハマってる所から流れて来るらしい。
なので姿が見える訳では無いので、向こうに何人居るのかは分からないが、ガヤガヤザワザワと時々漏れてる音で、そこそこ人が居る事を予想してた時。
「嘘だろ?!」「まさか!」「そんな馬鹿な!」「なんてことだ!なんて事なのだ!」
「嘘ダウソタウソだ⋯」
「何たることだ!こんな⋯こんな馬鹿な!」
『うわあああーーー!!!』
『ヒイィィィーーー?!』
「あり得ない!頼む!あり得ないと言ってくれえぇぇー!」
「やめろ!やめろやめろやめろ!これは間違いだ間違いなんだ!魔力はあるはずなんだ!」
「ほげぇぇ⋯」
「何だ?何なんだ?!これは一体何を聞かされたんだ?!」
「あははははは!
そうか!そうかそうかそうか!
アハハハハーーーー!!!」
「陛下!陛下を守れ!」
「落ち着いて下さい!」
「誰が増援を呼べ!!!」
「陛下!落ち着いて下さい!」
「一体何が⋯???」
「新手の幻覚か?」
「それだと、何故騎士は無事なのだ?!」
「取り敢えず鎮静させるぞ!」
「陛下が居られるのだぞ?!」
何だか皆頭を抱えてのたうち回ってるのか、ガタンゴトンとかドターン!ガチャガチャ⋯やら、何かが斃れる音やら、悲鳴や叫びが魔石から響いて来る。
もう阿鼻叫喚の地獄絵図。
いや音しか聞こえて無いけどね?
そして人一倍ヤバい感じに笑ってたの多分アレ国王様だ。
国王様が発狂するの不味くね?
騎士さん達の混乱と苦悩もまた、凄まじかった。
⋯まぁね。
思いついたら何でもない事だからね。
もうそこに居る全ての人達が肌で感じてた事なんだけど、私が地面に落ちてる種を見つけられなかったのと同じで、消えた先をずっと探し続けていた人達には、とても信じたくない気持ちで一杯なんだろう。
お陰様で提出してくれた研究論文の中には、魔力の数値化へ挑戦していた人のが有ると聞いて、それは勿体ないので、別枠で続けて欲しい研究だと伝えて貰っている。
多分消えた先を探していたから、何時までも終わらなかったんだろう。
御愁傷様である。
いや私もそう言った論文を聞けば、今はまだ見つけられてないだけで、先が有ると思っちゃうんだよ。
知らないから見えてくる真実とは、やはり恐ろしいね。
それでも空気中の魔力はゼロとは思えない。
それは全ての生物に魔力が有るからだ。
森では森の。村や街でも人間や植物などから漏れてる魔力が、消滅までの間漂っているからだ。
何だったら地面にだって魔力は有るからね。
私は地面に魔力が有るのは、雨の影響だと考えている。
雲は日の光に当たっているが、スモークの状態なので雲の中は日陰と同じでは無いかと仮定している。
そして気体の魔力は水に溶ける性質を持っているのでは無いかと推測していた。
地上から水分が水蒸気となって登る際に、空気中の魔力を吸い込み、日の光に消されながらも空に登って雲になる。
そして夜になれば月明かりで照らされて、魔力が増幅するのだが、水分が上から段々と中に降りて行くせいで、雲の中頃は魔力が増えているのでは無いかと考えたのだ。
そして雨になって地上に落ちる時は薄暗くなっているせいで、地面の中に魔力のある水分が浸透して行く。
とまぁこんな感じかな。
ソッ⋯と通信を終わらせたくなって思わず現実逃避してたら、コッチの人員達の顔色もドンドン青ざめて行くし。
何ならマゼランお祖父ちゃんは、小さく頭を横に振ってエリザベスお祖母ちゃんをお姫様抱っこして避難しに行った。
あらあらまぁまぁと、お父さんに擦り寄りながらも。
ホラー映画を見るのを楽しんでる女子高校生みたくなってる母が、1番精神的にタフそうに感じつつ。
「ご静粛に願います。
まだ発表の序盤でありますが、このまま永遠に偉大なる発見と、それにまつわる新しい技術の発展に触れぬまま去りたければ、発表を終わりとさせて頂きます。
誠に遺憾ながら私も数日前まで同じ状態になりましたので、お気持ちは深くお察し致します。
⋯ですが知りたくは無いですか?
ウェスタリアの黒魔石が、いかに黒魔石たらん存在かを知らしめる理由を。」
「フン!発表をつづけよ!
聞きたくない者は今すぐ部屋から即刻立ち去れぃ!!!」
お師匠さんの落ち着いた声は、阿鼻叫喚の喧噪の中でも静かに流れていたので、部屋の中の方では聞こえて無いんじゃないかと思うぐらい、儚かったのに。
重鎮らしい、国王様の取り巻きっぽいお祖父ちゃんの雷が落ちたらシーンとなった。
良く躾けられてらっしゃる。
偉そうなだけあって、本当に偉い人だったらしい。
「しかし!これ以上は危険です。陛下は即刻ご退場願います。」
「フ⋯馬鹿を言うでない。
殺すぞ?」
「は?」
「いや、黙っててくれ。
これからが面白いんだろう?
聞かずして済ませる訳が無かろうが。」
「しかし⋯」
「フン。後継なら居るでは無いか。先王に戻しても構わん。
我は引かんぞ。続けてくれ。」
メッチャ怖い。
死んでも良い騎士さんが、ガクブルしてそうなぐらい怖い気がする。
執着と言うか、信念と言うか⋯もはや怨念?て、ぐらいに威圧を放ってる気がする。
おかしいな。
音の聞こえる魔石から、変な魔力でも届いてんの?
地獄と繋がっちゃった?
と思うぐらい低い声だった。
「では、何故この理論に至ったのか。平民でしか無い黒魔石の思考を、錬成師見習いが一言一句漏らさずに書き留めておりましたので、紹介をさせて頂きます。
前提として、黒魔石は我々の想像以上に知識と触れる機会は無く。
支離滅裂な思考の飛び方をしておりますが、ご承知を願います。疑問がありますれば後で質疑応答を受け入れますので、通信の魔力が切れておりますれば、黒魔石の代わりに私めが回答させて頂きます。
回答の難しい質問につきましては、後日黒魔石に確認の上学園の掲示板に掲載を致す所存で御座います。
さて話を続けますと、前提として6級の魔物である、ヤラマウトが出て参ります。
これがそもそも私の弟子と黒魔石が遭遇するに至った経緯にて、説明をさせて頂きます。
時系列に致しますれば、森の奥地に住むヤラマウトの幼体が、長閑な農村で若干6歳の男児を噛んだ事から事件は起こりました。
本来生息地で有る森の奥地から、ヤラマウトの成体が水脈で人工小川に辿り着き、岸辺に卵を産み付けたのでは無いかと予想しております。
現地を捜索し、死亡していたヤラマウトの成体を調査に向かった弟子が確認しております。
そして産み付けた卵から羽化した幼体が、人工小川で戯れていた幼児の集団の中で6歳の男児を襲ったそうです。
幼子の足ではとうてい鐘1つでは解毒が間に合わぬ距離にあったとの事ですが、この男児は鐘1つ以上生き延び、解毒が無事間に合ったと報告を受けております。
魔力の低い農村で羽化した為、元来の毒性が退化していた為では無いかと推測し、研究の為に検体を採取するため、錬成師に憧れて興味を示し情報をもたらした黒魔石の案内の元⋯」
とまぁ、淡々とあの時の流れを報告して行く。
聞いてる人達はヤバいぐらいに無言だった。
さっきまでサワサワしてたのに、発狂してからは全然静かになっている。
「黒魔石と弟子との会話形式となりますので、性別や年齢が分からぬ程度の変化は入れております。
それでは黒魔石の発言から参ります。
魔力が減るのは分かったけれど、減った魔力が何処に行ったのか、何の働きをしたか分からないと。つまり陽に当たると魔力は消えるって事ですか。それってそれで証明に成りません?
この黒魔石の発言に対し、弟子は追求を行いました。
何の為に?
生物が生きるためとか?
どうやって証明するの?
そうですね。今の私ではまだ難しいみたいです。
ふぅん?相変わらず強気ね。
一応思い付きは有るので。
聞かせてくれないのは何故かしら。
そう思った理由を説明するのが難しいんです。なのでいつかきっと相談するかなと思います。楽しみにしてて下さい。
この発言を挑発と受け取り、面白がった弟子が更に追求をしたそうです。」
ほぎゃー?!
え?ちょ、マジお嬢さん。
何をやってくれてんの?!
しかもコレ読まされてるのお嬢さんの師匠だから!!!
男性!なんかクール系の中年男性よ?!
てか明らかに弟子が女性だよ!?
良いの?!
あ、姫だから良いの?
だからなの?!
てかキモい。そして私がクッソ恥ずかしい。
むっちゃ生意気じゃん。
勘弁してよぉ~。
ナニコレ復讐?復讐なの?!
もぉやだ最低!
コッチの皆、無言でガンを飛ばして来るんだけど。
ギルバートさんだけが涼しい顔してるけど、私の顔は真っ赤だよ。
なんの公開処刑かな?
私がパニックだよ。
「竈門に木を入れて火をつけたら燃えます。
木が黒くなっても炭って言って、火をつけたらまだ燃えてます。
灰色になったら火が消えました。火をつけてももう燃えません。
木を素材、火を太陽として考えました。火をつけた木は熱くなってお料理に使います。ずっと火をつけてたら木が使えなくなるまで燃えてしまいます。
そう思った時に月のことを思い出しました。
えぇ~と、もし太陽が魔力を消す働きをするとしたら、月は魔力を増やす働きをするのかな?ってお姉さんの話を聞いて考えました。もし太陽が無くて月しかなかったら魔力がどんどん増えていきます。
今度はヤラマウトを思いました。
お母さんヤラマウトは森から出て来たら魔力が無くなって死んでしまいました。
人は魔力の少ない所で生きてるのに、魔力が沢山ある所でも生きて行けるのか不安になりました。逆のことをしたヤラマウトは死んじゃったからです。
なのでもしかしたら太陽は魔力が増えすぎないように、魔力を消してるんじゃ無いかと考えました。人が生きるために。
えーと⋯こんな感じです。
でもそれをどうやって証明したら良いのか私は良く分かりません。
以上が黒魔石の最初の気付きでした。
この時点ではまだ単なる思い付きに過ぎず、立証する手立ては何も有りませんでした。
そこで私の弟子が罪人を使用し、高濃度の魔力を溜めた部屋で罪人が生き延びられるかを、実験したらどうかと私に提案致しました。
それは直ぐに私が実現が困難であると指摘した為、驚いた事に錬成師見習いの弟子は、黒魔石に助言を求めに行ったのです。
すると話を聞いた黒魔石は、それならばこれまで日の光の研究をしている優れた先達がいるのだから、その者達に強力を求めれば良いと提案して来たのです。
私共もこの理論が立証されるに辺り、これまで数々の努力を積み重ねて来た者達が、少しでも報われるであればと奔走致しました。
そして僅か1月ほど、論文の提出に向けて黒魔石から目を離していたら、その者は新しい理論を⋯。理論を使用して⋯。
⋯申し訳有りません。
私も未だに動揺してるのです。
大変失礼致しました。
黒魔石は新しい理論を使用して、自宅にある倉庫の裏に生えていた乏しい自然の魔力草を利用し、種を得るまで人工的に魔力草を育生する事に成功していたのです。」
ザワリと⋯空気を飲む音と衣擦れが魔石の向こうから伝わって来た。
「その際に黒魔石が使用したのは、普段生活で使用していた木製の器と、魔法で出す水。それを器の1杯から2杯と言う事でした。」
「嘘だ!」「デタラメだ!」「何だ!わざわざ猛言を聞かせに来たのか!」「恥を知れ!全くバカバカしい⋯」
「静粛に願います!
これは公式に研究発表の場で有る事をお忘れ無き様に。
本来であれば現物を提出する事で立証を行いますが、今回は時間が足らず、新しい理論を使用した育生の手段を公表する事で、証明の代わりに変えさせて頂く所存で御座います。
真偽を疑うので有れば、各自ご自分でお確かめ頂きたく存じ上げます。」
「バカな⋯」「あり得ない!」「あり得ないあり得ないあり得ない⋯」「これは研究者に対する冒涜だ!」「それでは利権はどうなるのだ?!」
「どうなっている!平民相手に搾取するつもりか?!弟子を導くのが錬成師の役目で有ろう!」
「ご静粛に!!!
これは私の弟子が!
私も弟子に!!!
何度も何度も黒魔石に、弟子に、確認して行った提案であります。
平民である黒魔石は、恐ろしいほどに貴族である私共と価値観が全く違うのです!
それは先程の黒魔石からの主張で、存分にお聞き頂けたかと存じます。
その上で黒魔石は、私共が想像するよりも遥かに善良な性質であり、豊かな発想と知性を持ち合わせて要ると申し上げます!
これは黒魔石からの我々への挑戦状に価するのです。
ウェスタリアの黒魔石たらん、国の宝である存在を、どうか目を逸らさずに認識して頂きたい!
これは1錬成師として、非常に希少で守るべき価値の有る者だと提案申し上げます。
つきましては魔力草の人工育生の手段を公表するに辺り、黒魔石からの希望をお伝え申し上げます。
黒魔石に寄れば、現在村に暮らす農民の家庭では、出産後に初級の回復薬を使用しているそうです。
半年で麦、銀貨50枚。
3カ月で芋、銀貨20枚と言う年収に比べて、銀貨50枚の中級回復薬が非常に高価である事が要因に上げられます。
そこで黒魔石からどうか農村で栽培する魔力草10本を、正確に採取している品質の品に限り、一度に納入する条件の元で銀貨10枚での買い取りを錬成師の店希望する提案がございました。
しかしこれはあくまでも現時点の提案であり、戦士ギルドによる戦士からの提供を疎外する意図するものでは有りません。
むしろ自然の魔力草との区別が可能であれば、錬成師見習いに迷惑がかかるから、戦士ギルドでの買い取りをして貰っても構わないとの事で御座います。
そしてそれに当たる問題については、無知な自分が考えるよりも、経験に富んだ為政者が考えた方がより安全で公平な取引が行えると考えるため、出産時に村人が中級回復薬を手に入れられる手段として、国に広げて貰いたいとの事で有ります。
重ねて申し上げますれば、国の批判によるものでは無く。
現時点では利権で損失を受ける者も存在しない点をふまえての、家族を守る協力をして欲しいと言う。
他愛もない黒魔石の願いからの提案で有ります。
どうか不正が起こらず。
錬成師や戦士ギルドの迷惑にならない方法で、宜しく頼むと言う事で有りました。
どうか此処に居られる錬成師、錬成師見習いは、各自その誇りをと覚悟を持って、黒魔石が見つけた魔力草の栽培記録をお聞き下さい。」
「駄目だ!それでは黒魔石の願いが踏みにじられてしまう!」
「そうだそうだ!」「公表の手段を考え直すべきだ!」「何を言うか!我々は試されておるのが分からんのか!」「そうだコレは試金石だろう!」「平民如きに我々は試されておるのだぞ!」「堂々と拝聴してやれば良いのだよ。その新しい理論を用いた育成法をな。その覚悟が無い者は出て行けば良いのだ。」「ふっ⋯どうせロクなものでは無いだろうよ。」
まぁ、賛否両論。
人それぞれのね。
我ながら無謀な提案をしてると理解している。
戦士の大多数は元農民の出身だ。
つまり夜間に無れば無防備な魔力草が取り放題になる。
防犯とはとても難しいものである。
だから難しい事は全て偉い人に、ぶん投げる事にした。
「⋯まだ黒魔石と通信が繋がっております旨を謹んで申し上げます。発言の際には呉れ呉れもご注意下さい。
黒魔石は聞いておりますよ。
我々貴族の度量と覚悟と誇りと信念が、いかなるもので有るかと言うこのを。
では続けます。
1日目 倉庫裏にて発見した魔力草は森で生えているものよりも丈が低く、ヒョロリと細かった。
その日は観察するだけにとどめる。
これから自然の魔力草が、一体どの様に成長するかを観察して、人工的な栽培の目安とする。
これは平民が単位を知らない事による情報の記載の為、不確かな表現で有る事をお許し下さい。
先ず黒魔石は錬成師見習いに見せる事で、それが魔力草で有ると確認致しました。
2日目 前日と比べ葉の元気が無い。
これは春から夏に向かう事で、太陽の位置が変わったせいで、日光が成長の邪魔をしていると予想する。
これでは自然の成長は見込めないと判断し、介入を行う事とする。
その為麦を詰める袋と、近所のの雑木林より小枝を拾って使い。
人工的に屋根を作り、日陰を作った。
そして井戸水を与えて観察を継続した。
3日目 魔力草は更に元気が無くなっていた。
早くも観察の失敗を予感させる状態にまで悪化しているのを確認した。
これはウッカリ日陰を作った私のせいだと思われる。
月の光が当たらなかったせいで、成長を邪魔してしまったと予想する。
だがこのまま放置では育成は難しいと判断する。
枯れる事を前提として介入を行った。
家屋での栽培するに辺り、木のコップを準備してみたが、底に穴が無いので水が逃げられない。
このまま水を入れてしまえば、地面と違って泥になってしまう。
そのため私は水だけで栽培する事を決めた。
この数日の観察により、魔力草は水と月の光で成長する可能性が高いと思考する。
土の栄養は欲しいが魔力の栄養の方が価値が高いと判断し、切り捨てる事にした。
水は井戸水では無く、魔力で出した水を使用する。
日が暮れるまで家に入れて、日に当たらない様に気を付けた。
日が暮れたらさえぎるものの無い平地に魔力草を入れたコップを置いて、その日の観察を修了する。
4日目 魔力草が元気を取り戻してくれた。やったね!
私の理論が正しいと証明出来たので、変化が有るまで毎日観察を続ける。
20日目 魔力草が倍近く育った。上の方に蕾みたいな膨らみを見つけた。だけどそのせいか、葉に元気が無くなってる気がする。
土を使わずに育ててるのが悪いのか、蕾に魔力を取られているのか判断が難しい。
けれど魔力草の栄養は麦と違って魔力だと思うので、魔力が不足していると予想する。
なやんだが魔力を増やす事は難しいので、コップ1杯の魔力の水を朝と晩の2回に増やして対応するこのにした。
21日目 よし!元気が戻った。本当に良かった。おそらくもうこの手前で魔力草は採取が可能と思うが、種まで育てて見る事にする。
30日目 花が咲いた!
青色の可愛いお花だった。
33日目 種が取れた。
魔力草は種を撒き散らす様で、朝に発見した時は枯れて萎れていた。種は地面に15粒落ちていた。
今回は成長途中での栽培なので、次は種の発芽から行う事にする。
あと木のコップでは月の光が上にしか当たらないので、透明の錬成瓶を錬成師見習いさんから買って、育成の効率化を試そうと思う。
以上を持ちまして観察記録の報告を終えます。」
「何故そこで土を捨てた?!」「何故水だけで育てようと考えられるんだ?!」「あり得ない!何なんだコイツは!」「シッ!馬鹿者!黒魔石殿が聞いて居るのだぞ」「そうだぞ!口を慎め無礼者めが!!!」「あー⋯もう嫌だ。」「ああぁぁ気が狂いそうだ。」「何なんなのだ。発想が予想外に過ぎる。コレが本物だと言う事なのか?!」「だからウェスタリアの黒魔石なのか⋯ハハハ私は一体今まで何をしてたんだ?」「天才なら仕方が無かろう。」「馬鹿者!天才などと言う可愛い存在なものか!」
ザワザワガヤガヤと魔石向こうから悲鳴や叫びが聞こえて来る。
「最後のご報告になります。
これは緊急性が高い為、これまで魔力過多による健康被害を研究し続けた錬成師に、実験の依頼と継続と成果の報告を依頼しておりますので、報告者の交代を行います。」
「えー⋯代わります。
私は長年に渡り数々の症例を受け持ち、食事の改良や積極的な魔力消費を促す魔導具の開発を行って参りました。
今回黒魔石に寄せられた相談者は、今回の⋯はぁ⋯。
申し訳有りません⋯私は私自身が情けなく大変落ち込んでおります。
黒魔石からの指示で、私は訳も分からずに症状が悪化した被験者を庭先に出しました。
具合の悪い者を外に出す愚行に、私は強く反発しました。
ですが黒魔石より指示された、錬成師の強い説得により。
実効に移しました。
そして被験者の右掌に麻痺毒を塗り、ナイフで深く傷を作りました。
もうあり得ない暴挙に私は半狂乱となりましたが、直ぐに魔石の無い魔銀の杖を被験者に⋯被験者に持たせて魔法を発動させました。
結果として魔力過多症の症状が、劇的に改善されたのです。
なおこの被験者は、先天的に外部に魔力が出す事のできない障害を持っており。
掌を傷つける行為により⋯訳が分からない!
黒魔石殿。聞いているなら教えて欲しい!
何故この思考に至ったのか。
魔力過多症の患者には魔法薬が使えない為に、傷つける事は禁忌なのだ!!!
私は確かに日の光が素材を劣化させる事は知っていた。
だが普通は具合の悪い者を外には出さん!
何故なのだ。
何故こんな発想になれるのだ!
私は訳が分からなくて、気が狂いそうなのだ!!!
私の⋯私の長年の努力は一体⋯」
「発表者が精神的な負担により、発表が困難な為一度交代させて頂きます。
また発表者の疑問は皆様も同様にお持ち⋯私もです。
私もまだ何も聞かされずただそうしろと指示を受けただけで⋯黒魔石との交代を行わせて頂きます。」
父が大きく息を吸って吐き出した。私はあらかじめカンペを用意していたが、自分の言葉で伝えられるのであれば、それで良いと伝えてある。
「黒魔石だ。
何故魔力過多症の被験者にそれを行ったかと言えば、その被験者の母親の死んだ時の様子に、とてもよく似た経験をしていたからだ。
黒魔石は農民の中では魔力を多く持ってるらしい。これは錬成師見習いに魔力草の育生にどこまで魔力水を出せるかと聞かれて、それが分かった。
俺は小さな頃から麦に水をやる仕事を手伝っていたから、コップ100杯分は魔法の水を出せる。
今なら分かるが俺の子を孕んだ黒魔石は恐らく魔力過多症になっていた。
当時はそれに全く気付きもせず、3人の子供を産み、2回流した後の4人目の赤子を孕んだ事で、そんな状態なった。
これは2回子供が流れた事で、黒魔石が精神的に追い詰められたのと、悪阻のせいで家に閉じ籠もった事が魔力過多症の発生を促したと予想している。
今から分かることもあるのだが、当時の俺は無知で魔力過多症なんかの病は全く知らなかった。
そのせいで日々弱って行く黒魔石を、少しでも回復させようと、森に向かうことにした。
ロクな果実も買う金がないから、せめて味の良いものがないか。食が細くやつれた黒魔石に、少しでも元気になって欲しくてそんな行動を行った。
それでも一応果実をもいだ時に味見はしておいた。
甘くて美味いと思ったし、むしろ元気になった気がしてこれは良いものを見つけたと勘違いした。
俺は全く冷静では無かったのだ。
この時に村にある錬成師の店に行って相談していれば、こんな愚かな行動はしていなかったと思う。
だが当時の俺は良いものを見つけたと喜んで家にそれを持ち帰り、けれどあまりみた事の無い果実であったのでもう一度味見をした。
それでも特に問題は感じず、弱っていた黒魔石に食べさせた。
少しは元気になってくれて、久しぶりに笑顔を見せてくれて嬉しかった。
俺の見つけた物に間違いは無かったと安心して油断していたら、まだ幼子上の子に黒魔石が甘くて美味しかったからと、欠片を口に放り込んでしまった。
慌てたけれど、子供も喜んで食べていた。
更に下のもっと幼い子供も食べたが何も問題は無く。
その日は寝ることにした。
だが翌朝、何度起こしても黒魔石は目を覚さなかった。
俺は何が起こったのか全く理解が出来ず、俺も子供2人も何も問題が無かったので混乱してしまった。
俺は⋯焦る余り見落としていたんだ。
黒魔石がどれだけ辛くても明るく笑ってくれる人だと言う事を⋯。
俺が⋯俺がわざわざ森に行って持って帰ってきたから、黒魔石は⋯。グスッ。はぁ〜⋯。
そこで頼ったのが黒魔石だ。
駆け込んで黒魔石が起きなくなったと言えば日の光を浴びせろと強く指示された。
訳も分からずに言われた通りに行い、神に祈りながら過ごすと昼過ぎに黒魔石は目覚めた。
これは昔から伝わる伝承の1つで、嫁に来た時に嫁ぎ先の親から言い聞かされるものだったらしい。
妊娠したら日の光を浴びた方が元気な子供が生まれると言った伝承だった。
そして月日が流れ、新しい理論があった事で、ようやく当時に何があったか分かったのだ。
俺のいる村では魔力の豊富な森が近くにある。農民は元々魔力の両手が少ないが、妊婦になると食い物が悪阻で制限される。少しでもと身内を案じた俺と同じ行動を起こした者が、魔力の強い果実を食べさせたとすると、体調の悪い妊婦は魔力が負担となり日に当たらない生活になっていたせいで、魔力過多症を一次的に発症していたのでは無いかと思い当たったのだ。
だから魔力過多症の治療方法も思いついた。
だがこの発表の被験者はただの魔力過多症とは全く違っていた。
どうやらこの被験者の父親に話を詳しく聞く限り、死んだ妻は他国の人間だと分かった。
とても剣の腕の良い強い剣士だったそうだ。
だが錬成師見習いから世界とは何かの説明を受けた時、他国の状況も知る事が出来ていた。
ウェスタリアは他の国に比べて、魔力が豊富な土地と言った知識を、この時得る事になった。
そこでその強い剣士は、ウェスタリアで産まれた夫の子を孕んだせいで魔力過多症になったと予想した。だが1人目の時は問題が無かったらしい。
問題が起こったのは、夫が故郷のウェスタリアに妻子を連れて戻ったからだ。
2人目を妊娠するまでは元気だったその剣士が、体調不良により自宅で子守りをした時体調が悪くなり。
夫は高級な回復薬を与えた事で、急激に症状が悪化したらしい。
そこで始めて信頼出来る錬成師を頼ったが、2人目を産んだ後に妻は亡くなったそうだ。
そして今度は長男が成長して、魔力過多症になったらしい。
どうやら魔力を外に出せない体質だと感じた。
これは錬成師見習いやその被験者の父親から聞いた情報でそう判断した。
そこで俺の黒魔石に起こった事もようやく理解した。
なので先程の指示を出した。
手を傷つけさせたのは、魔力を出せない体質と、遮光瓶を連想したからだ。魔法薬に期限は無いと聞いたが、素材によれば劣化するとも教えて貰っている。
その為に、人間は日光浴で多少の症状が良くなるなら、錬成瓶と同じ状態なのでは無いかと考えた。また魔力草を育てた経験があり、傷つける事で魔力が漏れる事も知識としてあったので、敢えて傷をつけて魔力を使う提案をした。
魔銀の杖はヤラマウトの捜索の時に、錬成師見習いが使っていた事を覚えていた。
一度も魔力を使った事がないなら、補助出来ないかと考えたのだ。」
「あのさ。その被験者が生き延びられてたのって、長年魔力過多症の治療方法をずっと研究し続けてくれた錬成師さんのお陰だと思うんだよね。
それに黒魔石にはたまたま近い状況にあったから、良かった事を伝えただけなんだよ。
黒魔石からしたら、むしろ教えた知恵を使ってもっと良い魔導具を作ってあげて欲しいな。
だって傷つけられるのって嫌だよね!幾ら麻痺させてても、小さな子供だったら泣いちゃうよ。
だからこの知識を広めるのに、無理矢理発表に持ってきてるんだけど、そんなのどうでも良いからずっと研究し続けてくれた錬成師さんの研究に使って欲しいな。
そんで良い魔導具作ってよ。
黒魔石には出来ないから。
こんな言い方って失礼になるのかな?でも心から尊敬してるんだ。お願いだから悲しまないで頑張って下さい。
えと、黒魔石からは以上です。」
「うぅぅーーーーっっっ」
『⋯⋯⋯⋯』
泣き崩れる様な嗚咽と、沈黙。
そしてパチ⋯パチパチ⋯パチパチパチパチパチ⋯⋯!!!
そして小さな拍手から始まり、次第に割れんばかりの拍手と歓声が聞こえてきて⋯胸がスゴク熱くなった。
ジギタス叔父さんは得意げにドヤ顔してるし、タルクス叔父さんは怖い顔が緩んで優しい顔になった。
マドルスお祖父ちゃんも椅子に背もたれてはぁ~と深い息を吐くとヤレヤレと言わんばかりに苦笑を浮かべる。
そしてお母さんは単純にキャアキャア喜んでいて、お父さんは涙を拭って優しく微笑んでいた。
ギルバートさんも今まで見たこと無いぐらいに柔らかい笑顔を見せてくれて、あ。コレ、女子が倒れちゃうヤツ。
あんまりな美人っぷりに嬉しくなった。
お喋り好きなお爺さん取り巻きさん。




