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未熟な作者の作品ですが、よろしくお願いします。
私の名前はリリアナ、現在2歳。
日本人の転生者です。
姉が1人、兄が2人、弟が1人の5人兄弟の4番目の女児。
父モズグスの次女としてウェスタリアと言う王国の南部地方で、深くて大きな森が近くにあるミシリャンゼと言う農村に2年ぐらい前に産まれました。
ミシリャンゼは辺境より王都の方が少し近いらしく、豊かな自然がかなり身近にあるけれど、開拓されて100年以上経っている平地にある村です。
私が産まれた家が持ってる畑も充分な広さがあり、贅沢をしたり他人を雇うほどの裕福さは無いけれど、家族で生活する分には食うに困らない生活がおくれるぐらいの豊かさはあります。
山岳地帯や森を開く開拓村の農民や街のスラムで済む貧民を思えば、下手な街に産まれるよりもよっぽど衣食住の不足に苦労して無い方だと言われてます。
でもカタコトながらも現地のマスタリク語をようやく聞き取り出来る2歳前頃には、前世の生活に比べてバラエティーの無い食生活に始まる全てに不満が爆発しそうになってます。
チクチクする布や獣臭い毛皮の毛布も、ボットン便所やら風呂の無い井戸水での生活。
そして麦に似たアムルと言う穀物を多く育てている割に、毎日の食生活で食べている主食がジャガイモに似た芋っぽいベルチと言う穀物なのが不満の大きな理由かな。
マズいとは言わないよ。
でも米が食べたいのを百歩譲っても、芋は飽きる。
せめて美味しいパンが食べたいです。
あと肉。
もっと言えば甘味が欲しい!
ケーキやチョコレートなんて贅沢は言わないけれど、甘味と言えば野菜か果物しか無い生活は嫌だ。
せめて飴が食べたい。
砂糖が恋しくて堪らないです。
「はぁ⋯」
チュウチュウとツツジに似たピンク色の花の根元を吸って、微かな甘味を味わった後で、ため息と共にペッと吐き出す。
最近養蜂が何とか出来ないかと蜂を探しているけれど、それらしき虫を見かけた事は無い。
羽音だけ似ているのが鳥にいるのでハチドリを連想するけれど、都会の雀ばりに数が多い割に巣を見つけたことがまだ一度も無い。
木に登れは見つけられるかと思うけど、2歳には探索の難易度が高すぎる。
日本人だったことは辛うじて覚えているせいで、生活レベルには不満を感じる割に、詳しく思い出そうとするとかなり記憶が朧気になると言う困った状態です。
それに国が違うだけならば良いけれど、どうにも世界観が私の知ってた地球とかなり違う気がするので、何となく異世界に転生したんじゃ無いかと予想している所。
何故ならハチドリのような羽根の音がする鳥が、私の知ってる柔らかい羽根のある鳥じゃ無いからです。
マージンと呼んでいる、星のないテントウムシの硬質的なボディに鳥の嘴がついている鳥なんて、前世の記憶には全く覚えが有りません。
虫なのか鳥なのかで言えば虫っぽい鳥としか言えない何かでしか無いよ。
まだ0歳の頃だと思うけど、あれを観た瞬間に異世界に来ちゃったと思ったのを今でも覚えてる。
ちなみに自分が転生したと認識したのも丁度その頃だね。
だって大人だった感覚があるのに、どう考えても乳児だったんだもん。
死んだ記憶や前に送ってた人生がどんなだったかは覚えて無いけど、漠然と成人してたこととか姉や母親みたいな人が話してるのが日本語じゃ無いのは理解出来たし、何なら日本語なら普通に喋れる。
舌が上手く動かないから舌っ足らずな感じだけど、自分の耳から聞こえる音は完全に日本語だった。
まぁ言っても通じないから、姉や母からすればアブアブしてる赤ちゃんみたいなもんだろうけどね。
母も姉も明るい茶髪で綺麗な空色の瞳をしている。
欧米人っぽい肌色で、日本人の私の価値観からしたら天使に見えた。
母は豊満な美女だし、10歳ぐらいに見えた姉は美少女だ。
でも今なら分かるけど、5人兄弟のトップに産まれた姉は、当時まだ8歳だった。
ちなみに母の当時の年齢は26歳。
つまり母は18歳で姉を出産した事になる。
早すぎない?!と、思ったけど。
じゃあ日本人だった頃の私が何歳で結婚して、何歳で子供を産んだかは覚えて無い。
出産した記憶は辛うじて残っていたけど、何人産んだのか。自分が産んだ子供の性別すら覚えて無いと言う不具合さは如何なものだろうか。
まぁそんな風にモヤモヤした時期もあったけど、ふ⋯と子供は3歳頃まで前世の記憶が残っているが、新しいことを覚えて行くとドンドン忘れて、ちゃんとした言葉が使える頃になれば綺麗に忘れていると言った、ミニ都市伝説をふんわりと思い出して勝手に自己完結した。
日本人の記憶を完全に忘れることへの寂しさはあるけれど、チョコレートが食べられない辛さを何時迄もしつこく覚えてる不愉快さが消えるなら、それで良いとも思ってる。
むしろ2度と食べられない可能性がある限り、さっさと消えて欲しい。
魂にチョコレートの記憶が残っているのが嫌すぎる。
そりゃ大好きだったよ。
美味しかったもん。
でも今の私からしたら高嶺の花を通り越して、絵本のなかのエリクサーでしか無い。
モヤモヤするしか無いので、取り敢えず思い出さないように気をつけている。
たとえカカオに似た実を見つけた所で、どうせ同じものは無いだろうから、調理法だって別物だろうけれど。
全く同じカカオを見つけた所で、日本のチョコレートを再現する知識も技術も全く無いしね。
でもチョコレートが再現出来なくても、べっ甲飴なら作れる!
問題は砂糖に該当する調味料が無いことだ。
漠然と麦から麦芽糖で飴が作れる知識は有るが、じゃあ具体的にどうやって作るかまでは全く知らない。
花から蜂蜜が採れるとか、木からメイプルシロップが採れるとかそんな記憶は有るのに、具体的な養蜂の技術は知らないし、なんならメイプルってどんな木なのかも分からない。
カエデの木からメイプルシロップが採れると言う知識があっても、じゃあカエデってどんな木?ってなるとサッパリ分からないのだ。
せいぜい紅葉の葉っぱの形ぐらいだろうか。
アレは特徴的な木の情報だけど、近場にそんな木が有るかまだ分からないし、あったところで紅葉の木かカエデなのかの差も分からない。
あとどうやって樹液を取るのかも覚えて無いのが難点。
木の幹をナイフで切りつけて、バケツを針金で木に固定すると採れるかな?と漠然と考えた所で、それはゴムの採取方法だったっけ?と思うぐらい曖昧だ。
ぶっちゃけバケツも針金も、この世界で見たことないので、有るのかも分からない。
バケツに代用するとしたら木桶で、針金は紐とするとして。
木桶は2歳が持つには大きすぎるし、何なら布の紐はとても貴重なので、現状では手に入れられる気がしない。
代用するなら麦みたいな穀物で作った縄を使うとして、その縄ですら2歳児が気軽に利用出来るものでは無いのよ。
何せ物が限られる環境だから、手軽に手に入れられると思われる縄ですら、子供からしたら貴重な物資だ。
2歳児の今の私が出来ることは、せいぜいがカエデに代わる甘い木が近くに生えてないかを調べるか、さっきの花の蜜みたいに果実や野菜に代わる甘味を探して家の近所をウロチョロするぐらいしか無い。
それですら適当に彷徨いてると、子守りの次男に叱られたりする。
長子のカタリナ10歳は、もう小さなお母さんと呼べる立場で、母のお手伝いで家事に奔走している。
長男のロベルト8歳は、父の仕事を覚える為に、父と一緒に畑や狩りの仕事に精を出している。
次男のマルセロ6歳は、まだ0歳の弟のジーニスを背負いながら、私の面倒を見ながら近所の子供と遊んでいると言った始末だ。
前世の記憶が朧気にある私からしたら、感心する反面少し切なくなる。
だって兄弟全員が遊びたい盛りの子供達なのに、みんなそれぞれ仕事をしてるんだもん。
でも家族全員が協力して生活をするのが、新しい世界でのルールらしい。
ちなみに来年になったらマルセロ兄が7歳になるので、弟のジーニスの子守りは私がすることになるだろう。
それを思えばかなり憂鬱な気分だ。
1歳になったジーニスの面倒を見るのが面倒臭い。
いやジーニスは可愛いよ?
でも1歳児を3歳児が背負えるとは思えないし、3歳を1人で庭から外に出して貰える気がしない。
だとしたら庭までの狭い行動範囲で1歳児が危なくないように面倒を見る必要が有ると思えば、もう面倒でしか無いのよ。
甘い樹液が出る木が探せなくなる所か、辛うじて見つけた花蜜を舐めることすら出来なくなるのだから。
ジーニスが今の私みたいに歩ける様になったとして、辛うじて今の行動が行えたとしても、言うことを理解出来ない2歳を連れて行動するって、結構ハードルが高いと思う。
でも7歳になったら午前中は教会で行う青空学校に通わないといけないから、マルセロが帰ってくるのは午後になる。
でもきっと家には直ぐ帰らないで、長男のロベルトみたいに友達と遊ぶんじゃ無いかな?
子供ならそれが普通だし、なんならカタリナだって家事の合間に近所の女友達と遊んでる。
遊ぶと言ってもお喋りするぐらいみたいだけど。
青空学校は簡単な読み書きと道徳と計算を教えて貰える所で、試験に合格したら後は自由登校になるみたいだ。
ちなみに自主的に不登校になる子供も居るらしいけど、それをすると親が恥ずかしいと叱られる。
大昔は子供も大切な労働力だったから、 教会での勉強も遊びだと思われてたらしいけど、国が教会の援助をして積極的に働きかけ続けたお陰で、教会に行くのを渋る親は恥ずかしい存在だといった認識に代わって言ったとか?
カタリナが勉強を面倒がってサボるロベルトに、そんな風に説教してたのを覚えてる。
読み書き出来なければ戦士にもなれないと言うミニ知識も、その時に聞いた情報だ。
学術のレベル差はあっても、識字率100%なのが国の誇りらしいよ。
カタリナは8歳には合格して、あとは女友達に誘われた時に教会のお手伝いと言う口実で、遊びに出掛けてる。
どんな劣等生でも2年も通えば卒業出来るレベルで知識が身につくらしいけど、だからサボり過ぎて2年経っても卒業出来なかったら皆から馬鹿にされて、親より自分が恥ずかしくなるとか言われて、ロベルトは渋々教会に通ってた。
家事はお洗濯とお掃除と晩御飯の支度のお手伝い。
母はジーニスの育児と朝食と昼食の支度をしてくれてて、あとは近所の奥さんと井戸端会議をしたり、服や色んな布製品を作ったり、食事に使う家庭用の畑のお世話や収穫をしてる。
父は家計を支える麦っぽい穀物のアムルのお世話か人間が食べられる鳥や、ウサギやタヌキやイノシシみたいな獣をたまに採ってくる。
イノシシは狩り友達と共同で狩るらしく、肉の塊で持って帰ってくるけど、鳥はほとんど稀なのよね。
あれよ。
日曜日に魚釣りに出掛ける父親みたいな感じがする。
本物の狩人みたいな成果は出せないから、半分以上がお遊びみたいなもん。
でも害獣は野菜畑からしたら天敵だから、ある意味お仕事として必要だけど、鳥を捕まえるのは難しいから、持って帰って来るのは年に数える程度しか無い。
持って帰って来た所で小さな肉片がスープの中に入ってるぐらいの量になる。
私達が普段食べられるのは、ウサギが一番多くて、次にタヌキ。
最後にイノシシ。
タヌキは一匹捕まえられたらソコソコ量があるけど、臭いし硬い。
ウサギはタヌキに比べたら柔らかいし美味しいけど、私はまだスープの具としてしか食べたことが無い。
ちなみに持って来てくれるのは、父では無く、父の兄弟のオジサン。
イノシシは少し臭みはあるけど、薄切りで野菜炒めとして食べた事が有るけど一ヶ月のウチ2回食べられると良い方だと思うご馳走お肉。
長男オジサンの所からは、鳥の家のお掃除の手伝いをしたら卵が貰える。
私はまだマルセロの腰巾着程度の戦力にしかならないけど、私の仕事らしいものと言えばコレかな。
鹿や狼や熊はまだ食べたこと無い。
村で秋お祭りをする時に食べられるらしい。
幼いからまだ食べさせて貰えて無かったけど、多分今年から食べさせて貰える。
ちなみに何故鹿やら狼やら熊やらが祭りに出て来るのを知ってるかと言えば、そのまんまの状態で運ばれたソレの解体ショーが、村の真ん中の広場であるからだよ。
グロさよりも鹿やら熊はともかく、狼もたべるんだって知ってビックリしたから良く覚えてる。
ちなみに鹿やら熊やら狼とか言ってるけど、図体がやたら大きかったりそれっぽい形をしてるから当て嵌めてるだけで、本当に鹿やら狼やら熊なのかは分からない。
呼び方だって全く違うしね。
何故秋祭りになるとそんな大物を狩るかと言えば、祭りの楽しみ目的だけじゃ無くて、冬の備蓄を兼ねてるのと、冬になって食べ物が減ったら村を襲って来るから、美味しいウチに倒しておくのだと去年教えて貰った。
私が直接教えて貰ったんじゃ無くて、たまたまそんな風に言ってるのを横で聴いてただけだけどね。
余談だけど、特殊な熊や集団の狼レベルになると村人や村の狩人だけでは狩れないから、祭りの1ヶ月ぐらい前から100人以上の大勢の戦士達が集まって来る。
ひょっとすると500人以上いるかも知れないけど、それが職業戦士なのか旅商人なのか近隣の村人や街人なのか区別が難しいぐらい、人がウジャウジャいるから分からないのが本当。
祭りの当日になると、近隣の街や村から人が肉目当てに集まって来るから、秋は基本的に村中が臭い。
獣の臭いだけじゃ無くて、戦士や旅商人のお兄さんやオジサン達が物凄く臭いから。
ミリシャンゼの人口が1000人ぐらいだから、収穫が終わった畑の跡地にテントが鈴生りに生えてくる。
真冬以外でも年中戦士や旅商人は居るけど、雪が振っても1センチも積もらない温暖な気候のせいか、森の獣目当てに人が大勢集まって来るのだ。
それでも収穫まではスペースがないので、収穫が終わってから冬になるまでには人間の数が沢山増えてくるのよ。
冬になると残るのは食い詰めた貧民戦士ぐらいだけど、100人は村外れの畑の跡地でテント張って過ごしてる。
そんな環境だから、幼い子供が単独で村をウロチョロ出来ないのが辛い。
話によれば馬車で3日ぐらいの所に大きい街があるらしく、秋に稼げた戦士はそこで冬を過ごすらしいね。
成果が無くてお金が無い15歳から20歳ぐらいまでの若い戦士が、冬の獲物で飢えを凌ぐ為に、村に居座ってる状態。
だから村で護衛として優秀な戦士を雇うみたいで、村の宿屋はそんな人達や旅商人で埋まるらしい。
教会がある村の中央付近では、お店だけじゃ無くて宿屋も数軒建ってるし、食事所も繁盛してる。
村としてはミリシャンゼはかなり大きいと思う。
それでも村と言い張ってる理由がきっと有るんだろうけど、私はまだ知らない。
普通の農村は、もっと人口が少ないらしいね。
まぁ2歳としてはかなり積極的に情報収集してるけど、まだまだ知らない事も多いのです。
戦士ギルドと言うものがあるみたいだけど、それが前世の知識で言う冒険者ギルドなのか傭兵ギルドなのか分からないし、実際に建物の中を見たことも無い。
私に戦士と村人の見分けもつかないのは、ベテランの職人戦士は装備もそれらしくちゃんとしてるけど、大多数の若い戦士は村人とほとんど装備が同じだから。
大体の若い戦士は家業を継がない子供がなるみたい。
ウチですら畑を分ける余裕は無いから、ロベルトやカタリナが父の後を継ぐなら他の兄弟は狩人か戦士になるんだと思う。
万が一商人になる可能性が有るとしても、私ぐらい知識に貪欲じゃ無いと、戦力や狩人以上に厳しい気がする。
それを思えば今から不安でしか無いけど、かと言って女の子が安泰かと言えばそうでも無い。
戦士の中には女の子も混ざってるんだもん。
私は私自身の将来に不安はあるけど、私の兄弟がどんな道を選ぶのか、私以上に不安だよ。
家を継ぐか狩人以外の選択をした場合、私が積極的に支援してあげないと悲惨な目に会う未来しか見えて来ない。
前世の記憶で言う冒険者なら楽しそうで良いなと思うけど、現状を見る限りかなり厳しそうな世界だ。
甘味を求める旅を楽しむには、ある程度の稼ぎと貯蓄が無いと駄目だと思うんだ。
なるつもりは0だけど、ぶっちゃけ私が戦士になるとしても、ある程度の装備や技術への自信が満ちるまで、家から森に通う可能性が高いから、近隣の村人よりかは恵まれた環境だとは言える。
いつか独り立ちをするとして。
私には装備や技術が満ちるまで家で粘る思考能力があるけれど、家を飛び出して行く事しか考えられない普通の子供にはきっと過酷な環境だと思う。
父のモズグスは8人兄弟の末っ子だそうで、祖父の畑を継いだらしい。
農家だからか、我が家の家系だけかは分からないけど、どうも結婚が早いせいか、特に長男が絶対に跡継ぎになる必要は無いっぽい。
ちなみに祖父夫婦が隣の家に住んでるけど、狩人になった長男のオジサンも夫婦で住んでる。
畑は継ぎたい上の子供が継ぐ可能性は高いけど、誰も継ぎたがらなかった場合。
今以上に子供が増えなければ、ジーニスかまた新しい子供が産まれたら下の子供が継ぐかも知れない。
腕前にも寄るけど農業一本で生活するより、狩人の方が収入は高いらしい。
戦士になった父の兄弟の次男と3男と5男は村を出て行って音通不信だそうだけど、狩人になった4男は村に家を建てて住んでる。
どうやらその4男のオジサンが兄弟の中でも一番腕が良くて、ウサギのお裾分けに来てくれる。
長男は狩人になりたくて弟子入りしたけど、4男よりは腕が劣るみたいで他所にお裾分けする余裕が無いみたい。
だから鶏か鴨っぽい鳥を飼育するのが本業になってて、アムルの収穫後に残った藁をタダで貰う代わりに、アムルの収穫時期にはウチの畑仕事を一家総出で手伝ってくれてる。
その代わり私達が鳥の宿舎の掃除をお手伝いしたら、毎日少しだけ食べる卵を無料で分けて貰えるWin-Winな関係。
長男の子供はまだ16歳の4男と6女と末っ子の5男が家に残ってるけど、一番年下の末っ子ですら12歳だから、私とはあんまり面識が無かったりする。
14歳の六女のエターニャはよく会う。
むしろ姉のカタリナよりも姉っぽい。
メッチャ優しいから大好きだ。
ウチの姉はメッチャ怖い雷お母さんだから、実の母よりも私をよく叱って来る。
これは私が悪いと言うより、行動力のある男兄弟を持った姉の弊害かと思う。
もうガミガミ叱るか殴るがデフォルトになってるのよ。
その点女児としては末になる六女のエターニャは、そんな苦労は少ないし、妹が居ないから私にもカタリナにも目茶苦茶甘い。
4男にくらべたら多少腕が劣るとしても、ウチの父よりかは狩りが上手い長男だから、鶏だか鴨だか分からない鳥からの収入も安定してて高いし、それなりに裕福なんだそうだ。
だからエターニャはフワフワしてて、何となく街のお嬢様っぽい。
彼女は間違い無くモテるタイプの女の子だと思う。
下手したら来年の成人になったら、速攻で誰かの嫁なってる予感しか無いが、長男のオジサンがメッチャ怖い人だから、18歳ぐらいになるまでは粘って欲しいと期待してる。
マルセロが7歳になったらエターニャにジーニスの面倒を見て欲しいから、むしろ積極的に押し付けに行こうと企んでいるのだ。
もはや私の逃げ場はそこしか無い。
そして私は貧乏戦士になったりしない様に、嫁入り以外の就職先を求めて自立訓練をしたいと考えている。
早いと思うなかれ。
何せ母は17で嫁いで18で出産してるんです。
しかも成人は15歳。
あと13年しか無い。
そりゃ先を思えば色々と気が焦るよね。
温暖な気候とは言っても子供と男性は真冬でも半袖で走り回るのが当たり前らしい価値観のせいで、まだ朝晩は冬みたいに寒いのに、今の私は半袖の下着上下に膝下まで丈のある綿っぽいワンピース1枚しか着てない。
ちなみに夏はノースリーブのワンピース1枚になるのが予定。
だからもう少しでお昼ご飯になるぐらい、太陽が頭の真上近くでサンサンと照り付けてても、ジッと立ったままだと肌寒く感じてしまう。
でも日差しは着実に夏に向かってる強さがあるから、私がツツジに似た草むらの近くにしゃがんで蜜吸いしながら風除けしてるのに、兄弟やら近所の似た年頃の子供達は小川の側で遊んでいる。
コッチは見てるだけで水の冷たさに身震いするのに、みんな軽く汗をかきながらはしゃぎ回ってるのが凄い。
最年少はマルセロが背負ってるジーニスだけど、2歳児は私だけ。
今いるメンバーの最年長は6歳で、マルセロを含めて男女で5人。
後は3歳までの男女10人が石をひっくり返して、オヤツになる予定のザリガニモドキのカニなのかエビなのか分からない伊勢海老っぽい獲物を必死になって探してる。
あと補足するとこのメンバーが6歳如何の村の子供の総人口では無い。
単なるご近所さんグループの1つだ。
小川は自然の産物じゃ無くて、畑のための用水路ぽい人工的なものだから、水深は私の膝下ぐらいまでしか無い。
だから溺れたり流される危険性は低いので、子供の遊び場になってるんだけど、川から迷い込んだらしい鮎モドキや、これまたオヤツ扱いのカエルも居る食材が豊かな場所だ。
板が有れば鮎モドキが採れるのは前世の知識で分かるけど、そもそも魚の数は少ないから、子供の人数を思えば戦争が起きちゃうだろうと考えて、その提案はして無い。
私も小さな伊勢海老モドキのザリガニ亜種を一緒に探しても良いんだけど、水の冷たさに怯んでツツジモドキをチュウチュウしてるが、そろそろ少し飽きてきた。
今度は木苺みたいな甘酸っぱい赤い実を探して、生垣みたいになってる草むらに目を凝らしていたら。
ギャー!キャー!と、異常を感じさせる悲鳴が聞こえてビックリした。
小川を振り返って目を凝らすと、金魚の集団みたいに小さな子供達が一箇所に慌てて集まる所で、それを最年長の女児が背中で庇う形で密集している。
「ニョロニョロだー!」
異常の原因が何なのか。
マルセロじゃ無い最年長の男児の叫びで、理由が分かった。
私が現場に駆け寄るより先に緊急事態は回避出来たのか、警戒モードになってた年長の女児の後ろから、幼い男児が我先にとワラワラと最年長男児達を取り囲む姿を見て、私も慌てて集団の中心に駆け込んで行く。
「だいじょうぶー?」
「わぁ⋯」
林みたいな人垣を強引に割り込んで中央を目指して進めば、マルセロが膝下を両手で握ってしゃがみこんでいた。
その足元には首の辺りを切断された蛇の死骸と、地面に突き刺さってる小さなナイフがある。
このナイフはマルセロとは違う別の子供の持ち物だろうけど、基本的に最年長は男女問わず全員が小さなナイフを身に着けてるものだ。
何故ならこんな危険が起こるから。
あんまり幼すぎても危ないから、5歳になった春の年始にお誕生年のお祝いで、男女問わず全員が貰える。
玩具じゃ無いんだと戦慄いた、1歳の懐かしい記憶である。
春になった新年のお祭りがある頃1つ年をとるルールらしいので、正確に言えばナイフのプレゼントに戦慄いてた頃の私は、1歳以上2歳未満の時になる。
産まれたばかりの年は数えられずに、翌年から1歳になるのがルールだそうだ。
じゃ無ければ産まれた翌月に1歳になると、色んな問題があるからだろうね。
それはともかく。
「一番足が早いのは誰?!」
「え?俺!」
みんながオロオロしてる所で私が厳しく言えば、最年長の男児1人がギョッとして返事を返した。
「ニョロニョロの『死体』を持ってマルセロの家に走って。お母さんかカタリナがいたら、このニョロニョロにマルセロが噛まれたと言って大人を呼ぶように伝えて。」
「え?えーと⋯」
「マルセロの家にニョロニョロを持って行って、噛まれたってお母さんかカタリナに言うの!そしたらマルセロを抱っこして運べそうな男の大人を連れて一緒に此処に戻って来て!」
「わ、分かった!」
「頭も持って行って!」
「おう?!」
男の子は地面に落ちてる、長さ30cmぐらいのニョロニョロの胴体を掴むと、一目散に行こうとしたので釘をさす。
すると少年は慌てながらも、千切れて5cmぐらいの長さになった頭も掴んで駆け出して行った。
ニョロニョロがどんな種類の蛇だか私は知らない。
毒の無い蛇なら良いけれど、毒があったら困るから現物を持って行かせた。
此処から一番近くにある家は別のご家庭だけど、子供が駆け込んだらきっと話を聞いてくれるとは思う。
でも万が一薬が必要になったら、きっと私の家に走るだろうから、二度手間を思えば直接走らせた方が早いし、上手く行けばオジサンや従兄弟が家に残ってるかも知らないからだ。
基本的に男性は畑か狩りに出掛けて手薄になっている時間帯なので、鳥を飼育してるオジサンの家以外で残ってる男性は少ないと予想した。
薬を持って来て解決出来る問題なら女性で足りるけれど、マルセロを抱いて運ぶ必要が有れば男性の方が絶対に良い。
「キミとキミはこれぐらいの長さの枝を探して!なるべく硬いのが欲しい!数は一つあったら足りるから急いで!
そこのお姉ちゃんはジーニスを抱っこして!
他のお姉ちゃん達はお水をとって来て!
お兄ちゃんは私達がジーニスを背中から下ろした後で、足を布でくくるのを手伝って!
他のみんなはニョロニョロが居ないかさがして!見つけたらあぶないっておしえて!」
『う、うん!』
私は木の枝のサイズを両手の幅で説明すると少年2人が弾かれた様に走って行く。
私は蹲って声を出さずに泣いてるマルセロからジーニスを下ろすため、地面に刺さってたナイフを引き抜いて、慎重にジーニスを縛ってる布を切りながら、他にも矢継ぎ早に指示を出して行く。
言っても理解出来なくてオロオロしたり、自由にしてる小さな子供もいるけれど、5歳以上の子供達は的確に動いてくれて助かる。
多分冷静に考えたら、何で最年少の2歳児が指示してんの?と突っ込みを入れても良い所だけれど、本気で慌ててる人は正しい内容だと感じれば指示には従うものだ。
特にここの子供達は兄弟が多いので、他人から指示を出される事に慣れている。
最年長のお姉さんがマルセロの後ろに回ってジーニスを支えるのを確認してから、ぶつりと布を切り裂いた。
それから私は直ぐにジーニスを巻いていた布を捻って紐にして行くが、何せ2歳児。それですら焦れったいぐらいに時間がかかりそうだったので、適当に絞った所で、しゃがんでるジーニスの太腿にねじ込んで2回ほど巻き付けて行った。
「これ!」
汗だくになった1人の少年が15cmぐらいの小枝を差し出してくる。
「ありがとう!こうやってくくるから、『グルグル』してしぼって欲しい!」
「え⋯ぐる?えーと、分かった!」
「お兄ちゃんはマル兄ちゃんの代わりに両手でここを押さえてて。いい?マル兄ちゃん手をはなして。足をくくるから動かすよ。」
『おう!』
森のニョロニョロに噛まれたら、薬を使わないとすぐに死ぬとオジサンから聞いた事がある。オジサンが言うニョロニョロとコレが同じものかは分からないけど、もし噛まれた時の対処法は狩場で死亡、または死亡未遂事故を聞くたびに、父が食卓で皆に喋ってるのを私は聞いている。
と言っても噛まれたら薬を直ぐに使うとか、手元に薬が無ければ毒が全身に回らないウチに噛まれた場所から心臓に近い場所を手で押して血が巡らないようにするとか、むやみに歩き回らず仲間に声で知らせるとか、その程度なもんだ。
だから今私が考える間もなく、反射的に出してる指示の知識の半分は前世のものなんだろう。
何でそうするのか、どうしてそんな事が出来るかまでは考える余裕はないので、漠然とそう感じてる。
最年長の少年がマルセロの代わりに膝下に両手を当てて押さえると、ぎこちない仕草で脂汗と涙を流してるマルセロが、他の少年少女達に支えられて動くと、お尻を地面につけて座り込む。
私は背負い紐に使ってた1枚布を太腿に2回巻いた所で、15cmぐらいの小枝を当てて、その外から布の端を結んだ。
思う様に指が使えずに焦るが、0歳の頃から指体操の自主練を頑張ったお陰か、なんとか結べる。
そしてその結び目を掴んで枝ごと回すのを実演で伝えて、非力な私の代わりに捻って貰う。
「セロ兄ちゃん、しんどかったら寝て良いよ。痛いかもだけど、『頑張って』。」
「う⋯うう⋯」
「お水⋯、持ってきたけど、どうするの?!」
「私が毒を吸うから、噛まれた所を洗うのと、『ウガイ』に使うよ。」
「う⋯ウガイって?」
「こうするの。」
1人の少女の手に直接唇を当ててグチュグチュしてから、ガラガラ音を立てて地面にペッと吐き捨てると。
「え?!もしかして吸うって、口でするつもりか?!
森のニョロニョロなら毒が有るんだぞ!」
「危ないよ!」
「口でしたら駄目って言ってたよ!」
「縛って血を流して毒を出すか、毒消しを使うんだぞ!」
すると口々に回りから反対の声が上がって来る。
まぁ理屈は分かる。
虫歯や口の中に傷が有れば二次災害を起こすだろうし、手当に薬を使うのがこの村での常識なんだろう。
でもマルセロはまだ6歳。
ニョロニョロに噛まれる直前まで動き回ってたから、血の巡りは良い方だろうと予想する。幸いだったのが冷たい小川の水で足元が冷やされてるから、全身に比べると傷の有る噛み口辺りの血行は抑えられている所か。
「口の中にケガがあったり、毒を飲んだら危ないけど、『ペッ』て捨てたら大丈夫だと思うけど⋯」
粘膜から吸収される毒もあるかもだから、このニョロニョロの毒がどんなものか分からない以上、完全に安全とは言えない。
それに毒の吸い出しは明らかにこの世界の知識とは言えないので、安全性や信憑性も低い。
しかも私はマルセロよりも弱い2歳児だ。
毒に対する抵抗力の無さを思えば、周りの子供達が一斉に危険を感じてしまうのも無理は無い。
「分かった。それなら噛んだ所とナイフを洗うのにお水を使おう。毒の血を流すのに、少しだけ肉を切るのは良いかな?」
「⋯それは良いと思うけど」
「え?!大人を待った方が良いよ。」
「そうよ。子供が勝手にしたら駄目ってお兄ちゃんが言われてたよ!」
「それなら噛まれた所を洗うのは良いかな?」
『うん!』
満場一致で次々と子供達が小川の水を運んで傷口にかけて行く。
前世の記憶から、川の生水は危険。
井戸水か煮沸した後の湯冷ましを使うべきとか目まぐるしく思うけど、出血を促す事を思えば細菌感染よりも毒の方が怖い。
ソレにニョロニョロの噛み跡は小さいので、ただ太腿を縛ってるだけじゃあんまり出血してくれないのだ。
だから私は縛ってる足の膝下から噛み口にむけて、両手でマッサージしながら出血を促す。
大量の出血は6歳には危険だと思うけど、水をかけてるのになんだか血の色がどす黒いし、噛まれた場所が腫れて、皮膚の色が肌色から紫色にドンドン代わって行ってるのがむちゃくちゃ恐ろしい。
どれぐらい効果があるのか分からないけど、ただジッと大人を待っていられずにマッサージをしてるのが現状なのだ。
「血が赤くなってきた?」
「うん!少し代わって来た気がする!」
「マルセロ頑張れ!」
『がんばれ!がんばれ!』
「⋯僕!他に大人が居ないか探して来る!」
「止めて!『入れ違い』になったら大変だよ。血の色は赤くなって来てるから、マルクを信じてまとう!
他に大人を探すぐらいなら、まだマル兄ちゃんを『安全』に運んで家の方に向かった方がまだマシだよ!」
「あ⋯あぜん?に、はこぶって、どうやって?!」
声援を送るだけだと居た堪れない子がいて、飛び出そうとした少年を慌てて引き留めた。
「木の板に乗せるか、折れないぐらいの枝を2本使ってシャツを着せて、真ん中にお兄ちゃんを寝かせて全員で運ぶの。」
「だったら枝を探して来る!」
「待て!それならナイフでそこの木の枝を落とそうぜ!」
きっとこの辺りに使える太さの木の枝なんて落ちて無いだろうから、時間稼ぎの気晴らしにでもなれば良いかと思ってのアドバイスだったのに、ナイフ持ちの5歳児と皆がワラワラと近くの木に駆け出して行った。
なんと言うかパワフルだ。
小さいナイフで切れるような枝じゃ細くて無理だろと思っていたのに、小ぶりな木の傷つけた枝に乗って蹴ったりぶら下がりなどの身体を使ったパフォーマンスで、見事に使えそうな枝を2本持って帰ってきた。
しかも小枝をスパスパしてあっという間に払って棒にして行く。
「こうして上と下からシャツを着せて行けば⋯」
『おー⋯』
地面に絵を描いて説明したら、まだ寒いのに男の子達が全員シャツを脱いで行く。なんなら女の子まで脱ごうとしたので、流石にそれは止めた。
だって下着姿になっちゃうんだもん。
下着を着てない男児が半裸になるのは許せても、パンツと言ってもハーフパンツみたいなもんだけど、女児のパンツ姿はちょっとヤバいかなと思ったのだ。
でも女の子達は止まらなかった。
ワンピースの方が男の子のシャツよりも長くて安定感があるし、まだ肌着で出歩く事を恥ずかしがる年代じゃ無いからだ。
しかも寒さなんて感じる余裕が全部吹き飛んでる。
すごく申し訳ない気持ちもあるけど、皆の気持ちが有難くて感謝しかない。
でも枝を通すと襟ぐりが狭くて上手く行かず、私が困ってたら最年長のお姉ちゃんが自分のナイフでスパッと切り込みを入れて、あっという間に広げたのを見て唖然とした。
布は貴重だから破るなんてもってのほかなのだ。
6歳になれば絶対に知ってる知識だと思うけど、自分が叱られる事よりもマルセロを運ぶことを選んでくれたんだと思う。
裂いた布の強度に不安はあるけど、それは枚数が稼げたので補えた。
唯一の不満は、全部の服がうっすら湿って冷たいぐらいかな。
汗だけじゃ無くて、水場で遊んでたからね。
出来上がった即席担架を横向きにしたマルセロの背中に突っ込んで、コロリと上に転がせて寝かせる。
そして作った担架の前後を最年長の男児に持たせ、回りを全員で取り囲んでえっちらおっちら運んで行った。
最年長男児の代わりに、縛るのを5歳児が代わってくれたけど、動いてると緩む危険性が高くてかなり不安だ。
重たそうにジーニスを抱っこしてる最年長の女児が、一生懸命に頑張って後ろをついて来る。
まだ6歳なのに動く乳児を抱っこして、長距離を歩くのってかなりの重労働。
でもやっぱり重いらしくて、途中からマルセロの太腿の上に重し代わりにジーニスを置いて、全員で運ぶことにした。
「ジーニス!マル兄ちゃんの足を押さえるのよ!」
絶対に伝わって無いと思うけど、もう私は必死だったんだと思う。
マルセロの膝下まで足が紫色になってるのを見て、上手く縛れて無いことを悟ったからだ。
皆自分に出来る精一杯以上頑張ってる。
でも布を自力でキツく縛るのって難しいし、移動しながら枝を押さえ続けるのも5歳児には難しい。
枝だって重いから全員がクタクタになってるけど、それでも弱音を吐く子は誰一人居なかった。
「みんなでマル兄ちゃんを助けるの!みんなスゴイから出来るよ!」
『わー!』
それでも足りない。
何もかもが未熟で足りて無い。
皆不安で、だからこそ余計に私は声を上げて皆を励ます。
私にはマルセロを運ぶ枝を持つことさえ出来なかったから。
走ってくるカタリナやマルク達の姿が見えて来た。
マルクは私達の従兄弟のお兄さんに背負われてる。
小川まで私の足で1時間近くかかる距離を、マルクはどれだけの早さで走り切ったんだろうか。
私の足が遅い自覚はあるが、大人が歩いた所で30分以上はかかると予想している。
マルセロの毒抜きや担架作りで30分以上掛かったし、小川から此処まで20分もかかって無い上。
途中でジーニスをマルセロの上に乗せるために1回担架を地面に降ろして休憩してるから、5分〜10分ぐらいは消耗してるだろうけど。
それでも5分も走り続けられない前世を思えば、これは素晴らしい偉業だよ。
平地で姿を遮る雑木が少なく、お互いの姿が見えても合流には少し時間があったけど。
お互いがお互いに向かって急いで合流した時、至近距離で見たマルクは体力を使い果たしてボロボロになってた。
私達を見たら従兄弟の背中から降りて自力で駆けてきたのだ。
汗だくで呼吸が荒くてしんどそうなのに、使命感と興奮に目がギラギラしてたし、託された仕事をキチンとやり遂げただけでも凄い6歳児だと感じた。
まぁ体力を使い果たして、今にも崩れ落ちそうなぐらいボロボロなのは、従兄弟やカタリナも含めて私達全員がそうだったんだろうけど。
結果としてマルセロは後遺症も無く、無事に救出出来た。
先遣隊だったらしいカタリナ達が持ってきた毒消しを、16歳の従兄弟がマルセロの状態を見て飲ませ。傷口にも残りを振りかけた。
『わぁ!』
「なおった!」「すごい!」「やった!」
『わあああ!!!』
そしたら真紫色だった肌の色があっという間に元の肌色に戻るのを目の当たりにして、私は無茶苦茶ビックリしたよ。
苦しそうな顔は落ち着いたけど、それでもマルセロは毒に侵されて体力をかなり消耗してグッタリしてるし、出血してたり傷口は残ってるから、完全復活とは言えない。
実際家に帰ってから他にも薬を飲まされてたし、完全復活したのは翌朝になってからだった。
私はそれにもかなり衝撃を受けて驚いたけど。
何せ完全復活したマルセロに足を見せて貰ったら、傷口が綺麗に消えて治ってたんだよ。
有り得ねぇ。
何なの、これぞ正に魔法だよ。
いや、まぁ⋯魔法が有るのは知ってるけどね。
ただ私が知ってるこの世界の魔法は、前世の科学に比べたら不便なものばかりだから、前世の科学を超えた現象にビックリして感動しただけだ。
それも農民や狩人が使う魔法がショボいだけで、ひょっとしたら職業魔法使いが居るなら、感動レベルの魔法が見られる可能性は有る。
ただ私がそれを知らないだけなんだろう。
薬が私に与えた衝撃は、世界の広さと私の知識のショボさを自覚させることになった。
「おーい!大丈夫かぁ!」
さて⋯それとは別の話になるが、長男のオジサンがリアカーを引いて10人ぐらいの集団を連れて来た。
母や近所の主婦友達や姉の友人達やら祖父だ。
長男のオジサンと4男の従兄弟が、他にニョロニョロが居ないか探す為に、早くも体力が復活して気力が溢れてるマルクだけを連れて現場に向かった後。
「あぁ⋯生きてる。マルセロが生きてるわ⋯神様⋯ありがとう。ありがとうございます⋯わああぁ⋯」
「何故だ?!あぁ⋯なんてことだ。信じられん。こんな奇跡が⋯ううぅ⋯」「すごいわ!」「奇跡が起こったのよ!」
グッタリしてるマルセロを抱えて母が号泣するのを、もらい泣きしてる母友や祖父や、興奮して騒いでる姉友にキャーキャー取りつかれた。
「わ⋯ねぇ皆、見て!
これ凄いわ!
服で出来てるの!」
「それでこの子たち、服を脱いでたのね?!」
「じゃあ奇跡が起こったのって、こうやって運んで来たから薬が間に合ったの?!」
「ねえ!まだマルセロは治りきってないのよ!早く戻って回復薬を飲ませなくちゃ!」
『あ⋯大変!』
「うむ。泣いてる場合では無いな。まだあのニョロニョロの仲間が近くにいるやも知れん。マルセロは心配だが、解毒は間に合っとるようだ。急ぎたい事ではあるが傷は小さい。今日中ならば家に戻ってからで充分じゃろ。他の子供達も避難させねばな。」
他の子供達は全員主婦&姉集団に連れられて、キャーキャーされながら各自家に戻されることになった。
マルセロ以外の5歳以上の子供は全員が歩き。歩きたがった4歳児もヘタれるまで歩き。
それ以下の子供達は全員マルセロと一緒にリアカーに乗せられて、急ぎで家の付近に向かう中で、興奮した子供達の事情聴取と言う名の武勇伝?をしながらワイワイと騒がしく連れ戻されて行った。
そしてマルセロがニョロニョロに噛まれた事件の話題が、あっという間に村中で広まったらしい。
それと同時に簡易担架の情報も回って行った。
まぁ⋯子供が作った画期的なアイデア製品として、ニョロニョロの死骸と一緒に担架の現物が見本として、狩人も利用する戦士ギルドまで持ち込まれ。
色々と情報が村中に駆け巡ったお陰で、アイデアの元が私なのも全く騒がれずに済んでる。
むしろ幼子の思い付きを聞いて、襟ぐりを裂くことで使用出来る形にした少女が大絶賛されてた。
私が地面に絵を描いて説明したひと手間は、皆忘れてたと言うよりも伝える必要性を感じて無かったと言うか。
それ所じゃ無かった当時の気持ちで流されて、単に詳細を省略しただけだと思う。
だって「幼子の思い付き」と言う形でちゃんと説明したと皆が思ってただろうからね。
マルセロは毒で意識が朦朧としてたし、子供達全員が動揺やら興奮やらで浮ついてたし、そうで無くても元々知能が低い年代が多く。
2歳児が全員を指揮して行動したとか、言葉だけでなく図面で説明したとかなどの異常行動は自然と秘匿される形になった。
当時関わった全員の行動が本当に素晴らしかったが、最優秀賞はマルセロを噛んだニョロニョロを倒して、大人を呼びに走ったマルクになった。
それは事実なのでマルクが大人達から褒められるのを聞いても、心配こそすれ不満に思う事は何も無い。
むしろ率先してマルクすげーと褒める方に、ウッカリな私も回ってたぐらいだ。
実際にニョロニョロを倒したのも、私が小一時間かかる距離を全力で走りきったのも凄いことだ。
狩人の息子だったらしく、そりゃ鍛えられてるなと感心したが、年齢を思えば教育されただけではやり遂げる事が難しい案件だったと思う。
だからマルクの功績は紛れもなく本物だ。
私は自分が2歳児として見れば、異質で異常な生き物なのを自覚している。
これは前世の知識でしか無いが、異常なものは弾かれる危険性が有ると警戒する気持ちもあった。
他の子供達に紛れられる物なら、紛れるに越した事が無いと判断している。
身内ならともかく、顔見知りですら無い人間に異常行動をする2歳児の存在が知れ渡るのは良くない。
何せ娯楽が少ないもんだから、単純な推察でしか無いが、小さな勇者の物語は聞いてて可哀想なぐらいに、面白可笑しく持て囃されるだろう。
親も含めてマルクが嬉しそうなのが唯一の救いだけど、先のことを冷静に考えると、この一件でマルクはかなりバードルの上がった人生の幕開けになったかと思う。
過剰な自信がつくのも問題だが、周りから期待されるのも、そのうちプレッシャーになるんじゃ無かろうか?
良い方に全てが向かえば良いけれど、人生には山と谷がつきものだ。
前のように上手くやろうと頑張り過ぎて転ぶとかザラによくある話だから、都合良くは行くとは限らない気がする。
「甲子園に魔物が住んでる」のと同じ現象が起きたらと思えば不安だ。
ちなみに甲子園が何なのか、人気があったスポーツをする場所ぐらいの知識しかなくて、あんまり詳しく覚えて無いのがモヤる。
前世に居ないと思ってた魔物がが居たのかと、変な矛盾に違和感があってビックリした。
どんな魔物なのかまでは覚えて無くて怖さは無いので、絵本を読むぐらいの感覚でしか無いけどね。
マルクは6歳の活躍としてはとても素晴らしかったと、私も大いに感心しているが。
尾ひれや背びれのついた噂や伝説は、果たして今の素直で優秀な少年を、悪い方に捻じ曲げやしないかと前世の記憶がハラハラする。
でも今の私は、この世界なら親が狩人だから多分大丈夫だと信じたい。
功名心トラップであれば、アマチュア狩人な農家の父親よりかは、この村のプロ狩人ならずっと信頼出来る。
お裾分けに来てくれる4男のオジサンが、尊敬出来る人なのがその理由かな。
お正月みたいに春のお祭りがある時期に、親族一同が祖父のいる本家に集まって来るのだけど、狩人希望の従兄弟や大人への話の中で。
「本当に凄腕と呼ばれる狩人は、いい獲物を捕まえられる人じゃ無いんだよ。危険な目に遭わないように行動したり、やりあえば殺される獲物に出会っても、必ず生きて逃げられる人の事を言うんだ。
狩人の言う逃げると言うのは、引くと言う考え方で、決して恥ずかしいことでは無いのさ。
正しい知識や鍛えた身体、積み重ねた技術が必要な難しいものでね。
手に負えない獲物からは、逃げたいと願っても簡単に逃がして貰えないのが普通で、気持ちだけで逃げられるほど弱い獲物なら、そもそも逃げる必要が無いからね。」
と、静かに語っていたからだ。
1歳だったけど、やっぱりプロは言う事がすげぇと感動した記憶がある。
あんまり良い獲物を捕まえられない長男の立場を慮っての発言も有るかも知れないが、オジサンの雰囲気からは本当にそう考えてる気配がしていたし、長男のオジサンもそれに大きく同意してたから、この村の狩人の考え方としては、それが主流なんじゃ無いかなと感じた。
そして多分そうで無ければ死ぬ危険性が高いから、この村で活動してる狩人はその理念がある人達ばかりなんだろう。
何故なら危険の低い狩場は、技術の低そうな若い戦士で溢れてるからだ。
職業として狩人になるには、危険性が高い狩場を生き延びるテクニックが無ければならないんじゃ無いかと予想している。
血の匂いで危険な獲物が集まって来るだろうから、倒した後で重い獲物を如何に安全に村まで運ぶかも重要な問題な気もするしね。
これはオジサンの話を聞いて想像した、私の予想でしか無いけど。
だから父親が狩人なマルク少年も、きっと大丈夫じゃ無いかと期待してる。
6歳児があれだけの体力を持つには、きっと家庭での教育が根底にあると考えれば、マルクの父親も良い狩人なんだと思う。
むしろ腕の悪い狩人は早死にするか、長男のオジサンみたいに別の仕事をしないと、家庭を持つなんて出来ない様な環境なんじゃ無いかな?
あくまでも乏しいマスタリク語を駆使して集めた情報から、前世の知識と合わせながら立てた予想でしか無いから、それが真実なのかはまだ分からないけどさ。
ともかくそんな世知辛い世界で甘味を堪能しようと思えばお金がいる。
危険性が農業より狩人の方が高く、それに比例して儲けが大きい事を考えれば、家庭の主婦なんて稼ぎにならない職業と考えられる。
恐らく商人になれれば、狩人よりも稼げる期待はあるが、私が知ってる村の商人も旅商人もそんなに稼いでる人に見えない。
これは儲かってたら襲われる危険性が有るから擬態してるかと言うよりも、村の商人は旅商人よりも安全性が高い分儲けが少ない可能性があり、旅商人は底辺の若い戦士に似たり寄ったりの若者も多いことを見てるから。
つまり本当にお金を持ってる豪商は、街に生息してるんじゃ無いかな?と、予想している。
こればかりはまだ調べ様が無いから、見た目と村の環境から考えた予想でしか無いけど。
まぁ村で店を開いてる商人が、貧乏とはまでは言わないよ。
旅商人の中で、お金持ちそうな商人が全く居ない訳でも無いしね。
ちゃんと装備をしてる戦士の護衛を連れて、馬車に乗って村に来て宿に泊まる旅商人は全員、村の商人より金持ちの気配がする。
村の商人の装いが金持ちそうじゃ無いだけで、本当はお金があるのに擬態してるだけかは分からないけど、純粋な見た目としてはそんな感じだ。
あとうちの村人は食うには困って無いけど、現金を持ってるかと言えば持ってないとしか言えないから、そんな相手に商売しようと思えば、中小企業の社長とやらを想像しちゃうのよね。
中小企業の社長がどんな人かは知らないけど、大企業の社長に比べたらお金を持ってない、苦労人な小金持ちと分類してる。
とは言っても狩人よりは稼いでるんだろうな、とは思う。
でもそんな家に嫁ぎたいかと言えば、全く嫁ぎたくない。
しがらみとかメッチャ面倒臭そうだから。
宿に泊まる旅商人は他にもいるが、大体8割の旅商人は大きい鞄を背負って徒歩か乗合馬車で村に来る。そんな人達は大抵が自分1人きりか、護衛がいたとしても1人か2人の少人数。
もしくは護衛の人数が4〜5人いても底辺の貧乏戦士で、宿に泊まるのは商人だけ。
そんな8割の商人は底辺の若い戦士よりは装備品が良いけど、何となく貧乏人の匂いと雰囲気がしてる。
つまり私が思うに貧乏戦士になるよりかは、貧乏商人になった方が経済的にはマシなレベルだ。
かと言って体力勝負な所を思えば、女性であり、身体を扱うよりも知識を求める方が好きな私が積極的になりたい職業とは言えない。
そこで衝撃を受けた毒消しと傷を治す薬の存在。
金の匂いがプンとした。
と言えば語弊があるかな。
前世の調薬と言う情報のイメージから、多くの人から求められるのに、安くは無い品物を作る人は稼ぎが大きいんじゃ無いかと予想したと言うべきか。
多分戦士狩人農民のどれも、熱意があって正しい知識と技術を学び、運がちょっと良くて1流になれたら何の職業でもお金は稼げるんだと思う。
つまり熱意を持ってなりたい職業と言う点で、戦士や狩人や商人がハズレただけなんだと思う。
つまり1流を目指せ無い職種はお金が稼げ無いとなる。
お金が無ければお砂糖が探せないし、見つけても買えないかも知れない。
お金があっても買えないぐらい高価なものじゃ無いだろうから、2流でもそのうち食べられるかもだけど。なるべく欲しいと思えば1流を目指したい。
4男の凄腕狩人の話を思い返せば、きっとなりたいと願うだけじゃ1流にはなれないと思う。
正しい知識と技術が必要で、それを集める労力には必ず熱意が要る。
その熱意が持てるかどうかと言うポイントが、あの毒消しや回復薬には、私の中にあったんだろうね。
偉大と思える魔法使いにも興味は有るけど、まだ出会ってないので、本当にそんな人が存在してるかは分からない。
でも少なくても魔法みたいな薬が作れる職業は有るんじゃ無いかと確信した。
どうやってなれるのかは分からないけど、作れる人に詳しい話を聞いてみたい。
街で作った薬を村に旅商人が持ち込んでるだけなら駄目だったけど、あっさりと母から薬を作ってる人がいるお店が村に有ると情報をゲット出来たのが大きい。
丁度毒消しと回復薬を消費したから買いに行くらしいので、マルセロの状態が落ち着いたら、母がお店に連れて行ってくれる約束も取り付けて、私は今からワクワクしてる。
だって錬金術って憧れるじゃん!
あの薬が前世の記憶で言う錬金術かは知らないけど、どうやら前世の私は錬金術が好きだったようだ。
物語でしか存在しない職業だった知識は有るけど、ドラゴンをスレイヤーするより、物作りの職業が好きだったらしい。
甘味への未練と同じかそれ以上に興奮してるから、本当に憧れてたんだと思う。
願わくば、私が憧れた前世の錬金術に近い職業であって欲しい。
期待が大きければ失望だって大きくなるから、変な期待は抱いちゃ駄目だと警戒する気持ちも有るけど、今の所甘味への未練を吹き飛ばすぐらいには、目指したい職業No.1を見つけた瞬間だった。
親族が多すぎて、今から絶望。




