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第四話 精巧なカラクリ

 暗闇の空と街。風の音だけがする静寂な夜。

 四つのカラクリが結界を増幅させ、街全体に四層の結界を織りなす。

 今日もまた真夜中に開催されるドラゴンとのにらめっこが始まった。

 すると、背後から眠たそうなアレスの声が——。


「ここでなにしているのー?」

「どうしたのですか?」

「いつも夜になるとどこかへ行くから何しているのかなーと思って」

「ドラゴンから街を護るため、結界を張っているんです。これも、聖女の仕事ですから」


 どこからともなく現れたアレス。重い瞼が彼の眠たそうな雰囲気を醸し出していて、可愛らしい。

 まるで、弟ができたような気がして、彼を正しい道へと導かなければと、使命感にかられている。

 でも、アレスのことがよくわかっていない。

 盗賊を倒して心無い子かと思えば、馬のタキオンを大切にする。大人に対しても物怖じせずに飄々(ひょうひょう)と意見を言うかと思えば、こうやって子どものような仕草を見せたりしてくる。

 どうして盗賊と一緒に暮らしていたかも怖くて聞けていない。きっと彼のことを知らないことがいっぱいあるのだろう。でも、聞いてしまったらこの不思議な関係が崩れてしまいそうで。いつものように、自分の気持に蓋をしてしまう。


「私は朝までお仕事ですから、いつでも寝ていいですよ」

「ダイジョウブ。ぜんぜんねむたく……ない」


 ウトウトしながら目を擦る姿がどう見ても眠たそうで。きっと、夜中に仕事をしている私の相手をしようとしてくれているのだろう。その優しさは魔力が失われて疲れているはずの体を軽くしてくれる気がした。


「じゃあ、特別に私の宝物を見せてあげます!」

「……ん? 鳥さん!? かわいいねぇ!」

「そうです。鳥です。でも、これはカラクリで出来ているんです! 可愛くて、格好良いですよね!」

「なんだ、本物じゃないのか……」


 少し残念そうなアレス。一瞬上がったテンションが一気に降下。

 あれっ? もっと食いついてくると思ったのに。でも、飛ぶところを見たらきっと——。


「よく見ていてください。こうやって、魔力を注いであげると——ほら、飛び立つんです! カラクリってすごいですよね! この精巧なカラクリの鳥が私の宝物です!」

「ワ—、スゴーイ」


 えっ!? なんという棒読み。全然刺さってなさそう。動物が好きなわけでは無いのかな?

 ほらほら、よく見て。すごいでしょ。飛び立ったと思ったら、ちゃんと自分で帰って来るんだよー。と、思っていたらもう見ていない。そっぽを向いて後ろを見ていた。


「じゃあ、特別にサキリスが好きそうな物を見せてあげる」


 後ろを向きながら話すアレス。そして、振り返ったと思った瞬間、何かが空を舞う。


「もう! アレスったらいつまで私を閉じ込めているの!」


 目の前に現れたのは、手のひらサイズの小さな女の子。背中には羽が生えており、綺麗な赤髪に緑のドレス。まるで、一輪の花が咲き誇ったようで、視線を奪われてしまう。

 少女は空を舞いながらアレスの周りを飛び回る。

 どうやら、怒っている少女はポコポコとアレスを叩いていた。

 そして、こちらに気がつくと彼女の怒りの矛先はこちらへやってくる。


「誰よ! この女!」

「 “フレア“ 仲良くできるよね? できないなら元の場所へ戻る?」


 そう言いながらアレスが手を伸ばす。

 すると、彼女は私の背後へと逃げていく。


「します。しますから。仲良くするから閉じ込めないで! というより、もうこの子とはもう親友よ! ねぇ! そうでしょ? そうだよね? そうだと言って!」

「……妖精? それとも、天使?」

「……まぁ、そう言っても過言じゃないわね!」


 胸を張りなぜか自慢げな少女。

 この不思議な女の子は一体何者だろう? グラシアから聞いたことのある妖精? それとも、天使でアレスはやっぱり神の使い?

 急すぎる展開で状況が理解出来ない。ただただ、今は可愛いが頭の中を埋め尽くす。


「改めまして、私の名前は “フレア” 。アレスのお友達よ! あなたもお友達になってあげる!」

「本当ですか!? 私はサキリス。この国の聖女をしています」

「へー、あなたすごいのね! ところで、聖女ってなに?」

「んー、この街を護る人ですかね?」

「なんであなたも疑問形なのよ!」


 元気いっぱいな姿が可愛くて、疲れも吹っ飛んでいく。

 眠たいだけのはずの夜勤。でも、アレスとフレアの登場で、この退屈な時間が彩られていく。あんなに暗かったはずの視界が明るく染まっていく。


「何か燃えているねー」


 そう。あの街のように。私の心も燃えるように色づいていく。

 って、えぇーー!

 ま、まずい。非常にまずい。騎士団の兵舎から炎が上がっている。

 こんなに明るくなってしまっては——。


「ド、ドラゴンが来ちゃう! 早く火を消さないと!」


 ドラゴンの光る目はまだ遠い。今のうちに消さなければ——。



沛雨(はいう)慟哭(どうこく)の如く降り注ぎ、(うれ)いを流す!

 叢雲(そううん)堕涙(だるい)—— レインフォール!」



 騎士団の兵舎の上空に雲が群れをなし、激しい音を鳴らしながら雨を降らす。

 滝のような雨によって激しく燃え上がる炎がみるみる小さくなっていき、街は再び闇に包まれていく。


 しかし、滑空中のドラゴンの風切り音がどんどん近づいてくる。

 空を見上げると、赤く光る目が軌跡のように夜空に一筋の残像を描きながらこちらに迫って来ていた。

 ドラゴンの襲撃に備えて結界魔法の準備をしようとしたが、先程の水魔法でほとんどの魔力を使ってしまった。

 こみ上げる吐き気を我慢しながら、魔力回復ポーションに手を伸ばす。

 すると、ドラゴンは街の上空を通り過ぎるだけで、こちらを攻撃せずにそのまま通り過ぎていく。


 よかった。なんとか間に合ったようね。

 うぅ。気持ち悪い。少しだけ魔力回復ポーションを飲まないと。


 一口魔力回復ポーションを飲む。すると、こみ上げていた吐き気は落ち着く。

 だが、今度は火事を起こした騎士団への怒りがこみ上げてくる。


 しかし、夜は火気厳禁なのに! どうなってんのよ騎士団は!

 騎士団にポーション代を請求してやるんだから。


 騎士団へ一言文句言ってやりたいと思っていると、背中の後ろに隠れていたフレアが姿を表した。


「な、なに今の!? 怪獣!? ってか、あなた天気を操れるの? 情報量が多すぎて処理できない……」

「何だあれ? 変な鳥だねー」

「あれがドラゴンですね。あのドラゴンからこの街を護るために、結界を張るのが聖女の仕事です」


 頭を抱えてパニックになっているフレアと眠そうなアレス。

 アレスはドラゴンに対してもあまり興味無さそうで。アレスは馬が好きなだけなのかな? 生き物が好きなのかなと思ったけど。


「私は怪我をした人がいないか確認してきます。二人はもうお部屋でお休みください」

「わかったー。おやすみー」


 アレスはフレアを肩に乗せ、トボトボと歩きながら後ろを付いてくる。

 こんな火事がなければもう少し楽しい時間が過ごせたのに。

 おのれ、騎士団め! 許せん!


 アレスを教会近くまで送った後、兵舎に向かう。

 兵舎の近くには騎士たちがわらわらと集まっているが、火事が発生したとは思えないほど静かだった。

 まぁ、みんなドラゴンが怖いもんね。騒いでドラゴンの機嫌を損ねると、街が襲われちゃうかもだしね。


 セルゲイ様とイヴァンが兵舎の前で数名の騎士を集め小声で指示をしていた。

 イヴァンは決闘の時の怪我が治っていないようで、まだ顔が腫れ上がっている。


「大丈夫ですか? 一応鎮火は出来たと思うのですが……」

「聖女サキリスのお陰で大事にならずに済んだ。ありがとう」

「どんな威力の魔法を放つんだ! 兵舎が壊れたらどうする! これだからお前は!」


 イヴァンに大声で怒鳴りつけられてしまった。


 はぁ!? 火事になって明るくなると、ドラゴンに襲われるかも知れませんが!

 ってか、そんな大声出してドラゴンに気づかれたらどうするんですか?

 まずは、自分たちの不始末を反省しろよ! と、言ってうやりたい。……けど。


「……すみません。ドラゴンに気づかれないように必死だったもので」

「いやいや。聖女サキリスがいなければ、ドラゴンに襲われていたかもしれない。それに、そんな大声を出すんじゃない。ドラゴンに気づかれるぞ」


 小声でイヴァンを諭すセルゲイ様。そっぽを向きご機嫌斜めなイヴァン。


 なんだこのクソガキみたいな態度。もう立派な大人だろ? そんな感じでよく一番隊の隊長が務まるな!


「ゴホン。ゴホン。すみません。怪我人もいないようですし、魔力が限界なので、私はこれで失礼します……」


 これみよがしに空のポーション瓶を振ってアピールする。

 ポーションはまだ残っているが、こんなこともあろうかと空のポーション瓶を懐に忍ばせていた。

 きっとセルゲイ様なら魔力回復ポーションをくれるだろう。

 ポーションがもらえないかと淡い期待をしながらこの場を去っていく。


 帰りますねー。ポーションくれてもいいんですよー。

 ……本当に帰っちゃいますよ。……くれないんですか?


 チラチラと振り返ってみたが、誰もこっちを見ていない。

 まぁ、こんなことがあったばかりですしね。私のことなんて構っている暇ありませんよね……。


 誰もいない暗闇の城壁の上。また寂しい時間。アレスやフレアがいた時間が恋しい。

 グラシアがいなくなってから、ずっと一人だと思っていた。

 でも、いつもより明日が待ち遠しい。

 二人のことを思い出すだけで、心の霧に一筋の光りが差し込んだ気がした。



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