表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/172

その13


「あの女の子、どこに行っちゃったのかしら?」とマリサ・コスタが突然現われ突然消えた少女について胸を痛ませ頭を悩ませていた頃、その問題の時も空間もかける少女=木花エマの相方、佐倉八千代は困っていた。というか足がパンパンになっていた。というか、「天の神さまなんかもう知らない!」と憤っていた。


 というのも彼女は、前回登場時、突然目の前から消えてしまった相方・木花エマを探すため、まったく役に立たない自身の能力などは使わずに、その代わりに、子供の頃から絶対の信頼を寄せている「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な」的モノ探し・失せ人探しを始めたのだが、


「あー、もー、無理!!」と流石の彼女も音を上げるくらいに、その後の彼女の道行きはロング&ワインディングロードであった。


 そう。


 先ずは彼女は、石神井公園園内を観音堂から野鳥誘致林、三宝字池をグルッと回って石神井城址、水辺観察園をグルグルッとめぐっては、プレーパーク経由で野球場、野球場横の小道から公園を出ると六丁目と七丁目の辺りを行ったり来たり。もちろんこの間なんどもエマちゃんに電話をかけたりはしたのだけれど、亜空間高速移動中の彼女がそれに出られるハズもなく、そのまま八千代も駅まで行ったら、すると今度は、線路沿いに西に向かえって天神さまのお告げは出るし、この辺で諦めようかなとも想うものの、それが出来ないのが八千代ちゃんのカワイイところで、美里さん(『シグナレス』のオーナーでエマちゃんの叔母さん)や和泉さん(エマちゃんが所属するマンガ研究会の会長で同担禁止)にも連絡とかはしたけれど、もちろん彼女たちのところにエマが飛んで行ってるハズもなく、仕方がないので、天の神さまの言うとおり、大型家具センターの横を曲がって、今度は学芸通りを南にトボトボくだるころには、なんだか日も落ちて来ちゃって、


「なんでこんなに歩かされるんだろう……」と、いつもの彼女の虫の知らせ的ナニカが動いていたのなら、ここまでのオデュッセウス的放浪もなかったのだろうがそれもそのはずで、彼女の持つ超能力・不思議な力は、あくまで『この宇宙』生まれのものであり、そのためどうしても、『この宇宙』の素粒子分類や物理定数、基本的な物理法則からは逃れ切ることが出来ないからであった。


 そう。つまりはそのため現在は、木花エマをあっちやこっちに飛ばしている現象のように、『別の宇宙(複数)』由来の力が強く関係しているケースにおいては、彼女の持つ便利なこの超能力も、いつものようには上手く機能しないワケであった。


 そう。であるので彼女は、これから来る厄災に備える為にも、『この宇宙』と『別の宇宙(複数)』のズレを理解し認識し、自身の能力をチューニングするための技術を“ある人物”から学ばなければならないのだが……うん。それはまだまだ先の話になるので、取り敢えず今は、天の神さまを信じられなくなっている彼女に話を戻すことにしよう。


 そう。彼女はいま、石神井学園前の交差点に立って、何度目となるか分からない「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な」をやり始めたところであった。であったが、ここでようやく、


 ブブッ ブブッ ブブブブブッ。


 と彼女のスマートフォンは鳴ってくれた。相手はもちろんエマである。


「エマちゃん?! いまどこ?」八千代は叫び、


『ご、ご、ごめ、ごめ、ヤッチ』こちらはこちらで満身創痍のエマは返す。おびえた声で、『た、た、たす、たす、助けに来て! いますぐ!』


「助けにって、エマちゃん。だからいまどこ?」


『ケ、ケ、ケヤ、ケヤ、ケヤキ』


「ケヤキ?」


『“ケヤキの! ボブ”さん! の! いち、いち、いち、いち、いちばん! て、てっぺん! に! た、たすけてーー!!!』


     *


 さて。


 その家のキッチンには、ずっと使われていないハイライトのライターと、こちらもずっと使われていない、すこし気取った形のウイスキーグラスが置かれていた。


 これらはいずれも、この家の主人が、結婚前に買い求めたものであり、そうしてどちらも、この家の主人が、子どもを“授かった”時に、もう二度と使うまいと決めたものでもあった。


「ふん」とここで、この家の主人・祝部優太はため息を吐いた。小さく。キッチンには彼以外だれもおらず、彼は、彼自身に課した約束を破りそうになっていた。と言うのも、彼が、彼ら夫婦が“授かった”子ども、愛娘のひかりから、実の両親のことを知りたい、そう言われたからである。


 そう。この家のキッチンには、ずっと使われていないハイライトのライターと、こちらもずっと使われていない、すこし気取った形のウイスキーグラスが置かれていて、もちろんそれは、決して目立つようなものではなかったが、それでもそれは、はっきり彼ら家族の風景の一部となっていた。


「ふん」とふたたび優太はため息を吐いた。小さく。出来れば考えたくない、出来れば目を背けたいいくつかの事柄に目を向け考えながら。眼鏡の下の右目を、強く押さえた。


 考えたくないことの一つ目。これはもちろん、何故ひかりが、とつぜん実の両親のことを気にし出したかであり、考えたくないことの二つ目は、彼女の実の両親――実際のところ優太は、母親のことしか知らされていないのだが――がいまどうしているのか? 生きているのか死んでいるのか? 生きているとしたらどこに? ということであったし、そうして出来れば考えたくないことのもうひとつは、どうやってひかりに、あるいはどこまでひかりに、『偽物の実の両親』の情報を与えるか? であった。――『偽物の実の両親』なら、それこそ会社がすぐにでも、適当な男女を1ダースほど見つくろってくれるだろう。


「ふん」とみたび優太は、小さなため息を吐いた。


 この家の、この偽物の家のキッチンには、ずっと使われていないハイライトのライターと、こちらもずっと使われていない、すこし気取った形のウイスキーグラスが置かれていた。


「くそっ」と優太は悪態を吐いた。小さく。


 ひかりは、あの子は、それでもあの子は、彼と、彼の妻の、愛しい娘であることに変わりがなかった。他のやつらの娘であったり、なったり、そんなことを考えること自体、彼には苦痛でしかなかった。


「くっそ」とふたたび優太は悪態を吐いた。今度はすこし強めに。「だが、しかし――」


 だが、しかし、あの子を自分と自分の妻の娘であり続けさせる為には、彼女が本来別の男女の間に生まれたことを認めた上で、彼女に『偽物の実の両親』の情報を与え、場合によっては彼らとの再会(偽物)を許し、そうしてそれらの段取りを会社に依頼し、準備し、結果を彼らに報告しなければならないことも、彼には十二分にわかっていた。


「くそったれが」みたび優太は悪態を吐いた。書斎にもどり、パソコンを立ち上げ、今回の件を彼の上司に相談するための準備に入った。



(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ