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その9


 さて。


「あー、もー、萌える~~~」と突然の百合展開(?)に、『ウィリアム書店』の若き女店主・小林乙葉が身悶えているころ、こちらはこちらで、


「え? あんたら付き合ってんじゃないの?」と時々マジで間違えられる二人組、八千代とエマの天然担当・佐倉八千代は戸惑っていた。


 と言うのも突然、彼女の目の前から、問題の相方(付き合ってはいません)木花エマが消えてしまったからであるし、そんな彼女のスマホにいくら掛けても、


『現在、お掛けになった番号は、電源が切られているか、電波の届かない場所に――』とまったくつながってくれないからでもあった。


「あー、もー、どこ行ったのよー」といらだつ八千代だが、彼女はいま、エマが消えた石神井公園アスレチック広場を出て最初の十字路に立っており、この道を北に行けば当初予定していた経路で国道に、西に行けば三宝寺池のほとりを通りながら野鳥誘致林へと向かうことになる。どちらに行けばよいのか、そもそも現場を動いてよいのかも分からぬ彼女は、ここで突然――、


「クリアボヤンス!(遠隔透視!)」そう叫ぶと、先ずはその北と西の道をそれぞれ見詰め眺めたのだが、そこにエマの姿を見出すことは出来なかった。なので彼女は続いて、


「イントロスコピー!(X線透視!)」といま来た方角・東にも目をやったのだが、もちろんそこにもエマの姿は見えない。仕方がないので彼女は、ギュッと目を閉じ、のこった南の方角に向かって、


「シックス・センス!(虫の知らせ!)」とやったのだが、これにもまったく何もピンと来るものはなかった。


 と言うのも、それもそのはず、彼女がいま叫んだアメコミ超能力的ナニカは、いずれも最近観たヒーロー映画で仕入れたばかりの知識であり、これまで実際に経験したこともなければ、訓練を行なったこともなかったからである――まあ、「虫の知らせ」的ナニカなら、しばしば感じる彼女だが、それも特に意識して使ったことはないし、今更ながら彼女もそれに気付くと、


「そうよねー」と目を開け、その場で足踏み、「できもしないことやって時間つぶしてもダメよねー」とあらためて四方を見まわし今度は、


「ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な」と古式ゆかしき占いにその身を委ねることになるのだが――大丈夫かな?


「てっぽうを撃って、バンバンバン! もひとつおまけに、バンバンバン!」とそうして結局彼女は、西の方角、観音堂の前を通って三宝字池のほとりを進むルートを選ぶことになるのだった。そうして――、


     *


 街のちいさな古本屋『ウィリアム書店』の若く美貌の女店主(願望)、小林乙葉はウッキウキしていた、ひき続き。


 と言うのも今宵、彼女のこの古書店は、祝部ひかり&先名かすみによる突然の百合展開劇場になると想いきや、そうはさせじ……と想ったかまではよく分からないけれど、それでも、モサッとしつつも顔はかわいいメガネ系男子・清水朱央がそこに(及び腰ながら)参戦したからであった。


「そうね、そうよね、ここで引いたら男がすたるわよね」と、人によっては百合に挟まる男なんかジャマでジャマでしょうがないところだろうが、こうは見えても乙葉さん、こころはいつでもスウィート・シックスティーン、純粋素朴なエロ乙女なので、


「がんばってね! 朱央くん!」と彼のことをも応援することにしたのであった。ひき続き、本棚の陰に隠れながら、


「コーラとポップコーンが欲しいわよねー」とまったくの野次馬根性まる出しで、


「ねえねえ、もうすこし頑張れば、『アメイジング・スパイダーマン』の頃のアンドリュー・ガーフィールドくんに見えないこともなくない?」と作者に問い掛けながら――ってうるさいなあ、乙葉さん。ちょっと黙っててよ――はい、次、朱央くんのセリフ!


「ちょ、ちょっと待って下さいよ、急に」と言うことで、やっと清水朱央は口を開いた。確かに、その及び腰加減もピーター・パーカーっぽいなーとか、この作者に想わせながら、


「今日、ひかりちゃんは、なにか聞いて欲しいことがあって僕を呼んだんですよ」とそれでもしっかり、ひかりを連れ出そうとする先名かすみの前に立って、「だよね? ひかりちゃん」と。


 念のために補足しておくと、清水朱央がいつも感じている、いつも想い出そうとしている彼の使命、彼がここにいる理由、それは、祝部ひかりの話を聞くこと、彼女の痛みを少しでも和らげてあげること、そうして可能ならば、ただ自分より先に死ぬようなことにならないようにすること、それだけであった。せめて、今回は、と。


「聞いて欲しいこと?」かすみが訊き返した。そんな朱央の意思というか記憶のようなものに気圧されたのか、目の前に立つ彼にではなく、後ろにいるひかりに向かって、「そうなの? ひか……祝部さん?」


「あ、いや……」ひかりは応えた。先ずはかすみを、その後朱央の方を見て、「うん。ちょっと、誰かに聞いてもらいたい話があって」


「誰か?」かすみは言った。握っていた彼女の手を、更にこちらに引き寄せながら、「だったら私が聞くわよ、学校で」


 一応、こちらも補足しておくと、祝部ひかりが清水朱央に聞いて貰おうとしていた話とは、前にも書いた通り、件の筋肉バカ・内海祥平の消失と発見、それに伴う彼の記憶喪失の物語であり、また、その現象に、ひかり本人がなにがしか関係、端的に言えば張本人なのではないか? という疑問についてであった。ひかりは言った。言ってしまった。


「かすみちゃんが?」と、つい声に出してしまったという感じで。


 何故なら彼女は、こんな奇妙な話、先ず普通の人は聞いてくれないだろうし、仮に聞いても鼻で笑われるのがオチだろうし――とそう想っていたからである。であるが、これが少々まずかった。


「なに?」と強い口調でかすみが言った。「私じゃダメなの?」――その男の子には話すのに? と。


 ぴり。


 とした空気――正確には量子ゆらぎによる次元振動だが――が走った。一瞬。がしかし、これも、


 ぱんっ。


 という両手の音、ひかりと繋いでいた右手を離したかすみのその両手が叩かれる音とともに消えた。すぐに。彼女は言った。


「わかったわよ」と。ひかりと朱央の間から一歩半ほど離れながら、「だったらさっさと話してちょうだい」私は向こうに行っているから、「でも、終わったら学校に戻るわよ。私とひかりちゃんの、ふたりで」と。



(続く)

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