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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第五話「もしも、間違いに気がつくことがなかったのなら?」
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その3


 と、言うことで。


 前回更新分に引き続き、と言うか、なっがい脱線話から場面もどって、問題の時が止まった橋と境界線の上、時間を自由に行き来出来るくせに平気で打ち合わせに遅れたり、そもそも自分がいまいつにいるのかもよく分からなくなる赤毛丸顔エイリアン・ミスターと、なぜだか彼をよく知っている(注1)貧乏小説家・樫山ヤスコの会話の続きである。であるが――、


「いまって何年?」と赤毛丸顔エイリアンは訊いた。先ほど堕ちて来た時にぶつけた腰が今ごろ痛み出したのか、「西暦20※※年であっ――ててててて」と続けてつかんでいたヤスコの肩に体重をかけるかたちになる。「このジャンプ具合だと、そのあたりで間違いはないと想うんだけど――」


「ちょ、ちょっと大丈夫?」ヤスコは応えた。彼の身体を支えながら、「なんでいっつも空から降ってくるのよ、あなたは」


「こればっかりはコントロール出来なくてね」赤毛は応えた。痛さの割には、どうやら打ち身程度ですんでたようで、「それで? 時間は?」とくり返しヤスコに訊く。ヤスコちゃんもしわが増えたよなあ、とか(うっさいわね)そんなこんなを想いながら、「西暦20※※年であってる?」


「え? あ、うん」とヤスコ。ひき続き彼の身体を支えつつも、この赤毛また失礼なこと考えてるな、とか想いながら、「めずらしくドンピシャ。西暦20※※年の6月よ」


「うーん? だったらやっぱり合ってるなあ、ぼくが見た文化祭の映像に『20※※年』って垂れ幕があったから――」


「その、私の姪っ子? 女子高生なのは間違いないの?」


「うん」


「でも、ほんとこころ当たりないし、救ってくれって言われても、どうやって探せばいいかも分からないわよ」


「あー、うん。それはそうな……あっ」とここで赤毛、まるで本当にいま想い出したかのように、「イシバシさんだ」そうつぶやいてヤスコを見た。「イシバシさんに訊いた方が確かかも知れない。ぼくよりもっと、しっかり“観てる”だろうし」


「イシバシさん?」ヤスコは訊き返し、そうして想い出した。なぜ、いま自分が、ここにいるのかを。「イシバシさんって、行政書士の石橋伊礼さん?」彼女は彼に、父の遺産や奇妙な手帳その他について相談をしに行こうとしていたところであった。


「そうそう」赤毛は続けた。腰の様子を確認しつつ、ヤスコから離れながら、「あの“お告げ行政書士”さんも今回の件を“観てる”はずなんだよね、きっと。今ごろ」


「そうなの?」とここでヤスコ、それでも困った点をふたつ想い出していた。それはひとつは、「でもあのひと、メールにも電話にも返事がないのよ、今日ずっと」という点で、そうしてもうひとつが、「それで私も家を出たんだけど」なぜだか道に迷ってしまって、「こんなところであなたに会っているのよ」――という点であった。


「うーん?」とここで彼はうなると、「そう言えばさっきも、似たようなこと言ってたね」そう続けて胸元のポケットから奇妙な形のラチェットレンチを取り出した。それから、


 ジジ、ジジ、

 ジジジジジッ。

 ジジ、ジジ、

 ジジジジジッ。


 とヤスコの身体をスキャン。


「やはり、時空不連続帯の乱れとキャブランチからの逆流時間漏れが影響して――」とか云々。いつも通りのよく分からないセリフを吐こうとするのだが、「ぼくが混乱しているのは確かだけれど、それでもこれはあまりに……、いや……、うーーーーーん?」


 と、聞かされているこちらが余計に混乱、不安になるようなことを言い出すのであった。が、でも、まあ、


「が……、でも、まあ、」男は続けた。スキャン結果を確認しつつ、「世界の終わりを食い止めることに変わりはないし、そのためには君の姪御さんを救けないといけないのも事実だし、そのためにはイシバシさんに会ってもらわないと――うん」


 とそれからミスター、ラチェットレンチを橋の北西、出口方向に向けると、


 ビジジジジジジ、バヂッ。


「うん。これで大丈夫だよ」と言ってヤスコの方を見た。「君が道にまよったのは、どうも逆流時間の影響らしい。これで橋からは出られるし、イシバシさんのところへも行ける」


 するとヤスコ、しばし面食らっている様子ではあったが、それでもすぐに、「あ、ねえ、だったらさ」と彼に向かってお願いをした。


「だったらあなたも、一緒に石橋さんの事務所に来てくれない?」彼が電話にもメールにも出ないのは、きっとなにか問題があったからだろうし、「あなたに訊きたい話もあるし」


「事務所?」ミスターは訊き返した。目を見開き、口も半開きにして、「あー、だけど、彼ならいまはマンションのはずだよ」


「え? そうなの?」ヤスコは訊いた。「なんで知ってるの?」


「え? あれ? なんでだろう?」とミスター。どうやらまだまだ混乱しているようだが、それでも、「あー、でも、それでも、たしかに言われてみれば」と、まるでいままで考えもしなかったかのような口調で、「ぼくも一緒に行った方が、君の姪御さん探しもうまくいくかも知れないな」と言ったのだが、しかし、ここで突然、


 ピッ

 ピッ

 ピッ

 ピッ

 ピッ


 と、ミスターの左腕から、だっさい感じのデジタル音が聞こえ、


「え? あれ? もう?」


「なに? もうタイムアップなの?」


 ピピッ

 ピピッ

 ピピピピピッ


「ごめん、ヤスコちゃん。どうやらもう次に行かないといけないらしい」


「そうなの? なんだかいつもより短くない?」


 ピピッ

 ピピッ

 ピピピピピッ


「今回はとにかく忙しくてさ。行ったり来たりが激しいんだよ」


「うーん? だったらまあ、仕方ないけど」


 ピッ

 ピッ

 ピピピピッ


「と、言うことで。イシバシ先生には君からよろしく言っておいて、姪御さんのことも」


「あ、うん。でも、わかるかしら? それで」


 ピッ

 ピッ

 ピピピピッ


「女子高生、文化祭、で伝わると想う。けっこう大きなイベントだから――」


「ほんとに?」


 ピッ

 ピッ

 ピッ

 ピッ


「うん。とにかく先ずは、訊くだけ訊いてみてくれよ」


「分かったけど、他にヒントとかはないの?」


 ピッ

 ピッ

 ピッ

 ピッ


「え? あー、そうそう。文化祭の出し物は舞台なんだよ、君とも見に行った。あの、ウィルが書いたラブロ――」


 ピッ

 ピーーーーー。


 と、こうしてミスターはいなくなり、止まっていた橋の時間も動き出した。その出口も、


 ふぅうーーーーーぉおん。


 という奇妙なため息とともに開きヤスコも、


「ウィル?」とつぶやきながら出口へ向かった。「ウィルが書いた?」それって――、「それって、ウィリアム・シェイクスピアのこと?」と。


 彼女は以前、彼に連れられ、『ロミオとジュリエット』の“本当の”初演を観に行ったことがあったのである。



(続く)

(注1)詳しくは樫山泰士製作の『カトリーヌ・ド・猪熊のバラの時代』を参考のこと。

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