その1
「うっわぁああああああああ!!!」
と男は叫んでいた。
巨大な、とてつもなく高い塔を備えた修道院の中で。
その巨大な、とてつもなく高い塔を備えた修道院は灰色で、暗い、虚無のような空間にポツン。と音もなく浮かんでいた。
そうして、その巨大で灰色でとてつもなく高い塔を備えた修道院の内部もまた、そのほとんどが暗い虚無のような空間で埋め尽くされていた。
が、しかし、それらはまるで、その修道院の中心――息を呑むほどの美しさと荘厳さを兼ね備えた至聖所――をより輝かせる為の暗闇であるようにも、その男には見えた。
「うっわぁああああああああ!!!」
と、ひき続き男は叫んでいた――が、それはさておき。
その至聖所の中央には、黄金と漆黒で形作られた正四面体の祭壇《寶座》が置かれ、その表面には、あらゆる宇宙から持ち寄られた無数の宝石類が、彼方できらめく幾億もの星々のように瞬いていた。
「うっわぁああああああああ!!!」
と、更にひき続き男は叫んでいた――が、彼のことはもう少し放っておこう。
と言うのも、その《寶座》の上部には、とてつもなく高い塔、そのドーム天井が果てしもなくとおいとおいとおいとっおーーーーーい先に見えており、男は、その天井にパカッ。と開いた《穴》から、まさにこの至聖所へ堕ち続けているところだったからである。
「うっわぁああああああああ!!!」
男は、まっ赤な髪にまっ白な丸い顔をしており、その服装は、いつもの彼の服装がそうであるように、今回もまた、いままさに宇宙を救って来たかのように、ボッロボロのメッタメタのワヤクチャで、その左手には、ここの修道士たちに着けられたという、80s感満載の、とってもだっさいデジタル時計がはめられていた。
「うっわぁああああああああ!!!」
と、男は叫び、堕ち続けていた。
と言うのも、《穴》と《寶座》との距離は数センチと離れていなかったが、と同時に、それは果てしもなく離れていたからである。《寶座》の周りに修道士が集まり始めた。ひとり、ふたり、さんにん……、
「おいッ!」男が叫んだ。「いい加減ッ! 空間ループをッ! 止めろッ!」
すると、この声に応えるように、修道士のひとりが数をかぞえ始めた。最初から。ひとり、ふたり、さんにん、よにん……、
「おいッ!」男が叫んだ。ふたたび、「まだかよッ!」
すると、そこでようやく最後の、七人目の修道士がゆったりとした足取りで現われたので、先ほどの修道士もようやく、
「しちにん……」
と小さくつぶやき、男を堕とし続けていた空間ループは解除された。ようやく。突然に。
ドッシーーーーーーーーーッン!!!
と、男の、床に叩き付けられる音が院内に響き渡り、男は、
「いっててててててて」と身体の痛みに耐えながらも立ち上がった。「いい加減、もう少しマシな呼び出し方を考えてくれよ」
が、しかし、色とりどりの布に身を包んだ修道士たちは無言で、ただただ彼の顔を覗き込み、彼の脳に直接語りかけるだけであった。
『《窓》、がひらか、れた。』と、緑の布をまとった修道士は言った。
『《魂》、がゆきか、っている。』と、朱い布をまとった修道士が続けた。
「《窓》?」まっ赤な髪の男が訊いた。「《窓》は本来、閉じられたままだろ?」
『おま、えの宇宙、が発端、だ。』黄色い布の修道士が応えた。
「僕の宇宙?」男が訊き返した。「いや、僕は知らないよ」
『このま、までは、』玄色の修道士は言った。『すべ、ての宇、宙があやうい。』
すべての修道士が続けた。
『《窓》、をと、じ、宇宙の、均、衡、を取り戻さ、なければ。』
(続く)




