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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第十四話「たとえば朝のバス停で。」
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その6


 さて。


 前にも書いたことがあるかも知れないが、 この物語のキーパーソンの一人(多分)、例の赤毛のタイムトラベラー、500才超えのミスターとヤスコとは、彼女が九才のころからの知り合いである。(注1)


 彼はそこそこハンサムで、人当たりもよく、それに加えて時空を旅するタイムトラベラーで、しかも、宇宙や地球や練馬区を何度も救った英雄でもあったので、幼かった彼女は彼に夢中になったし、成長した後も友だちとして普通に好きだったし、ある時なんかは見知らぬ上品なおばあさまから、


「あらあら、まあまあ、お似合いのご夫婦ね」


 みたいなことまで言われ、結構まんざらでもない気分になったりもしていた――もちろん彼女は同性愛者で、そもそも彼は異星人なので、男女間のあれやこれやに発展することはまったくなかったのだけれど。


 が、まあ、それでも、そんな感じで、彼女は彼のことが大好きだったし、なんならその宇宙や地球や練馬区の危機みたいなものも何度か一緒に救ったこともあったので、彼が本当にいいヤツなんだなってことも、彼がやることにそれほど大きな間違いはないんだろうなってことも、他の人たちよりよりよく理解しいるつもりであった。


 であったが――と言うか、だからこそと言うか、彼がよそのおうちの方々に、しかも若いお嬢さまに、ご迷惑をかけることを許容出来るかと言えば、それはまた別の話でもあった。


 と言うのも彼女は、その宇宙や地球や練馬区を救うお手伝いをした際に、彼の危険性をまざまざと見せつけられたどころか、実際に、果てしのない宇宙空間に生身で放り出されたり、銃弾飛び交う西部戦線をワンダーウー●ンのコスプレでダッシュさせられたり、凶暴なノラ猫軍団がたむろするアジトに交渉役として単身送られたり、そういうイヤーな経験もいくつもさせられて来たからである。


「あのバカ、きっと他の方にも似たようなことさせるわよ」と。


     *


 と、言うことで。


 今回彼女は、驚いていたし、いやな予感が当たっちまったとも想っていたし、頭を抱え、物理的にも小さなその胸を痛めることにもなっていた。


 と言うのも、行方不明中の山岸まひろの居場所について、石橋伊礼に預言の力で捜してもらったところ、


「すみません、ヤスコ先生」と彼に謝られたからであるし、「まひろさんと一緒に、何故か、ミスターさんの顔も見えたのですが……」


 しかも、それに加えて、そのすぐあと彼が、


「あれ……?」と更なる困惑声でこう言って来たからでもあった。「えーっと? あれ?」


「どうしたんですか?」ヤスコは訊いた。イヤーな汗を掻きながら、「まだなにか……?」


「ええ、はい、それが……」伊礼は答えた。困った顔で、「怒らないで下さいね」とヤスコの怒りも恐れつつ、「彼、ミスターさん。まひろさんとは別に、どうやら八千代さん? とも一緒におられるみたい……なんですが……」


 そうして――?


     *


『いいかい、お嬢ちゃん。楽は内に働き、礼は外に働く。礼は減を主とし、楽は盈を主とする。つまり。礼において自ら減損して進めば美となり、楽において志気盈ち本に戻れば、これもまた美しいわけだが、これは逆に言うと、礼において減損して進まないと消衰しちゃうし、楽において本に戻らなければ放縦となっちゃうわけだね。

 そう。だからこそ、礼には報いがあり、楽には本に反るってことがあるわけさ。そうして、礼が報いを得れば楽しくなるし、楽がその反を得ればすべてが安らかとなるわけだから、礼の報も楽の反も言っていることは同じってことなんだね。で、それは我々魔女の力も同様で――』


 と言ったところでこちらは、そんな石橋さんの困惑原因のひとつ、赤毛コンビのミスター&佐倉八千代だが、彼らは引き続き、先述の神社の境内にて、山岸咲子(享年127才)のレクチャーを受けているところであった。であったが――、


『そう。そうして彼はこう答えるワケだ。「古は天地運行順調で四季は時候に当たり、民和して五穀は豊か、病災起こらず異変もなく、これを大当と申します。そこで聖人は父子・君臣の別を設け、紀綱を正しくし、天下大いに定まると六律を正し、五声を和し、詩頌を作り、琴瑟に和して歌い、これを徳音と言い、この徳音こそが楽なのです」とね。

 つまり、音と楽とは違うものだけれど、この王さまが好きなのは音の方で楽ではなかった。だから、そこの誤解が根本の原因となり厄災は引き起こさ――』


 とおばあちゃん、八千代ちゃんに彼女の力の使い方、コントロールの仕方を教えてくれると言っておきながら、なにやら訳の分からぬむかし話ばかりをしている。そのため――、


『つまりだね、大昔の賢い王さまたちが楽を奏するのは、心をたのしませて自ら楽しむためでも、意をこころよくして欲をほしいままにするためでもなく、天下万民を優しく治めようとしたためなんだよ。民に教えを正すのはすべて音に始まり、音が正しくなれば行いも正しくなる。そうだろう? だからこそ音楽は人の血脈を振動させ、精神を流通させ、正しいこころを和やかにするもとで――』


 と、まあこんな話にもミスターの方は、


「うんうん、なるほど」とか、


「流石は山岸さんだ」とか、


 そりゃまあ感心しきりなわけだけれど、肝心の八千代ちゃんの方は頭の上でっかいクエスチョンマークだらけで、どうにかおばあちゃんの言わんとするところを理解しようとはするのだけれど――、


『そうそう、例えばこんな話があるよ。衛の霊公が晋に向かう旅の途中で濮水のほとりに宿を取ったとき――』


 とおばあちゃんが更なる昔話エピソードをぶち込んで来たころには、そりゃもう色々もう限界、身体はあたたか、まぶたはとろん、意識はもやあっとして来てそのまま――、


 ぐがっ、

 ぐごっ、

 ぐーすかぴー。


 と、およそヒロインとは想えないいびきとともに眠り出してしまったのであります。


「あれ?」とミスターが気付き、


『おや、まあ』とおばあさんも気付いた。『なんだい? 眠っちまったのかい?』と、彼女の肩をとんとんとん、『ま、ずっと気を張っていたようだし、仕方ないか』


「どうします?」


『いいさ、続きは明日にしよう。この子に足りないのは時間と余裕だけ。かわいそうに』


「使えそうですか?」


『うちの孫やひ孫に比べれば全然。暴走さえしなけりゃ、こんな心強い味方はいないよ』


「そうですか」


『怒りを抱かないようずっとやって来たんだろうね。それで、いまの自分がよく分からなくなってる。いっそ囚われてもいいくらいに感じ始めているんだろうが――』


「怒りに? この子が?」


『うん。自分でも気付いていないようだけどね』


「それは……ちょっと意外だなあ」


『怒りにせよ何にせよ、抱いても囚われないことが大事なんだけど……が、まあ、あれだね。いずれにせよ、この子はあたしが面倒見るのが一番だろうね』


「ええ、それはもう」


『うんうん。ああ、だからミスターさんは、まひろ達の方をよろしく頼むよ』


「ええ、もちろん。まひろくんには別の時間の僕が付いていますし、ひ孫さんの方にも、また別に頼れる人たちを付けていますので――」


 そうして――?


     *


「ねえ、やっぱりこっちじゃない? 乗り換え」


「え? でも……みんなあっちに向かってない?」


「でも、こっちだと飛行機のマーク見えるわよ。『NRT』って成田の意味でしょ?」


「あ、あー、そう言われれば……ちょ、ちょっと待ってね。もう一度スマホで調べて……」


「え? あー、だったらいいわよ、駅員さんに訊いて来るから」


「え? で、でも、すぐに分か――」


「いいから、いいから、朱央はそこで待ってて」


「あ、ちょ、ちょっと、ひかりちゃん?」


「……まったく。ほんと男の人って他人に道訊くの嫌がるわよね」


 と言ったところで。


 こちらは、先ほど山岸のおばあちゃんも『続きは明日』と言っていた通り、時間は進み、日付けも変わった翌日の朝。通勤ラッシュに揉まれながらも、どうにかこうにか、最寄駅から一時間ほどかけて、東京某区最南端の乗換駅までたどり着いた祝部ひかりと清水朱央のコンビでありますが、


「分かったわよ、朱央、やっぱこっちのエスカレーターで合ってるって」


「ほ、ほんと? そ、それはよかっ――」


「あと、次のに乗るより10分ほど待って快速に乗った方が空いてるし到着も早いってさ、駅員さんが」


「あ、そ、そうなんだ。流石はひかりちゃん、頼りになるなあ……」


 とすでに少々お疲れ模様&あまり頼りにならない感じの朱央くんですが、目指す駅はここから更に東、電車で一時間ほどの距離にあるのでした。



(続く)

(注1)詳しくは、樫山泰士製作の中編『カトリーヌ・ド・猪熊のバラの時代』の第一話「ときを見た少年」を参照のこと。

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