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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第十四話「たとえば朝のバス停で。」
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その4


『ちょっと待ちなよ、お嬢ちゃん』老婆が訊いた。『あんたほんとに何ともないのかい?』


 ここは、石神井公園南西隅、石神井氷川神社の境内で、そう訊いた老婆は、驚くなかれ、つい先日お亡くなりになったばかりの山岸咲子さんご本人(享年127才)であった。彼女は続ける。


『だって……、あんた……、こんなの』と湯婆婆のような顔で驚きながら、『マンガやアニメじゃあるまいし。あり得ないだろ、こんなの』と。


 が、まあ、いや、実際問題、彼女ご自身の状況こそ、おどろきあり得ないことのような気がしないでもないのだが、それは一旦さておいて、彼女は、いまだ銭婆のような顔で驚きながら、改めて目の前にすわる少女・佐倉八千代の脈を取ったり、熱を診たり、『ちょっと、ベーってしてごらん』と舌を触ったり、『ちょいとまぶしいよ』と言っては目にライトを当ててみたりしてから、ふたたび、


『いやはや、なんとも、こんな子がこんな近くにいたのに、どうして気付けなかったのかね、あたしは』


 と八千代のオーラと言うか持っている能力の強さに驚きの声をあげた。すると、


「そんなに強力なのかい?」とこちらは同じ赤毛でも、あまり可愛くない方のエイリアン、「おばあさんが驚くくらい?」


 このエイリアンはエイリアンで、八千代ちゃんの可愛さと能力の摩訶不思議さについては理解していたつもりなのだが、あまりにも扱うジャンルが違い過ぎていたため、その強さを測りかねていたのである。


『もう一度確認するけどね、お嬢ちゃん』咲子が言った。彼の問いには答えないまま、『あんたほんとに、なんともないのかい?』


 八千代の能力の強さと、彼女がそれを無自覚に使い、且つ抑え続けて来たことは前にも書いたとおりだが、それは彼女にその能力の使い方を教えてくれる者がいなかったからである。


「それは」八千代は答えた。「まあ、私は、なんともありませんけど……」


『けど?』


 もちろん、それでも彼女は、これまでにもいくつかの事件を解決して来たわけだが、それらはいつも、何かしらの幸運や、木花エマを筆頭とした友人知人たちの協力があったからでもあった。


「私に本当に」彼女は続けた。「私に本当に……」続けようとしたが、「そんな、そんなつよい力があるんなら……」


 とここで彼女は言葉に詰まってしまった。森永久美子のことを想い出したからである。


 たしかに。彼女の力は強力で、それが暴走しないよう、抑え、気付かないふりをして来たこと自体は間違いではなかったし、それは彼女が、その抑えた能力で、いくつもの人助けをして来たことや、彼女のまわりの人たちが、いつも幸せな気持ちでいることからも分かるであろう。が、しかし、それでも、


「だったら、なんで」しぼり出すように彼女は言った。「だったら、なんで……」


 愛するひとを自分は守れなかったのか?


 彼女は問う。この世界は残酷で恐ろしく、必ずしも――いや、八割方、悪意が善意を打ち負かすように出来ているのに。だったら、


「だったら」そう彼女は問うのである。「だったら私も悪いひとに――」


 が、しかし、それでもたまにだけれど世界は、本当にたまにだけれど世界は、希望と善意と光で満たされることなんかもあったりして、その“たまに”が積み重なるからこそ、必ず最後には、善が悪を打ち負かすことも、まあ、これまたよく知られた事実であったりもする――あせっちゃダメだよ、八千代ちゃん。


『いいかい、お嬢ちゃん』そうおばあちゃんも言うとおり、『あんたはひとりで苦しんで来た』彼女の手を強く握ってなでながら、『つらかっただろうねえ、よくまあここまで耐えられたもんだ』


 確かに。世界はとっても残酷で、悪意ばかりが大手を振って歩いているが、それでも、宇宙の歴史が教えるとおり、善が悪に勝てないなんてことはない。けっして。ただ、その為にも、君はひとりで苦しんでいてはいけない。


『要は、使い方次第さ』山岸の祖母がわらった。『教えてあげるよ、あたしがそれをさ』


 そう。善が悪に勝てないなんてことはない。ただ、その為には、君には仲間や協力者が、そうして道を示してくれる誰かが、必要なんだよ、八千代ちゃん。


 そうして――?


     *


「仲間なんか作るつもりはないよ」


 そう。そうして、これと時間を前後して、マリサ・コスタ、いや、オフェリア・モンタルトは応えていた。マリサになり替わり、客の少ないファミレスに座って。


「しかもあんたら、あの天台の仲間なんだろ? あたまわいてんじゃないかい?」


 彼女の前には引き続き、100kg越えの巨漢弁護士と彼の食事、それに骨と皮だけで出来た牧師が座っていた。彼女の手にはいつの間にか、フォークとナイフが握られていた。逆手で。男ふたりが気付かぬ間に。


「『仲間』と言われると語弊がありますが」弁護士は答えた。彼女の豹変ぶりに内心驚きながら、「大切なお客さまのおひとりであることは変わりませんな」


「ふん」オフェリアは応えた。鼻で。牧師の方も見たが、こちらは変わらず、祈りのようなものを上げ続けているだけだった。まるで、『祈ること以外救いはない』とでも言いたげな様子で。


「ふん」とふたたび彼女は鼻で応え、「なんなんだよ、こいつは」


 ヒュッ。


 と突然、手にしたフォークとナイフを彼らの首もとへと向けるのであった。



(続く)

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