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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第十四話「たとえば朝のバス停で。」
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その2


 床には、四人の男と二人の女の死体があった。四人の男のうち三人は夏物のワイシャツに白衣姿で、残りの一人は青い警備員の服を着ていた。こちらも夏物なのだろうか、袖が半袖タイプになっていた。女の方は、一人が白衣で一人が警備員姿だった。祝部優太は、口をふさがれ、手足を縛られ、目は見開くよう指示されていたので、そんな彼らの姿を真上から見続けることになった。床には何故か大量の血が、先ほど彼が足を滑らせた跡もはっきり見て取れた。彼は、天井に張り付けにされていたのである。


「どうだい? お父さん」灰原神人が言った。床の上に立――いや、靴が血に濡れないよう、かすかに宙に浮かんで、「そろそろしゃべる気になったんじゃないか?」


 部屋の扉は完全に閉められ、監視ルームとの間の窓はシャッターが下ろされていた。この部屋の映像もきっと、過去の録画を現在のものとして外部に流されているのだろう――とは言ってもそもそも、私や死体となった彼ら以外に見るものもほとんどいない映像なのだが。


「分からないな」優太は応えた。かろうじて。手足は震え、悪寒を感じ、大量の汗をかいていたが、それでも、「どうして彼らの血を抜かなかった?」


 灰原の犯行現場なら写真でいくつも見て来たが、いずれのケースも被害者は根こそぎ血を抜かれ、しかもその血が壁や床に残されることはほとんどなかった。


「分からないのはこっちさ」灰原も応えた。最初に殺した研究者、血にまみれた彼女の頭部が一瞬目にはいった。「あんた、娘のことはなんにも話してなかったんだってな」――みんな驚いてたよ。「だから、抜く必要はない。そうだろ?」


 この言葉の意味するところが優太にはよく分からなかった。眼鏡がずれ落ちそうになり、鼻と口を歪めてそれを受け止めた。


「うん?」灰原が続けた。「なんだ? 分かってなかったのか?」


 灰原神人の能力――他の『転生者』から能力を奪い取る能力――が、相手の血を媒介に、彼らの中にある『光』を盗むことで成立することは前にも書いた通りだが、そのことを優太らチームはまだ把握しておらず、更に、これはまだ書いてもいなかったかと想うが、


「あんたの血なら、抜くのもありかもな」そう灰原も言うとおり、「力はさておき、“ひかり”の居場所や性格を知るのには使える」


 彼は、その能力の副作用として、相手の血から、『光』と同時に、彼らの記憶(情報)の断片を盗むことも出来たのである。


 そう。だからつまり、先ほど灰原が、「(研究員たちの血を)抜く必要はない」と言ったのは、彼らが転生者ではなく、またひかりのことも――優太の養女であること以外――ほとんど何も知らないと判断したからであった。


「どうする? お父さん」ふたたび灰原が訊いた。「自分から話すか、殺されてから情報を抜かれるか、自分から話して、そのあと情報も抜かれるか」


 そうして――?


     *


 そう、そうしてそれは、確かに少々変わった組み合わせではあった。


 男の方は、真面目を絵にして強面にしてスーツを着させた質実剛健タイプだったし、女の方は、真面目は真面目だけれどどちらかと言うと小心者的マジメさで、そのくせ「いざという時の勢いだけはよいんだろうなあ」というめんどくさそうなオーラと地味なワンピースをまとって絵にしたようなタイプで、彼らが並ぶと、それはまるで、微妙に作画の異なるアニメキャラが、同じ画面に立っているような、そんな感じを周囲に与えた。そのため、突然彼らの訪問を受けた石橋伊礼は、その情報整理というかレイヤー調整のため、コーヒーカップを持ったまま固まっていた。彼の事務所の真ん中で。十数秒ほど。女が訊いた。


「大丈夫ですか?」と。男が続けた。


「突然来てすみません」と。「実は折り入ってご相談が――」と。


 しかし伊礼は、このとき未だ処理の途中であって、


「ちょっと! センセ!」


 と経理担当の中年女性――第六話で名前だけ出た平井さん――に肩と背中をバンバン叩かれ、ようやっと、


「え? あ、はいはい、すみません」と応えることになった。「まさかお二人が知り合いだとは想わなくて――どうされました? ヤスコ先生……と山岸さん? でしたよね?」


     *


 と言ったところで。


 それから彼らは、応接用のソファに座ると、先ずは富士夫が、続いてヤスコが、現在の状況を説明してくれた……のだが、ヤスコのそれは、富士夫が語ったのとほぼほぼ同じ内容を、言葉を変えつつくり返すだけのもので、富士夫は苛立ち、伊礼も小首を傾げるタイプの説明だった。が、それでももちろん、二人ともちゃんとした社会人だったので、それは表には出さず、なんなら伊礼は、士業の習い性でもあろうか、彼らの語った内容を再度、確認のため、自分の言葉でもくり返すのであった――「つまりはこういうことですか?」と。


「つまりヤスコ先生は、その『リスト』に載っている方たちに会おうとしていて、そこには山岸さんのお名前や、山岸さんの妹さん――まひろさんのお名前も載っている。

 そこで先ずは、まひろさんの連絡先を知るため、先日お亡くなりになられた山岸のおばあさまのお家、そちらに住む……不破さん? でしたっけ? にお話を聞きに行ったところ、丁度まひろさんに会いに来ていた、富士夫さんと出会った」


「そうそう、そうです。それで――」とヤスコが言いかけ、


「はい。なるほど、そこまでは分かります」と、彼女を遮り伊礼は続ける。「で、富士夫さんが何故そこにいたのかと言うと、体調を崩したまひろさんが、そのおばあさまのお家で寝込んでいたからだった」


「うん。その通りです」とこれには富士夫が応え、


「うん。なるほど」と伊礼も応え、それから彼は、「しかし、おふたりが行った時には、まひろさんはそこには居らず、その後富士夫さんの案内で行ったまひろさんのマンションにも彼女はいなかったし、更に電話もメールもどんな連絡も取れない状態にあった?」そう続けると、「うん。そこまでは分かるのですが……」と更に少し考えて、「それで、どうして私のところに?」


 理由はこうだ。


「いや、正直、私は半信半疑というか、いまでも彼女の言っている意味がよく分かっていないんですがね」富士夫が苦笑し、


「でも、なんだか、すごく奇妙な、不安な感じを受けるんです」そうヤスコが続けるとおり、それは伊礼にしか頼めないような相談だった。


「不安?」伊礼は訊き返した。


「はい。石橋さんもご存知だと想いますが」ヤスコは答えた。「あの、変な“くんにゃらがり”」


「“くんにゃらがり”?」イヤな記憶が、伊礼の中で持ち上がった。


「きっとまひろさんは、その手のなにかに巻き込まれているんだと想います」ヤスコは言った。何故だか奇妙で強い確信を持って、「ですのでお願いです、石橋先生」


「ああ」とここで伊礼も合点がいった。


「預言の力で、まひろさんの居場所を探して貰えないでしょうか?」


 そうして――?



(続く)

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