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915万2052分の1。


 さて。


 この物語のキーパーソンの一人(多分)、例の赤毛のエイリアン、ミスターはタイムトラベラーである。


 彼は現在、齢500才を超え、時間と空間と、場合によっては色んな宇宙を自由に行き来し、そうしてそこに住む様々な生物・無生物との交流を楽しみ、時には彼らの愚痴を聞き、肩を抱き、相談に乗り、場合によっては彼らの世界を救うこともままあった。


 また彼は、《時主》という、時代と地域と様々な人の勘ちがいによっては、『銀河の賢人』とまで謳われるほどの種族の出身でもあった。


 彼の種族がどうして、『銀河の賢人』とまで謳われるケースもあったのかと言うと、彼らは大変高度な知性と科学技術を有し、また、平均寿命1000才以上という驚異の生命力をも誇っていたからである。であるが、この『1000才以上』については少し補足が必要だろう。


 と言うのも、彼らの肉体そのものは、大体100~150年ほどで一旦朽ちてしまうからである。


 そう。


 一般的に彼ら《時主》の人々は、『ナイン・ライブス(九つの命)』を持って生まれて来ると言われ、ひとつの肉体が朽ちると直ぐに細胞単位での再生・入れ替えが行なわれ、まるで別人の姿かたちとなって生まれ変わるのである。記憶と魂はそのままに。性格は結構変わるけれども、それでも。


 そう。


 つまり現在、我々が見ている彼の姿――赤毛で、丸顔で、ヒョロッとしていて、ときどき殴ってやりたくなるあの青年――は、彼の五つ目の肉体・姿であり、彼はこれ以前には、例えばハリソン・フォード似の屈強な男性だったり、例えば日本のマンガに出て来てもおかしくないような黒髪ロングのカッコカワイイ系美少女だったこともあったようだし(いずれも自称)、また、更に例えば、今の肉体が滅んだあとになるが、わし鼻・片眼鏡が似合うロマンスグレー的おじいさまになったり、かと想えば、ヤスコ先生以上にお胸がペッタンコな、金髪碧眼美人お姉さま(これも自称)になったりするわけである――と、ここまではよろしいだろうか?


 よろしければ、ここでようやく、前回のラスト、目的の宇宙に向かうため、アキピテルの女神が持つ亜空間ポータル『異界の書 (ダークホール・トーム)』を通り、『ハドルツ』なる冥府の片すみに降り立ったナオとミスターのシーンへ戻れるわけだがその前に、念のための確認をしておくと、そもそも彼らがこの冥府に降りて来た理由は、『シァイザの巫女』に会い、彼女から彼らの旅の行き先と使命を聞くためであって、そのため彼らは、犠牲の血と肉で冥府の亡者どもを集め、その亡者たちの中から問題の巫女を探そうとしていたところでもあり、そこで彼らは、想いのほか簡単に、彼女を見付けてしまったわけなのだが、更に意外だったのは、彼らが彼女に声を掛けるよりもはやく、彼女の方から彼らに――と言うかミスターに――声を掛けて来たことであった。彼女は言った。


『貴女ですね、ミスター』と、まるで古い友人あるいは恋人にでも再会したかのように、『姿は変わっても魂で分かります。貴女なのですね、ミスター』と。


 がしかし、


「うん?」と不思議な顔をするミスター。急いで記憶の糸を手繰りにたぐり寄せるが、「すみません。どこかでお会いしてましたっけ?」と彼女に応えることになる。


 これはもちろん、彼のいつもの健忘症が唐突に始まったということではなく、実際問題、この時点の彼の中には彼女の記憶がまったく無かったことを示している。


 そう。


 つまりこれは、過去に彼女が出会ったミスターというのが、いまの彼よりも未来の、別の身体に生まれ変わった後のミスターであったことを示しているわけだが、そんなミスターの声の調子から全てを悟ったこの巫女は、すぐに我に返ると居住まいを正し、


『これは失礼』と手にした杖でコンコンコン。三回地面を突いてから、『これはきっと、私にとっては過去の、貴方にとっては未来の記憶。いま、ここでお話するのは避けるべきでありました』そう続けつつ半歩下がった。


 それから彼女は、その見えぬ目で改めてミスターの姿・魂を確認すると、


『しかし、それではどうして?』と続けて彼に訊いた。『どうしてまた、このような何の喜びもない場所を見ようと下って来られたのですか?』と。『しかも、未来の貴方はこのことを何も話されていなかったのに』と。


 すると、この問いに応えてミスターは、


「未来の自分がなぜ貴女にこのことを話さなかったのかは分からないが」


 そう前置きした上で、今回の冥府堕ちの目的――旅の行き先と使命を予言頂くこと――それにここまで来ることになった顛末――アキピテルの女神による助言――を彼女に伝えた。すると、


『なるほど』と彼女は、しばらく無言で考えてから、『それでは誤りなき真実を知り、それをお伝えしなければなりませんな』


 そうしてそれから、その盲いた目でナオの方を一瞥するとほほ笑んで、


『そのためにも犠牲の血は私にも必要。どうか穴のそばから離れ、そちらのお嬢さまに女神の杖を引くよう言って下さいませんか?』


 すると、この言葉にナオとミスターは、顔を見合わせ穴の傍らから退くと、女神の加護で青く光る杖を巫女とは反対側の、他の亡者たちの集い来る方へと向けた。


「どうだい?」ミスターが訊いた。「これならいいかな?」


 巫女は、無言で再びほほ笑むと、穴の傍らへと移動し、中の黒き血をたっぷりとすすり始めた。いくら彼女がこの地の王と妃に気に入られ、生前と変わらぬこころの活力、引いては知力を保っているとは言え、長い予言、精緻かつ的確な予言を行なうためには、相応の犠牲の血を飲む必要があったのであろう。口のまわりに付いたその血を右手でぬぐってから、このその他宇宙に類いなき予言者は、ナオとミスターに次のように語りかけた。その声はまるで、彼女も知らぬ彼女のようであった。


『英名高き*@&%#の子、神にも見紛う*@#$#よ。そなたの旅は、そこな乙女を救うため、引いては我ら宇宙を救うため、その為の旅路であろうが、その道行きは必ずや苦難多きものとなるであろう。

 何故ならそなたも見て来たとおり、いくつもの宇宙はすでに崩壊し、その多くは存在そのものすら消滅しているからである。

 それはつまりは、目的の宇宙にたどり着く道は狭められ、数少ない残りの道も、けっしてそなたを歓迎しないからである。』


「歓迎しない?」とここでミスター。巫女の予言は続いていたが、それでも、「この旅は宇宙を救うためでもあるんだよ?」


 がしかし、予言中の彼女がこの問いに応えられずはずもなく、巫女はそのまま、言葉をつなげて行く。『もちろん到着の望みはある。』


『そなたと乙女がこころを一つに、乱さず、殺さず、長くも永き旅路の果てに、あの青くも碧きあの惑星へ、辿り着けると信じるならば、辿り着けると信じ続けられるのならば。』と。


 それから彼女は、息つく間もないままに、彼らがこれから通る、通ることになる、いや、通らなければならない道筋を彼らに教えた。


 それは、三人の妖女が住む禁断の衛星や、悲しい化け物に変えられた王子が棲む時空と時空の透き間、それに九つの太陽と九つのコラプサーに囲まれた魔の宙域などであった。


「ちょっと待ってくれよ」再びミスターは声をあげそうになったが、「そんなところ通れるわけないだろう?」変わらぬ巫女の様子にその言葉は飲み込むことにした。


『よいか、英名高き*@&%#の子、神にも見紛う*@#$#よ。』巫女はくり返した。


 ちなみに。ここの奇妙な文字列は、ナオの耳には聞こえてもいない文字列で、ミスターの父親と彼の本当の名前を敢えて地球の言葉に書き直したものである。巫女は続ける。


『大切なことは、いかなるものも見逃さず、いかなることも聞き逃さず、ひたすら心をそなた達の目的地に向け続けることじゃ――さすれば遠くとおい未来、ふたたびワシとも巡り会えよう。』


 そうして、ここまで言うと彼女は、そのままその場にくずおれた。途端に呼吸が荒くなり、それを整えようとする仕草で、彼女の予言が終わったことが分かった。


 ナオは彼女を心配し、彼女のもとに駆け寄ろうとしたが、その肩をミスターが止めた。


「確率は?」ミスターが訊いた。


『915万2052分の1』巫女は答えた。『それでも、私の予言どおりに進めば、彼の地へと辿り着けるはずです』


「どうして歓迎されない?」続けてミスターは訊いた。先ほど流された問いをもう一度、「この旅は宇宙を救うためでもあるんだよ?」


 この質問に巫女は答えず、代わりに彼に周囲を見るよう促した。


『ここは『ハドルツ』ですよ』そう付け加えながら、『あらゆる宇宙が、その死後の世界において、重なり合う唯一の場所です』と。『――そのハズですよ』


 この言葉をミスターは、最初計りかねていたようだが、彼らを取り囲む亡者たちの数、それら亡者が寄って出て来る空や大地のあまりの“小ささ”にハッとすると、


「まさか?」とつぶやき巫女を見た。「もう遅すぎたってことかい?」


『あまりにも』巫女は応えた。『あまりにも宇宙の数は減り過ぎました。いまや彼らは、存続するよりも消滅することを、救われるよりも見限られることを望んでいるのです』



(続く)

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