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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第十三話「ワイルド・ブルー・ヨンダー」
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その20


 そう。


 そうして、深山千島が突然、どうしてそのニュースリンクを祝部ひかりに送ったのか? これはまったくの謎だった。少なくとも、彼女たちにとっては。


 が、しかし、とにかく彼らはそれを開くことにした。開いて、中身を確認することにした。


 そうして、彼らは中身を確認すると、それがひかりの実父母――少なくとも実母に関するニュースなのではないかとの結論に達した。


 どうしてそう結論付けたのか? これも彼女たちにとってはまったくの謎だったが、それでも何故かふたりとも、その記事をそのように捉えてしまった。


 それは、十六年前に起きた、ある自動車事故に関するニュース記事だった。


     *


 事故は、千葉県京葉道路上り線、千葉東ジャンクション付近で発生した。


 県警の報告によると、現場は片側二車線で当時は雨が降っており、先ずは同県※※市在住の会社員(当時28才)の運転する乗用車が操作を誤りガードレールに衝突、後続の軽自動車や貨物トラックなど計六台が絡む多重事故になったのだという。


 問題の会社員は無事。軽自動車に乗っていた同県※※※市在住の無職・山賀マリさん(56才)が胸を強く打ち死亡、同乗していた娘の理主さん(当時25才)は一命を取り留めたものの、同じく同乗していた生後六ヶ月の彼女の赤ん坊は搬送先の病院で死亡。その他男女六人が、首などに軽い傷を負って云々――と、それらの記事は報せていた。


 祝部ひかりと清水朱央は、この記事を読むとすぐに、ひかりの父・優太の書斎を出た。彼のパソコンを盗み見て、ひかりの実父母の情報を得られないかと侵入したばかりであったが、こちらの情報を先に確認しようとしたからであるし、やっぱり薄々、自分たちにパソコンのパスワードを解読したり、セキュリティーをどうのこうのするだけの知識も知恵もないことに、ふたりがふたりとも気付いていたからであるし、そうしてなにより、『千葉県※※※市在住の山賀理主』これだけの情報があれば、すぐにその女性に連絡が取れると想ったからでもあった。


 であったが、しかし、その市に『山賀理主』なる人物は居らず、また『山賀マリ』の名で探しても同様であった。引っ越したのか結婚したのか、仕方がないので彼らは、取り敢えず、※※※市に住む『山賀』姓のお宅に片っ端から電話をかけることにした。取り敢えず、自宅の電話番号が分かるものから順番に。正直かけられる側にははた迷惑であるし、今月の電話代でふたりとも怒られることも分かった上ではあったけれど、それでも、それほどメジャーな姓ではなさそうだし、なんとかなるのではないか? と。あと、これでダメなら、※※※市まで行って市役所に相談するくらいしか手段が想い付かなかったからではあるのだが。


 そう。そうして結果、彼らは、『山賀理主』なる人物の情報にたどり着くことになった。最後の最後の最後に電話した人物のおかげで。


     *


『はい……?』


 電話に出たのは、しわがれた声の男性だった。


「あ、あの、すみません、実は私、祝部と言うものなのですが……」


 この時ひかりは、それまでの電話がすべて空振りだったこともあり、大変つかれ、少々投げやりになっていた。が、それでも、


「ある女性を探しておりまして、もし何か知っていることがあれば……」


 と何故か、男性の声に引っかかるところがあったのだろう、ゆっくり、丁寧に、言ってみればより真摯な態度で、自分でもよく分からないままに、彼に質問を投げていた。


『理主……?』


 男性はひとり暮らしで、その家の電話機はキッチンのテーブルに置かれていた。置かれ続けていた。ずうっと。鳴ることもなく。大量のお酒の空き瓶と一緒に。ひかりは続けた。


「ええ、はい、もしくは、『マリ』という方でもいいんですが……」


 男性の声にはたしかに聞き覚えがあった。それは、いつかの夢で見た、あの酔っ払いの声にそっくりであった。



 『まったく気らくにやってるさ、

  クイーンの消えたトランプで。

  かべの花などかぞえてみたり。

  ひとつ、ふたつ、みっつ……』



 電話の向こうで男は、ずうっと押し黙ったままであった。がしかし、ひかりにはそんな男の歌が聞こえて来るようであった。



 『まったく気らくにやってるさ、

  クイーンの消えたトランプで。

  かべの花などかぞえてみたり。

  ひとつ、ふたつ、みっつ……』



 と歌う、バラと毒ガスとくわえタバコに埋もれた彼のうたが。


『お嬢さん』男が言った。不意に。『すまんが、そんな女は知らんね』


「そうですか……」ひかりは言いかけ、それでもやっぱり訊き返した。「本当に?」


『ああ』男は答えた。力を込めて、『知らんね、まったく』


「でも、せめて、その、」ひかりは食い下がった。「例えば、なにかちょっとしたこころ当たりとかでも……」


『しつこいね』男は答えた。今度はきつく、叱るように。『知らんもんは知らんよ』


 すこしの間、無言、抵抗、沈黙があった。


「すみません」とうとうひかりは言った。「突然変なお電話をして……」


 が、しかし彼女は、すぐにそれを切ることが出来なかった。何故なら、それはまるで、自分をよく知るべき人物が、彼女の存在を無視しているように感じたからだった。しかも三回も。そのため彼女は涙を流した。不意に。自分でも気付かぬうちに。大粒のなみだを。数滴。



 『まったく気らくにやってるさ、

  クイーンの消えたトランプで。

  かべの花などかぞえてみたり。

  ひとつ、ふたつ、みっつ……』



「ひかりちゃん?」驚いたのは清水朱央であった。つい、大きな声が出た。彼女の肩に手をかけ、「ちょっと、大丈夫?」


 そうして、そんな彼の声は、不思議なことに、電話の向こうの男に届き、それが物語を進ませることになった。


『ひかり……?』男は訊き返した。十六年分の痛みと後悔。十六年分の酒とバラと沈黙の音に抗うように、『お嬢さん、あんた、ひかりって言うのかい?』


 それは彼が、産まれたばかりの孫に付けてやった、彼女の名前であった。そうして――?



(続く)

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